poly/? 2遺伝子欠損動物 技術分野
本発明は、 poly ?2遺伝子がノックアウトされた細胞およびげつ歯類動物、 並び にそれらの利用に関する。 背景技術
DNAポリメラーゼ ? 2 (poly ?2) 遺伝子は N末端に BRCTモチーフを含み、 C末端側 に DNAポリメラ一ゼ ?と 30%程度の相同性を示す領域を有している遺伝子である (Nucleic Acids Research, 28, 3684-3693, (2000), Journal of Molecular Biology, 301, 851-867, (2000),' GenBank AF176098, DDBJ應 1019, EMBL AF176097)o しかしながら、 その機能に関しては未だ解明されておらず、 その機能の解明に有 用な実験系が求められている。
poly ?2遺伝子対が不活性化され、 poly 52の活性を全く持たない遺伝子改変動物、 遺伝子改変動物から樹立された細胞株(遺伝子改変マウス由来細胞株)、 あるいは ES細胞株があれば、個体レベルおよび細胞レベルでの生理機能の解明が可能となり、 該遺伝子に関連した疾患の治療薬などの研究に利用することが可能となる。 発明の開示
そこで、 本発明は、 poly ?2遺伝子の発現が人為的に抑制された遺伝子改変動物 および該遺伝子改変動物から樹立された細胞株、及び遣伝子改変 ES細胞株、並びに それらの用途を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意検討を重ねた結果、 ジーン夕ーゲテ ィングを用い片方の遺伝子座を不活性化した ES細胞を樹立し、その細胞を用いてキ
メラマウスを作成し、 該キメラマウスを用いた交配により、 poly;52遺伝子の遺伝 子対の一方または双方が不活性化された遺伝子改変動物を作成することに成功し た。 Poly^2遺伝子の遺伝子対の双方が不活性化された遺伝子改変動物は、水頭症、 発育不良、 内臓逆位、 精子の成熟不良、 脳室上衣細胞および気管上皮細胞の線毛に おける繊毛構造異常 (ダイニン内腕欠損) を特徴としていた。 従って、 poly/52遺 伝子が不活性化された ES細胞や動物は、これら疾患の解明や治療薬などの開発など に有効である。
即ち、 本発明は、 poly^2遺伝子の発現が人為的に抑制されている遺伝子改変動 物および ES細胞株、および当該遺伝子改変動物から樹立された細胞株、並びにそれ らの利用に関し、 より詳しくは、
( 1 ) poly/? 2遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とするげつ歯 類 ES細胞、
( 2 ) poly ?2遺伝子の遺伝子対の一方または双方に外来遺伝子が挿入されてい ることを特徴とするげつ歯類 ES細胞、
( 3 ) げっ歯類 ES細胞がマウス ES細胞である ( 1 ) または (2 ) 記載の ES細胞、
( 4 ) poly^ 2遺伝子の発現が人為的に抑制されていることを特徴とする遺伝子 改変げつ歯類動物、
( 5 ) poly 52遺伝子の造伝子対の一方または双方に外来遺伝子が挿入されてい ることを特徴とするげつ歯類動物、
( 6 ) げっ歯類動物がマウスである (4 ) または (5 ) 記載の動物、 および
( 7 ) ( 4 ) 〜 (6 ) のいずれかに記載の動物から樹立された細胞株、 を提供す るものである。
本発明の遺伝子改変 ES細胞および遺伝子改変動物は、 poly ?2遺伝子の発現が人 為的に抑制されていることを特徴とする。マウス poly/? 2遺伝子は 8つのェクソンか らなり、 19番染色体上にコードされていた(図 1 )。成体マウスにおいて po ly 2mRNA はほぼすベての組織に発現しているが、 精巣で最も発現が高く認められた。 poly
?2は分子量約 60kDaの蛋白質として核に局在していた。 マウスとヒトの poly ?2遺 伝子の塩基配列の比較を図 2に示す。
本発明において poly 52遺伝子の改変の対象となる動物は、 好ましくはマウス、 ラヅト、 ハムスターなどのげつ歯類であり、 その中でも特にマウスが好ましい。本 発明において poly ?2遺伝子の改変の対象となる ES細胞もまた、 げっ歯類に由来す るものが好ましく、 特にマウス由来が好ましい。
