明細書 変異型ヌクレオシドー 5 ' —リン酸生産酵素 技術分野 本発明は、 ヌクレオシドー 5 ' —リン酸生産能が向上した変異型ヌクレオシド - 5 ' 一リン酸生産酵素、 及びその製造方法に関する。 また、 本発明は、 上記し た酵素の製造に有用な酵素類に関する。 更に本発明は、 ヌクレオシド— 5 ' —リ ン酸の製造方法に関し、 またその製造方法に有用な、 前記の変異型酵素をコード する遺伝子、 該遺伝子を含む組換え D N A、 該組換え D N Aを保有する微生物に 関する。 ヌクレオシド一 5, 一リン酸は、 調味料、 医薬並びにそれらの原料とし て有用である。 なお、 本発明は、 X線結晶構造解析技術により蛋白質の新規立体 構造の解明に成功したことに基づくと共に、 該立体構造は微生物に限らない発展 性を有する。 背景技術 ヌクレオシドを生化学的にリン酸化してヌクレオシド一 5 ' —リン酸を安価か つ効率的に製造する方法として、 特定の微生物菌体を、 酸性条件下でヌクレオシ ド並びにポリ リン酸 (塩) 、 フエニルリン酸 (塩) 及び力ルバミルリン酸から成 る群より選択されるリン酸供与体に作用させることにより、 ヌクレオシド一 2 ' —リン酸、 ヌクレオシドー 3, 一リン酸異性体の副生を伴うことなくヌクレオシ ドー 5, —リン酸を効率よく生成する方法が開発されている (特開平 7 - 2 3 1 7 9 3号) 。
その後、 ェシヱリヒア . ブラッ夕ェ (Escherichia blattae) 及びモルガネラ ' モルガ二 (Morganel l a morgani i ) より酸性ホスファタ一ゼをコードする遺伝 子を取得し、 遺伝子工学的に該遺伝子をェシエリヒア · コリで大量発現すること によりヌクレオシドー 5, 一リン酸の生産性が更に向上することが確認された。 該酸性ホスファターゼの構造を図 2に示す。 すなわち、 図 2は、 ェシエリヒア • ブラヅ夕ェ由来酸性ホスファターゼ (以下、 E B— A Pと略記する) のァミノ
酸配列を、 モルガネラ ' モルガ二, サルモネラ ' チフィムリウム (Salmonella t yphimurium) , ザィモモナス ' モビリス (Zymomonas raobilis) 由来酸性ホスフ ァクーゼのアミノ酸配列とァラインメン卜した図である。 星印は保存された残基 を示す。 2次構造の領域をアラインメントの上に棒で示した。 四角の線で囲んだ 部分は、 酸性ホスファターゼファミ リーの間で共通しているモチーフを示す。 モ チーフは、 1 ) KXXXXXXRP (配列番号 1 2 1 ) , 2 ) PSGH (配列番号 1 2 2 ) , 3 ) SRXXXXXHXXXD (配列番号 1 2 3 ) の 3つのドメインから成り立つている。 こ こで、 Xは任意のアミノ酸である。
該酸性ホスファターゼ (図 2 ) は、 リン酸基転移活性を有するものの、 野生型 においては、 ヌクレオシド一 5 ' —リン酸をヌクレオシドに分解するホスファタ ーゼ活性が優勢であり、 蓄積されたヌクレオシドー 5, 一リン酸が分解されてし まう欠点があった。 そこで、 ランダムに多数の変異型酵素を発生させ、 その中か らホスファ夕ーゼ活性に比してリン酸基転移活性が相対的に向上した変異型酸性 ホスファターゼが見出され、 該変異型酸性ホスファターゼ遺伝子を大量発現させ ることによりヌクレオシドー 5 ' —リン酸の生産性が飛躍的に向上することが示 された (特開平 8 _ 53 5568号) 。
該変異型酸性ホスファターゼは、 ヌクレオシドに対する親和性が向上しており、 それにより リン酸基転移活性が改善されたと考えられる。
上記のェシェリヒア . ブラヅ夕ェ由来変異型酸性ホスファタ一ゼ (=G 74 D / I 1 53 T変異型酵素 ( 74番目の G l yが A s pに、 かつ、 1 5 3番目の I 1 eが T h rに置換した変異型酵素。 以下、 変異の様式は、 同様にして示す。 ) ) は、 モルガネラ · モルガ二由来酸性ホスファターゼ (MM— AP) の対応する G 7 2 D/ I 1 5 1 T変異型酵素より リン酸基転移活性が弱いが、 8つのアミノ酸 残基を一次構造上対応する MM— A Pのアミノ酸に置換した 1 0残基置換 L 6 3 Q/A 65 Q/E 66 A/N 6 9 D/S 7 1 A/S 72 A/G 74 D/T 1 3 5 K/E 1 3 6 D/ I 1 53 T変異型酵素 (以降、 単に 1 0残基置換変異型 E B— APと記述) は、 G 7 2 D/ I 1 5 1 T変異型 MM— A Pとほぼ同等のリン酸基 転移活性を得ることが示された (特開平 9— 1 6 1 6 74号) 。
上述の生産性が向上したェシエリヒア ' ブラッタエ由来酸性ホスファターゼ
(EB— AP) の G 74 D/I 1 53 T変異型酵素遺伝子、 更には 1 0残基置換 変異型酵素遺伝子をェシェリヒア ' コリで大量発現することによりヌクレオシド 一 5, 一リン酸を生産する方法が確立された (特開平 9一 37785号、 特開平 1 0— 20 148 1号) が、 更に生産性の向上した変異型 EB— APが望まれる。 発明の開示 本発明は、 E B— APの 3次元構造に基づいて、 変異型 E B— APを設計する ことにより、 ヌクレオシド一 5 ' —リン酸生産性の更なる向上を図ることを課題 とする。
本発明を概説すれば、 下記に列挙するとおりである。
( 1 ) ヌクレオシド— 5, 一リン酸生産酵素において、 Lys残基 1つ、 Arg残基 2つ、 His残基 2つが存在し、 これらの Cひ間距離が図 1に示す範囲内にあり、 かつその付近にヌクレオシドが結合するスペースを有する、 リン酸基転移活性及 び/又はホスファターゼ活性を有する酵素を改変して得られる、 ヌクレオシド一 5, —リン酸生産能が向上した変異型ヌクレオシド一 5 ' —リン酸生産酵素。
( 2 ) 前記 Lys残基、 2つの Arg残基、 及び 2つの His残基の Cひ間距離が図 1 に示す範囲内にある ( 1 ) の変異型ヌクレオシドー 5, —リン酸生産酵素。
( 3 ) ェシエリヒア ' ブラッ夕ェ由来酸性ホスファターゼの結晶を X線結晶構 造解析して得られる原子座標データに示されている構造座標を元にして、 イノシ ン、 グアノシン等のヌクレオシド並びにそのリン酸化合物との結合様式を推定し、 アミノ酸残基及び/又は補欠因子等の置換、 追加、 削除によりヌクレオシド— 5 , 一リン酸生産能が向上した ( 1 ) の変異型ヌクレオシドー 5, —リン酸生産酵 素。
(4) 酵素の由来がェシヱリヒア属細菌、 モルガネラ属細菌、 プロビデンシァ 属細菌、 ェンテロパクター属細菌、 又はクレブジエラ属細菌である ( 1 ) の変異 型ヌクレオシド一 5, 一リン酸生産酵素。
(5) ェシエリヒア ' ブラヅタエ由来酸性ホスファターゼのアミノ酸配列の以 下の位置 (ェシェリヒア ' ブラッ夕ェ酸性ホスファタ一ゼの Ser 72、 又は Ser 7 2から 1 0 A以内にある残基) : 1 6、 67— 76、 78— 7 9、 96、 99 -
1 0 0、 1 0 2 - 1 0 4、 1 0 6— 1 0 8、 1 4 9一 1 5 4、 1 5 7、 1 7 9、 1 83の少なくとも一つの位置に変化が生じており、 ヌクレオシドー 5, 一リン 酸生産能が向上した変異型ヌクレオシドー 5 ' —リン酸生産酵素。
( 6 ) リン酸基転移活性及び/又はホスファターゼ活性を有する酵素であって、 ェシェリヒア . ブラッ夕ェ由来酸性ホスファターゼとのアミノ酸配列ァラインメ ントをしたときに、 ェシエリヒア ' ブラヅ夕ェ由来酸性ホスファターゼのアミノ 酸配列の以下の位置 (ェシエリヒア · ブラヅ夕ェ酸性ホスファタ一ゼの Ser 7 2、 又は Ser7 2から 1 0 A以内にある残基) : 1 6、 6 7— 7 6、 7 8— 7 9、 9 6、 9 9— 1 0 0、 1 0 2— 1 04、 1 0 6— 1 08、 1 49一 1 5 4、 1 5 7、 1 7 9、 1 8 3に対応する少なくとも一つの位置に変化が生じており、 ヌクレオ シド一 5 ' —リン酸生産能が向上した変異型ヌクレオシドー 5, —リン酸生産酵 素。
( 7 ) リン酸基転移活性及び/又はホスファターゼ活性を有する酵素であって、 ェシエリヒア · ブラヅタエ由来酸性ホスファタ一ゼの 3次元構造とのァラインメ ントをトレッデイング法により行ったときに、 ェシエリヒア ' ブラヅ夕ェ由来酸 性ホスファ夕ーゼのアミノ酸配列の以下の位置 (ェシェリヒア ' ブラッ夕ェ酸性 ホスファターゼの Ser7 2、 又は Ser7 2から 1 0 A以内にある残基) : 1 6、 6 7— 7 6、 78— 7 9、 9 6、 9 9一 1 0 0、 1 0 2— 1 04、 1 0 6— 1 0 8、 1 4 9— 1 54、 1 5 7、 1 7 9、 1 8 3に対応する少なくとも一つの位置に変 化が生じており、 ヌクレオシド一 5, 一リン酸生産能が向上した変異型ヌクレオ シド— 5, —リン酸生産酵素。
( 8 ) さらに、 前記の位置 (ェシエリヒア ' ブラヅ夕ェ酸性ホスファターゼの Ser7 2、 又は Ser7 2から 1 0 A以内にある残基) 以外の少なくとも一つの位置 に変化を生じさせることによって、 前記リン酸基転移活性及び/又はホスファタ ーゼ活性を有する酵素の野生型よりもリン酸基転移活性が高い他種生物由来の酵 素の立体構造に近づけた ( 6 ) の変異型ヌクレオシド _ 5, 一リン酸生産酵素。
( 9 ) ェシエリヒア ' ブラヅ夕ェ由来酸性ホスファタ一ゼのアミノ酸配列の以 下の位置: 1 6、 7 1、 7 2 , 7 3、 1 0 3、 1 04、 1 4 0、 1 5 1、 1 5 3 の少なくとも一つの位置に変化が生じており、 ヌクレオシドー 5 ' —リン酸生産
能が向上した変異型ヌクレオシドー 5 ' —リン酸生産酵素。
( 1 0) リン酸基転移活性及び/又はホスファターゼ活性を有する酵素であつ て、 ェシエリヒア ' ブラヅ夕ェ由来酸性ホスファタ一ゼとのアミノ酸配列ァラ インメントをしたときに、 ェシエリヒア ' ブラヅタエ由来酸性ホスファ夕一ゼの アミノ酸配列の以下の位置: 1 6、 7 1、 72 , 73、 1 03、 1 04、 140、 1 5 1、 1 53に対応する少なくとも一つの位置に変化が生じており、 ヌクレオ シドー 5, —リン酸生産能が向上した変異型ヌクレオシド一 5, 一リン酸生産酵 素。
( 1 1 ) リン酸基転移活性及び/又はホスファターゼ活性を有する酵素であつ て、 ェシエリヒア ' ブラッタエ由来酸性ホスファターゼとの 3次元構造とのァ ラインメントをトレプディング法により行ったときに、 ェシエリヒア . ブラッ夕 ェ由来酸性ホスファターゼのアミノ酸配列の以下の位置 : 1 6、 7 1、 72 , 7 3、 1 03、 1 04、 1 40、 1 5 1、 1 5 3に対応する少なくとも一つの位置 に変化が生じており、 ヌクレオシド一 5 ' —リン酸生産能が向上した変異型ヌク レオシド一 5, 一リン酸生産酵素。
( 1 2 ) ェシエリヒア ' ブラヅ夕ェ由来酸性ホスファ夕一ゼのアミノ酸配列の 72番目の残基が、 他のアミノ酸で置換された変異型ヌクレオシドー 5, 一リン 酸生産酵素。
( 1 3 ) リン酸基転移活性及び/又はホスファターゼ活性を有する酵素であつ て、 ェシエリヒア ' ブラッ夕ェ由来酸性ホスファタ一ゼとのアミノ酸配列ァライ ンメントをしたときに、 ェシエリヒア ' ブラッ夕ェ由来酸性ホスファ夕一ゼのァ ミノ酸配列の 72番目に対応する残基が他のアミノ酸で置換された変異型ヌクレ オシドー 5, -リン酸生産酵素。
( 1 4) リン酸基転移活性及び/又はホスファターゼ活性を有する酵素であつ て、 ェシエリヒア ' ブラヅ夕ェ由来酸性ホスファ夕一ゼの 3次元構造とのァライ ンメントをトレヅデイング法により行ったときに、 ェシエリヒア · ブラッ夕ェ由 来酸性ホスファターゼのアミノ酸配列の 72番目に対応する残基が、 他のアミノ 酸で置換された変異型ヌクレオシド _ 5 ' —リン酸生産酵素。
( 1 5 ) 酵素の由来がェンテロパク夕一 · ァエロゲネス由来であり、 そのアミ
