明 細 書
His-Tag融合フエ二ルァラニン脱水素酵素を用いた固定化酵素チップに よる L-フエ二ルァラニンの定量方法
技術分野
[0001] 本発明は、生体試料中に含まれる L-フエ二ルァラニンを、煩雑な前処理や多量の 試薬を必要とせずに簡便かつ微量で定量可能な測定方法に関する。特に、先天性 代謝異常症であるフエ二ルケトン尿症の疾患にぉ 、て、早期発見のための新生児マ ススクリーニング、あるいは当該患者の定期診断について利用可能な検査方法であ る。
背景技術
[0002] 先天性代謝異常症の早期発見を目的とする新生児マススクリーニングの世界的な 普及は、フエ二ルケトン尿症(Phenylketonuria; PKU)の治療法の発見と、乾燥ろ紙血 液中の L-フエ二ルァラニン (L-Phe)の半定量法が開発されたことに始まる。先天性代 謝異常症がマススクリーニングの対象疾患となった最大の理由は、早期発見により患 児に正常な発達が期待されるなどの医学的なメリットと、その経済的効率が有効であ ることが明らかにされたためである。発見が遅れて障害児となり、収容施設を整備し、 患児のケアのために高額な医療費を支払う場合と、早期に発見し治療することにより 健全な成人として生育した場合とを比較すると、後者の方が極めて経済効率が高く 患児の生活の質も向上する。そのため、各国では先天性代謝異常症による精神遅滞 や発達障害の予防が、公衆衛生領域の課題と認識され、国家レベルや行政的支持 のもと新生児マススクリーニングが展開されている。
[0003] 先天性代謝異常症を代表する PKUとは、必須アミノ酸である L-Pheをチロシンに転 換する L-Phe水酸ィ匕酵素の先天的な遺伝子の欠損もしくは、その活性の低下が原因 で生じる疾患であり、体内において L-Pheの異常な蓄積が確認され、尿中において は L-Pheのほか多量のフエ-ルビルビン酸力排泄される。臨床症状としては、精神薄 弱などの知能障害、神経障害、メラニン色素欠乏症などが認められる。本症の治療 には、 L-Pheの摂取量を制限した食事療法を必要とし、少なくとも成人期まで、好まし
くは一生涯にわたり、治療を継続しなければならない。なお、 L-Pheは人体にとって必 須アミノ酸の一つであることから、摂取量は、脳障害等を引き起こさないとされる最大 量と、身体発育に必要な最小量の範囲内において医師の指導のもと厳密に維持さ れなければならない。また、母性 PKUは、 PKUの女性が妊娠すると母体の血液中の L - Phe量が高くなるため、胎児に発育障害、知能障害、小頭症、心奇形などを発生さ せる。しかし、妊娠前力も血液中 L-Phe濃度をコントロールすることで予防が可能とな る。
[0004] ここで、診断のためのスクリーニング検査方法は、新生児の足かかとを穿刺し採血 ろ紙へ染み込ませた乾燥ろ紙血液を検体として、枯草菌と代謝拮抗阻害剤を用いた 細菌成長阻止法(bacterial inhibition assay; BIA)が Guthrieら(Pediatrics, Vol. 32, p. 338 (1963)、非特許文献 1)により開発され、スクリーニングが開始された。現在のマ ルチプルスクリーニングのシステムは、 BIA法ある!/、は大腸菌とファージを用いた Paig en法 (Journal of Lab. Clin. Med., Vol. 99, p. 895 (1982)、非特許文献 2)により、 1960 年代に基礎が確立されたものである。これらの検査方法は、乾燥ろ紙血液を検体とし て、パンチヤーにより打ち抜いた血液ディスクを寒天培地上に並べ一晩培養した後、 細菌生育円の大きさを判定する非常に簡便な方法であり、高価な機器を必要とせず に試薬コストにも優れ、大量検体の多項目検査処理が可能な方法である。しかし、最 終的な検査結果は目視による判定のため、判定結果の客観性や記録化が困難であ る。
[0005] その改善としてカメラによる画像化(日本マス 'スクリーニング学会誌、 Vol. 6, p. 23 ( 1996)、非特許文献 3)が挙げられ、定量化と記録ィ匕を試みているが、変動の大きい細 菌の生育の定量ィ匕は困難を極め、さらに簡便性も損なわれている。一方、高速液体 クロマトグラフィ(journal of Chromatography, Vol. 274, p. 318 (1983)、非特許文献 4、 日本マス ·スクリーニング学会誌、 Vol. 5, p. 86 (1995)、非特許文献 5)や自動分析装 置(Clinical Chemistry, Vol. 30, p. 287 (1984)、非特許文献 6)の応用もある力 対象 疾患がアミノ酸代謝異常症のみであることや、高額な測定装置を用いること、簡便性 、迅速性についても疑問がある。
[0006] そのような中、最近、酵素法(Screening, Vol. 1, p. 63 (1992)、非特許文献 7、医学と
薬学、 Vol. 31, p. 1237 (1994)、非特許文献 8)あるいはマイクロプレート蛍光法(Clini cal Chemistry, Vol. 35, p. 1962 (1989)、非特許文献 9)と呼ばれる酵素反応とそれに 続く蛍光反応をマイクロプレートで行い、蛍光強度から検体中の L-Pheを定量するキ ットが開発された(医学と薬学、 Vol. 37, p. 1211 (1997)、非特許文献 10)。当キットは 検体処理能力の高さに加え、従来の方法では困難であった検査結果の客観的判定 である定量ィ匕や、記録化が実現されている。さらに 3時間程度で検査結果を得ること が可能であり、迅速性も大幅に向上している。以上、新生児マススクリーニングにお ける大量検体処理方法にっ ヽては確立されつつある。
[0007] ところが、上記酵素法で用いるキットでは、酵素反応に用いるフエ-ルァラニン脱水 素酵素を含む溶液を、所定量、他の試薬とともにマイクロプレートの各ゥエルに分取 する必要があった。マイクロプレートを用いることで、検査効率は向上している力 上 記分取作業は依然として、人でのかかるものであった。
[0008] そこで本発明は、マイクロプレートの各ゥエルにフエ-ルァラニン脱水素酵素を含む 溶液を分取することなしに酵素法を実施できる手段を提供することを目的とする。
[0009] より具体的には、本発明の目的は、フエ二ルァラニン脱水素酵素をマイクロプレート の各ゥエルに固定ィ匕した、固定ィ匕チップを提供するとともに、このチップを用いたフエ 二ルァラニンの分析方法を提供することにある。
さらに本発明は、固定ィ匕に適したフエ二ルァラニン脱水素酵素を提供することも目 的とする。
発明の開示
[0010] 上記目的を達成する本発明は以下のとおりである。
[1]3〜12個のヒスチジン力 なるオリゴペプチドを N末端に融合したフエ-ルァラニン 脱水素酵素。
[2]3〜12個のヒスチジン力 なるオリゴペプチドを C末端に融合したフエ-ルァラニン 脱水素酵素。
