タキサン類応答性の判別方法 技術分野
本発明は、 個体のタキサン類に対する応答性の判別方法及ぴ該方法に用いるプ ローブセット及びキットに関する。 明
背景技術
ドセタキセルは癌、 特に乳癌の治療のために最も有効な抗癌剤の 1 つである 書
(Heys, S. D.ら, Cl inical breast cancer, 2002, Suppl 2, p. S69 - 74 ; Jordan, M. A.ら, Current medicinal chemistry. Anti-cancer agents, 2002, 2卷, p. 1-17) ; 外科手術前にドセタキセルを投与することで腫瘍サイズを縮小させ、 手術の成功 率を高めることができることから、ネオアジュバント (neoadjuvant) として使用 されている。
ドセタキセル等のタキサン類 (タキサン系化合物) は微小管の動態を阻害する ことによって作用し、 それによつて細胞を細胞分裂の M期に停止させ、 続いてァ ポドーシスのプログラムを活性化することが報告されている (Jordan, M. A.ら, Current medicinal chemistry. Anti-cancer agents, 2002, ¾ 2 , p. 1 - 17 ; Rao, S.ら, Journal of the National Cancer Institute, 1992, 第 84卷, p. 785-788; Schiff, P. B.ら, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 1980, 第 77 巻, p. 1561 - 1565 ; Stein, C. A., Seminars in oncology, 1999, 第 26卷, p. 3-7)。
一方、 多数の遺伝子について特定の状況下での発現を調べて分類する手法とし て、 遺伝子発現プロファイルが用いられている。 しかしながらタキサン類に対す る乳癌細胞の応答についてこうした手法を用いた例は知られていない。 また、 タ キサン類に対する応答のメカニズムについて、 具体的な遺伝子発現との関連性に おいて報告されたものは現在のところ知られていない。
発明の開示
上記のように、 タキサン類は非常に有効な抗癌剤でありながら、 轧癌患者の約 半分はタキサン類による化学療法に応答せず、 副作用を生じるのみであることが 知られている。特定の化学療法に対する患者の応答性を予測することができれば、 治療のより良い選択が可能となり、不必要な副作用から患者を救うことができる。 本発明者等は、 タキサン類に対する患者の応答性を予め判別するために、 応答 性グループと非応答性グループにおける遺伝子発現にっレ、て発現プロフアイル法 を用いて検討した。
まず、 ヒ ト乳房腫瘍組織から、 ドセタキセル治療前に生検によってサンプルを 採取し、 腫瘍サイズの縮小の有無によって該サンプルの治療に対する応答を臨床 的に評価した。同時にハイスループット RT- PCR技術によって生検サンプルにおけ る遺伝子発現プロフアイ リングを実施した。 治療に対する応答性を示す (治療が 有効である) 乳癌由来のサンプル (以下応答性サンプルという) 及ぴ応答性を示 さない (治療が無効である) 乳癌由来のサンプル(以下非応答性サンプルという) 間で示差的に発現している遺伝子を用い、 weighted- votingアルゴリズム(Yeang,
C. H.ら, Bioinformatics Suppl 1, S316-22 (2001); MacDonald T. J.ら, Nat. Genet.
29, 143-152 (2001) ) に基づく診断システムを構築した。 このシステムによって、 新たなサンプルについてドセタキセルに対する応答を臨床応用に有効なレベルで ある 80%を超える精度で予測した。 また、 治療に対する非応答性サンプルでの診 断遺伝子として、 チォレドキシン、 ダルタチオン- S-トランスフェラーゼ、 及ぴパ ーォキシレドキシン等の細胞内酸化還元環境を調節する遺伝子があることを見出 し、 これらの発現抑制によって応答性サンプルを、 発現上昇によって非応答性サ ンプルを特性付けることができた。 哺乳動物培養腫瘍細胞系におけるこれらの遺 伝子の過剰発現によって、 細胞はドセタキセル誘導性の細胞死から保護されてお り、 レドックス系の増大がドセタキセル抵抗性において主要な役割を果たしてい ることが示唆された。
すなわち、 本発明は、 以下の (1 ) 〜 (1 3 ) を提供する。
( 1 ) 個体のタキサン類に対する応答性を判別する方法であって、 表 1に記載の
1 0種以上の遺伝子の発現を該個体由来のサンプルについて検出し、 検出結果か
ら該サンプルがタキサン類に対して応答性サンプルであるか非応答性サンプルで あるかを決定する、 上記方法。
65 AY007104 EST EST 0.372014917 0.01708 N
66 AC004140 . EST 0.376767466 0.01784 R'
67 M 20456 ALDH2 aldehyde dehydrogenase 2 family (mitochondrial) 0.367019899 0.01 808 N
68 BC004325 EN01 enolase 1 , (alpha) 0.370476845 0.0183 N
70 Z83838 EST EST 0.367407527 0.01864 R
72 AF201948 BUP BUP protein 0.365780476 0.01892 R
73 BC001829 LDHA lactate dehydrogenase A 0.364643938 0.02076 N
74 AC004084 EST ESTs 0.361357363 0.02242 R
Homo sapiens clone 23767 and 23782 mRNA
76 AF007150 FLJ90245 0.376574158 0.02266 N sequences
78 X84694 - EFTU elongations factor Tu-mitochondrial 0.356696182 0.02314 N
79 X91 195 SO 172 phospholipase C, beta 3, neighbor 0.396773303 0.02318 N
81 Z49099 SMS spermine synthase 0.3551 12642 0.02362 N
82 AK000620 ARHGDIB ADP-ribosylatidn factor 1 0.35717421 0.02406 N
83 AL121787 EST ESTs 0.349035681 0.02478 R
84 BC001737 A T1 Human rac protein kinase alpha mRNA 0.350702242 0.02488 N
85 X67951 PRDX1 peroxiredoxin 1 0.356248902 0.0251 2 N
86 X13709 GPX1 glutathione peroxidase 1 0.344092963 0.02524 N
' 87 BC003377 TRX thioredoxin 0.348092495 0.02526 N
Homo sapiens, clone GC:14327 IMAGE:4298098,
88 BC009283 MGC14327 0.352160397 0.02528 N mRNA
90 し 20688 Ly-GDI Rho GDP dissociation inhibitor (GDI) beta 0.358940302 0.02596 R
91 D30658 GARS glycy!-tRNA synthetase 0.346548246 0:02632 N
92 D15057 DAD1 defender against cell death 1 0.349218258 0.02644 R
93 AL035420 EST ESTs 0.347771094 0.02686 N protein phosphatase 4 (formerly X), catalytic
94 BC001416 PPP4C 0.347185706 0.02738 N subunit
98 AF131766 EST Homo sapiens RNB6 (RNB6) mRNA, complete cds. 0.36547013 0.02874 R
99 BC004272 RAN RAN, member RAS oncogene family 0.335336459 0.0289 N serine (or cysteine) proteinase inhibitor, clade A
104 BC003559 SERPINA3 0.340519704 0.03006 R
(alpha- 1 antiproteinase, antitrypsin), member 3
105 X51405 CPE carboxypeptidase E 0.353169431 0.03014 R
107 D63780 YSK1 Homo sapiens mRNA for YSK1 0.338441593 0.03204 N glutathione peroxidase 4 (phospholipid
1 10 X71973 GPX-4 0.331641836 0.03316 N hydroperoxidase)
