RNAの抽出方法及び RNAの検出方法
技術分野
[0001] 本発明は、試料等の中に存在する RNA分解酵素を失活させる方法、当該試料の中 に存在する RNA包含体 (細胞、真菌、細菌、ウィルス等)から、或いは、当該試料から 分離した RNA包含体から、 RNAを簡易かつ安定的に抽出する方法、当該 RNAを検出 する方法、及びそれら方法に用いる試薬に関する。本発明は、 RNA増幅法、特に、 逆 与一ポリ フ ~~セ連鎖 i¾J'i (Reverse Transcription - Polymerase Chain Reaction :以下 RT— PCRと略す)法による RNA増幅法に関する。
背景技術
[0002] 分子生物学的な解析に用いる RNAを調製するためには、 RNA分解酵素 (RNase)の 作用しない環境下で RNAを調製する必要がある。通常、被験物から細胞、真菌、細 菌、ウィルス等(以下、 RNA包含体と総称する。)を分離回収し、その後、その RNA包 含体内部から RNAを抽出し、抽出した RNAを精製する過程が必要となる。しかしなが ら、 RNaseは偏在し、その上不活性化がきわめて困難な物質である。このため、生体 等試料中の RNA包含体力ゝら RNAを精製する際には、 RNA包含体内部からの RNAの 抽出過程における RNase制御 (活性の抑制)と RNase除去とを行わなければならず、き わめて厳格かつ煩雑な方法が必要であった。そこで、この過程を行う方法として、従 来から、酵素、界面活性剤、カオトロピック剤等により生体試料を処理し、その後、フ ェノールある 、はフエノール ·クロ口ホルム等を用いて、 RNAを抽出及び精製する方法 が使用されている。最近では、 RNA抽出及び精製の過程において、イオン交換榭脂 、ガラスフィルター、ガラスビーズ、磁気ビーズあるいはタンパク凝集作用を有する試 薬等が使用される方法も報告されている。 RNAの抽出及び精製法は、 Chomczynski & Sacchi (1987) Analytical Biochemistry, 162: 156- 159. (アシッド'グァ-ジゥム 'チォ ンァ不 ~~トーフエノ
1 ~~ノレ一クロロホノレム抽出 (acid guanidinium thiocyanate— phenol— ch loroform extraction)法:
Molecularし loning: A Laboratory Manual Thir d Edition (2001) Joseph. Sambrook, David W. Russellなどに記載されている。
[0003] RT— PCR法は、逆転写酵素 (Reverse Transcriptase)を用いて RNAを相補的な D NA(cDNA)に転換した後に、 PCR法で cDNAを増幅する方法である。 RT— PCR 法は、微量の RNAでも定量的に解析できるため、今日最も検出感度の高い定量性 に優れた解析法の 1つとして用いられている。例えば、 RNAを遺伝子として保有して いるウィルスの検出、 mRNAの定量的検出、 mRN Aの塩基配列決定による発現遺 伝子の解析、さらには cDNAのクローユングによる発現産物の解析及び生産等には 欠かせな 、技術になって!/、る。
[0004] RT—PCR法において、 RT反応に引き続き行う PCR法は、 DNA鎖中の特定領域 を挟んだプライマー間の DNA合成反応を繰り返すことによって目的の DNA断片を 数十万倍にも増幅できる方法である。 PCR法はマリス氏らの発明である特開昭 61— 274697号公報【こ述べられて!/、る。
し力し前記の方法をはじめとした RNA増幅法は全て酵素反応をベースとして 、る ため、生体試料中に存在する色素、タンパク、糖類あるいは未知の夾雑物によって 反応が強く阻害されることが広く知られている。
[0005] さらに、 RNAは、全ての生体試料中に普遍的に存在する RNA分解酵素 (RNase)によ り容易に分解される。
[0006] そこで、上述したように、前記の RNA増幅に先立って、被験物から細胞、真菌、細 菌、ウィルス等(以下、 RNA包含体と称する)を分離後、その RNA包含体から RNA を抽出精製する過程が必要となる。例えば、米国特許第 6825340号明細書や米国 特許第 6777210号明細書〖こは、還元剤の存在下、加熱処理を行うことで、 RNaseの 失活、並びに、 PBSで洗浄後の培養細胞からの RNA抽出と RT-PCRとが開示されて いる。
一方で、特開 2001— 29078号公報〖こは、 RNA包含体を含む試料からの、直接 RT -PCRが開示されている。
[0007] RNA増幅を伴わないウィルス検出技術に関しては、特開 2004— 301684号公報 に、アルカリ性緩衝剤を用いたノロウィルス検体用希釈液、及び当該希釈液を用いた 、抗原抗体反応〖こよるノロウィルス検出が開示されて 、る。
非特許文献 1:チヨムチンスキ(Chomczynski)及びサチ(Sacchi)、「アナリティカル ·バ
ィォケミストリー(Analytical Biochemistry)」、 1987年、第 162卷、 p. 156— 159 非特許文献 2:ジヨセフ ·サンブルック(Joseph. Sambrook)及びデビッド · W ·ラッセノレ ( David W. Russell)、「分子クロー-ング:実験室マニュアル第 3版(Molecular Cloning: A Laboratory Manual Third Edition)」 2001年
特許文献 1:特開昭 61— 274697号公報
特許文献 2 :米国特許第 6825340号明細書
特許文献 3 :米国特許第 6777210号明細書
特許文献 4:特開 2001— 29078号公報
特許文献 5:特開 2004— 301684号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0008] RNAは、生体内はもちろんのこと、その生体が存在するあらゆる環境中に普遍的に 存在している RNaseによる分解の危険性に常にさらされている。従って、 RNA包含体 内部からの RNA抽出の際に、迅速な RNase不活性ィ匕の処理を行うべきことはもちろん のこと、精製過程においても、精製後においても、 RNaseが混入しないような厳重な操 作や管理が要求される。
[0009] しかし、従来の方法を用いて試料中の RNAの精製を行っても、夾雑物の除去が困 難な場合や試料中の RNAの回収量が一定しない場合も多い。とりわけ試料中の目的 とする RNAの含量が少ない場合には、引き続く RNA解析が困難な場合もある。また、 これら精製法は、操作が煩雑で時間を要し、操作中のコンタミネーシヨンの機会が高 い。これらの理由により、従来の精製法は熟練を要する。従って、これらの問題点を 解決するためには、より簡便で、かつ効果的な試料前処理法が望まれていた。
[0010] 本発明の目的は、生体試料、排泄物試料、環境試料等の試料、もしくは、そこから RNA包含体の分離等を行って得た生体由来試料、排泄物由来試料、環境由来試料 等の試料、の中に普遍的に存在する RNaseを失活させる方法を提供することにある。 本発明の目的は、生体試料、排泄物試料、環境試料等の試料、もしくは、そこから RNA包含体の分離等を行って得た生体由来試料、排泄物由来試料、環境由来試料 等の試料、の中に存在する RNA包含体から RNAを効率よく抽出する方法を提供する
ことにある。
本発明の目的は、該試料力 RNAを効率よく抽出することにより、さらには、核酸合 成反応に対する阻害物質の作用を抑制して、該試料中の RNAを効率よく増幅させ ることにより、簡便、迅速且つ安定的に、試料中に存在する RNAを検出する方法を提 供することにある。
本発明の目的は、これらの方法に用いることができる処理試薬を提供することにあ る。
課題を解決するための手段
[0011] 本発明者らは、鋭意検討の結果、生体試料中の RNaseの失活と RNA包含体内部か らの RNAの抽出とを一工程で行い、引き続き RNA増幅を行うことによって、上記本発 明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
[0012] < RNA分解酵素失活方法 >
下記は、 RNA分解酵素 (RNase)の失活方法に関する。下記の RNA分解酵素失活 方法は、 RNA分解酵素が含まれる試料に対し、少なくとも還元剤を含むアルカリ性処 理試薬を用いて、加熱条件下において、前記 RNA分解酵素の失活を行う、 RNA分解 酵素の失活方法である。
[0013] RNA分解酵素が含まれる試料と、少なくとも還元剤を含むアルカリ性処理試薬 (trea ting reagent)との混合物であって、 pHが 8. 1以上の混合物を、加熱条件下において 得る工程と、
前記混合物を前記加熱条件下で維持することによって、前記 RNA分解酵素の失活 を行う工程とを含む、 RNA分解酵素の失活方法。
[0014] 上記処理試薬のアルカリ性の程度は、試料と混合されて混合物となった際に混合 物の pHが 8. 1以上(25°Cの場合)となる程度である。 30°C以上の加熱条件下にお
V、て前記処理試薬を用いる、前記の RNA分解酵素の失活方法。
[0015] 前記処理試薬は、 Tris緩衝液、 Good緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、及び炭酸塩緩衝液 力もなる群力も選ばれるアルカリバッファを含む、前記の RNA分解酵素の失活方法。
[0016] 前記処理試薬は、水酸化物、アンモニア、及びアミンカ なる群力 選ばれるアル カリ物質を含む、前記の RNA分解酵素の失活方法。
[0017] 前記水酸化物が、水酸ィ匕ナトリウム及び/又は水酸ィ匕カリウムである、前記の RNA分 解酵素の失活方法。
前記アルカリ物質が、 0. ImM〜飽和濃度で前記処理試薬に含まれる、前記の RN A分解酵素の失活方法。
前記アルカリ物質として水酸ィ匕ナトリウム及び/又は水酸ィ匕カリウム力 ImM〜: LOO mMで前記処理試薬に含まれる、前記の RNA分解酵素の失活方法。
[0018] 前記還元剤がチオール型還元剤である、前記の RNA分解酵素の失活方法。
ここで、チオール型還元剤とは、チオール基を有する還元剤の総称である。
前記チオール型還元剤力 ジチオスレィトール及びメルカプトエタノール力 なる群 から選ばれる、前記の RNA分解酵素の失活方法。
前記還元剤が、 0. ImM〜飽和濃度で前記処理試薬に含まれる、前記の RNA分 解酵素の失活方法。
前記還元剤としてジチオスレィトールが、 ImM〜: LOOmMで前記処理試薬に含ま れる、前記の RNA分解酵素の失活方法。
[0019] 前記試料が、生体試料、生体由来試料、環境試料、及び環境由来試料からなる群 から選ばれる、前記の RNA分解酵素の失活方法。
[0020] 前記試料が、排泄物試料及び排泄物由来試料からなる群から選ばれる、前記の R
NA分解酵素の失活方法。
[0021] 前記 RNA包含体は、細胞、真菌、細菌、及び RNAウィルス力 なる群力 選ばれ る、前記の RNA分解酵素の失活方法。
[0022] 前記 RNAウィルスは、レトロウイルス、ノロウィルス (SRSV)、ロタウィルス、及び C型 肝炎ウィルス (HCV)カゝらなる群カゝら選ばれる、前記に記載の RNA分解酵素の失活方 法。
[0023] 前記 RNAウィルスがレトロウイルスである場合、前記レトロウイルスはエイズウイルス
(HIV)である、前記の RNA分解酵素の失活方法。
[0024] 前記 RNAが mRNAである、前記の RNA分解酵素の失活方法。
[0025] RNA分解酵素が含まれる試料を、少なくとも還元剤を含む溶液中に混在させるェ 程と、前記試料と前記還元剤との混合液を、 25°Cにおける pHが 8. 1以上となるよう
に調整する工程と、
pH調整された前記混合液を加熱条件下に供することによって、前記 RNA分解酵 素の失活を行う工程とを含む、 RNA分解酵素の失活方法。
[0026] すなわち、上記の方法における RNA分解酵素の失活は、試料を還元剤が存在する pH8. 1以上のアルカリ性環境に供することによって行われる。
[0027] < RNA抽出方法 >
