明 細 書
上皮増殖因子受容体のチロシンキナーゼ阻害剤の抗腫瘍効果の有効性 の予測又は診断方法
技術分野
[0001] 本発明は、ゲフイチ-ブ等の上皮増殖因子受容体のチロシンキナーゼ阻害剤によ る抗腫瘍効果を迅速且つ正確に予測又は診断する方法に関する。また、本発明は、 該予測又は診断方法を実施するために使用されるキットに関する。
背景技術
[0002] 上皮増殖因子受容体 (以下、 EGFRと表記する)のチロシンキナーゼを阻害する薬 剤は、非小細胞肺癌に対して抗腫瘍作用を効果的に発揮できることが分力つている 。 EGFRを標的とした抗腫瘍剤であるゲフイチ-ブは、従来の化学療法が無効である 非小細胞肺癌に対して、高い抗腫瘍効果が期待される薬剤として、 2002年から日 本国内で市販されている。ゲフイチニブの投与は、非小細胞肺癌の 10〜30%の患 者に対しては有効であるものの、他の患者には抗腫瘍効果を示さないだけでなぐ 7 %程度の患者には急性肺障害等の致死的副作用が引き起こされることが分力つてい る。そのため、ゲフイチ-ブ等の EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤の投与に先立って 、該薬剤の抗腫瘍効果を正確に予測することにより、抗腫瘍効果が期待される患者 を正確に選択することが重要とされて 、る。
[0003] これまでに、 EGFR遺伝子のェクソン 18、 19又は 21に変異が認められる場合には 、ゲフイチ-ブがその非小細胞肺癌に対して有効な抗腫瘍作用を発揮できることが 明らかにされている。し力しながら、 EGFRの遺伝子変異の確認には、従来、その遺 伝子配列の同定が必要とされており、この方法では (1)変異同定に時間がかかる、 (2) 微量検体からの検出が困難、(3)凍結標本が必要であり、遺伝子が断片化されている ホルマリン固定検体を使用できな 、、 (4)r¾ 、純度の検体が必要である等の問題点が あった。このような従来技術を背景として、微量検体から迅速且つ正確に EGFR遺伝 子のェクソン 18、 19及び 21の遺伝子変異を検出する技術の確立が望まれていた。
[0004] 一方、従来、微量の検体から迅速に遺伝子上の配列異常を検出する方法として、 P
CR—SSCP (single— strand conformation polymorphism)法が知られている。この PC R— SSCP法では、一般に遺伝子変異の検出率は 80〜90%程度であることが知ら れている(例えば、非特許文献 1参照)。しかしながら、ゲフイチ-ブの抗腫瘍効果が 期待される患者を正確に選択するためには、 100%又はそれに近い検出率で EGF R遺伝子のェクソン 18、 19及び 21の遺伝子変異を検出することが求められており、 従来の PCR— SSCP法の精度では、臨床的応用の観点力も満足できるものではな かった。
非特許文献 1 :須貝幸子、「がんの遺伝子診断」、都臨技会誌、 Vol.31、 No.l、 p.12-1 6
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決することである。詳細には、本発明 は、微量検体から迅速且つ正確に EGFR遺伝子のェクソン 18、 19及び 21の変異を 検出することによってゲフイチ-ブ等の EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤の抗腫瘍 効果を迅速且つ正確に予測する技術を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0006] 本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、 PCR—SSCP法によ る EGFR遺伝子のェクソン 18、 19及び 21の変異の検出に特に適したプライマーを 見出した。そして、該プライマーを用いて PCR— SSCP法を行うことにより、検体とし てホルマリン固定検体を使用しても、 100%又はそれに近い検出率で EGFR遺伝子 のェクソン 18、 19及び 21の遺伝子変異を検出でき、その遺伝子変異の検出の有無 に基づいてゲフイチ-ブの抗腫瘍効果を迅速且つ正確に予測できることを確認した 。本発明は、力かる知見に基づいて、更に検討を重ねることによって完成したもので ある。
[0007] 即ち、本発明は、下記に掲げる発明である:
項 1. 下記工程を含有する、上皮増殖因子受容体のチロシンキナーゼ阻害剤によ る非小細胞肺癌に対する抗腫瘍効果の有効性の予測又は診断方法:
(1)非小細胞肺癌患者力 採取した肺癌組織片に含まれる上皮増殖因子受容体遺
伝子のェクソン 18、 19及び 21の部分配列の内の少なくとも 1種の配列を、下記 (a)〜( e)のプライマーセットから選ばれる少なくとも 1種のプライマーセットを用いて PCR法に より増幅させる工程、
(a) 5し AGGTGACCCTTGTCTCTGTG— 3'及び 5'— CCCCACCAGACCATGAGAG— 3' のプライマーセット
(b) 5'—TACACCCAGTGGAGAAGCTCC— 3'及び 5 '—CCCCACCAGACCATGAGAG— 3'のプライマーセット
(c) 5,— CAATTGCCAGTTAACGTCTTCC— 3'及び 5'— GGAGATGAGCAGGGTCTAG AG- 3'のプライマーセット
(d) 5し CTTGGAGGACCGTCGCTT- 3'及び 5し AACAATACAGCTAGTGGGAAGG - 3'のプライマーセット
(e) 5し CTTGGAGGACCGTCGCTT- 3'及び 5し CCTCCTTACTTTGCCTCCTTC- 3' のプライマーセット
(2)増幅産物を SSCP法により分析し、上記部分配列中の変異の有無を確認するェ 程、及び
(3)変異の有無に基づいて、上記患者に対する上皮増殖因子受容体のチロシンキナ ーゼ阻害剤の抗腫瘍効果の有効性を予測する工程。
項 2. 工程 (1)において、(a)又は (b)のプライマーセット、(c)のプライマーセット、及び( d)又は (e)のプライマーセットを用いて、上皮増殖因子受容体遺伝子のェクソン 18、 1 9及び 21の部分配列を PCR法によりそれぞれ増幅させる、項 1に記載の予測又は診 断方法。
項 3. 工程 (1)において、(a)のプライマーセット、(c)のプライマーセット、及び (e)のプラ イマ一セットを用いて、上皮増殖因子受容体遺伝子のェクソン 18、 19及び 21の部分 配列を PCR法によりそれぞれ増幅させる、項 1又は 2に記載の予測又は診断方法。 項 4. 肺癌患者力も採取した肺癌組織片が、ホルマリン固定されたものである、項 1 乃至 3の 、ずれかに記載の予測又は診断方法。
項 5. 上皮増殖因子受容体のチロシンキナーゼ阻害剤がゲフイチ-ブである、項 1 乃至 4の 、ずれかに記載の予測又は診断方法。
項 6. 下記 (a)〜(e)のプライマーセットから選ばれる少なくとも 1種のプライマーセット を含有する、上皮増殖因子受容体のチロシンキナーゼ阻害剤による非小細胞肺癌 に対する抗腫瘍効果の有効性を予測又は診断するためのキット:
(a) 5し AGGTGACCCTTGTCTCTGTG— 3'及び 5'— CCCCACCAGACCATGAGAG— 3' のプライマーセット、
(b) 5'—TACACCCAGTGGAGAAGCTCC— 3'及び 5 '—CCCCACCAGACCATGAGAG— 3'のプライマーセット、
(c) 5,— CAATTGCCAGTTAACGTCTTCC— 3'及び 5'— GGAGATGAGCAGGGTCTAG AG- 3'のプライマーセット、
(d) 5し CTTGGAGGACCGTCGCTT- 3'及び 5し AACAATACAGCTAGTGGGAAGG - 3'のプライマーセット、及び
e)5し CTTGGAGGACCGTCGCTT- 3'及び 5し CCTCCTTACTTTGCCTCCTTC- 3' のプライマーセット。
図面の簡単な説明
[0008] [図 1]実施例 1にお 、て、肺癌組織片の凍結標本を検体として、(a)又は (b)のプライマ 一セットを使用して得られた PCR—SSCP法による電気泳動の結果である。
[図 2]実施例 1において、肺癌組織片の凍結標本を検体として、(c)のプライマーセット を使用して得られた PCR— SSCP法による電気泳動の結果である。
[図 3]実施例 1において、肺癌組織片の凍結標本を検体として、(d)又は (e)のプライマ 一セットを使用して得られた PCR—SSCP法による電気泳動の結果である。
[図 4]実施例 2にお ヽて、肺癌組織片の凍結標本及びホルマリン固定標本を検体とし て、プライマーセット (c)を使用して得られた PCR—SSCP法による電気泳動の結果で ある。
発明を実施するための最良の形態
[0009] 以下、本発明を詳細に説明する。
ω杭 11重瘍効 の有効件の予測又は診断 法