本発明において「poly ?2遺伝子の発現が抑制されている」 とは、 poly ?2遺伝子 の発現が完全に抑制されている場合の他、遺伝子対の一方の遺伝子の発現のみが抑 制されている場合のように、不完全に抑制されている場合も含む意である。本発明 においては、 poly ?2遺伝子の発現が特異的に抑制されていることが好ましい。 本発明の遺伝子改変 ES細胞および遺伝子改変動物において、 poly 52遺伝子の発 現を人為的に抑制する手段としては、 poly^2遺伝子を欠損させる方法や poly^2 遺伝子の発現制御領域の一部を欠損させる方法等を例示することができるが、好ま しくは poly ?2遺伝子の遺伝子対の一方または双方に外来遺伝子を挿入することに より poly ?2遺伝子を不活性化する方法である。 即ち、 本発明の好ましい態様にお いて、 遺伝子改変 ES細胞および遺伝子改変動物は、 poly/? 2遺伝子の遺伝子対の一 方または双方に外来遺伝子が挿入されていることを特徴とする。
本発明の遺伝子改変マウスは、 以下のようにして作成することができる。 まず、 マウスから poly ?2遺伝子のェクソン部分を含む DNAを単離し、 この DNA断片に適当 なマーカー遺伝子を揷入し、 夕一ゲヅティングベクターを構築する。この夕ーゲヅ ティングベクターをエレクトロポーレーシヨン法などによりマウス ES細胞株に導 入し、相同組み換えを生じた細胞株を選抜する。挿入するマーカー遺伝子としては、 ネオマイシン耐性遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子が好ましい。抗生物質耐性遺伝 子を挿入した場合には、抗生物質を含む培地で培養するだけで相同組み換えを生じ た細胞株を選抜することができる。また、 より効率的な選抜を行うためには夕ーゲ ッティングぺク夕一にチミジンキナーゼ遺伝子などを結合させておくこともでき
る。これにより、非相同組み換えを起こした細胞株を排除することができる。また、 夕一ゲッティングベクタ一にジフテリアトキシン Aフラグメント(DT- A)遺伝子など を結合させておくこともできる。これにより、非相同的な組換えを起こした細胞株 を排除することができる。 また、 PCRおよびサザンブロットにより相同組み換え体 の検定を行い、 poly 52遺伝子の遺伝子対の一方が不活性化された細胞株を効率的 に得ることもできる。
相同組み換えを生じた細胞株を選抜する場合、相同組み換え箇所以外にも、遺伝 子挿入による未知の遺伝子破壊の恐れがあるので、複数のクローンを用いてキメラ 作成を行うことが好ましい。得られた ES細胞株をマウス胚盤胞にィンジェクシヨン しキメラマウスを得ることができる。 このキメラマウスを交配させることで、 poly ?2遺伝子の遺伝子対の一方を不活性化したマウスを得ることができる。 さらに、 このマウスを交配させることで、 poly 52遺伝子の遺伝子対の双方を不活性化した マウスを得ることができる。マウス以外の ES細胞が樹立された動物においても、 同 様の手法により、 遺伝子改変を行なうことができる。
また、 poly ?2遺伝子の遺伝子対の双方を不活性化した ES細胞株は、 以下の方法 により取得することも可能である。 すなわち、 遺伝子対の一方を不活性化した ES 細胞株を高濃度の抗生物質を含む培地で培養することにより、遺伝子対のもう一方 も不活性化された細胞株、 即ち、 poly ?2遺伝子の遺伝子対の双方を不活性化した ES細胞株を得ることができる。 また、遺伝子対の一方を不活性化した ES細胞株を選 抜し、 この細胞株に再度夕一ゲッティングベクターを導入し、相同組換えを生じた 細胞株を選択することでも作製することができる。夕ーゲッティングベクターに揷 入するマーカ一遺伝子は、前出のマーカ一遺伝子とは異なるものを使用することが 好ましい。
本発明の遺伝子改変動物由来の細胞株を樹立する方法としては、公知の方法を用 いることができる。例えば、 げっ歯類においては、 胎仔細胞の初代培養の方法を用 いることができる (新生化学実験講座、 18巻、 125頁〜 129頁東京化学同人、 及びマ
ウス胚の操作マニュアル、 262頁〜 264頁、 近代出版) 。
本実施例において作成された poly ?2遺伝子の遺伝子対の双方が不活性化された マウスは、通常の割合で生まれ、 出生直後は外見上の異常は観察されなかった。 し かし、 生後 2週間以降、 発育不良と頭部の膨隆が観察された。 病理解析の結果、 側 脳室、 第三脳室の著名な拡大と脳実質の減少が観察された。 このことから、 poly
