実施の形態.
図1~図22に基づき、本発明の実施の形態に係る光学的測定装置、光学的測定方法、及び光学的測定プログラムについて説明する。各図では、図面の煩雑さを避ける等の意図で符号の一部を省略することがある。
まず、図1を参照し、光学的測定装置100の全体構成の一例について説明する。図1に例示する光学的測定装置100は、多周波レーザ1と、光分岐素子2aと、光学系5と、ビート信号生成部9と、演算装置14と、を有している。多周波レーザ1は、キャリアの周波数に対し互いに対称の位置にある、周波数変調した高周波サブキャリア16と、周波数変調した低周波サブキャリア17とを、同時に発生するものである。高周波サブキャリア16は、キャリア15を高周波側に周波数変調したサブキャリアであり、低周波サブキャリア17は、キャリア15を低周波側に周波数変調したサブキャリアである。
光分岐素子2aは、多周波レーザ1の出力光をプローブ光3と参照光4とに二分すると共に、プローブ光3を光サーキュレータ5aへ出力し、参照光4をビート信号生成部9へ出力するものである。
光学系5は、光分岐素子2aから出力されるプローブ光3を対象物7に照射し、対象物7からの散乱光を信号光8として出力するものである。本実施の形態における光学系5は、光サーキュレータ5aと送受信光学系5bとにより構成されている。光サーキュレータ5aは、光分岐素子2aから出力されるプローブ光3を、送受信光学系5bを介して対象物7に照射し、対象物7からの散乱光を、信号光8としてビート信号生成部9に出力するものである。
送受信光学系5bは、例えばコリメータレンズなどのレンズにより構成される。送受信光学系5bは、必要に応じてプローブ光3を空間的に走査する機構を設けるとよい。これにより、送受信光学系5bは、対象物7の距離又は速度の2次元画像を取得することができる。ところで、図1には、光学系5が光サーキュレータ5aと送受信光学系5bとを有する例を示しているが、これに限定されない。例えば、光学系5は、光サーキュレータ5aだけで構成してもよい。
ビート信号生成部9は、参照光4と信号光8を入力して、高周波サブキャリア16に由来し、同相成分10と直交成分11とを含む第1の複素ビート信号31と、低周波サブキャリア17に由来し、同相成分12と直交成分13とを含む第2の複素ビート信号32とを生成して出力するものである。本実施の形態のビート信号生成部9は、光分岐素子2aから出力される参照光4と、光サーキュレータ5aから出力される信号光8とに基づき、第1の複素ビート信号31の同相成分10及び直交成分11と、第2の複素ビート信号32の同相成分12及び直交成分13とを生成し、これらを演算装置14へ出力するよう構成されている。
演算装置14は、第1の複素ビート信号31の周波数と、第2の複素ビート信号32の周波数との和である和周波数を求め、求めた和周波数から対象物7の速度を算出するものである。和周波数とは、高周波サブキャリア16から生成される複素ビート信号の周波数と、低周波サブキャリア17から生成される複素ビート信号の周波数との和のことである。すなわち、演算装置14は、2つの複素ビート信号(第1の複素ビート信号31と第2の複素ビート信号32)に対し、それぞれの位相を復調した後、位相の時間微分によりそれぞれの周波数を求め、求めた各周波数から和周波数を計算する。そして、演算装置14は、求めた和周波数から対象物7の速度を算出する。
演算装置14は、第1の複素ビート信号31の周波数と、第2の複素ビート信号32の周波数との差分である差周波数を求め、求めた差周波数から対象物7までの距離を算出する機能を有していてもよい。この場合、演算装置14は、2つの複素ビート信号に対し、それぞれの位相を復調した後、位相の時間微分によりそれぞれの周波数を求め、求めた各周波数から差周波数を計算する。
より具体的に、演算装置14は、通信部14aと、演算処理部14bと、記憶部14cと、を有している。通信部14aは、演算装置14がビート信号生成部9等の外部機器との間で有線又は無線による通信を行うためのインタフェースである。記憶部14cには、光学的測定プログラム14pなどの演算処理部14bの動作プログラムの他、種々の情報が記憶される。記憶部14cは、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等のPROM(Programmable ROM)、SSD(Solid State Drive)、又はHDD(Hard Disk Drive)などにより構成される。演算処理部14bは、対象物7の速度を求める速度演算手段を有している。演算処理部14bは、対象物7までの距離を求める距離演算手段を有していてもよい。演算処理部14bは、CPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)などにより構成される。光学的測定プログラム14pは、演算処理部14bと協働して速度演算手段などの各種機能を実現するものである。
次に、図2及び図3を参照して、多周波レーザ1の具体的構成例について説明する。図2は、多周波レーザ1の具体的構成の第1例である。図2に例示する多周波レーザ1は、単一周波数レーザ18と、光変調器19と、変調信号発生器20と、サブキャリア生成信号発生器21と、を有している。単一周波数レーザ18は、単一の周波数の光のみを出力するレーザである。光変調器19は、単一周波数レーザ18の出力光に変調処理を施すものである。光変調器19は、強度変調器や位相変調器などにより構成され、変調処理によりサイドバンドを生成する機能を有している。
サブキャリア生成信号発生器21は、光変調器19を駆動して、単一周波数レーザ18の出力光に2つのサブキャリアを生成するものである。サブキャリア生成信号発生器21は、外部からの入力信号により周波数を変調する機能を備えている。本実施の形態のサブキャリア生成信号発生器21は、単一周波数レーザ18におけるキャリア15の周波数に対し、各々の周波数が互いに対称の位置にある2つのサブキャリアを生成する。ここで、サブキャリア生成信号発生器21の中心周波数をfSCとする。サブキャリア生成信号発生器21の中心周波数fSCは、ビート信号生成部9の特性に合わせた周波数に設定される。多周波レーザ1の出力光が有するキャリア15の中心周波数をν0とすると、高周波サブキャリア16の中心周波数はν0+fSCとなり、低周波サブキャリア17の中心周波数はν0-fSCとなる。
