p21CipI リゥマチ治療剤 技術分野
本発明は、 慢性関節リゥマチ炎症を抑制するための分子およびそのスクリ ングに関する。 景技
慢性関節リウマチ (rheumatoid arthritis; RA) は、 多数の関節の滑膜炎症を 特徴とする。 罹患した滑膜組織は、 活性化マクロファージ、 線維芽細胞、 Tリンパ 球および Bリンパ球を含んでいる。 局所で産生される IL (interleukin; イン夕 一ロイキン) -1 ?、 TNF (tumor necrosis factor; 腫瘍壊死因子)-ひ、 および IL- 6のような炎症性サイ ト力ィンに反応して滑膜線維芽細胞は増殖し、組織分解酵素 を放出する (Arend, W.P. and J.M. Dayer, 1995, Arthritis Rheum. 38:151-160; Feldmann, M. et al., 1996, Cell 85:307-310)。 その結果生じたパンヌスと呼ば れる過形成滑膜が、 罹患関節の軟骨や骨を非可逆的に破壊する。
従来の抗リゥマチ薬や最近開発された生物試薬のほとんどは、 RAに関係する炎 症性メディエー夕の抑制を主なねらいとしている。 生物試薬のほとんどは、 TNF- ひ、 IL-1または IL-6のような炎症性サイ トカインを中和することを目的としてい る (Elliott, M.J. etal., 1994, Lancet.344:1105-1110; More land, L.W. etal., 1997, N. Engl. J. Med. 337:141-147; Campion, G.V. et al., 1996, Arthritis Rheum.39:1092-1101; Arend, W.P. et al., 1998, Annu. Rev. Immunol. 16:27-55; Yoshizaki, K. et al., 1998, Springer Semin. Immunopathol. 20:247-259)。 例 えば代表的な薬剤としては、 ヒドロキシクロ口キン、 d-ぺニシラミン、 金、 スル フアサラジン、 および免疫抑制剤メ ト トレキセ一トなどの抗リウマチ薬が挙げら
れる。 これらの薬剤については、 その抗リウマチ作用に必要な標的分子は明確に 知られていないものの、炎症の過程を抑制していると考えられている(Conaghan, P.G. et al., 1997, Curr. Opinion Rheumatol. 9:183-190)。 これに対して、 レ フルノマイ ド (leflunomide)、 シクロスポリン および FK506などの新しく開発 された薬剤は、 リゥマチ滑膜炎に関与する免疫担当細胞の活性化に必要な細胞内 分子を阻害する。 TNF-ひアン夕ゴニスト (remicadeや infliximab) は滑膜細胞に より放出される炎症メディエーターを中和する。 多くの患者はこれらの薬剤に良 好な反応を示すが、 患者により耐性を示したり疾患寛解期以後において効果が低 下することがある。 さらに、 長期にわたって疾患の進行を食い止める効果につい てはほとんど証明されていない。 炎症を調節する経路は複雑でリダンダンシ一が 存在するため、 ある炎症メデイエ一夕一を抑制すると他のメデイエ一ターが活性 化するものと予想される。 従って、 こういった従来の治療法では最終的に関節破 壊を阻止できないことが危惧される。 これに対し本発明者らは、 サイクリン依存 性キナーゼインヒビ夕一 (CDKI) と呼ばれる細胞周期抑制蛋白を利用して、 滑膜 線維芽細胞そのものの増殖を直接阻害することにより破壊性の滑膜過形成を予防 する研究を行ってきた。
CDKIは、それぞれ 3〜4個のメンバ一を含む INK4フアミリ一および Cip/Kipファ ミリーからなる (Sherr, C.J. andJ.M. Roberts., 1995, Genes Dev.9:1149-1163)。 個々の CDKIの発現は個別に調節されていることから、 それぞれが細胞周期の制御 において独自の役割を果たしていることが示唆されている。 INK4フアミリ一に属 する pl6INK4aは、 サイクリン Dに結合して、 サイクリン Dがサイクリン依存性キナー ゼ 4(CDK4)または CDK6と触媒的に活性なキナーゼ複合体を形成できないようにす る。 このように pl6INK4aは、 /S移行期で細胞周期を阻害する (Lukas, J. etal., 1995, Nature 375:503-506; Koh, J. et al., 1995, Nature 375:506-510; Serrano, M., 1997, Exp. Cell Res. 237:7-13)。 Cip/Kipフアミリーに属する p21ciplは、 多 様なサイク リン/ CDK複合体を阻害する (Harper, J.W. et al., 1993, Cell
75:805-816; Xiong, Y. et al., 1993, Nature 366:701-704)。 p21ciplは、 舰ポ リメラ一ゼ(5を活性ィ匕する PCNA (proliferating cell nuclear antigens; 増殖 性細胞核抗原) にも結合してこれを不活化する (Flores-Rozas, H. etal., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA.91:8655-8659; Nakanishi, M. etal., 1995, J. Biol. Chem. 270:17060-17063; Waga, S. et al., 1994, Nature 369:574-578; Li, R. et al., 1994, Nature 371:534-537)。 このように、 p21ciplは細胞周期の様々な段階 でサイクリン /CDK複合体のキナーゼ活性を不活化し、 同時に DNA複製を阻害する。 本発明者らはこれまでに、 CDKIの発現をリゥマチの滑膜組織において調べてい る (Taniguchi, K. et al., 1999, Nature Med. 5:760 - 767)。 それらは、 核内分 子のグループに属する。 本発明者らは、 慢性関節リウマチの滑膜組織に由来する リウマチ滑膜線維芽細胞 (rheumatoid synovial fibroblasts; RSFs) せ in vivo では CDKI pl6INK4aを発現しないが、 in / /Oで線維芽細胞の増殖を阻害すると pl6INK4aが容易に発現することを見出した。 pl6INK4aの誘導は慢性関節リゥマチの 滑膜線維芽細胞に特異的に認められた。 このことから本発明者らは、 アデノウィ ルスを用いて pl61NK4a遺伝子をアジュバント関節炎 (AA) のラッ 卜の関節に局所的 に移入する実験を行った。 この治療により、 滑膜過形成および関連する関節炎の 他の病態を抑制することに成功した (Taniguchi, K. et al., 1999, Nature Med. 5:760-767)。 pl6INK4a誘導による関節炎の治療は、 従来の抗リウマチ薬や最近開発 された生物試薬に十分に匹敵するものであった。
一方、 p21Ciplは、 pl6INK4aとは異なるファミリ一に属する CDKIである。 p21Ciplも pl6INK4aと同様、 リウマチの滑膜組織に由来する線維芽細胞中で in vivoでは発 現しないが、 /jWi/Oで線維芽細胞の増殖を阻害すると発現が誘導される。 しか し p21Giplの誘導は、 pl6INK4aとは異なり、 非リウマチ起源の線維芽細胞にも認めら れた (Taniguchi, K. et al., 1999, Nature Med. 5: 760-767) 0 また、 p21Ciplは pl6INK4aと比べ、 サイクリン依存性キナーゼのすべてを阻害する。 p21ciplの強制発 現もまた、正常細胞や癌細胞の細胞周期を G1期で停止させる(Dimri, G.P. etal.,
1996, Mol. Cell. Biol. 16: 2987-2997)。 pl6丽 a 蛋白質のレベルが、 老化に伴 い次第に上昇し高レベルのまま蓄積されるのとは対照的に、 線維芽細胞における p21ciplの発現レベルは、 細胞分裂の増加と共に上昇するが細胞が老化すると共に 減少する (Tahara, H. et al., 1995, Oncogene 10: 835-840)。 pl6腿 a遺伝子の 発現が老化の誘導に対してより直接的に影響を与えていると考えられる(Alcorta, D.A. et al., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:13742-13747) のに対し、 p21Giplの生物機能はより複雑であり、 ある状況下では、 p21eiplはサイクリンおよ び CDKの活性型キナーゼ複合体の形成を促進し、細胞周期を停止させるよりもむし ろ進行させるように働く (LaBaer, J. et al., 1997, Genes Dev. 11: 847-862)。 p21cipl の N末端ドメインは CDK/サイクリン複合体と相互作用する一方、 C末端ド メィンは、 DNA複製や修復に必須な DNAポリメラ一ゼ (5のサブュニットの 1つであ る PCNAと結合して阻害を起す (Li, R. et al., 1994, Nature 371: 534-537)。 ま た、 p21ciplの発現は、 p300/CBPコアクチべ一ターと NF- /cBとの複合体に結合する サイクリン E/CDK2を阻害して、 NF- ΑΓΒ依存性の遺伝子発現を増強する (Perkins, N.D. et al., 1997, Science 275: 523-527)。 さらに、 ある種の細胞株において は、 p21ciplの強制発現はアポトーシスによる細胞死を誘導する(Tsao, Y.P. etal., 1999, J. Virol. 73: 4983-4990; Matsushita, H. et al., 1998, Hypertension 31: 493-498; Kondo, Y. et al., 1997, Exp. Cell Res. 236: 51-56; Sheikh, M.S. et al., 1995, Oncogene 11: 1899-1905)。 さらに、 キナ一ゼ活性の阻害以外の生物 学的作用も pl6INK4aと p21ciplでは異なっている (LaBaer, J. etal., 1997, Genes Dev. 11: 847-862; Li, R. et al., 1994, Nature 371: 534-537; Xiong, Y. et al., 1993, Nature 366: 701-704)。 pl6INK4a遺伝子の破壊がマウスモデルにおいて癌の 頻発をもたらすことも、 p21Gipl遺伝子の破壊の結果とは異なっている (Serrano, M. et al., 1996, Cell 85: 27-37)。 このように、 構造的にも pl6INK4aとは区別さ れ、 またその発現様式や細胞周期の阻害様式も pl6INK4aとは異なる p21eiplが、 慢性 関節リゥマチに対する治療効果を有するかどうかは知られていなかった。
