本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。更に本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。また、本明細書において「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構成に加え、一部に形成されている形状の構成も包含される。
<パッシベーション層形成用組成物>
本発明のパッシベーション層形成用組成物は、下記一般式(I)で表される化合物(以下、「式(I)化合物」ともいう)と、脂肪酸アミド、ポリアルキレングリコール化合物及び有機フィラーからなる群より選択される少なくとも1種(以下「特定化合物」ともいう)と、を含む。パッシベーション層形成用組成物は、必要に応じてその他の成分を更に含んでいてもよい。
M(OR1)m (I)
式中、MはNb、Ta、V、Y及びHfからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含む。R1はそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を表す。mは1〜5の整数を表す。mが2以上の場合に複数存在するR1で表される基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
上記成分を含むパッシベーション層形成用組成物を半導体基板に付与し、これを熱処理(焼成)することで、優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション層を所望の形状に形成することができる。またパッシベーション層形成用組成物は、式(I)化合物を含むことで、ゲル化等の不具合の発生が抑制されて経時的な保存安定性に優れる。更に、パッシベーション層形成用組成物は、特定化合物を含むことで、塗膜均一性に優れる。
また、本発明のパッシベーション層形成用組成物を用いる手法は、蒸着装置等を必要としない簡便で生産性の高い方法である。更にマスク処理等の煩雑な工程を要することなく、所望の形状にパッシベーション層を形成できる。
本明細書において、半導体基板のパッシベーション効果は、パッシベーション層が付与された半導体基板内の少数キャリアの実効ライフタイムを、日本セミラボ株式会社、WT−2000PVN、Sinton Instruments社、WCT−120等の装置を用いて、反射マイクロ波導電減衰法によって測定することで評価することができる。
ここで、実効ライフタイムτは、半導体基板内部のバルクライフタイムτbと、半導体基板表面の表面ライフタイムτsとによって下記式(A)のように表される。半導体基板表面の表面準位密度が小さい場合にはτsが長くなる結果、実効ライフタイムτが長くなる。また、半導体基板内部のダングリングボンド等の欠陥が少なくなっても、バルクライフタイムτbが長くなって実効ライフタイムτが長くなる。すなわち、実効ライフタイムτの測定によってパッシベーション層と半導体基板との界面特性、及び、ダングリングボンド等の半導体基板の内部特性を評価することができる。
1/τ=1/τb+1/τs (A)
尚、実効ライフタイムτが長いほど少数キャリアの再結合速度が遅いことを示す。また実効ライフタイムが長い半導体基板を用いて太陽電池素子を構成することで、変換効率が向上する。
また、パッシベーション層形成用組成物の保存安定性は、経時による粘度変化で評価することができる。具体的には、調製直後(12時間以内)におけるパッシベーション層形成用組成物の25℃、せん断速度1.0s−1でのせん断粘度(η0)と、25℃において30日間保存した後のパッシベーション層形成用組成物の25℃、せん断速度1.0s−1でのせん断粘度(η30)とを比較することで評価することができ、例えば、経時による粘度変化率(%)によって評価することができる。経時による粘度変化率(%)は、調製直後と30日後のせん断粘度の差の絶対値を調製直後のせん断粘度で除して得られ、具体的には下式で算出される。パッシベーション層形成用組成物の粘度変化率は、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましい。
粘度変化率(%)=|η30−η0|/η0×100 (式)
更に、パッシベーション層形成用組成物の塗膜均一性は、パッシベーション層形成用組成物を半導体基板に付与した際に、半導体基板上の付与部全体にパッシベーション層形成用組成物が存在しているか否かによって評価される。
(一般式(I)で表される化合物)
パッシベーション層形成用組成物は、前記一般式(I)で表される化合物の少なくとも1種を含む。式(I)化合物は、金属アルコキシドと呼ばれる化合物である。式(I)化合物は、熱処理(焼成)により式(I)におけるMの金属酸化物となる。パッシベーション層形成用組成物が式(I)化合物を含有することで、優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション層を形成することができる。この理由について、以下のように考えることができる。
式(I)化合物を含有するパッシベーション層形成用組成物を熱処理(焼成)することにより形成される酸化物はアモルファス状態になりやすく、金属原子の欠陥等が生じて半導体基板との界面付近に固定電荷をもつことができると考えられる。この負の固定電荷が半導体基板の界面近辺で電界を発生することにより少数キャリアの濃度を低下させることができ、結果的に界面でのキャリア再結合速度が抑制されるため、優れたパッシベーション効果が奏されると考えられる。
尚、パッシベーション層がもつ固定電荷は、CV法(Capacitance Voltage measurement)で評価することが可能である。ただし、本発明のパッシベーション層形成用組成物から形成されたパッシベーション層の表面準位密度は、ALD法又はCVD法で形成される金属酸化物層の場合と比べ、大きな値となる場合がある。しかし本発明のパッシベーション層形成用組成物から形成されたパッシベーション層は、電界効果が大きく少数キャリアの濃度が低下して表面ライフタイムτsが長くなる。そのため、表面準位密度は相対的に問題にはならない。
一般式(I)において、MはNb、Ta、V、Y及びHfからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含む。中でも、固定電荷とパッシベーション効果の観点から、MとしてはNb、Ta及びYからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含むことが好ましく、Nbを含むことがより好ましい。また、パッシベーション層の固定電荷密度を負にする観点からは、Mは、Nb、Ta、V及びHfからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を含むことが好ましく、Nb、Ta、VO及びHfからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
一般式(I)において、R1はそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数6〜14のアリール基を表し、R1が複数存在する場合、R1はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R1は炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。
R1で表されるアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。R1で表されるアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等を挙げることができる。
R1で表されるアリール基として具体的には、フェニル基を挙げることができる。
R1で表されるアルキル基及びアリール基は、置換基を有していてもよい。アルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン基、ニトロ基等が挙げられる。アリール基の置換基としては、ハロゲン原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン基、ニトロ基等が挙げられる。
中でもR1は、保存安定性とパッシベーション効果の観点から、炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
一般式(I)において、mは1〜5の整数を表す。ここで、保存安定性の観点から、MがNbである場合にはmが5であることが好ましく、MがTaである場合にはmが5であることが好ましく、MがVOである場合にはmが3であることが好ましく、MがYである場合にはmが3であることが好ましく、MがHfである場合にはmが4であることが好ましい。
一般式(I)で表される化合物は、保存安定性とパッシベーション効果の観点から、mが1〜5であり、R1がそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基である化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、mが1〜5であり、R1が炭素数1〜4の無置換のアルキル基である化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
一般式(I)で表される化合物は、ニオブメトキシド、ニオブエトキシド、ニオブイソプロポキシド、ニオブn−プロポキシド、ニオブn−ブトキシド、ニオブt−ブトキシド、ニオブイソブトキシド、タンタルメトキシド、タンタルエトキシド、タンタルイソプロポキシド、タンタルn−プロポキシド、タンタルn−ブトキシド、タンタルt−ブトキシド、タンタルイソブトキシド、イットリウムメトキシド、イットリウムエトキシド、イットリウムイソプロポキシド、イットリウムn−プロポキシド、イットリウムn−ブトキシド、イットリウムt−ブトキシド、イットリウムイソブトキシド、バナジウムメトキシドオキシド、バナジウムエトキシドオキシド、バナジウムイソプロポキシドオキシド、バナジウムn−プロポキシドオキシド、バナジウムn−ブトキシドオキシド、バナジウムt−ブトキシドオキシド、バナジウムイソブトキシドオキシド、ハフニウムメトキシド、ハフニウムエトキシド、ハフニウムイソプロポキシド、ハフニウムn−プロポキシド、ハフニウムn−ブトキシド、ハフニウムt−ブトキシド、ハフニウムイソブトキシド等を挙げることができ、ニオブエトキシド、ニオブn−ブトキシド、タンタルエトキシド、タンタルn−ブトキシド、バナジウムエトキシドオキシド、イットリウムエトキシド、及びハフニウムエトキシドが好ましい。負の固定電荷密度を得る観点からは、ニオブエトキシド、ニオブn−プロポキシド、ニオブn−ブトキシド、タンタルエトキシド、タンタルn−プロポキシド、タンタルn−ブトキシド、バナジウムエトキシドオキシド、バナジウムn−プロポキシドオキシド、バナジウムn−ブトキシドオキシド、ハフニウムエトキシド、ハフニウムn−プロポキシド及びハフニウムn−ブトキシドが好ましい。
また一般式(I)で表される化合物は、調製したものを用いても、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、株式会社高純度化学研究所のペンタメトキシニオブ、ペンタエトキシニオブ、ペンタ−i−プロポキシニオブ、ペンタ−n−プロポキシニオブ、ペンタ−i−ブトキシニオブ、ペンタ−n−ブトキシニオブ、ペンタ−sec−ブトキシニオブ、ペンタメトキシタンタル、ペンタエトキシタンタル、ペンタ−i−プロポキシタンタル、ペンタ−n−プロポキシタンタル、ペンタ−i−ブトキシタンタル、ペンタ−n−ブトキシタンタル、ペンタ−sec−ブトキシタンタル、ペンタ−t−ブトキシタンタル、バナジウム(V)トリメトキシドオキシド、バナジウム(V)トリエトキシオキシド、バナジウム(V)トリ−i−プロポキシドオキシド、バナジウム(V)トリ−n−プロポキシドオキシド、バナジウム(V)トリ−i−ブトキシドオキシド、バナジウム(V)トリ−n−ブトキシドオキシド、バナジウム(V)トリ−sec−ブトキシドオキシド、バナジウム(V)トリ−t−ブトキシドオキシド、トリ−i−プロポキシイットリウム、トリ−n−ブトキシイットリウム、テトラメトキシハフニウム、テトラエトキシハフニウム、テトラ−i−プロポキシハフニウム、テトラ−t−ブトキシハフニウム、北興化学工業株式会社のペンタエトキシニオブ、ペンタエトキシタンタル、ペンタブトキシタンタル、イットリウム−n−ブトキシド、ハフニウム−tert−ブトキシド、日亜化学工業株式会社のバナジウムオキシトリエトキシド、バナジウムオキシトリノルマルプロポキシド、バナジウムオキシトリノルマルブトキシド、バナジウムオキシトリイソブトキシド、バナジウムオキシトリセカンダリーブトキシド等を挙げることができる。
一般式(I)で表される化合物の調製には、特定の金属(M)のハロゲン化物とアルコールとを不活性有機溶媒の存在下で反応させ、更にハロゲンを引き抜くためにアンモニア又はアミン化合物を添加する方法(特開昭63−227593号公報及び特開平3−291247号公報)等、既知の製法を用いることができる。
一般式(I)で表される化合物は、2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物と混合することでキレート構造を形成した化合物として用いてもよい。キレート構造を形成した化合物は、式(I)化合物のアルコキシド基の少なくとも一部が特定構造の化合物と置換して、キレート構造を形成する。このとき必要に応じて、液状媒体が存在してもよく、また加熱処理、触媒の添加等を行ってもよい。アルコキシド構造の少なくとも一部がキレート構造に置換されることで、式(I)化合物の加水分解及び重合反応に対する安定性が向上し、これを含むパッシベーション層形成用組成物の保存安定性がより向上する。
2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物としては、保存安定性の観点から、β−ジケトン化合物、β−ケトエステル化合物及びマロン酸ジエステルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
β−ジケトン化合物として具体的には、アセチルアセトン、3−メチル−2,4−ペンタンジオン、2,3−ペンタンジオン、3−エチル−2,4−ペンタンジオン、3−ブチル−2,4−ペンタンジオン、2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン、2,6−ジメチル−3,5−ヘプタンジオン、6−メチル−2,4−ヘプタンジオン等を挙げることができる。
β−ケトエステル化合物として具体的には、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸イソブチル、アセト酢酸ブチル、アセト酢酸t−ブチル、アセト酢酸ペンチル、アセト酢酸イソペンチル、アセト酢酸ヘキシル、アセト酢酸n−オクチル、アセト酢酸ヘプチル、アセト酢酸3−ペンチル、2−アセチルヘプタン酸エチル、2−メチルアセト酢酸エチル、2−ブチルアセト酢酸エチル、ヘキシルアセト酢酸エチル、4,4−ジメチル−3−オキソ吉草酸エチル、4−メチル−3−オキソ吉草酸エチル、2−エチルアセト酢酸エチル、4−メチル−3−オキソ吉草酸メチル、3−オキソヘキサン酸エチル、3−オキソ吉草酸エチル、3−オキソ吉草酸メチル、3−オキソヘキサン酸メチル、3−オキソヘプタン酸エチル、3−オキソヘプタン酸メチル、4,4−ジメチル−3−オキソ吉草酸メチル等を挙げることができる。
マロン酸ジエステルとして具体的には、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジプロピル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジブチル、マロン酸ジ−t−ブチル、マロン酸ジヘキシル、マロン酸t−ブチルエチル、メチルマロン酸ジエチル、エチルマロン酸ジエチル、イソプロピルマロン酸ジエチル、ブチルマロン酸ジエチル、sec−ブチルマロン酸ジエチル、イソブチルマロン酸ジエチル、1−メチルブチルマロン酸ジエチル等を挙げることができる。
式(I)化合物がキレート構造を有する場合、キレート構造の数は1〜5であれば特に制限されない。キレート構造に寄与するカルボニル基数には特に制限はないが、MがNbである場合にはキレート構造に寄与するカルボニル基数が1〜5であることが好ましく、MがTaである場合にはキレート構造に寄与するカルボニル基数が1〜5であることが好ましく、MがVOである場合にはキレート構造に寄与するが1〜3であることが好ましく、MがYである場合にはキレート構造に寄与するカルボニル基数が1〜3であることが好ましく、MがHfである場合にはキレート構造に寄与するカルボニル基数が1〜4であることが好ましい。
キレート構造の数は、例えば式(I)化合物と、金属元素とキレートを形成し得る化合物とを混合する比率を適宜調整することで制御することができる。また市販の金属キレート化合物から所望の構造を有する化合物を適宜選択してもよい。
式(I)化合物におけるキレート構造の存在は、通常用いられる分析方法で確認することができる。例えば、赤外分光スペクトル、核磁気共鳴スペクトル又は融点を用いて確認することができる。
式(I)化合物の状態は、液状であっても固体であってもよい。パッシベーション層形成用組成物の保存安定性、及び後述する一般式(II)で表される化合物を併用する場合における混合性の観点から、一般式(I)で表される化合物は、常温(25℃)で液体であることが好ましい。式(I)化合物が固体の場合には、形成されたパッシベーション層のパッシベーション効果、パッシベーション層形成用組成物の保存安定性等の観点から、溶媒に対して溶解性又は分散性が良好な化合物であることが好ましく、また溶液又は分散液としたときに安定な化合物であることが好ましい。
パッシベーション層形成用組成物に含まれる式(I)化合物の含有量は、必要に応じて適宜選択することができる。式(I)化合物の含有率は、保存安定性とパッシベーション効果の観点から、パッシベーション層形成用組成物中に1質量%〜80質量%とすることができ、3質量%〜70質量%であることが好ましく、5質量%〜60質量%であることがより好ましく、10質量%〜50質量%であることが更に好ましい。
(一般式(II)で表される化合物)
本発明のパッシベーション層形成用組成物は、更に、下記一般式(II)で表される化合物(以下「特定有機アルミニウム化合物」と称する場合がある)の少なくとも1種を含むことが好ましい。
式中、R2はそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を表す。nは0〜3の整数を表す。X2及びX3はそれぞれ独立して酸素原子又はメチレン基を表す。R3、R4及びR5はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。
特定有機アルミニウム化合物は、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムキレート等と呼ばれる化合物を包含し、アルミニウムアルコキシド構造に加えてアルミニウムキレート構造を有していることが好ましい。また、Nippon Seramikkusu Kyokai Gakujitsu Ronbunshi, vol.97, pp369-399(1989)にも記載されているように、有機アルミニウム化合物は熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)となる。このとき、形成された酸化アルミニウムはアモルファス状態となりやすいため、より大きな負の固定電荷を得ることができる。結果として優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション層を形成することができるものと考えられる。
上記に加え、一般式(I)で表される化合物と一般式(II)で表される化合物とを組み合わせることで、パッシベーション層内でそれぞれの効果により、パッシベーション効果がより高くなると考えられる。更に、一般式(I)で表される化合物と一般式(II)で表される化合物が併存する状態で熱処理(焼成)されることで、一般式(I)で表される金属(M)とアルミニウム(Al)との複合金属アルコキシドとしての反応性、蒸気圧等の物理特性が改善され、熱処理物(焼成物)としてのパッシベーション層の緻密性が向上し、結果としてパッシベーション効果がより高くなると考えられる。
一般式(II)において、R2はそれぞれ独立して炭素数1〜8のアルキル基を表し、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。R2で表されるアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。R2で表されるアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等を挙げることができる。中でもR2で表されるアルキル基は、保存安定性とパッシベーション効果の観点から、炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
一般式(II)において、nは0〜3の整数を表す。nは保存安定性の観点から、1〜3の整数であることが好ましく、1又は3であることがより好ましい。またX2及びX3はそれぞれ独立して酸素原子又はメチレン基を表す。保存安定性の観点から、X2及びX3の少なくとも一方は酸素原子であることが好ましい。
一般式(II)におけるR3、R4及びR5はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。R3、R4及びR5で表されるアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。R3、R4及びR5で表されるアルキル基は、置換基を有していても、無置換であってもよく、無置換であることが好ましい。R3、R4及びR5で表されるアルキル基としては、炭素数1〜8のアルキル基であり、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。R3、R4及びR5で表されるアルキル基として具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基等を挙げることができる。
中でも保存安定性とパッシベーション効果の観点から、一般式(II)におけるR3及びR4はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
また一般式(II)におけるR5は、保存安定性及びパッシベーション効果の観点から、水素原子又は炭素数1〜8の無置換のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は炭素数1〜4の無置換のアルキル基であることがより好ましい。
一般式(II)で表される化合物は、保存安定性の観点からは、nが1〜3であり、R5がそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である化合物であることが好ましい。