変調信号発生器20は、サブキャリアに周波数変調を与える信号源である。本実施の形態の変調信号発生器20は、サブキャリア生成信号発生器21において生成された2つのサブキャリアそれぞれに、互いに逆相となる周波数変調を与えるよう構成されている。つまり、図2の多周波レーザ1は、変調信号発生器20とサブキャリア生成信号発生器21とにより、光変調器19の出力光に、高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17とを生成する。
図3は、多周波レーザ1の具体的構成の第2例である。図3に例示する多周波レーザ1は、半導体レーザ22と、変調信号発生器20と、サブキャリア生成信号発生器21と、を有している。変調信号発生器20及びサブキャリア生成信号発生器21の構成及び処理内容は、第1例のものと同様である。すなわち、サブキャリア生成信号発生器21は、半導体レーザ22の出力光に2つのサブキャリアを生成するものである。変調信号発生器20は、サブキャリア生成信号発生器21において生成された2つのサブキャリアそれぞれに、互いに逆相となる周波数変調を与えるものである。つまり、図3の多周波レーザ1は、変調信号発生器20とサブキャリア生成信号発生器21とにより、半導体レーザ22の出力光に、高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17とを生成する。
半導体レーザ22は、例えば、分布帰還型レーザ(DFBレーザ)、又は変調器集積型半導体レーザ(EML)により構成される。EMLは、変調器を集積化した半導体レーザである。半導体レーザ22がDFBレーザの場合、サブキャリア生成信号発生器21は、DFBレーザの注入電流に、サブキャリアを生成するための生成信号を出力して2つのサブキャリアを生成する。半導体レーザ22がEMLの場合、サブキャリア生成信号発生器21は、EML内の変調器に生成信号を出力して2つのサブキャリアを生成する。
多周波レーザ1は、キャリア15を変調し、±1次のサブキャリアである高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17を生成するので、高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17は、キャリア15と同相の周波数雑音を有している。さらに、多周波レーザ1において、高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17には、周波数変調と、サブキャリア生成信号発生器21の周波数雑音が付加される。
次に、図4を参照して、多周波レーザ1の出力光の構成例について説明する。図4(a)には、出力光のスペクトルと、2つのサブキャリアに重畳された周波数変調を例示し、図4(b)には、出力光のスペクトルと、キャリア15及び2つのサブキャリアに重畳された周波数雑音を例示している。すなわち、多周波レーザ1の出力光は、中心周波数がν0のキャリア15と、中心周波数がν0+fSCである高周波サブキャリア16と、中心周波数がν0-fSCである低周波サブキャリア17と、により構成される。高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17には、周波数変調と周波数雑音が重畳されている。
図4(a)に示すように、高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17との間で、周波数変調は逆相になっている。また、図4(b)に示すように、高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17とは、キャリア15と位相同期し、かつキャリア15と同相の周波数雑音を有している。本実施の形態では、±1次の2つのサブキャリア(高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17)を利用する例を示す。なお、図4には便宜上、±1次のサブキャリアのみを示しているが、多周波レーザ1は、より高い次数のサブキャリアを含んでいてもよい。
キャリア15の周波数ν0と、高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17それぞれの周波数ν0±fSCとは、光学的に分離できる程度に離れていることが好ましい。また、サブキャリア生成信号発生器21の中心周波数fSCは、変調器またはレーザの直接変調が応答できる範囲内であることが好ましい。中心周波数fSCと周波数ν0とは、それぞれ任意に選ぶことができ、原理的には特に制限はない。ただし、現実的には、中心周波数fSC及び周波数ν0それぞれの設定値は、利用可能な部品の仕様により制限される。中心周波数fSCの最小値は、例えば、周波数ν0との間に、光フィルタで分離できる程度の周波数差(5GHz程度)が生じる範囲で決まる。また、中心周波数fSCの最大値は、例えば、変調信号発生器20の変調性能に大きく依存し、一例として50GHz程度となる。キャリア15の周波数ν0は、単一周波数のレーザが存在するすべての周波数が使用可能である。すなわち、キャリア15の周波数ν0は、例えば、紫外域~可視域~赤外域のすべての領域で設定可能である。
以下においても、中心周波数がν0のキャリア15から生成される、中心周波数がν0±fSCの±1次のサブキャリアを利用する例を説明するが、高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17は、キャリア15に対する±1次のサブキャリアに限定されない。光学的測定装置100は、多周波レーザ1が、より高次のサブキャリア、つまり±2次以上のサブキャリアを高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17として生成するよう構成し、これらを利用して速度等の演算を行うようにしてもよい。
続いて、図5~図10を参照して、ビート信号生成部9の具体的構成例について説明する。まず、図5~図7に基づき、ビート信号生成部9の第1例について説明する。図5は、ビート信号生成部9の第1例を示す構成図である。図6は、図5の直交検波器33aの具体例を示す構成図である。図7は、図5の直交検波器33bの具体例を示す構成図である。
