明 細 書
NFAT2発現抑制方法
技術分野
[0001] 本発明は、破骨細胞分ィ匕過程における転写因子である NFAT2の発現を抑制する 方法に関する。より詳しくは、 Lーセリン及び Z又は L—グリシンのシグナル伝達経路 を抑制することにより NFAT2の発現を抑制する方法、更には、 NFAT2の発現を制 御することによる NFAT2関連疾患の予防及び Z又は治療薬及びそのスクリーニン グ方法に関する。
背景技術
[0002] 骨組織は、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収とを繰り返すことにより、 骨再構築(リモデリング)を行っている。しかし、「骨粗鬆症」や「慢性関節リウマチ」を 発症すると、骨吸収が骨形成量を上回るため、骨量の減少が見られる。一方、「大理 石骨病」は、骨吸収不全が原因となる病態であり、破骨細胞の分化に異常があって 骨組織に破骨細胞が存在しない場合や破骨細胞の機能に異常があって骨吸収が 行えな 、場合等に発症するものと考えられて 、る。
従来、骨粗鬆症の治療法としては、カルシウム剤の直接投与、カルシトニン、ビスホ スホネートの使用、副甲状腺ホルモン(PTH)、成長ホルモン等のホルモン剤の投与 、ビタミン D3の投与等が行われてきた力 いずれも決定的な治療方法とは言えない。 カルシウム剤は非常に大量に摂取する必要があり、カルシトニンは抗体の出現や経 口投与が不可能であり、ホルモン剤は副作用が強ぐビタミン D3は効果が低いという 欠点があった。また、破骨細胞分化因子(receptor activator of NF κ B ligan d;以下、 RANKLと略記する。 )に対する抗 RANKL抗体等も候補にあがっているが 、蛋白質の場合には抗原性や経口投与できない等の問題がある。そこで、新規な骨 粗鬆症治療薬の開発が求められていた。
[0003] また、骨粗鬆症は骨吸収と骨再生のバランスが崩れ、骨分解を担う破骨細胞の形 成が亢進することによって引き起こされる。この成熟破骨細胞は多核の細胞であるが 、細胞が融合する過程で NFAT2 (NFATcl)遺伝子が必須であることが知られて!/ヽ
る(特許文献 1参照。 ) oそこで NFAT2遺伝子の発現を抑制することができれば破骨 細胞の成熟を抑制でき、骨粗鬆症を予防又は治療できる可能性がある。かかるシグ ナル伝達を利用して破骨細胞形成を制御する技術としては、 Ca2+シグナル伝達を 促進又は抑制する方法 (特許文献 1参照。)、 IFNシグナル伝達を促進又は抑制する 工程を含む方法 (特許文献 2、 3参照。)等が知られている。しかし、これらの方法は C a2+のシグナル伝達を制御することから局所的に投与する必要があり、あるいは、蛋 白質を投与することから抗原性、経口投与不可等の問題があった。そこで新規な機 構に基づく新規なスクリーニング方法の開発が求められていた。
特許文献 1 :特開 2004— 154132号公報
特許文献 2:国際公開第 2002Z024228号パンフレット
特許文献 3:国際公開第 2002Z024229号パンフレット
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0004] 本発明は、新規なメカニズムに基づく NFAT2関連疾患、例えば骨粗鬆症等の予 防又は治療薬、 NFAT2関連疾患、例えば骨粗鬆症等の予防又は治療方法及び N FAT2関連疾患、例えば骨粗鬆症等の予防又は治療薬のスクリーニング方法を提供 することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0005] 破骨細胞分ィ匕過程において、破骨細胞前駆細胞では RANKLからのシグナルを 受けて分化の進行を担う様々な遺伝子が発現する。発明者は先年マウス細胞株 RA W264と分ィ匕誘導因子 RANKL蛋白質力 なる破骨細胞分ィ匕誘導系を用いて、マイ クロアレイ解析による遺伝子発現と細胞播種密度による分化抑制という独自に見出し た現象とを組み合わせることにより、 RANKLにより発現が誘導される転写制御因子 NFAT2が多核細胞形成に重要であることを明らかにした。通常、破骨細胞前駆細 胞では NFAT2は細胞質でリン酸ィ匕されており不活性な状態であるが、 RANKLから のシグナルを受けると、 Ca2+と Ca2+— CaMが結合して活性ィ匕されたカルシ-ユーリ ンにより NFAT2は脱リン酸化される。脱リン酸化された NFAT2は RANKLによる刺 激後約 24〜48時間で核内へ移行し、細胞融合や骨分解反応を担う諸酵素群等破
骨細胞の形成や機能発現に関わる遺伝子発現を誘導する。逆に、 NFAT2の阻害 剤であるタクロリムス(以下、 FK506ともいう。)ゃシクロスポリンで処理した破骨細胞 前駆細胞は、破骨細胞へと分化しない。
[0006] 最近、発明者は上記と同じ実験系を用いて、培地成分中のアミノ酸 Lーセリン又は L—グリシンのいずれかが RANKLによる NFAT2の誘導に必須であることを見出し た。このことを確かめるために、 Lーセリンのアナログを用いて確かめたところ、 D セ リンや L ホモセリンが L セリンの活性を拮抗阻害し、 NFAT2の誘導、多核細胞の 形成を抑制することが分力つたことから、この現象には分子構造の特異性を認識する メカニズムが働いていることが示唆された。先に述べたように、破骨細胞の相対的な 活性ィ匕による骨吸収の乱れは骨粗鬆症等の骨疾患の要因であることから、アミノ酸の Lーセリンならびに L—グリシンによる破骨細胞の形成と活性の制御は骨代謝疾患に 対する新 、分子標的薬への道を開くものである。
[0007] 本発明者は、アミノ酸である Lーセリン又は L—グリシンが NFAT2遺伝子の発現に 必須であること、そして、 Lーセリン及び L—グリシンが欠乏した状態では、 NFAT2遺 伝子が発現せず、その結果として破骨細胞の融合がおこらず破骨細胞が成熟しな 、 ことを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、破骨細胞形成に必須の NFA T2の発現を制御する方法、該制御に用いるための薬剤及び医薬、並びにそのスクリ 一-ング方法に関し、より具体的には、本発明は、
(1) Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達経路を抑制することを特徴と する NFAT2の発現を抑制する方法、
(2) NFAT2発現の抑制が、 NFAT2遺伝子発現の抑制によるものであることを特 徴とする前記(1)記載の方法、
(3) Lーセリン及び Z又は L—グリシンのシグナル伝達経路の抑制を Lーセリンと拮 抗する物質とを接触させることによって行うことを特徴とする前記(1)又は(2)記載の 方法、
(4) Lーセリンと拮抗する物質が Lーセリン類似物質であることを特徴とする前記 (3) 記載の方法、
(5) L セリン類似物質が D セリン、 L—ホモセリン、それらの塩又はそれらのエス
テル体であることを特徴とする前記 (4)記載の方法、
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかの方法により、 NFAT2の発現を抑制することを特徴 とする NFAT2関連疾患の予防及び Z又は治療方法、
(7) Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達経路を抑制することを特徴と する NFAT2関連疾患の予防及び Z又は治療方法、
(8) NFAT2関連疾患が骨粗鬆症であることを特徴とする前記(6)又は(7)記載の 予防及び Z又は治療方法、
(9) 有効量の D セリン、 L ホモセリン、それらの塩又はそれらのエステル体の投 与を含むことを特徴とする、生体内での Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル 伝達経路抑制プロセス、
(10) Lーセリンと拮抗する物質を含有することを特徴とする NFAT2関連疾患の予 防及び Z又は治療剤、
(11) Lーセリンと拮抗する物質が D セリン、 L—ホモセリン、それらの塩又はそれ らのエステル体であることを特徴とする前記(10)記載の予防及び Z又は治療剤、
(12) NFAT2関連疾患が骨粗鬆症であることを特徴とする前記(10)又は(11)記 載の予防及び Z又は治療剤、
(13) 破骨細胞形成に及ぼす物質をスクリーニングする方法であって、(a)被検物 質を含む試料の存在下、破骨細胞前駆細胞における Lーセリン及び Z又は L ダリ シンのシグナル伝達の抑制又は促進を検出する工程、及び (b)前記 Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達の抑制を破骨細胞形成の抑制に、又は前記 L セリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達の促進を破骨細胞形成の促進に関連 付ける工程、を含む方法、
(14) 破骨細胞形成に係わる Lーセリンと拮抗する物質をスクリーニングする方法で あって、(a)被検物質、 Lーセリン及び RANKLを含有する培地で、破骨細胞前駆細 胞を培養する工程、及び (b)破骨細胞前駆細胞における Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達の抑制を検出する工程、を含む方法、及び
(15) 破骨細胞形成に係わる Lーセリン及び Z又は L グリシン様作用を有する物 質をスクリーニングする方法であって、(a)被検物質及び RANKLを含有し、 L セリ
ン及び Z又は L グリシンを含有しない培地で破骨細胞前駆細胞を培養する工程、 及び (b)破骨細胞前駆細胞における L セリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝 達の促進を検出する工程、を含む方法、
に関する。
[0008] さらに、本発明は、
(16) NFAT2関連疾患を予防及び Z又は治療する医薬を製造するための L セリ ンと拮抗する物質の使用、
(17) L セリンと拮抗する物質が D セリン、 L ホモセリン、それらの塩又はそれ らのエステル体であることを特徴とする前記(16)記載の使用、及び
(18) NFAT2関連疾患が骨粗鬆症であることを特徴とする前記(16)又は(17)記 載の使用、
に関する。
発明の効果
[0009] 本発明により、 NFAT2の発現の抑制、特に NFAT2遺伝子の発現を抑制すること ができるので、破骨細胞前駆細胞力 破骨細胞への分ィ匕を抑制することができる。そ の結果、破骨細胞による骨破壊を効果的に抑制することができる。また、本発明の N FAT2、特に NFAT2遺伝子を標的とするシグナル経路により NFAT2の発現、特に NFAT2遺伝子の発現を制御する薬剤は、 NFAT2に関連する疾患、例えば正常に 石灰化された骨基質が量的に減少する骨粗鬆症、自己免疫性関節炎、パジェット病 もしくは関節リウマチを含む様々な骨減少性疾患及び骨癌、又は破骨細胞の機能不 全によって骨の構築および再構築の異常が生じる骨硬化疾患あるいは免疫性疾患 等に対する薬剤として有用である。また、本発明は、 L グリシン及び Z又は L セリ ンの実効濃度を測定することによる新規な NFAT2の発現制御方法のスクリーニング 系を提供できるので新規な NFAT2の発現制御剤の探索に有用である。
図面の簡単な説明
[0010] [図 l]in vitro実験におけるマウス RAW264細胞から破骨細胞への分化を示す図 である。図中 MN cellsは多核細胞を示す。
[図 2]RAW264細胞抽出液のウェスタンブロッテイングの結果を示す図である。図中
mediumの Fiま Fresh medium, Ciま conditioned medium す (以下の図に おいて同じ)。
[図 3]RANKL刺激後の RAW264細胞抽出液のウェスタンブロッテイングの結果を 示す図である。
[図 4]A)は NFAT2— siRNA発現細胞抽出液のウェスタンブロッテイングの結果を 示す図であり、 B)は RANKL刺激後の NFAT2— siRNA発現細胞を示す図である
[図 5]RAW264細胞の播種細胞密度と多角細胞形成率の関係を示す図である。図 中細胞密度 1倍は 2. 5 X 104細胞 Zwellを示す。
[図 6]RAW264細胞の低密度播種又は高密度播種における RANKL刺激後の RA W264細胞抽出液のウェスタンブロッテイングの結果を示す図である。
[図 7]異なる細胞密度での RAW264細胞を播種し、 RANKL刺激後の RAW264細 胞抽出液のウェスタンブロッテイングの結果を示す図である。図中細胞密度 1倍は 2. 5 X 104細胞 Zwellを示す。
[図 8]異なる培地で分化誘導した場合の RAW264細胞と、該細胞の分化誘導効率 を示す図である。
[図 9]RAW264細胞での NFAT2発現における培地成分の変化と NEAAの影響を 示す図である。
[図 10]低密度播種又は高密度播種 RAW264細胞での NFAT2発現における NEA Aの影響を示す図である。図中 Lは低密度播種を、 Hは高密度播種を示す。
[図 11]RAW264細胞での NFAT2発現における NEAAの影響を示す図である。
[図 12]RAW264細胞増殖に対する NEAAの影響を示す図である。
