特開2002-143300号公報のようにバレル内面に塗布されたシリコーンオイルを器具で塗り広げる場合、当該器具でバレル内面を擦るため、バレル内面に傷が付いたり異物が付着したりする可能性があった。
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、バレル内面に傷が付いたり異物が付着したりすることなくシリコーンオイルが均一に塗布されたシリンジ用バレル、プレフィルドシリンジ及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するため、本発明のシリンジ用バレルの製造方法は、中空の胴部を備え、前記胴部の内面上を摺動するガスケットが挿入可能なシリンジ用バレルを提供する提供工程と、前記内面に、粘度3000~30000cpsの非反応性のシリコーンオイルを0.02~0.2mg/cm2の塗布量で噴霧により塗布する塗布工程と、前記シリンジ用バレル内に液体が充填されていない状態で、前記内面に塗布された前記シリコーンオイルを塗り広げることなく、前記内面に塗布された前記シリコーンオイルを加熱する加熱工程と、を含むことを特徴とする。
このようなシリンジ用バレルの製造方法によれば、バレル内面に塗布された非反応性のシリコーンオイルを加熱して粘度を低下させることで、シリコーンオイルはバレル内面及び重力の方向に広がる。この結果、シリコーンオイル分布がより均一となり、これにより、シリンジ用バレルに挿入されるガスケットの摺動抵抗を低く抑えることができる。また、上記粘度のシリコーンオイルを塗布することにより、加熱時の粘度を適度に低下させ、シリコーンオイル分布を効果的に均一化することができる。さらに、上記塗布量でシリコーンオイルを塗布することにより、シリコーンオイルを過剰に塗布することなく、均一にバレル内面に広げることができる。加えて、シリコーンオイル分布の均一化のためにバレル内面に塗布されたシリコーンオイルをスキージ等の器具で塗り広げないため、バレル内面が傷付いたり異物が付着したりすることなく、シリコーンオイルが均一に塗布されたシリンジ用バレルが得られる。
上記のシリンジ用バレルの製造方法において、前記加熱工程では、前記シリンジ用バレルに対してオートクレーブ滅菌を施すことにより前記シリコーンオイルを加熱してもよい。
これにより、シリンジ用バレルに対するオートクレーブ滅菌時にシリコーンオイルが加熱されるため、シリコーンオイルの加熱のためだけの工程を設ける必要がなく、シリンジ用バレルを効率的に製造することができる。また、オートクレーブ滅菌は、電子線滅菌等の他の滅菌処理と比較して、シリンジ用バレルの変質を抑制でき、シリンジ用バレルに充填される薬液への悪影響を抑制できる。
上記のシリンジ用バレルの製造方法において、前記加熱工程は、前記シリンジ用バレルの軸を略鉛直にした状態で実施してもよい。
これにより、加熱時にシリコーンオイルが重力によりバレル軸方向に広がるため、シリコーンオイル分布の一層の均一化が図られる。
上記のシリンジ用バレルの製造方法において、前記塗布工程では、前記シリンジ用バレルの一端側から他端側へ向けて前記シリコーンオイルを噴霧することにより、前記シリコーンオイルを前記内面に塗布し、前記加熱工程は、前記他端側を下方に向けた状態で実施してもよい。
これにより、噴霧する側とは反対側を下に向けて加熱することで、重力によりシリコーンオイルの塊がバレルの一端側から他端側へ広がる。これにより、シリコーンオイル分布を一層効果的に均一化できる。
上記のシリンジ用バレルの製造方法において、前記塗布工程では、前記シリンジ用バレルの一端側から他端側へ向けて前記シリコーンオイルを噴霧するとともに、前記他端側から前記シリンジ用バレル内の空気を吸引してもよい。
これにより、シリコーンオイルの噴霧ムラを低減でき、より均一にシリコーンオイルを塗布することができる。
上記のシリンジ用バレルの製造方法において、前記シリンジ用バレルは、前記一端側に前記ガスケットを挿入するための開口部と、前記他端側に前記胴部の内径よりも小さい内径を有するノズルとを備えてもよい。
このように、バレルの開口部と反対側に設けられたノズルの内径が胴部よりも小さいため、バレルの開口部(一端側)からシリコーンオイルを噴霧する際に、バレル内の空気がノズル側(他端側)から抜けにくく、噴霧されたシリコーンオイルがノズル側(他端側)まで届きにくい。このため、ノズル側(他端側)から空気を吸引しながらシリコーンオイルを噴霧することがより重要になる。
