悪性腫瘍/癌
癌は、細胞数(増殖)または細胞サイズの点で細胞が異常に成長し、身体の他の部位へ浸潤または拡散する(転移)可能性のある疾患である。癌細胞増殖はよく知られているが、転移を引き起こす機序(1つまたは複数)についてはよく知られていない。癌はゲノムが変化する疾患であり、具体的には、DNA配列の変化、コピー数の異常、染色体再配列およびDNAメチル化の修飾がヒト悪性腫瘍の発生および進行を引き起こす。(The Cancer Genome Atlas Network(TCGA),Nature 2008,455(23):1061−68。)
神経膠腫
神経膠腫は、脳または脊椎のグリア細胞から生じる腫瘍の一種である。神経膠腫が最もよくみられる部位は脳である。神経膠腫は、脳および中枢神経系の腫瘍全体の約30%を占め、悪性脳腫瘍全体の80%を占めている。
中枢神経系に最も多く存在する細胞型であるグリア細胞は、ニューロンを取り囲み、ニューロンを支持および絶縁する支持細胞である。グリア細胞はニューロンとは異なり、電気インパルスを伝導しない。中枢神経系のグリア細胞には2種類の主要なクラス、すなわち星状膠細胞および乏突起膠細胞がある(Kandel ERら,Principles of Neural Science,第4版,McGraw−Hill New York(2000),第2章,pp.20−21)。
神経膠腫は、起源が必ずしも共通するわけではないが組織学的特徴が同じである細胞の特定のタイプに従って命名される。主な神経膠腫のタイプには、星状細胞腫(星状膠細胞と組織学的特徴が同じである)(例えば、多形神経膠芽腫は悪性星状細胞腫の1つであり、成人に最もよくみられる原発性脳腫瘍である);乏突起神経膠腫(乏突起膠細胞と組織学的特徴が同じである);脳幹神経膠腫(脳幹に発生する神経膠腫である);視神経神経膠腫(視神経の中または周囲に発生する神経膠腫である);ならびに混合神経膠腫、例えば乏突起膠細胞および星状膠細胞と組織学的特徴が同じ細胞を含む乏突起星細胞腫などがある。
神経膠腫は、腫瘍の病理学的評価によって判定されるそのグレードに従ってさらに分類される。用いられている多数の分類体系のうち、神経膠腫に最もよく用いられるのが世界保健機関(WHO)の分類法であり、この分類法では、腫瘍をグレートI〜IVに分類する(Louis DNら,Acta Neuropathol,2007,114(2):97−109)。
グレードIの腫瘍は、成長が遅く非悪性であり、生存期間が長くなる(例えば、毛様細胞性星細胞腫)。
グレードIIの腫瘍は、成長は比較的遅いが、さらに高いグレードの腫瘍として再発することがある。非悪性であることも悪性であることもある(例えば、びまん性星細胞腫)。
グレードIIIの腫瘍は悪性であり、さらに高いグレードの腫瘍として再発することが多い(例えば、未分化星状細胞腫)。
グレードIVの腫瘍は増殖速度が速く、極めて侵襲性の高い悪性腫瘍である(例えば、膠芽腫、巨細胞膠芽腫および膠肉腫)。
髄芽腫は、小児に最もよく発生するタイプの原発性脳腫瘍である。「髄芽腫」という用語は、小児の小脳にみられる一連の腫瘍を指す。髄芽腫(WHOグレードIVの腫瘍)は最初、神経膠腫に分類されていたが、現在は胚芽腫と呼ばれている。この腫瘍は、小脳の外顆粒層の前駆細胞の悪性形質転換によって発生すると考えられており、頭蓋内腫瘍全体の約7〜8%、小児脳腫瘍の30%を占め、膠腫とは逆にニューロン分化を主な特徴とする。
膠芽腫
WHOグレードIV、分類名「膠芽腫」の悪性神経膠腫である多形神経膠芽腫(GBM)は、成人に最もよくみられ最も侵襲性の高い原発性脳腫瘍である。GBMはグリア細胞から発生し、びまん性星細胞系腫瘍全体の40%〜60%、頭蓋内腫瘍性病変全体の10%〜15%を占める。この腫瘍の生物学的特徴の代表的なものとして、顕著な増殖性、活発な浸潤性および旺盛な血管新生が挙げられる。(Nakada,M.ら,Cancers,2011,3:3242−3278)。GBMは、分化に乏しい腫瘍性星状膠細胞からなる。GBMの組織病理学的診断には微小血管の増殖および/または壊死の存在が不可欠である。
GBMは、ヒト癌のうち最も侵襲性の高いものの1つであり、複数の因子が複雑に絡み合っていること、すなわち:従来の治療法に対する腫瘍細胞の抵抗性が極めて高いこと;脳が従来の治療法による損傷を受けやすいこと;脳そのものの修復能が極めて低いこと;および血液脳関門を通過して腫瘍に作用することができない薬物が多いことにより、治療するのが極めて困難である。
治療では放射線照射、外科手術およびメチル化剤のテモゾロミドによる化学療法を実施し得る(P.J.Noughtonら,Clin.Cancer Res.(2000)6:4110−4118)が、外科手術療法、放射線療法および化学療法を数十年間実施しても、GBMの生存期間に目覚ましい変化をみるに至っていない。集学的療法を実施したGBM患者の臨床試験集団の生存期間中央値は約12〜15か月であり、生存期間が36か月を超えた患者はわずか3%〜5%である。(McNamara.M.G.ら,Cancers,2013,5:1103−1119)。
臨床経験に基づき、GBMには原発性膠芽腫および続発性膠芽腫の2つのサブグループが確立されているが、この2つのグループを組織学的に区別することはできない。原発性膠芽腫は生検症例または切除症例の90%超を占め、低悪性度疾患の先行既往がなくde novoで発生するのに対し、続発性膠芽腫は既に診断された低悪性度神経膠腫から進行する。
The Cancer Genome Atlas(TCGA)Networkによって記載されている遺伝子発現に基づく分子分類によれば、多形神経膠芽腫には、4つの異なる分子学的サブタイプ、すなわち、典型的、前神経性、間葉系および神経性がある(TCGA Research Network,Nature,2008,455:1061−1068)。
典型的GBM腫瘍は、一部の細胞の表面にあるタンパク質の1つであって、上皮成長因子が結合すると、細胞数の増大(増殖)を継続させるシグナルを送るタンパク質である上皮成長因子受容体(EGFR)の増幅に異常を来たすほか、その濃度が高くなることを特徴とする。これ以外の3つのGBMサブタイプでは、EGFRに異常がみられる割合ははるかに低い。TP53遺伝子は、通常であれば腫瘍成長を低下させる腫瘍タンパク質p53をコードする。TP53は、典型的GBM腫瘍サブタイプで変異することはまれであるが、これ以外のGBMのサブタイプでは最も変異の頻度が高い遺伝子である。
前神経性GBM腫瘍は、血小板由来成長因子受容体A(PDGFRA)の変化およびIDH1の点変異を特徴とする。イソクエン酸デヒドロゲナーゼ1をコードする遺伝子IDH1に変異があると、細胞増殖異常の一因となり得るタンパク質をコードする。PDGFRAは細胞増殖、細胞遊走および血管新生に重要な役割を果たし、ほかにも、変異して異常に多量に発現することがわかっている。PDGFRAの変化がみられるのは前神経性腫瘍に限られ、他のサブタイプにはみられない。PDGFRAが変化すると、そのタンパク質が過剰に産生され、制御できない腫瘍成長をもたらし得る。このサブタイプの患者は、他のサブタイプの患者よりも若く、生存期間が長くなる傾向がある。
間葉系サブグループは、神経線維腫症1型(NF1)腫瘍抑制遺伝子の変異の頻度が最も高い。間葉系サブグループはこのほか、腫瘍抑制遺伝子PTEN(ホスファターゼ・テンシン・ホモログ)およびTP53の変異頻度が高い。PTENタンパク質は腫瘍抑制因子として作用し、細胞分裂の周期の調節に働く。
神経性サブグループは他のグループと同じ遺伝子の多くに変異がみられるが、変異率が他のグループよりも際立って高いわけでも低いわけでもない。神経性グループは、脳の正常な非癌性の神経細胞またはニューロンの典型的なマーカーでもある複数のマーカー、例えばNEFL、GABRA1、SYT1およびSLC12A5などを発現するのが特徴である。
上に挙げた多形膠芽腫の分子学的サブタイプは、その臨床経過および治療効果に差があるものと考えられる。例えば、積極的化学療法および放射線療法に対する応答はサブタイプによって異なり、サブタイプ間の差は約50%である。各サブタイプの病的状態が様々なタイプの細胞から始まり、このことが治療に対する応答に差がみられる理由となっている可能性が示唆されている。最も大きな便益がみられたのは典型的サブタイプおよび間葉系サブタイプであり、集中的治療によって死亡率の大幅な減少がみられたほか、神経性サブタイプにも何らかの効果があることがうかがえたが、前神経性サブタイプは、従来の化学療法または化学放射線療法を含めた集中的治療に対する応答は芳しいものではなかった。(Verhaak,RGら,Cancer Cell,2010,17(1):98−110。)
TCGA分類法(Bartek,J.Jr.ら,J.Neurol Neurosurg Psychiatry,2012,83:753−760)による膠芽腫の4つのサブタイプのまとめ
これとは逆に、ヒト悪性神経膠腫では、間葉系の表現型が腫瘍侵襲性の顕著な特徴となっている。間葉系サブクラスおよび典型的サブクラスは前神経性腫瘍よりも予後が不良であり、このことは、一部の前神経性腫瘍には、好ましい予後予測因子であるIDH1遺伝子および神経膠腫CpGアイランドメチル化因子表現型(G−CIMP)の両方に変異がみられることと関係があると思われる(Verhaak,RGら,Cancer Cell,2010,17(1):98−110)。
GBMの侵襲性の増殖、活発な浸潤性および血管新生
GBMの侵襲性の増殖、活発な浸潤性および血管新生は主として、腫瘍のシグナル伝達経路の大幅な調節解除に起因する。
GBM症例ではほぼ例外なく、組織病理学的に検出可能な有糸分裂を伴う増殖活性が顕著である。神経膠腫で調節解除されている頻度の高い増殖シグナル伝達カスケードのうち最も重要な2つにものは、のちに考察するPI3K/Akt/mTOR経路およびRas/MEK/MAPK経路である。
遍在する血管新生がGBMの際立った特徴である。血管新生の程度は、神経膠腫の悪性度、腫瘍侵襲性および臨床予後と有意に相関する。血管新生を促進する経路には、血管内皮成長因子(VEGF)などの血管新生因子が発現し、次いでこれが血管内皮細胞上のそのコグネート受容体に結合することによって開始される一続きの協働事象が含まれる。
GBMは浸潤性が高い。神経膠腫浸潤は、(1)本来の部位からの離脱;(2)細胞外マトリックス(ECM)への接着;(3)ECMのリモデリング;および(4)細胞遊走を含む複雑な過程である。遊走神経膠腫細胞は、白質の血管、樹状突起および線維に沿って移動する傾向がある。これらの特徴から、GBMにはその浸潤性を媒介する特有の生物学的機序があることが示唆される。ヒト神経膠腫の高い浸潤性はCNS発生時のグリア前駆細胞の遊走挙動にもみられることから、神経堤の細胞遊走に寄与する活性化因子、受容体およびシグナル伝達タンパク質が神経膠腫浸潤に中心的役割を果たしていることが示唆される。チロシンキナーゼ受容体(RTK)、インテグリン、CD44およびGタンパク質共役受容体(GPCR)などの数種類の膜型タンパク質のほか、PI3K/AktならびにRac1、cdc42およびRhoAなどの小型のGTPアーゼを含めた細胞内シグナル伝達分子によって浸潤シグナル伝達が誘導されることを示す研究結果が集まりつつある。CD44抗原は、細胞間相互作用、細胞接着および細胞遊走に関与する細胞表面糖タンパク質である。
EGFRとEphA2(エフリンA型受容体2)RTKはGBMに発現し、細胞表面に共局在する。EphA2のリン酸化はEGFR活性に依存し、EphA2のダウンレギュレーションはEGFRのリン酸化、下流のシグナル伝達およびEGF誘導性の細胞生存を阻害する(Ramnarain,D.B.;Cancer Res.2006,66,867−874)。
主要な神経膠腫シグナル伝達経路
神経膠腫と関係のある主要なシグナル伝達経路が数種類あることがわかっている(Nakada,M.ら,Cancers,2011,3:3242−3278)。
1.受容体チロシンキナーゼ経路(RTK/PI3K/Akt/mTOR経路)。
RTK/P13K/Akt経路は、増殖、成長、アポトーシスおよび細胞骨格再構成など様々な基本的な細胞プロセスを調節している。この経路には、受容体チロシンキナーゼ(RTK)、例えば上皮成長因子受容体(EGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)および血管内皮成長因子受容体(VEGFR)などのほかにも、腫瘍抑制因子であるプロテインホスファターゼ、例えばホスファターゼ・テンシン・ホモログ(PTEN)ならびにプロテインキナーゼのPI3K、AktおよびmTORが関与している。受容体チロシンキナーゼ経路(RTK/PI3K/Akt/mTOR経路)を図1に示す。
EGFR遺伝子の増幅はGBMで最も頻度の高い異常(約40%)である。EGFRはErbB受容体ファミリーの膜貫通型糖タンパク質のメンバーである。GBMでは、EGFRが過剰発現によって調節不全の状態にあり、この調節不全はEGFR遺伝子の増幅またはリガンド依存性シグナル伝達を引き起こすEGFRvIIIなどの変異の活性化が原因で起こる。EGFR異常は典型的サブタイプのGBMと関係があることがわかっている(TCGA Research Network,Nature 455:1061−68;Verhaak,Roel G.W.ら,Cancer Cell,2010,17:98−110)。EGFRの異常はGBMの侵襲性の増大と関係があることが示唆されている(Nakada,M.ら,Cancers,2011,3:3242−3278)が、臨床試験ではEGFR阻害剤(例えば、ゲフィニチブ(Gefinitib)、エルロチニブ)がGBM患者に臨床効果を引き起こしたという報告はない(Rich,J.N.ら,N.Engl.J.Med.2004,351,1260−1261;Haas−Kogan,D.A.ら,J.Natl.Cancer Inst.2005,97,880−887;van den Bent,M.J.ら,J.Clin.Oncol.2009,27,1268−1274)。
星状細胞腫瘍では、いずれのグレードにも血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、特にPDGFR−αおよび血小板由来成長因子(PDGF)の過剰発現が認められ、悪性化との相関が示唆されている(Nakada,M.ら,Cancers,2011,3:3242−3278)。TCGA分類法によれば、PDGFRAの増幅(14%)およびIDH1の変異が前神経性サブタイプのGBMの主要な特徴である(TCGA Research Network,Nature 455:1061−68;Verhaak,R.G.ら,Cancer Cell,2010,17:98−110)。この分子とGBMとの間には深い関係があるものの、イマチニブを用いた抗PDGFR療法で得られた臨床効果はごくわずかである(Reardon,D.A.ら,J.Clin.Oncol.2005,23,9359−9368;Reardon,D.A.ら,Br.J.Cancer 2009,101,1995−2004)。
PI3Kは広く発現する脂質キナーゼであり、多様な生物学的機能を促進する。PI3KとRTKが結合すると、ホスファチジルイノシトール3,4,5−三リン酸(PiP3)および3−ホスホイノシチド依存性プロテインキナーゼ−1(PDK1)を介してAktが活性化され、これが細胞の生存、増殖および遊走性を含めた複数の基本的な細胞プロセスに影響を及ぼす。GBMの統合的なゲノム分類によれば、PI3K変異(15%)は前神経性サブタイプと関係がある(TCGA Research Network,Nature,2008,455:1061−68;Verhaak,R.G.ら,Cancer Cell,2010,17:98−110)。
PTENは、PI3K機能に拮抗することによってRTK/PI3K/Akt経路を負に調節しているため、PTEN活性が低下するとRTK/PI3K/Akt経路が活性化され得る。PTENのホモ接合性欠失または変異はGBMによくみられる特徴(40%)であり、RTK/PI3K/Akt経路の構成的活性化をもたらす。TCGAの研究によれば、PTENの欠失は典型的サブタイプおよび間葉系サブタイプの両方のGBMと関係がある(TCGA Research Network,Nature 455(23):1061−68)。
Aktは、細胞の成長、増殖およびアポトーシスを調節するSTK(セリン/トレオニン特異的プロテインキナーゼ)である。ヒトGBMの約80%にAktの活性化が報告されており、GBMの88%にRTK/PI3K/Aktシグナル伝達の異常が認められることと関係があるとされている(TCGA Research Network,Nature 455(23):1061−68)。GBMに発癌性のAkt変異は検出されていない。Akt阻害剤であるペリフォシンは、悪性神経膠腫を対象とする臨床評価の段階にある(Nakada,M.ら,Cancers,2011,3:3242−3278)。
2.p14ARF/MDM2/p53経路。
p53遺伝子は、多様な細胞ストレスに応答して細胞周期の停止、細胞死、細胞分化、老化、DNA修復および血管新生を誘導する標的遺伝子を調節するタンパク質をコードする。DNAが損傷を受けると、p53が活性化され、G1期の細胞周期進行の調節因子として機能する遺伝子(p21Waf1/Cip1など)の転写が誘導される。Mouse Double Minute 2ホモログ(MDM2)発癌遺伝子は、p53遺伝子と強固な複合体を形成することによってp53転写活性を阻害し、p53の分解に関与する。p14ARF遺伝子は、MDM2に直接結合しMDM2を介したp53分解を阻害するタンパク質をコードする。次にp14ARFの発現がp53によって負に調節される。したがって、p53遺伝子、MDM2遺伝子またはp14ARF遺伝子のいずれかの発現に異常が生じることによってp14ARF/MDM2/p53の不活性化が起こる。p53経路は続発性GBMの発生に極めて重要な役割を果たしている。p53遺伝子は神経膠腫で最もよく変異が認められるp53経路遺伝子であるが、この経路の他の遺伝子に及ぶ分子レベルの異常についても記載されている。(Nakada,M.ら,Cancers,2011,3:3242−3278)。p14ARF/MDM2/p53経路を図2に示す。
3.RB経路。
RB(網膜芽細胞腫抑制タンパク質)経路は、p53経路と同じように細胞周期の移行および進行を抑制する。RB1(13q14)がコードする107kDaのRB1タンパク質は、細胞周期のG1期からS期への進行を制御する(Serrano,M.ら,Nature,1993,366:704−707)。CDKN2Aタンパク質(すなわち、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子2Aであるp16INK4a)はサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)に結合してCDK4/サイクリンD1複合体を阻害し、これにより細胞周期のG1期からS期への移行を阻害する。したがって、RB1、CDK4またはCDKN2Aに異常があると、G1−S期移行の調節異常が起こり得る。しかし、RB経路のみに異常が生じても腫瘍形成を誘導するには不十分である。EGFRの増幅はPI3K成長促進経路を増強し、通常、CDKN2A欠失と関連がある。TCGAの研究によれば、CDKN2A欠失は典型的サブタイプのGBMと関係がある。(Nakada,M.ら,Cancers,2011,3:3242−3278)。RB経路を図2に示す。
4.Ras/MEK/MAPK経路。
RAS(ラット肉腫)タンパク質は、RTKおよび神経線維腫症1型腫瘍抑制遺伝子(NF−1)によって制御されるオン/オフ(RAS−GDP/RAS−GTP)スイッチとして働く。活性化されたRAS(RAS−GTP)は次いでセリン/トレオニンキナーゼであるRAFを活性化させる。RAFは、MEKとも呼ばれるマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPKK)を活性化させ、次いでこれがMAPKを活性化させる。MAPKの活性化により、Elk1、c−myc、Ets、STAT1/3およびPPARなどの様々な転写因子が活性化される。
