明 細 書
粘膜指向性ヒトパピローマウィルス群の感染予防ワクチン抗原
技術分野
[0001] 子宮頸癌の原因となるヒトパピローマウィルス群の感染を予防するためのワクチンと して使い得る抗原に関する。特に本発明は、ヒトパピローマウィルス (HPV) 16型 L1蛋 白質に、ヒトパピローマウィルスの L2ェピトープを揷入したキメラ蛋白質及びこのキメ ラ蛋白質の集合体であるキヤプシドに関する。
背景技術
[0002] ヒトパピローマウィルス (HPV) (図 1)は、小型の DNAウィルスで、 80以上の遺伝子型 が存在する。粘膜に感染する型 (粘膜指向性 HPV)のうち、少なくとも 12の型 (高リスク 型: 16、 18、 31、 33、 35、 39、 45、 51、 52、 56、 58、 68型)が子宮頸癌の原因となること が知られている(図 2)。我が国の子宮頸部異形成 (癌はこの病変を経て発生する。 自 然治癒することが多い。)に検出される HPVも様々な型である(図 3)。我が国は集団 検診で早期発見に努めているにもかかわらず年間 15000人の発症と 2500人の死亡が 報告されている。さらに、陰茎癌、外陰癌、舌癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌の一部も HPV感染が原因ではな!/、かと考えられて!/、る。 WHOでは世界の女性の悪性腫瘍の 11% (45万人)に HPV感染が関わっており 3億人の HPVキャリアーがいると推定してい る。
[0003] ゥシゃヮタノォゥサギにも固有のパピローマウィルスが存在する。不活化したウィル ス粒子をワクチンとして接種すると、感染予防効果があることが示され、 HPV感染もヮ クチンによって予防できると考えられて 、る。
[0004] HPV粒子は、 L1蛋白質の 5量体 (キヤプソメァ) 72個と L2蛋白質 12分子で構成され る正 20面体のキヤプシドが DNAゲノムを包む構造をして!/、る (図 1)。組換え DNA技術 を応用して L1蛋白質のみを大量に発現させるとキヤプシド様の構造 (L1-キヤプシド) ができる。 L2蛋白質も同時に発現させればウィルス粒子と組成の同じキヤプシド( L1/L2-キヤプシド)が形成される。 Lトキャプシドは、強い免疫原性を持ち、動物に接 種するとアジュバント無しに抗体産生と細胞性免疫の両者を誘導することが示されて
いる。この免疫原性は HPVの型に特異的で、 16型の L1-キヤプシドの免疫では 16型 に特異的な反応が起こる。
[0005] HPVの増殖を許す培養細胞系が無いため、 HPVの感染をモニターするには HPVの L1/L2-キヤプシドにマーカー遺伝子の発現プラスミド等を組み込んだ感染性偽ウイ ルスが工夫されている。 HPVの感染中和抗体は、この感染性偽ウィルスの感染阻害 で測定されている。
[0006] 米国を中心に、 HPV16型の L1-キヤプシドをワクチン抗原とする臨床試験が行われ ており、まず L1-キヤプシドの筋肉注射がヒトに安全なことが確認され、次いで 16型の 感染を予防できることを示すデータが集まりつつある(図 4)。同時に、このワクチンは 16型以外の型の HPVには感染予防効果が無 、ことも指摘されて 、る。
[0007] 本発明者らはこれまでの検討で、 HPV16型 L2蛋白質のアミノ酸 108-120領域にある ェピトープ(L2-ェピトープ)を認識するマウス(BALB/c)単クローン抗体 (MAb5、 13) 及び HPV16型 L2蛋白質のアミノ酸 108-120領域と同じ配列を持つ合成ペプチドを BALB/cに免疫して得た抗血清は、 16型だけでなく 6、 11、型の感染を阻害することを 不してき 7こ (|¾5及ぴ 6並びに Kawana. K, et al.: Common neutralization epitope in minor capsid protein L2 of human papillomavirus types 16 and 6. J. Virology., 73, 6188-6190, 1999(非特許文献 1)参照)。
[0008] この L2領域のアミノ酸配列は粘膜指向性の HPV群で良く似ていることから、 L2-ェピ トープを認識する抗体は幅広く粘膜指向性 HPV群の感染を防ぐ可能性があることを 指摘してきた(図 5)。さらに、この合成ペプチドをヒト健常者のボランティアに経鼻接 種しても安全で、一部のヒトの血清中に抗体が誘導され、少なくとも 16型と 52型を中 不ロす ことを し 7こ (Kawana. K, et al.: Safety and immunogenicity of a peptide containing the cross-neutralization epitope of HPV ID L2 administered nasally in healthy volunteers. Vaccine., 21: 4256-4260, 2003(非特許文献 2)参照)。
[0009] 本発明者らは、 HPV16型 L2蛋白質のアミノ酸 108-126領域を蛍光蛋白質につない で 4°Cで細胞培養液に加えると、この融合蛋白質が細胞に表面に結合すること、 37°C に暖めると細胞内に侵入することを見出した(図 7 : Kawana. Y, et al.: Human
Dapillomavirus type 16 minor capsid protein 12 N— terminal region containing a
common neutralization epitope binds to the cell surface and enters the cytoplasm. J. Virology., 75, 2331-2336, 2001 (非特許文献 3)参照)。
従って、 L2蛋白質のこの領域は HPVが細胞に結合'侵入する際に重要な役割を担 つており、抗体が結合することで HPVの感染が阻害される機構を想定できる(図 8)。
[0010] 他に関連のある研究発表は以下のとおりである。
D Katharina Slupetzkyらは、 HIVの gp41蛋白質の B細胞ェピトープとされている 8ァミノ 酸の領域を、 HPV16型 L1蛋白質のアミノ酸 286と 287の間に挿入、アミノ酸 281-287領 域を置換、及び C末端に付加の 3つの構造を作り、粒子の形成を確認するとともに、 アミノ酸 282-286領域が抗 L1中和抗体のェピトープに関わって 、ることを報告した (Kathanna slupetzky, et al.:し mmeric papillomavirus- like particles expressing a foreign epitope on capsid surface loops. J. Gen. Virology., 82, 2799-2804, 2001(非 特許文献 4))。
[0011] 2) Jean- Remy Sadeyenらは、 B型肝炎ウィルス(HBV)のコア蛋白質のェピトープとさ れている 6アミノ酸の領域を HPV16型 L1蛋白質のアミノ酸 56-57、 140-141、 179-180、 266-267、 283-284、及び 352-353領域に挿入した変異体を作製した。これらはキヤプ シドを形成し、マウス (C57BL/6C)に免疫して得た抗血清は HPV16型に対する中和 能を維持しており、アミノ酸 56-57領域の置換体を除いて、抗 HBV抗体が誘導される ことを示した。 266-267領域の置換体を免疫した場合は中和抗体価が低力つたことか ら、この領域が HPVに対する中和抗体の誘導に重要であると推定して!/、る
