以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
本発明に係る細胞培養用足場材は、合成樹脂を含む、足場材(scaffold)である。上記細胞培養用足場材では、pH7におけるゼータ電位が、-60mV以上である。また、上記細胞培養用足場材は、平均径が10nm以上、5μm以下である複数の細孔を有する。
本発明の細胞培養用足場材は、上記の構成を備えるので、細胞の播種後の定着性に優れ、細胞の増殖率を高めることができる。
従来の天然高分子材料を用いた細胞培養用足場材は、播種後の細胞の定着性を高めることができるものの、高価であったり、天然由来物質であるためロット間のばらつきが大きかったり、動物由来の成分による安全上の懸念があったりする。一方で、合成樹脂を用いた足場材では、合成樹脂が過度に膨潤したり、細胞との親和性が低かったりするので、培養中に細胞塊が剥離してしまうことがある。従って、合成樹脂を用いた足場材は、細胞の播種後の定着性が低く、細胞が十分に増殖しないことがある。
これに対して、本発明に係る細胞培養用足場材は、pH7におけるゼータ電位が、-60mV以上である。
さらに、本発明者らは、このような細胞培養用足場材の構造に着目し、平均径が10nm以上、5μm以下である複数の細孔を有することにより、細胞の増殖率を高め得ることを見出した。
この理由については定かではないが、上記のように平均径が特定の範囲にある複数の細孔が設けられた構造とすることにより、細孔が設けられていない部分である細胞の接着部分と、細孔が設けられている部分である細胞の非接着部分との双方を形成することができる。そのため、細胞の接着部分において細胞の定着性を維持しつつ、細胞が自由に動くことが可能となる。従って、細胞の遊走能を高め、細胞の増殖能を高めることができるものと考えられる。
従って、本発明の細胞培養用足場材によれば、播種後の細胞との接着性を高めることができ、細胞の増殖率を高めることができる。
また、本発明においては、上記のように合成樹脂を用いることができるので、天然高分子材料を用いた足場材と比べて、操作性がよく、安価であり、ロット間のばらつきが小さく、かつ安全性に優れている。
本発明の細胞培養用足場材は、動物由来の原料を実質的に含まないことが好ましい。その場合、細胞培養用足場材をより一層安全性に優れたものとすることができる。なお、「動物由来の原料を実質的に含まない」とは、細胞培養用足場材中における動物由来の原料が、3重量%以下であることをいう。もっとも、本発明の細胞培養用足場材は、動物由来の原料を全く含まないことがより好ましい。
本発明の細胞培養用足場材において、細孔の平均径は、好ましくは50nm以上、より好ましくは200nm以上、さらに好ましくは500nm以上、好ましくは4.5μm以下、より好ましくは4μm以下、さらに好ましくは3.5μm以下である。細孔の平均径が上記範囲内にある場合、細胞の播種後の定着性をより一層高め、細胞の増殖率をより一層高めることができる。
また、本発明の細胞培養用足場材において、細孔の単位面積当たりの数は、好ましくは0.01個/μm2以上、より好ましくは0.1個/μm2以上、さらに好ましくは1個/μm2以上、特に好ましくは10個/μm2以上、好ましくは1000個/μm2以下、より好ましくは500個/μm2以下、さらに好ましくは100個/μm2以下である。細孔の単位面積当たりの数が上記範囲内にある場合、細胞の播種後の定着性をより一層高め、細胞の増殖率をより一層高めることができる。
なお、本明細書において、細孔の平均径や数は、走査型電子顕微鏡(SEM)や、透過型電子顕微鏡(TEM)等により測定することができる。この場合、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や、透過型電子顕微鏡(TEM)等の顕微鏡観察により確認した任意の100個の細孔の孔径の平均値を、細孔の平均径とすることができる。また、細孔の単位面積当たりの数は、観察領域(5μm×5μm)内における細孔の個数を、観察領域の面積で除することにより求められる。細孔の個数は、例えば、同じ操作を10回繰り返したものの平均値とすることができる。なお、細孔の平均径や数を測定するに際しては、孔径が10nm以上、5μm以下の空孔を細孔として判断するものとする。
また、複数の細孔は、例えば、合成樹脂とアルコールとを含む溶液を、基材上に塗布し、液体窒素などで凍結させた後、凍結乾燥することにより形成することができる。この場合、アルコールの抜けた部分が細孔を形成するものと考えられる。なお、ポリビニルアセタール樹脂のような膨張し難い合成樹脂を用いた場合は、細孔の大きさをより一定にすることができるので、より一層容易に平均径の制御された細孔を形成することができる。
なお、細孔の平均径や個数は、アルコールの種類や添加量の調整、アルコールへの微量な水添加等の調整により制御することができる。
また、本発明においては、予め複数の細孔が設けられた合成樹脂を砕いて、基材上に配置することにより、細胞培養用足場材を形成してもよい。また、複数の細孔を有する粒子状、繊維状の細胞培養用足場材としてもよい。
本発明において、細胞培養用足場材のpH7におけるゼータ電位は、好ましくは-40mV以上であり、より好ましくは-35mV以上であり、さらに好ましくは-30mV以上であり、好ましくは+30mV以下であり、より好ましくは+30mV未満であり、さらに好ましくは+25mV未満である。この場合には、細胞の接着性をより一層高めることができる。
なお、細胞培養用足場材のゼータ電位は、細胞培養用足場材を溶液中に配置した場合、界面である細胞培養用足場材の表面と、細胞培養用足場材の表面から十分に離れた溶液中のバルク部分との電位差である。本明細書におけるゼータ電位の値は、細胞培養用足場材の形状に応じて、流動電位法、電気泳動法、電気浸透法等の方法を適宜選択し求めることができる。
例えば、細胞培養用足場材が膜である場合は、流動電位法により測定することができる。また、細胞培養用足場材が繊維や粒子である場合は、電気浸透法により測定することができる。
