WO2019124239A1 - フッ素系溶剤の回収方法および回収装置、並びに、被洗浄物の洗浄方法および洗浄システム - Google Patents

Abstract

本発明は、使用済みの洗浄溶剤組成物からフッ素系溶剤を高純度かつ高回収率で回収する方法を提供する。本発明のフッ素系溶剤の回収方法は、汚れ成分とフッ素系溶剤とを含む使用済み洗浄溶剤組成物からのフッ素系溶剤の回収方法であって、使用済み洗浄溶剤組成物に水を添加して水混合物を得る工程（Ａ）と、水混合物を蒸留し、水およびフッ素系溶剤を主成分として含む留出液を得る工程（Ｂ）と、留出液から水を除去する工程（Ｃ）とを含む。

Description

フッ素系溶剤の回収方法および回収装置、並びに、被洗浄物の洗浄方法および洗浄システム

　本発明は、精密機械部品、電気・電子部品、光学部品などの被洗浄物の洗浄に用いられた洗浄溶剤組成物からフッ素系溶剤を回収する方法、および、当該フッ素系溶剤の回収方法を利用した被洗浄物の洗浄方法に関するものである。
　また、本発明は、精密機械部品、電気・電子部品、光学部品などの被洗浄物の洗浄に用いられた洗浄溶剤組成物からフッ素系溶剤を回収する装置、および、当該フッ素系溶剤の回収装置を備える被洗浄物の洗浄システムに関するものである。

　従来、精密機械部品工業、電子・電気部品工業、光学部品工業などでは、金属材料、セラミックス材料、プラスチックス材料などの加工や保管に、加工油（例えば、切削油、プレス油、絞り油、圧延油等）、防錆油、ワックス類、グリース類、フラックス類などが使用されている。そして、加工中や保管中に各種材料の表面に付着したこれらの成分（以下、「汚れ成分」と称することがある。）は、通常、中間製品や最終製品とする際に、洗浄溶剤組成物を用いた洗浄により除去されている。

　ここで、汚れ成分を除去する際に使用する洗浄溶剤組成物としては、環境負荷低減の観点から、フッ素系溶剤を含む洗浄溶剤組成物が用いられている。

　そして、上記洗浄溶剤組成物を用いた被洗浄物の洗浄では、コスト削減および環境負荷低減の観点から、使用済みの洗浄溶剤組成物（汚れ成分を含む洗浄溶剤組成物）からフッ素系溶剤を回収し、被洗浄物の洗浄に再利用する技術が用いられている。

　具体的には、例えば特許文献１では、水系洗浄液により脱脂処理した被洗浄物をフッ素系洗浄剤で洗浄処理した際に排出される、水系洗浄液とフッ素系洗浄剤とを含む使用済み洗浄液について、比重分離により水系洗浄液の大部分（主として水）を除去した後、大部分の水系洗浄液が除去された使用済み洗浄液を水の沸点未満の蒸留温度で蒸留することにより、フッ素系洗浄剤を回収し、再利用している。

　また、例えば特許文献２および３では、汚れ成分が溶解している、フッ素系溶剤を含む洗浄溶剤組成物について、貧溶媒の添加および冷却により洗浄溶剤組成物中から汚れ成分を析出させた後、析出した汚れ成分を繊維製の分離フィルターで分離することにより、フッ素系溶剤を含む洗浄溶剤組成物を回収し、再利用している。

特開２０１５－２０２４２１号公報 特開２００３－３３７３０号公報 特開２０１１－１１６９０９号公報

　しかし、特許文献１に記載の技術では、水系洗浄液を除去した後に水の沸点未満の蒸留温度で蒸留を行っているため、フッ素系洗浄剤の回収率を十分に高めることができなかった。

　また、特許文献２，３に記載の技術では、フッ素系溶剤に対する溶解性が高い汚れ成分や微粒子等の分離フィルターで除去し難い汚れ成分が回収した洗浄溶剤組成物中に残留し得るため、フッ素系溶剤を含む洗浄溶剤組成物を十分に高い純度で回収することができなかった。

　そこで、本発明は、使用済みの洗浄溶剤組成物からフッ素系溶剤を高純度かつ高回収率で回収する方法および装置を提供することを目的とする。
　また、本発明は、使用済みの洗浄溶剤組成物から回収したフッ素系溶剤を用いた被洗浄物の洗浄方法および洗浄システムを提供することを目的とする。

　本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、使用済みの洗浄溶剤組成物に水を加えて得た混合物を蒸留することで、フッ素系溶剤を高純度かつ高回収率で回収することが可能となることを見出し、本発明を完成させた。