また、本発明のプレフィルドシリンジの製造方法は、上記いずれかのシリンジ用バレルの製造方法によって製造された前記シリンジ用バレルを準備する準備工程と、準備された前記シリンジ用バレルに、薬液を充填する充填工程と、前記薬液が充填された前記シリンジ用バレルに、前記ガスケットを打栓する打栓工程と、を含むことを特徴とする。
これにより、バレル内面にシリコーンオイルが均一に塗布されたプレフィルドシリンジが提供される。
上記のプレフィルドシリンジの製造方法において、薬液は、タンパク製剤であってもよい。
これにより、シリコーンオイルが均一に塗布されているため、薬液中にシリコーンオイルが流出し難く、流出したシリコーンオイルに起因するタンパク質の凝集を抑制することができる。
また、本発明は、中空の胴部と、前記胴部の先端から縮径する肩部と、前記肩部から先端方向に突出するノズルと、前記胴部の基端で開口する開口部とを備え、前記胴部の内面上を摺動するガスケットが挿入可能なシリンジ用バレルであって、前記内面の少なくとも前記ガスケットが挿入される挿入位置から前記挿入位置よりも前記肩部側の位置まで、粘度3000~30000cpsの非反応性のシリコーンオイルが塗布されており、前記内面における前記シリコーンオイルが塗布された領域を軸方向に所定幅で区切った各区画において、前記内面の面積に対する液滴として存在する前記シリコーンオイルの面積の比率である被覆率が20%以下であり、且つシリコーンオイルの液滴構造が前記内面に存在していることを特徴とする。
上記のように構成されたシリンジ用バレルによれば、シリコーンオイル分布が均一化されているためガスケットの摺動抵抗を低く抑えることができる。また、バレル内面に塗布されたシリコーンオイルを均一化するためにスキージ等の器具で塗り広げていないため、バレル内面の傷付きや異物の付着が抑制されたシリンジ用バレルが提供される。
上記のシリンジ用バレルにおいて、前記シリコーンオイルは、前記開口部近傍から前記挿入位置を超えて前記肩部側の位置まで塗布されていてもよい。
この構成によれば、開口部近傍までシリコーンオイルが塗布されているため、真空打栓する際に、挿入位置まで素早く確実にガスケットを打栓することができる。
上記のシリンジ用バレルにおいて、前記シリコーンオイルは、前記肩部近傍まで塗布されていてもよい。
この構成によれば、薬剤排出までの間にガスケットが摺動するバレル内面の略全域にシリコーンオイルが塗布されているため、ガスケットの摺動抵抗を最後まで低く抑えることができる。
上記のシリンジ用バレルにおいて、前記被覆率の前記肩部近傍から前記挿入位置の間における平均値が10%以下であってもよい。
これにより、ガスケットの摺動抵抗を一層低く抑えることができる。
また、本発明のプレフィルドシリンジは、上記いずれかのシリンジ用バレルと、前記ガスケットと、前記シリンジ用バレル内に充填された薬液と、を備えることを特徴とする。
上記のプレフィルドシリンジにおいて、薬液は、タンパク製剤であってもよい。
本発明によれば、バレル内面に傷が付いたり異物が付着したりすることなくシリコーンオイルが均一に塗布されたシリンジ用バレル、プレフィルドシリンジ及びそれらの製造方法が提供される。
以下、本発明に係るシリンジ用バレル、プレフィルドシリンジ及びそれらの製造方法について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
図1及び図2において、シリンジ10は、シリンジ用バレル12(以下、単に「バレル12」という)と、バレル12の先端開口12a(図3参照)を封止するキャップ14と、バレル12内を液密に摺動可能に挿入されたガスケット16と、バレル12内に形成される充填室13に充填された薬剤Mとを備える。シリンジ10は、予め薬剤Mが充填されたプレフィルドシリンジ10Aとして構成されている。
このシリンジ10の使用においては、オスルアーを有し医療用液体(希釈又は溶解用の液体)が充填された別のプレフィルドシリンジと当該シリンジ10とが接続される。そして、接続状態で、シリンジ10内の薬剤Mを、医療用液体が充填された当該別のプレフィルドシリンジ内に吸引し、当該別のプレフィルドシリンジ内で薬剤Mと医療用液体とを混合させることにより、目的の薬液が調製される。
