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JP6519025B2 - 油井用低合金高強度継目無鋼管 - Google Patents

油井用低合金高強度継目無鋼管 Download PDF

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Description

本発明は、油井用として最適な、特に低温靭性に優れた油井用低合金高強度継目無鋼管に関する。
近年、原油価格の高騰や、近い将来に予想される石油資源の枯渇という観点から、従来省みられなかったような高深度の油田や、硫化水素等を含む、いわゆるサワー環境下にある厳しい腐食環境の油田やガス田等での開発が盛んになっている。このような環境下で使用される油井用鋼管には、高強度で、かつサワー環境下における耐性、すなわち耐硫化物応力割れ性(耐SSC性)を兼ね備えたことが要求される。また、掘削地域に関しても、鋼管の輸送が難しい極寒地域等まで幅広く検討がされている。従来、こういった地域では鋼管が輸送中に低温にさらされ、輸送時に発生する衝撃により割れてしまう等のリスクがあり、優れた低温靭性をもった鋼管のニーズがある。
このような要求に対し、例えば、特許文献1には、重量%で、C:0.05〜0.35%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.75〜2.5%、S:0.01%以下、P:0.02%以下、Al:0.005〜0.1%、Ti:0.005〜0.020%、Nb:0.005〜0.1%、B:0.0003〜0.003%、N:0.0030〜0.0050%を含有し、かつΔTi(%)≧−0.005%(ただし、ΔTi(%)=Ti含有量(%)−3.4N含有量(%))である鋼片を、熱間成形圧延後焼き入れ−焼戻しすることを規定した低温靭性を改善した低温用シームレス鋼管の製造方法が開示されている。
特許文献2には、質量%で、C:0.15〜0.50%、Si:0.8%以下、Mn:0.3〜1.0%、P:0.012%以下、S:0.0020%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.01%以下、Cr:0.1〜1.7%、Mo:0.4〜1.2%、V:0.01〜0.10%、Nb:0.01〜0.08%、Ti:0.005〜0.03%、B:0.0005〜0.0030%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼管素材を加熱し、熱間加工工程により造管し、継目無鋼管となしたのち、該継目無鋼管に焼入れ処理および焼戻処理を施すことを規定した耐硫化物応力腐食割れ性を改善した油井用低合金高強度継目無鋼管の製造方法が開示されている。
特開平9−20961号公報 特開2015−183197号公報
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、低温靭性のみを改善するものであり、高強度、耐SSC性の改善については不明である。特許文献2に記載の技術は、低温靭性の向上はまだ不十分という問題がある。そのため、特許文献1、2では、高強度と低温靭性を両立するには至っていない。近年、油井用継目無鋼管に要求される特性は、環境保護の観点から厳しくなってきており、耐SSC性はもちろん、耐SSC性以外の特性も重要視されている。耐SSC性の改善のため、種々の合金添加を行う方法があるが、その添加元素による副作用として、耐SSC性以外の特性に悪影響を生じかねないという問題があった。したがって、耐SSC性は向上しても、それ以外の特性が悪化する合金の添加は、極力避けなければならない。
従来、耐SSC性の改善には、Moの添加が有効とされる。しかし、Moは高価な合金であるため、純度の高いMoを使用することはコストアップにつながり、製造コスト面で競争力を低下させる問題があった。そのため、昨今、鋼管の製造コスト削減の観点より、安価な合金素材の使用が増えている。しかし、安価な合金素材は不純物を含むため、耐SSC性を向上させることが難しい。