発明の開示
本発明は、 炎症性滑膜組織において p21eiplタンパク質の発現を上昇させること により抗炎症作用が得られるという知見に基づくものであり、 その目的は、 滑膜 細胞またはその周辺において、 p21Giplタンパク質の発現や機能を促進することに より、 滑膜組織の異常増殖および/または炎症を抑制することにある。 より詳し くは、 本発明は、 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組 織における炎症性サイ トカインの発現を抑制するための、 p21eiplタンパク質、 p21Cipl遺伝子、 および該タンパク質の活性や存在量を増加させる化合物の利用、 並びにこれら分子を含む医薬組成物を提供する。 さらに、 本発明は、 p21eipl タン パク質の活性や存在量を増加させる化合物のスクリーニング方法を提供する。 本発明者らは、 慢性リウマチ関節炎 (RA) の動物モデルであるマウスのコラー ゲン誘発関節炎 (col lagen- induced arthritis; CIA) を用い、 マウスの炎症性滑 膜組織に pl6INK4a遺伝子または p21Gipl遺伝子を強制的に発現させた場合の治療効 果を調べる実験を行った。このモデルは、ラッ卜のアジュバント関節炎(adjuvant arthritis ; AA)と同様にヒト RAとの顕著な類似性を示す(Courtenay, J. S. et al ., 1980, Nature 283 :666-668; Woo ley, P.H. et al . , 1981 , J. Exp. Med. 154:688-700; Holmdahl , R. et al . , 1988, Lab. Invest. 58: 53-60)。 この実験 により本発明者らは、 pl6INK4aばかりでなく ρ21"ρ1の遺伝子移入により抗関節炎作 用が発揮されることを見出した。 遺伝子移入により滑膜線維芽細胞が増殖した結 果であるパンヌス形成は有意に抑制された。 また、 軟骨または骨の破壊も認めな かった。 さらに、 滑膜組織への単核球の浸潤も同様に抑制された。 関節炎が発症 した後でも抗関節炎作用は明白であった。
本発明者らは、 p21cipl または pl6INK4aの誘導によって滑膜細胞は増殖刺激に対 して不応性となるばかりでなく、 何らかの抗炎症作用を発揮する可能性があると 推測した。これを確かめるため、 CIA関節における炎症性サイ 卜カインの発現を調
ベた。 CIAでは、 RAと同様に、 関節の炎症と軟骨の破壊は、 罹患関節における IL- 1および TNF-ひに依存する。実際にこれらのサイ トカインのいずれかに対するモノ クローナル抗体 (mAb) を投与すると、 関節炎は改善する (Piguet, P.F. etal., 1992, Immunology 77:510-514; Williams, R.O. et al" 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 89:9784-9788; Geiger, T. et al., 1993, Clin. Exp. Rheumatol . 11:515-522; Van den Berg, W.B. et al., 1994, Clin. Exp. Immunol. 95:237- 243; Thorbecke, G.J. et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 89:7375-7379)c RT- PCRおよび免疫組織化学分析によりこれらのサイ トカインの発現を調べた結果、 pl6INK4a遺伝子または p21Gipl遺伝子を導入した関節では、 サイ トカインの発現が有 意に抑制されていることが明らかになった。
リウマチ滑膜線維芽細胞を用いた in vitroの実験では、 p21eipl 遺伝子の強制 発現は、 アポトーシスによる細胞死を誘導することなく、 導入細胞の増殖を阻害 することが判明した。 さらに本発明者らは、 ラヅトのアジュバント関節炎 (AA) モデルを用いて、 p21eipl 遺伝子治療の効果を検証した。 その結果、 CIAモデルで 見られたのと同様に、 AAラッ卜においても、 p21eipl 遺伝子の関節内への導入は有 意な治療効果を示し、 /J WTOおよび iiroにおける効果は、 いずれも pl61NK4a 遺伝子治療に匹敵することが確かめられた。 罹患関節組織における滑膜の肥厚、 単核球の浸潤、 パンヌス形成、 および軟骨破壊は、 P21eipl 遺伝子の投与群では有 意に抑制されており、臨床的にも組織学的にも、 p21eipl 遺伝子による遺伝子治療 の効果は明白であった。また、 p21eip' 遺伝子を導入した関節の滑膜組織における PCNA発現細胞の数は減少しており、 ρ21 1 遺伝子治療が in w'raにおいても実 際に細胞増殖を抑制していることが確認された。
これらの結果から本発明者らは、 リゥマチの滑膜組織における CDKI遺伝子の発 現の誘導、特に p21Giplの誘導が、 RA治療の有効な戦略となりうること、そして CDKI の異所発現が滑膜の過増殖を防止するのみならず、 罹患関節における炎症誘導環 境をも緩和することを見出した。 また、 これらの知見は、 pl6INK4aまたは p21Giplの
発現を選択的に促進する合成化合物等が RAに対する治療試薬としても作用しうる ことを示唆している。 滑膜細胞の異常増殖や滑膜の炎症を制御し得るこのような 化合物は、 p21ciplタンパク質を標的とすることにより効率的にスクリーニングす ることができる。 また、 p21ciplタンパク質や p21eipl遺伝子、 並びにこのようなス クリーニングにより得られた化合物には、 滑膜細胞の異常増殖および Zまたは炎 症に起因する RA等の疾患の予防や治療への応用が期待される。
本発明は、 以上の知見に基づくものであり、 より詳しくは、
( 1 ) 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織におけ る炎症性サイ トカインの発現を抑制するために用いる、 サイクリン依存性キナー ゼィンヒビ夕一 p21Cipl蛋白質、
(2) 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織におけ る炎症性サイ トカインの発現を抑制するために用いる、 サイクリン依存性キナー ゼインヒビ夕一 p21Cipl蛋白質をコードする DNA、
(3) 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および Zまたは滑膜組織におけ る炎症性サイ トカインの発現を抑制するために用いる、 下記 (a) から (c) の いずれかに記載の化合物、
(a) サイクリン依存性キナーゼインヒビター p21eipl活性を促進する化合物、
(b) サイクリン依存性キナーゼインヒビター p21cipl蛋白質の分解を抑制する 化合物、
( c ) 内因性サイクリン依存性キナーゼィンヒビ夕一 p21cipl遺伝子の発現を促 進する化合物、
(4) ( 1) に記載のタンパク質、 (2) に記載の DNA、 または (3) に記載の 化合物を有効成分とする、 慢性関節リウマチの予防または治療のための医薬組成 物、
(5) 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織におけ る炎症性サイ トカインの発現を抑制する活性を有する化合物をスクリーニングす
る方法であって、
(a) サイクリン依存性キナーゼインヒビ夕一 p21Giplタンパク質に、 被検試 料を接触させる工程、
(b) 該 p21ciplタンパク質のサイクリン依存性キナーゼ阻害活性を検出する 工程、 および
(c) 被検試料を接触させない場合と比較して、 該活性を増加させる化合物 を選択する工程、 を含む方法、
(6) 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織におけ る炎症性サイ トカインの発現を抑制する活性を有する化合物をスクリーニングす る方法であって、
(a) サイクリン依存性キナーゼインヒビ夕一 p21ciplタンパク質に、 被検試 料を接触させる工程、
(b) 該 p21eiplタンパク質量を検出する工程、 および
(c) 被検試料を接触させない場合と比較して、 該 p21Giplタンパク質量を増 加させる化合物を選択する工程、 を含む方法、
(7) 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織におけ る炎症性サイ トカインの発現を抑制する活性を有する化合物をスクリーニングす る方法であって、
(a) 内因性のサイクリン依存性キナーゼインヒビ夕一 p21cipl遺伝子を発現 する細胞に、 被検試料を接触させる工程、
(b) 該 p21eipl遺伝子の転写産物量を検出する工程、 および
(c) 被検試料を接触させない場合と比較して、 該 p21eipl遺伝子の転写産物 量を増加させる化合物を選択する工程、 を含む方法、
(8) 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織におけ る炎症性サイ トカインの発現を抑制する活性を有する化合物をスクリーニングす る方法であって、
( a ) 内因性のサイクリン依存性キナーゼインヒビ夕一 p21Cipl遺伝子の発現 制御領域の下流にレポーター遺伝子が機能的に結合されたベクターを含む細胞に、 被検試料を接触させる工程、
( b ) レポーター活性を検出する工程、 および
( c ) 被検試料を接触させない場合と比較して、 レポーター活性を増加させ る化合物を選択する工程、 を含む方法、 を提供するものである。
