明細書 新規な 2級アルコール脱水素酵素、 該酵素の製造方法、 及び該酵素を用いたアルコール、 ケトンの製造方法 技術分野
本発明は、 アルコール、 アルデヒド、 ケトンの製造、 特に光学活性アルコール の製造に有用な新規な 2級アルコール脱水素酵 、 該酵素の製造方法、 及び該酵 素を用いてアルコール、 アルデヒド、 ケトン、 特に光学活性アルコールを製造す る方法に関する。 背景技術
微生物の生産するフエニルエタノールなど 2級アルコールの脱水素酵素として は、 補酵素としてニコチンアミ ドアデニンジヌクレオチドリン酸 (以下、 NAD P +と略す) を要求するラク卜バチルス ·ケファー (Lactobacillus kefir) 由来 の 2級アルコール脱水素酵素 (特閧平 4- 330278 ^公報) やサ一モアナエロビゥム 'ブロツキー (Thermoanaerobium brockii) 由来のアルコール脱水素酵素 (J.Am .Chem.Soc. 108, 162-169 (1986)) が知られている。 また、 補酵素として NAD +を要求する 2級アルコール脱水素酵素としては、 ピキア ·エスピー NRRL- Y- 113 28 (Pichia sp. NRRL-Y-11328: Eur. J.Biochem. 101, 401-406 (1979)) 、 シユー ドモナス ·エスピー SPD6 (Pseudomonas sp. SPD6: Bioorg.Chem. 19, 398-417( 1991)) 、 シュ一ドモナス · フルォレツセンス NRRL B-1244 (Pseudomonas fluor escens NRRL B-1244:特開昭 59- 17982号公報) 、 シュ一ドモナス 'マルトフイラ MBllL (Pseudomonas maltophilia MBllL: FEMS Microbiol. Lett. 93, 49-56 (19 92)) 、 シュ一ドモナス ·エスピー PED (Pseudomonas sp. PED: J.Org.Chem. 57 , 1526-1532 (1992)) 、 シュ一ドモナス 'エスピー ATCC 21439 (Pseudomonas s
p. ATCC 21439: Eur. J.Biochem. 119, 359-364 (1981)) 、 キャンディダ .ボイデ ィニー SAH (Candida boidinii SAHM: Biochim.Biophys.Acta 716, 298-307(19 92)) 、 ミコバクテリゥム ·バカェ JOB- 5 (Mycobacterium vaccae JOB- 5: J. Gen .Microbiol. 131, 2901-2907 (1985)) 、 ロ ドコッカス . ロ ドクロウス PNKbl (R hodococcus rhodochrous PNKbl: Arch. icrobiol. 153, 163-168 (1990)) 、 コマ モナス ·テリゲナ (Comamonas terrigena: Biochim.Biophys.Acta 661, 74-86 ( 1981)) 、 アースロバクタ一 'エスピー SBA (Arthrobacter sp. SBA: 特開昭 5卜 57882号公報) 及びキャンディダ ·パラプシロシス IF0 1396 (Candida parapsil osis IFO 1396:特開平 7-231789号) が報告されている。
しかし、 これらの 2級アルコール脱水素酵素の立体選択性は満足できるもので はない。 たとえば、 2級アルコール脱水素酵素の基質として最も報告の多い 2— ブ夕ノールに対して、 (S) — 2—ブ夕ノ一ルを立体選択的に酸化し、 2—ブ夕 ノンを生成する活性を有することが報告されている酵素は、 キャンディダ ·パラ プシロシス IF0 1396由来の 2級アルコール脱水素酵素のみである (シユードモナ ス 'エスピー ATCC 21439、 シュ一ドモナス 'エスピ一 SPD6、 コマモナス ' テリ ゲナ、 キャンディダ ·ボイディ二一 SAHM、 ビキア ·エスピー NRRL-Y- 11328 が産 生する酵素においては R体が優先的に酸化され、 シユードモナス · フルォレツセ ンス NRRL B-1244 が産生する酵素においては立体選択性を示さず、 ミコバ クテ リウム 'バカェ JOB- 5、 ロドコッカス · ロドクロウス PNKbl、 シユードモナス - エスピー PED、 シユードモナス 'マルトフイラ MB11L が産生する酵素においては その立体選択性は記載されていない) 。 