図2及び図3に示すように、バレル12は、その主要部分を構成する中空の胴部18と、胴部18の先端から縮径する肩部19と、肩部19から先端方向に突出した中空のノズル20と、胴部18の基端で開口する基端開口部21とを備える。
胴部18は、ガスケット16が摺動可能に挿入される中空円筒状の部分である。胴部18の基端外周部には、径方向外方に突出したフランジ23が形成されている。
胴部18の内面(以下、「バレル内面18a」という)に対するガスケット16の摺動性をよくするために、バレル内面18aには粘度3000~30000cpsの非反応性シリコーンオイル27が潤滑剤として塗布されている。熱等で架橋硬化する反応性シリコーンオイルと異なり、非反応性シリコーンオイル27は、加熱しても架橋硬化することがない。このような非反応性シリコーンオイル27としては、例えば、ジメチルポリシロキサンが挙げられる。以下、非反応性シリコーンオイル27を単に「シリコーンオイル27」という。
図3に示すように、シリコーンオイル27は、少なくともガスケット16が挿入される挿入位置Pから当該挿入位置Pよりも肩部19側の位置まで塗布されている。なお、挿入位置Pは、シリンジ10におけるガスケット16の初期位置である。
本実施形態では、シリコーンオイル27は、図3中の矢印Aで塗布範囲を示すように、基端開口部21近傍から挿入位置Pを超えて肩部19側の位置まで塗布されている。また、本実施形態では、シリコーンオイル27は、肩部19近傍まで塗布されている。従って、本実施形態の場合、シリコーンオイル27は、薬剤排出までの間にガスケット16が摺動するバレル内面18aの略全域に塗布されている。なお、基端開口部21近傍は、基端開口部21から先端方向に例えば0~10mm程度までの領域を指す。肩部19近傍は、胴部18と肩部19との境界部(内径が小さくなり始める箇所)から、基端方向に例えば0~10mm程度までの領域を指す。
後述するように、バレル内面18aに設けられたシリコーンオイル27は、バレル内面18aに塗布された後に、バレル12内に薬液が充填されていない状態で、スキージ等の器具で塗り広げられることなく、オートクレーブ滅菌時の熱により粘度が低下してバレル内面18a及び重量の方向に広がって形成されたものである。これにより、バレル内面18aにおけるシリコーンオイル分布は均一となっている。
具体的に、バレル内面18aにおけるシリコーンオイル27が塗布された領域(図3において矢印Aで示す領域)を軸方向に所定幅で区切った各区画において、バレル内面18aの面積に対する液滴として存在するシリコーンオイル27の面積の比率である被覆率が20%以下である。各区画は、環状の区画である。また、本実施形態では、上記被覆率の肩部19近傍から挿入位置Pの間における平均値が10%以下である。
シリコーンオイル27の上記被覆率の測定方法としては、例えば、対象物に光の明暗縞(ゼブラ)を形成することにより透明微粒子体のエッジを検出し、塗布状態を数値化する方式(以下、「ゼブラ測定方式」という)が挙げられる。ゼブラ測定方式を用いて上記被覆率を測定する場合、具体的には、所定間隔で形成された多数のスリットを有するスリット板を介して、光源(例えば赤色光源)からの光を照射することにより、バレル12の胴部18に対して明部と暗部とが軸方向に交互に繰り返される明暗縞を形成する。次に、バレル12の胴部18を透過した透過光を受光することによりバレルを撮影し、撮影画像中の濃淡からリング状のエッジを検出する。この撮影及びエッジ検出は、バレル12を所定角度ずつ回転させることによりバレル12の全周について行う。そして、エッジからシリコーンオイル27の液滴を特定し、画像面積に対する液滴の合計面積の割合(%)を被覆率とする。より具体的には、バレル内面18aにおけるシリコーンオイル27が塗布された領域を軸方向に所定幅の区画(環状帯)に区切り、各区画について被覆率を算出する。この場合、区画の上記所定幅は、例えば、1~3mmに設定される。
このバレル12の場合、バレル内面18aに塗布されたシリコーンオイル27は、バレル内面18aに噴霧された後に塗り広げられていないため、バレル内面18aにはシリコーンオイル27の液滴構造が存在している。シリコーンオイル27の液滴構造とは、塗布されたシリコーンオイル27の液滴が加熱によっても完全に広がり切らないことにより形成された隆起構造あるいは凹凸構造のことをいう。一方、上述した従来技術のようにバレル内面18aにシリコーンオイル27を塗布した後に、シリコーンオイル27をスキージ等の器具により塗り広げた場合、バレル内面18aにシリコーンオイル27の液滴構造は存在しない。