　即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明によれば、下記（１）～（８）の回収方法、下記（９）の洗浄方法、下記（１０）の回収装置、および、下記（１１）の洗浄システムが提供される。
（１）汚れ成分とフッ素系溶剤とを含む使用済み洗浄溶剤組成物からのフッ素系溶剤の回収方法であって、
　前記使用済み洗浄溶剤組成物に水を添加して水混合物を得る工程（Ａ）と、
　前記水混合物を蒸留し、水およびフッ素系溶剤を主成分として含む留出液を得る工程（Ｂ）と、
　前記留出液から水を除去する工程（Ｃ）と、
を含む、フッ素系溶剤の回収方法。
（２）前記フッ素系溶剤が、ハイドロフルオロエーテル類、ハイドロフルオロカーボン類、ハイドロフルオロクロロオレフィン類、ハイドロフルオロシクロカーボン類から選ばれる１種以上の溶剤を含む、上記（１）に記載のフッ素系溶剤の回収方法。
（３）前記使用済み洗浄溶剤組成物が引火性有機溶剤を更に含み、
　前記引火性有機溶剤が、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、脂肪族アルコール類、芳香族アルコール類、ケトン類、炭酸エステル類、エステル類、ラクトン類からなる群より選ばれる１種以上を含む、上記（１）または（２）に記載のフッ素系溶剤の回収方法。
（４）前記フッ素系溶剤が、１，１，２，２，３，３，４－ヘプタフルオロシクロペンタンであり、
　前記引火性有機溶剤が、芳香族アルコール類である、上記（３）に記載のフッ素系溶剤の回収方法。
（５）前記引火性有機溶剤が、ベンジルアルコールおよびフェネチルアルコールの少なくとも一方を含む、上記（３）または（４）に記載のフッ素系溶剤の回収方法。
（６）前記洗浄溶剤組成物が、前記フッ素系溶剤と共沸するアルコール類を更に含有する、上記（１）～（５）の何れかに記載のフッ素系溶剤の回収方法。
（７）前記フッ素系溶剤が、１，１，２，２，３，３，４－ヘプタフルオロシクロペンタンであり、
　前記アルコール類が、ｔｅｒｔ－アミルアルコールである、上記（６）に記載のフッ素系溶剤の回収方法。
（８）前記洗浄溶剤組成物が、フェノール系酸化防止剤を更に含有する、上記（１）～（７）の何れかに記載のフッ素系溶剤の回収方法。
（９）汚れ成分が付着した被洗浄物を、フッ素系溶剤を含有する洗浄溶剤組成物を用いて洗浄する工程（ａ）と、
　前記工程（ａ）で生じた、汚れ成分とフッ素系溶剤とを含む使用済み洗浄溶剤組成物から上記（１）～（８）の何れかに記載のフッ素系溶剤の回収方法を用いてフッ素系溶剤を回収する工程（ｂ）と、
　前記工程（ｂ）で得たフッ素系溶剤を用いて汚れ成分が付着した被洗浄物を洗浄する工程（ｃ）と、
を含む、被洗浄物の洗浄方法。
（１０）汚れ成分とフッ素系溶剤とを含む使用済み洗浄溶剤組成物からフッ素系溶剤を回収するフッ素系溶剤の回収装置であって、
　前記使用済み洗浄溶剤組成物に水を添加して水混合物を得る水混合部と、
　前記水混合物を蒸留して留出液を得る蒸留部と、
　前記留出液から水を除去する水除去部と、
を含む、フッ素系溶剤の回収装置。
（１１）汚れ成分が付着した被洗浄物を、フッ素系溶剤を含有する洗浄溶剤組成物を用いて洗浄する洗浄装置と、
　上記（１０）に記載のフッ素系溶剤の回収装置と、
　前記洗浄装置から排出される、汚れ成分とフッ素系溶剤とを含む使用済み洗浄溶剤組成物を前記フッ素系溶剤の回収装置へと送る回収ラインと、
　前記フッ素系溶剤の回収装置で回収したフッ素系溶剤を前記洗浄装置へと送る再利用ラインと、
を備える、被洗浄物の洗浄システム。

　ここで、本発明において、「水およびフッ素系溶剤を主成分として含む」とは、水とフッ素系溶剤の合計含有割合が５０質量％以上であることを指す。
　また、本発明において、「引火性有機溶剤」とは、ＪＩＳ Ｋ２２６５に準拠してタグ密閉法とクリーブランド開放法で引火点の測定を行った際に何れかの方法で引火点を有する有機溶剤を指す。

　本発明のフッ素系溶剤の回収方法および回収装置によれば、使用済みの洗浄溶剤組成物からフッ素系溶剤を高純度かつ高回収率で回収することができる。
　また、本発明の被洗浄物の洗浄方法および洗浄システムによれば、使用済みの洗浄溶剤組成物から回収したフッ素系溶剤を使用し、被洗浄物を効率的に洗浄することができる。

本発明に従う被洗浄物の洗浄システムの一例の概略構成を示す説明図である。

　以下、本発明に係る（１）被洗浄物の洗浄方法、（２）フッ素系溶剤の回収方法、（３）被洗浄物の洗浄システムおよびフッ素系溶剤の回収装置について、詳細に説明する。

（１）被洗浄物の洗浄方法
　本発明の被洗浄物の洗浄方法は、汚れ成分が付着した被洗浄物を洗浄溶剤組成物で洗浄する際に用いられ、汚れ成分が付着した被洗浄物を洗浄溶剤組成物で洗浄する工程（ａ）と、工程（ａ）で生じた使用済み洗浄溶剤組成物からフッ素系溶剤を後に詳細に説明するフッ素系溶剤の回収方法を用いて回収する工程（ｂ）と、工程（ｂ）で得たフッ素系溶剤を用いて汚れ成分が付着した被洗浄物を洗浄する工程（ｃ）とを含むことを特徴とする。そして、本発明の被洗浄物の洗浄方法によれば、工程（ｂ）で回収したフッ素系溶剤を再利用して被洗浄物を洗浄するので、被洗浄物の洗浄に要するコストを効果的に削減することができる。

（１－１）被洗浄物
　ここで、被洗浄物としては、特に限定されることなく、例えば、金属材料、セラミックス材料、プラスチックス材料等の各種材料、中間製品および最終製品などが挙げられる。

（１－２）汚れ成分
　また、汚れ成分としては、特に限定されることなく、例えば、加工油（例えば、切削油、プレス油、絞り油、圧延油等）、潤滑油、防錆油、ワックス類、グリース類、フラックス類、液晶類などが挙げられる。

（１－３）洗浄溶剤組成物
　本発明で用いられる洗浄溶剤組成物は、フッ素系溶剤を含有し、任意に、引火性有機溶剤、フッ素系溶剤と共沸するアルコール類およびフェノール系酸化防止剤からなる群より選択される１種以上を更に含有する。また、本発明で用いられる洗浄溶剤組成物は、任意に、エポキシ系化合物を更に含有し得る。中でも、洗浄溶剤組成物の洗浄能力を高める観点からは、洗浄溶剤組成物は、フッ素系溶剤に加えて、少なくとも引火性有機溶剤を含有することが好ましく、引火性有機溶剤およびフッ素系溶剤と共沸するアルコール類を含有することがより好ましい。そして、洗浄溶剤組成物は、引火性を有さないことが好ましい。
　なお、本発明において、「引火性を有さない」とは、ＪＩＳ Ｋ２２６５に準拠してタグ密閉法とクリーブランド開放法で引火点の測定を行い、何れの方法でも引火点が認められないことを指す。

