明 細 書
CTL誘導能評価方法及びそれを用レ、たスクリ一二ング方法
技術分野
[0001] 本発明は、 CTL誘導能評価方法及びそれを用いたスクリーニング方法に関する。
背景技術
[0002] 免疫は、生体内で異物 (抗原)と認識されたものに対して働く一連の生体防御シス テムと自他の認識システムである。このシステムにより、生物は様々な疾患から防御さ れている。
[0003] 例えば、健常人の体内においては、常にがん細胞が発生している力 その大部分 は免疫応答により抑え込まれ、病気にまで至らずに消滅して 、ると考えられて 、る。 しかし、何かのきっかけによりがんの力が免疫による抑止力を上回った場合には、が ん細胞が増殖を続け、やがて病気としてのがんが成立すると 、うことになる。
[0004] 近年、人工的に細胞性免疫を強化し、様々な疾患 (特にがんやウィルス性感染症) を治療する免疫細胞療法が注目されて 、る。免疫細胞療法の特に優れて 、る点は、 副作用が非常に少なぐ現れたとしても軽度な発熱程度で済むことである。
[0005] 免疫細胞療法の中で特に効果が高いと言われているものに、細胞傷害性 T細胞療 法(CTL療法)がある。細胞傷害性 T細胞(Cytotoxic T Lymphocyte、以下、 C TLともいう。)は、腫瘍 (がん細胞)やウィルス等を認識して排除する生体防御反応の 中心的な役割を担っている。 CTL療法とは、がんや感染症に対する治療や予防を目 的として、このような抗原に特異的な CTLを誘導する治療 ·予防方法であって、がん やウィルスに対する免疫応答の中心を担う CTLを誘導し、がん細胞やウィルス感染 細胞を排除することを目的とした治療 ·予防方法である。
[0006] CTLが認識するのは、がん細胞やウィルス感染細胞の表面上あるいは細胞内に特 異的に発現して 、るタンパク質の一部で抗原ェピトープペプチドと呼ばれる部位であ る。抗原ェピトープペプチドは、通常、 9〜: L 1アミノ酸残基力もなる。この抗原ェピトー プペプチドが、主要組織適合抗原複合体(Major Histocompatibility antigen Complex,以下、 MHCともいう。)クラス Iと結合し、抗原提示細胞上に提示される。リ
ンパ球は、提示された抗原ェピトープペプチドを認識し、同様の抗原ェピトープぺプ チドを持つがん細胞やウィルス感染細胞等を特異的に攻撃する CTLとなる(例えば 、非特許文献 1参照)。
[0007] そのため、 CTLを誘導するには、 CTLが認識する抗原ェピトープペプチドの同定 が重要となる。同定された抗原ェピトープペプチドのアミノ酸配列の情報に基づけば 、例えば、ェピトープペプチドを合成し、直接ペプチドワクチンとして投与して CTLを 誘導したり、また、前記ェピトープペプチドを榭状細胞(Dendritic Cell,以下、 DC ともいう。 )にノ ルスしてより強力な DCワクチンを作製することが可能となる(例えば、 非特許文献 2参照)。そのため、現在まで様々な方法によりェピトープペプチドの同 定が試みられている。
[0008] し力しながら、今までのがん抗原ェピトープペプチド検索法にぉ 、ては、例えば、 下記のような問題点がある。
1.腫瘍特異的な CTL細胞株を榭立しなければならな ヽ。
2.モチーフ構造を持った多数のペプチドを抗原ェピトープペプチドの候補として合 成し、スクリーニングしなければならない。
3.抗原提示細胞として DCを毎回分ィ匕誘導して培養しなければならな 、。
4. DCへの遺伝子 (DNA)導入力 非常に効率が悪く困難である。
非特干文献 1: Thierry Boon et al, Tumor antigens recognized by T cells" Immunology today 267— 268 Vol. 18, 1997
非特許文献 2 :Joachim L. Schultzeand et al, "From cancer genomics to cancer immunotherapy: toward second― generation tumor antig ens" Trends in Immunology Vol. 22 No. 9 : 516— 523, 2001 発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0009] 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、抗原提示細胞として DCを使用 することなぐ迅速かつ簡便な抗原ェピトープペプチドのスクリーニングを可能とする 特異的な CTL誘導能の評価方法の提供を目的とする。
課題を解決するための手段
[0010] 上記課題を解決するために、本発明のタンパク質における特異的な CTL誘導能の 評価方法 (以下、本発明の評価方法ともいう。)は、
被検タンパク質をコードする遺伝子を、抗原提示細胞に、前記タンパク質が発現可 能に導入する工程と、
前記遺伝子が導入された前記抗原提示細胞をリンパ球と共培養する工程と、 前記リンパ球における CTLの誘導効率を調べる工程とを含み、
前記抗原提示細胞として、 T細胞共刺激因子及び MHCクラス I分子を発現し、力 つ、細胞内で発現される前記タンパク質の全部若しくは一部を前記 MHCクラス I分 子上に抗原提示できる確立した細胞株に由来する細胞を使用する評価方法である。 発明の効果
[0011] 本発明者らは、抗原ェピトープペプチドのスクリーニング方法のなかでも、抗原ェピ トープペプチドに特異的に誘導される CTLを指標とするスクリーニング方法について 、従来から抗原提示細胞として使用されている DCに代えて、増殖能に優れ、分化誘 導の必要が無い確立された細胞株を使用することを着想し、鋭意研究を重ねた。そ の結果、前記抗原提示細胞が、 T細胞共刺激因子及び MHCクラス I分子を発現する 又は発現するように改変された細胞株由来のものであれば、抗原ェピトープペプチド を含むタンパク質をコードする遺伝子を前記抗原提示細胞内に発現可能に導入した 場合に、前記抗原ェピトープペプチドが MHCクラス I分子上に抗原提示され、特異 的な CTLを誘導できることを見出した。さら〖こ、本発明者らは、前記抗原提示細胞へ の遺伝子導入効率が、従来の DCのそれに比べて優れるため、前記抗原提示細胞を 用いれば、導入したタンパク質の特異的な CTL誘導能を従来よりも迅速 '簡便に評 価でき、この評価方法を用いれば、迅速'簡便な抗原ェピトープペプチドのスクリー- ングが可能となることを見出し、本発明に到達した。