[図 13]Conditioned mediumを用いた RAW264細胞での NFAT2発現における アミノ酸の影響を示す図である。図中 Aはァラニン、 Dはァスパラギン酸、 Eはダルタミ ン酸、 Gはグリシン、 Nはァスパラギン、 Pはプロリン、 Sはセリンを示す(以下の図にお いて同じ)。
[図 14]Fresh mediumを用いた RAW264細胞での NFAT2発現におけるアミノ酸 の影響を示す図である。
[図 15]Fresh mediumを用いた RAW264細胞での NFAT2発現におけるセリンァ ナログの影響を示す図である。図中 Serはセリン(以下の図において同じ)を、 Dは D ーセリンを、 L Homoは L ホモセリンを示す。
[図 16]RAW264細胞での NFAT2発現における D セリンの影響を示す図である。
[図 17]破骨細胞前駆細胞の細胞密度依存的な多核細胞形成を示す図である。 A)マ ウス骨髄細胞カゝら得た破骨細胞前駆細胞を異なる細胞密度で播種したものを破骨 細胞へ分化誘導した結果を TRAP陽性細胞数と細胞濃度との関係で示す。 B)は多 核細胞の形態を示す。
[図 18]高密度培養での培地中のしーセリンの減少と L セリン濃度に依存する NFA T2の発現を示す図である。 A)RAW264細胞を低密度あるいは高密度で播種し、 R ANKL存在下あるいは非存在下で培養を行なったときの、培地中の Lーセリンの量 変化を示す。 B)RAW264細胞を異なる濃度の L セリンを添加した培地で培養した 後の RAW264細胞での NFAT2の発現をウェスタンブロッテイングの結果で示す。
[図 19]c— Fosの発現に対する細胞密度と L—セリンの影響を示す図である。 A)低蜜 度播種した RAW264細胞を RANKLの存在下で培養したときの c—Fosの発現をゥ エスタンブロッテイングの結果で示す。 B) RAW264細胞を低密度播種及び高密度 播種で培養し、 c Fosの発現をウェスタンブロッテイングの結果で示す。図中 Low は低密度播種を、 Highは高密度播種を示す。 c)RAW264細胞を低密度播種して NEAA、 L -セリン又は L -グリシンを添カ卩した培地で培養した後の c— Fosと NFAT 2の発現をウェスタンブロッテイングの結果で示す。各レーンの数値は以下を示す。 1 : NEAAを添カ卩しな!/ヽ培地で培養した RAW264細胞; 2: L セリンを添カ卩した培地 で培養した RAW264細胞; 3: L グリシンを添カ卩した培地で培養した RAW264細 胞; 4: Lーセリンと L—グリシンを添カ卩した培地で培養した RAW264細胞; 5: L セリ ンを含まな ヽ NEAAを添カ卩した培地で培養した RAW264細胞; 6: L グリシンを含 まな!/ヽ NEAAを添カ卩した培地で培養した RAW264細胞; 7: L—セリンと L グリシン を含まな ヽ NEAAを添カ卩した培地で培養した RAW264細胞; 8: NEAAを添カ卩した 培地で培養した RAW264細胞。
[図 20]骨髄細胞の破骨細胞への分ィ匕における L セリンの影響を示す図である。 A)
骨髄細胞の増殖に対する L セリンの影響を示す。縦軸は細胞増殖 ·細胞死の度合 いを MTT活性によって計測した結果を示す。横軸のセリン濃度 X Iは通常量 (0. 1 mM)に等しい。 B)骨髄由来破骨細胞前駆細胞の多核細胞形成に対する Lーセリン の影響を示す。図左は多核細胞の形成量を示し、図右は細胞の形態を示す。 *は S tudent' s t testにより有意差(Pく 0. 05)のあることを示す。 C)破骨細胞前駆細 胞を RANKLと M— CSFで刺激した後 48時間培養した細胞溶解物のウェスタンブ ロッテイングの結果を示す。 D)レトロウイルス感染を介して NFAT2を強制発現させた 骨髄細胞における多核細胞形成に対する Lーセリンの影響示す。図左は多核細胞 の形成量を示し、図右は GFP発現細胞と NFAT2発現細胞の形態 (TRAP染色)を 示す。
発明を実施するための最良の形態
[0011] 本発明は、 NFAT2の発現を抑制する方法に関する。より詳しくは、破骨細胞前駆 細胞における Lーセリン及び Z又は L—グリシンのシグナル伝達経路を抑制し、 NFA T2の発現の抑制、特に NFAT2遺伝子の発現を抑制することによって、破骨細胞形 成を抑制する方法、更には、 NFAT2の発現を制御することによる NFAT2関連疾患 の予防及び Z又は治療薬及びそのスクリーニング方法に関する。以下、本発明につ いて、説明する。
[0012] 「Lーセリン及び Z又は L—グリシンのシグナル伝達経路」とは、 RANKL (recepto r activator of NF κ B ligand)経路と並ぶ破骨細胞前駆細胞から破骨細胞の 形成に必須のシグナル伝達経路をいい、独立した経路であってもよぐ他の経路と応 答する経路であってもよい。また、 Lーセリン及び Z又は L—グリシンのシグナル伝達 経路には、前記シグナル伝達経路と異なる伝達経路であって、その異なる伝達経路 の一部で Lーセリン及び Z又は L—グリシンが係わり NFAT2が発現、特に NFAT2 遺伝子が発現するような伝達経路も包含する。従って、破骨細胞前駆細胞において Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達を促進することにより、該細胞の破 骨細胞への分ィ匕を促進することができ、逆にし セリン及び Z又は L グリシンのシ グナル伝達を遮断することにより、該前駆細胞の破骨細胞への分化を阻害することが できる。
前記「破骨細胞(osteoclast)」とは、造血幹細胞を起源とする単球 ·マクロファージ 系細胞(以下、 CFU— Mと略記する。)より分化した単核の破骨細胞前駆細胞が融 合して开滅される多核巨細胞(Suda, T. et al. , Endocr. , Rev.第 20卷, p. 34 5, 1999年)をいう。破骨細胞は、骨基質を消化するコラゲナーゼを分泌し、骨吸収 能を示す。また、一般に成熟した破骨細胞には、酒石酸抵抗性酸フォスファタ一ゼ( 以下、 TRAPと略記する。)、カルシトニン受容体、ビトロネクチン受容体が発現する。 このため、コラゲナーゼ、 TRAP又はカルシトニン受容体、ビトロネクチン受容体を破 骨細胞形成の指標(骨吸収マーカー)とすることができるので、破骨細胞形成は、こ れらの指標のうち、少なくとも 1つの測定に基づいて判断することができる。破骨細胞 は、 TRAP陽性であって、かつ骨吸収活性を持つ細胞が好ましい。破骨細胞は、上 記したように CFU— M力も分ィ匕する。該分化は、具体的には、例えば、骨髄単球'マ クロファ ~~ン糸目 ij駆糸田胞 (bone marrow monocyte/ macropnage precursor cells ; BMMs)等力 マクロファージコロニー刺激因子 (macrophage— colony s timulating factor; M— CSF)、インタイ一ロイキン一 3 (IL— 3)、顆粒球-マクロフ 丁 ~~、ンコロニ' ~~刺激因子 (granulocyte— macrophage colony— stimulating fa ctor ; GM— CSF)、 1, 25—ジヒドロキシビタミン D3 (1, 25 (OH) D )等の存在下
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で RANKLの刺激により行なわれ得る。
破骨細胞の开成は、例えば、文献(Yasuda, H. et al. , Proc. Natl. Acad. Sc i. USA,第 95卷, p. 3597— 602 (1998年))に従って観察すること力 Sできる。具体 的には、例えば個体であれば、骨切片を作成して骨吸収を観察することができる。ま た、顕微鏡観察により多核巨細胞を同定したり、 TRAP染色や、カルシトニン受容体 又はビトロネクチン受容体の発現の検出等の公知の検出方法等により、 in vivo及 び in vitro両方で破骨細胞形成を検出することができる。骨吸収能は、公知の方法 、例えば象牙切片上のピット形成面積を測定する Pit formation assay法等により 評価できる。
前記「破骨細胞前駆細胞(osteoclastprecursor cell)」は、破骨細胞に分化し得 る単球 ·マクロファージ系細胞を含み、より特定すれば、 M— CSF等に応答して増殖 が促進される細胞が好ましい。破骨細胞前駆細胞は、骨髄又は脾臓に含まれる細胞
であってもよぐ不死化した細胞株であってもよい。また、破骨細胞前駆細胞は造血 幹細胞から in vitroで分ィ匕させることもできる。
本明細書において、「Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達経路を抑 制する」とは、 Lーセリン及び Z又は L グリシンの濃度ならびにそれらの機能情報を 伝達するシグナル伝達経路であって、 NFAT2 (NFATclとも呼ばれる力 以下 NF AT2に統一)の発現、特に NFAT2遺伝子の発現に関与するシグナル伝達経路を 抑制することをいい、シグナル伝達そのものを阻害又は抑制することも含まれる。シグ ナル伝達経路を抑制することには、 Lーセリン及び Z又は L グリシンの拮抗物質を 投与して Lーセリン及び Z又は L グリシンの実効濃度を低下させること、 Lーセリン 及び Z又は L グリシンの代謝、修飾及び Z又は分解を促進することにより実質的に Lーセリン及び Z又は L グリシンの濃度を低下させること、ならびに L セリン及び Z又は L グリシンの受容体を抗体によりブロックすることも含まれる力 これらに限ら れない。また、シグナル伝達経路は、該経路のいずれの部分が抑制されてもよぐ例 えば Lーセリンもしくは L グリシン又はそれらの誘導体の濃度を感知する受容体又 は輸送体等の結合蛋白質の発現抑制やその結合蛋白質力 NFAT2の発現抑制、 特に NFAT2遺伝子の発現に至るシグナル伝達経路の抑制等を含む。要するに L セリン及び Z又は L グリシンの濃度あるいは活性が実質的に低下したというシグナ ルを伝達して NFAT2の発現の抑制、特に NFAT2の遺伝子の発現を抑制できれば シグナル伝達経路の如何なる部分の抑制であってもよい。この場合、 L セリン及び Z又は L グリシンを原料として合成される物質又は Lーセリン及び Z又は L グリシ ンから生成される代謝産物 (セリンが付加された脂質、糖等を含む)を介するシグナ ル伝達により NFAT2の発現の抑制、特に NFAT2遺伝子の発現が抑制される場合 も含まれる。また、シグナル伝達経路の 1ケ所に限らず複数の箇所が抑制されてもよ い。また、 Lーセリン及び Z又は L—グリシンのシグナル伝達経路を抑制するには、前 記しーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達経路と異なる伝達経路であって 、その該異なる伝達経路の少なくとも一部にお 、て L セリン及び Z又は L グリシ ンが係わり NFAT2が発現、特に NFAT2遺伝子が発現する場合において、該 L セリン及び Z又は L グリシンの係わり(作用)を抑制することも包含される。
[0015] NFAT2は、 Ca +—カルシ-ユーリン依存性に脱リン酸ィ匕されて核移行し、活性ィ匕 される転写因子の 1つである。 NFAT2は、 T細胞におけるサイト力イン産生を制御す る因子として発見されたが、多くの細胞の機能又は分ィ匕において重要な役割を果た す(Crabtree, G. R. and Olson, E. N. , Cell,第 109卷: S67— S79, 2000年 ) o従って、本発明の方法又は薬剤により NFAT2の発現を抑制することでそのような 機能や分ィ匕を抑制することができる。 NFAT2の具体例としては、例えば、ヒト NFAT 2 mRNAの塩基配列は Accession number NM— 006162に、蛋白質のァミノ 酸配列は NP— 006153に示されている。また、 NFAT2には、上記特定のアミノ酸 配列で示される NFAT2だけでなぐ NFAT2と生物学的機能が同等であることを限 度として、その断片、同族体 (ホモログ)、誘導体、及び変異体が包含される。ここで 同族体(ホモログ)としては、ヒトの NFAT2に対応するマウスやラット等他生物種の N FAT2が例示でき、これらは HomoloGene (http:ZZwww. ncbi. nlm. nih. gov ZHomoloGeneZ)等により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定するこ とができる。例えば、マウス NFAT2 mRNAの塩基配列は Accession number AF239169、 AF087434 (ァイソフォーム a)、及び AF049606 (ァイソフォーム b)に 、これらがコードする NFAT2蛋白質のアミノ酸配列はそれぞれ AAC36725、 AAC 36725、及び AAC0550【こ示されて!/、る。