図5に例示するビート信号生成部9は、光検出器と直交検波器とを含むヘテロダイン干渉計の構成を備えている。より具体的に、ビート信号生成部9は、光周波数シフタ26と、光周波数シフタ駆動信号源27と、光結合素子2bと、光分波器29aと、光検出器30aと、光検出器30bと、直交検波器33aと、直交検波器33bと、を有している。
光周波数シフタ26は、参照光4の周波数をシフトさせて出力するものである。光周波数シフタ駆動信号源27は、光周波数シフタ26に駆動信号を出力し、光周波数シフタ26を駆動するものである。さらに、光周波数シフタ駆動信号源27は、複素ビート信号を同相成分と直交成分とに分離させる参照信号28を、直交検波器33aと直交検波器33bとに出力する。
光結合素子2bは、例えばビームスプリッタからなり、光周波数シフタ26から出力される光と、光サーキュレータ5aから出力される信号光8とを合波し、合波した光を光分波器29aに出力するものである。光分波器29aは、光結合素子2bから出力される光を、高周波サブキャリア16に由来する成分と、低周波サブキャリア17に由来する成分とに分離し、分離した一方を光検出器30aに出力し、他方を光検出器30bに出力するものである。
光検出器30aは、光分波器29aから出力される高周波サブキャリア16に由来する成分に光電変換を施して第1の複素ビート信号31を生成し、直交検波器33aへ出力するものである。光検出器30bは、光分波器29aから出力される低周波サブキャリア17に由来する成分に光電変換を施して第2の複素ビート信号32を生成し、直交検波器33bへ出力するものである。直交検波器33aは、第1の複素ビート信号31に参照信号28を作用させて、第1の複素ビート信号31の同相成分10と、第1の複素ビート信号31の直交成分11とを生成し、生成した同相成分10及び直交成分11を演算装置14へ出力するものである。直交検波器33bは、第2の複素ビート信号32に参照信号28を作用させて、第2の複素ビート信号32の同相成分12と、第2の複素ビート信号32の直交成分13とを生成し、生成した同相成分12及び直交成分13を演算装置14へ出力するものである。
つまり、図5に例示するビート信号生成部9は、光周波数シフタ26により参照光4の周波数をシフトさせた後、光結合素子2bにより信号光8と合波して、光分波器29aに入力する。光分波器29aは、入力した光を、高周波サブキャリア16に由来する成分と、低周波サブキャリア17に由来する成分とに分離して出力する。光分波器29aにおいて分離された各成分は、それぞれ、光検出器30aと光検出器30bとに受光され、光検出器30aは、第1の複素ビート信号31を直交検波器33aに出力し、光検出器30bは、第2の複素ビート信号32を直交検波器33bに出力する。直交検波器33aは、入力した第1の複素ビート信号31の同相成分10と直交成分11とを演算装置14に出力する。直交検波器33bは、入力した第2の複素ビート信号32の同相成分12と直交成分13とを演算装置14に出力する。
図6及び図7に示すように、直交検波器33a及び直交検波器33bは、それぞれ、π/2電気位相シフタ34と、周波数混合器35aと、周波数混合器35bと、ローパスフィルタ36aと、ローパスフィルタ36bと、を有している。図6に示すように、直交検波器33aは、第1の複素ビート信号31を二分し、その一方を周波数混合器35aに入力し、他方を周波数混合器35bに入力するよう構成されている。図7に示すように、直交検波器33bは、第2の複素ビート信号32を二分し、その一方を周波数混合器35aに入力し、他方を周波数混合器35bに入力するよう構成されている。
直交検波器33a及び直交検波器33bは、それぞれ、光周波数シフタ駆動信号源27から出力される参照信号28を二分し、その一方を周波数混合器35aへ出力し、他方をπ/2電気位相シフタ34へ出力する。周波数混合器35aは、参照信号28より二分された一方の信号を局部発振信号として入力する。つまり、周波数混合器35aは、入力した局部発振信号により第1の複素ビート信号31の周波数を変換し、変換後の信号をローパスフィルタ36aへ出力する。周波数混合器35aは、2つの入力信号に対して乗算を行い、両信号の和周波信号と差周波信号を出力する機能を有している。
直交検波器33a及び直交検波器33bのπ/2電気位相シフタ34は、参照信号28より二分された他方の信号の位相をπ/2だけをシフトさせて周波数混合器35bへ出力する。周波数混合器35bは、π/2電気位相シフタ34から出力される信号を局部発振信号として入力する。つまり、周波数混合器35bは、入力した局部発振信号により第1の複素ビート信号31の周波数を変換し、変換後の信号をローパスフィルタ36bへ出力する。周波数混合器35bは、2つの入力信号に対して乗算を行い、両信号の和周波信号と差周波信号を出力する機能を有している。
すなわち、直交検波器33a及び直交検波器33bは、それぞれ、第1の複素ビート信号31または第2の複素ビート信号32を二分し、その一方を周波数混合器35aに入力させ、他方を周波数混合器35bに入力させる。直交検波器33a及び直交検波器33bは、それぞれ、光周波数シフタ駆動信号源27から出力される参照信号28を、周波数混合器35aの局部発振信号として入力する。一方、直交検波器33a及び直交検波器33bは、それぞれ、光周波数シフタ駆動信号源27から出力される参照信号28に、π/2電気位相シフタ34によってπ/2だけ位相をシフトさせて、周波数混合器35bの局部発振信号として入力する。
直交検波器33aは、周波数混合器35aの出力をローパスフィルタ36aに入力すると共に、周波数混合器35bの出力をローパスフィルタ36bに入力し、各ローパスフィルタ(36a、36b)で和周波信号を除去して、第1の複素ビート信号31の同相成分10と直交成分11とを出力する。直交検波器33bは、周波数混合器35aの出力をローパスフィルタ36aに入力すると共に、周波数混合器35bの出力をローパスフィルタ36bに入力し、各ローパスフィルタ(36a、36b)で和周波信号を除去して、第2の複素ビート信号32の同相成分12と直交成分13とを出力する。