[0012] ここで、「特異的な CTL誘導能」とは、タンパク質又はペプチド力 その一部又は全 部がェピトープペプチドとして抗原提示された場合に、前記ェピトープペプチドに特 異的な CTLを活性ィ匕し、増殖を促すことができる能力を意味する。また、「確立され た細胞株」とは、増殖能を有し、同一の性質 ·特性を示すクローン細胞を産生できる 細胞株を意味する。
[0013] 本発明の評価方法は、抗原提示細胞として、 DCの代わりに、増殖しやすぐ分ィ匕 誘導の必要もな ヽ確立された細胞株に由来する本発明の抗原提示細胞を使用する から、短時間で効率よく行うことができる。また、本発明の抗原提示細胞は、遺伝子導 入効率が優れるから、必要となる準備作業がさらに短時間で効率よく行える。したが つて、本発明によれば、迅速かつ簡便な CTL誘導能評価方法の提供が可能である 。また、本発明の評価方法における前記遺伝子導入は、一過性の導入であってもよ ぐ本発明の評価方法をさらに迅速'簡便なものとすることができる。
[0014] また、本発明の評価方法によれば、タンパク質の大きさによらず、前記タンパク質全 体をコードする遺伝子を導入しても、前記タンパク質に含まれる抗原ェピトープぺプ チドに特異的な CTL誘導能を評価できるから、特異的な CTLを誘導する抗原ェピト ープペプチドを含むタンパク質のスクリーニング方法が可能である。また、導入する 遺伝子を、前記タンパク質の一部をコードする遺伝子であって、前記タンパク質にお ける部位や長さを変化させた遺伝子とすれば、本発明の評価方法により、抗原ェピト ープペプチドのスクリーニングが可能である。すなわち、本発明の評価方法によれば 、例えば、抗原特異的な CTL細胞株の榭立や、抗原ェピトープ候補のペプチド合成 等を行うことなぐ特異的に CTLを誘導するタンパク質や抗原ェピトープペプチドの スクリーニングを迅速かつ簡便に行うことができる。 図面の簡単な説明
[0015] [図 1]図 1は、 MDA— CD80細胞株のフローサイトメーター解析図の一例の図である
[図 2]図 2は、 MDA— CD80細胞株の RT— PCRの結果の一例の図である。
[図 3A]図 3Aは、 MDA— CD80細胞株に pTracerを導入して抗原提示を行わせ、リ ンパ球と共培養し、特異的な CTL誘導能を FACSにて測定した一例の図である。
[図 3B]図 3Bは、 MDA - CD80細胞株に pTracer - BMLF 1を導入して抗原提示を 行わせ、リンパ球と共培養し、特異的な CTL誘導能を FACSにて測定した一例の図 である。
[図 3C]図 3Cは、 MDA CD80細胞株に pTracer— Ub— BMLF 1を導入して抗原 提示を行わせ、リンパ球と共培養し、特異的な CTL誘導能を FACSにて測定した一
例の図である。
[図 4A]図 4Aは、 MDA— CD80細胞株に pTracerを導入して抗原提示を行わせ、リ ンパ球と共培養し、特異的な CTL誘導能を FACSにて測定した一例の図である。
[図 4B]図 4Bは、 MDA— CD80細胞株に pTracer— Martiを導入して抗原提示を 行わせ、リンパ球と共培養し、特異的な CTL誘導能を FACSにて測定した一例の図 である。
[図 4C]図 4Cは、 MDA— CD80細胞株に pTracer— Ub— Mart 1を導入して抗原提 示を行わせ、リンパ球と共培養し、特異的な CTL誘導能を FACSにて測定した一例 の図である。
[図 5A]図 5Aは、 MDA— CD80細胞株に pTracerを導入して抗原提示を行わせ、リ ンパ球と共培養し、 INF- γを指標の一つとして特異的な CTL誘導能を FACSにて 測定した一例の図である。
[図 5B]図 5Bは、 MDA CD80細胞株に pTracer— Ub— BMLF 1を導入して抗原 提示を行わせ、リンパ球と共培養し、 INF- yを指標の一つとして特異的な CTL誘 導能を FACSにて測定した一例の図である。
発明を実施するための最良の形態
[0016] 本発明の評価方法にお!、て、前記 T細胞共刺激因子は、 CD80であることが好まし い。また、前記遺伝子を導入する工程において、前記タンパク質に加え、ュビキチン をコードする遺伝子を発現可能に導入することが好ましぐより好ましくは、前記タン ノ ク質とュビキチンとの融合タンパク質をコードする遺伝子を発現可能に導入する。 前記遺伝子導入は、一過性の遺伝子導入であってもよい。前記タンパク質は、がん 細胞由来のものであってもよぐウィルス由来のものであってもよい。前記抗原提示細 胞は、付着性であることが好ましぐまた、腫瘍細胞由来細胞株に由来する細胞であ ることが好ましい。前記腫瘍細胞由来細胞株としては、乳がん由来細胞株 MDA— M B - 231であることが好まし!/、。
[0017] 本発明のスクリーニング方法は、 CTLを特異的に誘導可能なタンパク質のスクリー ユング方法 (以下、本発明の抗原タンパク質のスクリーニング方法ともいう。)であって 、本発明の評価方法により、被検タンパク質の特異的な CTL誘導能を評価し、特異
的な CTL誘導能を有するタンパク質を同定する工程を含むスクリーニング方法であ る。
[0018] その他の態様として、本発明のスクリーニング方法は、 CTLを特異的に誘導可能な タンパク質中の抗原ェピトープペプチドのスクリ一ユング方法 (以下、本発明の抗原 ェピトープペプチドのスクリーニング方法ともいう。)であって、下記 (A)及び(B)の少 なくとも一方の工程を含むスクリーニング方法である。
(A)被検タンパク質をコードする遺伝子を前記抗原提示細胞に前記タンパク質が発 現可能に導入する工程に代えて、前記タンパク質の部分ペプチドをコードするポリヌ クレオチドを前記抗原提示細胞に発現可能に導入する工程を有する本発明の評価 方法により、前記部分ペプチドの CTL誘導能を評価し、特異的な CTL誘導能を有 するペプチドを同定する工程。
(B)被検タンパク質をコードする遺伝子を抗原提示細胞に前記タンパク質が発現可 能に導入する工程及び前記遺伝子が導入された前記抗原提示細胞をリンパ球と共 培養する工程の前記両工程に代えて、前記タンパク質の部分ペプチドを、前記抗原 提示細胞と接触させた後、又は接触させながらリンパ球と共培養する工程を有する本 発明の評価方法により、前記部分ペプチドの CTL誘導能を評価し、特異的な CTL 誘導能を有するペプチドを同定する工程。
[0019] 本発明の抗原ェピトープペプチドのスクリーニング方法において、前記被検タンパ ク質は、本発明の抗原タンパク質のスクリ一ユング方法で同定されたタンパク質であ ることが好ましい。本発明の抗原ェピトープペプチドのスクリーニング方法において、 前記部分ペプチドは、アミノ酸残基数が 9〜: L 1残基であるペプチドであってもよい。