また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、及び 人為的に欠失、置換、付加及び挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有 する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のない蛋白質又は (ポリ) ペプチドと、アミノ酸配列が少なくとも約 70%、好ましくは約 80%、より好ましくは約 9 5%、さらにより好ましくは約 97%相同なものを挙げることができる。
[0016] NFAT2の発現の抑制には、 NFAT2遺伝子の発現の抑制、 NFAT2遺伝子の転 写及び Z又は翻訳の抑制、 NFAT1の発現及び活性抑制を介した転写抑制(Zhou B et. Al. , J. Biol. Chem. ,第 277卷, p. 10704, 2002年)、 NFAT2 mR NAの不安定化の促進、 NFAT2蛋白質の分解の促進、外来的に NFAT2 mRNA に対するアンチセンス核酸もしくは NFAT2 mRNAを切断するリボザィム又は RNA i等を発現することによる NFAT2の発現阻害等が含まれる。好ま Uヽ NFAT2の発現
の抑制は、 NFAT2遺伝子の発現の抑制である。
本明細書において遺伝子(又は DNA)とは、 2本鎖 DNAのみならず、それを構成 するセンス鎖及びアンチセンス鎖と 、つた各 1本鎖 DNAを包含する意味で用いられ る。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において 遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、ヒトゲノム DNAを含む 2本鎖 DNA及び c DNAを含む 1本鎖 DNA (正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する 1本鎖 DNA (相補鎖)、及びこれらの断片のいずれもが含まれる。また当該遺伝子又は DNAに は、特定の塩基配列で示される遺伝子又は DNAだけでなぐこれらによりコードされ る蛋白質と生物学的機能が同等である蛋白質 (例えば、同族体 (ホモログ)、変異体 及び誘導体等)をコードする遺伝子又は DNAが包含される。かかる同族体、変異体 又は誘導体をコードする遺伝子又は DNAとしては、ストリンジヱントな条件下で、特 定塩基配列の相補配列とハイブリダィズする塩基配列力もなる遺伝子又は DNAを 挙げることができる。
ここでストリンジェントな条件は、 Berger and Kimmel (1987, Guide toMol ecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Acade mic Press, San Diego CA)に教示されるように、複合体或いはプローブを結合 する核酸の融解温度 (Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダィズ 後の洗浄条件として、通常「1 X SSC、 0. 1%SDS、 37°C」程度の条件を挙げること ができる。相補鎖は力かる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダィズ状態を 維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダィズ条 件 (ノヽイブリダィズ後の洗浄条件)として「0. 5 X SSC、0. 1%SDS、42°C」程度、さ らに厳しいハイブリダィズ条件 (ハイブリダィズ後の洗浄条件)として「0. 1 X SSC、 0 . 1%SDS、 65°C」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相 補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列力 なる 鎖、並びに該鎖と少なくとも約 90%、好ましくは約 95%の相同性を有する塩基配列 力もなる鎖を例示することができる。
「Lーセリンと拮抗する物質」とは、前記 Lーセリン及び Z又は L—グリシンのシグナ ル伝達経路において、 Lーセリンの濃度あるいは活性を実際よりも低く伝えることがで
きる物質をいう。このような物質の例としては、例えば、 Lーセリン及び Z又は L ダリ シンのアミノ酸アナログ等が挙げられる。典型的には、 D セリンや L—ホモセリンが 挙げられるがこれらに限られず、アミノ酸アナログであって、 Lーセリン及び Z又は L —グリシンのシグナル伝達経路を抑制でき、 NFAT2の発現 (好ましくは NFAT2遺 伝子の発現)を抑制できるものであれば制限無く用いることができる。 NFAT2の発現 は、例えば実施例 10のように培養細胞に L セリンと拮抗する物質を添加してウェス タンプロットにより観察することができる。破骨細胞への分ィ匕は、多核化 (細胞融合)、 TRAP,カルシトニン受容体、ビトロネクチン受容体、コラゲナーゼの発現あるいは骨 吸収能の 、ずれかを指標として判断することができるので、これらの指標がネガティ ブであることを指標として Lーセリン及び Z又は L グリシンと拮抗する物質の効果を 柳』定することちでさる。
「L セリン類似物質」とは、典型的には L セリンのアミノ酸アナログをいうがこれに 限られない。 Lーセリン類似物質としては、 Lーセリンの全部又は一部と構造的又は 機能的に類似し、例えば生体内で Lーセリンと競合して作用するもの等であればよい また、 L セリン類似物質には、 L セリンの光学異性体、 L セリンに側鎖を有す る誘導体、 Lーセリンの薬学的に許容される塩又はエステル、 Lーセリンを原料として 合成される物質及び L セリンカゝら生成する代謝産物 (セリンが付加された脂質、糖 などを含む)であって、 L セリンと拮抗する物質も含まれるがこれらに限定されない。 また、 Lーセリン受容体からドラッグデザインによりデザインされた物質であって、 L— セリンと拮抗する物質であってもよい。 L セリンの薬学的に許容される塩としては、 例えばアルカリ金属 (カリウム、ナトリウム、リチウム等)の塩、アルカリ土類金属 (カル シゥム、マグネシウム等)の塩、アンモ-ゥム塩 (テトラメチルアンモ -ゥム塩、テトラブ チルアンモ-ゥム塩等)、有機アミン(トリェチルァミン、メチルァミン、ジメチルァミン等 )の塩、酸付加物塩 [無機酸塩 (塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リ ン酸塩、硝酸塩等)又は有機酸塩 (酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シユウ酸塩、フマル 酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、クェン酸塩、メタンスルホン酸塩、グルクロン酸塩 、ダルコン酸塩等)など]が挙げられる。 L セリンのエステル体としては、例えばメチ
ル、ェチル、プロピル等の低級アルキル基のエステル体が挙げられる。 また、上記 Lーセリン類似物質は水和物又は溶媒和物であってもよい。水和物又は 溶媒和物は非毒性かつ水溶性であることが好ましい。水和物としては、例えば 1水和 物、 2水和物、 1Z2水和物又は 4Z3水和物等が挙げられ、溶媒和物としては、エタ ノールの付加物等のアルコール系溶媒和物等が挙げられる。
[0019] Lーセリン類似物質としては、例えば D セリンや L—ホモセリン等が好ましく挙げら れる。 D—セリンや L—ホモセリンは、その塩又はそれらのエステル体であってもよい 。前記塩には薬学的に許容されるものすべてが含まれる。該塩としては、上記した L ーセリンの薬学的に許容される塩が挙げられる。エステル体としては、上記した Lーセ リンのエステル体が挙げられる。 D セリンや L—ホモセリン、それらの塩又はそれら のエステル体としては、具体的には、例えば D セリンメチルエステル塩酸塩や L O 力フエオイルホモセリンなどが挙げられる。
[0020] NFAT2の発現の抑制、特に NFAT2遺伝子の発現を抑制する方法としては、 L セリン及び Z又は L—グリシンのシグナル伝達経路に、 Lーセリンと拮抗する物質を 接触させること等が挙げられる。前記接触は、 Lーセリン及び Z又は L—グリシンが作 用又は会合する蛋白質との接触あるいは前記シグナル伝達経路を有する例えば細 胞、組織又は個体等との接触が含まれる。前記接触の結果、 Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達経路において、例えば Lーセリンと拮抗する物質力 L- セリン及び Z又は L グリシンと例えば競合する等して Lーセリン及び Z又は L ダリ シンのシグナルの伝達を阻害又は抑制する。
[0021] 本発明の方法によれば、 Lーセリン及び Z又は L—グリシンのシグナル伝達経路を 抑制することにより、 NFAT2の発現の抑制、特に NFAT2遺伝子の発現を抑制する ことができる。 NFAT2の発現が抑制されると、破骨細胞の形成が阻害される。破骨 細胞は骨を吸収する細胞であり、その細胞の異常は NFAT2関連疾患、例えば骨粗 鬆症ゃ大理石骨病等の骨疾患や免疫疾患の原因となる。このため、本発明の方法 は、 NFAT2関連疾患、例えば骨粗鬆症や大理石骨病等の骨疾患や免疫疾患を予 防又は治療する方法に用いることができる。また、 NFAT2は破骨細胞の成熟以外 にもインターロイキン 2 (IL 2)等のように免疫反応を活性ィ匕するサイト力インの誘
導活性を有することが知られていることから、本発明の方法は免疫抑制にも利用でき る
[0022] 本発明の方法は、破骨細胞前駆細胞に Lーセリンと拮抗する物質、例えば D セリ ンを接触及び Z又は導入させることが好まし 、。破骨細胞前駆細胞と Lーセリンと拮 抗する物質、例えば D セリンや L ホモセリンを接触させることにより、破骨細胞前 駆細胞での NFAT2の発現、特に NFAT2遺伝子の発現の抑制を通して、効率よく 破骨細胞形成を阻害することができる。
本発明の方法は、哺乳動物に有効量の Lーセリンと拮抗する物質、例えば D セリ ン、 L ホモセリン、それらの塩又はそれらのエステル体の投与を含む。該投与は、 生体内の L セリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達経路を抑制できれば経 口投与又は非経口投与の 、ずれでもよ 、。
[0023] 本発明の NFAT2遺伝子の発現を抑制する方法に用いられる Lーセリンと拮抗する 物質、例えば D セリンや L—ホモセリンは、破骨細胞の形成を抑制することができる ので、 NFAT2関連疾患、例えば関節リウマチ等の自己免疫性関節炎や、例えば骨 粗鬆症等の骨減少性疾患の予防又は治療剤に、あるいは例えば免疫疾患等の免疫 抑制剤として用いることができる。
本発明の実施形態の 1つとして、例えば D セリンの投与が挙げられる。 D セリン を投与することにより、 NFAT2の発現、特に NFAT2遺伝子の発現が抑制される。こ の抑制に必要な D セリンの濃度は L セリンの約 5〜20倍、好ましくは約 10倍程度 である。
[0024] また、本発明の NFAT2発現の抑制、特に NFAT2遺伝子の発現を抑制する方法 は、破骨細胞の形成を阻害する薬剤等と併用することも好ましい。破骨細胞の形成を 阻害する薬剤としては、例えばカルシ-ユーリンの阻害剤等が挙げられる。カルシ- ユーリンの阻害剤としては、 FK506、 cyclosporin A(CyAZCsA)及びそれらの類 似体等が挙げられる。これらのカルシ-ユーリン阻害剤と、本発明に力かる L セリン と拮抗する物質、例えば D セリンや L ホモセリンを同時に投与することにより、骨 吸収をより効率よく抑制することが可能となる。
[0025] 本発明のスクリーニング方法は、例えば破骨細胞分ィ匕誘導系を用いて行うことがで
きる。すなわち、本発明のスクリーニング方法は次の工程 (a)及び (b)を含む:(a) 被検物質を含む試料の存在下、破骨細胞前駆細胞における Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達の抑制又は促進を検出する工程、
(b)前記 L セリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達の抑制を破骨細胞形成 の抑制に、又は前記 L セリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達の促進を破 骨細胞形成の促進に関連付ける工程。
[0026] 力かるスクリーニング方法に用いられる細胞としては破骨細胞への分ィ匕が可能であ る、例えば破骨細胞前駆細胞等を挙げることができる。破骨細胞への分ィ匕が可能な 破骨細胞前駆細胞であれば何れの細胞であっても制限なく用いることができるが、例 えば、骨髄マクロファージ系細胞等が好ましく用いられる。より具体的には、 BMMs、 RAW264. 7細胞(マクロファージ様細胞; RAW264細胞と略記することもある。)又 は胚性幹細胞 (ES細胞)等が挙げられる。好ましくは RAW264細胞である。特に、マ ウス RAW264細胞(RIKEN Cell Bank; HYPERLINK HYPERLINK "htt p:ZZ www. rtc. riken. go. jpZ CELL/HTML/RIKEN" http: / / www . rtc. riken. go. jpZ CELL/ HTML/ RIKEN ^ http: / / www. rtc. riken. g o. Jp/CELL /HTML/RIKEN Cell Bank. Htmlから入手可能)は、分化 誘導物質である RANKLの添加で破骨細胞に分ィ匕することが知られている細胞であ る(Biochem. Biophys. Res. Commun. 282, 278— 283 (2001) )。
