WO1998022129A1 - Therapeutic agent for ophthalmic diseases - Google Patents

Description

明細書 眼科疾患治療剤 技術分野

本発明は、 網膜浮腫、 特に嚢胞様黄斑浮腫に有用である新規な治療あるいは予 防剤に関する。 背景技術

視覚は感覚機能の中でも最も重要であり、 視力低下や失明などの視機能の障害 は重大な身体的障害のひとつに挙げられ、 特に今後の高齢化社会においては老化 に伴う視機能障害が増加することが憂慮すべき問題になると予想される。 日常生 活に支障をきたす疾患の治療に際して患者 Q O L (Qual i ty of Li f e ) を向上さ せることの重要性が最近提唱されているが、 眼疾患においては、 特に視機能の改 善と維持が Q O Lの向上に必須の要素であり、 これを達成させる治療法の確立が 急務である。

重度の視力低下や失明は種々の原因によって起こり得るが、 最も直接的な原因 となり易いのは、 網膜の循環障害、 炎症、 萎縮性疾患、 網膜剥離などの網膜脈絡 膜疾患である。 これらの疾患に対してはある種の薬物療法、 レーザ一による光凝 固術、 硝子体手術などが治療法として行われているが、 それらの成績は未だ十分 に満足できるレベルにはなく、 さらなる治療法の開発が待ち望まれている。 特に 侵襲を伴う光凝固術や硝子体手術に比べ、 薬物療法は侵襲が少なく、 投与が容易 であるという大きな利点があるが、 有用性の高い薬剤が少ないのが現状である。 一方、 近年の基礎的、 臨床的研究の進展で、 網膜脈絡膜疾患における病態の解 明も進み、 網膜の視細胞の病変のみならず、 神経線維の障害や網膜の循環障害、 さらには脈絡膜や網膜色素上皮の病変や病態が明らかになりつつある。

このうち、 網膜浮腫の発生は直接的に視力障害につながることが知られている が、 その発生機序は次のように考えられている。 網膜には網膜毛細血管の内皮細 胞および網膜色素上皮細胞の密着結合 （t igh t j unc t i on) からなる血液網膜関門 があり、 神経細胞の細胞外腔への物質および水の輸送は、 この内側および外側血 液網膜関門により選択的な規制を受けている。 ところが何らかの原因によりこれ らの関門機構が破綻すると血液成分、 滲出液が網膜細胞外腔に漏出する。 漏出し た水分などは、 網膜色素上皮細胞や血管内皮細胞さらにはミユーラ一細胞がボン プ作用で排出するがその能力を越えると細胞外に貯留して網膜浮腫を生じる。 網膜の中で、 黄斑部に中心窩とよばれる網膜外層だけからなる薄い領域があり、 内顆粒層および神経節細胞層はその周辺に位置する。 中央部には無血管領域が存 在し、 その周囲の網膜は厚くなつている。 中心の視細胞は内顆粒層の細胞に連絡 するため、 軸索突起を長く伸ばさなければならない。 この視細胞軸索が集まった 層が、 外網状層の最外層に見られるヘンレ線維層である。

ヘンレ線維層は、 中心窩を中心にして放射状に走行する視細胞軸索の集合であ る。 ほかの部分の網状層がいろいろな方向に突起が絡んでいるのに比べて、 黄斑 部では滲出液などが集まった場合には組織間隙が開きやすく、 いったん開くとま すます滲出液が流れ込む。 このようにして網膜の中でも黄斑部に多量の滲出液が 貯留したのが嚢胞様黄斑浮腫 （Cys t o i d Macu l ar Edema ： CME ) である。

黄斑部は視力の最も重要な部分であり、 浮腫が遷延化すると神経線維 ·視細胞 の障害 （細胞死） 、 網膜色素上皮の萎縮へと進行し、 視機能の永久的障害へとつ ながる。 中心窩を含む嚢胞の内境界膜が破れれば層状黄斑円孔を形成し、 更に進 行すれば黄斑円孔も生じ、 社会的失明へとつながりうる。

嚢胞様黄斑浮腫の原因については、 びまん性網膜浮腫を来す全ての疾患が原因 となりうると言われており、 網膜疾患に由来するもの、 脈絡膜疾患に由来するも のがある。 またそれぞれに手術後、 血管病変、 炎症、 変性症、 薬物などの原因が ある。 特に、 糖尿病網膜症や網膜静脈分枝閉塞症、 網膜中心静脈閉塞症、 眼内手 術、 眼内炎症、 脈絡膜新生血管などに続発し発生する。 近年、 眼内レンズの普及 により白内障手術が頻繁に行われるようになってきているが、 三宅は白内障術後 に生じる嚢胞様黄斑浮腫の頻度について、 術中に著しい合併症の無い 60歳以上の 老人性白内障全摘出 196 例 246 眼について調査を行っている。 術後 3〜 7週後に 螢光眼底造影を行ったところ、 嚢胞様黄斑浮腫が生じなかったもの 23 %、 中度以 上の嚢胞様黄斑浮腫が出現したもの 52 %と、 極めて高い発生頻度であり、 今後手 術、 更には老人人口の増加により嚢胞様黄斑浮腫発生の増加が予想される。