[3]基板表面に複数のゥエルを有し、これらのゥヱル中に、 [1ほたは [2]に記載のフエ 二ルァラニン脱水素酵素を固定ィ匕した固定ィ匕酵素チップ。
[4]L-フエ-ルァラニンの分析に用いられる [3]に記載の固定ィ匕酵素チップ。
[5]基板表面に複数のゥエルを有し、これらのゥエル中に、 6〜9個のヒスチジンからな るオリゴペプチドを N末端に融合したフエ二ルァラニン脱水素酵素を固定ィ匕した L-フ ェニルァラニン分析用固定化酵素チップ。
[6]前記フエ-ルァラニン脱水素酵素が Ni-キレートを介してゥエル中に固定ィ匕される [ 5]に記載の固定ィ匕酵素チップ。
[7][4]〜[6]のいずれか 1項に記載の固定ィ匕酵素チップのゥエル中で、被検試料をレ サズリン、ジァホラーゼ、及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NAD)を含む反応 液とともにインキュベーヨンし、反応液の発色を検出することを含む、被検試料に含ま れる L-フエ-ルァラニンの分析方法。
[8]反応液の発色の検出を、 DNAマイクロアレイスキャナを用 、て行う [7]に記載の方 法。
[9]被検試料に含まれる L-フエ-ルァラニンの定量を行う [7]または [8]に記載の方法。
[10]被検試料が血液試料であり、フエ二ルケトン尿症の診断に用いられる [7]〜[9]の いずれかに記載の方法。
[0011] 本発明によれば、生体試料中に含まれる L-フエ二ルァラニンを、煩雑な前処理や 多量の試薬を必要とせずに簡便かつ微量で定量可能な測定方法に使用するフエ二 ルァラニン脱水素酵素及びそれを固定ィ匕した固定ィ匕酵素チップを提供できる。さら に、本発明によれば、生体試料中に含まれる L-フエ二ルァラニンを、煩雑な前処理 や多量の試薬を必要とせずに簡便かつ微量で定量可能な分析方法を提供できる。 これらの酵素、キット及び分析方法は、先天性代謝異常症であるフ 二ルケトン尿症 の疾患において、早期発見のための新生児マススクリーニング、あるいは当該患者 の定期診断において極めて有用である。
発明を実施するための最良の形態
[0012] [His- Tag融合フエ二ルァラニン脱水素酵素]
本発明は、 3〜12個のヒスチジン力もなるオリゴペプチドを N末端に融合したフエ- ルァラニン脱水素酵素及び 3〜12個のヒスチジン力 なるオリゴペプチドを C末端に 融合したフエ-ルァラニン脱水素酵素に関する。以下、ヒスチジン力もなるオリゴぺプ チドを融合したフエ-ルァラニン脱水素酵素を His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素
酵素と言うことがある。
本発明の His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素は、ヒスチジン力もなるオリゴぺ プチド (His-Tag)をフエ-ルァラニン脱水素酵素の、 N末端または C末端に融合した酵 素である。
[0013] 本発明におけるフエ-ルァラニン脱水素酵素(EC. 1.4.1.20)は、 L-フエ-ルァラ- ンのァミノ基に対して、特異的に酸ィ匕的脱ァミノ化する酵素であり、種々の生物起源 の酵素が知られている。同様の反応を触媒する酵素であれば、特にフ 二ルァラニン 脱水素酵素の名称に限定しない。また、本酵素は、補酵素としてニコチンアミドアデ ニンジヌクレオチド (酸ィ匕型; NAD+)を要求する。本酵素による酸ィ匕反応は可逆的で あり、中性付近から弱アルカリ性の pH領域においてアンモ-ゥムイオンおよび-コチ ンアミドアデニンジヌクレオチド (還元型; NADH)の存在下で還元的ァミノ化反応を触 媒する。
[0014] ヒスチジンからなるオリゴペプチド (His-Tag)は、フエ-ルァラニン脱水素酵素を、金 属キレートを介して基板表面に固定ィ匕する際に用いられる。 His-Tagにおけるヒスチ ジンの数は、金属キレートとの親和性や固定ィ匕後の酵素活性を考慮して適宜決定で き、本発明では、これらの点を考慮して、 3〜12個のヒスチジンからなるオリゴペプチド を His-Tagとして用いる。但し、 His-Tagのヒスチジン数により、金属キレートとの親和 性や固定ィヒ後の酵素活性は変化するので、使用する金属キレートの種類や酵素反 応系に応じて、適宜変化させることができる。
[0015] また、ヒスチジン力もなるオリゴペプチド (His-Tag)は、フエ-ルァラニン脱水素酵素 の N末端または C末端に融合させる。 His- Tagを 、ずれの末端に融合させる力 って 、金属キレートとの親和性や固定化後の酵素の活性が変化する。従って、いずれの 末端に His-Tagを融合させたフエ二ルァラニン脱水素酵素を用いるかは、使用する金 属キレートの種類や酵素反応系に応じて、適宜変化させることができる。
[0016] [固定化酵素チップ]
本発明の固定化酵素チップは、基板表面に複数のゥエルを有し、これらのゥエル中 に、上記本発明の His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素を固定ィ匕したものである 。 His-Tag融合フエ二ルァラニン脱水素酵素を固定ィ匕するために用いられる複数のゥ
エルを有する基板には、特に限定は無いが、例えば、後述する実施例で説明するポ リジメチルシロキサン製マイクロウェルアレイシートを挙げることができる。但し、ポリジ メチルシロキサン以外の材料で作製したものでもよぐ例えば、特殊インク (無蛍光性 やフッ素榭脂インクなど)を用いた印刷タイプのマイクロウェルアレイシートでも良 、。
[0017] マイクロウェルアレイシートにおけるマイクロウェルの形状及び寸法、さらに、マイクロ ゥエルの配列や個数には特に制限はない。例えば、予め特殊インクをスライドグラス 表面上へ直接的に印刷し、そこに形成されたマイクロウェル中に酵素を固定ィ匕するタ イブのマイクロウェルアレイシートや、ポリジメチルシロキサン製マイクロウェルアレイシ ートを酵素固定ィ匕後のスライドグラス表面上に被覆するタイプのものなどがある。
[0018] 本発明の固定化酵素チップは、例えば、 L-フエ二ルァラニンの分析に用いられる。
L-フエ-ルァラニンの分析としては、ろ紙血液中の L-フエ-ルァラニンの定量が挙げ られる。それ以外に、食品成分分析 (L-フエ-ルァラニン)などにおける L-フエ-ルァ ラニンの分析に対しても応用できる。
[0019] 固定ィ匕される His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素は、使用する金属キレート の種類や酵素反応系に応じて、適宜決定できる。 His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水 素酵素が Ni-キレートを介してゥエル中に固定ィ匕される場合には、 His-Tag融合フエ- ルァラニン脱水素酵素は、 6〜9個のヒスチジン力 なるオリゴペプチドを N末端に融 合したフエ-ルァラニン脱水素酵素であることが、固定ィ匕酵素チップを L-フエ-ルァ ラニン分析用とする場合、特に好ましい。