次に、図8~図10に基づき、ビート信号生成部9の第2例について説明する。図8は、ビート信号生成部9の第2例を示す構成図であり、図9は、図8の位相ダイバーシティ検出器41aの具体例を示す構成図であり、図10は、図8の位相ダイバーシティ検出器41bの具体例を示す構成図である。
図8に例示するビート信号生成部9は、位相ダイバーシティ検出器を含むホモダイン干渉計の構成を備えている。より具体的に、ビート信号生成部9は、光分波器29bと、光分波器29cと、位相ダイバーシティ検出器41aと、位相ダイバーシティ検出器41bと、を有している。
光分波器29bには参照光4が入力される。光分波器29bは、参照光4に基づき、高周波サブキャリア16に由来する参照光37と、低周波サブキャリア17に由来する参照光38とを生成する。光分波器29bは、参照光37を位相ダイバーシティ検出器41aに出力し、参照光38を位相ダイバーシティ検出器41bに出力する。
光分波器29cには信号光8が入力される。光分波器29cは、信号光8に基づき、高周波サブキャリア16に由来する信号光39と、低周波サブキャリア17由来する信号光40とを生成する。光分波器29cは、信号光39を位相ダイバーシティ検出器41aに出力し、信号光40を位相ダイバーシティ検出器41bに出力する。
位相ダイバーシティ検出器41aは、参照光37及び信号光39をもとに、第1の複素ビート信号31の同相成分10と直交成分11を生成して出力する。位相ダイバーシティ検出器41bは、参照光38及び信号光40をもとに、第2の複素ビート信号32の同相成分12と直交成分13とを生成して出力する。
すなわち、図8に例示するビート信号生成部9は、参照光4を光分波器29bに入力し、信号光8を光分波器29cに入力して、これらを高周波サブキャリア16に由来する成分と、低周波サブキャリア17に由来する成分とに分離して出力するよう構成されている。つまり、ビート信号生成部9は、光分波器29bから出力される高周波サブキャリア16に由来する参照光37と、光分波器29cから出力される高周波サブキャリア16に由来する信号光39とを、位相ダイバーシティ検出器41aに入力して、第1の複素ビート信号31の同相成分10と直交成分11とを演算装置14に出力する。同様に、ビート信号生成部9は、光分波器29bから出力される低周波サブキャリア17に由来する参照光38と、光分波器29cから出力される低周波サブキャリア17に由来する信号光40とを、位相ダイバーシティ検出器41bに入力して、第2の複素ビート信号32の同相成分12と直交成分13とを演算装置14に出力する。
図9及び図10に示すように、位相ダイバーシティ検出器41a及び位相ダイバーシティ検出器41bは、それぞれ、ビームスプリッタ2cと、ビームスプリッタ2dと、ビームスプリッタ2eと、ビームスプリッタ2fと、π/2光位相シフタ42と、全反射鏡43aと、全反射鏡43bと、バランス型光検出器44aと、バランス型光検出器44bと、を有している。π/2光位相シフタ42は、入力した光の位相をπ/2変化させて(π/2ずらして)出力するものである。
位相ダイバーシティ検出器41aのバランス型光検出器44aは、ビームスプリッタ2cで二分された参照光37のうちの一方を、全反射鏡43a及びビームスプリッタ2e経由で入力すると共に、ビームスプリッタ2dで二分された信号光39のうちの一方をビームスプリッタ2e経由で入力し、これらの入力光をもとに第1の複素ビート信号31の同相成分10を生成して出力する。位相ダイバーシティ検出器41aのバランス型光検出器44bは、ビームスプリッタ2cで二分された参照光37のうちの他方を、π/2光位相シフタ42、全反射鏡43b、及びビームスプリッタ2f経由で入力すると共に、ビームスプリッタ2dで二分された信号光39のうちの他方をビームスプリッタ2f経由で入力し、これらの入力光をもとに第1の複素ビート信号31の直交成分11を生成して出力する。
位相ダイバーシティ検出器41bのバランス型光検出器44aは、ビームスプリッタ2cで二分された参照光38のうちの一方を、全反射鏡43a及びビームスプリッタ2e経由で入力すると共に、ビームスプリッタ2dで二分された信号光40のうちの一方をビームスプリッタ2e経由で入力し、これらの入力光をもとに第2の複素ビート信号32の同相成分12を生成して出力する。位相ダイバーシティ検出器41aのバランス型光検出器44bは、ビームスプリッタ2cで二分された参照光38のうちの他方を、π/2光位相シフタ42、全反射鏡43b、及びビームスプリッタ2f経由で入力すると共に、ビームスプリッタ2dで二分された信号光40のうちの他方をビームスプリッタ2f経由で入力し、これらの入力光をもとに第2の複素ビート信号32の直交成分13を生成して出力する。
すなわち、位相ダイバーシティ検出器41aは、ビームスプリッタ2cにより参照光37を二分し、その一方が、全反射鏡43aとビームスプリッタ2eとを介してバランス型光検出器44aに導かれ、その他方が、π/2光位相シフタ42と、全反射鏡43bと、ビームスプリッタ2fとを介してバランス型光検出器44bに導かれるよう構成されている。位相ダイバーシティ検出器41bは、ビームスプリッタ2cにより参照光38を二分し、その一方が、全反射鏡43aとビームスプリッタ2eとを介してバランス型光検出器44aに導かれ、その他方が、π/2光位相シフタ42と、全反射鏡43bと、ビームスプリッタ2fとを介して、バランス型光検出器44bに導かれるよう構成されている。そして、位相ダイバーシティ検出器41aのバランス型光検出器44aから第1の複素ビート信号31の同相成分10が出力され、位相ダイバーシティ検出器41bのバランス型光検出器44aから第2の複素ビート信号32の同相成分12が出力される。また、位相ダイバーシティ検出器41aのバランス型光検出器44bから第1の複素ビート信号31の直交成分11が出力され、位相ダイバーシティ検出器41bのバランス型光検出器44bから第2の複素ビート信号32の直交成分13が出力される。
続いて、図11~図13を参照し、演算装置14による演算処理の内容等について具体的に説明する。多周波レーザ1の出力光から光分岐素子2aにより分けられたプローブ光3は、キャリアと2つのサブキャリアを有している。