2遺伝子の遺伝子対の双方が不活性化されたマウスは水頭症を発症していると考 えられた。 また、 内臓逆位が観察されたマウスも存在した。 さらに、 ォスマウスに 'おいては未熟な精子細胞の増加と、 成熟した精子細胞の減少が認められた。 また、 脳室上衣細胞および気管上皮細胞の線毛におけるダイニン内腕欠損が認められた。 胸腺、 脾臓における Tリンパ球および Bリンパ球の分化に異常は認められなかった。 以上の結果から、 poly ?2遺伝子の遺伝子対の双方が不活性化されたマウスは、 水 頭症、 発育不良、 内臓逆位、 精子の成熟不良、 脳室上衣細胞および気管上皮細胞の 線毛におけるダイニン内腕欠損を特徴とすることが判明した。 即ち、, poly ?2遺伝 子は水頭症、 発育不良、 内臓逆位、 精子の成熟不良、 脳室上衣細胞および気管上皮 細胞の線毛におけるダイニン内腕欠損等に関与していると考えられる。 また、 これ らの結果から poly ?2は immotile cilia症候群、 例えば気管支拡張症と慢性副鼻腔 炎を伴う全内臓逆位症、繊毛の動きの障害、 呼吸気道上皮における線毛粘液移送の 障害などを特徴とする Kartagener' s症候群への関与が示唆される。
従って、本発明の遺伝子改変動物、該動物から樹立した細胞株、及び ES細胞株は、 poly Z遺伝子の詳細な機能の解析に利用できるだけでなく、 例えば、 水頭症、 発 育不良、 内臓 位、 精子の成熟不良、 i画 otile cilia症候群などの疾患の解明に利 用できる。さらに、 それらの疾患の治療薬などのスクリーニングにも利用すること が可能である。 また、 poly ?2遺伝子及びタンパク質は上記疾患の治療薬などとし て利用することが可能であると考えられ、 特に、 poly^2遺伝子は、 遺伝子治療に よる上記疾患の治療への利用が期待される。
図面の簡単な説明 '
図 1は、 マウス poly/52遺伝子のェクソン 'イントロン構造を示す図である。 A は、 ェクソン ·イントロン構造の全体像を示し、 Bは、 ェクソンとイントロンの境 界領域の塩基配列を示す。
図 2は、 マウスとヒトの poly/52遺伝子の塩基配列の比較を示す ¾である。
図 3は、
a .生後 4週齢の、 poly ?2+/+マウス (左:ページュ) と poly/? 2 -/-マウス (右: 白) を示す写真である。
poly ?2 -/-マウスでは頭部の膨隆が見られ、 また発育の遅れが観察される。 b . 生後 5週齢の、 poly 32+/+マウス (左) と poly/? 2 -/-マウス (右) の脳の外 部形態を示した写真である。
エーテル麻酔による安楽死の後、 頭部皮膚を切開し、 頭蓋骨を部分的に除去し、 大脳上部を露出させた。 poly ?2- /-マウス (右) では、 脳の拡張と大脳皮質の薄層 化が観察される。
c 生後 5週齢の、 poly ?2+/+マウス (左) と poly ?2- /-マウス (右) の脳の冠 状断面 (上段) と矢状断面 (下段) をしめした写真である。
bと同じくエーテル麻酔による安楽死の後、頭部を剖出し、冠状断標本及び矢状 断標本を作成した。 poly ?2- /-マウス (右) では、 側脳室の拡張と大脳皮質の薄層 化が観察される。
図 4は、 poly 52+/+マウスと poly/52- /-マウスの脳の切片標本を示した写真であ る。
a . 生後 1日の poly /52+/+マウス (左) と poly 52- /-マウス (右) の脳の横断切 片標本を示した写真である。
poly ?2- /-マウス (右) では、 側脳室の拡張が認められる。
b . 生後 5週の、 poly^2+/+マウス (左) と poly 52- /-マウス (右) の脳の横断 切片標本を示した写真である。
双方の poly ?2遺伝子が不活性化されたマウス (右) において脳室の拡張が認め られる。
c . 胎生 14.5曰の、 poly/? 2+/+マウス (左) と poly 52-/-マウス (右) の脳の横 断切片標本を示した写真である。
poly/52- /-マウス (右) において、 脳室上衣細胞の細胞分裂を伴う過形成が認め られる。
d . 生後 1日の、 poly ?2+/+マウス (左) と poly/? 2-/-マウス (右) の脳の横断 切片標本を示した写真である。