流動電位法は、例えば、アントンパール社製、ゼータ電位測定機器により測定することができる。具体的には、KCl希薄溶液中にて、後述の実施例に記載された方法により測定することができる。電気泳動法としては、例えば、ゼータ電位・粒径・分子量測定システム(大塚電子社製)を用いて、水中で光散乱することにより、測定する方法が挙げられる。
なお、ゼータ電位は、合成樹脂においてアミノ基等のカチオン性官能基の含有量を増やすことにより、高めることができる。また、ゼータ電位は、合成樹脂においてカルボキシル基等のアニオン性官能基の含有量を増やすことにより、低くすることができる。
本発明の細胞培養用足場材は、ナノインデンテーション法により測定した25℃における弾性率が、好ましくは0.01GPa以上、より好ましくは0.05GPa以上、さらに好ましくは0.1GPa以上、特に好ましくは0.5GPa以上、好ましくは5GPa以下、より好ましくは3GPa以下、さらに好ましくは1GPa以下である。弾性率が上記範囲内にある場合、細胞の接着性をより一層高めることができる。
なお、上記弾性率は、例えば、ナノインデンター(Hysitron, Tryboindenter、ブルカー社製)を用いて測定することができる。この測定において、圧子は、Berkovich(三角錐型)先端径R数100nmを用い、大気下、室温にて単一押し込み測定をし、その押し込み深さは50nmとすることができる。
また、本発明の細胞培養用足場材は、水膨潤率が、好ましくは100%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは40%以下である。この場合、播種後の細胞の定着性をより一層高めることができる。なお、水膨潤率の下限値は特に限定されないが、例えば、0.5%とすることができる。また、水膨潤率は、例えば、以下の方法により測定することができる。
まず、細胞培養用足場材を25℃の水に24時間浸漬させる。次に、細胞培養用足場材を水から取り出し、吸水材の上に静置すること等により細孔内に残った水を排出する。次に、浸漬前と浸漬後のサンプルの重さを測定し、水膨潤率=(浸漬後のサンプル重量-浸漬前のサンプル重量)/(浸漬前のサンプル重量)×100(%)を算出する。
上記水膨潤率は、例えば、上記合成樹脂の疎水性官能基を増やすこと、数平均分子量を下げること等により、小さくできる。
[合成樹脂]
本発明の細胞培養用足場材は、合成樹脂(以下、合成樹脂Xと記載することがある)を含む。なお、本明細書において、「構造単位」とは、合成樹脂を構成するモノマーの繰り返し単位をいう。なお、合成樹脂がグラフト鎖を有する場合は、そのグラフト鎖を構成するモノマーの繰り返し単位を含む。
合成樹脂Xは、構成単位中にブレンステッド塩基性基を、0.2モル%以上で含むことが好ましく、2モル%以上で含むことがより好ましく、30モル%以下で含むことが好ましく、20モル%以下で含むことがより好ましく、15モル%以下で含むことがさらに好ましい。この場合には、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。なお、ブレンステッド塩基性基等については、後述する。
(ビニル重合体)
合成樹脂Xは、ビニル重合体であることが好ましい。なお、ビニル重合体とは、ビニル基又はビニリデン基を有する化合物の重合体である。上記合成樹脂Xがビニル重合体である場合、水中における細胞培養用足場材の膨潤をより抑制しやすくすることができる。ビニル重合体としては、例えば、ポリビニルアルコール誘導体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。さらに、ビニル重合体としては、細胞との接着性をより高めやすい観点から、ポリビニルアルコール誘導体又はポリ(メタ)アクリル酸エステルであることが好ましい。
(ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂)
細胞培養用足場材は、ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂を含むことが好ましい。上記合成樹脂Xは、ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂を含むことが好ましい。
本明細書において、「ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂」を、「ポリビニルアセタール樹脂X」と記載することがある。
ポリビニルアセタール樹脂Xは、側鎖にアセタール基と、アセチル基と、水酸基とを有することが好ましい。ただし、ポリビニルアセタール樹脂Xは、例えば、アセチル基を有しなくてもよい。例えば、ポリビニルアセタール樹脂Xのアセチル基の全てが、後述するリンカーと結合することによって、ポリビニルアセタール樹脂Xがアセチル基を有していなくてもよい。
ポリビニルアセタール樹脂Xを合成する際には、ポリビニルアルコールをアルデヒドによりアセタール化する工程を少なくとも備える。
ポリビニルアセタール樹脂Xを得るためのポリビニルアルコールのアセタール化に用いられるアルデヒドは、特に限定されない。アルデヒドとしては、例えば、炭素数が1~10のアルデヒドが挙げられる。アルデヒドは、鎖状脂肪族基、環状脂肪族基又は芳香族基を有していてもよい。アルデヒドは、鎖状アルデヒドであってもよく、環状アルデヒドであってもよい。
上記アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタナール、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、アクロレイン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、ペリルアルデヒド、ホルミルピリジン、ホルミルイミダゾール、ホルミルピロール、ホルミルピペリジン、ホルミルトリアゾール、ホルミルテトラゾール、ホルミルインドール、ホルミルイソインドール、ホルミルプリン、ホルミルベンゾイミダゾール、ホルミルベンゾトリアゾール、ホルミルキノリン、ホルミルイソキノリン、ホルミルキノキサリン、ホルミルシンノリン、ホルミルプテリジン、ホルミルフラン、ホルミルオキソラン、ホルミルオキサン、ホルミルチオフェン、ホルミルチオラン、ホルミルチアン、ホルミルアデニン、ホルミルグアニン、ホルミルシトシン、ホルミルチミン、及びホルミルウラシル等が挙げられる。上記アルデヒドは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