なお、 パン酵母 (Saccharomyces cerevi siae) 由来の 1級アルコール脱水素酵素 (SADH I) が 2—ブ夕ノールの S体を優 先的に酸化するという報告はあるが (Arch. Biochem. Biophys. 126, 933-944 ( 1968), J. Biol. Chem. 268, 7792-7798 (1993)) 、 その相対活性はエタノールの 1%程度と極めて低く、 到底実用に耐えられるものではない。 このような状況か ら、 高い立体選択性と広い基質特異性を持った 2級アルコール脱水素酵素を見い
だすことが求められていた。 発明の開示
我々は、 ゲォトリカム 'キャンディダムがラセミ体 1 , 3—ブタンジオールに 作用し、 その (S) —体のみを立体選択的に酸化し、 4ーヒドロキシ 2—ブ夕ノ ンを生成することにより、 (R) — 1 , 3—ブタンジオールを残存させる能力を 有すること (特公平 6— 9595 1号公報) に若目し、 ゲォトリカム .キャンデ ィダムが生産する (S) — 1 , 3—ブタンジオール脱水素酵素を精製し、 その酵 素化学的性質を検討した結果、 (S) — 1, 3—ブタンジォ一ルだけでなく、 ( S) —フヱニルェ夕ノール、 (S) — 3—ヒ ドロキシ一酪酸エステル、 (S) — 2—ォク夕ノールなどに対して S体を優先的に酸化する高い立体選択性を有する ことを見出し、 本発明を完成するに至った。
即ち、 本発明は、 次の (1) 〜 (3) に示す理化学的性質を有する酵素に関する
(1) 作用
NAD+ (ニコチンアミ ドアデニンジヌクレオチド) を補酵素として、 アルコール を酸ィ匕し、 ケトン又はアルデヒドを生成する。 また、 NADH (還元型ニコチン アミ ドアデニンジヌクレオチド) を補酵素として、 ケトン又はアルデヒドを還元 し、 アルコールを生成する。
(2) 基質特異性
芳香族置換を含む脂肪族アルコールを酸化反応の基質とする。 1級アルコールに 比較して 2級アルコールに対して活性が高い。 フ; 二ルェ夕ノールの (S) 体を 優先的に酸化する。
芳香族置換を含む脂肪族アルデヒド又はケトンを還元反応の基質とする。
(3) 分子量
SD S— PAGEで測定した場合、 約 51,000。 ゲル濾過で測定した場合、 約 107,
000。
本発明の酵素の上記以外の理化学的性質、 及び酵素学的性質は以下の通りであ る。
(4) 作用至適 pH
(5) 一 1 , 3—ブタンジオール酸化反応の至適 pHが 8.0〜9.0であり、 4—ヒド 口キシー 2—ブ夕ノン還元反応の至適 pHが 7.0である。
(5) 安定 pH範囲
pH9〜llの範囲で比較的安定である。
(6) 作用適温の範囲
(S) - 1 , 3—ブタンジオール酸化反応の ¾適温度は 55°Cである。
(7) 安定性
30°Cまで比較的安定である。
(8) 阻害
S H試薬であるパラクロロ水銀安息香酸 (PCMB: p-chloromercuribenzoic acid) ゃョ一ドアセトアミ ド (IAA: iodoacetamide) により完全に阻害される。 塩化水 銀、 塩化亜鉛などの重金属により阻害され、 高濃度のエチレンジアミンテトラ酢 酸や 2 _メルカプトエタノールによって阻害される。
(9) 精製方法