発生機序に関しては未だ不明な点も多いが、 幾つかの可能性が示唆されている。 静脈終末の静水圧の上昇や毛細血管の口径拡大による網膜血流の増加、 血液網膜 関門の破綻、 プロスタグランジンなどの透過性亢進因子の産生増加、 硝子体牽引 などによる浮腫の発生が考えられている。 しかし、 発生機序と原因疾患との関係 についてはまだ十分な結論は得られていない。

嚢胞様黄斑浮腫の治療法は、 視力低下の大きな原因にもかかわらず、 未だ治療 手段は確立されていないのが現状であるが、 今日までの治療法としては次のよう な方法がある。

まず、 薬物療法には、 プロスタグランジン生合成抑制剤やステロイド、 炭酸脱 水酵素阻害剤などがある。 プロスタグランジン生合成抑制剤の点眼については、 初期の嚢胞様黄斑浮腫に対しては有効であるとされているが、 慢性化した嚢胞様 黄斑浮腫の治療は困難であると言われている。 ステロイドについては、 内服ゃテ ノン嚢内投与などが試みられているが、 効果について報告により差があり再発も みられ、 更に白内障、 緑内障などを合併症として引き起こし結果は不確実なもの となっている。 炭酸脱水酵素阻害剤については、 投与により改善が得られるもの の投与中止により視力が再び低下すること、 長期投与により再燃がみられる場合 があること、 全身的副作用が強いことなど多くの問題を残している。

その他の治療法としては光凝固療法や高圧酸素療法、 手術療法などがある。 光 凝固療法については、 症状が改善されるとの報告もあるが症例によっては効果が 認められない場合もあり、 その有用性は十分確立されているとはいえない。 高圧 酸素療法については再発する例が多いこと、 また治療に関して患者に対し負担が 大きいこと、 施設が限られることなど多くの問題が残されている。 手術療法につ いてはまだ十分治療法として確立されておらず、 また普遍的に実施できるもので はない。

また、 近年の細胞生物学の進歩から、 血管透過性に関与する因子として VEGF (Vascu l ar Endo the l i a l Growt h Fac tor) が、 網膜色素上皮細胞が産生するある いは網膜色素上皮細胞に関与する因子として IL ( Inte r l eukin ) - 1や IL- 6、 IL- 8、 TNF (Tumor Necros i s Fac t or ) 、 GM-CSF (Granu l ocyt e-Macrophage C olony Stimulating Factor) 、 M-CSF (Macrophage Colony Stimulating Factor) , MCP (Monocyte Chemo tactic Protein) 、 bFGF (Basic Fibroblast Growth Fact or) 、 TGF-)3 (Tumor Growth Factor- ;3あるいは Transforming Growth Factor - β ) などが見いだされてはいるが、 抗 VEGF抗体や、 TGF-)3などのヒト臨床への応 用への試みはまだ始まったばかりであり、 網膜浮腫、 特に嚢胞様黄斑浮腫に対し ての効果については不明である。

上述したように、 網膜浮腫、 特に嚢胞様黄斑浮腫は視力低下を引き起こす重篤 な状態であるにもかかわらず、 十分な治療法あるいは薬物療法が確立されている とはいえない状況にあり、 今後更に新たな治療法または予防療法の確立が望まれ ている。

本発明の目的は、 未だ十分な治療法および薬物療法が確立されていない網膜浮 腫、 特に嚢胞様黄斑浮腫の治療法または予防療法として、 産業上および医療上有 用な新規な網膜浮腫、 特に嚢胞様黄斑浮腫治療剤を提供することにある。 発明の開示

本発明は、 インターフェロンを有効成分とする網膜浮腫、 特に嚢胞様黄斑浮腫 治療剤である。 発明を実施するための最良の形態

本発明に用いられるインターフェロンは"、 β、 Ύ , コンセンサスあるいはハ イブリツド型のいずれでも良く、 また由来も天然型、 遺伝子組換え型あるいは化 学合成型のいずれでも良い。 好ましくは遺伝子組換え型インターフェロン /3およ び天然型イン夕一フエロン /3が用いられ、 天然型インターフェロン) 3が最も好ま しく用いられる。