(Jean- Remy Saaeyen, et al.: Insertion of a foreign sequence on capsid surface loops or human papillomavirus type 16 virus-like particles reduces their capacity to induce neutralizing antibodies and delineates a conformational neutralizing epitope. Virology., 309, 32-40, 2003(非特許文献 5))。
[0012] 3) Arvind Varsaniらは、 HPV16型 LI蛋白質のアミノ酸 81- 93、 131-143、 174-186、
414-426、及び 431-443領域を、本発明者らが報告した HPV16型 L2蛋白質のアミノ酸 108-120領域の配列と置き換えた変異体を作り、 BALB/cマウスに免疫し、 414-426領 域の置換体が抗 L2抗体を誘導することを報告した (Arvind Varsani, et al. : Chimeric human papillomavirus type 16 (HPV- 16) LI particles presenting the common
neutralizing epitope for the L2 minor capsid protein of HPV— 6 and HPV-16. J. Virology., 77, 8386-8393, 2003(非特許文献 6))。
非特言午文献 1 : Kawana. K, et al.: Common neutralization epitope in minor capsid protein L2 of human papillomavirus types 16 and 6. J. Virology., 73, 6188—6190, 1999
特言午文献 2 : Kawana. K, et al.: Safety and immunogenicity of a peptide containing the cross-neutralization epitope of HPV16 L2 administered nasally in healthy volunteers. Vaccine., 21: 4256-4260, 2003
非特言午文献 3 : Kawana. Y, et al.: Human papillomavirus type 16 minor capsid protein 12 N— terminal region containing a common neutralization epitope binds to the cell surface and enters the cytoplasm. J. Virology., 75, 2331—2336, 2001 非特言午文献 4 : Katharina Slupetzky, et al.: Chimeric papillomavirus- like particles expressing a foreign epitope on capsid surface loops. J. Gen. Virology., 82, 2799-2804, 2001
非特許文献 5 :Jean-Remy Sadeyen, et al.: Insertion of a foreign sequence on capsid surface loops of human papillomavirus type 16 virus— like particles reduces their capacity to induce neutralizing antibodies and delineates a conformational neutralizing epitope. Virology., 309, 32—40, 2003
非特言午文献 6 : Arvind Varsani, et al.:し himeric human papillomavirus type 16 (HPV-16) LI particles presenting the common neutralizing epitope for the L2 minor capsid protein of HPV- 6 and HPV-16. J. Virology., 77, 8386-8393, 2003
HPVの LI-キヤプシドを動物に免疫すると、型に極めて特異的な免疫応答を誘導す ることが知られて!/、る。 16型の L1-キヤプシドワクチンは 16型の感染予防に有効性が 示されている一方で、他の型の予防には効果が殆どないと考えられており、ワクチン で HPV感染を阻止するには、少なくとも高リスク型すべてに対応できるワクチン抗原 の開発が課題である。
即ち、本発明の目的は、少なくとも高リスク型すべてに対応でき得るワクチン抗原を 提供することにある。
発明の開示
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[1]ヒトパピローマウィルス(HPV) 16型 L1蛋白質のループ部位に、ヒトパピローマウイ ルスの L2ェピトープ群のうちの少なくとも 1つの L2ェピトープを揷入したキメラ蛋白質 の集合体であるキヤプシド。
[2]前記 L2ェピトープ群は、 VEETSFIDA、 VEESGIVDV、 IEETTFIES、 IEESSFIDA、 IEDSSWTS,または IEESAIINAで表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸群力 なる [ 1]に記載のキヤプシド。
[3]前記 L2ェピトープ群は、前記アミノ酸配列において、 1または数個のアミノ酸力 欠 失、置換、または付加されたアミノ酸力もなり、かつ前記キヤプシドに元となる L2ェピト ープを有する HPVの抗原性と同様の抗原性を付与するアミノ酸群力もなる [2]に記載 のキヤプシド。
[4]前記 L2ェピトープを揷入するループ部位は、アミノ酸 56と 57の間、アミノ酸 140と 141の間、アミノ酸 266と 267の間、及びアミノ酸 430と 433の間の少なくとも一力所である [1]一 [3]の!、ずれかに記載のキヤプシド。
[5]L1-キヤプシドワクチンの製造に用いられる [1]一 [4]の 、ずれかに記載のキヤプ シド。
[6]ヒトパピローマウィルス(HPV) 16型 L1蛋白質のループ部位に、ヒトパピローマウイ ルスの L2ェピトープ群のうちの少なくとも 1つの L2ェピトープを揷入したキメラ蛋白質。
[7]前記 L2ェピトープ群は、 VEETSFIDA、 VEESGIVDV、 IEETTFIES、 IEESSFIDA、 IEDSSWTS,または IEESAIINAで表されるアミノ酸配列を有するアミノ酸群力 なる [ 6]に記載のキメラ蛋白質。
[8]前記 L2ェピトープ群は、前記アミノ酸配列において、 1または数個のアミノ酸力 欠 失、置換、または付加されたアミノ酸力もなり、かつ前記キメラ蛋白質力も構成される キヤプシドに L2ェピトープを有する HPVの抗原性と同様の抗原性を付与するアミノ酸 群からなる [7]に記載のキメラ蛋白質。