一般式(II)で表される化合物は、保存安定性とパッシベーション効果の観点からは、nが0であり、R2がそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基である化合物、並びにnが1〜3であり、R2がそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基であり、X2及びX3の少なくとも一方が酸素原子であり、R3及びR4がそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R5が水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
より好ましくは、一般式(II)で表される化合物は、nが0であり、R2がそれぞれ独立して炭素数1〜4の無置換のアルキル基である化合物、並びにnが1〜3であり、R2がそれぞれ独立して炭素数1〜4の無置換のアルキル基であり、X2及びX3の少なくとも一方が酸素原子であり、前記酸素原子に結合するR3又はR4が炭素数1〜4のアルキル基であり、X2又はX3がメチレン基の場合、前記メチレン基に結合するR3又はR4が水素原子であり、R5が水素原子である化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
一般式(II)においてnが0である特定有機アルミニウム化合物(アルミニウムトリアルコキシド)として具体的には、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリsec−ブトキシアルミニウム、モノsec−ブトキシ−ジイソプロポキシアルミニウム、トリt−ブトキシアルミニウム、トリn−ブトキシアルミニウム等を挙げることができる。
また一般式(II)においてnが1〜3である特定有機アルミニウム化合物として具体的には、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート〔(エチルアセトアセタト)アルミニウムイソプロポキシド)〕、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム等を挙げることができる。
また一般式(II)においてnが1〜3である特定有機アルミニウム化合物は、調製したものを用いても、市販品を用いてもよい。市販品としては例えば、川研ファインケミカル株式会社の商品名、ALCH、ALCH−50F、ALCH−75、ALCH−TR、ALCH−TR−20等を挙げることができる。
一般式(II)においてnが1〜3である特定有機アルミニウム化合物は、アルミニウムトリアルコキシドと、前述の2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物とを混合することで調製することができる。
アルミニウムトリアルコキシドと、2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物とを混合すると、アルミニウムトリアルコキシドのアルコキシド基の少なくとも一部が特定構造の化合物と置換して、アルミニウムキレート構造を形成する。このとき必要に応じて、液状媒体が存在してもよく、また加熱処理、触媒の添加等を行ってもよい。アルミニウムアルコキシド構造の少なくとも一部がアルミニウムキレート構造に置換されることで、特定有機アルミニウム化合物の加水分解及び重合反応に対する安定性が向上し、これを含むパッシベーション層形成用組成物の保存安定性がより向上する。
2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物としては、上述したβ−ジケトン化合物、β−ケトエステル化合物、マロン酸ジエステル等が挙げられ、保存安定性の観点から、β−ジケトン化合物、β−ケトエステル化合物及びマロン酸ジエステルからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
特定有機アルミニウム化合物がアルミニウムキレート構造を有する場合、アルミニウムキレート構造の数は1〜3であれば特に制限されない。中でも、保存安定性の観点から、1又は3であることが好ましく、溶解度の観点から、1であることがより好ましい。アルミニウムキレート構造の数は、例えば、アルミニウムトリアルコキシドと、2つのカルボニル基を有する特定構造の化合物とを混合する比率を適宜調整することで制御することができる。また市販のアルミニウムキレート化合物から所望の構造を有する化合物を適宜選択してもよい。
一般式(II)で表される化合物のうち、パッシベーション効果及び必要に応じて含有される溶剤との相溶性の観点から、具体的にはアルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート及びトリイソプロポキシアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレートを用いることがより好ましい。
特定有機アルミニウム化合物におけるアルミニウムキレート構造の存在は、通常用いられる分析方法で確認することができ、例えば、赤外分光スペクトル、核磁気共鳴スペクトル又は融点を用いて確認することができる。
特定有機アルミニウム化合物は、液状であっても固体であってもよく、特に制限はない。パッシベーション効果と保存安定性の観点から、常温(25℃)での安定性、及び溶解性又は分散性が良好な特定有機アルミニウム化合物が好ましく、また溶液又は分散液としたときに安定な特定有機アルミニウム化合物であることが好ましい。このような特定有機アルミニウム化合物を用いることで、形成されるパッシベーション層の均質性がより向上し、所望のパッシベーション効果が安定的に得られる傾向にある。
パッシベーション層形成用組成物が特定有機アルミニウム化合物を含む場合、特定有機アルミニウム化合物の含有率は特に制限されない。中でも、式(I)化合物と特定有機アルミニウム化合物の総含有率を100質量%としたときの特定有機アルミニウム化合物の含有率が、0.5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、1質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上70質量%以下であることが更に好ましく、3質量%以上70質量%以下であることが特に好ましい。
特定有機アルミニウム化合物の含有率を0.5質量%以上とすることで、パッシベーション層形成用組成物の保存安定性が向上する傾向にある。また特定有機アルミニウム化合物の含有率を80質量%以下とすることで、パッシベーション効果が向上する傾向にある。
パッシベーション層形成用組成物が特定有機アルミニウム化合物を含む場合、パッシベーション層形成用組成物中の特定有機アルミニウム化合物の含有率は、必要に応じて適宜選択することができる。例えば、保存安定性とパッシベーション効果の観点から、特定有機アルミニウム化合物の含有率は、パッシベーション層形成用組成物中に1質量%〜70質量%とすることができ、3質量%〜60質量%であることが好ましく、5質量%〜50質量%であることがより好ましく、10質量%〜30質量%であることが更に好ましい。
(特定化合物)
本発明のパッシベーション層形成用組成物は、脂肪酸アミド、ポリアルキレングリコール化合物及び有機フィラーからなる群より選択される少なくとも1種(特定化合物)を含む。特定化合物を含む本発明のパッシベーション層形成用組成物は、半導体基板に付与する際には粘度が低下し、付与した後では粘度が上昇する。したがって、本発明のパッシベーション層形成用組成物は、簡便な手法で所望の形状のパッシベーション層を形成することができる。
また、特定化合物を含むことで、パッシベーション層形成用組成物の塗膜である組成物層がより均一となる傾向がある。これは、パッシベーション層形成用組成物を半導体基板に付与する際にパッシベーション層形成用組成物の粘度が低下することによって、気泡の巻き込みが抑えられるためと考えられる。
パッシベーション層形成用組成物に含まれる特定化合物の含有量は、必要に応じて適宜選択することができる。例えば、印刷性とパッシベーション効果の観点から、特定化合物の含有率は、パッシベーション層形成用組成物中に0.01質量%〜70質量%とすることができ、0.01質量%〜60質量%であることが好ましく、0.01質量%〜50質量%であることがより好ましい。
〔ポリアルキレングリコール化合物〕
本発明におけるポリアルキレングリコール化合物は、液状であっても固体であってもよく、特に制限はない。パッシベーション効果と印刷性の観点から、常温(25℃)での安定性、及び溶解性又は分散性が良好なポリアルキレングリコール化合物が好ましい。このようなポリアルキレングリコール化合物を用いることで、形成されるパッシベーション層の均一性がより向上し、所望のパッシベーション効果が安定的に得られる傾向にある。
ポリアルキレングリコール化合物は、下記一般式(III)で表される化合物から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
式(III)中、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示し、R8はアルキレン基を示す。nは3以上の任意の整数である。尚、複数存在するR8は同一であっても異なっていてもよい。
一般式(III)において、nは3以上の整数を表す。nは印刷性の観点から、5〜23000であることが好ましく10〜11000であることがより好ましく20〜2300であることが更に好ましい。nが3以上であると、パッシベーション層形成用組成物中の一般式(III)で表される化合物の含有量を抑えつつ印刷に適した粘度に調整しやすくなる傾向にある。また、nが23000以下であると、パッシベーション層形成用組成物の粘度が高くなり過ぎるのを抑える傾向がある。
一般式(III)におけるR6及びR7は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示す。R6及びR7で表されるアルキル基は、炭素数1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましく、1又は2であることが更に好ましい。
具体的に、R6及びR7は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基等であることが好ましく、水素原子、メチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基又はt−ブチル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基又はエチル基であることが更に好ましい。
一般式(III)におけるR8は、アルキレン基を示す。R8で表されるアルキレン基は、炭素数1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜3であることが更に好ましい。
具体的に、R8は、エチレン基、プロピレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、ドデシレン基又はヘキサデシレン基であることが好ましく、エチレン基、プロピレン基、ヘキシレン基又はオクチレン基であることがより好ましく、エチレン基又はプロピレン基であることが更に好ましい。
一般式(III)で表される化合物としては、具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレングリコールが好ましい。ポリエチレングリコールを用いることで、パッシベーション層形成用組成物の印刷性が向上する傾向にあり、またポリエチレングリコールは入手も容易である。
一般式(III)で表される化合物としては、1種を単独で用いても、構造の異なる二種以上の一般式(III)で表される化合物を併用してもよい。また、一般式(III)で表される化合物は、他の特定化合物と共重合して使用してもよい。
構造の異なる二種以上の一般式(III)で表される化合物を併用する場合、その組み合わせとしては、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの組み合わせ、ポリエチレングリコールとポリエチレングリコールモノメチルエーテルとの組み合わせ等が挙げられる。
一般式(III)で表される化合物は、液状であっても固体であってもよい。形成されたパッシベーション層のパッシベーション効果とパッシベーション層形成用組成物の印刷性の観点から、一般式(III)で表される化合物が固体の場合には、溶媒に対して常温(25℃)で溶解性又は分散性が良好な化合物であることが好ましく、また溶液又は分散液としたときに安定な化合物であることが好ましい。このような化合物の場合、形成されるパッシベーション層の均質性がより向上し、所望のパッシベーション効果を安定的に得ることができる。
一般式(III)で表される化合物がガラス転移温度を有する場合、そのガラス転移温度は特に制限されず、−100℃〜100℃の範囲であることが好ましく、−50℃〜25℃の範囲であることがより好ましい。
尚、本発明において一般式(III)で表される化合物のガラス転移温度は、示唆熱分析装置を用いて測定した、示差走査熱量測定(DSC、Differential scanning calorimetry)曲線の変異点を調べることで測定できる。
一般式(III)で表される化合物が融点を有する場合、その融点は特に制限されず、20℃〜200℃の範囲であることが好ましく、40℃〜100℃の範囲であることがより好ましい。
尚、本発明において一般式(III)で表される化合物の融点は、示唆熱分析装置を用いて測定した、融解ピークを調べることで測定できる。
一般式(III)で表される化合物の数平均分子量は、1,000〜5,000,000であることが好ましく、2,000〜5,000,000であることがより好ましい。数平均分子量が1000以上であると、チキソ剤としての機能性が充分に発揮され、5,000,000以下であると、パッシベーション層形成用組成物の粘度が高くなりすぎるのを抑制することができるため、より印刷性が良好となる。また、2,000以上であると、更に印刷性が良好となる傾向がある。
数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフ法(GPC法)を用いて測定することができる。尚、GPC法による数平均分子量の測定条件は、例えば以下のとおりである。
測定装置:Shodex GPC SYSTEM−11(昭和電工株式会社)
溶離液:CF3COONa 5mmol/ヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)(1リットル)
カラム:サンプルカラム HFIP−800P HFIP−80M×2本、リファレンスカラム HFIP−800R×2本
カラム温度:40℃
流量:1.0ml/分
検出器:Shodex RI STD:PMMA(Shodex STANDARD M−75)
〔脂肪酸アミド〕
脂肪酸アミドは、下記一般式(1)で表される化合物、(2)で表される化合物、(3)で表される化合物及び(4)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。なお、脂肪酸アミドは、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
R9CONH2・・・・(1)
R9CONH−R10−NHCOR9・・・・(2)
R9NHCO−R10−CONHR9・・・・(3)
R9CONH−R10−N(R11)2・・・・(4)
一般式(1)、(2)、(3)及び(4)中、R9及びR11は各々独立に炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数2〜30のアルケニル基を示し、R10は炭素数1〜10のアルキレン基を示す。複数のR11は同一であっても異なっていてもよい。
一般式(1)、(2)、(3)及び(4)中、R9及びR11で表されるアルキル基及各々独立に、炭素数1〜30であり、印刷性とパッシベーション効果の観点から、炭素数1〜25であることが好ましく、炭素数1〜20であることがより好ましい。
一般式(1)、(2)、(3)及び(4)中、R9及びR11で表されるアルケニル基は、各々独立に、炭素数2〜30であり、印刷性とパッシベーション効果の観点から、炭素数2〜25であることが好ましく、炭素数2〜20であることがより好ましい。
R9及びR11で表されるアルキル基及びアルケニル基は、各々独立に、直鎖状、分岐状又は環状のいずれであってもよく、直鎖状又は分岐状であることが好ましい。
また、R9及びR11で表されるアルキル基及びアルケニル基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。このような置換基としては、水酸基、クロロ基、ブロモ基、フルオロ基、アルデヒド基、カルボニル基、ニトロ基、アミン基、スルホン酸基、アルコキシ基、アシルオキシ基等が挙げられる。
R9及びR11で表されるアルキル基及びアルケニル基は、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、デカン基、ドデカン基、オクタデカン基、ヘキサデセニル基、ヘンイコセニル基等を挙げることができる。
R9で表されるアルキル基及びアルケニル基は、各々独立に、炭素数5〜25であることが好ましく、炭素数10〜20であることがより好ましく、炭素数15〜18であることが更に好ましい。
R11で表されるアルキル基は、各々独立に、炭素数1〜10であることが好ましく、炭素数1〜6であることがより好ましく、炭素数1〜3であることが更に好ましい。R11で表されるアルケニル基は、各々独立に、炭素数2〜10であることが好ましく、炭素数2〜6であることがより好ましく、炭素数2〜3であることが更に好ましい。
また、R9は炭素数1〜30のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜10のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であることが更に好ましく、炭素数1〜3のアルキル基であるが特に好ましい。
一般式(2)、(3)及び(4)において、R10で表されるアルキレン基は、それぞれ独立に、炭素数2〜10であり、印刷性とパッシベーション効果の観点から、炭素数2〜8であることが好ましく、炭素数2〜6であることがより好ましく、炭素数2〜4であることが更に好ましい。R10で表されるアルキレン基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。R8で表されるアルキレン基は、具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、オクチレン基等を挙げることができる。
一般式(1)で示される脂肪酸モノアミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド等が挙げられる。
また、一般式(2)で示されるN−置換脂肪酸アミドの具体例としては、N,N’−エチレンビスラウリン酸アミド、N,N’−メチレンビスステアリン酸アミド、N,N’−エチレンビスステアリン酸アミド、N,N’−エチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−エチレンビスベヘン酸アミド、N,N’−エチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’−ブチレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−キシリレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。
また、一般式(3)で示されるN−置換脂肪酸アミドの具体例としては、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド等が挙げられる。
また、一般式(4)で示されるN−置換脂肪酸アミドアミンの具体例としては、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド、ラウリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ミリスチン酸ジメチルアミノプロピルアミド、パルミチン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ベヘン酸ジメチルアミノプロピルアミド、オレイン酸ジメチルアミノプロピルアミド、イソステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、リノール酸ジメチルアミノプロピルアミド、リシノレイン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ヒドロキシステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ステアリン酸N,N−ジヒドロキシメチルアミノプロピルアミド、ラウリン酸ジエチルアミノエチルアミド、ミリスチン酸ジエチルアミノエチルアミド、パルミチン酸ジエチルアミノエチルアミド、ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド、ベヘン酸ジエチルアミノエチルアミド、オレイン酸ジエチルアミノエチルアミド、リノール酸ジエチルアミノエチルアミド、リシノレイン酸ジエチルアミノエチルアミド、イソステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド、ヒドロキシステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド、ステアリン酸N,N−ジヒドロキシエチルアミノエチルアミド、ラウリン酸ジエチルアミノプロピルアミド、ミリスチン酸ジエチルアミノプロピルアミド、パルミチン酸ジエチルアミノプロピルアミド、ステアリン酸ジエチルアミノプロピルアミド、ベヘン酸ジエチルアミノプロピルアミド、オレイン酸ジエチルアミノプロピルアミド、リノール酸ジエチルアミノプロピルアミド、リシノレイン酸ジエチルアミノプロピルアミド、イソステアリン酸ジエチルアミノプロピルアミド、ヒドロキシステアリン酸ジエチルアミノプロピルアミド、ステアリン酸N,N−ジヒドロキシエチルアミノプロピルアミド等が挙げられる。
これらの脂肪酸アミドの中でも分散媒への溶解性の観点から、ステアリン酸アミド、N,N’−メチレンビスステアリン酸アミド、及びステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミドからなる群より選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
