発明の詳細な説明
異なるグリコシル化パターン、具体的にはガラクトシル化パターンを有する組換えタンパク質は、典型的には哺乳動物発現系を使用する発酵産生プロセスによって産生される。タンパク質の翻訳後グリコシル化、特にガラクトシル化は、タンパク質の溶解度、安定性、クリアランス、免疫原性および免疫エフェクター機能等の重要な物理化学的特性および機能を果たすために不可欠である。これに関して、可能性の高い予防薬および治療薬が臨床に近づくにつれて、産生される組換えタンパク質として、組換え産生されたタンパク質のグリコシル化パターン、特にガラクトシル化パターンの違いが近年、科学界で非常に注目されている。糖タンパク質のオリゴ糖側鎖は、タンパク質の機能(WittwerおよびHoward、Biochem.29(1990)4175-4180)および糖タンパク質の部分間の分子内相互作用に影響を及ぼし、タンパク質の立体配座および提示された三次元表面(Hart,Curr.Op.Cell Biol.,4(1992)1017-1023:Goocheeら、Bio/Technology 9(1991)1347-1355;Parekh,Curr,Op.Struct,Biol.1(1991)750-754)をもたらし得る。例えば、組換えタンパク質のガラクトシル化状態は、異なる酵素によって調節され、これらの酵素の1つ以上の機能の違いは、組換えタンパク質のガラクトシル化状態に有意な影響を及ぼし得る。これに関連して、組換え哺乳動物細胞、例えばCHO細胞に対する酵素UDP-糖経路調節の複数の効果が実証されており、細胞増殖、組換えタンパク質生産性および/またはタンパク質品質、特にガラクトシル化レベルに対する効果が含まれるが、これらに限定されない。組換えmAbの生物学的機能に対するさらなる効果が実証されている。したがって、組換えタンパク質、特に治療薬としての使用を意図したタンパク質のガラクトシル化パターンを維持することが重要である。
組換えタンパク質、特に抗体等の治療用タンパク質の品質は、培地中に存在する様々な栄養素の濃度等の様々なパラメータに依存することが知られているが、これは、このような栄養素、例えば糖分子がグリコシル化に必要な細胞内の糖ヌクレオチドプールの前駆体として作用するためである。細胞内の糖ヌクレオチド濃度レベルの変化は、抗体不均一性に有意な影響を及ぼす可能性があり、特に、所定の臨床結果を達成するために生成物の一貫した品質が必要なバッチプロセスまたはフェドバッチプロセスにおいて重要である。
したがって、本発明の1つの主要な目的は、CHO K1およびその誘導体細胞株等の哺乳動物細胞における細胞内UDP-グルコースおよびUDP-ガラクトース濃度をインビボで調節することにより、所定の臨床用途のための最終生成物品質が改善されるためのシステインまたはシスチン等のスルフヒドリル化合物の使用である。
これに関連して、本発明は、モノガラクトシル化(G1)グリカンおよびジガラクトシル化(G2)グリカンを有する糖タンパク質、特に組換え糖タンパク質、ならびに前記糖タンパク質を産生するための手段および方法に関する。それにより、本明細書および本発明との関連に記載される糖タンパク質は、例えば、組換え糖タンパク質等の治療用糖タンパク質であり得る。したがって、本明細書に開示され、本発明との関連で使用される、組換えタンパク質等の糖タンパク質は、1つ以上のグリカンと会合することができるタンパク質である。本明細書に開示され、添付の実施例に例示されるように、1つ以上のグリカンに会合するタンパク質は、モノガラクトシル化(G1)またはジガラクトシル化(G2)グリカンを有するタンパク質を指す。1つ以上のグリカンを有するタンパク質は、グリカンが会合し得るいくつかの部位を有し得る。当技術分野の当業者は、本明細書に開示され、本発明との関連においてグリカンがタンパク質と会合し得る潜在的な部位を認識している。例えば、タンパク質は、少なくとも1つ、より好ましくは少なくとも2つのガラクトシル化グリカンを含んでいてもよく、ガラクトシル化グリカンはN-アセチルグルコサミンと会合し得る。そのようなグリカンは、モノガラクトシル化(G1)またはジガラクトシル化(G2)のいずれかであり得る。本明細書に記載されるように、モノガラクトシル化(G1)またはジガラクトシル化(G2)タンパク質のレベルは、当技術分野の当業者に公知の手段および方法によって、添付の実施例に示されるように測定され得る。
本明細書および本発明に関連して開示されるように、組換えタンパク質は治療用タンパク質であり得る。そのような治療用タンパク質は、例えば、抗体であり得るが、それに限定されない。したがって、前記糖タンパク質、例えば抗体は、医薬として使用し得る。治療用タンパク質としては、非ホジキンリンパ腫および慢性リンパ性白血病、パーキンソン病および関連障害等のB細胞増殖性障害の処置に使用するための治療用タンパク質が含まれ得るが、これらに限定されない。特定の一実施形態において、組換えタンパク質は抗体であり得る。例えば、哺乳動物細胞によって産生される抗体は、治療に使用される抗体、または治療に使用するための薬物を開発するための薬物候補として使用される抗体である。一実施形態において、組換えタンパク質は、抗α-シヌクレイン抗体または抗CD20/抗CD3二重特異性抗体であり得る。
前記糖タンパク質、例えば抗体は、前記糖タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む哺乳動物細胞によって産生され得る。例えば、本明細書および本発明との関連に記載の哺乳動物細胞は、10,000Lバイオリアクター等の大規模フォーマットのバイオリアクターで培養することができる。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、組換え治療用タンパク質産生のために最も頻繁に使用される真核生物宿主である。
本明細書および本発明との関連に記載されるように、糖タンパク質は、二重特異性抗体等の抗体、例えば抗CD20/抗CD3抗体であり得る。前記抗体は、前記抗体をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを含むベクター上で発現され得る。他の例として、抗体は抗α-シヌクレイン抗体であってもよく、前記抗体は、限定されるものではないがLoxP.SV40.Puro.CMVi.FseI nbeまたはLoxfas.puro.CMV.2L.v1発現ベクターのいずれか等の適切なベクターにクローニングし得る。CHO-K1M TI宿主細胞を、安定な真核細胞株を作製するためにこのポリシストロン性プラスミドでトランスフェクトした。本明細書で使用される、「ベクター」という用語は、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、ウイルス、ビリオン等の任意の遺伝要素を指し、これは適切な制御要素と会合すると複製することができ、細胞間で遺伝子配列を移入することができる。したがって、この用語は、クローニングおよび発現ビヒクル、ならびにウイルスベクターを含む。例えば、本明細書に記載の1つ以上のベクターは、ポリシストロン性ベクターであり得る。本明細書で使用される場合、「ポリシストロン性」という用語は、1つを超えるポリペプチド鎖をコードするmRNAを指す。1つの特定の例として、1つを超えるベクターが使用されてもよく、第1のベクターは第1の軽鎖および第2の重鎖を発現してもよく、第2のベクターは第2の軽鎖および第1の重鎖を発現してもよい。当技術分野の当業者は、本明細書中および本発明との関連において記載される抗体を発現するのに適したベクターを構築する方法を知っている。さらに、組換え細胞株の作製のために、宿主細胞を1つ以上のベクターで同時トランスフェクトすることができ、前記ベクターはジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子等の選択マーカーを含み得る。例えば、マウスDHFR遺伝子の発現は、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーターによって駆動され、SV40ポリアデニル化シグナル(SV40ポリA)によって終結する。
さらに、本明細書および本発明と関連して記載される細胞培養培地は、抗体等の前記糖タンパク質を産生するために使用することができ、細胞培養培地は、4.0mM超および10.0mM未満の濃度の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基および少なくとも3.0g/L超の濃度のグルコースを含む。細胞培養培地は、既知組成培地、好ましくは血清不含有、タンパク質不含有および/またはオリゴペプチド不含有細胞培養培地であり得る。例えば、典型的な既知組成細胞培養培地は、エネルギー源、アミノ酸、ビタミン、微量元素および無機塩、核酸誘導体、脂肪酸および脂質、ならびにいくつかの他のものに分類することができる100までの構成要素を含有し得る。
本明細書に記載されるように、本明細書に記載され、添付の実施例によって例示される糖タンパク質を産生する哺乳動物細胞は、
(a)本明細書に記載の細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養することであって、細胞培養培地中の少なくとも4.0mM超および10.0mM未満の、1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基および少なくとも3.0g/L超のグルコースの濃度が、少なくとも3日間、より好ましくは少なくとも4日間、さらにより好ましくは少なくとも5日間維持される、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養することと、
(b)前記糖タンパク質を単離することと
を含む、方法によって培養し得る。
哺乳動物細胞の前記培養は、細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基の少なくとも4.0mM超および10.0mM未満の濃度を維持しない、哺乳動物細胞の対応する培養における力価と比較して、前記糖タンパク質の力価の増加をもたらし得る。前記培養はさらに、本明細書に記載のモノガラクトシル化(G1)グリカンおよびジガラクトシル化(G2)グリカンを有する、細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基の少なくとも4.0mM超および10.0mM未満の濃度を維持しない、哺乳動物細胞の対応する培養における非モノガラクトシル化(G1)形態および非ジガラクトシル化(G2)形態の糖タンパク質と比較して、タンパク質標的結合の増加、新生児型Fc受容体(FcRn)結合の増加、および/またはFcyRIIa結合の増加を特徴とする、糖タンパク質をもたらし得る。特に、哺乳動物細胞の培養は、少なくとも3.0mM超および10.0mM未満の出発濃度の、1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基での培養を含み得る。方法は、前記培養の前に細胞培養培地中で哺乳動物細胞を予備培養する工程をさらに含み得る。
本明細書に開示され、本発明との関連における細胞培養プロセスは、細胞を細胞培養培地に播種することから開始し、細胞培養培地から細胞を回収することで終了し得る細胞培養プロセスを指す。前記播種は、細胞培養プロセスの1日目を指し、細胞培養培地からの細胞の回収は、例えば、限定されないが、細胞培養の12、13または14日目であり得る。それにより、当技術分野の当業者は、一般常識によって細胞培養プロセスの適切な期間を選択する方法を知っている。これは、添付の実施例によっても示される。本明細書に開示され、本発明との関連で使用される細胞培養プロセス全体は、増殖期および産生期を含み得る。本明細書に記載され、本発明との関連で使用される、1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基の濃度は、細胞培養プロセスの少なくとも5日間、好ましくは少なくとも7日間、より好ましくは少なくとも10日間、さらにより好ましくは少なくとも12日間、最も好ましくは少なくとも14日間維持される。
本明細書および本発明との関連において開示される方法は、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を前培養する工程をさらに含み得る。前記前培養工程は、本明細書および本発明との関連において開示される、4.0mM~10.0mMの、1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基を含む細胞培養培地中で細胞を培養することを含んでいても、または細胞培養培地中に前記濃度の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基を含まなくてもよい。特に、前培養工程の細胞培養培地は、本明細書および本発明との関連に開示されるように、バイオリアクターに哺乳動物細胞を播種するために使用される培地を含んでいても、またはバイオリアクターに哺乳動物細胞を播種するために使用される培地を含まない培地を含んでいてもよい。
細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来の1つ以上のスルフヒドリル基は、酸化形態および/または還元形態で含有され得る。前記酸化形態は、1つ以上のスルフヒドリル化合物由来の1つ以上のスルフヒドリル基が「結合形態」で細胞培養培地中に含有されることを意味し、一方、還元形態は、1つ以上のスルフヒドリル化合物由来の1つ以上のスルフヒドリル基が「遊離形態」で含有されることを意味し、これは、1つ以上のスルフヒドリル基が遊離-SH基を含むことを意味する。本明細書に開示され、本発明との関連で使用される細胞培養培地は、4mM~10mMの、1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基をその酸化形態および/または還元形態で含み得る。例えば、1つ以上のスルフヒドリル化合物は、システイン、シスチン、スクシマー、メチマゾール、システアミン、アザチオプリン、メルカプトプリン、S-メチルシステイン、セレノシステイン、S-ホスホシステイン、4’-ホスホパンテイン、ブチリルチオコリン、カルボシステイン、N-スルホシステイン、アレチン、アセチルシステイン、ジメルカプロール、補酵素M、ナトリウムアウロチオマレート、パンテチン、ブシラミン、メチルセレノシステイン、ジメルカプトコハク酸、アセチルシステインアミド、チオグリコール酸、2,3-ジメルカプトプロパノール、O-メチルメルカプトエタノール、メルカプト酢酸、フルメルカプトプロピオン酸、メチルメルカプタン、S-メチルメルカプトエタノール、グルタチオン、グルタチオン誘導体であり得る。例えば、本明細書に開示され、本発明との関連で使用される細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基はシステインであり得る。他の例として、本明細書に開示され、本発明との関連で使用される細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物はシスチンであり得る。さらに他の例として、本明細書に開示され、本発明との関連で使用される細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物はシスチンおよびシステインであり得る。
方法は、本明細書に記載されるように、抗体等の糖タンパク質のモノガラクトシル化(G1)グリカンおよびジガラクトシル化(G2)グリカンのレベルを測定することをさらに含み得る。
当技術分野の当業者は、細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来の1つ以上のスルフヒドリル基の前記濃度(contentration)を測定および決定する方法を知っている。そのような濃度は、質量分析によって1つ以上のスルフヒドリル化合物の量を決定し、前記スルフヒドリル化合物中に存在するスルフヒドリル基の量を算出することによって得ることができる。1つ以上のスルフヒドリル化合物由来の1つ以上のスルフヒドリル基の濃度を測定および決定する方法のさらなる手段および方法は、当業者の一般知識の範囲内である。
本明細書に記載の方法または細胞培養培地は、例えば、少なくとも4.0mM超および9.0mM以下、好ましくは少なくとも4.0mM超および8.0mM以下、より好ましくは少なくとも4.0mM超および7.0mM以下、さらにより好ましくは少なくとも4.0mM超および6.0mM以下の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基を含み得る。他の例として、細胞培養培地は、少なくとも5.0mMおよび10.0mM未満、好ましくは少なくとも5.0mMおよび9.0mM以下、より好ましくは少なくとも5.0mMおよび8.0mM以下、さらにより好ましくは少なくとも5.0mMおよび7.0mM以下、最も好ましくは少なくとも5.0mMおよび6.0mM以下の濃度の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基を含む。
特定の例として、1つ以上のスルフヒドリル化合物はシステインであり、細胞培養培地中のシステイン濃度は4.0mM超および10.0mM未満であり、好ましくは、システイン濃度は少なくとも5.0mMおよび6.0mM以下である。他の特定の例として、1つ以上のスルフヒドリル化合物はシスチンであり、細胞培養培地中のシスチン濃度は2.0mM超および5.0mM未満であり、好ましくは、シスチン濃度は少なくとも3.0mMかつ4.0mM以下である。
哺乳動物細胞の培養のためのほとんどの既知組成細胞培養培地において、グルコースは、最も一般的に使用される唯一の炭水化物であり、これは、細胞内に効率的に輸送され得るためである(Wrightら、J Exp Biol 196(1994)197-212)。グルコースは単純な単糖である。エネルギー源として使用されることに加えて、グルコースは、他の多くの分子および構造の構成要素としても使用することができる。これらの目的を果たすためには、所与の単糖が最初に「活性化」されなければならない。この活性化は、ヌクレオシド二リン酸基の糖への付加を伴い、これは、ヌクレオチド糖の形成をもたらす。例えば、CHO細胞では、大部分のヌクレオチド-糖は、グルコースから、よく特徴付けられた反応で合成される。図1に示すように、D-グルコースはD-グルコース-1-リン酸に変換される。UTP-グルコース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(EC 2.7.7.9)を介したD-グルコース-1-リン酸の活性化は、UDP-グルコースの細胞質プールをもたらす(TurnquistおよびHansen、The Enzymes,3 rd.Ed.(ボイヤー、P.D.編)8(1973)51-71;Changら、Eur.J.Biochem.236(1996)723-728)。
したがって、本明細書に記載され、本発明との関連で使用される細胞培養培地は、例えば、少なくとも3.0g/L超のグルコース、より好ましくは少なくとも4.0g/L超のグルコースを含み得る。これに加えて、またはこれに代えて、細胞培養培地は、例えば、最大13.0g/Lのグルコース、好ましくは最大8.0g/L、より好ましくは最大7.0g/L、さらにより好ましくは最大6.0g/L、最も好ましくは最大5.0g/Lのグルコースを含む。特定の例として、細胞培養培地は、3.0g/L超と最大13g/Lとの間のグルコース、好ましくは3.0g/L超と最大8.0g/Lとの間のグルコース、より好ましくは3.0g/L超と最大7.0g/Lとの間のグルコース、さらにより好ましくは3.0g/L超と最大6.0g/Lとの間のグルコース、最も好ましくは3.0g/L超と最大5.0g/Lとの間のグルコースを含む。
特に、本明細書および本発明に関連して開示される細胞を播種および培養するための細胞培養培地は、3.0mM~10.0mMの1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基を含んでいてもよく、スルフヒドリル化合物はシステインおよび/またはシスチンであり得る。例えば、組換えタンパク質を産生する細胞は、抗α-シヌクレイン抗体または抗CD20/抗CD3二重特異性抗体を産生するCHO細胞であってもよく、6mMシステインを含む細胞培養培地中で培養され得る。他の例として、組換えタンパク質を産生する細胞は、抗α-シヌクレイン抗体または抗CD20/抗CD3二重特異性抗体を産生するCHO細胞であってもよく、5mMシステインを含む細胞培養培地中で培養され得る。さらに他の例として、組換えタンパク質を産生する細胞は、抗α-シヌクレイン抗体または抗CD20/抗CD3二重特異性抗体を産生するCHO細胞であってもよく、4mMシスチンを含む細胞培養培地中で培養され得る。さらに他の例として、組換えタンパク質を産生する細胞は、抗α-シヌクレイン抗体または抗CD20/抗CD3二重特異性抗体を産生するCHO細胞であってもよく、シスチンおよびシステインを含む、4.0mMと5.0mMとの間の組み合わされたシスチンおよびシステイン濃度を含む細胞培養培地中で培養され得る。
本明細書および本発明に関連して開示されるように、細胞は、少なくとも3g/L超のグルコースを含む細胞培養培地中で培養され得る。前記グルコースは、本明細書および本発明に関連して開示される細胞培養培地に細胞を播種する時点に存在しても、または細胞培養プロセス中、例えば細胞培養プロセスの4日目~14日目に添加されてもよい。一実施形態において、グルコースは、細胞培養プロセスの産生期中に存在し得る。
添付の実施例に例示されるように、細胞は、6mMのシステインの存在下、および少なくとも3g/L超、例えば4g/L以上のグルコースの存在下で培養され得る。添付の実施例に例示されるように、細胞は、5mMのシステインの存在下、および少なくとも3g/L超、例えば4g/L以上のグルコースの存在下で培養され得る。
実施例に例示されるように、グルコースは、細胞培養プロセスの4日目~14日目に細胞培養培地に添加され得る。言い換えれば、実施例に示されるように、細胞培養培地は、細胞培養培地にグルコースを添加する時点から、例えば4日目~14日目に、少なくとも3g/L超のグルコースを含み得る。グルコースは、本明細書に開示され、本発明との関連で使用されるようにフェドバッチプロセスまたは灌流によって細胞培養培地に添加され得るが、グルコースが前記細胞培養培地に添加されるプロセスはこれに限定されない。細胞培養培地中に存在するグルコース濃度は、細胞増殖および/または細胞による組換えタンパク質の産生を損なわない濃度を指すと理解されるべきである。言い換えれば、細胞増殖および/または細胞による組換えタンパク質の産生を維持および/または増加させるのに適したグルコース濃度が選択される。
添付の実施例に例示されるように、前記抗α-シヌクレイン抗体または抗CD20-CD3二重特異性抗体は、CHO K1M細胞株等のCHO細胞株において産生され得る。本明細書および本発明との関連において開示される組換えタンパク質は、前記組換えタンパク質を産生するのに適した任意の哺乳動物細胞株で産生され得ることは理解されるべきである。これに関連して、当技術分野の当業者は、そのような適切な哺乳動物細胞を認識しており、本明細書中および本発明に関連して開示されるような組換えタンパク質を産生するためのそのような哺乳動物細胞の選択方法を知っている。抗α-シヌクレイン抗体または抗CD20-CD3二重特異性抗体等の組換えタンパク質を産生する前記細胞としては、CHO細胞、Vero細胞、BHK細胞、COS細胞およびHEK 293/293T細胞が挙げられるが、これらに限定されない。哺乳動物細胞は、既知組成細胞培養培地中で培養され得る。本発明に関連して使用される細胞培養培地は、本明細書に開示されている。これに関して、当技術分野の当業者は、本発明に関連して使用される適切な市販の既知組成細胞培養培地、例えば限定されないが、DMEMを認識している。添付の実施例に例示されるように、血清不含有の既知組成培地が、哺乳動物細胞を培養するために使用され得る。一実施形態において、細胞培養培地は、既知組成培地、好ましくは血清不含有、タンパク質不含有および/またはオリゴペプチド不含有細胞培養培地である。
本明細書に開示され、添付の実施例によって証明されるように、CHO細胞等の哺乳動物細胞は、4.0mM~10mMのシステインおよび/またはシスチン等の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基と、少なくとも3g/L超のグルコースとを含む培養培地中で、例えば最大14日間培養され得る。
方法は、本明細書に記載されるように、抗体等の糖タンパク質を回収することをさらに含み得る。細胞は、産生期の間または産生期の終わりに細胞培養培地から回収され得ることは理解されるべきである。これにより、当業者は、添付の実施例によっても示されているように、細胞培養培地から細胞を回収する適切な時点を選択することができる。方法は、本明細書に記載されるように、抗体等の糖タンパク質を製剤化して製剤にすることをさらに含み得る。
本発明の方法で使用される細胞培養培地と関連して以下に記載される全ての局面は、本発明と関連して使用される細胞培養培地も説明する。さらに、本発明は、所望の含有量のガラクトシル化グリカンを有する組換えタンパク質を提供し、組換えタンパク質は少なくともモノガラクトシル化、より好ましくはジガラクトシル化グリカンを含み得る。好ましくは、ガラクトシル化グリカンはN-アセチルグルコサミンと会合している。本発明の方法で産生される組換えタンパク質と関連して以下に記載される全ての局面は、本発明と関連して提供される組換えタンパク質も説明する。本発明によって、本発明の方法によって得ることができ、以下に開示される組換えタンパク質も提供される。
これに関連して、本発明は、スルフヒドリル化合物およびその誘導体、例えばL-システインおよび/またはシスチンを使用して、UDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(EC 2.7.7.12)を活性化することができることを見出した。これにより、UDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼが効果的に活性化され得る。さらに、スルフヒドリル化合物を使用して、特にインビボでUDP-糖経路を調節することができる。例えば、L-システインの酸化された二量体形態であるL-シスチンは、インビボで特にUDP-糖経路を調節するために使用され得る。特に、UDP-糖経路は、特にインビボで、細胞増殖、組換えタンパク質産生性および/またはタンパク質の品質を上昇させるために、スルフヒドリル化合物およびその誘導体、例えばシスチンおよび/またはシステインを添加することによって、特に哺乳動物細胞培養による組換えタンパク質のガラクトシル化レベルを上昇させることによって調節され得る。
「酸化の程度」という用語は、1つ以上のスルフヒドリル化合物からの酸化可能なスルフヒドリル基が細胞培養培地中で酸化を受けた程度を指す。例えば、スルフヒドリル化合物が、他の(同じまたは異なる)スルフヒドリル化合物のスルフヒドリル基とジスルフィド架橋を形成することによって酸化される単一のスルフヒドリル基を含む場合、前記スルフヒドリル化合物の質量の増加は、スルフヒドリル基の酸化を示す。酸化状態は、酸化残基の数、質量スペクトルピーク強度、質量スペクトル積分面積等のアッセイを含むがこれらに限定されない、タンパク質およびペプチド化学の分野で公知のメトリクスによって測定することができる。本明細書で提供される任意の局面のいくつかの実施形態において、酸化状態はパーセント比率として報告され、0%は酸化なしを指し、100%は媒体中の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来の潜在的に酸化可能なスルフヒドリル基の完全酸化を指す。「潜在的に酸化可能なスルフヒドリル基」等の用語は、例えばジスルフィド架橋の形成によって酸化を受けることができる媒体中の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基の総量を指す。
「酸化されていないスルフヒドリル基」等の用語は、酸化されていない媒体中の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来の1つ以上のスルフヒドリル基の量を指す。酸化されていない同じスルフヒドリル化合物の質量を上回るスルフヒドリル化合物の質量の増加は、スルフヒドリル化合物中の酸化されたスルフヒドリル基の数を反映する。酸化スルフヒドリル基を有しないスルフヒドリル化合物の量を上回る酸化スルフヒドリル基を有するスルフヒドリル化合物の量の増加は、酸化の程度を反映する。次いで、1つ以上のスルフヒドリル化合物由来の1つ以上のスルフヒドリル基の酸化状態は、細胞培養培地中の1つ以上の酸化スルフヒドリル基を有する1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基の総量および1以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基の総量から決定される。
例えば、細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基の酸化状態の決定は、a)細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物の質量および量を決定する工程;b)1つ以上のスルフヒドリル化合物について決定された質量を、酸化されていない1つ以上のスルフヒドリル化合物の質量と比較する工程であって、酸化されていない1つ以上のスルフヒドリル化合物の質量を上回る1つ以上のスルフヒドリル化合物の質量の増加が、1つ以上のスルフヒドリル化合物中の酸化スルフヒドリル基の数を反映する、工程;およびc)少なくとも1つの酸化スルフヒドリル基を有する1つ以上のスルフヒドリル化合物の総量、したがって1つ以上のスルフヒドリル化合物の1つ以上のスルフヒドリル基の総量から1つ以上のスルフヒドリル化合物の酸化状態を決定する工程を含む。
標的断片の質量の決定は、質量分析を使用する。「質量分析」、「MS」等の用語は、イオンを質量電荷比(すなわち、「m/z」)に基づいてフィルタリング、検出、および測定する方法を指す。「質量」および「m/z」という用語は、質量分析の結果に関連して交換可能に使用され、特に明記しない限り、全てのm/z値は単一にイオン化された種を想定する。「主同位体質量」および「主同位体m/z」という用語は、各元素の最も豊富な(すなわち、主)同位体の質量を考慮に入れた、分子イオンについて報告された質量を指す。一般的に、1つ以上の目的の分子がイオン化され、続いて、このイオンは、質量分析機器に導入されて、磁場および電場の組合せにより、イオンは、質量(「m」)および電荷(「z」)に依存して空間の経路をたどる。例えば、「Mass Spectrometry From Surfaces」と題する米国特許第6,204,500号;「Methods and Apparatus for Tandem Mass Spectrometry」と題する米国特許第6,107,623号;「DNA Diagnostics Based On Mass Spectrometry」と題する米国特許第6,268,144号;「Surface-Enhanced Photolabile Attachment and Release For Desorption and Detection Of Analytes」と題する米国特許第6,124,137号;Wrightら、Prostate Cancer and Prostatic Diseases 2:264-76(1999);およびMerchantおよびWeinberger,Electrophoresis 21:1164-67(2000)を参照されたい。「積分強度」、「質量スペクトル積分面積」、「積分質量スペクトル強度」等の用語は、当技術分野で周知のように、特定の主同位体m/zを有する分子イオンの量に対応する質量分析曲線下面積を指す。
例えば、「四重極」または「四重極イオントラップ」機器において、振動無線周波数場のイオンは、電極間に印加されるDC電位、RF信号の振幅、およびm/zに比例する力を受ける。電圧および振幅は、特定のm/zを有するイオンのみが四重極の長さを移動し、他の全てのイオンが偏向されるように選択することができる。したがって、四重極機器は、機器に注入されたイオンの「質量フィルタ」および「質量検出器」の両方として機能することができる。
哺乳動物細胞におけるウリジン二リン酸(UDP)-糖
ウリジン二リン酸(UDP)α-D-グルコースエピメラーゼ(EC 5.1.3.2)およびUDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(EC 2.7.7.12)は、哺乳動物細胞、例えばCHO細胞において、UDP-グルコースおよびUDP-ガラクトース変換経路内で重要な役割を果たすことが見出されている。