[0020] 本発明の抗原提示細胞は、本発明の評価方法に用いられる抗原提示細胞であつ て、 T細胞共刺激因子及び MHCクラス I分子を発現し、かつ、細胞内で発現される 前記タンパク質の全部若しくは一部を前記 MHCクラス I分子上に抗原提示できる確 立された細胞株に由来する抗原提示細胞である。また、本発明の抗原提示細胞は、 その他の態様として、本発明の抗原タンパク質のスクリーニング方法に用いられる前 記抗原提示細胞であり、さらにその他の態様として、本発明の抗原ェピトープぺプチ ドのスクリーニング方法に用いられる前記抗原提示細胞である。
[0021] 本発明のキットは、本発明の評価方法に用いられる評価キットであって、本発明の 抗原提示細胞を含む。また、本発明のキットは、その他の態様として、本発明の抗原 タンパク質のスクリーニング方法に用いられるスクリーニングキットであって、本発明の 抗原提示細胞を含む。本発明のキットは、さらなるその他の態様として、本発明の抗 原ェピトープペプチドのスクリーニング方法に用いられるスクリーニングキットであって
、本発明の抗原提示細胞を含む。
[0022] 本発明の製造方法は、特異的な CTL誘導能を有する抗原ェピトープペプチドの製 造方法であって、本発明の抗原ェピトープペプチドのスクリーニング方法により、前記 タンパク質の抗原ェピトープペプチドを同定する工程を含む製造方法である。本発 明の製造方法は、さらに、前記タンパク質力 同定された抗原ェピトープペプチドを 分離する工程及び同定された抗原ェピトープペプチドを合成する工程の少なくとも 一方の工程を含むことが好ま 、。
[0023] 本発明の評価方法は、前述のとおり、 T細胞共刺激因子及び MHCクラス I分子を 発現する細胞株である本発明の抗原提示細胞を使用し、前記抗原提示細胞に被検 タンパク質をコードする遺伝子を導入して抗原提示させることを技術的特徴の一つと する。
[0024] 抗原提示細胞内では、導入された遺伝子の転写'翻訳が行われ、被検タンパク質 が合成される。合成された被検タンパク質は、細胞内のタンパク質分解酵素(以下、 プロテアソームともいう。 )によりいくつかの断片に分解される。被検タンパク質にェピ トープ部位が含まれる場合には、 MHCクラス I分子と結合し、細胞表面に提示される
[0025] Tリンパ球表面に存在する T細胞レセプター(T cell receptor、以下、 TCRともい う。)は、抗原提示細胞表面に提示された MHCクラス I分子とェピトープペプチドとの 複合体を認識する。ェピトープと結合する TCRを持つ Tリンパ球は、活性化され CTL となる。
[0026] すなわち、本発明の評価方法によれば、特異的な CTL誘導能を確認することで、 被検タンパク質中に、 MHCクラス I分子に結合でき、かつ、 TCRにより認識される抗 原ェピトープペプチドが存在することを容易に確認することが可能となる。
[0027] 以下に、本発明の評価方法の一例を具体的に説明する。
[0028] (1.遺伝子導入工程)
まず、特異的な CTL誘導能の評価を行う被検タンパク質をコードする遺伝子を組 み込んだベクターを作製し、本発明の抗原提示細胞に導入する。
[0029] 前記被検タンパク質は、特に制限されず、アミノ酸がペプチド結合で直鎖状につな 力 Sつたものをいい、アミノ酸のみ力もなる単純タンパク質であってもよぐアミノ酸以外 の構成成分を含む複合タンパク質 (例えば、糖タンパク質、核タンパク質、リポタンパ ク質、ヘムタンパク質、金属タンパク質等)であってもよい。また、アミノ酸残基数も特 に制限されず、例えば、オリゴペプチドやポリペプチド等であってもよい。
[0030] 前記遺伝子が組み込まれたベクターの作製方法としては、特に制限されず、従来 公知の方法が適用でき、例えば、発現させたい遺伝子の cDNA (complementary DNA;相補的デォキシリボ核酸)を得た後、 PCR法(Polymerase Chain Reacti on法;ポリメラーゼ連鎖反応法)により cDNAを増幅させ、適当な発現ベクターに組 み込むという方法等があげられる。前記発現ベクターとしては、特に制限されず、例 えば、プラスミドベクター、ウィルスベクター等があげられる。
[0031] 前記遺伝子の大きさには、特に制限はない。例えば、被検タンパク質の全長をコー ドした遺伝子を用いた場合であっても、細胞内でタンパク質分解を受け、ェピトープ 部位が抗原提示されるため、操作が非常に簡便である。また、前記遺伝子は、被検 タンパク質の一部をコードするポリヌクレオチドであってもよい。
[0032] 被検タンパク質としては、例えば、がん細胞由来のものを用いることができる。ここで 、ターゲットとするがん細胞としては、例えば、肝がん、胃がん、大腸がん、肺がん、乳 がん、子宮がん、脳腫瘍等があげられる。本発明の評価方法によれば、後述のとおり 、例えば、抗原ェピトープペプチドを同定してそのペプチドを合成し、その合成ぺプ チドをペプチドワクチンとしてがん患者に投与して患者の体内で CTLを誘導すること や、その合成ペプチドを榭状細胞 (DC)にパルスすることにより DCワクチンを製造し てその DCワクチンを患者に投与することが可能となる。また、抗原ェピトープぺプチ ドを含むタンパク質又はペプチド配列をコードする遺伝子を DNA等のポリヌクレオチ ドの形でワクチンとして患者に投与することも可能である(例えば、 DNAワクチン等)
[0033] 前記被検タンパク質としては、また、例えば、ウィルス由来のものを用いることができ る。前記ウィルスとしては、例えば、 HIV (Human Immunodeficiency Virus ;ヒト 免疫不全ウィルス)、 HBV (Hepatitis B Virus; B型肝炎ウィルス)、 HCV (Hepat itis C Virus ;C型肝炎ウィルス)、 SARS ( Sever Acute Respiratory Syndro me ;重症急性呼吸器症候群)の原因ウィルス等があげられる。本発明の評価方法に よれば、後述のとおり、例えば、抗原ェピトープペプチドを同定してそのペプチドを合 成し、その合成ペプチドをウィルス感染症に対するワクチンとして利用することが可能 である。よって、本発明の評価方法は、ウィルス感染症に対するワクチン開発システ ムとして利用することができる。
[0034] 作製した前記ベクターを、抗原提示能を有する本発明の抗原提示細胞に導入する
[0035] 本発明の抗原提示細胞は、 T細胞共刺激因子及び MHCクラス I分子を発現し、か つ、細胞内で発現される前記タンパク質の全部若しくは一部を前記 MHCクラス I分 子上に抗原提示できる確立された細胞株由来の細胞である。