NF−1腫瘍抑制遺伝子はニューロフィブロミンをコードし、ニューロフィブロミンは主にRASの負の調節因子として機能し、アデニル酸シクラーゼを介する経路およびAkt−mTORを介する経路に何らかの役割を果たしている。NF−1遺伝子がNF−1に関連する神経膠腫のみならず、孤発性の神経膠腫の腫瘍形成にも関与することを示す証拠が集まりつつある。TCGAの予備的研究では、GBMの18%にNF−1の変異/ホモ接合性欠失が確認されている。間葉系GBMは、NF−1遺伝子(37%)、p53遺伝子(32%)およびPTEN遺伝子の不活性化の頻度が高く、積極的化学放射線照射補助療法が奏効する。(Nakada,M.ら,Cancers,2011,3:3242−3278)。Ras/MAPK経路を図3に示す。上に挙げたシグナル伝達経路の全体像を図4に示す。
上に挙げたシグナル伝達経路に加えて、それ以外のシグナル伝達経路もGBMのイニシエーション、遊走および浸潤に何らかの役割を果たしている可能性がある。
Wnt(wingless関連/マウス乳腺腫瘍ウイルス組込みファミリー)シグナル伝達経路
WNT遺伝子がコードするタンパク質は正常な胚発生に何らかの役割を果たしている。このタンパク質が制御する胚発生過程としては、体軸パターンの形成、細胞運命の決定、細胞増殖および細胞遊走が挙げられる。これらの過程は、骨、心臓および筋肉を含めた重要な組織が正しく形成されるのに必要なものである。Wntシグナル伝達経路は複雑な経路であり、その活性化に異常がみられる悪性腫瘍は実に多岐にわたる。Wntタンパク質は腫瘍形成にも関与することがわかっており、Wnt経路の活性化に異常があると、乳癌、前立腺癌、膠芽腫をはじめとする癌を含めた数種類の癌が発生する。(Camilli,T.C.,Biochem.2010,Pharmacol.80(5):702−711;Polakis P.,Curr Opin Genet Dev 2007:17(1):45−51)。
Wntシグナル伝達経路は、細胞外から細胞表面受容体を介して細胞内にシグナルを伝達するタンパク質のシグナル伝達経路のグループである。Wntシグナル伝達に関与する様々な受容体およびリガンドによって多数の多様なシグナル伝達カスケードが生じる。
Wntファミリーのタンパク質は、19の既知のヒトメンバー(Wnt1、Wnt2、Wnt2B、Wnt3、Wnt3A、Wnt4、Wnt5A、Wnt5B、Wnt6、Wnt7A、Wnt7B、Wnt8A、Wnt8B、Wnt9A、Wnt9B、Wnt10A、Wnt10B、Wnt11、Wnt16)からなる。これらの分泌脂質修飾シグナル伝達糖タンパク質は、長さ350〜400アミノ酸であり、アミノ酸同一性が20〜85%であり、23〜24のシステイン残基からなる保存されたパターンを有する。これらのタンパク質に起こる脂質修飾の種類は、23〜24のシステイン残基からなる保存されたパターンに含まれるしステインのパルミトイル化である。パルミトイル化が起こると、Wntタンパク質の細胞膜への標的化が惹起されて同タンパク質が分泌され、脂肪酸の共有結合によりその受容体と結合する。分泌されたWntタンパク質は、その合成後にグリコシル化によって修飾される。Wntシグナル伝達では、これらの分泌タンパク質がリガンドとして働き、パラクリン経路およびオートクリン経路を介して様々なWnt経路を活性化させる。
Wntタンパク質リガンドがFrizzled(「Fz」)ファミリー受容体に結合することによってWntシグナル伝達経路が活性化されると、その生物学的シグナルが細胞内のタンパク質であるDishevelledに伝達される。Frizzledファミリー受容体はこれまでに、少なくとも10種類のメンバーが同定されており、いずれも細胞外N末端に保存されWntと相互作用するシステインリッチドメイン(CRD)を特徴とする7回膜貫通型タンパク質である。ただし、Wntシグナル伝達を促進するには、Wntタンパク質とFz受容体との間の相互作用と同時に共受容体も必要とされることがある。例としては、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質(Lrp5/6)、受容体チロシンキナーゼ(Ryk)およびRor2が挙げられる。
Wntとその受容体および共受容体との相互作用と関係のあるシグナル伝達経路には少なくとも3種類、すなわち古典的Wnt/β−カテニン経路、非古典的(または非正統的)平面内細胞極性(PCP)経路および非古典的(または非正統的)Wnt/Ca2+経路がある。図5に、これらの3種類の代表的なWntシグナル伝達経路を示す。Fz受容体には様々なWntリガンドを識別する能力があり、このため、リガンド/受容体相互作用の性質が活性化を左右するのは、これら3種類の経路のうちの1種類である。(Camilli,T.C.,Biochem.2010,Pharmacol.80(5):702−711)。古典的Wnt経路は遺伝子転写の調節を引き起こし、非古典的平面内細胞極性経路は、細胞の形状に関与する細胞骨格を調節し、非古典的Wnt/カルシウム経路は細胞内のカルシウムを調節する。Wntシグナル伝達経路では、近傍の細胞間のコミュニケーション(パラクリン)または同一細胞のコミュニケーション(オートクリン)が利用される。
古典的Wntシグナル伝達経路
古典的Wntシグナル伝達経路は十分に確立されたβ−カテニン依存性シグナル伝達経路であり、重要なメディエーターとしてβ−カテニンを含む。Wntシグナル伝達の不在下では、足場タンパク質であるアキシン(Axin)および腫瘍抑制遺伝子産物であるAPC(腺腫性大腸ポリポーシス)を含めた数種類のタンパク質によって形成される「分解複合体」の中のカゼインキナーゼ1(CK1)およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ3ベータ(GSK3β)によってβ−カテニンがリン酸化される。次いで、リン酸化されたβ−カテニンがユビキチン化機構によって認識され、プロテアソームに送られ分解される。Wntがその受容体FzおよびLrp5/6に結合すると、Lrp5/6がリン酸化され、Dishevelledが活性化されて、β−カテニン「分解複合体」の不活性化または分解が起こり、これによりβ−カテニンのリン酸化が低下し、β−カテニンが安定化する。次いで、安定化したβ−カテニンが核に移行し、そこでLef(リンパ系増強転写因子(Lymphoid enhanced transcription factor))およびTcf(T細胞因子)と結合することによって下流の遺伝子発現を調節し、これにより、増殖および腫瘍進行に関与するWnt標的遺伝子の転写が起こる。経路のメンバーのなかには、Wntシグナル伝達とは独立して調節され得るものがいくつかある。例えば、GSK−3βはILK(インテグリン結合キナーゼ)によって阻害され得るメンバーであり、その発現を調節する多数の経路が交わる部分に存在する。古典的Wntタンパク質としては、Wnt1、Wnt2、Wnt3a、Wnt8a、Wnt8b、Wnt10a、Wnt10bが挙げられる(Jiar CH,J Oral Pathol.Med.,2012,41(4):332−339)。
癌の古典的Wnt経路
β−カテニンが安定化して分解されなくなり、最終的には核内に蓄積することは、分化が不十分な形態(Endo Kら,Hum Pathol 2003,31(5):558−565)、高い増殖活性(Inagawa S.ら,Clin Cancer Res 2002,8(2):450−456)および予後不良(Wang CMら,Cancer 2001,92(1):136−145)と関係があることがわかっている。β−カテニンの運命、すなわちその蓄積または分解は、多数のタンパク質によって調節されており、そのタンパク質が適切に調節または発現されないと、それが癌におけるβ−カテニン発現の増大の主な原因となる。この調節異常は、シグナル伝達経路の様々なメンバーの変異またはエピジェネティックな事象が原因となって起こり得るものである。Wntそのものが変異することはまれである。しかし、癌では、下流の標的に影響を及ぼす変異が極めて頻繁にみられる。
Wnt/β−カテニンシグナル伝達の役割のうち最初に記載され、おそらく最もよく知られているのは、結腸癌のものであり、結腸癌の約90%にβ−カテニン変異をもたらす変異がみられる。
β−カテニン経路を標的とするWnt治療剤のうち、ヒトでの臨床試験の対象とされているものがいくつかある。
非古典的シグナル伝達経路
非古典的シグナル伝達経路は、β−カテニンを介する転写を促進しないあらゆるWnt活性化細胞シグナル伝達経路を包括した用語であり、そのような経路が多数確認されている。古典的Wntとは異なり、非古典的経路は乳腺上皮細胞を形質転換させることができず、主に細胞の移動および極性に関与すると考えられている(Veeman MTら,Curr Biol 2003,13(8):680−685;Kikuchi Aら,Cancer Sci 2008,99(2):202−208)。主要な非古典的Wnt経路には少なくとも、平面内細胞極性(PCP)経路およびWnt/Ca2+経路の2種類がある。ただ、両経路ともWnt5AおよびROR2などの重要な分子が含まれているため、ヒト癌のWnt/PCP経路とWnt/Ca2+経路を判別することは極めて困難である。
Wnt/PCP経路は、発生過程で胚の軸に沿って細胞の極性化を調和させることが記載されている。これにはSTAT3の活性化およびJAK/STATシグナル伝達が含まれる(Miyagi Cら,J Cell Biol 2004,166(7):975−981)。Wnt/PCPシグナル伝達に何らかの役割を果たすWntとしては、Wnt5A,Wnt11およびWnt7aが挙げられる(Wang Y.,Mol Cancer Ther,2009;8(8):2103−2109)。Wnt/PCPシグナル伝達の際には、Wnt/Fz/Ror2相互作用によってdisheveled(Dsh/Dvl)が膜に動員され、隣接細胞の膜へのvangおよびprickleの動員が誘発され、これらの間のバランスによって極性が調節される。次いで、Disheveled依存性Wnt/PCPシグナル伝達がJNK、Jun、Daam、RhoA、Rac、Cdc42およびロフィリンを介してシグナルを伝達し、これらは最終的には、細胞骨格に対して作用し、極性および遊走性を制御する(Carreira−Barbosa Fら,Developmetn 2003,130(17):4037−4046;Takeuchi Mら,Curr Biol 2003:,13(8):674−679;Qian Dら,Dev Biol 2007,306(1):121−133)。これらの特徴(極性および遊走性を意味する)は腫瘍進行に極めて重要であることから、Wnt/PCP シグナル伝達は癌に関与すると考えられている。(Camilli,T.C.,Biochem.2010,Pharmacol.80(5):702−711)。
Wnt/Ca2+経路では、Wntシグナル伝達の下流で細胞内カルシウムが放出される。Wnt/Ca2+シグナル伝達経路に関与するWntファミリーのメンバーとしては、Wnt5a、Wnt11およびWnt4が挙げられ、これらのWntによってFz受容体が活性化されると、カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CAMKII)およびプロテインキナーゼC(PKC)などのカルシウム依存性シグナル伝達分子の活性化が起こることがわかっている。これらの分子は、細胞内の状況に依存することが多い下流シグナル伝達に対する作用を多数有し得る。(Camilli,T.C.,Biochem.2010,Pharmacol.80(5):702−711)。
さらに多くの非古典的Wntカスケード(経路)の存在が示唆されており、Wnt−RAP1シグナル伝達;Wnt−受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体2(Ror2)シグナル伝達;Wnt−プロテインキナーゼAシグナル伝達;Wnt−GSK−3−mirotubuleシグナル伝達;Wnt−非定型プロテインキナーゼC(PKC)シグナル伝達;Wnt−受容体様チロシンキナーゼシグナル伝達;およびWnt−哺乳類ランパマイシン(rampamycin)標的シグナル伝達がこれに含まれる。これらの分類は、諸経路が互いに重複および交差しているため固定されたものではなく、現在も発展中である。(Semenov,M.V.;Cell 2007,131:1378)。
内因性Wntアンタゴニスト
Wnt経路の活性化は分泌型Wnt阻害因子によって調節されている(Miller JRら,Oncogene 1999,18(55):7860−72)。これらの阻害因子は、Wntリガンドとその受容体または共受容体との結合に影響を及ぼす。このようなWntアンタゴニストとしては、Wntタンパク質と直接結合する分泌型frizzled関連タンパク質(sFRP)のメンバーおよびWnt共受容体LRPと結合するDikkopf(Dkk)ファミリーのメンバーが挙げられる。結腸直腸癌を含めたいくつかの癌でsFRPの転写休止が検出されている(Suzuki Hら,2002,31(2):141−9)。このほか、DkkファミリーのメンバーがWntシグナル伝達に対して阻害作用を有することが明らかにされている(Wu,Wら,Curr Biol 2000,10(24):611−1614)。
Wnt5aの役割および機能
Wnt5aは、様々な受容体の存在下で様々な作用を示すように、癌の種類に応じて腫瘍抑制機能または発癌機能のいずれかを有することが明らかにされている。例えば、結腸直腸癌、乳管癌、白血病および神経芽腫ではWnt5aの発現がダウンレギュレートされる。(Blanc,E.ら,Oncol Rep.,2005 14(6):1583−1588)。これとは逆に、胃癌、膵癌、非小細胞肺癌および前立腺癌ではWnt5aが過剰発現することが明らかにされている。転移性の強いメラノーマ細胞ではWnt5a遺伝子発現が増大することがわかっており、発現の増大によって遊走性が増大する。(Weeraratna ATら,Cancer Cell,2002,1(3):279−288)。
Wnt5aタンパク質の発現が低下すると、乳癌患者の無再発生存期間が短くなるほか、乳腺細胞系の遊走性が増大する。Wnt5aの配列解析に基づき、14ペプチドのフラグメントおよび様々なペプチド誘導体が同定されており、これらは乳癌細胞系の乳腺細胞の接着および遊走障害に対するWnt5aの作用を模倣する能力を有することが報告されている。Foxy−5は、乳癌に使用するために開発されたヘキサペプチド(ホルミル−Met−Asp−Gly−Cys−Glu−Leu)であり、Wnt5aの12アミノ酸長ペプチドフラグメント175(Asn−Lys−Thr−Ser−Glu−Gly−Met−Asp−Gly−Cys−Glu−Leu)に由来し、Wnt5aのアゴニストとして作用する。Foxy−5ペプチドがFrizzled−5受容体に依存する機序を介して、接着を回復させ、腫瘍細胞の遊走性を低下させたことが報告されている。このホルミル化ヘキサペプチドリガンドは、迅速な細胞質カルシウムシグナルを誘導したが、非リン酸化β−カテニンの細胞内レベルにも活性JNKの細胞内レベルにも影響を及ぼさなかった。Foxy−5は、Gタンパク質共役型プロテアーゼ活性化受容体1および同受容体4を特異的に活性化させる。哺乳動物細胞では、ヘキサペプチド配列Met−Asp−Gly−Cys−Glu−LeuはWnt−5タンパク質にのみ存在する。哺乳動物細胞にはヘキサペプチドのN−ホルミル化はみられない。in vitroの解析から、組換えWnt5aおよびWnt5a由来Foxy−5ペプチドはともに、4T1乳癌細胞のアポトーシスにも増殖にも影響を及ぼさずに遊走および浸潤を低下させることが明らかにされている。in vivoの実験では、Foxy−5のi.p.注射によって、接種した4T1乳癌細胞の乳腺脂肪体から肺および肝臓への転移が70%〜90%阻害されることが明らかにされている(Safholm,Aら,Clin Cancer Res,2008,14(20):6556−6563)。
メラノーマでは、Wnt5a発現の増大が細胞遊走性を増大させ、転移を引き起こす。これらの作用を打ち消すため、2つの方法、具体的にはWnt5a発現の阻害またはWnt5aシグナル伝達の直接的遮断が検討されている。Box5は、メラノーマに使用するためにFoxy−5を改変して開発されたヘキサペプチド(t−ブトキシカルボニル−Met−Asp−Gly−Cys−Glu−Leu)であり、メラノーマの転移過程に不可欠な要素であるメラノーマ細胞のWnt5aを介した遊走および浸潤に対する強力な選択的アンタゴニストである(Jenei,V.ら,PNAS,2009,106(46):19473−19478)。
遺伝子発現プロファイリングから、Wnt5a過剰発現が生存率および転移の進展と有意に相関することがわかっており、Wnt5aがメラノーマの侵襲性のマーカーとなり得ることがうかがえる(Bittner Mら,Nature,2000,406:536−540)。
Wnt5aは、脳以外の腫瘍の転移過程に関与すると考えられているが、神経膠腫ではあまり検討されていない。
脳腫瘍(神経膠腫および髄芽腫)およびWnt5a経路
免疫組織化学的解析から、ヒトGBMでのWnt5a発現は正常な脳組織および低悪性度の星状細胞腫よりも高いことが明らかにされている。Wnt5aが過剰発現すると、in vitroのGBM−05細胞およびU87MG細胞の増殖が増大した。これに対し、RNA干渉によってWnt5a発現がダウンレギュレートされると、in vitroのGBM−05細胞およびU87MG細胞の増殖が低下し、in vivoのこれらの細胞の腫瘍形成能が低下した。以上のデータから、Wnt5aシグナル伝達がヒト神経膠腫細胞の増殖の重要な調節因子のひとつであることが示唆される(Yu,J.M.ら,Cancer Lett.,2007,257(2):172−181)。
神経膠腫が進行すると、周囲の神経組織に広範囲に浸潤する。この浸潤性を刺激する機序を明らかにするべく、Wnt5aシグナル伝達がヒト神経膠腫に果たす役割に関する試験を独立に実施した。その結果から、神経膠腫由来細胞系では、全19種類のWntファミリーのうち主としてWnt5aが高頻度で過剰発現し、神経膠腫由来細胞系では、10種類のFzメンバーのうちFz−2、Fz−6およびFz−7が優位に発現し、Wnt5a受容体であるRor2の発現は極めて低いことがわかった。以上の所見から、神経膠腫細胞ではWntまたはFzの過剰発現によってシグナル伝達経路が活性化される可能性が示唆される。このほか、免疫組織化学的試験では、ヒト神経膠腫33症例のうち26例(79%)にWnt−5aが高度な発現が認められている。Wnt−5a発現の陽性度は臨床グレードと相関していた。Wnt−5a発現のノックダウンにより、神経膠腫細胞の遊走、浸潤およびマトリックスメタロプロテイナーゼ2の発現が抑制された。逆に、精製Wnt5aリガンドで処理したところ、細胞遊走および浸潤が刺激された。MMP−2阻害剤はU251細胞のWnt5a依存性の浸潤を抑制した(Kamino,M.ら,Cancer Sci,2011,102(3):540−548)。
これまでに、神経膠腫の細胞応答を媒介するWnt5aの受容体は同定されていない。神経膠腫細胞では、Ror2ではなく受容体様チロシンキナーゼ(Ryk)のノックダウンによってMMP−2の活性およびWnt5a依存性の浸潤活性が抑制されることが報告されている。この結果は、神経膠腫由来細胞のWnt5a依存性のMMP−2誘導および浸潤活性にはRykが重要であることのほか、Rykが成体の癌浸潤に何らかの新規な病態生理学的機能を果たしている可能性を示唆している(Habu,M.ら,J.Biochem,2014,156(1):29−38)。