本明細書で使用される、「ウリジン二リン酸(UDP)α-D-グルコースエピメラーゼ」および「UDP-Glc-E」という用語は交換可能に使用され、EC 5.1.3.2クラスに属する細菌、真菌、植物、および哺乳動物細胞に見られるホモ二量体エピメラーゼである酵素を指す。実施例1に示すように、細胞株CHO K1M中のUDP-Glc-EのcDNAを増幅し、配列決定し、さらに分析した。
本明細書で使用される、「UDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ」、「UDP-Gal-T」および「EC 2.7.7.12」という用語は交換可能に使用され、ウリジン5’-二リン酸グルコース(UDP-グルコース)とガラクトース-1-リン酸(Gal-1-P)との間のヌクレオチド交換を触媒して、可逆的機構を介してウリジン5’-二リン酸ガラクトース(UDP-ガラクトース)およびグルコース-1-リン酸(Glc-1-P)を生成する酵素を指す。実施例2に示すように、細胞株CHO K1M中のUDP-Gal-TのcDNAを増幅し、配列決定し、さらに分析した。
ウリジン-二リン酸グルコースエピメラーゼ。
UDP-グルコースおよびUDP-ガラクトース合成経路を図1に示す。それにより、α-D-グルコースからのUDP-グルコースの形成におけるUDP-糖相互変換経路が示され、その後、UDP-グルコースエピメラーゼ(UDP-Glc-E:ウリジン-二リン酸グルコースエピメラーゼEC 5.1.3.2)によるUDP-グルコースからのUDP-ガラクトースの形成が示される。
UDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ
UDP-ガラクトースおよびUDP-グルコース経路は、図2に示すようにさらに拡張されている。それにより、α-D-グルコースからのUDP-ガラクトースの形成におけるUDP-糖相互変換経路が示され、その後、UDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(UDP-Gal-T:UDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼEC 2.7.7.12)によるUDP-ガラクトースのUDP-グルコースへ戻る変換が示される。
UDP-グルコース/ガラクトース変換経路の確立
図2に示すように、UDP-Gal-Tは、UDP-グルコースおよびUDP-ガラクトースの可逆的変換を触媒する。しかしながら、Wagstaffら((2015)Carbohydrate Research 404:17-25)は、特定の状況下(例えば、過剰のグルコース-1-Pの存在下)では、UDP-Gal-Tが主に逆変換を行い、大部分のUDP-ガラクトースをUDP-グルコースに調整することを見出した。この機構は、グルコースおよびガラクトースで構成されたUDP-糖プールの細胞内変化をもたらし、細胞内UDP-ガラクトース濃度の低下および細胞内UDP-グルコースの量の増加をもたらし得る。これらの実験結果に基づいて、この新しいUDP-グルコース/UDP-ガラクトース経路は、例えば図2に示すように、過剰なグルコースを含む既知組成培地プラットフォームを使用した所与の治療用タンパク質産生プロセスについてさらに正確に説明することができる。
スルフヒドリル化合物を用いた哺乳動物細胞におけるUDP-グルコース/UDP-ガラクトース経路調節のための新規アプローチ
図3に示すように、スルフヒドリル化合物およびその誘導体、例えばL-システインおよび/またはL-シスチンを細胞培養培地に添加して、UDP-Gal-Tをさらに活性化(acivate)し、さらにCHO K1およびその誘導体細胞株等の哺乳動物細胞中のグルコースおよびガラクトースで構成されたUDP-糖を調節することができる。それにより、本発明者らは、1つ以上のスルフヒドリル化合物の添加によって、モノガラクトシル化またはジガラクトシル化グリカンを有する組換えタンパク質を産生することができることを見出した。本明細書で使用される、「スルフヒドリル化合物」という用語は、分子の不可欠な部分として硫黄を含有する無機または有機化合物、好ましくは-SH基を含有する化合物;および/または最初に-SH基を含有し、還元条件下で互いに共有結合し、それによってジスルフィド架橋を形成する化合物を指す。本発明者らは、哺乳動物細胞培養物によって産生された組換えタンパク質の産生中に生存細胞密度および/または生成物力価を増加させる1つ以上のスルフヒドリル化合物が、産生された組換えタンパク質のガラクトース含有量に直接相関する効果を有することを見出した。これに関連して、本発明は、哺乳動物細胞培養物によって産生される組換えタンパク質のガラクトシル化の程度を制御するためのプロセスを提供する。本明細書で提供される方法に従って、当技術分野の当業者は、哺乳動物細胞培養物によって産生された組換えタンパク質のガラクトース含有量の制御を提供する正確なプロセスパラメータを決定することができる。
本発明に関連する一局面において、哺乳動物細胞培養物によって産生された組換えタンパク質の産生中に、組換えタンパク質のガラクトース含有量を増加させることができる。本発明のさらなる一局面において、モノガラクトシル化(G1)またはジガラクトシル化(G2)グリカンを有する組換えタンパク質は、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体であり、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、総グリカンあたり、19.0~29.0%(w/w)のG1および1.3~2.8%(w/w)のG2、好ましくは、総グリカンあたり20.0~28.0%(w/w)のG1および1.4~2.7%(w/w)のG2;より好ましくは、総グリカンあたり21.0~28.0%(w/w)のG1および1.5~2.7%(w/w)のG2、最も好ましくは総グリカンあたり21.0~27.4%(w/w)のG1および1.5~2.6%(w/w)のG2を有する。
特に、モノガラクトシル化(G1)グリカンおよびジガラクトシル化(G2)グリカンを有する抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、CD3に結合する第1の抗原結合ドメインと、CD20に結合する第2の抗原結合ドメインとを含む。抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む第1の抗原結合ドメインと、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む第2の抗原結合ドメインとを含み得る。
より具体的には、モノガラクトシル化(G1)グリカンおよびジガラクトシル化(G2)グリカンを有する抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、第1の抗原結合ドメインと、第2の抗原結合ドメインとを含み、第1の抗原結合ドメインは、
(a)配列番号22のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
(b)配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR-H2、および
(c)配列番号24のアミノ酸配列を含むCDR-H3
を含む重鎖可変ドメイン(VH);ならびに
(d)配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
(e)配列番号26のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
(f)配列番号27のアミノ酸配列を含むCDR-L3
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
第2の抗原結合ドメインが、
(a)配列番号34のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
(b)配列番号35のアミノ酸配列を含むCDR-H2、および
(c)配列番号36のアミノ酸配列を含むCDR-H3
を含む重鎖可変ドメイン(VH);ならびに
(d)配列番号37のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
(e)配列番号38のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
(f)配列番号39のアミノ酸配列を含むCDR-L3
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、総グリカンあたり、19.0~29.0%(w/w)のG1および1.3~2.8%(w/w)のG2;好ましくは、総グリカン当たり20.0~28.0%(w/w)のG1および1.4~2.7%(w/w)のG2;より好ましくは、総グリカンあたり21.0~28.0%(w/w)のG1および1.5~2.7%(w/w)のG2、最も好ましくは総グリカンあたり21.0~27.4%(w/w)のG1および1.5~2.6%(w/w)のG2を有する。
好ましくは、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は抗体であり、
(a)第1の抗原結合ドメインは配列番号28のVH配列を含み、第2の抗原結合ドメインは配列番号40のVH配列を含み;
(b)第1の抗原結合ドメインは配列番号29のVL配列を含み、第2の抗原結合ドメインは配列番号41のVL配列を含み;
(c)第1および第2の抗原結合ドメインは、(a)に記載のVH配列および(b)に記載のVL配列を含む。
好ましくは、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は抗体であり、
(a)第1の抗原結合ドメインのVH配列は配列番号28のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有し、第2の抗原結合ドメインのVH配列は配列番号40のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する;
(b)第1の抗原結合ドメインのVL配列は配列番号29のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有し、第2の抗原結合ドメインのVL配列は配列番号41のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する;または
(c)抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、(a)に記載の第1および第2の抗原結合ドメインのVH配列ならびに(b)に記載の第1および第2の抗原結合ドメインのVL配列を含む。
本明細書および本発明との関連に開示されるように、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は抗体であり、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は第3の抗原結合ドメインを含み得る。例えば、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は抗体であり、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体はCD20に結合する第3の抗原結合ドメインを含む。あるいは、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は抗体であり、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体はCD3に結合する第3の抗原結合ドメインを含む。本明細書で使用される、抗原結合ドメインに関する「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、各タイプのドメインが1つを超えて存在するときに区別の便宜のために使用される。これらの用語の使用は、そのように明示的に示されていない限り、特定の順序または向きを与えることを意図していない。
例えば、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、CD3に結合する第2の抗原結合ドメインと、CD20に結合する第1および第3の抗原結合ドメインとを含み得る。より具体的な一例として、第3の抗原結合ドメインは第1の抗原結合ドメインと同一であり得る(すなわち、第1の抗原結合ドメインおよび第3の抗原結合ドメインは、同じ重鎖アミノ酸配列および軽鎖アミノ酸配列を含み得る)。さらにより詳細には、第1の抗原結合ドメインと第3の抗原結合ドメインとを含む第1のFab分子と第3のFab分子とは同一であってもよく、さらに、同じ配置のドメイン(すなわち、従来または交差)を有していてもよい。
他の例として、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、CD3に結合する第1の抗原結合ドメインと、CD20に結合する第2および第3の抗原結合ドメインとを含み得る。より具体的な一例として、第3の抗原結合ドメインは第2の抗原結合ドメインと同一であり得る(すなわち、第2の抗原結合ドメインおよび第3の抗原結合ドメインは、同じ重鎖アミノ酸配列および軽鎖アミノ酸配列を含み得る)。さらにより詳細には、第2の抗原結合ドメインと第3の抗原結合ドメインとを含む第2のFab分子と第3のFab分子とは同一であってもよく、さらに、同じ配置のドメイン(すなわち、従来または交差)を有していてもよい。
本明細書中に記載されるより具体的な例として、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、第3の抗原結合ドメインを含んでいてもよく、第3の抗原結合ドメインは、
(a)配列番号34のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
(b)配列番号35のアミノ酸配列を含むCDR-H2、および
(c)配列番号36のアミノ酸配列を含むCDR-H3
を含む重鎖可変ドメイン(VH);ならびに
(d)配列番号37のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
(e)配列番号38のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
(f)配列番号39のアミノ酸配列を含むCDR-L3
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、総グリカンあたり、19.0~29.0%(w/w)のG1および1.3~2.8%(w/w)のG2;好ましくは、総グリカン当たり20.0~28.0%(w/w)のG1および1.4~2.7%(w/w)のG2;より好ましくは、総グリカンあたり21.0~28.0%(w/w)のG1および1.5~2.7%(w/w)のG2、最も好ましくは総グリカンあたり21.0~27.4%(w/w)のG1および1.5~2.6%(w/w)のG2を有する。
さらにより具体的な一例として、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は抗体であり、第3の抗原結合ドメインは配列番号40のVH配列および配列番号41のVL配列を含み得る。好ましくは、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は抗体であり、第3の抗原結合ドメインは、配列番号40のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する第3の抗原結合ドメインのVH配列、および配列番号41のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する第3の抗原結合ドメインのVL配列を含み得る。
抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の第1の抗原結合ドメインは、Fab重鎖およびFab軽鎖の可変ドメインまたは定常ドメインが交換された交差Fab分子であり、第2および第3の抗原結合ドメインは、存在する場合、従来のFab分子であり得る。例えば、CD3に特異的に結合する抗原結合ドメインは、Fab重鎖およびFab軽鎖の可変ドメインまたは定常ドメインが交換されている(すなわち、互いに置き換えられる)交差Fab分子である。他のより具体的な例として、第1の抗原結合部分は交差Fab分子であり、第2の抗原結合部分および第1の抗原結合部分はそれぞれ従来のFab分子である。
「Fab分子」とは、免疫グロブリンの重鎖(「Fab重鎖」)のVHドメインおよびCH1ドメインと、免疫グロブリンの軽鎖(「Fab軽鎖」)のVLドメインおよびCLドメインと、からなるタンパク質を指す。「融合した」が意味するのは、構成要素(例えば、Fab分子およびFcドメインサブユニット)が、ペプチド結合によって直接的にまたは1つ以上のペプチドリンカーを介してのいずれかにより結合されていることである。
「交差」Fab分子(「Crossfab」とも呼ばれる)とは、Fab重鎖および軽鎖の可変ドメインおよび定常ドメインが交換されている(すなわち、互いに置き換わっている)Fab分子を意味し、すなわち、クロスオーバーFab分子は、軽鎖可変ドメインVLおよび重鎖定常ドメイン1 CH1(VL-CH1、N末端からC末端方向に)から構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメインVHおよび軽鎖定常ドメインCL(VH-CL、N末端からC末端方向に)から構成されるペプチド鎖と、を含む。明確性のために、Fab軽鎖およびFab重鎖の可変ドメインが交換されている交差Fab分子において、重鎖定常ドメイン1 CH1を含むペプチド鎖は、本明細書では、(交差)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。逆に、Fab軽鎖およびFab重鎖の定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖可変ドメインVHを含むペプチド鎖は、本明細書では、(交差)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。
これとは対照的に、「従来の」Fab分子は、その天然のフォーマットでのFab分子を意味し、すなわち、重鎖可変ドメインおよび定常ドメインで構成される重鎖(VH-CH1、N末端からC末端方向に)と、軽鎖可変ドメインおよび定常ドメインで構成される軽鎖(VL-CL、N末端からC末端方向に)と、を含む。
第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端で、Fcドメインの第1または第2のサブユニットのN末端に融合され得る。本明細書で使用されるFcドメインの「サブユニット」は、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチドのうちの1つ、すなわち安定な自己会合が可能な免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含むポリペプチドを指す。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2およびIgG CH3定常ドメインを含む。
例えば、第2および第3のFab分子は、それぞれFab重鎖のC末端でFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合しており、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合している。より具体的には、抗体は、第1、第2および第3のFab分子と、第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意に1つ以上のペプチドリンカーとから本質的になり、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している(欧州特許出願公開第3252078号、具体的には段落[0338]と組み合わせた図1B、図1E、図1Iおよび図1Mも参照されたい、これらは参照により本明細書に組み込まれる)。
言い換えれば、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、第3の抗原結合ドメインを含んでいてもよく、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の第1の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端において第2の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合され、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の第2の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合され、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の第3の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合される。
第2および第3のFab分子は、Fcドメインに直接的にまたはペプチドリンカーを介して融合していてもよい。例えば、第2および第3のFab分子は、免疫グロブリンヒンジ領域を介して、各々がFcドメインに融合している。具体的には、特にFcドメインがIgG1 Fcドメインである場合、免疫グロブリンヒンジ領域はヒトIgG1ヒンジ領域である。任意に、第1のFab分子のFab軽鎖および第2のFab分子のFab軽鎖は、追加的に互いに融合していてもよい。
あるいは、第1および第3のFab分子は、それぞれFab重鎖のC末端でFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合しており、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合している。より具体的には、抗体は、第1、第2および第3のFab分子と、第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意に1つ以上のペプチドリンカーとから本質的になり、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している(欧州特許出願公開第3252078号、具体的には段落[0339]と組み合わせた図1C、図1F、図1Jおよび図1Nも参照されたい、これらは参照により本明細書に組み込まれる)。
言い換えれば、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、第3の抗原結合ドメインを含んでいてもよく、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の第2の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合され、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の第1の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合され、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の第3の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合される。
第1および第3のFab分子は、Fcドメインに直接的にまたはペプチドリンカーを介して融合していてもよい。例えば、第1および第3のFab分子は、免疫グロブリンヒンジ領域を介して、各々がFcドメインに融合している。具体的には、特にFcドメインがIgG1 Fcドメインである場合、免疫グロブリンヒンジ領域はヒトIgG1ヒンジ領域である。任意に、第1のFab分子のFab軽鎖および第2のFab分子のFab軽鎖は、追加的に互いに融合していてもよい。
さらに代替的に、第1および第2のFab分子は、それぞれFab重鎖のC末端でFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合しており、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合している。より具体的には、抗体は、第1、第2および第3のFab分子と、第1および第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意に1つ以上のペプチドリンカーとから本質的になり、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合され、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合され、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合される。言い換えれば、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、第3の抗原結合ドメインを含んでいてもよく、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の第3の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端において第1の抗原結合ドメインのFab重鎖のN末端に融合され、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の第1の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合され、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体の第2の抗原結合ドメインは、Fab重鎖のC末端においてFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合される。
第1および第2のFab分子は、Fcドメインに直接的にまたはペプチドリンカーを介して融合していてもよい。例えば、第1および第2のFab分子は、免疫グロブリンヒンジ領域を介して、各々がFcドメインに融合している。具体的には、特にFcドメインがIgG1 Fcドメインである場合、免疫グロブリンヒンジ領域はヒトIgG1ヒンジ領域である。任意に、第1のFab分子のFab軽鎖および第3のFab分子のFab軽鎖は、追加的に互いに融合していてもよい。
本明細書および本発明との関連において使用される抗CD20/抗CD3二重特異性抗体のさらなる構成は、例えば、欧州特許第3252078号、特に図1および段落[0335]~[0367]に見出すことができ、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
さらにより具体的には、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は抗体であり、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、
(a)配列番号47のアミノ酸配列と少なくとも99%の配列同一性を有する第1の重鎖および配列番号45のアミノ酸配列と少なくとも99%の配列同一性を有する第2の重鎖、
(b)配列番号33のアミノ酸配列と少なくとも99%の配列同一性を有する第1の軽鎖、配列番号44のアミノ酸配列と少なくとも99%の配列同一性を有する第2および第3の軽鎖、
(c)(a)に記載の第1の重鎖および第2の重鎖ならびに(b)に記載の第1の軽鎖、第2の軽鎖および第3の軽鎖
を含み得る。
さらにより具体的には、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は抗体であり、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体は、
(a)配列番号47の第1の重鎖および配列番号45の第2の重鎖、
(b)配列番号33の第1の軽鎖、配列番号44の第2の軽鎖および第3の軽鎖または
(c)(a)に記載の第1の重鎖および第2の重鎖ならびに(b)に記載の第1の軽鎖、第2の軽鎖および第3の軽鎖
を含む。
本発明の他の局面において、モノガラクトシル化(G1)またはジガラクトシル化(G2)グリカンを有する組換えタンパク質は、抗α-シヌクレイン抗体であり、抗α-シヌクレイン抗体は、総グリカンあたり17.2~48.0%(w/w)のG1および3.1~15.0%(w/w)のG2、好ましくは、総グリカンあたり25.4~48.0%(w/w)のG1および3.5~15.0%(w/w)のG2、好ましくは、総グリカンあたり27.2~47.0%のG1および4.4~15.0%のG2、好ましくは、総グリカンあたり40.0~46.0%(w/w)のG1および8.4~15.0%(w/w)のG2、より好ましくは、総グリカンあたり41.0~45.0%(w/w)のG1および9.5~14.0%(w/w)のG2、最も好ましくは総グリカンあたり42.1~43.9%(w/w)のG1および10.6~13.3%(w/w)のG2を有する。
特に、モノガラクトシル化(G1)グリカンおよびジガラクトシル化(G2)グリカンを有する抗α-シヌクレイン抗体は、
(a)配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
(b)配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR-H2、および
(c)配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR-H3
を含む重鎖可変ドメイン(VH);ならびに
(d)配列番号13のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
(e)配列番号14のアミノ酸配列を含むCDR-L2、および
(f)配列番号15のアミノ酸配列を含むCDR-L3
を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
抗α-シヌクレイン抗体は、総グリカンあたり17.2~48.0%(w/w)のG1および3.1~15.0%(w/w)のG2;好ましくは、総グリカンあたり25.4~48.0%(w/w)のG1および3.5~15.0%(w/w)のG2;好ましくは、総グリカンあたり27.2~47.0%のG1および4.4~15.0%のG2;好ましくは、総グリカンあたり40.0~46.0%(w/w)のG1および8.4~15.0%(w/w)のG2;より好ましくは、総グリカンあたり41.0~45.0%(w/w)のG1および9.5~14.0%(w/w)のG2、最も好ましくは総グリカンあたり42.1~43.9%(w/w)のG1および10.6~13.3%(w/w)のG2を有する。
より具体的には、抗α-シヌクレイン抗体は、
(a)配列番号16のVH配列、
(b)配列番号17のVL配列、または
(c)(a)に記載のVH配列および(b)に記載のVL配列
を含む。
さらにより具体的には、抗α-シヌクレイン抗体は、
(a)配列番号16のアミノ酸配列に少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列、
(b)配列番号17のアミノ酸配列に少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列、または
(c)(a)に記載のVH配列および(b)に記載のVL配列
を含む。
さらにより詳細には、抗α-シヌクレイン抗体は、配列番号20のアミノ酸配列に対して少なくとも99%の配列同一性を有する重鎖と、配列番号21のアミノ酸配列に対して少なくとも99%の配列同一性を有する軽鎖とを含む。
さらにより詳細には、抗α-シヌクレイン抗体は、配列番号20の重鎖と、配列番号21の軽鎖とを含む。