まずは図11に基づき、キャリア及び2つのサブキャリアが受けるドップラーシフトについて説明する。図11は、対象物7が光学的測定装置100に対して相対的に運動している場合にプローブ光3が受けるドップラーシフトを説明する図である。つまり、以下の説明において、ドップラーシフトとは、対象物7の相対的な運動に起因したドップラーシフトのことである。
図11には、対象物7が光学的測定装置100に対し相対的に近づいている場合のドップラーシフトを例示している。この場合、キャリア15と2つのサブキャリア(16、17)は、何れも高周波側にシフトする。一方、対象物7が光学的測定装置100に対し相対的に遠ざかっている場合、キャリア15と2つのサブキャリア(16、17)は、いずれも低周波側にシフトする(図示は省略)。
ドップラーシフトの大きさは、光学的測定装置100に対する対象物7の相対速度と、光の周波数に比例する。このため、キャリア15と2つのサブキャリア(16、17)が受けるドップラーシフトは、それぞれ大きさが異なる。そこで、キャリア15のドップラーシフトは「ΔνD」と表し、高周波サブキャリア16のドップラーシフトは「ΔνD+」と表し、低周波サブキャリア17のドップラーシフトは「ΔνD―」と表すことにする。
上述したように、演算装置14は、第1の複素ビート信号31の周波数と第2の複素ビート信号32の周波数とをもとに、和周波数と差周波数を計算することができる。そして、演算装置14は、2つの複素ビート信号それぞれの周波数に基づく和周波数を用いた演算処理により、対象物7の速度を算出する。また、演算装置14は、2つの複素ビート信号それぞれの周波数に基づく差周波数を用いた演算処理により、対象物7までの距離を算出する。
演算装置14による和周波数の演算では、2つのサブキャリア(16、17)に重畳された逆相の周波数変調が相殺され、同相の周波数雑音が加算される。一方、演算装置14による差周波数の演算では、2つのサブキャリア(16、17)に重畳された同相の周波数雑音が相殺され、逆相の周波数変調が加算される。差周波数の演算においては、多周波レーザ1の周波数雑音が完全に除去されるため、コヒーレンス長に制限されない距離の測定が可能になる。
高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17それぞれのドップラーシフトは、差周波数では減算され、和周波数では加算される。このため、差周波数ではドップラーシフトに対する感度が低下する。一方、和周波数に現れるドップラーシフトは、加算する前におよそ2倍になり、高感度の速度の測定が可能になる。
ここで、図12を参照しつつ、第1の複素ビート信号31と第2の複素ビート信号32とから、対象物7の速度と対象物7までの距離を計算する過程について説明する。図12は、演算装置14が、2つの複素ビート信号それぞれの周波数に基づく和周波数と差周波数を利用し、対象物7の速度と対象物7までの距離を計算する過程を例示した説明図である。以下の説明においては、高周波サブキャリア16に対する物理量に上付き添字「+」の記号を付し、低周波サブキャリア17に対する物理量に上付き添字「-」の記号を付す。ここでは、図5の第1例のビート信号生成部9を備えた光学的測定装置100を中心に説明する。
第1の複素ビート信号31及び第2の複素ビート信号32を下記式(1)により表す。式(1)は、ビート信号の複素表示である。式(1)において、I±(t)は複素ビート信号の同相成分であり、Q±(t)は複素ビート信号の直交成分である。以下の各式においても同様である。
図5に示すビート信号生成部9の第1例においては、下記式(2)により表される複素ビート信号が出力される。なお、図8に示すビート信号生成部9の第2例においては、実数部である同相成分I±(t)と、虚数部である直交成分Q±(t)とが同時に出力される。
式(2)において、fSは光周波数シフタ26がシフトさせる周波数の量である。式(2)により表される複素ビート信号に対し、直交検波器33a及び直交検波器33bが行う処理を施すことにより、同相成分I±(t)と直交成分Q±(t)を分離して検出することができる。
高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17それぞれに対する同相成分は、下記式(3)により表すことができ、高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17それぞれに対する直交成分は、下記式(4)により表すことができる。式(3)及び式(4)において、A±は正味の振幅を表し、Φ±(t)は位相を表す。
式(3)により表される同相成分と、式(4)により表される直交成分とから、下記式(5)を用いて、高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17に対する位相Φ±(t)を求めることができる。
ここで、Unwrapは位相アンラップ処理を表す。式(5)における逆正接は、-π~+πの範囲の値を算出するので、±πを越える位相は、±2πの整数倍だけ差し引かれて、折りたたまれた値になる。位相アンラップ処理は、位相変化の不連続点から差し引かれた位相を検出し、補正して真の位相を求める処理である。
次に、和周波数と差周波数について説明する。第1の複素ビート信号31の周波数f+(t)は、位相Φ+(t)の時間微分として、下記式(6)により表すことができる。
式(6)の最右辺において、第1項は多周波レーザ1の周波数雑音に起因する成分であり、第2項はドップラーシフトに起因する成分であり、第3項は周波数変調に起因する成分であり、第4項はサブキャリア生成信号発生器21の周波数雑音に起因する成分である。式(6)において、νN(t)は多周波レーザ1の周波数雑音であり、τdは対象物7までの光の往復時間であり、ν0はキャリアの周波数であり、Vは対象物7との間の相対速度であり、νM(t)はサブキャリアの周波数変調であり、cは光の速度である。また、式(6)において、fSCはサブキャリア生成信号発生器21の中心周波数であり、νRF(t)はサブキャリア生成信号発生器21の周波数雑音である。
ここで、ドップラーシフトの大きさは、高周波サブキャリア16の周波数に比例する。波長1550nmの光を用いた場合、高周波サブキャリア16の周波数はおよそ193.4THzであり、大きなドップラーシフトを生じる。