[0020] 本発明の固定化酵素チップは、複数のゥエルを有する基板の各ゥエルの底に、 His -Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素を固定ィ匕するための金属キレート、例えば、 Ni -キレートを塗布しておき、その上に His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素含有 溶液を滴下する、あるいは、基板全体を His- Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素含 有溶液に浸漬することで作製することができる。
[0021] 本発明の固定化酵素チップにおける、 His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素の 固定化量は、予めスライドグラス上に固定化した酵素を 500 mMイミダゾールおよび 0. 5 M NaClを含む 20 mMトリス塩酸緩衝液、 pH 8.0にて解離させ、回収した解離液中 の活性およびタンパク質量を求めて単位面積あたりの活性 (U/cm2)または比活性 (U
/mg/cm2)にて表すことができる。なお、固定化される酵素量は、スライドグラス表面の ァミノ基の密度ある 、は N-(5-ァミノ- 1-カルボキシペンチル)イミノジ酢酸 (AB-NTA) の結合容量によっても影響される。
本発明の固定ィ匕酵素チップにおける、 His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素の 固定化量は、活性 (U/cm2)または比活性 (U/mg/cm2)で表して、例えば、 0.01 U/mg /cm2〜1000 U/mg/cm2の範囲とすること力 固定ィ匕酵素チップ調製時において、 His -Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素および固定ィ匕用スライドグラスの調製に力かる コストを削減できるとともに、定量精度を維持するという観点力も好ましい。
[0022] [L-フエニノレアラニンの分析方法]
本発明は、上記本発明の固定化酵素チップのゥエル中で、被検試料をレサズリン、 ジァホラーゼ、及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (NAD)を含む反応液とともに インキュベーヨンし、反応液の発色を検出することで、被検試料に含まれる L-フエ- ルァラニンを分析する方法を包含する。この酵素反応自体は、先に説明した酵素法 として知られた方法である。本発明では、フエ二ルァラニン脱水素酵素として、 His-Ta g融合フエ-ルァラニン脱水素酵素を用いる以外、 L-フエ二ルァラニンの分析方法に ぉ 、て、酵素法として知られて 、る通常の方法の条件をそのまま用いることができる。
[0023] 通常の酵素法では、ろ紙血液からの L-フエ二ルァラニンの抽出において溶出液 (0.
1 Mグリシン 'KCl'KOH緩衝液、 pH 9.6)力 S用いられる。しかし、本発明では、溶出液 の代わりに 40 μ Μレサズリンを含む 50 mMトリス塩酸緩衝液、 pH 8.9を用いて L-フエ 二ルァラニンの抽出を行うことが、煩雑な分注操作を減らすことによる定量精度の向 上、汚染防止、抽出工程の短縮化、および使用される試薬コストの軽減等が図られる という観点力も好ましい。但し、通常の酵素法で用いられる溶出液で L-フエ二ルァラ ニンを抽出し、 40 Mレサズリンを含む 50 mMトリス塩酸緩衝液、 pH 8.9を酵素反応 用緩衝液として用いる事もできる。
[0024] より具体的には、 L-フエ-ルァラニンを含み得る血液試料を、第 1の酵素(His-Tag 融合フエ二ルァラニン脱水素酵素タンパク質)を固定ィ匕したマイクロウェルアレイチッ プのゥエル中で、補酵素還元体 (NADH)と第 2の酵素(ジァホラーゼ)の基質酸化体( レサズリン)より基質還元体 (レゾルフイン)と補酵素酸化体 (NAD+)を生成する第 2の
酵素 (ジァホラーゼ)、及び第 2の酵素 (ジァホラーゼ)の基質酸化体 (レサズリン)を 含む反応系にお 、てインキュベーションして、第 2の酵素の基質還元体(レゾルフイン )を生成させ、生成した基質還元体 (レゾルフイン)の蛍光発光を検出する。この検出 は、光学的検出法を用いて行うことができ、例えば、 DNAマイクロアレイスキャナを用 V、て行うことができる。蛍光の発光強度と L-フエ-ルァラニンとの検量線を予め作成 しておけば、 L-フエ-ルァラニンの定量も可能であり、本発明の方法は、通常は、 L- フエ二ルァラニンの定量に用いられる。
[0025] このように、被検試料が血液試料である場合、血液試料中の L-フエ-ルァラニンを 定量することで、その結果は、フエ二ルケトン尿症の診断に用いることができる。
実施例
[0026] 1.フ -ルァラニン脱水素酵素活性の測定方法
フエ-ルァラニン脱水素酵素活性は、浅野らの方法(Eur J Biochem. 168(1):153-9 (1987))に従ってダブルビーム分光光度計 (モデル 11-3210、 日立 (株)社製)を用い、 光路長 1 cmの PMMA製キュベット(BRAND社製)で測定した。反応液の組成は、以下 の通りとした。 1 Mグリシン- KCト KOH緩衝液、 pH 10.4を 0.1 ml、 25 mM NAD+ (オリ ェンタル酵母 (株)社製)溶液を 0.1 ml、 0.1 M L-フエ-ルァラニン(日本理ィ匕学薬品( 株)社製)水溶液を 0.1 mlおよび適量の酵素溶液を加えて総量 1.0 mlとした。補酵素 NAD+の分子吸光係数( ε )は、 6,220 L'mole— ^cm— 1とした。本酵素活性 1単位 (U)は 、 1分間に: L moleの NADHを生成する酵素量とした。比活性 (U/mg)は、タンパク質 1 mgあたりの酵素活性 (U)とした。
[0027] また、簡易酵素活性測定法として、上記反応液組成で総量 200 μ 1とし、 96穴 UVプ レート(グライナ一社製)を用い、蛍光'吸光'発光マイクロプレートリーダー(ジェ-ォ ス、テカン'ジャパン社製)装置により 340應における吸光値の増力!]から酵素活性を 求めた。
[0028] タンパク質濃度の定量は、バイオ'ラッド社製のプロテインアツセィ 'キット用いて行 つた。標準タンパク質として牛血清アルブミンを用いた。
[0029] 2. Ν末端 His- Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素プラスミドの構築
PCR反応による N末端 His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素断片の調製を以下