小児の原発性脳腫瘍のうち最もよくみられる種類である髄芽腫(MB)は、脳に発生する最もよくみられるテント下原始神経外胚葉性腫瘍(PNET)であり、高悪性度の原発性脳腫瘍である。MBの古典的シグナル伝達経路はよく知られている。これに対し、MBの非古典的Wntシグナル伝達経路に関する研究はほとんど例がない。MBに関する最近の試験では、Wnt5aおよびRor2は非古典的Wntシグナル伝達経路の調節異常に寄与するさらなる機序であり、Ror2は腫瘍抑制因子としての役割を果たしている可能性があることがわかっている(Lee,S.E.ら,2013,23:445−453)。
上記の試験はいずれも、一塊の脳神経膠腫腫瘍細胞におけるWnt5aシグナル伝達経路を対象としたものである。
脳腫瘍幹細胞(またはCNS癌幹細胞)
幹細胞は従来、分化した細胞の損失が極めて激しく、多量に補充する必要が生じやすい組織、例えば皮膚(Huelskenら,Cell 105:533−45,2001)、腸上皮(Pottenら,Development 110:1001−20,1990)および血液(Morrisonら,Annu Rev Cell Dev Biol 11:3−71,1995)にのみ存在すると考えてきた。実際、成体幹細胞の最もよく知られた例が造血幹細胞(HSC)であり、HSCは骨髄にみられ、究極的には動物の全生涯を通じてあらゆる種類の血液細胞の発生に寄与する(Morrisonら,上記;Weissman,Cell 100:157−68,2000;Weissman,Science 287:1442−6,2000)。成体の中枢神経系(CNS)は神経細胞死があまりみられず、再生能はないと考えられていたため、神経幹細胞が存在する可能性は低く、かつその必要もないものと思われていた。しかし、1992年、2つの独立したグループが、成体哺乳動物のCNS内に新たなニューロンを生じる能力のある前駆細胞が存在することを示すことに成功した(ReynoldsおよびWeiss,Science 255:1707−10,1992;Richardsら,Proc Natl Acad Sci USA 89:8591−5,1992)。この新たなニューロンの発生源は、成体哺乳動物CNSの脳室内の中枢神経軸全体を裏打ちする幹細胞であることが明らかにされた(ReynoldsおよびWeiss,1992)。
CNS幹細胞(または神経幹細胞(NSC))は、他の組織にみられる幹細胞と同じく、増殖する、自己複製が盛んである、多数の子孫を生じる、多系列分化能を有するといったin vitroの幹細胞の決定的な特徴(Hallら,Development 106:619−33,1989;Pottenら,上記)のほか、損傷した組織を再生するというin vivoの特徴を示すことがわかっている。
幹細胞の役割の1つとして、分裂し、増殖して多数の未分化細胞を生じる能力を有する拘束の進んだ前駆細胞を生じるというものがある。究極的には、分化した子孫を生じるのは、この拘束の進んだタイプの前駆細胞の子孫である。したがって、幹細胞は、動物の全生涯を通じて分裂能を有し、増殖能が高く、拘束されていない細胞を蓄える比較的静止状態にある貯蔵所である考えることができるのに対し、前駆細胞は、拘束が進み、分裂の頻度が高いが、徐々に増殖能が制限されていく。発生過程でも成体でも、幹細胞および前駆細胞の増殖が細胞発生を下支えする。
腫瘍の成長および増殖の一因となる幹細胞特性を有する小さい細胞集団から腫瘍が発生するという概念は、癌生物学の分野にとって新しいものではない。そのような考えは1970年代初頭に提唱され、急性骨髄性白血病(AML)を対象とした諸試験で実験的に裏付けられており、この試験では、低頻度でみられる腫瘍始原細胞が正常な造血幹細胞(HSC)に類似していることが明らかになった。これらの試験から、白血病幹細胞が、HSCの直接の子孫または分化の進んだ細胞がHSCの特徴を獲得したものであることが示唆された。血液系の外部の幹細胞が発見されたことにより、固形組織の癌にも幹細胞様細胞が含まれている可能性が浮上した。初めて固形腫瘍に腫瘍始原幹細胞様細胞の存在が明らかにされ単離されたのはヒト乳癌組織であり、その方法はCNSの腫瘍にも応用されている。
ヒト神経膠腫組織に由来する細胞を培養してニューロスフェア様細胞を生じさせることが可能であることを報告したグループがいくつかあり、CNS腫瘍内にNSCが存在することが示唆される。蛍光標示式細胞分取(FACS)による「サイドポピュレーション」細胞の単離に基づき、十分に確立された神経膠腫細胞系U87MGにはin vivoの悪性腫瘍を維持するニューロスフェア形成細胞がごく少数含まれていることが明らかにされた(C.Hirschmann−Jax,Proc Natl Acad Sci 2004,101(39):14228−233)。Galliら(Galliら,Cancer Research(2004)64:7011−7021)は、胚CNSおよび成人CNSに由来するNSCとほぼ同じ機能的特性を示すヒト多形神経膠芽腫(GBM)からの腫瘍神経幹細胞(tNSC)の単離、増殖および連続移植を報告している。このGBM tNSCは、神経幹細胞の極めて重要なin vitro特徴を示すプロミニン陽性前駆細胞であり、安定に拡大することができ、連続移植と培養のサイクル全体を通じて元の腫瘍開始特性を再現することが可能なものである。以上をまとめると、上記の試験は、CNS腫瘍には腫瘍のイニシエーションおよび悪性化の原因となり得る幹細胞集団が含まれているとする仮説を強く裏付けるものである。tNSCは、CD133が発現することにより、FACSを用いて他のGBM細胞から分取することが可能である(Singhら,Nature(2004)532:396−401)。
癌幹細胞(CSC)仮説は、癌が、無制限に複製する一部の親CSCから増殖能に制約のある「分化した」娘細胞が生じる異常な細胞階層として組織される、すなわち、CSCのみが腫瘍成長を維持する能力を有し、治療が失敗した後の再発の原因となることを提唱するものである(Gilbertson,Nature,2012,488(7412):462−463)。2012年まで、癌幹細胞の存在を示す証拠が議論の的になっていた。Drissens(Driessens,G.,Nature,2012,742:527−530)およびChen(Chen,J,Nature,2012,7412:522−526)によって、CSCの存在を明快に裏付ける証拠がもたらされたことにより、癌に対する考え方およびその治療方法が大きく様変わりしている。
癌幹細胞マーカー
CD133は、多様な正常組織および癌の種類の幹細胞のマーカーであると考えられている。脳腫瘍に関しては、Singhらが、幹細胞特性を有し、免疫不全マウスの脳内に移植しても自己複製および元の腫瘍の正確な再現が可能なCD133陽性腫瘍細胞集団について初めて記載している(Singh SKら,Nature 2004,432:396−401;Singh SKら,Cancer Res 2003,63:5821−5828)。GCSCの推定マーカーとしてはほかにも、L1CAM、CD44、CD15、インテグリンα6(Brescia P.,J Carcinogene Mutagene 2011,S1)およびEphA2(Binda E.ら,Cancer Cell 2012,22(6):765−780)がある。幹細胞様特性を有するCD133陽性神経膠腫細胞の成長および生存の維持には神経細胞接着分子L1CAM(L1、CD171)が必要である。様々な種類の腫瘍の癌幹細胞を同定するのに細胞表面マーカーCD44が利用できることを示した報告が、膠芽腫の幹細胞マーカーとしてCD44を使用した例(Anido Jら,Cancer Cell 2010,18:656−668)を含め、いくつかある。CD15は、腫瘍イニシエーション能を有する細胞に選択的に発現する細胞表面タンパク質である。インテグリンα6は、微小環境内でラミニン発現内皮細胞と相互作用するのに重要な細胞外マトリックスの構成成分の1つであり、神経膠腫の幹細胞維持にはインテグリンα6と接触していることが重要である。インテグリン−α6とラミニンとの相互作用は、成体脳の側脳室の脳室下帯(SVZ)で重要な役割を担っていることが報告されている。EphA2受容体チロシンキナーゼは、hGBM TPCに過剰発現し、hGBM TPCの自己複製および腫瘍形成を引き起こす(Binda E.ら,Cancer Cell 2012,22(6):765−780)。
神経膠腫癌幹細胞(GCSC)標的化治療
GCSCは、自己複製、脳腫瘍イニシエーション能、神経幹細胞マーカーの発現のほか、星状細胞または乏突起膠細胞の表現型を有する細胞に分化する能力である多能性によって識別される。GCSCは、神経幹細胞および神経前駆細胞に特異的な抗原、具体的にはネスチン、CD133(プロミニン−1)、Musashi−1およびBmi−1を発現する。ソニックヘッジホッグホモログ(SHH)およびNotchは神経前駆細胞の重要な調節因子であり、GCSCにはその異常または過剰発現がみられることがわかっている(Nakadaら,Cancer,2011,3:3242−3278)。図6に神経膠腫癌幹細胞の経路を示す。
GCSCは放射線にも化学療法剤にも抵抗性があり、いずれは腫瘍が再発する。治療にはGCSCの標的化が極めて重要である。GSCを標的化する一般的な方法として、(1)CSCのシグナル伝達経路を標的とする治療剤を新たに開発すること、(2)放射線増感剤を用いて放射線療法のCSCに対する効果を増大させること、(3)免疫細胞を用いてCSCを攻撃すること、(4)分化剤を用いてCSCの正常な細胞への分化を促進すること、(5)遺伝子治療の5つが提唱されている(Choら,Cell Transplant.2013,22(4):731−9)。
Wnt経路、ソニックヘッジホッグ(shh)、Notch、ホメオボックス(HOx)ファミリー、B−リンパ腫Mo−MLV挿入領域1ホモログ(Bmi−1)、PTEN、テロメラーゼ、排出輸送体、EGF、マイクロRNAおよびVEGF受容体を含むシグナル経路を標的化してGBMを治療する治療剤がいくつか用いられてきた(Choら,Cell Transplant.2013,22(4):731−9)。
古典的Wntシグナル伝達によってβ−カテニンの核への移行が活性化され、β−カテニンは核内で特異的標的遺伝子の転写因子として作用し、Wnt−β−カテニンシグナル伝達は正常な幹細胞でもGCSCでもいくつかの役割を担っていることが明らかにされている。Wnt−β−カテニンシグナル伝達は、GCSCの放射線抵抗性に寄与している可能性があるほか、この経路が神経膠腫の遊走性/浸潤性を支え、上皮系から間葉系への転換に類似した変化を引き起こすことから、脳腫瘍のGCSCに対する治療標的となり得る。(Cruceru,M.L.ら,J.of Cellular & Molecular Medicine,2013,17(10):1218−1235)。
これまでに、脳神経膠腫の遊走、浸潤および転移の背後にある経路/機序については未だ理解されていない。現在、癌幹細胞が化学療法および放射線療法に対する抵抗性ならびに腫瘍細胞の再発の原因であると考えられているが、Wnt5a非古典的シグナル伝達経路を標的化して神経膠腫癌幹細胞の浸潤性を低下させる研究はこれまで報告されておらず、脳腫瘍幹細胞のWnt5a非古典的シグナル伝達経路を特異的に標的とする治療剤は確認されていない。記載される発明は、これらの問題に対処するものであり、少なくとも部分的には直接的または間接的にWnt5aシグナル伝達に影響を及ぼすことによって、神経膠腫癌幹細胞の浸潤性を低下させるWnt5aのペプチド誘導体を提供する。
(発明の詳細な説明)
本明細書で使用される「投与すること」または「投与」という用語は、物質を投与または塗布することを意味するのに互換的に使用され、in vivo投与のほかにも、組織にex vivoで直接投与することを包含する。
本明細書で使用される「アゴニスト」という用語は、受容体を活性化させて完全なまたは部分的な薬理応答を引き起こすことができる化学物質を指す。内因性アゴニスト、外因性アゴニスト、内因性アンタゴニストまたは外因性アンタゴニストのいずれかによって受容体を活性化または不活性化させることにより、生物学的応答を刺激または抑制することができる。生理的アゴニストとは、同じ身体応答を生じさせるが、同じ受容体とは結合しない物質のことである。特定の受容体に対する内因性アゴニストとは、体内で天然に産生され、その受容体に結合して活性化させる化合物のことである。スーパーアゴニストとは、標的受容体に対する内因性アゴニストよりも大きい最大応答、ひいては100%超の効率をもたらすことができる化合物のことである。このことは、必ずしもスーパーアゴニストが内因性アゴニストよりも強力であることを意味するものではなく、むしろ、受容体結合後に細胞内に生じ得る最大限可能な応答を比較したうえでのことである。完全アゴニストは、受容体に結合して活性化させ、その受容体に対して完全な効果を示す。部分アゴニストも所与の受容体に結合して活性化させるが、受容体に対する効果は完全アゴニストに比べ部分的なものにとどまる。逆アゴニストとは、その受容体のアゴニストと同じ受容体結合部位と結合し、受容体の構成的活性を逆転させる作用物質のことである。逆アゴニストは受容体アゴニストと逆の薬理効果を発揮する。不可逆的アゴニストとは、受容体が永続的に活性化されるようその受容体と永続的に結合するタイプのアゴニストのことである。アゴニストと受容体との結合が可逆的であるのに対し、不可逆的アゴニストと受容体との結合は不可逆的であると考えられるという点で、不可逆的アゴニストは単なるアゴニストとは異なるものである。このため、不可逆的アゴニストによってアゴニスト活性が一時的に高まった後、受容体の脱感作および内部移行が起こり、長期治療では、むしろアンタゴニストのような効果が得られる。選択的アゴニストとは、ある特定のタイプの受容体に特異的なアゴニストのことである。
「アミノ酸残基」、「アミノ酸」または「残基」という用語は、特に限定されないが、天然のアミノ酸および天然のアミノ酸と同じように機能し得る天然アミノ酸の既知の類似体を含め、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに組み込まれるアミノ酸を指すのに互換的に使用される。
本明細書で使用されるアミノ酸の略号は、以下の従来用いられている略号である:A=Ala=アラニン;R=Arg=アルギニン;N=Asn=アスパラギン;D=Asp=アスパラギン酸;C=Cys=システイン;Q=G1n=グルタミン;E=Glu=グルタミン酸;G=Gly=グリシン;H=His=ヒスチジン;I=Ile=イソロイシン;L=Leu=ロイシン;K=Lys=リジン;M=Met=メチオニン;F=Phe=フェニアラニン(Phenyalanine);P=Pro=プロリン;S=Ser=セリン;T=Thr=トレオニン;W=Trp=トリプトファン;Y=Tyr=チロシン;V=Val=バリン。アミノ酸は、L−アミノ酸であってもD−アミノ酸であってもよい。アミノ酸を、ペプチドの半減期が長くなる、ペプチドの効力が増大する、またはペプチドのバイオアベイラビリティが増大するよう改変した合成アミノ酸に置き換えてもよい。
互いに保存的置換となるアミノ酸のグループを以下に示す:
アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T);
アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
アルギニン(R)、リジン(K);
イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および
フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
本明細書で使用される「アンタゴニスト」という用語は、別の物質の効果を打ち消す物質を指す。本明細書で使用される「Wnt5aのアンタゴニスト」という用語は、共有結合、イオン結合、水素結合、疎水性相互作用またはその組合せを介してWnt5a、Wnt5a受容体またはWnt5a共受容体と競合的または非競合的に結合し、Wnt5aシグナル伝達経路を直接的または間接的に不活性化することができるペプチド、タンパク質または抗体を指す。Wnt5aアンタゴニストは、それ自体を製剤化しても塩形態で製剤化してもよい。
本明細書で使用される「癌」または「悪性腫瘍」という用語は、異常な細胞が制御されずに分裂し近傍組織に浸潤し得る疾患を指す。癌細胞はほかにも、血液およびリンパ系から身体の他の部分に拡散し得る。中枢神経系の癌とは、脳および脊髄の組織に発生する癌のことである。
本明細書で使用される「癌幹細胞」は、自己複製が可能であり、免疫不全マウスの脳内に移植しても元の腫瘍を正確に再現することができる細胞の集団を指す。
本明細書で使用される「担体」という用語は、生物体に著しい刺激を引き起こさず、記載される発明の組成物の活性化合物の生物活性および特性を打ち消すことのない材料を表す。担体は、治療する哺乳動物への投与に適したものとなる程度に純度が高く毒性が低いものでなければならない。担体は、不活性なものであっても、あるいは医薬品としての有益性、化粧品としての有益性またはその両方を有するものであってもよい。「添加剤」、「担体」または「賦形剤」という用語は、本明細書に記載される薬学的に許容される組成物の製剤化および投与に適した担体材料を指すのに互換的に使用される。本明細書で有用な担体および賦形剤としては、当該技術分野で公知の任意のそのような材料であって、無毒性で他の成分と相互作用しない材料が挙げられる。
「細胞」という用語は、生物体の構造単位および機能の単位を指すのに使用され、生物体に分類される有機体の最小単位のことである。
本明細書で使用される「細胞系」という用語は、形質転換しており、培養して無制限に継代することが可能な不死化細胞を指す。
本明細書で使用される「化学療法剤」という用語は、疾患の治療または管理に有用な化学物質を指す。
本明細書で使用される「化学療法」という用語は、1つまたは複数の化学療法剤を用いる一連の治療を指す。
「化学療法レジメン」(「併用化学療法」)という用語は、2つ以上の薬物の異なる毒性から有益性を引き出すために2つ以上の薬物を用いる化学療法を意味する。併用癌治療の原理は、薬物が異なれば、それが作用する際の細胞毒性機序も異なり、用量を制限する有害作用も異なることから、それぞれ最大限の用量で一緒に投与することが可能であるというものである。
本明細書で使用される「適合性がある」という用語は、通常の使用条件下で組成物の効果を実質的に低下させる相互作用が存在しないように組成物の諸成分を互いに組み合わせることが可能であることを意味する。
本明細書で使用される「組成物」という用語は、複数の成分の混合物または2つ以上の物質からなる材料を指す。
本明細書で使用される「誘導体」という用語は、構造の類似した別の化合物から1つまたは複数の段階で生成し得る化合物を意味する。ペプチドまたは化合物の「誘導体(1つまたは複数)」は、そのペプチドまたは化合物の所望の機能を少なくともある程度は保持している。したがって、「誘導体」に代わる用語として「機能性誘導体」がある。誘導体は、ペプチドの化学修飾、例えばアキル化(akylation)、アシル化、カルバミル化、ヨウ素化またはペプチドを誘導体化する任意の修飾などを含み得る。このような誘導体化分子としては、例えば、遊離アミノ基が誘導体化されてアミン塩酸塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基またはホルマール基を形成している分子が挙げられる。遊離カルボキシル基は、誘導体化されて塩、エステル、アミドまたはヒドラジドを形成し得る。遊離ヒドロキシル基は、誘導体化されてO−アシル誘導体またはO−アルキル誘導体を形成し得る。ヒスチジンのイミダゾール窒素は、誘導体化されてN−im−ベンジルヒスチジンを形成し得る。誘導体または類似体としてはこのほか、20種類の標準アミノ酸の天然のアミノ酸誘導体、例えば4−ヒドロキシプロリン、5−ヒドロキシリジン、3−メチルヒスチジン、ホモセリン、オルニチンまたはカルボキシグルタミアート(carboxyglutamiate)を1つまたは複数含有し、またペプチド結合によって結合していないアミノ酸を含み得るペプチドが挙げられる。このようなペプチド誘導体をペプチド合成時に組み込むか、周知の化学修飾法によってペプチドを修飾することができる(例えば、Glazerら,Chemical Modification of Proteins,Selected Methods and Analytical Procedures,Elsevier Biomedical Press,New York(1975)を参照されたい)。本明細書で使用される「ペプチド誘導体」は、Wnt5a由来ペプチドから直接的にまたはWnt5aペプチドの修飾もしくは部分置換によって作製されたアミノ酸配列を指す。例えば、特に限定されないが、Wnt5aのペプチド誘導体としては、Wnt5aの短縮産物および融合産物が挙げられる。Wnt5aのペプチド誘導体は、それ自体を製剤化しても塩形態で製剤化してもよい。