下記(1)〜(11)は、 RNAの抽出方法に関する。すなわち本発明の抽出方法は、 R NA包含体及び RNA分解酵素が含まれる試料に対し、少なくとも還元剤を含むアル力 リ性処理試薬を用いて、加熱条件下において、前記 RNA分解酵素の失活と前記 RN A包含体からの RNAの抽出とを行う、 RNAの抽出方法である。
なお、本発明の方法において、 RNA包含体内部からの RNAの抽出とは、 RNA包含 体の膜構造を破壊することによって膜構造中に包含されていた RNAを抽出し、膜外 の環境へ露出させることとして定義する。そして、露出した RNAや、露出した RNAがさ らされている外部環境に対して何らかの処理を行うことは、本発明における抽出の定 義に含めない。
[0028] (1) RNA包含体及び RNA分解酵素が含まれる試料と、少なくとも還元剤を含むアル カリ性処理試薬 (treating reagent)との混合物であって、 pHが 8. 1以上の混合物を、 加熱条件下において得る工程と、
前記混合物を前記加熱条件下で維持することによって、前記 RNA分解酵素の失活 と RNA包含体からの RNA抽出とを行う工程とを含む、 RNAの抽出方法。
[0029] 上記処理試薬のアルカリ性の程度は、試料と混合されて混合物となった際に混合 物の pHが 8. 1以上(25°Cの場合)となる程度である。
[0030] 前記加熱条件は 30°C以上である、前記の RNA抽出方法。
[0031] (2)前記処理試薬は、 Tris緩衝液、 Good緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、及び炭酸塩緩 衝液カもなる群力も選ばれるアルカリバッファを含む、(1)に記載の RNA抽出方法。
[0032] (3)前記処理試薬は、水酸化物、アンモニア、及びアミンカ なる群力 選ばれるァ ルカリ物質を含む、(1)又は(2)に記載の RNAの抽出方法。
[0033] 前記水酸化物が、水酸ィ匕ナトリウム及び/又は水酸ィ匕カリウムである、前記の RNAの
抽出方法。
前記アルカリ物質が、 0. ImM〜飽和濃度で前記処理試薬に含まれる、前記の RN Aの抽出方法。
前記アルカリ物質として水酸ィ匕ナトリウム及び/又は水酸ィ匕カリウム力 ImM〜: LOO mMで前記処理試薬に含まれる、前記の RNAの抽出方法。
[0034] (4)前記還元剤がチオール型還元剤である、(1)〜(3)のいずれかに記載の RNA の抽出方法。
[0035] ここで、チオール型還元剤とは、チオール基を有する還元剤の総称である。
前記チオール型還元剤力 ジチオスレィトール及びメルカプトエタノール力 なる群 力 選ばれる、前記の RNAの抽出方法。
前記還元剤が、 0. ImM〜飽和濃度で前記処理試薬に含まれる、前記の RNAの 抽出方法。
前記還元剤としてジチオスレィトールが、 ImM〜: LOOmMで前記処理試薬に含ま れる、前記のいずれかに記載の RNAの抽出方法。
[0036] (5)前記試料が、生体試料、生体由来試料、環境試料、及び環境由来試料からな る群力 選ばれる、 (1)〜(4)の 、ずれかに記載の RNAの抽出方法。
[0037] (6)前記試料が、排泄物試料及び排泄物由来試料カゝらなる群カゝら選ばれる、 (1)
〜(5)のいずれかに記載の RNAの抽出方法。
[0038] (7)前記 RNA包含体は、細胞、真菌、細菌、及び RNAウィルス力 なる群力 選 ばれる、(1)〜(6)のいずれかに記載の RNAの抽出方法。
[0039] (8)前記 RNAウィルスは、レトロウイルス、ノロウィルス(SRSV)、ロタウィルス、及び
C型肝炎ウィルス (HCV)力 なる群力 選ばれる、 (7)に記載の RNAの抽出方法。
[0040] (9)前記 RNAウィルスがレトロウイルスである場合、前記レトロウイルスはエイズウイ ルス (HIV)である、(8)に記載の RNAの抽出方法。
[0041] (10)前記 RNAが mRNAである、(1)〜(9)のいずれかに記載の RNAの抽出方法
[0042] (11) RNA包含体及び RNA分解酵素が含まれる試料を、少なくとも還元剤を含む溶 液中に混在させる工程と、前記試料と前記還元剤との混合液を、 25°Cにおける pH
が 8. 1以上となるように調整する工程と、
pH調整された前記混合液を加熱条件下に供することによって、前記 RNA分解酵素 の失活と前記 RNA包含体力ゝらの RNAの抽出とを行う工程とを含む、 RNA抽出方法。 すなわち、上記(1)〜(10)における RNA分解酵素の失活及び RNA抽出は、試料を 還元剤が存在する pH8. 1以上のアルカリ性環境に供することによって行われる。
[0043] < RNA検出方法 >
下記(12)〜(22)は、 RNA検出方法に関する。本発明の RNA検出方法は、 RNA 包含体及び RNA分解酵素(RNase)が含まれる試料に対し、少なくとも還元剤を含む アルカリ性処理試薬を用いて、加熱条件下において、前記 RNA分解酵素の失活と前 記 RNA包含体内部力ゝらの RNAの抽出とを行い、試料処理液を得て、前記試料処理 液と増幅用反応液とを混合して RNA増幅反応を行う、 RNA検出方法である。
ここで、 RNA包含体内部からの RNAの抽出とは、 RNA包含体の膜構造を破壊するこ とによって膜構造中に包含されて 、た RNAを取り出し、膜外の環境へ露出させること として定義する。そして、露出した RNAや露出した RNAがさらされている外部環境に 対して何らかの処理を行うことは、本発明における抽出の定義に含めない。
[0044] ( 12) RNA包含体及び RNA分解酵素が含まれる試料と、少なくとも還元剤を含むァ ルカリ性処理試薬 (treating reagent)との混合物であって、 pHが 8. 1以上の混合物 を、加熱条件下において得る工程と、
前記混合物を前記加熱条件下で維持することによって、前記 RNA分解酵素の失活 と RNA包含体からの RNA抽出とを行 ヽ、抽出された RNAを含む試料処理液 (treated sample liquid) 得る工程と、
前記試料処理液と増幅用反応液とを混合して RNA増幅反応を行う、 RNA検出方法
[0045] 上記処理試薬のアルカリ性の程度は、試料と混合されて混合物となった際に混合 物の pHが 8. 1以上(25°Cの場合)となるものである。
[0046] 前記加熱条件は 30°C以上である、前記の RNA検出方法。
[0047] ( 13)前記処理試薬は、 Tris緩衝液、 Good緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、及び炭酸塩 緩衝液力もなる群力も選ばれるアルカリバッファを含む、(12)に記載の RNA検出方
法。
[0048] (14)前記処理試薬は、水酸化物、アンモニア、及びアミンカ なる群力 選ばれる アルカリ物質を含む、(12)又は(13)に記載の RNA検出方法。
[0049] 前記水酸化物が、水酸ィ匕ナトリウム及び/又は水酸ィ匕カリウムである、前記の RNA検 出方法。
前記アルカリ物質が、 0. ImM〜飽和濃度で前記処理試薬に含まれる、前記の RN A検出方法。
前記アルカリ物質として水酸ィ匕ナトリウム及び/又は水酸ィ匕カリウム力 ImM〜: LOO mMで前記処理試薬に含まれる、前記の RNA検出方法。
[0050] (15)前記還元剤がチオール型還元剤である、(12)〜( 14)のいずれかに記載の R NA検出方法。
[0051] ここで、チオール型還元剤は、チオール基を有する還元剤の総称である。
前記チオール型還元剤力 ジチオスレィトール及びメルカプトエタノール力 なる群 カゝら選ばれる、前記の RNA検出方法。
前記還元剤が、 0. ImM〜飽和濃度で前記処理試薬に含まれる、前記の RNA検 出方法。
前記還元剤としてジチオスレィトールが、 ImM〜: LOOmMで前記処理試薬に含ま れる、前記の RNA検出方法。
[0052] (16)前記試料が、生体試料、生体由来試料、環境試料、及び環境由来試料から なる群力も選ばれる、(12)〜(15)のいずれかに記載の RNA検出方法。
[0053] (17)前記試料が、排泄物試料及び排泄物由来試料カゝらなる群カゝら選ばれる、 (12
;)〜(16)の 、ずれかに記載の RNA検出方法。
[0054] (18)前記 RNA包含体は、細胞、真菌、細菌、及び RNAウィルス力 なる群力 選 ばれる、(12)〜(17)のいずれかに記載の RNA検出方法。
[0055] (19)前記 RNAウィルスは、レトロウイルス、ノロウィルス(SRSV)、ロタウィルス、及び
C型肝炎ウィルス (HCV)力 なる群力 選ばれる、 (18)に記載の RNA検出方法。
[0056] (20)前記 RNAウィルスがレトロウイルスである場合、前記レトロウイルスはエイズゥ ィルス (HIV)である、 (19)に記載の RNA検出方法。
[0057] (21)前記 RNAが mRNAである、(12)〜(20)のいずれかに記載の RNA検出方法
[0058] 前記試料処理液と前記増幅用反応液との混合液が、硫酸化多糖、ポリアミン、アル ブミン、及び非イオン性界面活性剤力もなる群力も選ばれる添加物をさらに含む、前 記の RNA検出方法。
[0059] 前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート及びポリ ォキシエチレンォクチルフエ-ルエーテルからなる群から選ばれる、前記の RNA検 出方法。
[0060] 前記処理試薬が、さらに硫酸ィ匕多糖を含む、前記の RNA検出方法。
[0061] (22) RNA包含体及び RNA分解酵素が含まれる試料を、少なくとも還元剤を含む溶 液中に混在させる工程と、
前記試料と前記還元剤との混合液を、 25°Cにおける pHが 8. 1以上となるように調 整する工程と、
pH調整された前記混合液を加熱条件下に供することによって、前記 RNA分解酵素 の失活と前記 RNA包含体からの RNAの抽出とを行!、、抽出された RNAを含む試料処 理液を得る工程と、
前記試料処理液と増幅用反応液とを混合して RNA増幅反応を行う工程とを含む、 R NA検出方法。
[0062] すなわち、上記(12)〜(21)の方法における RNA分解酵素の失活及び RNA抽出は 、試料を還元剤が存在する pH8. 1以上のアルカリ性環境に供することによって行わ れる。
[0063] <処理試薬 >
下記は、 RNA分解酵素を含む試料に対する処理試薬に関する。
[0064] 少なくとも、アルカリ物質及び/又はアルカリバッファと還元剤とを含む、 RNA分解酵 素を含む試料の処理試薬。
[0065] 前記の RNA分解酵素の失活方法、(1)〜(11)のいずれかに記載の RNAの抽出方 法、又は、(12)〜(22)のいずれかに記載の RNA検出方法に用いるための、少なくと も、アルカリ物質及び/又はアルカリバッファと還元剤とを含む、 RNA分解酵素を含む
試料の処理試薬。
発明の効果
[0066] 本発明によると、生体試料、環境試料等の試料、もしくは、そこから RNA包含体の分 離等を行って得た生体由来試料等の試料、の中に普遍的に存在する RNaseを失活 させる方法を提供することができる。
本発明によると、生体試料、環境試料等の試料、もしくは、そこから RNA包含体の分 離等を行って得た生体由来試料等の試料、の中に存在する RNA包含体から RNAを 効率よく抽出する方法を提供することができる。
本発明によると、該試料中の RNaseの失活と RNA包含体内部からの RNAの抽出とを 一工程で行うことによって、簡便'安定的'効率的且つ迅速に、試料中に存在する RN Aを増幅することが可能となる。そして、核酸合成に対する阻害物質の作用を抑制す ることにより、さらに簡便 ·安定的 ·効率的且つ迅速に、試料中に存在する RNAを増幅 することが可能となる。このことにより、簡便'安定的'効率的且つ迅速に、試料中の R NAを検出する方法を提供することができる。
本発明によると、これらの方法に用いることができる処理試薬を提供することができ る。
図面の簡単な説明
[0067] [図 1]図 1は、本実施例 1で、ヒト血清に RNA包含体を添カ卩した検体について、蒸留水 、又は、組成の異なる 3種の処理試薬を用いて処理を行い、その後 RNA増幅を行うこ とにより RNAを検出した結果を示す電気泳動図である。