の通り行った。 Bacillus badius IAM11059由来フエ-ルァラニン脱水素酵素遺伝子(p dh;Asano Y. et al. , Eur J Biochem. 168(1). 153—9.(1987), Yamada A. et al" Biosci B iotechnol Biochem. 59(10). 1994- 5.(1995))を組込んだプラスミド DNA (pBBPDHl)を 铸型 DNAとして用いた。 His- Tag配列(3個、 6個、 9個、 12個)をそれぞれ含む合成ォ リコヌクレ才テト (センスフフィマ1 ~~; fBBn3n: 5— gctcatatgcatcatcatgcgatgagcttagtagaa aaaaca-3、 fBBn6h: 5 -gctcatatgcatcatcatcatcatcatgcgatgagcttagtagaaaaaaca-3、 f BBn9n : 5 -gctcatatgcatcatcatcatcatcatcatcatcatgcgatgagcttagtagaaaaaaca-3、 fBBnl 2h: 5'-gctcatatgcatcatcatcatcatcatcatcatcatcatcatcatgcgatgagcttagtagaaaaaaca-3' id よびアンチセンスプライマー rBBnh2, 5'- taatctcgaggattagttgcgaatatccca- 3':北海道 システムサイエンス社製)をそれぞれ作製した。前記铸型 DNAと合成オリゴヌクレオチ ドを用いて PCRを行った。 PCRの反応液組成は以下の通りとした。 10 ngの铸型 DNA ( pBBPDHl)、 100 pmol/ μ 1の前記合成オリゴヌクレオチドを各 1 μ 1、 10χ Εχ-Taq buffe r (宝酒造 (株)社製)を 5 μ 1、 2.5 mM dNTP mixture (宝酒造 (株)社製)を 5 μ 1、および Takara Εχ-Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造 (株)社製) 0.5 μ 1を加えて全量を 50 μ 1とし た。 PCRの反応条件は、 94°Cで 30秒、 55°Cで 30秒および 72°Cで 2分の反応サイクル を 30回繰り返した。 PCRの反応は、 PTC- 200 (MJリサーチ ·ジャパン (株)社製)を用い て行った。
[0030] 前記 PCR反応液を 1.5%ァガロースゲルにて泳動し、得られた目的増幅産物(約 1.2 kb)を切り出し、ゲル抽出キット(Ge卜 M™ Gel Extraction System, VIOGENE社製)に て目的増幅産物の抽出 ·精製を行った。前記抽出液 29 1、 10x H buffer (宝酒造 (株 )社製) 3.5 μ 1、 Ndel (NewEngland BioLabs社製) 0.8 μ 1、 Xhol (MBI Fermentas社製) 0 .8 μ 1をカ卩えて全量を 35 μ 1とし、 37°Cで 3時間反応させて両端の制限酵素処理を行つ た。得られたそれぞれの制限酵素処理断片を N末端 His-Tag融合フエ二ルァラニン脱 水素酵素インサートとして用いた。
[0031] N末端 His- Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素断片挿入用ベクタープラスミドの 調製を以下の通り行った。前記融合タンパク質の発現には、 T7プロモーターを有す る pRSET- Bベクター DNA (インビトロジェン社製)を用いた。 10 μ gの pRSET- Βベクタ 一 DNA、 10x H buffer (宝酒造(株)社製)を 2 μ 1、 Ndel (NewEngland BioLabs社製)を
1 μ 1、 Xhol (MBI Fermentas社製)を 1 μ 1および滅菌水を加えて全量を 20 μ 1として 37 °Cで 3時間反応させ、制限酵素処理を行った。
[0032] 前記制限酵素処理済みベクターの脱リン酸ィ匕処理を以下の通り行った。制限酵素 処理済みベクター DNA 20 μ 1、 10x SAP buffer (ベーリンガーマンハイム社製) 5 1、 シュリンプ由来アルカリフォスファターゼ(ベーリンガーマンハイム社製) 2 1および滅 菌水をカ卩えて全量を 50 μ 1とし、 37°Cで 1時間反応させ、さらに 1 μ 1のアルカリフォスフ ァターゼを加えて 50°Cにて 30分間反応させた。その後、フエノール'クロ口ホルム抽出 およびエタノール沈殿処理を行い、ベクター DNAの精製を行った。インサートを pRSE T-Bベクター DNAの T7プロモーター下流に連結した。
[0033] 連結反応は、以下の通り行った。脱リン酸化処理ベクター DNA 1 μ 1、インサート DN A 5 1、 Τ4 DNAリガーゼ(New England BioLabs社製) 1 μ 1、 10x Reaction buffer 2 μ 1 および滅菌水 11 1をカ卩えて全量 1とし、 16°Cでー晚反応させて Ν末端 His- Tag融 合フ 二ルァラニン脱水素酵素発現用プラスミドを構築した。前記で構築された発現 用プラスミドを大腸菌(E. coli JM109 (ノバジェン社製))にヒートショック法によって形 質転換した。形質転換体を 50 μ g/mlのアンピシリンけ力ライテスタ (株)社製)を含む Luria- Bertani寒天培地(l%Bactoトリプトン(Difco社製)、 0.5%Bacto酵母(Difco社製 )、 l%NaCl (純正化学 (株)社製)および 1.5%寒天 (ナカライテスタ (株)社製)、 pH 7. 5)に塗布し、 37°Cで 10時間培養して得られたコロニーを LB培地にて 37°Cで 10時間 培養し、フエ二ルァラニン脱水素酵素活性を示し、抽出したプラスミドに目的のインサ ート DNAを含むコロニーを選抜した。前記で得られたそれぞれの形質転換体 (E. coli JM109/pBBPDHNH3, pBBPDHNH6, pBBPDHNH9, pBBPDHNH12)から抽出した それぞれのプラスミドを、発現用宿主大腸菌(E. coli BL21(DE3)、インビトロジェン社 製)に形質転換した。以下にその手順を記述する。
[0034] 开質転換体(E. coli JM109/pBBPDHNH3, pBBPDHNH6, pBBPDHNH9, pBBPDH NH12)を 50 g/mlのアンピシリンを含む 3 mlの LB試験管培地で 37°C、 12時間培養し 、プラスミドをアルカリ'ミニ 'プレップ法にてそれぞれ抽出し、 100 μ 1( TE bufferに溶 解した。前記抽出プラスミド溶液に対し、 5 mg/mlのリボヌクレアーゼ (シグマ'アルドリ ツチ社製)溶液 5 1を添カ卩し、 37°Cにて 3時間反応させた。フエノール'クロ口ホルム抽