1 1 1 AL109918 TS58 Homo sapiens TS58 mRNA 0.353769181 0.03324 N
Homo sapiens cDNA FLJ 14309 fis, clone
1 13 Z49154 FLJ 14309 0.33501381 1 0.03374 R
PLACE3000221
1 15 BC001682 DSC92 mesenchymal stem cell protein DSC92 0.359409203 0.03546 N
120 AL139099 RL36a ribosomal protein L36a 0.325313263 0.03648 N
123 AJ225782 SYBL1 Homo sapiens SYBL1 gene 0.324417955 0.03798 R
124 AF043906 T245 Homo sapiens T245 protein (T245) mRNA 0.324423328 0.03802 N
125 (配列番号 7) EST 0.339165544 0.03826 N
Homo sapiens adaptor-related protein complex 1 ,
131 NM.032493 AP1 M1 0.320380068 0.0412 N mu 1 subunit(AP1 M1 ), mRNA.
132 BC003162 L NA lamin A/C 0.317520604 0.04128 N
133 AB023162 KIAA0945 KIAA0945 protein 0.360946508 0.041 92 R
134 AL133052 BC013073 hypothetical protein BC013073 0.3226801 96 0.0421 6 R.
140 X74801 CCT3 chaperonin containing TCP1 , subunit 3 (gamma) 0.316838203 0.04704 N
(2) 応答性サンプル及び非応答性サンプルについての標準発現パターンを予め 作製し、 該パターンに基いてサンプルの応答性を決定する、 上記 (1) に記載の 方法。
( 3 )個体がヒ ト乳癌患者であり、サンプルが乳癌組織サンプルである、上記( 1 ) または (2) に記載の方法。
(4)乳癌組織が原発性乳癌組織または局所的再発性乳癌組織である、 上記 (3) に記載の方法。
(5) サンプルにおけるタキサン類に対する応答性を判別するための、 表 1に記 載の遺伝子から選択される 1 0種以上の遺伝子の発現を検出するプローブを含む、 プローブセット。
(6) プローブが PCR増幅のためのプライマーである、 上記 (5) に記載のプロ ーブセット。
(7) プローブが遺伝子と特異的にハイブリダィズする塩基配列を有する、 上記 (5) に記載のプローブセット。
(8) 上記 (7) に記載のプローブセットのプローブを固相支持体上のそれぞれ 異なる位置に固定したマイクロアレイ。
(9) 上記 (5) 〜 (7) に記載のプローブセット、 または上記 (8) に記載の マイクロアレイを含む、 タキサン類応答性検出用キット。
(1 0) 表 1に記載されている遺伝子であり、 非応答性サンプルで高発現となつ ている 1種以上の遺伝子の発現'を抑制する、 タキサン類に対する非応答性患者に 投与するためのアンチセンス核酸。
(1 1) 表 1に記載されている遺伝子であり、 非応答性サンプルで高発現となつ ている 1種以上の遺伝子の発現を抑制する、 タキサン類に対する非応答性患者に 投与するための二本鎖 R N A核酸。
(1 2) 表 1に記載されている遺伝子であり、 非応答性サンプルで高発現となつ ている 1種以上の遺伝子の発現産物に結合する、 タキサン類に対する非応答性患 者に投与するための抗体。 -
(1 3) 表 1に記載されている遺伝子であり、 非応答性サンプルで高発現となつ ている 1種以上の遺伝子の発現産物の活性を抑制する薬剤を含有する、 タキサン
類に対する非応答性患者に投与するための医薬組成物。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願 2003-270176号の明細書 および/または図面に記載される内容を包含する。 図面の簡単な説明
図 1は、 本発明の方法の分類精度を、 使用した遺伝子の数の関数として示す。 Y軸は、 シグナル対ノイズ比に基づく weighted votingアルゴリズム (會) また はパーミューテーシヨンテスト (50000回のランダムな交換) に基づく k- nearest neighbor (k=l) (国)、 をそれぞれ用いた leave- one- out法の予測精度の確率であ る。 ▲は、 リカーシブフィーチャーエリミネーシヨンで遺伝子選択し、 サポート ベクターマシンに基づく予測を行った結果を示す。点線は 44サンプルから遺伝子 を選択した後に行ったクロスバリデーションの精度を示す。 X軸はリポーターの 数である。
図 2は、 4 4症例から得た腫瘍組織 (縦軸) における 85遺伝子の発現パターン (横軸) のクラスター解析の結果を示す。 85遺伝子の発現を用いて 2つの予測群 を有する予測強度で腫瘍をソートした。 点線は 「予測強度 = 0」 を示す。 それぞ れのセルは、 遺伝子の発現量を模式的に示したもので、 明るくなる程発現量が高 くなるように表示されている (図下部にあるスケールを参照)。右側のバーはドセ タキセルに対する個々の症例の感受性を示したもので、 図右上にその対応を示し てある。 P R、 C R、 N C、 P Dについては、 本文を参照のこと。 尚、 遺伝子は、 階層的クラスター分析により、発現の似たものが隣接するように配列させている。 樹状図は、 クラスター分析結果で、 発現パターンの類似度を示す。
図 3は、 対照及ぴレドッタス遺伝子でトランスフヱク トした MCF- 7細胞におけ るドセタキセルによるアポトーシスの誘導を示す。 対照遺伝子 (無作為に選んだ
5アミノ酸の配列と GFPの融合タンパク質をコードする遺伝子) でトランスフエ ク トした MCF- 7細胞(△)、チォレドキシンをコードする遺伝子でトランスフエク トした MCF- 7細胞(〇)、 ダルタチオン - S-トランスフェラーゼ P i 1をコードす る遺伝子でトランスフヱク トした MCF- 7細胞(園)、及びペルォキシレドキシンを コードする遺伝子でトランスフエタ トした MCF - 7細胞 (▲) を、 図に示す種々の
濃度のドセタキセルで処理した。 24時間のインキュベーションの後、 アポトーシ スの有無を決定した。 Y軸は未処理の対照に対する生存細胞の比率を示す。 実験 は 2回行った。 ' 発明を実施するための最良の形態
本発明は、 個体のタキサン類に対する応答性を判別する方法であって、 表 1に 記載の 1 0種以上の遺伝子の発現を該個体由来のサンプルについて検出し、 検出 結果から該サンプルがタキサン類に対して応答性サンプルであるか非応答性サン プルであるかを決定する、 上記方法を提供する。
本明細書において、 「個体」 とは、 ヒ トの癌患者または癌のおそれのあるヒ ト個 体であり、 特にヒ ト原発性乳癌または再発性乳癌患者または乳癌のおそれのある ヒ ト個体をいう。
本明細書において、 タキサン類としては、 例えばパクリタキセル、 ドセタキセ ル、 及ぴ薬学上許容され、 臨床的に有効であるこれらの誘導体を挙げることがで き、 特に限定されるものではない。 パクリタキセル、 ドセタキセルは、 それぞれ 商品名タキソール、 タキソテールとして、 例えばブリストルマイヤーズ社から入 手することができる。
また、 本明細書において、 「応答性」 とは、 タキサン類による化学療法を行った 後、 腫瘍サイズの縮小によって応答を以下の基準:
(i)完全応答 (C R ) =全ての疾患症状の消失、
(i i)部分応答 (P R ) =腫瘍サイズで 5 0 %以上の縮小、
(iii)変化なし(N C ) =腫瘍サイズで 5 0 %以下の縮小または 2 5 %未満の 増加、
(iv)病状の進行 (P D ) 腫瘍サイズで 2 5 %以上の増加または新たな病変 の出現。
に基づいて臨床的に評価したものであり、 C Rまたは P Rであると評価されるサ ンプルを「応答性」サンプル、 N Cまたは P Dであると評価されるサンプルを「非 応答性」 サンプルと定義する。 本発明の方法は、 既知の (学習セットにおける) 応答性サンプル及び非応答性サンプルにおける特定の遺伝子の発現と上記タキサ