蛋白質の溶解度による分画 (有機溶媒による沈澱や硫安などによる塩析など) や 陽イオン交換、 陰イオン交換、 ゲルろ過、 疎水性クロマトグラフィーや、 キレー ト、 色素、 抗体などを用いたァフィ二ティークロマトグラフィーなどを適当に組 み合わせることにより精製することができる。 たとえば、 酵母菌体を破砕後、 プ 口夕ミン硫酸処理、 硫安沈澱、 DEAE—トヨパール陰イオン交換クロマトグラ フィ一、 ブル一セファロ一ス 'ァフィ二ティークロマトグラフィー、 プチルート ョパール疎水クロマトグラフィー、 T SKG 3000 SWゲルろ過、 モノ Q陰ィ オン交換クロマ卜グラフィ一を行うことによりポリアクリルアミ ドゲル電気泳動
的にほぼ単一バンドにまで精製することができる。
なお、 本発明において、 2級アルコール脱水素酵素活性の測定は、 リン酸力リウ ム緩衝液 (pH8.0- 50〃mol) 、 N AD+-2.5 ffloK ( S) — 1, 3—ブタンジォ一 ル- 50〃mol 及び酵素を含む反応液中 30°Cで反応させ、 NADHの生成に由来す る 340 nmの吸光度の増大を測定することにより行った。 1Uは、 1分間に l /mol の NADHの生成を触媒する酵素量とした。
なお、 ゲォトリカム属の生産する 2級アルコール脱水素酵素に関しては、 ゲォ トリカム .キャンディダムの菌体を用いた光学活性 3—ヒドロキシ酪酸エステル の製造方法は知られていたが (Helv.Chim.Acta 66, 485-488 (1983)) 、 この還元 反応に関 -する酵素の特定はされていない。 最近、 ゲォトリカム ·キャンディダ ム IF04597株のァセトンパウダーを用いた光 活性アルコールの製造方法が記載 され、 アルコール脱水素酵素の関与が指摘されているが (Tetrahedron Lett. 37 , 1629-1632 (1996), Tetrahedron Lett. 37, 5727-5730 (1996)) 、 補酵素とし て NADP+が NAD +よりもこの還元反応に効率的に作用することが記載されて おり、 また、 該酵素を特定し得るような酵素化学的性質の記載はない。 また、 ゲ オトリカム .キャンディダム SC 5469株より 4一クロロー 3—ォキソ酪酸エステル を (S) —4—クロロー 3—ヒドロキシ酪酸エステルへ還元する酵素を部分精製 したという報告があるが (Enzyme icrob.Technol. 14, 731-738 (1992)) 、 酵素 の精製度合いが低く性状の特定が困難であるとはいえ、 分子量が 95万であり、 補 酵素として NADPを要求することから、 少なくとも本発明の酵素とは明らかに異な るものである。 また、 ゲォトリカム 'エスピー WF9101株の 2級アルコ一ル脱水素 酵素に関して rBiosci. Biotech. Biochem. 60, 1191-1192 (1996)」 に記載がある が、 酵素の精製方法、 精製酵素の分子量や至適 pH、 至適温度などの酵素化学的 性質に関しては明らかになっていない。
また、 本発明は、 次の (1) ~ (3) に示す理化学的性質を有する酵素をコード する DNAに関する。
(1) 作用
NAD+ (ニコチンアミ ドアデニンジヌクレオチド) を補酵素として、 アルコール を酸ィ匕し、 ケトン又はアルデヒドを生成する。 また、 NADH (還元型ニコチン アミ ドアデニンジヌクレオチド) を補酵素として、 ケトン又はアルデヒドを還元 し、 アルコールを生成する。
(2) 基質特異性
芳香族置換を含む脂肪族アルコールを酸化反応の基質とする。 1級アルコールに 比較して 2級アルコールに対して活性が高い。 フヱニルエタノールの (S) 体を 優先的に酸化する。
芳香族置換を含む脂肪族アルデヒド又はケトンを還元反応の基質とする。
( 3 ) 分子量
SDS— PAGEで測定した場合約 51, 000。 ゲル濾過で測定した場合約 107, 000。 本発明の DN Aは、 以下のレプリカを用いた活性染色法により、 当業者が容易 に調製することができる。