[0036] 抗原提示細胞は、従来、 DC等が用いられている力 末梢血力 得られる DCは数 が少なぐ増殖させることができないため、抗原提示細胞として使用するための数の 確保が困難な場合が多い。また、末梢血等力 DCの前駆細胞を分離する場合には 、サイト力インを用いて分ィ匕誘導を行わなければならない。対照的に、本発明の抗原 提示細胞であれば、例えば、増殖が容易であり、分ィ匕誘導を行う必要もないため、抗 原提示細胞の調製が容易である等の利点がある。
[0037] また、従来の DCを用いる CTL誘導能の検査の場合では、検査のたびにドナーか ら細胞を採取しなければならない。さらに、ドナーにより細胞の性質が異なるため、一 定の結果が得られにくい。対照的に、本発明の抗原提示細胞であれば、例えば、継 代培養により均一の細胞が得られるため、条件を適宜設定することにより一定の結果 が得られ、それにより、本発明の評価方法の再現性も向上する等の利点がある。
[0038] 本発明の抗原提示細胞は、付着性細胞であることが好ま ヽ。 DCを抗原提示細胞 として用いる場合、被検遺伝子の導入効率が非常に低いという問題がある。抗原提
示細胞が付着性細胞であると、例えば、リボフヱクシヨン法等によるベクター導入効率 が向上する利点がある。また、リンパ球と共培養する際にも、抗原提示細胞がシヤー レ等の底面に付着しているほうが、リンパ球へのパルス効率が高くなる利点がある。
[0039] 本発明の抗原提示細胞は、腫瘍細胞由来細胞株に由来することが好ましい。腫瘍 由来の細胞は、株の樹立が容易ではないが、常に半永久的に増殖が可能であり、さ らに、その性質が安定しているからである。また、腫瘍細胞由来細胞株を MHCクラス I分子や T細胞共刺激因子を発現するように改変した細胞株を、本発明の抗原提示 細胞としてもよい。そのような本発明の抗原提示細胞は、従来公知の方法を適宜用 いて作製することができる。例えば、文献 [Anal Biochem. 1993 Feb 1 ; 208 (2 ): 352— 6. Maximal expression of Recombinant cDNAs IN COS ce lis for use IN expression cloning. Kluxen FW, Lubbert H. ]を参照 できる。
[0040] 具体的には、例えば、以下のような手順を用いて本発明の抗原提示細胞を作製で きる。
1) MHCクラス I分子や T細胞共刺激因子等の発現させた 、分子の遺伝子を増幅し て cDNAを得た後、 PCR法で増幅し、適当な発現ベクターに組み込む。
2) 使用する細胞株に前記発現ベクターを導入し、培地中で培養した後、抗生物質 を含む培地でセレクションを行う。
3) さらに、抗体結合ビーズを用いて、組み換えタンパク質 (前記発現させたい分子 の遺伝子の遺伝子産物)を発現して!/、る細胞を濃縮する。
4) 前記ビーズにより濃縮された細胞を選択し、前記細胞を限界希釈法等によってク ローニングを行い、安定している細胞株を選択する。
[0041] 本発明の抗原提示細胞の具体例として、 MDA— CD80細胞株等があげられる。こ こで、 MDA—CD80細胞株とは、 MHCクラス I分子を発現している乳がん由来の腫 瘍細胞株 MDA— MB— 231に、 CD80 (Cluster Differentiation 80)をコード する遺伝子を導入し、 CD80分子を細胞表面で高発現するように改変した細胞株を いう。前記 MDA— MB— 231細胞株は、例えば、 ATCC等力 入手することができ る。そのほか、本発明の抗原提示細胞に使用できる腫瘍細胞由来細胞株としては、
例えば、腎がん由来の TUHR10TKB細胞株、胃がん由来の JR— st細胞株等があ げられる。
[0042] 前記 T細胞共刺激因子としては、例えば、 CD80 (B7. 1)分子や CD86 (B7. 2)分 子等があげられる。これらの分子は、リンパ球の免疫機能を活性ィ匕するシグナルを伝 達する分子の一つであり、リンパ球表面にある CD28分子と結合することにより、リン パ球が活性ィ匕し、 CTLが誘導される。本発明の抗原提示細胞では、 CD80分子及 び CD86分子のいずれかが発現していればよぐ好ましくは、 CD80分子である。 CD 80分子と CD86分子とが同時に発現して 、てもよ 、。
[0043] 前記被検タンパク質をコードする遺伝子をベクターにより前記抗原提示細胞に導入 する場合、被検タンパク質をコードする遺伝子に加え、ュビキチンをコードする遺伝 子を発現可能に導入することが好ましぐより好ましくは、前記被検タンパク質とュビ キチンとの融合タンパク質をコードする遺伝子を発現可能に導入することが好ましい 。こうすることで抗原提示経路への移行が促進され、抗原提示能が向上し、それに伴 い CTLの誘導能が向上する。その結果、高感度に CTLの誘導能を評価すること、す なわち、高感度なェピトープペプチドの存在の検出が可能となる。
[0044] ここで、ュビキチンとは、 76アミノ酸残基力もなるタンパク質であって、標的タンパク 質に結合して分解の目印となるものである。ュビキチンが結合したタンパク質には、さ らにュビキチンの付加が起こり、ポリュビキチン鎖が付加された標的タンパク質となる 。これが分解のシグナルとなり、前記標的タンパク質は、細胞内のプロテアソームによ つて速やかに分解される。
[0045] 前記ベクターを前記抗原提示細胞に導入する方法としては、特に制限されず、一 般的な手法を用いることができる。例えば、リン酸カルシウム法、リポフエクシヨン法、 DEAE (dimethylaminoethyl)デキストラン法、エレクト口ポレーシヨン法、マイクロイ ンジェクシヨン法等があげられる力 導入効率の高さの点からは、リポフエクシヨン法が 好ましい。リポフエクシヨン法とは、脂質二重膜の小胞であるリボソームと導入する DN Aとの複合体を形成させ、貪食や膜融合により目的の遺伝子を細胞内に導入する方 法である。
[0046] (2.共培養工程)
次に、被検タンパク質をコードする遺伝子が導入された抗原提示細胞と、リンパ球と を共培養する。
[0047] 前記ベクターを導入した後、抗原提示細胞を培養し、抗原提示を行わせる。培養期 間としては、例えば、 24時間〜 48時間が好ましい。それより長時間の培養の場合、 C TLの誘導能が低下する場合があるカゝらである。以下、抗原提示させた抗原提示細 胞を、 stimulator細胞(刺激細胞)とも!/、う。
