以下、本発明を詳細に説明する。はじめに、本発明の機構の詳細を説明する。なお、特に断らない限り、以降、「%」は、「質量%」を意味するものとする。
従来の非金属介在物の多元系制御技術は、シリケイト介在物の融点及び粘性を低下させる技術である。このシリケイト介在物中では、NaとFは極めて親和力が強い。ミクロ的な視点でみると、NaイオンとFイオンは隣接して位置しており、NaF分子としてシリケイト介在物の融点や粘性に影響を与える。
NaF含有酸化物が1200℃以下の温度で溶融開始するのに対し、Na2O単独添加酸化物やF(たとえばCaF2)単独添加酸化物は1200℃を超える高温でないと溶融開始しない。すなわち、NaとFを共存させることにより、極めて低い融点を実現できる。
この1200℃以下という融点は、連続鋳造された鋳片のブレークダウン工程の分塊圧延(1150~1300℃)だけでなく、線材圧延温度(1000~1200℃)にも近い温度である。従来、介在物の圧延時の延伸は、おもに分塊圧延工程で起きると考えられてきた。しかし、介在物中にNaとFが共存する場合には分塊圧延工程だけでなく、線材圧延工程においても介在物は延伸する。したがって、NaとFを共存させることにより、介在物を格段に微細化することが可能である。
非金属介在物内では、その組成に応じて様々な結晶相が生成するポテンシャルがあるが、実際に結晶相が生成し、それが大きく成長した場合には断線等の起点になる。これに対し、NaF分子を添加すると、融点低下、粘性低下の効果に加え、結晶相の生成を顕著に遅らせる効果がある。その結果、断線等の起点が減少するので、伸線時の断線率が極めて低くなる。
なお、Na及びFの介在物延伸性に対する効果は、介在物中の計算NaF量に依存し、計算NaF量が増大すると延伸性は向上する。ここで、計算NaF量とは、NaとFがモル比で1:1で結合しているとしたときの、介在物中のNaFの質量%のことをいう。
NaとFのバランスが悪く、過剰のNaやFが存在する場合、介在物延伸性に対する効果はほとんどない。このため、(%Na)と(%F)が、モル比で1:1、すなわち質量比で1:0.83になるように添加することが好ましい。
特許文献8~11には、Naに代表されるアルカリ金属酸化物を活用する方法が開示されている。しかしながら、いずれの文献においても、シリケイト系の多元系介在物をベースとした上で、Na及びFを共存させることの必要性には言及していない。すなわち、これらの文献の発明と本発明とは、技術思想が異なる。
次に、本発明において、酸化物系介在物を構成する各酸化物の含有率を定めた理由等を説明する。
まず、鋼中の全酸素量の限定理由について述べる。全酸素量が30ppmを超える線材では非金属介在物の量が多くなり、厳格用途に用いられる加工材では断線回避が十分ではないことから上限を30ppmとした。一方、AlやMg等の強力な脱酸材を多量に使用すれば、16ppm未満の全酸素量とすることは容易であるが、本発明の線材における非金属介在物の組成制御を行うためには、16ppm以上の全酸素が必要である。全酸素量が16ppm未満、又は30ppm超となると、ダイス寿命が極端に悪くなる。全酸素量のより好ましい範囲は17~25ppmである。
次に、本発明における非金属介在物の組成と形態の制御について説明する。
本発明の鋼線材は、線材L方向(長さ方向)断面に見られる短径0.5μm以上、長径1.0μm以上、円相当径(面換算径)が1μm以上の酸化物系非金属介在物(サイズ対象介在物)のうち、(%SiO2)=40~95%、(%CaO)=0.5~30%、(%Al2O3)=0.5~30%、(%MgO)=0.5~20%、(%MnO)=0.5~10%を満たし、さらに(%Na)=0.2~7%、(%F)=0.17~8%を満たす介在物(組成対象介在物)が、個数比率(組成対象介在物個数/サイズ対象介在物個数×100)で80%以上であることを特徴とする。
線材L断面において、短径が0.5μm未満の介在物は、もともとのサイズが小さいか、又は圧延中に変形しやすい介在物である。長径が1.0μm未満、円相当径が1.0μm未満の介在物は、もともとのサイズが小さい介在物である。これらの介在物は、伸線性や疲労特性の悪化原因になりにくい。