poly ?2-/-マウス (右) において、 脳室上衣細胞の乳頭状の細胞増殖を伴う過形 成が認められる。
e . 生後 5週齢の、 poly ?2+/+マウス (左) と poly/52- /-マウス (右) の脳の横 断切片標本を示した写真である。
poly ?2-/-マウス (右) において、 第三脳室上衣細胞の乳頭状の細胞増殖を伴う 過形成が認められる。
f . 生後 5週齢の、 poly ?2+/+マウス (左) と poly ? 2- /-マウス (右) の脳の電 子顕微鏡解析標本を示した写真である。
poly ?2- /-マウス (右) において、 上衣細胞の多層化および微絨毛縁の崩壊が認 められる。
図 5は、 脳の矢状断連続切片標本を示した写真である。
aに示すように正中面近くの断面の連続切片 (c、 d、 e、 f) を作成した。
poly ? 2+/+マウスの脳室上衣細胞は、脳室を取り巻くように数層の細胞層を構成 しているが (図 4g、 h)、 poly 52- /-マウス (右) の脳では第三脳室 (3V)および中 脳水道(Aq)の上衣細胞の過形成が見られ、 層構造が破綻している部分が認められ る (図 4c- f)。 cに挿入した拡大写真でわかるように、上衣細胞の過形成部位では、 球形で明確な核をもつ単核細胞とェォジン好性の細胞質をもつ単核細胞が認めら れる (図 4c) 。
図 6は、脳および精巣における poly 32遺伝子の転写産物(mRNA)の局在を in situ ハイプリダイゼーシヨンにより調べた結果を示す写真である。
a. 胎生 14,5日の poly 32+/+マウス (左) の脳では、 脳室周辺の細胞で poly 32 遺伝子 mRNAの局在が見られるが、 poly ?2- /-マウス (右) の脳ではそれらは見られ ない。
b. 生後 5週齢の poly ?2+/+マウス (左) の脳では、 側脳室の上衣細胞 (矢印) と脈絡叢(矢頭)で poly;52遺伝子 m Aの局在が見られるが、 poly ?2-/-マウス(右) の脳ではそれらは見られない。
c. 生後 5週齢の poly/? 2+/+マウス (左) の脳では、 中脳水道の上衣細胞で poly ?2遺伝子 mRNAの局在が見られるが、 poly/52- /-マウス(右)の脳では見られない。 *は中脳水道腔を表す。
d. 生後 7週齢の poly ? 2+/+マウス (左) の精巣では poly/? 2遺伝子 mRNAの局在が 見られるが、 poly ?2-/-マウス (右) では見られない。 *は精細管の管腔を表す。 図 7
a、 b. 精巣上体尾部から得られた精子を位相差顕微鏡で観察した写真である。 生後 9週齢の poly ?2+/+マウスの精子 (a)の形状に比べ、 poly/? 2-/-マウスの精子 (b)は、 短い尾部をもつもの、 尾部をもたないもの、 円形頭部をもつものなどの奇 形精子が見られた。
c-h. 精巣の病理解析を行った結果を示した写真である。
poly ?2- /-マウス精巣(d)は、 poly/52+Λマウス精巣 (c)と同様の精細管構造を 有する。
poly/52- /-マウス精巣(f) では、 poly ?2+/+マウス精巣 (e)と同様に、 パキテン 期精母細胞の減数分裂が見られる。
poly ?2+/+マウス精巣 (g) では、 成熟し伸長した核を持ち伸長した尾部を伴う 精子細胞が見られるのに対し、 poly/? 2-/-マウス精巣 (h) では成熟した精子細胞 はわずかに認められる程度であり、未熟な精子細胞がセルトリ細胞から遊離してい
る。
i s j . 精巣上体体部の病理解析を行った結果を示した写真である。 .
poly 32+/+マウス(i)では、成熟した精子細胞が見られるのに対し、 poly/? 2-/- マウス (j) では、 成熟した精子細胞は少なく、 未熟な精子細胞とェォジン好性の 物質が多く見られた。
図 8は、 poly ?2- /-マウスの生存曲線を示す。
図 9
a . マウスの poly/52遺伝子を不活性化するために用いた相同組み換え用べクタ —の構築を示す図である。
b .相同組み換えベクターを導入した ES細胞クローンにおける変異遺伝子の挿入 をサザン解析により検出した結果を示す写真である。 ' c . poly ?2- /-マウスの精巣における poly^Z遺伝子転写産物(mRNA) の発現を ノ一ザンブロット解析により検出した結果を示す写真である。対照として EF- 1 を 用いた。 .