本発明は、 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織に おける炎症性サイ トカインの発現を抑制するために用いる p21"plタンパク質およ び該夕ンパク質をコードする DNAを提供する。本発明における「滑膜組織の異常増 殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織における炎症性サイ ト力インの発 現を抑制するために用いる」 には、 滑膜組織 (もしくは細胞) の異常増殖、 滑膜 組織の炎症、 および/または滑膜組織における炎症性サイ トカインの発現を抑制 するための試薬としての利用および患者における滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織 の炎症、 および/または滑膜組織における炎症性サイ トカインの発現を抑制する ための医薬としての利用が含まれる。炎症性サイ トカインとしては、例えば、 IL-1 β、 TNFひ、 IL-6が挙げられる。 また、 本発明における 「滑膜組織の異常増殖、 滑 膜組織の炎症、 および/または滑膜組織における炎症性サイ トカインの発現を抑 制するために用いる」 には、 滑膜の増生、 パンヌス形成および侵襲、 単核球など の免疫細胞の関節組織への浸潤、 ならびに関節における軟骨若しくは骨の破壊な どを含む、 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織にお ける炎症性サイ トカインの発現により引き起こされる疾患症状を緩和するための 使用が含まれる。
本発明において、 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜 組織における炎症性サイ トカインの発現を抑制するために用いる p21eiplタンパク 質は、 天然のタンパク質であっても、 遺伝子組み換え技術を利用した組換えタン パク質であってもよい。 これらタンパク質は、 公知の蛋白質精製技術または遺伝
子工学的手法で調製することができる。即ち、天然のタンパク質は、例えば、 p21eipl タンパク質の部分べプチドに対するの抗体を用いたァフィ二ティ一クロマトグラ フィ一を行うことにより、 ρ21"ρ1タンパク質発現の高い組織または細胞、 例えば、 HeLa細胞または継代培養を続けた線維芽細胞から単離し、 調製することが可能で ある。 また、 組換えタンパク質は、 例えば、 p21Giplタンパク質をコードする MA (Harper, J.W. et al . , 1993, Cel l 75, 805-816、 El -Deiry, . S. et al ., 1993, Cel l 75, 817-825 (GenBank Ac. No. U03106 )、 Noda,A. et al . , 1994, Exp Cel l Res 211 , 90-98) で形質転換した細胞を培養し、 該細胞またはその培養上清から 発現させたタンパク質を回収することにより調製することが可能である。 組換え タンパク質の生産に用いる細胞としては、 例えば、 COS細胞、 CH0細胞、 NIH3T3細 胞などの哺乳類細胞、 Sf9細胞などの昆虫細胞、 酵母細胞、 大腸菌 (E. coli) が挙 げられる。 また、 細胞内で組換えタンパク質を発現させるためのベクタ一は、 宿 主細胞に応じて変動するが、 例えば、 哺乳類細胞のベクタ一としては PCDNA3
( Invitrogen社) や pEF-BOS (Nucleic Acids.Res. 1990, 18( 17 ) , p5322) などが、 昆虫細胞のベクターとしては 「BAC-to-BAC baculovirus expression systemj (GIBC0 BRL社) などが、 酵母細胞のベクタ一としては rpichia Expression Kitj ( Invitrogen社)などが、 大腸菌のベクタ一としては pGEX- 5X- 1 (Pharmacia社)、 「QIAexpress systemj (Qiagen社) などが挙げられる。 宿主細胞へのベクタ一の 導入は、 例えば、 リン酸カルシウム法、 DEAEデキストラン法、 カチォニックリポ ゾーム D0TAP (ベ一リンガ一マンハイム社)や SuperFect (Quiagen社)を用いた方法、 エレクロポレーシヨン法、 塩化カルシウム法など公知の方法を用いて行うことが できる。 得られた形質転換体からの組換えタンパク質の精製は、 常法、 例えば、 文献 rThe Qiaexpressionist handbook, Qiagen, Hi 1 den, Germanyj 記載の方法 を用いて行うことが可能である。
なお、 当業者であれば、 公知の方法、 例えば、 PCRによる部位特異的変異誘発シ ステム (GIBC0- BRL, Gai thersburg, Maryland), オリゴヌクレオチドによる部位
特異的変異誘発法 (Kramer, W. and Fritz, H. J. ( 1987) Methods in Enzymol . , 154: 350-367)、 Kunkel法 (Methods Enzymol . 85, 2763-2766 ( 1988)) などの方 法を利用して、 p21Gipl夕ンパク質の活性や安定性などを高める等のため、 p21cipl夕 ンパク質のアミノ酸配列におけるアミノ酸の置換、 欠失、 付加、 および/または 挿入を容易に行うことができる。 このような改変 p21eiplタンパク質も本発明に用 いることが可能である。
滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織における炎症 性サイ トカインの発現を抑制するために用いる p21Giplタンパク質をコードする DNAとしては、 cDNAであってもゲノム DNAであってもよい。 p21cipl cMAおよび p21ciplゲノム DNAについては、 文献 (Harper, J. W. et al . , 1993, Cel l 75, 805-816、 El-Deiry, W. S. et al . , 1993, Cel l 75, 817-825 (GenBank Ac . No. U03106)、 Noda, A. et al . , 1994, Exp. Cel l Res. 211 , 90-98) に配列が開示されている 。 p21cipl cDNAおよび p21ciplゲノム DNAは、 上記の開示されている配列情報を基にォ リゴヌクレオチド(通常、 15〜50塩基)を合成し、これをブラィマ一として、 p21cipl が発現している組織または細胞由来の cDNAを铸型にポリメラ一ゼ連鎖反応を行な うことにより増幅し、 調製することができる。 また、 上記の開示されている配列 の一部を有する DNA断片をプローブとして、プラークハイブリダィゼ一シヨン法や コロニーハイブリダィゼーシヨン法により、 cDNAライブラリーやゲノムライブラ リーをスクリーニングすることによつても p21Cipl cDNAおよび p21ciplゲノム DNAを 調製することができる。 cDNAライブラリ一としては、例えばヒト HeLa細胞由来 cDNA ライブラリーを用いることができる。 また、 cDNAライブラリーおよびゲノムライ ブラリ一は、 市販品 (CL0NTECH社) を用いることもできる。 以上のポリメラ一ゼ 連鎖反応やハイブリダィゼーシヨン法は、 文献 (Sambrook et al . , Molecular Cloning (Cold Spring Harbor Lab. Press)) 等の実験書に記載されている一般的 な方法に従って行なうことができる。 ポリメラ一ゼ連鎖反応により増幅した DNA 断片やハイブリダイゼーシヨン法によりスクリ一ニングされた DNA断片は、適当な
プラスミ ド DNAなどにサブクローニングし、発現実験などに用いることができる。 また、 本発明においては、 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/ま たは滑膜組織における炎症性サイ トカインの発現を抑制するために、 ρ21"ρ1タン パク質の活性 (サイクリン依存性キナーゼ阻害活性および PCNA阻害活性など) を 促進する化合物、 p21eiplタンパク質の分解を抑制する化合物、 および p21eipl遺伝 子の発現を促進する化合物を用いることも可能である。 実施例に示すように、 関 節への局所的な p21ciplタンパク質の発現が、 抗関節炎作用を示すことが見出され た。 この事から、 関節、 特に滑膜組織において p21eiplタンパク質の存在量や機能 を高めることにより、 その異常増殖を抑制することができると考えられる。
例えば、 p21cipl発現は DNA損傷に反応して p53転写因子によって、 一過性ではあ るが直ちに誘導される (Dulic, V. etal., 1994, Cell.76:1013-1023; El-Deiry, W.S. et al., 1994, Cancer Res. 54:1169-1174)。 また、 高密度培養または低血 清培地のような多様な増殖抑制条件下でも、 p53非依存的に p21eipl発現が誘導され る。また、 p21cipl遺伝子はいくつかの細胞株において血清、増殖因子、および IL - 6 によっても誘導される (Gartel, A. L. and Tyner, A. L., 1999, Exp. Cell Res. 246: 280-289; Bellido, T. et al., 1998, J. Biol. Chem. 273:21137-21144)。 様々なヒト細胞株において p21ciplを誘導する多くの化合物が既に同定されている (Barboule, N. et al., 1997, Oncogene 15: 2867-2875; Sheikh, M. S. et al., 1994, Oncogene 9: 3407-3415; Gorospe, M. et al., 1999, Gene Express. 7: 377-385 ) o それらの中には、 ヒス トン脱ァセチル化阻害剤である酪酸や TrichostatinA、 また、 12- 0-テトラデカノィルフオルボル- 13-アセテート、 コレ カルシフエロール、 レチノイン酸、 ミモシン、およびオカダ酸が含まれる(Nakano, K. et al., 1997, J. Biol. Chem. , 272, 22199-22206、 Sowa, Y. et al., 1997, Biochem. Biophys. Res. Commun. , 241, 142 - 150、 Alpan, R.S. and A.B. Pardeeリ 1996, Cell Growth Different. 7:893-901; Jiang, H. et al., 1994, Oncogene 9:3397-3406; Stei腿 n, R. A. et al., 1994, Oncogene 9:3389-3396)。 したが
つて、 細胞内の p21Gipl遺伝子の発現を促進するこれらの化合物は、 本発明におい て好適に用いられ得る。さらに、 p21Giplの誘導は、ファイア一ス夕イン(Firestein) と共同研究者ら (Firestein, G. S. et al ., 1997, Proc. Natl . Acad. Sci . USA. 94: 10895-10900; Tak, P. P. et al ., 1999, Arthritis Rheum. 42: 948-953) によって報告された、リゥマチ性滑膜組織における p53の異常発現を相補する可能 性もある。