そこで本発明においては、線材L方向断面に見られる短径0.5μm以上、長径1.0μm以上、円相当径が1μm以上の酸化物系非金属介在物を評価対象の介在物とし、「サイズ対象介在物」と称することとした。
次に、組成対象介在物についてその組成範囲の限定理由について述べる。
本発明の目的とする非金属介在物の軟質化と微細化のためには、まずは多元系での酸化物組成の組み合わせが必要となる。酸化物組成の基本は、SiO2-CaO-Al2O3-MgO-MnOの5元系であり、それにNaとFを同時に含有することではじめて、非金属介在物の軟質化と微細化の効果が発揮される。
SiO2は、シリケイト介在物の基幹をなす重要な酸化物である。(%SiO2)が40%未満ではベースの多元系介在物そのものがシリケイト介在物にはならず、本発明の効果を発揮できない。(%SiO2)が95%を超えると、もはや多元系介在物ではなくなり、大型SiO2による品質の劣化が生じる。
(%CaO)は、多元系介在物化による融点及び粘性の低下の効果を得るためには、0.5%以上とする必要がある。(%CaO)が30%を超えると、CaOリッチな硬質介在物が生成し、品質の劣化が生じる。
Al2O3は、適量であれば介在物軟質化に寄与するが、(%Al2O3)で30%を超えると硬質のAl2O3介在物が生成し、品質が大幅に悪化する。(%Al2O3)が0.5%未満では、多元系介在物の効果が得られない。
(%MgO)は、多元系介在物による融点及び粘性の低下の効果を得るためには、0.5%以上とする必要がある。(%MgO)が20%を超えると、オリビン又はフォルステナイト(2MgO・SiO2)等の有害な介在物が生成する。
(%MnO)は、多元系介在物による融点及び粘性の低下の効果を得るためには、0.5%以上とする必要がある。(%MnO)が10%を超えると、シリケイト介在物ではなく、スペサタイト(SiO2-MnO-Al2O3)介在物となり、Na及びF添加の効果が発揮されなくなる。
Na及びFは本発明において極めて重要な成分である。(%Na)が0.2%未満であると介在物延伸性の向上効果はない。一方、(%Na)が7%を超えるとその効果が飽和するとともに、Na添加時の発塵量が急増する等の問題が発生する。好ましくは4%未満がよい。
また、(%F)が0.17%未満の場合には介在物延伸性の向上効果はない。(%F)が8%を超えると、その効果が飽和するとともに、耐火物溶損量が急増する等の弊害が大きくなる。なお、上述のとおり、Na及びFは、介在物中でNaF分子となってその効果を発揮するので、非金属介在物中のNaとFのモル比が1:1、すなわち質量比で、(%Na):(%F)が1:0.83に近くなるように添加することが好ましい。
なお、線材断面に見られる、短径0.5μm以上、長径1.0μm以上、円相当径が1μm以上の酸化物系非金属介在物(サイズ対象介在物)をカウントしたときに、サイズ対象介在物のうち上記の組成を満足する介在物(組成対象介在物)の個数比率(組成対象介在物個数/サイズ対象介在物個数×100)が80%以上であることが必要である。
個数比率が80%を下回ることは、Na+Fによる介在物延伸化の効果を享受していないことを意味する。また、80%を下回ることは、たとえば、MgO系やAl2O3系の硬質介在物などの多元系介在物に属さない組成の介在が一定量存在することを意味するものであり、その結果、伸線性、及び伸線後の疲労特性が損なわれる。
介在物のサイズを規定した理由は、伸線性や疲労特性を悪化させるサイズの介在物のみをカウントするためである。
本発明においては、鋼中にNa及びFをともに添加し、シリケイト系の多元系酸化物系介在物にNa及びFをともに含有させ、介在物の組成を制御することによって、優れた伸線性、及び伸線後の疲労特性を確保することができる。最近では、鋼線材をより細径に伸線する用途が増加しており、このような用途において、本発明の高炭素鋼線材は、特に優れた性能を発揮する。
Na及びFの添加方法は、NaF化合物として添加してもよいし、Na、Fを別々に(たとえば、Na2CO3とCaF2等)添加することも可能である。
なお、Fを添加する際、金属Siと同時に添加すると、SiF4が生成してガス化し、Fの歩留りが悪化するので避けるべきである。
非金属介在物中の(%T.REM)(La、Ce、Nd等の希土類元素の合計の含有量)、及び(%S)を制御することで、伸線性をさらに向上できる。この理由は、以下のとおりである。