　ここで、洗浄溶剤組成物に含有されるフッ素系溶剤の具体例としては、特に限定されることなく、メチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテル、メチルパーフルオロペンチルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロイソブチルエーテル等のハイドロフルオロエーテル類；１，１，１，３，３－ペンタフルオロブタン等のハイドロフルオロカーボン類；１－クロロ－３，３，３－トリフルオロプロペン等のハイドロフルオロクロロオレフィン類；１，１，２，２，３，３，４－ヘプタフルオロシクロペンタン等のハイドロフルオロシクロカーボン類；を挙げることができる。これらの中でも、フッ素系溶剤としては、ハイドロフルオロクロロオレフィン類、ハイドロフルオロカーボン類およびハイドロフルオロシクロカーボン類が好ましく、１－クロロ－３，３，３－トリフルオロプロペン、１，１，１，３，３－ペンタフルオロブタンおよび１，１，２，２，３，３，４－ヘプタフルオロシクロペンタンがより好ましい。
　なお、上述したフッ素系溶剤は、１種単独で、または、２種以上を混合して用いることができる。
　そして、本発明で用いられる洗浄溶剤組成物に含まれるフッ素系溶剤は、水と共沸組成物または共沸様組成物を形成し得るものであること好ましい。

　また、洗浄溶剤組成物に用いることのできる引火性有機溶剤の具体例としては、特に限定されることなく、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、３－メトキシ－３－メチルブタノール等のグリコールエーテル類；３－メトキシ－３－メチルブチルアセテート等のグリコールエーテルアセテート類；ブタノール、プロパノール、ヘプタノール、ヘキサノール、デカノール、ノナノール等の脂肪族アルコール類；ベンジルアルコール、メチルベンジルアルコール、エチルベンジルアルコール、メトキシベンジルアルコール、エトキシベンジルアルコール、ヒドロキシベンジルアルコール、３－フェニルプロパノール、クミルアルコール、フルフリルアルコール、フェネチルアルコール、メトキシフェネチルアルコール、エトキシフェネチルアルコール等の芳香族アルコール類；メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン類；酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、カプロン酸メチル、カプロン酸ブチル等のエステル類；炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸プロピル等の炭酸エステル類；γ－ブチルラクトン等のラクトン類；を挙げることができる。なお、引火性を有さない洗浄溶剤組成物を得る観点からは、脂肪族アルコール類の炭素数は６以上であることが好ましい。
　そして、上述した中でも、引火性有機溶剤としては、グリコールエーテル類および芳香族アルコール類が好ましく、３－メトキシ－３－メチルブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールがより好ましい。また、引火性有機溶剤は、フッ素系溶剤よりも沸点が高いことが好ましい。そして、フッ素系溶剤が１，１，２，２，３，３，４－ヘプタフルオロシクロペンタンである場合には、引火性有機溶剤は、芳香族アルコール類であることが特に好ましく、ベンジルアルコールおよび／またはフェネチルアルコールを含むことが一層好ましい。
　なお、上述した引火性有機溶剤は、１種単独で、または、２種以上を混合して用いることができる。

　そして、洗浄溶剤組成物に用いることのできる、フッ素系溶剤と共沸するアルコール類としては、特に限定されることなく、ｔｅｒｔ－アミルアルコール等の任意のアルコール類を用いることができる。中でも、フッ素系溶剤が１，１，２，２，３，３，４－ヘプタフルオロシクロペンタンである場合には、洗浄溶剤組成物は、フッ素系溶剤と共沸するアルコール類としてｔｅｒｔ－アミルアルコールを含むことが好ましい。

　また、洗浄溶剤組成物に用いることのできるフェノール系酸化防止剤としては、特に限定されることなく、フェノール、２，６－ジ－ｔ－ブチルフェノール、２，６－ジ－ｔ－ブチル－ｐ－クレゾール、ブチルヒドロキシルアニソール等を挙げることができる。これらの中でも、酸化防止効果が高い観点から、フェノール系酸化防止剤としては、２，６－ジ－ｔ－ブチル－ｐ－クレゾールが好ましい。
　なお、上述したフェノール系酸化防止剤は、１種単独で、または、２種以上を混合して用いることができる。

　更に、洗浄溶剤組成物に用いることのできるエポキシ系化合物としては、特に限定されることなく、ブチレンオキシド、ペンテンオキシド、ヘキセンオキシド、ヘプテンオキシド、オクテンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、シクロヘプテンオキシド、シクロオクテンオキシド、グリシドール、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
　なお、上述したエポキシ系化合物は、１種単独で、または、２種以上を混合して用いることができる。

　そして、洗浄溶剤組成物に含まれているフッ素系溶剤、並びに、任意成分である引火性有機溶剤、フッ素系溶剤と共沸するアルコール類、フェノール系酸化防止剤およびエポキシ系化合物の割合は、汚れ成分の種類などに応じて適宜に設定し得る。

（１－４）工程（ａ）
　工程（ａ）では、汚れ成分が付着した被洗浄物を洗浄溶剤組成物で洗浄する。なお、工程（ａ）では、汚れ成分が付着した被洗浄物を洗浄溶剤組成物で洗浄した後、任意に、洗浄溶剤組成物で洗浄した被洗浄物のリンスおよび蒸気洗浄を行ってもよい。
　ここで、「リンス」とは、洗浄溶剤組成物で洗浄された被洗浄物に付着している洗浄溶剤組成物および／または汚れ成分を含む洗浄溶剤組成物を、リンス液で置換することを指す。また、「蒸気洗浄」とは、リンスされた被洗浄物の表面にわずかに残留する汚れ成分を含む洗浄溶剤組成物等を、フッ素系溶剤の蒸気を主成分とする蒸気を利用して除去することを指す。

　汚れ成分が付着した被洗浄物の洗浄は、特に限定されることなく、洗浄溶剤組成物に被洗浄物を浸漬し、或いは、被洗浄物に洗浄溶剤組成物を噴き付けて、洗浄溶剤組成物に汚れ成分を溶解または分散させることにより行うことができる。この時、使用する洗浄溶剤組成物の温度は、汚れ成分の溶解性または分散性に対応して適宜に設定することができ、洗浄に使用される洗浄溶剤組成物は、沸騰していてもよい。