ノ酸配列において 1 4番目のロイシン残基、 6 1番目のロイシン残基、 6 3番目 のァラニン残基、 6 4番目のグルタ ミ ン酸残基、 6 7番目のァスパラギン残基、 6 9番目のセリン残基、 7 0番目のァラニン残基、 7 1番目のグリシン残基、 7 2番目のグリシン残基、 1 0 1番目のイソロイシン残基、 1 0 2番目のグルタ ミ ン酸残基、 1 3 3番目のスレオニン残基、 1 3 4番目のグルタ ミン酸残基、 1 3 8番目のロイシン残基、 1 4 9番目のスレオニン残基、 1 5 1番目のイソ口イシ ン残基のうち少なく とも一つのアミノ酸残基が他のアミノ酸残基に置換されたも のである ( 1 0 ) の変異型ヌクレオシ ド— 5, ーリ ン酸生産酵素。
( 1 6 ) 酵素の由来がェンテロバクタ一 · ァエロゲネス由来であり、 以下のい ずれかのァミノ酸残基の置換を有する ( 1 2 ) の変異型ヌクレオシ ド一 5, ーリ ン酸生産酵素。
( a ) 6 1番目のロイシン残基がグルタ ミ ン残基に、 6 3番目のァラニン残 基がグルタ ミン残基に、 6 4番目のグルタ ミ ン酸残基がァラニン残基に、 6 7番 目のァスパラギン残基がァスパラギン酸残基に、 6 9番目のセリ ン残基がァラニ ン残基に、 7 0番目のァラニン残基がパリン残基に、 7 2番目のグリシン残基が ァスパラギン酸残基に、 1 0 2番目のグルタ ミン酸残基がロイシン残基に、 1 3 3番目のスレオニン残基がリジン残基に、 1 3 4番目のグル夕 ミ ン酸残基がァス パラギン酸残基に、 1 4 9番目のスレオニン残基がセリ ン残基に、 1 5 1番目の ィソロイシン残基がセリ ン残基にそれそれ置換する変異。
( b ) 6 1番目のロイシン残基がグルタ ミ ン残基に、 6 3番目のァラニン残 基がグルタ ミン残基に、 6 4番目のグルタ ミ ン酸残基がァラニン残基に、 6 7番 目のァスパラギン残基がァスパラギン酸残基に、 6 9番目のセリ ン残基がァラニ ン残基に、 7 0番目のァラニン残基がパリン残基に、 7 2番目のグリシン残基が ァスパラギン酸残基に、 1 3 3番目のスレオニン残基がリジン残基に、 1 3 4番 目のグル夕 ミン酸残基がァスパラギン酸残基に、 1 4 9番目のスレオニン残基が ァラニン残基に、 1 5 1番目のィソロイシン残基がセリ ン残基にそれそれ置換す る変異。
( c ) 6 1番目のロイシン残基がグルタ ミ ン残基に、 6 3番目のァラニン残 基がグルタ ミン残基に、 6 4番目のグルタミ ン酸残基がァラニン残基に、 6 7番
目のァスパラギン残基がァスパラギン酸残基に、 6 9番目のセリン残基がァラニ ン残基に、 7 0番目のァラニン残基がグルタミン酸残基に、 7 2番目のグリシン 残基がァスパラギン酸残基に、 1 3 3番目のスレオニン残基がリジン残基に、 1 3 4番目のグルタミン酸残基がァスパラギン酸残基に、 1 4 9番目のスレオニン 残基がグリシン残基に、 1 5 1番目のィソロイシン残基がセリン残基にそれそれ 置換する変異。
( d ) 6 1番目のロイシン残基がグルタミン残基に、 6 3番目のァラニン残 基がグルタミン残基に、 6 4番目のグルタミン酸残基がァラニン残基に、 6 7番 目のァスパラギン残基がァスパラギン酸残基に、 6 9番目のセリン残基がァラニ ン残基に、 7 0番目のァラニン残基がリジン残基に、 7 2番目のグリシン残基が ァスパラギン酸残基に、 1 3 3番目のスレオニン残基がリジン残基に、 1 3 4番 目のグル夕ミン酸残基がァスパラギン酸残基に、 1 4 9番目のスレオニン残基が グリシン残基に、 1 5 1番目のイソロイシン残基がセリン残基にそれそれ置換す る変異。
( e ) 6 1番目のロイシン残基がグルタミン残基に、 6 3番目のァラニン残 基がグルタミン残基に、 6 4番目のグルタミン酸残基がァラニン残基に、 6 7番 目のァスパラギン残基がァスパラギン酸残基に、 6 9番目のセリン残基がァラニ ン残基に、 7 0番目のァラニン残基がメチォニン残基に、 7 2番目のグリシン残 基がァスパラギン酸残基に、 1 0 2番目のグル夕ミン酸残基がグル夕ミン残基に、 1 3 3番目のスレオニン残基がリジン残基に、 1 3 4番目のグル夕ミン酸残基が ァスパラギン酸残基に、 1 4 9番目のスレオニン残基がセリン残基に、 1 5 1番 目のィソロイシン残基がセリン残基にそれそれ置換する変異。
( 1 7 ) リン酸基転移活性及び/又はホスファターゼ活性を有する酵素、 ある いはそれとモリブデン酸との複合体の結晶を X線結晶構造解析して得られる立体 構造から確定された、 該酵素の活性部位、 及び/又はそれから 1 0 A以内にある アミノ酸残基を、 置換、 追加、 削除をすることにより、 ヌクレオシド一 5 ' —リ ン酸生産能が向上した変異型酵素を製造することを特徴とする変異型ヌクレオシ ドー 5, 一リン酸生産酵素の製造方法。
( 1 8 ) ェシエリヒア ' ブラッ夕ェ由来酸性ホスファターゼの構造座標を使用
して、 ホスファタ一ゼ又はリン酸基転移酵素の阻害剤を製造する方法。
( 1 9 ) リン酸基転移活性及び/又はホスファターゼ活性を有する酵素、 ある いはそれとモリブデン酸との複合体のいずれかの結晶。
( 2 0 ) 六方晶系の空間群 P 632 2を有する、 ェシエリヒア · ブラヅ夕ェ由 来酸性ホスファターゼの結晶。
( 2 1 ) 斜方晶系の空間群 P 2! 2! 2!を有する、 ェシエリヒア ' ブラヅ夕ェ 由来酸性ホスファタ一ゼ G 74 D/I 1 53 T変異型酵素の結晶。
( 2 2 ) 三方晶系の空間群 P 3! 2 1を有する、 ェシエリヒア ' ブラッタエ由 来酸性ホスファタ一ゼとモリブデン酸との複合体 (反応中間体アナログ) の結晶。
( 2 3 ) ( 1 ) 〜 ( 1 6 ) のいずれかの酵素をコードする遺伝子。
( 24 ) ( 23 ) に記載の遺伝子を含む組換え D N A。
( 2 5 ) ( 23 ) の遺伝子又は ( 24) の組換え D N Aが導入された微生物。
( 26 ) ( 1 ) 〜 ( 1 6) のいずれかの酵素、 若しくはそれを含有する微生物、 又は ( 25 ) に記載の微生物を、 ヌクレオシド並びにリン酸供与体に作用させて ヌクレオシド一 5 ' —リン酸を生成させ、 これを採取することを特徴とするヌク レオシド一 5 ' —リン酸の製造方法。
( 7) 前記酵素、 若しくはそれを含有する微生物、 又は ( 25) の微生物を、 p H 3. 0〜5. 5の条件下でヌクレオシド並びにリン酸供与体に作用させるこ とを特徴とする ( 26 ) の方法。 本発明は、 E B— APの 3次元構造を基に、 ヌクレオシドとの結合様式モデル を構築し、 それに基づき設計した変異型 E B—APを利用したヌクレオシドー 5 ' 一リン酸の生産方法を提供する。
但し、 本発明の変異型ヌクレオシド一 5 ' —リン酸生産酵素には、 G 74 D/ I 1 5 3 T変異 EB— AP、 G 7 2 D/I 1 5 1 T変異 MM—AP、 及び、 1 0 残基置換変異型 E B— APは含まれない。 以下、 本発明を具体的に説明する。
( 1 ) X線結晶構造解析により蛋白質の 3次元構造を決定するには、 蛋白質 を結晶化する必要がある (実施例 1〜3に詳細を示した) 。 蛋白質を結晶化する
ためには、 p H、 バッファーの種類、 バッファーの濃度、 沈殿剤の種類、 沈殿剤 の濃度、 金属等の添加剤の濃度、 蛋白質の濃度、 蛋白質の純度、 等、 数多くのパ ラメ一ターを試行錯誤により決定しなくてはならない。 したがって、 結晶を得る までに数ケ月〜数年の時間がかかるのが通常であり、 多大な労力に反して結晶が 得られないケースも多々ある。 結晶化は、 3次元構造決定のためには欠かせない が、 それ以外にも、 蛋白質の高純度の精製法、 高密度でプロテアーゼ抵抗性の強 い安定な保存法、 更には酵素の固定化利用に先立つプロセスとして産業上の有用 性もある。
( 2 ) 作製した結晶に X線を照射して回折データを収集する。 蛋白質結晶は X線照射によりダメージを受け回折能が劣化するケースが多々ある。 その場合、 結晶を急激に一 1 7 3 °C程度に冷却し、 その状態で回折データを収集する低温測 定が最近普及しつつある。 なお、 冷却に際しては、 結晶が崩壊せず系全体がガラ ス状になるよう溶媒組成を工夫することが必要である。
( 3 ) 結晶構造解析を行うには、 回折データに加えて、 位相情報が必要にな る。
E B— A Pは、 類縁の蛋白質の立体構造が未知であるため、 重原子同型置換法 により位相問題が解決されなくてはならない。 重原子同型置換法は、 水銀や白金 等原子番号が大きな金属原子を結晶に導入し、 金属原子の大きな X線散乱能の X 線回折データへの寄与を利用して位相情報を得る方法である。 野生型 E B— A P の立体構造が決定されれば、 変異型酵素及び反応中間体アナログ等類縁体の結晶 構造は、 それを用いた分子置換法により決定できる。 分子置換法は、 結晶構造を 決定したい蛋白質に類縁の蛋白質の立体構造が既知の場合、 その立体構造を利用 して構造決定を行う手法である。 例えば、 ある蛋白質の野生型の立体構造が分か つていれば、 その変異型蛋白質や化学修飾された蛋白質の結晶構造決定には、 分 子置換法が適用できる。
G 7 4 D / I 1 5 3 T変異型 E B— A Pについては、 2ケ所のアミノ酸置換に よるヌクレオシド親和性向上の分子機構解明のために結晶構造を決定する。
反応中間体アナログについては、 ヌクレオシドとの結合様式モデルを構築する
ために結晶構造を決定する。 ヌクレオシドは、 供与されるリン酸基が共有結合し た状態の E B— AP、 すなわち反応中間体に結合した後、 ヌクレオシトー 5, - リン酸に変換される。 E B— APの反応中間体は不安定なので、 その構造を捉え ることができないが、 リン酸の代りにモリブデン酸が共有結合した反応中間体ァ ナログであれば加水分解されることがないので構造決定可能と考えた。 実施例 4、 6、 7に詳細を示した。
(4) コンピュータ一グラフィ ックス (CG) 上で、 反応中間体アナログの 3次元構造におけるモリブデン酸結合位置を基に、 その付近の窪みにヌクレオシ ドをフィ ッ トさせ、 結合様式モデルを構築する (図 3 ) 。 モデルの構築には、 例 えば MS I社 (アメリカ) の QUANTA, INSIGHT IIの様なプログラムを利用する。 なお、 図 3は、 上記の結合様式モデルの結晶構造を示す写真である。
実施例 5、 8に詳細を示した。
(5 ) 結合モデルを良く観察し、 ヌクレオシドとの親和性を増大させる変異 を設計する。 親和性を向上させるには、 疎水相互作用 ·静電相互作用 ·水素結合 • 7Γ— 7Γ相互作用 (芳香環の環電流が発生する磁場同士の相互作用) · CH/7T 相互作用 (芳香環の環電流とメチル基の電子が発生する磁場の相互作用) を増強 する手段が考えられる。
例えば E B— A Pでは、 S e r 72はヌクレオシドの塩基と最も強く相互作用 すると予測されるため、 P he、 T y r、 T r pへの置換は疎水性相互作用及び 7Γ— 7Γ相互作用を、 Va l、 I l e、 L e uへの置換は疎水性相互作用及び CH/ 7Γ相互作用を、 G l u、 A s pへの置換は静電相互作用及び水素結合を増強する ものと思われる。 また、 他のアミノ酸への置換、 特により長鎖の側鎖を有するァ ミノ酸への置換、 によっても、 疎水性相互作用等が増強される可能性がある。
L e u .1 6、 S e r 7 1、 S e r 73 G l u l 04を P h e、 T y r、 T r pに置換することによつても、 置換されたアミノ酸残基の芳香環とヌクレオシド の塩基との間に 7Γ— 7Γ相互作用が形成されることが期待される。 また、 I l e l 03や Th r 1 5 3をより長鎖の親水性残基に置換することにより、 ヌクレオシ ドのリボースとの水素結合の形成が期待される。 更に、 ヌクレオシド結合部位の
