明 細 '書 プルキンェ細胞指向性ウィルスべクター 技術分 野
本発明は、改変型 L7プロモーターを利用したプルキンェ細胞指向性ウィルス ベクターに関する。
背 景技術
小脳は複数の筋肉が関与する歩行などの協調運動に重要な役割を果たしてい る。 小脳に損傷があると、 協調運動の調節がうまく行かず、 なめらかな動きが できなくなる。 大脳皮質からの運動の指令は脳幹を通って、 脊髄、 筋肉に伝達 されるが、 同時に脳幹 (橋)から苔状線維を介して小脳皮質にも伝達される。 苔 状線維を介して伝達された信号は、 小脳皮質の神経細胞である顆粒細胞に入力 される。 そして、 顆粒細胞はその軸索である平行線維を介してプルキンェ細胞 に信号を伝える。
一つのプルキンェ細胞は平行線維との間に 1 0万個以上のシナプスを形成し、 そこからの入力情報を統合し、 小脳の深部にある小脳核へ情報を出力する。 プ ルキンヱ細胞は小脳皮質からの唯一の出力神経細胞であり、 小脳において非常 に重要な役割を果たしているが、 脆弱であり、.小脳出血、 外傷、 小脳腫瘍や遺 伝性神経変性疾患により障害を受けやすレ、。
近年のゲノム科学の発展によりヒトゃマウスの全ゲノム配列が決定され、 生 命科学研究は同定された遺伝子の役割解明へと向かっている。 神経細胞に野生 型や変異遺伝子を導入し、 その影響を調べる手法は、 神経科学分野の研究面に おいて非常に効果的であるが、 遺伝子治療としての臨床応用面からも、 神経細 胞への遺伝子導入は注目を集めている。
しかしながら、神経細胞は非分裂細胞であり遺伝子導入が難しい。なかでも、 プルキンェ細胞への遺伝子導入は極めて困難であり、 2 0 0 0年以前まで効率 的な遺伝子導入の成功例も報告されていなかつた。 最近ウィルスベクターの開 発が進み、 プルキンェ細胞への効率的な遺伝子導入が可能になってきたが、 そ れでもわずか 4編の論文が報告されているにすぎない (非特許文献 1〜4 )。
プルキンェ細胞に効率的に遺伝子導入するには、 レンチウィルスやアデノ随 伴ウイルスなどの神経に対して高親和性を持つウィルスベクターを使う必要が ある。 ちなみに、 これまでの報告では、 プルキンェ細胞への遺伝子導入には、 アデノウイルス、 ヘルぺスウィルス、 アデノ随伴ウィルス、 ネコ免疫不全ウイ ルス由来レンチウィルスが用いられている。
ところで、 野生型のレンチウィルスは CD4受容体を持つリンパ球にしか感染 しない。 そのため、 現在使われているレンチウィルスベクターは神経細胞にも 感染す よつに、てのエンベロープ力 Λ Vesicular somatitis virus glycoprotein (VSV-G)に置換されている。この VSV- Gは細胞膜の構成成分であるリン脂質(フ ォスファチジルセリン) に結合能を持っため、 神経以外のグリア細胞、 血管内 皮細胞などにも非特異的に感染する。 また小脳においては、 レンチウィルスは プルキンェ細胞以外にも、 星状細胞(Stellate , cell)、 籠細胞(Basket cell) , ゴルジ細胞(Golgi cell)、 バーグマングリァ(Bergmann glia)にも感染する。 上述のとおり、 アデノ随伴ウィルスベクターやレンチウィルスベクターは神 経細胞に外来遺伝子を導入し発現させる能力を持つが、 パッケージング能力の 問題から発現可能な遺伝子サイズに制限がある。 発現可能遺伝子サイズはアデ ノ随伴ウィルスベクターとレンチウイノレスベクターにおいて、 プロモーター領 域と合わせてそれぞれ 4kbと 8kbといわれている。 しかしこれは理論的な値で あり、 レンチウィルスベクタープラスミ ドでは安全性を増すためさまざまな改 良がなされていることから、 使用するベクタープラスミ ドによって異なるが、 発現は 5kb前後が限界であることが多い。
一方、 L7プロモーターはプルキンェ細胞特異的に活性を持ち、 プルキンェ細 胞だけに外来遺伝子を発現するトランスジエニックマウスの作出に利用されて いる。 しかしながら、 L7プロモーターは全長約 3kbと大きく、 アデノ随伴ウイ ルスベクターやレンチウィルスベクターに組み込んで用いる場合、 発現可能な 外来遺伝子のサイズは大きな制限を受ける。また、そのプロモーター活性は CMV や MSCVプロモーター等の非特異的プロモーターに比べて著しく低い。
小脳プルキンェ細胞への効率的かつ特異的な遺伝子導入は、 トランスジェニ ックマウスを作出するしか方法がなかった。しかしウィルスベクタ一を用いて、 プルキンェ細胞に特異的に高効率で遺伝子導入することができれば、 これまで
できなかったさまざまな研究が可能となり、 小脳を対象とする研究の進展に大 きく寄与すると考えられる。 また、 プルキンェ細胞が障害される脊髄小脳変性 症などの遺伝子治療への応用も期待される。
また、 最近、 ウィルスベクターを遺伝子治療としてヒ トに用いる場合、 牛海 綿状脳症をはじめとする感染が近年、 大きな問題となっている。 これは、 現在 のプロトコールではウィルス産生時の培地にゥシの血清を加えることが必要で あるためである。 このようなことから、 特に血清を用いることなく、 プルキン ェ細胞に高効率で遺伝子導入できるウィルスベクターを産生できれば、 その臨 床応用はより広がることが期待される。 特許文献 1 ] Agudo M. , Trejo J. L. , Lim F., Avila. J. , Torres- Aleman I. , Diaz-Nido J. & Wandosell F. (2002) Highly efficient and specific gene transfer to Purkinje cells in vivo using a herpes simplex virus I amplicon. Hum. Gene Ther., 13, 665-674.
[非特許文献 2 ] Ali sky J. M. , Hughes S. M., Sauter S. L. , Jolly D., Dubensky T. W. Jr., Staber P. D., Chiorini J. A. & Davidson B. L. (2000) Transduction of murine cerebellar neurons with recombinant FIV and AAV5 vectors. Neuroreport, 11, 2669-2673.
特許文献 3 ] Kaemmerer W. F., Reddy R. G., Warlick C. A., Hartung S. D. , Mclvor R. S. & Low W. C. (2000) In vivo transduction of cerebellar Purkinje cells using adeno- associated virus vectors. Mol. Ther. , 2, 446-457. 特許文献 4 ] Xia H. , Mao Q., Eliason S. L., Harper S. Q. , Martins I. H. , Orr H. T. , Paulson H. L. , Yang L. , Kotin R. M. & Davidson B. L. (2004) R Ai suppresses polyglutamine- induced neurodegeneration in a model of spinocerebellar ataxia. Nat. Med., 10, 816-820. 発 明 の 開 示
本発明は、 小脳プルキンェ細胞に高い親和性を持ち、 プルキンェ細胞選択的 に感染して遺伝子発現するウィルスベクターを提供することにある。
発明者らは、 これまで小脳への遺伝子導入について報告がなかったヒト免疫
不全ウィルス由来レンチウィルスベクターを用いて小脳への遺伝子導入実験を 行い、 ウィルスのプルキンェ細胞選択性は、 ウィルス産生時の培養液 p Hがわ ずかに酸性側にシフトするだけで急激に低下すること、 培養液に添加する血清 の L o tによりウィルスのプルキンェ細胞への選択性が異なり、 それゆえ血清 中の何らかの成分がプルキンェ細胞選択性維持に関与していることを発見した。 さらに、 上記の知見に基づき、 発明者らは以下のような仮説を立て、 その実 証を試みた。
(1)培養液の p Hに依存して変化することから、 p H感受性酵素、おそらく宿主 細胞から放出されたプロテアーゼがウィルスの蛋白質 (特に、 ウィルスェンべ ロープ上に存在する糖蛋白質) を分解することで、 ウィルスのプルキンェ細胞 への選択性が低下する。
(2)血清にはプロテアーゼの活性を阻害する物質が含まれており、そのためにゥ ィルスェンべ口ープの糖蛋白質の分解が抑えられ、 プルキンェ細胞への選択性 が保たれる。
実際、 センダイウィルスゃィンフルェンザウィルスではプロテアーゼにより エンベロープの糖蛋白質が分解され、 細胞への感染性が変化することが知られ ている。 そして、 発明者らの実験結果は上記の仮説を支持するものであった。 ウィルス産生時の培養液にプロテアーゼ阻害剤を加えることで、 プルキンェ細 胞に親和性の高いベクターを得ることができた。 しかしながら、 プルキンェ細 胞以外の細胞にも全体の 1〜2割程度は感染し、遺 ί云子発現を誘導する。そこで、 完全にプルキンェ細胞だけで遺伝子発現が誘導されるように、 ウィルスべクタ 一に組み込まれているプロモーターを非選択的な CMVあるいは MSCVプロモータ 一から L7プロモーターへの変更を検討した。 その際、 従来の L7プロモーター は 3kbの長さがあるため、 これより短い種々の長さのものを調整し、 ウィルス プラスミドに組み込んだ。 これらのウィルスプラスミドを用いて、 ウィルスべ クタ一を得、 生体マウス小脳に接種して検討した。 その結果、 配列番号 3又は 4で示される塩基配列を有する改変型 L7 プロモーターを組み込んだウィルス ベクターでは、 プルキンェ細胞だけに遺伝子発現が見られ、 かつその発現程度 も従来の L7プロモーターよりはるかに高いことがわかった。
すなわち、 本宪明は、 ウィルス由来ベクタープラスミ ドに配列番号 3又は 4
で示される塩基配列を有する改変型 L7プロモーターを、外来遺伝子に機能しう る態様で連結して成る小脳プルキンェ細胞指向性ベクターに関する。
用いられるウィルス由来ベクタープラスミ ドとしては、 アデノウイルス、 ァ デノ随伴ウィルス、 レトロウイルス、 ヘルぺスウィルス、 センダイウィルス、 及びレンチウィルス由来のベクタープラスミ ドが挙げられ、 プロテアーゼ阻害 ■ 剤の効果に関してはエンベロープの糠蛋白質が VSV- Gであることが望ましい。
前記ベクターによって産生されるウィルスの蛋白質、 特にウィルスェンベロ ープ上に存在する糠蛋白質は、 実質的に分解修飾を受けていない状態にあるこ とが望ましい。
前記ウィルスェンベロープ上に存在する糖蛋白質が実質的に分解修飾を受け ていない状態にあるベクターは、 プロテアーゼ阻害剤を含む培養液中で宿主細 胞にウィルスを産生させることにより得ることができる。 前記プロテアーゼ阻 害剤としては、 カテブシン K阻害活性を有するもの (カテブシン K阻害剤や力 テプシン阻害剤) が好ましい。
ウィルス産生時の培養液の p Hは、 7 . 2〜8 . 0に維持されることが望ま しい。
また、 感染防止等の安全性の点から、 前記培養液は血清を含まないことが望 ましい。
本発明はまた、 レンチウィルスベクタープラスミ ドに外来遺伝子を機能しう る態様で連結して成る小脳プルキンェ細胞指向性ベクターであって、 前記べク ターによって産生されるウィルスの蛋白質、 特にウィルスエンベロープ上に存 在する糖蛋白質が、 実質的に分解修飾を受けていない状態にあることを特徴と するベクターも提供する。 ウィルスエンベロープ上に存在する糖蛋白質が実質 的に分解修飾を受けていな!/、状態にあるベクターは、 上記した方法によつて得 ることができる。
ウィルスベクターに導入される外来遺伝子としては、 プルキンェ細胞障害性 疾患の治療用遺伝子や当該疾患遺伝子が挙げられる。 このような遺伝子を導入 することで、 本発明のべクターはプルキンェ細胞障害性疾患の遺伝子治療ゃモ デル動物の作製に用いることができる。
前記治療用遺伝子の具体例としては、たとえば、 GTPase CRAG, ubi qui tin chain
assembly factor E4B (UFD2a)、 ATPase VCP/p97、 HDJ-2、 HSDJ及び BiPを含む 分子シャぺ口ン、 YAPdeltaC を含む細胞死抑制分子、 ER degradation enhancing alpha- mannosidase- like protein (EDEM)を含む小胞体蛋白質分解促進分子、 CREB/ATF family member OASIS, IRE1、 PERK及び ATF6を含む ERセンサー分子 (Endoplasmic : reticulum stress transducer) ^ スフインゴミエリナ— 1 、 AT- mutated (atm)、 Reelin、 Bel- 2、 ネプリライシン、 BDNF、 ならびに NGFをコ ードする遺伝子、 あるいは ataxin - 1、 ataxin- 2、 ataxin- 3、 a la電位依存型力 ルシゥムチャネル、 PKC yをコードする遺伝子の siRNAを挙げることができる。 また、 前記疾患遺伝子の具体例としては、 たとえば、 異常伸長した CAGリピ ートを持つ ataxin - 1、 ataxin - 2、 ataxin - 3、 huntingtin、 ¾しくは 'a la feili 存型カルシウムチャネルをコードする遺伝子、 又は変異を持つ Ρ γをコード する遺伝子を挙げることができる。 .