参照ポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列を整列させ、最大のパーセント配列同一性を得るために必要ならば間隙を導入した後、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとした場合の、参照ポリペプチドのアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のための整列は、当技術分野における技術の範囲内にある種々の方法において、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェア等の公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを用いて達成され得る。当業者であれば、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列の整列のための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、本明細書での目的のために、アミノ酸配列同一性%値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を用いて生成している。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、Genentech,Inc.が作成したものであり、ソースコードは、使用者用書類と共に、米国著作権局、Washington D.C.、20559に提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech,Inc.(South San Francisco,California)から公的に入手可能であり、またはそのソースコードからコンパイルし得る。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含め、UNIXオペレーティングシステムで使用するためにコンパイルされるべきである。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定されており、変わらない。ALIGN-2がアミノ酸配列比較に用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Bへの、アミノ酸配列Bとの、またはアミノ酸配列Bに対する、所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性%(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、アミノ酸配列Bとの、またはアミノ酸配列Bに対する、ある特定のアミノ酸配列同一性%を有するまたは含む、所与のアミノ酸配列Aとして記述され得る)は、以下:100×分数X/Yのように計算され、式中、Xは、配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、そのプログラムのAとBのアラインメントにおいて同一のマッチとしてスコア付けされたアミノ酸残基の数であり、Yは、B中のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと異なる場合、AのBに対する%アミノ酸配列同一性は、BのAに対する%アミノ酸配列同一性とは異なることは理解されるであろう。特に断らない限り、本明細書で使用される全ての%アミノ酸配列同一性値は、ALIGN-2コンピュータプログラムを使用して、直前の段落で記載したように得られる。
本発明の参照ヌクレオチド配列と少なくとも、例えば95%「同一の」ヌクレオチド配列を有する核酸またはポリヌクレオチドとは、このポリヌクレオチドのヌクレオチド配列が、参照ヌクレオチド配列の100ヌクレオチドあたり5個までの点突然変異を含んでいてもよいことを除けば、参照配列と同一であることを意図している。言い換えると、参照ヌクレオチド配列と少なくとも95%同一のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、参照配列内のヌクレオチドの5%までが、欠失していてもよく、もしくは他のヌクレオチドで置換されていてもよく、または参照配列内の全ヌクレオチドの5%までが、参照配列内へと挿入されていてもよい。参照配列のこれらの変更は、参照ヌクレオチド配列の5’末端位置もしくは3’、または5’と3’末端位置との間の、参照配列内の残基間で個々にかもしくは参照配列内での1つ以上の連続した基においてかのいずれかに点在しているどこかで起こってもよい。実際の様式として、任意の特定のポリヌクレオチド配列が、本発明のヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一であるかどうかは、既知のコンピュータプログラム、例えば、ポリペプチドについて上に記載したもの(例えば、ALIGN-2)を用いて、従来通りに決定することができる。
好ましくは、本発明との関連において開示されるような抗CD20/抗CD3二重特異性抗体または抗α-シヌクレイン抗体のモノガラクトシル化(G1)グリカンおよびジガラクトシル化(G2)グリカンは、N-アセチルグルコサミンと会合している。
本明細書で使用される、「細胞培養培地」および「培地」という用語は、交換可能に使用され、典型的には、以下のカテゴリーのうちの1つ以上からの、少なくとも1つの構成要素を提供する、哺乳動物細胞を増殖させるのに使用される栄養素溶液を指す:1)通常はグルコース等の炭水化物の形態のエネルギー源、2)全ての必須アミノ酸、通常は20アミノ酸+システインの基本セット、3)低濃度で必要とされるビタミンおよび/または他の有機化合物、4)遊離脂肪酸、および5)微量元素であり、微量元素は、通常はマイクロモル範囲の非常に低い濃度で典型的に必要とされる無機化合物または天然に存在する元素として定義される。特定の細胞株に必要な増殖因子等の構成要素は、例えばMammalian Cell Culture(Mather,J.P.ed.,Plenum Press,N.Y.1984)、およびBarnesおよびSato,(1980)Cell,22:649に記載されているように、過度な実験をすることなく、実験により速やかに決定される。
本明細書および本発明との関連に開示されるように、モノガラクトシル化(G1)グリカンおよびジガラクトシル化(G2)グリカンを有する抗体を産生するための細胞培養培地は、4.0mM超および10.0mM未満の濃度の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基および少なくとも3.0g/L超の濃度のグルコースを含む細胞培養培地である。
本発明の好ましい局面において、本発明との関連で開示される細胞培養培地は、少なくとも4.0mM超および9.0mM以下、好ましくは少なくとも4.0mM超および8.0mM以下、より好ましくは少なくとも4.0mM超および7.0mM以下、さらにより好ましくは少なくとも4.0mM超および6.0mM以下の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基を含む。
他の好ましい局面において、本発明との関連で開示される細胞培養培地は、少なくとも5.0mMおよび10.0mM未満、好ましくは少なくとも5.0mMおよび9.0mM以下、より好ましくは少なくとも5.0mMおよび8.0mM以下、さらにより好ましくは少なくとも5.0mMおよび7.0mM以下、最も好ましくは少なくとも5.0mMおよび6.0mM以下の濃度の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基を含む。
あるいは(例えば、システインおよび/またはシスチンの場合)、細胞培養培地は、0.7g/L超と1.2g/L以下との間、好ましくは0.7g/L超と1.1g/L以下との間、より好ましくは0.7g/L超と1.0g/L以下との間の、より好ましくは0.7g/L超と0.9g/L以下との間、さらにより好ましくは0.7g/L超と0.8g/Lとの間の1つ以上のスルフヒドリル化合物を含む。
本発明と関連して開示される細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来の1つ以上のスルフヒドリル基は、還元型および/または酸化型で含まれる。例えば、前記スルフヒドリルの還元型は、4.0mM超と10.0mM未満との間の範囲であり、および/または前記スルフヒドリルの酸化型の濃度は、2.0mM超と5.0mM未満との間の範囲である。
本明細書および本発明に関連して開示される、1つ以上のスルフヒドリル化合物は、システイン、シスチン、スクシマー、メチマゾール、システアミン、アザチオプリン、メルカプトプリン、S-メチルシステイン、セレノシステイン、S-ホスホシステイン、4’-ホスホパンテテイン、ブチリルチオコリン、カルボシステイン、N-スルホシステイン、アレチン、アセチルシステイン、ジメルカプロール、補酵素M、ナトリウムアウロチオマレート、パンテチン、ブシラミン、メチルセレノシステイン、ジメルカプトココハク酸、アセチルシステインアミド、チオグリコール酸、2,3-ジメルカプトプロパノール、O-メチルメルカプトエタノール、メルカプト酢酸、フルメルカプトプロピオン酸、メチルメルカプタン、S-メチルメルカプトエタノール、グルタチオン、グルタチオン誘導体(deivative)、およびそれらの組合せからなる群から選択される。好ましくは、1つ以上のスルフヒドリル化合物は、システイン、シスチン、およびその組合せからなる群から選択される。
特に、1つ以上のスルフヒドリル化合物は、システイン、シスチン、およびその組合せからなる群から選択され得る。例えば、1つ以上のスルフヒドリル化合物はシステインであり、細胞培養培地中のシステイン濃度は4.0mM超および10.0mM未満であり、好ましくはシステイン濃度は少なくとも5.0mMおよび6.0mM以下である。
あるいは(例えば、システインおよび/またはシスチンの場合)、哺乳動物細胞においてモノガラクトシル化またはジガラクトシル化グリカンを有する組換えタンパク質を産生するための細胞培養培地は、0.5g/L~1.2g/L、好ましくは0.6g/L~1.2g/Lの1つ以上のスルフヒドリル化合物を含む。
本明細書および本発明との関連で開示される細胞培養培地は、少なくとも3.0g/L超のグルコース、より好ましくは少なくとも4.0g/L超のグルコースを含み得る。あるいは、細胞培養培地は、最大13.0g/L、好ましくは8.0g/L、より好ましくは最大7.0g/L、さらにより好ましくは最大6.0g/L、最も好ましくは最大5.0g/Lのグルコースを含み得る。特に、本明細書および本発明との関連において記載される細胞培養培地は、3.0g/L超と13g/Lとの間のグルコース、好ましくは3.0g/L超と最大8.0g/Lとの間のグルコース、より好ましくは3.0g/L超と最大7.0g/Lとの間のグルコース、さらにより好ましくは3.0g/L超と最大6.0g/Lとの間のグルコース、最も好ましくは3.0g/L超と最大5.0g/Lとの間のグルコースを含み得る。
当技術分野の当業者によって認識されるように、組換えタンパク質産生のために細胞を培養するために使用される基礎培地および供給培地、ならびに供給スケジュール、増殖速度、温度および酸素レベル等の他の変数は、発現されるタンパク質の収量および品質に影響を及ぼし得る。これらの条件を最適化する方法は、当業者の知識の範囲内であり、例示的な条件は、本明細書の実施例に記載されている。本明細書および本発明との関連に記載するように、細胞培養培地は、既知組成培地、好ましくは血清不含有、タンパク質不含有および/またはオリゴペプチド不含有細胞培養培地である。
既知組成培地は、哺乳動物細胞の培養のためのそのような培地を含めて、近年広く開発され、公開されている。定義された培地の全ての構成要素は十分に特徴付けられており、そのような培地は血清および加水分解物等の複雑な添加剤を含有しない。典型的には、これらの培地は、規定量の精製された増殖因子、タンパク質、リポタンパク質、および他の方法で血清または抽出物サプリメントによって提供され得る他の物質を含む。そのような培地は、生産性の高い細胞培養を支援するという唯一の目的で製造されてきた。特定の定義された培地は、低タンパク質培地と呼ばれてもよく、または、低タンパク質培地の典型的な構成要素、インスリンおよびトランスフェリンが含まれない場合、タンパク質を含まなくてもよい。そうでなければ、血清不含有培地を本発明の方法において使用することができる。そのような培地は、通常、血清またはタンパク質画分を含有しないが、未定義の構成要素を含有し得る。市販の培養培地の例としては、ハムF10(Sigma)、最小必須培地(MEM、Sigma)、RPMI-1640(Sigma)およびダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma)、ならびにLife Technologiesによって販売されている既知組成培地および供給サプリメントが挙げられる。これらの培地のうちのいずれかには、必要に応じて、ホルモンおよび/または他の増殖因子(インスリン、トランスフェリン、または上皮増殖因子等)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩等)、緩衝剤(HEPES等)、ヌクレオシド(アデノシンおよびチミジン等)、抗生物質(GENTAMYCIN(商標)等)、ならびにグルコースまたは等価エネルギー源が補充され得る。特定の細胞株についての、濃度を含む、培地に必要な栄養素および増殖因子は、例えば、Mammalian Cell Culture,Mather(Plenum Press:NY 1984);BarnesおよびSato,Cell 22(1980)649またはMammalian Cell Biotechnology:A Practical Approach M.Butler(IRL Press,1991)に記載されているように、実験的に、および過度の実験を行うことなく決定される。適切な培地は、基礎培地構成要素、例えばアミノ酸、塩、糖およびビタミン等のいくつかの構成要素の改変された濃度を有するDMEM/HA F12ベースの製剤を含み、任意にグリシン、ヒポキサンチン、チミジン、組換えヒトインスリン、加水分解ペプトン、例えばPRIMATONE HS(商標)またはPRIMATONE RL(商標)(Sheffield,England)または同等物、細胞保護剤、例えばPLURONIC F68(商標)または同等のプルロニックポリオールおよびGENTAMYCIN(商標)を含む。
本発明の他の局面において、細胞培養培地は、既知組成培地、好ましくは血清不含有、タンパク質不含有および/またはオリゴペプチド不含有細胞培養培地であり、細胞培養培地は、4.0mM~10.0mMの、1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基を含む。他の好ましい局面において、細胞培養培地は、既知組成培地、好ましくは血清不含有、タンパク質不含有および/またはオリゴペプチド不含有の細胞培養培地であり、細胞培養培地は、少なくとも4.0mMおよび9.0mM以下、好ましくは少なくとも4.0mM超および8.0mM以下、より好ましくは少なくとも4.0mM超および7.0mM以下、さらにより好ましくは少なくとも4.0mM超および6.0mM以下の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基を含む。本発明のさらに他の好ましい局面において、細胞培養培地は、既知組成培地、好ましくは血清不含有、タンパク質不含有および/またはオリゴペプチド不含有細胞培養培地であり、細胞培養培地は、少なくとも5.0mMおよび10.0mM未満、好ましくは少なくとも5.0mMおよび9.0mM以下、より好ましくは少なくとも5.0mMおよび8.0mM以下、さらにより好ましくは少なくとも5.0mMおよび7.0mM以下、最も好ましくは少なくとも5.0mMおよび6.0mM以下の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基を含む。
上記のように市販の培地中にあると計算された1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度は、それらの培地に血清またはペプトン等の複雑な成分が補充されている場合には変化する。本発明の方法が、培地に1つ以上のスルフヒドリル化合物を添加することによって培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度を調整することを含む場合、本明細書に提供され、組換えタンパク質の産生のために培地に含めるのに適した任意のスルフヒドリル化合物を使用することができる。
図3は、スルフヒドリル化合物によるCHO K1中のUDP-グルコースおよびUDP-ガラクトースの相互変換経路の調節を示す。図3に示すように、L-システイン等のスルフヒドリル化合物を添加してUDP-Gal-Tを刺激することにより、より多くのUDP-ガラクトースがUDP-グルコースに変換され、その結果、細胞質に残るUDP-ガラクトースが少なくなり得る。図4に示すように、L-システインの代わりにL-シスチンを細胞培養培地に添加することによって、L-システインによってUDP-Gal-T酵素活性を刺激する効果は細胞質において減弱され得る。一方、L-シスチン取り込みの増加は、細胞生存を調節し、UDP-ガラクトース代謝プロセスを改善するためのより効果的なレドックス系を提供し得る。
本発明の他の局面は、CHO K1およびその誘導体細胞株等の哺乳動物細胞における細胞内UDP-グルコースおよびUDP-ガラクトース濃度をインビボで調節するための、L-システインおよび/またはシスチン等の単純なスルフヒドリル分子の使用である。例えば、L-シスチンを培養培地に添加して、CHO K1中の細胞内UDP-グルコースおよびUDP-ガラクトース濃度をインビボで調節することができる。このようにして、最終生成物の量および品質は、予め定義された臨床用途のために制御および改善することができる。
生成物グリコシル化および細胞培養プロセスを制御するためのUDP-グルコース/UDP-ガラクトース経路の調節
図5に示すように、UDP-ガラクトースは、グリコシルトランスフェラーゼによって触媒される異なるガラクトシル化反応においてガラクトシルドナーとして作用する。例えば、UDP-α-D-ガラクトース:N-アセチル-β-D-グルコサミニルグリコペプチド4-β-ガラクトシル-トランスフェラーゼ(EC 2.4.1.38)は、ガラクトシル基をUDP-ガラクトースからGlcNAcに転移させることによってGalβ1-4 GlcNAc結合の形成を触媒する(Qasbaら、Curr.Drug.Targets.9(2008)292-309)。
細胞質中のL-システインの増加は、酵素UDP-Gal-Tを刺激して、より多くのUDP-ガラクトースをUDP-グルコースに変換し、その後のガラクトシル化反応のためのUDP-ガラクトースの細胞質プールの減少をもたらし得る。一方、細胞培養培地中のL-システインの代わりにL-シスチンの存在下においては、L-シスチンは系xc
-を通って細胞内に輸送される。L-シスチン取り込みが増加すると、酵素UDP-Gal-T刺激が減弱し、その後のガラクトシル化反応のためのUDP-ガラクトースの均衡のとれた細胞質プールがもたらされ得る。
本発明によれば、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度は、哺乳動物細胞によって産生される組換えタンパク質のガラクトシル化パターンに影響を及ぼすように制御される。約4mM~10mMの範囲のスルフヒドリル基を有する1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度を使用してもよく、これは培養されている特定の宿主細胞および産生される組換えタンパク質の所望のガラクトシル化パターンに従って改変することができる。所望のガラクトシル化パターンを有するタンパク質を産生するために、組換えタンパク質の一定の均一なガラクトシル化パターンを提供する1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度が選択される。組換えタンパク質のガラクトシル化含有量を増加させるために、一般的に、より低い濃度は、哺乳動物宿主細胞培養物の生存率を維持しながら、向上したガラクトシル化含有量を提供する。一般的に、約4mM~10mM、好ましくは約5mM~10mMの範囲のスルフヒドリル基を有するシステインおよび/またはシスチン等の1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度が使用される。より好ましくは、少なくとも約5.0mMと9.0mM以下との間、より好ましくは少なくとも約5.0mMと8.0mM以下との間、さらにより好ましくは少なくとも約5.0mMと7.0mM以下との間、最も好ましくは少なくとも約5.0mMと6.0mM以下との間の濃度が使用される。あるいは(例えば、システインおよび/またはシスチンの場合)、少なくとも約0.6g/Lと1.1g/L以下との間、より好ましくは少なくとも約0.6g/Lと1.0g/L以下との間、より好ましくは少なくとも約0.6g/Lと0.9g/L以下との間、さらにより好ましくは少なくとも約0.6g/Lと0.8g/L以下との間、最も好ましくは少なくとも約0.6g/Lと0.7g/L以下との間の濃度が使用される。
本明細書で使用される、1つ以上のスルフヒドリル化合物に関する「濃度」という用語は、培養培地内に含まれる全てのスルフヒドリル化合物の総濃度を指す。本明細書で使用される、スルフヒドリル基に関する「濃度」という用語は、培養培地内に含まれる全てのスルフヒドリル化合物の総濃度を指す。これに関連して、スルフヒドリル基は、-SH(本明細書では[-SH]とも呼ばれる)を指し、および反応を受けたスルフヒドリル基を指していてもよく、水素はスルフヒドリル基の硫黄原子から解離し、前記硫黄原子は、前記反応を受けたのスルフヒドリル基とS-S結合を形成する。言い換えれば、「スルフヒドリル基」という用語は、例えばジスルフィド架橋によって連結されているスルフヒドリル基も含む。濃度は、所与の時点で細胞を囲む培地中のスルフヒドリル化合物の測定された、もしくは測定可能な、または計算されたもしくは計算可能な実際の濃度であり得る。培地中のこれらのスルフヒドリル化合物の濃度を測定する方法は、当技術分野で公知である。そのような方法の例としては、PCI-MS(Agilent、Boblingen、Germany)が挙げられる。したがって、濃度はまた、培養中に細胞を囲む培養培地に含まれるスルフヒドリル化合物の量、したがって、所与の時点におけるそれぞれのスルフヒドリル化合物の実際の濃度を指す。この濃度は分析的に決定することができ、例えば、培養物へのスルフヒドリル化合物の導入(秤量、前培養物からの細胞および培地の移入、不純物の導入、浸出等による)、細胞による放出(例えば、細胞の死滅、または活性分泌による)、細胞による取り込みおよび他の要因から生じる。
本発明に関連して使用される場合、細胞培養培地は、レベルが上昇した1つ以上のスルフヒドリル化合物を含まない細胞培養培地と比較して、レベルが上昇した1つ以上のスルフヒドリル化合物を含む。
特に、本発明は、組換えタンパク質または抗体、特に抗CD20/抗CD3二重特異性抗体または抗α-シヌクレイン抗体等の糖タンパク質を産生する方法であって、
(a)本明細書に記載の細胞培養培地中で本明細書に記載の哺乳動物細胞を培養することであって、細胞培養培地中の少なくとも4.0mM超および10.0mM未満の、1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基および少なくとも3.0g/L超のグルコースの濃度が、少なくとも3日間、より好ましくは少なくとも4日間、さらにより好ましくは少なくとも5日間維持される、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を培養することと、
(b)前記抗体を単離することと
を含む、方法に関する。
本発明の方法に関連して、組換えタンパク質は、レベルが上昇した1つ以上のスルフヒドリル化合物を含まない培地を使用して産生された組換えタンパク質の対応するレベルと比較して、レベルが上昇したモノガラクトシル化またはジガラクトシル化グリカンを有する。本発明の方法に関連して使用される場合、組換えタンパク質は、モノガラクトシル化またはジガラクトシル化グリカンのレベルが少なくとも3%、より好ましくは少なくとも5%、さらにより好ましくは少なくとも10%上昇している。本発明の方法に関連して使用される場合、産生された組換えタンパク質の力価は、レベルが上昇した1つ以上のスルフヒドリル化合物を含まない培地を使用して産生された対応する組換えタンパク質の力価と比較して増加している。好ましくは、産生された組換えタンパク質の力価は少なくとも2000mg/Lである。
本発明の方法に関連して使用される場合、細胞培養培地中の細胞の生存細胞密度は、レベルが上昇した1つ以上のスルフヒドリル化合物を含まない培地中の細胞の対応する生存細胞密度と比較して増加している。好ましくは、細胞培養培地中の細胞の最大生存細胞密度は、少なくとも約120×105細胞/mLである。
例えば、組換タンパク質は、総グリカンあたり、19.0~29.0%(w/w)のG1および1.3~2.8%(w/w)のG2、好ましくは、総グリカンあたり20.0~28.0%(w/w)のG1および1.4~2.7%(w/w)のG2、より好ましくは、総グリカンあたり21.0~28.0%(w/w)のG1および1.5~2.7%(w/w)のG2、最も好ましくは総グリカンあたり21.0~27.4%(w/w)のG1および1.5~2.6%(w/w)のG2を有する抗CD20/抗CD3二重特異性抗体であり得る。哺乳動物細胞の前記培養は、細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基の少なくとも4.0mM超および10.0mM未満の濃度を維持しない、哺乳動物細胞の対応する培養における力価と比較して、前記抗体の力価の少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも80%の増加をもたらし得る。
他の例として、組換タンパク質は、総グリカンあたり17.2~48.0%(w/w)のG1および3.1~15.0%(w/w)のG2、総グリカンあたり25.4~48.0%(w/w)のG1および3.5~15.0%(w/w)のG2;好ましくは、総グリカンあたり27.2~47.0%のG1および4.4~15.0%のG2;好ましくは、総グリカンあたり40.0~46.0%(w/w)のG1および8.4~15.0%(w/w)のG2;より好ましくは、総グリカンあたり41.0~45.0%(w/w)のG1および9.5~14.0%(w/w)のG2、最も好ましくは総グリカンあたり42.1~43.9%(w/w)のG1および10.6~13.3%(w/w)のG2を有する抗α-シヌクレイン抗体であり得る。哺乳動物細胞の前記培養は、細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基の少なくとも4.0mM超および10.0mM未満の濃度を維持しない、哺乳動物細胞の対応する培養における力価と比較して、前記抗体の力価の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも100%の増加をもたらし得る。他の例として、哺乳動物細胞の前記培養は、細胞培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物に由来する少なくとも4.0mM超および10.0mM未満のスルフヒドリル基の濃度を維持しない、哺乳動物細胞の対応する培養における力価と比較して9.0~75%の前記抗体の力価の増加をもたらし得る。
さらに、哺乳動物細胞の培養は、細胞培養培地中の少なくとも4.0mM超および10.0mM未満の、1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基の濃度を維持しない、哺乳動物細胞の対応する培養における抗α-シヌクレイン抗体の非モノガラクトシル化(G1)形態および非ジガラクトシル化(G2)形態と比較して、
(i)タンパク質標的結合の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも35%、さらにより好ましくは少なくとも45%、最も好ましくは少なくとも50%の増加
(ii)新生児型Fc受容体(FcRn)結合の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも33%、より好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも45%の増加、および/または
(iii)FcyRIIa結合の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも36%、さらにより好ましくは45%、最も好ましくは50%の増加
を特徴とするモノガラクトシル化(G1)グリカンおよびジガラクトシル化(G2)グリカンを有する抗α-シヌクレイン抗体をもたらす。
本明細書で使用される「組換えタンパク質」または「組換え発現タンパク質」は、そのような発現の目的のために操作された宿主細胞から発現されるタンパク質を指す。操作は、発現されるタンパク質をコードする1つ以上の異種遺伝子の導入等の1つ以上の遺伝子改変を含む。異種遺伝子は、その細胞において通常発現されるか、または宿主細胞に対して外来性であるタンパク質をコードし得る。あるいは、操作は、1つ以上の内因性遺伝子を上方制御または下方制御することであり得る。本発明に関連して使用される場合、組換えタンパク質は、モノガラクトシル化またはジガラクトシル化グリカンを有する。本明細書で使用される場合、組換えタンパク質の「グリカン」という用語は糖タンパク質を指す。本明細書中で使用される場合、「糖タンパク質」は、一般的に、約10超のアミノ酸および少なくとも1つのオリゴ糖側鎖を有するペプチドおよびタンパク質を指す。糖タンパク質は、宿主細胞と同属であってもよく、または好ましくは、利用される宿主細胞に対して異種である、すなわち外来性であり、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生されるヒトタンパク質である。好ましくは、哺乳動物の糖タンパク質(哺乳動物生物に元々由来する糖タンパク質)、より好ましくは培地中に直接分泌されるものが使用される。哺乳動物の糖タンパク質の例としては、サイトカインおよびその受容体等の分子、ならびに例えば腫瘍壊死因子アルファおよびベータ、その受容体およびその誘導体を含むサイトカインまたはその受容体を含むキメラタンパク質、ヒト成長ホルモンおよびウシ成長ホルモンを含む成長ホルモン、成長ホルモン放出因子、副甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、リポタンパク質、アルファ-1-アンチトリプシン、インスリンA鎖、インスリンB鎖、プロインスリン、卵胞刺激ホルモン;カルシトニン、黄体形成ホルモン、グルカゴン、凝固因子、例えば第VIIIC因子、第IX因子組織因子およびフォン・ヴィレブランド因子、プロテインC等の抗凝固因子、心房性ナトリウム利尿因子、肺サーファクタント、ウロキナーゼ、ヒト尿もしくは組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)等のプラスミノーゲン活性化因子、ボンベシン、トロンビン、造血増殖因子、エンケファリナーゼ、RANTES(regulated on activation normally T-cell expressed and secreted)、ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1-α)、ヒト血清アルブミン等の血清アルブミン、ムレラン阻害物質、リラキシンA鎖、リラキシンB鎖、プロリラキシン、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、β-ラクタマーゼ等の微生物タンパク質、DNase、インヒビン、アクチビン、血管内皮増殖因子(VEGF)、ホルモンまたは増殖因子の受容体、インテグリン、プロテインAまたはD、リウマチ因子、神経栄養因子、例えば骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3-4、-5もしくは-6(NT-3、NT-4、NT-5、またはNT-6)、またはNGF-β等の神経増殖因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、aFGF、bFGF等の線維芽細胞増殖因子上皮増殖因子(EGF)、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3、TGF-β4、TGF-β5を含むTGF-α、およびTGF-β等のトランスフォーミング増殖因子(TGF)、インスリン様増殖因子-Iおよび-II(IGF-IおよびIGF-II)、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-I)、インスリン様増殖因子結合タンパク質、CDタンパク質、例えばCD-3CD-4、CD-8、CD-19、エリスロポエチン、骨誘導因子、免疫毒素、骨形成タンパク質(BMP)、インターフェロン-アルファ、-ベータ、および-ガンマ等のインターフェロン、コロニー刺激因子(CSF)、例えばM-CSF、GM-CSF、およびG-CSF、インターロイキン(IL)、例えばIL-1~IL-10、スーパーオキシドジスムターゼ、T細胞受容体、表面膜タンパク質、減衰促進因子、例えばAIDSエンベロープの一部等のウイルス抗原、輸送タンパク質、ホーミング受容体、アドレスシン、調節タンパク質、抗体、キメラタンパク質、例えばイムノアドヘシン、および上に列挙したポリペプチドのいずれかの断片が挙げられる。糖タンパク質に関して本明細書で使用される「ガラクトシル化」は、G1およびG2糖構造をもたらす、1つ以上のガラクトース残基を含む糖タンパク質を指す。例えば、GlcNAc3Man3GlcNAc2Gal、GlcNAc3Man3GlcNAc2Gal2、GlcNAc3Man3GlcNAc2GalSiai、GlcNAc3Man3GlcNAc2Gal2SiaiおよびGlcNAc3Man3GlcNAc2Gal2Siai2等の1つ以上のシアル酸残基を含有するモノガラクトシル化またはジガラクトシル化グリカンを有するガラクトシル化組換えタンパク質。