[図 2]図 2は、本実施例 2で、実施例 1において蒸留水、又は、組成の異なる 3種の処 理試薬を用いて処理した後の検体を、冷蔵にて 1日保存し、その後 RNA増幅を行うこ とにより RNAを検出した結果を示す電気泳動図である。
[図 3]図 3は、本実施例 3で得られた、加熱処理の温度及び時間と、 RNA検出量との 関係を示したグラフである。
[図 4]図 4は、本実施例 4で得られた、 85°Cでの加熱処理の時間と、 RNA検出量との 関係を示したグラフである。
[図 5]図 5は、本実施例 5で得られた、加熱処理の温度及び時間と、 RNA検出量との
関係を示したグラフである。
[図 6]図 6は、本実施例 8で、ヒト血清に RNA包含体を添カ卩した検体について、組成の 異なる 15種の処理試薬を用いて処理を行い、その後 RNA増幅を行うことにより RNAを 検出した結果を示す電気泳動図である。
[図 7]図 7は、本実施例 9で、ヒト血清に RNA包含体を添加した検体について、実施例 8における処理試薬の 1つを用いた処理を、さまざまな加熱条件下で行い、その後 RN A増幅を行うことにより RNAを検出した結果を示す電気泳動図である。
[図 8]図 8は、本実施例 9で、ヒト血清に RNA包含体を添加した検体について、実施例 8における処理試薬の 1つ〖こさらに EGTAを含ませた処理試薬を用 、た処理を、さま ざまな加熱条件下で行 ヽ、その後 RNA増幅を行うことにより RNAを検出した結果を示 す電気泳動図である。
[図 9]図 9は、実施例 10において、擬似ノロウィルス陽性の糞便試料が混合された糞 便試料液にっ 、て、 NaOHの濃度がそれぞれ異なる組成を有する 8種の処理試薬 を用いた処理を行い、その後 RNA増幅を行うことにより RNAを検出した結果を示す 電気泳動図である。
[図 10]図 10は、実施例 11において、擬似ノロウィルス陽性の糞便試料が混合された 糞便試料液にっ 、て、 DTTの濃度がそれぞれ異なる組成を有する 7種の処理試薬 を用いた処理を行い、その後 RNA増幅を行うことにより RNAを検出した結果を示す 電気泳動図である。
[図 11]図 11は、実施例 12において、ウィルス濃度の異なる感染糞便試料について R NA非精製で実施した RNA検出の結果を示す電気泳動図である。
[図 12]図 12は、実施例 12において、ウィルス濃度の異なるノロウィルス感染糞便試 料について RNAを精製し実施した RNA検出の結果を示す電気泳動図である。
[図 13]図 13は、実施例 13において、ノロウィルスに感染している 18の異なる検体に それぞれ由来するノロウィルス感染糞便試料を用いた RNA検出の結果を示す電気 泳動図である。
[図 14]図 14は、実施例 13において、ノロウィルスに感染していない 10の異なる検体 にそれぞれ由来するノロウィルス非感染糞便試料を用いた RNA検出の結果を示す
電気泳動図である。
[図 15]図 15は、実施例 14において、擬似ノロウィルス陽性の糞便試料が混合された 糞便試料液に対し、処理試薬を用いた処理をさまざまな加熱条件下で行い、その後 RNA増幅を行うことにより RNAを検出した結果を示す電気泳動図である。
[図 16]図 16は、実施例 14において、増幅された RNAをリアルタイム PCRによって定量 した結果を示すグラフである。
[図 17]図 17は、実施例 8における、モデル検体を 15種類の各処理試薬と混合し、熱 処理した後の様子を示す写真である。上の段が、 DTT OmMの処理試薬を用いた結 果であり、左から [1]、 [2]、 [3]、 [4]、 [5]、 [6]、 [7]の処理試薬を用いた結果である。下の 段は、 DTT 20mMの処理試薬を用いた結果であり、左から [8]、 [9]、 [10]、 [11]、 [12]、 [13]、 [14]、 [15]の処理試薬を用いた結果である。
発明を実施するための最良の形態
[0068] 本発明の RNase失活方法及び RNA抽出方法は、アルカリ環境及び還元剤の存在 下で実現される。本発明の RNA検出方法は、試料中の RNase失活及び RNA包含体 内部からの RNA抽出を行う工程と、 RNA増幅反応を行う工程とを含む。
試料中の RNase失活及び RNA包含体内部からの RNA抽出を行う工程により得られ る試料処理液は、 RNA増幅用反応液と直接混合され、 RNA増幅反応に供される。こ のため、 RNAの特別な精製を行うことなぐ試料から直に RNA増幅させることができる
[0069] 1.試料
本発明は、処理対象となる試料として、 RNaseが含まれ得るものであればどのような ものにも適用することができる。このような試料として、生体試料、生体由来試料、環 境試料、環境由来試料、排泄物試料、排泄物由来試料などが挙げられる。
本発明は、処理対象となる試料として、 RNaseにカ卩えて RNA包含体が含まれている ものである場合に、特に有用に適用することができる。このような試料として、生体試 料、生体由来試料、環境試料、環境由来試料、排泄物試料、排泄物由来試料など が挙げられる。この場合、 RNaseの失活と RNA包含体内部からの RNAの抽出とをーェ 程で行うことができる。
[0070] 本発明において、 RNA包含体とは、膜構造に囲まれ且つ内部に RNAを有する構造 体である。具体的には、細胞、真菌、細菌、ウィルス等をいう。細胞には、血液や髄液 等に由来する白血球、口腔粘膜細胞等が含まれる。また、細胞には、食品由来細胞 、体内からの剥離細胞等も含まれる。本発明においてこのような細胞を RNA包含体と する場合、 mRNA等の RNAについて抽出及び検出を行うことができる。ウィルスとして は、 RNAウィルスが挙げられる。 RNAウィルスとしては、レトロウイルス(エイズウイルス( HIV)等)、ノロウィルス(SRSV)、ロタウィルス、 C型肝炎ウィルス (HCV)等が挙げられる
[0071] 生体試料としては、動植物組織や体液等が挙げられる。体液には、血液試料、髄 液、唾液、乳等が含まれる。ここで、血液試料には、全血、血漿、血清等が含まれる。 一方、生体由来試料としては、上記生体試料に対して何らかの処理をしたものが含 まれる。
[0072] 環境試料としては、 RNA包含体を含むものであれば、大気、土壌、水等を含むあら ゆる試料が挙げられる。
一方、環境由来試料としては、上記環境試料に対して何らかの処理をしたものが含 まれる。
[0073] 排泄物には、尿、糞便、吐物等が含まれる。
排泄物試料には、生体カゝら排泄された排泄物そのもの、或いは、排泄物そのものを 、水、生理食塩水、 pH緩衝液等に懸濁させたものが含まれる。前記生体としては、ヒ ト、家畜、昆虫、その他あらゆる動物が挙げられる。
一方、排泄物由来試料には、上記排泄物試料に対して何らかの処理をした試料が 含まれる。
[0074] 上記試料に対して行われても良い何らかの処理としては、 RNA包含体の回収処理 が挙げられる。 RNA包含体の回収方法としては、上記試料から RNA包含体を分離で きる方法であればどのような方法を用いることもできる。例えば、遠心'超遠心操作、 濾過 ·限外濾過操作;当該操作に、ポリエチレングリコール等の共沈剤 ·抗体等の吸 着胆体等を併用する方法;及び当該吸着担体を結合した磁気ビーズや膜等を用い て分離する方法等が用いられる。いずれの方法であっても、 RNaseが残存する可能
性のある RNA包含体の回収処理の場合に、本発明は有効である。
[0075] また、本発明における試料中には、 RNA増幅反応を阻害する物質が含まれることが 許容される。 RNA増幅反応を阻害する物質は、生体試料、生体由来試料、環境試料 、環境由来試料、排泄物試料、排泄物由来試料などの試料中に通常含まれている。 RNA増幅反応を阻害する物質としては、生体試料中に存在する色素、タンパク質、 糖類、未知の夾雑物など、細胞内'外を問わず存在している物質を挙げることができ る。
[0076] 2.処理試薬
2- 1.処理試薬 試料混合物の pH
試料中の RNase失活、さらには試料中の RNA包含体内部からの RNA抽出を行うた めには、少なくとも還元剤を含むアルカリ環境に、試料を供すればよい。少なくとも還 元剤と試料とが最終的に混合されたアルカリ性の混合液が調製されれば、混合する 川頁序などは問わない。
[0077] さらに、本発明において、当該混合液は加熱条件 (後述項目 3. )下に供されるべき ものであるため、当該混合液の調製操作と加熱操作とは、順序を問わない。すなわち 前記の混合液は、加熱条件下に供されるときに、少なくとも還元剤を含むアルカリ性 溶液中に試料が混在して!/ヽる状態であればょ ヽ。
例えば、試料及び処理試薬の一方又は両方を加熱しておき、その後両者を混合す ることができる。すなわち当該混合液は調製されると同時に加熱条件に供されてよい また例えば、試料と処理試薬との混合液を室温で調製し、得られた混合液を加熱 条件下に供しても良い。この場合、処理試薬は、通常水溶液として用いられる。 さらに例えば、少なくとも還元剤を含む溶液と試料とを室温で混合し、得られた還元 剤—試料混合液の PHを調整 (後述)し、 pH調整された還元剤—試料混合液を加熱 条件下に供しても良い。この場合は、下記組成の処理試薬そのものが用いられること はないが、 pH調整された還元剤—試料混合液は、上記の試料—処理試薬混合物 に相当する。下記において、試料—処理試薬混合物と記載する場合は、この、 pH調 整された還元剤 試料混合液も含むものとする。
[0078] 処理試薬と試料との混合物(処理試薬—試料混合物)の pHは、 25°Cにおいて、 p H8. 1以上、例えば pH8. 1〜11. 1とすることができる。試料によっては、 pH9. 0〜 11. 1であることが好ましい場合がある。このような場合としては、試料として排泄物試 料 (特に糞便試料)やそれに由来する試料が用いられた場合が挙げられる。
[0079] このようなアルカリ環境に調整するためには、アルカリ性バッファ及び/又はアルカリ 物質を処理試薬に含ませるとよい。
[0080] 処理試薬に含まれてよ!、アルカリ性バッファとしては、特に限定されな!ヽが、 Tris緩 衝液、 Good緩衝液、ホウ酸塩緩衝液、炭酸塩緩衝液が挙げられる。 Good緩衝液を 構成する緩衝剤としては、特に限定されないが、 Tricine、 MOPS, HEPES、 CHESなど が挙げられる。
[0081] 処理試薬に含まれてょ 、アルカリ物質としては、水酸化物、アンモニア、及びアミン 力 選択すると良い。例えば、水酸化物としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム などが挙げられる。ァミンとしては、トリスヒドロキシメチルァミノメタンなどが挙げられる 。これらは単独でまたは複数種を組み合わせて用いることができる。
[0082] 処理試薬中のアルカリ物質の濃度としては、アルカリ物質の種類や、試料の種類や 濃度、試料との混合比などにより異なる力 0. ImM〜飽和濃度(室温における飽和 濃度)、好ましくは ImM〜飽和濃度(室温における飽和濃度)とすることができる。
[0083] 2- 2.還元剤
処理試薬に含まれる還元剤としては、チオール型還元剤を用いると良い。チオール 型還元剤とは、チオール基を有する還元剤の総称である。
チオール型還元剤としては、ジチオスレィトール(DTT)、メルカプトエタノールなど が挙げられる。メルカプトエタノールは、通常、 2—メルカプトエタノールである。これら 還元剤は、単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。
[0084] 処理試薬中の還元剤の濃度としては、還元剤の種類や、試料の種類や濃度、試料 との混合比などにより異なるが、 0. ImM〜飽和濃度(室温における飽和濃度)、好 ましくは ImM〜飽和濃度(室温における飽和濃度)とすることができる。
[0085] 処理試薬と試料との混合物中の還元剤の濃度としては、例えば、 0. ImM〜: LM 、好ましくは ImM〜: LOOmMとすることができる。試料が血液試料である場合は、 0.