出を行い、エタノール沈殿させたプラスミド DNAを 100 μ 1の TE bufferに溶解させ、ポリ エチレングリコール沈殿処理を行った。すなわち、抽出したプラスミド 100 1に対し、 等量の 2 M NaClを含む 20% (w/v)ポリエチレングリコール 6000 (PEG 6000 :ナカライ テスタ (株)社製)溶液をカ卩えて 4°Cにて 1時間静置した後、遠心分離(15,000 rpm、 20 分、 4°C ;himac CF15D、 日立 (株)社製)して上澄み液を除去し、沈殿を 30 1の TE b ufferで溶解させた。得られたそれぞれの精製プラスミドを T7発現系大腸菌 (E. coli B L2KDE3))にヒートショック法により形質転換した。形質転換体を LB寒天培地に塗布 し、 37°Cで 10時間培養した後、得られたコロニーを 300 μ 1の LB培地(50 μ g/mlのアン ピシリンを含む)が充填された 1 ml容量ディープゥエルプレートに移植し、 37°Cにて 12 時間振とう培養した。得られた培養液を遠心分離(1,890 X g、 15分、 4°C ;himac CR20 、 日立 (株)社製)し菌体を沈殿させ、リゾチーム (5 mg/mlリゾチーム (卵白由来;生 化学工業 (株)社製)と 5 mM MgClを含む 0.1 Mリン酸緩衝液、 pH 7.5)溶液をカロえ
2
て 37°C、 30分間処理を行った後、凍結融解法により酵素液を抽出した。フエ-ルァラ ニン脱水素酵素活性をマイクロプレートリーダー(ジェ二ォス、テカン社製)により測定 し、活性の高いコロニーを選抜した。得られたコロニーをそれぞれ N末端 His-Tag融 合フヱ-ルァラニン脱水素酵素形質転換体(E. coli BL21(DE3)/pBBPDHNH3、 pBB PDHNH6、 pBBPDHNH9、 pBBPDHNH12)として用いた。
3. C末端 His-Tag融合フエ二ルァラニン脱水素酵素プラスミドの構築
PCR反応による C末端 His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素断片の調製を以下 の通り行った。 Bacillus badius IAM11059由来フエ-ルァラニン脱水素酵素遺伝子を 組込んだプラスミド DNA (pBBPDHl)を铸型 DNAとして用いた。 His-Tag配列(3個、 6 個、 9個、 12個)をそれぞれ含む合成オリゴヌクレオチド(センスプライマー; fflBnchl, 5 - aaggatccgatgagcttagtagaaaaaaca-ύおよび ">ンナセンスフフイマ1 ~~; rBBc^h, 5 - c gtaatctcgagtcagtggtggtggttgcgaatatcccattt— , ri3Bc6h,5― cgtaatctcgagtcagtggtggtg gtggtggtggttgcgaatatcccattt-3 ' , rBBc9h, 5'- cgtaatctcgagtcagtggtggtggtggtggtggtgg tggtggttgcgaatatcccattt-3 ', rBBcl2h,5'- cgtaatctcgagtcagtggtggtggtggtggtggtggtggt ggtggtggtggttgcgaatatcccattt-3 ':北海道システムサイエンス社製)をそれぞれ作製し た。前記铸型 DNAと合成オリゴヌクレオチドを用いて PCRを行った。 PCRの反応液組
成は以下の通りとした。 10 ngの铸型 DNA(pBBPDHl)、 100 pmol/ 1の前記合成オリ ゴヌクレオチドを各 1 μ 1、 10x Ex-Taq buffer (宝酒造(株)社製)を 5 μ 1、 2.5 mM dNTP mixture (宝酒造 (株)社製)を 5 μ 1、および Takara Εχ-Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造 (株)社製) 0.5 1をカ卩えて全量を 50 1とした。 PCRの反応条件は、 94°Cで 30秒、 55°C で 30秒および 72°Cで 2分の反応サイクルを 30回繰り返した。 PCRの反応は、 PTC-200 (MJリサーチ ·ジャパン (株)社製)を用いて行った。
[0036] 前記 PCR反応液を 1.5%ァガロースゲルにて泳動し、得られた目的増幅産物(約 1.2 kb)を切り出し、ゲル抽出キット(Ge卜 M™ Gel Extraction System, VIOGENE社製)に て目的増幅産物の抽出 ·精製を行った。前記抽出液 29 1、 10x K buffer (宝酒造 (株 )社製) 3.5 μ 1、 BamHI (TOYOBO社製) 0.8 μ 1、 Xhol (MBI Fermentas社製) 0.8 μ 1を 加えて全量を 35 /z lとし、 37°Cで 3時間反応させて両端の制限酵素処理を行った。得 られたそれぞれの制限酵素処理断片を C末端 His-Tag融合フエ二ルァラニン脱水素 酵素インサートとして用いた。
[0037] C末端 His-Tag融合フエ二ルァラニン脱水素酵素断片挿入用ベクタープラスミドの 調製を以下の通り行った。前記融合タンパク質の発現には、 T7プロモーターを有す る pET21(+)ベクター DNA (インビトロジェン社製)を用いた。 5 μ gの ρΕΤ21(+)ベクター D ΝΑゝ 10x K buffer (宝酒造 (株)社製)を 2 μ 1、 BamHI (TOYOBO社製)を 1 μ 1、 Xhol (M BI Fermentas社製)を 1 μ 1および滅菌水をカ卩えて全量を 20 μ 1として 37°Cで 3時間反 応させ、制限酵素処理を行った。
[0038] 前記制限酵素処理済みベクターの脱リン酸ィ匕処理を以下の通り行った。制限酵素 処理済みベクター DNA 20 μ 1、 10x SAP buffer (ベーリンガーマンハイム社製) 5 1、 シュリンプ由来アルカリフォスファターゼ(ベーリンガーマンハイム社製) 2 1および滅 菌水をカ卩えて全量を 50 μ 1とし、 37°Cで 1時間反応させ、さらに 1 μ 1のアルカリフォスフ ァターゼを加えて 50°Cにて 30分間反応させた。その後、フエノール'クロ口ホルム抽出 およびエタノール沈殿処理を行い、ベクター DNAの精製を行った。インサートを pET2 1(+)ベクター DNAの T7プロモーター下流に連結した。
[0039] 連結反応は、以下の通り行った。脱リン酸化処理ベクター DNA 1 μ 1、インサート DN A 5 1、 Τ4 DNAリガーゼ(New England BioLabs社製) 1 μ 1、 10x Reaction buffer 2 μ 1
