JP7526091B2 - フェライト系ステンレス鋼材 - Google Patents
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Description
図1は、異常酸化部を説明するための模式図であり、(a)は異常酸化部を有する酸化皮膜が形成されたステンレス鋼材を示す平面図、(b)は断面図、(c)は(b)の四角形枠内の拡大図である。図1(a)に示すステンレス鋼材は、表面に酸化処理法によって形成された黒色酸化皮膜4を有する。この黒色酸化皮膜4は、主としてCr酸化物(Cr2O3)からなり、表面側にはCr2O3に加えてMnとCrの複合酸化物やTiとCrの複合酸化物が形成されることより黒色の色調が付与されている。しかしながら、酸化処理法により酸化皮膜を形成する際にCr主体の黒色酸化皮膜4が形成されずに、局所的にFe系酸化物が成長し、Fe主体の酸化皮膜4からなる異常酸化部9が形成されることがある。なお、本明細書において、黒色酸化皮膜4と異常酸化部9とを合わせたステンレス鋼材表面に形成された酸化皮膜全体を単に「酸化皮膜」と称することもある。
すなわち、フェライト系ステンレス鋼の組成及び酸化皮膜の色調を制御した、表面に酸化皮膜を有するステンレス鋼材に対して、硝酸水溶液中で特定の条件のもと電解処理を施すことで、正常な黒色酸化皮膜の溶解を生じることなく異常酸化部及び異常酸化部直下の素地表層を溶解させることができ、かつ、溶解後に露出した素地の表面にCr分率の高い不働態皮膜を形成させることができること、その結果、黒色の色調を維持したまま耐食性を向上できることを見出し、本発明に至った。
(1)本発明の一態様に係るフェライト系ステンレス鋼材は、質量%で、C:0.050%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.04~1.00%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Cr:16.00~25.00%、Ni:1.00%以下、Cu:0.60%以下、Mo:2.00%以下、N:0.030%以下、Al:0.500%以下、Ti:0.080~0.500%、Nb:0.500%以下かつNb及びTiの合計含有量が6(C+N)以上(C及びNは、C及びNの含有量をそれぞれ表す)であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有するフェライト系ステンレス鋼を素地として、明度指数L*≦45、クロマネチックス指数-5.0≦a*≦5.0、-5.0≦b*≦5.0を満たす黒色酸化皮膜が表面に形成されており、黒色酸化皮膜が形成されていない素地露出部を有し、素地露出部の面積率が0.01~3.0%、素地露出部の最大剥離面積が100μm2~10000μm2かつ素地露出部表面に形成された不働態皮膜がCr分率≧40%を満たす。
(1.1 化学組成)
本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材(以下、単に「ステンレス鋼材」と記載することがある。)の素地は、質量%で、C:0.050%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.04~1.00%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Cr:16.00~25.00%、Ni:1.00%以下、Cu:0.60%以下、Mo:2.00%以下、N:0.030%以下、Al:0.500%以下、Ti:0.080~0.500%、Nb:0.500%以下かつNb及びTiの合計含有量が6(C+N)以上(C及びNは、C及びNの含有量をそれぞれ表す)であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有する。すなわち、本実施形態に係るステンレス鋼材の素地は、常温での金属組織が主としてフェライト相となる化学組成を有している。
ここで、本明細書において「不純物」とは、素地のフェライト系ステンレス鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。例えば、不純物には、不可避的不純物も含まれる。
また、本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材の素地は、さらに、質量%で、REM:0.100%以下及びCa:0.100%以下からなる群から選択される1種以上の元素を含んでもよい。
さらに、本発明の実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼材の素地は、さらに、質量%で、Sn:0.100%以下及びB:0.0100%以下からなる群から選択される1種以上の元素を含んでもよい。
以下、各元素の含有量の限定理由について説明する。