本発明は、 上記した小脳プルキンェ細胞指向性ベクターを含む、 小脳プルキ ンェ細胞障害性疾患の治療用医薬組成物も提供する。
前記小脳プルキンェ細胞障害性疾患としては、 たとえば、 脊髄小脳変性症や ハンチントン病を含むボリグルタミン病、 ニーマンピック病、 毛細血管拡張性 運動失調症、 自閉症、 アルツハイマー病、胎児アルコール症候群 (FAS)、 アルコ ール中毒、 カロ'齢性小脳失調を挙げることができる。
本発明はまた、 本発明のベクターを導入された非ヒト哺乳動物を提供する。 特に、 プルキンェ細胞を障害する遺伝子 (異常伸長した CAG リピートを持つ ataxin_l、 ataxin - 2、 ataxin - 3、 huntingtin, もしくは a la電位依存型カノレシ ゥムチャネルをコードする遺伝子、 又は変異を持つ PKC yをコードする遺伝子 を導入され、当該遺伝子をプルキンェ細胞特異的に発現する非ヒト哺乳動物は、 前記した小脳プルキンェ細胞障害性疾患のモデル動物として用いることができ る。
本発明はまた、 レンチウィルスプラスミ ドベクターに外来遺伝子を機能しう る態様で連結して宿主細胞に導入し、 前記細胞をプロテアーゼ阻害剤を含む培 養液中で培養してウィルスを産生させることを特徴とする、 プルキンェ細胞指 向性ウィルスベクターの作製方法を提供する。 あるいは、 ウィルス由来べクタ 一プラスミドに配列番号 3又は 4で示される塩基配列を有する改変型 L7 プ口
モーターを、 外来遺伝子に機能しうる態様で連結し、 前記細胞をプロテアーゼ 阻害剤を含む培養液中で培養してウィルスを産生させることを特徴とする、 プ ルキンェ細胞指向性ウィルスベクターの作製方法を提供する。
さらに本発明は、 カテブシン K阻害活性を有する物質を含んで成る、 プルキ ンェ細胞指向性ウィルスベクタ一作製用培養液や、 そのような培養液 (カテブ シン K阻害活性を有する物質と細胞培養液、 またはカテブシン K阻害活性を有 する物質を含む細胞培養液) を構成要素として含む、 プルキンェ細胞指向性ゥ ィルスべクタ一作製用キットも提供する。
本発明で用いられる改変型 L7プロモーターは、 従来の L7プロモニターのお よそ 3分の 1のサイズであるため、 ベクターに組込みうる外来遺伝子のサイズ は大幅に拡大する。 しかも、 同じコピー数が染色体に組み込まれた場合、 従来 の L7プロモーターよりもはるかに高!/、プロモータ一活性を持ち、強力に下流に 配置された外来遺伝子の発現を誘導する。
よって、 本発明によれば、 小脳で最も重要なプルキンェ細胞に選択的に、 か つ高効率で遺伝子発現が可能となる。 これにより、 基礎研究においては、 小脳 が司る運動学習、 協調運動のメカェズムを分子レベルで解明するための研究が 大きく進展することが期待される。 また、 遺伝子治療をはじめとする臨床応用 においては、 プルキンェ細胞選択的な遺伝子導入が可能となり、 他の神経細胞 やダリァ細胞への遺伝子導入おょぴ発現に伴う副作用の軽減が期待される。 さ らに、 本発明では、 ゥシ血清を使用することなくベクタ一を調製しうるため、 牛海綿状脳症などの感染の問題もなく、 血清の Lotに依存することなく、 安定 してプルキンェ細胞指向性べクターを得ることができる。 図面の簡単な説明
図 1は、 pCL20c MSCV-GFPの構造を示す。
図.2は、 (A) 実施例 1の実験手順、 (B) トランスフヱクション後 40時間でゥ ィルスを回収する直前の. HEK293FT細胞における GFPの発現、 及び (C) トラン スフヱクシヨン後 64時間でウィルスを回収する直前の HEK293FT細胞における
GFPの発現を示す蛍光顕微鏡画像である。
図 3は、 (左) トランスフエクシヨン後 40時間で回収したウィルス、 (中) ト
ランスフエクシヨン後 64時間で回収したウィルス、 (右) トランスフエクショ ン後 40時間のウィルスを含む培養液に希塩酸を加えて pHを 7. 0に調節した後 に回収したウィルス、 を接種して 1週間後の小脳皮質の全 GFP発現細胞におけ る各細胞の割合 (%) を示したグラフである。 図中、 (A)プルキンェ細胞 (Purkineje cells)、 (B)バーグマングリア(Bergman glias)、 (C)星状細胞/籠 細胞(Stellate & Basket cells)、 (D)判別不能(Unknown cells) を示す。
図 4は、トランスフエクシヨン後 40時間のウィルスを含む培養液に希塩酸を 加え、 pHを 7. 0に調節した後に回収したウィルスを接種後一週間の、小脳皮質 分子層における GFP の発現を示す共焦点レーザー顕微鏡画像である。 図中 (A) パーグマングリア (矢印) に選択的な GFPの発現を認める。 プルキンェ細胞は GFP の発現がなく、 黒く抜けて見える (矢頭)。 (B) (A) 拡大像。 (C)グリア細 胞マーカーである GFAPに対する抗体を用いた. 2重染色像。 GFPの発現は GFAP の分布 (赤) と重なる。 (A)のスケーノレバー 100 μ m、 (B)のスケールバー 50 μ m 図 5は、 Lot の異なる 8種のゥシ血清を用いて産生、 回収したウィルスを小 脳に接種し、一週間後の脳の蛍光実体顕微鏡写真、及ぴその矢状断における GFP の発現の様子を示す共焦点レーザ一顕微鏡画像である。
図 6は、 20倍の对物レンズを用いた観察視野における、 GFPを発現している 全細胞中のプルキンェ細胞の割合 (%)を示すグラフである。
図 7は、 20倍の対物レンズを用いた観察視野における、全プルキンェ細胞中 の GFP発現プルキンェ細胞の割合 (%)を示すグラフである。
図 8は、 GFPと融合した脊髄小脳変性症 3型遺伝子 ataxin-3 [Q69]を発現する ウィルスのプロウイルス部分の構造を示した模式図(A)、このウィルスを小脳に 接種後、 2ヶ月して施行したロータロッドテストの結果(B)、 このマウスのプル キンェ細胞内の GFP融合 ataxin- 3 [Q69]凝集塊 (C)、 を示す。
図 9は、 プルキンェ細胞特異的 L7プロモータ一制御下で、脊髄小脳変性症 3 型遺伝子 ataxin- 3 [Q69]を発現するマウス作出に用いたコンストラクトの模式 図(A)、 作出した 3ライン(a, b, c line)の脊髄小脳変性症 3型モデルマウスに おける、 生後 3週から 14週にかけてのロータロッドテストの成績 (B)、 生後 80 日の野生型マゥスの脳矢状断 (C)、同週齢の脊髄小脳変性症 3型モデルマウス b line の脳矢状断 (D)、 を示す。
図 1 0は、 Flagタグを付加した CRAG、 あるいは VCP (C522T) (VCP/p97の 522 番目のシスティンをスレオニンに置換したもの) を発現するウィルスベクター のプロウィルス部分の構造を示した模式図(A)、このウィルスべクターの脊髄小 脳変性症 3型モデルマウスの小脳への接種を示す模式図(B)、 c lineのモデル マウスの小脳に CRAG発現ウィルスを接種した後 8週間までのロータロッドの成 績(C)、 b lineのモデルマウスの小脳に GFP、 CRAG, あるいは VCP (C522T)発現 ウィルスを接種後 4週間と 8週間で行ったロータロッドの成績 (D) (C, Dとも 口ッドは止まつた状態からスタートし、 180秒後に 40回転 Z分の速度となる)、 b lineのモデルマウスの小脳に GFP、 CRAG, あるいは VCP (C522T)発現ウィルス を接種後 8週間で行った定速 (5回転/分) ロータロッ ドの成績 )、 を示す。 図 1 1は、何も接種していない(A,B)、 CRAG (C,D)、あるいは VCP (C522T) (E, F) 発現ウィルスを接種後、 8週間で灌流固定して作製した小脳切片を、 抗 HAタグ 抗体を用レ、て免疫組織染色したもの(A, C, E)、それらを抗カルビンディン抗体に よる二重免疫組織染色の像と重ね合わせたもの(B, D, E)、それぞれの切片の小脳 皮質における封入体の数 (G)、 それぞれの切片における分子層の厚さ(H)、 を示 す。
図 1 2は、 L7プロモーター L (7-1) 及びその各種改変型 (L7- 2〜L7- 7) の構 造を示す模式図を示す。
図 1 3は、 L7-4プロモーターをレンチウイノレスべクタ一プラスミ ド (pCL20c) に挿入し、 その下流に緑色蛍光タンパク質 GFP を配置したプラスミ ド pCL20c L7-4-GFPの模式図を示す。
図 1 4は、 種々のプロモーターを用いたときのプルキンェ細胞への GFPの発 現割合を示す。 (a)全 GFP発現細胞中のプルキンェ細胞の割合: GFP発現プルキ ンェ細胞数/ GFP発現細胞数 (b)全プルキンェ細胞中の GFP発現プルキンェ細 胞の割合: GFP発現プルキンェ細胞数/全プルキンェ細胞数
図 1 5は、 (a) 種々のプロモーターを組み込んだレンチウィルスベクターを 用いて培養小脳プルキンェ細胞に GFP を発現させたときの蛍光強度の比較、 (b) CMVプロモーター制御下で GFPを発現するレンチウィルスベクターをさまざ まな M0Iで HEK293T細胞に感染させたときの GFP蛍光強度を示す。
図 1 6は、 種々のプロモーターを組み込んだレンチウィルスベクターを用い
て、 培養小脳プルキンェ細胞に GFP遺伝子を発現させたときの蛍光免疫染色写 真を示す。
図 1 7は、 生体小脳への遺伝子導入の結果を示す。 (a- d)は、 レンチウィルス ベクターを用いて、従来の L7プロモーター(L7 - 1)制御下で GFPを発現させたと きの GFPの蛍光写真、 (c) , (d)は抗 GFP抗体を用いて免疫染色した写真 (これ により蛍光は増強する)、(e- h)は L7-4プロモーターを用いた場合の小脳プルキ ンェ細胞の GFP蛍光写真を示す。
なお、 上記図面のグラフ中、 * pく 0. 05、 ** pく 0. 01、 ***pく 0. 001 (ANOVA with least significance test; 本明細書は、 本願の優先権の基礎である特願 2 0 0 6— 0 6 2 1 9 2号及び 特願 2 0 0 6— 1 9 8 3 9 8号の明細書に記寧された内容を包含する。 発明を実施するための最良の形態
1 . プルキンェ細胞指向性ベクター
本発明にかかる 「プルキンェ細胞指向性ベクター」 (以下、 「本癸明のベクタ 一」 という) とは、 小脳プルキンェ細胞に高い親和性を有し、 プルキンェ細胞 特異的に遺伝子導入を行うことができるベクターであって、 小脳に存在するパ 一ダマングリア、 星状細胞、 籠細胞等の他の神経細胞やグリア細胞よりも、 プ ルキンェ細胞に対して高い選択性を有するベクターである。
本発明のベクターは、ウィルス由来プラスミ ドベクターに改変型 L7プロモー ターと外来遺伝子を機能しうる態様で連結して成る。 あるいは、 レンチウィル スプラスミ ドベクターに適当なプロモーターと外来遺伝子を機能しうる態様で 連結して成る。
ここで、 ウィルス由来プラスミ ドベクターとは、 アデノウィルス、 アデノ随 伴ウィルス、 レトロウィルス、 へノレぺスウイノレス、 センダイウィルス、 及ぴレ ンチウィルス由来のプラスミ ドベクターを含み、 特にプルキンェ細胞に対する 選択性が高いアデノ随伴ウィルスとレンチウィルス由来のプラスミ ドベクター が好ましく、 レンチウィルスベクターが最も好ましい。
「レンチウィルス」 とは、 逆転写酵素を有する R NAウィルスの 1つであつ