および滅菌水 11 1をカ卩えて全量 1とし、 16°Cでー晚反応させて C末端 His- Tag融 合フ 二ルァラニン脱水素酵素発現用プラスミドを構築した。前記で構築された発現 用プラスミドを大腸菌(E. coli JM109 (ノバジェン社製))にヒートショック法によって形 質転換した。形質転換体を 50 μ g/mlのアンピシリンけ力ライテスタ (株)社製)を含む Luria- Bertani寒天培地(l%Bactoトリプトン(Difco社製)、 0.5%Bacto酵母(Difco社製 )、 l%NaCl (純正化学 (株)社製)および 1.5%寒天 (ナカライテスタ (株)社製)、 pH 7. 5)に塗布し、 37°Cで 10時間培養して得られたコロニーを LB培地にて 37°Cで 10時間 培養し、フエ二ルァラニン脱水素酵素活性を示し、抽出したプラスミドに目的のインサ ート DNAを含むコロニーを選抜した。前記で得られたそれぞれの形質転換体 (E. coli JM109/pBBPDHCH3, pBBPDHCH6, pBBPDHCH9, pBBPDHCH12)から抽出した それぞれのプラスミドを、発現用宿主大腸菌(E. coli BL21(DE3)、インビトロジェン社 製)に形質転換した。以下にその手順を記述する。
开質転換体(E. coli JM109/pBBPDHCH3, pBBPDHCH6, pBBPDHCH9, pBBPDH CH12)を 50 g/mlのアンピシリンを含む 3 mlの LB試験管培地で 37°C、 12時間培養し 、プラスミドをアルカリ'ミニ 'プレップ法にてそれぞれ抽出し、 100 μ \< TE bufferに溶 解した。前記抽出プラスミド溶液に対し、 5 mg/mlのリボヌクレアーゼ (シグマ'アルドリ ツチ社製)溶液 5 1を添カ卩し、 37°Cにて 3時間反応させた。フエノール'クロ口ホルム抽 出を行い、エタノール沈殿させたプラスミド DNAを 100 μ 1の TE bufferに溶解させ、ポリ エチレングリコール沈殿処理を行った。すなわち、抽出したプラスミド 100 1に対し、 等量の 2 M NaClを含む 20% (w/v)ポリエチレングリコール 6000 (PEG 6000 :ナカライ テスタ (株)社製)溶液をカ卩えて 4°Cにて 1時間静置した後、遠心分離(15,000 rpm、 20 分、 4°C ;himac CF15D、 日立 (株)社製)して上澄み液を除去し、沈殿を 30 1の TE b ufferで溶解させた。得られたそれぞれの精製プラスミドを T7発現系大腸菌 (E. coli B L2KDE3))にヒートショック法により形質転換した。形質転換体を LB寒天培地に塗布 し、 37°Cで 10時間培養した後、得られたコロニーを 300 μ 1の LB培地(50 μ g/mlのアン ピシリンを含む)が充填された 1 ml容量ディープゥエルプレートに移植し、 37°Cにて 12 時間振とう培養した。得られた培養液を遠心分離(1,890 X g、 15分、 4°C ;himac CR20 、 日立 (株)社製)し菌体を沈殿させ、リゾチーム (5 mg/mlリゾチーム (卵白由来;生
化学工業 (株)社製)と 5 mM MgClを含む 0.1 Mリン酸緩衝液、 pH 7.5)溶液をカロえ
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て 37°C、 30分間処理を行った後、凍結融解法により酵素液を抽出した。フエ-ルァラ ニン脱水素酵素活性をマイクロプレートリーダー(ジェ二ォス、テカン社製)により測定 し、活性の高いコロニーを選抜した。得られたコロニーをそれぞれ C末端 His-Tag融 合フエ-ルァラニン脱水素酵素形質転換体(E. coli BL21(DE3)/pBBPDHCH3、 pBB PDHCH6、 pBBPDHCH9、 pBBPDHCH12)として用いた。
[0041] 4. N末端 His- Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素の発現と精製
N末端および C末端 His-Tag融合フエ二ルァラニン脱水素酵素の発現は、形質転換 体のコロニーをそれぞれ 3 mlの 50 μ g/mlのアンピシリンを含む LB試験管培地に移植 し、 37°Cで 10時間培養した後、 500mlの LB培地(50 g/mlのアンピシリンおよび 0.5 m Mのイソプロピル- β -D-ガラクトシド(IPTG;ナカライテスタ社製)を含む)が入った 2 Lの三角フラスコに移植して 30°Cで 18時間培養(C末端 His-Tag融合フエ-ルァラニン 脱水素酵素の発現は、 30°Cで 12時間の培養とした。)することにより行った。得られた それぞれの培養液を遠心分離 (6,760 X g、 10分、 4°C ;himac CR20、 日立 (株)社製) し、沈殿した菌体を生理的食塩水(0.85% (w/v)濃度)にて洗浄した。得られたそれ ぞれの洗浄菌体の湿重量に対し、 5倍容量の結合用緩衝液(0.5 M NaClおよび 2 m M 2—メルカプトエタノール(純正化学 (株)社製)を含む 20 mMトリス塩酸緩衝液、 p H 8.0)に懸濁させ、恒温循環水装置(TATEC COOLNIT BATH EL-15、(株)タイテ ック社製)にて 4°Cに冷却しながら超音波破砕装置(INSONATOR Model 201M 19 kH z、(株)クボタ社製)により破砕し、遠心分離 (28,400 X g、 20分、 4°C ;himac CR20、 日 立 (株)社製)により上澄み液 (無細胞抽出液)を得た。
[0042] ァフィユティークロマトグラフィーによる His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素の 精製は、以下の通り行った。予め 0.1 M NiSO ·6Η 0 (和光純薬工業 (株)社製)水溶
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液を榭脂量に対して半分の容量を充填し、結合用緩衝液で平衡ィ匕したキレーティン グ 'セファロース FF榭脂カラム(5 ml;アマシャムファノレマシア社製)に対し、前記無細 胞抽出液を添カ卩した。洗浄用緩衝液(0.5 M NaCl、 2 mM 2—メルカプトエタノールお よび 5 mMイミダゾールを含む 20 mMトリス塩酸緩衝液、 pH 8.0)にて十分に洗浄し た後、溶出用緩衝液(0.5 M NaCl、 2 mM 2—メルカプトエタノールおよび 500 mMィ
ミダゾール (純正化学 (株)社製)を含む 20 mMトリス塩酸緩衝液、 pH 8.0)にて吸着し たタンパク質の溶出を行った。得られた活性画分を遠心式濃縮装置 (セントリブレツ プ YM-10、アミコン社製)にて濃縮し、脱塩カラム (Ampure™ SA、アマシャム'ジャパ ン社製)にて 50 mMリン酸カリウム緩衝液、 pH 7.0に置換した。溶出されたタンパク質 画分をまとめて遠心式濃縮装置にて 2 mほで濃縮し、 AKTA FPLCシステム(アマシャ ムフアルマシアバイオテック社製)を用いて予め 50 mMリン酸カリウム緩衝液、 pH 7.0 にて平衡化した Mono Q( HR 5/5カラム(Pharmacia Biotech社製)〖こ添加した。同緩 衝液にて 10カラム体積分洗浄した後、同緩衝液中の NaCl濃度を 0から 1 Mまで 40カラ ム体積分の容量にて直線濃度勾配法で溶出を行った。活性画分を集めてそれぞれ 精製酵素とした。