ゲォトリカム属に属し、 2級アルコール脱水素酵素生産能を有する微生物を培養 し、 細胞壁分解酵素によりスフヱ口プラス卜とし、 通常の方法 (例えば J.Biol · Chem. 268, 26212-26219 (1993), Meth. Cell. Biol. 29, 39-44 (1975)) により染 色体 DN Aを調製する。 精製した染色体 DN Aを適当な制限酵素 (HindIII, Eco RI, BamHI, Sau3AIなど) により完全もしくは部分消化し、 2〜8 kb程度の DNA 断片を大腸菌の発現ベクター、 例えば、 PUC18 (宝酒造製) 、 PKK223- 3 (フアルマ シァ製) 、 pET誘導体 (宝酒造など) 、 pMAL-p2 (NEB製) などに導入し、 得られ た組換えプラスミ ドで大腸菌 (ェシヱリヒア 'コリ JM109株など) を形質転換し 、 得られた形質転換株をプラスミ ドに応じた抗生物質 (例えば/?一ラク夕マーゼ 遺伝子を持つプラスミ ドではアンピシリンを 50 mg/L) を含む LB培地 (Bacto - T ryptone 10 g, Bacto - Yeast extract 5 g, 塩化ナ卜リウム 10 g, Bacto - Agar 1 5 g/L) などのプレート上で培養し、 適当な誘導物質 (例えば、 lac, trp,trcプロ
モー夕一では IPTG) などの添加や温度上昇などにより酵素遺伝子を発現させる。 得られた形質転換株のコロニーをプレートから濾紙などに写し取り (これをレ プリカという) 、 このレプリカ上でリゾチームやクロ口ホルムなどにより菌を溶 菌させ (例えば、 10 mg/mい Jゾチーム中で室温 30分程度放置する) 、 (S ) — 1 , 3—ブタンジオールなどの基質と、 N A D T、 フエナジンメ トサルフエ一卜 (P MS), ニトロブル一テトラゾリゥム (NBT ) を含む反応液 (例えば、 100 mM ( S )-l ,3 -ブタンジオール、 1 .3 mM NAD+、 0. 128 mM PMS、 0.48 mM NBTを含む反応液) に レプリカを浸し、 反応させることにより、 ゲォトリカム属由来の 2級アルコール脱 水素酵素生産能をプラスミ ドにより付与された形質転換株のみが紫色を呈する。 宿主として利用する大腸閑 JM109株、 HB101株、 及び pUC18、 pKK223- 3などのプラス ミ ドにより形質転換された大腸菌は (S )- 1 , 3-ブタンジオール脱水素酵素活性を有 せず、 レプリカを用いた活性染色法では紫色に染色されない。
呈色反応を示した形質転換株よりプラスミ ドを調製し、 挿入された D N Α断片 を部分的に欠失させたプラスミ ドを制限酵素消化ゃェンドヌクレアーゼにより調 製し、 欠失プラスミ ドで形質転換された大腸菌が 2級アルコール脱水素酵素生産能 を有するかどうかをレプリカ法により調べることにより、 2級アルコール脱水素酵 素遺伝子をコードする D N Aの領域を特定することができる。 特定された D N A 領域の塩基配列を解析し、 開始コドン、 終止コドン、 翻訳産物の分子量などから オープンリーディングフレームを特定することにより、 ゲォ卜リカム属の生産す る 2級アルコール脱水素酵素をコードする D N Aをクローニングすることができ る。
なお、 上記クローニングに際して遺伝子源として使用される 2級アルコール脱 水素酵素生産能を有する微生物としては、 2級アルコール脱水素酵素生産能を有 するゲオトリカム属に属するすべての菌株、 突然変異株、 変種などを含む。 それ らのうち特に好ましい菌株は、 ゲォトリカム 'キャンディダム IF0 4601, IF0 5 368, IF0 5767、 ゲォトリカム 'キヤピテ一タム (Geotrichum capitatum) JC 3
908、 ゲォトリカム ·エリエンス (Geotrichum eriense) JCM 3912、 ゲォトリカム • フラグランス (Geotrichum fragrans) JCM 1794、 ゲォトリカム ·クレバー二一 (Geotrichum klebahnii ) JCM 2171、 ゲォトリカム · レク夕ングレイ夕ム (Geo trichum rectangulatum ) JCM1750, ゲォトリカム · ファーメン夕ンス (Geotric hum fermentans ) IFO 1199, CBS 2143 などがあげられる。