ン類による化学療法後の腫瘍サイズの臨床的観察との相関情報を用いて、 目的の (例えば認証セットにおける) サンプルにおける同じ遺伝子の発現から、 このサ ンプルが実際にタキサン類による化学療法によって良好な腫瘍サイズの縮小が得 られるものであるか否かを予測するためのものである。
サンプルは、 上記個体から切開生検または吸引コア-一ドル生検によって採取 して得られる組織であっても良く、 または上記個体から採取した後に培養保存さ れたものであっても良い。 サンプルが癌組織である場合には、 組織は原発性癌組 織または再発性癌組織のいずれでも良い。 本発明において特に好ましくは、 サン プルはヒ ト乳癌組織である。
表 1に記載の遺伝子群は、 後の実施例に記载のように、 タキサン類に対して応 答性の乳癌サンプル及び非応答性の乳癌サンプルにおける遺伝子発現を解析した 結果、 応答性が未知である乳癌サンプルがタキサン類に対して応答性であるか非 応答性であるかを化学療法前に予測する上で最も有効な遺伝子群である。 本発明 者等はこの遺伝子群から任意の 1 0種以上の遺伝子の発現を検出することで、 サ ンプルがタキサン類に対して応答性であるか非応答性であるかを高い精度で予測 することができることを見出した。 使用する遺伝子の数は 1 0種以上であれば良 いが、好適には 2 0種以上、より好適には 4 0種以上、更に好適には 6 0種以上、 更に好適には 8 0種以上、 最も好適には表 1に記載の 8 5種の遺伝子全てを使用 すれば良い。 この場合、 使用する 1 0種以上の遺伝子としては、 特に限定するも のではないが、パーミューテーシヨン p -値やシグナル対ノイズ比 (SNR) の絶対 値を指標として発現量の差の大きいものから順に選択することが特に好ましい。 また、 このことは、 検出の際にこれ以外の遺伝子の発現を検出しても良く、 特に 表 1に記載の遺伝子のみを検出することを意味するものではない。 特に、 実施例 に記載した表 7に記載の遺伝子群は、 パーミューテーシヨンテストにより選択さ れた有意な発現を示す遺伝子群であり、表 1に記載の遺伝子を全て含んでいるが、 表 1に含まれていない遺伝子を検出のために用いても良い。 すなわち、 表 7に記 載の 1 0種以上、 2 0種以上、 4 0種以上、 6 0種以上、 8 0種以上の遺伝子の 発現によって本発明の方法と同様にタキサン類に対する応答性を決定することも 可能である。 しかしながら、 表 1の遺伝子は、 検出 '診断のためにデータ品質の
高い遺伝子に絞るため、 PCR反応で増幅が良好であった約 1100種の遺伝子から選 択されたものであり、 最も良好な結果を得ることができる。
遺伝子の発現は、 特に限定するものではないが、 検出対象となる遺伝子の塩基. 配列に対して相補的な配列を有するプローブを用いてハイブリダィゼーション反 応を行い、 ハイブリダィゼーションの有無及び Zまたはレベルを検出することで 検出することができる。 表 1に記載の遺伝子の塩基配列は、 GenBank 等のデータ ベースに登録されているものについては、 表 1に記載の登録番号に基づいて塩基 配列情報を取得することができる。 また、 表 1に記載の遺伝子の中でデータべ一 スに未登録のものについては、 配列表に配列番号 1〜 7として挙げてある。 従つ て、 個々の遺伝子について、 それぞれの塩基配列と相捕的な例えば 1 5〜1 0 0 個、 好ましくは 2 0〜5 0個の塩基からなる塩基配列を有す ¾プローブを当分野 で通常行われているようにして作製し、 ハイブリダィゼーシヨンの有無を検出す ることができる。この場合、反応を個々の遺伝子について別個に行っても良いが、 固相支持体上に個々のプローブを固定したマイクロアレイ等を使用することによ り、 複数の遺伝子の発現を同時に検出することができる。
検出に先立って、 PCR反応等を用いて発現産物を増幅し、 検出感度を上げるこ とができる。 この場合、 まずサンプルから当分野で通常行われている手法によつ て RNAを精製した後に、個々の遺伝子について特異的なプライマーを設計し、 PCR 反応を行う。 また、 これらのプライマーを使ってリアルタイム PCR法を用いて、 遺伝子の発現量を測定することができる。
また、 後記の表 7に記載の遺伝子群にそれぞれ対応して記载した配列番号 8〜 1 5 5のプライマーを用い、 アダプター付加競合的 PCR (ATAC-PCR) (Kato, Κ·, Nucleic Acid Res. 25, 4694-4696 (1997); Iwao, K.ら, Hum. Mol. Genet. 11, 199-206 (2002) ) によってハイスループット解析を行うこともできる。
タキサン類についての応答性が未知のサンプルについて応答性を決定する場合 には、 特に限定するものではないが、 表 1に記載の遺伝子から選択される 1 0種 以上の検出対象の遺伝子について、 下記の実施例に記載したように、 weighted votingアルゴリズムを用いた遺伝子の重みづけ投票の総和を計算し、予測強度 0 を閾値とした予測強度を求めることによって、 予測強度が 0より大きい場合には
応答性サンプル、 0より小さい場合には非応答性サンプルとして判定することが できる。 あるいはまた、 応答性サンプル及ぴ非応答性サンプルにおける標準的な 発現パターンを予め作製し、 該パターンに基いて決定することが好ましい。 例え ば、 応答性サンプルに特徵的な発現パターンを示す場合、 すなわち表 1に記載の 遺伝子で応答性サンプルで高発現する遺伝子 (下記表 3 ) の発現量が相対的に高 く、 非応答性サンプルで高発現する遺伝子 (下記表 4 ) の発現量が相対的に低い 場合には、 該サンプルは応答性サンプルであると判別することができる。 また、 非応答性サンプルに特徴的な発現パターンを示す場合、 すなわち表 1に記載の遺 伝子で非応答性サンプルで高発現する遺伝子の発現量が相対的に高く、 応答性サ ンプルで高発現する遺伝子の発現量が相対的に低い場合には、 該サンプルは非応 答性サンプルであると判別することができる。 より正確に判別するためには、 K 近傍法 (k- nearest neighbor (k -丽) , Pomeroy, S. L.ら, Prediction of central nervous system embryonal tumour outcome based on gene expression. Nature 415, 436-442 (2002) ) を用いることが好ましい。 K近傍法では、 例えば、 k = 3の場 合、 目的とする検体の発現パターンを、 学習セットに含まれる学習検体 (例えば 実施例で用いた 4 4症例) と比較して、 最も似た学習検体 3症例を選択する。 そ のうち 2症例以上が非応答性サンプルであれば目的の検体を非応答性と判断し、 それ以外の場合 (2症例以上が応答性サンプルの場合) は目的の検体を応答性と 判断する。
遺伝子の検出のためにそれぞれプローブを作製し、 予め DNAチップ等のマイク ロアレイ上に固定して使用する場合等には、 ハイプリダイゼーションの有無を Cy3、 Cy5等の当分野において通常用.いられる蛍光色素を用いて検出することがで きるが、 応答性サンプル及び非応答性サンプルのいずれか、 あるいはそれぞれに ついて DNAチップ等のマイクロアレイ上における特徴的な発現パターンを予め作 製し、 対象のサンプルについてどちらの発現パターンを示すかを視覚的に検出す ることができる。
より具体的には、 例えば、 表 1に記載の遺伝子から選択される 1 0種以上、 2
0種以上、 4 0種以上、 6 0種以上、 8 0種以上、 若しくは 8 5種の遺伝子由来 のプロープ、 またはこれらのプローブを他の遺伝子由来のプローブと共に支持体
上に固定してマイクロアレイを作製し、 学習セットにおける応答性サンプル及び
Zまたは非応答性サンプルからから抽出した mRNA、 またはこれを逆転写させた cDNA、 PCR産物等を適宜標識した後にハイブリダィズさせて、 それぞれのサンプ ルの発現パターンを作製することができる。 そして、 同じ配置でプローブを有す るマイクロアレイを用い、 応答性を判別するための検体 (サンプル) から抽出し た mRNA、 またはこれを逆転写させた cDNA、 PCR産物等をハイブリダイズさせ、 そ の発現パターンを調べることにより、 目的の検体が応答性であるか非応答性であ るかを判別することができる。 尚、 マイクロアレイを用いた遺伝子の検出につい ては当分野で公知であり、 通常用いられる種々の検出手段を用いることができ、 本発明の方法を実施する上で特に上記蛍光色素による検出に限定するものではな い。