[0043] 5.ポリジメチルシロキサン製マイクロウェルシートの作製
マイクロウェルアレイシートは、シリコーン系榭脂であるポリジメチルシロキサン(PDM S ;DOW CORNING社製)を用いて作製した。前記マイクロウェルアレイシートを作製 するにあたり、まずマイクロウェルの铸型を厚膜レジス HNANO™ XP SU-8 50、 Micro Chem社製)にて作製した。厚膜レジス HMicroChem社製)によるマイクロウェル铸型 の作製は、以下に示す手順により行った。基板として、予めアセトン (和光純薬工業( 株)社製)洗浄を施し、超純水による超音波洗浄を行った市販のスライドグラスをカツ トしたもの(38mm x 26mm)を用いた。前記処理を施したスライドグラスをスピナ一回転 台(KYOWARIKENモデル K- 359S- 1、共和理研社製)に載せ、レジスト接着榭脂 0 mmnicoat (MicroChem社製)を塗布し、回転速度 2,500 rpm、回転時間 15秒の条件に て回転させ、レジスト接着榭脂を塗り広げた。前記接着榭脂を塗布したスライドグラス 上に、ネガ型厚膜レジスト NANO™ XP SU-8 50 (MicroChem社製)を数滴滴下し、回 転速度 2,500 rpm、回転時間 15秒の条件にてスピナ一回転台を回転させて厚膜レジ ストを塗り広げた。これを 100°Cのオーブンに入れ、 30分間ソフトべ一キングした。上 記操作を 6回繰り返し、高さ 0.6 mmの厚膜レジスト層を形成せしめた。
[0044] 作製した厚膜レジストコーティング基板上に、レーザープリンター(EPSON LP-9500C 、エプソン (株)社製)で印刷したゥエル領域以外が黒 ヽ OHPシート ·フォトマスクを重 ねて露光装置(KYOWARIKEN K_307PS、共和理研社製)に設置し、 90秒間露光さ
せた。露光させたガラス基板を 100°Cのオーブンに入れ、 10分間加熱して PEB処理し た。その後、ガラス基板を厚膜レジスト現像液 SU- 8 developer (MicroChem社製)に浸 漬し、未露光部分 (フォトマスクの黒地の領域)の厚膜レジスト榭脂を除去した。前記 処理により、高さ 0.6 mmの円筒形の厚膜レジストパターンを有する铸型を得た。
[0045] PDMS製マイクロウェルアレイシートは、以下に示す手順により作製した。シリコーン 系榭脂(ポリジメチルシロキサン: PDMS)を主成分とする SYLGARD 184 base (DOW CORNING社製)と SYLGARD 184 curing agent (DOW CORNING社製)をそれぞれ 10 :1の割合で混合し、 15〜20分間ァスピレーターにて脱気した。金属板の上にシリコー ンゴムシート(厚さ 0.5 mm)と铸型を重ね、その上に PDMSを 1滴滴下した。 OHPシート 上にも PDMSを 1滴滴下し、铸型上の PDMSと OHPシート上の PDMSを気泡が入らない ようにしながら、貼り合わせるようにして重ねた。前記貼り合わせた铸型と OHPシート 上にシリコーンゴムシート、スライドグラス (S-1111、松浪ガラス社製)、シリコーンゴム シート、金属板の順に重ね合わせた。その後、クランプで固定し、 60°Cのオーブン (Iu chi DRYING OVEN D〇-300、井内社製)に入れて 50分間加熱処理した。室温に戻し た後、クランプを外し、 99.5%エタノール (和光純薬工業 (株)社製)に浸漬して铸型上 にできた PDMSシートを破らないように剥がした。作製した PDMSマイクロウェルアレイ シートは直径 1 mm、深さ 0.6 mmとした。さらに、各ゥエル周辺を覆う PDMS格子(1.6 m m x 1.6 mm)のシートを上記同様の手順に従って作製し、前記 PDMSマイクロウェル シートと重ね合わせて圧搾し、貼り合わせてマイクロウェルシートを作製した。作製し た格子付き PDMSマイクロウェルアレイシートを、 His- Tag融合フエ-ルァラニン脱水 素酵素固定化スライドグラス上表面に被覆し、 L-フエ二ルァラニン定量用マイクロゥェ ルアレイ酵素固定ィ匕チップとした。
[0046] 6. His-Tag融合酵素タンパク質固定ィ匕用スライドグラスの調製
His-Tag融合フエ二ルァラニン脱水素酵素タンパク質固定ィ匕用 Ni2+錯形成スライドグ ラスの作製について以下に示す。スライドグラス基板として、 DNAマイクロアレイ用コ 一トスライドグラス TYPE2高密度アミノ基導入タイプ (26 mm x 76 mm :松浪硝子社製) を用いた。前記スライドグラスを、 12.5% (v/v)ダルタルアルデヒド (純正化学 (株)社製 )溶液に 1時間浸漬し、ァミノ基とアルデヒドを反応させて活性化させた。活性化させ
たスライドグラスを、 2 mM N-(5-ァミノ- 1-カルボキシペンチル)イミノジ酢酸(AB- NT A;同仁ィ匕学研究所 (株)社製)水溶液の入ったシャーレに浸し、 1時間撹拌した後、 超純水に浸漬し、未反応の AB-NTAを除去した。未反応の活性化官能基を保護する ために、前記スライドグラスを 50 mM L-Lysine (日本理ィ匕学薬品 (株)社製)水溶液に 1時間浸漬し、超純水にて洗浄した。その後、スライドグラスを 1% (w/v) NiSO ·6Η Ο (
4 2 和光純薬工業 (株)社製)水溶液中に 1時間浸潰し、 Ni2+金属を錯形成させた。その 後、前記スライドグラスを超純水にて十分に洗浄し、 His-Tag融合酵素タンパク質固 定ィ匕用スライドグラスとして用いた。
[0047] His-Tag融合フエ二ルァラニン脱水素酵素タンパク質の固定ィ匕は、以下に示す手順 に従って行った。 Ni2+金属錯形成スライドグラスを、結合用緩衝液 (0.5 M NaClおよび 2 mM 2—メルカプトエタノールを含む 20 mMトリス塩酸緩衝液、 pH 8.0)で希釈した 酵素溶液の入ったシャーレに浸漬し、 4°Cにて 1時間緩やかに撹拌した。その後、未 反応の His-Tag融合酵素を除去するため、同上緩衝液にて前記スライドグラスを洗浄 した。作製された His-Tag融合フエ二ルァラニン脱水素酵素タンパク質固定化スライド グラスは、使用直前まで 4°Cにて保存した。
[0048] 7.ろ紙血液中 L-フエ-ルァラニンの定量