本発明は、 EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤の非小細胞肺癌に対する抗腫瘍効 果の有効性を予測又は診断する方法である。 EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤とは
、 EGFRのチロシンキナーゼの活性を阻害する分子標的抗癌剤のことである。該チロ シンキナーゼ阻害剤としては、特に制限されないが、例えばゲフイチニブゃエロチニ ブ等が例示される。特に、ゲフイチ-ブは、他の治療法で効果がな力つた進行性非 小細胞肺癌の治療に使用されている分子標的抗癌剤であり、本発明の方法は、ゲフ イチ二ブの非小細胞肺癌に対する抗腫瘍効果の有効性の予測に好適に使用される
。ゲフイチ-ブは、ァストラゼネカ社により商品名「ィレッサ」として市販されている。
[0010] 本発明にお 、て、抗腫瘍効果の有効性が判断される癌は非小細胞肺癌であるが、 好ましくは進行性の非小細胞肺癌である。
以下、本発明の方法を工程毎に説明する。
丁編
本発明の方法では、まず、非小細胞肺癌患者力 採取した肺癌組織片に含まれる 上皮増殖因子受容体遺伝子のェクソン 18、 19及び 21の部分配列の内の少なくとも 1種の配列を、特定のプライマーセットを用いて PCR法により増幅させる(工程 (1))。
[0011] 非小細胞肺癌患者力 肺癌組織片を採取する方法としては、特に制限されないが 、例えば、気管支鏡下生検や経皮生検等の臨床学的に通常実施されている方法が 例示される。なお、該肺癌組織片は、癌細胞と正常細胞が混在するものであってもよ い。採取された肺癌組織片は、そのまま本工程 (1)において使用してもよいが、ホルマ リン固定したものや凍結保存したものを使用してもよい。特に、ホルマリン固定した肺 癌組織片は、過去に採取したものを使用できると!、う点で利点がある。
[0012] 本工程では、まず、肺癌組織片に対して DNA抽出処理を行い、肺癌組織片由来 のゲノム DNAを調製する。 DNAの抽出処理は、本発明の技術分野において周知の 方法で実施できる。簡便には、 Fast DNA kit(Qbiogene Inc.製)等の市販の DNA抽 出キットを利用することもできる。
[0013] 本工程では、極めて微量の DNAであっても、目的の部分配列を増幅できる。例え ば、 100万個の正常遺伝子に 1個の異常遺伝子が混入していても、該異常遺伝子を 増幅し、これを検出することが可能である。
[0014] 得られたゲノム DNAを铸型として、下記 (a)〜(e)のプライマーセットから選ばれる少 なくとも 1種のプライマーセットを用いて、 PCR法により EGFR遺伝子のェクソン 18、 1
9及び 21の部分配列の内の少なくとも 1種の配列を増幅させる。
(a) 5 '-AGGTGACCCTTGTCTCTGTG-3 ' (配列番号 1)及び 5'- CCCCACCAGACC ATGAGAG- 3' (配列番号 2)のプライマーセット
(b) 5,- TACACCCAGTGGAGAAGCTCC- 3' (配列番号 3)及び 5し CCCCACCAGAC CATGAGAG-3' (配列番号 2)のプライマーセット
(c) 5,- CAATTGCCAGTTAACGTCTTCC- 3' (配列番号 4)及び 5し GGAGATGAGCA GGGTCTAGAG- 3' (配列番号 5)のプライマーセット
(d) 5,- CTTGGAGGACCGTCGCTT- 3' (配列番号 6)及び 5し AACAATACAGCTAGT GGGAAGG-3' (配列番号 7)のプライマーセット
(e) 5,- CTTGGAGGACCGTCGCTT- 3' (配列番号 6)及び 5し CCTCCTTACTTTGCC TCCTTC-3' (配列番号 8)のプライマーセット
上記 (a)のプライマーセットにより正常 EGFR遺伝子のェクソン 18の部分配列(219 bp)を増幅することができる。また、(b)のプライマーセットにより正常 EGFR遺伝子の ェクソン 18の部分配列(169bp)を増幅することができる。(c)のプライマーセットにより 正常 EGFR遺伝子のェクソン 19の部分配列(239bp)を増幅することができる。( の プライマーセットにより正常 EGFR遺伝子のェクソン 21の部分配列(222bp)を増幅 することができる。また、(e)のプライマーセットにより正常 EGFR遺伝子のェクソン 21 の部分配列(154bp)を増幅することができる。