ところで、 p21eiplタンパク質のサイクリン依存性キナーゼ阻害活性を促進する 化合物を調製するためには、 p21ciplタンパク質に被検化合物を接触させて、 その サイクリン依存性キナーゼ阻害活性を増加させる化合物を選択すれば良い。即ち、 p21cipl夕ンパク質のサイクリン依存性キナーゼ阻害活性を促進する化合物は、
( a ) P21ciplタンパク質に、 被検試料を接触させる工程、 (b ) P21eiplタンパク質 のサイクリン依存性キナーゼ阻害活性を検出する工程、 および (c ) 被検試料を 接触させない場合と比較して、 p21eiplタンパク質の該活性を増加させる化合物を 選択する工程、 を含む方法によりスクリーニングすることが可能である。
被検試料としては特に制限はなく、 例えば、 細胞抽出物、 細胞培養上清、 発酵 微生物産生物、 海洋生物抽出物、 植物抽出物、 精製若しくは粗精製タンパク質、 ペプチド、 非ペプチド性化合物、 合成低分子化合物、 天然化合物が挙げられる。 被検試料を接触させる p21eiplタンパク質は、 例えば、 精製したタンパク質であつ ても、 担体に結合させた形態であってもよい。 また、 p21eiplタンパク質を発現す る細胞に被検試料を接触させても良い。
p21eiplタンパク質のサイクリン依存性キナーゼ阻害活性は、 例えば、 サイクリ ン /CDKによるヒストンのリン酸化活性を測定することにより検出することができ る (Matsushime, H. et al ., 1994, Mol . Cel l . Biol . , 14, 2066-2076)。
p21ciplタンパク質の分解を抑制する化合物を調製するためには、 p21eiplタンパ ク質に被検化合物を接触させて、その後の p21eipl夕ンパク質量を検出し、 P21cipl夕 ンパク質量の減少を抑制する化合物選択すれば良い。 即ち、 P21eiplタンパク質の
分解を抑制する化合物は、 (a ) p21Giplタンパク質に、 被検試料を接触させる工程、 ( b ) p21Giplタンパク質量を検出する工程、 および (c ) 被検試料を接触させな い場合と比較して、 p21eiplタンパク質量を増加させる化合物を選択する工程、 を 含む方法によりスクリーニングすることが可能である。
被検試料としては、 上記スクリーニング方法と同様に、 特に制限はない。 被検 試料を接触させる本発明のタンパク質は、 例えば、 精製したタンパク質であって も、 担体に結合させた形態であってもよい。 また、 p21eiplタンパク質を発現する 細胞に被検試料を接触させても良い。 p21eiplタンパク質の存在量の検出は、 例え ば、 ウエスタンブロッテイング法により検出することができる。 具体的な方法の 一例としては、 まず、 p21eiplタンパク質を発現する細胞に被検試料を接触させ、 その後、 該細胞を溶解し、 これを SDS- PAGEに供する。 SDS- PAGE後、 ゲル上で泳動 させたタンパク質を二トロセルロース膜などに転写する。 該膜に p21eiplタンパク 質に対する抗体を接触させ、 さらに標識した二次抗体を接触させて、 該膜上に存 在する p21eiplタンパク質の存在量を検出する。 被検試料を接触させなかった細胞 を用いた場合 (対照) と比較して、 p21eiplタンパク質量を増加させる化合物を選 択すれば良い。
p21cipl遺伝子の発現を促進する化合物を調製するためには、 内因性の p21eipl遺 伝子を発現する細胞に被検試料を接触させ、 該遺伝子の発現を増加させる化合物 を選択すれば良い。 即ち、 p21eipl遺伝子の発現を促進する化合物は、 (a ) 内因性 の p21eipl遺伝子を発現する細胞に、 被検試料を接触させる工程、 (b ) p21eipl遺伝 子の転写産物量を検出する工程、 および (c ) 被検試料を接触させない場合と比 較して、 p21eipl遺伝子の転写産物量を増加させる化合物を選択する工程、 を含む 方法によりスクリーニングすることが可能である。
被検試料としては、 上記スクリーニングと同様に、 特に制限はない。 また、 内 因性の p21eipl遺伝子を発現する細胞としては、 例えば、 滑膜組織由来の線維芽細 胞などの細胞を好適に用いることができるがこれに限定されない。 p21cipl遺伝子
の転写産物量の検出は、 ノ一ザンブロッティング法や RT- PCR法などの当業者に公 知の手法を用いて行なうことができる。
また、 p21eipl遺伝子の発現制御領域の活性化を指標とする方法によって、 p21Cipl 遺伝子の発現を促進する化合物をスクリーニングすることもできる。 効率的なス クリーニングのために、 レポ一ター遺伝子を用いることも可能である。 このスク リーニングは、 ( a ) p21cipl遺伝子の発現制御領域の下流にレポーター遺伝子が機 能的に結合されたベクターを含む細胞に、被検試料を接触させる工程、 (b ) レポ —夕一活性を検出する工程、 および (c ) 被検試料を接触させない場合と比較し て、 レポーター活性を増加させる化合物を選択する工程、 を含む方法により実施 することができる。
本発明のスクリーニング法においては、 p21eipl遺伝子の発現制御領域の下流に レポ一ター遺伝子が機能的に結合されたべクタ一を構築する。 ここで 「機能的に 結合された」 とは、 発現制御領域の活性化に応答して、 その下流に結合されたレ ポー夕一遺伝子が発現しうるように、 発現制御領域とレポーター遺伝子が結合し ていることを指す。 レポーター遺伝子としては、 例えば、 ホ夕ルルシフェラーゼ 遺伝子、 分泌型アルカリフォスファターゼ遺伝子、 クロラムフエ二コールァセチ ルトランスフェラ一ゼ( CAT )遺伝子などを用いることができる。
次いで、 これを哺乳動物細胞に導入し、 被検試料を該細胞株に接触させ、 レポ —夕一活性を検出する。 被検試料としては、 上記スクリーニング方法と同様に、 特に制限はない。 レポ一夕一活性の検出は、 レポ一夕一遺伝子の種類に応じて公 知の方法で行なうことができる。 その結果、 被検試料を接触させない細胞におけ るレポーター活性と比較して、 レポーター活性を増加させる化合物を選択するこ とにより、 p21eipl遺伝子の発現を促進し、 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織における炎症性サイ ト力インの発現を抑制する化合物を スクリーニングすることができる。 このスクリーニング方法は、 p21cipl遺伝子の 発現をレポ一夕一活性を指標として検出するため、 先のノーザンプロッティング
や RT-PCR解析などの直接的な検出方法を利用したスクリーニングと比較して簡便 であるという特徴を有する。
なお、 p21eipl遺伝子の発現制御領域(プロモーター)については、文献(E卜 Deiry, W. S. et al . , 1995 , Cancer Res. , 55 ( 13 ), 2910-2919 (GenBank Ac. No. 丽 70)、 Evans, S. C . et al . (GenBank Ac. No. U50603) ) に記載されている。 また、 該 発現制御領域を用いた転写制御実験については、 文献 (Nakano, K. et al . , 1997, J. Biol . Chem. , 272, 22199-22206、 Sowa, Y. et al . , 1997, Biochem. Biophys. Res. Comraun. , 241 , 142-150) に記載されている。
ρ2ΐ"ρΐタンパク質、 該タンパク質をコードする DNA、 および上記スクリーニング により単離される化合物は、 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/ま たは滑膜組織における炎症性サイ トカインの発現を抑制するための試薬として、 また、 滑膜組織の異常増殖や炎症が関与する疾患 (特に慢性関節リウマチ) の予 防や治療のための医薬組成物として利用することができる。 滑膜組織の異常増殖 および/または炎症が関与する疾患としては、 慢性関節リウマチ以外にも、 例え ば、 若年性関節リゥマチや関節炎を伴う他のリゥマチ性疾患および骨関節症など が考えられる。
滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織における炎症 性サイ トカインの発現を抑制するための試薬として p21eiplタンパク質を用いる場 合には、 p21Giplタンパク質は、 例えば、 マイクロインジェクションなどの方法に より滑膜細胞に導入することができる。
p2 1eiPlタンパク質をコードする MAを滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 お よび/または滑膜組織における炎症性サイ トカインの発現を抑制するための試薬 として用いる場合、 該 DNAの発現を滑膜細胞内で保証し得るベクタ一に該 MAを揷 入してこれを滑膜細胞に導入することができる。 滑膜細胞へのベクターの導入法 としては、 例えば、 直接注入法、 リン酸カルシウム法、 DEAEデキストラン法、 力 チォニックリボソーム法、 エレクト口ボーレ一シヨン法、 リポフエクシヨンなど
の当業者に公知の方法で行うことが可能である。また、 レトロウィルスベクター、 アデノウィルスベクタ一、 センダイウィルスベクターなどのウィルスベクターを 用いて導入することもできる。
上記スクリーニングにより単離される化合物を滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織 の炎症、 および/または滑膜組織における炎症性サイ トカインの発現を抑制する ための試薬として用いる場合、 該化合物の形態に応じて、 例えば、 マイクロイン ジェクシヨン法(夕ンパク質などの高分子化合物の場合)、 リン酸カルシウム法な どの遺伝子導入法(化合物が遺伝子の場合)、滑膜細胞の培養培地への添加などの 手法により、 該細胞に導入することができる。 in WTOにおいては関節内注入な どにより滑膜組織に投与することができる。 遺伝子は例えば公知のベクタ一系を 用いて投与され得る。