標準物質として、規定濃度の L-フエ-ルァラニンを染み込ませた標準ろ紙血液 (札 幌ィムノダイァグノスティック ·ラボラトリー (株)社製)カゝら抽出したものを用いた。標準 ろ紙血液力 の抽出は、以下に示す手順によって行った。ろ紙血液上の各スポットを 直径 3 mmのディスク状に打ち抜き、 96穴マイクロプレート(コ一-ング社製)の各ゥェ ル内に設置した。各ゥエルに対し、固定ィ匕液 (アセトン:エタノール:超純水 = 7 : 7 : 2 ( v/v) ) 10 μ Lをカ卩えてろ紙に染み込ませ、 37°Cの恒温装置(ADVANTEC INCUBAT OR Cト 410、アドバンテック (株)社製)に 1時間静置した。その後、各ゥエルに対し緩 衝液 (40 Mレサズリン (和光純薬工業 (株)社製)を含む 50 mMトリス塩酸緩衝液、 p H 8.9) 100 Lをカ卩えて室温にて 1時間静置し、抽出を行った。
[0049] 測定にあたっては、 His-Tag融合フエ二ルァラニン脱水素酵素固定化スライドグラス の表面上に PDMSマイクロウェルアレイシートを被せて密着させた各ゥエルに対し、前 記抽出液 75 L、 25 mM NAD+水溶液 15 Lとジァホラーゼ溶液(0.1 Mリン酸力リウ
ム緩衝液、 pH 7.5で 0.3 mg/mLに調整、オリエンタル酵母 (株)社製) 10 Lの混合液 をピペットマン P-2 (ギルソン社製)を用いて 0.2 μ Lずつ分注した。 PDMSシート表面に カバーグラス (松浪ガラス社製)を被せて、反応液の蒸発を防いだ。前記スライドダラ スを 25°Cの恒温装置に設置し、 1時間反応させた後、発色した蛍光画像を DNAマイク ロアレイスキャナー(CRBIO II、 日立ソフトウェア (株)社製)にて取り込んだ (蛍光波長 、 585 nm;励起波長、 532 nm)。得られた蛍光画像データを、解析ソフトウェア(DNASI S(R) Array ver. 2.6.0.4、 日立ソフトウェア (株)社製)にて解析した。
[0050] [結果]
1.各種 His-Tag融合フエ二ルァラニン脱水素酵素組換え体の構築と発現
Bacillus badius IAM11059由来フエ-ルァラニン脱水素酵素の N末端(図 1)あるい は C末端(図 2)側にそれぞれ 3個、 6個、 9個、 12個の Hisを融合させるために、合成ォ リゴヌクレオチドを用いた PCRによって各種プラスミドをそれぞれ構築した。得られた それぞれの組換え体の無細胞抽出液の比活性を表 1に示した。 N末端側に Hisを融 合させた場合、 6個および 9個で比活性の低下が認められた。一方、 C末端側に Hisを 融合させた場合、 6個の Hisを融合させたときに最も比活性が高い結果が得られた。
[0051] [表 1]
i伥 i £ ΌΟ sro 86寸 0l N..
SR ^ 960Ό £200寸 Γ05ΌU.
2.各種 His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素組換え体の Ni ァフィユティーによ る精製
それぞれの組換え体から調整した無細胞抽出液を、 Ni
2+ァフィユティークロマトダラ
Φ瓛 *一¾【CHis600545n,
Ni2+ァフィ二ティ一に対する His-Tag融合酵素の結合率
His配列 3x His 6x His 9x His 12x His
N末端 His-Tag (%)
※全画分 (非吸着'洗浄'溶出)で検出された酵素活性の合計を 1 00%としたとき
の相対値で示した。
^ tLn〜
上の吸着率 (結合能力)が得られ、 C末端 His-Tag融合酵素では Hisl2個で 80%以上 の吸着率が認められた。これら以外の His-Tag融合酵素では、ほとんど吸着 (結合)し ないことが明ら力となった。したがって、 His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素固 定ィ匕マイクロアレイチップの作製には、 N末端 His- Tag融合酵素では 6個および 9個、 C末端 His-Tag融合酵素では 12個がそれぞれ適切であると考えられた。また、結果に は示して!/ヽな 、が、 Ni2+に代えて Co2+のァフィユティーにお ヽても同様に結合能力を 調べた。しかし、 Co2+を使用した場合、いずれの His-Tag融合酵素においても酵素活 性の著しい低下が認められたため、以後の実験では用いなかった。そこで、 BD Bios ciences社製の BDバイオコート Ni-キレートアツセィプレートを用いて、それぞれの His- Tag融合酵素の無細胞抽出液の固定ィヒ後の酵素活性について酵素の希釈率を変え て調べた結果を図 3に示した。この結果、 C末端 His-Tag融合酵素(図 3B)は His9個 で活性が認められたものの、 N末端 His-Tag融合酵素の結果(図 3A)に比べて極め て低い活性しか保持しておらず、固定ィ匕後の活性保持に問題があることがゎカゝつた。 したがって、これ以降の実験では、 N末端 His-Tag融合酵素の固定ィ匕について行った
[0055] 3. BDバイオコート Ni2+キレートアツセィプレートを用いた条件検討
N末端 His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素の His6個および 9個のそれぞれの 無細胞抽出液を BDバイオコート Ni2+キレートァセィプレートに固定ィ匕し、標準ろ紙血 液中に含まれる L-フエ二ルァラニンの定量を行った結果を、図 4に示した。その結果 、 12.8 mg/dlの濃度まで両酵素ともに定量性が確認された。また、 NADおよびジァホ ラーゼの添加量の条件についても検討を行った(図 5)。この結果、酵素反応時の NA Dおよびジァホラーゼの添カ卩量を、それぞれ 25 mMおよび 0.2 mg/mlとした。
[0056] 4. His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素固定化マイクロアレイチップによる L-Ph eの定量
N末端 His-Tag融合フエ-ルァラニン脱水素酵素の His6個(図 6A)および 9個(図 6 B)をそれぞれマイクロウェルアレイチップ上に固定ィ匕し、標準ろ紙血液から抽出した L-フエ-ルァラニンを定量した結果を図 6に示す。この結果、反応液 0.2 1のとき反 応 1時間で 12.8 mg/dlの濃度までろ紙血液中の L-フエ-ルァラニンを定量することが
できた。
産業上の利用可能性
[0057] 本発明の固定化酵素チップは、先天性代謝異常症であるフエ-ルケトン尿症の疾 患において、早期発見のための新生児マススクリーニング、あるいは当該患者の定
、て利用可能な検査方法に利用可能である。
図面の簡単な説明
[0058] [図 1]フエ-ルァラニン脱水素酵素の N末端側に Hisを融合させるためのプラスミドの 構築方法説明図。
[図 2]フエ-ルァラニン脱水素酵素の C末端側に Hisを融合させるためのプラスミドの 構築方法説明図。
[図 3]His-Tag融合酵素の無細胞抽出液の固定ィ匕後の酵素活性について酵素の希 釈率を変えて調べた結果。
[図 4]L-フエ-ルァラニンの定量結果。
[図 5]NADおよびジァホラーゼの添カ卩量の条件についての検討結果。
[図 6]L-フエ-ルァラニンの定量結果。