図 1 0は、 poly ?2- /-マウスと poly ?2+/+マウスの内臓配置を示した解剖写真で ある。 内臓配置をわかりやすくするために肋骨および肝臓を切除してある。 poly β 2-/-マウスの内臓配置は、 poly 2+/+マウスの内臓配置の鏡像対称となっている c 図中、 Apは Apex (尖) 、 Fsは Forestomach (前胃) 、 Spは Spleen (脾臓) を示す記 号である。
図 1 1は、 poly ?2-/-マウスの線毛構造を電子顕微鏡で観察した写真である。上 段は脳室上衣細胞の線毛の断面、 下段は気管上皮細胞の線毛の断面を示している。 poly ?2- /-マウスでは、脳室上衣細胞の線毛(右上)、気管上皮細胞の線毛(右下) において、 ダイニン内腕の欠損が見られる。
図 1 2は、 二連微小管の二本のダイニン腕 (外腕と内腕) の模式図である。
図 1 3 ,
a . 対照群である poly ?2+/_マウスにおいて、 鼻腔 ·副鼻腔に空洞が認められた
ことを示す写真である。
b . poly ?2-/-マウスにおいて、 鼻腔 '副鼻腔内に内容物が認められたことを示 す写真である。
c poly ?2- /-マウスにおける鼻腔 ·副鼻腔内の拡大写真である。鼻腔内には分 葉好中球が充満し、 粘膜下組織には形質細胞浸潤と毛細血管増生がみられる。 発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限 されるものではない。
[実施例 1 ] poly ?2遺伝子の相同組み換えベクターの作製
本実施例では、マウス poly^2遺伝子の相同組み換えべクタ一を構築するために、 まずマウス poly 52ゲノム遺伝子のクロ一ニングを行った。 129SvJマウス肝臓ゲノ ム DNAのライブラリーを用いて、 マウス poly ?2 c DNAをプローブとしてプラークハ ィブリダイゼ一シヨンを行い、 poly/? 2遺伝子ェクソン 1を含む約 20kbのゲノム DNA 断片を単離し、 制限酵素部位のマッビングを行った。
相同組み換えにより poly ? 2遺伝子のェクソン 1からェクソン 6をネオマイシン 耐性遺伝子発現カセットと置換するよう、ネオマイシン耐性遺伝子発現カセットの 両端にェクソン 1の 5'側配列を含む遺伝子断片およびェクソン 7、 8を含む遺伝子 断片を結合することで相同領域を配し、さらに 3'下流側に tk発現カセットを結合し、 相同組み換えべクタ一を作成した (図 9 a上段) 。 poly ?2遺伝子座は、 ェクソン 1 の上流に制限酵素 Xbal認識部位 ( X ) があり、 ェクソン 3と 4の間に制限酵素 Spel 認識部位 (Sp) をもつ (図 9 a中段) 。 相同組み換えにより poly ?2遺伝子のェクソ ン 1からェクソン 6がネオマイシン耐性遺伝子発現カセットと置換されると、ェク ソン 1の上流にある Xbal認識部位は保存されるが、ェクソン 3とェクソン 4の間にあ つた Spel認識部位はなくなり、挿入されたネオマイシン耐性遺伝子発現カセット内 に存在する Spel認識部位が生じることになる (図 9 a下段) 。 Xbalおよび Spelで消
化したゲノム DNAに対し、 5' プローブとして表記した部分の塩基配列をプローブと して用いハイブリダイゼ一シヨンを行うと、 正常の poly 52遺伝子座からは 11. Okb 長のバンドが、 変異 poly 52遺伝子座からは 9.2kb長のバンドが検出される。
[実施例 2 ] 相同組み換えにより変異 poly ?2遺伝子が挿入され poly ?2遺伝子 対の一方が不活性化された ES細胞の樹立
本実施例では、相同組み換え用ベクターを、 エレクトロポレーシヨン法によりマ ウス ES細胞 E14 (Hopper, M. et al. : Nature, 326, 292-295, 1987) に導入、 つい で G418、 ガンシクロビルにより選択培養を行った。得られた G418Zガンシクロビル 耐性コロニーについて、 PCRおよびサザンプロヅトにより相同組み換え体の検定を 行い、 poly/? 2遺伝子対の一方に変異 poly 2遺伝子が挿入された細胞株を 4ク口一 ン得た。