[9]前記 L2ェピトープを揷入するループ部位は、アミノ酸 56と 57の間、アミノ酸 140と 141の間、アミノ酸 266と 267の間、及びアミノ酸 430と 433の間の少なくとも一力所である
[6]一 [8]の 、ずれかに記載のキメラ蛋白質。
[10] [6]一 [9]の 、ずれかに記載のキメラ蛋白質を集合させることでキヤプシドを形 成させることを含む、 [1]一 [4]の 、ずれか 1項に記載のキヤプシドの製造方法。
[0015] 本発明によれば、粒子構造が強!ヽ免疫誘導活性を持つことと併せ、 HPVの L2-ェピ トープを強力に抗原提示できる新たな抗原を提供できる。その結果、少なくとも高リス ク型すべてに対応でき得る L1-キヤプシドワクチンを提供することも可能になる。 発明を実施するための最良の形態
[0016] (L1-キヤプシド)
本発明の L1-キヤプシドは、ヒトパピローマウィルス(HPV) 16型 L1蛋白質のループ 部位に、ヒトパピローマウィルスの L2ェピトープ群のうちの少なくとも 1つの L2ェピトー プを挿入したキメラ蛋白質の集合体であるキヤプシドである。
[0017] 前述のように HPV粒子は、 5分子の L1蛋白質が集合したキヤプソメァが 72個集まつ て正 20面体のキヤプシドを形成する。 L1蛋白質を細胞で高発現させると、 L1蛋白質 は核に集まって、 自律的にキヤプシドを形成する。 L1蛋白質のみで形成されるキヤプ シドを L1-キヤプシドまたはウィルス様粒子(virus-like particle: VLP)と呼ぶ。 L1蛋白 質と L2蛋白質を同時に発現させると 12分子の L2蛋白質が L1-キヤプシドに取り込ま れて L1/L2-キヤプシド(または L1/L2-VLP)ができる。但し、 L1-キヤプシドと L1/L2- キヤプシドは、電子顕微鏡では識別できな 、。
[0018] 本発明の L1-キヤプシドは、 HPV16型の L1-キヤプシドをベースとするキヤプシドで ある。 HPVは遺伝子型が多いので、一般に HPV16や HPV58等の表示で型とともに記 載する。ここでは HPV16型の L1-キヤプシドは 16L1-キヤプシド、 HPV52型の L1/L2- キヤプシドは 52L1/L2-キヤプシドのように記載する。
[0019] 本発明の L1-キヤプシドは、 HPV16型 L1蛋白質に、 HPVの L2ェピトープを揷入した キメラ蛋白質の集合体である。以下、キメラ蛋白質とは、「ヒトパピローマウィルス( HPV) 16型 L1蛋白質のループ部位に、ヒトパピローマウィルスの L2ェピトープ群のう ちの少なくとも 1つの L2ェピトープを挿入したキメラ蛋白質」を意味し、本発明は、この キメラ蛋白質も包含する。
[0020] 本発明のキメラ蛋白質を作るために L1蛋白質に挿入される L2ェピトープは、 9個の
アミノ酸力 なる。
本発明者らは、 HPV16型の L2蛋白質のアミノ酸 108-120領域に L2-ェピトープが含 3;れ ことを先に報告し 7こ (Kawana. K, et al.: Common neutralization epitope in minor capsid protein L2 of human papillomavirus types 16 and 6. J. Virology., 73, 6188-6190, 1999 )。そして、 16型の L2-ェピトープは、 16型だけでなく 6、 11、 52型の 感染を阻害することを示した。尚、本発明においては、蛋白質のァミノ末端から順に アミノ酸残基に番号を付け、例えば 50番目のアミノ酸をアミノ酸 50と記載した。
[0021] 上述のように、この L2領域のアミノ酸配列は高リスク型を含む粘膜指向性の HPV群 で良く似ていることから、 L2-ェピトープを認識する抗体は幅広く粘膜指向性 HPV群 の感染を防ぐ可能性がある。そこで、 HPV16型 L1-キヤプシドに L2-ェピトープを揷入 し、キヤプシドの強い免疫誘導能を利用して、 L2-ェピトープに対する抗体産生を効 率よく誘導できる抗原の作製をめざした。
[0022] しかし、上記領域は 13アミノ酸の長さがあり、 L1蛋白質へ挿入するには長すぎると 本発明者らは考えた。実際に試してみると、アミノ酸 108-120領域を挿入した複数の L1蛋白質はみな凝集塊を形成し、 L2-ェピトープを抗原として提示できなカゝつた (結 果は実施例で示す)。そこで、さらに検討を重ね、最終的にアミノ酸 109-117が適切で あることを突きとめた。この領域のアミノ酸配列は粘膜指向性の HPV群で良く似ている (図 9)。そこで、本発明では、挿入すべき L2-ェピトープとして、図 9に示す粘膜指向 性の HPV群の L2-ェピトープを含めた。即ち、本発明においては、 L2ェピトープ群は 、具体的には、図 9に示すものを挙げることができる。
[0023] 特に、本発明にお 、ては、 L2ェピトープ群は、 VEETSFIDA (配列番号 2)、
VEESGIVDV (配列番号 3)、 IEETTFIES (配列番号 4)、 IEESSFIDA (配列番号 5)、 IEDSSWTS (配列番号 6)、または IEESAIINA (配列番号 7)で表されるアミノ酸配列を有 するアミノ酸群からなることが好ましい。 VEETSFIDA (配列番号 2)は、 HPV群の 16型 L2ェピトープであり、特に好ましい。
[0024] また、 VEESGIVDV (配列番号 3)は、 HPV群の 31型 L2ェピトープであり、 IEETTFIES( 配列番号 4)は HPV群の 52型 L2ェピトープであり、 IEESSFIDA (配列番号 5)は HPV群 の 58型 L2ェピトープであり、 IEDSSWTS (配列番号 6)は HPV群の 18型 L2ェピトープで
あり、 IEESAIINA (配列番号 7)は 6及び 11型 L2ェピトープである。
[0025] HPVの系統榭をみると、高リスク型は 16型を含むグループと 18型を含むグループに 大別される(図 2)。我が国の前癌病変 (CIN)に検出される頻度(図 3)が高いことから、 16型グループから 16型、 52型を選んだ。 日本に住む中国人が多いので、中国で多い とされる 58型を選んだ。 日本では 18型はあまり多くないので、 18型グループからは 18 型のみを選んだ。高リスク型の L2ェピトープの中心にある 113番目のアミノ酸力 31型 のみグリシンであることに注目して 31型を選んだ。 6· 11型は、コンジロームの原因とし て最も高頻度に検出されることから、高リスクではないものの、本発明では L2ェピトー プに加えた。
[0026] 前記 L2ェピトープ群は、前記アミノ酸配列、即ち、図 9に示すアミノ酸配列、特に VEETSFIDA、 VEESGIVDV、 IEETTFIES、 IEESSFIDA、 IEDSSWTSゝまたは IEESAIINAで表されるアミノ酸配列において、 1または数個のアミノ酸力 欠失、置換 、または付加されたアミノ酸力もなり、かつ本発明のキヤプシドに元となる L2ェピトー プを有する HPVの抗原性と同様の抗原性を付与するアミノ酸群カゝらなることもできる。