本発明は係る問題に鑑み、油井用として最適な、優れた耐SSC性を維持したまま、低温、特に−20℃以下の条件下での衝撃吸収エネルギーを向上させる低温靭性に優れた油井用低合金高強度継目無鋼管を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題達成のため鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。
鋼管の製造コスト削減の観点から、不純物を含む安価合金素材を使用することを前提に、その影響について鋭意調査した。結果、安価合金素材は、本来、不純物が多いため耐SSC性に悪影響を及ぼすことが分かった。しかし、微量添加元素を中心として成分組成を規定することで、耐SSC性に悪影響を及ぼすことなく、靭性も向上することが可能となる。特に、Coを0.01〜0.06質量%添加することで達成できることが新たに分かった。
本発明は前述の知見に基づいてなされたものであり、以下を要旨とするものである。
[1]成分組成は、質量%で、C:0.15〜0.50%、Si:0.80%以下、Mn:0.3〜1.0%、P:0.012%以下、S:0.0050%以下、Al:0.01〜0.10%、N:0.01%以下、Cr:0.1〜1.7%、Mo:0.2〜2.0%、V:0.10%以下、Nb:0.01〜0.08%、Ti:0.04%以下、B:0.0005〜0.0030%、Cu:0.03〜0.07%、Co:0.01〜0.06%、Ca:0.0001〜0.0050%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする油井用低合金高強度継目無鋼管。
なお、本発明において、高強度とは、降伏強度650MPa以上(95ksi以上)の強度を有するものをいう。また、本発明において優れた耐硫化物応力腐食割れ性(耐SSC性)とは、NACE TM0177 Method Aに基づく試験であって、H2Sが飽和した0.5%酢酸+5.0%食塩水溶液(液温:24℃)を用い、降伏強さの90%の負荷応力を720時間負荷する定荷重試験を実施し、割れが発生しないことをいう。バラつきを考慮し、同一試験サンプルにおける試験数は3本以上行うことが望ましい。さらに、本発明において、低温靭性とは−20℃以下の条件下での衝撃吸収エネルギーを意味する。低温靭性に優れたとは、Co含有量が0質量%の鋼を比較鋼として本発明鋼の特性を評価し、比較鋼の衝撃吸収エネルギーを1.00とした場合の、比較鋼に対する本発明鋼の衝撃吸収エネルギーの比率が1.00以上であることをいう。
本発明によれば、降伏強度650MPa以上の高強度を有しつつ、硫化水素ガス飽和環境(サワー環境)下における優れた耐硫化物応力腐食割れ性(耐SSC性)は維持したまま、さらに低温、特に−20℃以下の条件下での靭性に優れた油井用低合金高強度継目無鋼管が得られる。また、本発明の鋼管は、Coを微量含有しているMo合金を使用できるようになったため、安価なMo源を使用することに伴い、コスト削減に大きく寄与することができる。
図1は、Co含有量(質量%)、シャルピー衝撃試験温度(℃)および比較鋼に対する本発明鋼の衝撃吸収エネルギー比率の関係を示す図であり、それぞれ(A)は横軸をシャルピー衝撃試験温度とするものであり、(B)は横軸をCo含有量とするものである。
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の継目無鋼管の成分組成と、その限定理由について説明する。以下の成分組成を表す%は、特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.15〜0.50%
Cは、鋼の強度を増加させる作用を有し、所望の高強度を確保するために重要な元素である。また、Cは、焼入れ性を向上させる元素であり、焼戻マルテンサイト相を主相とする組織の形成に寄与する。降伏強度が650MPa以上の高強度を実現し、これらの効果を得るためには、Cは0.15%以上の含有を必要とする。一方、Cが0.50%を超える含有は、焼戻時に、水素のトラップサイトとして作用する炭化物を多量に析出させ、拡散性水素の鋼中への過剰な侵入を阻止できなくなる。また、焼入れ時の割れを抑制できなくなる。このため、Cは0.15〜0.50%とする。好ましくは0.20〜0.30%以下とする。
Si:0.80%以下