近くに位置し、 蛋白質内部に埋もれている T h r l 5 1を S e r, A l a、 G 1 yといった小さな側鎖を持ったアミノ酸残基に置換すれば、 蛋白質内部に空隙が 生じるために、 ヌクレオシド結合部位の柔軟性が増し、 ヌクレオシドとの結合に より適したコンフオメ一シヨンを取れるのではないかと期待される。 なお、 L e u l 40は、 S e r 72から 1 0 A以上離れているが、 反応中間体アナログの立 体構造において、 リン酸結合部位の直近に位置する。 したがって、 この残基を置 換すれば、 反応中間体におけるリン酸結合部位周辺の構造が変化し、 ひいては、 ヌクレオシド結合部位の構造と揺らぎにも影響が及ぶものと考えられた。 この残 基を、 よりかさ高い P he、 正電荷を有する Ly s、 負電荷を有する G l u、 に 置換すれば、 ヌクレオシドとの親和性が変化するのではないかと期待される。 上記の変異は、 例えば G 74 D/I 1 53 T変異型 E B— A Pに対して導入す る。 しかし、 導入の対象とする変異型酵素は、 G 74 D / I 1 53 T変異型 E B 一 APに限られるものではない。 例えば、 10残基置換変異型 E B— A Pに変異を 導入することも可能である。
実施例 1 0に詳細を示した。
( 6 ) 変異型 E B— APをコードする遺伝子を含むプラスミ ドを作製する。 変異型 E B— APをコードする遺伝子は、 野生型 E B— APをコードする遺伝子 に、 部位特異的変異法によって目的とする変異を導入することによって取得でき る。
変異型 E B— APをコ一ドする遺伝子を含むプラスミ ドをェシヱリヒア · コリ (Escherichia coli) JM109に導入し、 変異型 E B— A Pを生産させる。 変異型 EB— APのイノシンに対する親和性の指標になる Km値、 及びィノシンを 5 ' 一イノシン酸に変換するリ ン酸基転移活性を測定し、 変異型 E B— APの性能を 評価する。 ヌクレオシド一 5, 一リン酸の生産量は、 多分に Km値に依存すると 考えられる。 ピロリン酸が EB— APと反応し、 リン酸イオンが離脱し、 リン酸 基が E B— APと共有結合した形の反応中間体が形成された後、 水分子がこれを 攻撃すれば、 リン酸基が外れてしまう (ホスファタ一ゼ反応) 。 ピロリン酸は、 ヌクレオシド一 5 ' —リン酸を生成せずに無駄に消費されたことになる。 一方、
ヌクレオシドが反応中間体を攻撃すれば、 リン酸基はヌクレオシドとホスホモノ エステル結合を形成し、 生成したヌクレオシド _ 5, 一リン酸が E B— A Pから 離脱する (リン酸基転移反応) 。 ピロリン酸はヌクレオシド一 5, 一リン酸生成 に活用されたことになる。 つまり、 反応中間体を水とヌクレオシドが取り合い水 が勝てばホスファタ一ゼ活性が、 ヌクレオシドが勝てばリン酸基転移活性が、 発 揮されることになる。 ヌクレオシドの E B— A Pに対する親和性が上昇すれば、 すなわち、 K m値が低下すれば、 リン酸基転移反応が行われる可能性が高くなる。 また、 リン酸結合部位付近の疎水性を高め、 水が近づきにく くなれば、 ホスファ 夕ーゼ活性が弱まり、 リン酸基転移活性が相対的に強まることになる。 このよう に、 本発明において 「ヌクレオシドー 5 ' —リン酸生産能が向上した」 とは、 変 異型産生ホスファ夕ーゼのリン酸基転移活性が向上することであつてもよく、 ホ スファ夕ーゼ活性が弱まること (W096/37603参照) であってもよく、 また、 その 両方であってもよい。
実施例 1 1に詳細を示した。
( 7 ) K m値が低下し、 かつリン酸基転移活性が上昇した変異型 E B— A P 遺伝子を含むプラスミ ドを導入したェシェリヒア · コリ J M 1 0 9を用いて、 ィ ノシンから 5 ' —イノシン酸を生産する実験を行う。 3 0 °Cで 4 5時間反応を行 い 5, 一イノシン酸生産量の経時変化をモニタ一する。 実施例 1 3に詳細を示し た。
K mを低下させる変異箇所が見いだされたら、 複数の残基を組み合わせること によってさらにヌクレオシドに対する親和性が向上し、 生産性の高くなつた変異 型酵素を作製することができる。 累加的に部位特異的変異を繰り返すことで複数 の変異部位を導入することができる。 また部位特異的変異の導入の際に、 変異を 導入するアミノ酸残基をコードする塩基の部分がミックス塩基となったプライマ 一を用いると特定のアミノ酸残基がすべてのアミノ酸に置換された変異型遺伝子 のライブラリ一を作製することができる。 複数の部位にミ ヅクス塩基のプライマ 一を用いて変異を導入すると非常に多種類の変異型酵素をコードする変異型遺伝 子のライブラリーを作製することができる。 このようにして構築した遺伝子のラ
ィブラリーをェシエリヒア ' コリに導入し、 発現させたライブラリーから高活性 のアミノ酸置換が組み合わされた変異体を選び出す方法も有効である。
EB— AP以外でも、 E B— APと同様の活性部位及びヌクレオシドが結合し うるスペースを持つ酵素であれば、 ヌクレオシドー 5, 一リン酸の生産に利用で きるポテンシャルがある。 活性部位は、 活性に必須なアミノ酸残基を有し、 かつ、 それらが適切な空間的位置関係で配置されていなくてはならない。 E B— APに おいては、 Lys 1 1 5 , Arg 1 22 , His 1 5 0 , Arg 1 83 , His 1 89が活性に 必須であり、 これら 5残基の C a間距離によって空間的位置関係を規定すること が可能である。 本発明においては、 野生型、 G 74 D/ I 1 5 3 T変異型、 反応 中間体アナログの 3つの EB— AP結晶構造を決定したので、 それそれの構造に おける活性残基の Cひ原子間距離を測り、 表 1を作成した。 表 1の各々の距離分 布が約 1 Aの幅を持つことから、 最短距離より 1 A短い距離 (表 1、 下限) 以上、 最長距離より 1 A長い距離 (表 1、 上限) 以下であれば、 求められる活性部位を 形成できるものと考えた。 図 1に、 5つの残基の位置関係を上限、 下限の Cひ間 距離と共に示した。
なお、 E B— APの類縁酵素である MM— APにおいて、 活性残基間のすべて の原子間距離が、 E B— APの立体構造から規定した範囲におさまつていること が確認されたことを実施例 8に示した。 本実施例では、 野生型ではなく、 G 7 2 D/I 1 5 1 T変異型の例を示したが、 同じ酵素の野生型と変異型で、 活性部位 の立体構造に大きな違いはないと考えられる。 この推測は、 EB— APの野生型 と G 74 D/I 1 5 3 T変異型の活性部位の構造が基本的に同じであることによ り支持される (表 1参照) 。
表 1
ヌクレオシドをリン酸化して、 ヌクレオシドー 5, 一リン酸に変換するには、 上記の 5残基から成る活性部位だけでは不充分で、 ヌクレオシドが適切な位置に 結合できなくてはならない。 E B— APの場合は、 リン酸基の結合部位付近に、 ヌクレオシドが結合するのに適した溝状のスペースが分子表面に存在する 〔 (図 3) : 添付した原子座標を示す図 1 0〜図 4 5を用いて、 コンピュータグラフィ ヅクス (CG) 上で表示できる。 〕 。 この溝は、 Leul 6、 Ser 72、 Glu 1 04、 His 1 89の 4残基によって囲まれるスペースとして規定される。 活性部位を有 していても、 ヌクレオシドが結合する適切なスペースがない酵素は、 ヌクレオシ ドー 5 ' —リン酸生産酵素としては不適である。
本発明の変異型ヌクレオシドー 5, —リン酸生産酵素は、 Lys 1 1 5 , Arg 1 2 2 , His 1 5 0, Arg 1 83 , His 1 8 9の 5残基の Cひ間距離が図 1に示す範囲 内にあるリン酸基転移活性及び/又はホスファターゼ活性を有する酵素を改変す ることによって得ることができるものであるが、 前記 5残基付近にヌクレオシド が結合するスペースを有し、 リン酸基転移活性を有する限り、 前記 5残基の Cひ 間距離は図 1に示す範囲内になくてもよい。 しかし、 得られる変異型酸性ホスフ ァ夕ーゼも、 前記 5残基の Cひ間距離は図 1に示す範囲内にあることが好ましい。 また、 本発明は、 Ser7 2の他のアミノ酸への置換、 好ましくは P h e、 T y r、 T rp、 Va l、 L e u、 G l u. A s p, G l n、 Me t、 T h r、 A r
g、 L y sのいずれか一つのアミノ酸への置換、 を施した変異型 E B— AP、 更 に、 それに加えて、 ヌクレオシド一 5 ' —リン酸生産能を向上させることが既に 公表されている G 74 Dと I 1 53 Tの 2変異を施した変異型 E B— A P (以降、 3残基置換変異型 EB— APと記述) を提供する。 更に、 S e r 72から 1 0 A 以内にある残基 (残基番号 : 1 6、 70 - 7 1 , 73— 76、 1 00、 1 02 - 1 04、 1 06— 1 08、 1 1 5、 1 48— 1 54、 1 83 ) はヌクレオシドと 相互作用する可能性が非常に高く、 これらアミノ酸残基の他のアミノ酸への置換 を施した変異型 E B— APを提供する。 ここで置換とは、 人為的にアミノ酸残基 を置換した場合のみならず、 自然界において置換が生じた E B— APと同じ酵素 フアミリーに属する他の酸性ホスファターゼを選抜することも包含する。 ただし、 本発明は、 上記のアミノ酸残基以外の変異点を含む変異型 EB— APも提供でき るものとする。
また、 EB— APと同じ酵素ファミリーに属する他の酸性ホスファターゼにお いても、 E B—APにおけるアミノ酸変異と相同のアミノ酸変異を施せば、 ヌク レオシド一 5 ' —リン酸の製造に利用することが可能である。 そのような酸性ホ スファ夕一ゼとしては、 ェシェリヒア ' ブラッ夕ェ以外のェシェリヒア属細菌、 モルガネラ ·モルガ二以外のモルガネラ属細菌、 プロビデンシァ · スチユアルテ ィ (Providencia stuartii) 等のプロビデンシァ属細菌、 ェンテロパクター属細 菌、 又はクレブシエラ ' プランティコーラ (Klebsiella planticola) 等のクレ ブジエラ属細菌等に由来する酵素が挙げられる。 ただし、 EB— APのアミノ酸 残基が、 他の酸性ホスファターゼにおいて同じ番号のアミノ酸残基に対応すると は限らない。 例えば、 E B— APの Ser7 2は、 MM— A Pにおいては Ala70に 対応する。 2つの異なった蛋白質のアミノ酸残基の対応付けは、 両者のアミノ酸 配列の相同性が 20 %程度以上であればァミノ酸配列同士のァラインメント (Se quence Alignment) 、 20 %程度以下であれば 3次元構造とアミノ酸配列のァラ インメント (Threading) により判明する。 前者は BLAST等、 後者は INSIGHT II等 のプログラムにより実行が可能である。
BLASTを用いた、 E B— APと、 ェンテロバクタ一 . ァエロゲネス (Enterobac ter aerogenes) 由来野生型酸性ホスファターゼ (野生型 EA— AP) のァミノ
酸配列ァラインメントを実施例 20に示した (図 9参照) 。 尚、 EB— AP、 M M_AP、 サルモネラ ' チフィムリウム、 ザィモモナス ' モビリス由来酸性ホス ファタ一ゼのアミノ酸配列とのァラインメントは、 図 2に示したとおりである。 EB— AP、 MM— AP、 サルモネラ *チフィムリウム、 ザィモモナス ·モビリ ス由来酸性ホスファターゼ、 及び EA— APをコ一ドする遺伝子及びこれらの酵 素のアミノ酸配列を、 配列番号 1〜 1 0に示す。 尚、 これらの配列のうち、 EA 一 APは 1 0残基置換変異型であり、 他は野生型である。 また、 EA— APはシ グナルペプチドを含むプロタンパク質として示してある。 その他、 プロビデンシ ァ ,スチユアルティ (GenBank accession X64820) 及びクレブシエラ · プランテ ィコーラ (GenBank accession E16588) 由来の酸性ホスファタ一ゼのアミノ酸配 列及びそれをコードする遺伝子の塩基配列は公知である。
酸性ホスファターゼが、 シグナルべプチドを有する前駆体タンパク質として産 生され、 その後シグナルぺプチドが除去されて成熟タンパク質にプロセスされる 場合には、 ァラインメントは成熟タンパク質のアミノ酸配列に対して行う。
BLASTは、 FTPを使って、 ncbi.nlm.nih.govより/ blast/executableに存在する ファイルのうち、 使用するコンピューターに則したファイルを入手すればよい。 操作法(こつレヽて ίま、 http: //genome. nhgri .nih.gov/blastall/blast install【こ 詳細が記述されている。