[0015] 即ち、ェクソン 18の変異の検出には (a)又は (b)のプライマーセットが使用され、エタ ソン 19の変異の検出には (c)のプライマーセットが使用され、ェクソン 21の変異の検 出には (d)又は (e)のプライマーセットが使用される。
[0016] 本発明の方法において、 EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤の非小細胞肺癌に対 する抗腫瘍効果の有効性を高 ヽ精度で判定するためには、 EGFR遺伝子のェクソン 18、 19及び 21の全てにおいて変異の有無を確認しておくことが望ましい。故に、本 工程において、(a)又は (b)のプライマーセット、(c)のプライマーセッ、ト及び (d)又は (e) のプライマーセットをそれぞれ用いて、上皮増殖因子受容体遺伝子のェクソン 18、 1 9及び 21の部分配列を PCR法によりそれぞれ増幅させることが望ましい。特に、より 一層高い精度で変異の有無を確認するためには、(a)のプライマーセット、(c)のプライ
マーセット及び (e)のプライマーセットをそれぞれ用いて、上皮増殖因子受容体遺伝 子のェクソン 18、 19及び 21の部分配列を PCR法によりそれぞれ増幅させることが望 ましい。
[0017] PCR条件についても特に限定されず、使用する装置等に応じて適宜設定すること ができる。 PCRにおいては、 DNA鎖の熱変性、プライマーのアニーリング及びポリメ ラーゼによる相補鎖の合成力もなる一つのサイクル力 例えば、 10〜50回、好ましく は 20〜40回繰り返して行われる。
[0018] 工程 (2)
次 、で、上記工程 (1)で得られた増幅産物を SSCP法 (一本鎖 DNA高次構造多型 解析法)により分析し、上記部分配列中の変異の有無の確認を行う(工程 (2))。
[0019] 変異の有無については、肺癌組織片由来の EGFR遺伝子力 得られる増幅産物 における電気泳動の移動度を、正常 EGFR遺伝子を铸型として得られる増幅産物に おける電気泳動の移動度と対比することにより確認される。なお、電気泳動された増 幅産物のバンドの可視化は、当業界で公知の方法に従って行うことができる。
[0020] 工程 (2)における SSCPの条件としては、上記工程 (1)で得られた増幅産物中の変異 の有無の識別が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、 SSCP条 件として、下記条件が例示される。
温度条件:通常 4〜25°C、好ましくは 10〜20°C
ゲル濃度:通常 10〜15重量%
電気泳動条件:通常 10〜 20W
電気泳動時間:通常 60〜180分間、好ましくは 60〜90分間
このような SSCP条件下で実施することにより、増幅産物中の変異の有無を一層明確 に識別することが可能になる。
[0021] 工程 (3)
次いで、上記工程 (2)で確認された変異の有無に基づいて、該肺癌患者に対する ゲフイチ-ブの抗腫瘍効果の有効性を予測する(工程 (3))。
[0022] EGFR遺伝子のェクソン 18、 19又は 21において遺伝子変異が存在している場合 、 EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤は、非小細胞肺癌に対して有効に抗腫瘍作用を
発揮することが分力つて 、る。
[0023] (a)又は (b)のプライマーセットを使用することにより検出された変異は、 EGFR遺伝 子のェクソン 18上の変異に相当している。また、(C)のプライマーセットを使用すること により検出された変異は、 EGFR遺伝子のェクソン 19上の変異に相当している。更 に、(d)又は (e)のプライマーセットを使用することにより検出された変異は、 EGFR遺 伝子のェクソン 21上の変異に相当している。
[0024] 故に、(a)〜(e)のプライマーセットのいずれかを使用し、変異が認められた場合、そ の肺癌患者に対しては、上皮増殖因子受容体のチロシンキナーゼ阻害剤の投与が 有効であると予測される。一方、(a)又は (b)のプライマーセット、(C)のプライマーセット 、及び (d)又は (e)のプライマーセットをそれぞれ使用し、いずれにおいても変異が認 められな力つた場合、その肺癌患者に対しては、上皮増殖因子受容体のチロシンキ ナーゼ阻害剤を投与しても抗腫瘍効果が得られな 、可能性が高 ヽと予測される。