て、 非分裂細胞にもサイトカイン刺激なしに高効率で感染し、 宿主染色体にゥ ィルスゲノムを組み込むことができる。 そのため、 レンチウィルス由来のべク ターは、 哺乳動物への遺伝子導入用ベクターとして汎用されている。 レンチウ ィルスとしては、 ヒト免疫不全ウィルス (HIV)、ネコ免疫不全ウィルス (FIV)、 サル免疫不全ウィルス (SIV)、 ゥマ伝染性貧血ウィルス (EIAV)、 ヒッジ関節炎 脳炎ウィルス (CAEV)、マエディウィルス等が知られているが、ベクターとして は、 一般にヒト免疫不全ウィルス、 ネコ免疫不全ウィルス、 サル免疫不全ウイ ルスに由来するものが使用されている。
2本のプラス鎖 R N Aとこれを囲むコア 蛋白質 (gag蛋白質)、 コアを囲むマトリックス、 さらにその外側を囲む脂質二 重膜で構成される。 コアの中には、 逆転写酵素、 R N a s e H、 インテグラー ゼ、 プロテアーゼが含まれ、 脂質二重膜には糠萆白質であるエンベロープ蛋白 質がスパイクしている。
ウィルスの感染、 宿主中での増殖には、 上記した蛋白質が複雑に関与する。 特に、 ウィルスエンベロープ上の糖蛋白質はウィルスの感染性に非常に重要で あり、 ィンフルェンザウィルスでは、 この糖蛋白質が酵素により切断されるこ とで感染性が変化することが知られている。 H I Vは CD4陽性細胞にしか感染 できないが、 H I V由来レンチウィルスベクターではさまざまな種類の細胞へ の感染を可能にするため、 Vesicular somatitis virus glycoprotein (VSV-G) VSV-G に置換されている。' したがって、 H I V由来レンチウィルスベクターの プルキンェ細胞選択性についても、 この VSV - Gが深く関与していることが予測 される。
レンチウイノレスプラスミドベクターは、通常 2〜4つのコンポーネントレ ッ ケージング (パッケージングプラスミド、 REVプラスミド)、 エンベロープ、 ベ クタ一]から構成される。 このうちパッケージングプラスミドは、エンベロープ 以外のウイルス粒子形成に必要な蛋白質を供給するが、 宿主内で複製できない よう、 複製に必要な tat- rev領域を破壊したり、 tatあるいは revの一方を削 除して他方を別なプラスミドに移している。 エンベローププラスミドはェンべ ロープ形成に必要な蛋白質を供給するが、 上述のごとく H I Vのエンベロープ では CD4陽性細胞にしか感染できないため、 その蛋白質を VSV - Gに置換されて
いる。 ベクタープラスミドは、 L T R、 パッケージングシグナル、 逆転写に必 要なプライマー結合部位を含む。 汎用されているベクタープラスミドでは、 安 全 I1生を高めるために、 L T Rのェンハンサー /プロモーター部分を削除し、代わ りに CMVプロモーター等の外来のプロモーターを組み込んでいる。
特に好ましい態様として、 本発明ではプルキンェ細胞での外来遺伝子の適切 かつ効率的な発現のために、前記外来プロモーターとして、改変型 L7プロモー ター使用する。 この改変型 L7プロモーターについては次項で詳述する。
本発明のベクターでは、レトロウイノレスプラスミ ドベクターにプロモーター、 特に改変型 L7プロモーターと外来遺伝子が機能しうる態様で連結されている。 ここで 「機能しうる態様」 とは、 前記外来遺伝子が感染宿主に導入され、 そこ で適切に発現されることを意味する。
前記「外来遺伝子」は、レトロウィルスが本来有していない遺伝子であって、 研究のためのレポーター遺伝子 (GFP遺伝子など) のほか、 遺伝子治療のため の治療用遺伝子や疾患モデルマウス作出のための疾患遺伝子が用いられる。 こ れら 「治療用遺伝子」 及ぴ 「疾患遺伝子」 については、 後で詳述する。
本発明のベクターによって産生されるウィルスは、 その蛋白質が実質的に分 解修飾されていない状態にあることが望ましい。 特に、 ウィルスエンベロープ 上に存在する糖蛋白質 VSV- Gが実質的に分解修飾されていない状態にあること が望ましい。 これは、 上述したように、 ウィルスの蛋白質は感染や宿主での増 殖において重要なはたらきをしているからであり、 実際、 発明者らはウィルス 産生のための培養液にプロテアーゼを添加しておくことで、 そのプルキンェ細 胞選択性が大きく向上することを実証した。 したがって、 「実質的に」分解修飾 されていない状態とは、 ウィルスの産生から使用時まで、 ウィルス蛋白質が 1 0 0 %分解修飾されないことを厳密に要求したものではなく、 その目的 (プル キンェ細胞指向性) が達成される範囲において、 影響を与えない程度の微細な 不可避的に生じる分解修飾を許容する意味である。
2 . 改変型 L7プロモーター
本発明で用いられる改変型 L7プロモーターは、従来の 3kbの長さを持つ小脳 プルキンェ細胞特異的 L7プロモーター(配列番号 1 ) を基に、約 3分の 1の長
さ(lkb)で細胞特異性を保持したまま、より強い活性を持つプロモータ一領域と して同定されたものである。
具体的には、本発明の改変型 L7プロモーターは、配列番号 3 (L7-3) 又は配 列番号 4 (L7-4) に示される塩基配列を有する。 しかしながら、 これらの配列 に限定されず、 配列番号 3又は 4で示される塩基配列と相補的な配列を有する • DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうる DNAもまた、 それが 前記改変型し 7プロモーターと同等の塩基長 (900bp〜1500bp程度) を有し、 か つ同等のプルキンェ細胞特異的プロモーター活性を有する限り、 本発明の改変 型 L7プロモーターに包含される。 少なくとも配列番号 4に示される 17 - 4プロ モーター配列を含む限り、 L7 プロモーター配列 (配列番号 1 ) 上の連続した 1006bp〜1500bpの任意の断片、 とくに配列番号 4に示される L7 - 4プロモータ 一配列を含む L7- 3プロモーター配列(配列番号 3 )上の連続した 1006〜1319bp の任意の断片は、本発明の改変型 L7プロモーターとして利用可能なことは理解 できるであろう。
なお、本明細書において、前記「ストリンジェントな条件」 とは、 6xSSC (lxSSC の組成: 0. 15M NaCl, 0, 015M タエン酸ナトリウム、 ρΗ7· 0)と 0. 5% SDS と 5χ デンハルトと 100 /i g/ml変性断片化サケ精子 DNAと 50%ホルムァミドを含む溶 液中、配列番号 1に示される塩基配列からなる核酸とともに 55°Cで一晩保温し、 低イオン強度、 例えば、 2xSS よりス トリンジェントには、 0. lxSSC等の条件 及び/又はより高温、 37°C以上、 ストリンジエン には、 42°C以上、 よりスト リンジェントには、 50°C以上、 より一層ストリンジェントには、 60°C以上等の 条件下での洗浄を行なう条件により達成されうる。
3 . プルキンェ細胞指向性ベクターの調製
本発明のベクタ一は、 たとえば、 ウィルスベクタープラスミドに治療用遺伝 子を機能しうる態様で連結させ、 適当な宿主細胞にトランスフヱクシヨンし、 ' これをプロテアーゼ阻害剤を含む培養液中で培養して、 ウィルスを産生させる ことにより作製される。
前記 「宿主細胞」 としては、 通常 HEK293FT細胞、 HEK293T細胞等が用いられ る。 ベクタープラスミドのトランスフエクシヨンは、 カルシウムイオンを用い
る方法 [Cohen, S. N. et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. , USA, 69: 2110-2114 (1972) ]や、エレクトロポレーシヨン法等、公知の方法を用いて、前項に記載し たベクターシステムを構成するすべてのプラスミ ド (パッケージング、 ェンべ ロープ、 ベクター) を宿主細胞に導入することにより達成される。
ウィルスを培養するための培養液はとしては、 MEM、 -MEM, D-MEM、 BME、
RPMI- 1640、 D- MEM/F- 12、 Ham' s F- 10、 Ham' s F- 12 等、 公知の培養液を培養 する細胞に合わせて適宜選択して用いることができる。
前記培養液に加えるプロテアーゼ阻害剤は特に限定されないが、 カテブシン
K阻害活性を有するものを好適に用いることができる。 そのような物質として は、市販のカテブシン K阻害剤:たとえば、 Cathepsin K inhibitor I、 Cathepsin
K inhibitor II、 Cathepsin K inhibitor III (いずれ.も、 メスレク 力/レビオケ ム社製等) のほか、 カテブシン阻害剤:たとえば、 Cathepsin inhibitor I、
Cathepsin inhibitor II、 Cathepsin inhibitor III (いずれも、 メルク カル ビオケム社製等) を使用することができる。
前記培養液は、 ウィルス産生時において p H 7 . 2〜p H 8 . 0が維持され ていることが好ましい。 これ以下の p Hではベクターのプルキンェ細胞指向性 (選択性) が低下し、 これ以上の p Hでは細胞の増殖が悪くなるからである。 細胞の増殖につれて、 培養液の p Hは酸性にシフトするため、 培養液中にはプ 口テアーゼ阻害剤のほか、 HEPES 等の p H低下を防ぐ効果のある試薬を適宜加 えてもよレヽ。
宿主細胞の培養は、一般には 3〜 I 0 % C O 2、 3 0〜 4 0 °C、特に 5 % C 0 2、 3 7 °C、 の条件下で行われるが、 これに限定されるものではない。 トラ ンスフエクシヨン後の培養期間は、 特に限定されないが、 少なくとも 24時間、 長い場合は 216時間、 好ましくは 36から 72時間、 より好ましくは 40から 48 時間程度である。
なお、 ィンビ ト ロシェン社製のレンチウィルスベクター(商品 名: pLenti6/V5-DEST)を用いる場合は、そのまま使用するとあまり高い力価は得 られないが、 該ベクターから SV40プロモーターと Blasticidine耐性遺伝子を 除去することで、 高力価 (107TU/ml) を得ることができる (特願 2005-2;31514 参照)。
4 . プルキンェ細胞指向性ベクターによる遺伝子治療
本発明のベクターは、 プルキンェ細胞に対する親和性、 選択性が極めて高い ため、 プルキンェ細胞への送達ベクターとして、 遺伝子治療に有用である。 す なわち、 本発明のベクターは、 プルキンェ細胞における障害を病因とする 「プ ルキンェ細胞障害性疾患」 の治療用医薬組成物として有用である。 前記医薬組 成物は、 本発明のベクターを薬理学的に許容しうる担体とともに適当なバッフ ァ一に溶解 ·懸濁することによって調製され、 小脳皮質及び/あるいは小脳表 面のクモ膜下腔に注入される。 ·
前記 「プルキンェ細胞障害性疾患」 としては、 脊髄小脳変性症やハンチント ン病を含むポリグルタミン病、ニーマンピック病、毛細血管拡張性運動失調症、 自閉症、 アルツハイマー病、胎児アルコール痺候群 (FAS)、 アルコール中毒、 な らぴに加齢性小脳失調を挙げること力 Sできる。
本発明のベクターに連結される 「治療用遺伝子」 とは、 プルキンェ細胞で発 現された場合、 前記したプルキンェ細胞障害性疾患の治療に有用な遺伝子であ つて、 その治療対象とする疾患に合わせて、 以下のように選択することができ る。