脂肪酸アミドは、液状であっても固体であってもよい。パッシベーション効果と印刷性の観点から、脂肪酸アミドが固体の場合には、溶媒に対して常温(25℃)で溶解性又は分散性が良好な化合物であることが好ましく、また溶液又は分散液としたときに安定な化合物であることが好ましい。このような化合物の場合、形成されるパッシベーション層の均質性がより向上し、所望のパッシベーション効果を安定的に得ることができる。
脂肪酸アミドは、30℃〜400℃で蒸散又は分解することが望ましく、40℃〜300℃で蒸散又は分解することがより好ましく、50℃〜250℃以下で蒸散又は分解することが更に望ましい。脂肪酸アミドが400℃以下で蒸散又は分散するとパッシベーション層の形成を阻害しないため好ましい。
特定化合物としてポリアルキレングリコール化合物及び脂肪酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種を用いる場合、好適な化合物としては、印刷性と分散媒への溶解性の観点の観点から、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ステアリン酸アミド、N,N’−メチレンビスステアリン酸アミド及びステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミドから選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、ポリエチレングリコール及びステアリン酸アミドから選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
〔有機フィラー〕
有機フィラーは、有機化合物で構成される粒子又は繊維状のものであることが好ましい。有機フィラーの材質としては、尿素ホルマリン樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、セルロース樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、クマロンインデン樹脂、リグニン樹脂、石油樹脂、アミノ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ブタジエン樹脂、これらの共重合体等が挙げられる。有機フィラーは、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
有機フィラーの材質としては、熱分解性の観点から、アクリル樹脂、セルロース樹脂及びポリスチレン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、アクリル樹脂であることがより好ましい。
上記アクリル樹脂を構成する単量体としては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸ペンチル、メタクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、メタクリル酸ヘプチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、メタクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、メタクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸テトラデシル、メタクリル酸テトラデシル、アクリル酸ヘキサデシル、メタクリル酸ヘキサデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸エイコシル、メタクリル酸エイコシル、アクリル酸ドコシル、メタクリル酸ドコシル、アクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロペンチル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸シクロヘプチル、メタクリル酸シクロヘプチル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノプロピル、メタクリル酸ジメチルアミノプロピル、アクリル酸2−クロロエチル、メタクリル酸2−クロロエチル、アクリル酸2−フルオロエチル、メタクリル酸2−フルオロエチル、スチレン、α−メチルスチレン、シクロヘキシルマレイミド、アクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、ビニルトルエン、塩化ビニル、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。これらは1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
有機フィラーは、液状媒体中で固体である。パッシベーション効果と印刷性の観点から、液体媒体に対して常温(25℃)で分散性が良好な有機フィラーであることが好ましく、また分散液としたときに安定な有機フィラーであることが好ましい。このような有機フィラーの場合、形成されるパッシベーション層の均一性がより向上し、所望のパッシベーション効果を安定的に得ることができる。
有機フィラーは、30℃〜400℃で分解するものであることが好ましく、分解温度が40℃〜300℃であることがより好ましく、50℃〜250℃であることが更に好ましい。有機フィラーが400℃以下で分解すると、パッシベーション層形成用組成物から組成物層を形成し、この組成物層を熱処理(焼成)してパッシベーション層を形成する工程を経た後で、有機フィラーの残存が抑えられるため好ましい。
分解温度は、熱重量分析装置(株式会社島津製作所、DTG−60H)により測定することが可能である。また、ここでいう分解温度とは、熱による影響によってその物質が重量減少し始める温度をいう。
有機フィラーが粒子形状の場合、その体積平均粒子径は、10μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.1μm以下が更に好ましい。体積平均粒子径が10μm以下であることで、少量の添加でより大きなチキソ性を得られる傾向がある。また、パッシベーション層形成用組成物を付与する方法として、スクリーン印刷法を用いる際に、印刷マスクのメッシュへの目詰まりの発生が抑えられる。
ここで有機フィラーの体積平均粒子径は、レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(例えばベックマンコールターLS13320)で測定することができ、得られた粒度分布からメディアン径を算出した値を平均粒子径とすることができる。また、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することで平均粒子径を求めることもできる。
パッシベーション層形成用組成物に含まれる特定化合物の含有量は、必要に応じて適宜選択することができる。例えば、印刷性とパッシベーション効果の観点から、パッシベーション層形成用組成物中に0.01質量%〜70質量%とすることができ、0.01質量%〜60質量%であることが好ましく、0.01質量%〜50質量%であることがより好ましい。
(樹脂)
パッシベーション層形成用組成物は、樹脂の少なくとも1種を更に含んでいてもよい。樹脂を含むことで、パッシベーション層形成用組成物が半導体基板上に付与されて形成される組成物層の形状安定性がより向上し、組成物層が形成された領域に、パッシベーション層を所望の形状で選択的に形成することができる。
樹脂の種類は特に制限されない。中でもパッシベーション層形成用組成物を半導体基板上に付与する際に、良好なパターン形成ができる範囲に粘度調整が可能な樹脂であることが好ましい。樹脂として具体的には、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミド誘導体、ポリビニルアミド、ポリビニルアミド誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド誘導体、ポリスルホン酸、アクリルアミドアルキルスルホン酸、セルロース、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース等のセルロースエーテルなど)、ゼラチン、ゼラチン誘導体、澱粉、澱粉誘導体、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム誘導体、キサンタン、キサンタン誘導体、グアーガム、グアーガム誘導体、スクレログルカン、スクレログルカン誘導体、トラガカント、トラガカント誘導体、デキストリン、デキストリン誘導体、(メタ)アクリル酸樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂(アルキル(メタ)アクリレート樹脂、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート樹脂等)、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、シロキサン樹脂、これらの共重合体などを挙げることができる。これらの樹脂は、1種単独で又は2種以上を併用できる。
尚、本明細書における「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及び「メタクリレート」の少なくとも一方を意味する。
これらの樹脂のなかでも、保存安定性とパターン形成性の観点から、酸性及び塩基性の官能基を有さない中性樹脂を用いることが好ましく、含有量が少量の場合においても容易に粘度及びチキソ性を調節できる観点から、エチルセルロース等のセルロース誘導体を用いることがより好ましい。
またこれら樹脂の分子量は特に制限されず、パッシベーション層形成用組成物としての所望の粘度を鑑みて適宜調整することが好ましい。樹脂の重量平均分子量は、保存安定性とパターン形成性の観点から、100〜10,000,000であることが好ましく、1,000〜5,000,000であることがより好ましい。尚、樹脂の重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定される分子量分布から標準ポリスチレンの検量線を使用して換算して求められる。樹脂の分子量は、前述の一般式(III)で表される化合物と同様の測定条件で測定される。
パッシベーション層形成用組成物が樹脂を含有する場合、樹脂のパッシベーション層形成用組成物中の含有量は、必要に応じて適宜選択することができる。例えば、パッシベーション層形成用組成物が樹脂を含有する場合、パッシベーション層形成用組成物中の樹脂の含有率は0.1質量%〜50質量%であることが好ましい。パターン形成をより容易にするようなチキソ性を発現させる観点から、前記含有率は0.2質量%〜25質量%であることがより好ましく、0.5質量%〜20質量%であることが更に好ましく、0.5質量%〜15質量%であることが特に好ましい。
パッシベーション層形成用組成物が樹脂を含有する場合、パッシベーション層形成用組成物における式(I)化合物(更に特定有機アルミニウム化合物を含有する場合には、式(I)化合物及び特定有機アルミニウム化合物の総量)と樹脂の含有比率(質量比)は、必要に応じて適宜選択することができる。中でも、パターン形成性と保存安定性の観点から、式(I)化合物に対する樹脂の含有比率(樹脂/式(I)化合物)、更に特定有機アルミニウム化合物を含有する場合には、式(I)化合物及び特定有機アルミニウム化合物の総量に対する樹脂の含有比率〔樹脂/(式(I)化合物+特定有機アルミニウム化合物)〕は、0.001〜1000であることが好ましく、0.01〜100であることがより好ましく、0.1〜1であることが更に好ましい。
(液状媒体)
パッシベーション層形成用組成物は、更に液状媒体(溶媒又は分散媒)を含んでいてもよい。パッシベーション層形成用組成物が液状媒体を含有することで、粘度の調整がより容易になり、付与性がより向上し、より均一なパッシベーション層を形成することができる傾向にある。液状媒体としては特に制限されず、必要に応じて適宜選択することができる。中でも式(I)化合物、及び必要に応じて用いられる特定有機アルミニウム化合物、樹脂等を溶解して均一な溶液又は分散液を得ることができる液状媒体が好ましく、有機溶剤の少なくとも1種を含むことがより好ましい。
また、式(I)化合物は、そのままの状態では加水分解、重合反応等を容易に起こし固化するものもあるが、式(I)化合物を液状媒体中に溶解又は分散させることによって反応が抑制されるため保存安定性が向上しやすい傾向がある。
液状媒体として具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ペンチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、トリメチルノナノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、メチルシクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、アセトニルアセトン等のケトン溶剤;ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチル−n−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチル−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、テトラエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、テトラエチレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエチルエーテル、トリプロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジエチルエーテル、テトラプロピレングリコールメチルエチルエーテル、テトラプロピレングリコールメチル−n−ブチルエーテル、テトラプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、テトラプロピレングリコールメチル−n−ヘキシルエーテル、テトラプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル等のエーテル溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸2−(2−ブトキシエトキシ)エチル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸ジエチレングリコールメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールメチルエーテル、酢酸ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジ酢酸グリコール、酢酸メトキシトリエチレングリコール、酢酸イソアミル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸イソアミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、エチレングリコールメチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールエチルエーテルプロピオネート、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のエステル溶剤;アセトニトリル、N−メチルピロリジノン、N−エチルピロリジノン、N−プロピルピロリジノン、N−ブチルピロリジノン、N−ヘキシルピロリジノン、N−シクロヘキシルピロリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤;塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、オクタン、エチルベンゼン、2−エチルヘキサン酸、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等の疎水性有機溶剤;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、イソペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、イソボルニルシクロヘキサノール等のアルコール溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、エトキシトリグリコール、テトラエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノエーテル溶剤;テルピネン、テルピネオール、ミルセン、アロオシメン、リモネン、ジペンテン、ピネン、カルボン、オシメン、フェランドレン等のテルペン溶剤;水などが挙げられる。これらの液状媒体は1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用される。
中でも液状媒体は、半導体基板への付与性及びパターン形成性の観点から、テルペン溶剤、エステル溶剤及びアルコール溶剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、テルペン溶剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
また、液状媒体として、高粘度かつ低沸点のもの(高粘度低沸点溶媒)を用いてもよい。高粘度低沸点溶媒を含むパッシベーション層形成用組成物は、半導体基板へ付与し形成した組成物層の形状を充分に維持できる粘度となり、かつその後の熱処理(焼成)工程の途中段階で揮発するため残留溶媒による影響が抑えられるという利点がある。具体的な高粘度低沸点溶媒としては、イソボルニルシクロヘキサノール等が挙げられる。
イソボルニルシクロヘキサノールは、「テルソルブ MTPH」(日本テルペン化学株式会社、商品名)として商業的に入手可能である。イソボルニルシクロヘキサノールは沸点が308℃〜318℃と高く、また組成物層から除去する際には、樹脂のように熱処理(焼成)による脱脂処理を行うまでもなく、加熱により気化させることによって消失させることができる。このため、半導体基板上に付与した後の乾燥工程で、パッシベーション層形成用組成物中に必要に応じて含まれる溶剤とイソボルニルシクロヘキサノールの大部分を取り除くことができる。
パッシベーション層形成用組成物が高粘度低沸点溶媒を含有する場合、高粘度低沸点溶媒の含有率は、パッシベーション層形成用組成物の総質量中に3質量%〜95質量%であることが好ましく、5質量%〜90質量%であることがより好ましく、7質量%〜80質量%であることが特に好ましい。
パッシベーション層形成用組成物が液状媒体を含む場合、液状媒体の含有量は、付与性、パターン形成性及び保存安定性を考慮して決定される。例えば、液状媒体の含有率は、組成物の付与性とパターン形成性の観点から、パッシベーション層形成用組成物中に5質量%〜98質量%であることが好ましく、10質量%〜95質量%であることがより好ましい。
(その他添加剤)
パッシベーション層形成用組成物は、酸性化合物又は塩基性化合物を含有してもよい。パッシベーション層形成用組成物が酸性化合物又は塩基性化合物を含有する場合、保存安定性の観点から、酸性化合物及び塩基性化合物の含有率が、パッシベーション層形成用組成物中にそれぞれ1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
酸性化合物としては、ブレンステッド酸及びルイス酸を挙げることができる。具体的には塩酸、硝酸等の無機酸、酢酸等の有機酸などを挙げることができる。また塩基性化合物としては、ブレンステッド塩基及びルイス塩基を挙げることができ、具体的には、塩基性化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等の無機塩基、トリアルキルアミン、ピリジン等の有機塩基などを挙げることができる。
パッシベーション層形成用組成物は、Nb、Ta、V、Y及びHfからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物(以下「特定酸化物」と称する)を含有してもよい。特定酸化物は、式(I)化合物を熱処理(焼成)して生成する酸化物であることから、特定酸化物を含有するパッシベーション層形成用組成物から形成されたパッシベーション層は、優れたパッシベーション効果が奏されることが期待される。
また、パッシベーション層形成用組成物は、酸化アルミニウム(Al2O3)を更に含有してもよい。酸化アルミニウムは、式(II)で表される化合物を熱処理(焼成)して生成する酸化物である。したがって、式(I)化合物と酸化アルミニウムとを含有するパッシベーション層形成用組成物は、優れたパッシベーション効果が奏されることが期待される。
(物性値)
パッシベーション層形成用組成物の粘度は特に制限されず、半導体基板への付与方法等に応じて適宜選択することができる。例えば、パッシベーション層形成用組成物の粘度は、0.01Pa・s〜10000Pa・sとすることができる。中でもパターン形成性の観点から、パッシベーション層形成用組成物の粘度は0.1Pa・s〜1000Pa・sであることが好ましい。尚、粘度は、回転式せん断粘度計を用いて、25℃、せん断速度1.0s−1で測定される。
また、パッシベーション層形成用組成物のせん断粘度は特に制限されず、パッシベーション層形成用組成物がチキソ性を有していることが好ましい。中でもパターン形成性の観点から、せん断速度1.0s−1におけるせん断粘度η1をせん断速度10s−1におけるせん断粘度η2で除して算出されるチキソ比(η1/η2)が1.05〜100であることが好ましく、1.1〜50であることがより好ましい。尚、せん断粘度は、コーンプレート(直径50mm、コーン角1°)を装着した回転式のせん断粘度計を用いて、温度25℃で測定される。
尚、パッシベーション層形成用組成物中に含まれる成分、及び各成分の含有量は示差熱-熱重量同時測定(TG/DTA)等の熱分析、核磁気共鳴(NMR)、赤外分光法(IR)等のスペクトル分析、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等のクロマトグラフ分析などを用いて確認することができる。
(パッシベーション層形成用組成物の製造方法)
パッシベーション層形成用組成物の製造方法には特に制限はない。例えば、一般式(I)で表される化合物と、脂肪酸アミド、ポリアルキレングリコール化合物及び有機フィラーから選択される少なくとも1種と、必要に応じて含まれる液状媒体等とを、通常用いられる混合方法で混合することで製造することができる。また、脂肪酸アミド、ポリアルキレングリコール化合物及び有機フィラーから選択される少なくとも1種を液状媒体に溶解した後、これと一般式(I)で表される化合物とを混合することで製造してもよい。
更に、一般式(I)で表される化合物は、式(I)化合物に含まれる金属のアルコキシドと、前記金属とキレートを形成可能な化合物とを混合して調製してもよい。その際、必要に応じて液状媒体を用いてもよく、加熱処理を行ってもよい。このようにして調製した式(I)化合物と、脂肪酸アミド、ポリアルキレングリコール化合物及び有機フィラーから選択される少なくとも1種を含む溶液又は分散液と、を混合してパッシベーション層形成用組成物を製造してもよい。