本明細書で使用される「有効量」という用語は、所望の生物学的効果を得るのに必要な量または十分な量を指す。
本明細書で使用される「製剤」という用語は、特定の処方、配合または規則に従って準備した特定の手順、処方に従って調製される混合物を指す。
本明細書で使用される「フローサイトメトリー」という用語は、細胞の表現型および特徴を調べるツールを指す。フローサイトメトリーは、液体流中の細胞または粒子が感知領域を通過するレーザー(輻射の誘導放出による光増幅)/光ビームの中を移動する際にそれを感知するシステムである。顕微鏡レベルの粒子の相対的な光散乱および色別の蛍光が測定される。細胞の解析および鑑別は、大きさ、粒度のほか、抗体または色素のいずれかの形態の蛍光分子を有するかどうかに基づくものである。細胞がレーザー光の中を通過するとき、光が全方向に散乱し、軸から低角度(0.5〜10°)で前方に散乱する光は、球の半径の2乗、つまり細胞または粒子の大きさに比例する。光が細胞内に入ることがあり、したがって、90°の光(直角、側方)散乱を蛍光色素結合抗体で標識するか、蛍光膜染色、細胞質染色または核染色により染色し得る。このため、細胞型の鑑別、膜受容体および抗原の有無、膜電位、pH、酵素活性およびDNA含有量が容易になり得る。フローサイトメータは多パラメータであり、各細胞について複数の測定値を記録する。このため、異種集団内の均一な亜群を同定することが可能である(Marion G.Macey,Flow cytometry:principles and applications,Humana Press,2007)。
本明細書で使用される「フラグメント」または「ペプチドフラグメント」という用語は、大きいペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質から誘導、切断または分解され、その大きいペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質の所望の生物活性を保持している小部分を指す。
本明細書で使用される「神経膠腫」という用語は、脳または脊椎のグリア細胞から生じる腫瘍の一種を指す。
本明細書で使用される「成長」という用語は、大きくなる、長くなるもしくは数が増える過程または大きさ、数もしくは体積の増大を指す。
本明細書で使用される「阻害する」または「〜を阻害する」という用語は、作用または発生を妨害する、遅らせる、鈍らせる、妨げる、遮る、阻止する、低下させる、または防ぐことを指す。例として、受容体アンタゴニストは、生物学的応答そのものを誘発するのではなく、アゴニストを介した応答を阻害する(例えば、阻止する、または妨げる)。
本明細書で使用される「浸潤」または「浸潤性」という用語は、悪性細胞が周辺組織に侵入し、その中を移動する過程を指す。
本明細書で使用される「カプラン・マイヤープロット」または「カプラン・マイヤー生存曲線」という用語は、多数の小さい間隔で時間を考慮に入れて臨床試験対象が所与の期間生存する確率をプロットしたものを指す。カプラン・マイヤープロットは以下のことを前提とする:(i)打ち切った(すなわち、いなくなった)対象は常に、追跡を継続する対象と同じ生存率が見込まれる;(ii)試験に登録した時期が早い対象も遅い対象も生存確率は同じである;(iii)事象(例えば、死亡)は特定の時間に起こる。ある時点で事象が発生する確率を計算し、連続する確率と任意の前の時間に計算した確率とを乗じて最終的な推定値を求める。任意の特定の時間における生存確率は、生存対象数をリスクのある対象の数で除した商として計算する。死亡した対象、試験から脱落した対象または試験を打ち切った対象はリスクのある対象としてカウントしない。
本明細書で使用される「リガンド」という用語は、ある分子と選択的に結合することができるため、定量化可能なアッセイによってリガンドとその結合パートナーとの間の結合相互作用が非特異的相互作用よりも優先的に検出可能である分子を指す。この用語の定義には誘導体、類似体および模倣体化合物が包含されるものとする。
「マーカー」および「細胞表面マーカー」という用語は、本明細書では互換的に使用され、ある細胞型を別の種類の細胞と区別することを可能にする、細胞の表面に存在する受容体、受容体の組合せまたは抗原決定基もしくは抗原エピトープを指す。体内のいかなる細胞も、他のシグナル伝達分子に選択的に結合または接着する能力を有する専門化したタンパク質受容体(マーカー)がその表面を覆っている。細胞は、他の細胞とコミュニケートする方法として、また体内で正しく機能するために、これらの受容体およびそれに結合する分子を利用する。細胞分取技術は細胞のバイオマーカーに基づくものであり、この場合、細胞集団からのポジティブ選択またはネガティブ選択、すなわち包含または排除に細胞表面マーカー(1つまたは複数)を用い得る。
本明細書で使用される「遊走」という用語は、細胞集団がある場所から別の場所へ移動することを指す。
本明細書で使用される「分裂指数」という用語は、細胞集団内で有糸分裂(細胞分裂)している細胞の数と有糸分裂していない細胞の数との比を指す。
「ペプチド」という用語は、本明細書では、2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって連結したものを指すのに使用される。
「医薬組成物」という用語は、本明細書では、標的とする状態または疾患を予防する、その強度を低下させる、それを治癒する、あるいはそれを治療するために用いる組成物を指すのに使用される。
「ポリペプチド」という用語は、本明細書では、その最も広い意味で一続きのサブユニットアミノ酸、アミノ酸類似体またはペプチド模倣物を指すのに使用され、ここでは、サブユニットはペプチド結合によって連結したものである。
「タンパク質」という用語は、本明細書では、アミノ酸からなる大きく複雑な分子またはポリペプチドを指すのに使用される。タンパク質中のアミノ酸の配列は、それをコードする核酸配列中の塩基の配列によって決まる。
「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語はほかにも、1つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然のアミノ酸の人工の化学的類似体であるアミノ酸ポリマーおよび天然のアミノ酸ポリマーに適用される。このような天然のアミノ酸の類似体をタンパク質に組み込む場合に不可欠となる性質は、タンパク質が、天然のアミノ酸のみからなる同じタンパク質に対して生じる抗体に特異的に反応を示すことである。「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語はこのほか、特に限定されないが、グリコシル化、脂質付加、硫酸化、グルタミン酸残基ガンマ−カルボキシル化、ヒドロキシル化およびADPリボシル化を含めた修飾を含む。周知のように、また上記のように、ポリペプチドは完全に直鎖状でない場合もあることが理解されよう。例えば、ポリペプチドは、ユビキチン化によって分岐状になることもあれば、一般には、天然のプロセシング事象および天然には存在しない人為的操作によって起こる事象を含めた翻訳後事象によって、分岐の有無に関係なく環状になることもある。翻訳以外の天然の過程のほか、完全に合成による方法でも環状、分岐状および分岐環状のポリペプチドが合成され得る。
本明細書で使用される「薬学的に許容される塩」という用語は、正当な医学的判断の範囲内で、過度の中毒、刺激、アレルギー反応などを引き起こさずにヒトおよびヒトより下等な動物の組織に接触させて使用するのに適しており、利益/リスク比の釣り合いが妥当な塩を指す。医薬に使用する場合、塩は薬学的に許容されるものであるべきであるが、薬学的に許容されない塩を用いてその薬学的に許容される塩を調製するのが好都合な場合もある。このような塩としては、特に限定されないが、以下の塩から調製される塩が挙げられる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン−2−スルホン酸およびベンゼンスルホン酸。このような塩はほかにも、カルボン酸基のナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類塩として調製され得る。「薬学的に許容される塩」は、正当な医学的判断の範囲内で、過度の中毒、刺激、アレルギー反応などを引き起こさずにヒトおよびヒトより下等な動物の組織に接触させて使用するのに適しており、利益/リスク比の釣り合いが妥当な塩を意味する。薬学的に許容される塩は当該技術分野で周知である。例えば、P.H.Stahlらは、「Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use」(Wiley VCH,Zurich,Switzerland:2002)で薬学的に許容される塩について詳細に記載している。塩は、記載される発明内に記載されている化合物を最終的に単離および精製する際にin situで調製しても、遊離塩基官能基と適切な有機酸とを反応させることによって別個に調製してもよい。代表的な酸付加塩としては、特に限定されないが、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、クエン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、硫酸水素塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、カンフォスホナート(camphorsufonate)、ジグルコン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩(イセチオン酸塩)、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、リン酸塩、グルタミン酸塩、炭酸水素塩、p−トルエンスルホン酸塩およびウンデカン酸塩が挙げられる。このほか、塩基性窒素含有基を低級ハロゲン化アルキル、例えば塩化メチル、塩化エチル、塩化プロピル、塩化ブチル、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、臭化ブチル、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチルなど;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジブチルなどの硫酸ジアルキルおよび硫酸ジアミル;長鎖ハロゲン化物、例えば塩化デシル、塩化ラウリル、塩化ミリスチル、塩化ステアリル、臭化デシル、臭化ラウリル、臭化ミリスチル、臭化ステアリル、ヨウ化デシル、ヨウ化ラウリル、ヨウ化ミリスチル、ヨウ化ステアリルなど;臭化ベンジルおよび臭化フェネチルなどのハロゲン化アリールアルキル物などの薬剤で四級化し得る。それにより、水溶性、油溶性または分散性の生成物が得られる。薬学的に許容される酸付加塩の生成に用い得る酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸およびリン酸などの無機酸ならびにシュウ酸、マレイン酸、コハク酸およびクエン酸などの有機酸が挙げられる。塩基付加塩は、本発明内に記載される化合物を最終的に単離および精製する際に、カルボン酸含有部分と、薬学的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩もしくは炭酸水素塩などの適切な塩基あるいはアンモニアまたは有機第一級アミン、第二級アミンもしくは第三級アミンとを反応させることによってin situで調製し得る。薬学的に許容される塩としては、特に限定されないが、アルカリ金属またはアルカリ土類金属をベースとするカチオン、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムおよびアルミニウムの塩などのほか、無毒性の第四級アンモニアおよびテトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、エチルアミンなどを含めたアミンカチオンが挙げられる。塩基付加塩の生成に有用なその他の代表的な有機アミンとしては、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジンなどが挙げられる。薬学的に許容される塩はほかにも、当該技術分野で周知の標準的な手順を用いて、例えば、アミンなどの十分に塩基性の化合物と適切な酸とを反応させて、生理的に許容されるアニオンを生じさせることによって得られる。このほか、カルボン酸のアルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウムまたはリチウム)塩またはアルカリ土類金属(例えば、カルシウムまたはアルカリマグネシウム)塩を作製してもよい。
「増殖誘導成長因子」という用語は、本明細書では上皮成長因子[EGF]、塩基性線維芽細胞成長因子[bFGF]などを指すのに使用される。
本明細書で使用される「対象」という用語は、ヒトを含めた哺乳動物起源の動物種を包含する。この用語はさらに、これらの種に由来する細胞および組織を包含する。
本明細書で使用される「必要とする対象」という語句は、同語句の文脈および用法から別の意味であることが明らかでない限り、(i)少なくとも記載される発明のペプチド類似体が投与される予定であるか、(ii)少なくとも記載される発明のペプチド類似体を投与されているか、(iii)記載される発明のペプチド類似体を少なくとも1つ投与されたことのある患者を指す。
本明細書で使用される「標的」という用語は、外部からの刺激によって活性が修飾され得る生物学的実体、例えば、特に限定されないがタンパク質、細胞、器官または核酸などを指す。刺激の性質に応じて、標的に直接的な変化がみられないこともあれば、標的の立体構造の変化が誘導されることもある。
本明細書で使用される「治療剤」という用語は、治療効果をもたらす薬物、分子、核酸、ペプチド、タンパク質、組成物をはじめとする物質を指す。本明細書で使用される「活性」という用語は記載される発明の組成物の成分、構成成分または要素のうち、意図する治療効果の要因となるものを指す。本明細書では、「治療剤」と「活性薬剤」は互換的に使用される。
1つまたは複数の活性薬剤の「治療有効量」、「有効量」または「薬学的有効量」という用語は、意図する治療利益をもたらすのに十分な量を指すのに互換的に使用される。記載される発明に従って使用し得る活性薬剤の有効量は一般に、約0.01mg/kg体重〜約100g/kg体重の範囲内にある。ただし、投与量レベルは、損傷の種類、患者の年齢、体重、性別、医学的状態、状態の重症度、投与経路および用いる具体的な活性薬剤を含めた様々な因子に基づく。このため、投与レジメンは多岐にわたるものとなり得るが、医師が標準的方法を用いて慣例的に決定することが可能である。さらに、「治療有効量」および「薬学的有効量」という用語は、記載される発明の組成物の予防量を包含する。記載される発明の予防への適用では、アミロイドペプチドの蓄積によって生じる疾患、障害または状態に罹患しやすいか、そのリスクのある患者に、その疾患、障害または状態の生化学的症状、組織学的症状および/または行動症状、その合併症ならびに疾患、障害または状態の発現過程でみられる中間的な病理学的表現型を含め、その疾患、障害または状態のリスクを排除または軽減したり、重症度を軽減したり、発症を遅らせたりするのに十分な量の医薬組成物または薬剤を投与する。
「治療」または「治療すること」という用語は、疾患、状態または障害を消失させること、実質的に抑制すること、その進行を遅らせたり逆行させたりすること、状態の臨床症状または審美的症状を実質的に改善すること、疾患、状態または障害の臨床症状または審美的症状の出現を実質的に予防することのほか、有害な症状または不快な症状から保護することを包含する。治療することはさらに、以下に挙げるうちの1つまたは複数のものを達成することを指す:(a)障害の重症度を軽減すること;(b)治療する障害(1つまたは複数)に特徴的な症状の発現を抑えること;(c)治療する障害(1つまたは複数)に特徴的な症状の悪化を抑えること;(d)以前に障害(1つまたは複数)が認められた患者にその障害(1つまたは複数)が再発するのを抑えること;および(e)以前は障害(1つまたは複数)が無症状であった患者に症状が再発するのを抑えること。
本明細書で使用される「短縮する」という用語は、残基を切り取って短くすること;切り詰めることを指す。
本明細書で使用される「腫瘍」という用語は、細胞数(増殖)または細胞サイズの点で細胞が異常に成長し、身体の他の部位へ浸潤または拡散する(転移)可能性のある疾患を指す。
一態様では、記載される発明は、治療量の治療剤を含み、治療剤が、ペプチドであり、かつ(1)腫瘍の成長、遊走、浸潤またはその組合せを低下させ、(2)対象の生存率を対照に比して改善するのに有効である、医薬組成物を提供する。
一実施形態では、ペプチドはBox5のペプチド誘導体である。このようなペプチド誘導体としては、特に限定されないが、アミノ酸配列Met−Asp−Gly−Cys−Glu−Leuのペプチド(MDGCEL)[配列番号1]、配列Leu−Glu−Cys−Gly−Asp−Metのペプチド(LECGDM)[配列番号2]、配列Leu−Glu−Gly−Asp−Metのペプチド(LEGDM)[配列番号3]ならびにその短縮産物および融合産物が挙げられる。
一実施形態では、ペプチドはWnt5aアンタゴニストである。Wnt5aアンタゴニストは、例えば、Wnt5aと結合すること、Wnt5a受容体と結合すること、Wnt5a遺伝子の発現を妨害したり低下させたりすること、Wnt5a標的遺伝子の発現を妨害したり低下させたりすることなどによって、Wnt5a活性化シグナル伝達経路に直接的または間接的に干渉するよう機能し得る。Wnt5a活性化シグナル伝達経路としては、特に限定されないが、成長、遊走、浸潤またはその組合せに関連するシグナル伝達経路、Wnt5aを含むシグナル伝達経路、古典的経路、非古典的経路などが挙げられる。一実施形態では、Wnt5aアンタゴニストは、癌幹細胞(CSC)の成長、遊走、浸潤またはその組合せに関連するシグナル伝達経路に干渉する。別の実施形態では、Wnt5aアンタゴニストは、癌幹細胞(CSC)の成長に関連するシグナル伝達経路に干渉する。別の実施形態では、Wnt5aアンタゴニストは、癌幹細胞(CSC)の遊走に関連するシグナル伝達経路に干渉する。別の実施形態では、Wnt5aアンタゴニストは、癌幹細胞(CSC)の浸潤に関連するシグナル伝達経路に干渉する。
記載される発明の一実施形態では、シグナル伝達経路は、□−カテニンを介する転写を促進しないWnt活性化細胞シグナル伝達経路である。一実施形態では、□−カテニンを介する転写を促進しないWnt活性化細胞シグナル伝達経路は、非古典的Wntシグナル伝達経路である。別の実施形態では、非古典的Wntシグナル伝達経路はWnt5aを含むものである。