Cは、ステンレス鋼材の耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)や加工性などの特性に影響を与える元素である。Cの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び耐粒界腐食性が低下してしまう。そのため、Cの含有量の上限値は、0.050質量%、好ましくは0.045質量%、より好ましくは0.040質量%である。一方、Cの含有量の下限値は、特に限定されないが、Cの含有量を少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Cの含有量の下限値は、好ましくは0.0005質量%、好ましくは0.001質量%である。
Siは、ステンレス鋼材の耐酸化皮膜剥離性や耐高温酸化性を向上させる元素である。Siの含有量が多すぎると、加工性及び靭性が低下する。そのため、Siの含有量の上限値は、1.00質量%、好ましくは0.90質量%、より好ましくは0.80質量%である。一方、Siの含有量の下限値は、特に限定されないが、ステンレス鋼材製造時の酸化皮膜剥離による表面品質低下を抑制する観点から、好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.10質量%、更に好ましくは0.15質量%である。
Mnは、脱酸元素として有用な元素であるとともに耐酸化皮膜剥離性や耐高温酸化性の向上に有効な元素である。また、MnはCrとの複合酸化物を形成することで、黒色の色調形成に有効である。Mnの含有量が多すぎると、腐食起点となるMnSを生成し易くなるとともに、フェライト相を不安定化させる。そのため、Mnの含有量の上限値は、1.00質量%、好ましくは0.95質量%、より好ましくは0.90質量%である。一方、Mnの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られないことがある。そのため、Mnの含有量の下限値は0.04質量%、好ましくは0.05質量%である。
Pは、ステンレス鋼材の溶接性や加工性などの特性に影響を与える元素である。Pの含有量が多すぎると、上記の特性が低下する恐れがある。そのため、Pの含有量の上限値は、0.050質量%、好ましくは0.045質量%、より好ましくは0.040質量%である。一方、Pの含有量の下限値は、特に限定されないが、Pの含有量を少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Pの含有量の下限値は、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.010質量%である。
Sは、腐食起点となるMnSを生成し、ステンレス鋼材の靭性などの特性に影響を与える元素である。Sの含有量が多すぎると、上記の特性が低下する恐れがある。そのため、Sの含有量の上限値は、0.030質量%、好ましくは0.025質量%、より好ましくは0.020質量%である。一方、Sの含有量の下限値は、特に限定されないが、Sの含有量を少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Sの含有量の下限値は、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0005質量%以上である。
Crは、ステンレス鋼材の耐食性及び耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。Crの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の靭性が低下するとともに、酸化皮膜の成長を阻害し、黒色の色調を有する酸化皮膜を形成できない。そのため、Crの含有量の上限値は、25.00質量%、好ましくは24.50質量%、より好ましくは24.00質量%である。一方、Crの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られないことがある。そのため、Crの含有量の下限値は、16.00質量%、好ましくは16.50質量%である。
Niは、ステンレス鋼材の耐食性及び靭性を向上させるのに有効な元素である。Niの含有量が多すぎると、フェライト相が不安定化するとともに、製造コストも上昇する。そのため、Niの含有量の上限値は、1.00質量%、好ましくは0.90質量%、より好ましくは0.80質量%である。一方、Niの含有量の下限値は、特に限定されないが、上記の効果を得る観点から、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%である。
Cuは、ステンレス鋼材の耐食性を向上させるのに有効な元素である。Cuの含有量が多すぎると、フェライト相が不安定化するとともに、製造コストも上昇する。そのため、Cuの含有量の上限値は、0.60質量%、好ましくは0.55質量%、より好ましくは0.50質量%である。一方、Cuの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、好ましくは0.01質量%である。