05mMから 20mMとすることが更に好ましい場合がある。また、試料が排泄物試料又 は排泄物由来試料である場合、還元剤の種類、試料の種類'濃度などによっては、 2 . 5mM〜25mMとすることが更に好まし!/、場合がある。
[0086] 2- 3.添カロ物
処理試薬は、キレート剤をさらに含んでよい。 RNAの加水分解は 2価の金属イオン が促進する事が知られている。従って、 2価の金属イオンをキレートするキレート剤(E GTAや EDTAなど)を処理試薬に添加することが有効である。
[0087] また、処理試薬は、硫酸ィ匕多糖をさらに含んでいても良い。
[0088] 3.加熱条件
加熱処理における温度および時間の条件については、試料中の RNase存在量の 違い、 RNA包含体の種類の違いに起因する膜構造の壊れやすさの違い、アルカリ物 質使用量の違いに起因する pHの違い等によって異なるため、特に限定されるもので はない。処理時間は、例えば、 1秒力も 60分程度、好ましくは 30秒から 30分、更に好 ましくは 30秒から 15分程度とすることができる。
[0089] 処理温度は、 30°C以上であることが好ましい。
試料が排泄物試料又は排泄物由来試料である場合、処理温度は、例えば 30から
100°C程度、或いは 45°Cから 100°C程度、好ましくは、加熱時間によって異なるが 5 5°Cから 80°C程度、さらに好ましくは、加熱時間によって異なるが 60°Cから 75°C程度 とすることができる。
その他の試料の場合は、処理温度は、 60°C以上、例えば 60°C以上 100°C以下程 度、好ましくは 70°Cから 90°C程度、更に好ましくは 80°C力も 85°C程度とすることがで きる。 80〜85°Cで処理する場合は、処理時間は 30秒〜 5分とすることができる。
[0090] 4. RNA分解酵素失活及び RNA抽出
上記の処理試薬を用いて加熱処理することによって、試料に含まれる RNaseの失活 と、 RNA包含体内部からの RNAの抽出との両方の処理が実現する。 RNAの抽出は、 R Naseの失活と同時に、又は RNaseの失活に引き続いて起こる。本発明では、上記の 処理試薬を用いた加熱処理のみの簡便な操作によって、上記両方の処理を行うこと ができるため、 RNAを迅速かつ安定に抽出することが可能である。
[0091] なお、 RNaseの失活にお 、ては、 RNaseを変性させ、酵素活性部位が機能しなくな る状態にする。加熱条件下におかれたとしても、 RNaseは通常熱に安定であるため簡 単には失活しない。し力しながら、本発明の処理試薬を用いた加熱操作により、この ような RNaseの失活を可能にする。
[0092] そして、 RNA包含体内部からの RNAの抽出とは、 RNA包含体の膜構造が破壊され、 膜構造中に包含されて ヽた RNAが膜外の環境へ露出することを ヽぅ。 RNA包含体膜 外環境において存在していた RNaseは、同じ処理試薬によって失活する。このため、 露出した RNAは、本来ならば分解を受ける危険性が極めて高!ヽ RNA包含体膜外環 境にさらされるにもかかわらず、分解を受ける危険性は極めて低くなる。このため、本 発明において、 RNA包含体内部からの RNAの抽出を達成するためには、 RNA包含体 の膜外の環境へ RNAが露出すればよぐ露出した RNAをただちに精製しなくとも、 RN Aは安定に存在することができる。
[0093] 5.試料処理液
このようにして、 RNaseが失活し、 RNAが露出した試料処理液が得られる。なお、試 料処理液は、さまざまな工程に供することができる。例えば、 RNA解析を行うために行 われる、 RNA増幅法、ハイブリダィゼーシヨン法などの工程に供することができる。本 発明の方法で得られる試料処理液は、 RNaseが失活している。このため、安定に RNA を含んでいるため、なんらの処理を行うことなぐ上記の工程に供することができる。い うまでもなぐ本発明の方法で得られる試料処理液が、さらに何らかの処理に供され ることにより得たものであっても上記工程に供することができる。例えば、中和などの、 pHを調整するための処理や、遠心分離や RNA単離などの、 RNAの精製処理が挙げ られる。
[0094] 6.増幅反応液
既に述べた方法で、 RNaseが失活し、 RNAが露出した試料処理液が得られる。得ら れた試料処理液は、増幅反応液の調製に用いることができる。
増幅反応液に用いる試料処理液は、上述のように、前記の加熱処理後いかなる処 理も行わないものとして得ても良いし、加熱処理後、遠心操作を行うことにより得られ た上清液として、或いは、フィルトレーシヨンを行うことによって得られた濾液として得
ても良い。
また、試料処理液は、 RNA増幅用反応液と混合され、最終反応液となるが、上記試 料処理液はアルカリ性のため、試料処理液と増幅用反応液との混合物の pHが、酵素 の反応条件からはずれる場合には、上記の加熱処理後から増幅反応開始までの間 の適当な段階で、混合物の pHが至適条件内になるよう調整する必要がある。至適 pH や pHの調整法に関しては、当業者が適宜決定することができる。 pHの至適条件とし ては、後述するように、反応系中に RNA増幅反応を阻害する物質が存在する場合は 、当該阻害物質の作用を抑制するために pHをアルカリ域に調整することも有効であ る。当該至適 pHについては、特許 3494509号公報や特許 3452717号公報を参考にす ることがでさる。
[0095] 6- 1.増幅反応液の基本的組成
RNA増幅反応法としては、 RT-PCR法が挙げられる力 RNA増幅を行う方法であれ ば、これに限定されることなぐどのような方法も用いることができる。増幅反応液の組 成としては特に限定されることなぐ当業者が適宜決定することができる。
[0096] RNA増幅反応として RT- PCRを実行する場合、その形態としては、チューブ内に試 料処理液と RT用反応液との混合物を用意し、前記チューブ内で RT反応を行い、 RT 反応産物の一部を他のチューブ内に用意した PCR反応液に添加して PCR反応を行う ことにより実行する反応形態 (Two tube-Two step);チューブ内に試料処理液と RT反 応液との混合物を用意し、前記チューブ内で RT反応を行い、前記チューブ内の RT 反応産物に対して PCR用反応液を添加して PCR反応を行うことにより実行する反応 形態(One tube-Two step);及び、チューブ内に RT反応液と PCR反応液との両方を 用意しておいて、試料処理液と混合することによって、 RT反応と PCR反応とを連続し て行うことにより実行する反応形態(One tube-One step)が挙げられる。
[0097] 従って、 RT-PCRを実行する場合、試料処理液と混合する RNA増幅用反応液は、 上記実行形態により、 RT反応液である場合や、 RT反応液と PCR反応液との混合反 応液である場合がある。
[0098] RT反応液には、公知のものを限定することなく用いることができる。通常は、 pH緩 衝液、塩類、プライマー、デォキシリボヌクレオチド類、及び逆転写酵素が含まれる。
上記の塩類は、 MgClや KC1などが用いられる力 適宜、他の塩類に変更しても良い
2
。プライマーは、 cDNA合成の際の合成開始点として働くオリゴヌクレオチドをいう。 RT 反応に使用する逆転写酵素は、 RNAを cDNAに逆転写出来る酵素を意味する。逆転 写酵素としては、 Rous associated virus (RAV)や Avian myeloblastosis virus(AMV)等 のトリのレトロウイルス由来の逆転写酵素; Moloney murine leukemia virus(MMLV)等 のマウスのレトロウイルス由来の逆転写酵素;及び Thermus thermophilus由来の Tth DNAポリメラーゼ等が挙げられる力 これらにのみ限定されるものではない。
[0099] PCR反応液には、公知のものを限定することなく用いることができる。通常は、 pH緩 衝液、塩類、プライマー、デォキシリボヌクレオチド類、及び耐熱性 DNAポリメラーゼ が含まれる。上記の塩類は、 MgClや KC1などが用いられる力 適宜、他の塩類に変
2
更しても良い。プライマーは、核酸増幅の際の合成開始点として働くオリゴヌクレオチ ドをいう。 PCRに使用する耐熱性 DNAポリメラーゼは、プライマーを基点として DNAを 合成する耐熱性にすぐれたポリメラーゼを意味する。適切な耐熱性 DNAポリメラーゼ としては、 Thermus aquaticus由来の Taq DNAポリメラーゼ; Thermus thermophilus由 来の Tth DNAポリメラーゼ; Pyrococcus由来の KOD DNAポリメラーゼ、 Pfo DNAポリメ ラーゼ、 Pwo DNAポリメラーゼ;及び、これら耐熱性 DNAポリメラーゼの混合物等が挙 げられる力 これらにのみ限定されるものではない。
[0100] なお、 Tth DNAポリメラーゼは RT活性と PCR活性との両方を有して!/、るため、 RT- P CRを One tube-One stepで行うときに、 1種類の酵素で賄うことが出来る特徴を有して いる。
[0101] 6- 2.増幅反応液中の添加物
RNA包含体及び RNaseを含む試料として生体試料や生体由来試料を用 ヽた場合、 上記の RNase失活 *RNA包含体内部からの RNA抽出のための処理後に得られる試料 処理液には、 RNA増幅反応を阻害する物質が含まれていることがある。そして、この ような試料処理液を増幅用反応液と混合させると、反応系中に RNA増幅反応を阻害 する物質が存在することとなり、これが原因して増幅反応が十分に進行しない虞があ る。
[0102] 具体的に、 RNA増幅反応を阻害する物質には、例えば、生体試料中の色素、ある
種のタンパク質や糖など細胞の内外を問わず存在する物質が挙げられる。
[0103] そこで、このような阻害物質の作用を抑制するため、本発明では硫酸ィ匕多糖及びポ リアミン力も選ばれる添加物を用いることができる。
[0104] 硫酸ィ匕多糖としては、へパリン、デキストランサルフェイト、へパラン硫酸、コンドロイ チン硫酸、デルマタン硫酸、フノラン、硫酸ィ匕ァガロース、カラギーナン、ボルフイラン 、フコィダン、硫酸ィ匕カードラン、及びそれらの塩力も選択して用いることができる。こ れらの中でも、へパリン及びその塩、デキストランサルフ イト及びその塩が好ましい。 硫酸ィ匕多糖は単独で又は数種を組み合わせて用いることができる。
[0105] 硫酸ィ匕多糖は、 RNA増幅反応の際に反応系中に含まれて 、ればよ 、。従って、硫 酸化多糖は、例えば、上記の加熱処理に用いられる処理試薬、加熱処理後の試料 処理液、増幅用反応液、及び、試料処理液と増幅用反応液との混合物、のいずれか に加えることができる。
[0106] 硫酸化多糖の使用量については、硫酸化多糖の分子量、増幅反応阻害物質の存 在量などによって有効な濃度範囲が変動する。
例えば、硫酸ィ匕多糖の一例であるへパリンは、血液の坑凝血剤として頻繁に用いら れるが、それ自体が PCR阻害物質として知られているため、 PCR反応液中に存在さ せるのに好ましくない物質とされている。し力しながら本発明でへパリンなどの硫酸ィ匕 多糖が用いられる場合、その使用量としては、硫酸化多糖自体が RT反応及び PCR 反応の阻害物質となる量を除!、て、上記の RT反応及び PCR反応の阻害物質の作用 を抑制する量が特に限定されることなく許容される。硫酸ィ匕多糖に関する具体的な量 としては、硫酸ィ匕多糖に関する上記事項は、特開 2000— 93176号公報に記載され ている。