ノズル20は、胴部18の先端部から、胴部18に対して縮径して先端方向に突出する。ノズル20は、オスルアーが挿入及び接続可能なメスルアーを形成しており、先端方向に向かうに従って内径が増大するテーパ状の内面を有する。
図2において、ノズル20の先端外周部には、キャップ14を着脱自在に固定する固定部24が設けられている。本実施形態において、固定部24は、バレル12の軸線を基準として互いに反対方向に突出し、キャップ14と螺合可能な2つの係合突起25により構成される。
バレル12の構成材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ-(4-メチルペンテン-1)、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマーのような各種樹脂が挙げられる。その中でも成形が容易で耐熱性があることから、ポリプロピレン、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマーのような樹脂が好ましい。また、後述するように、ポリプロピレン等よりも環状オレフィンポリマーの方が熱処理時(オートクレーブ滅菌時)の熱で均一にシリコーンオイル27が広がりやすいことから、バレル12は環状オレフィンポリマーからなるのがより好ましい。
キャップ14は、バレル12の先端開口12aを封止する弾性部材からなる封止部材28と、当該封止部材28を支持する筒状の本体部30とを有する。本体部30の内周部には、ノズル20に設けられた固定部24(係合突起25)に螺合する雌ネジ31が設けられている。ノズル20にキャップ14が装着された使用前の状態では、キャップ14により先端開口12aが液密に封止され、当該先端開口12aから薬剤Mが漏れ出ないようになっている。
ガスケット16の外周部には、軸方向に間隔をおいて複数のリング状のシール突起17が形成されている。ガスケット16がバレル12内に挿入された状態で、シール突起17はバレル内面18aに密着する。これにより、ガスケット16は、バレル12内を液密に軸方向に摺動可能である。
ガスケット16には、基端側に開口し、内周部に雌ネジ32が形成された嵌合凹部34が設けられている。当該嵌合凹部34は、必要に応じて図示しない押子の先端部と螺合可能である。
ガスケット16の構成材料としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。
薬剤Mは、粉末状薬剤、凍結乾燥薬剤、固形状薬剤、液状薬剤等、どのようなものであってもよい。このような薬剤としては、例えば、タンパク製剤、抗腫瘍剤、ビタミン剤(総合ビタミン剤)、各種アミノ酸、ヘパリンのような抗血栓剤、インシュリン、抗生物質、鎮痛剤、強心剤、静注麻酔剤、医療用麻薬、抗パーキンソン剤、潰瘍治療剤、副腎皮質ホルモン剤、不整脈用剤等が挙げられる。
なお、シリンジ10では、バレル12の基端部(フランジ23)に、ガスケット16がバレル12から基端方向に抜け出ることを防止するためのガスケットストッパ36が着脱可能に取り付けられている。
図4に示す医療用包装体40は、1つ以上のシリンジ用組立体42と、シリンジ用組立体42を収納する収納容器44と、収納容器44を収納する滅菌袋46と、滅菌袋46を収納する外包装48とを備える。シリンジ用組立体42は、上述したシリンジ10(プレフィルドシリンジ10A)の一部を構成する組立体である。具体的に、シリンジ用組立体42は、バレル内面18aにシリコーンオイル27が塗布されたバレル12と、バレル12の先端部に装着されたキャップ14とからなる。シリンジ用組立体42のバレル12には、薬剤M(図2参照)は充填されていない。
収納容器44は、容器本体50(タブ)と、保持部材52(ネスト)と、シート材54とを有する。容器本体50は、底壁を構成する底部56と、周囲壁を構成する側部58と、側部58の上端部に形成された開口部60を囲むフランジ部62とを有する箱状に形成されている。フランジ部62の上面に、シート材54が剥離可能に固着(接合)されている。