Siは、脱酸剤として作用するとともに、鋼中に固溶して鋼の強度を増加させ、焼戻時の急激な軟化を抑制する作用を有する。これらの効果を得るためには、Siは0.05%以上の含有をすることが好ましい。より好ましくは、0.10%以上とする。一方、Siが0.80%を超える含有は、粗大な酸化物系介在物を形成し、強い水素トラップサイトとして作用する。また、固溶強化に有効なSiの固溶量低下を招く。このため、Siは0.80%以下とする。好ましくは0.40%以下である。
Mn:0.3〜1.0%
Mnは、焼入れ性の向上を介して、鋼の強度を増加させるとともに、Sと結合しMnSとしてSを固定して、Sによる粒界脆化を防止する作用を有する。降伏強度が650MPa以上の高強度を確保するためには、Mnは0.3%以上の含有を必要とする。一方、Mnが1.0%を超える含有は、粒界に析出するセメンタイトが粗大化し、耐硫化物応力腐食割れ性を低下させる。このため、Mnは0.3〜1.0%とする。好ましくは0.5〜0.9%以下とする。
P:0.012%以下
Pは、固溶状態では粒界等に偏析し、粒界脆化割れ等を引き起こす傾向を示し、本発明ではできるだけ低減することが望ましいが、0.012%までは許容できる。このようなことから、Pは0.012%以下とする。なお、好ましくは0.010%以下である。
S:0.0050%以下
Sは、鋼中ではほとんどが硫化物系介在物として存在し、延性、靭性や、耐硫化物応力腐食割れ性等の耐食性を低下させる。Sの一部は固溶状態で存在する場合があるが、その場合には粒界等に偏析し、粒界脆化割れ等を引き起こす傾向を示す。このため、Sは、本発明ではできるだけ低減することが望ましいが、その悪影響が許容できる0.0050%以下とする。しかし、過剰なS低減は精錬コストを高騰させる。このようなことから、本発明では、Sは、0.0004%を下限とすることが好ましい。
Al:0.01〜0.10%
Alは、脱酸剤として作用するとともに、Nと結合しAlNを形成してオーステナイト結晶粒の微細化に寄与する。これらの効果を得るためには、Alは0.01%以上の含有を必要とする。一方、Alは0.10%を超えて含有すると、酸化物系介在物が増加し、靭性が低下する。このため、Alは0.01〜0.10%とする。好ましくは0.02〜0.07%とする。
N:0.01%以下
Nは、Ti、Nb、Al等の窒化物形成元素と結合しMN型の析出物を形成する。しかし、これらの析出物は粗大な析出物となり、耐硫化物応力腐食割れ性を低下させる。従って、Nはできるだけ低減することが好ましいが、0.01%までであれば許容できる。このため、Nは、0.01%以下とする。なお、少量のMN型析出物は、鋼素材等の加熱時に結晶粒の粗大化を抑制する効果を有する。このため、Nは0.003%程度以上を含有することが好ましい。なお、より好ましくは0.003〜0.005%である。
Cr:0.1〜1.7%
Crは、焼入れ性を向上させ、その結果として鋼の強度の向上に寄与するとともに、耐食性を向上させる。また、Crは、焼戻時にCと結合し、MC系、M系、M23系等の炭化物を形成し、特にMC系炭化物は、焼戻軟化抵抗を向上させ、焼戻による強度変化を少なくして、強度調整を容易にする。このような効果を得るためには、Crは0.1%以上の含有を必要とする。一方、Crは1.7%を超えて含有すると、多量のM系炭化物、M23系炭化物が形成される。これらの炭化物は、水素のトラップサイトとして作用するため、耐硫化物応力腐食割れ性が低下する。このため、Crは0.1〜1.7%とする。好ましくは0.5〜1.5%とする。さらに好ましくは0.9〜1.5%とする。
Mo:0.2〜2.0%
Moは、炭化物を形成し、析出強化により強度の増加に寄与するとともに、固溶して、旧オーステナイト粒界に偏析して更なる耐硫化物応力腐食割れ性の向上に寄与する。また、Moは、腐食生成物を緻密化し、さらに割れの起点となるピット等の生成・成長を抑制する。このような効果を得るためには、Moは0.2%以上の含有を必要とする。一方、Moは2.0%を超える含有は、針状のMC型析出物や、Laves相(FeMo)を形成し、耐硫化物応力腐食割れ性を低下させる。このため、Moは0.2〜2.0%とする。好ましくは0.6〜1.5%とする。
V:0.10%以下
Vは、炭化物あるいは窒化物を形成し、析出強化により鋼の強度向上に寄与する。このような効果を得るためには、0.01%以上のVを含有することが好ましい。一方、Vは、0.10%を超えて含有しても、前述の効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できない。また、経済的に不利となる。このため、Vは0.10%以下とする。好ましくは0.02〜0.08%とする。