ヌクレオシド一 5 ' —リン酸生産能向上は、 ヌクレオシドとの親和性向上によ り達成されるケースが多いが、 それ以外にも、 反応速度の向上、 至適 pHのシフ ト、 熱安定性の向上、 等によっても達成されうる。 至適 pHのシフ トは、 活性残 基の pKを変えることで達成できる(Protein Engng., 11, 383-388 (1998))。 熱 安定性の向上は、 プロリン残基の導入、 左巻きへリ ックス構造を取る残基のグリ シン残基への置換(Protein Engng., 6, 85-91 ( 1993))、 蛋白質内部の空隙を埋 めること(Biochemistry, 32, 6171-6178 (1993))等により達成可能である。
また、 本発明の変異型ヌクレオシドー 5 ' —リン酸生産酵素は、 前記変異に加 えて、 ヌクレオシドー 5 ' —リン酸生産能を害さない限り、 他のアミノ酸残基の 変異を有していてもよい。 そのような変異としては、 例えば、 温度安定性が向上 する変異が挙げられる (特開平 10-201481号参照) 。 尚、 単一の変異が、 ヌクレ
オシド— 5 ' —リン酸生産能の向上と、 温度安定性の向上等、 他の作用を示す場 合があるが、 いずれであっても、 結果としてヌクレオシド一 5, 一リン酸生産能 が向上していれば、 本発明の変異型ヌクレオシドー 5 ' —リン酸生産酵素に含ま れる。
例えば、 E B— A Pの Ser 7 2、 又は Ser 7 2に相当するアミノ酸残基から 1 0 A以内にない残基であっても、 そのような残基を他の残基に置換することによつ て、 ヌクレオシド一 5 ' —リン酸生産能を向上させることができる。 このような ァミノ酸残基としては、 例えば E B— A Pでは、 L e u 1 4 0が、 E A— A Pで は L e u 1 3 8が挙げられる。
以上詳細に説明したように、 該立体構造はヌクレオシドの親和性が向上し、 ヌ クレオシド一 5 '—リン酸生産能の向上した変異体を作製するために有効である が、 該立体構造は酵素のヌクレオシドに対する親和性のみならず、 リン酸供与体 との親和性を変化させるのにも有効である。 特開平 9一 3 7 7 8 5に記載されて いるように該酵素はポリ燐酸 (塩) 、 フヱニル憐酸 (塩) 、 ァセチルリン酸 (塩) 及び力ルバミル燐酸 (塩) 等各種リン酸エステル化合物をリン酸供与体として利 用することが可能であるが、 ヌクレオシドとの親和性を増大させる変異を設計し たのと同様の方法にて、 リン酸エステル化合物との親和性を増大させる変異を設 計することで、 リン酸供与体の基質特異性を広げたり、 リン酸の利用率を向上さ せることが可能である。 図面の簡単な説明 図 1は、 ホスファタ一ゼ活性あるいはリン酸基転移活性を有する活性部位の構 成要素となる 5つのアミノ酸残基と、 これらの空間的位置関係を Cひ原子間の距 離として示した図である。
図 2は、 E B— A Pのアミノ酸配列を、 モルガネラ ' モルガ二、 サルモネラ ' チフィムリウム、 ザィモモナス . モビリス由来酸性ホスファターゼのアミノ酸配 列とアラインメントした図である。
図 3は、 E B— A P反応中間体アナログとイノシンの結合様式モデルの結晶構
造を示すコンピューターグラフィ ックス (CG) の写真である。
図 4は、 E B— APの 6量体分子の結晶構造を示す CGの写真である。
図 5は、 EB— APのサブュニッ 卜の結晶構造を示す C Gの写真である。
図 6は、 EB— APの活性部位構造を示す図である。
図 7は、 部位特異的突然変異誘発法に使用したプライマーセッ トを示す図であ る。
図 8は、 部位特異的突然変異誘発法に使用したプライマ一セッ トを示す図であ る。
図 9は、 EB— APとェンテロバクタ一 · ァエロゲネス由来野生型酸性ホスフ ァ夕ーゼ (野生型 EA— AP) のアミノ酸配列アラインメントをプログラム BLAS Tにより行った結果を示す図である。
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図 1 3は、 E B一 A Pの構造の結晶学 夕 ( 4 ) を ττ:す図である。
図 1 4は、 E B一 APの構造の結晶学デー夕 ( 5 ) を示す図である。
図 1 5は、 E B一 A Pの構造の結晶学デー夕 ( 6 ) を示す図である。
図 1 6は、 E B一 A Pの構造の結晶学デー夕 ( 7 ) を示す図である。
図 1 7は、 E B一 APの構造の結晶学デー夕 ( 8 ) を示す図である。
図 1 8は、 E B一 A Pの構造の結晶学デー夕 ( 9 ) を示す図である。
図 1 9は、 E B一 A Pの構造の結晶学デー夕 ( 1 0 ) を示す図である。
図 20は、 E B一 A Pの構造の結晶学デー夕 ( 1 1 ) を示す図である。
図 2 1は、 E B一 A Pの構造の結晶学デー夕 ( 1 2 ) を示す図である。
図 22は、 E B一 APの構造の結晶学デー夕 ( 1 3 ) を示す図である。
図 23は、 E B一 APの構造の結晶学デ一夕 ( 1 4 ) を示す図である。
図 24は、 E B一 APの構造の結晶学デー夕 ( 1 5 ) を示す図である。
図 25は、 E B一 APの構造の結晶学デー夕 ( 1 6 ) を示す図である。
図 26は、 E B一 APの構造の結晶学デー夕 ( 1 7 ) を示す図である。
図 27は、 E B一 A Pの構造の結晶学デー夕 ( 1 8 ) を示す図である。
図 28は、 E B一 A Pの構造の結晶学デー夕 ( 1 9 ) 示す図である。
図 29は、 E B - A Pの構造の結晶学デー夕 ( 2 0 ) を示す図である。
図 3 0は、 E B - A Ρの構造の結晶学デー夕 ( 2 1 ) 示す図で る。
図 3 1は、 E B - A Pの構造の結晶 デー夕 ( 2 2 ) を示す図である。
図 3 2は、 E B - A Pの構造の結晶学デー夕 ( 2 3 ) を示す図である。
図 33は、 E B一 A Pの構造の結晶学デー ( 24) 示す図であ ¾ n 図 34は、 E B - A Pの構造の結晶学デー夕 ( 2 5 ) 示す図である r
闵 3リ 5リは E B — A Pの構造の結晶学デー Af ( 2 6 ) 示す図で'ある。
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1 137け 一 A Pの J攝浩の結口晶曰曰 デノ 一タノ ( 2 8 ) : ¾ナ [¾lであ
38け F R — ΑΡの 1+9- Ε3.の結曰曰 ^f^デノ 一タ ( 2 9 ) ¾す I Iでお
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図 42は、 E B ― A Pの構造の結晶学ァー夕 ( 3 3 ) を示す図である。
図 4 3は、 E B —APの構造の結晶学デー夕 ( 3 4 ) を示す図である。
図 44は、 E B — A Pの構造の結晶学デー夕 ( 3 5 ) を示す図である。
図 45は、 E B —APの構造の結晶学デー夕 ( 3 6 ) を示す図である。 発明を実施するための最良の形態 以下、 本発明を実施例により更に具体的に説明するが、 本発明はこれらの実施 例に限定されない。 実施例 1 野生型 E B-APの結晶化 ハンギングド口ップ法での蒸気拡散を利用して結晶化を行った。 野生型 E B - AP (濃度 1 0 mg/m 1 ) を含むリン酸ナト リウムの 20 mM緩衝液(p H 8. 0 )と、 45 (w/v%) のポリエチレングリコール 40 0を含むト リス塩酸の 1 00 mM緩衝液を同量ずつ (各々 7 1 0〃 1 ) 、 シリコナイゼイシヨンした カバーグラス上に滴下混合し、 45 (w/v%) のポリエチレングリコール 40
0を含むトリス塩酸の 1 00 mM緩衝液 500〃 1を満たしたゥエル (well) の 上に混合液滴が釣り下がるようにかぶせ、 2 0°Cにて静置した。 2、 3日後に結 晶が析出し、 1週間から 2週間後には測定可能な大きさ ( 0. 3 X 0. 3 X 1. 2mm程度) の六角柱状の結晶に成長した。 X線データ測定の際には、 50 (w /v%) のポリェチレングリコール 400を含むトリス塩酸の 1 00 mM緩衝液 (pH 8. 0 )に結晶を移した。
この結晶は、 取扱い上、 次の点に留意する必要があった。 1 ) 液滴 (ドロップ レッ ト) から、 結晶を取り出す際に容器や用具に接触することで結晶が非常に崩 れやすいため、 シッティングドロップ法の結晶化形態は用いることが出来ず (結 晶は成長するが) 、 ここで述べたハンギングドロップ法を用いた。 2 ) 常温測定 では、 測定中に結晶が劣化し、 徐々に分解能が下がるため、 低温条件下での測定 が必要であった。 結晶をステージにマウントするまでの時間を極力短く し、 空気 にさらさないように工夫した。
(株) リガクの X線回折装置 R- AXIS lieを用いて、 X線回折デ一夕を収集し、 結晶学的パラメ一夕一を決定した。 空間群は P 632 2、 格子定数は、 a = b = 1 24. 4 A、 c = 97. 7 Aとなった。 非対称単位に分子量 2 50 0 0のサブ ュニッ トを一つ含むと仮定すると、 結晶の水分含有率は 72 %となる。 実施例 2 G 74 D/I 1 5 3 T変異型 EB- APの結晶化 ハンギングドロップ法での蒸気拡散を利用して結晶化を行った。 G 74 D/I 1 53 T変異型酵素 (濃度 2 Omg/ml) を含むトリス塩酸の 2 OmM緩衝液 (p H 8. 0 )と、 38 (w/v%) のポリエチレングリコール 400を含むトリ ス塩酸の 2 OmM緩衝液を同量ずつ (各々 5〃 1 ) 、 シリコナイゼイシヨンした カバ一グラス上に滴下混合し、 38 (w/v%) のポリエチレングリコール 4 0 0を含むト リス塩酸の 20 mM緩衝液 500〃 1を満たしたゥエルの上に混合液 滴が釣り下がるようにかぶせ、 20°Cにて静置した。 2、 3日後に結晶が析出し、 1週間後には測定可能な大きさ ( 0. 7 x 0. 4 x 0. 2mm程度) の板状結晶 に成長した。 X線デ一夕測定の際には、 50 (w/v%) のポリエチレングリコ ール 4 00を含むトリス塩酸の 1 0 0 mM緩衝液(p H 8. 0 )に結晶を移した。
(株)リガクの X線回折装置 R-AXIS lieを用いて、 X線回折デ一夕を収集し、 結 晶学的パラメーターを決定した。 空間群は p 212.2 u 格子定数は a = 1 38. 0 A、 b= 1 68. 3 A、 c = 58. 2 Aとなった。 非対称単位に分子量 1 5 0 000の 6量体分子を一つ含むと仮定すると、 結晶の水分含有率は 64%どなる。 実施例 3 野生型 E B-APとモリブデン酸との複合体 (反応中間体アナログ) の結晶化 シッティングドロップ法での蒸気拡散を利用した共結晶化法を用いて結晶化を 行った。 野生型 EB- AP (濃度 1 O mg/m l ) を含むリン酸ナトリウムの 2 OmM緩衝液(pH 8. 0 )と、 40 ( w/v %) のポリエチレングリコール 40 0、 及び 1 mMのモリブデン酸ナ卜リゥムを含むト リス塩酸の 1 00 mM緩衝液 を同量ずつ (各々 1 5〃1) を、 40 (w/v%) のポリエチレングリコール 4 00を含むトリス塩酸の 1 00 mM緩衝液(p H 8. 0 ) 5 00 / 1を満たしたゥ エルに設置したブリ ッジの窪みに滴下混合し、 2 0°Cにて静置した。 2〜3日後 に結晶が析出し、 1週間から 2週間後には測定可能な大きさ ( 0. 3 X 0. 3 X 0. 3匪程度) の菱餅状の結晶に成長した。 X線デ一夕測定の際には、 50 (w /v%) のポリエチレングリコール 400を含むトリス塩酸の 1 00 mM緩衝液 (pH 8. 0 )に結晶を移した。