保持部材52は、容器本体50に形成された段差51に載置され、複数のシリンジ用組立体42を同一高さで保持している。保持部材52は、中空筒状の複数の突出保持部64を有する。突出保持部64の上端に、バレル12の基端に設けられたフランジ23が引っ掛かることで、シリンジ用組立体42が略垂直に吊り下げられた状態で保持されている。
シート材54は、容器本体50の開口部60を封止する蓋部材であり、ガス透過性且つ菌不透過性を有する材料により構成されている。従って、シート材54は、医療用包装体40の製造工程において、オートクレーブ滅菌(高圧蒸気滅菌)時に滅菌ガスとして用いられる水蒸気を透過させることができる。シート材54の構成材料としては、例えば、プラスチック製不織布、プラスチック製多孔質膜等が挙げられる。プラスチック製不織布としては、例えば、不織ポリオレフィンが挙げられる。
滅菌袋46は、少なくとも一部がガス透過性且つ菌不透過性を有する袋である。本実施形態では、滅菌袋46は、ガス透過性且つ菌不透過性を有する第1シート66と、ガス不透過性且つ菌不透過性を有する材料(例えば、ポリエチレン等)からなる第2シート68とを有し、第1シート66と第2シート68の周縁部同士が融着されている。
外包装48は、ガス不透過性且つ菌不透過性を有する材料(例えば、ポリエチレン等)からなる袋であり、収納容器44を収納した滅菌袋46を収納できるよう、滅菌袋46よりも大きく形成されている。後述するように、製造工程においては、収納容器44を収納した滅菌袋46を外包装48に入れた後、シール装置によって外包装48の口部が封止されることで、滅菌袋46が外包装される。
このように構成される医療用包装体40は、箱詰めして出荷され、例えば製薬メーカにおいて開封されて、シリンジ用組立体42が取り出される。そして、シリンジ用組立体42のバレル12内に薬剤Mを充填し、バレル12内にガスケット16を挿入することにより、図1に示したプレフィルドシリンジ10Aが完成する。本実施形態に係るプレフィルドシリンジ10Aの製造方法は、バレル12を準備する準備工程と、準備されたバレル12に薬液を充填する充填工程と、薬液が充填されたバレル12にガスケット16を打栓する打栓工程とを含む。
上記のように構成される医療用包装体40は、例えば以下の工程を含む製造方法によって製造することができる。本実施形態の場合、バレル内面18aにシリコーンオイル27が均一に塗布されたバレル12の製造方法は、以下に説明するように、提供工程と、塗布工程と、加熱工程とを含むものであり、医療用包装体40の当該製造方法の一部を構成している。
図5Aのように、バレル12を提供する(提供工程)。バレル12は、例えば、射出成形法によって製作することができる。
次に、図5Bのように、バレル内面18aに粘度3000~30000cpsのシリコーンオイル27を0.02~0.2mg/cm2の塗布量で噴霧により塗布する(塗布工程)。塗布量は、噴霧ノズル70から吐出するシリコーンオイル27の重量をバレル内面18aの面積で割った値である。
具体的に、塗布工程では、基端開口部21を上方に向けて(キャップ14を下方にして)バレル12を保持し、基端開口部21に噴霧ノズル70を臨ませる。そして、噴霧ノズル70からシリコーンオイル27をミスト状に吐出してバレル内面18aに噴霧する。すなわち、バレル12の基端開口部21からノズル20側に向けてシリコーンオイル27をバレル内面18aに噴霧する。これにより、バレル内面18aにシリコーンオイル27が塗布される。本実施形態では、バレル12の基端開口部21近傍から肩部19近傍までシリコーンオイル27が塗布される。
また、図5Bに示すように、本実施形態では、シリコーンオイル27を噴霧により塗布する際に、ノズル20側から空気Bを吸引する。このように、ノズル20側から空気Bを吸引しながらシリコーンオイル27を噴霧することにより、肩部19付近まで確実にシリコーンオイル27を塗布できる。また、噴霧ムラを低減し、シリコーンオイル27をより均一に塗布することができる。
次に、図5Cのようにキャップ14を提供し、シリコーンオイル27が塗布されたバレル12のノズル20にキャップ14を装着することによりバレル12の先端開口12aを封止する。