　洗浄溶剤組成物で洗浄した被洗浄物のリンスは、特に限定されることなく、リンス液に被洗浄物を浸漬し、或いは、被洗浄物にリンス液を噴き付けて、被洗浄物に付着している洗浄溶剤組成物および／または汚れ成分を含む洗浄溶剤組成物をリンス液で置換することにより行うことができる。
　なお、蒸気洗浄時の蒸気洗浄性を高める観点からは、使用するリンス液の温度は、できるだけ低温に保つことが好ましく、例えば、リンス液の温度は、蒸気洗浄で使用する蒸気の温度よりも２０℃以上低いことが好ましい。また、リンス液に被洗浄物を浸漬して被洗浄物のリンスを行う場合、リンス中の被洗浄物には、超音波を照射してもよいし、噴流や搖動などの物理的な力を加えてもよい。

　ここで、リンス液としては、特に限定されることなく、上述したフッ素系溶剤を主成分とする溶剤（即ち、フッ素系溶剤を５０質量％以上含有する溶剤）を用いることが好ましい。ここで、フッ素系溶剤を主成分とする溶剤は、リンス性や蒸気洗浄性を阻害しない範囲において、フッ素系溶剤の他に、上述した引火性有機溶剤および／またはフッ素系溶剤と共沸するアルコール類を含んでいてもよい。また、フッ素系溶剤を主成分とする溶剤は、リンス性や蒸気洗浄性を阻害しない範囲において、上述したエポキシ系化合物を更に含んでいてもよい。但し、フッ素系溶剤以外の成分を含む場合は、引火点の予測可能性の観点から、フッ素系溶剤を主成分とする溶剤は共沸組成を形成することが好ましい。具体的には、フッ素系溶剤以外の成分を含む場合、リンス液としては、フッ素系溶剤と、フッ素系溶剤と共沸するアルコール類とを含む溶剤を用いることが好ましく、フッ素系溶剤と、フッ素系溶剤と共沸するアルコール類との合計含有割合が９８質量％以上の溶剤を用いることがより好ましい。
　なお、上記フッ素系溶剤を主成分とする溶剤に含まれている、フッ素系溶剤、並びに、任意成分としての引火性有機溶剤、フッ素系溶剤と共沸するアルコール類およびエポキシ系化合物としては、被洗浄物の洗浄に使用した洗浄溶剤組成物に含まれていたものと同じものを使用することが好ましい。

　リンス液でリンスした被洗浄物の蒸気洗浄は、特に限定されることなく、上述したフッ素系溶剤の蒸気を主成分とする蒸気に被洗浄物を曝すことにより行うことができる。そして、蒸気洗浄では、蒸気と被洗浄物との温度差により、フッ素系溶剤の蒸気を主成分とする蒸気が被洗浄物の表面で凝縮液となり、汚れ成分を含む洗浄溶剤組成物等が除去される。ここで、蒸気洗浄は、被洗浄物の表面温度が蒸気の温度と同じになり、フッ素系溶剤の蒸気を主成分とする蒸気の凝縮が止まったタイミングで終了することができる。

　なお、蒸気洗浄に用いるフッ素系溶剤の蒸気を主成分とする蒸気としては、特に限定されることなく、被洗浄物の洗浄に使用する洗浄溶剤組成物の蒸気を用いることが好ましい。
　ここで、蒸気洗浄に洗浄溶剤組成物の蒸気を使用する場合、被洗浄物の洗浄に使用する洗浄溶剤組成物の組成の変化は、リンス液などのフッ素系溶剤を主成分とする溶剤を蒸発量と略等しい量で洗浄溶剤組成物に供給することにより、抑制することができる。

　そして、洗浄溶剤組成物を用いて洗浄した後、任意にリンスおよび蒸気洗浄を行った被洗浄物は、特に限定されることなく、既知の乾燥方法を用いて乾燥することができる。

（１－５）工程（ｂ）
　工程（ａ）で使用した洗浄溶剤組成物には、被洗浄物を洗浄することにより汚れ成分が混入する。そして、汚れ成分が混入した洗浄溶剤組成物は、洗浄力が低下するため、当該洗浄溶剤組成物をそのまま洗浄に使用し続けると、汚れ成分が被洗浄物に残り易くなる。そのため、工程（ａ）で使用する洗浄溶剤組成物は、適当なタイミングで、新しい洗浄溶剤組成物と入れ替える、或いは、一部を抜き出して新しい洗浄溶剤組成物を補充する必要がある。そこで、本発明の被洗浄物の洗浄方法では、工程（ａ）で生じる、汚れ成分を含む洗浄溶剤組成物（使用済み洗浄溶剤組成物）からフッ素系溶剤を後述する本発明のフッ素系溶剤の回収方法を用いて回収し、被洗浄物の洗浄に再利用し得るようにする。
　なお、工程（ｂ）においてフッ素系溶剤を回収される使用済み洗浄溶剤組成物中の汚れ成分の濃度は、洗浄溶剤組成物に求められる洗浄力に応じて適宜に設定することができる。即ち、使用済み洗浄溶剤組成物は、汚れ成分の除去力が完全に失われたものであってもよいし、汚れ成分の除去力をある程度有しているものであってもよい。

（１－６）工程（ｃ）
　工程（ｃ）では、工程（ｂ）で得たフッ素系溶剤を用いて汚れ成分が付着した被洗浄物を洗浄する。このように、工程（ｂ）で回収したフッ素系溶剤を再利用して被洗浄物を洗浄することで、複数の被洗浄物を連続的または断続的に洗浄する場合であっても、被洗浄物の洗浄に要するコストを効果的に削減することができる。

　ここで、工程（ｂ）で回収したフッ素系溶剤は、特に限定されることなく、必要に応じて引火性有機溶剤、フッ素系溶剤と共沸するアルコール類、フェノール系酸化防止剤およびエポキシ系化合物からなる群より選択される１種以上を添加して所望の組成を有する洗浄溶剤組成物とすることにより、洗浄溶剤組成物による被洗浄物の洗浄に利用することができる。また、工程（ｂ）で回収したフッ素系溶剤は、回収したフッ素系溶剤をリンス液として被洗浄物のリンスに用いることにより被洗浄物の洗浄に利用してもよい。