具体的にへパリンの使用量としては、試料処理液と RNA増幅反応液とが混合された 最終反応液中に、例えば、 0. 1 g/ml以上、好ましくは 0. 3 g/mL〜50 g/mL 添加するのがよい。
[0107] ポリアミンは、第一級又は第二級アミノ基を二つ以上有する炭化水素の総称である 。ある種のポリアミンは、生体内に存在しており、タンパク質や核酸合成の盛んな組織 に多く含まれており、多様な生理的作用を有している。し力しながら、本発明における
ポリアミンにこのような作用が必ずしも要求されるわけではなぐ第一級又は第二級ァ ミノ基を二つ以上一分子内に有する炭化水素であれば特に限定されるものではない 。ポリアミンの具体例としては、エチレンジァミン、トリメチレンジァミン、スペルミン、ス ぺノレミジン、ジエチレントリァミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンおよ びペンタエチレンへキサミン等が挙げられる。
[0108] ポリアミンは、 RNA増幅反応の際に反応系中に含まれていればよい。従って、ポリア ミンは、例えば、加熱処理後の試料処理液、増幅用反応液、及び、試料処理液と増 幅用反応液との混合物のいずれかにカ卩えることができる。ポリアミンに関する上述の 事項は、特開平 6— 277061号公報に詳述されており、ポリアミンの使用量について も当該公報を参考にすることができる。
[0109] 本発明にお 、ては、アルブミン(Bovine Serum Albumin; BSA)、及び非イオン性界 面活性剤から選ばれる添加物を、試料処理液と RNA増幅反応液とが混合された最 終反応液中にさらに含ませることができる。これら添加物は、上記のポリアミンとともに 用いても良い。
[0110] アルブミンは、動.植物の細胞.体液中に含まれる一群の可溶性タンパク質の総称 である。代表的なものとして、卵白アルブミン、乳中のラクトアルブミン、血清アルブミ ン、コムギ.ォォムギのロイコシン、トウゴマ(ヒマ)種子中のリシンなどを挙げることがで きる。これらのうち、特に血清アルブミンが好ましぐ更にはゥシ血清アルブミンが好ま しい。但し、これらアルブミンには限定されない。アルブミンは、 RNA増幅反応の際に 反応系中に含まれていればよい。従って、アルブミンは、例えば、加熱処理及び pH 調整後の試料処理液、増幅用反応液、及び、加熱処理及び pH調整後の試料処理 液と増幅用反応液との混合物のいずれ力にカ卩えることができる。また、アルブミンは、 最終反応液に均一に入って 、な 、状態 (たとえば加熱処理及び pH調整後の試料処 理液にアルブミンを加えて、攪拌することなく RNA増幅反応液を混合させた場合な ど)でも同様の効果がある。 アルブミンに関する上述の事項は、特開 2001— 8685 号公報に詳述されており、アルブミンの使用量についても、当該公報を参考にするこ とがでさる。
[0111] 非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレー
ト及びポリオキシエチレンォクチルフエ-ルエーテルから選ばれる。ポリオキシェチレ ンソルビタンモノラウレートとしては、ポリオキシエチレンソルビタン (20)モノラウレート( Tween 20)が挙げられる。ポリオキシエチレンォクチルフエ-ルエーテルとしては、ポ リオキシエチレン (9)ォクチルフエ-ルエーテル(ノ-デット P— 4O(NP40))、ポリオキシ エチレン (10)ォクチルフエ-ルエーテル(Triton X 100)が挙げられる。
非イオン性界面活性剤に関する上記事項は、特開平 10— 80279号公報に詳述さ れており、非イオン界面活性剤の使用量についても、当該公報を参考にすることがで きる。
[0112] RNA増幅法の手順としては、試料を上記記載の処理試薬を使用して加熱処理し、 得られた試料処理液と反応液とを混合し、適宜 pHを調整した後は、公知の方法に基 づ 、て増幅反応を行うことができる。
RT反応にぉ 、ては選択したプライマーと逆転写酵素に適した反応温度で、 30分〜 1時間程度の反応を行う。 PCRにおいては、 DNAを熱変性により 1本鎖の DNAにする ディナチユレーシヨン工程;増幅させた 、領域を挟むプライマーをノヽイブリダィズさせ るアニーリング工程;及びデォキシリボヌクレオチド類の共存下に DNAポリメラーゼを 作用させ、プライマーの伸長反応を行うポリメライゼーシヨン工程の 3工程を繰り返す ことで、プライマーに挟まれた領域を増幅する。
[0113] 7.効果
本発明の RNase失活方法及び RNA抽出方法によると、生体試料中の RNaseの失活 と RNA包含体内部からの RNAの抽出とを行うことができるため、生体試料中の RNA包 含体の精製を行うことなしに簡便'安定的に RNAの試料処理液を得ることができる。さ らに、抽出された RNAに対して、生体試料に含まれるタンパク等の夾雑物による吸着 '包埋といった影響を抑制することができると考えられる。このため、本発明の RNA抽 出方法は、その後の RNAの検出や解析などに有効である。すなわち、試料処理液に 対しては、なんらの処理を行うことなぐ或いは、希釈、 pHの調整、添加物を加える等 の最低限の処理を行うだけで、 RNA検出や解析などの引き続く工程に供することが できる。従って、本発明の方法を行うことにより、従来力も行われてきた RNAの抽出、 精製時などにおいて危惧されてきた RNaseによる RNAの分解による影響を心配するこ
となぐそのような工程を簡便 ·迅速に行うことが可能となる。例えば、本発明は、 RNA 精製のための前段階として使用することができる。
[0114] 本発明の RNA検出方法によると、生体試料中の RNaseの失活と RNA包含体内部 力 の RNAの抽出とを行うことによって、簡便'安定的'効率的に、試料中に存在する RNAを増幅することが可能となる。そして、試料処理液に核酸合成の阻害物質が含 まれる場合でも、希釈、 pHの調整、相応しい添加物を増幅反応液に含ませる等によ り、核酸合成に対する阻害物質の作用を緩和又は抑制し、簡便 ·安定的 '効率的に、 試料中に存在する RNAを増幅することが可能となる。
[0115] また、本発明を使用することにより、生体試料中に潜む外来生物 (例えば、 RNAウイ ルスとして、レトロウイルス(エイズウイルス (HIV)等)、ノロウィルス (SRSV)、ロタウイノレ ス、 C型肝炎ウィルス (HCV)等、及び、真菌、細菌等)や、変異細胞 (例えば、癌細胞 等)を、簡便 '迅速に解析することが可能となる。さらに本発明を使用することにより、 細胞中で転写される mRNAなどの検出や塩基配列決定による発現遺伝子の解析、さ らには cDNAのクローユングによる発現産物の解析及び生産等を、簡便'迅速に行う ことが可能となる。さらに、大気 ·土壌 ·水等の環境試料に対して本発明を用いると、 環境試料中の微生物検査等へ展開も可能と考えられる。
[0116] また、本発明の処理試薬によって抽出された RNAは、本処理試薬中での保存や中 和処理後の保存等が可能である。
実施例
[0117] 以下に実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定さ れるものではない。
[0118] く実施例 1 >
本実施例においては、ヒト血清(RNaseが含まれている)に RNA包含体を添カ卩したモ デル検体を試料として使用し、蒸留水(比較用)、 NaOH水溶液 (比較用)、 DTT水溶 液 (比較用)、又は、本発明の処理試薬としての NaOH-DTT水溶液を試料に加えて 加熱処理し、その後に RNA抽出の確認を行った。
[0119] 具体的には、 RNA包含体としては、 Ambion社 Armored RNA Hepatitis C Virus (Gen otype 2b) Catalog #: 42011を用いた。ヒト血清と Armored RNA Hepatitis C Virus液を
等量 (v/v)混合したモデル検体を試料として用意した。 0.5mlチューブに検体 4 1を 入れたものを 4本用意し、それぞれのチューブ内に、(1)蒸留水(比較用)、(2)10mM NaOH水溶液 (比較用)、(3)10mM DTT水溶液 (比較用)、又は、(4)本発明の処理試 薬としての 10mM NaOH及び 10mM DTTを含む水溶液 16 μ 1をカ卩えて、 85°C1分間加 熱を行った。
[0120] RNA抽出の確認として、加熱処理後のそれぞれの試料処理液を铸型として、 HCV RNAに特異的なプライマーを使用して RT-PCRを行った。
具体的には、加熱処理後直ちに、 50 1の反応液当たり上記試料処理液を 1 μ 1カロ えて RT-PCRを行った。 RT反応のプライマーは、 HCV RNAに相補的な塩基配列を持 つオリゴヌクレオチドを使用し、続いて行う PCRでは、 RT反応で合成された cDNAに相 補的な塩基配列を持つオリゴヌクレオチドを追加して行った。本実験の RT- PCRにお ける RNA由来の産物は 244 bpである。使用したプライマー配列は次の通りである。 (5,プライマー) 5, -CTTCACGCAGAAAGCGTCTAGCCATGGCGT-3,(配列番号: 1)
(3,プライマー) 5, -CTCGCAAGCACCCTATCAGGCAGTACCACA-3,(配列番号: 2)
[0121] RT反応液には、 10mM Tris- HC1、 35mM KC1、 1.5mM MgCl、各々 200 μ Mの dATP
2
、 dCTP、 dGTP及び dTTP、 2mM DTTゝ 0.4 μ Mの 3,プライマー、 50units/50 μ 1の Ribo nuclease Inhibitor (Takara Bio, Shiga, Japan)、及び 5units/50 μ 1の AMV XL逆転写 酵素(Takara Bio, Shiga, Japan)に、 ImMのトリエチレンテトラミンと 0.5 μ g/mlのへパリ ンナトリウムとを添加したものを使用した。
RT反応は、 55°C、 30分間行った。反応後、 95°C、 5分間処理し、逆転写酵素を不活 化した。
[0122] RT反応後、前記 RT反応液に各々 20pmolの 5'プライマー、及び 1.25 unitsの Taq D NAポリメラーゼ(PlatinumTaq: Invitrogen, CA, USA)を添カ卩して PCRを行った。
PCRは、 94°C 2分間の後、 94°C 30秒間、 60°C 30秒間、 72°C 60秒間の条件で 40サ イタル、最後に 72°C 7分間のポリメライゼーシヨンを行った。
[0123] PCR終了後、反応液 5 μ 1を用いて、 2.5%ァガロースを含む、 0.5 μ g/ml臭化工チジ
ゥム添カ卩 TAE(40mM Tris- acetate, ImM EDT A)液中で電気泳動を行い検出した。増 幅産物の電気泳動図を図 1に示す。図 1中、 Mはサイズマーカー(Hindiで切断した 2 50ngの φ X174-RF DNA)、 1、 2、 3及び 4はそれぞれ、蒸留水(比較用)、 10mM Na OH水溶液(比較用)、 10mM DTT水溶液(比較用)、及び lOmM NaOH- lOmM DTT 水溶液 (本発明の処理試薬)を用いた結果である。
[0124] 図 1が示すように、検体に本発明の処理試薬を添加した場合に(レーン 4)、 HCV R NAに特異的な 244bpの増幅産物(図中矢印)が得られたことがわ力つた。
[0125] <実施例 2>