本発明との関連で使用される一局面において、組換えタンパク質は抗体である。本明細書で使用される場合、「抗体」(Ab)という用語は、免疫グロブリン分子または免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、すなわち天然または部分的または全体的に合成的に産生されたFabまたはF(ab’)2断片等の抗原結合部位を含む分子を指す。「抗体」という用語は、その最も広い意味で使用され、それに限定するものではないが、所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体(免疫グロブリンFc領域を有する完全長抗体またはインタクトなモノクローナル抗体を含む)、ポリエピトープ特異性を有する抗体組成物、ポリクローナル抗体、多価抗体(典型的には3つ以上の抗原結合部位を有するように操作された)、少なくとも2つのインタクトな抗体から形成された多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、ダイアボディおよびscFv分子等の一本鎖分子、ならびに抗体断片(例えば、Fab、F(ab’)2およびFv)を含む様々な抗体構造を包含する。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位、すなわち、異なる抗原上の異なるエピトープまたは同じ抗原上の異なるエピトープに対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。多重特異性抗体は、完全長抗体または抗体断片として調製することができる。
多重特異性抗体を作製するための技術には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(MilsteinおよびCuello,Nature 305:537(1983)参照)および「ノブ・イン・ホール」操作(例えば、米国特許第5,731,168号およびAtwellら、J.Mol.Biol.270:26(1997)参照)が含まれるが、これらに限定されない。多重特異性抗体は、また、抗体Fcヘテロ二量体分子を作製するための静電ステアリング効果の操作(例えば、国際公開第2009/089004号参照);2つ以上の抗体もしくは断片の架橋(例えば、米国特許第4,676,980号およびBrennanら,Science,229:81(1985)参照);ロイシンジッパーを使用した二重特異性抗体の生成(例えば、Kostelnyら、J.Immunol.,148(5):1547-1553(1992)および国際公開第2011/034605号参照);軽鎖の誤対合問題を回避するための一般的な軽鎖技術の使用(例えば、国際公開第98/50431号参照);二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術の使用(例えば、Hollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)参照);および一本鎖Fv(sFv)二量体の使用(例えば、Gruberら,J.Immunol.,152:5368(1994)参照);ならびに例えばTuttらJ.Immunol.147:60(1991)に記載されている三重特異性抗体の調製によって作製することができる。
抗体の定義には、抗体コンジュゲート、例えば抗体薬物コンジュゲート(ADC)または例えば標識エレメントにコンジュゲートした抗体が含まれる。抗体が特定のタンパク質を標的化する際の診断剤および/または治療剤として有用であるように、特定の標的タンパク質に対して十分な親和性で結合する抗体が、抗体の定義にさらに含まれる。例えば、抗体は、α-シヌクレインを標的化する際の診断剤および/または治療剤として有用であるように、αシヌクレインに十分な親和性で結合することができる抗α-シヌクレイン抗体であり得る。
他の例として、抗体は、CD20-CD3を標的化する際の診断剤および/または治療剤として有用であるように、CD20-CD3に十分な親和性で結合することができる抗CD20/抗CD3抗体であり得る。一局面において、無関係な非標的タンパク質に対する抗体の結合度は、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定されるように、標的に対する抗体の結合の約10%未満である。特定の局面において、標的に結合する抗体は、1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下、0.1nM以下、0.01nM以下または0.001nM以下(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10--13M)の解離定数(KD)を有する。抗体が1μM以下のKDを有する場合、抗体は標的に「特異的に結合」すると言われる。特定の局面において、抗体は、異なる種由来の標的間で保存されている標的のエピトープに結合する。本発明との関連で使用される他の局面において、組換えタンパク質は治療用タンパク質である。例えば、組換えタンパク質が抗体である場合、抗体は、治療上有効な抗体であってもよく、Ang1、Ang2、Ang3およびAng4等のアンジオポエチンファミリーのメンバーおよびAng2/VEGF等のアンジオポエチンファミリーのメンバーと、例えばVEGFに二重特異性である抗体、HER1(EGFR)、HER2、HER3およびHER4等のHER受容体ファミリーのメンバー、CD3、CD4、CD8、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD25、CD33、CD34、CD38、CD40、CD44およびCD52等のCDタンパク質、LFA-1、VLA04、ICAM-1、VCAMおよびインテグリン等の細胞接着分子(例えば、抗CD11α、抗CD18または抗CD11β抗体)、血管内皮増殖因子(VEGF)等の増殖因子、胸腺間質リンホポエチン受容体(TSLP-R)等のサイトカイン受容体、IgE、血液型抗原、flk2/flt3受容体、肥満(OB)受容体およびプロテインCを含む任意のタンパク質に結合し得る。他の例示的なタンパク質としては、ヒト成長ホルモン(hGH)およびウシ成長ホルモン(bGH)を含む成長ホルモン(GH)、成長ホルモン放出因子、副甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、リポタンパク質、インスリンA鎖、インスリンB鎖、プロインスリン、卵胞刺激ホルモン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、グルカゴン、凝固因子、例えば第VIIIC因子、組織因子(TF)、フォン・ヴィレブランド因子、心房性ナトリウム利尿因子、肺サーファクタント、プラスミノーゲン活性化因子、例えばウロキナーゼ、組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)、ボンバジン、トロンビン、腫瘍壊死因子-α、-β、エンケファリナーゼ、RANTES(regulated on activation normally T-cell expressed and secreted)、ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1-α)、ヒト血清アルブミン(HSA)等の血清アルブミン、ムレラン阻害物質、リラキシンA鎖、リラキシンB鎖、プロリラキシン、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、DNase、インヒビン、アクチビン、ホルモンまたは増殖因子の受容体、プロテインAまたはD、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、癌腫胎児性抗原(CEA)、リウマチ因子、骨由来神経栄養因子(BDNF)等の神経栄養因子、ニューロトロフィン-3、-4、-5もしくは-6(NT-3、NT-4、NT-5またはNT-6)またはNGF-β等の神経増殖因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、aFGFおよびbFGF等の線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子(EGF)および上皮増殖因子受容体(EGFR)、TGF-1、TGF-2、TGF-3、TGF-4またはTGF-βδを含む、TGF-αおよびTGF-β等のトランスフォーミング増殖因子(TGF)、インスリン様増殖因子-1および-II(IGF-IおよびIGF-II)、des(1-3)-IGF-l(脳IGF-I)、インスリン様増殖因子結合タンパク質(IGFBP)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、骨誘導因子、免疫毒素、骨形成タンパク質(BMP)、インターフェロン(インターフェロン-α、-βまたは-γ)、コロニー刺激因子(CSF)、例えばM-CSF、GM-CSFおよびG-CSF、インターロイキン(IL)、例えばIL-1~IL-10およびIL-17、スーパーオキシドジスムターゼ、T細胞受容体、BlyS(Br3)受容体、Br3-Fcイムノアドヘシン、Apo-2受容体、Fc受容体、表面膜タンパク質、FAP(decay accelerating factor)、例えばAIDSエンベロープの一部等のウイルス抗原、輸送タンパク質、ホーミング受容体、アドレスシン、調節タンパク質、イムノアドヘシンおよび上記のいずれかの生物学的に活性な断片またはバリアントが挙げられる。あるいは、抗体は、乳房上皮細胞に対する、または結腸癌腫細胞に結合する抗体、抗EpCAM抗体、抗Gpllb/IIla抗体、抗RSV抗体、抗CMV抗体、抗HIV抗体、抗肝炎抗体、抗CA125抗体、抗ヒト腎細胞癌腫抗体、抗ヒト結腸直腸腫瘍抗体、GD3ガングリオシドに対する抗ヒトメラノーマ抗体R24、抗ヒト扁平上皮癌腫、抗ヒト白血球抗原(HLA)抗体、抗HLA DR抗体であり得る。
本明細書で使用される場合、「抗原」および「エピトープ」という用語は交換可能に使用され、抗体結合部分が結合して抗体結合部分-抗原複合体を形成する、タンパク質性または非タンパク質性のいずれかの抗原上の部位(例えば、連続したアミノ酸ストレッチ、または不連続なアミノ酸の異なる領域から構成される立体構造)を指す。したがって、エピトープは、抗体によって結合される抗原の領域である。エピトープは、連続したアミノ酸ストレッチ部位から形成される場合(線状エピトープ)、または非連続のアミノ酸を含む場合(構造的エピトープ)の両方があり、例えば、抗原の折り畳みに起因して(すなわち、タンパク質性抗原の三次折り畳みによって)空間的に近接して形成される。線状エピトープは、典型的には、タンパク質性抗原を変性剤に曝露した後も依然として抗体によって結合されているが、コンフォメーションエピトープは、典型的には、変性剤での処理により破壊される。エピトープは、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、または8~10個のアミノ酸を、独特な空間的構造で含む。
特定の実施形態では、エピトープ決定基は、分子の化学的に活性な表面基、例えば、アミノ酸類、糖側鎖、ホスホリル、またはスルホニルを含み、特定の実施形態では、特定の三次元構造特徴、および/または特定の電荷特徴を有していてもよい。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染した細胞の表面上に、他の疾患細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中で遊離して、および/または細胞外マトリックス(ECM)中に認めることができる。特に断らない限り、本明細書において抗原として有用なタンパク質は、哺乳動物、例えば、霊長類(例えばヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)を含む、任意の脊椎動物源由来の任意のネイティブ形態のタンパク質であってもよい。特定のエピトープに結合する抗体(すなわち、同じエピトープに結合する抗体)のスクリーニングは、例えば、限定されないが、アラニンスキャニング、ペプチドブロット(Meth.Mol.Biol.248(2004)443-463)、ペプチド切断分析、エピトープ切除、エピトープ抽出、抗原の化学的改変(Prot.Sci.9(2000)487-496を参照)、およびクロスブロッキング(「Antibodies」,HarlowおよびLane,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harb.,NYを参照)などの、当該技術分野で慣用の方法を用いて行われ得る。
特定の実施形態において、抗原は、ヒトタンパク質である。本発明の特定のタンパク質について言及される場合、この用語は、「全長」の未処理のタンパク質、および細胞の処理から得られるタンパク質の任意の形態を包含する。この用語は、タンパク質の天然に存在するバリアント、例えば、スプライスバリアントまたは対立遺伝子バリアントも包含する。言い換えれば、この用語はまた、ネイティブの抗体構造と実質的に同様の構造を有するか、または本明細書に記載のFc領域を含有する重鎖を有する抗体を包含する。
「抗原結合」とは、抗体の一部の抗原結合部位が抗原に特異的に結合することを意味する。言い換えれば「抗原結合部位」という用語は、抗原の一部または全てに特異的に結合し、抗原の一部または全てに対して相補的な領域を含む抗体の一部を指す。「特異的結合」とは、その結合が抗原選択性であり、望ましくない相互作用または非特異的な相互作用とは判別できることを意味する。抗原結合分子が特定の抗原に結合する能力は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)または当技術分野の当業者には知られている他の技術、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(BIAcore装置で分析される)(Liljebladら、Glyco J 17,323-329(2000))、および従来の結合アッセイ(Heeley,Endocr Res 28,217-229(2002))によって測定することができる。
免疫グロブリン分子の重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域(Ab)は、免疫系の様々な細胞(エフェクター細胞等)および補体活性化の古典的経路における第1の構成要素であるClq等の補体系の構成要素を含む宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。本明細書で使用される「可変ドメイン」(軽鎖(VL)の可変ドメイン、重鎖(VH)の可変ドメイン)は、抗体の抗原への結合に直接関与する軽鎖および重鎖の対のそれぞれを示す。可変ヒト軽鎖および重鎖のドメインは、同じ一般構造を有し、各ドメインは、配列が広く保存され、3つの「超可変領域」(または相補性決定領域、CDR)によって接続された4つのフレームワーク(FR)領域を含む。(例えば、KindtらKuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.,page91(2007)を参照のこと)。単一のVHまたはVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために充分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、抗原に結合する抗体のVHまたはVLドメインを使用し、それぞれ、相補的なVLまたはVHドメインのライブラリーをスクリーニングして、単離してもよい。例えば、PortolanoらJ.Immunol.150:880-887(1993);ClarksonらNature 352:624-628(1991)を参照のこと。本明細書中で使用する、「超可変領域」または「HVR」という用語は、配列内で超可変性であり、抗原結合特異性を決定する、抗体可変ドメインの各領域、例えば「相補性決定領域」(「CDR」)を意味する。特に指示がない限り、CDRは、上記Kabatらに従い決定される。当業者は、CDRの表記は、上記Chothia、上記McCallum、または、任意の他の、科学的に認可された命名システムに従い決定することができることを理解するであろう。
β-シート立体構造およびCDRは、β-シート構造を接続するループを形成し得る。各鎖におけるCDRは、フレームワーク領域によって3次元構造に保持され、他の鎖由来のCDRと一緒に抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖および軽鎖CDR3領域は、本発明による抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たし、したがって、本発明のさらなる目的を提供する。本明細書で特に明記されない限り、可変領域または定常領域におけるアミノ酸残基のナンバリングは、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載されるような、EUインデックスとも呼ばれるEUナンバリングシステムに従う。「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般的に4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。したがって、HVRおよびFR配列は、一般的に、VH(またはVL)中において以下の配列で現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。VHにおけるCDR1を除き、CDRは、一般的に、超可変ループを形成するアミノ酸残基を含む。CDRは、「特異性決定領域」、すなわち「SDR」も含み、それは、抗原と接触する残基である。SDRは、略語-CDR、すなわちa-CDRと呼ばれるCDRの領域内に含まれる。例示的なa-CDR(a-CDR-L1、a-CDR-L2、a-CDR-L3、a-CDR-H1、a-CDR-H2およびa-CDR-H3)は、LIの31~34、L2の50~55、L3の89~96、H1の31~35B、H2の50~58およびH3の95~102のアミノ酸残基に存在する(See AlmagroおよびFransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)。
上記のように、本明細書における抗体という用語は、特に明記しない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、完全長抗体および抗原結合断片である、すなわち抗原に特異的に結合する能力を維持する抗体の断片を含む。言い換えれば、本明細書で使用される「断片」という用語は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、限定されないが、(i)Fab’またはFab断片、ダイアボディ、線状抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFvおよびscFab)、抗体断片から形成された多重特異性抗体、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片、または国際公開第2007059782号(Genmab)に記載されている一価抗体、(ii)F(ab’)2断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片、(iii)VHドメインおよびCH1ドメインから本質的になるFd断片、(iv)抗体の単一アームのVLドメインおよびVHドメインから本質的になるFv断片、(v)VHドメインから本質的になり、ドメイン抗体とも呼ばれる(Holtら;Trends Biotechnol.2003 Nov;21(ll):484-90)dAb断片(Wardら、Nature 341,544-546(1989))、(vi)ラクダまたはナノボディ(Revetsら;Expert Opin Biol Ther.2005 Jan;5(l):111-24)および(vii)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位(2つのFab断片)と、Fc領域の一部とを有するF(ab’)2断片が得られる。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、かつインビボ半減期が増加したFabおよびF(ab’)2断片の議論については、米国特許第5,869,046号を参照されたい。ダイアボディは、二価または二重特異性であり得る2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第404,097号、国際公開第1993/01161号、Hudsonら,Nat.Med.9:129-134(2003)、およびHollingerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448(1993)を参照されたい。さらに、Fv断片の2つのドメイン、VLおよびVHは別個の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え法を使用して、VLおよびVH領域が対合して一価分子を形成する単一のタンパク質鎖としてそれらを作製することを可能にする合成リンカーによって連結され得る(一本鎖抗体または一本鎖Fv(scFv)として知られており、例えばBirdら、Science 242,423-426(1988)およびHustonら、PNAS USA 85,5879-5883(1988)を参照されたい)。したがって、「一本鎖可変断片」または「scFv」は、リンカーにより接続された、抗体の重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変ドメインの融合タンパク質である。特に、リンカーは、10~25個のアミノ酸の短いポリペプチドであり、通常、柔軟性のためにグリシンが、かつ、溶解性のためにセリンまたはスレオニンが豊富であり、VHのN末端をVLのC末端と、またはこの逆のいずれかで、接続させることができる。このタンパク質は、定常領域が取り除かれ、リンカーが導入されているにもかかわらず、元の抗体の特異性を保持することができる。scFv断片の総説としては、例えば、Plueckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,(Springer-Verlag,New York),pp.269-315(1994)を参照されたい。また、国際公開第93/16185号および米国特許第5,571,894号および同第5,587,458号を参照されたい。「単一ドメイン抗体」は、抗体の重鎖可変ドメインの全部もしくは一部、または軽鎖可変ドメインの全部もしくは一部を含む抗体断片である。特定の局面において、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6,248,516号を参照されたい)。抗体断片は、限定されないが、本明細書に記載される、インタクト抗体のタンパク質分解による消化、および組換え宿主細胞(例えば、大腸菌)による組換え産生を含む種々の技術によって作製することができる。
そのような一本鎖抗体は、特に明記されない限り、または文脈によって明確に示されない限り、抗体という用語に包含される。そのような断片は一般的に抗体の意味の範囲内に含まれるが、それらは集合的におよびそれぞれ独立して本発明の固有の特徴であり、異なる生物学的特性および有用性を示す。本発明との関連におけるこれらおよび他の有用な抗体断片、ならびにそのような断片の二重特異性フォーマットは、本明細書でさらに論じられる。特定の抗体断片の総説としては、HolligerおよびHudson,Nature Biotechnology 23:1126-1136(2005)を参照されたい。
「完全長の抗体」という用語は、2つの「完全長の抗体重鎖」および2つの「完全長の抗体軽鎖」からなる抗体を示す。「完全長の抗体重鎖」とは、N末端からC末端への方向において、抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常重鎖ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体重鎖定常ドメイン2(CH2)、および抗体重鎖定常ドメイン3(CH3)からなるポリペプチドであり、VH-CH1-HR-CH2-CH3と略記され、ならびに任意に、下位クラスIgEの抗体の場合においては抗体重鎖定常ドメイン4(CH4)からなる。好ましくは、「完全長の抗体重鎖」とは、N末端からC末端への方向においてVH、CH1、HR、CH2およびCH3からなるポリペプチドである。「完全長の抗体軽鎖」とは、N末端からC末端への方向において、抗体軽鎖可変ドメイン(VL)、および抗体軽鎖定常ドメイン(CL)からなるポリペプチドであり、VL-CLと略記される。抗体軽鎖定常ドメイン(CL)は、κ(カッパ)またはλ(ラムダ)であり得る。2つの完全長抗体鎖は、CLドメインとCH1ドメインとの間の、および完全長抗体重鎖のヒンジ領域間のポリペプチド間ジスルフィド結合を介してまとまって連結される。抗体には、次の5種類の主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのうちのいくつかは、下位クラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2にさらに分けることができる。特定の局面において、抗体はIgG1アイソタイプである。抗体の「クラス」とは、その重鎖によって保有される定常ドメインまたは定常領域の型を指す。特定の局面においてでは、抗体は、Fc領域エフェクター機能を低下させるためのP329G、L234AおよびL235A変異を有するIgG1アイソタイプのものである。他の局面において、抗体はIgG2アイソタイプのものである。特定の局面において、抗体は、IgG4抗体の安定性を改善するためにヒンジ領域にS228P変異を有するIgG4アイソタイプのものである。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる2種類の1つに割り当てられてもよい。
抗体という用語は、特に明記しない限り、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、キメラ抗体およびヒト化抗体等の抗体様ポリペプチド、ならびに酵素的切断、ペプチド合成、および組換え技術等の任意の公知の技術によって提供される抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体断片(抗原結合断片)も含むことも理解されるべきである。生成された抗体は、任意のアイソタイプを有することができる。「キメラ」抗体という用語は、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の供給源または種に由来し、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が異なる供給源または種に由来する抗体を指す。
例えば、抗体はモノクローナル抗体であり得る。本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、同一であり、および/または同じエピトープに結合するが、例えば、自然発生突然変異を含有するか、またはモノクローナル抗体調製物の産生中に生じる、起こり得る変異型抗体は例外であり、そのような変異型は一般的に少量で存在する。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対して指向する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体調製物のそれぞれのモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向する。したがって、修飾語「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集合から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするように解釈すべきではない。例えば、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、およびヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法、例えば、本明細書に記載のモノクローナル抗体を作製するためのそのような方法および他の例示的な方法を含むが、これらに限定されない多様な技術によって作製され得る。
他の例として、抗体はヒト化抗体であり得る。「ヒト化抗体」という用語は、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が、親免疫グロブリンと比較して、異なる特異性を有する免疫グロブリンのCDRを含むように改変された抗体を指す。言い換えれば、用語は、非ヒトCDR由来のアミノ酸残基およびヒトFR由来のアミノ酸残基を含むキメラ抗体を包含する。特定の局面において、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの全てを実質的に含み、そのドメイン中ではCDRの全てまたは実質的に全てが非ヒト抗体のCDRに対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト抗体のFRに対応することになる。ヒト化抗体は、任意に、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでいてもよい。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化形態」は、ヒト化を受けた抗体を指す。ヒト化抗体を産生するための方法は、従来の組換えDNAを含み、遺伝子トランスフェクション技術は当技術分野で周知である。Riechmann,L.ら,Nature 332(1988)323-327およびNeuberger,M.Sら,Nature 314(1985)268-270を参照のこと。