[0027] 本発明のスクリーニング方法において、破骨細胞前駆細胞力 破骨細胞形成には 、通常、 M— CSFの存在下に RANKLで破骨細胞前駆細胞を刺激するのが好まし い。具体的には、例えば BMM又は ES細胞等から破骨細胞を形成させるには、 M— CSF存在下で RANKL刺激を行う。 M— CSF及び RANKLの濃度は適宜調節する ことができる。例えば M— CSFの濃度は約 l〜20ngZmL、好ましく約 5〜15ngZm L、より好ましくは約 8〜12ngZmL程度である。また、 RANKLの濃度は約 10〜 20 Ong/mL,好ましく約 50〜150ngZmL、より好ましくは約 80〜120ngZmL程度 である。また、 M— CSF非依存的に RANKLに応答して破骨細胞に分化する細胞、 例えば RAW264細胞等は、破骨細胞形成にお!、て M— CSFが存在しなくても破骨 細胞に分化できるので、 RANKL刺激のみ行なえばよい。この場合、 RNAKLの濃
度は、上記した濃度と同様である。また、本発明のスクリーニング方法においては、例 えば凍結ラット破骨細胞前駆細胞 (骨髄由来)と M— CSF、 RANKLを含有した専用 培地、更に Pit formation assay用に象牙質切片をセットした破骨細胞培養キット (株式会社ホクドー製)等も好ましく用いることができる。
[0028] 被検物質を含む試料としては特に制限はなぐ例えば、アミノ酸類縁体のライブラリ 一、合成低分子物質のライブラリー、精製蛋白質、遺伝子ライブラリーの発現産物、 合成ペプチドのライブラリー、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出物、微生物由 来物質等が挙げられる。
[0029] Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達の検出は、 NFAT2の発現を指 標におこなうことができる。 NFAT2の発現は、例えば NFAT2と特異的に結合する 抗体を用いて、ウェスタンブロット、ドットブロット又はスロットブロット等の公知の方法 を用いて検出することができる。具体的には、例えばウェスタンプロット法は、一次抗 体として NFAT2抗体を用いた後、二次抗体として例えば HRP (西洋わさびバーオ キシダーゼ)等の化学発光試薬、 125ι等の放射性同位元素、蛍光物質等で標識した 標識抗体 (一次抗体に結合する抗体)を用い、得られる標識化合物の化学発光、放 射性同位元素、蛍光物質等に由来するシグナルをィ匕学発光検出器、放射線測定器 、蛍光検出器等で検出し、測定することによって実施できる。
[0030] また、 NFAT2の発現は、前記した蛋白質を指標とする以外に、遺伝子発現レベル の検出を指標とすることも好まし ヽ。遺伝子発現レベルの NFAT2遺伝子の検出は、 前記細胞カゝら調製した RNA又は該 RNAから転写された当該 RNAに対して相補的 なポリヌクレチドと、例えば、 NFAT2遺伝子又は NFAT2遺伝子のプロモーター領 域等を用いて、例えばノーザンブロット法、 RT—PCR (Reverse Transcription P olymerase Chain Reaction)法等公知の方法の他、 DNAチップ等を利用して実 施できる。前記遺伝子としては、 NFAT2結合配列〔GGAAAA及びその類似配列( 例えば GGAAAN等, Nは A, T, C,又は G) , Macian, F. et al. , Oncogene, 第 20卷, p. 2476- 2489, 2001年〕を含む DNA、好ましくはさらに NFAT2及び 転写因子 AP— 1 (ァクチベータ一プロテイン 1)結合配列〔TGA[GZC]TCA及 びその類似配列(例えば TGNNTCA等、 Nは A, T, C,又は G)、: Bio Science新
用語ライブラリー「転写因子」、実験医学 別冊,羊土社, pp. 204— 205〕を含む D NAが好ましい。また、前記 DNAの下流に所望のレポーター遺伝子を結合したもの も好ましく用いることができる。レポーター遺伝子を結合することにより、レポーター活 性等を指標としてレポーター遺伝子の発現量を定量することにより NFAT2プロモー ターからの転写をモニターできる。具体的なプロモーター配列としては、 TRAPプロ モーター、又はカルシトニンプロモーター(P3プロモーター)等が挙げられる。レポ一 ター遺伝子としてはルシフェラーゼ遺伝子、蛍光蛋白質遺伝子(GFP, YFP, BFP 等)、クロラムフエ-コール.ァセチルトランスフェラーゼ遺伝子、 一ガラクトシダーゼ 遺伝子等が挙げられる。また、 NFAT2により誘導される遺伝子としては、 NFAT2に 依存的な、例えば、 TRAP,カルシト-ンレセプター(calcitonin receptor)、カテ プシン K(cathepsin K)、カノレポ-ックアンヒドラーゼ II (carbonic anhydrase II; CA 11)、又はマトリックスメタ口プロティナーゼ(matrix metalloproteinase; MM P) 9等の遺伝子が挙げられる。これらの遺伝子の NFAT2結合部位を含むプロモ 一ター配列を前記レポーターに連結するプロモーターとして好適に用いることができ る。これらの遺伝子は破骨細胞の最終分ィ匕において誘導され、複数の NFAT2及び AP—1結合部位を含む(Anusaksathien, O. et al. , J Biol. Chem. ,第 27 6卷, p. 22663- 22674, 2001年; David, P. et al. , J. Cell Physioll. ,第 88卷, p. 89- 97, 2001年; Motyckova, G. et al. , Proc. Natl. Acad. Sci. USA,第 98卷, p. 5798- 5803, 2001年; Reddy, S. V. et al. , J. Bone Mi ner Res. ,第 10卷, p. 601— 606, 1995年)。
また NFAT2遺伝子の発現レベルの検出及び定量は、 NFAT2遺伝子の発現を制 御する遺伝子領域 (発現制御領域)に、例えばルシフェラーゼ遺伝子等のマーカー 遺伝子をつな!/、だ融合遺伝子を導入した細胞株を用いて、マーカー遺伝子由来の 蛋白質の活性を測定することで実施することもできる。本発明の NFAT2の発現制御 物質のスクリーニング方法には、かかるマーカー遺伝子の発現量を指標として標的 物質を探索する方法も包含される。この意味にお!、て「NFAT2遺伝子」の概念には 、 NFAT2遺伝子の発現制御領域とマーカー遺伝子との融合遺伝子が含まれる。な お、上記マーカー遺伝子としては、発光反応や呈色反応を触媒する酵素の構造遺
伝子が好ましぐ具体的には上記のルシフェラーゼ遺伝子のほか、クロラムフエニコ ール 'ァセチルトランスフェラーゼ遺伝子、 j8グルクロ-ダーゼ遺伝子、 j8ガラクトシ ダーゼ遺伝子、及びェクオリン遺伝子等のレポーター遺伝子もまた使用することがで きる。ここで NFAT2遺伝子の発現制御領域としては、例えば該遺伝子の転写開始 部位上流約 lkb、好ましくは約 2kbを用いることができる。融合遺伝子の作成、及び マーカー遺伝子由来の活性測定は公知の方法で行うことができる。
[0032] 指標とする NFAT2蛋白質又は NFAT2遺伝子発現の抑制又は促進は、被検物 質を添カ卩しな 、対照細胞での NFAT2蛋白質又は NFAT2遺伝子もしくは NFAT2 誘導性プロモーターによるレポーター遺伝子の発現量と、被検物質を添加した細胞 における NFAT2蛋白質又は前記遺伝子の発現量を比較することにより行なうことが できる。例えば被検物質を添加した細胞における NFAT2蛋白質又は前記遺伝子の 発現量が、被検物質を添加しない対照細胞での NFAT2蛋白質又は前記遺伝子の 発現量の約 90%以下、好ましくは 40%以下、さらに好ましくは 30%以下、特に好ま しくは 20%以下、とりわけ好ましくは 10%以下に低くなる場合に、当該被検物質を破 骨細胞前駆細胞における Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達を抑制 する候補物質として選択することができる。また逆に、例えば被検物質を添加した細 胞における NFAT2蛋白質又は前記遺伝子の発現量が、被検物質を添加しない対 照細胞での NFAT2蛋白質又は前記遺伝子の発現量の約 110%以上、好ましくは 1 20%以上、さらに好ましくは 130%以上、特に好ましくは 150%以上に高くなる場合 に、当該被検物質を破骨細胞前駆細胞における Lーセリン及び Z又は L グリシン のシグナル伝達を促進する候補物質として選択することができる。
また、指標とする NFAT2蛋白質又は NFAT2遺伝子発現の抑制又は促進と破骨 細胞形成の抑制又は促進との関連付けは、指標とする NFAT2蛋白質又は NFAT2 遺伝子発現が抑制される場合は、破骨細胞形成も同程度に抑制されるものとし、指 標とする NFAT2蛋白質又は NFAT2遺伝子発現が促進される場合は、破骨細胞形 成も同程度に促進されるものとする。
[0033] 通常、骨粗鬆症と!/、つた骨代謝異常疾患に罹患した患者の骨組織には、特異的に 、破骨細胞の分化'活性ィ匕の亢進が見られるとともに NFAT2 (NFAT2遺伝子)が発
現している。すなわち、本発明のスクリーニング方法は NFAT2又は NFAT2遺伝子 の発現を抑制する物質を探索することによって、破骨細胞形成に関連する骨代謝異 常疾患の予防又は治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。
候補物質の選別は、発現誘導物質によって誘導される NFAT2の発現又は NFAT 2遺伝子の発現が被検物質の存在によって抑制されることを指標にして実施できる。 すなわち発現誘導物質存在下で被検物質を接触させた細胞の NFAT2の発現又は NFAT2遺伝子の発現が、発現誘導物質存在下で被検物質を接触させな!/ヽ対照細 胞に比して低くなることをもって、当該被検物質を候補物質として選択することができ る。具体的には被検物質を含む試料の存在下、上記方法で Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達を測定し、対照に比べ該シグナル伝達を促進又は抑制す る物質を選択する。対照の条件としては、該被検物質を含まないか、あるいはより低 用量で含む場合であり、典型的には、被検物質の非存在下 (例えば被検物質の添加 に用いた担体のみの添加)における場合が挙げられる。また、対照の条件として、被 検物質をより低い用量で含む場合を用いれば、物質の用量依存性が明らかとなる。 また、発現誘導物質存在下で被検物質を接触させた細胞の NFAT2の発現又は NF AT2遺伝子の発現が、破骨細胞形成を調節する公知の化合物を接触させる陽性対 照細胞に比して低くなること又は高くなることをもって、当該被検物質を候補物質とし て選択することもできる。この場合、陽性対照として用いたィ匕合物の存在下における 場合と比べ、該 L セリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達を促進又は抑制さ せる物質を選択できる。このようなスクリーニングにおいては、陽性対照とした化合物 に比べより高 、効果を有する物質を得ることができる。
また、大理石骨病といった骨代謝異常疾患に罹患した患者は、破骨細胞の形成不 全等が見られるとともに NFAT2 (NFAT2遺伝子)の発現が低下している。すなわち 、本発明のスクリーニング方法は NFAT2又は NFAT2遺伝子の発現を促進する物 質を探索することによって、破骨細胞形成に関連する骨代謝異常疾患の予防及び Z 又は治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。
候補物質の選別は、発現誘導物質によって誘導される NFAT2の発現又は NFAT 2遺伝子の発現が被検物質の存在によって促進されることを指標にして実施できる。
すなわち発現誘導物質存在下で被検物質を接触させた細胞の NFAT2の発現又は NFAT2遺伝子の発現が、発現誘導物質存在下で被検物質を接触させな!/ヽ対照細 胞に比して高くなることをもって、当該被検物質を候補物質として選択することができ る。具体的には被検物質を含む試料の存在下、上記方法で Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達を測定し、対照に比べ該シグナル伝達を促進又は抑制す る物質を選択する。対照の条件等は、上記 NFAT2及び Z又は NFAT2遺伝子の発 現を抑制する物質の探索と同様である。