本実施例においては、実施例 1で得た 4種の試料処理液を、冷蔵にて 1日間保存 後に、実施例 1と同様に RT-PCRを行い、抽出後の RNAの保存安定性を見たもので ある。 RT反応、 PCR反応、及び電気泳動条件は実施例 1と同じである。増幅産物の 電気泳動図を図 2に示す。図 2中、 Mはサイズマーカー(Hindiで切断した 250ngの φ X174-RF DNA)、 1、 2、 3及び 4はそれぞれ、蒸留水(比較用)、 lOmM NaOH水 溶液(比較用)、 lOmM DTT水溶液(比較用)、及び lOmM NaOH-lOmM DTT水溶液 (本発明の処理試薬)を用いた結果である。
[0126] 図 2が示すように、抽出処理後 1日経過しても、本発明の処理試薬を用いた場合に (レーン 4)、 HCV RNAに特異的な 244bpの増幅産物(図中矢印)が得られたことがわ かった。これは、本発明の処理試薬による抽出後の RNAが安定的に存在することを 示すものである。
[0127] 以上の実施例 1及び 2の結果は、本発明の処理試薬により、血清中ウィルスの RNA が解析できることを示している。従って、本発明の処理試薬を使用することにより、生 体試料等に含まれる RNA包含体力ゝら簡便な操作で RNAを抽出することが可能となる ことが確認された。
[0128] <実施例 3:加熱処理の温度及び時間による影響 (1)>
1.5mLザルステッドチューブに、 HCV陽性 (約 lOOIU/ml)の血漿検体 100 /z Lを分注し 、さらに PEG水溶液(ロシュ'ダイァグノスティック株式会社「アンプリコア (R)HBVモニタ 一用 検体処理用試薬」に同梱の HBV SOL A。以下、実施例 4、 5、 6、 7において同 じ。 )を 50 μ L加えて撹拌した。これをベンチトップ微量遠心機にて 15000rpm、 5分
間遠心分離し、上清を除去した。残った沈さに、処理試薬として、 12mM NaOH, 12 mM DTT,及び 6 μ g/mLへパリンナトリウムを含む水溶液 100 μ Lを加えて、ボルテック スにてよく撹拌し、下表に示す条件にてインキュベートした。加温後直ちに、チューブ 内の試料処理液 50 μ Lを、別のチューブに用意したアンプリコア (R)HCV v2.0キットの マスターミックス 50 Lと混合し、 GeneAmp9600(アプライドバイオシステム )にて、ァ ンプリコア (R)HCV v2.0キットの添付文書に示される定性法の手順で HCVシグナル (0 D)を測定した。その結果をデータ 1及び図 3に示す。データ 1は、 HCVシグナルであ る吸光度を表記したものである。なお、データ 1においては、追試を行ったため合計 2 回分の測定結果を示している。図 3は、データ 1の各温度での平均値を、縦軸を吸光 度、横軸を加熱時間として示したグラフである。
[0130] 上記データ 1が示すように、熱処理が本法による HCVの検出に有効であることがわ かった。この結果は、本発明の方法によって、 RNaseが失活し、かつ HCVウィルス内 部より HCV RNAが取り出され、 RT-PCRの铸型となったことを示している。
図 3に示すように、 15秒程度の加熱で RNAの検出が可能となり、加熱時間について は加熱温度に応じて適宜選択することができることが解った。
[0131] <実施例 4 :加熱処理の温度が 85°Cにおける加熱時間の影響 >
1.5mLザルステッドチューブに、 HCV陽性 (約 l,000IU/ml)の血漿検体 100 /z Lを分 注し、さらに PEG水溶液を 50 /z Lカ卩えて撹拌した。これをベンチトップ微量遠心機にて 15000rpm、 5分間遠心分離し、上清を除去した。残った沈さに、処理試薬として、 12m
M NaOH, 12mM DTT,及び 6 μ g/mLへパリンナトリウムを含む水溶液 100 μ Lを加え て、ボルテックスにてよく撹拌し、下表に示す時間、 85°Cで加温した。加温後直ちに、 チューブ内の試料処理液 50 μ Lを、別のチューブに用意したアンプリコア (R)HCV v2.0 キットのマスターミックス 50 μ Lと混合し、 GeneAmp9600(アプライドバイオシステム ) にて、アンプリコア (R)HCV v2.0キットの添付文書に示される定量法の手順で HCVシグ ナル (トータル OD)を測定した。結果をデータ 2及び図 4に示す。
[0133] 上記データ 2が示すように、 80秒〜 160秒の処理時間によって最高レベルの検 出感度が得られた。
[0134] <比較例 1 >
本発明の検出方法の有効性を検証するため、上記実施例 4と同一の検体から、ァ ンプリコア (R)HCV v2.0キットの添付文書に示される定量法の手順でトータル ODを測 定した。比較例では、この操作をさらに 5回の追試を行うことによって、合計 6回の測 定を行った。それぞれの測定結果は、 HCVのシグナルであるトータル OD (吸光度)で 示すと、 0.75、 0.76、 1.14、 0.77、 1.30、及び 1.06であり、これら 6回の測定値の平均は 0.96である。
[0135] 比較例 1において行ったアンプリコア (R)HCV v2.0キット添付文書の方法は、血漿 10 0 μ Lより RNA抽出液 1,000 μ Lを得る。上記実施例 4では、血漿 100 μ Lより RNA抽出 液を 100 L得ている (すなわち、実施例 4で得られた RNA抽出液のほうが 10倍濃い)。 従って、比較例 1におけるトータル ODが 0.96であることから、実施例 4におけるトータ ル ODが仮に 9.6であれば、従来法と同等の感度が得られたと言うことができる。
実際に、実施例 4では、 80〜160秒の熱処理時間により、 9〜10の範囲のトータル ODが得られている。このことから、実施例 4に代表される本発明の方法は、比較例 1
に例示される従来法に劣らない感度が得られたと考えられる。
[0136] <実施例 5:加熱処理の温度及び時間による影響 (2) >
1.5mLザルステッドチューブに、 HCV陽性 (約 l,000IU/ml)の血漿検体 100 /z Lを分 注し、さらに PEG水溶液を 50 /z Lカ卩えて撹拌した。これをベンチトップ微量遠心機にて 15000rpm、 5分間遠心分離し、上清を除去した。残った沈さに、処理試薬として、 12m M NaOH, 12mM DTT,及び 6 μ g/mLへパリンナトリウムを含む水溶液 100 μ Lを加え て、ボルテックスにてよく撹拌し、下表に示す条件にてインキュベートした。加温後直 ちに、チューブ内の試料処理液 50 Lを、別のチューブに用意したアンプリコア (R)HC V v2.0キットのマスターミックス 50 μ Lと混合し、 GeneAmp9600(アプライドバイオシステ ム )にて、アンプリコア (R)HCV v2.0キットの添付文書に示される定量法の手順で HC Vシグナル (トータル OD)を測定した。 HCVの濃度(IU/ml)に対するトータル OD値(吸 光度の積算値)を以下のデータ 3及び図 5に示す。図 5はデータ 3を、横軸を加熱時 間、縦軸をトータル ODとして示したグラフである。なお、近似線は実施例 4の結果(図 4)を元に ci載し7こ。
[0137] [表 3] デ一タ 3
[0138] データ 3により、 60°Cの加熱温度によってもシグナルが得られ、 HCVの RNAを検 出することが可能であることが解った。
図 5からわ力るように、 60°C以下の温度であっても、長い時間、例えば 5分以上の 加熱を行うことで、 HCVの RNAの検出が可能であることは容易に想到し得る。また、 85°Cより高い加熱温度であっても、短い時間、例えば 30秒から 3分の加熱を行うこと で、 HCVの RNAの検出が可能であることは容易に想到し得る。
[0139] 実施例 3〜5においては、加熱温度が 80°C〜85°Cであるときに、加熱時間の依存
性が低い安定したシグナルが得られ、なおかつ高感度であることが示された。このた め、実施例 3〜5に示された条件のもとでは、 80°C〜85°Cは特に好ましい温度条件 であることが言える。温度条件が 80°C〜85°Cの場合、加熱時間は、 30秒〜 10分、 更に好ましくは 30秒〜 5分、更に好ましくは 80秒〜 160秒とすることができる。
[0140] <実施例 6 >
実施例 6では、 HCV陽性既知の血漿検体 3種(約 100, 500, 5000 IU/ml)及び HCV 陰性既知の血漿検体の合計 4種の血漿検体に、 PEG水溶液を添加して遠心操作を 施した後、得られた沈殿物を試料として使用した。血漿からの PEG水溶液沈殿物中 には、ウィルスのみでなく多くの血漿成分も沈殿しており、その中には RNaseも存在し ている。それぞれの試料について、本発明の方法に従って、 RNaseの失活及び RNA 包含体内部からの RNAの抽出を行い、 HCV RNAに特異的なプライマーを使用して R T- PCRを行った。
[0141] 具体的には、 1.5mLザルステッドチューブに血漿 100 μ Lを分注し、さらに PEG水溶液 を 50 Lカ卩えて攪拌した。これをベンチトップ微量遠心機にて 15000rpm、 5分間遠心 分離し、上清を除去した。残った沈さに、処理試薬として、 12mM NaOH、 12 mM DTT 、及び 6 μ g/mlへパリンナトリウムを含む水溶液 100 μ Lを加えて、ボルテックスにて よく攪拌し、 85°Cで 2分間インキュベートした。加温後直ちに、チューブ内の試料処理 液 50 Lを、別のチューブに用意したアンプリコア (R)HCV v2.0キット(ロシュ'ダイァグ ノスティックス)のマスターミックス 50 μ Lと混合し、 GeneAmp9600 (アプライドバイオシ ステムズ)にて、アンプリコア (R)HCV v2.0キットの添付文書に従って RT-PCRを行った 。 RT-PCR後もキットの添付文書に従い、所定の手順で HCVシグナルを定量した。 H CVの濃度 (IU/ml)に対する TOD値(吸光度の積算値)を以下のデータ 4に示す。
[0142] [表 4] デ一タ 4
HCV濃度 (IU/ml) 0 100 500 5000
HCV TOD値 0.06 0.58 4.01 51.63
[0143] 上記データ 4が示すように、陽性検体においてシグナルが得られ、 HCVの RNAを検 出することが可能であった。この結果は、本発明の方法によって、 RNaseが失活し、か つ HCVウィルス内部より HCV RNAが取り出され、 RT- PCRの铸型となったことを示し ている。
また、 HCV濃度に依存した HCV TOD値が得られていることより、定量的に HCV RN Aが検出されて 、ることも示して 、る。
[0144] <実施例 7>
本実施例では、 HIV陽性既知の血漿検体 (約 700コピー/ ml)及び HIV陰性既知の 血漿検体の 2種の検体を用いた。それぞれの検体について、 PEG水溶液による遠心 操作を行い、得られた沈殿物を試料として使用した。それぞれの試料について、本 発明の方法に従って、 RNaseの失活及び RNA包含体内部からの RNAの抽出を行い、 HIV RNAに特異的なプライマーを使用して RT-PCRを行った。