本発明はまた、サンプルにおけるタキサン類に対する応答性を判別するための、 表 1に記載の遺伝子から選択される 1 0種以上の遺伝子の発現を検出するプロ一 ブを含む、 プローブセットを提供する。 プローブセットは、 表 1に記載の遺伝子 群から選択される任意の 1 0個以上の遺伝子にそれぞれ対応するプローブを含む が、 好適には表 1に記載の 2 0種以上、 より好適には 4 0種以上、 更に好適には 6 0種以上、 更に好適には 8 0種以上、 最も好適には表 1に記載の 8 5種の遺伝 子全てにそれぞれ対応するプローブを含むものである。 この場合、 選択する 1 0 種以上の遺伝子としては、特に限定するものではないが、 p -値や SNRの絶対値を 指標として発現量の差の大きいものから順に選択することが特に好ましい。
プローブの一形態は、 表 1に記載の遺伝子の PCR増幅のためのプライマーであ る。
プローブの別の一形態は、表 1に記載の遺伝子と特異的にハイプリダイズする、 例えば 1 5〜1 0 0個、 好ましくは 2 0〜 5 0個の塩基からなる塩基配列を有す るものである。 「特異的にハイブリダィズする」 とは、例えば高ストリンジェント 条件下でハイブリダィズし得ることをいい、 特に相補的であることを言う。 当業 者であれば、 プローブの長さ、 GC含量等に応じて特異的ハイプリダイゼーシヨン のための条件を適宜設定することができる。
本発明は更に、 上記のプローブセットのプローブを固相支持体上のそれぞれ異
なる位置に固定したマイクロアレイを提供する。 マイクロアレイとしては、 例え ば基板上にプローブを固定した DNAチップ等が挙げられる。
本発明は更に、 上記のプローブセット、 または上記のマイクロアレイを含む、 タキサン類応答性検出用キットを提供する。
上記プローブセット、 マイクロアレイ及ぴキットは、 本発明の方法を実施する ために使用することができる。 ,
本発明はまた、 表 1に記載されている遺伝子であり、 非応答性サンプルで高発 現となっている 1種以上の遺伝子、 すなわち表 7記載の 1種以上の遺伝子の発現 を抑制する、 タキサン類に対する非応答性患者に投与するためのアンチセンス核 酸を提供する。 ,
本発明において、アンチセンス核酸は、表 1に記載されている遺伝子であって、 非応答性サンプルで高発現となっている 1種以上の遺伝子の塩基配列と相補的な 塩基配列を有し、 かつ、 該核酸の発現を抑制し得るものである。
例えば、表 1で番号 1 0に相当する登録番号 M24485の遺伝子は、非応答性サン プルで高発現 (「N」) となっている。 この遺伝子 (ダルタチオン- S-トランスフエ ラーゼ pi遺伝子) の塩基配列と相補的な塩基配列を有し、 かつ、該核酸の発現を 抑制し得るアンチセンス核酸は、 例えば、 癌細胞に導入し、 遺伝子の発現を変調 させることによって、 遺伝子がコードするタンパク質の機能又は生物学的活性を 抑制することができる。この場合、アンチセンス核酸は、例えば、登録番号 M24485 の遺伝子の塩基配列の、 例えば連続する 1 4塩基以上の部分配列に対して相補的 な配列を有するものとするのが好ましい。
アンチセンス核酸は、 タキサン類に対して非応答性の癌細胞に、 リン酸カルシ ゥム法、 リポフエクシヨン法、 エレク ト口ポレーシヨン法、 マイクロインジエタ ション法などの DNA トランスフヱクション法、 又はウイルスなどの遺伝子導入べ クタ一の使用を含む遺伝子導入法などの当該技術分野で公知の方法を用いて導入 することができる。 例えば、 適切なレトロウイルスベクターを用いてアンチセン ス核酸を発現するベクターを調製し、 その後、 該発現べクタ"を細胞と in vivo 又は ex vivoで接触させることにより、 細胞に導入すればよい。
本発明はまた、 表 1に記載されている遺伝子であり、 非応答性サンプルで高発
現となっている 1種以上の遺伝子の発現を抑制する、 タキサン類に対する非応答 性患者に投与するための二本鎖 RNA核酸を提供する。
本明細書において、 遺伝子の発現を抑制する 「二本鎖 R N A」 とは、 特に RNAi 効果を有する RNAが好ましい。 RNAi (RNA interference) とは、 標的分子の一部 をコードする mRNAの一部を二本鎖にした RNAを細胞内へ導入すると、標的遺伝子 の発現が抑制される現象をいう。 例えば非応答性サンプルで高発現している遺伝 子から転写される RNA (塩基配列) の連続する少なくとも 1 0ヌクレオチドを含 む二本鎖 R N Aを挙げることができる。 RNAiの詳細については、 例えば実験医学 別冊 「RNAi実験プロトコール」 (羊土社、 多比良和誠ら編) に記載されている。 二本鎖 R N A核酸は、 上記ァンチセンス核酸と同様にして癌患者に投与するこ とができる。
本発明は更に、 表 1に記載されている遺伝子であり、 非応答性サンプルで高発 現となっている 1種以上の遺伝子の発現産物に結合する、 タキサン類に対する非 応答性患者.に投与するための抗体を提供する。
抗体は、 上記発現産物に特異的に結合し、 その機能又は生物学的活性を中和す る抗体であれば良く、 ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であつ ても良い。 また、 Fab、 Fc 等の抗体断片であっても良い。 抗体は、 好ましくはヒ ト抗体またはヒ ト化抗体である。
本発明の抗体は、 例えば上記発現産物またはその断片等を抗原として用いて取 得することができる。
ポリクローナル抗体は、 宿主動物 (例えば、 マウス、 ラット、 ゥサギ等) に抗 原を接種した後に血清を回収する通常の方法により製造することができる。 モノ クローナル抗体は、 通常のハイプリ ドーマ法などの技術により製造できる。
本発明の抗体を投与することによって、 上記発現産物の機能又は生物学的活性 を抑制することができる。 例えば、 本発明の抗体を免疫原性アジュバント等の不 活性成分又は治療的使用のためにさらなる有効成分と、 安定化剤及ぴ賦形剤とと もに組み合わせ、 濾過滅菌後、 凍結乾燥物、 又は安定化水性調製物中の貯蔵物と して得ることができる。 投与の際には、 例えば、 皮下注射、 動脈内注射、 静脈内 注射などの当分野において公知である方法で行い得る。 投与量は、 患者の体重、
腫瘍サイズ、 投与方法等に応じて、 当業者であれば適宜選択することができる。 本発明は更に、 表 1に記載されている遺伝子であり、 非応答性サンプルで高発 現となっている 1種以上の遺伝子の発現産物の活性を抑制する薬剤を含有する、 タキサン類に対する非応答性患者に投与するための医薬組成物を提供する。
遺伝子の発現産物の活性を抑制する薬剤としては、 特に限定するものではない が、 例えば発現産物に結合してその生理活性を抑制する抗体、 酵素阻害剤等が挙 げられる。
例えば、 本発明者等は、 表 1及び表 7に記載の遺伝子群の中に、 細胞内酸化還 元環境を調節する数種の遺伝子を見出した。 そして、 これらの遺伝子をトランス フエク トしたタキサン類応答性細胞が非応答性の性質を獲得し、 タキサン類の作 用に対して抵抗性を有するようになることを確認した。 従って、 これらの遺伝子 がコードするタンパク質またはべプチドの活性に対する阻害剤を用いれば、 タキ サン類非応答性の腫瘍の治療に極めて有効である。
すなわち、本発明によって、ダルタチオン- S-トランスフェラーゼ pi 1 (GSTP1)、 グルタチオンパーォキシダーゼ 1、チォレドキシン、ペルォキシレドキシン 1 (チ ォレドキジンパーォキシダーゼ 2 )、 グルタチオンパーォキシダーゼ 4、及ぴグル タチオンパーォキシダーゼ関連タンパク質 1等の酵素に対する阻害剤を、 乳癌等 の腫瘍の治療に用いることができることが明らかとなった。
上記の酵素阻害剤を投与することによって、 タキサン類に対する応答性を調整 し、 非応答性の腫瘍に対して応答性の性質を与え、 本来タキサン類に対して非応 答性の腫瘍においてタキサン類の作用を期待することができる。 酵素阻害剤は、 タキサン類非応答性の個体に対して単独で投与しても良く、 またタキサン類と組 み合わせて投与しても良い。 また、 医薬組成物において通常用いられる賦形剤、 担体、 緩衝剤等と組み合わせて医薬組成物として投与することができる。
また、 酵素阻害剤の 1種以上を組み合わせてタキサン類非応答性の腫瘍に対す る治療用キットとして提供することもできる。 実施例
以下、 本発明を実施例を挙げて更に説明するが、 本発明はこれらに限定される
ものではない。
実施例 1