例えば、抗体はヒト抗体であり得る。本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図している。言い換えれば、用語は、ヒトもしくはヒト細胞により産生された抗体、またはヒト抗体レパートリまたは他のヒト抗体をコードする配列を利用した非ヒト由来の抗体に対応するアミノ酸配列を有する抗体を包含する。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特に除外する。ヒト抗体は、当該技術分野において周知である(van Dijk,M.A.,およびvan de Winkel,J.G.,Curr.Opin.Chem.Biol.5(2001)368-374)。ヒト抗体は、当技術分野で公知の様々な技法を使用して作製され得る。ヒト抗体は一般的に、van Dijkおよびvan de Winkel,Curr.Opin.Pharmacol.5:368-74(2001)およびLonberg,Curr.Opin.Immunol.20:450-459(2008)に記載されている。ヒト抗体は、免疫原を、抗原チャレンジに応答して、インタクトなヒト抗体またはヒト可変領域を有するインタクトな抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物に投与することによって調製されてもよい。このような動物は、典型的には、内因性免疫グロブリン遺伝子座に取って代わるか、または染色体外に存在するか、もしくは動物の染色体にランダムに組み込まれるヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部分を含む。そのようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般的に不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の総説については、Lonberg,Nat.Biotech.23:1117-1125(2005)を参照されたい。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載する米国特許第6,075,181号および米国特許第6,150,584号;HuMab(登録商標)技術を記載する米国特許第5,770,429号;K-M MOUSE(登録商標)技術を記載する米国特許第7,041,870号;および、VelociMouse(登録商標)技術を記載する米国特許出願公開第2007/0061900号も参照されたい。このような動物によって産生されたインタクトな抗体からのヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによって、さらに改変されてもよい。
ヒト抗体はまた、ハイブリドーマベースの方法によって作製することができる。ヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒト骨髄腫およびマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株が記載されている。(例えば、Kozbor J.Immunol.,133:3001(1984);BrodeurらMonoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51-63(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987);およびBoernerらJ.Immunol.,147:86(1991)を参照されたい)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体もまた、Liら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103:3557-3562(2006)に記載されている。さらなる方法としては、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株由来のモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載する)、およびNi,Xiandai Mianyixue,26(4):265-268(2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載する)が挙げられる。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はまた、Vollmers and Brandlein,Histology and Histopathology,20(3):927-937(2005)およびVollmersおよびBrandlein,Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology,27(3):185-91(2005)にも記載されている。
ヒト抗体はまた、ヒト由来のファージ・ディスプレイ・ライブラリから選択される可変ドメイン配列を単離することによって生成することができる。次いで、そのような可変ドメイン配列は、所望のヒト定常ドメインと組み合わせられてもよい。抗体ライブラリーからヒト抗体を選択する技法は以下に記載されている。
本発明との関連で使用される一局面において、組換えタンパク質は、抗α-シヌクレイン抗体、または抗CD20/抗CD3二重特異性抗体とも呼ばれるCD3およびCD20に対する二重特異性抗体である。本発明との関連における「二重特異性抗体」という用語は、異なる抗体配列によって定義される2つの異なる抗原結合領域を有する抗体を指す。この目的のために有用でありうる二重特異性抗体フォーマットの例には、2つのscFv分子が柔軟なリンカーによって融合されている、いわゆる「BiTE」(二重特異性T細胞エンゲージャー(engager))分子(例えば、国際公開第2004/106381号、国際公開第2005/061547号、国際公開第2007/042261号および国際公開第2008/119567号、NagorsenおよびBaeuerle,Exp Cell Res 317,1255-1260(2011)参照)、ダイアボディ(Holligerら、Prot Eng 9,299-305(1996))およびその誘導体、例えばタンデムダイアボディ(「TandAb」Kipriyanovら、J Mol Biol 293,41-56(1999))、ダイアボディフォーマットに基づくが、安定化付加のためのC末端ジスルフィド架橋を特徴とする「DART」(二重親和性再標的化)分子(Johnsonら、J Mol Biol 399,436-449(2010))、ならびに全ハイブリッドマウス/ラットIgG分子であるいわゆるトリオマブ(triomab)(Seimetzら、Cancer Treat Rev 36,458-467(2010)に概説)が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に含まれる、具体的なT細胞二重特異性抗体形式は、国際公開第2013/026833号、国際公開第2013/026839号、国際公開第2016/020309号;Bacacら、Oncoimmunology 5(8)(2016)e1203498に記載されている。
「抗α-シヌクレイン抗体」、「抗-α-シヌクレイン抗体」および「α-シヌクレインに結合する抗体」という用語は、α-シヌクレインを標的化する際の診断剤および/または治療剤として有用であるように、十分な親和性でヒトα-シヌクレインに結合することができる抗体を指す。α-シヌクレインは、脳においてドーパミン作動性ニューロン機能の制御において中心的役割を果たし、パーキンソン病(PD)の病態生理学に決定的に関与していると考えられているタンパク質である。例えば、レビー小体型疾患(LBD)としても知られるシヌクレイン病は、ドーパミン作動系の変性、運動変化、認知障害、ならびにレビー小体(LB)および/またはレビー神経突起の形成を特徴とし(McKeithら、Neurology(1996)47:1113-24)、抗α-シヌクレイン抗体で処置することができる。そのようなシヌクレイン病としては、パーキンソン病(特発性パーキンソン病を含む)、レビー小体認知症(DLB)としても知られるびまん性レビー小体疾患(DLBD)、アルツハイマー病のレビー小体バリアント(LBV)、複合型アルツハイマー病およびパーキンソン病、純粋自律神経不全および多系統萎縮症(MSA;例えば、オリーブ橋小脳萎縮症、線条体黒質変性症およびシャイ-ドラガー症候群)が挙げられる。
α-シヌクレインは、β-シヌクレインおよびγ-シヌクレインならびにシノレチンを含むタンパク質の大きなファミリーの一部である。天然のヒト野生型α-シヌクレインは、以下のアミノ酸配列を有する140アミノ酸のペプチドである:
MDVFMKGLSK AKEGVVAAAE KTKQGVAEAA GKTKEGVLYV GSKTKEGVVH GVATVAEKTK EQVTNVGGAV VTGVTAVAQK TVEGAGSIAA ATGFVKKDQL GKNEEGAPQE GILEDMPVDP DNEAYEMPSE EGYQDYEPEA(配列番号9)(Uedaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1993)90:11282-6);GenBank accession number:P37840)。タンパク質は、3つの認識されたドメイン、アミノ酸1~61をカバーするKTKE反復ドメイン、およそアミノ酸60~95から延びるNAC(非アミロイド構成要素)ドメイン、およびおよそアミノ酸98~140から延びるC末端酸性ドメインを有する。α-シヌクレインまたはその断片への言及には、上記の天然のヒト野生型アミノ酸配列、およびそのヒト対立遺伝子バリアント、特にレビー小体病に関連するもの(例えば、E46K、A30PおよびA53T、最初の文字は配列番号9のアミノ酸を示し、数字は配列番号9のコドン位置であり、2番目の文字は対立遺伝子バリアントのアミノ酸である)が含まれる。
α-シヌクレインはシナプスに関連する正常状態で発現され、神経可塑性、学習および記憶において役割を果たすと考えられている。いくつかの研究は、PD病理発生において中心的役割を有するα-シヌクレインに関係している。タンパク質は凝集して、病的状態で不溶性フィブリルを形成し得る。例えば、シヌクレインはLB(Spillantiniら、Nature(1997)388:839-40;Takedaら、J.Pathol.(1998)152:367-72;Wakabayashiら、Neurosci.Lett.(1997)239:45-8)に蓄積する。α-シヌクレイン遺伝子の変異は、まれな家族性のパーキンソニズム形態と共分離する(Krugerら、Nature Gen.(1998)18:106-8;Polymeropoulosら、Science(1997)276:2045-7)。トランスジェニックマウス(Masliahら、Science(2000)287:1265-9)およびショウジョウバエ(Feanyら、Nature(2000)404:394-8)におけるαシヌクレインの過剰発現は、レビー小体病のいくつかの病理学的側面を模倣する。さらに、シヌクレインの可溶性オリゴマーは神経毒性であり得ることが示唆されている(Conway KAら、Proc Natl Acad Sci USA(2000)97:571-576;VollesMJ、Lansbury PT、Biochemistry(2003)42:7871-7878)。ヒト、マウス、およびハエ等の多様な種および動物モデルにおいて類似の形態学的および神経学的変化を伴うα-シヌクレインの集積は、この分子がレビー小体病の発症に寄与することを示唆している。
例えば、抗α-シヌクレイン抗体は、9E4(プラシネズマブ)、BIIB054、1H7、5C1、6H7、8A5、およびNI-202.21D11として示される抗体ならびにその関連抗体であり得る。プラシネズマブまたは9E4は、PRX002およびRG7935としても公知である。添付の実施例に示すように、CHO L965細胞(実施例3)、CHO L967細胞(実施例6)およびCHO L971細胞(実施例7および8)は、それぞれプラシネズマブを産生する。このような抗体への言及は当技術分野で見られてよく、例えば、9E4(プラシネズマブ)およびその関連抗体は米国特許第8,609,820号、米国特許第9,556,259号、米国特許第9,884,906号、米国特許第8,697,082号、米国特許第8,506,959号、米国特許第9,034,337号、米国特許第7,919,088号、米国特許第8,092,801号、米国特許第8,147,833号、米国特許第8,673,593号、米国特許第7,910,333号および米国特許第7,674,599号に見出すことができる。NI-202.12F4としても知られているBIIB054およびその関連抗体への言及は、例えば、米国特許第10,301,381号、米国特許第9,975,947号、米国特許第8,896,504号、米国特許第9,580,493号および米国特許第8,940,276号において見出すことができる。1H7およびその関連抗体への言及は、例えば、米国特許第7,910,333号、米国特許第8,790,644号、米国特許第9,234,031号、米国特許第9,217,030号、米国特許第9,670,273号および米国特許第10,118,960号に見出すことができる。5C1およびその関連抗体への言及は、例えば、米国特許第9,605,056号、米国特許第10,081,674号および米国特許第10,301,382号に見出すことができる。6H7およびその関連抗体への言及は、例えば、米国特許第8,673,593号および米国特許第7,910,333号に見出すことができる。8A5およびその関連抗体への言及は、例えば、米国特許第8,673,593号および米国特許第7,910,333号に見出すことができる。NI-202.21D11およびその関連抗体への言及は、例えば、米国特許第9,580,493号に見出すことができる。
特に、パーキンソン病および関連障害の患者は、抗α-シヌクレイン抗体で処置することができる。実際、α-シヌクレインがレビー小体(LB)の主要なタンパク質構成要素であるという事実に加えて、遺伝子研究により、α-シヌクレイン遺伝子の特定の点変異および多重化が家族性形態のPDを引き起こすことが示された。多数の証拠が、ドーパミン作動性シナプスにおけるα-シヌクレイン病理が、PD脳におけるニューロン細胞機能不全および変性の発症の根底にあり得ることを示している(Bellucci,A.ら、Brain Res.1432(2012)95-113)。
「CD20」という用語は、ヒトCD20(UniProtKB/Swiss-Prot番号P11836)を指し、腫瘍細胞を含む細胞によって天然に発現される、またはCD20遺伝子もしくはcDNAでトランスフェクトされた細胞上で発現されるCD20の任意のバリアント、アイソフォームおよび種ホモログを含む。CD20分子(ヒトBリンパ球拘束性分化抗原またはBp35とも呼ばれる)は、プレBリンパ球および成熟Bリンパ球上に局在する約35kDの分子量を有する疎水性膜貫通タンパク質である(Valentineら(1989)J.Biol.Chem.264(19):11282-11287;およびEinfieldら、(1988)EMBO J.7(3):711-717)。CD20は、末梢血またはリンパ器官由来のB細胞の90%超の表面上に見出され、早期のプレB細胞発生中に発現され、形質細胞分化まで残存する。CD20は、正常B細胞および悪性B細胞の両方に存在する。特に、CD20は、B細胞非ホジキンリンパ腫(NHL)の90%超で発現されるが(Andersonら(1984)Blood 63(6):1424-1433)、造血幹細胞、プロB細胞、正常形質細胞または他の正常組織では見出されない(Tedderら(1985)J.Immunol.135(2):973-979)。
本明細書で使用される「CD3」という用語は、T細胞共受容体タンパク質複合体の一部であり、4つの異なる鎖で構成される分化クラスター3タンパク質を指す。CD3はヒトおよび他の種にも見られ、したがって、「CD3」という用語は本明細書で使用されてもよく、文脈と矛盾しない限り、ヒトCD3に限定されない。哺乳動物において、複合体は、CD3y(ガンマ)鎖(ヒトCD3y鎖UniProtKB/Swiss-Prot番号P09693、またはカニクイザルCD3y UniProtKB/Swiss-Prot番号Q95LI7)、CD36(デルタ)鎖(ヒトCD36 UniProtKB/Swiss-Prot番号P04234、またはカニクイザルCD36 UniProtKB/Swiss-Prot番号Q95LI8)、2つのCD3s(イプシロン)鎖(ヒトCD3s UniProtKB/Swiss-Prot番号P 07766;カニクイザルCD3s UniProtKB/Swiss-Prot番号Q95LI5;またはアカゲザルCD3s UniProtKB/Swiss-Prot番号G7NCB9)、およびゼータ鎖(ヒトCD3ζUniProtKB/Swiss-Prot 番号P20963、カニクイザルCD3ζUniProtKB/Swiss-Prot番号Q09TK0)を含む。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)として知られる分子と会合し、Tリンパ球において活性化シグナルを生成する。TCRおよびCD3分子は共にTCR複合体を含む。
本発明によれば、哺乳動物細胞を培養して、モノガラクトシル化またはジガラクトシル化グリカンを有する組換えタンパク質を産生する。本発明との関連において組換えタンパク質を産生するための宿主細胞を選択する際に、当技術分野の当業者は、異なる宿主細胞が、発現されたタンパク質の翻訳および翻訳後のプロセシングおよび改変、例えば、限定されないが、グリコシル化および切断のための異なる特性および/または特異的機構を有することを認識する。これに関連して、当業者は、本発明との関連において適切な細胞株を選択する方法を知っている。言い換えれば、当業者は、翻訳後修飾が可能であることを確実にするためにどの細胞株を選択すべきかを知っている。あるいは、モノガラクトシル化またはジガラクトシル化グリカンを有する組換えタンパク質を発現させるために、特異的な翻訳後修飾に必要な手段によって宿主細胞を修飾してもよい。例えば、米国特許第4,816,567号に記載されているように、抗体等の組換えタンパク質を産生するための組換え方法を産生することができる。これらの方法のために、抗体をコードする1以上の単離された核酸が提供される。2つの核酸が必要とされるネイティブ抗体またはネイティブ抗体断片の場合、1つは軽鎖またはその断片のためのものであり、1つは重鎖またはその断片のためのものである。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列および/またはVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖および/または重鎖)をコードする。これらの核酸は、同じ発現ベクター上、または異なる発現ベクター上にあってもよい。
4つの核酸が必要とされるヘテロ二量体の重鎖を有する二重特異性抗体の場合、1つは第1の軽鎖のため、1つは第1のヘテロモノマーFc領域ポリペプチドを含む第1の重鎖のため、1つは第2の軽鎖のため、および1つは第2のヘテロモノマーFc領域ポリペプチドを含む第2の重鎖のためのものである。4つの核酸は、1つ以上の核酸分子または発現ベクターに含まれ得る。このような核酸は、第1のVLを含むアミノ酸配列および/または第1のヘテロモノマーFc領域を含む第1のVHを含むアミノ酸配列および/または第2のVLを含むアミノ酸配列および/または抗体の第2のヘテロモノマーFc領域を含む第2のVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の第1および/もしくは第2の軽鎖ならびに/または第1および/もしくは第2の重鎖)をコードする。これらの核酸は、同じ発現ベクターまたは異なる発現ベクター上にあってもよく、通常、これらの核酸は、2つまたは3つの発現ベクター上に位置しており、すなわち、1つのベクターは、これらの核酸のうち、1つ超を含んでいてもよい。これらの二重特異性抗体の例は、CrossMabである(例えば、Schaefer,W.ら、PNAS,108(2011)11187-1191を参照されたい)。例えば、ヘテロモノマー重鎖の1つは、EUインデックスナンバリングに従って、いわゆる「ノブ変異」(T366Wと、任意に、S354CまたはY349Cのうち1つ)を含み、他方は、いわゆる「ホール変異」(T366S、L368AおよびY407Vと、任意に、Y349CまたはS354C)を含む(例えば、Carter,P.ら、Immunotechnol.2(1996)73)。
「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養」という用語は、交換可能に使用され、外因性核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫も含まれる。宿主細胞には「形質転換体」および「形質転換細胞」が含まれ、これらの細胞には、初代形質転換細胞およびそれに由来する子孫が、継代数に関係なく含まれる。子孫は、核酸含有量が親細胞と完全に同一でなくてもよいが、変異を含有していてもよい。元々の形質転換された細胞についてスクリーニングされるかまたは選択されるのと同じ機能または生物活性を有する変異体の子孫は、本発明に含まれる。抗体コードベクターのクローニングまたは発現のための好適な宿主細胞としては、本明細書に記載の原核細胞または真核細胞が挙げられる。細菌中の抗体断片およびポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、米国特許第5,789,199号および米国特許第5,840,523号を参照されたい(また、大腸菌中の抗体断片の発現を記載している、Charlton,K.A.,In:Methods in Molecular Biology,Vol.248,Lo,B.K.C.(ed.),Humana Press,Totowa,NJ(2003),pp.245-254も参照)。発現後、抗体は、可溶性画分中の細菌細胞ペーストから単離されてもよく、さらに精製されてもよい。
「哺乳動物宿主細胞」、「哺乳動物宿主細胞株」および「哺乳動物宿主細胞培養物」という用語は交換可能に使用され、適切な栄養素および増殖因子を含有する培地中で単層培養物または懸濁培養物のいずれかに入れた場合に増殖および生存が可能な哺乳動物に由来する細胞株を指す。特定の細胞株に必要な増殖因子は、例えばMammalian Cell Culture(Mather,J.P.ed.,Plenum Press,N.Y.[1984])、およびBarnesおよびSato,(1980)Cell,22:649)に記載されているように、過度な実験をすることなく、実験により速やかに決定される。典型的には、細胞は、目的の、多量の特定の糖タンパク質を、発現して培地中に分泌させることができる。本発明との関連における適切な哺乳動物宿主細胞の例としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO.UrlaubおよびChasm.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.77:4216(1980)、dp12.CHO細胞(欧州特許第307.247号、1989年3月15日公開)、SV40により形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651)、ヒト胎児腎臓株(293または懸濁培養での増殖のためにサブクローニングされた293細胞、Grahamら、J.Gen Virol.,36:59(1977)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10)、マウスセルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.,23:243-251(1980)、サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587)、ヒト子宮頸癌腫細胞(HELA、ATCC CCL 2)、イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34)、バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442)、ヒト肺細胞(W138.ATCC CCL 75)、ヒト肝細胞(Hep G2,HB 8065)、マウス乳腺腫瘍(MMT 060562.ATCC CCL51)、TRI細胞(Matherら、Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44-68(1982)、MRC5細胞、FS4細胞、およびヒト肝癌株(Hep G2)が挙げられる。本発明の好ましい局面において、哺乳動物細胞は、CHO細胞、Vero細胞、BHK細胞、COS細胞およびHEK 293/293T細胞からなる群から選択され、より好ましくは哺乳動物細胞はCHO細胞である。より好ましくは、哺乳動物宿主細胞はCHO細胞、さらにより好ましくはジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)活性を欠くCHO細胞である。本発明で使用される哺乳動物細胞は、組換えタンパク質を産生するように選択または操作され得る。操作は、発現されるタンパク質をコードする1つ以上の異種遺伝子の導入等の1つ以上の遺伝子改変を含む。異種遺伝子は、その細胞において通常発現されるか、または宿主細胞に対して外来性であるタンパク質をコードし得る。操作は、追加的または代替的に、1つ以上の内因性遺伝子を上方制御または下方制御することであり得る。多くの場合、細胞は、例えば、タンパク質をコードする遺伝子の導入によって、および/または目的のタンパク質をコードする遺伝子の発現を調節する制御エレメントの導入によって、組換えタンパク質を産生するように操作される。組換えタンパク質および/または制御エレメントをコードする遺伝子は、プラスミド、ファージまたはウイルスベクター等のベクターを介して宿主細胞に導入され得る。「ベクター」という用語は、本明細書では、連結している他の核酸を増殖することができる核酸分子を指す。この用語には、自己複製する核酸構造としてのベクターだけでなく、ベクターが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターも含まれる。特定のベクターは、動作可能に連結された核酸の発現を指示することができる。そのようなベクターを本明細書では、「発現ベクター」と呼ぶ。
特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自律複製することができるが、他のベクターは宿主細胞のゲノムに組み込むことができ、それによって宿主ゲノムと共に複製される。種々のベクターが公的に入手可能であり、ベクターの正確な性質は本発明に必須ではない。典型的には発現ベクターには、シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、プロモーター、および転写終結配列のうちの1つ以上が含まれる。そのような構成要素は、国際公開第97/25428号に記載されている通りである。
細胞培養物の「増殖期」とは、細胞が一般に、急速に分裂する、指数的に細胞が増殖する期間(対数期)を意味する。この期の間に、細胞は一定期間(通常1~4日間)、細胞増殖が最大化されるような条件下において培養される。宿主細胞の増殖サイクルの決定は、過度な実験をすることなく想到される、特定の宿主細胞に対して決定される。「細胞増殖が最大化されるような期間および条件下」等は、特定の細胞株に対して、細胞増殖および分裂が最適であると決定される培養条件を指す。増殖期の間、細胞は、必要な添加剤を含有する栄養素培地中で培養される。さらに、培養条件、例えば温度、pH、溶存酸素(dO2)等は、特定の宿主で用いられるものであり、当技術分野の当業者には明らかであろう。一般的に、pHは、酸(例えば、CO2)または塩基(例えば、Na2CO、またはNaOH)のいずれかを用いて調整される。CHO細胞等の哺乳動物細胞を培養するための適切な温度範囲は、約30~38℃であり、適切なdO2は、特定の細胞株に対して最適な増殖が達成されるように、加湿された制御された雰囲気において空気飽和5~90%である。例えば、フェドバッチ培養条件は、細胞培養物の増殖期における哺乳動物細胞の増殖を増強するために考案されているため、フェッドバッチ細胞培養条件を使用することができる。本明細書で使用される「フェドバッチ培養」は、培養プロセスの開始後の時間に追加の構成要素が培養物に提供される、細胞を培養する方法を指す。フドバッチ培養は、典型的にはある時点で停止され、培地中の細胞および/または構成要素が回収され、任意に精製される。さらに、特定の段階において、細胞を使用して、細胞培養の産生期または産生工程を播種することができる。あるいは、産生期または工程は、播種または増殖期または工程と連続していてもよい。
細胞培養の「移行期」は、産生期の培養条件が関与する期間を指す。移行期の間、細胞培養物の温度、培地浸透圧等の環境要因は、増殖条件から産生条件へと移動する。
細胞培養の「産生期」は、細胞増殖が停滞する期間を指す。産生期の間、対数的な細胞増殖は終わり、タンパク質産生が主となる。この期間の間、培地は一般的に、タンパク質の連続した産生を支持し、所望の糖タンパク質収率を達成するために補充される。例えば、細胞培養の産生期における細胞培養環境が制御される。本発明の方法によれば、発現された組換えタンパク質の特異的ガラクトシル含有量が達成されるように、哺乳動物宿主細胞培養物の生存細胞密度および/または生成物力価に影響を及ぼす1つ以上の要因が操作される。本明細書で使用する場合、「力価」は、所与の量の培地体積の細胞培養物により産生された、組換え発現した抗体の総量を指す。力価は、典型的には、培地1ミリリットルあたりの糖タンパク質のミリグラムの単位で表される。特に、組換えタンパク質のガラクトシル含有量を増加させる要因は、得られる組換えタンパク質が特定のガラクトシル含有量を含有するように、細胞培養プロセスの産生期中に制御される。本明細書で使用される場合、細胞培養プロセスの産生期には、細胞培養の産生期のパラメータが関与する細胞培養の移行期が先行する。
本発明の方法において、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度および/またはグルコースの濃度は、発酵工程の増殖または産生期のいずれかまたは全てにおいて調整される。例えば、1つ以上のスルフヒドリル化合物および/またはグルコースの濃度は、増殖期の開始時もしくは増殖期中に、および/または産生期の開始時もしくは産生期中に調整することができる。特に、1つ以上のスルフヒドリル化合物および/またはグルコースの濃度は、増殖の開始時および産生期の開始時、または増殖期の開始時、増殖期中、産生期の開始時および産生期中のいずれかまたは全てにおいて調整することができる。本発明の好ましい局面において、1つ以上のスルフヒドリル化合物および/またはグルコースを、産生期の開始時または産生期中に培地に添加して、培地中に約4mM~10mMの、スルフヒドリル基を有する1つ以上のスルフヒドリル化合物および/または少なくとも3.0g/L超のグルコースの濃度を作り出す。本発明の他の好ましい局面において、方法は、約4mM~10mMのスルフヒドリル基を含む前記1つ以上のスルフヒドリル化合物および/または少なくとも3.0g/L超のグルコースを含まない同じ培地で哺乳動物細胞を培養する最初の工程をさらに含む。本発明のさらに他の局面において、方法は、約4mM~10mMのスルフヒドリル基を含む前記1つ以上のスルフヒドリル化合物および/または少なくとも3.0g/L超のグルコースを含まない同じ培地で哺乳動物細胞を培養する最初の工程をさらに含み、1つ以上のスルフヒドリル化合物および/またはグルコースは、産生期の開始時または産生期中に培地に添加され、培地中に約4mM~10mMのスルフヒドリル基を有する1つ以上のスルフヒドリル化合物および/または少なくとも3.0g/L超のグルコースの濃度を作り出す。
1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度は、培地中のそのスルフヒドリル化合物の濃度を上昇または低下させることによって調整することができる。本発明において、それらのスルフヒドリル化合物の濃度を上昇または低下させる場合、この濃度の上昇または低下は、上昇の直前の培養期の培地中のそれらのスルフヒドリル化合物の濃度に対するものである。したがって、産生期の開始時に培地中の例えばシスチンおよび/またはシステインの濃度が上昇する場合、これは直前の増殖期の培地中のそれらのスルフヒドリル化合物の濃度を超えるそれらのスルフヒドリル化合物の濃度の上昇である。同様に、産生期中に培地中の例えばシスチンおよび/またはシステインの濃度の上昇がある場合、これは、産生期の直前の部分の培地中のそれらのスルフヒドリル化合物の濃度に対するそれらのスルフヒドリル化合物の濃度の上昇である。同様に、増殖期または産生期のいずれかの開始時またはその間に培地中の例えばシスチンおよび/またはシステインの濃度の低下がある場合、これは直前の培養期の培地中のそれらのスルフヒドリル化合物の濃度の低下である。