得られたクローンについてサザン解析により変異遺伝子の挿入の確認を行なつ た (図 9 b) 。 その結果、 変異遺伝子の挿入を行っていない ES細胞株 E14では、 llkb のバンドのみが検出されたのに対し、相同組み換え用ベクターの導入および薬剤選 択により得られた細胞株 96、 97、 110では、 正常 poly ?2遺伝子座に由来する llkb のバンドおよび、 変異 poly/? 2遺伝子座に由来する 9, 2kbのバンドが検出された。
[実施例 3 ]相同組換えにより変異 0^ ?2遺伝子が揷入され 0^ ?2遺伝子対の 双方が不活性化された ES細胞の樹立
相同組換え用のベクターの導入により変異 poly/? 2遺伝子が挿入され poly/52遺 伝子の一方が不活性化された ES細胞株を高濃度 G418による選別を行うことにより、 もう一方の遺伝子対も不活性化された細胞株、 即ち本発明のマウス ES細胞株を 2ク ローン得た。
[実施例 4 ] poly/? 2遺伝子対の一方が不活性化された ES細胞によるキメラマウ
スの作製
poly^2遺伝子の一方が不活性化された ES細胞株を、 C57BL/6マウス由来の胚盤胞 にィンジェクシヨンしキメラマウスを得た。
[実施例 5] poly ?2遺伝子対の双方が不活性化されたマウスの作製
poly ?2遺伝子対の一方が不活性化された ES細胞を用いて作製されたキメラマウ スを C57BL/6マウスと交配し、 poly/? 2遺伝子対の一方が不活性化された細胞から成 るマウス (以下、 「poly?2+/-マウス」 と称する) を得た。 これらの poly ?2+/- マウス同士を交配することにより、 poly^2遺伝子対の双方が不活性化されたマウ ス (以下、 「poly ?2 -/-マウス」 と称する) を得た。 これらのマウスの poly ?2 遺伝子対の双方に変異遺伝子が揷入されていることをサザン解析により確認した。
[実施例 6] poly ^2 _/-マウスの特徴
(1) 逆位
poly ?2 -/-マウスにおいて、 23例中 3例で、 心臓および内臓が鏡像対称となる完 全内臓逆位を示す個体が見られた (図 10) 。
( 2 ) 水頭症
poly ? 2 -/-マウスは水頭症を発症する。水頭症の程度には個体差が見られるが、 重症のものでは生後 2週間目から頭部の膨隆が顕著となり (図 3a、 b, c)、 脳室の 拡張が見られる (図 3c、 4b) 。 また、 外見上頭部の膨隆を示さない個体において も、 組織標本を作成し観察すると、 側脳室の拡張が認められる。
側脳室の拡張すなわち水頭症の発症は、胎生 10.5日から 18.5日では認められない c しかしながら、外見上は正常であるが生後 1日目には認められるようになる (図 4 a) 。 この時、 大脳皮質は正常であり (図 4a) 、 圧迫はされているが海馬、 視床、 中脳、 小脳、 随脳は保存されている。
生後 5週齢までにさらに側脳室の拡張が進み、大脳皮質の薄層化や脳梁の希薄化
が認められるようになる (図 4b) 。
顕著な側脳室拡張を起こした成体マウスでは、脳室周囲の上衣細胞においてアポ トーシスが見られる。このようなアポトーシスは脳室拡張前の脳室周辺においては 認められない。
脳室の拡張は、側脳室と第三脳室で認められるが、第四脳室および中脳水道では 認められない。また、胎生 14.5日以降から第三脳室および中脳水道の上衣細胞の過 形成が見られる (図 4 c- e) 。
poly /?2遺伝子が不活性化されていない正常個体では、 脳室上衣細胞は脳室を取 り卷くように並んだ数層の細胞層を構成しているが (図 5 g、 h) 、 poly ?2 -トマ ウス成体の脳では第三脳室および中脳水道の上衣細胞の過形成が見られ層構造が 破綻している部分が認められる (図 5 a-f) 。 これら上衣細胞過形成部位では、 球 形で明確な核を持つ単核の細胞とェォジン好性の細胞質を持つ単核の細胞が認め. られる (図 5 c) 。