[0027] 即ち、 L2ェピトープ群は、 VEETSFIDAで表されるアミノ酸配列において、 1または数 個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸力もなり、かつ本発明のキヤ プシドに HPV16型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有する L2ェピトープの変異体 を含むことができる。
同様に、 L2ェピトープ群は、 VEESGIVDVで表されるアミノ酸配列において、 1また は数個のアミノ酸力 欠失、置換、または付加されたアミノ酸力もなり、かつ本発明の キヤプシドに HPV31型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有する L2ェピトープの変異 体を含むことができる。
同様に、 L2ェピトープ群は、 IEETTFIES、で表されるアミノ酸配列において、 1また は数個のアミノ酸力 欠失、置換、または付加されたアミノ酸力もなり、かつ本発明の キヤプシドに HPV52型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有する L2ェピトープの変異 体を含むことができる。
[0028] 同様に、 L2ェピトープ群は、 IEESSFIDA、で表されるアミノ酸配列において、 1また は数個のアミノ酸力 欠失、置換、または付加されたアミノ酸力もなり、かつ本発明の
キヤプシドに HPV58型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有する L2ェピトープの変異 体を含むことができる。
同様に、 L2ェピトープ群は、 IEDSSWTSで表されるアミノ酸配列において、 1または 数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸力もなり、かつ本発明のキ ャプシドに HPV18型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有する L2ェピトープの変異 体を含むことができる。
同様に、 L2ェピトープ群は、 IEESAIINAで表されるアミノ酸配列において、 1または 数個のアミノ酸が、欠失、置換、または付加されたアミノ酸力もなり、かつ本発明のキ ャプシドに HPV6/11型の抗原性を付与するアミノ酸配列を有する L2ェピトープの変 異体を含むことができる。
[0029] 本発明のキメラ蛋白質において、 L2ェピトープが挿入される L1蛋白質は、 L1蛋白 質のループ部位である。 L1蛋白質のループ部位は、例えば、 L1蛋白質のアミノ酸 52-62、 85-97、 133-152、 171-183、 266-294、 315-325、 346-360、及び 426- 446領域 である。特に、 L2ェピトープが揷入される L1蛋白質のループ部位は、アミノ酸 56と 57 の間、アミノ酸 140と 141の間、アミノ酸 266と 267の間、及びアミノ酸 430と 433の間の少 なくとも一力所であることが好ましい。 HPV16型 L1蛋白質のアミノ酸配列は、配列番号 1に示す。
[0030] 本発明者らは、 HPV16L1蛋白質の構造解析、中和抗体ェピトープの分布、及びキ ャプシド形成に必須なシスティン残基の位置等の観点から、 L1蛋白質の外側にあつ て、抗原として認識されうる領域は、アミノ酸 52-62、 85-97、 133-152、 171-183、 266-294、 315-325、 346-360、及び 426-446領域であると推定した。
[0031] 本発明者らは、 HPV16型、 18型、 6型 L1蛋白質のアミノ酸配列を並べて比較し、型 間で共通な部分は構造に関わる可能性が高いと考え、 L2ェピトープの挿入には不適 切とした。型によってアミノ酸配列が大きく異なる領域はキヤプシドの形成そのものに 必須ではないと予想し、 L2ェピトープの挿入候補領域とした。さらに、 HPV16型 L1蛋 白質のアミノ末端力 10アミノ酸を除いた蛋白質の集合で形成される L1-小型粒子( キヤプシドより小型の正二十面体粒子)の構造解析(引用文献 2)と、中和抗体ェピト ープの分布(引用文献 3)、及びキヤプシド形成に必須なシスティン残基の位置(引用
文献 4)を参考にし、 L1タンパク質の外側にあって、 L2ェピトープの揷入が可能で、か つ抗原として認識されうる領域は、アミノ酸 52-62 (HPV16型の L1-小型粒子において BCノレープ)、 85- 97(CDノレープ)、 133- 152(DEノレープ)、 171- 183(EFノレープ)、
266- 294(FGループ)、 315- 325(GHループ)、 346- 360(HIループ)、及び 426- 446(カル ボキシ末端)領域であると推定した。尚、引用文献は実施例の最後にリストを付す。
[0032] さらに、下記の理由力 挿入部位を絞り込み、 L2ェピトープを挿入したキメラ蛋白質 を作出してキヤプシド形成を調べた。
[0033] 部位 1:アミノ酸 52-62領域では、アミノ酸 56と 57のぁ 、だに B型肝炎ウィルスのェピト ープを挿入した報告(引用文献 3)が参考になった。アミノ酸 50はフエ二ルァラニン、 51はプロリン、 52はイソロイシンと疎水性のアミノ酸が続いた後に、 53と 54はリジン、 56 、 57、 58はァスパラギン、 59はリジンとほぼ全て親水性アミノ酸が続き、 60はイソ口イシ ンと疎水性になるので、 56と 57の間に挿入された L2ェピトープは表面にでると推定し 、挿入部位に選定した。
[0034] 部位 2 :アミノ酸 133- 152領域では、アミノ酸 140と 141のあいだに B型肝炎ウィルスの ェピトープを挿入した報告(引用文献 3)が参考になった。この領域は親水性アミノ酸 残基を多く含むので、挿入された L2ェピトープは表面にでると推定した。 146番目の システィン残基のすぐそばを避け、アミノ酸 140と 141の間に挿入することとした。
[0035] 部位 3:アミノ酸 266-294領域では、 267のパリン、 269のグルタミンが L2ェピトープの ァミノ末端のパリン、 3番目のグルタミンと一致したため、 266と 267の間に挿入した。す こしでも L1蛋白質のアミノ酸配列に合えば、キヤプシドを形成しやすいと考えた力 で ある。同時に B型肝炎ウィルスのェピトープを挿入した報告(引用文献 3)も参考にし た。
[0036] 部位 4:アミノ酸 426-446領域では、 428のシスティン残基がキヤプシド形成にかかせ ないことが知られている(引用文献 4)ので、 428を避けた。 431と 432のアミノ酸は、 HPV16、 18、 6型 L1蛋白質でアミノ酸がまちまちであり、 L2ェピトープを揷入してもキヤ プシド形成に影響が少ないと考え、アミノ酸 430と 433の間に挿入した。
[0037] そして、実際にキヤプシドの形成を試みたところ、部位 3へ L2ェピトープを挿入した キメラ L1蛋白質(16L1-266VA)と部位 4へ L2ェピトープを挿入したキメラ L1蛋白質
(16L1-430VA)は、キヤプシドを形成した。
部位 2と部位 3に同時に L2ェピトープを揷入したキメラ L1蛋白質 (16L1-140/266VA) は、キヤプシドを形成した。
部位 1と部位 2と部位 3に同時に L2ェピトープを挿入したキメラ L1蛋白質
(16L1-56/140/266VA)は、キヤプシドを形成した。