記載される発明のペプチドは、組換えにより発現させるか、化学的に合成することができる。組換え発現ペプチドまたは化学合成ペプチドを作製する方法は当該技術分野で公知である。
一実施形態では、記載される発明は合成ペプチドを提供する。合成ペプチドを調製する方法の例は、例えば、Peptide Synthesis Protocols,Methods in Molecular Biology,35巻,Pennington,MWおよびDunn,BM,1995,XII(Humana Press社、トトワ、ニュージャージー州)ならびにPeptides:Synthesis,Structures and Applications,Gutte,B,1995(Academic Press社、サンディエゴ、カリフォルニア州)に記載されている。固相法、液相法もしくはペプチド縮合法またはその任意の組合せを用いて調製される合成ペプチドは、天然アミノ酸および非天然アミノ酸を含み得る。ペプチド合成に使用するアミノ酸は、Merrifield(1963,J.Am.Chem.Soc.85:2149−2154)の最初の固相法の標準的な脱保護、中和、カップリングおよび洗浄のプロトコルによる標準的なBoc(N−α−アミノ保護N−α−t−ブチルオキシカルボニル)アミノ酸樹脂またはCarpinoおよびHan(1972,J.Org.Chem.37:3403−3409)が最初に記載した塩基不安定性N−α−アミノ保護9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)アミノ酸であり得る。Fmoc N−α−アミノ保護アミノ酸およびBoc N−α−アミノ保護アミノ酸はともに、例えばSigma社、Cambridge Research Biochemical社をはじめとする化学薬品会社から購入することができる。あるいは、他の任意のN−α−保護基を用いてペプチドを合成してもよい。
固相ペプチド合成は、例えば、StewartおよびYoung,1984,Solid Phase Synthesis,第2版(Pierce Chemical社、ロックフォード、イリノイ州);FieldsおよびNoble,1990,Int.J.Pept.Protein Res.35:161−214に記載される通りに実施しても、自動合成装置を用いて実施してもよい。本発明のペプチドは、特殊な特性をもたらすようにD−アミノ酸(in vivoでL−アミノ酸特異的プロテアーゼに対して耐性を示す)、D−アミノ酸とL−アミノ酸の組合せおよび様々な「デザイナー」アミノ(例えば、β−メチルアミノ酸、C−α−メチルアミノ酸およびN−α−メチルアミノ酸など)を含み得る。合成アミノ酸としては、リジンに対するオルニチンおよびロイシンまたはイソロイシンに対するノルロイシンが挙げられる。
さらに、ペプチドにエステル結合などのペプチド模倣結合をもたせて、新規な特性を有するペプチドを調製することができる。例えば、還元型ペプチド結合、すなわち、R1およびR2をアミノ酸残基またはアミノ酸配列とするR1−CH2−NH−R2を組み込んだペプチドを作製し得る。還元型ペプチド結合はジペプチドサブユニットとして導入し得る。このようなペプチドは、プロテアーゼ活性に対して耐性を示し、in vivoでの半減期が長くなるものと考えられる。
合成ペプチドは長さが約2〜約30アミノ酸であり得ることが理解される。一実施形態では、記載される発明は、配列番号1で表される合成ペプチドおよびその変異型を提供する。一実施形態では、記載される発明は、配列番号2で表される合成ペプチドおよびその変異型を提供する。一実施形態では、記載される発明は、配列番号3で表される合成ペプチドおよびその変異型を提供する。合成ペプチドの変異型は、アミノ酸の置換、欠失または付加を含み得る。置換は保存的アミノ酸置換を含み得る。欠失または付加は、単一のアミノ酸または複数のアミノ酸を含み得る。
記載される発明は、直鎖状のペプチドおよび環状のペプチドの両方を企図する。環状ペプチドは、例えばアミド結合またはジスルフィド架橋によって形成され得る。ジスルフィド架橋は、アミノ酸であるシステインの2つの残基の間で形成され得る。
記載される発明は、記載されるペプチドに加えて第二の治療剤を企図する。第二の治療剤の非限定的な例としては、化学療法剤、Wnt5aのアンタゴニストなどが挙げられる。Wnt5aアンタゴニストの非限定的な例としては、抗体(例えば、Wnt5a遮断抗体)、frizzled関連タンパク質もしくは同タンパク質の類似体またはWnt3aタンパク質もしくは同タンパク質の類似体が挙げられる。Wnt5aアンタゴニストは、例えば、Wnt5aと結合すること、Wnt5a受容体と結合すること、Wnt5a遺伝子の発現を妨害したり低下させたりすること、Wnt5a標的遺伝子の発現を妨害したり低下させたりすることなどによって、Wnt5a活性化シグナル伝達経路に直接的または間接的に干渉するよう機能し得る。Wnt5a活性化シグナル伝達経路としては、特に限定されないが、成長、遊走、浸潤またはその組合せに関連するシグナル伝達経路、Wnt5aを含むシグナル伝達経路、古典的経路、非古典的経路などが挙げられる。一実施形態では、Wntaアンタゴニストは、癌幹細胞(CSC)の成長、遊走、浸潤またはその組合せに関連するシグナル伝達経路に干渉する。一実施形態では、Wnt5aアンタゴニストは、癌幹細胞(CSC)の成長に関連するシグナル伝達経路に干渉する。一実施形態では、Wnt5aアンタゴニストは、癌幹細胞(CSC)の遊走に関連するシグナル伝達経路に干渉する。一実施形態では、Wnt5aアンタゴニストは、癌幹細胞(CSC)の浸潤に関連するシグナル伝達経路に干渉する。
記載される発明の一実施形態では、シグナル伝達経路は、□−カテニンを介する転写を促進しないWnt活性化細胞シグナル伝達経路である。一実施形態では、□−カテニンを介する転写を促進しないWnt活性化細胞シグナル伝達経路は、非古典的Wntシグナル伝達経路である。別の実施形態では、非古典的Wntシグナル伝達経路はWnt5aを含むものである。
一実施形態では、腫瘍は固形腫瘍である。固形腫瘍としては、特に限定されないが、脳腫瘍、結腸腫瘍、前立腺腫瘍、乳房腫瘍、肺腫瘍、皮膚腫瘍、肝腫瘍、骨腫瘍、卵巣腫瘍、膵腫瘍、頭部腫瘍、頸部腫瘍、神経腫瘍およびリンパ腫が挙げられる。脳腫瘍の非限定的な例としては、髄芽腫、髄膜腫、シュワン細胞腫、頭蓋咽頭腫、胚細胞腫瘍、松果体部腫瘍および神経膠腫が挙げられる。例示的な神経膠腫としては、星状細胞腫、乏突起神経膠腫、上衣腫などが挙げられる。星状細胞腫の非限定的な例には多形神経膠芽腫がある。
一実施形態では、神経膠腫は腫瘍細胞を含む。別の実施形態では、腫瘍細胞は癌幹細胞を含む。
一実施形態では、腫瘍は生存腫瘍細胞の集団を含む。別の実施形態では、生存腫瘍細胞の集団は癌幹細胞の集団を含む。
一実施形態では、癌幹細胞の集団は浸潤性表現型を特徴とする。浸潤性表現型は、Ki67マーカー、CD147マーカー、Frem2マーカーまたはその組合せの発現を特徴とし得る。別の実施形態では、癌幹細胞の集団は、Wnt5aとEphA2の共発現がまれである。
一実施形態では、癌幹細胞の浸潤性表現型は、Wnt5aの高レベルの発現を示す。
別の実施形態では、腫瘍細胞の集団は、(1)Wnt5aおよびCD44の高レベルの発現、(2)Wnt5aもしくはEphA2の高レベルの発現または(3)Wnt5aおよびDlx2の高レベルの発現のうちの少なくとも1つを特徴とする。別の実施形態では、腫瘍細胞の集団は、3種類の過剰発現Wnt5a細胞型、すなわち、(1)脳室下帯(SVZ)星状膠細胞、B型:グリア線維性酸性タンパク質(GFAP+);(2)一過性増幅前駆細胞、C型:GFAP−、Dlx2+、PSA−NCAM−および(3)神経芽細胞、A型:GFAP−、Dlx2+、PSA−NCAM+の存在を特徴とする。
一実施形態では、癌幹細胞の集団を成長因子に曝露せずに培養する。別の実施形態では、成長因子に曝露せずに培養した癌幹細胞は、成長因子とともに培養した癌幹細胞の集団(対照)と比較したとき、Wnt5aの高レベルの発現を示す。
一実施形態では、記載される発明は、癌幹細胞の浸潤を低下させる治療剤を含む医薬組成物を提供する。
一実施形態では、記載される発明は、Wnt5a発現のレベルを低下させる治療剤を提供する。
別の実施形態では、記載される発明の医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含む。別の実施形態では、医薬組成物は化学療法剤をさらに含む。
一実施形態では、記載される発明の医薬組成物は、腫瘍の成長、遊走および浸潤に関連するシグナル伝達経路の1つまたは複数の段階に干渉するのに有効である。別の実施形態では、記載される発明の医薬組成物は、Wnt5aシグナル伝達経路のある段階に干渉するのに有効である。
別の態様では、記載される発明は、必要とする対象の腫瘍の成長、遊走、浸潤またはその組合せを低下させる方法であって、(1)対象に治療量のペプチドを含む医薬組成物を投与する段階であって、治療量が、腫瘍の成長、遊走、浸潤またはその組合せに関連するシグナル伝達経路のある段階に干渉するのに有効である段階を含む、方法を提供する。
一実施形態では、記載される発明はほかにも、CNS固体腫瘍を有する対象を治療する方法であって、(1)治療量の治療剤を含む医薬組成物であって、治療剤がペプチドであり、治療量の治療剤が、腫瘍の成長、遊走、浸潤またはその組合せを低下させるのに有効である医薬組成物を提供することと、(2)その組成物を必要とする対象に投与することとを含む、方法を提供する。
一実施形態では、この方法は、対象に組成物を投与することを含み、組成物は、(1)治療量のBox5ペプチド誘導体、Wnt5a遮断抗体、Wnt5aアンタゴニスト、Wnt5a受容体と結合するタンパク質、Wnt5a共受容体と結合するタンパク質またはWnt3aと、(2)薬学的に許容される担体とを含む。
一実施形態では、記載される発明は、浸潤性表現型の癌幹細胞の集団を含む腫瘍を有する対象を治療する方法を提供し、この方法は、必要とする対象に医薬組成物を投与することを含み、浸潤性表現型の癌幹細胞は、Wnt5aの発現レベルが高い。
一実施形態では、医薬組成物は、治療有効量のBox5のペプチド誘導体を含み、この誘導体は、ペプチドA(配列番号2)、ペプチドB(配列番号3)またはその組合せから選択される。
一実施形態では、記載される発明は、医薬組成物を投与する経路を提供する。投与の経路としては、特に限定されないが、経口経路、口腔内経路、非経口経路、鼻腔内経路、直腸内経路および局所経路が挙げられる。
記載される発明の医薬組成物は、経口使用に適した形態、例えば錠剤、トローチ剤、水性懸濁剤、油性懸濁剤、分散性散剤、分散性顆粒剤、乳剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤またはエリキシル剤などであり得る。本明細書で使用される「経口」または「経口的に」という用語は、口腔から体内に導入し、口腔、胃、小腸、肺(他と区別して吸入ともいう)および舌の下にある小血管(他と区別して舌下ともいう)のうちの1つまたは複数の領域で吸収させることを指す。経口使用を目的とする組成物は任意の既知の方法に従って調製され得るものであり、そのような組成物は、薬学的に洗練された美味な製剤を提供するため、甘味剤、香味剤、着色剤および保存剤からなる群より選択される1つまたは複数の薬剤を含有し得る。錠剤は、活性成分(1つまたは複数)を錠剤の製造に適した無毒性の薬学的に許容される添加剤との混合物の形で含有し得る。このような添加剤は例えば、不活性希釈剤、例えば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウムまたはリン酸ナトリウムなど;造粒剤および崩壊剤、例えばコーンスターチまたはアルギン酸;結合剤、例えばデンプン、ゼラチンまたはアラビアゴム;および滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクであり得る。錠剤は未コーティングのものであってよく、あるいは、消化管での崩壊および吸収を遅らせ、長時間にわたって作用を持続させるため、既知の技術によって錠剤をコーティングしてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延材料を使用し得る。このほか、放出を制御するために錠剤をコーティングしてもよい。
記載される発明の組成物はこのほか、経口使用するために、活性成分(1つまたは複数)を不活性固体希釈剤、例えば炭酸カルシウム、リン酸カルシウムもしくはカオリンと混合した硬ゼラチンカプセル剤または活性成分(1つまたは複数)を水または油性媒質、例えばラッカセイ油、流動パラフィンまたはオリーブ油と混合した軟ゼラチンカプセル剤として製剤化してもよい。
記載される発明の組成物は、活性成分(1つまたは複数)を水性懸濁液の製造に適した添加剤と混合した水性懸濁液として製剤化してよい。このような添加剤には、懸濁化剤、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシ−プロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガントゴムおよびアラビアゴムがあり;分散剤または湿潤剤は、レシチンなどの天然のリン脂質またはアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合物、例えばポリオキシエチレンステアリン酸、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合物、例えばヘプタデカエチル−エンオキシセタノール、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール由来の部分エステルとの縮合物、例えばポリオキシエチレンソルビトールモノオレアートなどまたはエチレンオキシドと脂肪酸および無水ヘキシトール由来の部分エステルとの縮合物、例えばポリエチレンソルビタンモノオレアートであり得る。水性懸濁液はほかにも、1つまたは複数の着色剤、1つまたは複数の香味剤および1つまたは複数の甘味剤、例えばスクロースまたはサッカリンなどを含有し得る。
記載される発明の組成物は、活性成分を植物油、例えばラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油もしくはヤシ油または鉱油、例えば流動パラフィンなどに懸濁させることにより油性懸濁剤として製剤化してもよい。油性懸濁剤は増粘剤、例えばミツロウ、硬パラフィンまたはセチルアルコールを含有し得る。上記のような甘味剤および香味剤を添加して美味な経口製剤を提供してもよい。アスコルビン酸などの酸化防止剤の添加によってこれらの組成物を保存してもよい。
記載される発明の組成物は、水の添加によって水性懸濁液を調製するのに適した分散性の散剤および顆粒剤の形態で製剤化してもよい。このような散剤および顆粒剤中の活性成分は、分散剤、湿潤剤、懸濁化剤および1つまたは複数の保存剤との混合物の形態で提供される。適切な分散剤、湿潤剤および懸濁化剤は、既に上に記載したものが代表的なものである。ほかにも、追加の添加剤、例えば甘味剤、香味剤および着色剤が存在してもよい。
記載される発明の組成物はこのほか、乳剤の形態であってもよい。乳剤とは、不混和性の液体担体を2種類組み合わせることによって調製される2相系のことであり、2種類の液体担体うち一方は、他方の全体に均一に分配され、最も大きいコロイド粒子の以上の直径を有する小滴からなるものである。小滴の大きさは極めて重要であり、系の安定性が最大限になるものでなければならない。通常、第三の物質である乳化剤を組み込まない限り、2相の分離が起こることはない。このため、基剤となる乳剤は、液体担体2種類と乳化剤の少なくとも3種類の構成成分のほかに活性成分を含有する。ほとんどの乳剤は水相を非水相に組み込んだもの(またはその逆)である。ただし、基本的に非水性である乳剤、例えば、非水性で不混和系のグリセリンとオリーブ油のアニオン性界面活性剤およびカチオン性界面活性剤を調製することも可能である。したがって、本発明の組成物は水中油型乳剤の形態であってもよい。油相は植物油、例えばオリーブ油もしくはラッカセイ油または鉱油、例えば流動パラフィンあるいはその混合物であり得る。適切な乳化剤は、天然のゴム、例えばアラビアゴムまたはトラガントゴム、天然のリン脂質、例えば大豆レシチンのほか、脂肪酸および無水ヘキシトール由来のエステルまたは部分エステル、例えばソルビタンモノオレアートならびに部分エステルとエチレンオキシドとの縮合物、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートであり得る。乳剤はほかにも、甘味剤および香味剤を含有し得る。
記載される発明の組成物はこのほか、シロップ剤およびエリキシル剤として製剤化してもよい。シロップ剤およびエリキシル剤は、甘味剤、例えばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトールまたはスクロースとともに製剤化してもよい。このような製剤はほかにも、粘滑剤、保存剤、香味剤および着色剤を含有し得る。粘滑剤は、特に粘膜または擦過傷(裂傷または切り傷という意味)のある組織への刺激の軽減を主な目的として用いる保護的な薬剤である。粘滑特性を有する化学物質は多数存在する。このような物質としては、アルギン酸塩、ゴム糊、ゴム、デキストリン、デンプン、ある種の糖およびポリマー性多価グリコールが挙げられる。これ以外のものとしては、アラビアゴム、寒天、ベンゾイン、カルボマー、ゼラチン、グリセリン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プロピレングリコール、アルギン酸ナトリウム、トラガント、ヒドロゲルなどが挙げられる。
口腔内投与には、記載される発明の組成物は、従来の方法で製剤化される錠剤またはトローチ剤の形態をとり得る。
記載される発明の組成物は、水性または油性の無菌注射用懸濁液の形態であってもよい。本明細書で使用される「非経口」という用語は、例えば皮下注射(すなわち、皮膚の下への注射)、筋肉内(すなわち、筋肉内への注射);静脈内注射(すなわち、静脈内への注射)、髄腔内注射(すなわち、脊髄周囲の空隙内への注射)、胸骨内注射または注入の技術を含めた注射(すなわち、注射による投与)により体内に導入することを指す。記載される発明の非経口投与組成物は、針、例えば外科用針を用いて送達される。本明細書で使用される「外科用針」という用語は、記載される発明の流体(すなわち、流動可能な)組成物を選択した解剖学的構造内に送達するのに適した任意の針を指す。水性または油性の無菌注射用懸濁液などの注射用製剤は、既知の技術に従い、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用いて製剤化され得る。
無菌注射用製剤はこのほか、非経口的に許容される無毒性の希釈剤または溶媒を用いた無菌注射用液または注射用懸濁液、例えば1,3−ブタンジオールの溶液であってもよい。溶液は一般に、2種類以上の物質の均一な混合物であると考えられ、必ずしもというわけではないが、多くの場合、液体である。溶液中では、溶質(または溶解した物質)の分子は溶媒分子の間に均一に分布している。懸濁液とは、微粉化した種とまた別の種とを混ぜ合わせた分散物(混合物)であり、前者は短時間で沈降しないよう微粉化され混合されている。日常生活で最もよくみられる懸濁液は、液体の水に固体を懸濁させたものである。使用し得る許容される賦形剤および溶媒には、水、リンガー溶液および等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに、無菌不揮発性油を従来通りに溶媒または懸濁媒として用いる。非経口適用に特に適した賦形剤は、溶液、好ましくは油性溶液または水溶液のほか、懸濁剤、乳剤または埋植物からなるものである。水性懸濁液は、懸濁液の粘度を増大させる物質を含有してよく、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールおよび/またはデキストランがこれに含まれる。任意選択で、懸濁液は安定剤も含有し得る。