また、 p21eiplタンパク質や上記スクリーニングにより得られる化合物を滑膜組 織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織における炎症性サイ ト カインの発現を抑制するための医薬組成物として用いる場合には、 これらを直接 患者に投与 (例えば関節内への局所投与) する以外に、 公知の製剤学的方法によ り製剤化して投与を行うことも可能である。 例えば、 必要に応じて糖衣を施した 錠剤、 カプセル剤、 エリキシル剤、 マイクロカプセル剤として経口的に、 あるい は水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、 又は懸濁液剤の 注射剤の形で非経口的に使用できる。 例えば、 薬理学上許容される担体もしくは 媒体、 具体的には、 滅菌水や生理食塩水、 植物油、 乳化剤、 懸濁剤、 界面活性剤、 安定剤、 香味剤、 賦形剤、 べヒクル、 防腐剤、 結合剤などと適宜組み合わせて、 一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製 剤化することが考えられる。 これら製剤における有効成分量は指示された範囲の 適当な容量が得られるようにするものである。
錠剤、 カプセル剤に混和することができる添加剤としては、 例えばゼラチン、 コーンスターチ、 トラガントガム、 アラビアゴムのような結合剤、 結晶性セル口
—スのような賦形剤、 コーンスターチ、 ゼラチン、 アルギン酸のような膨化剤、 ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、 ショ糖、 乳糖又はサッカリンのよう な甘味剤、ペパーミント、 ァカモノ油又はチェリーのような香味剤が用いられる。 調剤単位形態がカプセルである場合には、 上記の材料にさらに油脂のような液状 担体を含有することができる。 注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のような べヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水溶液としては、 例えば生理食塩水、 ブドウ糖やその他の補助薬を含 む等張液、 例えば D-ソルビトール、 D-マンノース、 D-マンニトール、 塩化ナトリ ゥムが挙げられ、 適当な溶解補助剤、 例えばアルコール、 具体的にはエタノール、 ポリアルコール、 例えばプロピレングリコール、 ポリエチレングリコール、 非ィ オン性界面活性剤、 例えばポリソルベート 80 (TM)、 HC0- 50と併用してもよい。 油性液としてはゴマ油、 大豆油があげられ、 溶解補助剤として安息香酸ベンジ ル、 ベンジルアルコールと併用してもよい。 また、 緩衝剤、 例えばリン酸塩緩衝 液、 酢酸ナトリウム緩衝液、 無痛化剤、 例えば、 塩酸プロ力イン、 安定剤、 例え ばべンジルアルコール、 フヱノール、 酸化防止剤と配合してもよい。 調製された 注射液は通常、 適当なアンプルに充填させる。
患者への投与は、 例えば、 動脈内注射、 静脈内注射、 皮下注射などのほか、 鼻 腔内的、 経気管支的、 筋内的、 経皮的、 または経口的に当業者に公知の方法によ り行いうる。 投与量は、 患者の体重や年齢、 投与方法などにより変動するが、 当 業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
p21ciplは本来の細胞の代謝回転に必須である細胞周期を阻害する可能性がある ため、それらの全身発現は重篤な副作用を誘発する可能性がある。また、 p21eiplの 発現を上昇させる化合物の全身投与も、 同様に副作用を有する可能性がある。 従 つて、 これらの投与においては、 その作用が関節等の患部に限局されるようにな されることが好ましい。 そのためには、 関節への局所投与や、 ドラッグデリバリ —システムにより作用を患部に限定することが考えられる。
例えば、 本発明の薬剤の投与量は、 症状により差異はある力 経口投与の場合、 成人 (体重 60kgとして) においては、 一般的には、 1日あたり約 0.01から 1000mg、 好ましくは約 0. 1から 100mg、 より好ましくは約 1.0から 50mgである。
非経口的に投与する場合は、 その 1回投与量は投与対象、 症状、 投与方法によ つても異なるが、 例えば注射剤の形では通常成人(体重 60kgとして) においては、 一般的には、 1日あたり約 l〃gから 100rag、 好ましくは約 0.01から 30mg、 より好ま しくは約 0. 1から 20mg程度を静脈注射により投与する。
p2 1ciPlタンパク質をコードする DNAを患者の滑膜組織の異常増殖、滑膜組織の炎 症、 および/または滑膜組織における炎症性サイ トカインの発現を抑制するため の医薬として用いる場合(遺伝子治療用途の場合)、 p21ciplタンパク質をコードす る DNAは、 適当なベクタ一、 例えば、 アデノウイルスベクタ一、 アデノ随伴ウィル スベクタ—、 レトロウィルスべクタ—、あるいはプラスミ ド DNAなどに組み込み、 患者に投与する。 ベクタ一としてアデノウイルスを用いる場合は、 炎症反応の惹 起が低減されたアデノウイルスのバリアン ト等を用いることが望ましい (Steinwaerder, D. S. et al ., 1999, J. Virol . 73 : 9303-9313)。 投与方法とし ては、 例えば患部への局所投与等の当業者に公知の方法から好ましい方法を適宜 選択して行なうことができる。 投与方法としては、 インビボ ( iJ TO) 法が好適 に用いられる。 また、 遺伝子導入細胞からのパラクリン効果を期待する場合にお いては、 ェクスビボ法も用いられ得る。 投与において、 リン脂質などをミセル化 して作製したリボソームに遺伝子を封入することにより、 組織移行性、 組織吸収 性を高めることもできる。またカチオン性の脂質を加え、遺伝子 DNAと複合体を形 成させることにより、 組織移行性、 組織吸収性を高めることも可能である。 これ により、 患者の滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組織 における炎症性サイ トカインの発現を抑制することができると考えられる。
図面の簡単な説明
図 1は、 慢性関節リゥマチ滑膜線維芽細胞の増殖に及ぼす pl6INK4aおよび p21"pl 遺伝子移入の効果を示す図である。 RA患者滑膜組織から採取したヒト滑膜線維芽 細胞を、 様々な力価の AxCApl6、 AxCAp2K または AxCALacZアデノウイルスに感染 させ、 10%FCS(A)または 10 ng/ml PDGF + 1 %FCS(B )で刺激した。 [¾]- TdRの取り 込みは、 感染させないで増殖刺激を行った対照の滑膜線維芽細胞の取り込みと比 較して示す。 pl6INK4a (參) または p21eipl (△) の遺伝子移入は、 ウィルス力価依 存的に細胞増殖を阻害したが、 c Zの遺伝子移入 (口) は細胞増殖を阻害しなか つた。 各点とバーは平均土 SEMを表す。
図 2は、 CIAの進行に及ぼす pl6INK4aおよび p21eipl遺伝子治療の効果を示す図で ある。 CIAのマウスを AxCApl6 (き)、 AxCAp21 (△)、 AxCALacZ (◊) アデノウィル ス、 または生理食塩液(國) によって、 関節炎発症後 2回 (矢印、 21日と 31日) (A、 Bおよび C)、 または 1回限り (矢印、 31日) (D)処置した。 動物の足首の幅 (A)、 足の容積 (B) そして疾患のスコア (Cおよび D) を図示した日に測定した。 グラフ 上の各点はマウス 7匹の平均値土 SEMを表す。 *P<0. 05、 * *P<0. 0K ***Ρ<0.001
(pl6INK4a (AxCApl6 )対生理食塩液)、 #P<0.05、 ##P<0. 01、 # # #P<0.001 (p21cipl (AxCAp21 ) 対生理食塩液)。
図 3は、 マウスの CIAに及ぼす pl6INK4aおよび p21eipl遺伝子治療の効果を示す写 真である。 CIAマウスをアデノウイルス AxCApl6、 AxCAp2U AxCALacZ, または生 理食塩液で 2回処置した。 2回目の免疫の 3週間後に、 関節炎関節の放射線検査
(A〜E) と組織病理検査 (F〜J) を行った。 Aと F、 正常な足首関節; Bと G、 生理 食塩液処置 CIA足首関節; Cと H、 AxCALacZ処置 CIA足首関節; Dと I、 AxCApl6処置 CIA 足首関節; Eと J、 AxCAp21処置 CIA足首関節。 F〜J, 観察時倍率 35倍。
図 4は、 CIA関節における炎症性サイ トカイン mRNAの発現に及ぼす pl6INK4aおよ び p21eipl in Wra遺伝子導入の効果を示す写真である。 関節をアデノウイルス AxCApl6、 AxCAp2K AxCALacZ, または生理食塩液で 2回処置した。 2回目の免疫 の 3週間後に 1群あたりマウス 4匹から採取した後足の滑膜組織における IL-l ?、
IL-6、 TNF-ひ、 および GAPDH mRNAの発現を調べた。 各 RT- PCRアツセィ産物の予想 される大きさを括弧内に示す。 レーン 1〜4、 生理食塩液処置足首関節; レーン 5〜 8、 AxCALacZ処置足首関節; レーン 9〜12、 AxCApl6処置足首関節; レーン 13 〜16、 AxCAp21処置足首関節。
図 5は、 CIA関節の滑膜組織における IL- 1 ?および TNF-ひの免疫組織化学分析を 示す写真である。 アデノウイルス AxCApl6 (G〜I )、 AxCAp21 (J〜い、 AxCALacZ (D〜F)、 または生理食塩液 (A〜C)で 2回処置した CIA膝関節の滑膜組織を採取し て、 連続凍結切片を作製した。 それらを抗- TNF-ひ Ab (A、 D、 Gおよび J)、 IL-1 ? Ab (B、 E、 Hおよび K)、 または正常ゥサギ血清 (NRS) (C、 F、 Iおよび L) で処理し た。結合した抗体をホースラディッシュ 'ペルォキシダ一ゼとその基質 DABで可 視化した。 サポニン処理のため、 IL- 1 ?および TNF-ひの染色は主に核周辺に観察 された。 観察時の倍率は 140倍。
図 6は、 p21eipl 遺伝子導入によるリウマチ滑膜線維芽細胞 (RSF) の増殖阻害 を示す図である。 図示した M0Iのアデノウイルス Axlwlまたは AxCAp21を感染さ せた RSF を 10% FBS で刺激した。 AxCAp21 を感染させた RSFによる ¾-チミジ ンの取り込みを、 対照に用いた Axlwl を感染させた RSF との相対値で示した。 100 M0I の感染で統計的有意差が見られた (pく 0.01)。