[0048] 本発明の評価方法では、導入した遺伝子を安定して発現する細胞株を得ずとも一 過性の遺伝子導入による発現により CTLの誘導を検出することができるため、 stimu lator細胞の準備期間の大幅な短縮が可能となる。一過性の発現株では抗原タンパ ク質の発現量が少ないことが問題となる場合があるが、例えば、前述のとおり、ュビキ チンとの融合タンパク質とする等すれば、前記問題を解決できる。
[0049] 前記リンパ球としては、種々のものを使用できる力 ヒトリンパ球を用いることが好ま しい。また、前記リンパ球としては、本発明の抗原提示細胞と少なくとも 1つの MHCク ラス I分子を共有するリンパ球が好ましぐより好ましくは、 MHCクラス I分子が一致す るリンパ球である。リンパ球を採取する方法としては、特に制限されず、例えば、血液 から密度遠心勾配法により末梢血単核球(Peripheral Blood Mononuclear Ce 11、以下、 PBMCともいう。)を回収方法等があげられる。以下、前記 stimulator細胞 との共培養に使用するリンパ球を、 responder細胞 (反応細胞)ともいう。
[0050] 前記共培養にお!ヽて、前記 stimulator細胞と前記 responder細胞とを混合して培 養する。その混合する比率は、特に制限されないが、例えば、 stimulator細胞: resp onder細胞 = 1: 4程度が好まし!/ヽ。
[0051] 混合した細胞を培養する培養条件としては、温度条件は、例えば、 34°C〜38°Cで あって、好ましくは、 37°Cであり、 CO条件は、例えば、 2〜10%CO存在下であって
2 2
、好ましくは、 5%CO存在下である。
2
[0052] 前記共培養の培養期間としては、 5日間〜 7日間程度の培養が好ま ヽ。 5日間以 上の培養であれば、 CTLの誘導が可能となり、また、新たな刺激を加えずに長期間 培養すると細胞が死んでしまう場合がある力もである。
[0053] 前記共培養の培地としては、 AIM— V培地(インビトロジェン社製)、 RPMI- 1640
培地 (インビトロジェン社製)、ダルベッコ改変イーグル培地 (インビトロジェン社製)、 TIL (株式会社免疫生物研究所製)、表皮角化細胞培地 (コージンバイオ株式会社 製)、イスコフ培地 (インビトロジェン社製)等、細胞培養に使用される市販の培地を使 用できる。また、必要に応じて、 5〜20%のゥシ血清、ゥシ胎児血清(fetal calf ser um、以下、 FCSともいう。)、ヒト血漿等を添加してもよい。また、必要に応じて、種々 のサイト力インを添カ卩してもょ 、。
[0054] (3. CTL誘導効率測定工程)
最後に、細胞を回収し、特異的な CTL誘導能の有無を確認する。確認する方法と しては、特に制限されず、従来公知の方法を適用できる力 例えば、抗原ェピトープ ペプチド配列が分力つて 、る場合は、 MHCクラス 1/抗原ペプチド複合体の 4量体 であるテトラマーを用いた CTLの定量法を適用できる。また、抗原ェピトープぺプチ ド配列が分かっていない場合には、 ELISPOT法(Enzyme— Linked Immunosp ot Assay)や、細胞内サイト力イン (インターフェロン γ )を測定する方法等を適用で きる。
[0055] 以上のようにして本発明の評価方法を行うことで、被検タンパク質中に特異的な CT L誘導能を有する抗原ェピトープペプチドが存在する力否かを確認でき、また、その 誘導能を評価できる。
[0056] 本発明の抗原タンパク質のスクリーニング方法は、被検タンパク質の中から、本発 明の評価方法により、 CTLを特異的に誘導する抗原ェピトープペプチドを含むタン パク質 (以下、抗原タンパク質ともいう。)を同定する工程を含むスクリーニング方法で ある。このような方法であれば、例えば、様々ながん細胞由来タンパク質やウィルスタ ンパク質の中から、抗原ェピトープペプチドを含むタンパク質を容易に探索できる。ま た、同定された前記タンパク質は、例えば、後述のように、新たな抗原ェピトープぺプ チド同定のための絞込み対象とすることができる。
[0057] 本発明の抗原ェピトープペプチドのスクリーニング方法は、前記 (Α)工程及び前記
(Β)工程の少なくとも一方を含むスクリーニング方法である。本発明の抗原ェピトープ ペプチドのスクリーニング方法において、前記被検タンパク質としては、公知の抗原 タンパク質であってもよぐ本発明の抗原タンパク質のスクリーニング方法により同定
された新規な抗原タンパク質であってもよい。前記被検タンパク質としては、後者の 抗原タンパク質が好ましい。
[0058] 前記 (A)工程は、例えば、本発明の抗原タンパク質のスクリーニング方法により同 定された抗原タンパク質、又は抗原ェピトープペプチドが未知である公知の抗原タン ノ ク質の一部力 なる様々な部分ペプチドを被検タンパク質 (以下、被検部分べプチ ドともいう。)として本発明の評価方法を行い、前記被検部分ペプチドから抗原ェピト ープペプチドを含む部分ペプチドを同定する工程である。このような方法を、前記抗 原提示細胞に導入する前記被検部分ペプチドの長さや切断箇所を変えて行うことで 、前記抗原ェピトープペプチドの絞込みが可能となり、最終的に、前記抗原ェピトー プペプチドが同定できる。抗原ェピトープペプチドのアミノ酸残基数は、一般的には 、 9〜: L 1残基である。
[0059] 前記 )工程は、例えば、本発明の抗原タンパク質のスクリーニング方法により同 定された抗原タンパク質に基づき、様々な被検部分ペプチドを合成し、この合成した 被検部分ペプチドを本発明の抗原提示細胞と接触させた後、又は接触させながら、 リンパ球と共培養し、前記リンパ球における特異的な CTLの誘導効率を調べ、前記 被検部分ペプチドから抗原ェピトープペプチドを同定する工程である。被検部分べ プチドの長さや切断箇所を変えて行うことで、前記抗原ェピトープペプチドの絞込み が可能となり、最終的に、前記抗原ェピトープペプチドが同定できる。抗原ェピトープ ペプチドのアミノ酸残基数は、一般的には、 9〜11残基である。
[0060] 本発明のキットは、本発明の CTL誘導能評価方法に用いる評価キットであって、本 発明の抗原提示細胞を含むことを特徴とする。また、本発明のキットは、別の態様とし て、本発明の抗原タンパク質及び Z又は抗原ェピトープペプチドのスクリーニング方 法に用いるスクリーニングキットであって、本発明の抗原提示細胞を含むことを特徴と する。従来、 CTLの誘導能を評価するためには、その度、抗原提示細胞を調製する 必要があり、このようなキットィ匕は困難である。しかし、本発明の抗原提示細胞を用い れば、キットィ匕が可能となり、これにより、簡便で精度が優れた CTLの誘導能評価方 法並びに抗原タンパク質及び Z又は抗原ェピトープペプチドのスクリーニング方法が 可能となる。また、本発明のキットは、前記本発明の抗原提示細胞の他に、培養用の