[0025] 2.キット及びプライマーセット
前述するように、(a)〜(e)のプライマーセットは、 EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤 の非小細胞肺癌に対する抗腫瘍効果の有効性を予測又は診断する方法に使用され るものである。従って、本発明は、更に、(a)〜(e)のプライマーセットから選ばれる少な くとも 1種のプライマーセットを含有する、上皮増殖因子受容体のチロシンキナーゼ阻 害剤による非小細胞肺癌に対する抗腫瘍効果の有効性を予測するためのキットを提 供する。該キットには、 PCRに必要な試薬や SSCP法に必要な試薬が含まれていて ちょい。
[0026] また、前述するように、(a)及び (b)のプライマーセットは、 EGFR遺伝子のェクソン 18 の変異を PCR— SSCP法により検出するのに特に適している。また、(c)のプライマー セットは、 EGFR遺伝子のェクソン 19の変異を PCR—SSCP法により検出するのに 特に適している。更に、(d)及び (e)のプライマーセットは、 EGFR遺伝子のェクソン 21 の変異を PCR— SSCP法により検出するのに特に適している。従って、本発明は、更 に下記(1)〜(3)の発明を提供する:
(1) (a)5し AGGTGACCCTTGTCTCTGTG- 3'及び 5し CCCCACCAGACCATGAG AG— 3'、又は (b)5,— TACACCCAGTGGAGAAGCTCC— 3'及び 5'— CCCCACCAGACC
ATGAGAG- 3'からなる、 PCR— SSCP法により EGFR遺伝子のェクソン 18の変異を 検出するためのプライマーセット。
(2) (c)5,— CAATTGCCAGTTAACGTCTTCC— 3'及び 5'— GGAGATGAGCAGGGT CTAGAG- 3'からなる、 PCR— SSCP法により EGFR遺伝子のェクソン 19の変異を 検出するためのプライマーセット。
(3) (d)5,— CTTGGAGGACCGTCGCTT— 3'及び 5し AACAATACAGCTAGTGGGA AGG- 3'、又は (e)5し CTTGGAGGACCGTCGCTT- 3'及び 5し CCTCCTTACTTTGC CTCCTTC- 3'からなる、 PCR— SSCP法により EGFR遺伝子のェクソン 21の変異を 検出するためのプライマーセット。
実施例
[0027] 以下に、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明する力 本発明はこれらによつ て限定されるものではない。
実施例 1
1.ゲノム DNAの調製
本試験は、 EGFRのェクソン 18、 19及び 21における遺伝子変異の有無が確認さ れて 、る非小細胞肺癌患者から採取した肺癌組織片の凍結標本 112例を使用して 行った。なお、凍結標本 112例の内、 2例はェクソン 18に変異があり、 25例はェクソ ン 19に変異があり、 16例はェクソン 21に変異があり、 79例は変異が無いことが確認 されている。上記凍結標本から、 Fast DNA kit(Qbiogene Inc.製)を用いてゲノム DN Aを調製した。
[0028] 2. PCR
得られた肺癌組織片由来のゲノム DNA、及び表 1に示す 5つのプライマーセットを 用いて、 PCRにより EGFRのェクソン 18、 19及び 21の部分配列を増幅した。 PCR条 件は、表 1に示す通りである。
[0029] [表 1]
プライ プライマーの配列
マーセ (上段のプライマーはセンス
検出部位 P C R条件 S S C P条件 プライマ一、下段のプライマー
ッ卜 はアンチプライマー)
(a) ェクソン 5' -AGGTGACCCTTGTCTCTGTG-3' 熱変性条件: 94で、 30秒 lo 1 8 5' -CCCCACCAGACCATGAGAG-3' ァニーリング: 55 :、 45
(b) ェクソン 5' -TACACCCAGTGGAGAAGCTCC-3' 秒間 15W 1 8 5' -CCCCACCAGACCATGAGAG-3' 伸張反応条件: Π °Ζ、 60 80分間
秒
(c) ェクソン 5' -TACACCCAGTGGAGAAGCTCC-3'
サイクル数: 35回 ·. 15
1 9 5' -CCCCACCAGACCATGAGAG-3'
' -CTTGGAGGACCGTCGCTT-3' 15W
(d) ェクソン 5