記載される発明の組成物は、吸入または吹入によって(口または鼻から)送達する分散性乾燥粉末の形態であってもよい。乾燥粉末組成物は、国際公開第91/16038号および米国特許第6,921,527号(両開示は参照により組み込まれる)に開示されている凍結乾燥およびジェットミリングなどの当該技術分野で公知の工程によって調製され得る。例えば、噴霧乾燥は、ノズル(例えば、二流体ノズル)、回転円板またはそれに相当する装置によって薬物と担体との均一な水性混合物を熱ガス流中に導入し、その溶液を噴霧して微細な液滴を形成させる工程である。水性混合物は、溶液、懸濁液、スラリーなどであってよいが、構成成分が混合物中、最終的には粉末組成物中に均一に分布するよう均一なもので必要がある。溶媒は一般に水であり、液滴から迅速に蒸発し、粒子の直径が約1μm〜5μmの微細な乾燥粉末を生じる。噴霧乾燥は、吸入可能な粒子径を有し、含水量が少なく、即時にエアゾール化が可能な流動性を有し、組成が均一で実質的に無定形な粉末を生じる条件下で実施する。生じる粉末の粒子径は、質量の約98%が直径約10μm以下の粒子となり、質量の約90%が直径5μm未満となる粒子径であるのが好ましい。あるいは、質量の約95%が直径10μm未満の粒子となり、粒子の質量の約80%が直径5μm未満となる。このほか、国際公開第91/16038号(その開示が参照により組み込まれる)に開示されている凍結乾燥およびジェットミリングによって乾燥粉末組成物を調製してもよい。
「分散性」は、含水量が約10重量%(%w)未満、通常約5%w未満、好ましくは約3%w未満であり、粒子径が約1.0〜5.0μm質量中位径(MMD)、通常1.0〜0−4.0μm MMD、好ましくは1.0〜3.0μm MMDであり、送達される用量が約30%超、通常40%超、好ましくは50%超、最も好ましくは60%超であり、エアゾール粒子径分布が約1.0〜5.0μm空気力学的質量中位径(MMAD)、通常1.5〜4.5μm MMAD、好ましくは1.5〜4.0μm MMADである乾燥粉末を意味する。1995年4月14日に出願された米国特許出願第08/423,568号(その開示が参照により本明細書に組み込まれる)には、分散性を改善する方法および組成物が開示されている。
「粉末」という用語は、微細に分散させた固体粒子であって、自由流動性であり、吸入装置内で容易に分散し、次いで対象によって吸引されて、粒子が肺に到達し肺胞内への浸透が可能な粒子からなる組成物を意味する。したがって、粉末は「吸入可能」であるといえる。好ましくは、平均粒子径は直径約10ミクロン(μm)未満であり、比較的均一な回転楕円状の分布を示す。より好ましくは、直径は約7.5μm未満、最も好ましくは約5.0μm未満である。粒子径分布は通常、直径約0.1μm〜約5μm、具体的には約0.3μm〜約5μmである。
「乾燥」という用語は、組成物の含水量が、粒子が吸入装置内で容易に分散してエアゾールを形成する程度であることを意味する。含水量は一般に、約10重量%(%w)未満、通常約5%w未満、好ましくは約3%w未満である。
薬学的に許容される担体の量とは、必要とする対象の肺に組成物を均一に送達するのに必要な安定性、分散性、粘稠性および膨化特性をもたらすのに必要な量のことである。数値で言えば、その量は、用いる薬物の活性に応じて約0.05%w〜約99.95%wであり得る。約5%w〜約95%用いるのが好ましい。担体は、1種類の医薬品添加剤であっても、2種類以上の医薬品添加剤を組み合わせたものであってもよいが、一般に、いかなる「浸透促進剤」も実質的に含まない。浸透促進剤は、薬物が粘膜または粘膜内層から浸透するのを促進する界面活性化合物であり、鼻腔内製剤、直腸内製剤および膣内製剤に使用することが考えられる。例示的な浸透促進剤としては、胆汁酸塩、例えばタウロコール酸塩、グリココール酸塩およびデオキシコール酸塩;フシジン酸塩、例えばタウロデヒドロフシジン酸塩;および生体適合性界面活性剤、例えばTween、Laureth−9などが挙げられる。しかし、浸透促進剤は肺の上皮血管バリアに悪影響を及ぼし得るため、肺用の製剤にそのような界面活性化合物を使用するのは一般に望ましくない。記載される発明の乾燥粉末組成物は、浸透促進剤を用いる必要なく容易に肺に吸収される。
肺送達用の担体として有用な医薬品添加剤の種類としては、ヒト血清アルブミン(HSA)などの安定剤、炭水化物などの増量剤、アミノ酸およびポリペプチド;pH調整剤または緩衝剤;塩化ナトリウムなどの塩などが挙げられる。これらの担体は、結晶形態または非晶質形態であっても、両者の混合物であってもよい。
肺送達に特に価値のある増量剤としては、適合性のある炭水化物、ポリペプチド、アミノ酸またはその組合せが挙げられる。適切な炭水化物としては、ガラクトース、D−マンノース、ソルボースなどの単糖類;ラクトース、トレハロースなどの二糖類;2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンなどのシクロデキストリン;およびラフィノース、マルトデキストリン、デキストランなどの多糖類;マンニトール、キシリトールなどのアルジトールが挙げられる。好ましい炭水化物のグループとしては、ラクトース、トレハロース、ラフィノース、マルトデキストリンおよびマンニトールが挙げられる。適切なポリペプチドとしてはアスパルテームが挙げられる。アミノ酸としては、アラニンおよびグリシンが挙げられ、グリシンが好ましい。
肺送達用の組成物に微量に含まれる構成成分である添加剤は、噴霧乾燥時に立体構造を安定させるために含まれるものまたは粉末の分散性を向上させるものであり得る。このような添加剤としては、トリプトファン、チロシン、ロイシン、フェニルアラニンなどの疎水性アミノ酸が挙げられる。
吸入または吹入による送達には、対象に単位投与治療をもたらすのに十分な量の記載される発明の組成物を適切な投与容器内に入れる。投与容器とは、乾燥粉末組成物をガス流中に分散させてエアゾールを形成させることによってエアゾール化した後、そのように生成したエアゾールを治療を必要とする対象がのちに吸入するためのマウスピースが装着されたチャンバ内に捕捉するのに適した吸入装置内に収まる容器のことである。このような投与容器としては、ゼラチンカプセルまたはプラスチックカプセルなどの当該技術分野で公知の組成物を封入する任意の容器であって、気体(例えば、空気)の流れを容器内に向け乾燥粉末組成物を分散させる取り外し可能な部分を有する容器が挙げられる。このような容器の代表的なものとして、米国特許第4,227,522号;米国特許第4,192,309号;および米国特許第4,105,027号に示される容器がある。適切な容器としてはほかにも、GlaxoSmithKline社の商標名Ventolin(登録商標)Rotohalerの粉末吸入器またはFison社の商標名Spinhaler(登録商標)の粉末吸入器とともに使用する容器が挙げられる。また別の適切な単位用量容器として、アルミホイルプラスチック積層板から形成され、防湿性に優れたものがある。成形可能なホイルのくぼみの中に医薬品を主体とする粉末を重量単位または体積単位で充填し、ホイル−プラスチック積層板のカバーで密封する。粉末吸入装置とともに使用するこのような容器は米国特許第4,778,054号に記載されており、GlaxoSmithKline社のDiskhaler(登録商標)(米国特許第4,627,432号;同第4,811,731号;および同第5,035,237号)とともに使用される。上記の参考文献はいずれも、参照により本明細書に組み込まれる。
記載される発明の組成物は、滴剤またはスプレー剤(例えば、経鼻スプレー、エアゾールスプレーまたはポンプスプレー)をはじめとする鼻腔投与(鼻腔内送達)用の賦形剤の形態で使用してもよい。エアゾールスプレー製剤は、炭化水素噴射剤などの適切な噴射剤を含む加圧容器に収納することができる。ポンプスプレーディスペンサは、計量済みの用量または特定の粒子径または液滴径を有する用量を投薬することができるものである。単一の用量のみまたは複数の用量を投薬するよう任意の投薬装置を配置することができる。より一般的には、本発明の組成物、特に鼻腔内投与用に製剤化された組成物はこのほか、液剤、懸濁剤または粘稠性組成物(例えば、ゲル剤、ローション剤、クリーム剤または軟膏剤)として提供することができる。
記載される発明の組成物は、組成物を直腸内に投与する坐剤の形態であってもよい。本明細書で使用される「直腸内」または「直腸内に」は、直腸から体内に導入し、直腸壁から吸収させることを指す。これらの組成物は、薬物と適切な無刺激性の添加剤、例えばカカオ脂およびポリエチレングリコールなどと混合することによって調製することができ、上記の添加剤は、常温では固体であるが直腸内温度では液体であるため、直腸内で融解して薬物を放出する。本発明の組成物を坐剤として製剤化する場合、従来の結合剤および担体、例えばトリグリセリドなどを用いて製剤化し得る。
「局所」という用語は、本発明の組成物を適用する地点またはその直下に投与することを指す。「局所適用」という語句は、上表面を含めた1つまたは複数の表面に適用することを表す。局所投与は、経皮投与とは対照的に、全身効果ではなく局所効果が得られるのが一般的であるが、本明細書で使用される場合、特に明記または暗示されない限り、局所投与と経皮投与という用語は互換的に使用される。本願の目的には、局所適用は口腔洗浄剤および含嗽剤を含むものとする。
局所投与ではほかにも、当該技術分野で周知の技術および方法によって調製される経皮パッチまたはイオン導入装置などの経皮投与を用い得る。「経皮送達システム」、「経皮パッチ」または「パッチ」という用語は、皮膚に貼付して、薬物(1つまたは複数)が剤形から皮膚を通り、体循環を介して分布できるようにすることによって、時間放出用量の薬物を送達する粘着システムを指す。経皮パッチは十分に認められている技術であり、特に限定されないが、動揺病に対するスコポラミン、狭心症を治療するニトログリセリン、高血圧症に対するクロニジン、閉経後適応のエストラジオールおよび禁煙のためのニコチンを含めた多岐にわたる医薬品の送達に使用される。
記載される発明に使用するのに適したパッチとしては、特に限定されないが、(1)マトリック型スパッチ;(2)リザーバ型パッチ;(3)複層型薬物溶解型粘着剤パッチ;および(4)モノリシック型薬物溶解型粘着剤パッチ;TRANSDERMAL AND TOPICAL DRUG DELIVERY SYSTEMS,pp.249−297(Tapash K.Ghoshら編,1997)(参照により本明細書に組み込まれる)が挙げられる。これらのパッチは当該技術分野で周知であり、一般に市販されている。
いくつかの実施形態では、溶媒、懸濁化剤、結合剤、充填剤、滑沢剤、崩壊剤および湿潤剤/界面活性剤/可溶化剤から選択される添加剤、賦形剤または担体を用いて、記載される発明の組成物を製剤化し得る。「添加剤」、「賦形剤」または「担体」という用語は、活性化合物(1つまたは複数)と混合すると、その使用が容易になるが、それと有害な反応は起こさない物質を指す。「活性」という用語は、記載される発明の組成物の成分、構成成分または要素のうち、意図する治療効果の要因となるものを指す。担体は、治療する対象に投与するのに適したものになる程度に純度が高く、毒性が低いものでなければならない。担体は、不活性なものであっても、医薬品としての有益性を有するものであってもよい。
担体は液体であっても固体であってもよく、所与の組成物の活性な構成成分およびその他の構成成分と組み合わせたときに所望のかさ、粘稠度などが得られるよう、企図する投与方法を考慮に入れて選択する。典型的な医薬担体としては、特に限定されないが、結合剤(特に限定されないが、予めゼラチン化したトウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む);充填剤(特に限定されないが、ラクトースをはじめとする糖類、微結晶性セルロース、ペクチン、ゼラチン、硫酸カルシウム、エチルセルロース、ポリアクリル酸またはリン酸水素カルシウムを含む);滑沢剤(特に限定されないが、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ、ソリダル(sollidal)二酸化ケイ素、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、水素化植物油、コーンスターチ、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウムを含む);崩壊剤(特に限定されないが、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム)および湿潤剤(特に限定されないが、ラウリル硫酸ナトリウムを含む)が挙げられる。記載される発明の組成物に適したほかの担体としては、特に限定されないが、水、塩溶液、アルコール、植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、香油;脂肪酸モノグリセリドおよび脂肪酸ジグリセリド、ペトロエトラル(petroethral)脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。医薬製剤を滅菌し、必要に応じて、活性化合物と有害な反応を起こさない補助剤、例えば滑沢剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼす塩、緩衝剤、着色剤、香味剤および/または芳香物質などと混合することができる。
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」という用語は、活性な構成成分の安定性およびバイオアベイラビリティが維持され、医薬品の投与に従来通り有用な実質的に無毒性の任意の担体を指す。いくつかの実施形態では、記載される発明の組成物の薬学的に許容される担体は、徐放担体または遅延放出担体などの放出剤を含む。このような実施形態では、担体は、治療量の治療剤の徐放または遅延放出を可能にしてより効率的な投与をもたらし、それにより活性成分の投与頻度および/または用量を減らし、取り扱いを容易にし、作用時間を長くしたり遅らせたりする任意の材料であり得る。このような担体の非限定的な例としては、天然ポリマーおよび合成ポリマーのリポソーム、マイクロスポンジ、マイクロスフェアまたはマイクロカプセルなどが挙げられる。リポソームは、コレステロール、ステアリルアミンまたはホスファチジルコリンなどの様々なリン脂質から形成され得る。
記載される発明の治療活性ペプチドは、それ自体を製剤化しても、塩形態で製剤化してもよい。「薬学的に許容される塩」という用語は、記載される発明のペプチドの無毒性塩を指す。本発明に使用し得るペプチド塩は、有機酸の薬学的に許容される塩または無機酸の薬学的に許容される塩である。このような薬学的に許容されるペプチド塩の例としては、特に限定されないが、遊離アミノ基を用いて形成される塩、例えば塩酸、リン酸、硫酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する塩などおよび遊離カルボキシル基を用いて形成される塩、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来する塩などが挙げられる。
当該技術分野で公知の技術、例えばペンシルベニア州イーストンのMack Publishing社が出版しているRemington’s Pharmaceutical Sciences,第18版または第19版(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている技術を用いて、記載される発明のさらなる組成物を調製することができる。
いくつかの実施形態では、記載される発明の組成物は、Wnt5a誘導体ペプチド、Wnt5a模倣ペプチド、Wnt5aアンタゴニストまたはWnt5a遮断抗体によって得られる医薬効果に加えて、また別の医薬効果を組成物に付与することを目的とする1つまたは複数の適合性のある活性成分をさらに含み得る。本明細書で使用される「適合性のある」は、通常の使用条件下で各活性成分または組成物の効果を大幅に低下させる相互作用がないように、そのような組成物の活性成分を互いに組み合わせることが可能であることを意味する。
記載される発明の組成物はほかにも、脳腫瘍の治療に他の組成物と連続的に投与しても、併用して投与してもよい。例えば、特に限定されないが、そのような他の組成物は、骨形成タンパク質4(BMP4);および抗炎症化合物(特に限定されないが、イブプロフェン、インドメタシンおよびフルルビプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)を含む)を含むものであり得る。
記載される発明の組成物は、単独でまたは他の活性成分と組み合わせて、単回投与または長期間にわたる反復投与で対象に投与し得る。本明細書で使用される「治療有効量」、「治療量」および「薬学的有効量」という用語は、対象に投与すると治療効果または有益な効果が得られる本発明の組成物の量を指すのに互換的に使用される。さらに、「治療有効量」、「治療量」および「薬学的有効量」という用語は、記載される発明の組成物の予防量を包含する。記載される発明の予防への適用では、浸潤性表現型を有する癌幹細胞の集団を含む腫瘍に罹患しやすいか、そのリスクのある患者に、その腫瘍の生化学的症状、組織学的症状および/または行動症状、その合併症ならびに腫瘍の進展過程でみられる中間的な病理学的表現型を含め、その腫瘍のリスクを排除または軽減したり、重症度を軽減したり、発症を遅らせたりするのに十分な量の医薬組成物または薬剤を投与する。
活性物質の濃度は、その治療効果が発揮されるが、当業者の範囲内および当業者の正当な判断の範囲内で重大な副作用を回避できる程度に低いものを選択する。組成物の有効量は、治療する生体対象の年齢および健康状態、状態の重症度、治療の持続期間、現時点で用いている治療法の性質、使用する具体的な化合物、組成物をはじめとする活性成分、用いる具体的な担体などの因子によって異なり得る。当業者は、そのような因子を容易に評価し、この情報に基づいて、意図する目的に使用する記載される発明の組成物の具体的な濃度を決定することができる。さらに、記載される発明の治療への適用では、そのような疾患、障害または状態が疑われる患者、それを有する患者または既にそれに罹患している患者に、その疾患、障害または状態の発現過程でみられるその合併症および中間的な病理学的表現型を含め、その疾患、障害または状態の症状を治癒するか、少なくとも部分的に阻止するのに十分な量の組成物または薬剤を投与する。いくつかの方法では、記載される発明の組成物の投与によって、疾患、障害または状態に特徴的な病態を未だ発現していない患者の認知障害が軽減されるか、消失する。