Nb:0.01〜0.08%
Nbは、オーステナイト(γ)温度域での再結晶を遅延させ、γ粒の微細化に寄与し、マルテンサイトの下部組織(例えば、パケット、ブロック、ラス)の微細化に極めて有効に作用する。また、Nbは、炭化物を形成し、析出強化により鋼の強度向上に寄与する作用も有する。このような効果を得るためには、Nbは0.01%以上の含有を必要とする。一方、Nbは0.08%を超えて含有しても、粗大な析出物(NbC、NbN)の析出を促進し、耐硫化物応力腐食割れ性の低下を招く。このため、Nbは0.01〜0.08%とする。好ましくは0.02〜0.06%とする。
Ti:0.04%以下
Tiは、炭化物あるいは窒化物を形成し、析出強化により鋼の強度向上に寄与する。このような効果を得るためには、Tiは0.001%以上の含有が望ましい。一方、Tiは0.03%を超えて含有すると、鋳造時に粗大なMC型窒化物(TiN)の形成が促進され、その後の加熱でも固溶しないため、靭性や耐硫化物応力腐食割れ性の低下を招く。このため、Tiは0.04%以下とする。好ましくは0.01〜0.03%とする。
B:0.0005〜0.0030%
Bは、微量の含有で焼入れ性の向上に寄与する元素である。このような効果を得るためには、Bは0.0005%以上の含有を必要とする。一方、Bは0.0030%を超えて多量に含有しても、前述の効果が飽和するか、あるいはFe硼化物(Fe−B)の形成により、逆に所望の効果が期待できなくなり、経済的に不利となる。また、0.0030%を超える多量のB含有は、MoB、FeB等の粗大な硼化物の形成を促進し、熱延時に割れを発生しやすくする。このため、Bは0.0005〜0.0030%とする。好ましくは0.0010〜0.0030%とする。
Cu:0.03〜0.07%
Cuは、鋼の強度を増加させるとともに、靭性、耐食性を向上させる作用を有する元素である。特に、厳しい耐硫化物応力腐食割れ性が要求される場合には、極めて重要な元素となる。Cuは、緻密な腐食生成物を形成し、さらに割れの起点となるピットの生成・成長を抑制して、耐硫化物応力腐食割れ性を顕著に向上する。このような効果を得るためには、Cuは0.03%以上を含有することが必要である。一方、0.07%を超えて含有しても、前述の効果が飽和し、含有量に見合う効果を期待できなくなる。このため、Cuは0.07%以下とする。好ましくは、0.04〜0.05%である。
Co:0.01〜0.06%
Coは、焼き戻し抵抗性の向上や、高温時での硬度上昇に寄与する元素である。上記のような効果を得るためには、一般的に0.05%以上を含有することが有効である。しかし、Coは高価な合金であるため、多量に含有することは経済的に不利となる。また、Coは、低温、特に−20℃以下の条件下での衝撃吸収エネルギーの向上に寄与する元素でもある。このような効果を得るためには、Coは0.01%以上の含有を必要とする。一方、Coは0.06%を超えて含有しても、衝撃吸収エネルギーが低下する。また、経済的に不利となる。このため、Coは0.01〜0.06%とする。好ましくは0.01〜0.05%とする。さらに好ましくは0.01〜0.04%とする。
Ca:0.0001〜0.0050%
Caは、介在物の形態を制御する作用を有する元素として有用であり、展伸した硫化物系介在物を粒状の介在物とする。この介在物の形態制御を介して、延性、靭性や耐硫化物応力腐食割れ性を向上させる作用を有し、必要に応じて含有できる。このような効果を有効に発揮させるためには、Caは0.0001%以上含有することが好ましい。一方、0.0050%を超えて含有すると、非金属介在物量が増加し、かえって延性、靭性や耐硫化物応力腐食割れ性が低下する場合がある。また、経済的に不利になる場合がある。従って、Caを含有する場合には、0.0050%以下とする。好ましくは0.0001〜0.0030%とする。
残部は鉄および不可避的不純物である。
以上の必須元素で本発明の鋼板は目的とする特性が得られる。
次に、本発明の継目無鋼管の製造方法について説明する。
本発明の継目無鋼管は、例えば、上記した成分組成からなる鋼管素材を加熱後、熱間成形により造管して継目無鋼管を成形し、次いで該継目無鋼管に焼入れ処理、焼戻処理を施すことで製造することができる。