[0038] L1蛋白質に挿入される L2ェピトープは、 1つの L1蛋白質に 1つであることができるが 、同一の L2ェピトープが 2つ以上 1つの L1蛋白質の異なるループ部位に挿入されるこ ともでき、あるいは、種類の異なる少なくとも 2種類の L2ェピトープカ^つの L1蛋白質 の異なるループ部位に挿入されることもできる。
[0039] (L2ェピトープを含むペプチドの作製)
L2ペプチド (アミノ酸 107-122)の作製は、常法により、 96カラム自動ペプチド合成装 置での Fmoc固相法により合成した。なお、このペプチドは抗体作製を目的としたため 、 KLH接合されており、この KLHによるペプチド領域のマスキングを防ぐために N末に システィン残基を付加してある。
[0040] (L2ェピトープの挿入された L1蛋白質 (キメラ蛋白質)の作製)
キメラ L1遺伝子を作製し、これをバキュロウィルスベクターを用いて発現させて、キメ ラ L1蛋白質、キメラキヤプシドを作製した。キメラ L1遺伝子の作製は、 PCRによった。 詳細は以下の通りである (図 23参照)。
[0041] (A)挿入した 、部分を持つプライマー対を作成した。
(B)挿入部分を持つプライマーの一方とプライマー 1またはプライマー 2を組み合わせ て PCRを行い、
(C)片側に挿入断片を持つ DNAを 2つ合成した。それぞれの相補部分をァニールさ せ、伸長反応を行い、
(D)挿入 DNAを持つキメラ遺伝子を作成した。
(E)この DNAを铸型にプライマー 1とプライマー 2を用いて PCRを行い、
(F)挿入遺伝子を持つ DNAを増幅した。
[0042] 本発明は、本発明のキメラ蛋白質を集合させることでキヤプシドを形成させることを 含むキヤプシドの製造方法を包含する。上述の様に、キメラ L1遺伝子を作製し、これ
をバキュロウィルスベクターを用いて発現させて、キメラ L1蛋白質を作製する。そして 、キメラ L1蛋白質が作製されると、自律的にキメラキヤプシド (本発明のキヤプシド)が 形成される。バキュロウィルスベクターを用いる発現は、常法で行うことができるが、キ メラキヤプシドの自律的な形成を促進するという観点から、条件を設定することが好ま しい。
実施例
[0043] 以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
尚、リン酸緩衝液に 0.14モルの食塩を溶かしたものを PBS(phosphate buffered serine)とし 7こ。
[0044] HPV16 L1キメラ遣伝子の作製
HPV16L1キメラ遺伝子は、 L2-ェピトープ領域の塩基配列を持つプライマーを用い た PCRによって作製した。プロトタイプ HPV16DNAの 6240番目の塩基 Gを Cに置換し て L1-キヤプシドを形成するように改変したもの(引用文献 1)を pCMV plasmid vecter(BD Bioscience Clontech, Palo,CA)にクローユングし、 PCRのテンプレートに用 いた。
[0045] L2ェピトープを揷入する場所は、これまでに 16型 L1-キヤプシドの免疫によって誘 導される中和抗体が認識すると推定されている領域 (引用文献 2)、 B型肝炎ウィルス 中和ェピトープを挿入した引用文献の情報(引用文献 3)、またキヤプシドの形成に必 要なシスティン残基の位置等(引用文献 4)から、以下の領域を選んだ。即ち、 16型 L1蛋白質のアミノ酸 56と 57のあいだ、アミノ酸 140と 141のあいだ、アミノ酸 266と 267の ぁ 、だ、アミノ酸 430と 432のぁ 、だに L2ェピトープを揷入した。
[0046] L2-ェピトープは、 HPV16型 L2蛋白質のアミノ酸 108-120領域内のどこに相当する のか不明だったため、アミノ酸 108-120、 105-126、 107-122、 109-117、 108-117領域 に相当するペプチドを挿入したキメラ遺伝子を試作した。上記の L1蛋白質の挿入部 位と挿入する L2-ペプチドの組み合わせをもつキメラ遺伝子を順次作製した。
[0047] HPV16 T 1キメラ 白皙の 現 精製
16L1キメラ遺伝子は組み換えバキュ口ウィルス系で発現させた。 Bac- to- Bac baculovirus expression system(Invitrogenし orp.,し arisbad,し A)用 ヽ飞 ILみ換 ウイ
ルスを作り、 s!9細胞 (夜盗蛾由来細胞)で発現させた。 16L1キメラ遺伝子を pFastbacl vectorの Not Iサイトにクローユングして pFsatbacl/Llchimeraを得た。次に
pFsatbacl/Llchimeraを DH10BAし大月昜 I^ Max Efficiency competent cell containing baculovirus DNA and helper plasmid, Invitrogen Corp., Carlsbad, CA)に導入して Bacmidを作成した。 Bacmid DNAを Effectene Transfection Reagent(QIAGEN GmbH, Hilden, Germany)を用いて s!9に導入し、 16L1キメラ蛋白質を発現する組み換えバキ ュロウィルスを得た。
[0048] 組み換えバキュロウィルスを Sf9に感染させ 72時間後に細胞を回収した。感染細胞 を 0.5%NP40溶液に縣濁し、 10分間室温放置後、遠心 (9000rpm、 15分、 4°C)して核分 画 (沈殿)と細胞質分画に分けた。核分画を 1.28g/mlの塩ィ匕セシウム- PBS溶液に縣 濁し、超音波 (Sonifier250, Branson)破砕後、 SW50.1 roter (Beckman Coulter Inc., Fulleron, CA)で超遠心(34000rpm、 20時間、 20°C)を行った。塩化セシウム勾配中で 比重 1.28g/ml付近に集まった蛋白質を回収し、 0.5M NaC卜 PBSで透析したものを、 16L1キメラ蛋白質溶液とした。
[0049] 各 16L1キメラ蛋白質溶液中に実際に含まれる 16L1キメラ蛋白質は、 SDS-ポリアタリ ルアミド電気泳動後 (SDS-PAGE)、 Western Blottingで検出した(図 10)。マウス抗 HPV16型 L1モノクローナル抗体(HPV16LlMAb、 Pharmingen, CA)を 1:4000に希釈し て一次抗体とし、ホースラディッシュペルォキシダーゼ結合ャギ抗マウス IgG抗血清 (SC-2031, SantaCruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)を 1:5000に希釈して二次 抗体とした。発色は ECL plusペルォキシダーゼ検出キット (Amersham Bioscience Inc.)を用いた o
[0050] HPV16 L1キメラキヤプシドの形餱
各 16L1キメラ蛋白質溶液中のキメラ蛋白質が集合して形成する形態は、 5%から 45% のショ糖密度勾配溶液 (ショ糖を PBSで溶力したもの)での沈降速度によって検討した 。キメラ蛋白質溶液をショ糖勾配液の上に重層し、 SW50.1 (Beckman Coulter Inc.)口 一ターを用いた 31000rpm、 4°C、 2.5時間超遠心した。この条件では、キヤプシドはシ ョ糖濃度 40%前後の分画に集まるが、凝集した蛋白質はショ糖層を突き抜けて沈查と なる。そこで、試料を超遠心した後、底部より約 200 1ずつ分画し、 SDS-PAGE、