本発明者等はまず、 原発性乳癌 (腫瘍サイズ 3 cm以上、 n = 29) 若しくは 局所的再発性乳癌 (腫瘍サイズ測定不能、 n= 1 5) の学習セット用 44名、 及 び原発性乳癌 (腫瘍サイズ 3 cm以上、 n== 26) の検証セット用 26名の女性 患者計 70名から腫瘍サンプルを採取した。 サンプル組織は、 ドセタキセルによ る一般的な化学療法を行う前に切開生検または吸引コアニードル生検によって採 取した。 腫瘍サンプルの半分は組織学的検查 (H&E切片標本) を行い、 各患者 の腫瘍組織を正しくサンプリングしていることを確認した。 腫瘍サンプルを液体 窒素中で急速凍結し、 使用まで一 80 °Cで保存した。
サンプルを採取した学習セットとしての 44名の患者及ぴ検証セットとしての 26名の患者の年齢及び閉経状態、 並びに癌の状態について表 2に示す。
表 2
上記の各患者に対し、化学療法として、 ドセタキセル(6 Omg/m
2、静脈内注射、 3週間毎) を、 原発性乳癌の患者の場合には外科手術前に 4サイクル、 局所的再 発性乳癌の患者の場合には病状の進行が始まるまで投与した。 局所的再発性乳癌 患者には再発後最初の化学療法としてドセタキセルを投与し、 補助療法としてタ キサンによる治療は行っていない。
化学療法を行った後、 腫瘍サイズの縮小によって応答を以下の基準に基づいて 臨床的に評価した。
(i)完全応答 (CR) 二全ての疾患症状の消失、
(ii)部分応答 (PR) =腫瘍サイズで 50%以上の縮小、
(iii)変化なし(NC) =腫瘍サイズで 50%以下の縮小または 2 5 %未満の 増加、
(iv)病状の進行 (PD) =腫瘍サイズで 25%以上の増加または新たな病変 の出現。
本明細書において、 CRまたは PRに分類されるサンプルを応答性サンプル、 NCまたは PDに分類されるサンプルを非応答性サンプルとする。 44名の患者 から、 治療に対して応答性のサンプルが 2 2種、 非応答性のサンプルが 22種得 られた。
実施例 2
実施例 1で得られた応答性サンプル 2 2種及び非応答性サンプル 2 2種から、 Tri zol試薬 (GibcoBRL) を用い、 当分野で通常行われている手法によって RNAを 精製した。
実施例 1で用いたものとは別の 1 2例の乳癌組織由来の RNAを混合して、 報告 されている方法 (Iwao, K.ら, Hum. Mol. Genet. 11, 199 - 206 (2002) ) を用いて 3' -末端 cDNAライブラリ一を作成した。 このライブラリ一の EST解析で見つかつ た乳癌で発現している 2379遺伝子と、乳癌との関連が文献で報告されている追加 の 74 遺伝子を含む計 2453 遺伝子についてのアダプター付加競合的 PCR
(ATAC-PCR) 反応のための PCRプライマーを設訐した。 このうち 2つのアダプタ 一を対照のための 7 8種の原発性乳癌の mRNA を混合したものに使用した。 ATAC-PCRは本発明者等のグループが見出した、 定量的 RT- PCRの改良方法であり
(Kato, K. , Nuclei c Aci d Res. 25, 4694-4696 (1997); Iwao, K.ら, Hum. Mol . Genet. 11, 199-206 (2002) )、 マイクロアレイに匹敵するハイスループット解析 を可能とするものである。 RT - PCRは DNAマイクロアレイと比較して検出のダイナ ミックレンジがより広く、 必要とする RNA量がより少ないため、 臨床サンプルで の解析には有利な方法である。
乳癌組織における上記 2453遺伝子の発現レベルを ATAC- PCRで測定した。 増幅 産物は ABI PRISM 3700 DNA analyzer (Appl ied Biosystems社) または ABI PRISM 3100 Genet ic analyzer (Appl ied Biosystems 社) で分離した。 次に、 各遺伝子 について、 対照と比較した相対発現レベルを算出した。 得られたデータマトリク スを DNAマイクロアレイで使用されている方法(van t Veer. L. J.ら, Nature 415, 530-536 (2002) ) と類似の方法によってメディアンで正規化し、 対数スケールに 変換した。
リポソームタンパク質 L30を含む、 メディアンに類似の発現パターンを示す 6 種の遺伝 + (.ribosomal prote in L30, ATP synthase alpha suDunit, proteasome subunit alpha type 2, RNA polymerase II, transcript ion factor SIII pl8 subunit, 及ぴ nucleophosmin) を、 欠測値の数が全サンプルの 2 0 %より大きい
235遺伝子を除く 2218遺伝子のプールから選択した。 2 6症例を用いた検証実験
では、 これら 6種の遺伝子の相対発現レベルを ATAC - PCRで測定した。検証実験で は 6種の遺伝子の平均をメディアンの代わりに用いてデータを正規化した。
具体的には、 ATAC- PCRによって、 4 4種のサンプルにおける 2453遺伝子の発 現データを対照に対する相対比として取得した。 対照には 7 8症例の乳癌組織か ら精製した R Aの混合物を用いた。 欠測値の数が全サンプルの 2 0 %以上である 235遺伝子を除いた後、欠測値が 20%未満である 2218遺伝子のみを遺伝子の選択 に用いた。 これによつて、 最も情報量が多い遺伝子に注目することができる。 更 に、 2218遺伝子の中から、 PCR反応が良好な 1125個の遺伝子を選択して用いたが、 遺伝子の機能や性質についてはバイアスはかかっていない。
遺伝子発現の粗データを各サンプルのメディァン値が 1になるように変換した。 0. 05未満の値については、 最小限界値である 0. 05に変換した。
このクラスター分析では、階層解析及ぴパラメーター解析のいずれにおいても、 ドセタキセルに対する応答性と相関した特徴を見出すことはできなかった。 その ため、 44名の患者のデータを学習セットとして用い、教師あり学習法(supervised learning methods) を適用して応答予測のための診断システムを構築した。
3種の一般的な分類予測アルゴリズム、 weighted- voting ( V) (Golub, T. R. ら, Molecular classification of cancer : class discovery and class prediction by gene expression monitoring. Science 286, 531-537 (1999) )、 k - nearest neighbor (k - NN) (Pomeroy, S. L. ら, Prediction of centra丄 nervous system embryonal tumour outcome based on gene expression. Nature 415, 436-442 (2002) ) 及ぴサポートベクターマシン (SVM) (Furey, T. S.ら, Support vector machine classification and validation of cancer tissue samples using microarray expression data. Bioinformatics 18, 906— 914 (2000) ) を J;匕較した。 遺伝子の数がより小さいほど、 具体的には 100遺伝子未満であると、 診断応用に 望ましい。 従って、 これらのアルゴリズムを、 シグナル対ノイズ比 (SNR)、 パー ミューテーシヨ ン p-値 (PPT) 及びリカーシブフィーチャーエリ ミネーシヨン
(RFE) に基づく遺伝子選択法とそれぞれ組み合わせた。 遺伝子選択は良好な PCR 増幅を示した 1125 遺伝子のプールから行い、 アルゴリ ズムの妥当性を leave-one-outクロスパリデーションによって評価した。
Weighted votingアルゴリズムは、それぞれの遺伝子の重みづけ投票(weighted vote) の総和で予測する方法である。 重みには学習セットに含まれる検体 (本実 施例では 4 4症例) のデータから計算したシグナル対ノイズ比 (SNR) を用いる。 遺伝子 gの学習検体での応答性サンプルの発現量の平均を μ R g、 標準偏差を σ R g . 非応答性サンプルの発現量の平均を N g、 標準偏差を a N gとすると、 SNRは以下 の式 1で求めることができる。
¾2 M-Nff 、
シグナル対ノイズ比 G„) = ~。- ― (式 1 )
¾ + CJNg 得られた SNRの値から、 遺伝子 gの重みづけ投票は以下の式 2で求めることが できる