(株)リガクの X線回折装置 R-AXIS lieを用いて、 X線回折データを収集し、 結 晶学的パラメ一夕一を決定した。 空間群は p 3! 2 U 格子定数は a二 b = 86. 6 A、 c= 205. 3 Aとなった。 非対称単位に分子量 25000のサブュニヅ トを 3つ含むと仮定すると、 結晶の水分含有率は 58 %となる。 実施例 4 野牛型 E B - A Pの結晶構造解析 最高 1. 9 A分解能データまでの X線回折データを測定した。 結晶は、 常温に おいては、 X線の照射によるダメージが激しかったので、 一 1 73°Cに急速冷却 して測定を行った。 重金属塩類の溶液中に結晶を浸すことにより、 重原子誘導体 のスクリーニングを行った。 重原子誘導体結晶の回折データはリガク R-AXIS lie を用いて得た。 ネイティブデータとの差フーリエ図より、 K2P t C l 4が良好な
重原子同型結晶を与えることを見出した。 プログラム R S P Sを用いることによ り、 K2P t C 14の唯一のプラチナ結合部位の座標を求めた。 この座標をプログ ラム MLPHAREにより精密化し、 それから計算される位相を求めた。 この位相を用 い、 2つ目の重原子誘導体 KH g I 4— K Iの 5力所の水銀結合部位を求めた。 K2P t C l 4、 KH g I -K I両方の重原子パラメ一夕一を MLPHAREを用いて同 時に精密化した後、 プログラム DMを用いて、 溶媒平滑化とヒス トグラムマッチ ングを行い、 位相を改良した。 ちなみに、 K2P t C 14については異常分散デー 夕も使用した。 この良好な位相を用いて計算した電子密度マップは非常に鮮明で、 ほとんどのアミノ酸残基をきれいにフィ ヅ トすることができた。
最初のモデルは、 2. 8 A分解能で作成した電子密度マップ上でプログラム QU ANTAを用いて構築し、 プログラム X-P LO Rを用いて構造精密化を行った。 N 末の 6残基、 1 35— 1 36番目の残基、 C末の 1残基は電子密度が観測されず、 構造を一義的に決定できなかった。 1. 9 A分解能で精密化された最終モデル (図 4〜図 6) は、 全 23 1残基中 222残基、 136個の水分子、 1分子の硫 酸イオンを含む。 硫酸イオンは、 精製過程で用いた硫酸アンモニゥムに由来して おり、 活性中心のリン酸結合部位に一致するものと考えられる。 8〜 1. 9 A分 解能の反射を用いた結晶学的信頼度因子 (R因子) は 2 1. 5 %となった。 平均 の温度因子は、 蛋白質原子について 2 6 A2、 水分子について 45 A2となった。 プログラム PR0CHECKを用いてラマチャンドランプロッ トを作成したところ、 グリ シン以外の残基の 9 3 %が最も好ましい領域に、 7 %が次に好ましい領域に位置 することが示された。 非対称単位にはサブユニッ ト 1個が含まれ、 結晶学的対称 性によって 6量体が形成される。 原子座標は図 1 0〜図 45に示した。
なお、 図 4は、 E B_ APの 6量体分子の結晶構造を示す CG写真である。 ひ 炭素原子の流れをリボンモデルで表示した。 また、 活性中心をマークする硫酸ィ オンをボールモデルで表示した。
図 5は、 EB— APのサブユニッ トの結晶構造を示す CG写真である。 ひ炭素 原子の流れをリボンモデルで表示した。 また、 活性中心をマークする硫酸イオン をボールモデルで表示した。
図 6は、 E B— APの活性部位構造を示す図である。 中央に硫酸イオンを示し
た。 また、 水素結合を点線で示した。
図 1 0は、 E B— APの構造の結晶学データ ( 1 ) 示す図ァ'ある。 図 1 1は、 EB— APの構造の結晶学データ ( 2 ) *示す である。 図 1 2は、 E B— APの構造の結晶学データ ( 3 ) *示す図である。 図 1 3は、 E B— APの構造の結晶学データ ( 4 ) *示す図である。 図 1 4は、 EB— A Pの構造の結晶学データ ( 5 ) *·示す図 ある。 o 図 1 5は、 E B— APの構造の結晶学データ ( 6 ) を示す図である 図 1 6は、 E B_ APの構造の結晶学データ ( 7 ) / を示す図である。 図 1 7は、 E B— APの構造の結晶学データ ( 8 示す図で^)る。 図 18は、 E B— A Pの構造の結晶学データ ( 9 )
図 1 9は、 E B— APの構造の結晶学データ ( 1 0 ) ; ¾す! ¾であ 図 20は、 E B— A Pの構造の結晶学データ ( 1 1 ) す 1^1であろ Λ 図 2 1は、 E B— A Pの構造の結晶学データ ( 1 2 ) す 1^1であろ 図 22は、 E B— A Pの構造の結晶学データ ( 1 ) : ^示す |¾であ 図 23は、 E B_ APの構造の結晶学データ ( 1 4 ) C_示す図である n 図 24は、 E B— A Pの構造の結晶学データ ( 1 5 ) ^示す図である。 図 25は、 E B— A Pの構造の結晶学デ一夕 ( 1 6 ) を示す図である。 図 26は、 E B— APの構造の結晶学デ一夕 ( 1 7 ) を示す図である。 図 27は、 E B— A Pの構造の結晶学デ一夕 ( 1 8 ) 示す図"?"5ある。 図 28は、 E B— A Pの構造の結晶学データ ( 1 9 ) を示す図である。 図 29は、 E B_ APの構造の結晶学データ ( 2 0 ) を示す図である。 図 30は、 E B— APの構造の結晶学データ ( 2 1 ) を示す図である。 図 3 1は、 E B— APの構造の結晶学データ ( 2 2 ) を示す図である。 図 32は、 E B— APの構造の結晶学データ ( 2 3 ) を示す図である。 図 33は、 E B— APの構造の結晶学データ ( 24 ) を τρ:す凶でめる。 図 34は、 EB— APの構造の結晶学データ ( 2 5 ) を示す図である。 図 35は、 E B— APの構造の結晶学データ ( 2 6 ) を示す図である。 図 36は、 EB— APの構造の結晶学データ ( 2 7 ) を示す図である。 図 37は、 EB— APの構造の結晶学データ ( 2 8 ) を示す図である。
図 38は、 E B A Pの構造の結晶学データ ( 2 9 を示す図である。
図 3 9は、 E B A Pの構造の結晶学データ ( 3 0 を示す図である。
図 40は、 E B APの構造の結晶学データ ( 3 1 を示す図である。
図 4 1は、 E B APの構造の結晶学データ ( 3 2 を示す図である。
図 42は、 E B APの構造の結晶学データ ( 3 3 を示す図である。
図 43は、 E B A Pの構造の結晶学データ ( 34 を示す図である。
図 44は、 E B APの構造の結晶学データ ( 3 5 を示す図である。
図 45は、 E B APの構造の結晶学データ ( 3 6 を示す図である。 実施例 5 野生型 E B— APと 5'-イノシン酸の結合様式モデルの推測 イノシンの E B— APに対する Km値は 1 00 mMを超えることから、 結合様 式を X線結晶構造解析で決定できるほど親和性が高くない。 実際に、 グルコース — 6—サルフェートやアデノシンーチォモノホスフェートといった EB— APの 阻害剤となる化合物を野生型 E B— A Pの結晶にソーキングした後、 X線回折デ 一夕を収集し、 電子密度マップを作成したが、 これら化合物に対応する電子密度 は観測されなかった。 そこで、 コンピュータグラフィ ックスを用いて、 5 ' —ィ ノシン酸と E B— APの結合様式の推測 (いわゆる、 ドッキングスタディ) を行 うこととした。 プログラムは QUANTAを用いた。 結晶構造中、 活性部位中央に硫酸 イオンが見出されたので、 ここに、 5,一イノシン酸のリン酸基を重ね合せた。 更に、 G 74 D及び I 1 5 3 Tの変異が 5,一イノシン酸の E B— APに対する Km値を低下させることが知られていたので、 5, 一イノシン酸は G 74及び I 1 5 3から遠くないところに結合すると判断し、 5,一イノシン酸の位置を決め た。 その際、 5'—イノシン酸を構成する原子と E B— APを構成する原子がお 互いにぶつからないようにした。 こうして構築したモデルにおいて、 I I 5 3が Tになると、 置換されたスレオニンの側鎖のァ酸素原子とィノシンのリボースの 2 ' 水酸基が水素結合を形成する。 また、 プログラム GRASPを用いて EB— A P の静電ポテンシャル表示をしたところ、 正電荷を帯びるイノシン塩基は、 EB— AP分子表面で負電荷を帯びている領域と相互作用しており、 モデルがもっとも らしいことが示唆された。
実施例 6 G 74D/I 1 53 T変異型 E B— A Pの結晶構造解析
G 74 D/I 1 53 T変異型 EB— APは、 ホスファターゼ活性に対するリン 酸基転移活性の比率が高まっており、 それに伴い、 ヌクレオシドー 5'—リン酸 の生産能力も向上している。 これは、 ヌクレオシドとの Km値が低下したこと、 すなわち、 ヌクレオシドとの親和性が向上したことが原因として考えられている。 この変異型 E B— APの結晶構造を決定し、 野生型 E B— APの結晶構造と比較 すれば、 ヌクレオシドとの親和性向上の分子機構が解明されることを期待した。 常温で、 最高 2. 4 A分解能データまでの X線回折データを測定した。 単位格 子の体積、 空間群、 酵素の分子量から見積もって、 非対称単位には 6量体の分子 1つが含まれることが予想された。 そこで、 野生型 E B— APの 6量体構造を探 索モデルとして、 プログラム amoreを用いて分子置換法により解析を行った。 rot at ion search (こおレ、て(ま 1 0〜 3 A分解會 のデ一夕を、 translation searchiこお いては 1 0〜4 A分解能のデ一夕を用いた。 両サーチともに、 正解がトツプピ一 クとして現れた。 分子を剛体として精密化を行ったところ、 R因子は 3 7. 3 % に低下した。 この後、 QUANTAを用いたグラフィ ックス上での構造修正と X-PL0Rを 用いた構造精密化を繰り返し行い、 1 0〜2. 4A分解能において、 R因子 1 9. 9 %のモデルを得た。
実施例 5と同様の方法で、 5,-イノシン酸と G 74 D / I 1 5 3 T変異型 E B _APの結合モデルを作成したところ、 置換された Thrl 5 3の側鎖のァ酸素原 子は、 イノシンのリボースの水酸基と水素結合を形成することが予想された。 ま た、 もう一つ置換が施された Asp7 4を含むループの揺らぎが、 野生型に比べ G 74 D/I 1 5 3 T変異型 E B— A Pの方が大きくなつていることが、 温度因子 を比較することにより分かった。 このループはイノシンの塩基と相互作用するこ とが予想されるが、 揺らぎが大きくなったことにより塩基との結合がしゃすくな つた可能性が示唆される。
実施例 7 野生型 E B— A Pとモリブデン酸との複合体 (反応中間体アナログ) の結晶構造解析
E B— A Pの酵素反応において、 まず初めに、 リン酸モノエステル結合が切断 され、 リン酸基は活性残基の His l 8 9と共有結合を形成する。 この状態の酵素 分子を反応中間体と呼ぶ。 反応中間体は速やかに、 水あるいはアルコールによる アタックを受け、 その結果、 リン酸イオンが離脱する。 水がアタックすればホス ファターゼ活性が発揮されることとなり、 また、 アルコールがアタックすればリ ン酸基転移活性が発揮されることになる。 いずれにしても、 反応中間体は不安定 であり、 その構造を X線結晶構造解析により決定することは不可能である。 しか し、 リン酸の代わりにモリブデン酸が His l 8 9に共有結合したもの (反応中間 体アナログ) は、 水によるアタックを受けないので安定に存在する。
リン酸基転移反応においては、 反応中間体にリン酸受容体が結合し、 リン酸モ ノエステル結合が形成される。 したがって、 ヌクレオシドとの結合様式を推定す る目的においては、 遊離型構造よりも、 反応中間体構造を用いる方が適切である。 反応中間体とヌクレオシドとのドッキングスタディを行う目的で、 反応中間体ァ ナログの結晶構造解析を行った。