Moは、ステンレス鋼材の耐食性及び耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。Moの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性の低下、製造コストの上昇を招くとともに、耐酸化性向上が向上し黒色酸化皮膜の形成が困難になる。する。そのため、Moの含有量の上限値は、2.00質量%、好ましくは1.90質量%である。一方、Moの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、好ましくは0.01質量%である。
Nは、耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)や加工性などの特性に影響を与える元素である。Nの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の耐粒界腐食性や加工性が低下する。また、後記するように、黒色酸化皮膜の形成には、Tiを必要とするが、Nの含有量が多くなると、TiNが析出するため鋼中の固溶Ti量が減少し、黒色酸化皮膜の形成が阻害される。また、形成された窒化物は、腐食の起点になりやすく、耐食性、特に耐孔食性を低下させる。そのため、Nの含有量の上限値は、0.030質量%、好ましくは0.028質量%、より好ましくは0.025質量%である。一方、Nの含有量の下限値は、特に限定されないが、Nの含有量を少なくすることは精練コストの上昇につながる。そのため、Nの含有量の下限値は、好ましくは0.0005質量%、好ましくは0.001質量%である。
Alは、黒色酸化皮膜を形成した際に素材表面にAl酸化物を形成することで酸化皮膜の剥離を抑制するのに有効に働く元素である。他方、Alの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の靭性が低下する。そのため、Alの含有量の上限値は、0.500質量%、好ましくは0.450質量%、より好ましくは0.400質量%である。一方、Alの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、好ましくは0.010質量%である。
Nb及びTiは、耐粒界腐食性(鋭敏化抑制作用)などの特性に影響を与える元素である。さらにTiはCrとの複合酸化物を形成することで、酸化皮膜に黒色の外観を付与する。
Nbの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下する。そのため、Nbの含有量の上限値は、0.500質量%、好ましくは0.480質量%、より好ましくは0.450質量%である。
また、Tiの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び表面品質が低下する。そのため、Tiの含有量の上限値は、0.500質量%、好ましくは0.480質量%、より好ましくは0.450質量%である。
一方、Nb及びTiの含有量の下限値は、耐粒界腐食性を低下させるC及びNの含有量との関係から制御される。具体的には、Nb及びTiの合計含有量の下限値は、6(C+N)、好ましくは7(C+N)、より好ましくは8(C+N)である。ここで、C及びNは、C及びNの含有量をそれぞれ表す。また、Tiの含有量が少なすぎると、上記の効果が十分に得られないことがある。そのため、Tiの含有量の下限値は、0.080質量%、好ましくは0.090質量%以上、より好ましくは0.100質量%である。
Zr、Co、V及びWは、ステンレス鋼材の耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。Zr、Co、V及びWの含有量が多すぎると、ステンレス鋼材の加工性及び靭性が低下するとともに、製造コストの上昇につながる。そのため、Zr、Co、V及びWの含有量の上限値はいずれも、1.0質量%、好ましくは0.8質量%、更に好ましくは0.5質量%である。一方、Zr、Co、V及びWの含有量の下限値はいずれも、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.01質量%である。