REM(La、Ce、Nd等)はSとの親和力が強く、REMオキシサルファイド(REM2O2S)の形でSを固定しつつ、多元系介在物中に取り込まれる。これにより、鋼中の固溶S量を低減でき、MnSの析出を抑制する。鋼中に析出したMnSは、伸線加工中の断線の起点になる場合があり、この析出を抑制することで、伸線性、及び伸線後の疲労特性が向上する。
組成対象介在物の(%T.REM)は0.3~1.0%、(%S)は0.05~0.2%の範囲で制御するのがよい。(%T.REM)が0.3%未満ではS固定能力が不十分であり、1.0%を超えると非金属介在物中のREM酸化物濃度が増加して、延伸性が十分に改善しない場合がある。また、(%S)が0.05%未満ではS固定量が少なすぎてその効果がなく、0.2%を超えると非金属介在物中にCaS等が生成し、延伸性が十分に改善しない場合がある。
なお、MnSを起点とする断線は、酸化物系非金属介在物を起点とする断線に比べれば、その頻度は少ない。したがって、まずは鋼中酸化物系非金属介在物組成を適正に制御することが必要である。
次に、本発明の鋼の成分組成の規定について述べる。高炭素鋼線材として使用されているJISG3502のピアノ線材、JISG3506の硬鋼線材、JISG3561の弁ばね用オイルテンパー線には、いわゆるキルド鋼が使用されておる。このJIS規格、製造の容易さ、及び実用面を考慮して、本発明では次のとおり成分範囲を規定する。
すなわち、質量%で、C:0.5~1.2%、Si:0.15~2.5%、Mn:0.20~0.9%、P≦0.025%、S:0.004~0.025%、Al:0.000005~0.002%、Ca:0.00001~0.002%、Mg:0.00001~0.001%、Na:0.000005~0.001%、F:0.000003~0.001%を含み、必要に応じて、Cr:0.05~1.0%、Ni:0.05~1.0%、Cu:0.05~1.0%、Ti:0.001~0.25%、V:0.001~0.25%、Nb:0.001~0.25%、Mo:0.05~1.0%、Co:0.1~2%の1種又は2種以上を含む鋼である。
また、REM:0.000005~0.001%を含有すると、本発明の効果は大きくなる。さらに、B:0.0005~0.002%添加すると一段と、伸線性、及び伸線後の疲労特性に優れた鋼が得られる。
Cは、鋼を強化するのに経済的、かつ有効な元素である。硬鋼線として必要な強度を得るためには、0.5%以上が必要である。しかし、1.2%を超えると鋼の延性が低下し脆化し、二次加工が困難となるため1.2%以下とする。より好ましいCの濃度は、0.51~1.1%である。
SiとMnは、脱酸と介在物組成制御のために必要であり、Si:0.15%未満、Mn:0.20%未満では効果がない。また、鋼の強化元素としても有効であるが、Siが2.5%、Mnが0.9%を超えると鋼が脆化する。Si、Mnのより好ましい範囲は、それぞれ、0.16~2.3%、0.25~0.85%である。
Pは、高炭素鋼において、伸線加工性を劣化させ、さらに伸線加工後の延性を劣化させる。よって、Pの含有量は0.025%以下とする必要があり、0.020%以下がより好ましい。
Sも、伸線加工性を劣化させ、さらに伸線加工後の延性を劣化させる。一方、鋼材のデスケーリング性を確保するためには、S濃度をある程度以上確保する必要がある。よってSの濃度は、0.004~0.025%、好ましくは0.005~0.020%とする。
Alは、本発明の介在物組成に影響を与える元素であり、多すぎても少なすぎても所定の介在物組成は得られない。よって、Alの濃度は、0.000005~0.002%、好ましくは0.0002~0.001%とする。
Caも本発明の介在物組成に影響を与える元素であり、多すぎても少なすぎても所定の介在物組成を得られない。よって、Caの濃度は、0.00001~0.002%、好ましくは0.000013~0.0015%とする。
Mgも本発明の介在物組成に影響を与える元素であり、多すぎても少なすぎても所定の介在物組成を得られない。よって、Mgの濃度は、0.00001~0.001%、好ましくは0.000011~00008%とする。