[0035] 本発明のスクリーニング方法に用いられる培地としては、天然培地、半合成培地、 合成培地、固形培地、半固形培地、液体培地などが挙げられるが、破骨細胞前駆細 胞を破骨細胞に分ィヒさせるために用いられるものであり、動物細胞、特に造血幹細 胞の培養に用いられる栄養培地であれば!/、ずれも好ましく用いることができる。この ような培地としては、例えばダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco ' s Modified Eagles' s Medium ; DMEM)、ハム F 12培地(Ham ' s Nutrient Mixture Fl 2)、マッコイ 5A培地(McCoy' s 5A medium)、最小 MEM培地(Minimum Es sential Medium ; MEM)、 α— MEM培地 ( a—modified Minimum Essenti al Medium ; a - MEM)、 RPMI1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Isocov e ' s Modified Dulbecco ' s Medium ;IMDM)、 StemPro34 (インビトロジェン 社)、 X— VIVO 10 (ケンブレックス社)、 X— VIVO 15 (ケンブレックス社)、 HPG M (ケンブレックス社)、 StemSpan H3000 (ステムセルテクノロジ一社)、 Stemline II (シグマアルドリッチ社)又は QBSF—60 (クオリティバイオロジカル社)などが挙げ られる。
[0036] より具体的には、本発明のスクリーニング方法は、例えば破骨細胞形成の in vitro アツセィ系を用いて行うことができる。具体的には、例えば、非接触性骨髄細胞(24 穴プレートの 1ゥエル当たり 5 X 105細胞)を約 10ng/mLの M— CSFを含む例えば a MEMで 2日間培養し、約 lOOngZmLの可溶性 RANKL、約 lOngZmLの M — CSFの存在下でさらに 3日間培養して破骨細胞を形成させる系を利用できる。ここ に被検物質を含む試料を添カ卩して培養する。また、 in vivoの系であれば、例えば 卵巣摘出等による骨粗鬆症モデルマウスやエンドトキシン誘導性骨吸収動物モデル
を用いた系が挙げられる。さらには、 ES細胞からの破骨細胞形成系を利用すること ができる。 ES細胞を用いたスクリーニング系においては、破骨細胞形成に関わる所 望の遺伝子を欠損する細胞を用いることができる。遺伝子欠損 ES細胞からの破骨細 胞形成系を用いれば、被検物質が破骨細胞形成シグナルのどのシグナル経路に関 与するのかにっ 、て、有益な情報を得ることができる。
このスクリーニングの結果、被検物質を含む試料の添カ卩により、対照の条件下と比 較して Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達が有意に促進又は抑制され れば、用いた被検試料は破骨細胞形成を調節する物質の候補となる。このスクリー- ング方法により単離される物質は、破骨細胞形成を制御するために有用であり、骨代 謝疾患の予防薬や治療薬の開発の上でも有用である。
また本発明のスクリーニング方法は、破骨細胞形成に及ぼす物質の効果を検査す る方法でもあるので、本方法により、破骨細胞形成を抑制する物質を同定することが できる。
また、本発明のスクリーニング方法を用いて、破骨細胞形成に係わる L セリンと拮 抗する物質をスクリーニングすることもできる。この場合、 L セリンと RANKLを含有 する培地に被験物質を添加して、破骨細胞前駆細胞を培養し、上記と同様に破骨細 胞前駆細胞における Lーセリン及び Z又は L グリシンのシグナル伝達を測定するこ とが好ましい。測定の結果、 NFAT2の発現又は NFAT2遺伝子の発現の抑制が認 められるか前記発現が認められなければ、被験物質が Lーセリンの拮抗物質であると 同定できる。同定された L セリンの拮抗物質は、破骨細胞形成を抑制する物質とし て好ましく用いることができる。前記抑制の程度は、被検物質を添加した細胞におけ る NFAT2蛋白質又は前記遺伝子の発現量力 被検物質を添加しないで培養した 破骨細胞前駆細胞 (対照細胞)での NFAT2蛋白質又は前記遺伝子の発現量の約 90%以下、好ましくは 40%以下、さらに好ましくは 30%以下、特に好ましくは 20% 以下、とりわけ好ましくは 10%以下である。この場合において、 L—グリシンを介して NFAT2又は NFAT2遺伝子が発現する場合を除外するため、培地は L グリシン を含有しないものを用いるのが好ましい。具体的は、例えば α—MEM力 L グリシ ンを除 、た培地に任意の L セリンを添加した培地を調製し、調製した培地を用いて
、例えば BMM又は ES細胞を M— CSF及び RANKLの存在下で培養を行う力、あ るいは例えば RAW264細胞を RANKLの存在下で培養を行う。 M— CSF及びRA NKLの濃度は上記した濃度と同様である。
[0038] また、本発明のスクリーニング方法は、破骨細胞形成に係わる Lーセリン及び Z又 は L グリシン様物質をスクリーニングする方法でもある。この場合においては、上記 した培地の成分力 L セリン及び L グリシンを除いた培地に被験物質を添加して 破骨細胞前駆細胞を培養し、上記と同様に破骨細胞前駆細胞における Lーセリン及 び Z又は L グリシンのシグナル伝達を測定することが好ましい。測定の結果、 NFA T2の発現又は NFAT2遺伝子の発現の促進が認められれば、被験物質が L セリ ン及び Z又は L グリシン様物質であると同定できる。同定された Lーセリン及び Z 又は L グリシン様物質は、破骨細胞形成を促進する物質として好ましく用いることが できる。前記促進の程度は、被検物質を添加した細胞における NFAT2蛋白質又は 前記遺伝子の発現量が、被検物質を添加しな!ヽで培養した破骨細胞前駆細胞 (対 照細胞)での NFAT2蛋白質又は前記遺伝子の発現量の約 110%以上、好ましくは 120%以上、さらに好ましくは 130%以上、特に好ましくは 150%以上である。具体 的には、例えば α—MEM力も L セリン及び L グリシンを除いた培地を調製し、調 製した培地を用いて、例えば BMM又は ES細胞を M— CS及び RANKLの存在下 で培養を行うか、あるいは例えば RAW264細胞を RANKLの存在下で培養を行う。 M— CSF及び RANKLの濃度は上記した濃度と同様である。
[0039] 本発明のスクリーニングにより得られた物質は、破骨細胞形成の阻害剤又は促進 剤として用いることができる。臨床適用のための物質の投与条件は、本明細書に記 載した破骨細胞形成系を用いて決定することができる。すなわち、上記検査方法を 用いて投与量、投与間隔、投与ルートを含む投与条件を検討し、適切な予防又は治 療効果が得られる条件を決定することができる。このような物質は、 NFAT2関連疾 患等に対する予防又は治療のための医薬となる。物質はそのままもしくは自体公知 の薬学的に許容できる所望の添加剤、例えば賦形剤 (例えば乳糖、白糖、ブドウ糖、 デンプン、結晶セルロース等)、結合剤(例えばデンプン糊液、ヒドロキシプロピルセ ルロース液、カルメロース液、アラビアゴム液、ゼラチン液、アルギン酸ナトリウム液等
)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸カル シゥム等)、崩壊剤(例えばデンプン、カルメロースナトリウム、炭酸カルシウム等)、溶 剤 (例えば注射用水、滅菌精製水、生理食塩水、緩衝液、植物油等)、乳化剤 (例え ばステアリン酸ポリオキシル 40、セスキォレイン酸ソルビタン、ポリソルベート 80、ラウ リル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴール、アラビアゴム、ポピドン等)、懸濁剤(例えば カノレメロース、メチノレセノレロース、ヒドロキシプロピノレセノレロース、ヒドロキシプロピノレメ チルセルロース、ポピドン等)、安定剤(例えば亜硫酸水素ナトリウム、チォ硫酸ナトリ ゥム、ェデト酸ナトリウム、クェン酸ナトリウム、ァスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトル ェン等)、保存剤 (例えばパラォキシ安息香酸メチル、パラォキシ安息香酸ェチル、 パラォキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化べンザル コユウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ェデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂等)、界面活性剤 (例えばポリソルベート 80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等)などと混合して医薬 組成物として調製することができる。当該医薬組成物は、調製する剤形 (錠剤、丸剤 、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤 、坐剤等の非経口投与剤等)などに応じて経口投与又は非経口投与することができ る。また、上記医薬組成物は、放出制御物質と共に徐放性製剤、 DDS (ドラッグデリ ノリー)製剤とすることもできる。前記放出制御物質としては、自体公知の例えば α— ヒドロキシカルボン酸類(例、グリコール酸,乳酸,ヒドロキシ酪酸等),ヒドロキシジ力 ルボン酸類 (例、リンゴ酸等),ヒドロキシトリカルボン酸 (例、クェン酸等)などの 1種以 上から無触媒脱水重縮合で合成された重合体、共重合体あるいはこれらの混合物、 ポリ一 α—シァノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸(例、ポリ一 γ—ベンジル一 L グ ルタミン酸等)、無水マレイン酸系共重合体 (例、スチレン マレイン酸共重合体等) などの生体内分解性高分子物質等が挙げられる。
患者への投与は、有効成分の性質や調製される剤形に応じて、例えば経皮的、鼻 腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、関節内、皮下、脊髄腔内、脳室内 、又は経口的に行われ得るがそれらに限定されない。投与は全身的又は局所的にさ れ得るが、全身投与による副作用が問題となる場合には病変部位への局所投与が 好ましい。投与量、投与方法は、医薬組成物の有効成分の組織移行性、治療目的、
患者の体重や年齢、症状等により変動するが、当業者であれば適宜選択することが 可能である。
[0041] 上記医薬組成物は、 NFAT2関連疾患の予防及び Z又は治療剤として用いること ができる。 NFAT2関連疾患としては、破骨細胞により骨量が低下する骨軟ィ匕性疾患 又は破骨細胞の形成不全や機能不全による骨硬化性疾患が挙げられる。骨軟化性 疾患としては、例えば原発性骨粗鬆症、加齢性 (老人性)骨粗鬆症、続発性骨粗鬆 症等が挙げられる。続発性骨粗鬆症としては、内分泌 ·代謝異常によるもの(例えば 副甲状腺機能亢進症、性腺機能不全症、 Turner症候群、神経性食思不振症候群 、 Klinefelter症候群等)、炎症によるもの(例えば慢性関節リウマチ等)、先天性疾 患に基づくもの(例えば骨形成不全症、ホモシスチン尿症、肥満細胞症、肥満細胞 腫、 mastocytosis等)、血液疾患に基づくもの(例えば多発性骨髄腫等)、薬剤に基 づくもの(例えばステロイド骨粗鬆症等)が挙げられる。骨硬化性疾患としては、例え ば大理石骨病等が挙げられる。
[0042] 本発明の医薬組成物は、通常、総組成物の重量で、約 0. 1〜90質量%の治療薬 物 (上記物質)を含む。投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象又は患者 の年齢、体重、症状等によって異なり一概に規定できないが、非経口投与では、一 曰当たり体重 lkg当たり約 0. 0001〜1000mg、好まし <は約 0. 001〜300mg、より 好ましくは約 0. 01〜: LOOmgである。しかし、疾患状態、体重、及び治療に対する患 者の個々反応、治療薬物が投与される組成物の種類、及び投与形態、病気の経過 の段階に依存して、これら投与速度を適宜調整することが好ましい。従って、上記し た最小投与量より少なく使うことがときには適量であり、一方、他の場合には治療効 果を得るために上限を越える必要がある。投与は 1〜数回に分けて行うことができ、 一日約 1〜5回投与することができる。対象となる個体としては、例えばヒト又はマウス 、ラット、ゥサギ、ィヌもしくはサル等の非ヒト哺乳動物、及びその他の脊椎動物が挙 げられる。非ヒト哺乳動物への適用は、ヒト骨破壊性疾患又は骨硬化疾患に対する 予防法又は治療法を開発するためのモデルとする上でも有用である。これにより、 N FAT2関連疾患、例えば骨粗鬆症や自己免疫性関節炎における骨破壊や大理石 骨病等における破骨細胞の形成不全や機能不全を予防する新たな治療プロトコル
を開発することができる。