ポリグルタミン病の治療を目的とした場合は、 GTPase CRAG (Qin et al. J. cell Biol. 2006 Feb 13 ; 172 (4) :497-504. )、 ubiquitin chain assembly factor E4B (UFD2a) (Matsumoto et al. EMB0 J. 2004 Feb 11; 23 (3): 659-69. ) , ATPase VCP/p97 (Hirabayashi et al. Cell Death Differ. 2001 Oct ; 8 (10) : 977 - 84. )、 分子シ ャ ぺ 口 ン HDJ"- 2 HSDJ ( Cummings et al. Nat Genet. 1998 Jun; l9 (2): 148-54. )や分子シャぺ口ン BiP (Kozutsumi et al. Nature. 1988 Mar 31 ; 332 (6163) : 462- 4. )、 小胞体蛋白質分解を促進する分子: ER degradation enhancing alpha- mannosidase -丄 ike protein (EDEM) (Oda et al. Science. 2003 Feb 28 ;299 (5611) : 1394- 7. )、 ERのセンサー分子 (Endoplasmic reticulum (ER) stress transducer) : CREB/ATF family member OASIS (Kondo et al. Nat Cell Biol. 2005 Feb ; 7 (2) : 186- 94. )、 IRE1 (Welihinda and Kaufman. J Biol Chem. 1996 Jul 26 ; 271 (30) : 18181- 7. )、 PERK, ATF6 (Yoshida et al. J Biol Chem. 1998 Dec 11 ; 273 (50) : 33741-9. ) をコードする遺伝子を用いることができる。
また、脊髄小脳変性症 1型、 2型、 6型の治療を目的とした場合は、 ataxin-1, ataxin- 2、 α la電位依存型カルシウムチャネル、 PKC y遺伝子をコードする遺 伝子に対する siRNA、 ハンチントン病の治療を目的とした場合は、 Huntingtin に対する siRNAを用いて、 これら遺伝子の発現を抑制してもよい。
ニーマンピック病の治療を目的とした場合は、 スフインゴミエリナーゼをコ ードする遺伝子を治療用遺伝子として用いることができる。 毛細血管拡張性運 動失調症の治療を目的とした場合は、 AT- mutated (atm)、 自閉症の治療を目的と した場合は、 Reelinや Bel - 2をコードする遺伝子を治療用遺伝子として用いる ことができる。 アルツハイマー病の治療を目的とした場合は、 ネプリライシン をコードする遺伝子を治療用遺伝子として用いることができる。 さらに、 胎児 アルコール症候群 (FAS)、 アルコール中毒、及ぴ加齢性小脳失調の治療を目的と した場合は、 Bcl-2、 DNF、 NGF をコードする遺伝子を治療用遺伝子として用い ることができる。 .
こうした遺伝子治療の薬理評価は、 治療対象となる疾患の種類により異なる が、 脊髄小脳変性症の場合、 ベクターを、 小脳皮質及び/あるいは小脳表面の クモ膜下腔に投与した後、 細胞学的にはプルキンェ細胞、 星状細胞や籠細胞を 含む小脳の神経細胞の変十生脱落の防止によって、さらに臨床的(動物の場合は行 動学的)には小脳失調の改善程度により行うことができる。
本発明の医薬組成物は、 好ましくは、 小脳表面のクモ膜下腔に注入すること により、 投与される。 注入されたベクターは、 注入部位周辺のプルキンェ細胞 のみに限局することなく、 プルキンェ細胞全体に高い親和性で、 かつ広範囲に 治療用遺伝子を送達することができる。 また、 小脳表面のクモ膜下腔への本発 明のベクターの注入は、 ヘルぺスウィルスやアデノ随伴ウィルスで報告された 脳深部に位置する下オリ一ブ核ゃ小脳核への注入に比べて簡便で、 脳実質の損 傷を抑制できるため、 臨床応用に優れる。
投与にあたっては、 注入の際、 脳圧を安定して維持させる観点から、 好まし ぐは、 一定した速度で注入可能な手段、 例えばマウスでは、 ハミルトンシリン ジとそれを取りつけることができるマイクロマニピュレータ一及び注入のため のマイクルインジェクションポンプ等を用いることが望ましい。 注入速度及ぴ 投与量は、 脳圧を安定して維持できる範囲であれば特に限定されるものではな
く、 個体の年齢、 体重、 疾患状態等に応じて、 適宜設定され得る。 例えばマウ スの場合、 10nl/分〜 800nl/分、 好ましくは、 50nl/分〜 400nl/分、 より好まし くは、 lOOnl/分〜 200nl/分、 計 2〜8 1であることが望ましい。
本発明の医薬組成物の投与量は、 治療効果を発揮させるに適した量であれば 特に限定されるものではなく、 個体の年齢、 体重、 疾患状態等に応じて、 適宜 設定され得る。 また、 本発明の治療剤の投与回数は、 治療効果を発揮させるに 十分な回数であればよい。 アデノ随伴ウィルス、 ヘルぺスウィルス、 センダイ
を用いた場合、 長期の遺伝子発現が確認されて いるため 1回の投与でもよいが、 組み込まれる遺伝子のコピー数を増加させ、 より広範囲の細胞に導入させるためには、 治療効果を見ながら、 小脳表面の場 所を変更して 3回程度投与してもよい。
5 . 小脳プルキン工細胞障害性疾患 モデル動物
本発明のベクターを非ヒト哺轧動物のクモ膜下腔に注入することにより、 対 象動物のプルキンェ細胞特異的に特定遺伝子の発現を抑制したり、 過剰発現さ せることができる。
使用可能な非ヒト哺乳動物は、 特に限定されないが、 マウス、 ラット、 ゥサ ギ、 ゥマ、 ヒッジ、 ィヌ、 ネコ、 サルを挙げることができる。 特にマウス、 ラ ット以外の動物ではトランスジエニックマウスを作出するのが極めて困難であ るため、 本発明のベクターの使用は非常に有効である。
たとえば、 本発明のベクターに外来遺伝子として、 前記した小脳疾患遺伝子 (異常伸長した CAGリピートを持つ ataxin- 1、 ataxin-2, ataxin-3, a la電位 依存型カルシウムチャネル、 Huntingtinをコードする遺伝子や変異を持つ PKC γ コードする遺伝ナ (Klebe S. et al. ew mutations in protein kinase Cgamraa associated with spinocerebellar ataxia type 14. Ann Neurol. 2005 Nov ; 58 (5):720-9)などを非ヒト哺乳動物に導入して発現させれば、当該遺伝子 が関与する小脳プルキンェ細胞障害性疾患を発症させることができる。 このよ うなトランスジエニック動物は、 小脳プルキンェ細胞障害性疾患のモデル動物 や小脳機能研究用モデル動物として有用である。
6 . プルキンェ細胞指向性ウィルスベクター作製用培養液及ぴキット 本発明はまた、 カテブシン K阻害活性を有する物質を含んで成る、 プルキン ェ細胞指向性ウィルスベクター作製用培養液や、 そのような培養液 (カテブシ ン K阻害活性'を有する物質と細胞培養液、 またはカテブシン K阻害活性を有す る物質を含む細胞培養液) を構成要素として含む、 プルキンェ細胞指向性ウイ ルスベクター作製用キットも提供する。
本発明の培養液は、 ΜΕΜ、 α -ΜΕΜ、 D- ΜΕΜ、 ΒΜΕ、 RPMI- 1640、 D- MEM/F- 12、 Ham' s F- 10、 Ham' s F- 12 等、 公知の培養液にカテブシン K阻害活性を有する物質 を添加して調製される。 カテブシン K阻害活性を有する物質としては、 カテブ シン K阻害剤:たとえば、 Cathepsin K inhibitor I、 Cathepsin K inhibitor II、 Cathepsin K inhibitor III (いずれも、 メルク カルビオケム社製等) のほか、 カテブシン阻害剤:たとえば、 Cathepsin inhibitor IN Cathepsin inhibitor II、 Cathepsin inhibitor III (いずれも、 メルク 'カルビオケム社製等) などを適 宜用いることができるが、 これらに琅定されるものではない。
前記培養液は、 ウィルス産生時において p H 7 . 2〜p H 8 . 0が維持され ているように、 HEPES 等の p H低下を防ぐ効果のある試薬を適宜含んでいても よい。
本発明のキットは、 前記した必須の構成要素 (カテブシン K阻害活性を有す る物質と細胞培養液、 またはカテブシン K阻害活性を有する物質を含む細胞培 養液) のほか、 ウィルスプラスミ ドトランスフエクシヨン用の塩化カルシウム 溶液や Hank' s 平衡塩溶液 (Hank' s Balanced Salt Solution: HBSS)、 リン酸 バッファー、 ろ過滅菌用フィルター (径 0. 22 のものなど) 等を含んでいて もよい。 塩化カルシウムは、 たとえば、.36. 76 g CaCl22H20に精製水 100 mlを加 え、 ろ過滅菌することにより調製される。 また、 Hank' s 平衡塩溶液 (2xHBSS) は、 たとえば、 NaCl 8. 2g (final 0. 28M)、 HEPES 5. 95g (final 0. 05M)、 Na2HP04 0. 108g (final 1. 5mM)、 H20 400mlを混合し、 5 N NaOHで pH 7. 05に調製し、 精製水を加えて 500 mlにすることにより調製される。 実施例
以下、 実施例により本発明をより詳細に説明するが、 本発明はこれらの実施
例に限定されるものではなレ 実施例 1 : トランスフエクション後の培養時間がウィルスのプルキンェ細胞選 択性に与える影響
く方法 >
(1)ウィルスの産生
以下の操作を、 P2実験室で行なった。 ウィルス産生には、 HEK293FT細胞を用 レヽた。培養液は通常用 ヽられてレ、る、 10%ゥシ血清を加えた Dulbecco, s modified Eagle ' s medium (D- MEM)を使用した。 対数増殖期の HEK293FT細胞をリン酸緩 衝化生理食塩水(Mg2+と Ca2+とを含有しない) [PBS (—)]に分散させ、ついで、 10cm ディッシュ(ファルコン社製)あたり 5 X 105細胞となるように播種した。播種後 の lOctnディッシュに、 10重量%ゥシ胎仔血清含.有 D- MEMlOmlを添加し、その後、 細胞を、 5体積 %C02, 37°Cで培養し 。 24時間後、 前記ディッシュ中の培養液 を、新し 、培養液(10重量%ゥシ胎仔血清含有 D- MEM) 10mlと交換した。その後、 細胞を、 5体積。/。 C02, 37°Cで 0. 5時間培養した。
一方、 pCAGkGPlR (St. Jude Chi ldren' s Research Hospital) 6 μ g, pCAG4RTR2 (St. Jude Chi ldren' s Research Hospital) 2 g, pCAG-VSV-G (St. Jude Chi ldren' s Research Hospital) 2 g, pCL20c MSCV~GFP (St. Jude Chi ldren s Research Hospital, George Washington Univers ity) 10 gてれてれを 450 μ 1 滅菌水に溶解させ、 プラスミド溶液を得た。 '