本発明では、上記した成分組成からなる鋼管素材の製造方法については、例えば、上記した組成を有する溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、通常公知の連続鋳造法、造塊−分塊圧延法等により鋼管素材である鋳片とすることが好ましい。なお、得られる鋳片は、ブルーム、ビレット、いずれの形状でもよいが、連続鋳造法で鋳込まれる形状が丸断面のビレットであれば、後述する丸断面のビレットへの熱間圧延を省略できるためより好ましい。さらに、得られた鋳片を加熱した後、熱間圧延を施し、鋼管素材である鋳片としてもよい。
得られた鋼管素材は、加熱炉で1100〜1300℃の範囲の温度に加熱した後、熱間成形により継目無鋼管に成形することが好ましい。熱間成形方法は、ピアサー穿孔の後、プラグミル圧延、あるいはマンドレルミル圧延いずれかの方法を用いて所定の肉厚に成形後、適切な縮径圧延までを熱間で行う。なお、プレス方式による熱間押出で継目無鋼管としてもよい。
継目無鋼管成形後、目標とする降伏強度650MPa以上を達成するために、焼入れ処理(Q)および焼戻処理(T)を施すことが好ましい。焼入れ処理および焼戻処理は、1回でも効果が得られるが、2回以上しても良い。焼入れ処理を2回以上繰り返し実施することにより、鋼の組織が微細化し、高強度、高靭性で、かつ耐硫化物応力腐食割れ性に優れた鋼管を得ることができる。なお、焼入れ処理を2回以上繰り返す場合、焼入れ処理を連続して繰返して行うQQ処理、あるいは焼入れ処理と焼戻処理を交互に繰返して行うQTQT処理のいずれでもよい。
焼入れ処理として、Ac変態点以上1000℃以下の焼入れ温度に再加熱後、Ac変態点以上1000℃以下の温度域からMs変態点以下、好ましくは100℃以下の温度域まで、2℃/s以上の平均冷却速度で冷却することが好ましい。焼入れ温度がAc変態点未満では、オーステナイト単相域に加熱することができず、その後の冷却で十分なマルテンサイト組織を確保することができない。そのため、所望の高強度を確保できなくなる。一方、焼入れ温度が1000℃を超えると、結晶粒の粗大化を招き、靭性および耐硫化物応力腐食割れ性が低下する。このため、焼入れ温度はAc変態点以上1000℃以下とすることが好ましい。本発明では、焼入れ温度における保持時間は、5min以上が好ましい。平均冷却速度を2℃/s以上とすることにより、十分な焼入れ組織とすることができる。具体的には、微細なオーステナイト(γ)相から変態した微細な下部組織を有するマルテンサイト相を主相とする組織とすることができる。ここで、主相とは、体積%で、90%以上を占める相をいう。なお、平均冷却速度の上限は、特に限定する必要はない。しかし、管の形状確保という観点から25℃/s以下とすることが好ましい。
焼戻処理として、640〜720℃の温度域の焼戻温度で10min以上保持した後、640〜720℃の温度域から室温まで、空冷以上の平均冷却速度で冷却することが好ましい。焼戻処理は、過剰な転位を減少させ組織の安定化を図り、所望の高強度と更なる優れた耐硫化物応力腐食割れ性とを兼備させるために行う。焼戻温度が640℃未満では、転位等の水素トラップサイトが増加し、耐硫化物応力腐食割れ性が低下する。一方、焼戻温度が730℃超えでは、組織の軟化が著しくなり、目標とする強度を確保できない。このため、焼戻温度は640〜720℃の温度域にすることが好ましい。より好ましくは670〜710℃の温度域とする。焼戻温度での保持時間は、10min以上とすることが好ましい。10min未満では、所望の組織の均一化が達成できない。より好ましくは、20min以上とする。
次に、本発明の特性について説明する。
本発明の高強度継目無鋼管は、特に低温靭性に優れる。以下、図1を参照しながら説明する。
図1は、Co含有量(質量%)、シャルピー衝撃試験温度(℃)および比較鋼に対する本発明鋼の衝撃吸収エネルギー比率の関係を示す図である。図1(A)では横軸をシャルピー衝撃試験温度とし、図1(B)では横軸をCo含有量とする。本発明では、Co含有量が0質量%の鋼を比較鋼とし、本発明鋼の特性を評価している。衝撃吸収エネルギー比率とは、比較鋼の衝撃吸収エネルギーを1.00とした場合の、比較鋼に対する本発明鋼の衝撃吸収エネルギーの比率である。なお、シャルピー衝撃試験の衝撃吸収エネルギーは、後述の実施例に記載の方法で測定する。