Western Blotting法で LIキメラ蛋白質がどの分画に含まれるかを調べた。 L1キメラ蛋 白質がショ糖濃度 40%前後の分画に集まった場合は(図 11)、透過型電子顕微鏡 (Hitachi model H-7600)を使い、陰性染色法で形態を観察した(図 12)。
[0051] マウス抗血清
16L1キメラ蛋白質溶液を、ジェチルエーテルで麻酔した Balb/cマウス (6週令、雌)に 皮下ないし経鼻接種した。皮下接種は Titer Max Gold (TiterMax USA, Inc.)をアジュ バンドとし、アジュバンドと混合することでほぼ等張とした。 1回の接種量は蛋白質 10 μ g程度とし、初回接種後、 2W、 4W、 6Wめに追加接種し、 4W、 6W、 8Wに下大静脈 より全採血した。経鼻接種では、 16L1キメラ蛋白質溶液を滅菌水で希釈して等張とし 、一方の鼻腔より滴下した。 1回の接種量は蛋白質 12 g程度とし、初回投与から毎 週 4回投与し、初回投与から 4週、 6週、 8週、 10週時に下大静脈より全採血を行った。
[0052] Enzvme- linked immunosorbent assay (ELIaA)
16L1/L2-キヤプシド、 16L1-キヤプシド、 52L1/L2-キヤプシド、 52L1-キヤプシド、 58L1/L2-キヤプシド、 58L1-キヤプシド、複数の HPV16の L2蛋白質の断片を抗原とし た。キヤプシドは、糸且み換えバキュロウィルス系(Bac- to- Bac baculovirus expression system(Invitrogen Corp., Carlsbad, CA))で発現させ、 16L1キメラ蛋白質と同様に精 製した。 L2蛋白質の断片は、カルボキシ末端側にダルタチオン- S-トランスフェラーゼ (GST)を融合させた構造とし、この tagを使ってァフィ-ティカラムによる精製を行った。 16L2(61-140)-GSTは HPV16L2蛋白質のアミノ酸 61から 142の領域を含み、 16L2 Δ - GSTは、 16L2(61- 140)- GSTの L2部分よりアミノ酸 105から 126部分(この領域内に L2-ェピトープが存在)を欠失させた蛋白質である。 16L2(18)-GST、 16L2(31)-GST、 16L2(6)-GST、 16L2(33)- GSTゝ 16L2(35)- GSTゝ 16L2(52)- GSTゝ 16L2(58)- GSTは、 それぞれ HPV18、 31、 6、 33、 35、 52、 58型 L2蛋白質のアミノ酸 105から 126を 16型 L2 蛋白質のアミノ酸 105から 126と置換した蛋白質である。
[0053] PBSで希釈したキヤプシドを 1 μ g、または 50mM炭酸緩衝液 (pH9.6)で希釈した
16L2- GSTゝ 16L2(18)- GSTゝ 16L2(31)- GSTゝ 16L2(6)- GSTゝ 16L2(33)- GSTゝ 16L2(35)- GST、 16L2(52)- GST、 16L2(58)- GSTまたは 16L2 Δ - GSTを 2 μ gを 96穴ィム ノアッセィプレート (Immulon2, Dynatech Laboratories)の各ウエノレに入れ、 4°C、 over
nightのインキュベーションで結合させた。翌日、ゥエル内の抗原溶液を除き、 5%スキ ムミルク PBS-T(0.1% Tween20)溶液を加え、 37°Cで 2時間ブロッキングしたのち、セラ ウォッシャー (バイオテック、東京)を用いて PBS- Tで 3回洗浄した。
[0054] マウス血清を 5%スキムミルク PBS-Tで 40倍な 、し必要に応じてさらに段階的に希釈 した後、 50 1を各ゥエルにカ卩え、室温で 60分反応させた。セラウォッシャーにて 9回 洗浄後、 5%スキムミルク PBS-Tで 2000倍希釈したペルォキシダーゼ標識抗マウス IgG ャギ血清 (SC- 2031, Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)50 1をカロえ、 室温で 30分反応させた。 PBSで 9回洗浄したのち、 0-フエ-レンジァミン、過酸化水素 水を添カ卩した 0.1Mクェン酸ナトリウム溶液 (ρΗ4.7)をカ卩え、ペルォキシダーゼ活性によ る発色を ELISAオートリーダー (iEMS Reader LABSYSTEMS)を用いて、 450nmの吸光 度として測定した。免疫前血清を同様に測定して得られた吸光度との差を特異的吸 光度とした。
[0055] 巾禾ロ活件の沏
川名らの方法(引用文献 5)に従って、マウス血清の中和活性を測定した。即ち、精 製した 16L1/L2-キヤプシドを 2-メルカプトエタノール (2- ME)で還元処理した後、 pSV/ j8 -galプラスミド DNA(Promega Corp., Madison, WI)存在下で、 2- MEを透析除去し、 形成された感染性偽ウィルスを塩ィ匕セシウム平衡密度遠心で精製した。感染性偽ゥ ィルスと希釈した血清を 1時間室温で反応させた後、 2.5mMEDTAで培養プレートか らはがした COS-1細胞浮遊液に加え、 4°Cで、 60分混和して力 培養プレートに播ぃ た。 48時間培養してから、 β -gal発現細胞を染色した。発色した細胞数を数え、免疫 前血清を用いて得られた発色細胞数と比較した。
[0056] 中禾ロ活件の沏 I定法 (2)
抗体の中和活性を Pastranaらの方法(Diana V. Pastrana, et al.: Reactivity of human sera in a sensitive, high throughput pseudovirus based papillomavirus neautralization assay for HPV16 and HPV18. Virology 321, 205—216, 2004.)を用い て測定した。測定方法の概略を以下に示す。 HPV16型 L1発現プラスミド、 HPV16型 L1L2発現プラスミド、分泌型アルカリフォスファターゼ発現プラスミドを混合し、 293TT 細胞に導入し、 48時間後に細胞を回収した。細胞内で生じた HPV16型感染偽ウィル
スを、細胞カゝら界面活性剤 Brij 58を含む緩衝液で抽出し、 Opti Prepを担体とする密 度勾配遠心法によって精製した。精製した感染性偽ウィルスを 0、 0.01、 0.05、 0.1、 1 1ずつ用い、それぞれに最終希釈が 1:10、 1:50、 1:100の濃度になるように抗体 をカロえた 100 1の緩衝液を 1時間、 4°Cに放置した。この溶液を、 30000個の 293TT細 胞培養にかけ、 72時間後に培養上清中のアルカリフォスファターゼ活性をルミノメー ターで定量した。それぞれの実験は 3回繰り返し行いその平均値を求めた。血清成 分がアルカリフォスファターゼ活性や感染性偽ウィルスの感染性に影響を与えるため に、血清カゝら Protein Gカラムを用いて IgGのみを精製し、抗体として使用した。
[0057]