同様にして、低周波サブキャリア17から生成される複素ビート信号の周波数f-(t)は、下記式(7)により表すことができる。
そして、式(6)及び式(7)より、和周波数fsum(t)は、下記式(8)のように求めることができる。
和周波数を示す式(8)の最右辺において、第1項は多周波レーザ1の周波数雑音に起因する成分であり、第2項はドップラーシフトに起因する成分である。より具体的に、第2項のドップラーシフトに起因する成分とは、高周波サブキャリア16のドップラーシフトと低周波サブキャリア17のドップラーシフトとの和のことである。周波数f+(t)と周波数f-(t)との和をとることにより、和周波数では、周波数変調に起因する成分と、サブキャリア生成信号発生器21の周波数雑音に起因する成分とが、完全に除去される。そして、式(8)最右辺の第1項の周波数雑音に起因する成分は、交流信号であることから、時間平均処理を施すことにより除去することができるため、和周波数からドップラーシフトを求めることができる。つまり、和周波数の平均値を求めることで、高周波サブキャリア16のドップラーシフトと低周波サブキャリア17のドップラーシフトとの和を求めることができる。ドップラーシフトの大きさは、高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17に対するドップラーシフトの和になっており、感度がおよそ2倍に増大する。
また、式(6)及び式(7)より、差周波数fdiff(t)は、下記式(9)のように求めることができる。
差周波数を示す式(9)の最右辺において、第1項はドップラーシフトに起因する成分であり、第2項は周波数変調に起因する成分であり、第3項はサブキャリア生成信号発生器21の周波数雑音に起因する成分である。差周波数においては、多周波レーザ1の周波数雑音に起因する成分は完全に除去される。周波数雑音は、コヒーレンス長を決定する要因であり、雑音が大きいほど、コヒーレンス長は短くなる。特許文献1に報告されているように、周波数雑音が除去された差周波数を用いることにより、コヒーレンス長に起因する最大測定距離の制限を克服することができる。
式(9)の差周波数において、ドップラーシフトの大きさは、高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17に対するドップラーシフトの差になっている。サブキャリア間の周波数差を50GHzとした場合、およそ193.4THzである高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17のドップラーシフトの1/3870程度になる。このため、差周波数を用いる場合は、対象物7の速度を精度よく求めることができない。
次に、式(8)により表される和周波数fsum(t)から対象物7の速度を算出する処理、及び式(9)により表される差周波数fdiff(t)から対象物7までの距離を算出する処理について説明する。ここでは、変調信号発生器20の出力として、三角波を用いた場合について説明する。
図13は、高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17に起因する、参照光と信号光の周波数変調と、ビート信号周波数と、和周波数と、差周波数とを説明する図である。図13において、Tmは三角波の変調周期を表し、Δνはチャープ帯域幅を表す。図13(a)は高周波サブキャリア16に対応し、図13(b)は低周波サブキャリア17に対応する。
三角波による周波数変調により、参照光と信号光は、アップチャープとダウンチャープを交互に繰り返す。参照光に対して、信号光には時間遅れが生じるので、図13(a)(b)のグラフには、ビート信号周波数が一定値となる時間域と、正から負、または負から正に転移する時間域が交互に現れる。
和周波数には、多周波レーザ1の周波数雑音に起因する成分と、ドップラーシフトに起因する成分とが現れる。多周波レーザ1の周波数雑音に起因する成分は、平均値が0の雑音であり、下記式(10)で表される時間平均処理により除去することができる。すなわち、和周波数の平均値は、対象物7の相対的な運動に起因したドップラーシフト、つまり、高周波サブキャリア16のドップラーシフトと低周波サブキャリア17のドップラーシフトとの和に相当する。
時間平均処理を施す区間は、任意に設定できるが、ここでは1回の距離、または速度の測定に対応する変調1周期に設定した。図13(c)には時間平均処理が施された和周波数を示す。和周波数の時間平均値を用いて、対象物7の速度は下記式(11)により求めることができる。
式(11)において、ν0はキャリア15の周波数であり、周波数193.4THzのキャリア15を用いた場合、和周波数の速度に対する感度は9.29[MHz/km/h]である。
式(6)、式(7)、式(8)の関係を式(10)に用いることで、和周波数の時間平均は下記式(12)により表すことができる。
式(12)は、和周波数の時間平均が、高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17の位相から計算できることを示している。すなわち、式(12)によれば、和周波数の時間平均の演算に、式(6)、式(7)の時間微分と、式(10)の平均化の処理が不要となる。つまり、図5に示すビート信号生成部9の第1例では、複素ビート信号の位相を復調して和周波数を求めるため、復調した位相を周波数に変換することなく、位相の演算のみで速度を算出することができる。
図13(d)は差周波数を表しており、周波数変調に起因する成分と、ドップラーシフトに起因する成分とが残っている。対象物7までの距離の算出には、図13(d)の差周波数が一定値となる時刻TU1から時刻TU2までのアップチャープに対応する区間ΔTUと、時刻TD1から時刻TD2までのダウンチャープに対応する区間ΔTDとを利用する。対象物7までの距離の算出には、ビート信号周波数が正から負、または負から正に転移する時間域を避け、区間ΔTUと区間ΔTDの長さを等しくし、かつ、これらをできるだけ長く設定することが望ましい。
アップチャープに対応する時間域である区間ΔTUでは、差周波数は下記式(13)により表すことができる。