•pCAGkGPIR : gag (ウィルスの構造蛋白質をコード)と pol (逆転写酵素をコード) を含むパッケージングプラスミド。
• pCAG4RTR2 : tat (転写調節遺伝子)を含むプラスミド。 rev を削除してあるた め、 ウィルス粒子は宿主内で複製することができない。
- pCAG-VSV-G : VSV-Gは Vesicular somatitis virus glycoproteinの略。 レン チウィルスの本来の Envelopeでは CD4陽性細胞にしか感染できない。これをリ ン月旨質をターゲットとする VSV (Vesicular stomatitis virus) Envelopeに置 換し、 神経を含むさまざまな細胞に感染可能としたエンベローププラスミド。 • pCL20c MSCV-GFP :レンチウイルスのメインべクタ一 pCL20cにおいて、 2つの LTR内に MSCVプロモーターを配置し、 これに GFP遺伝子を連結させたプラスミ
ド (図 1 )。
このようにウィルス産生に不可欠な遺伝子を 4つのプラスミドに分割し、.複 製に必要な領域等を削除することにより、 産生されたウィルスは感染能を持つ 一方、 感染後は自己増殖能が欠如するため安全性が増す。
得られたプラスミド溶液に 2. 5M CaCl2 50 t lを添加して攪拌し、 2xHBSS 〔組 成: 50mM HEPES、 OniM NaCl, 1. 5mM Na2HP04, PH7. 05) ] 500 1を添加し、 すばや く攪拌した。
前記ディッシュにプラスミド溶液を均等に滴下し、 穏やかにディッシュ内の 培地と混合した。 その後、 細胞を、 5 体積。/。 C02, 35°Cで培養した。 以下、 バイ オハザ一ド対策用安全キヤビネットの中で操作を行なった。
16時間後、前記ディッシュ中の培地を、新しい培地(10重量。/。ゥシ胎仔血清含 有 D - MEM) 10ml と交換した。 さらに細胞を、 5体積 °/。C02, 37°Cで培養しトラン スフエクシヨン後から 40時間でウィルスを含む培養液を回収した(40h virus)。 その後、新しい培養液を加えてさらに 24時間培養し、 トランスフエクシヨン後 64時間 (64h virus)でウィルスを含む培養液を回収した(図 2参照)。
(2)濃縮
前記(1)で回収した培地は、. それぞれ 50ml遠心管に移し、 1000rpm(120 X g)、 4分間遠心分離して、上清を得た。得られた上清を、フィルター(ミリポア社製、 0. 22 μ πι径)に通した。得られた濾液を、ベックマン社製ローター SW28. 1を用い た超遠心分離 (25,000rpm,' 2 時間、 4°C)に供してウィルス粒子を沈殿させ、 上 清を除去した。
得られたウィルス粒子沈殿物を PBS (-)に懸濁し、 最終量を 200 1 とし、 感 染用ウィルス液を得た。 なお、 すぐに使用しないウィルス液を、 20 1 ずつ分 注し、 -80°Cで保存した。
(3)ウィルス力価の測定
(i) GFPの蛍光を指標とする方法
対数増殖期の HELA細胞を PBS (-)に分散させ、ついで、 12ゥェルディッシュ(ィ ヮキ硝子社製)に 1ゥエルあたり 5 X 104細胞となるように播種した。 播種後の 12ゥヱルディッシュに、 10重量。/。ゥシ胎仔血清含有 D- MEMを、 1ml/ゥエルとな るように添加し、 その後、 細胞を、 5体積。/。 C02, 37°Cで 24時間培養した。
ウィルス液を 103〜105倍となるように前記ゥエル内の培地に添カ卩した。また、 同時に、 Hexadimethrine Bromide (SIGMA社製、商品名: ポリプレン)を 6 μ g/ml となるように各ゥヱルに添力卩した。 その後、 細胞を 5体積% C02, 37°Cで 88時 間培養した。
ゥエルの中の緑色蛍光蛋白質 (GFP)発現細胞を蛍光顕微鏡(ォリンパス社製 ■ 商品名: CKX41)下でセルカウンター(ァズワン社製、 商品名:数取器)を用いて計 測し、 ウィルスの力価を算出した。 10x希釈ウィルス液を添加した中、 Y個の細 胞の GFP 発現細胞が見出された場合、 ウィルス力価は、 Y X lO!TU/ral (TU: transductionunit)として算出される。 ·
(ii) 培養細胞(HeLa細胞)のゲノムに組み込まれるプロウィルスのコピー数 による評価 (Izopet et al. J Med Virol. 1998 Jan;54 (1):54-9. )
HeLa細胞を 10cmディッシュで培養し、播種 24時間後にウィルス液を感染さ せる。 感染 3日後に 5. 0 X 106個の細胞を得た。 これと平行して同数の LAV - 8E5 細胞(ATCC社, Manassas, VA, USA)を得た。 LAV- 8E5細胞は 1細胞に HIV1型の プロウィルスを 1コピー持っており、 これをスタンダードとした。 これらの細 胞からゲノム DNAを抽出し、 最終的に 100 1の TEバッファーに溶解した。 こ のうち Ι μ ΐを用レヽ、 HIVプロウイノレスの RRE (rev responsive element) こ含ま れる 290ベースペアの領域を、 以下のプライマーを用いて増幅した:
5' -ATGAGGGACAATTGGAGAAGTGAATTA-3 ' (配列番号 9 )、 5' -CAGACTGTGAGTTGCAA CAGATGCTGT-3' (配列番号 1 0 )。
ゲノムに組み込まれるプロウィルスのコピー数はゲノム DNAを段階希釈して 求めた。 すなわち、 バンドが現れなくなる直前の希釈倍率を決定し、 LAV- 8E5 細胞を用いたスタンダードと比較することで、 5. 0 X 106個の HeLa細胞あたり 何個のプロウイルスが組み込まれているか(ゲノムコピー数 Zゥィルス液 lml) を計算した。
(4)マウス小脳クモ膜下腔へのベクタ一の接種
マウス(SLC供給、 4〜: 10週齢)に、ペントバルビタール(商品名:ネンブターノレ) を、 腹腔内投与 (40mg/kg body weight) にて麻酔し、 以下の操作を、 バイオハ ザ一ド対策用安全キャビネットの中で行なった。
麻酔後、 マウスを、 小動物固定装置 〔ナリシゲ社製、 商品名: SG- 4〕 を用いて
固定した。 また、 体温コントローラー 〔FST社製、 商品名:体温コントロールシ ステム(マウス用) FST- HPSM〕 にて、 マウス体温を 37°Cとなるように維持した。 マウスの頭部の毛を刈った後、 Bregmaより数ミリ吻側から小脳直上にかけて皮 膚を切開した。 ついで、実体顕微鏡(ニコン社製、商品名 1SMZ645)下で、 Bregma より 5〜7mtn尾側の正中部の頭蓋骨に、マイクロドリル〔浦和工業社製、商品名: パワーコントローラー UC100+HB1 (ドリル)〕 を用いて、 内径 2〜3删の穴を開け た。 また、 注射 #1"を用いて、 骨の下の硬膜及ぴクモ膜に穴を開けた。
得られたレンチウィルスベクターを、商品名:レックスフィルマイクロシリン ジ (WPI社製、 10 1容量)に充填し、フレックスフィルマイクロシリンジをマイ クロマニピュレーターに取りつけたウルトラマイクロポンプ 2 (WPI 社製)にセ ットした。 .
マイクロシリンジの針先を小脳直上に開けこ硬膜の穴より約 0. 5mm刺入し、 クモ膜下腔に留置後、 前記レンチウィルスベクターを、 ウルトラマイクロポン プ 2専用デジタルコントローラー Mi cro4 (商品名、 WPI社製)を用いて、 lOOnl/ 分の速度で 40分間、 計 4 μ Ι注入した。
注入後、切開したマウスの皮膚を、縫合糸付き眼科用微小針 (夏目製作所社製、 商品名.眼科用弱弩針 C67 - 0)で縫合した。 その後、 固定装置からマウスをはず し、ヒーティングパッド(昭和精機工業社製、商品名:ゴムマットヒーター SG - 15) 上に置いたケージ (安全キャビネッ ト内)で観察した。 マウスが、 麻酔から覚醒 した後、 マウスケージを ΗΕΡΑフィルター付の感染 '動物用ラック(トキヮ科学器 械株式会社製、商品名:バイオクリーンガブセルュニット T- BCC- Μ4)内で飼育し た。
接種後 7 日目のマウスについて、 4%ホルムアルデヒ ドーリン酸緩衝液で灌流 固定後、 脳を摘出した。 蛍光実体顕微鏡を用いて脳全体の写真と GFPの蛍光写 真を撮影後、 厚さ 50 111、 あるいは 100 mの小脳矢状断切片をマイクロスラ ィサー (堂阪ィーェム社製 商品名 : DTK-1000) を用いて作製した。 作製され た脳切片を、 一次抗体 [Mouse monoclonal ant i-parvalbumin (星状細胞、 籠細胞 のマーカー) : SIGMA社製、 あるいは Mouse monoclonal anti-GFAP (グリア細胞 のマーカー):ケ コン子:!:製、あ レヽ ίま Mouse monoclonal anti— neuron—specif ic nuclear protein (Neu^、 顆粒細胞のマーカー):ケミコン社製、 あるいは mouse
monoclonal ant i-mGluR2 (ゴルジ細胞のマーカー) i生理学研究所重本隆ー教授 より譲り受け)と共に 24時間室温でインキュベーションし、 ついで、 二次抗体 (Alexa fluor 568 - conjugated anti-mouse IgG: Invitrogen社製)で 2時間、 室温でィンキュベーシヨンし、顕微鏡用標本を得た。その後、蛍光顕微鏡 (Leica 社製 商品名 : DMI 6000B)及び共焦点顕微鏡 (CarlZeiss 社製 商品名 : LSM5 Pascal) で標本の観察を行なうことにより発現 GFP蛋白質の局在と発現細胞の 種類を調べた。
ぐ結果 >
トランスフエクシヨン後 40 時間で培養液中に放出されたウィルスの接種で は、全 GFP発現細胞のうち約半分 (51%)がプルキンェ細胞であった。パーグマン グリア(22%)、 星状細胞/籠細胞(16%)がこれに続いた (図 2及ぴ図 3 )。 一方、 トランスフヱクション後、 40時間から 64時間で培養液中に放出されたウィル ス(64 h virus)の接種では、 GFP発現プルキンェ細胞の割合は 15%、 星状細胞/ 籠細胞 (4%)に減少し、バーグマングリアは 77%にまで增加した(図 2及び図 3 )。 表 1に示すように、 トランスフエクシヨン後 40時間の培養液の PHは 7. 2で あるが、 トランスフエクション後 64時間後の培養液の pHは 7. 0に低下する。 したがって、プルキンェ細胞への親和性の低下は培養液の pHの変化によるもの ではないかと考えた。
[表 1 ]
pHs of virus-containing medium samples and titers of virus stocks
Host cell Culture period3 pHb Biological titer (TU/ml)
40 h 7.2 5.1 ± 2.6 x 108 4
HE 293FT 64 h 7.0 4.4 ± 2.1 108 4
40 h 7.0C 2.5 ± 2.1 x 108 3 aTime (h) after transfection. bpH of conditioned medium at harvest.