遺伝子 g の weighted vote (ν
η ) = X, (式 2 )
x
gにテストしたいサンプルの遺伝子 gの発現量を代入すると、 そのサンプルに おける遺伝子 gの重みづけ投票が計算できる。 この重みづけ投票 weighted vote を全ての遺伝子について計算する。
一方、 SNR の式 (式 1 ) を参照すれば、 応答性サンプルへの投票は正の値、 非 応答性サンプルへの投票は負の値をとることがわかる。 8 5遺伝子のうち正の voteをすベて加算すると、 応答性サンプルへの vote合計 VRが、 負の voteをす ベて加算すると非応答性サンプルへの vote合計 VNが計算できる (式 3— 1及び 式 3— 2 )。
応答性サンプル群 (R)への vote合計 ( VR ) =∑ ;, > 0 (式 3— 1 )
非応答性サンプル群 (N)への vote合計 ( νΝ、 (式 3— 2 )
[式中、 iは 1〜ηの整数、 Vl〜vnはそれぞれ選択した遺伝子の voteを示す。] 「予測」 の程度を表す尺度である予測強度 (Prediction strength) は、 以下の 式 4で定義され、 値が大きければ応答性サンプル、 小さければ非応答性サンプル と予測する。 例えば、 予測強度の閾値を 0として、 ◦より大きければ応答性サン プル、 小さければ非応答性サンプルと予測できる。
予測強度 (PS) = (式 4 )
VR + 情報漏れのない leave- one- outクロスバリデーションの手順は以下の通りであ る。 まず、 1個のサンプルを抜き、残りの 4 3種のサンプルで 1125遺伝子の個々 について、 SNR、 PPT (50000回のランダムな交換)、 または RFEを用いてドセタキ セル感受性と発現比の対数との間の相関を算出した。 次に、 それぞれの値の絶対 値によって遺伝子をソートした。 次いで、 上位にランクされた遺伝子のセットに 基づき、 WV、 k-NNまたは SVMアルゴリズムを用いて抜いておいた 1サンプルの結 果を予測した。 WV:応答性サンプルと非応答性サンプルを分類する予測強度の闘 値は 0であった。 k- NN (nearest neighbor) の k値は 1である。
遺伝子選択ステップと予測アルゴリズムの双方を含む厳密な leave- one- outク ロスパリデーションの結果、 WVアルゴリズムが概して良好な結果を示し、 85遺伝 子を用いた場合には、 精度が最高 (72. 7%) に達した (図 1 )。 しかしながら、 10 個以上の遺伝子を用いた場合でも、 65%前後の精度が得られ、 臨床における簡易 判定においては有効である。 尚、 遺伝子は、 SNR の絶対値を指標として発現量の 差の大きいものから順に選択した。
癌の分類において、 クロスバリデーシヨンは一般に全てのデータセットから遺 伝子を選択した後に予測アルゴリズムと共にのみ行われることが多い。 このタイ プのクロスバリデーシヨンは予測精度を過剰評価するが、 上限を設定するには有 用である。 本実施例において、 WVの評価精度は一般的に 90%を越え、 10個以上 の遺伝子で良好な結果を得た (図 1 )。 これらの解析結果から、 weighted - voting によって表 1に記載の 85遺伝子を診断のための遺伝子セットとして選択し、精度 は 7 0 - 9 0 %であると予測した。
次に、 全 4 4サンプルを用いて、 シグナル対ノイズ比を再度計算し、 上位 8 5 遺伝子を選択した。 8 5遺伝子のリストを表 1に示した。
表 1において、遺伝子の番号は下記の表 7と同じ番号をそれぞれ使用してある。 登録番号は GenBankデータベースにおける登録番号を示す。 登録番号記載の遺伝 子は、 例えばインターネットを介してデータベースにアクセスし、 塩基配列情報 を入手することができる。 登録番号が記載されていない遺伝子 (遺伝子番号 4、 5 7、 5 9、 1 1 2、 1 2 1、 1 2 2、 及ぴ 1 2 5 ) は本発明者等が新規に見出 した遺伝子配列であり、 その塩基配列は配列表にそれぞれ配列番号 1〜 7として 記載した。'尚、 各遺伝子について SNR及ぴパーミューテーションテストにおける p値を示した。 「RZN」は、各遺伝子が応答性サンプルで高発現する遺伝子(R) である力 \非応答性サンプルで高発現する遺伝子(N)であるかを示す。便宜上、 表 1記載の遺伝子について、 応答性サンプルで高発現する遺伝子 (R) 及び非応 答性サンプルで高発現する遺伝子(N)に分けて、それぞれ表 3及ぴ 4に挙げる。
4 4名の患者を上記 8 5遺伝子のセットを用いて応答性 Z非応答性の群にそれ ぞれ分類した。 結果を図 2に示す。 非応答性サンプルでは 6 1遺伝子 (表 1にお ける 「N」、 表 4 ) の発現が上昇しており、 応答性サンプルでは 2 4遺伝子 (表 1 における 「R」、 表 3 ) の発現が上昇している。 また、 図 2に示す 4 4症例の患者 について予測強度の高い順に並べ、 それぞれの予測強度 (PS) を表 5に示す。
表 3 登録番号 permutation
symbol description SNR R/N (配列番号) _pvalue
1 L43578 115392 Homo sapiens (clone 115392) mRNA 0.629427391 3.80E-04 R
32 AL096712 FLJ 10422 hypothetical protein FLJ 10422 0.414362337 0.0081 R
33 AL132799 FLJ1 1373 Homo sapiens cD A FLJ 1 1373 fis, clone HE BA1000376 0.4160525 0.0082 R cargo selection protein (mannose 6 phosphate receptor binding
34 BC005818 TIP47 0.4112999 0.00844 R protein)
39 Ζ93015 EST hypothetical protein DKFZp761 D1823 0.407596857 0.01062 R
40 S43127 Ref-1 redox factor protein 0.432580852 0.01 1 1 R
42 Χ52022 COL6A3 collagen, type VI, alpha 3 0.4527891 17 0.01 1 18 R
44 AL137365 LQFBS-1 hypothetical protein LQFBS-1 0.407439021 0.01202 R
57 (配列番号 2) EST 0.390823265 0.01554 R
63 Α 023622 FLJ 10298 hypothetical protein FLJ10298 0.375540068 0.01648 R
66 AC004140 EST 0.376767466 0.01784 R
70 Ζ83838 EST EST 0.367407527 0.01864 R
72 AF201948 BUP BUP protein 0.365780476 0.01892 R
74 AC004084 EST ESTs 0.361357363 0.02242 R
83 AL121787 EST ESTs 0.349035681 0.02478 R
90 L20688 Ly-GDI Rho GDP dissociation inhibitor (GDI) beta 0.358940302 0.02596 R
92 D15057 DAD1 defender against cell deat 1 0.349218258 0.02644 R
98 AF131766 EST Homo sapiens RNB6 (RNB6) mRNA, complete cds. 0.36547013 0.02874 R serine (or cysteine) proteinase inhibitor, clade A (alpha-1
104 BC003559 SERPINA3 0.340519704 0.03006 R antiproteinase, antitrypsin), member 3
105 Χ51405 CPE carboxypeptidase E 0.353169431 0.03014 R
1 13 Ζ49154 FLJ 14309 Homo sapiens cD A FLJ 14309 fis, clone PLACE3000221 0.33501381 1 0.03374 R
123 AJ225782 SYBL1 Homo sapiens SYBL1 gene 0.324417955 0.03798 R