アルデヒドは、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、又はペンタナールであることが好ましく、ブチルアルデヒドであることがより好ましい。したがって、ポリビニルアセタール骨格は、ポリビニルブチラール骨格であることが好ましい。ポリビニルアセタール樹脂Xは、ポリビニルブチラール骨格を有する合成樹脂であることが好ましく、ポリビニルブチラール樹脂であることがより好ましい。
ポリビニルアセタール樹脂Xには、ビニル化合物が共重合されていてもよい。すなわち、ポリビニルアセタール樹脂Xは、ポリビニルアセタール樹脂の構造単位とビニル化合物との共重合体であってもよい。本発明では、ビニル化合物と共重合したポリビニルアセタール樹脂も、ポリビニルアセタール樹脂というものとする。
ビニル化合物は、ビニル基(H2C=CH-)を有する化合物である。ビニル化合物は、ビニル基を有する構造単位を有する重合体であってもよい。
上記共重合体は、ポリビニルアセタール樹脂とビニル化合物とのブロック共重合体であってもよく、ポリビニルアセタール樹脂にビニル化合物がグラフトしたグラフト共重合体であってもよい。上記共重合体は、グラフト共重合体であることが好ましい。
上記共重合体は、例えば、以下の(1)~(3)の方法により合成することができる。(1)ビニル化合物が共重合されたポリビニルアルコールを用いてポリビニルアセタール樹脂を合成する方法。(2)ポリビニルアルコールと、ビニル化合物が共重合されたポリビニルアルコールとを用いてポリビニルアセタール樹脂を合成する方法。(3)グラフト共重合させる前のポリビニルアセタール樹脂にビニル化合物をグラフト共重合させる方法。
ビニル化合物としては、エチレン、アリルアミン、ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、無水マレイン酸、マレイミド、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、ビニルアミン及、又は(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。これらのビニル化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
細胞の接着性をより一層高める観点からは、ポリビニルアセタール樹脂Xは、ブレンステッド塩基性基又はブレンステッド酸性基を有することが好ましく、ブレンステッド塩基性基を有することがより好ましい。すなわち、ポリビニルアセタール樹脂Xの一部がブレンステッド塩基性基又はブレンステッド酸性基により変性されていることが好ましく、ポリビニルアセタール樹脂Xの一部がブレンステッド塩基性基で変性されていることがより好ましい。
ポリビニルアセタール樹脂Xは、一部にブレンステッド塩基性基又はブレンステッド酸性基を有することが好ましく、ブレンステッド塩基性基を有することがより好ましい。その場合には、細胞の接着性をより一層高めることができる。このブレンステッド塩基性基又はブレンステッド酸性基は、ポリビニルアセタール樹脂Xの一部に有しておればよく、その場合、ブレンステッド塩基性基又はブレンステッド酸性基を有するモノマーが共重合されていてもよく、グラフトをされていてもよい。上記ブレンステッド塩基性基における変性度は、好ましくは、0.2モル%以上、より好ましくは2モル%以上、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは15モル%以下である。ブレンステッド塩基性基による変性度が上記特定の範囲内であれば、細胞の接着性をより一層高めることができる。
ブレンステッド塩基性基は、水素イオンH+を他の物質から受け取ることができる官能基の総称である。上記ブレンステッド塩基性基としては、イミン構造を有する置換基、イミド構造を有する置換基、アミン構造を有する置換基、及びアミド構造を有する置換基等のアミン系塩基性基が挙げられる。ブレンステッド塩基性基としては、特に限定されないが、ヒドロキシアミノ基、ウレア基、グアニジン、ビグアニド等の共役アミン系官能基、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ヘキサメチレンテトラアミン、モルホリン、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピロール、アザトロピリデン、ピリドン、イミダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ピラゾール、オキサゾール、イミダゾリン、トリアゾール、チアゾール、チアジン、テトラゾール、インドール、イソインドール、プリン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、アクリジン、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、メラミン等のヘテロ環アミノ系官能基、ポルフィリン、クロリン、コリン等の環状ピロール系官能基およびそれらの誘導体等が挙げられる。
ブレンステッド酸性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、マレイン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、又はこれらの塩等が挙げられる。ブレンステッド酸性基は、カルボキシル基であることが好ましい。
ポリビニルアセタール樹脂Xは、イミン構造を有する構造単位、イミド構造を有する構造単位、アミン構造を有する構造単位、又はアミド構造を有する構造単位を有することが好ましい。この場合、これらの構造単位のうちの1種のみを有していてもよく、2種以上を有していてもよい。