本発明の医薬組成物は、 NFAT2関連疾患の治療及び予防に有用である。特に 本発明の破骨細胞前駆細胞における L セリン及び Z又は L グリシンのシグナル 伝達を抑制する物質を含有する医薬組成物は、破骨細胞による骨吸収が関与する 骨減少性疾患の治療予防及び Z又は予防に有用である。主要な治療対象となる具 体的疾患としては、特に関節リウマチ (rheumatoidarthritis ;RA)を含む自己免疫 性関節炎が挙げられる。関節リウマチは、自己免疫性の慢性炎症性疾患であり、増 殖した滑膜が活発に骨軟骨へと侵入し、多発性の関節破壊をもたらす。本発明の N FAT2関連疾患の予防及び Z又は治療剤は、この関節骨破壊を防止するために好 適に用いられる。
また、本発明の NFAT2関連疾患の予防及び Z又は治療剤が適用され得る他の N FAT2関連疾患としては、歯周病が挙げられる。また、本発明の NFAT2関連疾患の 予防及び Z又は治療剤は、巨細胞腫、癌骨転移、及び色素性絨毛結節滑膜炎 (pig mented villonodular synovitis ;PVS)を含む、破骨細胞による骨吸収亢進を病 態とする様々な疾患に対しても適用され得る。また、骨粗鬆症及び癌の高カルシウム 血症の治療への適用も期待される。さらに、パジェット病、肝炎やエイズに伴う骨量減 少、白血病や多発性骨髄腫に伴う骨吸収'骨破壊、人工関節周囲の骨吸収 (ルース ユング)に対する予防及び Z又は治療にも適用され得る (Rodan, G. A. & Marti n, T. J. , Science,第 289卷, p. 1508— 1514 (2000); Kong, Y. Υ. et al. , Nature,第 402卷, p. 304— 309 (1999); Takayanagi, H. et al. , Arthritis Rheum. ,第 43卷, p. 259- 269 (2000); Honore, P. et al. , Nat. Med. ,第 6卷, p. 521— 528 (2000) )。本発明により、破骨細胞の形成及び機能の制御によ る新たな治療介入が可能となる。
また、本発明の破骨細胞前駆細胞における Lーセリン及び Z又は L—グリシンのシ グナル伝達を促進する物質を含有する医薬組成物は、破骨細胞の形成又は機能不 全による骨硬化性疾患や骨の吸収障害の予防及び Z又は治療に有用である。従つ て、本発明の NFAT2関連疾患の予防及び Z又は治療剤は、大理石骨病等の破骨 細胞の形成不全又は機能不全に基づく疾患に用いることができる。
[0044] また本発明は他の NFAT2発現抑制(又は促進)剤や破骨細胞形成阻害 (又は促 進)剤と併用することもできる。そのような併用例としては、例えば、骨減少性疾患の 治療のためのキットであって、カルシ-ユーリン阻害剤、及び D—セリンを含むキット が挙げられる。カルシ-ユーリン阻害剤と D—セリンとを併用することによって、破骨細 胞形成に関して相乗的な抑制効果を得ることが期待できる。カルシ-ユーリン阻害剤 としては、特にシクロスポリン A及び FK506が好ましく挙げられる。
[0045] 本明細書に記載した発明は、当業者であれば様々な改変を容易に思 、つくことが 可能であろうが、それらの態様は本発明の範囲に含まれる。なお本明細書に引用さ れた文献は、本明細書の一部として組み込まれる。以下、実施例により本発明をさら に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
実施例 1
[0046] [1]培地の調製
9. 4gの Eagle' s MEM [-ッスィ社製]を 1Lの培養用蒸留水に溶かし、 120°C、 1 5分間、高圧蒸気滅菌した。高圧蒸気滅菌後、室温まで冷ました培地に、 10mLの滅 菌済みの培養用蒸留水で溶力した 0. 292gの L—グルタミン [-ッスィ社製]、 25mL の 7. 5%炭酸水素ナトリウム、 10mLの非必須アミノ酸混合液(non— essential am ino acid:NEAA;L—セリン, L—ァラニン, L—グリシン, L—ァスパラギン酸, L— グルタミン酸, L—プロリン及び L—ァスパラギン各 lOmM) [GIBCO— BRL社製]、 lOOmLのゥシ胎児血清 (FBS)を添加した。非必須アミノ酸の各成分はナカライテス ク社 (京都)、 L -ホモセリン及び D -セリンはシグマ社 (米国)力もそれぞれ購入した 。 〔3H〕—L—セリンはアマシャム'バイオサイエンスから購入した。各種非必須アミノ 酸を個別に添加する場合は、上記混合液を使用した際の最終濃度と同じ濃度になる ようにカ卩えた。また、 L—ホモセリン及び D—セリンに関しては、その都度記述する。血 清の透析には SpectraZPor (登録商標) 6 再生ニトロセルロース透析膜 (MWCO lOOO) [Spectrum Laboratories Inc.製]を用いた。まず、 10cm程度に透析膜 を切って培養用蒸留水で簡単に濯いだ。次に、透析膜を 10mM EDTAを含む 5% 炭酸水素ナトリウム溶液に浸し、 60°C、 1時間洗浄した後に 1Lの培養用蒸留水で 5 分間洗浄した。この培養用蒸留水での洗浄は 3回繰り返した。洗浄後は透析膜に血
清を入れ、 4°Cで一晩透析処理を行った。
マウス骨髄細胞からの破骨細胞前駆細胞誘導のための培地は、 a MEM [シグ マ社製]を 1Lの培養用蒸留水に溶かし、 120°C、 15分間、高圧蒸気滅菌した。高圧 蒸気滅菌後、室温まで冷却した培地に lOOmLのゥシ胎児血清 (FBS)を添加し、終 濃度 5ngZmL〖こなるように M— CSF [シグマ社製]を添加した。
[0047] [2]細胞の培養と維持
マウスの単球マクロファージ由来細胞株 RAW264を 10cmプレートに播種し、 37 °C、 CO濃度 5%において、 10mLの上記培地で培養した。プレート一面に細胞が
2
増えたら、増殖した細胞の 1Z10を継代し、以後 3日ごとに継代を行った。
マウス骨髄細胞 I X 106個 Zゥエルを 24ゥエルプレートに播種し、 10%FBS、 5ng ZmL M— CSF入りの a—MEM中で 37°C、 CO濃度 5%で一日培養し、非接着
2
性の細胞のみを回収した。これをさらに lOOngZmL M— CSF存在下で培養し、 3 日間培養後に浮遊細胞を除去したものを破骨細胞前駆細胞とした。
[0048] [3]可溶性 RANKLの調製
RANKL遺伝子を有するマウスストローマ細胞 ST2から RNAを抽出し、次!、で抽 出した RNA 3 μ gから作成した cDNA 1 μ gを铸型として、配列番号 1に示す配列 (5, 一 CAATTGCGGATCCTAACAGAATATCAG— 3,)を有するオリゴヌタレ ォチドをセンスプライマー、配列番号 2に示す配列(5, - CAATTGGAAATGAG TCTCAGTCAATG 3,)を有するオリゴヌクレオチドをアンチォセンスプライマー として PCR法を行って、 RANKL遺伝子を増幅した。なお、 PCR法は Pfx DNA p olymerase (GIBCO— BRL社製)を用い、付属のプロトコルに従って 50 Lの系で 94°C15秒、 52°C30秒、及び 68°C1分のサイクルを 5サイクル行った後、 94°C15秒 、 56°C30秒、 68°C1分のサイクルを 15サイクル行うことによって実施した。かかる PC R法で増幅させて得られた RANKL遺伝子を制限酵素 Mnulで切断し、 RANKLの C末端領域 244アミノ酸を pGEX—2TKベクター(Amersham Pharmacia Biote ch社製)の GST (glutathione S— transferase)のコード領域の下流に位置する B amHIと EcoRI部位に挿入してベクター pGEX— 2TK— RANKLを作製した。この p GEX—2TK— RANKL [可溶性 GST— RANKL]及び、標準ベクターである pGEX
— 2TK [GST蛋白質]をそれぞれ大腸菌 JM109へ導入して組換え蛋白質の発現に 用いた。これらの大腸菌を最終濃度 50ngZmLになるようにアンピシリンを添加した Super Broth (Tryptone Peptone[DIFCO社製] 2. 5g, Bact YeastExtract [DIFCO社製] 15g, NaCl [ナカライテスタ社製] 5gZlL H O)培地に入れて 37
2
°Cで一夜前培養し、続いて OD Super Broth培地 500mLあたりに対して、前培
600
養液 5mL加えて 37°Cで、培地の吸光度(波長: 600nm)が 0. 6〜0. 8の範囲にな るまで主培養を行った。その後 IPTG (Isopropyl— β - D - thiogalactopyranosid e)を最終濃度 0. 25mMになるように添加し、蛋白質の発現誘導を開始し、 18°Cで 約 12時間培養した。
上記で培養した大腸菌を集菌後、上清を捨てて力ゝら菌体を NET緩衝液 (20mM Tris-HCl pH8. 0, lOOmM NaCl, ImM EDTA [ナカライテスタ社製])で 2 回洗浄した。再び上清を捨て、氷上にて主培養液の 1Z250量の NETN緩衝液(20 mM Tris-HCl pH8. 0, lOOmM NaCl, ImM EDTA, 0. 5%NP— 40 [シ ダマ社製])に大腸菌を懸濁し、超音波処理 (30秒, 2回)を行って大腸菌を破壊した 。主培養液量の 1Z1000量の Glutathione Sepharose (登録商標) 4B (50% s lurry [Amersham Pharmacia Biotech AB社製]をあらかじめ NETN緩衝液 で平衡ィ匕させておき、先の上清にカ卩ぇ 4°Cで 8時間反応させた。 Wash buffer (20 mM NaCl, 4mM MgCl - 6H O, ImM 2— ME, 20mM HEPES pH7. 4
2 2
[ナカライテスタ社製])で 3回洗い、ビーズ lmLあたり 1. 6mLの Glutathione— Na CI buffer (lOOmM Tris-HCl pH8. 0, lOOmM NaCl, 20mM glutathio ne [ナカライテスタ社製] ; pHがアルカリ側であることを確認する。)を加え、 1時間以 上反応させて可溶性 RANKLを溶出した。破骨細胞分化誘導に対する LPSの影響 を極力防ぐために内毒素除去カラム(Detoxi— Gel Endotoxin Removing Gel [PIERCE])に通した。得られた可溶性 RANKLは適量を分注して液体窒素で凍結 して 80°Cで保存した。分化誘導を行う際は適宜解凍して用 ヽた。
[4]RAW264細胞の分化誘導
RAW264糸田胞 ίま 24穴プレー卜に ίま 2. 5 X 104個、 3. 5cmプレー卜に ίま 10 X 104 個、 6cmプレートには 20 X 104個、 10cmプレートには 50 X 104個になるように播種
し、 37°C、 CO濃度 5%において 24時間培養した。その後、可溶性 RANKLを含む
2
培地と交換し (0時間)、 37°C、 CO濃度 5%で培養した。 72時間後、再び新しく調製
2
した可溶性 GST— RANKLを含む新鮮培地と交換し、 37°C、 CO濃度 5%で 24時
2
間培養した。この一連の操作により、 RANKL添加 96時間後にプレート一面に破骨 細胞の形成が確認できる(図 1)。
[5]骨髄細胞からの破骨細胞の分化誘導
破骨細胞への分ィ匕誘導は Takahashi, N. et al. , Generating murine o steoclasts form bone marrow Methods Mol. Med. (2003) , pp. 1 29 - 144.に示す方法に従った。
骨髄細胞から [細胞の培養と維持]で示す方法によって得た破骨細胞前駆細胞を 2 4ゥエルプレートに 1 X 104個 Zゥエルで播種し、一日培養した。その後 500ngZmL の RANKLと lOOngZmLの M— CSFを添カ卩し、誘導を行なった。 3日ごとに前述の 量の RANKLと M— CSFを含む新鮮培地に交換した。
[6]レトロウイルスによる NFAT2の強制発現
NFAT2遺伝子あるいは比較対象として GFP遺伝子をレトロウイルスベクター pCX 4puroに組み込み、ピューロマイシンによる薬剤選択で各々の発現ベクターを得た。 これらの発現ベクターをパッケージング細胞株 Platinum— E (Plat E)に pE— eco ベクター及び pGPベクター (Takara社製)とともに導入し、この細胞を 48時間培養し た。上清を 0. 22 μ ηι pore filterでフィルトレーシヨンしたものをレトウィルスのストツ クとした。破骨細胞前駆細胞をレトロウイルス存在下で一晩培養し、続いて前述の通 り破骨細胞への分化誘導を行なった。
[7]細胞固定と TRAP染色
上記 [4]により破骨細胞が形成されたプレートの培地をサクシヨンで除き、 500 L のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加えてプレートを洗い、 PBSを完全に取り除く。こ の操作をもう一度繰り返した後に、 500 Lのメタノールを静かにカ卩え、 30秒経過後 にメタノールを除 、てプレートをよく乾かした。