図1より、上記した成分組成からなる鋼管素材(本発明鋼)では、Co含有量が0質量%に対し、特にCo含有量が0.04質量%の場合に、シャルピー衝撃試験温度が−20℃、−40℃、−60℃のいずれにおいても、高い衝撃吸収エネルギー比率となることが分かる。一方、Co含有量が0.06質量%になると、シャルピー衝撃試験温度が−20℃、−40℃、−60℃では衝撃吸収エネルギー比率は減少し、その向上代は0.04質量%より低下することも分かる。
以上より、本発明では、Coを所定量添加することにより、低温靭性、すなわち−20℃以下における衝撃吸収エネルギーは著しく向上した。
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、衝撃吸収エネルギーは、鋼管の製品寸法、すなわち素材からの加工度によって大きく変化する。ここでは、鋼管圧延を模擬した板圧延により評価した。本発明は以下の実施例に限定されない。
表1に示す成分組成の鋼を真空溶解炉で溶製後、135mm厚の50キロの角インゴットで鋳片を作製した。インゴットは1100℃で1時間加熱したのち、板厚45mmまで粗圧延を実施、その後1250℃まで加熱し板厚15mmまで仕上圧延を実施した。得られたサンプルは、920℃で5分保持したのち、水焼入れ処理を実施し、その後685℃で30分保持し焼戻処理を施した。
最終的に得られたサンプルより試験片を採取し、引張試験、シャルピー衝撃試験、耐硫化物応力腐食割れ試験を行った。試験方法は次の通りとした。
(1)引張試験
降伏強度(YS)、引張強さ(TS)は、引張方向が圧延方向(サンプルの長手方向)になるよう採取した丸棒引張試験片(平行部6mmφ×G.L.24mm)を用いて、JIS Z 2241に準拠した引張試験により求めた。なお、降伏強度は0.5%伸びにおける強度とした。本発明では、降伏強度は、650MPa以上を合格と評価した。
(2)シャルピー衝撃試験
得られたサンプルから、長手方向に直交する方向が試験片長手方向となるように、シャルピー衝撃試験片(2mmVノッチ試験片)を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施した。試験を3回行い、衝撃吸収エネルギー(J)の平均を求めた。シャルピー試験温度は、0℃、−20℃、−40℃、−60℃で実施した。ここでは、Co含有量が0質量%の鋼である表1の鋼No.Aを比較鋼とし、衝撃吸収エネルギー比率を求めた。
(3)硫化物応力腐食割れ試験
得られた継目無鋼管から試験片を3本採取し、NACE TM0177 Method Aの規定に準拠した方法で耐硫化物応力腐食割れ試験を行った。試験には、H2Sが飽和した0.5%酢酸+5.0%食塩水溶液(液温:24℃)を用い、降伏強さの90%の負荷応力を720時間負荷する定荷重試験を実施した。試験数は各サンプルで3本ずつ実施した。試験終了後、SSC発生有無を調査し、SSC発生率0%、すなわち割れが発生しない場合を合格とした。
以上により得られた結果を、表2に示す。
本発明例はいずれも、降伏強度650MPa以上で、硫化物応力腐食割れ試験での割れ発生率が0%以上であるとともに、優れた低温靭性を兼備する高強度継目無鋼管となっている。

Claims (1)

  1. 成分組成は、質量%で、
    C:0.15〜0.50%、
    Si:0.80%以下、
    Mn:0.3〜1.0%、
    P:0.012%以下、
    S:0.0050%以下、
    Al:0.01〜0.10%、
    N:0.01%以下、
    Cr:0.1〜1.7%、
    Mo:0.2〜2.0%、
    V:0.10%以下、
    Nb:0.01〜0.08%、
    Ti:0.04%以下、
    B:0.0005〜0.0030%、
    Cu:0.03〜0.07%、
    Co:0.01〜0.06%、
    Ca:0.0001〜0.0050%
    を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする油井用低合金高強度継目無鋼管。
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