細胞培養培地中において1つ以上のスルフヒドリル化合物のいずれかの濃度を調整する場合、これらの1つ以上のスルフヒドリル化合物の全ての濃度を同時に調整することが一般的に好ましい。しかしながら、本発明の方法はまた、第1のスルフヒドリル化合物を一度に調整し、次いで第2のスルフヒドリル化合物を調整すること、またはその逆による、1つ以上のスルフヒドリル化合物の調整を含む。特に、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度が上昇し、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度が低下する場合、上昇および低下の調整は、同時にまたは異なる時間に行われ得る。その場合、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度を上昇させ、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度を低下させる調整は、同じ時点または同じ培地中で行われることが好ましい。
本発明の方法において、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度の調整は、使用される発酵条件に適した任意の技術によって達成することができる。1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度を調整する方法は、本発明に必須ではなく、適切な方法は当技術分野で公知である。したがって、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度の調整は、細胞が培養されている培地を補充することによって(1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度が上昇した場合)、または細胞の全部または一部を(例えば、分割することによって)1つ以上のスルフヒドリル化合物の所望の濃度を含有する新鮮な培地に移すことによって行うことができる。必要に応じて、これらの方法の組合せを使用し得る。
したがって、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度の調整は、培養期間の全体または一部にわたって連続的であっても、または例えば培養培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物の想定濃度、算出濃度または測定濃度に対する反応として断続的であってもよい。本発明は、範囲内の1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度の調整を定義する。定義された培養期間中、例えば増殖期または産生期中の1つ以上のスルフヒドリル化合物のそれぞれまたは全ての濃度の実際の測定または算出が、1つ以上のスルフヒドリル化合物のそれぞれまたは全ての濃度が本明細書に列挙された範囲内にあることを示す場合、それにもかかわらず、1つ以上のスルフヒドリル化合物の得られた濃度が列挙された範囲内に留まる限り、その濃度の調整を行うことができる。必要に応じて、公知の技術を使用して、調整を行う前に培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物の実際の濃度を測定することができる。
したがって、バッチ発酵条件が使用されている場合、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度の上昇を達成することは、例えば、既存の培養培地よりも上昇した濃度の適切な1つ以上のスルフヒドリル化合物を含有するか、もしくは補充した新鮮な培地に播種すること、または既存の培地よりも上昇した濃度の適切な1つ以上のスルフヒドリル化合物を含有するか、もしくは補充した培地に細胞を分割することによるものであり得る。フェドバッチ発酵条件が使用されている場合、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度の上昇を達成することは、例えば、上昇した濃度の適切な1つ以上のスルフヒドリル化合物を含有するか、もしくは補充した新鮮な培地に播種し、適切な1つ以上のスルフヒドリル化合物の1つ以上のボーラスまたは連続供給を培地に与えること、細胞数に基づいて、または公知の代謝モデル、代謝代用マーカー等に従って算出して、供給速度を決定すること、または培養物を上昇した濃度の適切な1つ以上のスルフヒドリル化合物を含有するか、もしくは補充した培地に分割することによるものであり得る。ボーラスまたは連続供給が添加される場合、これは、1つ以上のスルフヒドリル化合物に加えて、培養に必要な他の栄養素/構成要素を含有し得る。灌流発酵条件が使用されている場合、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度の上昇を達成することは、例えば、1つ以上のスルフヒドリル化合物をリアクターに同時にまたは個別に灌流培養物に添加する他の栄養素/構成要素に連続的または断続的に添加することによって達成することができる。
1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度の低下が必要な場合、これは、直前の培養期の培地中のその1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度と比較して、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度が低下している新鮮な培地に細胞を播種することによって達成され得る。
1つ以上のスルフヒドリル化合物の低下または上昇した濃度の具体的な値は、培地中の1つ以上のスルフヒドリル化合物の実際の測定、または細胞を囲む培養液中の1つ以上のスルフヒドリル化合物の理論的濃度または濃度の算出のいずれかに基づく。実践者は、例えば不純物および浸出を介して導入された、ある濃度の1つ以上のスルフヒドリル化合物が存在してもよく、本発明による1つ以上のスルフヒドリル化合物の低下または上昇した濃度を算出する際にこれらを考慮に入れることを理解するであろう。
本発明との関連における一局面において、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度を培地中で調整して、組換えタンパク質のグリカンのガラクトシル化を増加させることができる。本発明の他の局面において、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度を培地中で調整し、生存細胞密度を高め、組換えタンパク質の生成物力価を高め、および/または組換えタンパク質のグリカンのガラクトシル化を次いで再び高めることができる。例えば、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度を培地中で調整して、最初に増殖を低下させ、次いで組換えタンパク質のグリカンのガラクトシル化を増加させることができる。他の例として、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度を培地中で調整して、生存細胞密度を高め、次いで組換えタンパク質のグリカンのガラクトシル化を増加させることができる。他の例として、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度を培地中で調整して、組換えタンパク質の生成物力価を高め、次いで組換えタンパク質のグリカンのガラクトシル化を増加させることができる。本発明のさらに他の局面において、1つ以上のスルフヒドリル化合物の濃度を培地中で調整し、生存細胞密度を高め、組換えタンパク質の生成物力価を高め、次いで組換えタンパク質のグリカンのガラクトシル化を再び高めることができる。
本明細書で使用される場合、「バイオリアクター」という用語は、原核または真核細胞培養物、例えば動物細胞培養物(哺乳動物細胞培養物等)の増殖に使用される任意の容器を指す。バイオリアクターは、細胞、例えば哺乳動物細胞の培養に有用である限り、任意のサイズであり得る。典型的には、バイオリアクターは少なくとも30mlであり、1、10、100、250、500、1,000、2,500、5,000、8,000、10,000、12,000リットル以上、または任意の中間体積であってもよい。限定されないが、pHおよび温度を含むバイオリアクターの内部条件は、典型的には培養期間中に制御される。バイオリアクターは、ガラス、プラスチックまたは金属を含む、本発明の培養条件下で培地に懸濁した哺乳動物細胞培養物を保持するのに適した任意の材料で構成されていてもよい。本明細書で使用される「産生バイオリアクター」という用語は、目的のポリペプチドまたはタンパク質の産生に使用される最終バイオリアクターを指す。大規模細胞培養生産バイオリアクターの体積は、一般的に約100ml超、典型的には少なくとも約10リットルであり、500、1,000、2,500、5,000、8,000、10,000、12,000リットル以上または任意の中間体積であってもよい。例えば、哺乳動物細胞の培養は、大規模フォーマットのバイオリアクター、好ましくは10,000Lのバイオリアクターで行われる。
当技術分野の当業者は、本発明の実施に使用するのに適したバイオリアクターを認識しており、選択することができるであろう。
本発明に関連して好ましい局面で使用される場合、方法は、哺乳動物細胞によって産生された組換えタンパク質を回収することをさらに含む。培養期、好ましくは産生期の間または終了時のいずれかに発現タンパク質を回収することは、当技術分野で公知の方法を使用して達成することができる。タンパク質は、分泌タンパク質として培養培地から回収され得るが、分泌シグナルなしで直接産生された場合、宿主細胞溶解物から回収され得る。タンパク質が膜結合している場合、適切な界面活性剤溶液(例えば、Triton-X 100)を使用して膜から放出され得るか、またはその細胞外領域が酵素的切断によって放出され得る。発現されたタンパク質は、必要に応じて、当技術分野で公知の技術を用いて単離および/または精製され得る。抗体等の「単離された」タンパク質は、その天然環境の構成要素から分離された抗体である。いくつかの局面において、タンパク質、例えば抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例えば、イオン交換または逆相HPLC)法によって決定される場合、純度が95%または99%より高くなるまで精製される。抗体純度の評価のための方法の総説については、例えば、FlatmanらJ.Chromatogr.B 848:79-87(2007)を参照されたい。
本明細書で使用される、「発現」または「発現する」という用語は、交換可能で使用され、宿主細胞内の転写および翻訳を指す。宿主細胞内での組換えタンパク質の発現のレベルは、細胞内に存在する、対応するmRNAの量、または、対応する遺伝子により産生されるタンパク質の量のいずれかに基づいて決定することができる。例えば、生成物遺伝子から転写されたmRNAは、ノーザンハイブリダイゼーション(Sambrookら、Molecular Cloning A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press.1989))によって定量化されることが望ましい。生成物遺伝子によりコードされるタンパク質は、タンパク質の生物学的活性をアッセイすること、または、そのような活性とは独立している、タンパク質と反応可能な抗体を使用するウェスタンブロットもしくはラジオイムノアッセイ等のアッセイを用いることのいずれかにより定量化することができる(Sambrookら.Molecular Cloning A Laboratory Manual,pp 18 1-18 88(Cold Spring Harbor Laboratory Press.1989))。
特に、モノガラクトシル化またはジガラクトシル化グリカンを有する組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞は、本明細書に記載の適切な条件下で適切な翻訳後修飾がインビボで起こるように、特定の酵素を発現するか、または発現するように操作されるべきである。酵素には、N結合オリゴ糖について上記のHubbardおよびIvanに記載されているもの等の、N結合およびO結合炭水化物の添加および完了に必要な酵素が含まれる。酵素は、任意に、オリゴサッカリルトランスフェラーゼ、α-グルコシダーゼI、α-グルコシダーゼII、ERα(1.2)マンノシダーゼ、ゴルジα-マンノダーゼI、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI、ゴルジα-マンノターゼII、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII、α(1.6)フコシルトランスフェラーゼおよびβ(1.4)ガラクトシルトランスフェラーゼを含む。さらに、宿主細胞は、宿主細胞ゲノムの一部として特定の位置および結合でガラクトースを結合すると予測され得る適切な酵素を発現する。任意に、宿主細胞は、例えば、酵素をコードするDNAで宿主細胞をトランスフェクトすることによって、適切な酵素を発現させるようにすることができる。上記のような酵素は、GlcNAc等の適切なオリゴ糖構造にガラクトースを付加すると予測される。本発明と関連する適切な酵素としては、N結合型およびO結合型オリゴ糖のガラクトシル化および分岐を触媒する酵素が挙げられるが、これらに限定されない。
所望のタンパク質を発現し、特定の位置および結合で所望の炭水化物を付加することができる哺乳動物細胞の培養のために、培養されている宿主細胞に特に注目して、多数の培養条件を使用することができる。哺乳動物細胞に適した培養条件は、当技術分野で周知である(J.Immunol.Methods(1983)56:221-234)か、または当技術分野の当業者によって容易に決定することができ(例えば、Animal Cell Culture:A Practical Approach 2nd Ed.Rickwood.D.およびHames.B.D.,eds.Oxford University Press.New York(1992)を参照のこと)、選択される特定の宿主細胞に応じて変化する。
本発明の哺乳動物細胞は、培養されている特定の細胞に好適な培地中で調製される。「培地」、「細胞培養培地」および「培地」は、本明細書中で交換可能に使用され、哺乳動物細胞の増殖を維持する栄養素を含む溶液を指す。典型的には、そのような溶液は、最小限の増殖および/または生存のために細胞が必要とする必須および非必須アミノ酸、ビタミン、エネルギー源、脂質および微量元素を提供する。そのような溶液はまた、ホルモンおよび/または他の増殖因子、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウムおよびリン酸塩などの特定のイオン、緩衝剤、ビタミン、ヌクレオシドまたはヌクレオチド、微量元素、アミノ酸、脂質および/またはグルコースまたは他のエネルギー源を含むがこれらに限定されない、最小速度を超える増殖および/または生存を増強する補助構成要素を含有し得る。培地は、細胞の生存および増殖に最適なpHおよび塩濃度に好都合に製剤化される。
Ham’s F10(Sigma)、最小必須培地(MEM、Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、およびダルベッコ改変イーグル培地([DMEM]、Sigma)等の市販の培地は、例示的な栄養素溶液である。さらに、HamおよびWallace,(1979)Meth.Enz.,58:44、BarnesおよびSato,(1980)Anal.Biochem.,102:255、米国特許第4,767,704号、米国特許第4,657,866号、米国特許第4,927,762号、米国特許第5,122,469号、または米国特許第4,560,655号、国際公開第90/03430号、および国際公開第87/00195号に開示されている培地のいずれかを、培養培地として使用することができ、これらの全ての開示は、参照により本明細書に組み込まれる。これらの培地のいずれかは、必要に応じてホルモンおよび/または他の増殖因子(例えば、インスリン、トランスフェリン、または上皮増殖因子)、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウムおよびリン酸塩)、緩衝剤(例えば、HEPES)、ヌクレオシド(例えばアデノシンおよびチミジン)、抗生物質(例えばGentamycin(商標)薬物)、微量元素(通常、最終濃度にてマイクロモル範囲で存在する無機化合物として定義される)、脂質(例えば、リノレン酸または他の脂肪酸)およびその適切な担体、ならびにグルコース、または等価なエネルギー供給源を補充することができる。任意の他の必要な補充物もまた、当業者に公知の適切な濃度で含まれ得る。
本明細書で使用される場合、「細胞が組換えタンパク質を発現する条件下で」という用語は、ポリペプチドを発現する細胞の培養に使用され、当技術分野の当業者に公知であるかまたは決定され得る条件を示す。これらの条件は、培養される細胞の種類および発現される組換えタンパク質の種類に応じて変化し得ることは当業者に公知である。一般的に、細胞は、例えば20℃~40℃の温度で、コンジュゲートの効果的な産生を可能にするのに十分な期間、例えば4~28日間、0.01~10リットルの体積で培養される。
好ましくは、哺乳動物宿主細胞はCHO細胞、好ましくはジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)活性を欠くCHO細胞であり、適切な培地は、基礎培地構成要素、例えばアミノ酸、塩、糖およびビタミン等のいくつかの構成要素の改変された濃度を有する、任意にグリシン、ヒポキサンチン、チミジン、組換えヒトインスリン、加水分解ペプトン、細胞保護剤、例えばPluronic F68または同等のプルロニックポリオール、ゲンタマイシンおよび微量元素を含むDMEM/HAMF-12ベースの製剤(DMEMおよびHAM F12培地の組成については、American Type Culture Collection Catalogue of Cell Lines and Hybridoma.Sixth Edition.1988.346-349頁の培養培地製剤を参照されたい)を含む。
本発明によれば、哺乳動物宿主細胞を培養して、モノガラクトシル化またはジガラクトシル化グリカンを有する回収可能な組換えタンパク質を産生する。組換えタンパク質中のガラクトースの全体的な含有量は、哺乳動物細胞中の生存細胞密度、生成物力価および/またはガラクトースの含有量に影響を及ぼす細胞培養パラメータを制御することによって制御される。生存細胞密度および/または生成物力価に影響を及ぼす因子は当技術分野で周知であり、DNA RNAコピー数に影響を及ぼす因子、RNA、を安定化する要因等のRNAに影響を及ぼす因子、培地栄養素および他のサプリメント、転写促進剤の濃度、培養環境の重量浸透圧モル濃度、細胞培養物の温度およびpH等が挙げられるが、これらに限定されない。本発明によれば、生存細胞密度および/または生成物力価を増加させるためのこれらの因子の単独または組合せの調整により、モノガラクトシル化またはジガラクトシル化グリカンを有する組換えタンパク質が生成される。生存細胞密度および/または生成物力価を増加させるためのこれらの因子の単独または組合せの調整により、ガラクトース含有量が増加した組換えタンパク質が生成される。
本明細書で使用される「細胞密度」、または「細胞濃度」等の用語は、所与の体積の培地中に存在する細胞の数、重量、質量等を指す。「ピーク細胞密度」等は、所与の体積の培地中で達成することができる細胞の最大数を指し、「所望のピーク細胞密度」等は、所与の細胞体積中で実施者が得たい(例えば、標的とする)細胞の最大数を指す。そのような標的値の変動は、当技術分野の当業者には明らかであり、例えば、当業者は、所望の細胞質量に関して1つ以上の標的値を表すことができ、そのような1つ以上の標的値は、1つ以上の適切な測定単位(例えば、細胞質量の所望のピーク単位)であり得る。
本明細書で使用される「細胞生存率」という用語は、培養中の細胞が所与の一連の培養条件または実験上の変動の下で生存する能力を指す。本明細書で使用される用語はまた、特定時点での培養物中の生存細胞および死細胞の総数に対してその時点で生存している細胞の割合を指す。
本明細書で使用される「培養物」および「細胞培養物」という用語は、細胞集団の生存および/または増殖に適した条件下で細胞培養培地に懸濁された細胞集団を指す。本明細書で使用される場合、これらの用語は、細胞集団(例えば、動物細胞培養物)と、集団が懸濁されている培地とを含む組合せを指し得る。
一局面において、方法は、細胞培養培地中で哺乳動物細胞を前培養する工程をさらに含む。本明細書で提供される、細胞は、1つ以上のスルフヒドリル化合物由来のスルフヒドリル基の有無にかかわらず、適切な細胞培養培地中で指数増殖期まで前培養され得る。本明細書で使用される場合、「前培養」または「前培養すること」という用語は交換可能に使用され、第2の培養工程における細胞の培養に先立つ培養工程を指す。例えば、細胞は、前培養工程として第1の細胞培養物中で増殖させ、続いて第2の細胞培養物中、例えば産生バイオリアクター等のバイオリアクター中に播種することができる。当技術分野の当業者は、前培養工程を認識しており、そのような前培養工程を行う方法を知っている。
本明細書で使用される「累積された生存細胞密度」または「IVCD」という用語は、培養の経過にわたる生存細胞の平均密度に培養が行われた時間量を掛けたものを指す。産生されたポリペプチドおよび/またはタンパク質の量が培養の経過にわたって存在する生存細胞の数に比例すると仮定すると、累積された生存細胞密度は、培養の経過にわたって産生されたポリペプチドおよび/またはタンパク質の量を推定するための有用なツールである。
本発明の組換えタンパク質は、組換えタンパク質を発現する細胞を種々の細胞培養条件下で培養することにより産生することができる。言い換えれば、哺乳動物細胞からのバイオマス生成およびタンパク質発現は、本発明の方法に従って、バイオマス生成およびタンパク質の発現のための細胞の増殖に適した任意の発酵細胞培養方法またはシステムの下での細胞の培養によって達成され、本発明と共に使用され得る。例えば、細胞をバッチ、フェドバッチ、灌流またはスプリットバッチ培養で増殖させることができ、タンパク質の十分な発現が起こった後に培養を終了させ、その後にタンパク質(prtoein)を回収し、必要に応じて精製する。
例えば、本発明の細胞培養では、フェッドバッチ培養手順を使用し得る。フェドバッチ培養において、哺乳動物細胞を、最初に培養容器に供給し、追加の細胞栄養素が、培養中に培養物に連続して、または累積して供給され、培養終了前に、周期的に細胞および/または生成物が回収される、またはされない。フェドバッチ培養としては、例えば、周期的に全ての培養液(細胞と培地を含む)が取り除かれ、新鮮な培地で交換される、半連続フェッドバッチ培養を挙げることができる。フェッドバチ培養は、細胞培養のための全ての構成要素(細胞、および全ての培養栄養素を含む)が、培養プロセスの開始時に培養容器に供給される点で、単純なバッチ培養とは区別される。フェドバッチ培養はさらに、上清がプロセス中に培養容器から取り除かれない限りにおいて、還流培養とは区別することができる(還流培養では、細胞は例えば、濾過、封入、マイクロ担体へのアンカリングにより、培養液中に保持され、培養培地は連続して、または断続的に導入され、培養容器から除去される)。あるいは、細胞を灌流培養で増殖させることができ、培養は終了せず、新しい栄養素および構成要素を培養物に周期的または連続的に添加し、発現した糖タンパク質を周期的または連続的のいずれかで除去する。
さらに、培養物の細胞は、特定の宿主細胞および企図される特定の産生計画に適し得る任意のスキームまたはルーティンに従って増殖され得る。例えば、反応器、温度およびバイオマス生成およびタンパク質の産生のための細胞の発酵培養のための他の条件、例えば酸素濃度およびpHは当技術分野で公知である。選択された哺乳動物細胞の培養に適切な任意の条件は、当技術分野で利用可能な情報を使用して選択することができる。培養条件、例えば温度、pH等は、典型的には、発現のために選択された宿主細胞で既に使用したものであり、これは当技術分野の当業者に明らかであろう。所望であれば、収量を増加させ、および/または所望のタンパク質品質の相対量を増加させるために、温度および/またはpHおよび/またはCO2を培養中に変更することができる。
さらにこの関連において、本発明は、単一の工程または複数の工程の培養手順を企図する。単一の工程培養において、宿主細胞を培養環境に播種し、本発明のプロセスを、細胞培養の単一の産生期の間に用いる。あるいは、複数の段階培養を想到する。複数段階培養において、細胞は多数の工程または期間で培養することができる。例えば、細胞を、第1工程または増殖期培養液中で成長させることができる。この段階において、場合により貯蔵庫から取り除かれた細胞が、成長および高生存能を促進するのに好適な培地に播種される。本明細書で使用される「細胞生存率」は、培養中の細胞が所与の一連の培養条件または実験上の変動の下で生存する能力を指す。本明細書で使用される用語はまた、特定時点での培養物中の生存細胞または死細胞の総数に対してその時点で生存している細胞の割合を指す。新鮮な培地を宿主細胞培養液に添加することにより、細胞を好適な期間、増殖期で維持することができる。
例えば、タンパク質の大規模または小規模産生のための、細胞培養手順は、本発明との関連においてて、潜在的に有用である。流動床バイオリアクター、中空繊維バイオリアクター、ローラーボトル培養、または撹拌タンクバイオリアクターを含むがこれらに限定されない手順を使用し、バッチ、フェドバッチおよび/または灌流モードで代替的に操作することができる。本明細書で使用される「灌流培養」は、播種基本培地上で細胞を増殖させ、細胞が所望の細胞密度を達成すると、使用済みの培地を新鮮な培地で置き換えることを含む、細胞を培養する方法を指す。灌流は、連続的または断続的な灌流のいずれかを含んでいてもよく、細胞培養物への少なくとも1つのボーラス供給物の送達を含み得る。灌流培養の後にフェドバッチ培養を行ってもよい。本明細書で使用される、「バイオリアクター」という用語は、哺乳動物細胞培養物の増殖に使用される任意の容器を指す。典型的には、バイオリアクターは少なくとも1リットルであり、10、100、250、500、1000、2500、5000、8000、10.000、12.000リットル以上、またはその間の任意の体積であってもよい。pH、溶存酸素および温度を含むがこれらに限定されないバイオリアクターの内部条件は、典型的には培養期間中に制御される。バイオリアクターは、ガラス、プラスチックまたは金属を含む、本発明の培養条件下で培地に懸濁した哺乳動物細胞培養物を保持するのに適した任意の材料で構成されていてもよい。本発明の好ましい局面において、哺乳動物細胞の培養はバイオリアクター内、より好ましくは大規模フォーマットのバイオリアクター内で行われる。本発明のより好ましい局面において、哺乳動物細胞の培養は、少なくとも10.000Lバイオリアクター内で行われる。
抗体Fc-ガラクトシル化の重要性
図5に示すように、Asn297結合炭水化物鎖は、4つのN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)および3つのマンノース残基の共通の二分岐グリカン構造からなり、フコース、ガラクトースおよびシアル酸残基が可変的に付加されている。これらのグリカンは、二分岐末端ガラクトース残基の数にしたがって、すなわちG0(ガラクトースなし)、G1(1つのガラクトース)、G2(2つのガラクトース)と、およびコアフコース残基の存在に従って、すなわちG0(ガラクトースなし)、G1(1つのガラクトース)、G2(2つのガラクトース)と命名されることが多い。
本発明との関連で使用される好ましい局面において、組換えタンパク質は医薬として使用するためのものである。IgGガラクトシル化の変化は、関節リウマチ(Parekhら、Nature.316(1985)452-457)で最初に報告され、その後、乾癬性関節炎および強直性脊椎炎等の他の自己免疫疾患で報告された(Martinら、J Rheumatol 28(2001)1531-1536)。ガラクトシル化の増加は、妊娠中および妊娠誘発寛解を経験した関節リウマチ患者において見られている(Bondtら、J.Proteome.Res.12(2013)4522-4531)。これは、抗体のガラクトシル化の増加が機能的により抗炎症性であり得ることを示唆している(Zaunerら、Mol.Cell Proteomics.12(2013)856-865)。Karstenら(Nature Medicine 18.9(2012)1401-1406)は、IgG免疫複合体の高いガラクトシル化がFcγRIIBおよびデクチン-1の会合を促進し、これがC5aRおよびCXCR226の炎症促進性エフェクター機能を遮断することをマウスにおいて示すことによって、この抗炎症特性を確認した。本発明との関連で使用される他の好ましい局面において、組換えタンパク質は、非ホジキンリンパ腫および慢性リンパ性白血病等のB細胞増殖性障害を有する患者またはパーキンソン病および関連障害を有する患者の治療に使用するためのものである。
末端ガラクトースの機能的影響を検討する際に考慮すべき他の重要な局面は、IgG-Fcグリカン上の最も遠位の糖部分であるシアル酸の付加の基礎を提供することである。オリゴ糖分析により、タンパク質ガラクトシル化の欠損がシアル酸含有量の低下の潜在的原因であることが明らかになった。
ガラクトース終端構造は、C1q複合体に対する親和性に実質的な効果を有することが知られており、それらの除去は補体溶解活性の低下をもたらす(Hodoniczky,J.ら、Biotechnol.Progr.21(2005)1644-1652)。より具体的には、WrightおよびMorrison(1998)(J Immunol.1998;160:3393-3402)ならびにHodoniczkyら(2005)は、mAb Fcオリゴ糖上にガラクトースが存在しないことにより、Fcと補体のC1q構成要素との間の親和性が低下し、それによってCDC活性が低下することを見出した。
リツキシマブ(Rituxan(登録商標)抗CD20)は、1997年に最初に承認され、非ホジキンリンパ腫および他のB細胞関連疾患の処置のためにCHO細胞で産生されるキメラモノクローナル抗体である。リツキシマブはFc中でグリコシル化され、Fcグリカンは、主に末端ガラクトース残基の可変的な存在に起因して高度に不均一である。CDC活性に対するリツキシマブの末端ガラクトース残基の効果は、補体C1qへのリツキシマブの結合におけるそのような残基の関与に由来する(Hodoniczkyら、2005)。
IgGグリカン上のガラクトースの有無は、全てではないが一部の(Boydら、Mol Immunol.32(1995)1311-1318、WrightおよびMorrison、J Immunol.160(1998)3393-3402)モノクローナルIgG抗体における改変Fcエフェクター機能と相関しており、これは観察された効果が部分的に抗体特異的であり得ることを示している。Tsuchiyaら(1989)は、アガラクトIgGがC1qおよびFc受容体結合を減少させたことを見出し、Boydらは、アガラクトCampath1(モノクローナル抗CD52)が細胞媒介性溶解(CML)を減少させたが、ADCCを引き起こすインタクトな能力を有することを見出した。したがって、本明細書で使用される「エフェクター機能」は、抗体のFc領域に起因する生物学的活性を指し、これは抗体のアイソタイプによって異なる。抗体エフェクター機能の例としては、以下のもの:C1q結合および補体依存性細胞傷害性CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、食作用、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;およびB細胞活性化がが挙げられ、例えばThomannら、PLoS One.2015 Aug 12;10(8):e0134949.doi:10.1371/journal.pone.0134949.eCollection 2015も参照のこと