また、Na及びFは本発明の介在物組成において極めて重要な成分であり、鋼中のNa及びF濃度は介在物組成に影響を与える。
Naは、本発明の介在物組成に影響を与える元素であり、多すぎても少なすぎても所定の介在物組成を得られない。よって、Naの濃度は、0.000005~0.001%、好ましくは0.000007~0.0005%とする。
Fも本発明の介在物組成に影響を与える元素であり、多すぎても少なすぎても所定の介在物組成を得られない。よって、Fの濃度は、0.000003~0.001%、好ましくは0.000005~0.0005%とする。
本発明の鋼は、さらに以下の成分を含有すると好ましい。
Crは、パーライトラメラを微細にし、鋼の強度を上げる効果がある。この効果を得るために必要な量は0.05%であり、それ以上の添加が好ましい。しかし、1.0%を超えて添加した場合、延性を阻害するので、上限は1.0%とする。
NiもCrと同様の効果によって鋼を強化する。その効果を得るためには、0.05%以上の添加が好ましい。1.0%を超えて添加した場合、延性が低下するので、上限は1.0%以下とする。
Cuは、ワイヤのスケール特性、及び腐蝕疲労特性を向上させる効果がある。その効果を得るためには0.05%以上の添加が好ましい。1.0%を超えて添加した場合、延性が低下するので、上限は1.0%以下とする。
Ti、Nb、Vは、析出強化により線材の強度を高める効果がある。いずれも0.001%未満では効果がなく、0.25%を超えると析出脆化を引き起こす。よって、その含有量は、0.001~0.25%とする。また、これらの元素は、パテンティングの際のγ粒サイズを小さくするためにも添加することが有効である。
Moは、鋼の焼入れ性を向上させる元素である。本発明の場合、その添加により鋼の強度を高めることができるが、過度の量の添加は鋼を過剰に硬化させ、加工を困難とする。よって、Mo添加範囲は0.05~1.0%とする。
Coは、0.1~2%含有することにより、過共析鋼の初析セメンタイトの生成を抑制する効果により、延性が向上する。
Bは、鋼の焼入れ性を向上させるとともに、固溶状態でオーステナイト中に存在する場合、粒界に濃化してフェライト、擬似パーライト、ベイナイト等の非パーライト析出の生成を抑制し、伸線性を向上させる。添加量が少なすぎるとこの効果が得られないので、下限を0.0005%とする。一方、添加しすぎるとオーステナイト中において粗大なFe3(CB)6炭化物の析出を促進し、伸線性に悪影響を及ぼす。したがって上限を0.002%とする。
REMは、本発明の介在物組成に影響を与える元素である。REMが多すぎても少なすぎても、伸線性をさらに向上させるための所定の介在物組成を得られないため、0.000005~0.001%とする。
次に、本発明の高炭素鋼線材の製造方法について説明する。
本発明の鋼は、転炉又は電炉での精錬を完了した溶鋼を取鍋に出鋼した後、簡易取鍋精錬によって溶製することができる。簡易取鍋精錬としては、非特許文献1に記載されているCAB(キャップド・アルゴン・バブリング)、SAB(シールド・アルゴン・バブリング)、CAS(SABによる成分調整)を用いることができる。
鋼中の全酸素量を30ppm以下とするためには、出鋼時に転炉から取鍋に流出する転炉スラグの混入を極力抑制した上で、簡易取鍋精錬の鎮静時間(取鍋精錬後、連続鋳造開始までの時間)を20~40分程度確保し、酸化物の浮上分離を促進することが有効である。また、取鍋とタンディッシュの間、タンディッシュと連続鋳造鋳型の間における溶鋼の空気酸化を防止することも有効である。
一方、鋼中の全酸素量を16ppm以上とするためには、強脱酸元素であるAlやMgを極力鋼中に添加せず、Tiについても必要最小限の添加に留めるとともに、簡易取鍋精錬の処理を長時間行わないことによって実現することができる。
具体的には、合成スラグの溶解と溶鋼との撹拌、2次脱酸と成分微調整及び溶鋼温度調整、鍋内アルゴン・バブリングで、25~40分程度とする。そして、鍋内アルゴン・バブリングにより、成分、冷却材の均一混合、及び介在物の浮上分離を図る。
真空脱ガスなどの本格的な取鍋精錬を行うと、鋼中の全酸素量が16ppm未満となる可能性が高くなるので好ましくない。