図 7は、 p21Cipl を強制発現させた RSFのアポトーシスアツセィの結果を示す写 真である。 A, B, C,および D :核の Hoechst33258染色。 N- acetylsphingosine処 理した RSFでは、アポトーシスを起した細胞に典型的に見られる核の凝集および断 片化が示されている (A)。 AxCAp21処理 RSF (B) および Axlwl処理 RSF (C) では、 未処理の RSF (D)と同様にアポトーシスの徴候は観察されない。(観察時の倍率 X 400)。 アポト一シスを起した細胞の定量については実施例を参照のこと。 E:細胞 DNAのァガロースゲル電気泳動。 未処理 RSF (レーン 2)、 AxCAp21 感染後 2日 (レ ーン 3) および 4日 (レーン 4)、 ならびに Axlwl 感染後 2日 (レーン 5) および 4 日 (レーン 6)の RSFから調製した全細胞 DNAを解析した。 UV-処理した HL- 60細胞の
DNAを同様に分画して、 典型的なヌクレオソ一ム DNAラダーを示した (レーン 7)。 レ一ン 1は DNA分子量マーカー (0X174 Hael ll 切断物) である。
図 8は、 アジュバント関節炎 (AA) ラットの関節膨脹における p21cipl 遺伝子 導入の効果を示す図である。 AAラッ卜の膝関節にアデノウイルス AxCAp21 (令) または AxCALacZ (◊) を関節内注入する処理を行った。各点およびバ一は 6匹の ラッ 卜の平均土 SEMを示す。矢印は遺伝子導入のタイミングを表す。遺伝子導入は 3回 (A) または 1回 (B) 行った。 アスタリスクは 2つのグループ間で統計的有 意差があることを示す (pく 0.05)。
図 9は、 AAの組織病理学に及ぼす p21eipl遺伝子治療の効果を示す写真である。 関節炎関節に 3回の遺伝子導入を行い、免疫感作の 4週間後に組織学的検査を行つ た。膝蓋靭帯周辺の滑膜組織の切片をへマトキシリンおよびェォシンで染色した。 A:正常関節、 B :生理食塩水で処理した関節、 AxCALacZ処理した関節、 D : AxCAp21 処理した関節。 P : 膝蓋骨、 s : 滑膜組織、 f : 大腿骨頭、 t : 膝蓋腱。
図 1 0は、 p21eipl遺伝子導入処理した膝関節の組織学的測定結果を示す図であ る。 AxCAp21 (p21cipl ) または AxCALacZ (LacZ) で処理した関節の滑膜厚 (A)、 単核球の浸潤 (B)、 パンヌス侵襲 (C;)、 および軟骨厚 (D) を顕微鏡で観察して測 定した。 点とバーは 6匹のラットの結果の平均土 SEMを表す (A, B, C)。 パネル C の点はラッ ト個体ごとの組織学的スコアを表す。 全ての測定において統計的有意 差が見られた。
図 1 1は、 p21eipl遺伝子導入処理した膝関節の滑膜組織における PCNAの発現を 示す写真および図である。 AxCAp21 (A) または AxCALacZ (B) で処理した関節の 滑膜組織における PCNAの発現を、 抗 PCNAモノクローナル抗体を用いて検出した。 PCNA LIを算出し、 平均土 SEMをカラムとバーで示した (C)。 統計的有意差が検出 された (pく 0.01 )。 発明を実施するための最良の形態
P P 5
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以下、 本発明を実施例により具体的に説明するが、 本発明はこれら実施例に制 限されるものではない。 なお培養リウマチ滑膜線維芽細胞 (rheumatoid synovial fibroblasts; RSFs) は、 日本医大病院、 東京都立墨東病院または府中病院で、 総 関節置換手術または滑膜切除術を受けた慢性関節リゥマチ患者のリゥマチ滑膜組 織から調製した。外科技法の前に患者から同意書を得た。慢性関節リゥマチ(RA) の診断は、 全米リウマチ学会の基準に従って行った (Arnett, F. et al . , 1988, Arthritis Rheum. 31 :315-324)。 滑膜線維芽細胞は文献の記述通りに培養した
(Taniguchi , K. et al . , 1999, Nature Med. 5 : 760-767)。 また、 実施例 2にお ける統計分析はス夕ットビユー 4.5Jソフトウェア (アバカス 'コンセプッ、 バー クレー、 カリフォルニア州) によって行った。 CIAマウスの足首の幅および足の容 積の統計学による差は、 スチューデン卜の t検定によって評価し、疾患のスコアは マン .ホイツトニ一の U (Mann-Whitney U) 検定によって評価した (実施例 2 )。 また実施例 4〜 7における統計解析はス夕ットビュー 5.0Jソフトウエア(SASィン 夕一ナショナル (SAS Institute Inc. ) , カリ一, ノースカロライナ州) により行 つた。 培養 RSFの ¾-チミジン取りこみ、 ならびに AxCAp21 または AxCALacZ で 処理した関節の膝幅、 軟骨厚および滑膜厚、 および PCNA- LIの統計解析は 2群の t検定で比較した(実施例 6および 7 )。パンヌス侵襲スコアは Mann-Whi tney U検 定によって評価した (実施例 7 )。 アデノウイルスを感染させた RSFのアポト一シ スの割合は t検定で比較した (実施例 5 )。
[実施例 1 ] pl6INK4aおよび p21cip遺伝子のアデノウイルスによる移入は滑膜 細胞の増殖を阻害する
pl6INK4aまたは p21eiplの強制発現が滑膜細胞に及ぼす抗増殖作用を、 ヒト滑膜 線維芽細胞を用いて調べた。 リゥマチの滑膜組織から調製した滑膜線維芽細胞 (RSF) に、 pl6INK4a、 p21cipI , または大腸菌 lacZをそれぞれ含む、 組換え型アデ ノウィルス AxCApl6、 AxCAp21、 または AxCALacZ を感染させた。 ヒト pl6INK4a遺 伝子およびヒト p21cipl遺伝子を含む複製欠損アデノウイルス (それぞれ AxCApl6
および AxCAp21) は、 寺田および伊藤両博士 (東京医科歯科大学、 東京、 日本) から供与された (Terada, Y. et al., 1997, J. Am. Soc. Nephrol. 8:51-60)。 cZ遺伝子をコードする組換え型アデノウイルス (AxCALacZ) は、 斉藤博士 (東 京大学、 東京、 日本) から供与された (Kanegae, Y. etal., 1995, Nucleic Acids Res.23:3816-3821)。高力価組換え型アデノウイルスは、 293細胞での増幅によつ て調製し、塩化セシウム密度勾配遠心によって精製した(Kanegae, Y. etal., 1994, Jpn. J. Med. Sci. Biol. 47:157-166)。 それらの増殖を 10%FCSまたは 10 ng/ml 血小板由来増殖因子 (PDGF) で刺激し、 [¾]- TdR取り込みの測定により細胞増殖 アツセィを行った。 組換え型アデノウイルスの in W ro遺伝子移入およびアデ ノウイルス感染細胞による [ ]-TdR取り込みの測定は、 他の文献に記述されてい る (Terada, Y. et al., 1997, J. Am. Soc. Nephrol. 8:51-60)。
滑膜細胞に AxCApl6または AxCAp21を感染させると、 その増殖はウィルスの力価 に依存して抑制された (図 1 )。 AxCALacZでは作用を認めなかった。マウス NIH3T3 線維芽細胞を同じウィルスに感染させ、 同様に刺激した場合にも、 同様の増殖抑 制作用を認めた。
[実施例 2 ] pl61NK4aおよび p21eipl遺伝子誘導が CIAの病態に及ぼす効果 実施例 1と同じ組み合せのアデノウイルスを用いて、 in Wraでコラーゲン誘 発関節炎 (CIA) マウスの滑膜組織において pl6醒 a 、 p21cipl、 または LacZ遺伝子 を誘導した。
CIAの誘導方法を以下に示す。雄性 DBA/1Jマウスを日本チヤ一ルス · リバ一'ラ ボラトリーズ社 (東京、 日本) から購入して、 東京医科歯科大学動物実験施設で 収容した。 ゥシ II型コラーゲン (コラーゲン · リサーチ 'センタ一、 東京、 日本) を 0.1M 酢酸に 2mg/mlで溶解して等量のフロイント完全アジュバント (ィアト口 ン社、 東京、 日本) と乳化した。 8週齢のマウスの尾根部に免疫原 100〃1を皮内 注射した。 3週間後、 マウスに同じ抗原を皮下注射した。 2回目の免疫から 10日 以内に関節炎を発症した。
関節への iTJ Fi'FO遺伝子移入は 2回目の免疫と同じ日と 10日後、 または 2回目 の免疫の 10日後のみのいずれかに行った。 すなわち、 AxCApl6、 AxCAp21、 および AxCALacZアデノウィルスを生理食塩液中で 108粒子/〃1の濃度で調製し、 それそ れのマウスの足首の関節 (関節あたり 5 1) および膝関節 (関節あたり 10 j l) に両側の関節内注射を行い、 そして足根関節(関節あたり 5〃1)に両側の関節周 囲注射を同時に行った。 生理食塩液のみの注射を対照とした。
CIA疾患の重症度の評価は、各後肢の関節炎の重症度を以下のように採点するこ とにより行った : 0、 正常; 1、 足首関節または足先に限局した紅斑と軽度の腫 脹; 2、 足首から足中央部に及ぶ紅斑と軽度の腫脹; 3、 足首から中足骨関節に 及ぶ紅斑と重度の腫脹; 4、関節腫脹を伴う強直性変形(Rosloniec,E.F. etal., 1996, Collagen- induced arthritis, In Current Protcols in Immunology. , J.E. Coligan et al. eds., John Wiley & Sons, Inc., NY., 15.5.1-24)0 各マウスの 疾患スコアは、 2本の後肢のスコアの合計として表した。 スコア採点は 2人の採 点者によって盲検的に行った。 足首の幅はミクロメーター (ォザキ製造、 東京、 日本) で測定し、 足の容積は TK101体積変動測定計 (ュニコム社、 千葉、 日本) で 測定した。 後肢の X線写真は、 SR0- M30X-線装置 (ソフロン社、 東京、 日本) を用 いて 3.5mAで 1分間 X線フィルム (富士写真フィルム、 東京、 日本) への直接露光 によって得た。
アデノウイルス AxCApl6, AxCAp21, および AxCALacZをマウスの足首の関節に 注射し、 これらのマウスから RNAを採取し、逆転写酵素により cDNAに逆転写した。 これらの cDNAを鐯型に、 特異的プライマ一を用いて RT-PCRを行った結果、 移入し た遺伝子の mRNAは、 対応する遺伝子を持つ組換え型アデノウィルスを投与した関 節に特異的に発現されることが確認された。 疾患の経過において、 足首の幅、 足 の容積、 そして疾患のスコアを評価したところ、 生理食塩液または 7acZ遺伝子を 移入した場合と比較して、 pl6INK4aまたは p21eipl遺伝子を移入すると、 関節炎は有 意に改善することが判明した(図 2A、 Bおよび C)。膝関節の腫脹も、 これらの CDKI