「Fc領域」という用語は、本明細書では定常領域の少なくとも一部分を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。該用語は、ネイティブ配列Fc領域と変異体Fc領域とを含む。IgG重鎖のFc領域の境界は、わずかに変動してもよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシ末端まで伸長するよう定義されている。しかし、宿主細胞によって産生される抗体は、重鎖のC末端から1つ以上、特に1つまたは2つのアミノ酸の翻訳後開裂を受けてもよい。したがって、全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現によって、宿主細胞によって産生する抗体は、全長重鎖を含んでいてもよく、または全長重鎖の開裂した変異体を含んでいてもよい(本明細書で「開裂した変異体重鎖」とも呼ばれる)。これは、重鎖の最終的な2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)およびリジン(K447、Kabat EUインデックスによるナンバリング)である場合であってもよい。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)、またはC末端グリシン(Gly446)およびリジン(K447)が存在しても、または存在していなくてもよい。本明細書で特に明記されない限り、Fc領域または定常領域におけるアミノ酸残基のナンバリングは、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載される、EUインデックスとも呼ばれる、EUナンバリングシステムに従う。
特定の局面において、組換えタンパク質が抗体である場合、抗体のFcドメインは、野生型Fcドメインと比較して1つ以上の変化を含み得る。それにもかかわらず、これらのFcドメインは、それらの野生型対応物と比較して治療的有用性に必要な実質的に同じ特徴を保持する。例えば、Fc領域に特定の変更を行うことにより、例えば、国際公開第99/51642号に記載されるように、変更された(すなわち、改善または減少のいずれか)C1q結合および/または補体依存性細胞傷害性(CDC)がもたらされる。Fc領域バリアントの他の例に関しては、Duncan&Winter,Nature 322:738-40(1988)、米国特許第5,648,260号、米国特許第5,624,821号、および国際公開第94/29351号も参照されたい。国際公開第00/42072号(Presta)および国際公開第2004/056312号(Lowman)は、FcRsへの改善または減少した結合を有する抗体バリアントについて記載している。これらの特許刊行物の内容は、参照により本明細書に明確に組み込まれる。例えば、Shieldsら、J.Biol.Chem.9(2):6591-6604(2001)も参照されたい.半減期が増大し、母体IgGを胎児に移行する役割を果たす、新生児型Fc受容体(FcRn)への結合が改善した抗体(Guyerら、J.Immunol.117:587(1976)およびKimら、J.Immunol.24:249(1994))は、米国特許出願公開第2005/0014934号(Hintonら)に記載されている。抗体の半減期は、抗体のFc領域の構造に依存し得、これは次に、新生児型受容体であるFcRnに対する前記Fc領域の結合効率に影響を及ぼす。それにより、FcRnに対するFc領域の結合を維持することによって半減期が延長される。特に、約6.0のpHにおいて、この結合は、FcRnに結合した抗体のエンドソーム輸送をリソソーム分解経路から遠ざけ、代わりにそれを原形質膜にリサイクルし、ここでIgGがpH7.4で血流に再放出される。それによって、血中でのIgG半減期の増加がこの経路によって達成され、これは、抗体をその標的に長時間曝露し、治療的有効性の可能性を高めるために必要であり、Saxena,Abhishek;Bai、Bingxin;Hou,Shin-Chen;Jiang,Lianlianら、Methods in molecular biology(Clifton,N.J.)1827:399-417.(2018);Spearman,Maureen;Dionne,Ben;Butler,Michael、Cell Engineering,Vol 7:Antibody Expression and Production 7:251-292.SPRINGER.(2011)を参照されたい、これは特に参照により本明細書に組み込まれる。これらの抗体は、Fc領域のFcRnへの結合を改善する1つ以上の置換を内部に有するFc領域を含む。変更されたFc領域アミノ酸配列および増加または減少したCIq結合能力を有するポリペプチドバリアントは、米国特許第6,194,551号および国際公開第99/51642号に記載されている。また、Idusogieら、J.Immunol.164:4178-4184(2000)も参照されたい。これらの内容は、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
IgG分子に対するガラクトシル化の他の報告された効果には、立体配座および表面接近性(Krappら、J.Mol.Biol.325(2003)979-89;Mimuraら、Mol.Immunol.37(2000)697-706)等の物理化学的特性の改変が含まれる。FortunatoおよびColina(J.Phys.Chem.118(2014)9844-9851)は、明示的な水原子分子動力学シミュレーションを使用して、免疫グロブリンG1のFcドメインにおけるガラクトシル化の効果を研究した。彼らは、グリコシル化が、治療的処置のためのモノクローナル抗体の凝集耐性を改善するための経路として使用され得ることを示唆した。本明細書で使用される場合、「処置(treatment)」(およびその文法的な変化形、例えば、「処置(treat)する」または「処置すること(treating)」)は、処置される個体において疾患の本来の経過を変える試行における臨床的介入を指し、予防のために、または臨床病理の経過の間に行うことができる。治療の所望の効果としては、疾患の発症または再発を予防すること、症状の軽減、疾患の任意の直接的または間接的な病理学的結果の減弱、転移を予防すること、疾患進行速度を低下させること、病状の寛解または緩和、および回復または予後の改善が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの局面において、本発明の抗体は、疾患の発症を遅延させるために、または疾患の進行を遅らせるために使用される。
現在利用可能なデータから、抗体中のガラクトース残基は特定のIgG機能に影響を及ぼし、それらの分子のガラクトシル化中に効果的にモニタリングおよび制御される必要があり得ると考えられる。
先に述べたように、抗体ガラクトシル化は、これらの糖分子がガラクトシル化に必要な基質として作用するため、細胞中に存在するUDP-ガラクトースの濃度に依存することが知られている。UDP-ガラクトース含有量の増加は、CHO細胞で発現される抗体のより高いガラクトシル化およびシアリル化に関連することが見出された。細胞内のUDP-ガラクトースレベルの変化は、他の治療用タンパク質における他の種類のグリコシル化にも重要な意味を持つ可能性がある。
O結合型グリコシル化のためのUDP-ガラクトース濃度の調節
一般的に、本明細書で使用される組換えタンパク質では、糖は、N結合型のアスパラギンの側鎖のアミド窒素原子、またはO結合型のセリンもしくはトレオニンの側鎖の酸素原子のいずれかに結合することができる。O結合型グリコシル化は、酵素UDP-N-アセチル-D-ガラクトサミン:ポリペプチドN-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ(EC2.4.1.41)によるセリンまたはトレオニン残基へのN-アセチル-ガラクトサミンの付加、その後のUDP-ガラクトース等の他の炭水化物によって起こる。したがって、細胞内UDP-ガラクトース濃度は、O結合型グリコシル化に影響を及ぼし得る。したがって、本発明に記載される新しいアプローチは、細胞内UDP-ガラクトースレベルを調節し、最終タンパク質生成物のガラクトシル化レベルをさらに制御するのに有用であり得る。
抗体Fabグリコシル化のためのUDP-ガラクトース濃度の調節
IgG Fabグリカンの存在は、かなり以前から知られている。Fabグリカンはおそらくグリコシルトランスフェラーゼにとってよりアクセス可能であり、CH2ドメインの内面に空間的に局在するFcグリカンと比較してより多くのプロセシングをもたらす。したがって、細胞内UDP-ガラクトース濃度は、IgG Fabガラクトシル化プロセスにも影響を及ぼし得る。したがって、本発明に記載される新しいアプローチは、細胞内UDP-ガラクトースレベルを調節し、最終タンパク質生成物のガラクトシル化レベルをさらに制御するのに使用され得る。
本発明に関連して使用される場合、組換えタンパク質のN結合型ガラクトシル化グリカンのレベルが上昇する。したがって、本発明の方法は、組換えタンパク質のN結合型ガラクトシル化グリカンの産生を増加させる。本発明の好ましい一局面において、組換えタンパク質は、少なくともモノガラクトシル化グリカン、より好ましくはジガラクトシル化グリカンを含み、ガラクトシル化グリカンはN-アセチルグルコサミンと会合している。組換えタンパク質内のそれぞれの標的へのガラクトースの結合および組換えタンパク質の機能に対するそれらの効果は、以下の実施例によってさらに概説される。
本発明はまた、組換えタンパク質を含む医薬組成物に関する。「組成物」および「医薬組成物」という用語は交換可能に使用され、個々の構成要素または成分自体が薬学的に許容され得る医薬組成物を定義するものとして理解されるべきであり、例えば、経口投与が予測される場合、経口使用に許容され得、局所投与が予測される場合、局所的に許容され得、それらの組合せ、すなわち経口および局所投与が予測される場合、経口および局所使用に許容され得る。用語は、その中に含まれる有効成分の生物学的活性を有効にすることが可能であり、医薬組成物が投与される対象に対して受け入れられないほど毒性であるさらなる構成要素を含まないような形態での調製物を指す。「薬学的に許容され得る担体」は、有効成分以外の医薬組成物または製剤中の成分であって、対象にとって非毒性である成分を指す。薬学的に許容され得る担体には、緩衝剤、賦形剤、安定剤、または防腐剤が含まれるが、これらに限定されない。
医薬組成物は、個々の患者の臨床状態、医薬組成物の送達部位、投与方法、投与スケジュール、および実施者に知られている他の要因を考慮して、優良医療行為に一致する様式で製剤化および投与される。したがって、本明細書の目的のための医薬組成物の「有効量」は、そのような考慮によって決定される。当業者は、個体に投与される医薬組成物の有効量が、とりわけ、化合物の性質に依存することを知っている。この関連において、剤、例えば、医薬組成物の「有効量」は、所望の治療結果または予防結果を達成するために必要な投薬量および所要期間で有効な量を指す。
本発明の抗体等の治療用タンパク質(および任意の追加の治療剤)は、非経口、肺内、および鼻腔内、ならびに局所治療のために望まれる場合、病変内投与を含む、任意の適切な手段によって投与することができる。非経口注入には、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、または皮下投与が含まれる。投薬は、投与が短期または長期であるかに部分的に応じて、任意の好適な経路、例えば、静脈内または皮下注射等の注射によるものであり得る。単回または様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、およびパルス輸注を含むが、これらに限定されない様々な投薬スケジュールが、本明細書では企図される。
本発明の抗体は、良好な医療行為と一致した方法で製剤化され、投与され、投与されるであろう。これに関連して考慮すべき要因としては、処置される特定の障害、処置される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、および医療従事者に既知である他の要因が挙げられる。抗体は、必ずしもそうである必要はないが、任意に、問題の障害を予防または治療するために現在使用されている1つ以上の薬剤と共に製剤化される。このような他の薬剤の有効量は、医薬組成物中に存在する抗体の量、疾患または処置の種類、および上述した他の要因に依存する。これらは、一般的に、本明細書に記載のものと同じ投薬量および投与経路によって、または本明細書に記載の投薬量の約1~99%、または適切であると経験的/臨床的に判断される任意の投薬量および任意の経路で使用される。
疾患の予防または治療について、本発明の抗体の適切な投薬量は(単独で、または1つ以上の他の追加の治療剤と組み合わせて使用される場合)、治療される疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度および経過、抗体が予防目的または治療目的で投与されるかどうか、以前の療法、患者の病歴および抗体への応答、ならびに主治医の裁量に依存するだろう。
本明細書で使用される場合、「および/または」という用語は、他のものの有無にかかわらず、2つの指定された特徴または構成要素のそれぞれの具体的な開示として解釈されるべきである。例えば、「Aおよび/またはB」は、(i)A、(ii)Bならびに(iii)AおよびBの各々の具体的な開示として、あたかも各々が本明細書に個別に記載されているかのように解釈されるべきである。
本明細書に記載される本発明の様々な局面および特徴は、以下の実施例によってさらに説明される。上述の発明を、理解を明確にする目的で、説明および実施例によって、ある程度詳細に説明してきたが、説明および実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
本明細書で引用される全ての特許および非特許文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
CHO K1M細胞株由来のウリジン二リン酸(UDP)α-D-グルコースエピメラーゼ(UDP_Glc-E、EC 5.1.3.2)およびUDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼのcDNAをそれぞれクローニングし、配列決定した。これらの2つの酵素は、CHO細胞におけるUDP-グルコースおよびUDP-ガラクトース変換経路内で重要な役割を果たすことが見出されている。
実施例1:CHO K1M細胞株におけるウリジン二リン酸グルコースエピメラーゼ(UDP-Glc-E)cDNA増幅および配列分析
酵素ウリジン二リン酸(UDP)-グルコース4-エピメラーゼ(UDP_Glc-E、EC 5.1.3.2)は、UDP-ガラクトース4-エピメラーゼとしても知られており、細菌、真菌、植物および哺乳動物細胞に見出されるホモ二量体エピメラーゼである。この酵素は、UDP-グルコースのUDP-ガラクトースへの可逆的変換を触媒する。
CHO K1M細胞株(国際公開第2009047007号)からの全細胞RNA抽出を、Roche MagNA Pure LC 2.0 Instrument(製品番号05197686001、Roche Diagnostics GmbH)で実行されるRocheのMagNA Pure LC RNA Isolation Kit-High Performance(製品番号03542394001)を使用することによって行った。精製RNAの濃度をNanoVue(GE Healthcare Bio-Science AB)で測定し、-70℃で保存した。
この精製細胞RNAをUDP_Glc-E cDNA合成および標的化増幅に使用した。cDNAの合成および増幅は、NCBI GenBankデータベースに従って相同的に設計された2つのUDP_Glc-E特異的プライマーを用いてRoche Transcriptor One-Step RT-PCR Kit(製品番号04655877001、Roche Diagnopstics GmbH)を使用することによって行った。
ここで使用される2つのプライマーは以下の通りである:
フォワードプライマーUDP_GlcE-F2-21(配列番号5):
5’ ATGGCCGAGAAGGTGCTGGTC 3’および
リバースプライマーUDP_GlcE-R21(配列番号6):
5’ TTAGGCCTGTGCTCCAAAGCC 3’。
RT-PCR条件:
逆転写:50℃ 30分
初期変性:94℃ 7分
増幅PCR:
変性:94℃ 10秒
アニーリング:56℃ 30秒
伸長:68℃ 60秒(60秒/kb)
サイクル:10
変性:94℃ 10秒
アニーリング:56℃ 30秒
伸長:68℃ 1:30+5秒(+5秒/kb)
サイクル:25
最終伸長:68℃ 7分
増幅したPCR産物をRoche High Pure PCR Product Purification Kit(製品番号11732668001、Roche Diagnopstics GmbH)で精製した後、直接配列決定解析に供した。UDP_Glc-E cDNAの配列をSEQUENCE-1(配列番号1)に示す。このcDNAは、予測された348アミノ酸タンパク質をコードする。CHO K1MにおけるUDP-グルコース4-エピメラーゼの得られたアミノ酸配列をSEQUENCE-2(配列番号2)に示す。
UDP-Glc-E CHO K1Mによってコードされるタンパク質配列は、ヒトUDP-グルコース4-エピメラーゼと94.5%同一であり、96.6%類似しており、ウシおよびマウス由来の他のUDP-グルコース4-エピメラーゼと密接に関連している。
実施例2:CHO K1M細胞株におけるUDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ(UDP-Gal-T)cDNA増幅および配列解析
UDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼ(UDP-Gal-T、EC 2.7.7.12)は、ウリジン5’-二リン酸グルコース(UDP-グルコース)とガラクトース-1-リン酸(Gal-1-P)との間のヌクレオチド交換を触媒して、可逆的機構を介してウリジン5’-二リン酸ガラクトース(UDP-ガラクトース)およびグルコース-1-リン酸(Glc-1-P)を生成する。
CHO K1M細胞株からの全細胞RNA抽出を、Roche MagNA Pure LC 2.0 Instrument(製品番号05197686001、Roche Diagnostics GmbH)で実行されるRocheのMagNA Pure LC RNA Isolation Kit-High Performance(製品番号03542394001)を使用することによって行った。精製RNAの濃度をNanoVue(GE Healthcare Bio-Science AB)で測定し、-70℃で保存した。
この精製細胞RNAをUDP_Gal-T cDNA合成および標的化増幅に使用した。cDNAの合成および増幅は、NCBI GenBankデータベースに従って相同的に設計された2つのUDP_Gal-T特異的プライマーを用いてRoche Transcriptor One-Step RT-PCR Kit(製品番号04655877001、Roche Diagnopstics GmbH)を使用することによって行った。
ここで使用される2つのプライマーは以下の通りである:
フォワードプライマーUDP-Gal-T-F 2-21(配列番号7):
5’ ATGTCGCAAAACGGAGATGAT 3’、および
リバースプライマーUDP-Gal-T-R18(配列番号8):
5’ TCAAGCAACAGCTGCTGT 3’。
RT-PCR条件:
逆転写:50℃ 30分
初期変性:94℃ 7分
増幅PCR:
変性:94℃ 10秒
アニーリング:56℃ 30秒
伸長:68℃ 60秒(60秒/kb)
サイクル:10
変性:94℃ 10秒
アニーリング:56℃ 30秒
伸長:68℃ 1:30+5秒(+5秒/kb)
サイクル:25
最終伸長:68℃ 7分
増幅したPCR産物をRoche High Pure PCR Product Purification Kit(製品番号11732668001、Roche Diagnopstics GmbH)で精製した後、直接配列決定解析に供した。UDP_Gal-T cDNAの配列をSEQUENCE-3(配列番号3)に示す。このcDNAは、予測された379アミノ酸タンパク質をコードする。CHO K1MにおけるUDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジリルトランスフェラーゼの得られたアミノ酸配列をSEQUENCE-4(配列番号4)に示す。
UDP-Gal-T CHO K1Mによってコードされるタンパク質配列は、ヒトUDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼと89.4%同一であり、94.7%類似しており、マウスおよびウシ由来の他のUDP-α-D-グルコース:α-D-ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼと密接に関連している。
実施例3:組換え抗ヒトα-シヌクレイン抗体産生のためのCHO細胞株L965におけるL-システインによる酵素および経路の調節
本実施例では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来する細胞株であるCHO K1Mを宿主細胞株として使用した(国際公開第2009047007号)。
CHO K1M細胞を、単量体またはオリゴマーのヒトα-シヌクレインに結合する抗ヒトα-シヌクレインモノクローナル抗体(米国特許第9670274号および米国特許第9890209号に記載されている)を発現するように操作し、ここでCHO L965細胞株と命名した。
ヒトα-シヌクレインは原線維性凝集体を形成することができ、これらの凝集体はレビー小体およびレビー神経突起の主構成要素である。近年の科学的研究は、α-シヌクレインの線維前オリゴマーがパーキンソン病の進行における重要な寄与因子であり得ることを示唆している(Lukら、2012)。
特異的抗体L965は、細胞外α-シヌクレインに特異的に結合することができ、細胞間凝集体の伝達およびパーキンソン病の進行を予防するために使用され得る。
細胞培養プロセスのために、特注バージョンの血清不含有の、既知組成培地がL965細胞を培養するための基礎培地として使用される。解凍後、細胞を、振盪フラスコ中3μg/mLブラストサイジン(ブラスチシジン、InvivoGen S.A.S.、France)および10μg/mLのピューロマイシン(ピューロマイシン溶液、InvivoGen S.A.S.、フランス、カタログ番号ANT-PR)の存在下、3~4日のスケジュールでこの培地中で継代した。継代条件は、Kuhner Shaker Xプラットフォーム(Adolf Kuhner AG、Birsfelden、Basel、Switzerland)を使用する125mLおよび500mLフラスコについて、36.5℃、7% CO2、および160rpmであった。
播種トレーニングおよび産生プロセスのために、血清不含有の既知組成の他の特注バージョンをL965細胞を増殖させるための基礎培地として使用した。
この生産培地調製中に、追加のグルコース、グルタミン、アミノ酸、微量元素(RTE1.2 Solution、Gibco、英国;参照番号043-90585H)および塩も含めた。この場合、培地中のL-システイン(Merck Chemicals GmbH、カタログ番号:1.02735.1000)の最終濃度をそれぞれ6mMおよび10mMに調整した。
前培養細胞を使用して、N-2工程を約3.0×105細胞/mLで、N-1工程を約5.0×105細胞/mLで、それぞれ6mMまたは10mMのL-システインを含有する、全てブラストサイジンおよびピューロマイシンを含まない、調製された産生培地と並行して播種した。産生バイオリアクターに、それぞれ6mMまたは10mMのL-システインを含有する培地に約10.0×105細胞/mLを播種した。細胞を、所定のpH、溶存酸素、温度および栄養素供給戦略を有するフェドバッチ培養条件下で、産生バイオリアクターで培養した。特に明記しない限り、通常、初期培養体積1.2Lの2Lバイオリアクターを使用した。
バイオリアクター内の温度を36.5℃に制御し、撹拌機速度を約223rpmに設定した。空気、CO2およびO2を含む混合ガスを用意した。溶解二酸化炭素濃度(dCO2)をオフラインで1日1回測定した。溶存酸素濃度(DO)をオンラインで制御し、ガス混合物中の酸素分圧を変化させることによって35%に調整した。特記しない限り、CO2または1.0MのNaHCO3の添加により、pHをpH設定点7.00に維持し、不感帯は±0.03pH単位であった。
供給培地は、インハウス培地とグルコース、グルタミン、アミノ酸および塩との組合せを含んでいた。この供給培地を溶液中で調製し、3日目、6日目および9日目に、それぞれ作業培養体積の約10体積%の量で培養物に添加した。
追加のグルコース供給溶液を調製し、4~14日目に培養物に添加して、グルコース濃度を約4g/l以上に維持した。
産生細胞培養の試料をオフライン分析のためにシリンジで毎日採取した。産生期間は、典型的には約14日間続いた。細胞濃度および生存率を、CEDEX機器(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を使用したトリパンブルー排除法によって測定した。グルコース、グルタミン、グルタメート、ラクテート、アンモニウムおよび生成物濃度について、COBAS INTEGRA(登録商標)400 plus(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を用いてオフライン測定を行った。溶解した二酸化炭素をCobas b221分析装置(Roche Diagnostics Ltd.CH-6343 Rotkreuz,Switzerland)で分析した。重量浸透圧モル濃度は、Osmomat Auto Osmometer(Gonotec GmbH、Berlin、Germany)での凝固点降下によって測定した。
本培養産生プロセスの終了時に、遠心分離により細胞培養流体を回収した。上清をプロテインAによる小規模mAb精製にさらに供した。精製mAbのグリコシル化パターンを2ABで分析した。
図6A~図6Eは、G0形態の抗α-シヌクレイン抗体L965、G1形態の抗α-シヌクレイン抗体L965、G2形態の抗α-シヌクレイン抗体L965、生成物力価および細胞増殖(IVCD)に対する異なるL-システイン濃度の効果を示す。
図6Aは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に6mMのL-システインを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L965のG0形態が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも約10.4%低かったことを示す。
図6Bは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に6mMのL-システインを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L965のG1形態が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも約13%高かったことを示す。
図6Cは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に6mMのL-システインを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L965のG2形態が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも約5%高かったことを示す。
図6Dは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に6mMのL-システインを含むプロセスからの生成物力価が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも約73%高かったことを示す。
図6Eは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に6mMのL-システインを含むプロセスにおける細胞増殖が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも高かったことを示す。
実施例-4:組換え抗CD20/抗CD3二重特異性抗体産生のためのCHO細胞株T104におけるL-システインによる酵素および経路調節
本実施例では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来する細胞株であるCHO K1Mを宿主細胞株として使用した(国際公開第2009047007号)。CHO K1M細胞を、CD20-CD3標的化T細胞二重特異性モノクローナル抗体、抗CD20/抗CD3 bsAB(欧州特許第3252078号に記載)を発現するように操作し、ここでCHO T104細胞株と命名した。
抗CD20/抗CD3 bsABは、B細胞上に発現されるCD20およびT細胞上に存在するCD3イプシロン鎖(CD3ε)を標的化するT細胞二重特異性(TCB)抗体である。抗CD20/抗CD3 bsABの作用機序は、CD20+B細胞およびCD3+T細胞への同時結合を含み、これは、B細胞のT細胞活性化およびT細胞媒介性殺傷をもたらす。CD20+B細胞の存在下では、循環しているか組織に存在しているかにかかわらず、薬理学的に活性な用量が、T細胞活性化および関連するサイトカイン放出を引き起こす。抗CD20/抗CD3 bsABは、疾患、特にB細胞増殖性障害を処置するため、およびT細胞活性化治療剤の投与に応答して有害作用を軽減するために使用され得る。例えば、慢性リンパ性白血病の患者は、抗CD20/抗CD3二重特異性抗体で処置することができる。
細胞培養プロセスのために、特注バージョンの血清不含有の、既知組成培地をT104細胞を培養するための基礎培地として使用した。解凍後、細胞を、振盪フラスコ中の250nMメトトレキサート(MTX;Pfizer、カタログ番号13999031)の存在下、この培地中で3~4日のスケジュールで継代した。継代条件は、Kuhner Shaker Xプラットフォーム(Adolf Kuhner AG、Birsfelden、Basel、Switzerland)を使用する125mLおよび500mLフラスコについて、36.5℃、7% CO2、および160rpmであった。
播種トレーニングおよび産生プロセスのために、血清不含有の既知組成培地の他の特注バージョンを T104細胞を増殖させるための基礎培地として使用した。この生産培地調製中に、追加のグルコース、グルタミン、アミノ酸、微量元素(RTE1.0 Solution、SAFC、参照番号CR40054-1000M SLBR5143V)および塩も含めた。この場合、培地中のL-システイン(Merck Chemicals GmbH、カタログ番号:1.02735.1000)の最終濃度をそれぞれ5mMおよび10mMに調整した。
前培養細胞を使用して、N-2工程を約3.0×105細胞/mLで、N-1工程を約5.0×105細胞/mLで、それぞれ5mMまたは10mMのL-システインを含有する、全てMTXを含まない、調製された産生培地と並行して播種した。産生バイオリアクターに、それぞれ5mMまたは10mMのL-システインを含有する培地に約10.0×105細胞/mLを播種した。細胞を、所定のpH、溶存酸素、温度および栄養素供給戦略を有するフェドバッチ培養条件下で、産生バイオリアクターで培養した。特に明記しない限り、通常、初期培養体積1.2Lの2Lバイオリアクターを使用した。200mLの初期培養体積を有するAmbr-250バイオリアクターを使用した。
バイオリアクター内の温度を36.5℃に制御し、撹拌機速度を約223rpmに設定した。空気、CO2およびO2を含む混合ガスを用意した。溶解二酸化炭素濃度(dCO2)をオフラインで1日1回測定した。溶存酸素濃度(DO)をオンラインで制御し、ガス混合物中の酸素分圧を変化させることによって35%に調整した。特記しない限り、CO2または1.0M NaHCO3の添加により、pHをpH設定点7.00に維持し、不感帯は±0.03pH単位であった。
供給培地は、インハウス培地とグルコース、グルタミン、アミノ酸および塩との組合せを含んでいた。この供給培地を溶液中で調製し、3日目、6日目および9日目に、それぞれ作業培養体積の約10体積%の量で培養物に添加した。
追加のグルコース供給溶液を調製し、4~14日目に培養物に添加して、グルコース濃度を約3g/l以上に維持した。