　なお、工程（ｂ）で回収したフッ素系溶剤を用いた被洗浄物の洗浄は、上述した工程（ａ）と同様にして行うことができる。
　また、本発明の被洗浄物の洗浄方法では、工程（ｃ）の後に、工程（ｃ）で生じる、汚れ成分を含む洗浄溶剤組成物から上記工程（ｂ）と同様にしてフッ素系溶剤を回収する工程（ｄ）と、工程（ｄ）において回収したフッ素系溶剤を用いて被洗浄物を洗浄する工程（ｅ）とを繰り返して実施することがより好ましい。このように、工程（ｂ）および工程（ｃ）の後に工程（ｄ）および工程（ｅ）を繰り返して実施すれば、被洗浄物を連続的かつ効率的に洗浄することができる。

（２）フッ素系溶剤の回収方法
　本発明のフッ素系溶剤の回収方法は、フッ素系溶剤を含有する洗浄溶剤組成物に汚れ成分が溶解または分散してなる使用済み洗浄溶剤組成物からフッ素系溶剤を回収する際に用いられ、使用済み洗浄溶剤組成物に水を添加して水混合物を得る工程（Ａ）と、工程（Ａ）で得た水混合物を蒸留し、水およびフッ素系溶剤を主成分として含む留出液を得る工程（Ｂ）と、工程（Ｂ）で得た留出液から水を除去する工程（Ｃ）とを含むことを特徴とする。
　そして、本発明のフッ素系溶剤の回収方法によれば、使用済み洗浄溶剤組成物をそのまま蒸留するのではなく、使用済み洗浄溶剤組成物に水を添加してなる水混合物を蒸留して得た留出液から水を除去しているので、フッ素系溶剤を高純度かつ高回収率（例えば、回収率８０％以上）で回収することができる。なお、水を添加してなる水混合物を蒸留することでフッ素系溶剤を高純度かつ高回収率で回収することができる理由は、明らかではないが、水の添加によりフッ素系溶剤の沸点降下が起こるためであると推察される。

　なお、本発明のフッ素系溶剤の回収方法は、上述した本発明の被洗浄物の洗浄方法の工程（ｂ）および工程（ｄ）においてフッ素系溶剤を回収する際に特に好適に用いることができるが、本発明のフッ素系溶剤の回収方法は、上述した本発明の被洗浄物の洗浄方法以外の用途に用いてもよい。

（２－１）汚れ成分、洗浄溶剤組成物および使用済み洗浄溶剤組成物
　ここで、汚れ成分、洗浄溶剤組成物および使用済み洗浄溶剤組成物としては、上述した本発明の被洗浄物の洗浄方法と同様のものを用いることができるので、説明を省略する。

（２－２）工程（Ａ）
　工程（Ａ）では、使用済み洗浄溶剤組成物に水を添加し、使用済み洗浄溶剤組成物と、水とを含む混合物（水混合物）を得る。

　ここで、水の添加量は、特に限定されるものではないが、工程（Ｂ）で回収されるフッ素系溶剤の回収率および純度を向上させる観点からは、使用済み洗浄溶剤組成物に含まれているフッ素系溶剤１００質量部当たり、８質量部以上であることが好ましく、１０質量部以上であることがより好ましい。また、水の添加量は、工程（Ｂ）において水混合物を蒸留する際の蒸留温度において系内に遊離水が存在し得る量（即ち、蒸留温度における使用済み洗浄溶剤組成物に対する水の溶解度よりも多い量）とすることが好ましい。なお、水の添加量は、通常、水混合物中に含まれている水の量が水混合物中に含まれているフッ素系溶剤の量以下となる量にする。
　また、水としては、純水などの殺菌用の塩素を含まない水を用いることが好ましい。

（２－３）工程（Ｂ）
　工程（Ｂ）では、工程（Ａ）で得た水混合物を蒸留し、水およびフッ素系溶剤を主成分として含む留出液を得る。なお、工程（Ｂ）では、水を連続的に添加しつつ蒸留を行ってもよい。

　ここで、水混合物を蒸留する際の蒸留温度（液相の温度）は、水およびフッ素系溶剤を主成分として含む留出液を得ることができれば特に限定されるものではないが、通常、汚れ成分の沸点（汚れ成分が洗浄溶剤組成物に含まれる成分および／または水と共沸組成物または共沸様組成物を形成する場合にはその共沸点）未満である。
　また、回収されるフッ素系溶剤の純度を更に向上させる観点からは、蒸留温度は、フッ素系溶剤の沸点（フッ素系溶剤が水と共沸組成物または共沸様組成物を形成する場合にはその共沸点）以下であることが好ましく、回収されるフッ素系溶剤の回収率を更に向上させる観点からは、蒸留温度は、水の沸点以上であることが好ましい。具体的には、フッ素系溶剤が水と共沸組成物または共沸様組成物を形成し得る１，１，２，２，３，３，４－ヘプタフルオロシクロペンタンである場合には、蒸留温度は、１０５℃以下であることが好ましい。
　更に、留出液から水を除去して得られる回収物が引火性を有する組成物になるのを防止する観点からは、蒸留温度は、引火性有機溶剤の沸点（引火性有機溶剤が洗浄溶剤組成物に含まれる他の成分および／または水と共沸組成物または共沸様組成物を形成する場合にはその共沸点）未満であることが好ましい。

　そして、工程（Ｂ）で得られる留出液中の水およびフッ素系溶剤の合計含有割合（＝｛（水の含有量＋フッ素系溶剤の含有量）／留出液の量｝×１００％）は、７０質量％以上であることが好ましく、８０質量％以上であることがより好ましく、９０質量％以上であることが更に好ましく、９５質量％以上であることが特に好ましい。

　なお、留出液には、引火性有機溶剤、フッ素系溶剤と共沸するアルコール類、フェノール系酸化防止剤、エポキシ系化合物および汚れ成分等のその他の成分が含まれていてもよい。但し、回収したフッ素系溶剤を被洗浄物の洗浄に利用する場合には、留出液は汚れ成分を含有しない（即ち、汚れ成分の含有量が検出下限以下である）ことが好ましい。
　そして、留出液にその他の成分が含まれている場合、その他の成分は、工程（Ｃ）の前または後に、必要に応じて水洗などの既知の手法で除去してもよい。