133 ΑΒ023162 IAA0945 KIAA0945 protein 0.360946508 0.04192 R
134 AL133052 BC013073 hypothetical protein BC013073 0.322680196 0.04216 R
- 9Z -
Z69600/t00idf/X3d JSCCOO/SOOZ: OAV
solute carrier family 25 (mitochondrial carrier; phosphate carrier),
54 BC006455 SLG25A3 0.383631786 0.01442 N member 3
55 BC006481 TUBA1 tubulin, alpha, ubiquitous 0.394506263 0.01448 N
56 Z26876 RL38 ribosomal protein L38 0.374826022 0.0153 N
58 M84739 CALR calreticulin 0.378123463 0.01584 N
59 (配列番号 3) EST ESTs 0.380510333 0.01592 N
60 AF157482 MAD2L2 MAD2 (mitotic arrest deficient, yeast, homolog) - like 2 0.382400188 0.016 N
61 X89593 CTNNB1 catenin (cadherin- associated protein), beta 1 (88kD) 0.381766955 0.01 62 N
62 BC000547 MRPS6 Homo sapiens, clone IMAGE:29581 15, mRNA, partial cds 0.377664497 0.01628 N
65 AY007104 EST EST 0.372014917 0.01708 N
67 20456 ALDH2 aldehyde dehydrogenase 2 family (mitochondrial) 0.367019899 0.01808 N
68 BC004325 EN01 enolase 1 , (alpha) 0.370476845 0.0183 N
73 BC001829 LDHA lactate dehydrogenase A 0.364643938 0.02076 N
76 AF007150 FLJ 90245 Homo sapiens clone 23767 and 23782 mRNA sequences 0.376574158 0.02266 N
78 X84694 EFTU elongations factor Tu - mitochondrial 0.356696182 0.02314 N
79 X91 195 SO 172 phospholipase C, beta 3, neighbor 0.396773303 0.02318 N
81 Z49099 SMS spermine synthase 0.3551 12642 0.02362 N
82 AK000620 ARHGDIB ADP-ribosylation factor 1 0.35717421 0.02406 N
84 BC001737 AKT1 Human rac protein kinase alpha mRNA 0.350702242 0.02488 N
85 X67951 PRDX1 peroxiredoxin 1 0.356248902 0.02512 N
86 X13709 GPX1 glutathione peroxidase 1 0.344092963 0.02524 N
87 BG003377 TRX thioredoxin 0.348092495 0.02526 N
88 BC009283 MGC14327 Homo sapiens, clone MGC:14327 IMAGE:4298098, mRNA 0.352160397 0.02528 N
91 D30658 GARS glycyl-tRNA synthetase 0.346548246 0.02632 N
93 AL035420 EST ESTs 0.347771094 0.02686 N
94 BC001416 PPP4C protein phosphatase 4 (formerly X), catalytic submit 0.347185706 0.02738 N
99 BC004272 RAN RAN, member RAS oncogene family 0.335336459 0.0289 N
107 D63780 YSK1 Homo sapiens mRNA for YSK1 0.338441593 0.03204 N
1 10 X71973 GPX-4 glutathione peroxidase 4 (phospholipid hydroperoxidase) 0.331641836 0.03316 N
11 1 AL109918 TS58 Homo sapiens TS58 mRNA 0.353769181 0.03324 N
115 BC001682 DSC92 mesenchymal stem cell protein DSC9Z 0.359409203 0.03546 N
120 AL139099 RL36a ribosomal proteinし 36a 0.325313263 0.03648 N
124 AF043906 T245 Homo sapiens T245 protein (T245) mRNA 0.324423328 0.03802 N
125 (配列番号 7 ) EST 0.339165544 0.03826 N
Homo sapiens adapto「related protein complex 1 , mu 1
131 ■—032493 AP1 M1 0.320380068 0.0412 N subunit(AP1 M1 ), mRNA.
132 BC003162 LMNA lamin A/G 0.317520604 0.04128 N
1 0 X74801 CCT3 chaperonin containing TCP1 , subunit 3 (gamma) 0.316838203 0.04704 N
00
2004/009692 表 5
予測強度の閾値を 0とすると、 臨床的に確認された応答性サンプルと非応答性 サンプルは明瞭に分かれ、誤分類は 4症例のみであった (図 2 )。完全な応答性サ ンプルと進行性の症例は閾値近くには位置しないことから、 応答性サンプルと非 応答性サンプルで異なった発現パターンが得られることが示唆された。
実施例 3
原発性乳癌.(腫瘍サイズ 3 c m以上、 n = 2 6 ) の女性患者 2 6名 (表 2の検 証セット) からサンプルを採取し、 実施例 2と同じアルゴリズムを検討した。 決 定された 8 5種のマーカー遺伝子 (表 1 ) の 4 4サンプルにおける発現量比を、 検証用の 2 6サンプルの予測強度の計算に用いた。 応答性サンプル (予測強度
「強」) と非応答性サンプル (予測強度 「弱」) に分類する予測強度の閾値は 0と した。
患者から得たサンプルのそれぞれで上記 8 5遺伝子の発現レベルを ATAC- PCR によって測定し、 ドセタキセルに対する応答性を予測した。 以下の表 6は、 検証 セットにおける予測強度とドセタキセル治療に対する実際の応答性との関係を示 す。 表中の数値は患者の数を示す。
表 6
表 6から明らかなように、 予測強度が高かった 1 5サンプルにおいて、 実際に 応答性を示したサンプルは 1 1サンプルであり、 予測強度が低かった 1 1サンプ ルにおいて、 実際に非応答性を示したサンプルは 1 0サンプルであった。 この結 果、 応答性サンプルの予測精度は 91. 7% (11/12)、 非応答性サンプルの予測精度 は 71. 4% (10/14)、 全体としての予測精度は 80. 8%であった。
実施例 4
ドセタキセルに対する感受性を決定する分子特徴を明らかにするために、 パー ミューテーシヨンテスト (交換 50000回) によって全遺伝子セット (測定した遺 伝子から欠測値の数が 20%より多い 235遺伝子を除く 2218遺伝子) から、 応答 群と非応答群で遺伝子発現に差のあるものを permutation p - valueの小さいもの から新たに選択を行い、ドセタキセル感受性を決定する分子特徴を明らかにした。 その結果、 表 7に記載の 148遺伝子が統計的に有意であることが見出された (P- 値く 0. 05)。 表 7に記載の遺伝子には、 上記実施例 2で用いた 85遺伝子 (表 1 ) が全て含まれている。