[0145] 1.5mLザルステッドチューブに血漿 50 μ Lを分注し、さらに PEG水溶液を 25 μ Lカロえ て攪拌した。これをベンチトップ微量遠心機にて 15000rpm、 5分間遠心分離し、上清 を除去した。残った沈さに、処理試薬として、 12 mM NaOH、 12 mM DTT、及び 6 μ g /mlへパリンナトリウムを含む水溶液 100 μ Lをカ卩えて、ボルテックスにてよく攪拌し、 8 5°Cで 2分間インキュベートした。その後直ちに、チューブ内の試料処理液 50 1を、 別のチューブに用意したアンプリコア (R)HIVモニター vl.5キット(ロシュ'ダイァグノステ イツタス)のマスターミックス 50 μ Lと混合し、 GeneAmp9600 (アプライドバイォシステム ズ)にて、
アンプリコア (R)HIVモニター vl.5キットの添付文書に従って RT-PCRを行った。 RT- PC R後もキットの添付文書に従い、所定の手順で HIV-1シグナルを定量した。 HIVのコピ 一数/ mlに対する TOD値を以下のデータ 5に示す。
[0146] [表 5] デ一タ 5
HIVコピー ¾/ml 0 700
HIV TOD値 0.05 1.10
[0147] 上記データ 5が示すように、陽性検体においてシグナルが得られ、 HIVの RNAを検 出することが可能であった。
[0148] 下記実施例 8及び 9では、ヒト血清に RNA包含体を添カ卩したものをモデル検体とし た (血清には RNaseが含まれている)。ここで RNA包含体には、 Ambion Diagnostics社 製 Armored RNA Hepatitis C Virus (Genotype 2b)in TSM III Buffer Amplicor HCV M onitor Qualified Positive Control(Cat# 42011)を用いた。本実施例におけるモデル検 体は、上記 RNA包含体一 TSM IIIノ ッファ液とヒト血清とを、 1 : 1の体積比で混合して 調製した。上記 RNA包含体— TSM IIIノッファ液の濃度は「血漿に 5 (v/v) %添カロし た場合 73,000IU/mL」と規定されており、血清と 1 : 1 (体積比)で混和すれば 730IU/ μ Lと考えられる。
また、 RNAの検出について、先ず遺伝子増幅をアンプリコア HCV v2.0増幅試薬セ ット (ロシュ'ダイァグノスティックス社製)を用いて行った。 RT-PCRの温度プログラムは 、メーカの推奨法に準じた力 PCR反応のサイクル数を 38とした。
遺伝子増幅後、ァガロース電気泳動を用いて検出した。電気泳動写真中の「M」は 、 DNAサイズマーカを表す。ここで用いている DNAサイズマーカーは、 Φ Χ174 Hindi digestである。
[0149] <実施例 8 >
本実施例は、アルカリ物質と還元剤を含む処理試薬で、検体中の RNAが抽出でき たことを示した例である。
200 L容プラスチックチューブにモデル検体 2 L、表 6に示す各処理試薬 (15種) を 8 μ Lとって混和し、 85°C3分熱処理した。これに TE Buffer(pH8.0)を 90 μ L添加し、 このうち 5 μ Lを、アンプリミックス(ロシュ'ダイァグノスティックス社:アンプリコア HCV v2.0増幅試薬セットに含まれる HCVマスターミックス v2.0 と HCVマンガン試液 を 7: 1の比率で混ぜ合わせたもの)5 Lと混和し、 RT-PCRを行った。なお、各々の処 理試薬 (モデル検体添加前)の pH及びモデル検体—処理試薬混合物(モデル検体 添加後)の pHOヽずれも 25°Cにて測定)も表 6に示す。
[0151] また、ァガロース電気泳動写真を図 6に示す。さらに、図 17に、各条件の熱処理後 の様子を示す写真を示す。図 17において上の段が、 DTT OmMの処理試薬を用い た結果であり、左から [1]、 [2]、 [3]、 [4]、 [5]、 [6]、 [7]の処理試薬を用いた結果である。 下の段は、 DTT 20mMの処理試薬を用いた結果であり、左から [8]、 [9]、 [10]、 [11]、 [ 12]、 [13]、 [14]、 [15]の処理試薬を用いた結果である。
[0152] 図 6が示すように、処理試薬が還元剤とアルカリとの両方を含む場合のみ、 RNAが 検出された。
[15]で検出されていないのは、 RNAが加水分解されたためと考えられる。 RNAの加 水分解が起こったのは、抽出された RNA力 加熱温度(85°C)と pH (10.1)との両方が 高い条件下にさらされたためであると考えられる。 RNAを効率よく抽出しなお且つ露 出した RNAを加水分解しないような条件にするためには、以下の条件に調整すると 良い。すなわち、 NaOH濃度や Buffer剤の種類や濃度を調整することによって pHを下 げる(好ましくは前述の [10]〜[14]の条件)こと;温度を下げる(例えば加熱を行わない ことによって RNA検出が可能になることが本発明者らによって確認されている)こと; 或いは、温度及び NaOH濃度を変えることなく EGTAなどの 2価イオンをキレートする キレート剤をさらに添加すること(下記実施例 9)、を行うと良い。
[0153] DTTが入った場合、処理試薬の pHが下がって ヽるが、これは、アルカリ域で DTTが 酸として働くためと考えられる。
[0154] 図 17において、 [8]、 [9]といった中性域の条件の場合、変性タンパク質と見られる白
沈が顕著に観察されたが、使用した処理試薬の pHが高くなるにつれて透明度が増し ていることが解った。このことにより、中性域において RNAが検出できなかった原因と して、変性タンパク質等の夾雑成分が RNAに吸着 ·包埋した可能性が考えられる。一 方、 [15]の条件で RNAが検出できな力つた原因としては、上述の通り、変性タンパク 質の影響ではなぐ RNAの加水分解によるものと推測される。
[0155] <実施例 9 >
本実施例は、 EGTAは RNAの熱アルカリ条件による加水分解を低減することを示し た例である。 RNAの加水分解を、 2価金属イオンが促進する事が知られている。本発 明の対象とする検体によっては、 2価金属イオンを含むので、これをキレートするキレ ート剤 (EGTA等)を処理試薬に添加するのは有効である。
[0156] 処理試薬として、表 6に示す処理試薬 [12]と、これに EGTA 5mMを加えた処理試薬 との 2種を用意した。 200 L容プラスチックチューブにモデル検体 2 Lをとり、ここに 8 Lの各処理試薬を添加して混和した。このとき、処理温度として、 25°C (比較用)、 3 7°C、 45°C、 50°C、 55°C、 60°C、 65°C、 70°C、 75°C、 80°C、 85°C、 90°C、 95°C、及び 10 0°C、処理時間として、 1分、 3分、 10分、 30分、及び 60分の条件を検討した。処理後、 これに TE Buffer(pH8.0)を 90 μ L添加し、このうち 5 μ Lを、アンプリミックス 5 μ Lと混和 し、 RT-PCRを行った。
[0157] 得られた電気泳動写真を図 7 (処理試薬中の EGTA濃度は OmM)及び図 8 (処理試 薬中の EGTA濃度は 5mM)に示す。
[0158] 図 7及び図 8が示すように、処理試薬力 ¾GTAを含まな 、場合、 30分以上の熱処理 ではほとんどシグナルが認められなくなった。しかし、処理試薬に EGTAを添加した場 合、 1時間の熱処理を経てもシグナルが検出された。 EGTAの添カ卩により、 RNAの加 水分解の速度が著しく小さくなるものと考えられる。
[0159] 本実施例より、処理試薬に 2価の金属イオンをキレートするキレート剤を添加した場 合、加熱処理における温度は、 65°C〜100°C、更に好ましくは、 70°C〜100°C、更 に好ましくは、 70°C〜95°Cに設定することができることがわかった。
[0160] <実施例 10 >
ノロウィルス陰性の健常者の糞便を生理食塩水に 20%(w/v)の濃度で懸濁し、懸
濁液を微量遠心機を用いて 5分間遠心分離し、上清を得た。得られた上清 198 しに 、擬似ノロウィルス RNA包含体(Armored RNA(R) Norwalk Virus (Genogroupll) in TSMI II Buffer: Ambion Diagnostics) 2 Lを添加し、擬似ノロウィルス陽性の糞便試料液を 調製した。この試料液 10 Lと、処理試薬 10 Lとを、チューブ内で混合し、最終液量 を 20 Lとした後、 85°Cで 5分間加熱処理した。このようにして、試料処理液を得た。
[0161] RT- PCRの RT反応にお!、ては、 Ampdirect(R) Plus(P/N: 241-08800-98:島津製作所 )、 0.4 μ Μ擬似ノロウィルス RNA用リバースプライマー(5,- ACTGACAATTTCATCAT CACC-3':配列番号 3)、及び 3.75U AMV逆転写酵素を混合した RT-PCR反応液 25 μ Lを、上記試料処理液 20 Lと混合し、 42°C, 1時間の条件で反応を行った。 95°C, 2分の条件で酵素失活処理を行った後、 RT反応後のチューブに、 0.2 M擬似ノロゥ ィルス RNA用フォワードプライマー(5, -TGGAATTCCATCGCCCACTGG-3,:配列 番号 4)、及び、 1.25U Nova Taq(TM) Hot Start DNA Polymerase(EMD Biosciences) を混和し、最終液量 50 しとした。 PCRは、 95°C, 5分のプレヒーティングに続いて、 92 °C, 30秒、 58°C, 30秒、及び 72°C, 1分のサイクルを 40サイクル行い、その後、 72°C, 7 分のポリメライゼーシヨンを行う温度プログラムで行った。
[0162] なお、本実施例 10においては、処理試薬として、下記表 7に記載の組成を有する 8 種の処理試薬 Α—1〜Α—8を調製し、 8種各々について上記操作を行った。これら 処理試薬のうち、 A—2〜A—8は、本発明における処理試薬であり、 A—1は、比較 用に調製した処理試薬である。
[0163] [表 7]
処理試薬の 処理試薬の 処理試薬単独 処理 糞便
処理試薬
NaOH濃度 DTT濃度 の pH (混合比 1 :1 ) の pH
A-1 (比較用) Om 20mM 7.5 6.5
A-2 10mM 20mM 9.1 8.4
A-3 20mM 20mM 9.8 9.4
A- 30mM 20mM 10.2 9.9
A-5 40mM 20mM 11.4 10.5
A-6 50mM 20mM 12.0 11.1
A-7 60mM 20m 12.3 11.6
A-8 70mM 20mM 12.5 11.8
[0164] PCR産物の検出は、反応終了後の反応液 5 μ Lを用い、 2.5%ァガロースゲルを含む 0.5 μ g/mL臭化工チジゥム添加 TAE (40mM Tris- acetate、 ImM EDTA)液中での電 気泳動により行った。
[0165] 実施例 10によって得られた電気泳動図を図 9に示す。図中、レーン Mは分子量マ 一力( φ X 174 RF DNAの Hindi消化物)、レーン 1は処理試薬 A— 1を用いた結果、 レーン 2は処理試薬 A— 2を用いた結果、レーン 3は処理試薬 A— 3を用いた結果、 レーン 4は処理試薬 A— 4を用いた結果、レーン 5は処理試薬 A— 5を用いた結果、 レーン 6は処理試薬 A— 6を用いた結果、レーン 7は処理試薬 A— 7を用いた結果、 及び、レーン 8は処理試薬 A— 8を用いた結果を示す。
[0166] <実施例 11 >
処理試薬として、以下の組成を有する 7種の処理試薬 B— 1〜B— 7を調製してそ れぞれ用いたことを除いては、実施例 10と同様の操作を行った。これら処理試薬のう ち、 B— 2〜B—7は、本発明における処理試薬であり、 B—1は、比較用に調製した 処理試薬である。