ポリビニルアセタール樹脂Xは、イミン構造を有する構造単位を有していてもよい。イミン構造とは、C=N結合を有する構造をいう。特に、ポリビニルアセタール樹脂Xは、イミン構造を側鎖に有することが好ましい。
ポリビニルアセタール樹脂Xは、イミド構造を有する構造単位を有していてもよい。イミド構造を有する構造単位は、イミノ基(=NH)を有する構造単位であることが好ましい。
ポリビニルアセタール樹脂Xは、イミノ基を側鎖に有することが好ましい。この場合、イミノ基は、ポリビニルアセタール樹脂Xの主鎖を構成する炭素原子に直接結合していてもよく、アルキレン基等の連結基を介して主鎖に結合していてもよい。
ポリビニルアセタール樹脂Xは、アミン構造を有する構造単位を有していてもよい。上記アミン構造におけるアミン基は、第一級アミン基であってもよく、第二級アミン基であってもよく、第三級アミン基であってもよく、第四級アミン基であってもよい。
アミン構造を有する構造単位は、アミド構造を有する構造単位であってもよい。上記アミド構造とは、-C(=O)-NH-を有する構造をいう。
ポリビニルアセタール樹脂Xは、アミン構造又はアミド構造を側鎖に有することが好ましい。この場合、アミン構造又はアミド構造は、ポリビニルアセタール樹脂Xの主鎖を構成する炭素原子に直接結合していてもよく、アルキレン基等の連結基を介して主鎖に結合していてもよい。
なお、イミン構造を有する構造単位の含有率、イミド構造を有する構造単位の含有率、アミン構造を有する構造単位の含有率、アミド構造を有する構造単位の含有率は、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)により測定することができる。
(ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する合成樹脂)
本発明の細胞培養用足場材は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する合成樹脂を含むことが好ましい。上記合成樹脂Xは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する合成樹脂を含むことが好ましい。
本明細書において、「ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する合成樹脂」を、「ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂X」と記載することがある。
従って、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xは、ポリ(メタ)アクリル酸エステル骨格を有する樹脂である。
ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xは、(メタ)アクリル酸エステルの重合により、あるいは、(メタ)アクリル酸エステルと、他のモノマーとの共重合により得られる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸環状アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール類、(メタ)アクリル酸ホスホリルコリン等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びイソテトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、炭素数1~3のアルコキシ基及びテトラヒドロフルフリル基等の置換基で置換されていてもよい。このような(メタ)アクリル酸アルキルエステルの例としては、メトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸環状アルキルエステルとしては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、フェニル(メタ)アクリレート、及びベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-tert-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N’-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(3-(メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、3-(メタ)アクリロイル-2-オキサゾリジノン、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、及び6-(メタ)アクリルアミドヘキサン酸等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール類としては、例えば、メトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-トリエチレングルコール(メタ)アクリレート、エトキシ-トリエチレングルコール(メタ)アクリレート、及びヒドロキシ-トリエチレングルコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸ホスホリルコリンとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルと共重合される他のモノマーとしては、ビニル化合物が好適に用いられる。ビニル化合物としては、エチレン、アリルアミン、ビニルピロリドン、無水マレイン酸、マレイミド、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、ビニルアミン、又は(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。ビニル化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。