REM及びCaは、フェライト系ステンレス鋼材の耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。REM及びCaの含有量が多すぎると、フェライト系ステンレス鋼の製造コストの上昇につながる。そのため、REM及びCaの含有量の上限値はいずれも、0.100質量%、好ましくは0.080質量%、更に好ましくは0.050質量%である。一方、REM及びCaの下限値はいずれも、特に限定されないが、好ましくは0.0001質量%、より好ましくは0.003質量%である。なお、REMは、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、希土類金属を意味する。具体的には、La、Ce、Nd等が挙げられ、これらのうち1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて含有させることができる。含有される希土類元素が2種類以上である場合、上記REM含有量は、これら希土類元素の総含有量を意味する。添加の方法としては、例えば、希土類元素の混合物であるミッシュメタル(MM)を用いて、REM含有量が上記の範囲となるように含有させてもよい。
Snは、ステンレス鋼材の耐食性を向上させるのに有効な元素である。Snの含有量が多すぎると、Snが偏析し、製造性が低下する。そのため、Snの含有量の上限値は、0.100質量%、好ましくは0.080質量%、より好ましくは0.050質量%である。一方、Snの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.001質量%、より好ましくは0.005質量%である。
Bは、ステンレス鋼材の二次加工性を向上させるのに有効な元素である。Bの含有量が多すぎると、ステンレス鋼の疲労強度が低下する。そのため、Bの含有量の上限値は、0.0100質量%、好ましくは0.0080質量%、より好ましくは0.0050質量%である。一方、Bの含有量の下限値は、特に限定されないが、好ましくは0.0001質量%、より好ましくは0.0005質量%である。
図2(b)は、後述するように、本実施形態に係るステンレス鋼材1の表面近傍を模式的に示す板厚方向の断面図である。図2(b)を参照して、本実施形態に係るステンレス鋼材1は、フェライト系ステンレス鋼からなる素地3と、素地3の表面に形成された黒色酸化皮膜4とを有する。
(酸化皮膜)
本実施形態に係るステンレス鋼材1における黒色酸化皮膜4の素地3側は、主としてCr2O3が形成されたCr酸化物領域42である。このようなCr主体の酸化皮膜は、緻密かつ均一な構造を有し、素地3を保護する保護皮膜として機能するため、本実施形態のステンレス鋼材1は耐食性に優れる。また、本実施形態に係るステンレス鋼材1における黒色酸化皮膜4の表面側は、TiとCrの複合酸化物やMnとCrの複合酸化物の割合がCr酸化物領域42よりも高いTi/Mn濃化領域41であり、これら複合酸化物の存在により、酸化皮膜に黒色の色調が付与されている。
本実施形態に係るステンレス鋼材1は、黒色酸化皮膜4が形成された表面(素地露出部以外の表面)の色調に関して、明度指数L*、クロマネティクス指数a*、b*が特定の範囲にある。これらの数値は、JIS Z 8722:2009に準拠する色調測定を任意の5点で行い、平均した数値を、JIS Z 8781-4:2013に準拠するCIELAB(L*a*b*表色系)である明度指数L*、クロマネティクス指数a*、b*で示した値である。本実施形態に係るステンレス鋼材1の黒色酸化皮膜4は、その表面が、L*≦45.0、-5.0≦a*≦5.0、-5.0≦b*≦5.0の範囲を有している。
本実施形態に係るステンレス鋼材1は、後述の電解処理工程により、酸化皮膜中に局所的に形成された異常酸化部9及び異常酸化部直下の素地表層5を溶解しているため、素地露出部7が特定の範囲で存在している。すなわち、本実施形態に係るステンレス鋼材1は、素地露出部7の面積率が0.01~3.0%、素地露出部7の最大面積が100μm2~10000μm2である。耐食性向上のため、異常酸化部9の除去は有効であるが、素地露出部7の面積率や最大面積の増加は外観の低下を招くことになる。したがって、本実施形態に係るステンレス鋼材1の表面における、観察面積全体に占める素地露出部7の合計面積を、素地露出部7の面積率と定義した場合、素地露出部7の面積率は0.01~3.0%であり、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。また、一つあたりの素地露出部7の面積は100μm2~10000μm2であり、好ましくは9000μm2以下、より好ましくは8000μm2以下である。
これらの数値は、光学顕微鏡を用いて、鋼材表面のエッジ部を除く任意の5点について1mm2(1mm×1mm)の面積を観察して得られた数値である。
素地露出部7の面積は、倍率200倍の光学顕微鏡で撮影した写真を用いた画像解析により求めることができる。黒色酸化皮膜4が存在する部分は黒色、異常酸化部9が残存している部分は黒色もしくは茶色、素地露出部7はステンレス鋼素地3の銀白色で観察されることから、二値化処理により、白色部の面積を測定することで、素地露出部7の面積を求めることができる。素地露出部7の面積率を求めるときは、測定面積全体を測定し、5箇所から得られた数値の算術平均を算出した。また、素地露出部7の最大面積を求めるときは、最も大きな素地露出部7近傍の拡大部位で測定し、5箇所から得られた数値の最大値を用いた。