1. HPV16型 L2蛋白質のアミノ酸 109-117領域 (VAと呼ぶ)を、 L1蛋白質のアミノ酸 266と 267の間、アミノ酸 430と 433の間(431と 432は失われた)、及びアミノ酸 56と 57の 間、 140と 141の間、 266と 267の間の 3力所に挿入したキメラは、キヤプシド様構造を形 成する(図 11及び 12)。これらのキメラ L1蛋白質をそれぞれ、 16L1266VA、
16L1430VA、及び 16L156/140/266VAと呼ぶ。
[0058] 2. HPV16型 L2蛋白質のアミノ酸 107-122領域に相当する合成ペプチドをゥサギに 免疫して得た抗血清は、 16L1266VA, 16L1430VA、及び 16L156/140/299VAで形 成されるキヤプシド様粒子に結合するので、これらの粒子表面に VAが提示されて ヽ ることがわ力つた (表 1)。
[0059] [表 1]
L1に揷入した L2のアミノ酸 109-1 17に対する
抗 105-126ペプチド抗体の反応 (ELISA)
3. 16L1266VA、 16L1430VA、または 16L156/140/266VAをマウスに免疫して得た抗 血清は、 16L1/L2-キヤプシド、 16L1-キヤプシド、 52L1/L2-キヤプシド、 52L1-キヤプ シド、 58L1/L2-キヤプシド、 58L1-キヤプシド及び 6L1/L2-キヤプシドに結合し(表 2)、
16L2(61-140)-GSTに結合するが 16L2 Δ - GSTには結合しなかった(表 2及び表 3)。さ らに、表 2の実験 3の結果は、 16L1-キヤプシド、 52L1-キヤプシド、または 58L1-キヤプ シドをマウスに免疫して得た抗血清は、各型のキヤプシドと高 、特異性を示した。 また、 16L1430VA、または 16L156/140/266VAをマウスに免疫して得た抗血清は、 16L2(18)- GSTゝ 16L2(31)- GSTゝ 16L2(6)- GSTゝ 16L2(33)- GSTゝ 16L2(35)- GSTゝ 16L2(52)- GST、 16L2(58)- GSTにも結合した (表 3)。
[表 2]
1 6L1キメラ蛋白質を免疫して得たマウス抗血清の性質 (ELISA) 実験 1
16L1キメラ蛋白質、 L2ペプチド、 各 L1蛋白質を免疫して得たマウス抗血清の性質 (EL I SA)
0. D.値が 0. 15以上となる最大希釈の逆数で表示
[表 3]
16L1キメラ蛋白質を免疫して得たマウス抗血清の性質 - 2(ELISA) 実験 1
O.D.値が 0.15以上となる最大希釈の逆数で表示
[0063] 4. 16L156/140/266VAをマウスに免疫して得た抗血清は、 western blottingで、
16L1/L2-キヤプシド、 52L1/L2-キヤプシド、及び 6L1/L2-キヤプシドに含まれる L2蛋 白質と反応した (図 13)。
5. 16L156/140/266VAをマウスに免疫して得た抗血清は、 HPV16型の感染性偽ウイ ルスの感染を阻害した(図 14)。
[0064] HPVL1蛋白質の立体構造は、すでに推定されている(図 15)。表面ループへの揷 入を中心に複数の構造を試作し、 HPV16型 L1蛋白質のアミノ酸 56-57、 140-141、及 び 266-267領域へ HPV16型 L2蛋白質のアミノ酸 109-117領域を挿入したキメラ蛋白 質(16L156/140/266VA)を、組換えバキュロウィルスを利用して s!9細胞で発現させる と、自律的に集合し、野生型 L1-キヤプシドに似た粒子を形成することを本発明者ら は明らかにした(図 16)。
[0065] HPV16型 L2蛋白質のアミノ酸 108-120領域の配列を持つ合成ペプチドをゥサギに 免疫して得た抗血清は 16L156/140/266VAの粒子を認識した(図 17)。従って、挿入 した L2蛋白質の領域が粒子表面にでており、中和活性を持つ抗体と反応できること が示された。
[0066] 16L156/140/266VA粒子をマウス(BALB/c)に免疫して得た血清は、 HPV16型 L2 蛋白質のアミノ酸 61-142領域と結合した。アミノ酸 105-126領域を欠失させると結合し なくなり、抗体の結合はアミノ酸 105-126領域を標的とすることがわ力つた(図 18)。こ の成績は、挿入した L2領域 (アミノ酸 109-117)が抗原として認識されていることを示し ている。さらに、 HPV16、 52、及び 6型の L1/L2-キヤプシドとも反応した(図 19)。
HPV16型 LI-キヤプシドに対する抗血清は、 52や 6型 L1/L2-キヤプシドと反応しな!ヽ ことから、 L2-ェピトープに結合する抗体が 52、 6型 L1/L2-キヤプシドの L2蛋白質と結 合したと考えられる。これまでの検討から、 L2-ェピトープに抗体が結合すると感染を 阻害することが知られているので、この抗血清は、少なくとも HPV16、 52、 6型に対して 中和活性を持つと考えられる。
[0067] 実際に調べると、抗 16L156/140/266VAマウス抗血清は、 HPV16型感染性偽ウィル スの感染を阻害した (中和活性の測定法 (1)による)(図 20)。また、 Pastranaらの方法( 中和活性の測定法 (2》を用いても、抗 56/140/266VAマウス抗体は、 HPV16型偽ウイ ルスの感染を阻害した(図 21 )。
[0068] 360分子の L1蛋白質によってキヤプシドが形成されることから、 3つの L2-ェピトープ を挿入した 16L156/140/266VAによって形成される粒子は、 3X360=1080個の L2-ェ ピトープを持つ(図 22)。粒子構造が強い免疫誘導活性を持つことと併せ、 L2-ェピト ープを強力に抗原提示できる新たな抗原を作製した。
[0069]
これまで、 HPV16型 L2蛋白質のアミノ酸 108-120領域に結合する抗体は、 HPV52型 偽ウィルスと HPV11型 HPVの感染阻害活性が示されていることから、 L2蛋白質のこの 領域に抗体が結合すれば、感染阻害が起こると考えられる。(引用文献 6、 7)
[0070] 16L1266VA, 16L1430VA,及び 16L156/140/299VAの免疫で得られた抗体は、 HPV16、 18, 31, 33, 35, 52, 58,及び 6型 L2蛋白質のアミノ酸 105から 126領域に結 合した。 VA領域が 16型のアミノ酸 109から 117領域なので、抗体はこの領域に結合す るはずである。粘膜指向性 HPV群のうち発がんの原因とされる高リスク HPV (16、 35, 31, 33, 35, 52、 33、 58、 51、 56、 18、 45、 39、 68型)と尖型コンジローマの原因となる HPV (6、 11型)の L2蛋白質の 16型 L2蛋白質アミノ酸 109-117に相当する領域のァミノ 酸配列を図 9に示した。この領域のアミノ酸が、実際に抗体との結合が示された HPV16、 18, 31, 33, 35, 52, 58,及び 6型のアミノ酸のどれかであれば、やはり抗体 が結合できると仮定すると、図 9に示した全ての L2蛋白質と結合できることになる。アミ ノ酸配列の組み合わせによって蛋白質の構造が異なる可能性がある力 この領域が HPV感染初期化過程で細胞表面分子との結合に関わるとすれば(引用文献 8)、む
しろ構造は共通だと推定されるので、これらの抗体が図 9に示した全ての L2蛋白質と 結合する可能性は高い。