鋼中のサイズ対象介在物のうち、(%Al2O3)が30%以下のものを個数比率で80%以上とするためには、鋼へのAl混入防止を図る必要がある。脱酸剤としてAlを用いないことはもちろん、出鋼時に添加する合金鉄としてのFe-Si、Si-MnについてもAl含有量が低い合金鉄を用いると好ましい。
たとえば、通常のFe-Siは、1.5%程度のAlを含有しているが、Al含有量が0.01~0.10%程度である低Al-Fe-Siを好適に用いることができる。また、取鍋耐火物としてアルミナ含有量の少ない耐火物を用いることも、(%Al2O3)が30%以下の介在物を個数比率で80%以上とする上で有効である。
なお、鋼に添加する合金鉄中のAlあるいは取鍋やタンディッシュ耐火物中のアルミナを源として若干のAl混入は必ずあるので、(%Al2O3)が0.5%以上の介在物を、個数比率で80%以上とすることができる。
介在物中の(%CaO)、(%SiO2)は、簡易取鍋精錬における鍋上のスラグ成分のCaO、SiO2含有量を調整するとともに、上述の鋼中の全酸素量を30ppm以下とするための製造条件を採用することにより、本発明の範囲内とすることができる。
具体的には、取鍋に添加するSiO2-CaO系の合成スラグの成分と量を調整することにより、鍋上スラグの塩基度(CaO/SiO2質量比)を調整する。鍋上スラグの塩基度が、0.9~1.3であると好ましい。また、鋼中の全酸素量が30ppm以下となる製造条件を採用することにより、鋼中のSi成分が酸化することに起因する介在物の(%SiO2)が増加するのを防止することができる。
なお、介在物の(%MgO)を0.5~20%、(%MnO)を0.5~10%とする点については、耐火物中のMgO源からの混入、鋼中のMnの酸化などに基づき、通常の鋼の溶製によって、本発明の範囲内とすることができる。
介在物の(%Na)=0.2~7%、(%F)=0.17~8%とする点については、上述のとおり、鋼中にNa及びFをともに添加することによって、介在物にNa及びFをともに本発明の範囲内で含有させることができる。
このとき、Na及びFの添加方法は、NaF化合物として添加してもよいし、Na、Fを別々に(たとえば、Na2CO3とCaF2等)添加することも可能である。なお、Fを添加する際、金属Siと同時に添加すると、SiF4が生成してガス化し、Fの歩留りが悪化するので避けるべきである。
介在物中の(%T.REM)を0.3~1.0%、(%S)を0.05~0.2%とするためには、鋼中にREMを数ppm相当分だけ添加するとよい。鋼中に添加したREMは、鋼中のSと反応してREMオキシサルファイドを形成し、シリケイト系介在物と合体する。その結果、組成対象介在物中に、平均濃度で(%T.REM)=0.3~1.0%、(%S)=0.05~0.2%を含有させることができる。
本実施例の溶製はLD転炉により行った。LD転炉より取鍋に出鋼するに際し、いわゆるダーツ型の転炉スラグ閉止冶具を使用し微量(50mm厚み以下)のLDスラグ流出にとどめた。
また、出鋼時に、C、Si、Mnの成分調整のための加炭材、Fe-Si、Fe-Mn、Si-Mn等の脱酸合金鉄を添加した。脱酸合金鉄には、AlやMg等の強力な脱酸元素をなるべく含まないものを使用した。また、出鋼中又は出鋼後に、取鍋底よりアルゴン吹込みを行った。
受鋼後の取鍋内溶鋼は、Si、Mn等により脱酸された、いわゆるキルド鋼である。この取鍋を溶鋼精錬実施位置に移動した後、SiO2-CaO系の合成スラグを鍋内に添加後に、取鍋底よりアルゴン吹込みを行って鍋内溶鋼を撹拌し、CAB簡易取鍋精錬を行った。
次いで、第2次脱酸材を合金鉄として溶鋼中に添加した。第2次脱酸材は、金属Ca、Al、Mg、Si等を含むものである。必要に応じて、Na、F、REMを鍋内溶鋼中に添加した。NaとFをともに添加する場合はNaFを、Naを単独で添加する場合はNa2CO3を、Fを単独で添加する場合はCaF2を添加した。Fを添加する際には、Siを含む合金や、第2次脱酸材の添加とは別のタイミングで添加した。
第2次脱酸材を添加後、さらに成分微調整を行い、取鍋溶鋼精錬を終了した。取鍋溶鋼精錬を終了後、鋼中の全酸素量が16~30ppmとなるように好適な鎮静時間(20~40分程度)を確保したのち、連続鋳造を行った。溶鋼は、取鍋よりタンディッシュを経由して連続鋳造されるが、その際、取鍋~タンディッシュ間、及びタンディッシュ内での空気酸化を極力抑制するため、不活性ガスによるシールを実施した。得られた鋳片に、鋳片加熱炉経由分塊、鋼片圧延、鋼片精整を施した後、加熱炉を経由して線材圧延により5.5mmφ線材を製造した。