ゲォトリカム属の生産する 2級アルコール脱水素酵素をコードする D N Aが大腸 菌内で機能的に発現することは、 ゲォトリカム属由来のリパーゼ遺伝子のクロ一 二ングにおいて、 オープンリ一ディングフレームに付随してクローニングされた 制御領域が大腸菌により正しく認識され、 リパーゼ遺伝子が正常に発現し、 リパ —ゼ活性が発現したことが報告されていること (欧州特許第 2 4 3 3 3 8号明細 書) 、 従来報告されているゲォトリカム属 ώ来の遺伝子にはイントロンが含まれ ていないこと (J. Biochem. 113, 776-780 ( 1993 ) ) などから、 十分な蓋然性があ る。 また、 大腸菌における発現べクタ一、 例えば、 pUC18、 pKK223- 3、 pET、 pMAL - p2などを用い、 プロモ一夕一の下流に順方向にオープンリ一ディングフレームを 連結すれば、 ゲォ卜リカム属由来の 2級アルコール脱水素^素を直接もしくは融合 タンパク質として発現可能である。
なお、 ゲオトリカム属の 2級アルコール脱水素酵素遺伝子が大腸菌において大腸 菌の機能するプロモー夕一の下流に正しく配置されていても機能的に発現できな い可能性 (遺伝子中にイントロンを含む場合など) も考えられるが、 このような 場合には、 染色体 D N Aをランダムに大腸菌のプラスミ ドに挿入せず、 ゲォトリ カム属よりメッセンジャ一 R N A (以下、 mRNAと略す) を調製し、 mRNAから逆転 写酵素などを利用して c D N Aを調製し、 c D N Aを大腸菌や酵母の発現べク夕 一に導入することにより機能的に発現させることができる。 このとき、 酵母の宿 主べクタ一系としては、 サッカロミセス 'セレビシェ ( Saccharomyces cerevisi ae) などを利用できる。 サヅカロミセス 'セレピシェ AB 1380, INVSc2, BJ2168株 などは何れも (S)-l,3 -ブタンジオール脱水素酵素活性を有せず、 レプリカを用い
た活性染色法で染色されない。 なお、 酵母においてレプリカを用いた活性染色法 を行う際には、 大腸菌における溶菌酵素であるリゾチームの代わりにザィモリア ーゼ (Zymnolyase ) を用いる必要があるが、 それ以外は大腸菌の方法をそのまま 利用できる。
本発明の酵素、 または、 該酵素を産生する形質転換体もしくはその処理物を、 ケトンまたはアルデヒドに作用させ、 該ケトンまたはアルデヒドを還元してアル コールを製造することができる。 また、 本発明の酵素の広い基質特異性と高い立 体選択性を利用して、 本発明の酵素、 または、 該酵素を産生する形質転換体もし くはその処理物を、 非対称ケトンに作用させ、 該非対称ケトンを還元して光学活 性アルコールを製造することができる。 例えば、 4 —ヒ ドロキシー 2 —ブ夕ノン からの (S ) — 1 , 3—ブタンジオール、 ァセトフエノンからの (S ) —フエ二 ルエタノール、 2—ブ夕ノンからの (S ) _ 2—ブ夕ノール、 2—ォク夕ノンか らの (S ) — 2—ォク夕ノール、 3 —ォキソ一酪酸エステルからの (S ) — 3— ヒドロキシ酪酸エステル、 4—クロ口— 3—ォキソ酪酸エステルからの (R ) — 4 一クロ口— 3—ォキソ酪酸エステルなどの光学活性アルコールの生産を行うこ とができる。
更に、 本発明の酵素、 または、 該酵素を産生する形質転換体もしくはその処理 物をアルコールに作用させ、 該アルコールを酸化してケトンまたはアルデヒドを 製造することができる。
更に、 本発明の酵素、 または、 該酵素を産生する形質転換体もしくはその処理 物は、 ラセミ体アルコールを基質として、 2級アルコール脱水素酵素の不斉酸化 能を利用した光学活性アルコールの生産にも利用できる。 即ち、 本発明の酵素に よって、 光学活性体の一方を優先的に酸化し、 残存する光学活性アルコールを取 得することにより、 光学活性アルコールが生産される。 例えば、 (R S ) — 1 , 3—ブタンジオールから (R ) - 1 , 3—ブタンジオール、 (R S ) —フエニル エタノールから (R ) —フエニルエタノール、 (R S ) —3—ヒドロキシ酪酸ェ