<パッシベーション層付半導体基板>
本発明のパッシベーション層付半導体基板は、半導体基板と、前記半導体基板上の全面又は一部に設けられる前記パッシベーション層形成用組成物の熱処理物(焼成物)であるパッシベーション層と、を有する。パッシベーション層付半導体基板は、パッシベーション層形成用組成物の熱処理物層(焼成物層)であるパッシベーション層を有することで優れたパッシベーション効果を示す。
半導体基板は特に制限されず、目的に応じて通常用いられるものから適宜選択することができる。半導体基板としては、シリコン、ゲルマニウム等にp型不純物又はn型不純物をドープ(拡散)したものが挙げられる。中でもシリコン基板であることが好ましい。また半導体基板は、p型半導体基板であっても、n型半導体基板であってもよい。中でもパッシベーション効果の観点から、パッシベーション層が形成される面がp型層である半導体基板であることが好ましい。半導体基板上のp型層は、p型半導体基板に由来するp型層であっても、p型拡散層又はp+型拡散層として、n型半導体基板又はp型半導体基板上に形成されたものであってもよい。
半導体基板の厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、半導体基板の厚みは50μm〜1000μmとすることができ、75μm〜750μmであることが好ましい。
半導体基板上に形成されたパッシベーション層の厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、パッシベーション層の厚みは5nm〜50μmであることが好ましく、10nm〜30μmであることがより好ましく、15nm〜20μmであることが更に好ましい。
パッシベーション層付半導体基板は、太陽電池素子、発光ダイオード素子等に適用することができる。例えば、太陽電池素子に適用することで変換効率に優れた太陽電池素子を得ることができる。
<パッシベーション層付半導体基板の製造方法>
本発明のパッシベーション層付半導体基板の製造方法は、半導体基板上の全面又は一部に、前記パッシベーション層形成用組成物を付与して組成物層を形成する工程と、前記組成物層を熱処理(焼成)してパッシベーション層を形成する工程とを有する。前記製造方法は必要に応じてその他の工程を更に含んでいてもよい。
本発明のパッシベーション層形成用組成物を用いることで、優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション層を、所望の形状に、簡便な方法で形成することができる。
パッシベーション層付半導体基板の製造方法は、組成物層を形成する工程の前に、半導体基板上にアルカリ水溶液を付与する工程を更に有することが好ましい。すなわち、半導体基板上にパッシベーション層形成用組成物を付与する前に、半導体基板の表面をアルカリ水溶液で洗浄することが好ましい。アルカリ水溶液で洗浄することで、半導体基板表面に存在する有機物、パーティクル等を除去することができ、パッシベーション効果がより向上する。アルカリ水溶液による洗浄の方法としては、一般的に知られているRCA洗浄等を例示することができる。例えば、アンモニア水−過酸化水素水の混合溶液に半導体基板を浸し、60℃〜80℃で処理することで、有機物及びパーティクルを除去し、半導体基板を洗浄することができる。洗浄時間は、10秒〜10分間であることが好ましく、30秒〜5分間であることが更に好ましい。
半導体基板上に、パッシベーション層形成用組成物を付与して組成物層を形成する方法には特に制限はない。例えば、公知の付与方法等を用いて、半導体基板上にパッシベーション層形成用組成物を付与する方法を挙げることができる。具体的には、浸漬法、印刷、ディスペンサー法、スピンコート法、刷毛塗り、スプレー法、ドクターブレード法、ロールコート法、インクジェット法等を挙げることができる。これらの中でもパターン形成性の観点から、各種の印刷法(例えば、スクリーン印刷)、インクジェット法等が好ましい。本発明のパッシベーション層形成用組成物は、印刷法に適用した場合にも、印刷性と塗膜均一性に優れる。
パッシベーション層形成用組成物の付与量は、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、形成されるパッシベーション層の厚みが、後述する所望の厚みとなるように適宜調整することができる。
パッシベーション層形成用組成物によって形成された組成物層を熱処理(焼成)して、組成物層に由来する熱処理物層(焼成物層)を形成することで、半導体基板上にパッシベーション層を形成することができる。
組成物層の熱処理(焼成)条件は、組成物層に含まれる式(I)化合物及び必要に応じて含まれる一般式(II)で表される化合物を、その熱処理物(焼成物)である金属酸化物又は複合酸化物に変換可能であれば特に制限されない。中でもアモルファス状の金属酸化物層を形成可能な熱処理(焼成)条件であることが好ましい。パッシベーション層がアモルファス状の金属酸化物層で構成されることで、パッシベーション層により効果的に負電荷を持たせることができ、より優れたパッシベーション効果を得ることができる。具体的に、熱処理(焼成)温度は400℃〜900℃が好ましく、450℃〜800℃がより好ましい。ここでいう熱処理(焼成)温度は、熱処理(焼成)に用いる炉の中の最高温度を意味する。また熱処理(焼成)時間は、熱処理(焼成)温度等に応じて適宜選択できる。例えば、10時間以内とすることができ、5時間以内であることが好ましい。ここでいう熱処理(焼成)時間は、最高温度での保持時間を意味する。
なお、熱処理(焼成)は、拡散炉(例えば、ACCURON CQ−1200、DD−200P、いずれも株式会社日立国際電気;206A−M100、光洋サーモシステム株式会社等)などを用いて行うことができる。熱処理(焼成)を行う雰囲気は特に制限されず、大気中で実施することができる。
パッシベーション層付半導体基板の製造方法によって製造されるパッシベーション層の厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択できる。例えば、パッシベーション層の平均厚みは、5nm〜50μmであることが好ましく、10nm〜30μmであることがより好ましく、15nm〜20μmであることが更に好ましい。
尚、形成されたパッシベーション層の平均厚みは、触針式段差・表面形状測定装置(例えば、Ambios社)を用いて常法により、3点の厚みを測定し、その算術平均値として算出される。
パッシベーション層付半導体基板の製造方法は、パッシベーション層形成用組成物を半導体基板に付与した後、熱処理(焼成)によってパッシベーション層を形成する工程の前に、パッシベーション層形成用組成物からなる組成物層を乾燥処理する工程を更に有していてもよい。組成物層を乾燥処理する工程を有することで、より均質なパッシベーション効果を有するパッシベーション層を形成することができる。
組成物層を乾燥処理する工程は、パッシベーション層形成用組成物に含まれることがある液状媒体の少なくとも一部を除去することができれば、特に制限されない。乾燥処理は、例えば、30℃〜250℃で1分間〜60分間の加熱処理とすることができ、40℃〜220℃で3分間〜40分間の加熱処理であることが好ましい。また乾燥処理は、常圧下で行なっても減圧下で行なってもよい。
パッシベーション層形成用組成物が樹脂を含む場合、パッシベーション層付半導体基板の製造方法は、パッシベーション層形成用組成物を付与した後、熱処理(焼成)によってパッシベーション層を形成する工程の前に、パッシベーション層形成用組成物からなる組成物層を脱脂処理する工程を更に有していてもよい。組成物層を脱脂処理する工程を有することで、より均一なパッシベーション効果を有するパッシベーション層を形成することができる。
組成物層を脱脂処理する工程は、パッシベーション層形成用組成物に含まれることがある樹脂の少なくとも一部を除去することができれば、特に制限されない。脱脂処理は例えば250℃〜450℃で10分間〜120分間の熱処理とすることができ、300℃〜400℃で3分間〜60分間の熱処理であることが好ましい。また脱脂処理は、酸素存在下で行うことが好ましく、大気中で行なうことがより好ましい。
<太陽電池素子>
本発明の太陽電池素子は、p型層及びn型層がpn接合されてなる半導体基板と、前記半導体基板上の全面又は一部に設けられる前記パッシベーション層形成用組成物の熱処理物(焼成物)であるパッシベーション層と、前記p型層及びn型層からなる群より選択される1以上の層上に配置される電極とを有する。太陽電池素子は、必要に応じてその他の構成要素を更に有していてもよい。
太陽電池素子は、本発明のパッシベーション層形成用組成物から形成されたパッシベーション層を有することで、変換効率に優れる。
パッシベーション層形成用組成物を付与する半導体基板としては特に制限されず、目的に応じて通常用いられるものから適宜選択することができる。半導体基板としては、パッシベーション層付半導体基板で説明したものを使用することができ、好適に使用できるものも同様である。パッシベーション層が設けられる半導体基板の面は、p型層であることが好ましい。
半導体基板上に形成されたパッシベーション層の厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、パッシベーション層の平均厚さは、5nm〜50μmであることが好ましく、10nm〜30μmであることがより好ましく、15nm〜20μmであることが更に好ましい。
太陽電池素子の形状及び大きさに制限はない。例えば、一辺が125mm〜156mmの略正方形であることが好ましい。
<太陽電池素子の製造方法>
本発明の太陽電池素子の製造方法は、p型層及びn型層が接合されてなるpn接合を有し、前記p型層及び前記n型層からなる群より選択される1以上の層上に電極を有する半導体基板の、前記電極を有する面の一方又は両方の面上に、前記パッシベーション層形成用組成物を付与して組成物層を形成する工程と、前記組成物層を熱処理(焼成)して、パッシベーション層を形成する工程と、を有する。太陽電池素子の製造方法は、必要に応じてその他の工程を更に有していてもよい。
パッシベーション層形成用組成物を用いることで、優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション層を備え、変換効率に優れる太陽電池素子を簡便な方法で製造することができる。更に電極が形成された半導体基板上に、所望の形状となるようにパッシベーション層を形成することができ、太陽電池素子の生産性に優れる。
p型層及びn型層の少なくとも一方の層上に電極が配置されたpn接合を有する半導体基板は、通常用いられる方法で製造することができる。例えば、半導体基板の所望の領域に、銀ペースト、アルミニウムペースト等の電極形成用ペーストを付与し、必要に応じて熱処理(焼成)することで製造することができる。
パッシベーション層が設けられる半導体基板の面は、p型層であっても、n型層であってもよい。中でも変換効率の観点からp型層であることが好ましい。
パッシベーション層形成用組成物を用いてパッシベーション層を形成する方法の詳細は、既述のパッシベーション層付半導体基板の製造方法と同様であり、好ましい態様も同様である。
半導体基板上に形成されるパッシベーション層の厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、パッシベーション層の平均厚さは、5nm〜50μmであることが好ましく、10nm〜30μmであることがより好ましく、15nm〜20μmであることが更に好ましい。
次に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態にかかるパッシベーション層を有する太陽電池素子の製造方法の一例を模式的に示す工程図を断面図として示したものである。但し、この工程図は、本発明をなんら制限するものではない。
図1(a)に示すように、p型半導体基板1には、表面近傍にn+型拡散層2が形成され、最表面に反射防止膜3が形成されている。反射防止膜3としては、窒化ケイ素膜、酸化チタン膜等が挙げられる。反射防止膜3とp型半導体基板1との間に酸化ケイ素等の表面保護膜(図示せず)が更に存在していてもよい。また本発明にかかるパッシベーション層を表面保護膜として使用してもよい。
次いで図1(b)に示すように、裏面の一部の領域にアルミニウム電極ペースト等の裏面電極5を形成する材料を付与した後に熱処理(焼成)して、裏面電極5を形成し、且つp型半導体基板1中にアルミニウム原子を拡散させてp+型拡散層4を形成する。
次いで図1(c)に示すように、受光面側に電極形成用ペーストを付与した後に熱処理(焼成)して受光面電極7を形成する。電極形成用ペーストとしてファイヤースルー性を有するガラス粉末を含むものを用いることで、図1(c)に示すように反射防止膜3を貫通して、n+型拡散層2の上に、受光面電極7を形成してオーミックコンタクトを得ることができる。
そして、図1(d)に示すように、裏面電極5が形成された領域以外の裏面のp型層上に、パッシベーション層形成用組成物をスクリーン印刷等により付与して組成物層を形成する。p型層上に形成された組成物層を熱処理(焼成)してパッシベーション層6を形成する。裏面のp型層上に、本発明のパッシベーション層形成用組成物から形成されたパッシベーション層6を形成することで、発電効率に優れた太陽電池素子を製造することができる。
図1に示す製造工程を含む製造方法で製造される太陽電池素子では、アルミニウム等から形成される裏面電極をポイントコンタクト構造とすることができ、基板の反り等を低減することができる。更にパッシベーション層形成用組成物を用いることで、特定の位置(具体的には、電極形成された領域以外のp型層上)に優れた生産性でパッシベーション層を形成することができる。
また図1(d)では裏面部分にのみパッシベーション層を形成する方法を示したが、p型半導体基板1の裏面側に加えて、側面にもパッシベーション層形成用組成物を付与し、これを熱処理(焼成)することで半導体基板1の側面(エッジ)にパッシベーション層6を更に形成してもよい(図示せず)。これにより、発電効率により優れた太陽電池素子を製造することができる。
更にまた、裏面部分にパッシベーション層を形成せず、側面のみに本発明のパッシベーション層形成用組成物を付与し、熱処理(焼成)してパッシベーション層6を形成してもよい。本発明のパッシベーション層形成用組成物は、側面のような結晶欠陥が多い箇所に使用すると、その効果が特に大きい。
図1では電極形成後にパッシベーション層を形成する態様について説明したが、パッシベーション層形成後に、更にアルミニウム等の電極を蒸着等によって所望の領域に形成してもよい。
図2は、本実施形態にかかるパッシベーション層を有する太陽電池素子の製造方法の別の一例を模式的に示す工程図を断面図として示したものである。具体的には、図2はアルミニウム電極ペースト又は熱拡散処理によりp+型拡散層を形成可能なp型拡散層形成用組成物を用いてp+型拡散層を形成後、アルミニウム電極ペーストの熱処理物又はp+型拡散層形成用組成物の熱処理物を除去する工程を含む工程図を断面図として説明するものである。ここでp型拡散層形成用組成物としては、例えば、アクセプタ元素含有物質とガラス成分とを含む組成物を挙げることができる。
図2(a)に示すように、p型半導体基板1には、表面近傍にn+型拡散層2が形成され、表面に反射防止膜3が形成されている。反射防止膜3としては、窒化ケイ素膜、酸化チタン膜等が挙げられる。
次いで図2(b)に示すように、裏面の一部の領域にp型拡散層形成用組成物を付与した後に熱処理して、p+型拡散層4を形成する。p+型拡散層4上にはp型拡散層形成用組成物の熱処理物8が形成されている。
ここでp型拡散層形成用組成物に代えて、アルミニウム電極ペーストを用いてもよい。アルミニウム電極ペーストを用いた場合には、p+型拡散層4上にはアルミニウム電極8が形成される。
次いで図2(c)に示すように、p+型拡散層4上に形成されたp型拡散層形成用組成物の熱処理物8又はアルミニウム電極8をエッチング等の手法により除去する。
次いで図2(d)に示すように、受光面(表面)及び裏面の一部の領域に選択的に電極形成用ペーストを付与した後に熱処理して、受光面(表面)に受光面電極7を、裏面に裏面電極5をそれぞれ形成する。受光面側に付与する電極形成用ペーストとしてファイヤースルー性を有するガラス粉末を含むものを用いることで、図2(c)に示すように、反射防止膜3を貫通して、n+型拡散層2の上に受光面電極7が形成されてオーミックコンタクトを得ることができる。
また裏面電極が形成される領域には既にp+型拡散層4が形成されているため、裏面電極5を形成する電極形成用ペーストには、アルミニウム電極ペーストに限定されず、銀電極ペースト等のより低抵抗な電極を形成可能な電極用ペーストを用いることもできる。これにより、更に発電効率を高めることも可能になる。
そして、図2(e)に示すように、裏面電極5が形成された領域以外の裏面のp型層上に、パッシベーション層形成用組成物を付与して組成物層を形成する。付与は、スクリーン印刷等の方法により行うことができる。p+型拡散層4上に形成された組成物層を熱処理(焼成)してパッシベーション層6を形成する。裏面のp型層上に、本発明のパッシベーション層形成用組成物から形成されたパッシベーション層6を形成することで、発電効率に優れた太陽電池素子を製造することができる。
また図2(e)では裏面部分にのみパッシベーション層を形成する方法を示したが、p型半導体基板1の裏面側に加えて、側面にもパッシベーション層用材料を付与し、熱処理(焼成)することでp型半導体基板1の側面(エッジ)にパッシベーション層を更に形成してもよい(図示せず)。これにより、発電効率が更に優れた太陽電池素子を製造することができる。
更にまた、裏面部分にパッシベーション層を形成せず、側面のみに本発明のパッシベーション層形成用組成物を付与し、これを熱処理(焼成)してパッシベーション層を形成してもよい。本発明のパッシベーション層形成用組成物は、側面のような結晶欠陥が多い箇所に使用すると、その効果が特に大きい。
図2では電極形成後にパッシベーション層を形成する態様について説明したが、パッシベーション層形成後に、更にアルミニウム等の電極を蒸着などによって所望の領域に形成してもよい。
上述した実施形態では、受光面にn+型拡散層が形成されたp型半導体基板を用いた場合について説明を行ったが、受光面にp+型拡散層が形成されたn型半導体基板を用いた場合にも同様にして、太陽電池素子を製造することができる。尚、その場合は裏面側にn+型拡散層を形成することとなる。
更にパッシベーション層形成用組成物は、図3に示すような裏面側のみに電極が配置された裏面電極型太陽電池素子の受光面側又は裏面側のパッシベーション層6を形成することにも使用できる。
図3に概略断面図を示すように、p型半導体基板1の受光面側には、表面近傍にn+型拡散層2が形成され、その表面にパッシベーション層6及び反射防止膜3が形成されている。反射防止膜3としては、窒化ケイ素膜、酸化チタン膜等が知られている。またパッシベーション層6は、本発明のパッシベーション層形成用組成物を付与し、これを熱処理(焼成)して形成される。
p型半導体基板1の裏面側には、p+型拡散層4及びn+型拡散層2上にそれぞれ裏面電極5が設けられ、更に裏面の電極が形成されていない領域にはパッシベーション層6が設けられている。
p+型拡散層4は、上述のようにp型拡散層形成用組成物又はアルミニウム電極ペーストを所望の領域に付与した後に熱処理することで形成することができる。またn+型拡散層2は、例えば、熱拡散処理によりn+型拡散層を形成可能なn型拡散層形成用組成物を所望の領域に付与した後に熱処理することで形成することができる。
ここでn型拡散層形成用組成物としては例えば、ドナー元素含有物質とガラス成分とを含む組成物を挙げることができる。
p+型拡散層4及びn+型拡散層2上にそれぞれ設けられる裏面電極5は、銀電極ペースト等の通常用いられる電極形成用ペーストを用いて形成することができる。
また、p+型拡散層4上に設けられる裏面電極5は、アルミニウム電極ペーストを用いてp+型拡散層4と共に形成されるアルミニウム電極であってもよい。
裏面に設けられるパッシベーション層6は、パッシベーション層形成用組成物を裏面電極5が設けられていない領域に付与し、これを熱処理(焼成)することで形成することができる。
また、パッシベーション層6はp型半導体基板1の裏面のみならず、更に側面にも形成してよい(図示せず)。
図3に示すような裏面電極型太陽電池素子においては、受光面側に電極がないため発電効率に優れる。更に裏面の電極が形成されていない領域にパッシベーション層が形成されているため、更に変換効率に優れる。
上記では半導体基板としてp型半導体基板を用いた例を示したが、n型半導体基板を用いた場合も、上記に準じて変換効率に優れる太陽電池素子を製造することができる。
<太陽電池>
太陽電池は、前記太陽電池素子と、太陽電池素子の電極上に設けられる配線材料と、を有する。太陽電池は更に必要に応じて、タブ線等の配線材料を介して複数の太陽電池素子が連結され、更に封止材で封止されて構成されていてもよい。配線材料及び封止材としては特に制限されず、当業界で通常用いられているものから適宜選択することができる。太陽電池の大きさに制限はない。0.5m2〜3m2であることが好ましい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
(パッシベーション層形成用組成物1の調製)
ステアリン酸アミドを5.0g、及びテルピネオールを45.0g混合し、130℃で1時間攪拌してステアリン酸アミド溶液を調製した。エチルセルロースを10.01g、及びテルピネオールを90.02g混合し、150℃で1時間攪拌してエチルセルロース溶液を調製した。ニオブエトキシドを2.22g、(エチルアセトアセタト)アルミニウムイソプロポキシドを2.23g、テルピネオールを1.88g、ステアリン酸アミド溶液を1.58g、及びエチルセルロース溶液を7.92g混合し、パッシベーション層形成用組成物1を調製した。パッシベーション層形成用組成物1中のステアリン酸アミドの含有率は1.0%、式(I)化合物の含有率は14.0%となった。
(保存安定性の評価)
上記で調製したパッシベーション層形成用組成物1のせん断粘度を、調製直後(12時間以内)及び25℃で30日間保存した後にそれぞれ測定した。せん断粘度の測定は、AntonPaar社、MCR301に、コーンプレート(直径50nm、コーン角1°)を装着し、温度25℃でせん断速度1.0s−1で行った。25℃におけるせん断粘度は、調製直後は28.2Pa・s、25℃で30日間保存した後は29.8Pa・sであった。
(パッシベーション層の形成)
半導体基板として、表面がミラー形状の単結晶型p型シリコン基板(株式会社SUMCO、50mm角、厚さ:770μm)を用いた。上記で得られたパッシベーション層形成用組成物1をシリコン基板上に、スクリーン印刷法を用いて付与した。パッシベーション層形成用組成物1は、熱処理(焼成)後に得られるパッシベーション層の平均厚みが300μmとなる量で付与した。
上記印刷を10回連続で行い、うち10枚全てに印刷ムラがないことを目視で確認した。前記印刷ムラとは、スクリーン版がシリコン基板から離れる際に、一部版離れが悪い部分が生じた為にできる、前記が周囲よりも薄くなっている部分を指す。