（２－４）工程（Ｃ）
　工程（Ｃ）では、工程（Ｂ）において得られた留出液から水を除去し、フッ素系溶剤を含む回収物を得る。ここで、フッ素系溶剤は、通常、水との相溶性が低いので、工程（Ｃ）では水を容易に除去し、高純度のフッ素系溶剤を含む回収物を得ることができる。

　なお、留出液からの水の除去は、特に限定されることなく、既知の水分離器や水分離膜（例えば、旭化成株式会社製、ユーテック膜（登録商標）等）を用いて行うことができる。

（３）被洗浄物の洗浄システムおよびフッ素系溶剤の回収装置
　本発明の被洗浄物の洗浄システムは、汚れ成分が付着した被洗浄物を、フッ素系溶剤を含有する洗浄溶剤組成物で洗浄する際に用いられ、汚れ成分が付着した被洗浄物を、フッ素系溶剤を含有する洗浄溶剤組成物を用いて洗浄する洗浄装置と、後に詳細に説明する本発明のフッ素系溶剤の回収装置と、洗浄装置から排出される使用済み洗浄溶剤組成物を回収装置へと送る回収ラインと、回収装置で回収したフッ素系溶剤を洗浄装置へと送る再利用ラインとを備えることを特徴とする。そして、本発明の被洗浄物の洗浄システムによれば、回収装置で回収したフッ素系溶剤を洗浄装置へと送って再利用することができるので、被洗浄物の洗浄に要するコストを効果的に削減することができる。

　また、本発明のフッ素系溶剤の回収装置は、汚れ成分とフッ素系溶剤とを含む使用済み洗浄溶剤組成物からフッ素系溶剤を回収する際に用いられ、使用済み洗浄溶剤組成物に水を添加して水混合物を得る水混合部と、水混合部で得られる水混合物を蒸留して留出液を得る蒸留部と、蒸留部で得た留出液から水を除去する水除去部とを備えることを特徴とする。そして、本発明のフッ素系溶剤の回収装置によれば、水混合部、蒸留部および水除去部を備えているので、フッ素系溶剤を高純度かつ高回収率で回収することができる。
　なお、本発明のフッ素系溶剤の回収装置は、上述した本発明の被洗浄物の洗浄システムの回収装置として特に好適に用いることができるが、本発明のフッ素系溶剤の回収装置は、上述した本発明の被洗浄物の洗浄システム以外の洗浄システムに用いてもよいし、洗浄システムに組み込むことなく単独で使用してもよい。

　そして、本発明の被洗浄物の洗浄システムおよびフッ素系溶剤の回収装置の一例は、特に限定されることなく、例えば図１に示すような構成を有している。

　ここで、図１に示す被洗浄物の洗浄システム１００は、汚れ成分が付着した被洗浄物を洗浄する洗浄装置１０と、フッ素系溶剤の回収装置２０と、洗浄装置１０から排出される使用済み洗浄溶剤組成物を回収装置２０へと送る回収ライン１８と、回収装置２０で回収されたフッ素系溶剤を洗浄装置１０へと送る再利用ライン２６とを備えている。また、洗浄システム１００は、再利用ライン２６に設けられて回収されたフッ素系溶剤を貯留する貯留タンク３０と、洗浄装置１０で使用される洗浄溶剤組成物の組成を調整するための組成調整用タンク４０とを備えている。
　なお、被洗浄物、汚れ成分、洗浄溶剤組成物および使用済み洗浄溶剤組成物としては、上述した本発明の被洗浄物の洗浄方法と同様のものを用いることができるので、以下では説明を省略する。

　洗浄装置１０は、特に限定されることなく、例えば２槽式の洗浄装置であり、洗浄溶剤組成物が貯留され、被洗浄物の洗浄を行う洗浄槽１１と、リンス液が貯留され、洗浄槽１１で洗浄が行われた被洗浄物をリンスするリンス槽１２とを備えている。また、洗浄装置１０は、リンス槽１２から洗浄槽１１へリンス液を送液するオーバーフロー配管１３と、洗浄槽１１内の洗浄溶剤組成物を加温するヒーター１４とを備えている。更に、洗浄装置１０内の洗浄槽１１およびリンス槽１２の上方には、冷却コイル１６が設けられており、洗浄槽１１およびリンス槽１２の上部、より具体的には洗浄槽１１およびリンス槽１２と、冷却コイル１６との間には、ヒーター１４により加温されて気化した蒸気が滞留する蒸気相１５が形成されている。また、洗浄装置１０は、冷却コイル１６により冷却された蒸気の凝縮液から水分を除去し、得られた液体をリンス槽１２へと送る水分離器１７を更に備えている。なお、洗浄装置１０の洗浄槽１１には、洗浄溶剤組成物に含まれている成分の濃度を管理するためのセンサー（例えば、温度計、比重計、液面計等）が備えられていてもよい。

　ここで、リンス槽１２のリンス液としては、上述した本発明の被洗浄物の洗浄方法と同様のものを用いることができるので、以下では説明を省略する。
　また、洗浄溶剤組成物をヒーター１４で加温して得られる蒸気は、通常、フッ素系溶剤の蒸気を主成分とするものである。そして、当該蒸気の凝縮液は、フッ素系溶剤を主成分とし、水が含まれていることがある。

　回収装置２０は、使用済み洗浄溶剤組成物に水を添加して水混合物を得る水混合部としての水混合槽２１と、水混合槽２１で得た水混合物を蒸留して留出液を得る蒸留部としての蒸留槽２２と、蒸留槽２２で得た留出液から水を除去する水除去部としての水分離器２５とを備えている。

　ここで、回収装置２０の水混合槽２１は、回収ライン１８を介して洗浄装置１０の洗浄槽１１の下部と接続されている。そして、水混合槽２１では、再生ライン１８を介して洗浄槽１１から流入する使用済み洗浄溶剤組成物が貯留されると共に、使用済み洗浄溶剤組成物に水が添加されて使用済み洗浄溶剤組成物と水とを含む水混合物が調製される。
　なお、水としては、純水などの殺菌用の塩素を含まない水を用いることが好ましい。