上記ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xは、ポリビニルアセタール樹脂Xと同様に、一部にブレンステッド塩基性基、またはブレンステッド酸性基を有することが好ましい。その場合には、伸展性をより一層高めることができる。このブレンステッド塩基性基は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂Xの一部に有しておればよく、その場合、ブレンステッド塩基性基を有するモノマーが共重合されていてもよく、グラフトをされていてもよい。上記ブレンステッド塩基性基における変性度は、好ましくは、0.2モル%以上、より好ましくは2モル%以上、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは15モル%以下である。ブレンステッド塩基性基による変性度が上記特定の範囲内であれば、細胞の接着性より一層高めることができる。
(ペプチド部を有する合成樹脂)
本発明の細胞培養用足場材は、ペプチド部を有する合成樹脂を含むことが好ましい。上記合成樹脂Xは、ペプチド部を有する合成樹脂を含むことが好ましい。ペプチド部を有する合成樹脂を細胞培養用足場材の材料として用いることにより、細胞の播種後の定着性により一層優れ、細胞の増殖率をより一層高めることができる。
ペプチド部を有する合成樹脂は、合成樹脂と、リンカーと、ペプチドとを反応させて得ることができる。ペプチド部を有する合成樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂部と、リンカー部と、ペプチド部とを有するペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましく、ポリビニルブチラール樹脂部と、リンカー部と、ペプチド部とを有するペプチド含有ポリビニルブチラール樹脂であることがより好ましい。したがって、上記ポリビニルアセタール骨格を有する合成樹脂(ポリビニルアセタール樹脂X)は、ペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂であることが好ましく、ペプチド含有ポリビニルブチラール樹脂であることがより好ましい。ペプチド部を有する合成樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記ペプチド部は、3個以上のアミノ酸により構成されることが好ましく、4個以上のアミノ酸により構成されることがより好ましく、5個以上のアミノ酸により構成されることが更に好ましく、10個以下のアミノ酸により構成されることが好ましく、6個以下のアミノ酸により構成されることがより好ましい。上記ペプチド部を構成するアミノ酸の個数が上記下限以上及び上記上限以下であると、播種後の細胞との接着性をより一層高めることができ、細胞の増殖率をより一層高めることができる。
上記ペプチド部は、細胞接着性のアミノ酸配列を有することが好ましい。なお、細胞接着性のアミノ酸配列とは、ファージディスプレイ法、セファローズビーズ法、又はプレートコート法によって細胞接着活性が確認されているアミノ酸配列をいう。上記ファージディスプレイ法としては、例えば、「The Journal of Cell Biology, Volume 130, Number 5, September 1995 1189-1196」に記載の方法を用いることができる。上記セファローズビーズ法としては、例えば「蛋白質 核酸 酵素 Vol.45 No.15 (2000) 2477」に記載の方法を用いることができる。上記プレートコート法としては、例えば「蛋白質 核酸 酵素 Vol.45 No.15 (2000) 2477」に記載の方法を用いることができる。
上記細胞接着性のアミノ酸配列としては、例えば、RGD配列(Arg-Gly-Asp)、YIGSR配列(Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg)、PDSGR配列(Pro-Asp-Ser-Gly-Arg)、HAV配列(His-Ala-Val)、ADT配列(Ala-Asp-Thr)、QAV配列(Gln-Ala-Val)、LDV配列(Leu-Asp-Val)、IDS配列(Ile-Asp-Ser)、REDV配列(Arg-Glu-Asp-Val)、IDAPS配列(Ile-Asp-Ala-Pro-Ser)、KQAGDV配列(Lys-Gln-Ala-Gly-Asp-Val)、及びTDE配列(Thr-Asp-Glu)等が挙げられる。また、上記細胞接着性のアミノ酸配列としては、「病態生理、第9巻 第7号、527~535頁、1990年」、及び「大阪府立母子医療センター雑誌、第8巻 第1号、58~66頁、1992年」に記載されている配列等も挙げられる。上記ペプチド部は、上記細胞接着性のアミノ酸配列を1種のみ有していてもよく、2種以上を有してもよい。
上記細胞接着性のアミノ酸配列は、上述した細胞接着性のアミノ酸配列の内の少なくともいずれかを有することが好ましく、RGD配列、YIGSR配列、又はPDSGR配列を少なくとも有することがより好ましく、下記式(1)で表されるRGD配列を少なくとも有することが更に好ましい。この場合には、播種後の細胞との接着性をより一層高め、細胞の増殖率をより一層高めることができる。
Arg-Gly-Asp-X ・・・式(1)
上記式(1)中、Xは、Gly、Ala、Val、Ser、Thr、Phe、Met、Pro、又はAsnを表す。
上記ペプチド部は、直鎖状であってもよく、環状ペプチド骨格を有していてもよい。上記環状ペプチド骨格とは、複数個のアミノ酸より構成された環状骨格である。本発明の効果を一層効果的に発揮させる観点からは、上記環状ペプチド骨格は、4個以上のアミノ酸により構成されることが好ましく、5個以上のアミノ酸により構成されることがより好ましく、10個以下のアミノ酸により構成されることが好ましい。