常温にて、 最高 2 . 4 A分解能デ一夕までの X線回折データを測定した。 単位 格子の体積、 空間群、 酵素の分子量から見積もって、 非対称単位には 6量体の半 分、 すなわち、 サブユニッ ト 3つが含まれることが予想された。 そこで、 3回軸 によってお互いが関係づけられる 3量体構造を作製し、 分子置換法の探索モデル とした。 rotation searchにおいては 1 0〜 3 A分解能のデ一夕を、 translation searchにおいては 1 0〜 4 A分解能のデータを用いた。 両サーチともに、 正解 がトップピークとして現れた。 分子を剛体として精密化を行ったところ、 R因子 は 4 2 . 4 %に低下した。 この後、 QUANTAを用いたグラフィ ックス上での構造修 正と X—P L 0 Rを用いた構造精密化を繰り返し行い、 8〜 2 . 4 A分解能にお いて、 R因子 2 2 . 3 %のモデルを得た。 非対称単位には 6量体の分子半分、 つ まりサブュニッ ト 3つが含まれる。
実施例 8 モルガネラ · モルガ二(Morganella morganii)由来酸性ホスファタ一 ゼ (MM— AP) 由来 G 72 D/I 1 5 1 T変異型酵素の結晶化及び結晶構造解 近 ハンギングド口ップ法での蒸気拡散を利用して MM— APの G72D/I151T二重変 異体の結晶化を行った。 当該蛋白質溶液 (濃度 40mg/nil) と、 25 (w/v¾) のポリ エチレングリコール 1 000、 25mM 硫安、 25mM DTTを含む 125mM クェン酸緩衝 液 (pH4.8)を同量ずつ (各々 5//1 ) 、 シリコナイゼイシヨンしたカバ一グラス 上に滴下混合し、 25 (w/v%) のポリエチレングリコ一ル 1 000、 25mM硫安、 2 5mM DTTを含む 125mM クェン酸緩衝液 (pH4.8)500〃 1を満たした wellの上に混合 液滴が釣り下がるようにかぶせ、 20°Cにて静置した。 2、 3日後に結晶が析出し、
1週間後には測定可能な大きさ (0.4x0.4x0.3mm程度) に成長した。
(株)リガクの X線回折装置 R- AXIS lieを用いて、 X線回折データを収集し、 結 晶学的パラメーターを決定した。 空間群は !^!2 !、 格子定数は a=90.64A、 b=ll 9.74A、 c=136.14Aとなった。 筑波 ·高エネルギー研究所シンクロ トロン放射光 施設 BL- 6B上、 100Kで、 2.6A分解能データまでの回折データを測定した。
単位格子の体積、 空間群、 酵素の分子量から見積もって、 非対称単位には 6量 体の分子 1つが含まれることが予想された。 そこで、 野生型 E B— APの 6量体 構造を探索モデルとして、 プログラム amoreを用いて分子置換法により解析を行 つた。 rotation searchにおいては 1 0〜 3 A分解能のデータを、 translation s earchにおいては 1 0〜 4 A分解能のデータを用いた。 両サーチともに、 正解が トツプピークとして現れた。 分子を剛体として精密化を行った後、 QUANTAを用い たグラフィ ックス上での構造修正と X - P L 0 Rを用いた構造精密化を繰り返し行い、
1 0〜2.6A分解能において、 R因子 0.197のモデルを得た。
図 1に示した 5つの活性残基 (L y s l l 3、 A r g 1 2 0 , H i s l 48、 A r g l 8 1、 H i s 1 8 7 )の Cひ原子間の距離を表 2に示した。 EB— AP の類縁酵素である MM— A Pにおいて、 活性残基間のすべての原子間距離が、 E B— A Pの立体構造から規定した範囲におさまつていることが確認された。
表 2

実施例 9 E B— A P反応中間体とイノシンの結合様式モデルの推測 コンピュータグラフィ ックス上、 QUANTAを用いて、 結合様式モデルを構築した (図 3 ) 。 モリブデン酸はそのままリン酸に置き換えた。 イノシンは、 野生型 E B— A Pと 5 '—イノシン酸の結合様式モデルにおける 5,-イノシン酸のヌクレ オシド部分近くに置いた。 ただし、 当然のことだが、 イノシンはリン酸モノエス テル結合を持たないので、 5 '—イノシン酸をドッキングさせるよりも自由度が 高い。 したがって、 イノシンが E B— A Pの分子表面に、 より好ましい状態で結 合するように、 イノシンの位置の微調整を行い、 結合様式モデルとした。 以降の 変異型酵素のデザィンには、 このモデルを用いることとした。 実施例 1 0 ヌクレオシドとの親和性向上を目指した変異型 E B— A Pのデザィ ン 実施例 8で構築したモデルによると、 Ser 7 2の側鎖は、 イノシンの塩基と相 互作用する可能性が示唆された。 この残基をフエ二ルァラニン、 チロシン、 ト リ プトファンといった芳香族ァミノ酸に置換すると、 芳香環とヌクレオシド塩基と の間に 7Γ - 7Γ相互作用が生じ、 ヌクレオシドの E B— A Pに対する親和性が向上 することが予測された。 同様に、 ノ リン、 ロイシン、 イソロイシンといった分岐 鎖疎水性ァミノ酸に置換すると、 分岐鎖疎水基とヌクレオシド塩基との間に C H
/ττ相互作用が生じ、 また、 グルタミン酸、 ァスパラギン酸といった負電荷を帯 びたアミノ酸に置換すると、 ヌクレオシド塩基の正電荷と静電的に引き合い、 親 和性の向上が見込まれた。 そこで、 ホスファタ一ゼ活性よりもリン酸基転移活性 が相対的に高まっている G 74 D/I 1 53 Τ変異型 ΕΒ— ΑΡのリン酸基転移 活性を更に高めるため、 該変異型 E B— ΑΡの S 7 2 F, S 7 2 Y, S 7 2W, S 72 V, S 7 2 E , S 7 2 D変異体を作製することとした。 なお、 S 7 2を他の アミノ酸に置換した変異体も作製することとした。 ちなみに、 これらの変異体は、 3残基置換変異型 E B— APとなる。 実施例 1 1 Ser7 2を他のアミノ酸へ置換した 3残基置換変異型 E B— APの 體 ェシエリヒア · コリ J M 1 09で発現するための変異型 EB— A Pを構築する ために、 G 74 D/I 1 5 3 T変異型 E B— AP遺伝子を含むプラスミ ド pEPI 3 40を、 P CRを用いる部位特異的突然変異誘発法の铸型として使用した。 しか して、 これらプラスミ ド pEPI 305及び pEPI 340の塩基配列は、 特開平 1 0 _ 20 1 48 1号公報の段落番号 (0 1 43 ) の表 1 2に明記されている。 また、 プラスミ ド pEPI 3 05をェシエリヒア . コリ JM 1 09に保持させた株は、 A J 1 3 144と命名され、 1 9 96年 2月 23日に、 通商産業省工業技術院生命工学 工業技術研究所 (郵便番号 305-8566 日本国茨城県つくば巿東一丁目 1番 3号) に FE RM BP— 542 3として国際寄託されている 〔上記公開公報の段落番 号 (0 1 05 ) 〜 ( 0 1 1 0 ) の記載参照〕 。
変異はス トラ夕ジーン (Stratagene) 社 (アメリカ) の 「クイックチェンジ部 位特異的突然変異誘発キッ ト (Quickchange Site-Directed Mutagenesis Kit) j を使用し、 製造元のプロ トコールに従って、 各種変異型酵素に対応するプライマ 一 (図 7、 配列番号 1 1〜 6 1 ) を用いて導入した。 P C R反応の生成物を用い て、 ェシヱリヒア · コリ XL— 1を形質転換した。 形質転換細胞を、 1 00 1 /mlのアンピシリンを含む L寒天培地プレート上に塗沬し、 37°Cで 1 6時間 インキュベート した。 生成したコロニーを採取し、 1 00〃 1/m 1のアンピシ リンを含む L培地で一晩振とうしながら培養した。 培養液から遠心分離により菌
体を回収後、 フアルマシア社 (スウェーデン) の FlexiPrep Kitを使用し、 製造 元のプロ トコールに従って、 プラスミ ドの抽出を行った。 各種 3残基置換変異型 E B— APをコ一ドする塩基配列は、 DN A配列分析によって確認した。
なお、 図 7に示したプライマーセヅ 卜の合成は(株)日本バイォサービスに委託 した。 実施例 1 2 変異型 E B— APのリン酸基転移活性及び反応速度定数の測定 各種 3残基置換変異型 EB— AP遺伝子を含むプラスミ ドを導入したェシエリ ヒア ' コリ JM109を 1 0 0 // 1 /m 1のアンピシリ ンを含む L培地 5 0 m 1に接 種し、 37°Cで 1 6時間培養した。 培養液から遠心分離で菌体を集め、 25 mM リン酸バッファ一(p H 7. 0 )3 m lに懸濁し、 4 °Cで 2 0分間超音波処理を行 い破砕した。 処理液を遠心分離して不溶性画分を除き、 無細胞抽出液を調製した。 各 EB— AP 3残基置換変異型酵素が発現していることは、 SD S— PAGEで 確認した。 発現量は、 全蛋白質の 20 %程度であった。
無細胞抽出液のリン酸基転移活性は以下の条件で測定した。 2 mMィノシン、 1 00 mMピロ リ ン酸ナ ト リウム、 1 0 0 mM酢酸バッファー( p H 4. 0 )、 1 00 1の無細胞抽出液を含む反応液( 1 m 1 )を、 pH 4、 3 0°Cで 1 0分間ィ ンキュペートした。 1 N塩酸 200〃 1を加え反応を停止させた後、 遠心分離に より沈殿を除き、 生成した 5'—イノシン酸を定量した。 各種 3残基置換変異型 EB— APのり ン酸基転移活性を、 変異を導入する対象とした G 74 D/I 1 5 3 T変異型 E B—APを用いたときの 5'—イノシン酸生成量を 1とした相対活 性で示した。
続いて、 各種 3残基置換変異型 EB— APのリン酸基転移反応におけるイノシ ンに対する Km値を以下の条件で測定した。 1 0 OmMピロリン酸ナト リゥム、 1 00 mM酢酸バッファー(p H 4. 0 )、 1 0— 1 00 mMイノシン、 1 00〃 1の無細胞抽出液を含む反応液( 1 m l )を pH4、 3 0 °Cで 1 0分間インキュべ 一トした。 1 N塩酸 2 00 1を加え反応を停止させた後、 遠心分離により沈殿 を除き、 生成した 5,一イノシン酸を定量した。 Hanes- Woolfプロッ トにより Km 値を算出した。 表 3に結果を示す。
表 3
実施例 1 0にて、 7Γ- 7Γ相互作用、 CH/ΤΓ相互作用、 静電相互作用によりィ ノシンとの親和性が向上するであろうと予測されたすベての変異体(S 7 2 F , S 7 2 Υ, S 7 2 W, S 7 2 V, S 7 2 Ε , S 7 2 D )のイノシンに対する Km値が、 変異導入しない G 7 4 D/ I 1 5 3 T変異型 E B— A Pのものに比べて低下し、 イノシンに対する親和性が向上した。 また、 リン酸基転移活性についても向上が 見られた。 特に、 S 7 2 Fを導入した変異体が、 Km値、 リン酸基転移活性、 双 方において、 改善が著しかった。 フヱニルァラニンの芳香環とイノシン塩基が適 当な位置関係で Γ— 7Γ相互作用し、 親和性の向上が図られたものと推測される。 また、 S 7 2M, S 7 2 T,S 7 2 R,S 7 2 Q,S 7 2 K変異体の Km値も低下し た。 これらアミノ酸残基とヌクレオシド塩基の間に疎水性相互作用、 水素結合等 何らかの好ましい相互作用が生じたものと考えられる。 ちなみに、 S 7 2 Iにつ いては、 遺伝子を作製できなかった。 また、 S 7 2 Cは、 誤った S— S結合を形
成させる危険性があるので、 作製しなかった。
なお、 5,—イノシン酸は、 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、 下記 の条件にて分析した。
カラム : Cosmosil5 C 1 8-AR( 4. 6 x 1 5 0 mm) ナカライテスク社製品 移動相 : 5 mM リン酸カリウムバッファー(p H 2. 8 )/メタノール二 9 5/
5
流速: 1. 0 m 1 /m i n 検出 : U V 24 5 nm 実施例 1 3 S 72 F/G 74 D/I 1 5 3 T変異型 E B— A P遺伝子を導入し たェシエリヒア · コリ JM109を用いた 5 ' -イノシン酸の生産
G 74 D/ I 1 53 T変異型、 1 0残基置換変異型、 及び S 72 F/G 74 D / I 1 53 T変異型 E B— AP遺伝子を含むプラスミ ドを導入したェシエリヒア
• コリ JM109をアンピシリン 1 00〃 g/m 1及び I P T G ImMを含む L培地
5 0m lに接種し、 3 7 °Cで 1 6時間培養した。
ピロリン酸 1 2 g/d 1、 及びィノシン 6 g/d 1を酢酸バヅファー (pH 4.