処置マウスでは抑制されることが判明した。 疾患のスコアの差は、 最初の遺伝子 移入後 11日目に統計学的有意に達した (P<0.05)。 疾患の発病は、 生理食塩液処 置マウスと比較すると、 じ 16処置マゥスでは平均で2.4日、 そして AxCAp21処置 マウスでは 3.4日遅れた。
関節炎発病後の CDKI遺伝子移入の治療効果は、 2回目の免疫の 10日後、 関節の 腫脹が明らかになり始めた時期に、 CIAマウスを処置することによって調べた。 AxCApl6または AxCAp21のいずれかによる処置は、 関節炎が既に発症した後でもそ の進行を有意に抑制した (図 2D)。
2回目の免疫の 3週間後の足首関節の放射線検査により、 CDKI処置マウスの関 節では、 組織の腫脹および骨のびらんが顕著に抑制されていることが明らかにな つた(図 3A〜E)。同時に、処置した足首について組織学的に検査した(図 3F〜J)。 組織学的検査では、 2回目の免疫の 3週間後に採取した CIAマウスの後足を 10%リ ン酸緩衝ホルマリン (pH 7.4) で固定し、 10%EDTAで石灰質を除き、 パラフィン に包埋し、 作製した切片 (4〃m) をへマトキシリン ·ェォシンで染色して観察し た。 AxCApl6または AxCAp21で処置した関節では、 AxCALacZまたは生理食塩液で処 置した関節と比較して滑膜過形成が大きく減少した(図 3 Iおよび J)。単核球の滑 膜組織への浸潤やパンヌスの形成は減少し、軟骨または骨の破壊を認めなかった。 本発明者らが調べた臨床所見と組織学的所見の全てにおいて、 AxCApl6で処置し た関節と AxCAp21で処置した関節の間に有意差を認めなかった。
[実施例 3] CIA罹患関節における炎症性サイ トカインの発現に及ぼす pl61NK4a および p2 ipl遺伝子誘導の効果
CIAでは、 RAの場合と同様に、 滑膜細胞から主として分泌される TNF-ひおよび IL-1が、 CIAの病理の主な原因である (Piguet, P.F. et al., 1992, Immunology 77:510-514; Williams, R.O. et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 89:9784-9788; Wooley, P.H. etal., 1993, J. Immunol.151:6602-6607; Joosten, L.A.B. et al., 1996, Arthritis Rheum. 39:797-809)。 そこで、 アデノウイルス
AxCApl6、 AxCAp21、 AxCALacZまたは生理食塩液で処置した関節炎関節における、 炎症性サイ トカイン IL-l ?、 IL- 6、 および TNF-ひの発現を調べた。後足からの滑 膜組織を組織病理検査の当日に採取した。 これらのサイ トカインの mRNA発現レべ ルを逆転写 ( RT ) - PCRによって分析した。
RT- PCR分析にために、 Isogen (日本ジーン、 東京、 日本) によって、 全 RNAを関 節滑膜組織から抽出した。 Superscript I I逆転写酵素 (ライフ 'テクノロジ一社、 ガイサ一スバーグ、 メリ一ランド州) によって相補的 DNA (cDNA) を合成し、 グル タルアルデヒド- 3-リン酸デヒドロゲナ一ゼ (GAPDH) を増幅する場合には PCR 25 サイクルを行い、 ヒト pl6INK4aおよび p21cipl、 大腸菌 lacZ、 マウス IL- 1 、 IL-6 および TNF-ひ cDNAを増幅する場合には、 PCR 30サイクルを行った。 PCRサイクル は 94°Cで 1分間、 58°Cで 1分間、 および 72°Cで 2分間実施した。産物をァガ口一 スゲル電気泳動で分画して、ェチジゥムブ口マイ ドで染色した。特異的 PCRプライ マ一の核酸配列は以下の通りである : ヒト pl61NK4a、 5' -AAC GCA CCG AAT AGT TAC GG - 3,/配列番号: 1 (センス) ぉょび5' -&。 了66 1"^ [^ (^11 (^6 6] -3,/配列 番号: 2 (アンチセンス) ; ヒ ト p21cipl、 5, -ACT GTG ATG CGC TAA TGG C- 3,/配 列番号: 3 (センス) および 5, -ATG GTC TTC CTC TGC TGT CC- 3,/配列番号: 4 (アンチセンス) ;大腸菌 lacZ、 5, - ACT TM TCG CCT TGC AGC AC-3,Z配列番号: 5 (センス) および 5, -CAT CTG AAC TTC AGC CTC CA- 3,/配列番号: 6 (アンチ センス);マウス IL-l ?、 5' -CTG AAA GCT CTC CAC CTC- 3,/配列番号: 7 (セン ス) および 5,- GGT GCT GAT GTA CCA GTT GG- 3,/配列番号: 8 (アンチセンス); マウス IL-6、 5' -GAG ACT TCC ATC CAG TTG CC- 3,/配列番号: 9 (センス) およ び 5, -TTC TGC AAG TGC ATC ATC G- 3,/配列番号: 1 0 (アンチセンス);マウス TNF-ひ、 5, - GCC ACC ACG CTC TTC TG- 3, /配列番号: 1 1 (センス) および 5,-ATG GGC TCA TAC CAG GG- 3,/配列番号: 1 2 (アンチセンス);マウス GAPDH、 5' -AAG AAG GTG GTG AAG CAG GC-35 /配列番号: 1 3 (センス) および 5, -TCC ACC ACC CTG TTG CTG ΤΑ-3'ノ配列番号: 1 4 (アンチセンス)。
分析の結果、 これらのサイ ト力イン mRNAは全て、 AxCALacZおよび生理食塩液処 置滑膜組織では豊富に検出された (図 4 )。対照的に、 AxCApl6または AxCAp21で処 置した滑膜組織ではそれらは検出不能であるか、 ごく低レベル存在するに過ぎな かった。 mRNA量を抽出 RNA量で標準化した。 GAPDH mRNAは各群の関節から等しく増 幅された。
次に、 滑膜組織において IL-l ^または TNF-ひを発現する細胞を同定するために 免疫組織化学分析を行った。
2回目の免疫の 3週間後に採取した CIAマウスの後足の膝関節からの滑膜組織 を、 オル二チン '力ルバミル ' トランスフェラーゼ 'コンパウンド (ティシュー テク ;マイルス社、 エルクハート、 インディアナ州) に包埋して、 液体窒素の中 で凍結し、 - 80°Cで保存した。 連続凍結切片 (8〃m) を風乾させて、 4 %冷リン 酸緩衝パラホルムアルデヒド (pH 7.4) で固定し、 150 mM NaClおよび 0. 1 %サポ ニンを含む 10 mMトリス塩酸 (pH 7.5) で洗浄して、 10%正常ャギ血清と共にイン キュペートした。 次にそれらをゥサギ抗ヒト IL-1 ? (LP-712; ジェンザィム社、 ケンブリッジ、 マサチューセッツ州)、 ゥサギ抗マウス TNF-ひ抗体(IP- 400 ;ジェ ンザィム社)、 または正常ゥサギ血清と共に 4 °Cでー晚ィンキュベ一トした。それ らをピオチン結合ャギ抗ゥサギ IgG (サザン 'バイオテクノロジ一'ァソシエーヅ、 バーミンガム、 アラバマ州) と共にインキュベートして、 0.3%過酸化水素のメタ ノール溶液で処理して、 ホ一スラデイシュ 'ペルォキシダ一ゼ標識ストレプトァ ビジン (ベクタ一 .ラボラトリーズ、 ビュリンゲ一ム、 カリフォルニア州) と共 にィンキュベートした。 結合した抗体を 0.5 1¾/1111の3, 3' -ジァミノべンジジン4 塩酸の PBS溶液 (pH 7.4) および 0.02%過酸化水素によって可視化して、 最終的に へマトキシリンで対比染色した。
AxCALacZまたは生理食塩液で処置した関節では、 これらのサイ トカインは滑膜 の関節腔側の層に強く、 また、 滑膜組織内部にも認められた (図 5 A〜F)。 これと は対照的に、 同じ染色技法を行っても、 AxCApl6および AxCAp21処置関節の滑膜に
おける IL- または TNF-ひの染色は非常に弱かった (図 5 G〜い。 このように、 滑 膜組織における炎症性サイ トカインの遺伝子転写および放出は、 CDKI処置関節に おいて著しく抑制されていた。
[実施例 4 ] p21cipl 遺伝子導入によるリウマチ滑膜線維芽細胞 (RSF) の増 殖阻害
上記の組み換えアデノウイルス AxCAp21 を用いて、 p21eipl の異所発現が RSFの 増殖に及ぼす効果を検証した。挿入を持たないアデノウイルス Axlwlを理研遺伝 子バンク (埼玉県) より購入して対照として用いた。 日本医大病院、 東京都立墨 東病院または府中病院で滑膜切除術または総関節置換手術を受けた 5名のリゥマ チ滑膜炎患者から同意の下で滑膜組織を採取した。 患者は全員、 全米リウマチ学 会 (American Col lege of Rheumatology) の基準 (Arnett, F.C. et al ., 1988, Arthritis & Rheum. 31 : 315-324) で慢性関節リウマチ (RA) と診断された。 RSF は文献の記載に従って単離し培養した (Taniguchi , K. et al ., 1999, Nature Med. 5 : 760-767)。
10%FBSを含む培地中で RSFを対数増殖させ、 ヒト p21eipl遺伝子を含むアデノゥ ィルス AxCAp21、 または挿入遺伝子を持たないアデノウイルス Axlwlを感染させ た。 i77 アデノウイルス感染は以前記載の通りに行った (Terada, Y. et al . , 1998, J. Am. Soc. Nephrol . 9 : 2235-2243)。 感染細胞の全細胞抽出物のウェス 夕ンブロット解析を行ったところ、 ρ21"ρΙ蛋白質は AxCAp21を感染させた細胞で 特異的に発現しており、 Axlwlを感染させた細胞では発現は検出されなかった。こ れらの細胞の増殖を感染 24時間後に評価した。 細胞増殖は ¾-チミジンの取りこ みにより測定した (Taniguchi , K. et al . , 1999, Nature Med. 5 : 760-767)。 Axlwl を感染させた RSFの増殖と比較して、 AxCAp21を感染させた RSFの増殖は有意に抑制 されていた。 この抑制効果は、 感染させるウィルスの力価に依存していた (図 6 )。
[実施例 5 ] P21cipl 遺伝子の過剰発現による RSFのアポトーシスによる細胞 死