ペプチド部を有する合成樹脂において、上記ペプチド部の含有率は、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは1モル%以上、さらに好ましくは5モル%以上、特に好ましくは10モル%以上である。ペプチド部を有する合成樹脂において、上記ペプチド部の含有率は、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは35モル%以下、特に好ましくは25モル%以下である。上記ペプチド部の含有率が上記範囲内であると、播種後の細胞との接着性をより一層高めることができ、細胞の増殖率をより一層高めることができる。また、上記ペプチド部の含有率が上記上限以下であると、製造コストを抑えることができる。なお、上記ペプチド部の含有率(モル%)は、ペプチド部を有する合成樹脂を構成する各構造単位の物質量の総和に対する上記ペプチド部の物質量である。
上記ペプチド部の含有率は、FT-IR又はLC-MSにより測定することができる。
ペプチド部を有する合成樹脂において、合成樹脂部分とペプチド部とは、リンカーを介して結合していることが好ましい。すなわち、ペプチド部を有する合成樹脂は、ペプチド部とリンカー部とを有する合成樹脂であることが好ましい。上記リンカーは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
上記リンカーは、上記ペプチドのカルボキシル基又はアミノ基と縮合可能な官能基を有する化合物であることが好ましい。上記ペプチドのカルボキシル基又はアミノ基と縮合可能な官能基としては、カルボキシル基、チオール基及びアミノ基等が挙げられる。ペプチドと良好に反応させる観点からは、上記リンカーは、カルボキシル基を有する化合物であることが好ましい。上記リンカーとして、上述したビニル化合物を用いることもできる。
上記カルボキシル基を有するリンカーとしては、(メタ)アクリル酸及びカルボキシル基含有アクリルアミド等が挙げられる。上記カルボキシル基を有するリンカーとして重合性不飽和基を有するカルボン酸(カルボン酸モノマー)を用いることにより、リンカーと合成樹脂とを反応させる際に、グラフト重合により該カルボン酸モノマーを重合させることができるため、ペプチドと反応させることができるカルボキシル基の個数を増やすことができる。
(その他の樹脂)
細胞培養用足場材は、上述した合成樹脂以外のポリマーを含んでいてもよい。該ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
[細胞培養用足場材の他の詳細]
本発明に係る細胞培養用足場材は、上記合成樹脂Xを含む。本発明の効果を効果的に発揮させる観点及び生産性を高める観点からは、上記細胞培養用足場材100重量%中、上記合成樹脂Xの含有量は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは97.5重量%以上、特に好ましくは99重量%以上、最も好ましくは100重量%(全量)である。したがって、上記細胞培養用足場材は、上記合成樹脂Xであることが最も好ましい。上記合成樹脂Xの含有量が上記下限以上であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮させることができる。
上記細胞培養用足場材は、上記合成樹脂X以外の成分を含んでいてもよい。上記合成樹脂X以外の成分としては、多糖類、セルロース、合成ペプチド等が挙げられる。
本発明の効果を効果的に発揮させる観点から、上記合成樹脂X以外の成分の含有量は少ないほどよい。上記細胞培養用足場材100重量%中、該成分の含有量は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、更に好ましくは2.5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下、最も好ましくは0重量%(未含有)である。したがって、細胞培養用足場材は、合成樹脂X以外の成分を含まないことが最も好ましい。
本発明に係る細胞培養用足場材は、動物由来の原料を含まないことが好ましい。動物由来の原料を含まないことにより、安全性が高く、かつ、製造時に品質のばらつきが少ない細胞培養用足場材を提供することができる。
(細胞培養用足場材を用いた細胞培養)
本発明に係る細胞培養用足場材は、細胞を培養するために用いられる。本発明に係る細胞培養用足場材は、細胞を培養する際の該細胞の足場として用いられる。
上記細胞としては、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ及びサル等の動物細胞が挙げられる。また、上記細胞としては、体細胞等が挙げられ、例えば、幹細胞、前駆細胞及び成熟細胞等が挙げられる。上記体細胞は、癌細胞であってもよい。
上記幹細胞としては、間葉系幹細胞(MSC)、iPS細胞、ES細胞、Muse細胞、胚性がん細胞、胚性生殖幹細胞、及びmGS細胞等が挙げられる。
上記成熟細胞としては、神経細胞、心筋細胞、網膜細胞及び肝細胞等が挙げられる。
(細胞培養用足場材の形状)
本発明の細胞培養用足場材の形状は、特に限定されず、粒子であっても、繊維であっても、多孔体であっても、フィルムであってもよい。なお、上記粒子、繊維、多孔体、又はフィルムは、上記細胞培養用足場材以外の構成要素を含んでいてもよい。
上記細胞培養用足場材の形状がフィルムである場合、細胞を平面培養(二次元培養)するために用いられることが好ましい。また、上記細胞培養用足場材の形状が、粒子、繊維、又は多孔体である場合、細胞を三次元培養するために用いられることが好ましい。
(細胞培養用容器)
本発明は、細胞の培養領域の少なくとも一部に上記細胞培養用足場材を備える、細胞培養用容器にも関する。図1は、本発明の一実施形態に係る細胞培養用容器を示す模式的正面断面図である。
細胞培養用容器1は、容器本体2と、細胞培養用足場材3とを備える。容器本体2の表面2a上に細胞培養用足場材3が配置されている。容器本体2の底面上に細胞培養用足場材3が配置されている。細胞培養用容器1に液体培地を添加し、また、細胞を細胞培養用足場材3の表面に播種することで、細胞を平面培養や三次元培養することができる。