cpH of conditioned medium was adjusted to 7.0 by HCI. dNumber of cultures that were independently conducted. 実施例 2:プルキンェ細胞選択性に対するウィルス産生時の培養液の pHの影響 実施例 1の結果に基づき、培養液の pHどプルキンェ細胞選択性の関係につい
て検討した。
ぐ方法 >
実施例 1に従い、トランスフエクシヨン後 40時間のウィルスを含む培養液に 希塩酸を加えて pHを 7. 0に調節した後、 ウィルスを精製し、同様にマウス小脳 に接種し、 7 日後の脳切片を観察した。 さらに HEK293FT細胞より増殖が遅く、 したがつて培養液の増殖に伴う酸性化も遅!/ヽ HEK293T細胞を用いて同様の実験 を行った。
ぐ結果 >
トランスフエクシヨン後 40時間の培養液の pH (7. 2)を 0. 2だけ酸性側にシフ ト(pH7. 0)させ、同じようにウィルスをマウス小脳に接種すると、予想通り トラ ンスフエクション後 64時間で回収したときとほぼ同様の結果を得た。すなわち、 GFP発現プルキンェ細胞 14%、 バーグマングリア 72%、 星状細胞/籠細胞 1. 7% であった (図 2の 40h virus (piU )、 .及ぴ図 4 )。 さらに HEK293FT細胞より育 ちの遅い HEK293T細胞を用いると培養液の酸性化が遅くなり、 同じようにウイ ルスを産生させても、 プルキンェ細胞への親和性が高いウィルスが得られるこ とがわかった。 このことは細胞膜の構成成分であるリン脂質 (フォスファチジ ルセリン) と結合能を持つ VSV-Gエンベロープを用いても、 プルキンェ細胞へ の選択性は、ウィルス産生時の培養液の pHに大きく影響されることを示してい る。 実施例 3 :プルキンェ細胞選択性に対する血清の影響
<方法 >
表 1に示す Lotの異なる 9種のゥシ血清を用いて、 実施例 1と同様の手順で ウィルスを産生させ、 それぞれのプルキンェ細胞への選択性を検討した。
[表 2 ] s s s
Seru2 3 19m No. Suppliers Origin LOT No.
GIBCO USA 1175763
'^GJB^O.' ' : : 'V '',ヽ : 1Ϊ2.14677 EQUITECH-BIO, INC. USA SFB30-1540
HyClone Laboratories USA ANK19840
(::;' ;A無.さ ;:' Bioloaical-lndustries .:,lsFael.W¾'¾: 71654-3
SF; Serum free: HEK293T cells were transfectea in the culture medium containing the serum S7. The serum was removed 24 h after the transfection. く結果 >
図 5に示すとおり、 プルキンェ細胞への選択性は血清の Lotの違いにより大 きく異なることが明らかになった。 さらに血清を加えなかった場合でもウィル スは産生されるが、 プルキンェ細胞への選択性が低く、 さまざまな細胞に遺伝 子発現することが確認された。 ' 実施例 4 :プルキンェ細胞選択性に対するプロテアーゼ阻害剤の影響 ぐ方法 >
血清の代わりに、 表 3に示す様々な種類のプロテアーゼ阻害剤の存在下で、 実施例 1の手順にしたがい HEK293T細胞にウィルスを産生させ、 精製したウイ ルスのマウス小脳における遺伝子発現のプルキンェ細胞選択性を検討した。
Serum-free - 5 7.0 ± 1.5 7
Serum free
Serum-free (+ Insulin, Transferrin, Selene) 4 3.6土 1.3 5
Biological Industries larael (Lot No.716543) 40
4 2.6 ± 0.4 5 pW.2 10 %
Biological Industries Israel (Lot No.716543) 64 h
4 2.4 ± 0.5 6 pH7.0 10 %
Biological Industries Israel (Lot No.716543) 40 h
3 3.4土 1.2 5
Serum (+) pH7.0 10 %
HyClone Laboratories, Inc. 0 USA (Lot No. APA20504) 10 % 3(2) 2.1 ± 1.4 5
HyClene Laboratories, Inc. 1 USA (Lot No. ANK19840) 10 % 2 ND 2
EQUrTECH-BIO, Inc. USA (Lot No. SFB30-1540) 10 % 4 6.9 ± 2.2 6
13旧 CO Mexico (Lot No. 1214677) 10 % 3 6.4 ± 0.6 5
CGS 27023A 4 3.4 ± 1.4 5
Metallo proteinase inhibitor
TIMP-1 1 6J3 1
Serine & cysteine proteinase Proteinase inhibitor cocktail (EDTAfee)
6 2.3 + 0.7 7 inhibitors [AEBSF, Aprotinin, Leupeptin)
Ca hepsin inhibitor I 5 8.3土 2.6 β
Cystein* proteinase mhibitor
Cathepsin K inhibitor 6 4.8 ± 0.6 7
Serine proteinase inhibitor
Aspartate proteinase inhibitor
ウィルスはすべて lxl09 TU/mlの力価に合わせた後、 マウス小脳に接種し、 1 週間後に厚さ 100 μ ηιの小脳矢状断切片を作製した。共焦点レーザー顕微鏡(20 倍の対物レンズ)を用いて切片を 2 !11の厚みで切片の下から上までスキャンし GFPのシグナルを 3次元的に再構成した。 評価は以下の 2つの方法により行つ た。
(1)観察視野 (0. %mm2) における、 GFPを発現している全細胞中のプルキンェ細 胞の割合(%)を求めた。 これはウィルス感染のプルキンェ細胞への選択性 (Selectivity)を表" Γ。
(2)観察視野における、 全プルキンェ細胞中の GFP 発現プルキンェ細胞の割合 (%)を求めた。これはゥィルスのプルキンェ細胞への感染効率(efficiency)を表 す。
く結果〉
(1)プルキンェ細胞への選択性 (図 6 )
血清もプロテアーゼ阻害剤も添加せず、 D- MEM のみの培地で産生したウィル スベクターでは、 プルキンェ細胞への選択性は 48%であった (GFPを発現して いる細胞のうち約半分がプルキンェ細胞)。血清を加えた培地で産生させたウイ ルスでは、選択性が大きく上昇するもの(GIBC0、メキシコ産血清など)もあった 力 ほとんど変わらないもの(HyClone 社製血清)もあった。 これに対し、 血清 を加えずにプロテアーゼ阻害剤を用いたものでは、 TIMP- 1を除く使用した薬剤 いずれにおいてもプルキンェ細胞への選択性が大きく上昇した。 特に力テプシ ン K阻害剤を加えたもの顕著であつた。
(2)プルキンェ細胞の遺伝子発現効率 (図 7 )
血清もプロテアーゼ阻害剤も添加せず、 D- MEM のみの培地で産生したウィル スベクターでは、 プルキンェ細胞への遺伝子発現効率は 37%であった (観察視 野の全プルキンェ細胞中 37%の細胞が GFP遺伝子を発現していた)。 選択性の 結果とは異なり、 プルキンェ細胞における遺伝子発現効率は、 使用する血清の Lot を変化させても有意な上昇は見られなかった。 同様にプロテアーゼ阻害剤 の添加でも、 5種類中 3種類で有意な上昇は見られなかった。 しかし、 カテブ シン Kを添加したものでは、 プルキンェ細胞の遺伝子発現効率は 86%と、 著し い上昇が見られた。
以上の結果から、 血清を添加する通常のプロトコールでレンチウィルスべク ターを産生する場合、 ウィルスべクターのプルキンェ細胞への選択性と遺伝子 発現効率は培地中のプロテアーゼの働きにより、 影響を受けていると考えられ た。 この現象には、 特にシスティンプロテアーゼファミリーの一つ、 力テプシ ン Kが大きな役割を果たしていると考えられ、 ウィルス産生時の培地にカテブ シン Kの阻害剤を加えることで、 プルキンェ細胞に極めて選択性が高く、 かつ 親和性も高いウィルスを産生することが可能となることが明らかとなった。 実施例 5 :プルキンェ細胞選択性とウィルス VSV-Gに対するカテブシン K阻害 剤の影響
1 . 培養液の pHと培養液中のカテブシン K活性
<方法 >
実施例 1の手順でトランスフエクション後 40時間の培養液 (pH7. 2)と 64時間 (pH7. 0)の培養液を得る。 これら 2つの培養液中のカテブシン K活性を Cathepsin K Detection Kit (メノレク カルビオケム社製) を用いて測定する。
2 . カテブシン Kによる VSV- Gの切断
<方法 >
40時間ウィルスと 64時間ウィルスを産生、 回収する。 またトランスフエク シヨン後 40時間の培養液をカテブシン Kで処理、 あるいは pHを希塩酸を用い て 7. 0に低下させた後、 ウィルスを回収する。 これら 4種のウィルスの VSV-G 蛋白質の切断の状態を、 直接アミノ末端シークェンシングを行い、 どこで切断 されているのか確認する。
3 . ウィルスをカテブシン Kで処理することで、 プルキンェ細胞選択性が低下 すること
<方法 >
実施例 1の手順に従い、トランスフヱクシヨン後 40時間でウィルス粒子を含 む培養液を得る。 この培養液をカテブシン Kで 2時間処理する。 その後超遠心 を行ないウィルスを回収、 マウス小脳に接種する。 1 週間後にウィルスのプル キンェ細胞選択性が低下しているのを確認する。 カテブシン Kに関しては、 す でに HEK293T 細胞から mRNA 'を抽出し、 RT-PCR 法を用いて遺伝子を得ている
(HEK293T細胞から RT - PCRでカテブシン K遺伝子が得られたことは、 HEK293T 細胞がカテブシン K を発現していることを示している)。 さらにカテブシン K 遺伝子を pcDNA3. 1ベクターにサブクローエングし、これを用いて HEK293T細胞 をトランスフエクシヨンし、 3 日後に培養液を回収したが、 この培養液にカテ プシン Kが+分量含まれることも、 rabbit polyclonal anti-cathepsin K抗体
(BioVision社製) を用いたウェスタンプロット法にて確認している。 このよ うにして得られたカテブシン Kを用いてウィルスを処理する。 実施例 6 :プルキンェ細胞障害遺伝子を用いた疾患モデルマウスの作出
<方法 >
脊髄小脳変性症 3型 (MJD病)の原因遺伝子は ataxin- 3であり、患者ではこの 遺伝子内に存在する CAGリピートが異常伸長レている。 そこで CAGリピートが 異常伸長した ataxin- 3を、レンチウィルスベクターを用いてプルキンェ細胞に 発現させることにより、 MJD病のモデルマウスを作出した。
く結果 >