0. 1M酢酸(pH5. 2)を含む 0. 026M酒石酸と、 0. 1M酢酸(pH5. 2)を含む 12 . 5mg/mL naphthol AS— BI phosphateを 24 : 1の割合で混合した溶液に F
AST GARNET GBCを適量カ卩え、 0. 8 mフィルターに通した溶液を TRAP染 色液とした。細胞固定したプレートに 500 L の TRAP染色液をカ卩え、 37°Cで 1時 間以上反応を行った。この時点で、 TRAP活性を有する細胞は赤紫色を呈する。反 応後、 TRAP染色液を除き、超純水でプレートを洗浄した(図 1 ;TRAP— stained MN cells)。
[0051] [8]骨吸収活性
形成された多核細胞が骨吸収活性を有することを確認した。ヒドロキシアパタイトプ レー HBD Bio Coat (BD Bioscience製)〕上で分化誘導を行い、多核細胞形成 後に、 von kossa染色法により、分解されたリン酸カルシウムを測定した(図 1 ;HA plates) o分解された領域が白く見える。
[0052] [9]細胞抽出液の調製
特記しない場合は、一定時間後培養プレートを氷上に移し、培地上清を除去した。 4°Cに冷やした PBSで細胞を 2回洗浄後、適量の EBC Lysis buffer (50mM Tr is-HCl pH8. 0, 120mM NaCl, 0. 5% NP— 40, ImM EDTA, 0. 5mM
PMSF, lOOKIU/mL Aprotinine, 20mM NaF, 2mM Na VO;)を加えて
3 4 細胞を搔き取り、氷上で 30分間静置した。その後、ピペッティングにより細胞を破壊し 、遠心(15, OOOrpm, 4°C, 10分)後、上清のみを氷上のエツペンドルフチューブに 移し、これを細胞抽出液とした。細胞抽出液は液体窒素で凍結して、 80°Cで保存 した。
NEAAの添加効果を調べる実験においては、 35mm径プレートに 1 X 105個の細 胞を播種し、一晩〜 24時間後に RANKL刺激を行った。一定時間(9— 24時間)後 に培地を除き、 5秒ほど傾けてさらに残った培地を除き、 PBSで洗わずそのまま 30 Lの EBC Lysis bufferで細胞を洗浄(リンス)し、スクレイパーで回収した。その後 、 5分間 100°Cで加熱し、超音波破砕機(トミー)で 10秒間、 5回の処理を行い、細胞 を破壊した。遠心(15, OOOrpm, 4°C, 10分)後、上清のみを氷上のエツペンドルフ チューブに移し、これを細胞抽出液とした。細胞抽出液は液体窒素で凍結して、 8 0°Cで保存した。
調製した細胞抽出液の蛋白質量を Bradford法により測定し、各サンプルの蛋白質 量を同一にした後、 SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS— PAGE)により分 離した。泳動後、ブロッテイングタンクを用いて、ウエット式ブロッテイングにより PVDF 膜 [Poly VinyliDene Fluoride; Millipore社製]に蛋白質を転写した。転写後、 PV DF膜を PBSで 5分間洗浄し、 5% Skim MilkZPBSで 1時間、ブロッキングした。 P BSで 5分間、 PBSTで 10分間、 PBSで 5分間、 PBSで 5分間の順で PVDF膜を洗浄 した後、 5%BSAZPBSで希釈した一次抗体を 2時間以上反応させた。反応後、 PB Sで 5分間、 PBSTで 10分間、 PBSで 5分間の順で PVDF膜を洗浄した。次に、 PV DF膜を、 5% Skim MilkZPBSで希釈した二次抗体を室温で 45分間反応させた 後、 PBSで 5分間、 PBST (Phosphate Buffered SalineZTween)で 10分間、 PBSで 5分間の順で PVDF膜を洗浄し、 ECL[Amersham Bioscience社製]、又 は ECL Plus [Amersham Bioscience社製] で分離された蛋白質を検出した。 これらのプロトコルで下記の条件でウェスタンブロッテイングを行った結果を図 2に 示す。
ウェスタンブロッテイングに用いた抗体:
'抗マウス NFAT2 抗体 [Santa Cruz社製] (1Z500希釈)
'抗マウス c Fos抗体 [Santa Cruz社製] (1Z5000希釈)
'抗マウス j8—actin抗体 [シグマ社製] (1Z8000希釈)
二次抗体として、
•ャギ抗体に対して、ゥシ抗ャギ IgG HRP [Santa Cruz社製]
'マウス f几体に対して、羊 f几マウス IgG HRP conjugated [ Amersham Bioscien ce社製]
'ラビット抗体に対して、プロテイン A— HRP [Amersham Bioscience社製 Γ 用いたサンプル量:
NFAT2 : 10〜20 μ L/lane→ECL plusで検出(1〜5分くらい)
actin:〜 5 μ LZlane→ECLで検出(1分以下)
以下の実施例におけるウェスタンブロッテイングにおいて、該条件は上記と同様で ある。
[0054] [11]回収培地(conditioned medium)の調製法
5 X 105個の RAW264細胞を 10cmプレートに播種し、 37°C、 CO濃度 5%におい
2
て、一夜培養した。翌日、プレートから培地を除き、 PBSで 2回洗浄した後に、培地を 10mL注入し、 37°C、 CO濃度 5%において 24時間培養した。その後、プレートから
2
培地を回収し、これを 0. 2 mフィルターに通して細胞を取り除いた。これを低密度 回収培地とした。また、 40 X 105個の RAW264細胞を 10cmプレートに播種し、同様 の方法で回収した培地を高密度回収培地とした。また、培地を 37°C、 CO濃度 5%
2 において 24時間培養しただけの培地を、 Fresh mediumとした。これらの培地を 4 °Cにて保存し、破骨細胞の分ィ匕誘導を行う際は、これらの培地に必要量の可溶性 R ANKLを加えた。
実施例 2
[0055] NFAT2siRNAの設計と RAW264細胞への導入、発現クローンの単離
NFAT2 遺伝子の配列の中力 標的配列(5,— GGTACGTACGGATATCA GG— 3';配列番号 3)を選び、該当する DNAを pSUPER ベクター (Oligo Engi ne, US)に組み込み発現させた。このベクターをネオマイシン耐性カセットとともに RAW264細胞に導入し、 NFAT2 - siRNA発現細胞株を選択した。
実施例 3
[0056] NFAT2の誘導
「材料と手法」で示した条件下で RAW264細胞を播種し、 RANKL刺激をカ卩えるこ とにより、分化誘導を行った。 RANKL刺激(=0時間)後、経時的に細胞抽出液を調 製し、抗 NFAT2抗体を用いたウェスタンブロッテイングにより、 NFAT2の発現を確 認した(図 3)。 RANKL刺激後少なくとも 12時間から NFAT2蛋白質の発現が確認 されるとともに、 48時間以降もその発現が確認された。なお、 /3—actinは、使用した 蛋白質量を確認するためのものである(以下の実験においても同様)。
実施例 4
[0057] [1]多核細胞形成に及ぼす NFAT2発現の効果
RANKL刺激により RAW264細胞から多核細胞が形成される過程で NFAT2が 果たして!/ヽる役割を確かめるために、実施例 2で作成した NFAT2 - siRNA発現細
胞株を使用した。ここでは、前記 NFAT2— siRNA発現細胞株の代表例として 2つ のクローン、 KD—l, KD— 4を示す。これらの株では確かに NFAT2の蛋白質の発 現レベルが著しく低下しているのが確認できる。なお、 MOCKとは、 siRNAを発現 するために用いたベクターそのものを導入した株である(図 4A)。 RAW264親細胞 株を RANKL刺激した場合では、 96時間後に多核の細胞の形成が、 GST刺激では 単核細胞がそれぞれ見られるのに対し、 KD- 1あるいは KD— 4を同じ条件で分ィ匕 誘導をかけても、多核細胞の形成が見られない(図 4B)。このことから、 NFAT2の発 現が多核細胞形成に必須であることが分かる。
[0058] [2]多核細胞形成効率に及ぼす細胞播種密度の効果
ディッシュに RAW264細胞を播種する際に、細胞数をそれぞれ、通常分化誘導を 行う細胞密度(2. 5 104個7ゥェル)の0. 5倍、 1倍、 2倍、 4倍、 8倍に調整し、同 一条件下で破骨細胞への分化誘導を行った。それぞれの細胞は誘導終了後 TRAP 染色を行い、 TRAP陽性細胞を染色した。その結果、通常条件下での細胞密度をピ ークにして細胞密度が高くなるほど、破骨細胞の分ィ匕誘導効率 (多核細胞形成率) は減少し、 8倍の細胞密度では破骨細胞の形成はほとんど確認できなカゝつた(図 5)。 この際、細胞密度が 0. 5倍のプレートでも分化誘導効率が約 60%まで低下したが、 これはプレート中の細胞の絶対数が少な 、ため、必然的に形成される破骨細胞も少 なくなったことが原因だと考えられる(図 6)。
[0059] [3]骨髄細胞の多核細胞形成効率に及ぼす細胞播種密度の効果
同様の現象は RAW264細胞のかわりにマウス骨髄細胞力 調製した細胞系にお V、ても見られた。マウス骨髄細胞力も誘導した破骨細胞前駆細胞を 24ゥエルプレート に播種する際に、細胞数をそれぞれ、通常分ィ匕誘導を行なう細胞密度(1. 0 X 104 個 Zゥヱル)の 0. 5倍、 1倍、 2倍、 4倍、 8倍、 16倍、 32倍に調製し、「実施例 1」で示 した条件下で破骨細胞への分化誘導を行なった。それぞれの細胞の誘導終了後 TR AP陽性細胞を染色した。その結果、 RAW264細胞マウス細胞の場合と同様に細胞 密度が高くなるほど破骨細胞の形成が起こらなくなることが確認された(図 17A、 B)。 このように、より生体内の現象を反映する骨髄細胞系でも RAW264細胞と同様の現 象が再現された。
実施例 5
[0060] NFAT2の発現に及ぼす細胞播種密度の効果
図 3、 4の結果は、 NFAT2の発現が多核細胞形成への進行に重要であることを示 唆している。そこで、 NFAT2蛋白質の発現が細胞密度に依存していることをウェスタ ンブロッテイングで確認した。なお、プレートに播種した細胞密度は分化誘導を行う細 胞密度のそれぞれ 1倍 (2. 5 X 104個 Zゥェル )、 2倍、 4倍、 8倍密度に調整し、 RA NKL刺激後、同一条件下で 24時間培養した細胞の抽出液を用いた。その結果、 N FAT2蛋白質の発現が、細胞密度に依存 (反比例)して減少することが確認された ( 図 7)。
実施例 6
[0061] 多核細胞の形成に及ぼす培地成分の効果
上に記したように、高密度〔8倍密度:(2 X 105個 Zゥエル)〕で細胞を播種すると、 通常の条件で分化誘導を行っても多核細胞の形成効率は著しく低下する。この原因 を明らかにするために、高密度で播種した培養プレートから 24時間後に培地(condi tioned medium)を回収し、その培地を用いて通常条件下 (低密度播種)で分ィ匕誘 導を行った。 96時間後、 conditioned mediumと新鮮培地(fresh medium)とで 多核細胞の形成効率を比較したのが図 8である。
この実験から、 conditioned mediumを用いた場合には、例え細胞数が低密度で あっても、分ィ匕誘導の効率が低下していることが分かる。このことから、高密度で培養 した結果、培地成分に何らかの変化が生じ、それが多核細胞形成を抑制していること が示唆された。
実施例 7
[0062] NFAT2の発現回復における NEAAの効果
培地成分の変化と NFAT2の発現変化ならびに多核細胞形成との関連を調べるた めに、 NFAT2の発現を指標にして、多核細胞の形成に関わる要因を探った。培地 成分が変化する原因として、(1)高密度培養下で何か阻害活性因子が分泌される、 ( 2)高密度下で培地の成分が変化する、が考えられた。そこで、 NEAAの存在下 [pr e - NEAA ( + ) ]、非存在下 [pre - NEAA ( -) ]で conditioned mediumを作
成し、その後回収した conditioned mediumで次の培養(低密度)を行う際に NEA Aを添カ卩する効果(post— NEAA)を調べた。その結果、 conditioned medium調 製時の NEAA(pre— NEAA)の有無は大して重要ではなぐむしろ後力 添カ卩する NEAA (post—NEAA)の影響が大きいことが分かった(図 9)。従って、(低密度で) 培養を開始する時点で NEAAをカ卩えるかどうかが、 NFAT2の発現に重要であること が示唆された。このことを確かめるために、 NEAAを省いた場合に、 NFAT2の発現 にどのような影響が出るかを調べた(図 10)。その結果、低密度培養下 (L)で post— NEAAを加えると、 conditioned mediumでも NFAT2の発現が誘導されることが 再確認された。新鮮培地で、高密度培養条件下 (H)で培養する際に NEAAを抜くと 、 NFAT2への抑制効果が増大することから、培地中に阻害活性が存在するという可 能性よりも、 NEAAの有無が阻害活性の有無と連関して 、る可能性がより強く示唆さ れた。以上のことをさらに確認するために、高密度培地を作成する際に、 FBS、ダル タミン酸ならびに NEAAをカ卩える時期を conditioned medium作成時(pre— )ある いは RANKL添加時 (post—)に設定して、前述と同様に低密度の条件で細胞培養 を行った。結論として、 RANKL添カ卩時( = post)に、 NEAAを加えると誘導レベル が高くなることが明らかとなった。すなわち、 NEAAの添カ卩の有無が NFAT2の発現 レベルと密接に関連して 、ることが分力つた(図 11)。