0 ) に溶解し、 これに上記の各変異型 E B— AP遺伝子を導入したェシヱリヒア
• コリ JM109の菌体を乾燥菌体重量で 1 00 mg/d 1となるように添加し、 p Hを 4. 0に維持しながら、 30°Cで 24時間反応を行った。 生成した 5,一ィ ノシン酸の量を測定した結果を表 4に示した。 なお、 生成したイノシン酸は 5' 一イノシン酸のみで 2, 一イノシン酸及び 3 ' —イノシン酸の副生は全く認めら れなかった。
G 74 D/ I 1 5 3 T変異型 E B— A P遺伝子を含むブラスミ ドを導入したェ シエリヒア · コ リ JM109を用いた反応では 7. 5 g/d 1の 5'—イノシン酸が生 成蓄積したが、 反応時間を伸ばしてもそれ以上蓄積は増加しなかった。 1 0残基 置換変異型 E B— AP遺伝子を含むプラスミ ドを導入したェシエリヒア · コリ JM 109を用いた反応では蓄積が向上し、 1 2. 1 g/d 1の 5'-イノシン酸が生成 蓄積した。 立体構造に基づいて設計し、 構築した S 7 2 F/G 74 D/I 1 5 3
T変異型 E B— AP遺伝子を含むブラスミ ドを導入したェシエリヒア ' コリ JM10 9を用いた反応では更に生産性が向上し、 1 3. 2 g/d 1の 5,一イノシン酸が 生成蓄積した。 表 4
実施例 1 4 L 1 6W, S 7 1W, S 73W,E 1 04 F,E 1 04 W変異を導入し た 3残基置換変異型 E B— A Pのリン酸基転移活性及び反応速度定数の測定
S 72 F変異が、 ΤΓ— ΤΓ相互作用によりイノシンとの親和性を向上させたと考 えられるため、 コンピュータ一グラフィ ックス上で、 芳香環アミノ酸への置換に よりイノシン塩基との Γ— 7Γ相互作用が図れる他のアミノ酸残基を探索した。 そ の結果、 L 1 6W, S 7 1W,S 7 3W,E 1 04 F,E 1 04 W変異により置換さ れた芳香環がイノシン塩基と相互作用する可能性が示唆された。 そこで、 これら 5種の (G 74 D/I 1 53 T変異型 E B— A Pをベースとした) 3残基置換変 異型 E B— APを実施例 1 1に記述した方法 (各変異型酵素に対応するプライマ —は図 8 Aに示した。 配列番号 6 2〜76) で作製し、 実施例 1 2に記述した方 法でリン酸基転移活性及び反応速度定数を測定した。 結果を表 5に示す。 リン酸 基転移活性はいずれの変異型酵素においても低下したが、 Km値はすべての変異 型酵素で低下し、 イノシンとの親和性が向上したことが示唆された。 Leul 6は、 イノシンとの相互作用が確実視される Ser7 2から (Cひ間距離で) 1 0 A離れ ているが、 この程度離れていてもィノシンとの相互作用が可能であることが示さ れた。
なお、 図 8 Aに示したプライマ一セッ トの合成は、 (株)日本バイオサービスに 委託した。
表 5
実施例 1 5 A 72 F, A 7 2 E変異を導入した 1 0残基置換変異型 E B— AP の作製、 及びリン酸転移活性と反応速度定数の測定 実施例 1 2において、 最も Km値を低下させた S 72 Fと最も活性を高めた S 72 E変異を、 1 0残基置換変異型 E B— APに導入した。 1 0残基置換変異型 EB— APにおいては、 S e r 72が A 1 aに置換されているので、 実際には、 A 72 Fと A 7 2 E変異を導入することとなる。 野生型 E B— APを基準とする と、 双方とも 1 0残基が置換されている。 これら 2種の変異体を実施例 1 1に言己 述した方法 (各変異型酵素に対応するプライマーは図 8 Bに示した。 配列番号 7 7〜82) で作製した。 P CRを用いる部位特異的突然変異誘発法の銪型として は、 1 0残基置換変異型 E B— AP遺伝子を含むプラスミ ド pEMP370 (特開平 9 - 3 7785、 実施例 1 9 ) を使用した。 更に、 実施例 1 2に記述した方法でリン酸転移 活性及び反応速度定数を測定した。 結果を表 6に示す。 リン酸転移活性は、 G 7 4 D/ I 1 53 T変異型 EB— APを用いたときの 5, 一イノシン酸生成量を 1 とした相対活性で示した。 いずれの変異型酵素においても、 Km値は顕著に低下 した。 リン酸転移活性については、 A 72 F変異により低下したのに対し、 A 7 2 E変異により上昇した。
表 6
実施例 1 6 A 7 2 F/ 1 0残基置換変異型 E B— A P及び A 72 E / 1 0残基 置換変異型遺伝子を導入したェシエリヒア · コリ J M109を用いた 5 ' —イノシ ン酸の生産
A 7 2 F/ 1 0残基置換変異型 E B _ AP及び A 72 E/ 1 0残基置換変異型 遺伝子を含むプラスミ ドを導入したェシエリヒア · コリ J M 109を用いての 5, 一イノシン酸の生産実験を実施例 1 3に記述した方法で行った。 結果を表 7に示 す。 両変異体とも 5, —イノシン酸の蓄積量が増加した。 表 7
実施例 1 7 I 1 03 D、 T 1 5 3 N変異を導入した変異型 E B— A Pの作製、 及びリン酸転移活性及び反応速度定数の測定
I 1 0 3 D変異により、 置換された A s pがィノシン塩基と静電相互作用をする こと、 また、 T 1 5 3 N変異により、 置換された A s nがリボースの水酸基と水 素結合を形成することが図 3のモデルにより示唆された。 そこで、 G 74 D/I 1 53 T変異型 E B— APにこれらの残基を導入し、 I 1 03 D/G 74 D/I 1 53 T変異型 E B— APと G 74 D/ I 1 53 N変異型 E B— A Pを実施例 1 1に記述した方法 (各変異型酵素に対応するプライマーは図 8 Cに示した。 配列
番号 8 3〜 88 ) で作製することとした。 更に、 実施例 1 1に記述した方法でリ ン酸転移活性及び反応速度定数を測定した。 結果を表 8に示す。 リン酸転移活性 は、 G 74 D/ I 1 53 T変異型 E B— A Pを用いたときの 5 ' —イノシン酸生 成量を 1とした相対活性で示した。 両変異体ともに、 リン酸基転移活性は低下し たが、 Km値は低下し、 イノシンとの親和性が向上したことが示唆された。 表 8
実施例 1 8 Leu Oを P he、 G 1 u、 L y sに置換した変異型 E B— A Pの作 製、 及びリン酸転移活性と反応速度定数の測定
Leul40は、 Ser72から 1 0 A以上離れているが、 反応中間体アナログの立体構 造において、 リン酸結合部位の直近に位置する。 したがって、 この残基を置換す れば、 反応中間体におけるリン酸結合部位周辺の構造が変化し、 ひいては、 ヌク レオシド結合部位の構造と揺らぎにも影響が及ぶものと考えられた。 この残基を、 よりかさ高い P h e、 正電荷を有する L y s、 負電荷を有する G l u、 に置換す れば、 ヌクレオシドとの親和性が変化するのではないかと期待される。 変異は、 実施例 1 5においてリン酸転移活性が高かった A 7 2 E/ 1 0残基置換体に導入 することとした。 これら 3種の変異体を実施例 1 1に記述した方法 (各変異型酵 素に対応するブライマーは図 8 Dに示した。 配列番号 8 9〜 97 ) で作製した。 P CRを用いる部位特異的突然変異誘発法の銪型としては、 A 7 2 E/1 0残基 置換変異型 EB— AP遺伝子を含むプラスミ ドを使用した。 更に、 実施例 1 2に 記述した方法でリン酸転移活性及び反応速度定数を測定した。 結果を表 9に示す。 リン酸転移活性は、 G 74 D/ I 1 53 T変異型 E B— A Pを用いたときの 5 ' - ィノシン酸生成量を 1とした相対活性で示した。
表 9
L 1 4 0 Fを導入した変異体は、 K m値が低下した。 逆に、 L 1 4 0 K及び L 1 4 0 E変異は、 Kmを大幅に上昇させた。 実施例 1 9 ェンテロバクタ一 · ァエロゲネス I F0 12010 由来野生型酸性ホス ファターゼの精製と N末端ァミノ酸配列の決定 特開平 10- 201481の実施例 24記載のェシエリヒア ' コリ JM109/pENP110の培養 菌体からェンテロパクター · ァエロゲネス I F012010由来の酸性ホスファタ一ゼを 精製して N末端アミノ酸配列を決定し、 成熟夕ンパク質のアミノ酸配列を決定し た。 ェシエリヒア ' コリ JM109/pENP110はェンテロパクター · ァエロゲネス I F01 2010由来の酸性ホスファ夕一ゼ遺伝子をェシェリヒア ' コリ JM109株に導入した 菌で、 該酸性ホスファターゼを生産する。 該酸性ホスファターゼ遺伝子の塩基配 列より予想される前駆体タンパク質のアミノ酸配列は、 配列番号 1 0に示される 配列に相当する。 尚、 配列番号 1 0に示すアミノ酸配列は、 L61Q/A63Q/E64A/N67 D/S69A/G72D/T133K/E134D/I 151T変異型 EA- APのァミノ酸配列である。
ペプトン l g/dl、 酵母エキス 0. 5g/dl及び食塩 l g/dlを含有する栄養培地 (ρΗ7· 0 ) 50mlを 500ml坂口フラスコに入れ、 120°Cにて 20分間加熱殺菌した。 これにェ シエリヒア ' コリ JM109/pENP110を一白金耳接種し、 30°Cで 16時間振盪培養した。 培養液から遠心分離により菌体を回収した菌体を lOOm Lの lOOmM燐酸力リゥムバ ッファー (pH7. 0 ) に懸濁し、 4 °Cで 20分間超音波処理を行い菌体を破砕した。 処理液を遠心分離して不溶性画分を除き、 無細胞抽出液を調製した。 この無細 胞抽出液に 30%飽和となるように硫酸アンモニゥムを添加した。 遠心分離により 生成した沈澱を除去した後、 上清液に 60 %飽和となるように硫酸アンモニゥムを 追加添加した。 生成した沈澱を遠心分離により回収し、 100mM燐酸カリウムバッ
ファーに溶解した。 この粗酵素液を lOOmM燐酸カリウムバッファ一 (pH7.0) 500m Lに対し 3回透析した後、 20mM憐酸カリウムバッファ一 (pH7.0) で平衡化した DE AE-トヨパール 650Mカラム ( 03. Ox 10.0cm) にチャージし、 20mM燐酸カリウムバ ッファー (pH7.0) で洗浄した。 燐酸転移活性は素通り画分にあつたので、 当該 画分を回収した。 この活性画分に 35 %飽和となるように硫酸アンモニゥムを添加 し、 これを 35%飽和硫酸アンモニゥムを含む 20πιΜ燐酸カリウムバッファ一 (ρΗ7. 0) で平衡化したブチルトヨパールカラム ( 03.0x7.0cm) に吸着させた。 これ を 35%飽和から 20%飽和燐酸カリウムバッファー (PH7.0) の直線的な濃度勾配 で溶出した。 活性画分を集め、 lOmM燐酸カリウムバッファ一 (pH6.0) 1 Lに対 し透析した後、 lOmM憐酸カリウムバッファ一 (ρΗ6·0) で平衡化した CM- Toyopear 1カラム ( 03.0x7.0cm) に吸着させた。 これを OmMから 300mM 塩化カリウムを含 む燐酸カリウムバッファー (PH6.0) の直線的な濃度勾配で溶出した。 この活性 画分を集めた。
以上の操作によって、 燐酸転移活性を示す酵素を無細胞抽出液より最終的に約 1 6%の回収率で約 5倍に精製した。 この酵素標品は、 S D S _ポリアクリルアミ ド 電気泳動において均一であった。
本精製酵素を DITCメンブレン (Milligen/Biosearch社製) に吸着させ、 Proseq uencer 6625 (Milligen/Biosearch社製) を用いて N末端のアミノ酸配列を決定 したところ配列番号 9 8に示した 5残基の N末端のアミノ酸配列が決定された。 精製酵素の N末端は配列番号 1 0の配列の 21番目 (アミノ酸番号 1 ) のロイシン 残基から開始していたため、 配列番号 1 0に示されるアミノ酸配列は前駆体蛋白 質の配列であり、 1番目のメチォニン残基 (アミノ酸番号— 2 0 ) から 20番目の ァラニン残基 (アミノ酸番号— 1 ) までのぺプチドは翻訳後に除去されるものと 考えられた。 この結果より成熟体タンパク質のアミノ酸配列は、 配列番号 1 0の 配列中、 アミノ酸番号 1〜 2 2 8に示される配列に相当すると考えられた。 実施例 2 0 ェンテロパクター · ァエロゲネス(Enterobacter aerogenes)由来酸 性ホスファターゼ (E A— A P )の変異型酵素遺伝子の作製と該遺伝子を導入し たェシエリヒア · コリ JM109を用いた 5 ' —イノシン酸の生產
EB— APにおいてイノシンのリン酸基転移活性を向上させた S 7 2 F/G 7
4 D/ I 1 5 3 Tの 3つの変異に相同な変異を E A— A Pに導入することとした。 EB— APと EA— AP (野生型) のアミノ酸配列をプログラム BLASTを用いて、 アラインメン ト した結果を図 9に示す。 E B— APの Ser7 2 /Gly74 /He 1
53は、 E A— A Pにおいては、 Ala 7 0/Gly7 2 /He 1 5 1に対応すること が示された。 そこで、 A 7 0 F/G 7 2 D/ I 1 5 1 T変異型 E A- APを実施 例 1 1に記述した方法で作製した。 変異型酵素遺伝子を含むプラスミ ドを導入し たェシェリヒア . コリ JM109を用いて、 イノシンから 5, _イノシン酸の生産を実 施例 1 3に記述した方法で行った。 結果を表 1 0に示す。 A 70 F/G 7 2 D/ I 1 5 I T変異型 EA- APは、 S 7 2 F/G 74 D/I 1 5 3 T変異型 E B— APと同等の 5'—ィノシン酸生産能を示した。 表 1 0