本明細書では、治療または予防的治療を達成するのに十分な量を治療有効量と定義する。予防レジメンおよび治療レジメンではいずれも通常、ある量の記載される発明の組成物を有益な応答が十分に得られるまで複数回投与する。通常、応答をモニターし、応答が弱まり始めれば、反復投与を実施する。当業者であれば、以降「単位用量」と呼ぶ所与の強度の効果をもたらす投与単位(使用単位という意味)での用量を求めることによって、本発明の組成物の薬学的有効量を求めることができる。「用量強度関係」という用語は、個々の被投与者における効果の強度と用量との関係の様相を指す。一般にいう効果の強度とは、最大強度の50%のことである。それに対応する用量は50%有効量または個別ED50という。「個別」という用語を使用することによって、本明細書で使用される効果の強度に基づくED50と、集団内での応答データの頻度から求められる半数有効量(ED50とも略される)とを区別する。本明細書で使用される「効果」は、記載される発明の組成物が所望の応答をもたらす特性を指し、「最大効果」は、得られる最大の効果を指す。特定の障害または状態の治療に効果的な記載される発明の組成物中の化合物の量は、障害または状態の性質によって決まり、標準的な臨床技術によって求めることができる。(例えば、Goodman and Gilman’s THE PHARMACOLOGICAL BASIS OF THERAPEUTICS,Joel G.Harman,Lee E.Limbird編;McGraw Hill,N.Y.,2001;THE PHYSICIAN’S DESK REFERENCE,Medical Economics Company,Inc.,Oradell,N.J.,1995;およびDRUG FACTS AND COMPARISONS,FACTS AND COMPARISONS,INC.,St.Louis,Mo.,1993を参照されたい)。製剤に用いる正確な用量も投与経路および疾患または障害の重篤度によって決まり、医師の判断および各患者の状況に応じて決定するべきである。当業者には様々な投与パターンが明らかになるであろう。
記載される発明の組成物を投与する際の用量範囲は、所望の治療効果を得るのに十分な量となる。治療有効量の記載される発明の組成物は、1日に1回または複数回、定期的に投与することができる。対象に投与する典型的な用量は、組成物として1日に(体重)1kg当たり約0.01mg〜約0.5mgである。例えば、特に限定されないが、、組成物の最小用量としては、約0.01mg/(kg・日)、約0.025mg/(kg・日)、約0.05mg/(kg・日)、約0.075mg/(kg・日)、約0.08mg/(kg・日)、約0.1mg/(kg・日)、約0.125mg/(kg・日)、約0.15mg/(kg・日)、約0.175mg/(kg・日)、約0.2mg/(kg・日)、約0.225mg/(kg・日)、約0.25mg/(kg・日)、約0.275mg/(kg・日)、約0.3mg/(kg・日)、約0.325mg/(kg・日)、約0.35mg/(kg・日)、約0.375mg/(kg・日)、約0.4mg/(kg・日)、約0.45mg/(kg・日)、約0.475mg/(kg・日)または約0.5mg/(kg・日)が考えられ、最大用量としては、約0.5mg/(kg・日)、約0.475mg/(kg・日)、約0.45mg/(kg・日)、約0.4mg/(kg・日)、約0.375mg/(kg・日)、約0.35mg/(kg・日)、約0.325mg/(kg・日)、約0.3mg/(kg・日)、約0.275mg/(kg・日)、約0.25mg/(kg・日)、約0.225mg/(kg・日)、約0.2mg/(kg・日)、約0.175mg/(kg・日)、約0.15mg/(kg・日)、約0.125mg/(kg・日)、約0.1mg/(kg・日)、約0.08mg/(kg・日)、約0.075mg/(kg・日)、約0.05mg/(kg・日)、約0.025mg/(kg・日)または約0.01mg/(kg・日)が考えられる。ヒトを対象とする本発明のいくつかの実施形態では、用量は、組成物として1日に(体重)1kg当たり約0.01mg〜約0.3mgであり得、ヒトを対象とする他の実施形態では、用量は、組成物として1日に(体重)1kg当たり0.01〜0.08mgであり得る。
当業者は、記載される発明の組成物のしかるべき治療用量の初期指標がin vitroおよびin vivoの動物モデル系ならびにヒト臨床試験で決定され得ることを認識するであろう。このような試験の目的は、中毒をはじめとする副作用を引き起こさずに安全に投与することができる用量を確認することである。急性治療では、治療用量を最大耐量に近いものにする。慢性治療では、長期毒性作用が懸念されることから、用量を低くするのが望ましい場合がある。
治療効果、すなわち、ヒト対象の腫瘍の成長、遊走、浸潤またはその組合せの低下は、当該技術分野で公知の方法によって判定することができる。腫瘍成長は、特に限定されないが、倍加時間(DT)(すなわち、腫瘍の体積が2倍になるのにかかる時間)、比成長速度(すなわち、1日当たりに腫瘍が成長する割合)、固形腫瘍の応答評価基準(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors)(RECIST)などを含めた技術によって判定することができる。このような技術では通常、当該技術分野で公知のイメージング技術を1つまたは複数用いる。例示的なイメージング技術としては、コンピュータ断層撮影法(CT)またはコンピュータ体軸断層撮影法(CAT)によるスキャン、陽電子放射断層撮影法(PET)、磁気共鳴画像法(MRI)、光学イメージングなどが挙げられる。光学イメージングとしては、特に限定されないが、生物発光イメージング(BLI)および蛍光イメージング(FLI)が挙げられる。腫瘍遊走は、特に限定されないが、トランスウェルシステムまたはボイデンチャンバ、創傷治癒、デュロタキシスアッセイ、マイクロピペット、3D細胞外マトリックス(ECM)、マイクロパターン化、マイクロ流体および生体内イメージングを含めた技術によって判定することができる。生体内イメージングとしては、特に限定されないが多光子顕微鏡法を含めた当該技術で日常的に用いられているイメージング技術が挙げられる。腫瘍浸潤は、特に限定されないが、Matrigel(商標)(Engelbreth−Holm−Swarmマウス肉腫細胞から抽出し可溶化した基底膜調製物)アッセイ、1型ラミニンアッセイ、I型コラーゲンアッセイおよびIV型コラーゲンアッセイを含めた技術によって判定することができる。
ある範囲の数値が記載される場合、文脈上明らかにそうでない限り、その範囲の上限値と下限値の間にあり下限値の10分の1の単位までの各数値およびその記載される範囲内に記載されているかその間にある任意の数値は、本発明の範囲に包含されることが理解される。これらの狭い方の範囲の上限値および下限値は、その狭い方の範囲に独立して含まれ得るものであり、これらの数値も本発明に包含され、記載される範囲内で具体的に除外される任意の限界値の対象となる。記載される範囲に限界値の一方または両方が含まれる場合、それらの含まれる両方の限界値を除いた範囲も本発明に含まれる。
別途定義されない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はいずれも、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。記載される発明を実施または検討するにあたっては、本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料を用いることも可能であるが、好ましい方法および材料を以下に記載する。本明細書で言及される刊行物はいずれも、その刊行物に記載される方法および材料を開示および記載するために、参照により本明細書に組み込まれる。
本明細書および添付の「特許請求の範囲」で使用される単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかにそうでない限り、複数形の指示対象を包含することに留意しなければならない。本明細書で使用される技術用語および科学用語はいずれも同じ意味を有する。
本明細書で取り上げる刊行物は、単に本願の出願日よりも前に開示されたという理由で記載されるものであり、それぞれその全体が参照により組み込まれる。本明細書に記載されるいかなる事柄も、先行発明であるという理由でそのような刊行物に先行する権利を有さないことを認めるものとして解釈されるべきではない。さらに、記載される公開日は実際の公開日と異なる場合があり、独自に確認する必要が生じ得る。
以下の実施例は、記載される発明の作製法および使用法を当業者に全面的に開示および説明するために記載するものであって、本発明者らが自身の発明であると考えるものの範囲を限定することを意図するものでも、以下の実験以外に実験は一切実施していないことを示すことを意図するものでもない。用いた数値(例えば、量、温度など)に関しては正確を期するよう努めたが、実験による多少の誤差および偏差は考慮に入れるべきである。特に明示されない限り、部分は重量部とし、分子量は重量平均分子量とし、温度は摂氏度で表し、圧力は大気圧またはその前後とする。
方法
免疫標識/免疫蛍光標識
免疫標識/免疫蛍光標識は、細胞、組織または器官内の特定の部位に対する抗原の検出および位置特定を可能にする生化学的手順である。細胞染色は、細胞調製、固定、抗体適用および評価の4つの段階に分けることができる。
最初に、のちの手順での操作を容易にするため、細胞を固体支持体に付着させる。この作業はいくつかの方法によって実施することができ、例えば、顕微鏡スライド、カバーガラスまたは光学的に適切なプラスチック製の支持体の上で付着細胞を増殖させ得る。懸濁細胞をスライドガラス上に遠心分離し、化学的リンカーを用いて固体支持体に結合させるか、場合によっては懸濁させた状態で取り扱う。次いで、細胞を固定し、抗体がその抗原に到達するように透過処理する。用いることができる固定液は様々なものがあり、正しい方法の選択は、検討する抗原の性質および使用する抗体の特性によって決まる。固定法は一般に、有機溶媒と架橋試薬の2種類に分類される。アルコールおよびアセトンなどの有機溶媒は、脂質を除去し細胞を脱水するとともに、細胞内構造上にタンパク質を沈殿させる。架橋試薬(パラホルムアルデヒドなど)は、通常は遊離アミノ基を介して分子間に架橋を形成し、これにより抗原が網状に連結される。架橋剤は有機溶媒よりも細胞構造の保存に優れているが、一部の細胞構成成分の抗原性が低下し、抗体を標本と接触させるために透過処理段階がさらに必要になる場合がある。いずれの方法で固定してもタンパク質抗原が変性することがあり、このため、変性タンパク質に対する抗体を調製する方が細胞染色に有用であり得る。関連する用途に応じてしかるべき固定法を選択することができる。免疫蛍光および標識の例示的なプロトコルを以下に記載する。
恒温器から細胞を取り出し、PBSで洗浄する。余分な溶液を除去し、細胞を3〜4%パラホルムアルデヒドで10〜20分間固定した後、PBSで短時間洗浄する。次いで、細胞を0.5%Triton X−100で2〜20分間透過処理した後、PBSで3回(それぞれ少なくとも5分間)洗浄する。一次抗体をPBSでしかるべき希釈率になるまで希釈し、カバーガラスをかけ、室温で60分間インキュベートする。次いで、細胞をPBSで3回(それぞれ少なくとも5分間)洗浄する。蛍光標識した二次抗体をPBSでしかるべき希釈率になるまで希釈し、カバーガラスをかけ、室温で30分間インキュベートする。次いで、細胞をPBSで3回(それぞれ少なくとも5分間)洗浄する。余分なPBSを除去し、カバーガラスに封入剤を載せ、反転させてスライドガラスの上に載せる。
ニューロスフェアアッセイ(NA)−in vitroでの神経幹細胞(NSC)の同定、増殖およびカウント
幹細胞には形態学的にも、分子レベルでも、抗原にも特異的な特徴が一切ないため、これまで機能に関する基準に基づいて同定されてきた。ニューロスフェアアッセ(NA)と呼ばれる培養法(RenoldsおよびWeiss,Science,1992,225:1707−1710)は、in vitroでのNSCの同定、増殖およびカウントに用いることができる。簡潔に述べれば、NAでは、CNS組織の顕微解剖(例えば、胚から成体まで)、細胞間の接触の分断および単細胞の懸濁液の作製を実施する。組織培養器中、増殖を誘導する成長因子(すなわち、上皮成長因子[EGF]、塩基性線維芽細胞成長因子[bFGF]など)が少なくとも1種類存在する規定の無血清培地に細胞を(通常、低密度で)播く。この条件下で2〜5日以内に、多能性NSC集団が分裂を開始し、ニューロスフェアと呼ばれるクローニングによりに生じた未分化細胞の集塊を形成する。増殖誘導因子が存在し続けると、ニューロスフェアの細胞が分裂し続けることにより、ニューロスフェアを構成する細胞の数が増大し、その結果、ニューロスフェアのサイズが増大する。ニューロスフェアを採取し、分断して単細胞懸濁液にし、細胞を再播種して培養し、新たにニューロスフェアを形成させる。この方法でNSCを継代することにより、生存可能なCNS前駆細胞が算術級数的に増加する。NAアッセイでは、規定条件下でのNSCの単離および拡大が可能であり、したがって、推定幹細胞の挙動を様々な実験条件下で検討することができる。
浸潤アッセイ−Matrigel浸潤アッセイ
浸潤アッセイは、悪性細胞および正常細胞の浸潤能を検討するためのin vitroシステムである。具体的な用途としては、腫瘍細胞の転移能、細胞外マトリックス構成成分または抗悪性腫瘍薬による転移の阻害、転移性細胞の表面タンパク質またはマトリックスメタロプロテイナーゼの発現異常ならびに胚性幹細胞、栄養膜細胞層、内皮細胞および線維芽細胞などの正常細胞の浸潤の評価が挙げられる。
一実施形態では、以下のMatrigel浸潤アッセイプロトコルが浸潤アッセイの一例である。コーティング緩衝液を調製し、Matrigelマトリックスのアリコートを4℃で解凍する。次いで、Matrigelマトリックスとコーティング緩衝液とを混合することによってコーティング溶液を調製する。24ウェルプレートのウェルにいくつかの透過性支持体を移し、24ウェルプレートの各ウェルに希釈したMatrigel 100μlを入れる。次いで、コーティングした透過性支持体の入ったプレートを37℃で2時間インキュベートしてゲル化する。浸潤アッセイ用に細胞を培養して調製する、例えば、幹細胞様特性を有する成長因子依存性hGBM腫瘍伝播細胞(GFD TPC)を飽和濃度の組換えWnt5aタンパク質(GFD+R5);レンチウイルス媒介性過剰発現GFD細胞(GFD+LV5)で前処理する;成長因子依存性(GFI)TPCを飽和濃度のWnt5a遮断抗体(AbW5)、組換えWnt3aタンパク質(R3)もしくは組換え分泌型frizzled関連タンパク質1(SFRP1)で処理するか、GFI TPCをBox5(配列番号1)、ペプチドA(配列番号2)およびペプチドB(配列番号3)と称されるWnt5a由来ペプチドに曝露する。24ウェル浸潤チャンバ用に、5×104細胞/mLを含有する培地で細胞懸濁液を調製する。次いで、各24ウェル浸潤チャンバに細胞懸濁液の0.5mLのアリコート(2.5×104細胞)を加える。プレートのウェルに化学誘引物質を加える(付着基質としてフィブロネクチンなど)。次いで、細胞浸潤チャンバを加湿した組織培養恒温器内で5%CO2雰囲気下、37℃で一晩インキュベートする。Matrigelでコートした透過性支持体の上端にある浸潤していない細胞を綿棒で擦り取る。ついで、24ウェルプレートの透過性支持体を取り出し、細胞染色溶液で染色し、光学顕微鏡下で浸潤した細胞をカウントする。
定量的フローサイトメトリー解析
TPCまたは腫瘍関連マクロファージを解離してパパイン溶液で消化し、単細胞懸濁液を得る。細胞分取解析には、細胞を遠心分離し、DNアーゼを含有するPBSに再懸濁させる。次いで、細胞をWnt5a、CD44、EphA2を検出する蛍光色素結合モノクローナル抗体の「カクテル」と4℃で30分間インキュベートし、FACSにより分取および解析する。前方光散乱シグナルおよび直交光散乱シグナル(FSCおよびSSC)ならびに蛍光シグナル(FITCまたはPE)で細胞を同定し、電子的にゲートをかけて、Wnt5a、CD44またはEphA2の発現に基づく別個の集団に分ける。一次抗体を個別のアイソタイプ対照に置き換えることによってバックグランド蛍光を推定した。ほかにも、試験した各条件について、自家蛍光の測定を慣例的な方法で実施した。機器の未処理データを保管およびデータ処理用に電子的に保存した。
同所移植によるin vivoでの腫瘍形成能および浸潤性の評価
免疫が欠損した重症複合免疫不全(SCID)の成体マウスに腫瘍細胞を注射することによって腫瘍形成性能を判定した(Galliら,Cancer Res.2004,65:7011−7021)。腫瘍細胞、例えば、Box5(配列番号1)で前処理したGFI TPC、GFD TPC、GFI TPC、ペプチドA(配列番号2)で前処理したGFI TPCをSCIDマウスに同所注射して、腫瘍形成能および浸潤性をin vivoで評価した。このほか、GFD TPCまたはGFI TPCおよびWnt5a遮断タンパク質(AbWt)を単独で、またはBMP4(B4)、Box5(配列番号1)およびペプチドA(配列番号2)と組み合わせてSCIDマウスに同時注射した。
様々な時点でマウスを屠殺した。マウス脳切片を連続的に組織学的に再構築したものをルシフェラーゼに対して免疫標識し評価した。
in vivo実験の全結果を統計解析に供した。カプラン・マイヤー法を用いて生存曲線を推定した。
高速液体クロマトグラフ(HPLC)
一実施形態では、以下のHPLC条件を用いてペプチドの純度を明らかにした:C18 Vydacカラム、移動相A:TFAの0.1%水溶液、移動相B:TFAの0.1%アセトニトリル溶液、20分間で5%のBから65%のBへの勾配。
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化法(Maldi−Tof)
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化法(MALDI)は質量分析に用いるソフトイオン化技術であり、この方法では、脆弱でレーザーを連続的に用いる従来のイオン化法によってイオン化すると断片化する傾向のある生体分子(DNA、タンパク質、ペプチドおよび糖などの生体高分子)および大きい有機分子(ポリマー、デンドリマーをはじめとする高分子など)を、短いレーザーパルスを用いて分析する。一実施形態では、Maldi−Tofに以下のパラメータを用いてペプチドの分子量を決定する:加速電圧:20000、グリッド電圧:93.7%、ガイドワイヤ電圧:0.070%、低質量ゲート:オフ、遅延:100オフ、負イオン:オフ。
材料
Wnt5a遮断抗体(R&D Systems社、ミネアポリス、ミネソタ州)、組換えWnt3aタンパク質(R&D Systems社、ミネアポリス、ミネソタ州)、組換え分泌型frizzled関連タンパク質1(R&D System社)、Box5(Primm srl Peptide Synthesis社)、ペプチドA(Primm srl Peptide Synthesis社)、ペプチドB(Primm srl Peptide Synthesis社)。
Box5(配列番号1)、ペプチドA(配列番号2)およびペプチドB(配列番号3)は、Primm srl社(ミラノ、イタリア)で固相ペプチド合成により合成したものである。この合成ペプチドをRP−HPLCおよび質量分析により品質管理した。
幹細胞様特性を有するhGBM腫瘍伝播細胞(TPC)、間葉系TPCおよび前神経性hGBM由来TPCをニューロスフェアアッセイ(NA)(RenoldsおよびWeiss,Science,1992,225:1707−1710)により調製した。
飽和濃度の組換えWnt5aタンパク質(GFD+R5)による処理またはレンチウイルス媒介性過剰発現(GFD+LV5)のいずれによってもWnt5a発現が増強される。
実施例1
Wnt5a遺伝子発現と組織学的にグレード分けした神経膠腫患者由来の腫瘍試料との相関関係
この試験では、神経膠腫患者から採取した腫瘍試料を組織学的にグレード分けし、The Cancer Genome Atlas Network(TCGA)(Nature 2008,455(23):1061−68)、Phillips(Cancer Cell 2006;9:157−173)、Freije(Cancer Res.2004;64:6503−6510)、Murat(J.Clin.Oncol.2008;26:3015−3024)、Lee(BMC med.Genomics 2008;1:52)およびBeroukhim(PNAS 2007;104(50):20007−20012)の公開されているデータセットを用いて、そのWnt5a遺伝子発現レベルを評価した。