ステルから (R) — 3—ヒ ドロキシ酪酸エステル、 (RS) 4—クロ口一ー3— ヒ ドロキシ酪酸エステルから (S) _ 4—クロ口一 3—ヒ ドロキシ酪酸エステル などを得ることができる。
なお、 本発明において、 酵素とは、 精製酵素に限定されず、 粗精製物等も含ま れる。 また、 本発明において、 形質転換体の処理物とは、 本発明の酵素をコード する遺伝子を導入され、 該遺伝子が機能的に発現した異種生物を、 アセ トン沈殿 、 凍結乾燥、 機械的並びに酵素的方法による細胞壁の破砕、 界面活性剤、 有機溶 媒などにより細胞壁の透過性を変化させたものなどをいう。 異種生物の宿主とし ては、 例えば、 イシエリキア属 (Escherichia) 、 バチルス属 (Bacillus) 、 セラ チア属 (Serratia) 、 シユードモナス厲 (Pseudomonas) 、 ブレビパクテリゥム属 (Brevibacterium) 、 コ 'リネノ、'クテリゥム厲 (Corynebacterium) 、 ス 卜レプ卜コ ッカス属 (Streptococcus) 、 ラク トバチルス属 (Lactobacillus) 、 サッカロミ セス (Saccharomyces; 、 ク レイべ口ミセス属 (Kluyveromyces) 、 シゾ'サッカ 口;セス (Schizosaccharomyces) 、 ナコサヅカロミセス属 (Zygosaccharomyc es) 、 ャロウィァ属 (Yarrowia) 、 トリコスポロン属 (Trichosporon) 、 口 ドス ポリディウム属 (Rhodosporidium) 、 ハンセヌラ属 (Hansemila) 、 ピキア属 (P ichia) 、 カンジダ属 (Candida) 、 ノィロスポラ属 (Neurospora) 、 ァスペルギ ルス属 (Aspergillus) 、 セファロスポリゥム属 (Cephalosporium) 、 トリコデル マ属 (Trichoderma) などが挙げられる。
2級アルコール脱水素酵素による酸化反応に付随して NAD +から生成する NA DHの、 NAD'への再生は、 微生物の含有する NADHから NAD +を再生する 酵素 (系) によって行ってもよいし、 NADHから NAD +を生成する能力を有す る微生物もしくは酵素、 たとえば、 グル夕ミン酸脱水素酵素、 N AD Hォキシダ ーゼ、 NAD H脱水素酵素などを反応系に添加することにより行ってもよいし、 本発明の酵素の基質特異性を利用して反応系にァセトンなど還元反応の基質を添 加して 2級アルコール脱水素酵素自身により NADHからの NAD +の再生を同時
に行ってもよい。
また、 還元反応に付随して NAD Hから生成する NAD +の、 NAD Hへの再生 は、 微生物の持つ NAD +還元能 (解糖系など) を用いて行うことができる。 これ ら N A D +還元能は、 反応系にグルコースやェ夕ノ一ルを添加することにより増強 することが可能である。 また、 NAD+から NADHを生成する能力を有する微生 物やその処理物、 酵素を反応系に添加することによつても行うことができる。 た とえば、 ギ酸脱水素酵素、 グルコース脱水素酵素、 リンゴ酸脱水素酵素を含む微 生物、 その処理物、 ならびに精製酵素を用いて NAD Hの再生を行うことができ る。 また、 本発明の 2級アルコール脱水素酵素の性質を利用して、 反応系にイソプ ロバノールなど本発明の酵素の酸化反応の基質を添加することにより、 2級アルコ ール脱水素酵素自身を用いて NADHの再生を行うこともできる。 図面の簡単な説明
図 1は、 精製 2級アルコール脱水素酵素のドデシル硫酸ナトリウム—ポリアク リルアミ ドゲル電気泳動におけるパターンを示す図である。 レーン 1は精製 2級 アルコール脱水素酵素、 レーン 2は分子量マーカーを示す。
図 2は、 2級アルコ一ル脱水素酵素の精製工程を示す図である。
図 3は、 2級アルコール脱水素酵素の、 (S) — l, 3—ブタンジオール酸化 反応の pH依存性を示す図である。