遺伝子組換え型技術を利用してインターフェロンを調製する場合には、 宿主細 胞として、 CHO (チャイニーズハムスター卵巣） 細胞、 マウス C 127細胞な どの哺乳動物細胞、 カイコ、 夜盗蛾などの昆虫細胞、 大腸菌、 枯草菌、 酵母など の微生物などを用いることができる。 さらに、 マウス、 ラット、 ハムスター、 ゥ サギ、 ャギ、 ヒッジ、 ブ夕、 ゥシなどを用いることができる。 このようにして調製されたインターフェロンは、 原料となる細胞培養上清、 虫 体抽出液、 菌抽出液、 生体抽出液から種々のクロマトグラフィーにより、 精製分 離することができる。 用いるクロマトグラフィーはイン夕一フエロンに親和性を 有するものであればいずれでも良いが、 例えば、 二酸化ケイ素 （シリカ） やリン 酸カルシウム、 金属キレートカラム、 イオン交換カラム、 ゲル濾過カラムなどで ある。

一方、 天然型イン夕一フエロン 3を調整する場合には、 通常ガラスもしくはプ ラスチックなどの表面、 または D E A E化デキス卜ランのマイクロキヤリア一表 面上などで培養されたイン夕一フエロン 3産生細胞を、 例えば、 Po ly I ： Cのよ うな合成二本鎖 R N Aによる誘発処理と、 続いて行う超誘発処理 （例えばシクロ へキシミドとァクチノマイシン Dの組合せによる代謝阻害法または紫外線照射法 など） に付した後、 細胞を培養液中に 2 0〜4 8時間培養することにより、 この 培養液中に産生され、 インタ一フエロン /3を含有する産生液として取得される。 このようにして得られた産生液中のィンターフェロン /3は、 一般的に低濃度で あり、 この産生液にはインターフェロン の他に細胞由来または添加物由来の多 くの夾雑物を含んでいるので、 医療に用いるにはインターフェロン /3を濃縮精製 することが必要である。 インタ一フエロン /3の濃縮精製法としては、 特に限定さ れないが、 ブルー色素を結合させた不溶性担体および金属キレート基結合担体を 用いるクロマトグラフィーによる方法が好ましい。 すなわち、 粗インターフエ口 ン /3含有液を、 ブルー色素を結合させた不溶性担体と接触させた後、 溶出液を用 いて該ィンターフェロン /3を溶液として回収し、 ついでこのインタ一フエロン )3 溶液を亜鉛などの金属をキレ一ト化させたキレート基結合担体に接触させた後、 溶出液を用いて回収し、 濃縮精製されたインタ一フエロン /3を得るという方法で ある。

本発明に用いるイン夕一フエロンは、 そのままもしくは自体公知の薬理学に許 容される担体、 陚形剤などと混合した医薬組成物として、 経口または非経口的に 投与することができる。

経口投与のための剤型としては、 具体的には錠剤、 丸剤、 カプセル剤、 顆粒剤、 シロップ剤、 乳剤、 懸濁剤などが挙げられる。 かかる剤型は、 自体公知の方法に よって製造され、 製剤分野において通常用いられる担体もしくは賦形剤を含有す るものである。 例えば、 錠剤用の担体、 賦形剤としては、 ラクト一ス、 マルト一 ス、 サッカロ一ス、 澱粉、 ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。

非経口投与のための剤形としては、 例えば、 点眼剤、 軟膏剤、 注射剤、 湿布剤、 塗布剤、 坐薬、 経鼻吸収剤、 経肺吸収剤、 経皮吸収剤、 局所徐放剤などが挙げら れる。 溶液製剤は自体公知の方法、 例えば、 インターフェロンを通常、 注射剤に 用いられた無菌の水溶液に溶解、 あるいは抽出液に懸濁、 さらには乳化してリポ ソームに包埋させた状態で調製され得る。 固体製剤としては、 自体公知の方法、 例えば、 イン夕一フエロンにマンニトール、 トレハロース、 ソルビトール、 ラク ト一ス、 ダルコ一スなどを賦形剤として加え、 凍結乾燥物として調製され得る。 さらにこれを粉体化して用いることもできる。 また、 これら粉体をポリ乳酸ゃグ リコール酸などと混ぜ個体化して用いることもできる。 ゲル化剤としては、 自体 公知の方法、 例えば、 インターフェロンをグリセリン、 ポリエチレングリコール、 メチルセルロース、 カルボキシメチルセルロース、 ヒアルロン酸、 コンドロイチ ン硫酸などの増粘剤や多糖に溶解した状態で調製され得る。