また、印刷後の塗膜が均一であるものが10枚中9枚であったことを同様に目視で確認した。塗膜が均一である状態とは、パッシベーション層形成用組成物がシリコン基板上の印刷部全体に存在している様を指す。その後、パッシベーション層形成用組成物1を付与したシリコン基板を150℃で5分間乾燥処理した。次いで700℃で10分間熱処理(焼成)した後、室温で放冷して評価用基板を作製した。熱処理(焼成)は、拡散炉(横型拡散炉 DD−200P、株式会社日立国際電気)を用いて、大気中雰囲気下(流速:5L/min)、最高温度700℃、保持時間10分間の条件で行った。
得られたパッシベーション層の平均厚みは、触針式段差・表面形状測定装置(Ambios社)を用いて常法により、3点の厚みを測定し、その算術平均値として算出した。
(実効ライフタイムの測定)
上記で得られた評価用基板のパッシベーション層が形成された領域の実効ライフタイム(μs)を、ライフタイム測定装置(Sinton Instruments社、WCT−120)を用いて、室温(25℃)で擬定常状態光伝導度法により測定した。実効ライフタイムは、880μsであった。
<実施例2>
ポリエチレングリコール(数平均分子量4000)を5.0g、及びテルピネオールを45.0g混合し、100℃で1時間攪拌してポリエチレングリコール溶液を調製した。ニオブエトキシドを2.11g、(エチルアセトアセタト)アルミニウムイソプロポキシドを2.17g、テルピネオールを1.75g、ポリエチレングリコール溶液を1.51g、及びエチルセルロース溶液を7.55g混合し、パッシベーション層形成用組成物2を調製した。パッシベーション層形成用組成物2中のポリエチレングリコールの含有率は1.0%、式(I)化合物の含有率は14.0%となった。また、パッシベーション層形成用組成物2の粘度は、調製直後は35.5Pa・s、25℃で30日間保存した後は37.8Pa・sであった。
上記で調製したパッシベーション層形成用組成物2を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン基板上にパッシベーション層を形成し、同様にして評価した。スクリーン印刷10枚中、印刷ムラがないものは9枚であった。また、10枚中、塗膜が均一であったものは7枚であった。実効ライフタイムは、801μsであった。
<実施例3>
ニオブエトキシドを2.12g、(エチルアセトアセタト)アルミニウムイソプロポキシドを2.18g、テルピネオールを1.80g、MR−2G(有機フィラー、綜研化学株式会社、PMMA樹脂フィラー、体積平均粒子径1.0μm)を1.51g、及びエチルセルロース溶液を7.61g混合し、パッシベーション層形成用組成物3を調製した。MRのパッシベーション層形成用組成物3中のMR−2G(表中MRと記す)の含有率は9.9%、式(I)化合物の含有率は13.9%となった。また、パッシベーション層形成用組成物3の粘度は、調製直後は28.2Pa・s、25℃で30日間保存した後は32.3Pa・sであった。
上記で調製したパッシベーション層形成用組成物3を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン基板上にパッシベーション層を形成し、同様にして評価した。スクリーン印刷10枚中、印刷ムラがないものは10枚であった。また、10枚中、塗膜が均一であったものは10枚であった。実効ライフタイムは、627μsであった。
<比較例1>
実施例1において、パッシベーション層形成用組成物1の付与を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、評価用基板を作製し、実効ライフタイムを測定して評価した。実効ライフタイムは、20μsであった。
<比較例2>
ニオブエトキシドを2.10g、(エチルアセトアセタト)アルミニウムイソプロポキシドを2.17g、テルピネオールを3.31g、及びエチルセルロース溶液を7.63g混合し、組成物C1を調製した。組成物C1の粘度は、調製直後は23.5Pa・s、25℃で30日間保存した後は24.8Pa・sであった。
上記で調製した組成物C1を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン基板上にパッシベーション層を形成し、同様にして評価した。スクリーン印刷10枚中、印刷ムラがないものは4枚であった。また、10枚中、塗膜が均一であったものは0枚であった。実効ライフタイムは、1077μsであった。
<比較例3>
ステアリン酸アミド溶液を0.80g、エチルセルロース溶液を7.81g混合し、組成物C2を調製した。組成物C2の粘度は、調製直後は27.2Pa・s、25℃で30日間保存した後は28.0Pa・sであった。
上記で調製した組成物C2を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシリコン基板上にパッシベーション層を形成し、同様にして評価した。スクリーン印刷10枚中、印刷ムラがないものは9枚であった。また、10枚中、塗膜が均一であったものは9枚であった。実効ライフタイムは、24μsであった。
<比較例4>
塩化ニオブを2.13g、(エチルアセトアセタト)アルミニウムイソプロポキシドを2.14g、テルピネオールを1.79g、ステアリン酸アミド溶液を1.55g、及びエチルセルロース溶液を7.84g混合し、組成物C3を調製した。組成物C1の粘度は、調製直後は28.6Pa・s、25℃で30日間保存した後は58.4Pa・sであった。
以上の結果を以下の表にまとめる。
表中の保存安定性の項目において、30日間保存した後のせん断粘度の変化率が10%未満のものをA、10%以上30%未満のものをB、30%以上のものをCと標記する。評価がA及びBであれば、パッシベーション層形成用組成物の保存安定性としては良好である。
また、印刷性の項目において、印刷中に目視によって印刷ムラが生じなかったものが10枚中9枚以上のものをA、8枚以下かつ6枚以上のものをB、5枚以下のものをCと表記する。
また、塗膜均一性の項目において、印刷後に目視によって塗布膜が均一であったものが10枚中9枚以上のものをA、8枚以下かつ6枚以上のものをB、5枚以下のものをCと表記する。
以上から、本発明のパッシベーション層形成用組成物は、保存安定性に優れていることが分かる。また、本発明のパッシベーション層形成用組成物を用いることで優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション層を形成できることが分かる。また本発明のパッシベーション層形成用組成物を用いることで、簡便な工程で所望の形状にパッシベーション層を形成できることがわかる。更に、実施例1〜3のパッシベーション層形成用組成物は印刷性と塗膜均一性に優れることが分かる。
<参考実施形態1>
以下は、参考実施形態1に係るパッシベーション膜、塗布型材料、太陽電池素子及びパッシベーション膜付シリコン基板である。
<1> 酸化アルミニウムと酸化ニオブとを含み、シリコン基板を有する太陽電池素子に用いられるパッシベーション膜。
<2> 前記酸化ニオブと前記酸化アルミニウムの質量比(酸化ニオブ/酸化アルミニウム)が30/70〜90/10である<1>に記載のパッシベーション膜。
<3> 前記酸化ニオブ及び前記酸化アルミニウムの総含有率が90質量%以上である<1>又は<2>に記載のパッシベーション膜。
<4> 更に有機成分を含む<1>〜<3>のいずれか1項に記載のパッシベーション膜。
<5> 酸化アルミニウム前駆体及び酸化ニオブ前駆体を含む塗布型材料の熱処理物である<1>〜<4>のいずれか1項に記載のパッシベーション膜。
<6> 酸化アルミニウム前駆体及び酸化ニオブ前駆体を含み、シリコン基板を有する太陽電池素子のパッシベーション膜の形成に用いられる塗布型材料。
<7> 単結晶シリコン又は多結晶シリコンからなり、受光面及び前記受光面とは反対側の裏面を有するp型のシリコン基板と、
前記シリコン基板の受光面側に形成されたn型の不純物拡散層と、
前記シリコン基板の受光面側の前記n型の不純物拡散層の表面に形成された第1電極と、
前記シリコン基板の裏面側の表面に形成され、複数の開口部を有する酸化アルミニウムと酸化ニオブを含むパッシベーション膜と、
前記複数の開口部を通して、前記シリコン基板の裏面側の表面と電気的な接続を形成している第2電極と、
を備える太陽電池素子。
<8> 単結晶シリコン又は多結晶シリコンからなり、受光面及び前記受光面とは反対側の裏面を有するp型のシリコン基板と、
前記シリコン基板の受光面側に形成されたn型の不純物拡散層と、
前記シリコン基板の受光面側の前記n型の不純物拡散層の表面に形成された第1電極と、
前記シリコン基板の裏面側の一部又は全部に形成され、前記シリコン基板より高濃度に不純物が添加されたp型の不純物拡散層と、
前記シリコン基板の裏面側の表面に形成され、複数の開口部を有する酸化アルミニウムと酸化ニオブを含むパッシベーション膜と、
前記複数の開口部を通して、前記シリコン基板の裏面側の前記p型の不純物拡散層の表面と電気的な接続を形成している第2電極と、
を備える太陽電池素子。
<9> 単結晶シリコン又は多結晶シリコンからなり、受光面及び前記受光面とは反対側の裏面を有するn型のシリコン基板と、
前記シリコン基板の受光面側に形成されたp型の不純物拡散層と、
前記シリコン基板の裏面側に形成された第2電極と、
前記シリコン基板の受光面側の表面に形成され、複数の開口部を有する酸化アルミニウムと酸化ニオブを含むパッシベーション膜と、
前記シリコン基板の受光面側の前記p型の不純物拡散層の表面に形成され、前記複数の開口部を通して前記シリコン基板の受光面側の表面と電気的な接続を形成している第1電極と、
を備える太陽電池素子。
<10> パッシベーション膜における酸化ニオブと酸化アルミニウムの質量比(酸化ニオブ/酸化アルミニウム)が30/70〜90/10である<7>〜<9>のいずれか1項に記載の太陽電池素子。
<11> 前記パッシベーション膜における前記酸化ニオブ及び前記酸化アルミニウムの総含有率が90質量%以上である<7>〜<10>のいずれか1項に記載の太陽電池素子。
<12> シリコン基板と、
前記シリコン基板上の全面又は一部に設けられる<1>〜<5>のいずれか1項に記載のパッシベーション膜と、
を有するパッシベーション膜付シリコン基板。
上記の参考実施形態によれば、シリコン基板のキャリアライフタイムを長くし且つ負の固定電荷を有するパッシベーション膜を低コストで実現することができる。また、そのパッシベーション膜の形成を実現するための塗布型材料を提供することができる。また、そのパッシベーション膜を用いた効率の高い太陽電池素子を低コストで実現することができる。また、キャリアライフタイムを長くし且つ負の固定電荷を有するパッシベーション膜付シリコン基板を低コストで実現することができる。
本実施の形態のパッシベーション膜は、シリコン太陽電池素子に用いられるパッシベーション膜であり、酸化アルミニウムと酸化ニオブとを含むようにしたものである。
また、本実施の形態では、パッシベーション膜の組成を変えることにより、その膜が持つ固定電荷量を制御することができる。
また、酸化ニオブと酸化アルミニウムの質量比が30/70〜80/20であることが、負の固定電荷を安定化できるという観点からより好ましい。また、酸化ニオブと酸化アルミニウムの質量比が35/65〜70/30であることが、負の固定電荷を更に安定化することができるという観点から更に好ましい。また、酸化ニオブと酸化アルミニウムの質量比が50/50〜90/10であることが、キャリアライフタイムの向上と負の固定電荷を両立できるという観点から好ましい。
パッシベーション膜中の酸化ニオブと酸化アルミニウムの質量比は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、二次イオン質量分析法(SIMS)及び高周波誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)によって測定することができる。具体的な測定条件は次の通りである。パッシベーション膜を酸又はアルカリ水溶液に溶解し、この溶液を霧状にしてArプラズマに導入し、励起された元素が基底状態に戻る際に放出される光を分光して波長及び強度を測定し、得られた波長から元素の定性を行い、得られた強度から定量を行う。
パッシベーション膜中の酸化ニオブ及び酸化アルミニウムの総含有率が、80質量%以上であることが好ましく、良好な特性を維持できる観点から90質量%以上であることがより好ましい。パッシベーション膜中の酸化ニオブ及び酸化アルミニウムの成分が多くなると、負の固定電荷の効果が大きくなる。
パッシベーション膜中の酸化ニオブ及び酸化アルミニウムの総含有率は、熱重量分析、蛍光X線分析、ICP−MS及びX線吸収分光法を組み合わせることによって測定することができる。具体的な測定条件は次の通りである。熱重量分析によって無機成分の割合を算出し、蛍光X線やICP−MS分析によってニオブ及びアルミニウムの割合を算出し、酸化物の割合はX線吸収分光法で調べることができる。
また、パッシベーション膜中には、膜質の向上や弾性率の調整の観点から、酸化ニオブ及び酸化アルミニウム以外の成分が有機成分として含まれていてもよい。パッシベーション膜中の有機成分の存在は、元素分析及び膜のFT−IRの測定から確認することができる。
パッシベーション膜中の有機成分の含有率は、パッシベーション膜中、10質量%未満であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
パッシベーション膜は、酸化アルミニウム前駆体及び酸化ニオブ前駆体を含む塗布型材料の熱処理物として得てもよい。塗布型材料の詳細を次に説明する。
本実施の形態の塗布型材料は、酸化アルミニウム前駆体及び酸化ニオブ前駆体を含み、シリコン基板を有する太陽電池素子用のパッシベーション膜の形成に用いられる。
酸化アルミニウム前駆体は、酸化アルミニウムを生成するものであれば、特に限定されることなく用いることができる。酸化アルミニウム前駆体としては、酸化アルミニウムをシリコン基板上に均一に分散させる点、及び化学的に安定な点から、有機系の酸化アルミニウム前駆体を用いることが好ましい。有機系の酸化アルミニウム前駆体の例として、アルミニウムトリイソプロポキシド(構造式:Al(OCH(CH3)2)3、(株)高純度化学研究所SYM−AL04等を挙げることができる。
酸化ニオブ前駆体は、酸化ニオブを生成するものであれば、特に限定されることなく用いることができる。酸化ニオブ前駆体としては、酸化ニオブをシリコン基板上に均一に分散させる点、及び化学的に安定な観点から有機系の酸化ニオブ前駆体を用いることが好ましい。有機系の酸化ニオブ前駆体の例として、ニオブ(V)エトキシド(構造式:Nb(OC2H5)5、分子量:318.21)、(株)高純度化学研究所Nb−05等を挙げることができる。
有機系の酸化ニオブ前駆体及び有機系の酸化アルミニウム前駆体を含む塗布型材料を塗布法又は印刷法を用いて成膜し、その後の熱処理(焼成)により有機成分を除去することにより、パッシベーション膜を得ることができる。したがって、結果として、有機成分を含むパッシベーション膜であってもよい。
<太陽電池素子の構造説明>
本実施の形態の太陽電池素子の構造について図5〜図8を参照しながら説明する。図5〜図8は、本実施の形態の裏面にパッシベーション膜を用いた太陽電池素子の第1〜第4構成例を示す断面図である。
本実施の形態で用いるシリコン基板(結晶シリコン基板、半導体基板)101としては、単結晶シリコン、又は、多結晶シリコンのどちらを用いてもよい。また、シリコン基板101としては、導電型がp型の結晶シリコン、又は、導電型がn型の結晶シリコンのどちらを用いてもよい。本実施の形態の効果をより発揮する観点からは、導電型がp型の結晶シリコンがより適している。
以下の図5〜図8においては、シリコン基板101として、p型単結晶シリコンを用いた例について説明する。尚、当該シリコン基板101に用いる単結晶シリコン又は多結晶シリコンは、任意のものでよいが、抵抗率が0.5Ω・cm〜10Ω・cmである単結晶シリコン又は多結晶シリコンが好ましい。
図5(第1構成例)に示すように、p型のシリコン基板101の受光面側(図中上側、第1面)に、リン等のV族の元素をドーピングしたn型の拡散層102が形成される。そして、シリコン基板101と拡散層102との間でpn接合が形成される。拡散層102の表面には、窒化ケイ素(SiN)膜等の受光面反射防止膜103、及び銀(Ag)等を用いた第1電極105(受光面側の電極、第1面電極、上面電極、受光面電極)が形成される。受光面反射防止膜103は、受光面パッシベーション膜としての機能を兼ね備えてもよい。SiN膜を用いることで、受光面反射防止膜と受光面パッシベーション膜の機能を両方兼ね備えることができる。
尚、本実施の形態の太陽電池素子は、受光面反射防止膜103を有していても有していなくてもよい。また、太陽電池素子の受光面には、表面での反射率を低減するため、凹凸構造(テクスチャー構造)が形成されることが好ましいが、本実施の形態の太陽電池素子は、テクスチャー構造を有していても有していなくてもよい。
一方、シリコン基板101の裏面側(図中下側、第2面、裏面)には、アルミニウム、ボロン等のIII族の元素をドーピングした層であるBSF(Back Surface Field)層104が形成される。ただし、本実施の形態の太陽電池素子は、BSF層104を有していても有していなくてもよい。
このシリコン基板101の裏面側には、BSF層104(BSF層104が無い場合はシリコン基板101の裏面側の表面)とコンタクト(電気的接続)をとるために、アルミニウム等で構成される第2電極106(裏面側の電極、第2面電極、裏面電極)が形成されている。
更に、図5(第1構成例)においては、BSF層104(BSF層104が無い場合はシリコン基板101の裏面側の表面)と第2電極106とが電気的に接続されているコンタクト領域(開口部OA)を除いた部分に、酸化アルミニウム及び酸化ニオブを含むパッシベーション膜(パッシベーション層)107が形成されている。本実施の形態のパッシベーション膜107は、負の固定電荷を有することが可能である。この固定電荷により、光によりシリコン基板101内で発生したキャリアのうち少数キャリアである電子を表面側へ跳ね返す。このため、短絡電流が増加し、光電変換効率が向上することが期待される。
次いで、図6に示す第2構成例について説明する。図5(第1構成例)においては、第2電極106は、コンタクト領域(開口部OA)とパッシベーション膜107上の全面に形成されているが、図6(第2構成例)においては、コンタクト領域(開口部OA)のみに第2電極106が形成されている。コンタクト領域(開口部OA)とパッシベーション膜107上の一部のみに第2電極106が形成される構成としてもよい。図6に示す構成の太陽電池素子であっても図5(第1構成例)と同様の効果を得ることができる。
次いで、図7に示す第3構成例について説明する。図7に示す第3構成例においては、BSF層104が、第2電極106とのコンタクト領域(開口部OA部)を含む裏面側の一部のみに形成され、図5(第1構成例)のように、裏面側の全面に形成されていない。このような構成の太陽電池素子(図7)であっても、図5(第1構成例)と同様の効果を得ることができる。また、図7の第3構成例の太陽電池素子によれば、BSF層104、つまり、アルミニウム、ボロン等のIII族の元素をドーピングすることでシリコン基板101よりも不純物が高い濃度でドーピングされた領域が少ないため、図5(第1構成例)より高い光電変換効率を得ることが可能である。
次いで、図8に示す第4構成例について説明する。図7(第3構成例)においては、第2電極106は、コンタクト領域(開口部OA)とパッシベーション膜107上の全面に形成されているが、図8(第4構成例)においては、コンタクト領域(開口部OA)のみに第2電極106が形成されている。コンタクト領域(開口部OA)とパッシベーション膜107上の一部のみに第2電極106が形成される構成としてもよい。図8に示す構成の太陽電池素子であっても図7(第3構成例)と同様の効果を得ることができる。
また、第2電極106を印刷法で付与し、高温で焼成することにより裏面側の全面に形成した場合は、降温過程で上に凸の反りが発生しやすい。このような反りは、太陽電池素子の破損を引き起こす場合があり、歩留りが低下する恐れがある。また、シリコン基板の薄膜化が進む際には反りの問題が大きくなる。この反りの原因は、シリコン基板よりも金属(例えばアルミニウム)よりなる第2電極106の熱膨張係数が大きく、その分、降温過程での収縮が大きいため、応力が発生することにある。
以上のことから、図6(第2構成例)及び図8(第4構成例)のように第2電極106を裏面側の全面に形成しない方が、電極構造が上下で対称になり易く、熱膨張係数の差による応力が発生しにくいため好ましい。ただし、その場合は、別途反射層を設けることが好ましい。
<太陽電池素子の製法説明>
次に、上記構成をもつ本実施の形態の太陽電池素子(図5〜図8)の製造方法の一例について説明する。ただし、本実施の形態は、以下に述べる方法で作製した太陽電池素子に限るものではない。
まず、図5等に示すシリコン基板101の表面にテクスチャー構造を形成する。テクスチャー構造の形成は、シリコン基板101の両面に形成しても、片面(受光面側)のみに形成してもよい。テクスチャー構造を形成するため、まず、シリコン基板101を加熱した水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムの溶液に浸して、シリコン基板101のダメージ層を除去する。その後、水酸化カリウム及びイソプロピルアルコールを主成分とする溶液に浸すことで、シリコン基板101の両面又は片面(受光面側)にテクスチャー構造を形成する。尚、上述したとおり、本実施の形態の太陽電池素子は、テクスチャー構造を有していても有していなくてもよいため、本工程は省略してもよい。
続いて、シリコン基板101を塩酸、フッ酸等の溶液で洗浄した後、シリコン基板101にオキシ塩化リン(POCl3)等の熱拡散により、拡散層102としてリン拡散層(n+層)を形成する。リン拡散層は、例えば、リンを含んだ塗布型のドーピング材の溶液をシリコン基板101に付与し、熱処理をすることによって形成できる。熱処理後、表面に形成されたリンガラスの層をフッ酸等の酸で除去することで、拡散層102としてリン拡散層(n+層)が形成される。リン拡散層を形成する方法は特に制限されない。リン拡散層は、シリコン基板101の表面からの深さが0.2μm〜0.5μmの範囲、シート抵抗が40Ω/□〜100Ω/□(ohm/square)の範囲となるように形成することが好ましい。
その後、シリコン基板101の裏面側にボロン、アルミニウム等を含んだ塗布型のドーピング材の溶液を付与し、熱処理を行うことで、裏面側のBSF層104を形成する。付与には、スクリーン印刷、インクジェット、ディスペンス、スピンコート等の方法を用いることができる。熱処理後、裏面に形成されたボロンガラス、アルミニウム等の層をフッ酸、塩酸等によって除去することでBSF層104が形成される。BSF層104を形成する方法は特に制限されない。好ましくは、BSF層104は、ボロン、アルミニウム等の濃度の範囲が1018cm−3〜1022cm−3となるように形成されることが好ましく、ドット状又はライン状にBSF層104を形成することが好ましい。尚、本実施の形態の太陽電池素子は、BSF層104を有していても有していなくてもよいため、本工程は省略してもよい。