図 4は、 2級アルコール脱水素酵素の、 4ーヒドロキシー 2—ブ夕ノン還元反 応の p H依存性を示す図である。
図 5は、 2級アルコール脱水素酵素の (S) — 1, 3—ブタンジオール酸化反 応の温度依存性を示す図である。
図 6は、 2級アルコール脱水素酵素を各 pHにおいて 30°C、 30分処理した 後の残存活性を示す図である。
図 7は、 2級アルコール脱水素酵素を各温度で 10分処理した後の残存活性を
示す図である。 発明を実施するための最良の形態
以下、 実施例により本発明を更に詳しく説明するが、 本発明はこれに限定され るものではない。
[実施例 1 ] ( 2級アルコール脱水素酵素の精製)
ゲォトリカム 'キャンディダム IF0 4601 株を YM培地 (グルコース 1 0 g, パクトペプトン 5 g, 酵母エキス 3 g, 麦芽エキス 3 g/L, pH 6.0) で培養し 、 遠心分離により菌体を調製した。 得られた湿菌体を超高圧細胞破砕装置により 破碎後、 遠心分離により菌体残渣を除去し、 無細胞抽出液を得た。 この無細胞抽 出液にプロタミン硫酸を添加し、 核酸及びミクロゾームを除去した。 遠心分離に より得られた上清に、 硫安を添加して 3 0%〜 7 0 %飽和において沈澱した画分 を回収した。 更に、 D EAE—トヨパールを用いたァニオン交換クロマトグラフ ィ一を行い、 塩化ナトリゥムの濃度勾配溶出を行い、 2級アルコール脱水素酵素活 性を有するピークを回収した。 得られた画分をブルー一セファロースのァフィ二 ティ一カラムに添加し、 素通り画分を回収した。 この素通り画分をブチルートヨ パールを用いて疎水クロマトグラフィーを行い、 3 3 %硫安飽和〜 0 %までの勾 配溶出を行い、 2級アルコール脱水素酵素の活性ピークを回収した。 この両分を更 に T S Kゲル G 3 0 0 0 の!!? Cゲルろ過により精製した。 活性両分を更 にモノ Q (Mono Q)を用いた陰イオン交換クロマトグラフィ一により精製した。 得られた 2級アルコール脱水素酵素標品は、 ポリアクリルアミ ドゲル電気泳動 において 2本のバンドを生成し、 活性染色の結果、 移動度の小さいバンドが 2級ァ ルコール脱水素酵素であることが明らかになった。 このバンドの分子量は、 51,0 00 であった (図 1 )。 また、 T SKゲル G 3 0 0 0 SWXLの分析用ゲルろ過力 ラムを用いて精製酵素の分子量を測定したところ、 107,000 であった。 精製の要 約を図 2に示す。 精製酵素の比活性は、 22.1 U/mg-タンパク質であった。
[実施例 2 ] ( 2級アルコール脱水素酵素の至適 p H)
カリウム一リン酸緩衝液 ( K P B ) 、 トリスー塩酸緩衝液( Tr i S- HC 1 )、 ブリッ トン一ロビンソン緩衝液を用いて p Hを変化させて、 2級アルコール脱水素酵素 の、 (S) — l , 3—ブタンジオールの酸化活性、 4ーヒドロキシ一 2—ブ夕ノ ンの還元活性 [NAD^ をNADH(0.4〃mol) に変えた以外は (S) — 1 , 3— ブタンジオール酸化活性測定と同じ条件で測定] を、 NAD Hの減少にともなう 340nm の吸光度の減少を測定することによって調べた。 最大活性を 1 00とした 相対活性で表し、 図 3、 4に示した。 反応の ¾適 p Hは、 ( S ) _ 1, 3—ブ夕 ンジオール酸化反応が 8.0〜9.0 (図 3) 、 4—ヒドロキシ一 2—ブ夕ノンの還元 反応が 7.0 (図 4) であった。
[実施例 3 ] (2級アルコール脱水素酵素の作用至適温度)
2級アルコール脱水素酵素活性を標準反応条件のうち温度だけを変化させて測 定し、 最大活性を 1 00とした相対活性で表し、 図 5に示した。 ( S ) — 1, 3 一ブタンジオール酸化の至適温度は 55 °Cであった。
[実施例 4 ] (2級アルコール脱水素酵素の p H安定性)
トリス一塩酸緩衝液 pH8.0〜9.0、 ブリツ トン—ロビンソン緩衝液 pH5.0〜12. 0中で 30°C、 30分間処理後の残存活性を測定し、 最火活性を 1 00とした相対活 性で表し、 図 6に示した。 pH9.0〜11.0 において最も安定であった。