ヒトの正常な脳、膠芽腫(GBM)およびその他の脳腫瘍の組織でのWnt5a遺伝子発現を図7に示す。公開されているデータセットに基づけば、Wnt5aの発現は、非悪性脳よりもヒト膠芽腫(hGBM)の方が統計学的に有意に高く(図7a)、他の脳腫瘍組織よりも膠芽腫の方が統計学的に有意に高く(図7b)、WHOグレードIVの非壊死性神経膠腫よりも高壊死性膠芽腫の方が統計学的に有意に高かった(図7c)。再発性膠芽腫のWnt5aの発現は原発性膠芽腫よりも統計学的に有意に高いものではなかった(図7d)。Wnt5aの発現レベルについて算出したZスコアは、非G−CIMPに比して多数の病巣における問題の過剰メチル化(神経膠腫CpGアイランドメチル化因子表現型;G−CIMP)の存在と有意な正の相関がみられた(図7e)。TCGAデータセットのサブグループ内では、Wnt5a遺伝子発現は、前神経性サブタイプおよび典型的サブタイプよりも間葉系サブタイプの方が有意に高かった(図7f〜7g)。Wnt5aのコピー数と神経膠腫患者の悪性腫瘍との間には相関がみられた(BeroukhimおよびTCGA Brain Statistics)(図7h〜7i)。膠芽腫の患者では、Wnt5a遺伝子発現レベルが高い患者は、Wnt5a遺伝子発現レベルが低い患者よりも生存期間が有意に短かった(Philips(図7j)、Lee(図7k)およびMurat(図7l)のデータセット)。
組織学的にグレード分けした腫瘍試料のWnt5a mRNAの発現レベルを図8に示す。図8aから、コンピュータでの発現プロファイリングによって検出したWnt5a mRNAのレベルは、上衣腫(EP)、低悪性度神経膠腫(LOW)および髄芽腫(MDB)の組織よりも未分化星状細胞腫(ANA)およびhGBM(GBM H−TEX)の方が高いことがわかる。特定の成長因子の組合せに同時に曝露せずに培養した幹細胞様特性を有するhGBM腫瘍伝播細胞(TPC)(成長因子非依存性;GFI)(CTR)は、その同胞の成長因子依存性(GFD)細胞TPCよりもWnt5aレベルが高かった(図8c)。TPC分化はWnt5a発現に検出可能な変化を引き起こすことはなかった(DOUB対DIFF)。対照細胞には正常な神経幹細胞(hNSC;B10)およびヒト星状細胞腫U87MGを用いた。バイオインフォマティック解析では、間葉系hGBM組織および前神経性hGBM組織ならびにそれに関連するTPCは、典型的な組織または細胞系および脳全体または神経幹細胞(B10、健常)との比較でWnt5a mRNAの発現レベルが最も高いことがわかった(図8b〜8e)。図8fおよび8gからわかるように、リアルタイムPCR(qPCR)によるWnt5a mRNAレベルの定量化から、未分化星状細胞腫(AA)および原発性hGBMではヒトの正常な脳全体(WHB)、低悪性度神経膠腫および他の種類の脳腫瘍(Ep;上衣腫)に比してWnt5aがアップレギュレートされていることが確認された。理論に束縛されるものではないが、この証拠から、Wnt5aが、腫瘍細胞が正常な脳組織に広範囲に浸潤する能力を調節していることが示唆される。図8hから、hGBM間葉系(130419−131030)および前神経性(130424)の幹細胞様特性を有する腫瘍伝播細胞(TPC)が、典型的TPC(081104−081031−090310)およびヒト神経幹細胞(hNSC)よりも高いレベルのWnt5a mRNAを発現したことがわかる。
hGBM、MDB、低悪性度(LG)および神経節膠腫の外科手術試料のWnt5aおよびA型エフリン受容体2(EphA2)タンパク質に対する免疫標識を図9に示す。図9aでは、外科手術標本の免疫標識から、低悪性度(LG)組織および神経節膠腫組織に陽性細胞がほとんどみられなかったのに比して、hGBM組織およびMDB組織の多くの細胞に強いWnt5a免疫反応性がみられるのがわかった。hGBM組織(130424)の免疫標識ではほかにも、Wnt5aタンパク質とTPCマーカータンパク質EphA2の同時発現の頻度が低いことがわかった。このほか、MDB130221よりも侵襲性および浸潤性の高い髄芽腫(線維形成性MDB130920)の方がWnt5aタンパク質の発現が高かった(図9a)。図9bからわかるように、hGBM間葉系組織(131030および130419)および前神経性(130424)組織は、hGBM典型的組織に比してWnt5aタンパク質に対する免疫反応性が広範囲に及んでいた(スケールバー、50μm)。
実施例2
Wnt5aタンパク質発現の免疫蛍光イメージングおよび定量的フローサイトメトリー解析
この試験では、免疫蛍光イメージングおよび定量的フローサイトメトリーを用いて、間葉系hGBM由来TPCおよび前神経性hGBM由来TPCのWnt5aタンパク質発現を検出し典型的細胞と比較した。
免疫蛍光画像では、間葉系hGBM由来TPC(131030および130419)および前神経性(040622)hGBM由来TPCにWnt5aタンパク質に対する強い陽性反応が見られたのに対し、典型的細胞(0627および0913)は標識が微弱であった。陽性対照にはレンチウイルス媒介性過剰発現Wnt5a(040622−5A)を用いた(スケールバー、20μm、30μmおよび50μm)(図10a)。このほか、Wnt5aタンパク質発現とコピー数変異との間に相関がみられた(データ不掲載)。
予め確立した成長因子依存性のコグネート細胞系(GFD TPC)または患者の原発性腫瘍組織から単離した成長因子非依存性hGBM TPC(GFI TPC)には、明瞭で強い免疫反応が見られた(図10bおよび10c)。GFI細胞は、そのGFD対応物よりもWnt5aタンパク質発現が高かった(スケールバー、20μm、30μmおよび50μm)(図10bおよび10c)。共焦点画像から、GFD TPCおよびGFI TPCはEphA2のシグナルの明瞭さも強度も低く、Wnt5aタンパク質とEphA2タンパク質の同時発現の頻度が低いことがわかった(スケールバー、10μmおよび50μm)(図10bおよび10c)。
図11aからわかるように、定量的フローサイトメトリー解析では、GFD TPCおよびGFI TPCが、細胞の接着および遊走の推定マーカーであるCD44を高レベルで発現し、Wnt5aタンパク質とEphA2タンパク質の同時発現の頻度が低いことが確認された。
GFD TPC細胞およびGFI TPC細胞のWnt5aとDlx2またはWnt5aとWnt3aのmRNAレベルをqPCRによって定量化し、分化TPCおよびヒトの正常な神経幹細胞(hNSC)と比較したものを図11bおよび11cに示す。Dlx2遺伝子は、移行増幅細胞のマーカーであるホメオボックスタンパク質DLX2をコードし、前脳および頭蓋顔面の発生に何らかの役割を担っていると考えられている。
qPCRによりWnt5aおよびEphA2のmRNAレベルを経時的に定量化し、GFD TPC(左)またはGFI TPC(右)と分化TPCとで比較したものを図11dに示す。
図23に、示される細胞系についてWnt5a発現とEphA2発現とを相関させたものを示す。図の単位は、Y軸がWnt5a発現、X軸が受容体発現である。Wnt5発現が高いほど細胞の遊走が増大し、受容体発現が高いほど細胞の増殖が増大している。Wnt5a発現と受容体発現とを相関させることによって、各細胞系を示されるクラスターに割り当てることができる。最も侵襲性の高い細胞型は典型的サブタイプ(丸)に分類される。
実施例3
hGBMのWnt5a遺伝子発現のバイオインフォマティック解析
この試験では、染色し、ゲートをかけ、Wnt5aの発現レベルに従ってFACS分取したhGBM標本にバイオインフォマティクス解析を実施した。
染色し、ゲートをかけ、Wnt5aの発現レベルに従ってFACS分取したhGBM標本で実施したバイオインフォマティック解析を図12aおよび12bに示す。TPCおよび腫瘍関連マクロファージの高Wnt5a対低Wnt5aの遺伝子サイン/活性化は、侵襲性および血管新生性の高い表現型との相関がみられた。理論に束縛されるものではないが、このデータから、Wnt5aが腫瘍細胞および腫瘍マクロファージの両方の活性を調節し、これにより腫瘍浸潤が増大することが示唆される(図12aおよび12b)。
遺伝子オントロジー(GO)の項目を高Wnt5aと相関させ、統計的有意性のレベルによって分類し、図12cに棒グラフで表した。棒グラフが高い位置にあるほど、対応する項目のp値が小さい。
図12dおよび12fに、高Wnt5a対低Wnt5aで強化した細胞発生、細胞接着および細胞遊走に関与する生物学的過程のセットを示す。
実施例4
ヒトGBM組織でのWnt5a、EphA2およびDLX2の発現および相関
この試験では、公開されているデータセット(TCGA、PhillipsおよびLee)の解析ならびにhGBMおよびMDBの免疫蛍光染色を用いて、Wnt5aとEphA2またはDLX2との同時発現が神経膠腫患者の悪性腫瘍および/または生存率と相関するかどうかを明らかにした。
図13に、ヒトGBM組織でのWnt5a、EphA2およびDlX2の発現と神経膠腫患者の生存率との相関を示す。TCGAのデータセットでは、Wnt5a遺伝子とEphA2遺伝子またはWnt5a遺伝子とDlx2遺伝子の間に相互に排除する強い傾向があることが際立っていた(データ不掲載)。図13aに示されるように、Wnt5a、EphA2およびDlx2のサインに関するタンパク質相互作用ネットワーク解析から、Wnt5aとEphA2は、細胞の増殖および生存、アポトーシス、細胞間接着、細胞骨格再構築ならびに分化の調節に関与する非受容体タンパク質チロシンキナーゼであるYES1を介して関連していることがわかった。さらに、このタンパク質相互作用ネットワーク解析から、Wnt5aとDlx2は、GABAの迅速な除去を媒介して細胞外レベルを低く維持するGABA輸送体であるSLC6A1を介して関連していることがわかった。LeeおよびPhilipsのデータセットから得た患者のカプラン・マイヤープロットから、Wnt5a−Dlx2またはWnt5a−EphA2の発現が高い神経膠腫患者の生存率が有意に低いことがわかった。(図13b)。qPCRにより原発性hGBM、低悪性度神経膠腫、未分化星状細胞腫および髄芽腫のWnt5aおよびDlx2のmRNAレベルを定量化し、ヒトの正常な脳全体(WHB)と比較したものを図13cに示す。同じ原発性試料およびその他の種類の脳組織(上衣腫;Epおよび原始神経外胚葉性腫瘍;PNET)の非古典的Wnt5aのmRNAレベルと古典的Wnt3a(Wnt5aの発現を阻害することがわかっている)のmRNAレベルを定量化し比較したものを図13dに示す。
Wnt5aと、移行増幅C細胞および神経芽細胞の推定マーカーであるDlx2との同時発現を、hGBMおよびMDBと低悪性度原発性標本(LG)とで比較したものを図14aに示す(スケールバー、20μmおよび50μm)。様々な倍率の共焦点画像から、hGBM組織の細胞表面にはWnt5aとDlx2が広範囲に共局在し、Wnt5a、Dlx2およびEphA2の同時発現はわずかであることがわかる(図14b)。
図15に、ヒト脳腫瘍の悪性腫瘍スケール全体にわたるWnt5A、EPHA2、DLX2および神経細胞接着分子1(NCAM1)の遺伝子発現を示す。図15aは、Gene Expression Atlas(TCGA)から得たヒト脳腫瘍の悪性腫瘍スケール全体(すなわち、低悪性度神経膠腫(星状細胞腫、乏突起神経膠腫;WHOグレードIおよびII)およびhGBM(グレードIV))およびヒト膠芽腫細胞系のWNT5A、EPHA2、DLX2およびNCAM1の遺伝子発現を示している。図15bは、Wnt5a、EphA2、Dlx2およびNCAM1のサインのタンパク質相互作用ネットワーク解析を示している。図15cの上パネルでは、hGBM組織(130424)の様々な倍率の免疫標識画像から、多数のWnt5aリガンド陽性細胞が推定神経芽細胞マーカーであるPSA−NCAMを共発現し、Wnt5a陽性細胞およびDlx2陽性細胞の最大60%がPSA−NCAMに対して免疫反応を示すことがわかる(スケールバー、20μmおよび50μm)。図15cの下パネルでは、図15cの上パネルに示したもの同じhGBM組織の共焦点画像から、hGBM組織の細胞表面にはDlx2と神経前駆細胞マーカーの□チューブリンIIIの同時発現が見られるのに対し、原発性低悪性度(LG)および正常な脳組織には標識がまれであることがわかる(スケールバー、20μmおよび50μm)。図15dに陽性細胞の割合を示す。各バーは平均±SEMを表す。
理論に束縛されるものではないが、hGBM組織でのWnt5a、EphA2およびDLX2の発現の相関から、この種類の組織には過剰発現Wnt5a細胞型脳室下帯(SVZ)星状膠細胞、B型:グリア線維性酸性タンパク質(GFAP+);一過性増幅前駆細胞、C型:GFAP−、Dlx2+、PSA−NCAM−および神経芽細胞、A型:GFAP−、Dlx2+、PSA−NCAM+が存在することが示唆される。
実施例5
Wnt5aの発現および/または活性調節がhGBM TPCおよびU87MG細胞の遊走に影響を及ぼす
この試験では、組換えWnt5aタンパク質およびWnt5aタンパク質のレンチウイルス媒介性過剰発現を用いて、Wnt5aが腫瘍の進展、遊走および浸潤性に及ぼす影響をin vitroおよびin vivoで明らかにした。
図16に、in vitroでの遊走および浸潤をWnt5a過剰発現GFI TPCと予め確立したGFD対応物とで比較したものを示す。Matrigel浸潤アッセイから、Wnt5a過剰発現GFI TPCはin vitroで、予め確立したそのGFD対応物よりも効率的に遊走および浸潤することがわかる。飽和濃度の組換えWnt5aタンパク質(GFD+R5)によるGFD細胞の処理およびレンチウイルス媒介性過剰発現(GFD+LV5)によってWnt5a発現が増強されるのに合わせて、細胞遊走が増大している(図16a)。Wnt5a遮断抗体(AbW5;R&D Systems社)、飽和濃度の組換えWnt3aタンパク質(R3;R&D System社)または組換え分泌型frizzled関連タンパク質1(R&D System社;SFRP1)(内因性Wntアンタゴニスト)の投与によりGFI TPCの浸潤性が低下した(図16b)。このほか、Wnt5a由来ペプチドであるBox5、PEPAおよびPEPBに曝露したGFI TPCの浸潤性が用量依存的に低下した(図16cおよび16d)。図16eに、Matrigelでコーティングしたトランスウェル装置の中を浸潤する割合を定量化したもの示す(ヒストグラム、平均+SEM)。原発性患者の腫瘍組織から単離したGFI細胞をAbW5に曝露すると、GFDよりも遊走効率が低下した(図16f)。図16gから、AbW5、Box5およびPEPAでWnt5a活性を攪乱しても、曲線の傾きから間接的に測定されるGFI TPCまたはGFD TPCが拡大する能力にほとんど影響を及ぼさなかったことがわかる。陽性対照の骨形成タンパク質4(BMP4)およびエフリンA1−Fcは、成長動態からの大幅な負の逸脱を引き起こした(図(Galliら,Cancer Res.2004,65:7011−7021)。16g)。このほか、Wnt5aの阻害はTPCのクローン効率(すなわち、自己再生能)に負の影響をほとんど及ぼさなかった(図16h)。
図17は、レンチウイルス媒介性Wnt5a過剰発現U87MG細胞(U87−5A)によって腫瘍の進展および浸潤性が対照細胞(U87−wt)に比して大幅に増大したことを示している。ヘマトキシリン・エオシン(H&E)で対比染色した代表的な脳切片から、レンチウイルス媒介性Wnt5a過剰発現U87MG細胞(U87−5A)によって腫瘍の進展および浸潤性がU87−wt対照細胞に比して大幅に増強することがわかった(図17a)。同じ脳切片から、野生型(U87−wt)のヒト白血球マーカー(HLA)に対する免疫反応性がWnt5a発現U87MG異種移植片に比して広範囲に及び均一であることがわかった(図17a)(スケールバー、25μmおよび50μm)。図17bに、緑色蛍光タンパク質(GFP)で免疫標識したマウスの脳切片を連続的に組織学的に再構築したものを示す。頭蓋内に異種移植したトランスジェニックU87MG細胞(U87/5A)から、極めて大きいが遊走能が全くみられないwt U87由来腫瘍よりも遊走能、拡散能および浸潤能が増大した腫瘍が発生した。このwt U87由来腫瘍は、注射部位に限局され漸進性に拡大する輪郭が明瞭な塊からなる(図17b)。図17cに、KI67(分裂指数のマーカー)およびCD147に対する免疫反応性を野生型細胞とWnt5a発現U87MG細胞とで直接比較したものを示す。Wnt5a過剰発現により、局所および遠位の両方で頭蓋内での増殖または血管新生が大幅に増大した(スケールバー、20μmおよび50μm)。図17dおよび17eに異種移植腫瘍の免疫標識を示す。野生型U87の切片では、浸潤性の推定マーカーであるFRAS1関連細胞外マトリックスタンパク質2(Frem2)の標識が低頻度で微弱であったのに対し、U87−Wnt5a由来腫瘍では、中心部および腫瘍辺縁部ともに免疫反応性が強く高頻度であった(スケールバー、50μm)。
実施例6
Wnt5aの攪乱はin vivoでTPCの腫瘍形成能および浸潤性に影響を及ぼす
この試験では、Wnt5aが腫瘍の成長および浸潤性ならびに全生存率に及ぼす影響を明らかにするため、免疫が欠損した成体SCIDマウスにGFD TPCおよびGFI TPCを移植した。
図18は、Wnt5aの攪乱がin vivoでTPCの腫瘍形成能および浸潤性に影響を及ぼすことを示している。ルシフェラーゼに対して免疫標識したマウスの脳切片を連続的に組織学的に再構築したものから、免疫が欠損した成体SCIDマウスに同所移植を実施すると、GFI TPCの移植片から発生した腫瘍が、移植後の様々な時点(DPT;移植後の日数)において、そのGFD対応細胞から発生した腫瘍よりも広範囲に拡大し、脳実質に効率的に浸潤することが可能であることがわかった(図18a)(スケールバー、1mm)。GFD TPC由来腫瘍およびGFI TPC由来腫瘍の体軸方向の拡大を測定したところ、早くも移植後40日の時点で、GFI細胞から成長した腫瘍の方が、そのGFD対応物から成長した腫瘍よりも広範囲に拡大していることがわかった(データ不掲載)。GFI−GFD TPCを移植したマウスの生存率のカプラン・マイヤープロットでは、GFI細胞の腫瘍形成能の増大が全生存率にも反映されていた(図18b)。図18cにルシフェラーゼ標識TPC(luc−TPC)の経時的定量解析を示す。培養中のGFI細胞を移植前にBox5(配列番号1)およびペプチドA(配列番号2)で処理すること(前処理)により腫瘍成長が低下した(図18c)(ヒストグラム、平均±SEM)。ルシフェラーゼに対して免疫標識したマウスの脳切片から、Box5およびPEPAで前処理したluc−GFIから確立された腫瘍の脳実質への拡散は、未処理GFI TPCから確立された腫瘍よりも少ないことが確認された(図18d)(スケールバー、1mm)。luc−TPCシグナルの経時的定量解析から、GFD TPCまたはGFI TPCとAbW5を単独で、またはBMP4(B4)と組み合わせて同時注射(すなわち、同時処置)することにより、Box5およびPepAの腫瘍成長が阻害されることがわかった(図18eおよび18f)(ヒストグラム、平均±SEM)。GFI TPC移植後(処置後)10日からミニ浸透圧ポンプにより腫瘍周辺にAbW5を注射することによって、ほぼ同じ結果が得られた。(図18g)(各バーは平均±SEMを表す)。
ここまで、記載される発明をその特定の実施形態に言及しながら説明してきたが、当業者は、本発明の本来の趣旨および範囲を逸脱することなく様々な改変および均等物による置換を施し得ることを理解するべきである。さらに、具体的な状況、材料、組成物、工程、工程の段階(1つまたは複数)を記載される発明の目的、趣旨および範囲に適合させるため、多数の修正を施し得る。このような修正はいずれも、本明細書に添付する請求項の範囲内に含まれるものとする。