式(13)の右辺において、第1項はドップラーシフトであり、第2項はサブキャリアの周波数変調に起因する成分であり、第3項はサブキャリア生成信号発生器21の周波数雑音に起因する成分である。サブキャリア生成信号発生器21の周波数雑音に起因する成分は、平均値が0の雑音であり、下記式(14)で表される時間平均処理により除去することができる。
ダウンチャープに対応する時間域である区間ΔTDでは、差周波数は下記式(15)により表すことができる。
アップチャープの場合と同様に時間平均処理を施し、サブキャリア生成信号発生器21の周波数雑音に起因する成分を除去すると、下記式(16)が得られる。
区間ΔTUと区間ΔTDで求めた差周波数から、対象物7までの距離は、下記式(17)により算出することができる。
区間ΔTUと区間ΔTDで求めた差周波数から、対象物7の相対速度を求める場合は、下記式(18)を用いる。
式(18)において、fSCはサブキャリア生成信号発生器21の中心周波数であり、fSCが25GHzの場合、差周波数の速度に対する感度は、2.40[kHz/km/h]である。この感度の値は、和周波数から求める場合のおよそ1/3870である。
和周波数の場合と同様にして、差周波数の時間平均は、高周波サブキャリア16及び低周波サブキャリア17の位相に置き換えることができる。つまり、図5に示すビート信号生成部9の第1例では、複素ビート信号の位相を復調して求めるため、復調した位相を周波数に変換することなく、位相の演算のみで対象物7までの距離を算出することができる。
なお、下記式(19)は、アップチャート領域の差周波数の平均値を位相の演算のみで求める演算式であり、下記式(20)は、ダウンチャート領域の差周波数の平均値を位相の演算のみで求める演算式である。
ここで、演算装置14による対象物7の速度の演算処理をまとめると、以下のようになる。すなわち、演算装置14は、第1の複素ビート信号31を復調して、当該第1の複素ビート信号31の周波数である第1周波数を求め、第2の複素ビート信号32を復調して、当該第2の複素ビート信号32の周波数である第2周波数を求める。演算装置14が2つの複素ビート信号に施す復調は、上記式(5)の処理に対応する。すなわち、演算装置14は、高周波サブキャリア16に対する直交成分を高周波サブキャリア16に対する同相成分で除した値の、アークタンジェント(逆正接)を求め、求めた値に位相アンラップ処理を施すことにより第1周波数を求める。また、演算装置14は、低周波サブキャリア17に対する直交成分を低周波サブキャリア17に対する同相成分で除した値の、アークタンジェント(逆正接)を求め、求めた値に位相アンラップ処理を施すことにより第2周波数を求める。そして、演算装置14は、上記式(8)、式(11)、式(12)に基づく処理により、第1周波数と第2周波数との和である和周波数の平均値を用いて対象物7の速度を求める。
次に、図14のフローチャートを参照し、本実施の形態における光学的測定方法について説明する。ここでは、本実施の形態の光学的測定方法のうち、和周波数を用いた速度の演算に係る処理内容について、概略的に説明する。
まず、光学的測定装置100は、多周波レーザ1により、キャリア15の周波数に対し互いに対称の位置にある、周波数変調した高周波サブキャリア16と周波数変調した低周波サブキャリア17とを同時に発生し、2つのサブキャリア(16、17)を含む光を光分岐素子2aに出力する(ステップS101:サブキャリア発生工程)。次いで、光学的測定装置100は、光分岐素子2aにより、多周波レーザ1の出力光をプローブ光3と参照光4とに二分する。光分岐素子2aは、プローブ光3を光学系5に出力し、参照光4をビート信号生成部9に出力する(ステップS102:光分岐工程)。
次に、光学的測定装置100は、光学系5により、プローブ光3を対象物7に照射すると共に、対象物7からの散乱光を信号光8としてビート信号生成部9に出力する(ステップS103:照射処理工程)。続いて、光学的測定装置100は、参照光4と信号光8とを入力したビート信号生成部9により、高周波サブキャリア16に由来し、同相成分10と直交成分11とを含む第1の複素ビート信号31と、低周波サブキャリア17に由来し、同相成分12と直交成分13とを含む第2の複素ビート信号32とを生成する。ビート信号生成部9は、第1の複素ビート信号31の同相成分10及び直交成分11と、第2の複素ビート信号32の同相成分12及び直交成分13とを、演算装置14へ出力する(ステップS104:複素ビート信号生成工程)。
そして、光学的測定装置100は、演算装置14により、第1の複素ビート信号31の周波数と第2の複素ビート信号32の周波数との和である和周波数を求め、求めた和周波数から対象物7の速度を算出する(ステップS105:速度演算工程)。より具体的に、演算装置14は、第1の複素ビート信号31を復調して第1周波数を求めると共に、第2の複素ビート信号32を復調して第2周波数を求め(ステップS201)、第1周波数と第2周波数とを加算して和周波数を求め(ステップS202)、和周波数の平均値を用いて対象物7の速度を求める(ステップS203)。
なお、上述した光学的測定プログラム14pは、キャリア15の周波数に対し互いに対称の位置にある、周波数変調した高周波サブキャリア16と周波数変調した低周波サブキャリア17とを発生する多周波レーザ1の出力光に基づいて対象物7の速度を求める演算装置14に備わるコンピュータを、高周波サブキャリア16に由来し、同相成分10と直交成分11とを含む第1の複素ビート信号31を復調して第1周波数を求め、低周波サブキャリア17に由来し、同相成分12と直交成分13とを含む第2の複素ビート信号32を復調して第2周波数を求め、第1周波数と第2周波数とを加算して和周波数を求め、和周波数の平均値を用いて対象物7の速度を求める速度演算手段として機能させるためのものである。
[測定精度の評価]
本実施の形態における光学的測定装置100について、対象物7の速度の測定精度を評価するシミュレーションを行った。当該シミュレーションにおいては、図8に示すビート信号生成部9の第2例を用いて雑音を含む2つの複素ビート信号を生成し、図12の過程に従って距離と速度を算出した上で、その精度の評価を行った。雑音としては、多周波レーザ1の周波数雑音と、バランス型光検出器44a及びバランス型光検出器44bにおいて発生するショット雑音と検出器雑音を考慮した。ショット雑音は、バランス型光検出器に入射するレーザ光が有する雑音である。光検出器雑音は、入射光がない場合においても発生する雑音であり、バランス型光検出器の暗電流雑音と、後段に配置する増幅器の熱雑音を含む。多周波レーザ1の周波数雑音に比べて、サブキャリア生成信号発生器21の周波数雑音は小さいので無視する。