本実施形態に係るステンレス鋼材1の素地露出部7の表面に形成された不働態皮膜8は、Cr分率≧40%を満たしている。後述の電解処理工程において、異常酸化部等を除去する際に、電解処理溶液として硝酸水溶液を用いることで、異常酸化部等が除去された後の素地露出部7に形成される不働態皮膜8のCr分率を40%以上とすることができる。
素地露出部7表面の不働態皮膜8の組成はグロー放電発光分光法(GDS)により分析でき、JIS K 0144:2018に準拠するグロー放電発光分光分析法(GD-OES)(Glow Discharge Optical Emission Spectrometry)により測定される。この際、分析範囲が素地露出部のみに含まれるように分析範囲を限定する。得られた表面プロファイルにおいてO(酸素)が最大値の4分の3となる点におけるCr濃度/(Fe濃度+Cr濃度+Mn濃度+Ti濃度)×100を素地露出部7表面における不働態皮膜8のCr分率(%)とする。
本実施形態のステンレス鋼材は、例えば、以下の方法で製造できる。上述した化学組成を有するフェライト系ステンレス鋼スラブを熱間圧延し、得られた熱延コイルを焼鈍、酸洗した後に冷延率50%以上で冷間圧延した後、表面を#180以上の研磨ベルトで仕上げ研磨を施す。得られた冷延板(素地)を酸化性雰囲気において1050~1080℃で2~3分焼鈍することで、素地表面に黒色酸化皮膜が形成される。なお、黒色酸化皮膜の厚さは、200~1000nmであり、250~900nmであることが望ましい。黒色酸化皮膜の厚さは、焼鈍温度及び焼鈍時間により調整できる。
図2は、電解処理工程において異常酸化部が除去されて素地露出部に不働態皮膜が形成されるまでの過程を説明するための模式図である。図2(a)は異常酸化部を有する酸化皮膜が形成された状態を示す断面図であり、図2(b)は硝酸電解終了後の状態を示す断面図である。
図2(a)に示すように、酸化処理法により素地3の表面に酸化皮膜を形成する際に、Cr主体の黒色酸化皮膜4が形成されずに、局所的にFe系酸化物が成長し、Fe主体の異常酸化部9が形成されることがある。
このようなステンレス鋼表面に不可避的に形成され得る異常酸化物9は、緻密かつ均一な構造を有するCr主体の黒色酸化皮膜4に比べて、隙間の多い構造を有するため、保護皮膜として十分機能せず、異常酸化部9の存在により早期の発銹を招くおそれがある。そのため、耐食性のさらなる向上のためには、異常酸化部9の除去が有効である。
これらの除去は、電解処理溶液として硝酸水溶液を用いた電解処理によって行う。
電解処理は、酸化性の酸である硝酸水溶液中で行う。硝酸水溶液の濃度は70~150g/Lであり、溶液温度は45~60℃である。硝酸濃度や溶液温度が低くすぎると、Fe系酸化物が十分に溶解せず異常酸化部9の除去が困難となったり、Cr欠乏層51や介在物6の除去が困難となったりする。また、硝酸濃度や溶液温度が高すぎると、黒色酸化皮膜4の溶解を招き、色調を悪化させる要因となる。さらに、素地3の過剰な溶解を招くことで、黒色酸化皮膜4が大きく剥離してしまうことがあり、外観を悪化させる要因ともなり得る。
電解時の電気量は150~900C/m2であり、このときの電流密度は90A/m2以下である。電気量が少ないと異常酸化部9や、Cr欠乏層51、介在物6の除去が困難となる。また、電気量が多いと、黒色酸化皮膜4の溶解を招き色調を悪化させる要因となる。さらに、素地3の過剰な溶解を招くことで、黒色酸化皮膜が大きく剥離してしまうことがあり、外観を悪化させる要因ともなり得る。
ここで、Fe系酸化物は、Cr酸化物(Cr2O3)に比して溶けやすく、また、素地3のステンレス鋼自体も、耐食性のあるCr主体の酸化皮膜4に比して溶けやすいため、硝酸水溶液に浸漬してわずかな電流を流すことで溶解する。そのため、電気量が少なくなるように制御することで、Fe系酸化物及びその下の素地表層5のみを優先的に溶解して、異常酸化部9及びその下に存在するCr欠乏層51や介在物6を除去することができる。
上述の工程によれば、所望の外観を維持しつつ耐食性の向上を図ることができるため、本実施形態に係るステンレス鋼材1は、黒色の色調を有し、かつ耐食性に優れる。そのため、本実施形態に係るステンレス鋼材1は、高い耐食性が必要とされる環境で使用される意匠部材として用いるのに適している。意匠部材としては、特に限定されないが、建材、配管、意匠性が必要とされるマフラーなどの自動車用排気系部材など各種部材が挙げられる。
供試材表面のエッジ部を除く黒色酸化皮膜部の5箇所について、測定径3mmφの分光測色計を用いてJIS Z 8722:2009に準拠した色調測定を行い、平均値をJIS Z 8781-4:2013に準拠するCIELAB(L*a*b*表色系)である明度指数L*、クロマネティクス指数a*、b*で示した。
装置:コニカミノルタ 分光測色計 CM-700d
光源:パルスキセノンランプ
受光素子:デュアル36素子シリコンフォトダイオードアレイ