Ku autoantigen p70 subunit (ATP - dependent DNA
142 S38729 G22P1 0.308364072 0.04724 149 helicase II).
143 BF223688 FLJ23304 Hypothetical protein FLJ23304. 0.30721259 0.04724 150
Homo sapiens for suppressor of Ty (S.cerevisiae) 5
144 AB000516 SUPT5H 0.309872434 0.048 151 homolog ( DSIF p160)mRNA
145 AL136097 EST EST 0.306445185 0.0494 152
Homo sapiens glioma pathogenesis - related protein
146 X91911 GLIPR 0.308257495 0.04946 153
(GliPR) mRNA
147 BC015164 PFN1 Homo sapiens, profilin 1, clone MGC.2264, mRNA. 0.299271468 0.04948 154
Homo sapiens, transgelin 2, clone MGG:2989
148 AY007127 TAGし N2 0.305440094 0.04964 155
IMAGE31431 6, mRNA
00
表中、 遺伝子の番号は表 1と同じ番号をそれぞれ使用してある。 尚、 表 7は p - 値の小さい順にソートしてある。 また、 それぞれの遺伝子の PCR増幅のために使 用し得るプライマーを配列番号 8〜1 5 5に示す。
次に、 表 7に記載された遺伝子において、 応答性サンプルと非応答性サンプル とで異なって発現する遺伝子の機能を検討した。
ドセタキセル等のタキサン類は微小管の動態を阻害することが報告されている ことから、 非応答性サンプルにおける数種のチューブリン遺伝子 (表 1及び 7に おける遺伝子番号 1 0及ぴ 5 5 ) の発現上昇はこのメカニズムと関連している可 能性がある。
また、 非応答性サンプルでは、 細胞内酸化還元環境を調節する遺伝子の発現上 昇がみられる。 こうした遺伝子には、 ダルタチオン- S-トランスフェラーゼ pi 1 (GSTP1) (遺伝子番号 1 0 )、ダルタチオンパーォキシダーゼ 1 (遺伝子番号 8 6 )、 チォレドキシン (遺伝子番号 8 7 )、 ペルォキシレドキシン 1 (チォレドキシンパ 一ォキシダーゼ 2 ) (遺伝子番号 8 5 )、 グルタチオンパーォキシダーゼ 4 (遺伝 子番号 1 1 0 )、及びダルタチオンパーォキシダーゼ関連タンパク質 1 (遺伝子番 号 1 6 ) をコードする遺伝子が挙げられる。
、 チオール基の還元及び酸化を通じて 細胞内酸化還元環境を維持する 2つの主要なメカニズムである。 これらの主要な 機能の 1つは、 パーォキシダーゼ、 すなわちグルタチオンパーォキシダーゼ及ぴ チォレドキシンパ一ォキシダーゼを介して酸素フリーラジカルから細胞を保護す ることである。 ドセタキセルに対して非応答性のサンプルにおいてこれらの酸化 還元関連ぺプチドまたはタンパク質をコードする遺伝子(以下「酸化還元遺伝子」 という) が異常に高発現していることから、 これがドセタキセル抵抗性のメカ- ズムの 1つであることが強く示唆された。
実施例
酸化還元遺伝子の発現がドセタキセル抵抗性に関連することをトランスフエク ション実験によって検討した。
グルタチオン- S-トランスフェラーゼ pi (GenBank登録番号 M24485、 遺伝子番 号 1 0 )、 チォレドキシン (GenBank登録番号 BC003377、 遺伝子番号 8 7 )、 及ぴ
ペルォキシレドキシン (GenBank登録番号 X67951、 遺伝子番号 8 5 ) をそれぞれ コードする 3種の遺伝子を、 サイ トメガロウィルスプロモーターの制御下におい て GFP (緑色蛍光タンパク質) との融合タンパク質としてクローニングし、 ドセ タキセル応答性細胞株であるヒ ト乳癌細胞系 (MCF - 7) にトランスフエクシヨンし た。
MCF-7 乳 癌 細 胞 は 、 1 0 % FBS ( Dainippon Pharm. ) 及 び ant imycot i c-ant imytot i c (GIBCO BRL) を添加した腿 M (SIGMA, St Louis, M0) 中で、 3 7 °Cで 5 %〇02の加湿したインキュベータ中で増殖させ、週に 2回分割 した。全長 cDNAを、哺乳動物細胞で GFP融合タンパク質をクローニング及ぴ発現 させるための発現べクタ一 pcDNA- DEST47 Gatewayベクター中にクローユングした t MCF7 細月包の 卜ランスフ; nクショ ンは、 LipofectAMINE Plus Reagent ( Life Technologies, Inc. ) を用い、 使用説明書に従って 70%コンフルエンシー条件で 行った。
トランスフエタ トした細胞は 24マルチゥヱル培養皿上で増殖させ、種々の濃度 のドセタキセルで処理した。 24時間後、 PBS中 4 %パラホルムアルデヒ ドで細胞 を固 し、- TMR -: red (Roche Molecular Biochemicals, Mannheim, Germany) で染 色し、 細胞死を染色体 DNAの断片化を検出する TUNELアツセィで判定した。
その結果、 試験した遺伝子は全て、 ドセタキセル誘導性の細胞死から MCF- 7を 保護した (図 3 )。 例えば、 ドセタキセル 10nMでは、 対照の細胞系では 50%の細 胞のみが生存しているのに対し、 3種の酸化還元遺伝子をトランスフエク トした 細胞系では 90 %を越える細胞が生存していた。 産業上の利用の可能性
本発明の方法は、 タキサン類に対する応答性に関して癌組織固有の性質のほと んどを把握することができるものであり、 ヒ トの癌に対する治療法の決定の際に 臨床的に有用な指針を提供し得るものである。 また本発明者等の結果から、 ダル タチオン及ぴ Zまたはチォレドキシン系の酵素を阻害することによって非応答性 サンプルに応答性の性質を与え、 タキサン類の効果を補助する新規抗癌剤の設計 ができることが示唆される。 十分に設計された臨床試験に含まれる乳癌の遺伝子
発現プロフアイリングは、 臨床並びに医薬の開発のために非常に重要である。 薬剤に対する応答性は個人によって異なり、 これを予測することができれば治 療法の決定、 並びに医薬の開発、 感受性を有する患者に対してのみの投薬が可能 となる。 薬剤に対する応答性の個人差は薬剤代謝酵素、 薬剤の受容体及びトラン スポーター等をコードする遺伝子における多型に基づくと考えられている。 一塩 基多型(SNP) のゲノムワイドの解析によって、薬剤応答と関連する多型が同定で きると予想されている。 本発明者等は、 薬剤抵抗性の予測及ぴ理解のために、 遺 伝子発現プロフアイリングも重要なアプローチであることを証明した。 遺伝子フ アミリーの発現が一致して変化すれば特に強力である。。遺伝子発現に基くァプロ ーチは、 SNPの解析によって得られるものと良好な相補的方法である。
グルタチオンの系とチォレドキシンの系はこれまで別々に研究されていたが、 本発明者等の結果から、 タキサン類に対する抵抗性にはこれらの系の双方が協働 して作用していることが示唆される。 これらの酵素のメカニズムの詳細は不明で あるが、 パーォキシダーゼの'存在から、 タキサン類によって誘導される酸化的ス トレスからの保護は最も考えられるメカニズムである。
一方、 抗癌剤に対する応答性は、 癌組織固有の性質によってのみでなく、 薬物 代謝能等の宿主側の種々の条件によって左右される。 そのため、 極めて正確な予 測は一般に困難である。 従って、 本発明の方法は、 タキサン類に対する応答性に 関して癌組織固有の性質のほとんどを把握するものであり、 癌に対する治療法の 決定の際に臨床的に有用な指針として機能し得るものと考えられる。 本明細書で引用した全ての刊行物、 特許および特許出願をそのまま参考として 本明細書にとり入れるものとする。