なお、容器本体は、第1の容器本体の底面上にカバーガラス等の第2の容器本体を備えていてもよい。第1の容器本体と第2の容器本体とは分離可能であってもよい。この場合、第2の容器本体の表面上に、該細胞培養用足場材が配置されていてもよい。
上記容器本体として、従来公知の容器本体(容器)を用いることができる。上記容器本体の形状および大きさは特に限定されない。
上記容器本体としては、1個又は複数個のウェル(穴)を備える細胞培養用プレート、及び細胞培養用フラスコ等が挙げられる。上記プレートのウェル数は特に限定されない。該ウェル数としては、特に限定されないが、例えば、2、4、6、12、24、48、96、384等が挙げられる。上記ウェルの形状としては、特に限定されないが、真円、楕円、三角形、正方形、長方形、五角形等が挙げられる。上記ウェル底面の形状としては、特に限定されないが、平底、丸底、凹凸等が挙げられる。
上記容器本体の材質は特に限定されないが、樹脂、金属及び無機材料が挙げられる。上記樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイソプレン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン等が挙げられる。上記金属としては、ステンレス、銅、鉄、ニッケル、アルミ、チタン、金、銀、白金等が挙げられる。上記無機材料としては、酸化ケイ素(ガラス)、酸化アルミ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、窒化ケイ素等が挙げられる。
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
細胞培養用足場材の原料として、以下の合成樹脂X1を合成した。
撹拌装置を備えた反応機に、イオン交換水2700mL、平均重合度800、アミン変性度1モル%、鹸化度97.5モル%のアミン変性ポリビニルアルコールを300重量部投入し、撹拌しながら加熱溶解し、溶液を得た。得られた溶液に、触媒として、塩酸濃度が0.2重量%となるように35重量%塩酸を添加した。次いで、温度を15℃に調整し、撹拌しながらn-ブチルアルデヒド22重量部を添加した。次いで、n-ブチルアルデヒド148重量部を添加し、白色粒子状のポリビニルブチラール樹脂を析出させた。析出してから15分後に、塩酸濃度が1.8重量%となるように35重量%塩酸を添加した後、50℃に加熱し、50℃で2時間保持した。次いで、溶液を冷却し、中和した後、ポリビニルブチラール樹脂を水洗し、乾燥させて、ポリビニルブチラール樹脂である合成樹脂X1を得た。
得られたポリビニルブチラール樹脂(合成樹脂X1)は、平均重合度800、水酸基量20モル%、アミン基量1モル%、アセチル化度1モル%、ブチラール化度78モル%であった。
なお、得られた合成樹脂における構造単位の含有率は、合成樹脂をDMSO-D6(ジメチルスルホキサイド)に溶解した後、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)により測定した。
(実施例1~10及び比較例2,3)
実施例1,2では上記合成樹脂X1を用い、実施例3~7,9,10では合成樹脂X2~X8をそれぞれ用いた。
合成樹脂X2は、ブチラール化度68モル%、アセチル化度1モル%及び水酸基量26モル%であるポリビニルブチラール樹脂に、モノマーとして、ジメチルアミノアクリルアミド5モル%を配合して得た。合成条件は、次の通りとした。すなわち、上記ポリビニルブチラール樹脂をTHFに濃度20重量%で溶解させ、ジメチルアミノアクリルアミドを5重量部添加した後、開始剤としてIrgacure184(IGM Resins B.V.社製)を3重量部溶解させ、UV重合試験機にて20分間UV照射した。
また、合成樹脂X3は、表1に示すように、ジメチルアミノアクリルアミドの含有割合を、5モル%から20モル%としたことを除いては、合成樹脂X2と同様にして得た。
合成樹脂X4は、モノマーとして、ジエチルアミノアクリルアミドを用いて、その含有割合を28モル%としたことを除いて、合成樹脂X2と同様にして得た。
合成樹脂X5では、モノマーとして、ビニルイミダゾールを用いて、その含有割合を13モル%としたことを除いて、合成樹脂X2と同様にして得た。
合成樹脂X6では、平均重合度2400、鹸化度97mol%のポリビニルアルコールを使用したこと、および、n-ブチルアルデヒド(n-BA)の代わりに、アセトアルデヒドを使用したこと以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂である合成樹脂を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂にモノマーとして、ジメチルアミノアクリルアミド5モル%を配合して得た。合成条件は、次の通りとした。すなわち、得られたポリビニルアセタール樹脂をTHFに濃度20重量%で溶解させ、ジメチルアミノアクリルアミドを5重量部添加した後、開始剤(Irgacure184)を3重量部溶解させ、UV重合試験機にて20分間UV照射した。
合成樹脂X7は、以下のようにして作製した。まず、メタクリル酸ブチル81.4重量部及びメタクリル酸ヒドロキシエチル18.6重量部を混合し、(メタ)アクリルモノマー溶液を得た。次に、得られた(メタ)アクリルモノマー溶液にIrgacure184(BASF社製)0.5重量部を溶解させ、PETフィルム上に塗布した。塗布物を25℃にてアイグラフィックス社製、UVコンベア装置「ECS301G1」を用い、365nmの波長の光を積算光量2000mJ/cm2で照射することでポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂溶液を得た。得られたポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂溶液を80℃、3時間真空乾燥させることでポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂としての合成樹脂X7を得た。