2 1 5' -AACAATACAGCTAGTGGGAAGG-3' 80分間
(e) ェクソン 5' -CTTGGAGGACCGTCGCTT-3'
2 1 5' -CCTCCTTACTTTGCCTCCTTC-3'
[0030] 3. SSCP解析
GenePhor System(Amersham Bioscience製)を用いて SSCPによる分析を行った。上 記で得られた PCR増幅産物のそれぞれを、 12. 5%アクリルアミドカもなるゲル(高さ 123mm X幅 110mm X厚さ 0. 5mm)にアプライした。電気泳動はゲルと同一の緩 衝液系で表 1に示す条件で実施した。電気泳動後、 DNA Sliver Staining Kit(Amersh am Bioscience製)を用いてゲルを染色した。健常肺組織片 (Wildタイプ)から得られる 泳動パターンと比較することにより、肺癌組織片由来の EGFR遺伝子のェクソン 18、 19及び 21における変異の有無を確認した。
[0031] この結果、 112例の全てにおいて、 SSCP解析により確認された EGFR遺伝子の変 異の有無の判定結果は、従来法の遺伝子配列を同定する方法により得られている結 果と同一であった。
[0032] 本実施例にお!ヽてプライマーセット (a)及び (b)を使用した場合に得られた結果 (電気 泳動図)の一例を図 1に示す。図 1の電気泳動写真において、レーン 1、 2、 4及び 5 は変異がな!ヽ EGFR遺伝子を有する肺癌組織片;及びレーン 3は EGFR遺伝子の 第 2155位の Gが Aに置換されて 、る肺癌組織片につ 、て試験した結果である。
[0033] 本実施例にお!ヽてプライマーセット (c)を使用した場合に得られた結果 (電気泳動図 )の一例を図 2に示す。図 2の電気泳動写真において、レーン 1は EGFR遺伝子の第 2240位力 第 2257位のヌクレオチドが欠失して 、る変異を有する肺癌組織片;レーン 2— 4及び 6は変異がな 、EGFR遺伝子を有する肺癌組織片;レーン 5は第 2235位か ら第 2249位のヌクレオチドが欠失して 、る変異を有する肺癌組織片、;レーン 7は EG
FR遺伝子の第 2236位力 第 2250位のヌクレオチドが欠失している変異を有する肺 癌組織片につ 、て試験した結果である。
[0034] 本実施例にお!ヽてプライマーセット (a)及び (b)を使用した場合に得られた結果 (電気 泳動図)の一例を図 3に示す。図 3の電気泳動写真において、レーン 1、 2、 4及び 5 は変異がな!ヽ EGFR遺伝子を有する肺癌組織片;及びレーン 3は EGFR遺伝子の 第 2573位の Tが Gに置換されて 、る肺癌組織片につ 、て試験した結果である。
[0035] 比較試験例 1
EGFR遺伝子のェクソン 18、 19及び 21の増幅に使用されるプライマーセットの候 補として、表 2に示すプライマーセット (i)〜(xi)が挙げられる。そこで、これらのプライマ 一セット (i)〜(xi)を使用すること以外は、上記実施例 1と同様にして、肺癌組織片由来 の EGFR遺伝子のェクソン 18、 19及び 21における変異の有無を確認した。
[0036] その結果、プライマーセット (i)〜(xi)のいずれにおいても、 PCRによる増幅ができな い、或いは SSCPにおける分離ができない等の問題があり、変異の有無を正確に把 握することができな力つた。また、 SSCPの条件を種々変更しても変異を正確に検出 することはできな力つた。
[0037] [表 2]
プライ 検出部位 プライマーの配列
マーセ (上段のプライマ一はセンスプライマー、 下段の ッ卜 プライマ一はアンチプライマー)
ω ェクソン 1 8 5' -CTGAGGTGACCCTTGTCTC-3'
5' -TCCCCACCAGACCATGAG-3'
(i i) ェクソン 1 8 5' -GCTGAGGTGACCCTTGTC-3'
5' -CCCCACCAGACCATGAGA-3'
(i i i) ェクソン 1 8 5' -GGTGACCCTTGTCTCTGTG-3'
5' -TCCCCACCAGACCATGAG-3'
(iv) ェクソン 1 8 5' -TTGTGGAGCCTCTTACAC-3'
5' -TACAGCTTGCAAGGACTC-3'
(v) ェクソン 1 9 5' -TGCCAGTTAACGTCTTCCTT-3'
5' -GTGGAGATGAGCAGGGTCT-3'