[0071] 従って、 16L1266VA, 16L1430VA,及び 16L156/140/299VAの免疫で得られた抗 体は、少なくとも HPV16型、 18型、 31型、 33型、 35型、 52型、 58型及び 6型の感染を阻 害でき、おそらく図 9に示した全ての HPV型の感染も阻害できると思われる。
16L1266VA, 16L1430VA、及び 16L156/140/299VAは複数の HPV感染を予防する ためのワクチン抗原の候補である。
[0072] 実施例で引用した引用文献は下記の通りである。 lj Matsumoto. K, et al.: Antibodies to human papillomavirus ID, 18, 58, and 6b major capsid proteins among Japanese females. Jpn. J. Cancer Res., 88,
369-375, 1997.
2) Xiaojiang S. Chen, et al.: Structure of small virus-like particles assembled from theし 1 protein of human papillomavirus lb. Mol. Cell., 5, 557—567, 2000.
3) Jean-Remy Sadeyen, et al.: Insertion of a foreign sequence on capsid surface loops of human papillomavirus type 16 virus-like particles reduces their capacity to induce neutralizing antibodies and delineates a conformational neutralizing epitope. Virology., 309, 32-40, 2003.
4) Ishn. Y, et al,: Mutational analysis of human papillomavirus type 16 major capsid protein LI: the cysteines affecting the intermolecular bonding and structure of Ll-capsids. Virology., 308, 128—136, 2003
5) Kawana. K, et al.: In vitro construction of pseudovirions of human papillomavirus type 16: incorporation of plasmid DNA into reassembled L1/L2 capsids. J.
Virology., 72, 10298—10300, 1998.
6) Kawana. K, et al.: Common neutralization epitope in minor capsid protein L2 of human papillomavirus types lb and 6. J. Virology., 73, 6188 - 6190, 1999.
7) Kawana. K, et al.: Safety and immunogenicity of a peptide containing the cross-neutralization epitope of HPV16 L2 administered nasally in healthy
volunteers. Vaccine., 21: 4256-4260, 2003.
8) Kawana. Y, et al.: Human papillomavirus type 16 minor capsid protein 12 N— terminal region containing a common neutralization epitope binds to the cell surface and enters the cytoplasm. J. Virology., 75, 2331—2336, 2001.
9) Katharina Slupetzky, et al.: Cnimeric papillomavirus- like particles expressing a foreign epitope on capsid surface loops. J. Gen. Virology., 82, 2799—2804, 2001.
10) Arvind Varsani, et al.: Chimeric human papillomavirus type 16 (HPV- 16) LI particles presenting the common neutralizing epitope for the L2 minor capsid protein of HPV— 6 and HPV— 16. J. Virology., 77, 8386—8393, 2003.
産業上の利用可能性
[0073] 例えば、 56/140/266-VAによって形成される粒子 (キヤプシド)は、子宮頸癌を中心 に世界の女性の悪性腫瘍の 11% (45万人)の原因とされる高リスク HPVの感染を予防 するワクチンとなる可能性が高 、。 HPVワクチンの研究者が求めて 、る複数の高リス ク型 HPVの感染予防ワクチン抗原となると期待される。
図面の簡単な説明
[0074] [図 1]ヒトパピローマウィルス (HPV)の模式図。
[図 2]HPVの系統樹。
[図 3]日本において CIN病変に検出される HPVの型。
[図 4]L1-キヤプシドをワクチンの臨床試験の説明図。
[図 5]HPV16粒子に結合する抗 HPV16 L2単クローン中和抗体の説明図。
[図 6]抗 L1及び抗 L2の中和活性。
[図 7]HPV16型 L2ェピトープ領域と細胞表面分子との結合についての説明図。
[図 8]HPV16型 L2ェピトープの 108-126領域の機能の予想図。
[図 9]HPVの各型の L2ェピトープのアミノ酸配列。
[図 10] 16L1キメラ蛋白質の Western Blottingによる検出結果。
[図 11]ショ糖密度勾配遠心による沈降度の解析結果。
[図 12]電気顕微鏡観察結果。
[図 13]抗 56/140/266VA抗体と 16、 52、 6型 L2蛋白質の結合試験 (Western Blotting)
結果。
[図 14]抗 56/140/266VA抗体の中和活性結果。
圆 15]HPVL1蛋白質の立体構造の推定図。
[図 16]56/140/266-VAの電子顕微鏡写真。
[図 17]56/140/266-VAの L2ェピトープの抗 HPV16L2 P108-120抗体による認識試験 結果。
[図 18]56/140/266-VAを BALB/cマウスに免役して得た抗血清の反応性試験結果。
[図 19]56/140/266-VAを BALB/cマウスに免役して得た抗血清の反応性試験結果。
[図 20]56/140/266-VAマウス抗血清の中和活性結果(中和活性の測定法 (1)による)
[図 21]56/140/266-VAマウス抗血清の中和活性結果(中和活性の測定法 (2)による)
[図 22]天然のキヤプシドが形成されるまでの説明図及び 3つの L2-ェピトープを揷入 した 56/140/266-VAによって形成される L1キメラ蛋白質力 キヤプシドが形成される までの説明図。
圆 23]PCRを用いた挿入変異の作成方法の説明図。