　回収装置２０の蒸留槽２２には、水混合槽２１から流入した水混合物を加熱するためのヒーター２３と、蒸留槽２２内の上部に設けられた冷却コイル２４とが設けられており、蒸留槽２２内に貯留されてヒーター２３で加熱される水混合物と、冷却コイル２４との間には、ヒーター２３により加熱されて気化した水混合物の蒸気が滞留する蒸気相が形成されている。また、蒸留槽２２は、蒸留残液を排出する排出ライン２７を底部に備えている。
　なお、蒸留槽２２には、蒸留槽２２内に水を供給するための水供給機構が設けられていてもよい。

　水分離器２５は、冷却コイル２４により冷却された蒸気の凝縮液（留出液）から水分を除去し、得られたフッ素系溶剤を含む回収物をリンス槽１２へと送る。
　なお、図示例では、フッ素系溶剤を含む回収物は貯留タンク３０に貯留されてからリンス槽１２へと送られる。また、回収物にフッ素系溶剤以外の成分が含まれている場合、回収物は、必要に応じて図示しない精製機構で精製して不要な成分を除去してからリンス槽１２へと送ることができる。

　そして、上述した洗浄システム１００では、以下のようにして、被洗浄物の洗浄、フッ素系溶剤の回収および回収したフッ素系溶剤の再利用を行うことができる。

　汚れ成分が付着した被洗浄物は、洗浄槽１１内の洗浄溶剤組成物に浸漬し、汚れ成分を洗浄溶剤組成物に溶解または分散させることで、洗浄することができる。この際、洗浄槽１１内の洗浄溶剤組成物の温度は、汚れ成分の溶解性または分散性に対応して適宜に設定することができ、洗浄に使用される洗浄溶剤組成物は、沸騰していてもよい。そして、洗浄槽１１で洗浄した被洗浄物は、被洗浄物に付着している洗浄溶剤組成物および／または汚れ成分を含む洗浄溶剤組成物をリンスするために、リンス槽１２のリンス液に浸漬される。この時、リンス槽１２では、被洗浄物に超音波を照射してもよいし、噴流や搖動など物理的な力を加えてもよい。また、リンス槽１２内のリンス液の温度は、特に限定されないが、蒸気洗浄性を高めるために、できるだけ低温に保つことが好ましく、蒸気相１５の蒸気の温度よりも２０℃以上低いことが好ましい。その後、被洗浄物は、リンス槽１２から蒸気相１５へと引き上げられ、蒸気洗浄される。そして、蒸気洗浄が終了した被洗浄物は、蒸気相１５よりも更に上方に引き上げられて、乾燥される。

　また、被洗浄物の洗浄により汚れ成分が混入した洗浄溶剤組成物の一部（使用済み洗浄溶剤組成物）は、回収ライン１８を介して洗浄槽１１から回収装置２０へと送られ、以下のようにして使用済み洗浄溶剤組成物からフッ素系溶剤が回収される。具体的には、洗浄槽１１中の洗浄溶剤組成物は、回収ライン１８を介して水混合槽２１に送られ、水混合槽２１で水を添加される。次いで、汚れ成分と、洗浄溶剤組成物と、水とを含む水混合物は、蒸留槽２２へと送られた後、蒸留されて、水およびフッ素系溶剤を主成分として含む留出液と、蒸留残液とに分離される。そして、留出液は、水分離器２５で水を分離され、得られた回収物（フッ素系溶剤を含む回収物）は再利用ライン２６および貯留タンク３０を介してリンス槽１２へと送られ、被洗浄物の洗浄に再利用される。また、蒸留残液は排出ライン２７を介して廃液タンクなどへと排出され、廃棄処分される。ここで、蒸留残液は、蒸留温度が所定の温度になったタイミング等の所定のタイミングで排出してもよいし、常時排出してもよい。

　なお、上述した被洗浄物の洗浄過程において、洗浄溶剤組成物およびリンス液の組成および量は、ヒーター１４により加温されて生成したフッ素系溶剤の蒸気を主成分とする蒸気が冷却コイル１６により冷却されて凝縮液となり、水分離器１７により水分が除去された後にリンス槽１２へと返送されることにより、蒸発量と略等しい量のフッ素系溶剤を主成分とするリンス液がオーバーフロー配管１３を介して洗浄槽１１へと流入することで、略均一に保たれる。
　また、フッ素系溶剤を含む回収物をリンス槽１２へと送ることによる洗浄溶剤組成物の組成の変化は、組成調整用タンク４０から、引火性有機溶剤、フッ素系溶剤と共沸するアルコール類、フェノール系酸化防止剤およびエポキシ系化合物からなる群より選択される１種以上を必要に応じて供給して洗浄槽１１内の洗浄溶剤組成物の組成を調整することにより、防止することができる。

　以上、一例を用いて本発明の被洗浄物の洗浄システムおよびフッ素系溶剤の回収装置について説明したが、本発明の被洗浄物の洗浄システムおよびフッ素系溶剤の回収装置は上記一例に限定されるものではない。

　具体的には、本発明の被洗浄物の洗浄システムにおいて、洗浄槽やリンス槽の数は、必要に応じて２槽以上にしてもよい。また、回収したフッ素系溶剤の返送先は、リンス槽１２に限定されるものではなく、回収したフッ素系溶剤は、洗浄槽１１や、別途準備した洗浄装置における被洗浄物の洗浄などに用いてもよい。

　以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
　なお、以下において、留出液および蒸留残液の組成、並びに、回収したフッ素系溶剤の純度および回収率は下記のようにして分析または評価した。

＜組成分析＞
　留出液および蒸留残液について、水を含む場合には室温下で水を比重分離した後、有機層をガスクロマトグラフ（ＧＣ）で分析し、それぞれの組成を求めた。
＜純度＞
　以下の式から回収したフッ素系溶剤の純度を求めた。
フッ素系溶剤の純度
　＝｛留出液中のフッ素系溶剤の量／（留出液の量－留出液中の水の量）｝×１００％
＜回収率＞
　以下の式からフッ素系溶剤の回収率を求めた。
フッ素系溶剤の回収率
　＝（留出液中のフッ素系溶剤の量／使用済み洗浄溶剤組成物中のフッ素系溶剤の量）×１００％