(vi) ェクソン 1 9 5' -CTCACAATTGCCAGTTAACG-3'
5' -GAGCAGGGTCTAGAGCAGA-3'
(vi i) ェクソン 1 9 5' -CAGTTAACGTCTTCCTTCTCT-3'
5' -GTGGAGATGAGCAGGGTCTC-3'
(vi i i) ェクソン 1 9 5' -ATTGCCAGTTAACGTCTTCC-3'
5' -GTGGAGATGAGCAGGGTCT-3'
(ix) ェクソン 2 1 5 ' -GTCTTCTCTGTTTCAGGGCAT-3'
5' - TGGTCCCTGGTGTCAGGA - 3'
(x) ェクソン 2 1 5' -TCTCTGTTTCAGGGCATGAAC-3'
5' - TGGTCCCTGGTGTCAGGA - 3'
(xi) ェクソン 2 1 5' -TCTTCTCTGTTTCAGGGCATG-3'
5' -TGGTCCCTGGTGTCAGGA-3'
[0038] 実施例 2
EGFR遺伝子のェクソン 19において変異が認められる非小細胞肺癌患者力 肺 癌組織片を採取した。これを 2つに分けて、一方を凍結標本にし、もう一方をホルマリ ン固定標本にした。
[0039] また、同様に、 EGFR遺伝子に変異が無 、非小細胞肺癌患者から肺癌組織片を 採取した。これを 2つに分けて、一方を凍結標本にし、もう一方をホルマリン固定標本 にした。
[0040] これらの 4つの標本を使用して、上記実施例と同様の方法で、肺癌組織片由来の E
GFR遺伝子のェクソン 18、 19及び 21における変異の有無を確認した。
[0041] この結果、ホルマリン固定標本を使用しても、凍結標本と同様に、 EGFR遺伝子の 変異を検出できることが確認された。本実施例において、プライマーセット (c)を使用し た場合に得られた (電気泳動図)を図 2に示す。図 2の電気泳動写真において、レー ン 1は EGFR遺伝子に変異が無 、肺癌組織片の凍結標本;レーン 2は EGFR遺伝子 のェクソン 19にお 、て変異が認められる肺癌組織片の凍結標本;レーン 3は EGFR 遺伝子に変異が無い肺癌組織片のホルマリン固定標本;及びレーン 4は EGFR遺伝 子のェクソン 19において変異が認められる肺癌組織片のホルマリン固定標本につい て試験した結果である。
産業上の利用可能性
[0042] 本発明では、 PCR—SSCP法において使用するプライマーカ 通常の PCR—SS CP法では不可能とれている 100%又はそれに近い精度で、 EGFR遺伝子変異を検 出できるように設計されているため、極めて高い精度で、非小細胞肺癌患者に対する EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤の抗腫瘍効果の有効性を予測することが可能で ある。
[0043] また、本発明によれば、生検検体、気管支洗浄液や喀痰等の微量検体から正確に EGFR遺伝子変異を検出できるという利点に加えて、ホルマリン固定標本を検体とし て使用することもできるので、過去に採取した検体を用いて EGFRのチロシンキナー ゼ阻害剤の抗腫瘍効果の有効性を予測することが可能となり、患者の肉体的負担が 軽減されるという利点も得られる。即ち、 EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤投与の対 象となる患者の多くは末期癌状態であり、 EGFRの遺伝子変異を検索するために新た に検体を採取することが困難なことが多ぐこのような場合に過去に採取した検体を 用いて EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤の効果を予測しうる本診断法は多くの癌患 者にとって福音となる。
[0044] 更に、本発明によれば、僅か数時間で EGFR遺伝子変異を検出することが可能で あり、極めて迅速に EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤の抗腫瘍効果の有効性を予測 することが可能になる。
[0045] 例えば、本発明によれば、ゲフイチ-ブの抗腫瘍効果を投与前に予測することが可
能になり、ゲフイチニブの有効性が期待される患者には早期からゲフイチニブを投与 することにより臨床的メリットが得られる。また、ゲフイチ-ブの有効性が期待できない 患者には、無駄なゲフイチ-ブ投与による経済的負担を軽減できると共に致死的副 作用である急性肺疾患のリスク力 回避することが可能になる。