次に、図6Aに示す収納容器44を得る工程を行う。このため、まず、上記のようにして得られた1つ以上のシリンジ用組立体42を容器本体50に収納する。具体的には、先端側を下方に向けてシリンジ用組立体42を保持部材52の各突出保持部64に挿入し、保持部材52により複数のシリンジ用組立体42を吊下げてから、容器本体50の内側に保持部材52を載置する。
次に、シート材54で容器本体50の開口部60を封止する。具体的には、シート材54を容器本体50のフランジ部62に剥離可能に固着させることで、容器本体50の開口部60を封止する。この場合、固着手段としては、熱融着のほか、接着剤による固着であってもよい。シリンジ用組立体42を収納した容器本体50の開口部60をシート材54で封止する。これにより、図6Aのように、薬剤Mが充填されていないシリンジ用組立体42を収納した収納容器44が得られる。
次に、図6Bに示す包装体72を得る工程を行う。このため、まず、収納容器44(シリンジ用組立体42が収納されるとともにシート材54で開口部60が封止された容器本体50)を滅菌袋46で包装する。具体的には、口部が開いた滅菌袋46に収納容器44を入れた後、滅菌袋46の口部を封止する。これにより、シート材54で容器本体50の開口部60が封止され、収納容器44にシリンジ用組立体42が収納され、滅菌袋46に収納容器44が収納された包装体72が得られる。
次に、包装体72を滅菌処理する。本実施形態では、滅菌処理としてオートクレーブ滅菌を行う。オートクレーブ滅菌において、滅菌ガスである水蒸気は、滅菌袋46を透過するため、収納容器44内のシリンジ用組立体42が滅菌される。また、オートクレーブ滅菌時の熱により、バレル内面18aに塗布されたシリコーンオイル27は粘度が低下する。すなわち、本実施形態において、オートクレーブ滅菌は、バレル12内に液体が充填されていない状態で、バレル内面18aに塗布されたシリコーンオイル27を加熱して粘度を低下させる加熱工程を兼ねている。
この際、バレル12内には薬液が充填されていないことから、粘度が低下したシリコーンオイル27は、表面張力と重力の影響を大きく受ける。その結果、シリコーンオイル27は、壁面(バレル内面18a)及び重力の方向に広がり、バレル内面18aにおけるシリコーンオイル分布が均一化される。
包装体72の滅菌が完了したら、次に、口部が開いた外包装48に包装体72を入れ、外包装48の口部を封止することにより、外包装48内に包装体72を収納する。これにより、図4に示した医療用包装体40が得られる。
なお、上記の例では、滅菌処理としてオートクレーブ滅菌を行い、オートクレーブ滅菌時の熱により、バレル内面18aに塗布されたシリコーンオイル27を加熱して粘度を低下させたが、シリコーンオイル27の加熱は、オートクレーブ滅菌以外の熱処理によって実施されてもよい。この場合、滅菌処理は、エチレンオキサイド滅菌、電子線滅菌等であってもよい。
以上説明したように、本実施形態によれば、バレル内面18aに塗布されたシリコーンオイル27を加熱して粘度を低下させることにより、シリコーンオイル27はバレル内面18a及び重力の方向に広がる。この結果、バレル内面18aにおけるシリコーンオイル分布が均一となり、これにより、バレル12に挿入されるガスケット16の摺動抵抗を低く抑えることができる。
この場合、バレル内面18aに塗布されるシリコーンオイル27の粘度が高すぎると、加熱処理時の熱によっても粘度があまり下がらずに均一化しにくく、逆に、シリコーンオイル27の粘度が低すぎると、加熱処理時の重力方向にシリコーンオイル27が流れ過ぎてしまう。本実施形態では、粘度3000~30000cpsのシリコーンオイル27を塗布することにより、加熱処理時におけるシリコーンオイル27の粘度を適度に低下させ、シリコーンオイル分布を効果的に均一化することができる。
さらに、本実施形態では、0.02~0.2mg/cm2の塗布量でバレル内面18aにシリコーンオイル27を塗布することにより、シリコーンオイル27を過剰に塗布することなく、バレル内面18aにシリコーンオイル27を均一に広げることができる。
また、シリコーンオイル27を過剰に塗布せずに済み、且つ、シリコーンオイル27が大きな粒子で存在しないことから、プレフィルドシリンジ10Aにおいて、薬液へのシリコーンオイル27の流出が抑制されることも期待できる。薬液中に流出したシリコーンオイル27は、タンパク製剤の凝集を引き起こすため、薬液へのシリコーンオイル27の流出が抑制されることは、タンパク製剤を充填する場合、特に好ましい性質である。また、シリコーンオイル27の粒子は大幅に減少しているため、バレル12の充填室13への薬剤充填時に発生した気泡がバレル内面18aに引っ掛かり難い。このため、プレフィルドシリンジ10Aの異物検査の際に、気泡による異物の誤検出を抑制できる。