また、受光面の拡散層102、及び裏面のBSF層104とも塗布型のドーピング材の溶液を用いて形成する場合は、上記のドーピング材の溶液をそれぞれシリコン基板101の両面に付与して、拡散層102としてのリン拡散層(n+層)とBSF層104の形成を一括して行い、その後、表面に形成したリンガラス、ボロンガラス等を一括して除去してもよい。
その後、拡散層102の上に、受光面反射防止膜103である窒化ケイ素膜を形成する。受光面反射防止膜103を形成する方法は特に制限されない。受光面反射防止膜103は、厚さが50〜100nmの範囲、屈折率が1.9〜2.2の範囲となるように形成することが好ましい。受光面反射防止膜103は、窒化ケイ素膜に限られず、酸化ケイ素膜、酸化アルミニウム膜、酸化チタン膜等であってもよい。窒化イ素膜等の表面反射防止膜103は、プラズマCVD、熱CVD等の方法で作製でき、350℃〜500℃の温度範囲で形成可能なプラズマCVDで作製することが好ましい。
次に、シリコン基板101の裏面側にパッシベーション膜107を形成する。パッシベーション膜107は、酸化アルミニウムと酸化ニオブを含み、例えば、熱処理(焼成)により酸化アルミニウムが得られる有機金属分解塗布型材料に代表される酸化アルミニウム前駆体と、熱処理(焼成)により酸化ニオブが得られる市販の有機金属分解塗布型材料に代表される酸化ニオブ前駆体とを含む材料(パッシベーション材料)を付与し、熱処理(焼成)することにより形成される。
パッシベーション膜107の形成は、例えば、以下のようにして行うことができる。上記の塗布型材料を、濃度0.049質量%のフッ酸で自然酸化膜をあらかじめ除去した725μm厚で8インチ(20.32cm)のp型のシリコン基板(8Ωcm〜12Ωcm)の片面に回転塗布し、ホットプレート上において120℃、3分間のプリベークを行う。その後、窒素雰囲気下で、650℃、1時間の熱処理を行う。この場合、酸化アルミニウム及び酸化ニオブを含むパッシベーション膜が得られる。上記のような方法で形成されるパッシベーション膜107のエリプソメーターにより測定される膜厚は、通常は数十nm程度である。
上記の塗布型材料は、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェットによる印刷、ディスペンサーによる印刷等の方法により、コンタクト領域(開口部OA)を含んだ所定のパターンに付与される。尚、上記の塗布型材料は、付与後、80℃〜180℃の範囲でプリベークして溶媒を蒸発させた後、窒素雰囲気下又は空気中において、600℃〜1000℃で、30分〜3時間程度の熱処理(アニール)を施し、パッシベーション膜107(酸化物の膜)とすることが好ましい。
更に、開口部(コンタクト用の孔)OAは、BSF層104上に、ドット状又はライン状に形成することが好ましい。
上記の太陽電池素子に用いるパッシベーション膜107としては、酸化ニオブと酸化アルミニウムの質量比(酸化ニオブ/酸化アルミニウム)が30/70〜90/10であることが好ましく、30/70〜80/20であることがより好ましく、35/65〜70/30であることが更に好ましい。これにより、負の固定電荷を安定化させることができる。また、酸化ニオブと酸化アルミニウムの質量比が50/50〜90/10であることが、キャリアライフタイムの向上と負の固定電荷を両立できるという観点から好ましい。
更にパッシベーション膜107において、酸化ニオブ及び酸化アルミニウムの総含有率が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
次に、受光面側の電極である第1電極105を形成する。第1電極105は、受光面反射防止膜103上に銀(Ag)を主成分とするペーストをスクリーン印刷により形成し、熱処理(ファイアースルー)を行うことで形成される。第1電極105の形状は、任意の形状でよく、例えば、フィンガー電極とバスバー電極とからなる周知の形状でよい。
そして、裏面側の電極である第2電極106を形成する。第2電極106は、アルミニウムを主成分とするペーストをスクリーン印刷又はディスペンサーを用いて付与し、それを熱処理することによって形成できる。また、第2電極106の形状は、BSF層104の形状と同じ形状、裏面側の全面を覆う形状、櫛型状、格子状等であることが好ましい。尚、受光面側の電極である第1電極105と第2電極106とを形成するためのペーストの印刷をそれぞれ先に行って、その後、熱処理(ファイアスルー)することにより第1電極105と第2電極106とを一括して形成してもよい。
また第2電極106の形成にアルミニウム(Al)を主成分とするペーストを用いることにより、アルミニウムがドーパントとして拡散して、自己整合で第2電極106とシリコン基板101との接触部にBSF層104が形成される。尚、先に述べたように、シリコン基板101の裏面側にボロン、アルミニウム等を含んだ塗布型のドーピング材の溶液を付与し、それを熱処理することで別途BSF層104を形成してもよい。
尚、上記においては、シリコン基板101にp型のシリコンを用いた構造例及び製法例を示したが、シリコン基板101としてn型のシリコン基板も用いることができる。この場合は、拡散層102は、ボロン等のIII族の元素をドーピングした層で形成され、BSF層104は、リン等のV族の元素をドーピングして形成される。ただし、この場合は、負の固定電荷により界面に形成された反転層と裏面側の金属が接触した部分を通じて漏れ電流が流れ、変換効率が上がりにくい場合がある点に留意すべきである。
またn型のシリコン基板を用いる場合には、酸化ニオブ及び酸化アルミニウムを含むパッシベーション膜107を図9に示すように受光面側に用いることができる。図9は、本実施の形態の受光面パッシベーション膜を用いた太陽電池素子の構成例を示す断面図である。
この場合、受光面側の拡散層102は、ボロンをドーピングしてp型となっており、生成したキャリアのうち正孔を受光面側に、電子を裏面側に集める。このために、負の固定電荷をもったパッシベーション膜107が受光面側にあることが好ましい。
酸化ニオブ及び酸化アルミニウムを含むパッシベーション膜の上には、更にCVD等によりSiN等で構成される反射防止膜を形成してもよい。
以下、本実施の形態の参考実施例及び参考比較例を参照しながら詳細に説明する。
[参考実施例1−1]
熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる市販の有機金属分解塗布型材料[株式会社高純度化学研究所SYM−AL04、濃度2.3質量%]を3.0gと、熱処理(焼成)により酸化ニオブ(Nb2O5)が得られる市販の有機金属分解塗布型材料[株式会社高純度化学研究所Nb−05、濃度5質量%]を3.0gとを混合して、塗布型材料であるパッシベーション材料(a−1)を調製した。
パッシベーション材料(a−1)を、濃度0.049質量%のフッ酸で自然酸化膜をあらかじめ除去した725μm厚で8インチのp型のシリコン基板(8Ωcm〜12Ωcm)の片面に回転塗布し、ホットプレート上において120℃、3分間のプリベークを行った。その後、窒素雰囲気下で、650℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、酸化アルミニウム及び酸化ニオブを含むパッシベーション膜[酸化ニオブ/酸化アルミニウム=68/32(質量比)]を得た。エリプソメーターにより膜厚を測定したところ43nmであった。パッシベーション膜のFT−IRを測定したところ、1200cm−1付近に、ごくわずかのアルキル基に起因するピークが見られた。
次に、上記のパッシベーション膜上に、メタルマスクを介して、直径1mmのアルミ電極を複数個蒸着により形成し、MIS(Metal−Insulator−Semiconductor;金属−絶縁体−半導体)構造のキャパシタを作製した。このキャパシタの静電容量の電圧依存性(C−V特性)を市販のプローバー及びLCRメーター(HP社、4275A)により測定した。その結果、フラットバンド電圧(Vfb)が理想値の−0.81Vから、+0.32Vにシフトしたことが判明した。このシフト量からパッシベーション材料(a−1)から得たパッシベーション膜は、固定電荷密度(Nf)が−7.4×1011cm−2で負の固定電荷を示すことがわかった。
上記と同様に、パッシベーション材料(a−1)を8インチのp型のシリコン基板の両面に付与し、プリベークして、窒素雰囲気下で、650℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、シリコン基板の両面がパッシベーション膜で覆われたサンプルを作製した。このサンプルのキャリアライフタイムをライフタイム測定装置(株式会社コベルコ科研、RTA−540)により行った。その結果、キャリアライフタイムは530μsであった。比較のために、同じ8インチのp型のシリコン基板をヨウ素パッシベーション法によりパッシベーションして測定したところ、キャリアライフタイムは、1100μsであった。
以上のことから、パッシベーション材料(a−1)を熱処理(焼成)して得られるパッシベーション膜は、ある程度のパッシベーション性能を示し、負の固定電荷を示すことがわかった。
[参考実施例1−2]
参考実施例1−1と同様に、熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる市販の有機金属分解塗布型材料[株式会社高純度化学研究所、SYM−AL04、濃度2.3質量%]と、熱処理(焼成)により酸化ニオブ(Nb2O5)が得られる市販の有機金属分解塗布型材料[株式会社高純度化学研究所、Nb−05、濃度5質量%]とを、比率を変えて混合して、表2に示すパッシベーション材料(a−2)〜(a−7)を調製した。
参考実施例1−1と同様に、パッシベーション材料(a−2)〜(a−7)のそれぞれをp型のシリコン基板の片面に付与し、熱処理(焼成)してパッシベーション膜を作製した。得られたパッシベーション膜の静電容量の電圧依存性を測定し、そこから固定電荷密度を算出した。
更に、参考実施例1−1と同様に、パッシベーション材料をp型のシリコン基板の両面に付与し、熱処理(焼成)して得たサンプルを用いて、キャリアライフタイムを測定した。得られた結果を表2にまとめた。
熱処理(焼成)後の酸化ニオブ/酸化アルミニウムの比率(質量比)により、異なる結果ではあるが、パッシベーション材料(a−2)〜(a−7)については、熱処理(焼成)後にキャリアライフタイムもある程度の値を示していることから、パッシベーション膜として機能することが示唆された。パッシベーション材料(a−2)〜(a−7)から得られるパッシベーション膜は、いずれも安定的に負の固定電荷を示し、p型のシリコン基板のパッシベーションとしても好適に用いることができることが分かった。
[参考実施例1−3]
市販のニオブ(V)エトキシド(構造式:Nb(OC2H5)5、分子量:318.21)を3.18g(0.010mol)と、市販のアルミニウムトリイソプロポキシド(構造式:Al(OCH(CH3)2)3、分子量:204.25)を1.02g(0.005mol)とをシクロヘキサン80gに溶解して、濃度5質量%のパッシベーション材料(c−1)を調製した。
パッシベーション材料(c−1)を、濃度0.049質量%のフッ酸で自然酸化膜をあらかじめ除去した725μm厚で8インチのp型のシリコン基板(8Ωcm〜12Ωcm)の片面に回転塗布し、ホットプレート上において120℃、3分間のプリベークをした。その後、窒素雰囲気下で、600℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、酸化アルミニウム及び酸化ニオブを含むパッシベーション膜を得た。エリプソメーターにより膜厚を測定したところ50nmであった。元素分析の結果、Nb/Al/C=81/14/5(質量%)であることがわかった。パッシベーション膜のFT−IRを測定したところ、1200cm−1付近に、ごくわずかのアルキル基に起因するピークが見られた。
次に、上記のパッシベーション膜上に、メタルマスクを介して、直径1mmのアルミ電極を複数個蒸着により形成し、MIS(Metal−Insulator−Semiconductor;金属−絶縁体−半導体)構造のキャパシタを作製した。このキャパシタの静電容量の電圧依存性(C−V特性)を市販のプローバー及びLCRメーター(HP社、4275A)により測定した。その結果、フラットバンド電圧(Vfb)が理想値の−0.81Vから、+4.7Vにシフトしたことが判明した。このシフト量からパッシベーション材料(c−1)から得たパッシベーション膜は、固定電荷密度(Nf)が−3.2×1012cm−2で負の固定電荷を示すことがわかった。
上記と同様に、パッシベーション材料(c−1)を8インチのp型のシリコン基板の両面に付与し、プリベークして、窒素雰囲気下で、600℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、シリコン基板の両面がパッシベーション膜で覆われたサンプルを作製した。このサンプルのキャリアライフタイムをライフタイム測定装置(株式会社コベルコ科研、RTA−540)により行った。その結果、キャリアライフタイムは330μsであった。比較のために、同じ8インチのp型のシリコン基板をヨウ素パッシベーション法によりパッシベーションして測定したところ、キャリアライフタイムは、1100μsであった。
以上のことから、パッシベーション材料(c−1)を熱処理(焼成)して得られるパッシベーション膜は、ある程度のパッシベーション性能を示し、負の固定電荷を示すことがわかった。
[参考実施例1−4]
市販のニオブ(V)エトキシド(構造式:Nb(OC2H5)5、分子量:318.21)を2.35g(0.0075mol)と、市販のアルミニウムトリイソプロポキシド(構造式:Al(OCH(CH3)2)3、分子量:204.25)を1.02g(0.005mol)と、ノボラック樹脂10gとを、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート10gとシクロヘキサン10gに溶解して、パッシベーション材料(c−2)を調製した。
パッシベーション材料(c−2)を、濃度0.049質量%のフッ酸で自然酸化膜をあらかじめ除去した725μm厚で8インチのp型のシリコン基板(8Ωcm〜12Ωcm)の片面に回転塗布し、ホットプレート上において120℃、3分間のプリベークをした。その後、窒素雰囲気下で、600℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、酸化アルミニウム及び酸化ニオブを含むパッシベーション膜を得た。エリプソメーターにより膜厚を測定したところ14nmであった。元素分析の結果、Nb/Al/C=75/17/8(質量%)であることがわかった。パッシベーション膜のFT−IRを測定したところ、1200cm−1付近に、ごくわずかのアルキル基に起因するピークが見られた。
次に、上記のパッシベーション膜上に、メタルマスクを介して、直径1mmのアルミ電極を複数個蒸着して形成し、MIS(Metal−Insulator−Semiconductor;金属−絶縁体−半導体)構造のキャパシタを作製した。このキャパシタの静電容量の電圧依存性(C−V特性)を市販のプローバー及びLCRメーター(HP社、4275A)により測定した。その結果、フラットバンド電圧(Vfb)が理想値の−0.81Vから、+0.10Vにシフトしたことが判明した。このシフト量からパッシベーション材料(c−2)から得たパッシベーション膜は、固定電荷密度(Nf)が−0.8×1011cm−2で負の固定電荷を示すことがわかった。
上記と同様に、パッシベーション材料(c−2)を8インチのp型のシリコン基板の両面に付与し、プリベークして、窒素雰囲気下で、600℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、シリコン基板の両面がパッシベーション膜で覆われたサンプルを作製した。このサンプルのキャリアライフタイムをライフタイム測定装置(株式会社コベルコ科研コ、RTA−540)により行った。その結果、キャリアライフタイムは200μsであった。比較のために、同じ8インチのp型のシリコン基板をヨウ素パッシベーション法によりパッシベーションして測定したところ、キャリアライフタイムは、1100μsであった。
以上のことから、パッシベーション材料(c−2)から得られるパッシベーション膜は、ある程度のパッシベーション性能を示し、負の固定電荷を示すことがわかった。
[参考実施例1−5及び参考比較例1−1]
参考実施例1−1と同様に、熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる市販の有機金属分解塗布型材料[株式会社高純度化学研究所SYM−AL04、濃度2.3質量%]と、熱処理(焼成)により酸化ニオブ(Nb2O5)が得られる市販の有機金属分解塗布型材料[株式会社高純度化学研究所Nb−05、濃度5質量%]とを、比率を変えて混合して、表3に示すパッシベーション材料(b−1)〜(b−7)を調製した。
参考実施例1−1と同様に、パッシベーション材料(b−1)〜(b−7)のそれぞれをp型のシリコン基板の片面に付与し、熱処理(焼成)して、パッシベーション膜を作製し、それを用いて、静電容量の電圧依存性を測定し、そこから固定電荷密度を算出した。
更に、参考実施例1−1と同様に、パッシベーション材料(塗布型材料)をp型のシリコン基板の両面に付与し、硬化させたサンプルを用いて、キャリアライフタイムを測定した。得られた結果を表3にまとめた。
パッシベーション材料(b−1)〜(b−6)から得られるパッシベーション膜は、キャリアライフタイムがいずれも大きくパッシベーションとしての機能があることがわかった。また、酸化ニオブ/酸化アルミニウムが10/90及び20/80の場合には、固定電荷密度の値にばらつきが大きく、負の固定電荷密度を安定的に得ることができなかったが、酸化アルミニウムと酸化ニオブを用いることで負の固定電荷密度を実現できることが確認できた。酸化ニオブ/酸化アルミニウムが10/90及び20/80のパッシベーション材料を用いてCV法により測定した際には、場合によって正の固定電荷を示すパッシベーション膜となるため、負の固定電荷を安定的に示すまでには至っていないことが分かる。なお、正に固定電荷を示すパッシベーション膜は、n型のシリコン基板のパッシベーションとして使用可能である。
一方、酸化アルミニウムが100質量%となるパッシベーション材料(b−7)では、負の固定電荷密度を得ることができなかった。
[参考比較例1−2]
パッシベーション材料(d−1)として、熱処理(焼成)により酸化チタン(TiO2)が得られる市販の有機金属分解塗布型材料[株式会社高純度化学研究所Ti−03−P、濃度3質量%]、パッシベーション材料(d−2)として、熱処理(焼成)によりチタン酸バリウム(BaTiO3)が得られる市販の有機金属分解塗布型材料[株式会社高純度化学研究所BT−06、濃度6質量%]、パッシベーション材料(d−3)として、熱処理(焼成)により酸化ハフニウム(HfO2)が得られる市販の有機金属分解塗布型材料[株式会社高純度化学研究所Hf−05、濃度5質量%]を準備した。
参考実施例1−1と同様に、パッシベーション材料(d−1)〜(d−3)のそれぞれをp型のシリコン基板の片面に付与し、その後、熱処理(焼成)して、パッシベーション膜を作製し、それを用いて、静電容量の電圧依存性を測定し、そこから固定電荷密度を算出した。
更に、参考実施例1−1と同様に、パッシベーション材料をp型のシリコン基板の両面に付与し、熱処理(焼成)により得たサンプルを用いて、キャリアライフタイムを測定した。得られた結果を表4にまとめた。
パッシベーション材料(d−1)〜(d−3)から得られるパッシベーション膜は、キャリアライフタイムがいずれも小さくパッシベーションとしての機能が不充分であることがわかった。また、正の固定電荷を示した。パッシベーション材料(d−3)から得られるパッシベーション膜は、負の固定電荷ではあるが、その値が小さかった。またキャリアライフタイムも比較的小さくパッシベーションとして機能が不十分であることがわかった。
[参考実施例1−6]
シリコン基板101として、ボロンをドーパントした単結晶シリコン基板を用いて、図7に示す構造の太陽電池素子を作製した。シリコン基板101の表面をテクスチャー処理した後、塗布型のリン拡散材を受光面側に付与し、熱処理により拡散層102(リン拡散層)を形成した。その後、塗布型のリン拡散材を希フッ酸で除去した。
次に、受光面側に、受光面反射防止膜103として、プラズマCVDで作製したSiN膜を形成した。その後、参考実施例1−1で調製したパッシベーション材料(a−1)をインクジェット法により、シリコン基板101の裏面側に、コンタクト領域(開口部OA)を除いた領域に付与した。その後、熱処理を行って、開口部OAを有するパッシベーション膜107を形成した。
また、パッシベーション膜107として、参考実施例1−3で調製したパッシベーション材料(c−1)を用いたサンプルも別途作製した。
次に、シリコン基板101の受光面側に形成された受光面反射防止膜103(SiN膜)の上に、銀を主成分とするペーストを所定のフィンガー電極及びバスバー電極の形状でスクリーン印刷した。裏面側においては、アルミニウムを主成分とするペーストを全面にスクリーン印刷した。その後、850℃で熱処理(ファイアスルー)を行って、電極(第1電極105及び第2電極106)を形成し、且つ裏面の開口部OAの部分にアルミニウムを拡散させて、BSF層104を形成して、図7に示す構造の太陽電池素子を形成した。
尚、ここでは、受光面の銀電極に関しては、SiN膜に穴あけをしないファイアスルー工程を記載したが、SiN膜に初めに開口部OAをエッチング等により形成し、その後に銀電極を形成することもできる。
比較のために、上記作製工程のうち、パッシベーション膜107の形成を行わず、裏面側の全面にアルミニウムペーストを印刷し、BSF層104と対応するp+層114及び第2電極と対応する電極116を全面に形成して、図4に示す構造の太陽電池素子を形成した。これらの太陽電池素子について、特性評価(短絡電流、開放電圧、曲線因子及び変換効率)を行った。特性評価は、JIS−C−8913(2005年度)及びJIS−C−8914(2005年度)に準拠して測定した。その結果を表5に示す。
表5より、酸化ニオブ及び酸化アルミニウム層を含むパッシベーション膜107を有する太陽電池素子は、パッシベーション膜107を有しない太陽電池素子と比較すると、短絡電流及び開放電圧が共に増加しており、変換効率(光電変換効率)が最大で1%向上することが判明した。
<参考実施形態2>
以下は、参考実施形態2に係るパッシベーション膜、塗布型材料、太陽電池素子及びパッシベーション膜付シリコン基板である。
<1>酸化アルミニウムと、酸化バナジウム及び酸化タンタルからなる群より選択される少なくとも1種のバナジウム族元素の酸化物と、を含み、シリコン基板を有する太陽電池素子に用いられるパッシベーション膜。