CAGリピートが異常伸長した ataxin- 3を MSCVプロモーターの制御下で発現 するようにベクタープラスミドを作製した(図 8 A)。次に実施例 1の手順に従レ、、 40時間ウィルスを得た。 なお、 ウィルス産生の宿主細胞として HEK293T細胞を 用いた。 得られたウィルスをマウス小脳に接種し、 2 力月後に小脳失調の程度 をロータロッド (室町機械社製、 MK- 660C)にて解析した。 ロッド (棒) は停止 状態から次第に加速し 180秒後に 40回転/分の速度になるように調節し、マウ スがロッドに乗っている時間を測定した。 実験は 8回繰り返した。 ウィルスで 小脳に GFPを発現させたマウスは、 ウィルスを接種していないコントロールマ ウスとロータロッドの成績に差がないことはあらかじめ確認している。 これに 対して、 ウィルスを接種したマウスは、 ウィルスを接種していないコントロー ルのマウスに比べて、 有意に短時間でロッドから落下し、 運動失調が出現して いることが示された(図 8 B)。 実験終了後、マウスを灌流固定し、小脳切片を作 製して観察したところ、 プルキンェ細胞内に ataxin - 3 の凝集塊が認められた (図 8 C矢印)。
このように、 ウィルスを用いて小脳疾患原因遺伝子をプルキンェ細胞に発現
することにより、 小脳疾患モデルマウスの作出が可能であることが示された。 実施例 7 :脊髄小脳変性症モデルマウスを用いた治療用遺伝子発現ウィルスの 治療効果の検討
<方法 >
プルキンェ細胞特異的 L7プロモーターの制御下で、 CAGリピートが異常伸長 した脊髄小脳変性症 3型遺伝子 ataxin- 3 [Q69]を発現するように配置した DNA コンス トラクト(図 9 A)を作製した。 これをマウス受精卵に接種し、小脳プルキ ンェ細胞特異的に ataxin- 3 [Q69]を高発現する トランスジエニックマウス (脊 髄小脳変性症モデルマウス) を 3ライン得た。 これらのマウスの小脳に治療用 遺伝子候補である CRAG、 あるいは VCP/p97の 522番目のシスティンをスレオニ ンに変換した VCP (C522T)を発現するウィルスベクター(図 1 O A)を接種し、 運 動失調が回復するかを観察した(図 1 0 B-E)。
<結果 >
得られた 3つのラインの脊髄小脳変个生症モデルマウスのうち、 a lineと b line は生後すぐの時点から運動失調が極めて強く(図 9 B)、小脳の萎縮も顕著であつ た(図 9 C, D)。 これに対し、' c lineの運動失調の程度は野生型と a, b lineと 野生型の中間であった(図 9 B)。 生後 30 日の c lineのモデルマウスの小脳に CRAGを発現するウィルスを接種し、 1週間おきにロータロッドテスト(ロッドは 静止状態から、 180秒で 40回転 Z分まで加速)を施行した。接種 1週間後では、 接種していないモデルマウスとほとんど差は認められなかつた。しかしその後、 ウィルスを接種したマウスは徐々に成績が向上した(図 9 D)。すなわち、 ウィル スを用いたプルキンェ細胞選択的な CRAGの発現により、脊髄小脳変性症 3型モ デルマウスの運動障害が顕著に回復した。より運動失調が強い b lineマウス(生 後 21日)に CRAGまたは GFPを発現するレンチウィルスベクターを接種したとこ ろ、.4週後にロータロッドの成績の有意な回復が観察された(図 1 0 D)。 8週後 にはさらに長い間加速するロータロッドに乗ることができた (何も接種してい ないマウスと GFP発現レンチウィルスベクターを接種したマウスでは、 20秒弱 しかのることができなかったのに対し、 CRAG発現ウィルスベクターを接種した ものでは 40秒以上ものることができた)。 接種 2ヶ月後に定速 5回転でロータ
口ッド試験を 6回行ったと!ろ、 何も接種していないマウスと GFP発現レンチ ウィルスベクターを接種したマウスでは、 何度行ってもロッドが回転するとす ぐに落ちたのに対し、 CRAG発現レンチウィルスベクターを接種したマウスでは 回数を重ねるごとに乗っていられる時間が長くなった(図 1 O E)。 このことは CRAGや VCP (C522T)発現により小脳が司る運動学習機能も回復したことを示し ている。
ウィルスベクター接種 2ヶ月後に b lineマウスを灌流固定し小脳切片を作製 した。小脳切片は抗 HAタグ抗体 (図 1 1 A, C, E)、 と抗カルビンディン抗体を用 レヽて二重免疫組織染色した(図 1 1 B, D, E)。何も発現していない切片ではプルキ ンェ細胞層は大きく乱れ、 細胞内部に ataxin- 3を含む封入体を認めた(図 1 1 A,B)。 これに対し、 CRAGや VCP (C522T)発現させた切片では大部分の封入体が消 失し、 プルキンェ細胞層も 1〜2層と野生型に近い状態であった(図 1 1 C_F)。 小脳皮質における封入体の数 (図 1 1 G)、 小脳皮質分子層の厚さ(図 1 1 H)を測 定したところ、 CRAGや VCP (C522T)発現させた切片で封入体の数の有意な減少と 分子層の厚さの有意な増大を認めた。 実施例 8 :
図 1 2に示されるように、従来の L7プロモーター(L7-1)を基に、種々の縮小 型 L7プロモーター (L7-2, L7-3, L7- 4, L7- 5, L7-6, L7-7)を作製し、 レンチ ウィルスベクターを用いて、この縮小型プロモーター制御下で GFPを発現させ、 プルキンェ細胞選択性を CMVプロモーター、 MSCVプロモーター、 あるいは従来 の L7プロモーター(L7- 1)の場合と比較した。 なお、 L7- 1〜L7- 7の配列をそれ ぞれ配列表の配列番号 1〜 7に示す。
<方法 >
(1)ウィルスの産生
以下の操作を、 P2実験室で行なった。 ウィルス産生には、 HEK293FT細胞を用 いた。培養液は通常用いられている、 10%ゥシ血清を加えた Dulbecco' s modified Eagle' s medium (D- MEM)を使用した。 対数増殖期の HEK293FT細胞をリン酸緩 衝化生理食塩水 (Mg2+と Ca2+とを含有しない) [PBS (—)]に分散させ、ついで、 10cm ディッシュ(フアルコン社製)あたり 5 X 10s細胞となるように播種した。播種後
の 10cmディッシュに、 10重量。/。ゥシ胎仔血清含有 D- MEMlOmlを添加し、その後、 細胞を、 5体積 %C02, 37°Cで培養した。 24時間後、 前記ディッシュ中の培養液 を、新しい培養液(10重量%ゥシ胎仔血清含有 D- MEM) 10mlと交換した。その後、 細胞を、 5体積。 /0C02, 37°Cで 0. 5時間培養した。
一方、 pCAGkGPlR (St. Jude Chi ldren s Research Hospital) 6 μ g, pCAG4RTR2 (St. Jude Chi ldren s Research Hospital) 2 μ g, pCAG - VSV_G (St. Jude Chi ldren s Research Hospital) 2 μ g, pCL20c L7-X-GFP 又は pCL20c MSCV-GFP (St. Jude Chi ldren s Research Hospital / George Washington University) 10 μ gそれぞれを 450 μ 1滅菌水に溶解させ、 プラスミド溶液を得 た。
•pCAGkGPIR : gag (ウィルスの構造蛋白質をコード)と pol (逆転写酵素をコード) を含むパッケージングプラスミド。
• PCAG4RTR2 : tat (転写調節遺伝子) 含むプラスミド。 rev を削除してあるた め、 ウィルス粒子は宿主内で複製することができない。
· pCAGS-VSVG : VSVGは Vesicular somat itis virus glycoproteinの略。 レン チウィルスの本来の Envelopeでは CD4陽性細胞にしか感染できない。これを細 胞膜の構成成分であるリン腌質 (フォスファチジルセリン) をターゲットとす る VSVの Envelopeに置換することで、神経を含むさまざまな細胞に感染するこ とが可能となる。
· pCL20c MSCV-GFP:レンチウィルスのメインベクター pCL20cのプロモーターを MSCVプロモーターに置換し、 2つの LTR内に GFPを連結させたプラスミド (図 D o
• pCL20c L7-X-GFP : レンチウイノレスのメインベクター pCL20c のプロモーター を L7プロモータ (L7-1) 又はその縮小型 (L7- 2〜7) に置換し、 2つの LTR内 に GFPを連結させたプラスミド (図 1 3に pCL20c L7- 4 - GFPの構造を、 またそ の全配列を配列表の配列番号 8に示す)。
得られたプラスミド溶液に 2. 5M CaCl2 50 μ 1を添加して攪拌し、 2xHBSS 〔組 成: 50mM HEPES、 OmM NaCl, 1. 5raM Na2HP04, pH7. 05) ] 500 μ ΐを添カ卩し、 すばや く攪拌した。
前記ディッシュにプラスミド溶液を均等に滴下し、 穏やかにディッシュ内の
培地と混合した。 その後、 細胞を、 5 体積 %C02, 35°Cで培養した。 以下、 バイ オハザ一ド対策用安全キヤビネットの中で操作を行なった。
16時間後、前記ディッシュ中の培地を、新しい培地(10重量%ゥシ胎仔血清含 有 D- MEM) 10ml と交換した。 さらに細胞を、 5体積。/。 C02, 37°Cで培養しトラン スフヱクシヨン後から 40時間でウィルスを含む培養液を回収した(40h virus)。 (2)濃縮
前記(1)で回収した培地は、 それぞれ 50ml遠心管に移し、 1000rpm(120 X g)、 4分間遠心分離して、上清を得た。得られた上清を、フィルター(ミリポア社製、 0. 22 ^ m )に通した。得られた濾液を、ベックマン社製ローター SW28. 1を用い た超遠心分離(25,000rpm, 2 時間、 4°C)に供してウィルス粒子を沈殿させ、 上 清を除去した。
得られたウィルス粒子沈殿物を PBS (-)に懸濁し、 最終量を 200 i l とし、 感 染用ウィルス液を得た。 なお、 すぐ 使用しないウィルス液を、 20 μ 1 ずつ分 注し、 -80°Cで保存した。
(3)ウィルス力価の測定
培養細胞(HeLa細胞)のゲノムに組み込まれるプロウィルスのコピー数によつ て評価した (Izopet et al. J Med Virol. 1998 Jan; 54 (1) : 54-9. )。 HeLa細胞 を 10cmディッシュで培養し、 播種 24時間後にウィルス液を感染させる。 感染
3日後に 5. 0 X 106個の細胞を得た。 これと平行して同数の LAV- 8E5細胞(ATCC 社, Manassas, VA, USA)を得た。 LAV- 8E5細胞は 1 '細胞に HIVl型のプロウィル スを 1コピー持っており、 これをスタンダードとした。 これらの細胞からゲノ ム DNAを抽出し、最終的に 100 ( 1の TEバッファ一に溶解した。 このうち 1 1 を用い、 HIVプロウィルスの RRE (rev responsive element)に含まれる 290ベー スペアの領域を、 以下のプライマーを用いて增幅した:
5, -ATGAGGGACAATTGGAGAAGTGAATTA-3 ' (配列番号 9 )
5' -CAGACTGTGAGTTGCAACAGATGCTGT-3' (配列番号 1 0 )。