加えて、シリコーンオイル分布の均一化のためにバレル内面18aに塗布されたシリコーンオイル27をスキージ等の器具で塗り広げないため、バレル内面18aが傷付いたり異物が付着したりすることなく、シリコーンオイル27が均一に塗布されたバレル12が得られる。
本実施形態では、バレル12に対するオートクレーブ滅菌時にシリコーンオイル27が加熱されるため、シリコーンオイル27の加熱のためだけの工程を設ける必要がない。よって、均一にシリコーンオイル27が塗布されたバレル12を効率的に製造することができる。また、オートクレーブ滅菌は、電子線滅菌等の他の滅菌処理と比較して、バレル12の変質を抑制でき、バレル12に充填される薬液への悪影響を抑制できる。
本実施形態では、加熱工程は、バレル12を上下方向に向けた状態で実施する。これにより、加熱時にシリコーンオイル27が重力によりバレル12の軸方向に広がるため、シリコーンオイル分布が一層均一になりやすい。
バレル内面18aへのシリコーンオイル27を噴霧により塗布する際、噴霧ノズル70(図5B参照)に近い側程、シリコーンオイル27の塗布量が多くなり、シリコーンオイル27の塊ができやすい。本実施形態の場合、塗布工程において、バレル12の一端側(基端開口部21側)から他端側(ノズル20側)へ向けてシリコーンオイル27を噴霧することによりシリコーンオイル27をバレル内面18aに塗布し、加熱工程は、上記他端側を下方に向けた状態で実施する。これにより、噴霧する側とは反対側を下に向けて加熱することで、重力によりシリコーンオイル27の塊がバレル12の一端側から他端側へ広がる。これにより、シリコーンオイル分布を一層効果的に均一化できる。
本実施形態では、シリコーンオイル27は、基端開口部21近傍から挿入位置Pを超えて肩部19側の位置まで塗布されている。この構成によれば、基端開口部21近傍までシリコーンオイル27が塗布されているため、真空打栓する際に、挿入位置Pまで素早く確実にガスケット16を打栓することができる。
特に、本実施形態では、シリコーンオイル27は、肩部19近傍まで塗布されている。この構成によれば、薬剤排出までの間にガスケット16が摺動するバレル内面18aの略全域にシリコーンオイル27が塗布されているため、ガスケット16の摺動抵抗を最後まで低く抑えることができる。
また、本実施形態では、被覆率の肩部19近傍から挿入位置Pの間における平均値が10%以下であるため、ガスケット16の摺動抵抗を一層低く抑えることができる。
上述した本発明の効果を確認するため、次のような試験を実施した。
試験では、容量2.25mLのバレルの基端開口部に噴霧ノズルを臨ませ、当該噴霧ノズルからシリコーンオイルを霧状に吐出させることにより、バレル内面にシリコーンオイルを0.6mg塗布した。シリコーンオイルは、DOW CORNING(R)360 MEDICAL FLUID,12500CST(ダウコーニング社製、粘度12500)を使用した。
このようにシリコーンオイルが内面に塗布されたバレルを10個用意し、そのうち5個のバレル(サンプルA1~A5)は、キャップを装着して水を充填しないものとし、他の5個のバレル(サンプルB1~B5)は、キャップを装着して水を充填した後、ガスケットを挿入して封止した。
そして、これらのサンプルA1~A5、B1~B5に対しオートクレーブ滅菌(121℃、20分)を実施し、乾燥させた。オートクレーブ滅菌は、バレルのノズルを下方に向けて、バレルを略垂直の姿勢に保持した状態で実施した。水を充填したサンプルB1~B5については、滅菌・乾燥後にバレル内の水を除去した。
そして、各サンプルについて、上述したゼブラ測定方式によりバレル内面におけるシリコーンオイル分布を測定し、評価した。測定機器として、ZS-S40 Bench Top Silicone Detection System(ZEBRASCI社製)を用いた。測定においては、バレル全周について測定するために、バレルを63度ずつ回転させて6回撮影し、重複部分(18度分)を除いた。また、バレル内面におけるシリコーンオイル塗布領域を軸方向に35区画に区切り、各区画について被覆率を測定した。得られた結果から、バレル内のシリコーンオイル分布が滅菌前後でどのように変化するか調べた。