[実施例 5 ] (2級アルコール脱水素酵素の温度安定性)
2級アルコール脱水素酵素を pH8.0 で 10分問放置した後、 残存活性を測定し 最大活性を 1 00とした相対活性で表し、 図 7に示した。 30°Cにおける残存活性 が 5 1 %程度であった。
[実施例 6 ] (2級アルコール脱水素酵素の基質特異性)
2級アルコール脱水素酵素を種々のアルコール、 アルデヒ ドと反応し、 その酸 化、 還元反応の活性を (S) — 1 , 3—ブタンジオールの酸化、 4ーヒドロキシ 一 2—ブ夕ノンの還元を 100とした相対活性で表し、 表 1に示した。
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表 1 δ 3¾ 基質濃度 補酵累 相対活性
(m ) (¾)
酸化反応
(S)-l, 3-ブタンジオール 50 NAD+ 100
50 NADP+ 2. 4
00- 1, 3-ブタンジオール , 50 NAD+ 8. 8
(S) -卜フエニルエタノール 50 NAD+ 267
00-1-フェニ^;レエ夕ノール 50 NAD+ 19. 2
(S) - 2-ォクタノール 5 NAD+ 187
00-2-ォクタノール 5 NAD+ 13. 3
(S) - 3-ヒドロキシ酪酸メチルエスヲ 50 NAD+ 138
00 - 3-ヒドロキシ酪酸メチルエスヲ 50 NAD+ 22. 1
(RS〉-2-ブタノール 100 NAD+ 85. 9
(S) -2-ブ夕ノール 50 NAD+ 112
(R) - 2-ブタノール 50 NAD+ 60. 0
(S)-l. 2 -プロパンジオール 50 NAD+ 23. 8
(R) - 1, 2-プロパンジオール 50 賺 10. 4
2-プロパノール 100 NAD+ 96. 8 シクロへキサノール 20 NAD+ 90. 4 メタノール 100 NAD+ 60. 8 エタノール 100 NAD+ 10. 7 ァリルアルコール 100 NADt 18. 7
1-プロパノール 100 NAD+ 15. 5
1-ブタノ一ル 100 NAD+ 12. 9 グリセロール 50 NAD+ 0
還元反応
4 -ヒドロキシ -2-ブ夕ノン 20 NADH 100
20 NADPH 0
アセトン 100 NADH 164
ァセ卜フエノン 20 NADH 122
ァセ卜酢酸ェチルエステル 100 NADH 96. 8
2-ブタノン 100 NADH 20. 2
[実施例 7 ] (2級アルコール脱水素酵素の阻害剤に対する挙動)
2級アルコール脱水素酵素を種々の試薬中で 3 0 °C、 1 0分間処理し、 残存活 性を表 2に示した。
15 表 2 阻害剤 濃度( ) 残存活性(%)
エチレンジァミン 4醉酸 1.0 63.5
10 9.8
塩化亜鉛 1.0 0.9
塩化コバルト 1.0 81.0
硫酸銅 1.0 71.5
P-クロ口水銀安息香酸 0.05 0.0
ョードアセトアミド 1.0 2.4
ジチオスレィトール 1.0 42.9
2-メルカプトエタノール 0.01¾ 6.8
塩化水銀 1.0 0.0 ョードアセトアミ ド、 パラクロロ水銀安息香酸、 塩化水銀、 塩化亜鉛、 高濃度 の金属キレ一夕一、 2—メルカプトエタノールによって顕著に阻害された。
[実施例 8 ] 酵素反応論的解析
精製した 2級アルコール脱水素酵素の各種基質に対する反応速度定数を測定した 結果、 (S )-l , 3 -ブタンジオールに対する Km値は 41.4 mMであり、 Vmaxは 36.7 U/mg -タンパク質であった。 また、 (R)-l , 3 -ブタンジオールに対する Km値は 165 mM、 V maxは 4.43 U/mg -タンパク質であり、 E値は 33.0であった。 産業上の利用の可能性
広い基質特異性と、 高い立体選択性を有する 2級アルコール脱水素酵素が提供 された。 本酵素を利用することにより、 光学活性アルコールゃケトン、 特に光学 活性アルコールゃケトンの効率的な生産方法が提供された。