水頭症を示している脳室の上衣細胞を電子顕微鏡で観察すると、上衣細胞の多層 化および微絨毛縁の崩壊が見られる (図 4 f) 。
水頭症の原因の一つとして脳脊髄液の循環経路における閉塞が考えられるため、 脳室内にトリパンブル一を注入し脊柱管への流入を調べる手法 (Genes &
Development, 12, 1092-1098, 2000) を用いて閉塞の有無を調べたところ、 脳脊髄 液の排液経路が開口していないことが判明した。
双方の poly ?2遺伝子が不活性化されたマウスにおける水頭症の発症原因は、 脳 脊髄液循環経路の閉塞および上衣細胞の微絨毛縁の崩壊による、脳脊髄液の産生お よびあるいは再吸収における異常であると考えられる。
( 3 ) 発育不良
水頭症を発症した poly^2 - /-マウスは、 poly^2遺伝子が不活性化されていない 野生型マウス (以下「poly 52+/+マウス」 と称する) に比べて発育遅延を示す (図 3 a) 。 生後 1 4日目、 2 1日目において、 poly ? 2-/-マウスの体重は poly 2+/+
マウスの 60〜80%程度である。
( 4 ) 生存曲線 '
離乳後の観察によると、 poly ^2-/-マウスは、 生後 3週齢から死亡し始め、 5週 齢までには生存率が 50%となる (図 8) 。 死亡する poly ?2-/-マウスは大部分が水 頭症を示す個体であり、 5週齢を越えて生存する poly 52- /-マウスは、外見上は正 常マウスと同一である。
( 5 ) 脳における poly 52遺伝子の発現
poly 52遺伝子の転写産物 (mRNA) の局在を in situ,、ィブリダイゼーシヨンによ り調べた。 poly ?2mRNAは、 野生型マウスの胎児脳の脳室周辺の細胞および成体の 脳室上衣細胞および脈絡叢に局在しており、 poly 52-/-マウスではそれらの細胞に おける poly ?2mRNAの局在は認められない (図 6a- c) 。
( 6 ) 精巣における poly^2遺伝子の発現
poly/? 2遺伝子の転写産物 (mRNA) の局在を in situハイブリダイゼーシヨンによ り調べた。 poly ?2mMAは、野生型マウスの精巣での局在が認められる。 poly/52-/- マウスでは精巣における poly ?2mRNAの局在は認められない (図 6d) 。 .
また、 ノーザンプロヅト解析により poly ?2- /-マウスの精巣における poly ?2遺 伝子転写産物(mRNA)の発現解析を行なった(図 9 c)。 poly ?2+/+マウスおよび、 (poly ?2+/-マウスでは、 poly/? 2遺伝子 mRNAの発現が認められるが、 poly/? 2 -/- マウスでは、 poly ?2遺伝子の発現は認められない。図 9 c下段は EF-1ひの発現を示 したものであり、これにより各レーンに RNAサンプルが存在することが証明される。
( 7 ) 生殖能力
poly ?2-/-マウスの生殖能力について調べた。 6例の poly ?2- /-マウスそれそれ を 2例ずつの C57BL/6Jメスマウスと同居させ、 30日間妊娠の成立の有無を観察した。 その結果、いずれも交配成立を示す膣栓の形成は観察されるものの産仔は得ら な かった。一方、 poly ?2- /-メスマウスは、 C57BL/6Jォスマウスあるいは poly ?2+/- ォスマウスとの交配が成立し、 3例の poly ?2-/-メスマウスで産仔が得られた。 こ
れらのこのことから poly ? 2-/-ォスマゥスは不妊であるが、 poly ? 2-/-メスマウス は正常の生殖能力をもっといえる。
( 8 ) 精子および精巣の解析