合成樹脂X8では、平均重合度800、鹸化度1mol%のポリビニルアルコールを使用したこと以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアセタール樹脂である合成樹脂を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂95重量部と、アクリル酸(リンカー)5重量部とをTHF300重量部に溶解し、光ラジカル重合開始剤の存在下で、紫外線照射下で20分間反応させ、ポリビニルアセタール樹脂とアクリル酸とをグラフト共重合させることにより、リンカー部を形成した。
ペプチドとしてGly-Arg-Gly-Asp-Serのアミノ酸配列を有する直鎖状のペプチド(アミノ酸残基数5個、表1ではGRGDSと記載)を用意した。このペプチド5重量部と、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(縮合剤)5重量部とを、カルシウム及びマグネシウムの双方を含まないメタノール90重量部に添加し、ペプチド含有液を作製した。このペプチド含有液100重量部と、リンカー部を形成したポリビニルアセタール樹脂97重量部をメタノール300重量部に添加し、反応させて、リンカー部のカルボキシル基と、ペプチドのArgのアミノ基とを脱水縮合した。反応終了後、60℃で真空乾燥を1時間行い、メタノールを揮発させた。このようにして、ポリビニルアセタール樹脂部と、リンカー部と、ペプチド部とを有するペプチド含有ポリビニルアセタール樹脂である合成樹脂X8を作製した。
また、比較例2では合成樹脂X1を用い、実施例8及び比較例3では、表1に示す組成のポリビニルブチラール樹脂を用いた。
細胞培養用容器の作製;
(実施例1~10、比較例3)
実施例1~10及び比較例3では、まず、ブタノール・メタノール混合溶媒(9:1)に対して表1に示す合成樹脂を5wt%の濃度で溶解させた。得られた溶液40μLを、φ22mmのポリスチレンディッシュにキャストした後、液体窒素に浸漬し、溶媒ごと凍結させた。その後、凍結乾燥機を用いて2日間凍結乾燥することで細孔を有する細胞培養用足場材を備える細胞培養用容器を得た。
細胞培養用足場材の細孔の平均径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて求めた。なお、図2は、実施例1で得られた細胞培養用足場材の倍率1000倍のSEM観察像であり、図3は、実施例1で得られた細胞培養用足場材の倍率10000倍のSEM観察像である。
(比較例1,2)
比較例1では、ポリスチレンディッシュ自体を細胞培養用容器として用いた。
比較例2では、まず、ブタノール・メタノール混合溶媒(9:1)に対して合成樹脂X1を5wt%の濃度で溶解させた。得られた溶液40μLを、φ22mmのポリスチレンディッシュにキャスト後、凍結させずに45℃オーブンで6時間乾燥して平面状の膜を形成させた。なお、比較例1,2では、平均径を測定可能な細孔が存在していなかった。
ゼータ電位の測定;
ゼータ電位測定機器(型番SURPASS 3、アントンパール社製)を用いて、実施例1~10及び比較例1~3の細胞培養用足場材のpH7におけるゼータ電位をそれぞれ求めた。まず、0.1mMのKCl溶液を用意した。次に、セルに足場材の樹脂膜をセットしたあと、pH電極及び導電率計を設定した。HClとNaOH溶液を用いて、pH9~3まで滴定することで各pHでのゼータ電位を測定した。
なお、比較例3は、ゼータ電位が測定下限値以下だったため測定不能とした。
水膨潤率;
各足場材の水膨潤率を求めるに際しては、細胞培養用容器から足場材を取り出し25℃の水に24時間浸漬した。浸漬後のサンプルは一度キムタオル上に1分間静置することで細孔内の水を排出させた後に重量を測定した。浸漬前と浸漬後のサンプルの重さを測定し、水膨潤率=(浸漬後のサンプル重量-浸漬前のサンプル重量)/(浸漬前のサンプル重量)×100(%)を算出した。
表面弾性率測定;
ナノインデンター(Hysitron, Triboindenter、ブルカー社製)を用いて実施例1~10及び比較例1~3の細胞培養用足場材の25℃における表面弾性率を求めた。圧子は、Berkovich(三角錐型)先端径R数100nmを用い、大気下、室温にて単一押し込み測定し、その際の押し込み深さ50nmにて測定した。
細孔の平均径:
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて細胞培養用足場材の表面を観察し、観察領域(5μm×5μm)内における任意に選択した100個の細孔の孔径の平均値を求めた。
細胞の播種及び培養;
以下の液体培地及びROCK(Rho結合キナーゼ)特異的阻害剤を用意した。
TeSR E8培地(STEM CELL社製)
ROCK-Inhibitor(Y27632)
得られた細胞培養用容器にリン酸緩衝生理食塩水1mLを加えて37℃のインキュベーター内で1時間静置後、細胞培養用容器からリン酸緩衝生理食塩水を除去した。
φ35mmのディッシュにコンフルエント状態になったh-iPS細胞253G1のコロニーを配置し、0.5mMエチレンジアミン/リン酸緩衝溶液1mLを加え、室温で2分静置した。エチレンジアミン/リン酸緩衝溶液を除去した後、TeSR E8培地1mLでピペッティングすることにより50μm~200μmの大きさに砕かれた細胞塊を得た。得られた細胞塊(細胞数0.2×105cells)を上記の細胞培養用容器にクランプ播種した。
播種時は1.5mLの液体培地と、終濃度が10μMとなるようにROCK特異的阻害剤とを細胞培養用容器に添加した、37℃及びCO2濃度5%のインキュベーター内で培養を行った。その後、24時間ごとにディッシュ内の液体を新鮮な液体培地1.5mLと交換する作業を繰り返し、5日間培養を行った。培養後のディッシュにThermo-Fisher社製、トリプルエクスプレス1mLを添加し37℃で2分静置した後、細胞を回収してオートセルカウンターEVEを用いた細胞数の測定を行った。
結果を下記の表1に示す。