図7A~図7Dは、それぞれ、水を充填しなかったサンプルA1~A4のオートクレーブ滅菌前のシリコーンオイル分布を示すグラフである。図8A~図8Dは、それぞれ、水を充填しなかったサンプルA1~A4のオートクレーブ滅菌後のシリコーンオイル分布を示すグラフである。各グラフにおいて、横軸はバレルの軸方向位置に対応する区画番号(左側が肩部側、右側が基端開口部側)であり、縦軸は各位置(区画)における被覆率である。図7A~図7Dのグラフから、オートクレーブ滅菌前では、噴霧ノズル(オイル吐出部)に近いバレル基端側で被覆率が高く、シリコーンオイル分布が不均一であることが分かる。
一方、図8A~図8Dのグラフから、水を充填しなかったサンプルA1~A4のオートクレーブ滅菌後では、被覆率は高い箇所でも20%以下であり、シリコーンオイル分布が均一になっていることが分かる。また、オートクレーブ滅菌後の被覆率の平均は、どのサンプルでも10%以下であった。なお、ここでは示していないが、各サンプルA1~A4の滅菌前後の画像から、滅菌することでシリコーンオイルの塊がキャップ側に広がっていることが分かった。
図9A~図9Dは、それぞれ、水を充填したサンプルB1~B4のオートクレーブ滅菌前のシリコーンオイル分布を示すグラフである。図10A~図10Dは、それぞれ、水を充填したサンプルB1~B4のオートクレーブ滅菌後のシリコーンオイル分布を示すグラフである。これらのグラフから、滅菌することで被覆率は高くなることが分かった。加えて、ここでは示していないが、各サンプルB1~B4の滅菌前後の画像から、シリコーンオイルの塊は滅菌前後で広がっていないようであった。このように滅菌によって被覆率が高くなったのは、水圧により、滅菌中にシリコーンオイルが凝集したためであると推察される。なお、水を充填したサンプルの滅菌後のグラフ(特に、図10B~図10D)において、基端開口部側の領域の被覆率が過剰に高くなっているのは、バレルにガスケットを挿入する際に基端開口部側のシリコーンオイルが押し出されたためであると考えられる。このため、当該領域については評価対象から除外した。
上記のような、水の充填の有無によるシリコーンオイル分布の違いは、次のように考察できる。すなわち、水を充填しなかったバレル(サンプルA1~A4)では、シリコーンオイルの粘度は滅菌中の熱によって低下し、この際に、表面張力と重力の影響を大きく受ける。その結果、シリコーンオイルは壁面及び重力の方向に広がる。一方、水を充填したバレル(サンプルB1~B4)では、シリコーンオイルの粘度は滅菌中の熱によって低下するものの、この際に、水圧の影響を大きく受ける。その結果、シリコーンオイルは凝集する。
以上の試験結果から、水を充填しなかったバレルに塗布されたシリコーンオイルは、加熱処理することで、より均一になることが分かった。一方、水を充填したバレルに塗布されたシリコーンオイルは、加熱処理しても殆ど移動しないか、むしろ凝集することが分かった。
以上より、薬液を充填せずに加熱処理(例えば、オートクレーブ滅菌)した場合、バレル内面18aに塗布されたシリコーンオイル27の分布は、薬液を充填して加熱処理した場合と比較して、より均一になることが分かった。この特性は、バレル12に挿入されるガスケット16の摺動性向上に寄与するものである。
なお、上述した各実施形態では、バレル12は、予め薬剤Mが充填されたプレフィルドシリンジ10A用のバレルとして構成されているが、本発明は予め薬剤Mが充填されていないシリンジ用のバレルにも適用可能である。
また、ノズル20は、バレル12内の薬剤Mを排出できる形状であれば、特に限定されず、例えば、メスルアーに挿入及び接続可能なオスルアーや、オスルアーの周囲にロックアダプタを有する形状、ノズル内に注射針が直接固定された形状でもよい。また、バレル12は、ノズルを有さず、基端開口部21とは反対側の他端に先端開口部を有する筒状形状でもよい。この場合、先端開口部を封止する封止部材がバレル12の他端(先端)に装着されており、両頭針を有する針ハブ等とともに使用される。
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。