非金属介在物の個数及び組成の調査は、5.5mmφの線材の1コイルから0.5mの長さのサンプルを切り出し、L方向(長さ方向)の任意の10ヵ所から長さ11mmの小サンプルを切り出し、それぞれ、長さ方向の中心線を通る縦断面を全面調査することによって行った。非金属介在物の個数及び組成は短径0.5μm以上、長径1.0μm以上、円相当径が1μm以上の酸化物系非金属介在物をサイズ対象介在物とし、個々の介在物の組成をX線分光法によって分析した。
サイズ対象介在物のうち、本発明の組成範囲に入るものを組成対象介在物とし、個数比率(組成対象介在物個数/サイズ対象介在物個数×100)を評価した。また、サイズ対象介在物すべての平均組成も算出した。ただしREMとSについては、組成対象介在物の平均組成を算出した。
その後、5.5mmφ線材を0.175mmφ以下に伸線し、伸線特性、及びダイス寿命の調査を行った。伸線特性は、一定伸線量に対する断線頻度を断線指数とし、断線指数5以下を良好とした。ダイス寿命は、現行工程材の許容できる最低寿命を100とし、寿命が長くなるほど大きくなる指数として評価した。ダイス寿命指数100以上が良好である。
さらに、疲労特性を評価するため、0.175mmφに伸線した線材について、回転疲労試験を行った。回転疲労試験では、応力を様々に変化させ、破断するまでの繰り返し回数を調査した。繰り返し回数100000回で切断する応力を機械試験の張力の係数で補正し、応力指数として評価し、応力指数15以上を良好とした。
表1~4に、本発明例と比較例の結果を示す。本発明範囲から外れる数値にアンダーラインを付している。
本発明例No.1~24においては、いずれも良好な結果を得ることができた.No.8~18は、Na、Fのほかに、REMを添加した水準であるが、この場合はダイス寿命、疲労特性が向上している。さらに、No.19~24は、鋼にBを添加した水準であり、さらなるダイス寿命、疲労特性の向上を確認した。
次に、比較例の結果について説明する。No.25はNa及びFを添加しなかった場合、No.26はNaのみを単独添加した場合、No.27はFのみを単独添加した場合である。いずれも、介在物の個数比率(組成対象介在物個数/サイズ対象介在物個数×100、以下「介在物個数比率」という)はゼロであり、断線指数、ダイス寿命、疲労特性ともに本発明例に比べて悪化している。
No.28は、タンディッシュ内でのシールが不十分であったため、全酸素量が本発明の範囲より高くなった場合であり、介在物個数が多くダイス寿命、疲労特性が悪化した。
No.29~32は、介在物個数比率が80%を下回った水準である。No.29は、Al2O3やMgO含有量の高い耐火物を使用したので、介在物の中に耐火物起因と思われるAl2O3系、MgO系の介在物が多数存在している。その結果、介在物個数比率が下回り、断線指数、ダイス寿命、疲労特性ともに悪化した。
No.30は、SiO2-CaO系の合成スラグの組成を変化したことにより非金属介在物中の(%SiO2)が低下したために、介在物個数比率が下回り、介在物中に一部硬質なものが出現し、断線指数、ダイス寿命、疲労特性ともにやや悪化した。
No.31は、LDスラグ流出量がやや多く、脱酸過程で粗大なSiO2単独の介在物が出現し、非金属介在物中の(%SiO2)が増大した。その結果、介在物個数比率が下回り、断線指数、疲労特性が悪化した。
No.32は、脱酸合金として、低Al合金鉄ではなくAl濃度の高い通常の合金鉄を用いており、非金属介在物中の(%Al2O3)が増大した。その結果、介在物個数比率が下回り、硬質のAl2O3系介在物が多数生成し、断線指数、ダイス寿命、疲労特性ともに非常に悪かった。
No.33は、鋼中S濃度が高く、非金属介在物中の(%S)が本発明の範囲より高い値となり、断線指数、ダイス寿命、疲労特性が悪化した。
No.34はREMを添加しすぎたため、非金属介在物中の(%T.REM)が本発明の範囲より高い値となり、断線指数、ダイス寿命、疲労特性が悪化した。