いずれの製剤においても、 安定化剤としてヒト血清アルブミン、 ヒト免疫グロ ブリン、 α 2マクログロブリン、 アミノ酸などを添加することができ、 また分散 剤あるいは吸収促進剤としてィン夕一フエロンの生理活性を損なわない範囲でァ ルコール、 糖アルコール、 イオン性界面活性剤、 非イオン性界面活性剤などを添 加することができる。 また、 微量金属や有機酸塩も必要に応じて加えることがで さる。

こうして得られた精製ィンターフェロン 3標品は、 上述した剤形に製剤化され、 未だ十分な治療法および薬物療法が確立されていない網膜浮腫、 特に嚢胞様黄斑 浮腫の治療法あるいは予防療法に有用な治療剤として用いることができる。

投与量は、 患者の年齢、 体重、 投与対象疾患、 症状、 投与形態、 投与ルートな どに応じて適宜決定されるが、 一般的には 1〜 1 0 0 0 0万単位 Ζ日、 好ましく は 1 0〜 1 8 0 0万単位 Ζ日の範囲で投与される。

次に実施例を上げて本発明をさらに具体的に説明するが、 本発明はこれらに限 定されるものではない。 【実施例】

実施例 1

嚢胞様黄斑浮腫に対する効果 1 ：

右眼、 中心窩に 2 3乳頭径の脈絡膜新生血管があり、 その周囲にわずかな出 血が認められ、 また 1 . 2乳頭径の黄斑浮腫および漿液性網膜剥離を伴っていた 6 0歳の男子に、 天然型ヒトインターフェロン) 3 (東レ株式会社製 "フエロン" ） の 1 0 0万単位 日を 1日間、 3 0 0万単位 日を 2日間、 さらに 6 0 0万単位 ノ日を 4 1日間連日静脈内投与した。 その結果、 投与終了時の所見で、 脈絡膜新 生血管は縮小し黄斑浮腫および漿液性網膜剥離も縮小していた。 投与終了 1 2週 目には脈絡膜新生血管は更に縮小し、 黄斑浮腫および漿液性網膜剥離もは消失し ていた。

実施例 2

嚢胞様黄斑浮腫に対する効果 2 ：

左眼、 中心窩鼻側に脈絡膜新生血管があり、 脈絡膜新生血管耳側に出血が認め られ、 2 . 5乳頭径の黄斑浮腫および漿液性網膜剥離を伴っていた 5 9歳の男子 に、 天然型ヒトインターフェロン^ (東レ株式会社製 "フエロン" ） の 1 0 0万 単位,日を 1日間、 3 0 0万単位ノ日を 2日間、 さらに 6 0 0万単位 日を 3 9 日間連日静脈内投与した。 その結果、 投与終了時の所見で、 脈絡膜新生血管は縮 小し黄斑浮腫および漿液性網膜剥離も縮小していた。 投与前に見られた出血は縮 小していたが、 新たな出血が鼻側上方に認められた。 投与終了 1 2週目には脈絡 膜新生血管は縮小したままで、 出血、 黄斑浮腫および漿液性網膜剥離は消失して いた。 また視機能は改善していた。 産業上の利用可能性

本発明のィン夕一フエロンを有効成分とする治療剤は、 未だ十分な治療法およ び薬物療法が確立されていない網膜浮腫、 特に嚢胞様黄斑浮腫の治療あるいは予 防法に有用な治療剤として用いることができる。

Claims

請求の範囲

1 . インターフェロンを有効成分とすることを特徴とする網膜浮腫治療あるいは 予防剤。

2 . インターフェロンが天然型である請求項 1に記載の網膜浮腫治療あるいは予 防剤。

3. インタ一フエロンが /3型ィンターフェロンである請求項 1に記載の網膜浮腫 治療あるいは予防剤。

4. 網膜浮腫として嚢胞様黄斑浮腫に用いられる請求項 1〜 3のいずれかに記載 の網膜浮腫治療あるいは予防剤。

5. インターフェロンを投与することを特徴とする網膜浮腫の治療もしくは予防 方法。

6. ィンターフェ口ンが天然型である請求項 5に記載の網膜浮腫の治療もしくは 予防方法。

7. インタ一フエロンが /3型ィンタ一フエロンである請求項 5に記載の網膜浮腫 の治療もしくは予防方法。

8. インタ一フエロンの投与量が 1〜 1 0 0 0 0万単位/日である請求項 5に記 載の網膜浮腫の治療もしくは予防方法。

9. 網膜浮腫として嚢胞様黄斑浮腫に用いられる請求項 5〜 8のいずれかに記載 の網膜浮腫の治療もしくは予防方法。