培地や試薬等、適宜必要なものを含めることができる。
[0061] 本発明の CTL誘導能を有する抗原ェピトープペプチドの製造方法は、本発明の抗 原ェピトープペプチドのスクリーニング方法により抗原ェピトープペプチドを同定する 工程を含み、その他の工程については、特に制限されない。本発明の製造方法は、 さらに、前記タンパク質力 同定された抗原ェピトープペプチドを分離する工程や、 前記同定された抗原ェピトープペプチドを合成する工程を含むことが好ましい。
[0062] [実施例]
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明がこれら に限定されないことは、言うまでもない。
実施例 1
[0063] < MDA— CD80細胞株の榭立 >
MDA-MB 231細胞株をヒト CD80分子を恒常的に発現するように改変した細 胞株である MDA— CD80細胞株の榭立は、下記方法で行った。
[0064] CD80分子を発現している細胞力 抽出した RNAを使用して RT— PCR法により 铸型となる cDNA断片を調製し、下記 2種類の合成オリゴ DNAからなるプライマー C 080 及び1187—1 :1^を使用して、 PCR法により CD80遺伝子断片を増幅した。下 記プライマー塩基配列における下線部は、ベクターに挿入するための制限酵素サイ トの配列(Hindlll; CD80: F、 Xbal; hB7— 1: R)を示す。
[0065] [化 1] プライマー CD80 : F
5 ' -TTCAAGCTTACCATGGGCCACACACGGAGGCAGGGAACATCACC- 3 ' (配列番号 1 ) プライマー hB 7- 1 : R
5 ' -TAATCTAGATGCGGACACTGTTATACAGG- 3 ' (配列番号 2 )
PCRは、 LATaqDNAポリメラーゼ (Takara社製)を用いて、最初に 94°Cで 3分間 反応し、次に、 94°Cで 30秒、 55°Cで 30秒、 72°Cで 30秒を 1サイクルとして 30サイク ル反応し、最後に、 72°Cで 5分間反応するという反応条件で行った。前記 PCR法で 特異的に増幅された DNA断片を、 1. 5%ァガロースゲル電気泳動により切り出し、
制限酵素 Hindlll及び Xbalで処理し、プラスミド pRcZCMV (インビトロジェン社製) の Hindlll部位と Xbal部位との間に挿入し、 pRcZCMV— CD80を得た。挿入され たヒト CD80cDNAの塩基配列を DNAシーケンサーで確認したところ、文献 [Free man G. J. et al. (J. Immunol. ) 143 2714— 2722 (1989) ]で報告された ヒト CD80の cDNA塩基配列と完全に一致した。
[0067] MDA— MB— 231細胞を、直径 35mmのシャーレを用い、 10%FCS (CELLect
Gold Fetal Bovine Serum、 ICsN Biomedicals, Inc製)含有 RPMI 1640 培地で、 4〜6時間培養した。この細胞に 6 μ gの前記 pRcZCMV—CD80をリボフ ェクシヨン法で導入した。導入 48時間後、一過的に CD80分子を発現していることを フローサイトメーター(EPICS XL/MCL、ベックマン'コールター社製)を用いたフ ローサイトメトリー(Fluorescence— Activated Cell Sorter、以下、 FACSともい う。)で確認した。同時に、培地を前記培地に抗生物質 G418を添加した培地に換え て、プラスミドが染色体に組み込まれた細胞を選択した。さらに、選択された細胞を限 界希釈法によって単一細胞力もクローユングし、ヒト CD80分子を安定に発現する細 胞株 MDA— CD80を得た。
[0068] 前記 MDA—CD80が、 CD80分子を発現していることを、抗 CD80抗体を用いた FACS及び前記 MDA—CD80から抽出した mRNAを用いた RT—PCR法により確 認した。その結果の一例を、図 1及び図 2に示す。図 1において、縦軸が細胞数、横 軸が 1つの細胞における蛍光の強さ(CD80分子の発現頻度)を表す。また、白い山 は、コントロール(MDA— MB— 231)の細胞、黒い山は、 MDA—CD80の細胞の 結果を表す。同図に示すとおり、 FACSにより、前記 MDA— CD80上に CD80分子 が発現していることが確認された。また、図 2において、レーン aは、マーカーであり、 レーン bは、 MDA— MB— 231であり、レーン cは、 MDA— CD80である。同図に示 すとおり、前記 MDA— CD80 (レーン c)では、その親細胞である MDA— MB— 231 (レーン b)よりも CD80の mRNAが高発現して!/、ることが確認された。
[0069] < BMLF1遺伝子導入による CTLの誘導 >
BMLF1を発現して!/、る細胞から抽出した RNAを用いた RT— PCR法を行 、、 cD NAライブラリーを作製した。前記 BMLF1とは、 EBV (Epstein -Barr Virus)由来
のタンパク質である。作製した cDNAライブラリ一力も BMLFl遺伝子断片を選択し、 取得した BMLF1断片を PCR法により増幅した。増幅された遺伝子断片は、 1, 317 bpでめった。
[0070] pTracer™— SV40 (商品名、インビトロジェン社製、以下、 pTracerともいう。 )と、 ュビキチン遺伝子(以下、 Ubともいう。)とを、制限酵素 Aflll及び Kpnlで切断し、 ρΤ racerの制限酵素切断部位の間に、 Ubを挿入して、 pTracer— Ubを作製した。
[0071] 前記 pTracer— Ubと、前記 BMLF1断片とを、制限酵素 Kpnl及び Notlで切断し 、 pTracer— Ubの制限酵素切断部位の間に、 BMLF1を挿入し、 pTracer— Ub— BMLF1を作製した。
[0072] Ubを導入しな 、場合のため、前記 pTracerと、前記 BMLF1断片とを、制限酵素 K pnl及び Notlで切断し、 pTracerの制限酵素切断部位の間に、 BMLF1を挿入し、 p
Tracer - BMLF 1を作製した。
[0073] 1 X 106細胞の MDA—CD80細胞株を、 6ゥエルプレート(住友ベークライト社製) にて、 4〜12時間培養した後、 pTracer— Ub— BMLFl (4 μ g)をリポフエクシヨン法 により前記 MDA— CD80細胞に導入した。