[0167] B—l . 30mM NaOH、 OmM DTT (比較用)
B- 2. 30mM NaOH, 5mM DTT
B— 3. 30mM NaOH, lOmM DTT
B— 4. 30mM NaOH、 20mM DTT
B— 5. 30mM NaOH、 30mM DTT
B— 6. 30mM NaOH、 40mM DTT
B- 7. 30mM NaOH、 50mM DTT
[0168] 実施例 11によって得られた電気泳動図を図 10に示す。図中、レーン Mは分子量 マーカ(φ X 174 RF DNAの Hindi消化物)、レーン 1は処理試薬 B—1を用いた結果 、レーン 2は処理試薬 B— 2を用いた結果、レーン 3は処理試薬 B— 3を用いた結果、 レーン 4は処理試薬 B— 4を用いた結果、レーン 5は処理試薬 B— 5を用いた結果、レ ーン 6は処理試薬 B— 6を用いた結果、及び、レーン 7は処理試薬 B— 7を用いた結 果を示す。
[0169] 上記実施例 10及び 11では、処理試薬中に、 NaOHは 20mM〜60mM、 DTTは
5mM〜50mM含まれて!/、ることが好まし!/、ことが分かる。
[0170] <実施例 12 >
< 1 > RNAを精製しな 、糞便試料を用 V、た RNA検出
ノロウィルス感染者の糞便を生理食塩水にて 20% (w/v)の濃度で懸濁、微量遠心 機にて 5分間遠心分離し、上清を得た。
一方、ノロウィルス陰性の健常者の糞便を生理食塩水に 20%(w/v)の濃度で懸濁 し、懸濁液を微量遠心機を用いて 5分間遠心分離し、上清を得た。
感染者糞便に由来する上清に対し、健常者糞便に由来する上清を用い 10倍段階 希釈を行い、 6種の糞便試料液 D— 1〜D— 6を調製した。具体的には、 D—1の希 釈率は 1倍、 D— 2の希釈率は 10倍、 D— 3の希釈率は 102倍、 D— 4の希釈率は 10 3倍、 D— 5の希釈率は 104倍、 D— 6の希釈率は 105倍である。
[0171] 処理試薬としては、 30mM NaOH, 20mM DTT、 lOmM EGTAの組成を有する処理 試薬を用いた。
段階希釈を行った上記糞便試料液 10 ;z Lと、上記処理試薬 10 ;z Lとを加えて攪拌 後、 85°Cで 5分間加熱した。
[0172] RT- PCRの RT反応にお!、ては、 Ampdirect(R) Plus(P/N: 241-08800-98:島津製作所 ), 0.4 μ Μノロウィルス RNA用リバースプライマー(5,— TGTCACGATCTCATCATCA
CC-3':配列番号 5)、及び 3.75U AMV逆転写酵素を混合した RT-PCR反応液 25 μ L を、上記試料処理液 20 Lと混合し、 42°C, 1時間の条件で反応を行った。 95°C, 2分 の条件で酵素失活処理を行った後、 RT反応後のチューブに、 0.2 Mノロウィルス RN A用フォワードプライマー(5, -TGGAATTCCATCGCCCACTGG-3,:配列番号 4)、 及び、 1.25U Nova Taq(TM) Hot Start DNA Polymerase(EMD Biosciences)を混和し 、最終液量 50 しとした。 PCRは、 95°C, 5分のプレヒーティングに続いて、 92°C, 30秒 、 58°C, 30秒、及び 72°C, 1分のサイクルを 40サイクル行い、その後、 72°C, 7分のポリ メライゼーションを行う温度プログラムで行つた。
[0173] PCR産物の検出は、反応終了後の反応液 5 μ Lを用い、 2.5%ァガロースゲルを含む 0.5 μ g/mL臭化工チジゥム添加 TAE (40mM Tris- acetate、 ImM EDTA)液中での電 気泳動により行った。
[0174] く 1 >によって得られた電気泳動図を、図 11に示す。図中、レーン 1は糞便試料液 D— 1を用いた結果、レーン 2は糞便試料液 D— 2を用いた結果、レーン 3は糞便試 料液 D— 3を用いた結果、レーン 4は糞便試料液 D— 4を用いた結果、レーン 5は糞 便試料液 D— 5を用いた結果、レーン 6は糞便試料液 D— 6を用いた結果を示す。レ ーン 7は、ネガティブコントロール(Negative Control)、すなわちノロウィルス感染者糞 便のかわりにノロウィルス非感染の健常者糞便を用いたことを除いて同様の操作を行 つた結果を示す。レーン Mは分子量マーカ( φ X 174 RF DNAの Hindi消化物)であ る。
[0175] < 2> 糞便試料力も精製した RNAを用いた RNA検出
上記 < 1 >で得られた各希釈感染者糞便に由来する上清に対し、 QIAamp Viral RN A Mini Kit (QIAGEN社)を適用することによって RNA精製を行い、これらを上記く 1 >の糞便試料液 D— 1〜D— 6に対するコントロールとして、 6種の精製 RNA液 E— 1 〜E— 6とした。具体的には、 E— 1は D— 1に対応した精製 RNA液(1倍)、 E— 2は D— 2に対応した精製 RNA液(10倍)、 E— 3は D— 3に対応した精製 RNA液(102 倍)、 E— 4は D— 4に対応した精製 RNA液(103倍)、 E— 5は D— 5に対応した精製 RNA液 ( 104倍)、 E— 6は D— 6に対応した精製 RN A液 ( 105倍)である。
[0176] 糞便試料液 D— 1〜D— 6の代わりに、それぞれ精製 RNA液 E— 1〜E— 6を用い
た以外は、上記く 1 >と同様の操作を行った。
く 2>によって得られた電気泳動図を、図 12に示す。図中、レーン 1は精製 RNA 液 E— 1を用いた結果、レーン 2は精製 RNA液 E— 2を用いた結果、レーン 3は精製 RNA液 E— 3を用いた結果、レーン 4は精製 RNA液 E— 4を用いた結果、レーン 5は 精製 RNA液 E— 5を用いた結果、レーン 6は精製 RNA液 E— 6を用いた結果を示す 。レーン 7は、ネガティブコントロール(Negative Control) ,すなわちノロウィルス感染 者糞便のかわりにノロウィルス非感染の健常者糞便を用いたことを除いて同様の操 作を行った結果を示す。レーン Μは分子量マーカ( φ X 174 RF DNAの Hindi消化物 )である。
[0177] 図 11及び図 12に基づき、 RNAを精製しない糞便試料を用いた場合と、糞便試料 力も精製した RNAを用いた場合とについて、 RNA検出の感度'特異性を比較すると 、検出限界は、両試料共に希釈率 104倍であった。
[0178] 糞便上清中にはウィルスだけでなく多くの細菌や生体由来物質も浮遊しており、そ のなかには RNA分解酵素も多量に存在している。上記の実施例が示す結果は、本 発明の実施により、糞便中に多量に存在する RNA分解酵素の失活と RNAウィルスか らの RNAの抽出、さらには RT-PCR阻害物質の制御が有効に働いたことによるものと 解釈できる。
[0179] <実施例 13 >
ノロウィルスに感染して ヽる 18の異なる検体 (検体番号 1〜 18)にそれぞれ由来す る 18種のノロウィルス陽性糞便について、実施例 12のく 1 >と同様の操作を行った 。得られた電気泳動図を、図 13に示す。図 13中、レーンの数字は、それぞれ検体番 号に相当する。レーン Mは分子量マーカ( φ X 174 RF DNAの Hindi消化物)である。
[0180] 一方、ノロウィルスに感染していない 10の異なる検体 (検体番号 19〜28)にそれぞ れ由来する 10種のノロウィルス陰性糞便につ 、て、実施例 12の < 1 >と同様の操作 を行った。得られた電気泳動図を、図 14に示す。図 14中、レーンの数字は、それぞ れ検体番号に相当する。レーン Mは分子量マーカ( φ X 174 RF DNAの Hindi消化 物)である。
[0181] 図 13及び図 14が示すように、ノロウィルス陽性糞便試料からは全て(18検体中 18
検体)において特異産物が検出された。一方、ノロウィルス陰性糞便試料からは全て
(10検体中 10検体)において擬似産物は検出されな力つた。
[0182] <実施例 14 >
処理試薬として、 30mM NaOH、 20mM DTT、 lOmM EGTAの組成を有する処理試 薬を用い、 20°Cから 100°Cまでの様々な温度及び 1分から 60分までの様々な時間の 条件下で加熱処理を行った以外は、実施例 10と同様の操作を行った。
[0183] 実施例 14によって得られた電気泳動図を図 15に示す。図 15では、 5つのレーンは 、加熱処理時間が、 1 min (分)、 5 min、 15 min、 30 min、及び 60minであった場合に対 応し、それぞれのレーンにつき、加熱処理温度が、 25°C (比較用)、 35°C、 45°C、 50°C 、 55°C、 60°C、 65°C、 70°C、 75°C、 80°C、 85°C、 90°C、 95°C、及び 100°Cであった場合 の結果を示している。
[0184] 増幅された RNAをリアルタイム PCRによって定量した。具体的には、得られた RT-PC R反応液に lO X SYBR(TM) Green I (Molecular Probes)を添カ卩し、温度プログラムとし て、 95°C, 5分のプレヒーティングに続いて、 92°C, 30秒、 58°C, 30秒、及び 72°C, 1分 のサイクルを 30サイクル行い、その後、 72°C, 7分のポリメライゼーシヨンを実行した。 3 0サイクル目の蛍光強度を、図 16に示す。図 16においては、横軸に熱処理温度 (°C) 、縦軸に蛍光強度 (相対蛍光強度: RFU)を示す。
[0185] 本実施例においても、 EGTAの添カ卩により、 RNAの加水分解の速度が著しく小さく なり、広範囲な加熱条件で、安定して RNAの検出が可能となったと考えられる。
[0186] 上記実施例では、本発明の範囲における具体的な形態にっ 、て示したが、本発明 は、これらに限定されることなく他の色々な形態で実施することができる。そのため、 上記実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さら に、クレームの均等範囲に属する変更は、すべて本発明の範囲内である。
なお、配列表フリーテキスト(人工配列の記載 (Description of Artificial Sequence)) において、配列番号 1〜5は、合成プライマーである。
産業上の利用可能性
[0187] 本発明によると、生体試料、環境試料等の試料、もしくは、そこから RNA包含体の分 離等を行って得た生体由来試料等の試料、の中に普遍的に存在する RNaseを失活
させる方法を提供することができる。
本発明によると、生体試料、環境試料等の試料、もしくは、そこから RNA包含体の分 離等を行って得た生体由来試料等の試料、の中に存在する RNA包含体から RNAを 効率よく抽出する方法を提供することができる。
本発明によると、該試料中の RNaseの失活と RNA包含体内部からの RNAの抽出とを 一工程で行うことによって、簡便'安定的'効率的且つ迅速に、試料中に存在する RN Aを増幅することが可能となる。そして、核酸合成に対する阻害物質の作用を抑制す ることにより、さらに簡便 ·安定的 ·効率的且つ迅速に、試料中に存在する RNAを増幅 することが可能となる。このことにより、簡便'安定的'効率的且つ迅速に、試料中の R NAを検出する方法を提供することができる。
本発明によると、これらの方法に用いることができる処理試薬を提供することができ る。