（実施例１）
　使用済み洗浄溶剤組成物として、フッ素系溶剤としての１，１，２，２，３，３，４－ヘプタフルオロシクロペンタン３８３ｇと、引火性有機溶剤としてのベンジルアルコール５００ｇと、フッ素系溶剤と共沸するアルコール類としてのｔｅｒｔ－アミルアルコール１７ｇと、汚れ成分としてのリライアカットＤＳ－１０（ＪＸ日鉱日石エネルギー株式会社製、密度（１５℃）：０．８６ｇ／ｃｍ^３、動粘度（４０℃）：１１．８ｍｍ^２／ｓ）１００ｇとの混合物を準備した。
　そして、冷却管を備えた１０００ｍｌ丸底フラスコに、上述した使用済み洗浄溶剤組成物と、水（純水）１２０ｇとを投入し、丸底フラスコを１２０℃に加温されたオイルバスに浸して蒸留を行った。丸底フラスコの液相温度（蒸留温度）が１００℃に到達した時点で蒸留を停止し、直ちに留出液および蒸留残液の組成を調べた。また、回収したフッ素系溶剤の純度および回収率を求めた。結果を表１に示す。

（比較例１）
　水を添加しなかった以外は実施例１と同様にして使用済み洗浄溶剤組成物の準備および蒸留を行った。そして、実施例１と同様にして分析および評価を行った。結果を表２に示す。

　表１および２より、水を添加した実施例１では、水を添加しなかった比較例１よりもフッ素系溶剤を高純度かつ高回収率で回収できていることが分かる。

　本発明のフッ素系溶剤の回収方法および回収装置によれば、使用済みの洗浄溶剤組成物からフッ素系溶剤を高純度かつ高回収率で回収することができる。
　また、本発明の被洗浄物の洗浄方法および洗浄システムによれば、使用済みの洗浄溶剤組成物から回収したフッ素系溶剤を使用し、被洗浄物を効率的に洗浄することができる。

１０　洗浄装置
１１　洗浄槽
１２　リンス槽
１３　オーバーフロー配管
１４　ヒーター
１５　蒸気相
１６　冷却コイル
１７　水分離器
１８　回収ライン
２０　回収装置
２１　水混合槽
２２　蒸留槽
２３　ヒーター
２４　冷却コイル
２５　水分離器
２６　再利用ライン
２７　排出ライン
３０　貯留タンク
４０　組成調整用タンク
１００　洗浄システム

Claims (11)

1. 　汚れ成分とフッ素系溶剤とを含む使用済み洗浄溶剤組成物からのフッ素系溶剤の回収方法であって、
   　前記使用済み洗浄溶剤組成物に水を添加して水混合物を得る工程（Ａ）と、
   　前記水混合物を蒸留し、水およびフッ素系溶剤を主成分として含む留出液を得る工程（Ｂ）と、
   　前記留出液から水を除去する工程（Ｃ）と、
   を含む、フッ素系溶剤の回収方法。
2. 　前記フッ素系溶剤が、ハイドロフルオロエーテル類、ハイドロフルオロカーボン類、ハイドロフルオロクロロオレフィン類、ハイドロフルオロシクロカーボン類から選ばれる１種以上の溶剤を含む、請求項１に記載のフッ素系溶剤の回収方法。
3. 　前記使用済み洗浄溶剤組成物が引火性有機溶剤を更に含み、
   　前記引火性有機溶剤が、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、脂肪族アルコール類、芳香族アルコール類、ケトン類、炭酸エステル類、エステル類、ラクトン類からなる群より選ばれる１種以上を含む、請求項１または２に記載のフッ素系溶剤の回収方法。
4. 　前記フッ素系溶剤が、１，１，２，２，３，３，４－ヘプタフルオロシクロペンタンであり、
   　前記引火性有機溶剤が、芳香族アルコール類である、請求項３に記載のフッ素系溶剤の回収方法。
5. 　前記引火性有機溶剤が、ベンジルアルコールおよびフェネチルアルコールの少なくとも一方を含む、請求項３または４に記載のフッ素系溶剤の回収方法。
6. 　前記洗浄溶剤組成物が、前記フッ素系溶剤と共沸するアルコール類を更に含有する、請求項１～５の何れかに記載のフッ素系溶剤の回収方法。
7. 　前記フッ素系溶剤が、１，１，２，２，３，３，４－ヘプタフルオロシクロペンタンであり、
   　前記アルコール類が、ｔｅｒｔ－アミルアルコールである、請求項６に記載のフッ素系溶剤の回収方法。
8. 　前記洗浄溶剤組成物が、フェノール系酸化防止剤を更に含有する、請求項１～７の何れかに記載のフッ素系溶剤の回収方法。
9. 　汚れ成分が付着した被洗浄物を、フッ素系溶剤を含有する洗浄溶剤組成物を用いて洗浄する工程（ａ）と、
   　前記工程（ａ）で生じた、汚れ成分とフッ素系溶剤とを含む使用済み洗浄溶剤組成物から請求項１～８の何れかに記載のフッ素系溶剤の回収方法を用いてフッ素系溶剤を回収する工程（ｂ）と、
   　前記工程（ｂ）で得たフッ素系溶剤を用いて汚れ成分が付着した被洗浄物を洗浄する工程（ｃ）と、
   を含む、被洗浄物の洗浄方法。
10. 　汚れ成分とフッ素系溶剤とを含む使用済み洗浄溶剤組成物からフッ素系溶剤を回収するフッ素系溶剤の回収装置であって、
    　前記使用済み洗浄溶剤組成物に水を添加して水混合物を得る水混合部と、
    　前記水混合物を蒸留して留出液を得る蒸留部と、
    　前記留出液から水を除去する水除去部と、
    を含む、フッ素系溶剤の回収装置。
11. 　汚れ成分が付着した被洗浄物を、フッ素系溶剤を含有する洗浄溶剤組成物を用いて洗浄する洗浄装置と、
    　請求項１０に記載のフッ素系溶剤の回収装置と、
    　前記洗浄装置から排出される、汚れ成分とフッ素系溶剤とを含む使用済み洗浄溶剤組成物を前記フッ素系溶剤の回収装置へと送る回収ラインと、
    　前記フッ素系溶剤の回収装置で回収したフッ素系溶剤を前記洗浄装置へと送る再利用ラインと、
    を備える、被洗浄物の洗浄システム。

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