産生細胞培養の試料をオフライン分析のためにシリンジで毎日採取した。産生期間は、典型的には約14日間続いた。細胞濃度および生存率を、CEDEX機器(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を使用したトリパンブルー排除法によって測定した。グルコース、グルタミン、グルタメート、ラクテート、アンモニウムおよび生成物濃度について、COBAS INTEGRA(登録商標)400 plus(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を用いてオフライン測定を行った。溶解した二酸化炭素をCobas b221分析装置(Roche Diagnostics Ltd.CH-6343 Rotkreuz,Switzerland)で分析した。重量浸透圧モル濃度は、Osmomat Auto Osmometer(Gonotec GmbH、Berlin、Germany)での凝固点降下によって測定した。
本培養産生プロセスの終了時に、遠心分離により細胞培養流体を回収した。上清をプロテインAによる小規模mAb精製にさらに供した。精製mAbのグリコシル化パターンを2ABで分析した。
図7A~図7Dは、抗CD20/抗CD3 bsABのG0形態、抗CD20/抗CD3 bsABのG1形態、細胞増殖(IVCD)、および生成物力価に対する異なるL-システイン濃度の効果を示す。
図7Aは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に5mMのL-システインを含むプロセスからの抗CD20/抗CD3 bsABのG0形態が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも約5.5%低かったことを示す。
図7Bは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に5mMのL-システインを含むプロセスからの抗CD20/抗CD3 bsABのG1形態が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも約3.4%高かったことを示す。
図7Cは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に5mMのL-システインを含むプロセスからの生成物力価が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも約66%高かったことを示す。
図7Dは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に5mMのL-システインを含むプロセスにおける細胞増殖が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも高かったことを示す。
実施例-5:改善された産生プロセスのための組換え抗CD20/抗CD3二重特異性抗体産生CHO細胞株T104におけるL-システインによる酵素および経路調節
本実施例では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来する細胞株であるCHO K1Mを宿主細胞株として使用した(国際公開第2009047007号)。CHO K1M細胞を、抗CD20/CD3標的化T細胞二重特異性モノクローナル抗体、抗CD20/抗CD3 bsAB(欧州特許第3252078号に記載)を発現するように操作し、ここでT104細胞株と命名した。
抗CD20/抗CD3 bsABは、B細胞上に発現されるCD20およびT細胞上に存在するCD3イプシロン鎖(CD3ε)を標的化するT細胞二重特異性(TCB)抗体である。抗CD20/抗CD3 bsABの作用機序は、CD20+B細胞およびCD3+T細胞への同時結合を含み、これは、B細胞のT細胞活性化およびT細胞媒介性殺傷をもたらす。CD20+B細胞の存在下では、循環しているか組織に存在しているかにかかわらず、薬理学的に活性な用量が、T細胞活性化および関連するサイトカイン放出を引き起こす。抗CD20/抗CD3 bsABは、疾患、特にB細胞増殖性障害を処置するため、およびT細胞活性化治療剤の投与に応答して有害作用を軽減するために使用され得る。
細胞培養プロセスのために、特注バージョンの血清不含有の、既知組成インハウス培地をT104細胞を培養するための基礎培地として使用した。解凍後、細胞を、振盪フラスコ中の250nMメトトレキサート(MTX;Pfizer、カタログ番号13999031)の存在下、この培地中で3~4日のスケジュールで継代した。継代条件は、Kuhner Shaker Xプラットフォーム(Adolf Kuhner AG、Birsfelden、Basel、Switzerland)を使用する125mLおよび500mLフラスコについて、36.5℃、7% CO2、および160rpmであった。
播種トレーニングおよび産生プロセスのために、血清不含有の既知組成培地の他の特注バージョンを T104細胞を増殖させるための基礎培地として使用した。この生産培地調製中に、追加のグルコース、グルタミン、アミノ酸、微量元素(RTE1.2 Solution、Gibco、英国;参照番号043-90585H)および塩も含めた。この場合、培地中のL-システイン(Merck Chemicals GmbH、カタログ番号:1.02735.1000)の最終濃度をそれぞれ5mMおよび10mMに調整した。
前培養細胞を使用して、N-2工程を約3.0×105細胞/mLで、N-1工程を約5.0×105細胞/mLで、それぞれ5mMまたは10mMのL-システインを含有する、全てMTXを含まない、調製された産生培地と並行して播種した。産生バイオリアクターに、それぞれ5mMまたは10mMのL-システインを含有する培地に約10.0×105細胞/mLを播種した。細胞を、所定のpH、溶存酸素、温度および栄養素供給戦略を有するフェドバッチ培養条件下で、産生バイオリアクターで培養した。特に明記しない限り、初期培養体積1.2Lの2Lバイオリアクターを使用した。特に明記しない限り、初期培養体積200mLのAmbr-250バイオリアクターを使用した。
バイオリアクター内の温度を36.5℃に制御し、撹拌機速度を約223rpmに設定した。空気、CO2およびO2を含む混合ガスを用意した。溶解二酸化炭素濃度(dCO2)をオフラインで1日1回測定した。溶存酸素濃度(DO)をオンラインで制御し、ガス混合物中の酸素分圧を変化させることによって35%に調整した。特記しない限り、CO2または1.0MのNaHCO3の添加により、pHをpH設定点7.00に維持し、不感帯は±0.03pH単位であった。
供給培地は、RF1.0粉末(SAFC、カタログ番号CR60112)、グルコース、グルタミン、アミノ酸および塩の組合せを含んでいた。この供給培地を溶液中で調製し、3日目、および6日目および9日目に、それぞれ作業培養体積の約10体積%の量で培養物に添加した。
追加のグルコース供給溶液を調製し、4~14日目に培養物に添加して、グルコース濃度を約3g/l以上に維持した。
産生細胞培養の試料をオフライン分析のためにシリンジで毎日採取した。産生期間は、典型的には約14日間続いた。細胞濃度および生存率を、CEDEX機器(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を使用したトリパンブルー排除法によって測定した。グルコース、グルタミン、グルタメート、ラクテート、アンモニウムおよび生成物濃度について、COBAS INTEGRA(登録商標)400 plus(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を用いてオフライン測定を行った。溶解した二酸化炭素をCobas b221分析装置(Roche Diagnostics Ltd.CH-6343 Rotkreuz,Switzerland)で分析した。重量浸透圧モル濃度は、Osmomat Auto Osmometer(Gonotec GmbH、Berlin、Germany)での凝固点降下によって測定した。
本培養産生プロセスの終了時に、遠心分離により細胞培養流体を回収した。上清をプロテインAによる小規模mAb精製にさらに供した。精製mAbのグリコシル化パターンを2ABで分析した。
図8A~図8Dは、抗CD20/抗CD3 bsABのG0形態、抗CD20/抗CD3 bsABのG1形態、細胞増殖(IVCD)、および生成物力価に対する異なるL-システイン濃度の効果を示す。
図8Aは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に5mMのL-システインを含むプロセスからの抗CD20/抗CD3 bsABのG0形態が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも約3.8%低かったことを示す。
図8Bは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に5mMのL-システインを含むプロセスからの抗CD20/抗CD3 bsABのG1形態が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも約2.5%高かったことを示す。
図8Cは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に5mMのL-システインを含むプロセスからの生成物力価が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも約67%高かったことを示す。
図8Dは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に5mMのL-システインを含むプロセスにおける細胞増殖が、産生培地中に10mMのL-システインを含むプロセスよりも高かったことを示す。
実施例6:組換え抗ヒトα-シヌクレイン抗体産生のためのCHO細胞株L967におけるL-シスチンによる経路調節
本実施例では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来する細胞株であるCHO K1Mを宿主細胞株として使用した(国際公開第2009047007号)。CHO K1M細胞を、単量体またはオリゴマーのヒトα-シヌクレインに結合する抗ヒトα-シヌクレインモノクローナル抗体(米国特許第9670274号および米国特許第9890209号に記載されている)を発現するように操作し、ここでL967細胞株と命名した。
ヒトα-シヌクレインは原線維性凝集体を形成することができ、これらの凝集体はレビー小体およびレビー神経突起の主構成要素である。近年の科学的研究は、α-シヌクレインの線維前オリゴマーがパーキンソン病の進行における重要な寄与因子であり得ることを示唆している(Lukら、2012)。特異的抗体L967は、細胞外α-シヌクレインに特異的に結合することができ、細胞間凝集体の伝達およびパーキンソン病の進行を予防するために使用され得る。
細胞培養プロセスのために、特注バージョンの血清不含有の、既知組成培地をL967細胞を培養するための基礎培地として使用した。解凍後、細胞を、振盪フラスコ中5μg/mLピューロマイシン(ピューロマイシン溶液、InvivoGen S.A.S.、フランス、カタログ番号ANT-PR)の存在下、この培地中で3~4日のスケジュールで継代した。継代条件は、Kuhner Shaker Xプラットフォーム(Adolf Kuhner AG、Birsfelden、Basel、Switzerland)を使用する125mLおよび500mLフラスコについて、36.5℃、7% CO2、および160rpmであった。
播種トレーニングおよび産生プロセスのために、血清不含有の既知組成培地の他の特注バージョンをL967細胞を増殖させるための基礎培地として使用した。この生産培地調製中に、追加のグルコース、グルタミン、アミノ酸、微量元素(希釈RTE1.2 Solution、Gibco、英国;参照番号043-90585H)および塩も含めた。使用前に、培地中のL-シスチン(L-シスチン二ナトリウム塩一水和物;SAFC、供給者項目番号RES1523C-A154X)の最終濃度をそれぞれ2mMおよび4mMに調整した。
前培養細胞を使用して、N-2工程を約3.0×105細胞/mLで、N-1工程を約5.0×105細胞/mLで、それぞれ2mMまたは4mMのL-シスチンを含有する調製された産生培地と並行して播種した。産生バイオリアクターに、それぞれ2mMまたは4mMのL-シスチンを含有する培地に約10.0×105細胞/mLを播種した。細胞を、所定のpH、溶存酸素、温度および栄養素供給戦略を有するフェドバッチ培養条件下で、産生バイオリアクターで培養した。特に明記しない限り、通常、初期培養体積1.2Lの2Lバイオリアクターを使用した。200mLの初期培養体積を有するAmbr-250バイオリアクターを使用した。
バイオリアクター内の温度を36.5℃に制御し、撹拌機速度を約223rpmに設定した。空気、CO2およびO2を含む混合ガスを用意した。溶解二酸化炭素濃度(dCO2)をオフラインで1日1回測定した。溶存酸素濃度(DO)をオンラインで制御し、ガス混合物中の酸素分圧を変化させることによって35%に調整した。特記しない限り、CO2または1.0MのNaHCO3の添加により、pHをpH設定点7.00に維持し、不感帯は±0.03pH単位であった。
供給培地は、RF1.0粉末(SAFC、カタログ番号CR60112)、グルコース、グルタミン、アミノ酸および塩の組合せを含んでいた。この供給培地を溶液中で調製し、3日目、6日目および9日目に、それぞれ作業培養体積の約10体積%の量で培養物に添加した。
追加のグルコース供給溶液を調製し、4~14日目に培養物に添加して、グルコース濃度を約4g/l以上に維持した。
産生細胞培養の試料をオフライン分析のためにシリンジで毎日採取した。産生期間は、典型的には約14日間続いた。細胞濃度および生存率を、CEDEX機器(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を使用したトリパンブルー排除法によって測定した。グルコース、グルタミン、グルタメート、ラクテート、アンモニウムおよび生成物濃度について、COBAS INTEGRA(登録商標)400 plus(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を用いてオフライン測定を行った。溶解した二酸化炭素をCobas b221分析装置(Roche Diagnostics Ltd.CH-6343 Rotkreuz,Switzerland)で分析した。重量浸透圧モル濃度は、Osmomat Auto Osmometer(Gonotec GmbH、Berlin、Germany)での凝固点降下によって測定した。
本培養産生プロセスの終了時に、遠心分離により細胞培養流体を回収した。上清をプロテインAによる小規模mAb精製にさらに供した。精製mAbのグリコシル化パターンを2ABで分析した。
図9A~図9Eは、G0形態の抗α-シヌクレイン抗体L967、G1形態の抗α-シヌクレイン抗体L967、G2形態の抗α-シヌクレイン抗体L967、生成物力価および細胞増殖(IVCD)に対する異なるL-シスチン濃度の効果を示す。
図9Aは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に2mMのL-シスチンを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L967のG0形態が、産生培地中に4mMのL-シスチンを含むプロセスよりも約6.6%高かったことを示す。
図9Bは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に2mMのL-シスチンを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L967のG1形態が、産生培地中に4mMのL-シスチンを含むプロセスよりも約5.9%低かったことを示す。
図9Cは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に2mMのL-シスチンを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L967のG2形態が、産生培地中に4mMのL-シスチンを含むプロセスよりも約 1.6%低かったことを示す。
図9Dは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に2mMのL-シスチンを含むプロセスからの生成物力価が、産生培地中に4mMのL-シスチンを含むプロセスよりも約9%低かったことを示す。
図9Eは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に2mMのL-シスチンを含むプロセスにおける細胞増殖が、産生培地中に4mMのL-シスチンを含むプロセスよりも約3.7%低かったことを示す。
実施例7:組換え抗ヒトα-シヌクレイン抗体産生のためのCHO細胞株L971におけるL-シスチンによる経路調節
本実施例では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来する細胞株であるCHO K1Mを宿主細胞株として使用した(国際公開第2009047007号)。CHO K1M細胞を、単量体またはオリゴマーのヒトα-シヌクレインに結合する抗ヒトα-シヌクレインモノクローナル抗体(米国特許第9670274号および米国特許第9890209号に記載されている)を発現するように操作し、ここでCHO L971細胞株と命名した。
ヒトα-シヌクレインは原線維性凝集体を形成することができ、これらの凝集体はレビー小体およびレビー神経突起の主構成要素である。近年の科学的研究は、α-シヌクレインの線維前オリゴマーがパーキンソン病の進行における重要な寄与因子であり得ることを示唆している(Lukら、2012)。特異的抗体L971は、細胞外α-シヌクレインに特異的に結合することができ、細胞間凝集体の伝達およびパーキンソン病の進行を予防するために使用され得る。
細胞培養プロセスのために、特注バージョンの血清不含有の、既知組成培地をL971細胞を培養するための基礎培地として使用した。解凍後、細胞を、振盪フラスコ中5μg/mLピューロマイシン(ピューロマイシン溶液、InvivoGen S.A.S.、フランス、カタログ番号ANT-PR)の存在下、この培地中で3~4日のスケジュールで継代した。継代条件は、Kuhner Shaker Xプラットフォーム(Adolf Kuhner AG、Birsfelden、Basel、Switzerland)を使用する125mLおよび500mLフラスコについて、36.5℃、7% CO2、および160rpmであった。
播種トレーニングおよび産生プロセスのために、血清不含有の既知組成培地の他の特注バージョンをL971細胞を増殖させるための基礎培地として使用した。この生産培地調製中に、追加のグルコース、グルタミン、アミノ酸、微量元素(RTE1.2 Solution、Gibco、英国;参照番号043-90585H)および塩も含めた。使用前に、培地中のL-シスチン(L-シスチン二ナトリウム塩一水和物;SAFC、供給者項目番号RES1523C-A154X)の最終濃度をそれぞれ2mMおよび4mMに調整した。
前培養細胞を使用して、N-2工程を約3.0×105細胞/mLで、N-1工程を約5.0×105細胞/mLで、それぞれ2mMまたは4mMのL-シスチンを含有する調製された産生培地と並行して播種した。産生バイオリアクターに、それぞれ2mMまたは4mMのL-シスチンを含有する培地に約10.0×105細胞/mLを播種した。細胞を、所定のpH、溶存酸素、温度および栄養素供給戦略を有するフェドバッチ培養条件下で、産生バイオリアクターで培養した。特に明記しない限り、通常、初期培養容積1.2Lの2Lバイオリアクターを使用した。200mLの初期培養容積を有するAmbr-250バイオリアクターを使用した。
バイオリアクター内の温度を36.5℃に制御し、撹拌機速度を約223rpmに設定した。空気、CO2およびO2を含む混合ガスを用意した。溶解二酸化炭素濃度(dCO2)をオフラインで1日1回測定した。溶存酸素濃度(DO)をオンラインで制御し、ガス混合物中の酸素分圧を変化させることによって35%に調整した。特記しない限り、CO2または1.0MのNaHCO3の添加により、pHをpH設定点7.00に維持し、不感帯は±0.03pH単位であった。
供給培地は、RF1.0粉末(SAFC、カタログ番号CR60112)、グルコース、グルタミン、アミノ酸および塩の組合せを含んでいた。この供給培地を溶液中で調製し、3日目、6日目および9日目に、それぞれ作業培養体積の約10体積%の量で培養物に添加した。
追加のグルコース供給溶液を調製し、4~14日目に培養物に添加して、グルコース濃度を約4g/l以上に維持した。
産生細胞培養の試料をオフライン分析のためにシリンジで毎日採取した。産生期間は、典型的には約14日間続いた。細胞濃度および生存率を、CEDEX機器(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を使用したトリパンブルー排除法によって測定した。グルコース、グルタミン、グルタメート、ラクテート、アンモニウムおよび生成物濃度について、COBAS INTEGRA(登録商標)400 plus(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を用いてオフライン測定を行った。溶解した二酸化炭素をCobas b221分析装置(Roche Diagnostics Ltd.CH-6343 Rotkreuz,Switzerland)で分析した。重量浸透圧モル濃度は、Osmomat Auto Osmometer(Gonotec GmbH、Berlin、Germany)での凝固点降下によって測定した。
本培養産生プロセスの終了時に、遠心分離により細胞培養流体を回収した。上清をプロテインAによる小規模mAb精製にさらに供した。精製mAbのグリコシル化パターンを2ABで分析した。
図10A~図10Eは、G0形態の抗α-シヌクレイン抗体L971、G1形態の抗α-シヌクレイン抗体L971、G2形態の抗α-シヌクレイン抗体L971、生成物力価および細胞増殖(IVCD)に対する異なるL-シスチン濃度の効果を示す。
図10Aは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に2mMのL-シスチンを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L971のG0形態が、産生培地中に4mMのL-シスチンを含むプロセスよりも約3%高かったことを示す。
図10Bは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に2mMのL-シスチンを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L971のG1形態が、産生培地中に4mMのL-シスチンを含むプロセスよりも約2%低かったことを示す。
図10Cは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に2mMのL-シスチンを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L971のG2形態が、産生培地中に4mMのL-シスチンを含むプロセスと同等であったことを示す。
図10Dは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に2mMのL-シスチンを含むプロセスからの生成物力価が、産生培地中に4mMのL-シスチンを含むプロセスよりも約30%低かったことを示す。
図10Eは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に2mMのL-シスチンを含むプロセスにおける細胞増殖が、産生培地中に4mMのL-シスチンを含むプロセスとわずかに同等であったことを示す。
実施例8:L-システインまたはL-シスチンとのプロセスから産生された組換え抗ヒトα-シヌクレイン抗体L971の機能的比較
本実施例では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に由来する細胞株であるCHO K1Mを宿主細胞株として使用した(国際公開第2009047007号)。CHO K1M細胞を、単量体またはオリゴマーのヒトα-シヌクレインに結合する抗ヒトα-シヌクレインモノクローナル抗体(米国特許第9670274号および米国特許第9890209号に記載されている)を発現するように操作し、ここでCHO L971細胞株と命名した。
ヒトα-シヌクレインは原線維性凝集体を形成することができ、これらの凝集体はレビー小体およびレビー神経突起の主構成要素である。近年の科学的研究は、α-シヌクレインの線維前オリゴマーがパーキンソン病の進行における重要な寄与因子であり得ることを示唆している(Lukら、2012)。特異的抗体L971は、細胞外α-シヌクレインに特異的に結合することができ、細胞間凝集体の伝達およびパーキンソン病の進行を予防するために使用され得る。
細胞培養プロセスのために、特注バージョンの血清不含有の、既知組成培地をL965細胞を培養するための基礎培地として使用した。解凍後、細胞を、振盪フラスコ中5μg/mLピューロマイシン(ピューロマイシン溶液、InvivoGen S.A.S.、フランス、カタログ番号ANT-PR)の存在下、この培地中で3~4日のスケジュールで継代した。継代条件は、Kuhner Shaker Xプラットフォーム(Adolf Kuhner AG、Birsfelden、Basel、Switzerland)を使用する125mLおよび500mLフラスコについて、36.5℃、7% CO2、および160rpmであった。
播種トレーニングおよび産生プロセスのために、血清不含有の既知組成培地の他の特注バージョンをL971細胞を増殖させるための基礎培地として使用した。
この生産培地調製中に、追加のグルコース、グルタミン、アミノ酸、微量元素(RTE1.2 Solution、Gibco、英国;参照番号043-90585H)および塩も含めた。使用前に、培地中のL-シスチン(L-シスチン二ナトリウム塩一水和物;SAFC、供給者項目番号RES1523C-A154X)の最終濃度を培地の一部分において3mMに調整した。直接比較のために、培地中のL-システインの最終濃度(Merck Chemicals GmbH、カタログ番号:1.02735.1000)を培地のその他の部分で6mMに調整した。
前培養細胞を使用して、N-2工程を約3.0×105細胞/mLで、N-1工程を約5.0×105細胞/mLで、それぞれ規定量のL-シスチンまたはL-システインを含有する調製された産生培地と並行して播種した。産生バイオリアクターに、それぞれL-シスチン(3mM)またはL-システイン(6mM)を含有する培地に約10.0×105細胞/mLを播種した。細胞を、所定のpH、溶存酸素、温度および栄養素供給戦略を有するフェッドバッチ培養条件下で、産生バイオリアクターで培養した。特に明記しない限り、通常、初期培養容積1.2Lの2Lバイオリアクターを使用した。200mLの初期培養容積を有するAmbr-250バイオリアクターを使用した。
バイオリアクター内の温度を36.5℃に制御し、撹拌機速度を約223rpmに設定した。空気、CO2およびO2を含む混合ガスを用意した。溶解二酸化炭素濃度(dCO2)をオフラインで1日1回測定した。溶存酸素濃度(DO)をオンラインで制御し、ガス混合物中の酸素分圧を変化させることによって35%に調整した。特記しない限り、CO2または1.0MのNaHCO3の添加により、pHをpH設定点7.00に維持し、不感帯は±0.03pH単位であった。
供給培地は、インハウス培地とグルコース、グルタミン、アミノ酸および塩との組合せを含んでいた。この供給培地を溶液中で調製し、3日目、6日目および9日目に、それぞれ作業培養体積の約10体積%の量で培養物に添加した。
追加のグルコース供給溶液を調製し、4~14日目に培養物に添加して、グルコース濃度を約4g/l以上に維持した。
産生細胞培養の試料をオフライン分析のためにシリンジで毎日採取した。産生期間は、典型的には約14日間続いた。細胞濃度および生存率を、CEDEX機器(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を使用したトリパンブルー排除法によって測定した。グルコース、グルタミン、グルタメート、ラクテート、アンモニウムおよび生成物濃度について、COBAS INTEGRA(登録商標)400 plus(Roche Diagnostics GmbH、Germany)を用いてオフライン測定を行った。溶解した二酸化炭素をCobas b221分析装置(Roche Diagnostics Ltd.CH-6343 Rotkreuz,Switzerland)で分析した。重量浸透圧モル濃度は、Osmomat Auto Osmometer(Gonotec GmbH、Berlin、Germany)での凝固点降下によって測定した。
本培養産生プロセスの終了時に、遠心分離により細胞培養流体を回収した。上清をさらにプロテインAによる小規模mAb精製に供した。精製mAbのグリコシル化パターンを2ABで分析した。
新生児型Fe受容体(FcRn)は、初期エンドソームから抗体をサルベージし、それらを循環に戻す能力によってIgG型抗体の薬物動態(PK)プロファイルに影響を及ぼす。FcRnとの相互作用は、IgG型治療用抗体のPKを決定する上で最も重要な因子であると考えられており、クリアランスの代用と考えられている(NimmerjahnおよびRavetch 2008の概説を参照のこと)。
Fcγ受容体は、免疫エフェクター細胞上のエフェクター機能のメディエーターである。異なるヒトFcγ受容体の中で、Fcγ-RIIaは、抗体依存性食作用(ADCP)を媒介する際の支配的な因子であると考えられている。Fcγ-RIIaの2つの最も一般的なアロタイプのうち、アミノ酸位置131にヒスチジンを有する(H131)形態は、高親和性アロタイプとして記載されることが多い(NimmerjahnおよびRavetch、2008、Yamadaら、2013)。
ここで、表面プラズモン共鳴(SPR)による、FcRnおよびFcγIIa(His131)に対する小規模精製aSin-L971-mAb試料の相対的結合を決定した。小規模精製aSin-L 971-mAb試料の標的への相対的結合をELISAによって決定した。
図11A~図11Eは、それぞれ細胞培養培地中に3mMのL-シスチンまたは6mMのL-システインを含む細胞培養プロセスで産生されたaSyn-L971抗体の直接比較を示す。
図11Aは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に6mMのL-システインを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L971のG1形態が、産生培地中に3mMのL-シスチンを含むプロセスよりもごくわずかに高かったことを示す。
図11Bは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に6mMのL-システインを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L971のG2形態が、産生培地中に3mMのL-シスチンを含むプロセスと同等であったことを示す。
図11Cは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に6mMのL-システインを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L971について、産生培地中に3mMのL-シスチンを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L971(相対レベル約85%)よりも約33%高いFcRn相対結合レベル(相対レベル約118%)が観察されたことを示す。
図11Dは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に6mMのL-システインを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L971について、産生培地中に3mMのL-シスチンを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L971(相対レベル約77%)よりも約36%高いFcγ-RIIa(H131)相対結合レベル(相対レベル約113%)が観察されたことを示す。
図11Eは、14日間の産生プロセスの最後に、産生培地中に6mMのL-システインを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L971について、産生培地中に3mMのL-シスチンを含むプロセスからの抗α-シヌクレイン抗体L971(相対レベル約83%)よりも約35%高い標的相対結合レベル(相対レベル約118%)が観察されたことを示す。