[0074] 24時間後、 FACSにより GFP (Green Fluorescent Protein;緑色蛍光タンパク 質)の発現量を測定することで導入 (transfection;トランスフエクシヨン)効率を確認 した。
[0075] pTracer— Ub— BMLFlを導入した MDA— CD80細胞を、 I X 10°細胞あたり 10
0 μ gのマイトマイシン (マイトマイシン注用 2mg、協和発酵工業株式会社製)を使用 して 30分間処理し、 stimulator細胞とした。
[0076] 他方、血液から血球遠心分離剤(Lymphoprep、 AXIS— SHIELD PoC AS製
)を用いた遠心分離法により、 PBMCを調製し、 responder細胞とした。
[0077] 前記 stimulator細胞(5 X 105細胞)と、前記 responder細胞(2 X 106細胞)とを混 合して 37°C、 5%CO条件下で、 7日間培養した。この際、 IL— 2 (PROLEUKIN、
2
CHIRON (カイロン)社製)を 100U/mlとなるように添カロした。培地は、 10%FCS 添加 AIM—V培地を使用した。
[0078] 7日間の培養後、細胞を回収し、 100 1あたり 5 X 105細胞となるように PBS (phos
phate buffered saline、リン酸バッファー、ダルベッコ PBS (—)、 日水製薬株式 会社製)に懸濁した。
[0079] 前記細胞懸濁液に、 5 μ 1の anti—CD80—FITC (CD8 a、 IMMUNOTECH社 製)と、 5 1の BMLF1特異的 T—select MHC classl tetramer—PE (T—sele ct HLA— A * 0201 EBV Tetramer— GLCTLVAML— PE、株式会社医学 生物学研究所製)とを添加し、室温にて 15分間反応させた。
[0080] 細胞を PBSで洗浄し、再び PBSで懸濁した後、 CD8を発現し(CD8— positive) かつ BMLF1を認識することができる(tetramer— positive)細胞集団を F ACSで測 定した。 CD8を発現し、かつ、テトラマーに結合できるもの力 BMLF1に対する特異 的な CTLである。
[0081] 前記 FACS測定の結果の一例を図 3A〜Cに示す。図 3Aは、 MDA— CD80に pT racerのみを導入した Mock処理の結果の一例であり、図 3Bは、 MDA—CD80に p Tracer— BMLF1を導入した結果の一例であり、図 3Cは、 MDA— CD80に pTrac er—Ub— BMLFlを導入した結果の一例である。図 3A〜Cの右図において、横軸 1S FITC— CD8のシグナルを示し、縦軸が、 PE— Tetramerのシグナルを示す。 図 3A及び図 3Bに示すとおり、 MDA—CD80にウィルス由来の全長タンパク質をコ ードした遺伝子を導入することで抗原提示させ、特異的な CTLを誘導できることが確 認された。また、図 3Cに示すとおり、ュビキチンと抗原ペプチドとの融合遺伝子を導 入した場合には、導入しな力つた場合(図 3B)と比較して、特異的な CTL誘導'検出 効率が、 3倍以上向上することが確認された。
実施例 2
[0082] < Marti遺伝子導入による CTLの誘導 >
1 X 106細胞の MDA— CD80細胞株(実施例 1で作製したもの)を 6ゥエルプレート にて 4〜 12時間培養した。
[0083] Martiを発現して!/、る細胞から抽出した RNAを用いて RT— PCR法を行 、、 cDN
Aライブラリーを作製した。前記 Martiとは、メラノーマ(悪性黒色腫)の抗原タンパク 質である。
[0084] 作製した前記 cDNAライブラリ一力ゝら Marti遺伝子断片を選択し、取得した Marti
遺伝子断片を PCR法により増幅した。増幅された遺伝子断片は、 357bpであった。
[0085] 前記 pTracer— Ubと、前記 Marti遺伝子断片とを、制限酵素 Kpnl及び Spelで切 断し、 pTracer— Ubの制限酵素切断部位の間に Martiを挿入し、 pTracer -Ub- Martlを作製した。
[0086] Ubを導入しな ヽ場合のため、前記 pTracerと、前記 Marti遺伝子断片とを、制限 酵素 Kpnl及び Spelで切断し、 pTracerの制限酵素切断部位の間に Martiを挿入 し、 pTracer— Martiを作製した。
[0087] 前記 pTracer— Ub— Martiを、実施例 1と同様のリポフエクシヨン法により、 MDA
— CD80細胞に導入し、 24時間後、 FACSにより GFPの発現量を測定することでトラ ンスフエクシヨン効率を確認した。
[0088] pTracer—Ub— Martlを導入したMDA—CD80細胞を、 1 X 106細胞あたり 100 μ gのマイトマイシンを使用して 30分間処理し、 stimulator細胞とした。
[0089] 他方、血液から血球遠心分離剤(Lymphoprep、 AXIS— SHIELD PoC AS製
)を用いた遠心分離法により、 PBMCを調製し、 responder細胞とした。
[0090] 前記 stimulator細胞(5 X 105細胞)と、前記 responder細胞(2 X 106細胞)とを混 合して 37°C、 5%CO条件下で、 7日間培養した。この際、 IL— 2を lOOUZmlとなる
2
ように添カ卩した。培地は、 10%FCS添加 AIM— V培地を使用した。
[0091] 7日間の培養後、細胞を回収し、 100 1あたり 5 X 105細胞となるように PBSに懸濁 した。
[0092] 前記細胞懸濁液に、 5 μ 1の anti—CD80—FITCと、 5 μ 1の Marti特異的 T—sel ect MHC classl tetramer - PE (T - select HLA—A水 0201 Marti Tet ramer— ELAGIGILTV— PE、株式会社医学生物学研究所製)とを添加し、室温 にて 15分間反応させた。
[0093] 細胞を PBSで洗浄し、再び PBSで懸濁した後、 CD8を発現し(CD8— positive) かつ Martiを認識することができる(tetramer— positive)細胞集団を FACSで測 定した。 CD8を発現し、かつ、テトラマーに結合できるもの力 Martiに対する特異 的な CTLである。
[0094] 前記 FACS測定の結果の一例を図 4A〜Cに示す。図 4Aは、 MDA— CD80に pT