<2>前記バナジウム族元素の酸化物と前記酸化アルミニウムの質量比(バナジウム族元素の酸化物/酸化アルミニウム)が30/70〜90/10である<1>に記載のパッシベーション膜。
<3>前記バナジウム族元素の酸化物及び前記酸化アルミニウムの総含有率が90%以上である<1>又は<2>に記載のパッシベーション膜。
<4>前記バナジウム族元素の酸化物として、酸化バナジウム、酸化ニオブ及び酸化タンタルよりなる群から選択される2種又は3種のバナジウム族元素の酸化物を含む<1>〜<3>のいずれか1項に記載のパッシベーション膜。
<5>酸化アルミニウムの前駆体と、酸化バナジウムの前駆体及び酸化タンタルの前駆体からなる群より選択される少なくとも1種のバナジウム族元素の酸化物の前駆体と、を含む塗布型材料の熱処理物である<1>〜<4>のいずれか1項に記載のパッシベーション膜。
<6>酸化アルミニウムの前駆体と、酸化バナジウムの前駆体及び酸化タンタルの前駆体からなる群より選択される少なくとも1種のバナジウム族元素の酸化物の前駆体と、を含み、シリコン基板を有する太陽電池素子のパッシベーション膜の形成に用いられる塗布型材料。
<7>p型のシリコン基板と、
前記シリコン基板の受光面側である第1面側に形成されたn型の不純物拡散層と、
前記不純物拡散層上に形成された第1電極と、
前記シリコン基板の受光面側とは逆の第2面側に形成され、開口部を有するパッシベーション膜と、
前記シリコン基板の第2面側に形成され、前記シリコン基板の第2面側と前記パッシベーション膜の開口部を通して電気的に接続されている第2電極と、を備え、
前記パッシベーション膜は、酸化アルミニウムと、酸化バナジウム及び酸化タンタルからなる群より選択される少なくとも1種のバナジウム族元素の酸化物と、を含む太陽電池素子。
<8>前記シリコン基板の第2面側の一部又は全部に形成され、前記シリコン基板より高濃度に不純物が添加されたp型の不純物拡散層を有し、
前記第2電極は、前記p型の不純物拡散層と前記パッシベーション膜の開口部を通して電気的に接続されている、<7>に記載の太陽電池素子。
<9>n型のシリコン基板と、
前記シリコン基板の受光面側である第1面側に形成されたp型の不純物拡散層と、
前記不純物拡散層上に形成された第1電極と、
前記シリコン基板の受光面側とは逆の第2面側に形成され、開口部を有するパッシベーション膜と、
前記シリコン基板の第2面側に形成され、前記シリコン基板の第2面側と前記パッシベーション膜の開口部を通して電気的に接続されている第2電極と、を備え、
前記パッシベーション膜は、酸化アルミニウムと、酸化バナジウム及び酸化タンタルからなる群より選択される少なくとも1種のバナジウム族元素の酸化物と、を含む太陽電池素子。
<10>前記シリコン基板の第2面側の一部又は全部に形成され、前記シリコン基板より高濃度に不純物が添加されたn型の不純物拡散層を有し、
前記第2電極は、前記n型の不純物拡散層と前記パッシベーション膜の開口部を通して電気的に接続されている、<9>に記載の太陽電池素子。
<11>前記パッシベーション膜の前記バナジウム族元素の酸化物と前記酸化アルミニウムの質量比が30/70〜90/10である、<7>〜<10>のいずれか1項に記載の太陽電池素子。
<12>前記パッシベーション膜の前記バナジウム族元素の酸化物及び前記酸化アルミニウムの総含有率が90%以上である、<7>〜<11>のいずれか1項に記載の太陽電池素子。
<13>前記バナジウム族元素の酸化物として、酸化バナジウム、酸化ニオブ、及び酸化タンタルよりなる群から選択される2種又は3種のバナジウム族元素の酸化物を含む、<7>〜<12>のいずれか1項に記載の太陽電池素子。
<14>シリコン基板と、
前記シリコン基板上の全面又は一部に設けられる<1>〜<5>のいずれか1項に記載の太陽電池素子用パッシベーション膜と、
を有するパッシベーション膜付シリコン基板。
上記の参考実施形態によれば、シリコン基板のキャリアライフタイムを長くし且つ負の固定電荷を有するパッシベーション膜を低コストで実現することができる。また、そのパッシベーション膜の形成を実現するための塗布型材料を提供することができる。また、そのパッシベーション膜を用いた低コストで効率の高い太陽電池素子を実現することができる。また、シリコン基板のキャリアライフタイムを長くし且つ負の固定電荷を有するパッシベーション膜付シリコン基板を低コストで実現することができる。
本実施の形態のパッシベーション膜は、シリコン太陽電池素子に用いられるパッシベーション膜であり、酸化アルミニウムと、酸化バナジウム及び酸化タンタルからなる群より選択される少なくとも1種のバナジウム族元素の酸化物と、を含むようにしたものである。
また、本実施の形態では、パッシベーション膜の組成を変えることにより、パッシベーション膜が有する固定電荷の量を制御することができる。ここで、バナジウム族元素とは、周期律表の第5族元素であり、バナジウム、ニオブ及びタンタルから選ばれる元素である。
また、バナジウム族元素の酸化物と酸化アルミニウムの質量比が35/65〜90/10であることが、負の固定電荷を安定化できるという観点からより好ましく、50/50〜90/10であることが更に好ましい。
パッシベーション膜中のバナジウム族元素の酸化物と酸化アルミニウムの質量比は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)、二次イオン質量分析法(SIMS)及び高周波誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)によって測定することができる。具体的な測定条件は、例えばICP−MSの場合は次の通りである。パッシベーション膜を酸又はアルカリ水溶液に溶解し、この溶液を霧状にしてArプラズマに導入し、励起された元素が基底状態に戻る際に放出される光を分光して波長及び強度を測定し、得られた波長から元素の定性を行い、得られた強度から定量を行う。
パッシベーション膜中のバナジウム族元素の酸化物及び酸化アルミニウムの総含有率は80質量%以上であることが好ましく、良好な特性を維持できる観点から90質量%以上であることがより好ましい。パッシベーション膜中のバナジウム族元素の酸化物及び酸化アルミニウム以外の成分が多くなると、負の固定電荷の効果が大きくなる。
また、パッシベーション膜中には、膜質の向上及び弾性率の調整の観点から、バナジウム族元素の酸化物及び酸化アルミニウム以外の成分が有機成分として含まれていてもよい。パッシベーション膜中の有機成分の存在は、元素分析及び膜のFT−IRの測定から確認することができる。
前記バナジウム族元素の酸化物としては、より大きい負の固定電荷を得る観点からは、酸化バナジウム(V2O5)を選択することが好ましい。
前記パッシベーション膜は、バナジウム族元素の酸化物として、酸化バナジウム、酸化ニオブ及び酸化タンタルからなる群より選択される2種又は3種のバナジウム族元素の酸化物を含んでもよい。
前記パッシベーション膜は、塗布型材料を熱処理することにより得られることが好ましく、塗布型材料を塗布法や印刷法を用いて成膜し、その後に熱処理により有機成分を除去することにより得られることがより好ましい。すなわち、パッシベーション膜は、酸化アルミニウム前駆体及びバナジウム族元素の酸化物の前駆体を含む塗布型材料の熱処理物として得てもよい。塗布型材料の詳細を後述する。
本実施の形態の塗布型材料は、シリコン基板を有する太陽電池素子用のパッシベーション膜に用いる塗布型材料であって、酸化アルミニウムの前駆体と、酸化バナジウムの前駆体及び酸化タンタルの前駆体からなる群より選択される少なくとも1種のバナジウム族元素の酸化物の前駆体と、を含む。塗布型材料が含有するバナジウム族元素の酸化物の前駆体としては、塗布材料より形成されるパッシベーション膜の負の固定電荷の観点からは、酸化バナジウム(V2O5)の前駆体を選択することが好ましい。塗布型材料は、バナジウム族元素の酸化物の前駆体として、酸化バナジウムの前駆体、酸化ニオブの前駆体及び酸化タンタルの前駆体からなる群より選択される2種又は3種のバナジウム族元素の酸化物の前駆体を含んでもよい。
酸化アルミニウム前駆体は、酸化アルミニウムを生成するものであれば、特に限定されることなく用いることができる。酸化アルミニウム前駆体としては、酸化アルミニウムをシリコン基板上に均一に分散させる点、及び化学的に安定な観点から、有機系の酸化アルミニウム前駆体を用いることが好ましい。有機系の酸化アルミニウム前駆体の例として、アルミニウムトリイソプロポキシド(構造式:Al(OCH(CH3)2)3、(株)高純度化学研究所、SYM−AL04を挙げることができる。
バナジウム族元素の酸化物の前駆体は、バナジウム族元素の酸化物を生成するものであれば、特に限定されることなく用いることができる。バナジウム族元素の酸化物の前駆体としては、酸化アルミニウムをシリコン基板上に均一に分散させる点、及び化学的に安定な観点から有機系のバナジウム族元素の酸化物の前駆体を用いることが好ましい。
有機系の酸化バナジウムの前駆体の例としては、バナジウム(V)オキシトリエトキシド(構造式:VO(OC2H5)3、分子量:202.13)、(株)高純度化学研究所、V−02を挙げることができる。有機系の酸化タンタルの前駆体の例としては、タンタル(V)メトキシド(構造式:Ta(OCH3)5、分子量:336.12)、(株)高純度化学研究所、Ta−10−Pを挙げることができる。有機系の酸化ニオブ前駆体の例としては、ニオブ(V)エトキシド(構造式:Nb(OC2H5)5、分子量:318.21)、(株)高純度化学研究所、Nb−05を挙げることができる。
有機系のバナジウム族元素の酸化物の前駆体及び有機系の酸化アルミニウム前駆体を含む塗布型材料を塗布法又は印刷法を用いて成膜し、その後の熱処理により有機成分を除去することにより、パッシベーション膜を得ることができる。したがって、結果として、有機成分を含むパッシベーション膜であってもよい。パッシベーション膜中の有機成分の含有率は、10質量%未満であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
本実施の形態の太陽電池素子(光電変換装置)は、シリコン基板の光電変換界面の近傍に上記実施の形態で説明したパッシベーション膜(絶縁膜、保護絶縁膜)、すなわち、酸化アルミニウムと、酸化バナジウム及び酸化タンタルからなる群より選択される少なくとも1種のバナジウム族元素の酸化物とを含む膜を有するものである。酸化アルミニウムと、酸化バナジウム及び酸化タンタルからなる群より選択される少なくとも1種のバナジウム族元素の酸化物とを含むことにより、シリコン基板のキャリアライフタイムを長くし且つ負の固定電荷を有することができ、太陽電池素子の特性(光電変換効率)を向上させることができる。
本実施の形態に係る太陽電池素子の構造説明及び製法説明は、参考実施形態1に係る太陽電池素子の構造説明及び製法説明を参照することができる。
以下、本実施の形態の参考実施例及び参考比較例を参照しながら詳細に説明する。
<バナジウム族元素の酸化物として酸化バナジウムを使用した場合>
[参考実施例2−1]
熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、SYM−AL04、濃度2.3質量%]を3.0gと、熱処理(焼成)により酸化バナジウム(V2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、V−02、濃度2質量%]を6.0gとを混合して、塗布型材料であるパッシベーション材料(a2−1)を調製した。
パッシベーション材料(a2−1)を、濃度0.49質量%のフッ酸で自然酸化膜をあらかじめ除去した725μm厚で8インチのp型のシリコン基板(8Ω・cm〜12Ω・cm)の片面に回転塗布し、ホットプレート上に置いて120℃、3分間のプリベークを行った。その後、窒素雰囲気下で、700℃、30分の熱処理(焼成)を行い、酸化アルミニウム及び酸化バナジウムを含むパッシベーション膜[酸化バナジウム/酸化アルミニウム=63/37(質量%)]を得た。エリプソメーターにより膜厚を測定したところ51nmであった。パッシベーション膜のFT−IRを測定したところ、1200cm−1付近に、ごくわずかのアルキル基に起因するピークが見られた。
次に、上記のパッシベーション膜上に、メタルマスクを介して、直径1mmのアルミ電極を複数個蒸着により形成し、MIS(metal-insulator-semiconductor;金属−絶縁体−半導体)構造のキャパシタを作製した。このキャパシタの静電容量の電圧依存性(C−V特性)を市販のプローバー及びLCRメーター(HP社、4275A)により測定した。その結果、フラットバンド電圧(Vfb)が理想値の−0.81Vから、+0.02Vにシフトしたことが判明した。このシフト量からパッシベーション材料(a2−1)から得たパッシベーション膜は、固定電荷密度(Nf)が−5.2×1011cm−2で負の固定電荷を示すことがわかった。
上記と同様に、パッシベーション材料(a2−1)を8インチのp型のシリコン基板の両面に塗布し、プリベークして、窒素雰囲気下で、650℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、シリコン基板の両面がパッシベーション膜で覆われたサンプルを作製した。このサンプルのキャリアライフタイムをライフタイム測定装置((株)コベルコ科研、RTA−540)により測定した。その結果、キャリアライフタイムは400μsであった。比較のために、同じ8インチのp型のシリコン基板をヨウ素パッシベーション法によりパッシベーションして測定したところ、キャリアライフタイムは、1100μsであった。また、サンプルの作製から14日後に、再度キャリアライフタイムを測定したところ、キャリアライフタイムは380μsであった。これにより、キャリアライフタイムの低下(400μsから380μs)は−10%以内となり、キャリアライフタイムの低下が小さいことがわかった。
以上のことから、パッシベーション材料(a2−1)を熱処理(焼成)して得られるパッシベーション膜は、ある程度のパッシベーション性能を示し、負の固定電荷を示すことがわかった。
[参考実施例2−2]
参考実施例2−1と同様に、熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、SYM−AL04、濃度2.3質量%]と、熱処理により酸化バナジウム(V2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、V−02、濃度2質量%]とを、比率を変えて混合して、表6に示すパッシベーション材料(a2−2)〜(a2−7)を調製した。
参考実施例2−1と同様に、パッシベーション材料(a2−2)〜(a2−7)のそれぞれをp型のシリコン基板の片面に塗布し、熱処理(焼成)してパッシベーション膜を作製した。得られたパッシベーション膜の静電容量の電圧依存性を測定し、そこから固定電荷密度を算出した。
更に、参考実施例2−1と同様に、パッシベーション材料をp型のシリコン基板の両面に塗布し、熱処理(焼成)して得たサンプルを用いて、キャリアライフタイムを測定した。
得られた結果を表6にまとめた。またサンプルの作製から14日後に、再度キャリアライフタイムを測定したところ、キャリアライフタイムの低下は、表6に示すパッシベーション材料(a2−2)〜(a2−7)を用いたパッシベーション膜のいずれも−10%以内であり、キャリアライフタイムの低下が小さいことがわかった。
熱処理(焼成)後の酸化バナジウム/酸化アルミニウムの比率(質量比)により、異なる結果ではあるが、パッシベーション材料(a2−2)〜(a2−7)については、熱処理(焼成)後にいずれも負の固定電荷を示し、キャリアライフタイムもある程度の値を示していることから、パッシベーション膜として機能することが示唆された。パッシベーション材料(a2−2)〜(a2−7)から得られるパッシベーション膜は、いずれも安定的に負の固定電荷を示し、p型のシリコン基板のパッシベーションとしても好適に用いることができることが分かった。
[参考実施例2−3]
熱処理(焼成)により酸化バナジウム(V2O5)が得られる化合物として、市販のバナジウム(V)オキシトリエトキシド(構造式:VO(OC2H5)3、分子量:202.13)を1.02g(0.010mol)と、熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる化合物として、市販のアルミニウムトリイソプロポキシド(構造式:Al(OCH(CH3)2)3、分子量:204.25)を2.04g(0.010mol)とをシクロヘキサン60gに溶解して、濃度5質量%のパッシベーション材料(b2−1)を調製した。
パッシベーション材料(b2−1)を、濃度0.49質量%のフッ酸で自然酸化膜をあらかじめ除去した725μm厚で8インチのp型のシリコン基板(8Ω・cm〜12Ω・cm)の片面に回転塗布し、ホットプレート上において120℃、3分間のプリベークを行った。その後、窒素雰囲気下で、650℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、酸化アルミニウム及び酸化バナジウムを含むパッシベーション膜を得た。エリプソメーターにより膜厚を測定したところ、60nmであった。元素分析の結果、V/Al/C=64/33/3(質量%)であることがわかった。パッシベーション膜のFT−IRを測定したところ、1200cm−1付近に、ごくわずかのアルキル基に起因するピークが見られた。
次に、上記のパッシベーション膜上に、メタルマスクを介して、直径1mmのアルミ電極を複数個蒸着により形成し、MIS(metal-insulator-semiconductor;金属−絶縁体−半導体)構造のキャパシタを作製した。このキャパシタの静電容量の電圧依存性(C−V特性)を市販のプローバー及びLCRメーター(HP社、4275A)により測定した。その結果、フラットバンド電圧(Vfb)が理想値の−0.81Vから、+0.10Vにシフトしたことが判明した。このシフト量からパッシベーション材料(b2−1)から得たパッシベーション膜は、固定電荷密度(Nf)が−6.2×1011cm−2で負の固定電荷を示すことがわかった。
上記と同様に、パッシベーション材料(b2−1)を8インチのp型のシリコン基板の両面に塗布し、プリベークして、窒素雰囲気下で、600℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、シリコン基板の両面がパッシベーション膜で覆われたサンプルを作製した。このサンプルのキャリアライフタイムをライフタイム測定装置((株)コベルコ科研、RTA−540)により行った。その結果、キャリアライフタイムは400μsであった。比較のために、同じ8インチのp型のシリコン基板をヨウ素パッシベーション法によりパッシベーションして測定したところ、キャリアライフタイムは、1100μsであった。
以上のことから、パッシベーション材料(b2−1)を熱処理(焼成)して得られるパッシベーション膜は、ある程度のパッシベーション性能を示し、負の固定電荷を示すことがわかった。
[参考実施例2−4]
市販のバナジウム(V)オキシトリエトキシド(構造式:VO(OC2H5)3、分子量:202.13)を1.52g(0.0075mol)と、市販のアルミニウムトリイソプロポキシド(構造式:Al(OCH(CH3)2)3、分子量:204.25)を1.02g(0.005mol)と、ノボラック樹脂10gとを、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート10gとシクロヘキサン10gに溶解して、パッシベーション材料(b2−2)を調製した。
パッシベーション材料(b2−2)を、濃度0.49質量%のフッ酸で自然酸化膜をあらかじめ除去した725μm厚で8インチのp型のシリコン基板(8Ω・cm〜12Ω・cm)の片面に回転塗布し、ホットプレート上に置いて120℃、3分間のプリベークを行った。その後、窒素雰囲気下で、650℃、1時間の加熱を行い、酸化アルミニウム及び酸化バナジウムを含むパッシベーション膜を得た。エリプソメーターにより膜厚を測定したところ、22nmであった。元素分析の結果、V/Al/C=71/22/7(質量%)であることがわかった。パッシベーション膜のFT−IRを測定したところ、1200cm−1付近に、ごくわずかのアルキル基に起因するピークが見られた。
次に、上記のパッシベーション膜上に、メタルマスクを介して、直径1mmのアルミ電極を複数個蒸着により形成し、MIS(metal-insulator-semiconductor;金属−絶縁体−半導体)構造のキャパシタを作製した。このキャパシタの静電容量の電圧依存性(C−V特性)を市販のプローバー及びLCRメーター(HP社、4275A)により測定した。その結果、フラットバンド電圧(Vfb)が理想値の−0.81Vから、+0.03Vにシフトしたことが判明した。このシフト量からパッシベーション材料(b2−2)から得たパッシベーション膜は、固定電荷密度(Nf)が−2.0×1011cm−2で負の固定電荷を示すことがわかった。
上記と同様に、パッシベーション材料(b2−2)を8インチのp型のシリコン基板の両面に塗布し、プリベークして、窒素雰囲気下で、600℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、シリコン基板の両面がパッシベーション膜で覆われたサンプルを作製した。このサンプルのキャリアライフタイムをライフタイム測定装置((株)コベルコ科研、RTA−540)により行った。その結果、キャリアライフタイムは170μsであった。比較のために、同じ8インチのp型のシリコン基板をヨウ素パッシベーション法によりパッシベーションして測定したところ、キャリアライフタイムは、1100μsであった。
以上のことから、パッシベーション材料(b2−2)が硬化したパッシベーション膜は、ある程度のパッシベーション性能を示し、負の固定電荷を示すことがわかった。
<バナジウム族元素の酸化物として酸化タンタルを使用した場合>
[参考実施例2−5]
熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、SYM−AL04、濃度2.3質量%]と、熱処理により酸化タンタル(Ta2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、Ta−10−P、濃度10質量%]とを比率を変えて混合して、表7に示すパッシベーション材料(c2−1)〜(c2−6)を調製した。
パッシベーション材料(c2−1)〜(c2−6)のそれぞれを濃度0.49質量%のフッ酸で自然酸化膜をあらかじめ除去した725μm厚で8インチのp型のシリコン基板(8Ω・cm〜12Ω・cm)の片面に回転塗布し、ホットプレート上に置いて120℃、3分間のプリベークを行った。その後、窒素雰囲気下で、700℃、30分の熱処理(焼成)を行い、酸化アルミニウム及び酸化タンタルを含むパッシベーション膜を得た。このパッシベーション膜を用いて、静電容量の電圧依存性を測定し、そこから固定電荷密度を算出した。
次いで、パッシベーション材料(c2−1)〜(c2−6)のそれぞれを8インチのp型のシリコン基板の両面に塗布し、プリベークして、窒素雰囲気下で、650℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、シリコン基板の両面がパッシベーション膜で覆われたサンプルを作製した。このサンプルのキャリアライフタイムをライフタイム測定装置((株)コベルコ科研、RTA−540)により行った。