ターゲットマスク:Φ3mm
測定:10°視野
補助イルミナント:D65 昼光、色温度6504K
正反射処理モード:SCI
さらに供試材表面のエッジ部を除く黒色酸化皮膜部の5箇所について、デジタルマイクロスコープで1mm×1mmの範囲を倍率200倍で観察した。そして、それぞれの箇所において、二値化処理した後の白色部の面積を測定することで、素地露出部の面積率及び最大面積を画像解析により導出した。面積率は5箇所の平均を、最大面積は5か所の中の最大の値を用いた。
供試材表面の素地露出部においてJIS K 0144:2018に準拠するグロー放電発光分光分析法(GD-OES)にてGDS分析を行い、素地露出部の不働態皮膜のCr分率(%)を測定した。ここでは、Oピーク強度が最大値の3/4となったポイントにおけるCr濃度/(Fe濃度+Cr濃度+Mn濃度+Ti濃度)×100を素地露出部の不働態皮膜のCr分率(%)とした。
装置:株式会社リガク GDA750
分析径(アノード径):Φ4mm
電圧:650V
Ar圧力:2.8hPa
上記電解処理を施した供試材から、幅50mm、長さ100mmの測定用試験片12を切り出した。この測定用試験片を用いて図3に示す接着体11を次のようにして作製した。なお、図3(a)は接着体の平面図、(b)は側面図である。まず、測定用試験片12の4つの切断端面のうち短辺1箇所を除いた3辺の切断端面を、ゴム13(信越シリコーン株式会社製の一液縮合型RTVゴムKE44)を用いて被覆した。次に、70mm×150mmのベークライト板14の上に20mmφ×10mmのポリエチレン製チューブ15を2個配置して接着し、その上にゴム13で被覆した測定用試験片12を接着した。このようにして得られた接着体11を用いて、塩乾湿複合サイクル試験で耐食性を評価した。具体的には、測定用試験片12が水平面に対して75度の角度となり且つ被覆されていない短辺が下側となるように接着体11を複合サイクル試験機内に設置した後、5%塩水噴霧(35℃、2時間)、乾燥(60℃、25%RH、4時間)、湿潤(50℃、95%RH、2時間)を1サイクルとして5サイクル行った。複合サイクル試験後は、接着体11の水洗、乾燥を行って接着体11の表面の発銹率をJIS G 0595:2004に準じて評価し、素地露出部7のレイティングナンバ(RN)が9.5以上(発銹面積率≦0.05%)の場合を○(耐食性に優れる)、レイティングナンバ(RN)が9.5未満(発銹面積率>0.05%)の場合を×(耐食性が不十分)と評価した。
3 素地
4 黒色酸化皮膜
41 Ti/Mn濃化領域
42 Cr酸化物領域
5 素地表層
51 Cr欠乏層
6 介在物
7 素地露出部
8 不働態皮膜
9 異常酸化部
11 接着体
12 測定用試験片
13 ゴム
14 ベークライト板
15 ポリエチレン製チューブ
Claims (4)
- 質量%で、C:0.050%以下、Si:1.00%以下、Mn:0.04~1.00%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Cr:16.00~25.00%、Ni:1.00%以下、Cu:0.60%以下、Mo:2.00%以下、N:0.030%以下、Al:0.500%以下、Ti:0.080~0.500%、Nb:0.500%以下かつNb及びTiの合計含有量が6(C+N)以上(C及びNは、C及びNの含有量をそれぞれ表す)であり、残部がFe及び不純物からなる組成を有するフェライト系ステンレス鋼を素地として、
明度指数L*≦45、クロマネチックス指数-5.0≦a*≦5.0、-5.0≦b*≦5.0を満たす黒色酸化皮膜が表面に形成されており、
前記黒色酸化皮膜が形成されていない素地露出部を有し、
前記素地露出部の面積率が0.01~3.0%、素地露出部の最大面積が100μm2~10000μm2かつ
前記素地露出部表面に形成された不働態皮膜がCr分率≧40%を満たす、フェライト系ステンレス鋼材。 - 前記フェライト系ステンレス鋼は、さらに、質量%で、Zr:1.00%以下、Co:1.00%以下、V:1.00%以下及びW:1.0%以下からなる群から選択される1種以上の元素を含む、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
- 前記フェライト系ステンレス鋼は、さらに、質量%で、REM:0.100%以下及びCa:0.100%以下からなる群から選択される1種以上の元素を含む、請求項1又は2に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
- 前記フェライト系ステンレス鋼は、さらに、質量%で、Sn:0.100%以下及びB:0.0100%以下からなる群から選択される1種以上の元素を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼材。
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