ゲノムに組み込まれるュピー数はゲノム DNAを段階希釈して求めた。すなわち、 バンドが現れなくなる直前の希釈倍率を決定し、 LAV- 8E5細胞を用いたスタン ダードと'比較することで、 5. 0 X 106個の HeLa細胞あたり何個のプロウィルス が組み込まれているか (ゲノムコピー数/ウィルス液 1ml) を決定した。
(4)培養小脳プルキンェ細胞への遺伝子導入実験
胎生 2 0あるいは 2 1日のウィスターラットの小脳を用いて、 12ゥェルディッ シュに以下の手順で培養した。 1. 0 X 107個 /ml の密度の小脳細胞懸濁液を 10%FBS入りの DMEM/F12で作製した。予め poly- L- ornithineでコーテイングし た直径 13mmのプラスチック力バースリップ (住友ベータライト社製、 Sumilon MS- 80060) の上に、懸濁液を 1ゥヱルあたり 20ml使用し (細胞 20万個分)、 直 径約 6mmになるように薄く伸ばした。 その後、 5% C02、 37°Cに保たれた加湿培 養機の中に 2時間静置した。 細胞が力パースリップに貼りついた後、 上清を吸 引除去し 37°Cに温めた培養液 (以下の成分) を 800mlずつ加えた。 培養液の成 分: DMEM-nutrient mixture of Ham' s F - 12 (シグマ社^ )+ bovine insulin (lOmg/ml)、 bovine serum albumin (lOOmg/ml)、 gentamicin (5mg/ml)、 glutamine (200mg/ml) 、 human apotransf erin (lOOmg/ml) 、 rostegerone (40nM) 、 putrescine (lOOnM)、 sodium selenite (30nM)、 triiodothyronine (0. 5ng/ml) 0 次に 2- 4xl05ゲノムコピー Zmlの力価のウィルス液を lm 1加えて感染させた。 翌日 (24時間後) に最終濃度が 1%になるように FBSを加えた。
14日後に培養細胞の GFP蛍光写真を撮像し、 40個のプルキンェ細胞を無作為 に選んで、 その蛍光強度の平均を測定した。 CMV プロモーターを使用した場合 の平均 GFP蛍光強度を 100%として評価した。
(5)マウス小脳クモ膜下腔へのベタタ一の接種
マウス(SLC供給、 4〜: 10週齢)に、ベントバルビタール(商品名:ネンブタール) を、 腹腔内投与 (40mg/kg body weight) にて麻酔し、 以下の操作を、 バイオハ ザ一ド対策用安全キヤビネットの中で行なった。
麻酔後、 マウスを、 小動物固定装置 〔ナリシゲ社製、 商品名: SG- 4〕 を用いて 固定した。 また、 体温コントローラー 〔FST社製、 商品名:体温コントロールシ ステム(マウス用) FST- HPSM〕 にて、 マウス体温を 37°Cとなるように維持した。 マウスの頭部の毛を刈った後、 Bregmaより数ミリ吻側から小脳直上にかけて皮 膚を切開した。ついで、実体顕微鏡(二コン社製、商品名 1SMZ645)下で、 Bregma より 5〜7mm尾側の正中部の頭蓋骨に、マイクロドリル〔浦和工業社製、商品名: ノ ヮ一コントローラー UC100+HB1 (ドリル)〕 を用いて、 内径 2〜3讓の穴を開け た。 また、 注射針を用いて、 骨の下の硬膜及びクモ膜に穴を開けた。
得られたレンチウィルスべクターを、商品名:レックスフィルマイクロシリン ジ (WPI社製、 10 ^ 1容量)に充填し、フレックスフィルマイクロシリンジをマイ クロマニピュレーターに取りつけたウルトラマイクロポンプ 2 (WPI 社製)にセ ットした。
マイクロシリンジの針先を小脳直上に開けた硬膜の穴より約 0. 5mm刺入し、 クモ膜下腔に留置後、 得られたレンチウィルスベクターを、 ウルトラマイクロ ポンプ 2 専用デジタルコントローラー Micro4 (商品名、 WPI 社製)を用いて、 lOOnl/分の速度で 40分間、 計 4 μ I注入した。
注入後、切開したマウスの皮膚を、縫合糸付き眼科用微小針 (夏目製作所社製、 商品名.眼科用弱弩針 C67-0)で縫合した。 その後、 固定装置からマウスをはず し、ヒーティングパッド(昭和精機工業社製、商品名:ゴムマツトヒーター SG- 15) 上に置いたケージ (安全キャビネット内)で観察した。 マウスが、 麻酔から覚醒 した後、 マウスケージを ΗΕΡΑフィル.ター付の感染動物用ラック(トキヮ科学器 械株式会社製、商品名:バイオクリ一ンガプセルュニット T-BCC- 4)内で飼育し た。
接種後 7 日目のマウスについて、 4%ホルムアルデヒドーリン酸緩衝液で灌流 固定後、 脳を摘出した。 蛍光実体顕微鏡を用いて脳全体の写真と GFPの蛍光写 真を撮影後、 厚さ 50 ^ m、 あるいは 100 / mの小脳矢状断切片をマイクロスラ ィサー (堂阪ィーェム社製 商品名 : DTK- 1000) を用いて作製した。 作製され た脳切片を、 一次抗体 [Mouse monoclonal anti-parvalbumin (星状細胞、 籠細胞 のマーカー) : SIGMA社製、 あるいは Mouse monoclonal anti-GFAP (グリア細胞 のマーカー):ケ コン社 ^、あ レヽ Mouse monoclonal anti-neuron-specific nuclear protein (NeuN、 顆粒細胞のマーカー):ケミコン社製、 あるいは mouse monoclonal anti-mGluR2 (ゴルジ細胞のマーカー) :生理学研究所重本隆一教授 より譲り受け)と共に 24時間室温でインキュベーションし、 ついで、 二次抗体 (Alexa fluor 568 - conjugated ant i -mouse IgG: Invitrogen社製)で 2時間、 室温でィンキュベーショ.ンし、顕微鏡用標本を得た。その後、蛍光顕微鏡 (Leica 社製 商品名 : DMI 6000B)及び共焦点顕微鏡 (CarlZeiss 社製 商品名 : LSM5 Pascal) で標本の観察を行なうことにより発現 GFP蛋白質の局在と発現細胞の 種類を調べた。
<結果〉
図 1 4は、 培養小脳神経細胞に、 レンチウィルスベクターを用いて各種プロ モーター制御下で GFPを発現させたときの導入率 (発現割合) を示す。 (a)は、 全 GFP 発現細胞中のプルキンェ細胞の割合: GFP発現プルキンェ細胞数 ZGFP 発現細胞数を示す。 CMVプロモーターや MSCVプロモーターを用いた場合、 GFP 発現細胞のほとんどがプルキンェ細胞以外であるのに対し、 L7- 1〜L7 - 4ではプ ルキンェ細胞にしか遺伝子発現が起こらなかった。 L7-5、 L7-6では GFP発現細 胞が存在しなかった。 L7- 7 ではプルキンェ細胞に対する特異性が低下し、 GFP 発現細胞の約半分はプルキンェ細胞以外であった。 (b)は、全プルキンェ細胞中 の GFP発現プルキンェ細胞の割合: GFP発現プルキンェ細胞数 Z全プルキンェ 細胞数を示す。 CMVプロモーターでは全プルキンェ細胞の約 5分の 1、 L7- 1で は約 3分の 1のプルキンェ細胞にしか GFP発現が見られない。これに対し、 L7 - 4 ではほぼ 100%、 すなわち存在するすべてのプルキンェ細胞に GFPが発現して いる。 少なくとも 4回の独立した小脳神経細胞培養標本を用いた結果の平均を 示している。 また使用したウィルスベクターはほぼ同じ力価 (2- 4xl05ゲノムコ ピー/ ml) のものを用いている。
図 1 5は、 培養小脳プルキンェ細胞に、 レンチウィルスベクターを用いて各 種プロモーター制御下で GFPを発現させたときの蛍光強度(a)を示す。 40個の プルキンェ細胞を無作為に選び、 冷却 CCDカメラで蛍光画像を取り込んだ後、 その蛍光強度を IPLabイメージングソフトウエアー (Scanalytics社製) を用 いて測定した。 (b)は、 HEK293T細胞に CMVプロモーター制御下で GFPを発現す るレンチウイルスべクタ一を、 さまざまな M0Iで感染させたときの GFP蛍光強 度を示すグラフである。無作為に 40個の HEK293T細胞を選ぴ、その蛍光強度を IPLabイメージングソフトウエアーを用いて測定した。 MOI 10から 1000にかけ て、 蛍光強度は M0Iの対数にほぼ比例した。
図 1 6は、 培養小脳プルキンェ細胞に、 レンチウィルスベクターを用いて MSCVプロモーター、 従来の L7プロモーター(L7-1)あるいはその縮小型プロモ 一ター(L7- 2, L7-4, L7-5, L7 - 7)制御下で GFPを発現させた結果を示す。 左の パネルは、 プルキンェ細胞特異的な抗カルビンディン抗体を用いた蛍光免疫染 色写真を示す。 ただし MSCVプロモーターを用いた場合 (左上) のみ、 抗カルビ
ンディン抗体に加えて顆粒細胞特異的な抗 NeuN抗体も用いて染色した(プルキ ンェ細胞と顆粒細胞が赤く見える)。中央のパネルはそれぞれのウィルスべクタ 一によつて発現した GFPの蛍光写真を示す。 右のパネルは左と中央のパネルを 重ね合わせたもの(Overlay)である。 MSCV プロモーターを用いた場合は、 プル キンェ細.胞、 顆粒細胞に加えてグリア細胞 (矢印) や顆粒細胞とプルキンェ細 胞の中間サイズの細胞体を持つ細胞 (矢頭) にも GFPの発現が見られた。 これ に対し、 L7- 1、 L7- 2、 L7- 4ではプルキンェ細胞のみに GFPの発現が見られた。 特に、 L7 - 4では存在するすべてのプルキンェ細胞に GFPが発現し、 さらに GFP の発現も強く、プロモーター活性が従来の L7- 1より顕著に高いことが確認され た。
図 1 5は、 各種プロモーターを組み込んだレンチウィルスベクターによるマ ウス小脳への遺伝子発現実験の結果を示す。 (a- d)は、 レンチウィルスベクター を用いて、従来の L7プロモーター(L? - 1)制御下で GFPを発現させたときの GFP の蛍光写真である (力価: 3· 7 χ 105ゲノムコピー Zml (c), (d)は、 抗 GFP抗 体を用いて免疫染色した写真 (これにより蛍光は増強する) である。 (e-h)は、 従来の L7-1プロモーターの代わりに、 L7- 4を持つレンチウィルスベクター (力 価: 2. 4 x 105ゲノムコピー/ ml) を用いた場合の小脳プルキンェ細胞の GFP蛍 光写真である。ほぼ同じ力価(ほぼ同じ数のプロウィルスを染色体に導入する) を用いているにもかかわらず、 L7- 4を用いた場合には、 L7-1を用いた場合に比 較して、 GFPを発現するプルキンェ細胞の数、 GFP発現量が顕著に高いことが確 認された。 本明細書中で引用した全ての刊行物、 特許及び特許出願をそのまま参考とし て本明細書中にとり入れるものとする。 産業上の利用の可能性
本発明によれば、 小脳プルキンェ細胞に高い選択性を有するベクターを、 血 清を使用することなく作製することができる。 本発明のベクターは、 小脳が司 る運動学習や協調運動の分子レベルでのメカニズム解明、 及び脊髄小脳変性症 等のプルキンェ細胞障害性疾患の遺伝子治療など、 神経科学分野において基礎
研究から臨床応用まで幅広く利用可能である 配列表フリーテキスト
配列番号 1一 L7 - 1
配列番号 2— L7 - 2
配列番号 3— L7-3
配列番号 4 -L7-4
配列番号 5— L7-5
配列番号 6— L7 - 6
配列番号 7— L7 - 7
配列番号 8 -pCL20c L7-4-GFP
配列番号 9一人工配列の説明:プライマー 配列番号 1 0—人工配列の説明:プライマー