得られた結果を表7にまとめた。またサンプルの作製から14日後に、再度キャリアライフタイムを測定したところ、キャリアライフタイムの低下は、表7に示すパッシベーション材料(c2−1)〜(c2−6)を用いたパッシベーション膜のいずれも−10%以内であり、キャリアライフタイムの低下が小さいことがわかった。
熱処理(焼成)後の酸化タンタル/酸化アルミニウムの比率(質量比)により、異なる結果ではあるが、パッシベーション材料(c2−1)〜(c2−6)については、熱処理(焼成)後にいずれも負の固定電荷を示し、キャリアライフタイムもある程度の値を示していることから、パッシベーション膜として機能することが示唆された。
[参考実施例2−6]
熱処理(焼成)により酸化タンタル(Ta2O5)が得られる化合物として、市販のタンタル(V)メトキシド(構造式:Ta(OCH3)5、分子量:336.12)を1.18g(0.0025mol)と、熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる化合物として、市販のアルミニウムトリイソプロポキシド(構造式:Al(OCH(CH3)2)3、分子量:204.25)を2.04g(0.010mol)とをシクロヘキサン60gに溶解して、濃度5質量%のパッシベーション材料(d2−1)を調製した。
パッシベーション材料(d2−1)を、濃度0.49質量%のフッ酸で自然酸化膜をあらかじめ除去した725μm厚で8インチのp型のシリコン基板(8Ω・cm〜12Ω・cm)の片面に回転塗布し、ホットプレート上に置いて120℃、3分間のプリベークをした。その後、窒素雰囲気下で、700℃、1時間の加熱を行い、酸化アルミニウム及び酸化タンタルを含むパッシベーション膜を得た。エリプソメーターにより膜厚を測定したところ、40nmであった。元素分析の結果、Ta/Al/C=75/22/3(wt%)であることがわかった。パッシベーション膜のFT−IRを測定したところ、1200cm−1付近に、ごくわずかのアルキル基に起因するピークが見られた。
次に、上記のパッシベーション膜上に、メタルマスクを介して、直径1mmのアルミ電極を複数個蒸着により形成し、MIS(metal-insulator-semiconductor;金属−絶縁体−半導体)構造のキャパシタを作製した。このキャパシタの静電容量の電圧依存性(C−V特性)を市販のプローバー及びLCRメーター(HP社、4275A)により測定した。その結果、フラットバンド電圧(Vfb)が理想値の−0.81Vから、−0.30Vにシフトしたことが判明した。このシフト量から、パッシベーション材料(d2−1)から得たパッシベーション膜は、固定電荷密度(Nf)が−6.2×1010cm−2で負の固定電荷を示すことがわかった。
上記と同様に、パッシベーション材料(d2−1)を8インチのp型のシリコン基板の両面に塗布し、プリベークして、窒素雰囲気下で、600℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、シリコン基板の両面がパッシベーション膜で覆われたサンプルを作製した。このサンプルのキャリアライフタイムをライフタイム測定装置((株)コベルコ科研、RTA−540)により行った。その結果、キャリアライフタイムは610μsであった。比較のために、同じ8インチのp型のシリコン基板をヨウ素パッシベーション法によりパッシベーションして測定したところ、キャリアライフタイムは、1100μsであった。
以上のことから、パッシベーション材料(d2−1)を熱処理して得られるパッシベーション膜は、ある程度のパッシベーション性能を示し、負の固定電荷を示すことがわかった。
[参考実施例2−7]
熱処理(焼成)により酸化タンタル(Ta2O5)が得られる化合物として、市販のタンタル(V)メトキシド(構造式:Ta(OCH3)5、分子量:336.12)1.18g(0.005mol)と、熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる化合物として、市販のアルミニウムトリイソプロポキシド(構造式:Al(OCH(CH3)2)3、分子量:204.25)を1.02g(0.005mol)と、ノボラック樹脂10gとを、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート10gとシクロヘキサン10gの混合物に溶解して、パッシベーション材料(d2−2)を調製した。
パッシベーション材料(d2−2)を、濃度0.49質量%のフッ酸で自然酸化膜をあらかじめ除去した725μm厚で8インチのp型のシリコン基板(8Ω・cm〜12Ω・cm)の片面に回転塗布し、ホットプレート上において120℃、3分間のプリベークをした。その後、窒素雰囲気下で、650℃、1時間の加熱を行い、酸化アルミニウム及び酸化タンタルを含むパッシベーション膜を得た。エリプソメーターにより膜厚を測定したところ、18nmであった。元素分析の結果、Ta/Al/C=72/20/8(wt%)であることがわかった。パッシベーション膜のFT−IRを測定したところ、1200cm−1付近に、ごくわずかのアルキル基に起因するピークが見られた。
次に、上記のパッシベーション膜上に、メタルマスクを介して、直径1mmのアルミ電極を複数個蒸着により形成し、MIS(metal-insulator-semiconductor;金属−絶縁体−半導体)構造のキャパシタを作製した。このキャパシタの静電容量の電圧依存性(C−V特性)を市販のプローバー及びLCRメーター(HP社、4275A)により測定した。その結果、フラットバンド電圧(Vfb)が理想値の−0.81Vから、−0.43Vにシフトしたことが判明した。このシフト量から、パッシベーション材料(d−2)から得たパッシベーション膜は、固定電荷密度(Nf)が−5.5×1010cm−2で負の固定電荷を示すことがわかった。
上記と同様に、パッシベーション材料(d2−2)を8インチのp型のシリコン基板の両面に塗布し、プリベークして、窒素雰囲気下で、600℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、シリコン基板の両面がパッシベーション膜で覆われたサンプルを作製した。このサンプルのキャリアライフタイムをライフタイム測定装置((株)コベルコ科研、RTA−540)により行った。その結果、キャリアライフタイムは250μsであった。比較のために、同じ8インチのp型のシリコン基板をヨウ素パッシベーション法によりパッシベーションして測定したところ、キャリアライフタイムは、1100μsであった。
以上のことから、パッシベーション材料(d2−2)を熱処理(焼成)して得たパッシベーション膜は、ある程度のパッシベーション性能を示し、負の固定電荷を示すことがわかった。
<2種以上のバナジウム族元素の酸化物を使用した場合>
[参考実施例2−8]
熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、SYM−AL04、濃度2.3質量%]、熱処理(焼成)により酸化バナジウム(V2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、V−02、濃度2質量%]、及び熱処理(焼成)により酸化タンタル(Ta2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、Ta−10−P、濃度10質量%]を混合して、塗布型材料であるパッシベーション材料(e2−1)を調製した(表8参照)。
熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所SYM−AL04、濃度2.3質量%]、熱処理(焼成)により酸化バナジウム(V2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所V−02、濃度2質量%]、及び熱処理(焼成)により酸化ニオブ(Nb2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、Nb−05、濃度5質量%]を混合して、塗布型材料であるパッシベーション材料(e2−2)を調製した(表8参照)。
熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所SYM−AL04、濃度2.3質量%]、熱処理(焼成)により酸化タンタル(Ta2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所Ta−10−P、濃度10質量%]、及び熱処理(焼成)により酸化ニオブ(Nb2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所Nb−05、濃度5質量%]を混合して、塗布型材料であるパッシベーション材料(e2−3)を調製した(表8参照)。
熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所SYM−AL04、濃度2.3質量%]、熱処理(焼成)により酸化バナジウム(V2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所V−02、濃度2質量%]、熱処理(焼成)により酸化タンタル(Ta2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所Ta−10−P、濃度10質量%]、及び熱処理(焼成)により酸化ニオブ(Nb2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所Nb−05、濃度5質量%]を混合して、塗布型材料であるパッシベーション材料(e2−4)を調製した(表8参照)。
パッシベーション材料(e2−1)〜(e2−4)のそれぞれを、参考実施例2−1と同様に、濃度0.49質量%のフッ酸で自然酸化膜をあらかじめ除去した725μm厚で8インチのp型のシリコン基板(8Ω・cm〜12Ω・cm)の片面に回転塗布し、ホットプレート上に置いて120℃、3分間のプリベークをした。その後、窒素雰囲気下で、650℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、酸化アルミニウムと2種以上のバナジウム族元素の酸化物を含むパッシベーション膜を得た。
上記で得られたパッシベーション膜を用いて、静電容量の電圧依存性を測定し、そこから固定電荷密度を算出した。
次いで、パッシベーション材料(e2−1)〜(e2−4)のそれぞれを8インチのp型のシリコン基板の両面に塗布し、プリベークして、窒素雰囲気下で、650℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、シリコン基板の両面がパッシベーション膜で覆われたサンプルを作製した。このサンプルのキャリアライフタイムをライフタイム測定装置((株)コベルコ科研、RTA−540)により行った。
得られた結果を表8にまとめた。
熱処理(焼成)後の2種以上のバナジウム族元素の酸化物と酸化アルミニウムの比率(質量比)により、異なる結果ではあるが、パッシベーション材料(e2−1)〜(e2−4)を用いたパッシベーション膜については、熱処理(焼成)後にいずれも負の固定電荷を示し、キャリアライフタイムもある程度の値を示していることから、パッシベーション膜として機能することが示唆された。
[参考実施例2−9]
参考実施例2−1と同様に、熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、SYM−AL04、濃度2.3質量%]と、熱処理(焼成)により酸化バナジウム(V2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、V−02、濃度2質量%]、又は熱処理(焼成)により酸化タンタル(Ta2O5)が得られる市販の有機金属薄膜塗布型材料[(株)高純度化学研究所、Ta−10−P、濃度10質量%]を混合して、塗布型材料であるパッシベーション材料(f2−1)〜(f2−8)を調製した(表9参照)。
また、酸化アルミニウムを単独で用いたパッシベーション材料(f2−9)を調製した(表9参照)。
参考実施例2−1と同様に、パッシベーション材料(f2−1)〜(f2−9)のそれぞれをp型のシリコン基板の片面に塗布し、その後、熱処理(焼成)を行って、パッシベーション膜を作製し、それを用いて、静電容量の電圧依存性を測定し、そこから固定電荷密度を算出した。
更に、参考実施例2−1と同様に、パッシベーション材料(f2−1)〜(f2−9)のそれぞれをp型のシリコン基板の両面に塗布し、熱処理(焼成)して得られたサンプルを用いて、キャリアライフタイムを測定した。得られた結果を表9にまとめた。
表9に示すように、パッシベーション材料中の酸化アルミニウム/酸化バナジウム又は酸化タンタルが90/10及び80/20の場合には、固定電荷密度の値にばらつきが大きく、負の固定電荷密度を安定的に得ることができなかったが、酸化アルミニウムと酸化ニオブを用いることで負の固定電荷密度を実現できることが確認できた。酸化アルミニウム/酸化バナジウム又は酸化タンタルが90/10及び80/20のパッシベーション材料を用いてCV法により測定した際には、場合によって正の固定電荷を示すパッシベーション膜となるため、負の固定電荷を安定的に示すまでには至っていないことが判る。なお、正の固定電荷を示すパッシベーション膜は、n型のシリコン基板のパッシベーション膜として使用可能である。一方、酸化アルミニウムが100質量%となるパッシベーション材料(f2−9)では、負の固定電荷密度を得ることができなかった。
[参考実施例2−10]
シリコン基板101として、ボロンをドーパントとした単結晶シリコン基板を用いて、図7に示す構造の太陽電池素子を作製した。シリコン基板101の表面をテクスチャー処理した後、塗布型のリン拡散材を受光面側のみに塗布し、熱処理により拡散層102(リン拡散層)を形成した。その後、塗布型のリン拡散材を希フッ酸で除去した。
次に、受光面側に、受光面反射防止膜103として、プラズマCVDでSiN膜を形成した。その後、参考実施例2−1で調製したパッシベーション材料(a2−1)を、インクジェット法により、シリコン基板101の裏面側に、コンタクト領域(開口部OA)を除いた領域に塗布した。その後、熱処理を行って、開口部OAを有するパッシベーション膜107を形成した。また、パッシベーション膜107として、参考実施例2−5で調製したパッシベーション材料(c2−1)を用いたサンプルも別途作製した。
次に、シリコン基板101の受光面側に形成された受光面反射防止膜103(SiN膜)の上に、銀を主成分とするペーストを所定のフィンガー電極及びバスバー電極の形状でスクリーン印刷した。裏面側においては、アルミニウムを主成分とするペーストを全面にスクリーン印刷した。その後、850℃で熱処理(ファイアスルー)を行って、電極(第1電極105及び第2電極106)を形成し、且つ裏面の開口部OAの部分にアルミニウムを拡散させて、BSF層104を形成して、図7に示す構造の太陽電池素子を形成した。
尚、ここでは、受光面の銀電極の形成に関しては、SiN膜に穴あけをしないファイアスルー工程を記載したが、SiN膜に初めに開口部OAをエッチング等により形成し、その後に銀電極を形成することもできる。
比較のために、上記作製工程のうち、パッシベーション膜107の形成を行わず、裏面側の全面にアルミニウムペーストを印刷し、BSF層104と対応するp+層114及び第2電極と対応する電極116を全面に形成して、図4の構造の太陽電池素子を形成した。これらの太陽電池素子について、特性評価(短絡電流、開放電圧、曲線因子及び変換効率)を行った。特性評価は、JIS−C−8913(2005年度)及びJIS−C−8914(2005年度)に準拠して測定した。その結果を表10に示す。
表10より、パッシベーション膜107を有する太陽電池素子は、パッシベーション膜107を有しない太陽電子素子と比較すると、短絡電流及び開放電圧が共に増加しており、変換効率(光電変換効率)が最大で0.6%向上することが判明した。
日本国特許出願第2012−160336号、第2012−218389号、第2013−011934号、第2013−040153号及び第2013−103571号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
式(I)化合物がキレート構造を有する場合、キレート構造の数は1〜5であれば特に制限されない。キレート構造に寄与するカルボニル基数には特に制限はないが、MがNbである場合にはキレート構造に寄与するカルボニル基数が1〜5であることが好ましく、MがTaである場合にはキレート構造に寄与するカルボニル基数が1〜5であることが好ましく、MがVOである場合にはキレート構造に寄与するカルボニル基数が1〜3であることが好ましく、MがYである場合にはキレート構造に寄与するカルボニル基数が1〜3であることが好ましく、MがHfである場合にはキレート構造に寄与するカルボニル基数が1〜4であることが好ましい。
特定有機アルミニウム化合物は、アルミニウムアルコキシド、アルミニウムキレート等と呼ばれる化合物を包含し、アルミニウムアルコキシド構造に加えてアルミニウムキレート構造を有していることが好ましい。また、Nippon Seramikkusu Kyokai Gakujutsu Ronbunshi, vol.97, pp369-399(1989)にも記載されているように、有機アルミニウム化合物は熱処理(焼成)により酸化アルミニウム(Al2O3)となる。このとき、形成された酸化アルミニウムはアモルファス状態となりやすいため、より大きな負の固定電荷を得ることができる。結果として優れたパッシベーション効果を有するパッシベーション層を形成することができるものと考えられる。
また一般式(II)においてnが1〜3である特定有機アルミニウム化合物として具体的には、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート〔(エチルアセトアセタト)アルミニウムイソプロポキシド〕、トリス(エチルアセトアセタト)アルミニウム等を挙げることができる。
一般式(III)で表される化合物がガラス転移温度を有する場合、そのガラス転移温度は特に制限されず、−100℃〜100℃の範囲であることが好ましく、−50℃〜25℃の範囲であることがより好ましい。
尚、本発明において一般式(III)で表される化合物のガラス転移温度は、示差熱分析装置を用いて測定した、示差走査熱量測定(DSC、Differential scanning calorimetry)曲線の変異点を調べることで測定できる。
一般式(III)で表される化合物が融点を有する場合、その融点は特に制限されず、20℃〜200℃の範囲であることが好ましく、40℃〜100℃の範囲であることがより好ましい。
尚、本発明において一般式(III)で表される化合物の融点は、示差熱分析装置を用いて測定した、融解ピークを調べることで測定できる。
特定化合物としてポリアルキレングリコール化合物及び脂肪酸アミドからなる群から選択される少なくとも1種を用いる場合、好適な化合物としては、印刷性と分散媒への溶解性の観点から、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ステアリン酸アミド、N,N’−メチレンビスステアリン酸アミド及びステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミドから選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、ポリエチレングリコール及びステアリン酸アミドから選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
その後、拡散層102の上に、受光面反射防止膜103である窒化ケイ素膜を形成する。受光面反射防止膜103を形成する方法は特に制限されない。受光面反射防止膜103は、厚さが50〜100nmの範囲、屈折率が1.9〜2.2の範囲となるように形成することが好ましい。受光面反射防止膜103は、窒化ケイ素膜に限られず、酸化ケイ素膜、酸化アルミニウム膜、酸化チタン膜等であってもよい。窒化ケイ素膜等の受光面反射防止膜103は、プラズマCVD、熱CVD等の方法で作製でき、350℃〜500℃の温度範囲で形成可能なプラズマCVDで作製することが好ましい。
熱処理(焼成)後の酸化ニオブ/酸化アルミニウムの比率(質量比)により、異なる結果ではあるが、パッシベーション材料(a−2)〜(a−7)については、熱処理(焼成)後にキャリアライフタイムもある程度の値を示していることから、パッシベーション膜として機能することが示唆された。パッシベーション材料(a−2)〜(a−7)から得られるパッシベーション膜は、いずれも安定的に負の固定電荷を示し、p型のシリコン基板のパッシベーション膜としても好適に用いることができることが分かった。
上記と同様に、パッシベーション材料(c−2)を8インチのp型のシリコン基板の両面に付与し、プリベークして、窒素雰囲気下で、600℃、1時間の熱処理(焼成)を行い、シリコン基板の両面がパッシベーション膜で覆われたサンプルを作製した。このサンプルのキャリアライフタイムをライフタイム測定装置(株式会社コベルコ科研、RTA−540)により行った。その結果、キャリアライフタイムは200μsであった。比較のために、同じ8インチのp型のシリコン基板をヨウ素パッシベーション法によりパッシベーションして測定したところ、キャリアライフタイムは、1100μsであった。
パッシベーション材料(b−1)〜(b−6)から得られるパッシベーション膜は、キャリアライフタイムがいずれも大きくパッシベーションとしての機能があることがわかった。また、酸化ニオブ/酸化アルミニウムが10/90及び20/80の場合には、固定電荷密度の値にばらつきが大きく、負の固定電荷密度を安定的に得ることができなかったが、酸化アルミニウムと酸化ニオブを用いることで負の固定電荷密度を実現できることが確認できた。酸化ニオブ/酸化アルミニウムが10/90及び20/80のパッシベーション材料を用いてCV法により測定した際には、場合によって正の固定電荷を示すパッシベーション膜となるため、負の固定電荷を安定的に示すまでには至っていないことが分かる。なお、正に固定電荷を示すパッシベーション膜は、n型のシリコン基板のパッシベーション膜として使用可能である。
一方、酸化アルミニウムが100質量%となるパッシベーション材料(b−7)では、負の固定電荷密度を得ることができなかった。
熱処理(焼成)後の酸化バナジウム/酸化アルミニウムの比率(質量比)により、異なる結果ではあるが、パッシベーション材料(a2−2)〜(a2−7)については、熱処理(焼成)後にいずれも負の固定電荷を示し、キャリアライフタイムもある程度の値を示していることから、パッシベーション膜として機能することが示唆された。パッシベーション材料(a2−2)〜(a2−7)から得られるパッシベーション膜は、いずれも安定的に負の固定電荷を示し、p型のシリコン基板のパッシベーション膜としても好適に用いることができることが分かった。