racerのみを導入した Mock処理の結果の一例であり、図 4Bは、 MDA—CD80に p Tracer— Martiを導入した結果の一例であり、図 4Cは、 MDA—CD80に pTracer Ub— Martiを導入した結果の一例である。図 4A〜Cの右図において、横軸が、 FITC— CD8のシグナルを示し、縦軸が、 PE— Tetramerのシグナルを示す。図 4A 及び図 4Bに示すとおり、 MDA-CD80に腫瘍細胞由来の全長タンパク質をコード した遺伝子を導入することで抗原提示させ、特異的な CTLを誘導できることが確認さ れた。また、図 4Cに示すとおり、ュビキチンと抗原ペプチドとの融合遺伝子を導入し た場合には、導入しな力つた場合 (図 4B)と比較して、特異的な CTL誘導'検出効率 力 2. 7倍向上することが確認された。
実施例 3
[0095] く細胞内サイト力イン (インターフェロン γ )の測定による CTL誘導能評価〉
BMLF1遺伝子を MDA—CD80細胞に導入して CTLを誘導し、誘導された CTL が産生するインターフェロン γ (以下、 IFN— yともいう。)を測定することで、 BMLF
1の CTL誘導能を評価した。
[0096] 実施例 1と同様にして pTracer— Ub— BMLF 1及び pTracerを MDA— CD80に 導入して stimulator細胞を調製し、また、実施例 1と同様にして responder細胞を調 製した。
[0097] 前記 stimulator細胞(5 X 105細胞)と、前記 responder細胞(2 X 106細胞)とを混 合して 37°C、 5%CO条件下で、 7日間培養した。この際、 IL— 2を lOOUZmlとなる
2
ように添カ卩した。培地は、 10%FCS添加 AIM— V培地を使用した。ここで、前記 sti mulator細胞は、 pTracer— Ub— BMLF 1を導入した MDA— CD80及び pTracer を導入した MDA— CD80である。
[0098] 7日間の培養後、 responder細胞を回収し、 PBS (―)で洗浄した。 stimulator細 胞は、前述のとおり、事前にマイトマイシン処理してあるため、 7日間の培養後には、 回収した細胞群には、ほぼ responder細胞のみが残っていることになる。
[0099] 前記 1回目の stimulator細胞の刺激により誘導された CTLは、 IFN— γを誘導す る力 7日間の培養の間に IFN— y産生量が減少してしまう。 IFN- yの産生量を検 出しやすくするため、 2回目の刺激を行った。 1回目の刺激ですでに CTLの誘導が
行われているため 2回目の刺激は短時間でもよい。また、下記の 2回目刺激には、ェ ピトープペプチドをパルスした MDA— CD80を使用して!/、るが、ェピトープペプチド が未知である場合には、 stimulator細胞として、例えば、ュビキチン 抗原タンパク 質の融合タンパク質を pTracer等により導入した MDA—CD80を用いることができる
[0100] 回収した responder細胞(2 X 105細胞)を、 100 μ 1の 10%FCS添加 AIM—V培 地に懸濁した。また、 2回目の stimulator細胞として、ェピトープペプチドをパルスし た MDA— CD80 (1 X 105細胞)を 100 /z 1の 10%FCS添加 AIM— V培地に懸濁し て調製した。
[0101] 前記 responder細胞と前記 stimulator細胞とを、 96ゥヱル丸底プレート(住友べ一 クライト社製)において混合し、 50UnitZmlの IL— 2と、 40 μ gZmlの BefeldinA( Sigma Chemicals社製)とを添加し、 37°C、 5%CO条件下で、 4
2 〜6時間培養した
。前記 BefeldinAは、サイト力インの細胞外への放出を阻害する試薬である。そのた め、細胞内で産生された IFN— γは、細胞内に蓄積されることとなる。
[0102] 細胞を回収し、 PBS (―)で洗浄し、 100 1の PBS (―)に懸濁し、 5 1の Anti— C D8FITCと 5 μ 1の Anti—CD3— PC5とをそれぞれ加え、室温で 15分間反応させた
[0103] 100 1の IntraPrep Reagent 1 (細胞膜透過処理試薬、ベックマン'コールター 社製)を添カ卩した。前記 IntraPrep Reagentlは、細胞を固定するための薬品であ る。サンプルをボルテックスにかけてよく混合し、室温 '喑所で 15分間静置した。細胞 を回収し、 PBS (―)で洗浄し、 100 1の PBS (―)に懸濁した。その後、 100 1の In traPrep Reagent2 (細胞膜透過処理試薬、ベックマン'コールター社製)を添カロし 、室温 *喑所で 5分間静置した。前記 IntraPrep Reagent2は、固定された細胞表 面に穴をあけ、抗体が細胞内の IFN— yと反応できるようにするための試薬である。
[0104] 5 μ 1の Anti— IFN— γ― FITC (IMMUNOTECH社製)を添加し、室温'喑所で 15分間反応させた。細胞を回収し、 PBS (—)で洗浄し、 FACSにより CD3陽性かつ CD8陽性かつ IFN— γ陽性細胞を測定した。
[0105] その結果の一例を図 5Α〜Βに示す。図 5Αは、 MDA—CD80に pTracerのみを
導入した Mock処理の結果の一例であり、図 5Bは、 MDA—CD80に pTracer—Ub — BMLF1を導入した結果の一例である。図 5A〜Bにおいて、横軸が、 FITC— CD 8のシグナルを示し、縦軸が、 IFN- γのシグナルを示す。図 5Α及び図 5Βに示すと おり、 pTracer— Ub— BMLF 1を導入した MDA—CD80を 1回目の刺激に用 、た 場合、産生される IFN— γ量力 pTracerのみを導入した場合と比較して高くなつて いることが確認された。すなわち、 BMLF1遺伝子を導入したことにより、抗原提示が 行われ、特異的な CTLが誘導されたことが確認された。
産業上の利用可能性
[0106] 以上説明したように、本発明によれば、迅速かつ簡便に特異的な CTL誘導能評価 が可能であるから、抗原タンパク質及び抗原ェピトープペプチドのスクリーニングが 迅速かつ簡便にできる。したがって、本発明は、例えば、新規抗原ェピトープぺプチ ド探索の分野であり、また、がんや感染症等の治療 Z予防に関する免疫細胞療法を 含む医療分野に有用である。
配列表フリーテキスト
[0107] 配列番号 1 プライマー CD80 :F
配列番号 2 プライマー hB7— 1 :R