poly ? 2-/-ォスマゥスは不妊であったことから、精子および精巣の解析を行った c po ly ^ 2- /-ォスマウスの精巣上体尾部から得た精子は運動能力を欠損しており、頭 部のみ、奇形頭部を有する、尾部が短いといった奇形精子が多く見られた(図 7 b)。 精巣の病理解析を行ったところ、 poly/? 2-/-の精巣は、 12段階に分けられる精子形 成過程すベての段階を有する精細管を有し (図 7 d) 、 また、 パキテン期精母細胞 の減数分裂が見られ (図 7 f ) 、 これらは poly ?2+/+のそれ (図 7 c、 e) と同様で あった。 しかしながら、 poly ?2-/-の精巣では未熟な精子細胞がセルトリ細胞から 遊離しており、成熟し伸長した核をもつ精子細胞はわずかに認められる程度であつ た (図 7 h) 。 poly 52- /-の精巣上体体部中には、 成熟した精子細胞数は少なく、 未熟な精子細胞とェォジン好性の物質が多く見られた (図 7 j) 。
poly ?2-/-マウス精子の核の成熟度を調べるため、未受精卵の細胞質内へ精子頭 部を顕微注入することによって受精させ(顕微受精)、後の胚発生を調べた。 B6C3F1 系統の未受精卵に poly ?'2- /-マウスの精子頭部を顕微注入し、 受精の成立した 23 個の受精卵を偽妊娠メスの卵管内に移植し、 妊娠を継続させた。 その結果、 12匹の 産仔が得られこれらは正常に成長した。 このことから、 poly^2- /-マウス精子の核 成熟は正常に起こっていると考えられる。
( 9 ) 電子顕微鏡による線毛構造の解析
poly ?2-/-マウスにおいて、 内臓逆位、 水頭症、 精子の運動不全が見られ、 線毛 運動の異常が疑われたため、 電子顕微鏡による線毛構造の解析を行った。 poly^ 2+/+マウスの脳室上衣細胞(図 1 1左上) および気管上皮細胞(図 1 1左下) の線 毛の断面で見られるように、 正常な線毛は、 一組の単微小管対と 9組の周辺ニ連微 小管から り、 二連微小管は二本のダイニン腕 (外腕と内腕) を持つ (図 1 2 ) 。 poly^2- /-マウスの脳室上衣細胞(図 1 1右上)および気管上皮細胞(図 1 1右下)
の線毛の断面では、 ダイニン内腕が欠損している様子が観察された。
( 1 0 ) 慢性副鼻腔炎
poly β 2_/-マウスにおいてダイニン内腕の欠損が見られたことから、 Kartagener 症候群の症状のひとつである慢性副鼻腔炎の検索を poly ?2-/-マウスにて行った。 対照群である poly ?2+/-マウスでは鼻腔'副鼻腔に空洞が認められたが(図 1 3 a )、 poly ^2-/-マウスでは鼻腔 ·副鼻腔内に内容物が認められた (図 1 3 b ) 。拡大す ると、 鼻腔内には分葉好中球が充満し、粘膜下組織には形質細胞浸潤と毛細血管増 生がみられ(図 1 3 c )、 poly ?2-/-マウスは慢性化膿性鼻腔炎を発症していると 診断された。気管上皮細胞や脳室上衣細胞の繊毛で見られたのと同様の繊毛構造異 常(ダイニン内腕欠損) が、 鼻腔粘膜を構成する鼻粘膜繊毛細胞の繊毛でも起こつ ているために運動障害が起こり、 鼻腔炎を発症しているものと推察される。 産業上の利用の可能性
本発明により、 poly ?2遺伝子の発現が人為的に抑制された ES細胞およびマウス が提供され、 該マウスが、 水頭症、 発育不良、 内臓逆位、 精子の成熟不良、 脳室上 衣細胞および気管上皮細胞の線毛における繊毛構造異常(ダイニン内腕欠損) を特 徴とすることが明らかとなった。従って、 本発明の遺伝子改変 ES細胞、 遺伝子改変 動物、 あるいは該動物から樹立した細胞株を利用すれば、 poly/? 2遺伝子の機能の 解析の他、 水頭症、 発育不良、 内臓逆位、 精子の成熟不良、 i腿 otile cilia症候群 などの疾患の解明やこれら疾患の治療薬などのスクリーニングを行なうことも可 能である。 また、 poly ?2遺伝子及びタンパク質は上記疾患の治療薬などとして利 用することが可能であると考えられる。