実施例 8
[0063] RAW264細胞の増殖に対する NEAAの効果
上記の実験は、 NEAAが NFAT2の発現に重要な役割をして ヽることを示唆するも のであった。し力し、 NEAAが RAW264細胞の増殖自身に何力影響を与えている のではないかという懸念があつたので、 NEAAが細胞の増殖そのものには影響しな いということを確かめるために、グルタミン(Gin)、 NEAAならびに血清の有無の条件 で 24時間 RAW264細胞を培養した。その結果、細胞の増殖ならびに生存は血清、 グルタミンの有無に大きく影響される力 非必須アミノ酸の有無には殆ど影響されな いことが分力つた(図 12)。
実施例 9
[0064] NEAA中のセリン及びグリシンの効果
これまでの実験より、 NEAAが NFAT2の発現に関わることが示唆されたので、 NE AA混合液に含まれる 7種類のアミノ酸のうちどのアミノ酸が重要なのかを決定するた めの実験を行った(図 13)。まず、血清はアミノ酸を始めとして様々な物質、分子を含 んでいるため、ノ ックグラウンドの要因となる可能性がある。そこで、アミノ酸を含む低 分子量分子を除くため、これ以後透析処理を行った血清 (F * )を用いた。 Conditio ned mediumについて、調製時の NEAA (pre— NEAA)の有無は重要ではなく、 むしろ後から添加する NEAA (post— NEAA)の影響が大きいことを再確認できた。 図 13の右 7レーンでは 7種の NEAAのうち、各アミノ酸を順次一つずつ抜いたものを 用意し、 RANKLと同時に conditioned mediumに戻した。セリンを除去した NEA Aではシグナルの回復が弱くなつている。なお、この実験は RANKL刺激後 12時間 の細胞溶解液を用いて実験を行った。
図 13で行なった実験からは、セリンの関与が示唆された。しかし、その条件下では NEAA全種類を戻しても回復のレベルが限られたものであり、ダイナミックレンジが小 さくなつてしまうきらいがあつたので、より定量的に行うために、新鮮培地 (F)を作成す る際に順次アミノ酸を抜いた NEAAを用いた実験を行った(図 14)。その結果、セリ ンがな!/、と、他の NEAA成分があっても NFAT2の誘導が著しく低下することが分か つた。逆に、他の NEAAがない状態でセリンのみを戻すと、ほぼ完全に NFAT2の発 現レベルが回復した。また、グリシンでも少し回復が見られた。これらのことから、 NE AAの中でもセリンが決定的な要因であることが明ら力となった。
実施例 10
セリンアナログによる NFAT2発現、多核細胞形成への阻害効果
以上の結果から、 MEM培地を用いた RAW264細胞からの多核細胞形成過程に おいて、 RANKL刺激により NFAT2が誘導される際に、 NEAAとしてはセリンの存 在が必要十分であることが示唆された。また、グリシンにも弱いながら同様の誘導活 性が認められた。これらのことから、セリンの構造異性体 (Lーセリン、 D—セリン、 L- ホモセリン)を用いることにより、その NFAT2誘導活性を拮抗阻害的に抑制できる可 能性が考えられたので、まず、 D—セリン及び L—ホモセリンという 2種類の物質を用 いてその可能性を検証した。
まず、 D セリン及び L ホモセリンともそれ自身では NFAT2の発現を誘導する活 性を示さな力つた。一方、 D セリンを、 L セリンに対して過剰量をカ卩えていつたとこ ろ、 10倍量添加した場合に、 L セリンによる NFAT2の発現活性を抑制することが 確かめられ、一方で L ホモセリンでは D セリンに比べて弱 、阻害活性が認められ た(図 15)。
次に、 D セリンの多核細胞形成への影響を調べた(図 16)。その結果、以下のこ とが分力つた。(1)血清の透析処理による影響はない(図 16A)、(2) L セリンがな いと分ィ匕の途中までは進行する力 多核細胞の形成は殆ど見られない(図 16B)、 (3 ) D—セリン +RANKLによる 4日間の培養後、細胞の生存率が悪くなる(図 16C)、 ( 4) L セリンにより生存は回復する(図 16D)、(5)さらに過剰量の D セリンを作用さ せると、再び多核細胞の形成効率が落ちる(図 16E)。
実施例 11
[0066] [1]Lーセリン依存的な NFAT2の発現
実施例 10の実験結果から、複数のセリン構造異性体の内、 Lーセリンが NFAT2の 発現と多核細胞形成に関与することが示された。 NFAT2の発現が Lーセリンに依存 することを確かめるために次の実験を行なった。 RAW264細胞を通常密度条件(2. 5 104個7ゥェル;以下、通常密度において同じ。)、 10%FBS存在下の通常培地 で 2時間培養を行なった。その際、培地に添加する L—セリンをそれぞれ通常量(X 1 ;0. ImM)の 0倍、 0. 1倍、 0. 3倍、 1倍の濃度になるように調製した。培養後の細 胞における NFAT2の発現量を、抗 NFAT2抗体を用いたウェスタンブロッテイング によって確認した(図 18B)。その結果、 RAW264細胞中の NFAT2蛋白発現量は 培地中の Lーセリン存在量に比例して増加することが示された。 Lーセリンを含まな ヽ 培地(X 0)では NFAT2の発現は見られなかった。このことから、 NFAT2の発現に はし セリンが必要であり、さらにその効果は量依存的であることが確かめられた。
[0067] [2]L—セリンの存在量に及ぼす細胞播種密度の効果
多核細胞形成が細胞播種密度によって影響を受けることから、高密度になるにつ れて培地中のしーセリンの量が減少して 、ることが考えられた。そこで高密度での細 胞播種を行なつたときの培地中の L セリンの濃度を測定した。 RAW264細胞を低
密度(low: 2. 5 X 104個 Zゥエル)あるいは高密度(high: 2 X 105個 Zゥエル)で播 種し、 RANKL存在下〔( + )RANKL〕あるいは非存在下〔(―)RANKL〕で〔3H〕 - L—セリン(10 μ Ci/mL)を含む通常培地で 24時間培養した。複数のタイムポイント (0. 5, 1, 2, 4, 8, 24時間)で培地 10 L中に存在する L—セリンを3 Hの放射能を 指標としてシンチレーシヨンカウンターを用いて測定した。その結果、培養時間に比 例して培地中の Lーセリンの存在量が低下し、その減少率が高密度条件下では低密 度条件下よりも高 、ことが示された(図 18A)。 RANKLの有無によって L—セリンの 減少量に大きな変化がないことから、培地中の Lーセリンの存在量の減少は、主に細 胞播種密度によることが明ら力となった。以上の結果から、細胞密度の上昇による多 核細胞形成阻害は、培地中の Lーセリンの存在量の低下に起因する NFAT2の発現 量減少が原因となることが確かめられた。
実施例 12
[0068] [1]骨髄細胞の増殖に対する Lーセリンの効果
NEAAの存在、中でも Lーセリンが NFAT2の発現に重要な役割を果たしているこ とが明らかとなり、次に RAW264細胞のかわりにマウス骨髄細胞について、 Lーセリ ンの効果を検討した。まず、 L—セリンがマウス骨髄細胞の増殖に関与するかどうか を調べるため、骨髄細胞を透析処理した FBSを用いて 3日間培養した。その際、添 加する Lーセリンの濃度を通常(X I ;0. ImM)の 0倍、 0. 1倍、 0. 3倍、 3倍、 10倍 とし、その他については「実施例 1」に示したとおりである。細胞の増殖は、 MTTアツ セィを測定することにより評価した。 MTTアツセィは MTT cell growth kit (Ch emicon International Inc. Ca, USA)を用いた。その結果、 L—セリンは NFA T2の発現に必要であるものの、細胞の増殖にはほとんど影響しな 、ことがわかった( 図 20A)。これは RAW264細胞を用いた「実施例 8」に記載の実験と同様の結果で ある。
[0069] [2]骨髄細胞の多核細胞形成に対する Lーセリンの効果
次に、骨髄細胞において多核細胞形成と L—セリンの関係を確かめた。骨髄細胞 から誘導した破骨細胞前駆細胞を通常密度で播種し、 Lーセリン単独ある!/、は Lーセ リン非存在の NEAAを培地中に添加した場合について、それぞれ「実施例 1」に示し
た方法で破骨細胞誘導を行ない、 5日間培養後に TRAP染色を行なった。その結果 Lーセリン非存在下では破骨細胞前駆細胞の多核細胞形成が抑制されると 、う、 RA W264細胞の場合と同様の結果を得た(図 20B)。
実施例 13
[0070] [l]c fosの発現におよぼす Lーセリンの効果
現在、 NFAT2の発現には転写因子 c— fosが関わっていることが知られている(Ta kayanagi, H et al. , 2002, Dev. Cell, 3, 889— 901 ;Matsuo, K et al. , 2004, J. Biol. Chem. 279, 26475— 26480)。 NFAT2の発 現は細胞密度に比例して減少することから、実施例 3と同様の条件下での c Fosの 発現を調べた。 RAW264細胞を通常密度、 RANKL存在下で 48時間培養し、複数 のタイムポイントで回収後、抗 c Fos抗体を用 、たウェスタンブロッテイングによって c— Fos蛋白量を測定した(図 19A)。 c— Fos蛋白の発現量は RANKL刺激後 12時 間から 24時間をピークに発現が減少した。また、 RAW264細胞を低密度 (通常密度 )および高密度 (8倍)で 24時間培養後、各々の細胞溶解液中の c Fos蛋白質の発 現量を抗 c— Fos抗体を用いてウェスタンブロッテイングにより比較したところ、高密度 条件下では c— Fos蛋白質量は減少することが示された(図 19B)。
以上の結果から、 c— Fosの発現もまた細胞密度依存的であることが示された。更に c— Fosと L セリンの関係を調べるために以下のような実験を行なった。 RAW264 細胞を低密度 (通常密度)に播種し、 NEAAと L セリン及び Z又は L グリシンを異 なる組み合わせで培地に添加したものをそれぞれ 24時間培養した。 24時間後に細 胞を回収し、抗 NFAT2抗体および抗 c Fos抗体を用いたウェスタンブロッテイング を行なった(図 19C)。その結果、 NFAT2及び c— Fosはともに L セリン依存的に 発現することが示された。従って Lーセリンは c— Fosの発現制御を介して NFAT2の 発現を制御して!/ヽる可能性が示された。
[0071] [2]骨髄細胞の c Fos及び NFAT2発現におよぼす Lーセリンの効果
さらに骨髄細胞力 誘導される破骨細胞における c Fos及び NFAT2の発現が L ーセリン依存的に起こることを確かめるため、破骨細胞前駆細胞を通常密度で培養 し、 L セリン存在下あるいは非存在下で破骨細胞への分ィ匕誘導を行なった。 48時
間培養後抗 c Fos抗体あるいは抗 NFAT2抗体を用いたウェスタンブロッテイング を行ない、 c— Fosと NFAT2それぞれの蛋白質発現を検出した。その結果、 L セリ ン非存在下では c Fosおよび NFAT2の発現は減少しており、これら 2分子の発現 力 SL セリン依存的であること力 より生体を反映している骨髄細胞においても確かめ られた(図 20C)。
[0072] [3]骨髄細胞の多核細胞形成に対する NFAT2の効果
これまでの結果から、骨髄細胞にお!、ても破骨細胞への分化誘導時の多核細胞形 成にはしーセリンと NFAT2の発現が重要であることが示された。ここで L セリンと N FAT2の両方の発現が多核細胞形成過程に必須力どうかを検討するために、レトロ ウィルス感染を介して NFAT2を強制発現させた破骨細胞前駆細胞を通常密度で培 養し、 Lーセリン存在下あるいは非存在下で破骨細胞への分ィ匕誘導実験を行なった 。 5日間培養後に TRAP染色を行なった結果、 Lーセリン非存在下においても NFA T2の強制発現によって Lーセリン存在下とほぼ同量の多核細胞形成が行なわれるこ とが明らかとなった(図 20D)。 NFAT2のかわりに GFPを発現させた細胞ではセリン 非存在下では多核細胞形成が起こらな力つたことから、多核細胞形成には NFAT2 が必須であり、 Lーセリンの存在がなくとも NFAT2さえ発現すれば破骨細胞の形成 力 S起こることが示された。
産業上の利用可能性
[0073] 本発明の方法は、 NFAT2関連疾患の予防又は治療方法として有用である。また、 本発明の薬剤は、 NFAT2に関連する疾患、例えば骨粗鬆症、自己免疫性関節炎、 パジェット病又は関節リウマチを含む様々な骨減少性疾患及び骨癌、又は大理石骨 病等の骨硬化性疾患、あるいは免疫性疾患等に対する副作用の少な 、薬剤として 有用である。また、本発明のスクリーニング方法は、新規な NFAT2の発現制御剤の 探索に有用である。