なお、 図 9は E B— APとェンテロバクタ一 · ァエロゲネス由来酸性ホスファ 夕ーゼ (EA— AP) のアミノ酸配列アラインメン トをプログラム BLASTにより 行った結果を示す図である。 上段が EB— AP、 下段が EA— APである。 中段 には、 両者のアミノ酸残基が同一であればその残基名が、 同一でなくても類似の アミノ酸残基であれば、 十が表示される。 E B— APの 7 2番目の残基 (Ser7 2 ) の位置を、 [7 2 ] でマークした。 E A— A Pで対応する残基は Ala 7 0で ある。 実施例 2 1 ェンテロパクター · ァエロゲネス IF0 12010 由来新規変異型酸性 ホスファターゼ遺伝子のプロモーター配列の改変による酵素の高発現 ェンテロパクター . ァエロゲネス IF0 12010由来変異型酸性ホスファタ一ゼを コードする遺伝子のプロモーター配列部分に遺伝子工学的手法によって部位特異
的変異を導入し、 酵素発現量の増加した変異型酸性ホスファタ一ゼをコ一ドする 遺伝子を構築した。 変異を導入する遺伝子としては、 L61Q/A63Q/E64A/N67D/S69A /G72D/T133K/E134D/I151T変異型 EA-APをコ一ドする変異型 EA-AP遺伝子を含むプ ラスミ ド PENP170を用いた。 ρΕΝΡΠΟは以下のようにして調製した。
特開平 10-201481号公報の実施例 2 4記載の方法にて取得したェンテロバクタ 一 ' ァエロゲネス IF0 12010由来野生型酸性ホスファタ一ゼをコ一ドする遺伝子 を含むプラスミ ド ρΕΝΡΙΙΟより、 野生型酸性ホスファターゼをコードする遺伝子 を含む、 制限酵素 Sailと制限酵素 Kpnlで切り出される 1.6kbpの大きさの DNA断片 を切り出し、 Sail及び Kpnlで切断した pUC19 (酒造社製) に結合し、 このプラス ミ ドを PENP120と命名した。 PENP120に、 部位特異的変異法により、 下記の変異を 導入し、 PENP170を得た。 ρΕΝΡ170中の S a 1 I - K p n I 1.6kbpD N A断片の 塩基配列は配列番号 9に示される配列である。
72Gly(GGC) → Asp(G*AC)
151Ile(ATC) → Thr(A*CC)
61Leu(CTG) → Gln(C*AG)
63Ala(GCT) → Gln(*C*A*G)
64Glu(GAA) → Ala(G*CA)
67Asn(AAC) → Asp(*GAC)
69Ser(AGC) → Ala(*G*CC)
133Thr(ACC) → Lys(A*A*A)
134Glu(GAG) → Asp(GA*C)
PENP170に含まれる変異型 EA- AP遺伝子のプロモーター配列部分への変異導入は Stratagene社製のクイ ヅクチヱンジ部位特異的突然変異誘発キッ ト (Quick Cha nge site-directed mutagenesis kit) を用いた。 D NA合成装置 (アプライ ドバイオシステム社製モデル 394) を用いて合成した変異導入用オリゴヌクレオ チド MUT170 (配列番号 9 9 ) 、 MUT171 (配列番号 1 0 0 ) 、 および銪型として pE NP170を用いて Stratagene社のプロ トコールに従って変異を導入した。
得られたブラスミ ド D N Aを用いて常法によりェシエリヒア . コリ JM109 (宝
酒造製) を形質転換した。 これを 100 / g/mlのアンピシリンを含む L寒天培地上 にプレーティングし、 形質転換体を得た。 形質転換体よりアルカリ溶菌法により プラスミ ドを調製し、 塩基配列の決定を行い、 目的の塩基が置換されていること を確認した。 塩基配列の決定は Taq DyeDeoxy Terminator Cycle Sequencing K it (アプライ ドバイォケミカル社製) を用い、 サンガーらの方法 (J . Mol . Bio 1. , 143, 161 ( 1980) ) に従って行った。
このようにしてェンテロバクタ一 · ァエロゲネス IF0 12010由来推定酸性ホスフ ァ夕一ゼの上流に位置する推定プロモーター配列の— 1 0領域の塩基配列が AAAA ATからェシェリヒア ' コリの lacプロモーターと同じ TATAATという塩基配列に変 異した変異型遺伝子をコードする変異型遺伝子を構築した。 この変異型遺伝子を 含むプラスミ ドを PENP180と命名した。
ェシエリヒア ' コリ JM109/pENP 170およびプロモーター配列の— 1 0領域を 改変した遺伝子を導入したェシェリ ヒア ' コ リ JM109/pENP180をアンピシリ ン 10 0〃g/mlを含む L培地 50m 1、 および I P T G l m Mを添加したアンピシリン 100 g/mlを含む L培地 50m 1にそれそれ接種し、 37°Cで 16時間培養した。 それそれ の菌の培養液から遠心分離により菌体を集め、 生理食塩水で 1回洗浄した。 ピロ 燐酸 15g/dl、 およびイノシン、 8g/dlを lOOm M酢酸バッファ一 (ρΗ4· 0) に溶解 し、 これにそれそれの菌体を乾燥菌体重量で 100mg/dlとなるように添加し、 pH を 4.0に維持しながら、 30°Cで 1時間反応させた。 生成した 5 ' —イノシン酸の量 を表 1 1に示した。 イノシン及び 5, 一イノシン酸は、 高速液体クロマトグラフィー (H P L C ) により、 下記の条件にて分析した。
カラム : Cosmosi l 5 C 18- AR (4.6 x 150mm) 〔ナカライテスク社製品〕 移動相 : 5mM 燐酸力リゥムバッファー (pH 2.8) /メ夕ノール = 95/5 流速: 1.0ml /mi n
度 '·室
検出 : U V 245nm ェシエリヒア · コリ JM109/pENP170では IPTG無添加では活性が低かったが、 ェシ
エリヒア · コリ JM109/pENP180は IPTGを添加しなくても高い活性を示した。 また、 ェシエリヒア · コリ JM109/pENP180は IPTGを添加することでさらに高い活性を発 現し、 プロモーター領域の改変が有効であることが示された。 表 1 1
実施例 2 2 ヌクレオシドに対する親和性の向上したェンテロパクター · ァエロ ゲネス IF0 12010 由来新規変異型酸性ホスファターゼ遺伝子の構築 実施例 2 1にて構築したェンテロパクター ' ァエロゲネス I F0 12010由来変異 型酸性ホスファターゼ遺伝子に遺伝子工学的手法によって部位特異的変異を導入 し、 ヌクレオシド、 特にグアノシンに対する親和性が向上した変異型酸性ホスフ ァ夕一ゼをコ一ドする遺伝子を作製した。 ァミノ酸残基の置換はェシエリヒア · ブラッ夕ェ酵素の立体構造解析に基づいてヌクレオシドとの親和性向上に寄与す ると同定されたアミノ酸残基の置換を組み合わせて導入した。
プラスミ ド D N Aへの変異導入は Stratagene社製のクイックチヱンジ部位特異 的突然変異誘発キッ 卜 ( Qui ck Change si te-directed mutagenesis kit) を 用いた。 D N A合成装置 (アプライ ドバイオシステム社製モデル 394) を用いて M UT180 (配列番号 1 0 1 ) から MUT521 (配列番号 1 2 0 ) までの 20種類の変異導 入用オリゴヌクレオチドを合成した (表 1 2 ) 。 最初の銪型として pENP170、 ま た変異導入用オリゴヌクレオチドとして MUT180、 MUT181を用いて Stratagene社の プロトコールに従って変異を導入した。
得られたプラスミ ド D N Aを用いて常法によりェシエリヒア ' コリ JM109 (宝 酒造製) を形質転換した。 これを 100〃g/mlのアンピシリンを含む L寒天培地上 にプレーティングし、 形質転換体を得た。 形質転換体よりアル力リ溶菌法により
プラスミ ドを調製し、 塩基配列の決定を行い、 目的の塩基が置換されていること を確認した。 塩基配列の決定は Taq DyeDeoxy Terminator Cycle Sequencing K it (アプライ ドバイォケミカル社製) を用い、 サンガーらの方法 (J . Mol . Bio 1., 143, 161 ( 1980) ) に従って行った。 このようにして 153番目のスレオニン 残基 (ACC) がセリン残基 (TCC) に置換した変異型酸性ホスファタ一ゼをコ一ド する遺伝子を構築し、 この変異型遺伝子を含むプラスミ ドを PENP200と命名した。 変異を導入したプラスミ ドを新しい鍩型として同様の操作を繰り返し、 累加的 に部位特異的変異を導入した。 形質転換体よりアル力リ溶菌法によりプラスミ ド を調製し、 塩基配列の決定を行い、 目的の塩基が置換されていることを確認した。 作製した変異型酸性ホスファターゼをコードする変異型酵素遺伝子と変異部位を 表 1 3に示した。 なお変異部位のアミノ酸残基は配列番号 1 0に示したアミノ酸 配中のアミノ酸残基を示している。
それそれの変異型酸性ホスファターゼ遺伝子を含むブラスミ ドを導入したェシ エリ ヒア ' コ リ JM109/pENP180、 ェシエリ ヒア ' コ リ JM109/pENP320、 ェシェ リ ヒア ' コ リ JM109/pENP340、 ェシエリ ヒア ' コ リ JM109/pENP410、 ェシヱリヒ ァ · コリ JM109/pENP510、 およびェシヱリヒア · コリ JM109/pENP520をアンピシ リン 100 z g/mlおよび I P T G l m Mを含む L培地 50m 1に接種し、 37°Cで 16時間 培養した。 菌体を 50m 1の 100m M燐酸バッファ一 (pH7.0) に懸濁し、 4°Cで 20 分間超音波処理を行い菌体を破砕した。 それそれの菌の培養液から遠心分離によ り菌体を集め、 生理食塩水で 1回洗浄した。 処理液を遠心分離して不溶性画分を 除き、 無細胞抽出液を調製した。 それそれの無細胞抽出液を用いてリン酸転移反 応におけるイノシンとグアノシンに対する Km値を測定した。
ヌクレオシドへの憐酸転移活性の測定は、 ィノシンおよびグアノシンを基質と して次の条件で行った。 各種濃度のイノシンまたはグアノシン、 ピロ燐酸ナトリ ゥム 100〃mol/ml、 酢酸ナトリウム緩衝液 (pH4.0) 100〃mol/nil及び酵素を含む 反応液 (1ml ) で ρΗ4· 0、 30°Cで 10分反応を行った。 2 N塩酸 200〃 1を添加して反 応を停止した後、 遠心分離により沈澱を除き、 燐酸転移反応により生成した 5 ' 一イノシン酸または 5, 一グァニル酸を定量した。 イノシン、 グアノシン、 5 ' 一イノシン酸および 5, —グァニル酸は、 高速液体クロマトグラフィー (H P L
C) により、 実施例 2 1と同じ条件にて分析した。
上記の組成の反応条件においてイノシンまたはグアノシンの濃度を変化させて 燐酸転移活性を測定し、 Hanes-Woolfプロッ ト (Biochem.J., 26,1406 (1932)) により燐酸転移反応におけるイノシンおよびグアノシンの速度定数を求めた。 そ の結果を表 1 4に示した。 実施例で作製した変異型酵素の Km値はグアノシンに対 する Km値が顕著に低下し、 グアノシンに対する親和性が向上していることが明 らかになつた。 また pENP520にコードされる変異型酵素以外の 4種類の変異型酵 素はィノシンに対する Km値も非常に低下していた。
表 1 4
実施例 2 3 グアノシンに対する親和性の向上したェンテロパクター · ァエロゲ ネス I F0 12010 由来新規変異型酸性ホスファターゼ遺伝子導入菌によるグアノ シンのリン酸化反応 それそれの変異型酸性ホスファターゼ遺伝子を含むプラスミ ドを導入したェシ エリ ヒア ' コ リ JM109/pENP 180、 ェシエリ ヒア ' コ リ JM109/pENP320、 ェシェ リヒア ' コリ JM109/pENP340、 ェシエリヒア · コリ JM109/pENP410、 ェシヱリヒ ァ · コリ JM109/pENP510、 およびェシェリヒア . コリ JM109/pENP520をアンピシ リ ン 100〃g/nilおよび I PTG lmMを含む L培地 50mlに接種し、 37°Cで 16時間培養し た。
ピロ燐酸 10g/dl、 およびグアノシン結晶を水中でスラリーとし、 粉砕機 (スィ ス WAB社製 DYN0- MI Lい により結晶の粉砕処理を行ったグアノシン 6 .6g/dlを、 100 m M酢酸バッファー (pH4. 5 ) に溶解し、 これにそれそれの菌体を乾燥菌体重量 で 100 mg/dlとなるように添加し、 pHを 4. 5に維持しながら、 35°Cで 12時間反応さ せた。 生成した ーグァニル酸の量を表 1 5に示した。 表に示すように変異型 酵素を導入した菌はいずれも親株であるェシェリヒア · コリ JM109/pENP180に 比べて生産性が向上し、 高い収率で 5 ' —グァニル酸を生成蓄積した。
表 1 5
3
囷 AH eft r
生成 0 一クァ——ノレ酸 Ig/c )
ェシエリ ヒア · ~ 1" 1 )ノ) JM109/DENP180 9 9 o
ェシエリ ヒア ' Ώリ JM109/pENP320 1 0 . 4
ェシエリ ヒア ' Πリ JM109/pENP340 1 0 . 2
ェシエリ ヒア ' Πリ JM109/pENP410 1 1 . 1
ェシエリ ヒア ' コ U JM109/pENP510 1 1 . 0
ェシエリ ヒア · コリ JM109/pENP520 1 0 . 5 産業上の利用可能件 以上詳細に説明したように、 本発明によれば、 ヌクレオシドー 5 ' —リン酸生 産能が向上した変異型ヌクレオシド— 5 ' —リン酸生産酵素、 及びその製造方法 が提供される。 また、 本発明によれば、 ヌクレオシド一 5 ' —リン酸の製造方法 に有用な、 前記の変異型酵素をコードする遺伝子、 該遺伝子を含む組換え D N A、 該組換え D N Aを保有する微生物が提供される。
更に、 X線結晶構造解析技術により夕ンパク質の新規立体構造の解明に成功し た。
本発明の変異型ヌクレオシド— 5, 一リン酸生産酵素は、 調味料、 医薬並びに それらの原料として有用なヌクレオシド一 5 ' —リン酸の製造に利用することが できる。