AxCAp21を感染させた RSFで観察された増殖阻害は、 p21Giplの異所発現が誘導し たアポトーシスに起因する可能性が考えられた。そこで、アデノウィルス AxCAp21 を感染させた RSF、および Axlwlを感染させた RSFのアポトーシスによる細胞死を測 定した。
5 X 105 の RSFに 5 x l07 PFU のアデノウイルス AxCAp21 または Axlwl を M0I 100で感染させた。 同数の細胞を 40ng/ml PDGF (ジェンザィム (Genzyme) , ケン ブリ ッジ, マサチューセッツ州) を含む RPMI 1640 培地中で、 50〃M N- acetylsphingosine (和光純薬, 大阪) で処理してアポトーシスを誘導した (Mizushima, N. et al ., 1998, Ann. Rheum. Dis. 57: 495-499)。 4日後に処理 した細胞をトリプシン- EDTA溶液 (免疫学研究所, 群馬) で回収し、 1%グルタル アルデヒド/ PBSで固定し Hoechst33258 (モレキュラープローブズ (Molecular Probes),ユージーン,オレゴン州) で染色した。 アポトーシスを起した細胞を定 量するため 500個の核を肉眼で観察した。処理細胞からは全細胞 DNAを抽出し、 DNA の断片化を 2%ァガロースゲル DNA電気泳動で解析した。
以前報告されているように、 RSFは N-acetylsphingosine 処理によりアポト一 シスによる細胞死が誘導された (Mizushima, N. et al ., 1998, Ann. Rheum. Dis. 57: 495-499) o アポトーシスを起した RSFは、 Hoechst33258による染色により核の 凝集および断片化などの特徴的な形態変化が観察された(図 7 A)。 RSFを、 増殖阻 害が起こる濃度の AxCAp21 (100 M0I) または同じ濃度の Axlwlで処理し、 感染 4 曰後に同様の染色を行った (図 7 Bおよび 2 C)。 これらの RSFを、 ウィルス非感染 の RSF培養と比較した(図 7 D)。特徴的な核変化により示されるアポトーシスを起 した細胞の割合を、各ウィルス感染に対して 3つずつ別々に評価した。その結果、 非感染 RSF、 AxCAp21感染 RSF、 および Axlwl感染 RSFにおけるアポト一シスを起し た細胞の頻度に有意な違いは見出されなかった (それぞれ 0.52± 0.45%、 0.69 ±0.60%、 0.60±0.67% )。
AxCAp21を感染させた RSF、 または対照に用いた Axlwlを感染させた RSFの核 DNA
をァガロースゲル電気泳動で分離した。 アポトーシスを起した HL-60細胞の DNAは 典型的なヌクレオソ一ム DNAラダーが観察されたが、 AxCAp21または Axl w 1を感染さ せた RSFでは断片化した DNAは検出されなかった (図 7 E)。 これらの結果は、 RSF における p21ciplの過剰発現は、 アポトーシスによる細胞死を誘導しないことを示 している。 p21eipl遺伝子の強制発現は、 アポトーシスによる細胞死を誘導するこ となく RSFの細胞増殖を阻害することが明らかとなつた。
[実施例 6 ] ラットアジュバント関節炎に対するアデノウイルスを介した p21cipl 遺伝子導入
6週齢の雄 Lewisラット 6匹を、 lmgの M. butyricumを懸濁した 100〃 1のミネ ラルオイルで免疫感作しアジュバント関節炎 (AA) を誘発させた。 これらのラッ 卜の右膝に AxCAp21を、 同じ個体の左膝に AxCALacZを注入する処理を行った。関節 内遺伝子導入は、 l x lO7 PFU のアデノウイルスを含む生理食塩水 50 1 を膝関 節へ注入して行った。遺伝子導入は 1回 (感作後 7日) または 3回 (感作後 8、 15、 および 22日) 行った。 疾患を誘導したラットは、 経時的に関節炎の程度を観察し て臨床スコアを作成した (Eden, W. and Josee, P. A. , Adjuvant arthritis in rat. In: Current protocols in immunology. New York: John Wi ley & Sons ; 1996. Supplement 19)。 膝関節の幅はミクロメ一夕一で計測した。 臨床観察の最後に、 関節を固定して組織学的および免疫組織化学的に解析した。 対照実験として生理 食塩水を注入したラットも観察した。
実験期間中、 膝関節の膨脹が観察された。 感作後 10日前後で全てのラットで関 節炎が発症した。 免疫感作後何も処理しないラットでは、 感作後 20日前後で膝関 節幅は最大に達し、 その後減少した。 減少は関節の線維症と接着する筋肉の萎縮 に起因していた。 対照のアデノウィルスで処理した膝関節も同様の経過を示した
(図 8 )。 これに対し、 p21eipl 遺伝子導入ラッ トでは、 1回投与または 3回投与 に関わらず、 膝関節の膨脹は有意に抑制された (図 8、 p<0.05)。 1週間ごとに 3 回の遺伝子導入を繰り返した場合、 統計学的に有意な治療効果は実験の全期間に
亘つて持続した。 このように、 p21cipl の関節内への遺伝子導入は in vivo にお いてラッ卜のアジュバント関節炎も寛解させることが示された。 遺伝子導入を 1 回行った場合も関節の膨脹は効果的に抑制されたが、 遺伝子導入後 2週間で効果 は低下した。
[実施例 7 ] p21cipl 遺伝子導入によるラット AAの組織病理学的効果
3回の遺伝子導入処理を行ったラッ 卜の関節を、 最後の遺伝子導入の 1週間後 に組織学的に解析した。膝関節は 10%PBS-ホルマリン固定および脱カルシウム後 にパラフィンワックスに包埋した。 切片 (5〃m) はへマトキシリンおよびェオシ ンで染色した。 滑膜組織および軟骨の厚さは、 脛骨先端への滑膜の接着部分に最 も近い部位で計測した。 同じ部位の滑膜組織 1 .8 x 10— 8 m2中の単核球数も計数し た。パンヌスの侵襲の程度は、以前の記載に従って評価した(Taniguchi , K. et al . , 1999, Nature Med. 5 : 760-767)。
正常ラットの膝関節の滑膜組織では、 緩い脂肪結合組織に支持された滑膜の裏 打ち細胞が 1層か 2層観察された (図 9 A)。 AxCALacZまたは生理食塩水で処理し た関節炎関節では滑膜の顕著な肥厚と単核球の浸潤が認められた。 また異常なパ ンヌス組織の発達と隣接する骨への侵襲が観察された(図 9 Bおよび 4 C)。また、 罹患関節中の軟骨の変性が見られた。これに対し、 AxCAp21で処理した関節の滑膜 組織では、 滑膜の肥厚および単核球の浸潤は顕著に抑制されていた (図 9 D)。 パ ンヌス組織による骨破壊も抑制されており、 軟骨もよく保存されていた。 滑膜厚 および軟骨厚を計測し、浸潤した単核球数も計数した(Taniguchi , K. et al . , 1999, Nature Med. 5 : 760-767)。 またパンヌスの侵襲の度合いをスコアで評価した。 AxCAp21処理した関節と対照に用いた lacZウィルス(AxCALacZ)で処理した関節に おけるこれらの評価は全て、 p21cipl遺伝子の導入が関節炎を有意に寛解させるこ とを示している (図 1 0 )。
S期の細胞は PCNAを発現する。遺伝子導入後 1週間経過した関節炎滑膜組織を免 疫組織化学的に解析して、 PCNAの発現を調べた。
免疫組織化学解析は、 固定した切片 (5〃πι) を脱パラフィンし、 10 /M クェン 酸ナトリウム (ρΗ 6) 中で 5分間マイクロ波で加熱する処理を 2回行った。 0.3% 02、 10%正常ャギ血清を含む PBS、 および抗 PCNAモノクローナル抗体 (pC10, サ ン夕クルズ バイオテク (Santa Cruz Biotech) , カリフォルニア州) で 1時間イン キュペートした。 この抗体は p21cipl との結合部位とは異なる PCNAペプチド鎖に 結合し、 p21eiplの PCNAへの結合が抗体の反応を阻害する可能性は否定されている
(Roos, G. et al ., 1993, Lab. Invest. 68 : 204-210 ; Chen, J. et al ., 1996 , Nucleic Acids Res. 24 : 1727-1733 ) 0 その後、 ピオチン化ャギ抗マウス IgG抗体
(AP181B , ケミコンインターナショナル (Chemicon International Inc . ) , テメ キユラ一, 力リフォルニァ州)、およびストレブトアビジン標識した西洋ヮサビぺ ルォキシダ一ゼ (サザンバイオテクノ ロジ一 ァソシエーッ (Southern Biotechnology Associates Inc. ) , ノ 一ミンガム, アラバマ州) とインキュベー 卜した。 結合した抗体は、 0.02% 3, 3' -diaminobenzidine tetrahydrochloride で発色させた。切片はへマトキシリンで対比染色を行った。 200の滑膜細胞を試験 して、 全細胞中の PCNA陽性細胞の割合 (PCNAラベリングインデックス; LI ) を算 出した (Galand, P. and Degraef , C ., 1989, Cel l & Tiss. Kinet. 22 : 383-392)。
PCNA染色陽性の滑膜細胞は、 AxCAp21処理した関節の滑膜組織よりも、 AxCALacZ 処理した関節の滑膜組織でより高頻度で見出された (図 1 1 Aおよび 1 1 B)。 S期 の細胞の頻度を反映する PCNAラベリングインデックス (LI ) を、 3箇所の独立の 顕微鏡視野で測定した。その結果、 AxCALacZ処理した関節に比べ、 AxCAp21処理し た関節の PCNA LI値は有意に低い値を示した (図 1 1 C)。 この結果は、 滑膜細胞 の細胞周期が、 実際に i/3 W TOで阻害を受けていることを示している。 産業上の利用の可能性
本発明により、 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 および/または滑膜組 織における炎症性サイ トカインの発現を抑制するための p21eipiタンパク質、 該夕
ンパク質をコードする DNA、および p21ciplタンパク質の機能や存在量を増加させる 化合物が提供された。 これら分子は、 滑膜組織の異常増殖、 滑膜組織の炎症、 お よび/または滑膜組織における炎症性サイ ト力インの発現を抑制するための試薬 としての利用が考えられる他、 慢性関節リウマチなど、 滑膜組織の異常増殖、 滑 膜組織の炎症、 および/または滑膜組織における炎症性サイ トカインの発現に関 連する疾患の予防や治療のための医薬組成物としての応用が期待される。