以下、シミュレーションの流れを説明する。最初に、高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17から生成される複素ビート信号の周波数f±(t)を生成する。
式(21)の右辺において、第1項は多周波レーザ1の周波数雑音を表し、第2項は対象物7の相対的な運動によるドップラーシフトを表し、第3項はサブキャリアの周波数変調に起因する成分を表す。対象物7までの光の往復時間τdとして、距離100.43mに相当する335nsを設定し、対象物7の運動速度として、V=50.0[km/h]を設定した。
図15(a)は、高周波サブキャリア16の周波数変調νM(t)の時間波形を表す図である。図15(a)の周波数変調νM(t)において、変調波形は三角波、変調周波数は10kHz、チャープ帯域幅は1GHzである。低周波サブキャリア17の周波数変調は、逆相の-νM(t)となる。図15(b)は、多周波レーザ1の周波数雑音νN(t)の時間波形を表す図である。図15(b)は、単一周波数レーザ18又は半導体レーザ22の周波数雑音として、スペクトル線幅3MHzに相当する白色雑音を設定した場合の、数値演算により発生した時間波形である。光変調器19から出力される高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17の周波数には、同相の周波数雑音νN(t)が現れる。
次に、式(21)で表される複素ビート信号の周波数f±(t)を下記式(22)及び式(23)に代入することで、2つの複素ビート信号の同相成分と直交成分を生成する。
式(22)において、I±
shot(t)とI±
PD(t)は、それぞれ、複素ビート信号の同相成分に現れるショット雑音と光検出器雑音である。式(23)において、Q±
shot(t)とQ±
PD(t)は、それぞれ、複素ビート信号の直交成分に現れるショット雑音と光検出器雑音である。これらの雑音はすべて、相互に相関のない白色雑音である。また、A±はバランス型光検出器に入射する参照光と信号光のパワーにより決まる振幅であり、下記式(24)により表すことができる。
式(24)において、ηはバランス型光検出器の量子効率、Gはバランス型光検出器の後段に配置した増幅器の利得、Prefは参照光パワー、Psigは信号光パワーである。
図16(a)は、高周波サブキャリア16の同相成分に現れるショット雑音I+
shot(t)の時間波形を表す図である。ショット雑音の標準偏差σshotは、下記式(25)により表すことができる。
式(25)において、eは電子の電荷、fPDはバランス型光検出器の帯域幅である。図16(a)の時間波形は、G=39[kV/A]、η=0.9[A/W]、Pref=100[μW]、fPD=100[MHz]の各値を用い、数値演算により求めた白色雑音を示す。式(21)の他の成分についても、同じ数値を用いて、図16(a)の時間波形とは相関のない白色雑音を生成した。
図16(b)は、高周波サブキャリア16の同相成分に現れる光検出器雑音I+
PD(t)の時間波形を表す図である。光検出器雑音の標準偏差σPDは、下記式(26)により表すことができる。
式(26)において、NPDはバランス型光検出器の雑音等価電力である。図16(b)の時間波形は、G=39[kV/A]、NPD=8[pA/Hz1/2]、fPD=100[MHz]の各値を用い、数値演算により求めた白色雑音を示す。式(22)及び式(23)の他の成分についても、同じ数値を用いて、図16(b)の時間波形とは相関のない白色雑音を生成した。
図17(a)は高周波サブキャリア16について、図17(b)は低周波サブキャリア17について、それぞれ複素ビート信号をIQ平面に表示した図である。参照光パワー100μW、信号光パワー100nWの各値を用いて、式(22)及び式(23)により計算した結果である。複素ビート信号の同相成分と直交成分は、位相が90°ずれているので、IQ平面では円周上に各点が配置される。円周の拡がりは、ショット雑音と光検出器雑音に対応する。
式(21)の複素ビート信号に対し、式(5)により位相Φ±(t)を求めた後、式(6)、式(7)、式(8)、式(9)に従って周波数を計算した。図18(a)は、高周波サブキャリア16の複素ビート信号の周波数を表す図であり、図18(b)は、低周波サブキャリア17の複素ビート信号の周波数の時間波形を表す図である。参照光パワーは100μW、信号光パワーは100nWである。
図18において、時間波形の前半はダウンチャープに対応し、時間波形の後半はアップチャープに対応する。高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17の周波数変調は逆相になるので、各複素ビート信号の周波数も互いに逆相となる。図18(a)と図18(b)の時間波形に現れている雑音は、主として、多周波レーザ1の周波数雑音に起因するが、ショット雑音と光検出器雑音も影響している。また、ドップラーシフトにより、各波形の周波数が全体的に低周波側にシフトしている。
図18(c)は、差周波数の時間波形を表す図である。差周波数においては、多周波レーザ1の周波数雑音が相殺され、ダウンチャープとアップチャープに対応した周波数の差がより明瞭に現れている。差周波数の残留雑音は、ショット雑音と光検出器雑音に起因する。また、ドップラーシフトに起因してシフトする周波数は「-9.27kHz」となり、時間波形では判別できなくなっている。
図18(d)は、和周波数の時間波形を表す図である。和周波数においては、周波数変調が相殺され、多周波レーザ1の周波数雑音と、ショット雑音及び光検出器雑音が現れている。ドップラーシフトに起因する周波数変化は「-35.8MHz」となり、全体が低周波側にシフトしている。和周波数の時間平均を計算することにより、ドップラーシフトを求めることができる。
図19は、信号光パワーを10μWから100pWまで変化させた場合の、差周波数の時間波形を表す図である。信号光パワーが1μW以上では、周波数変調に起因する成分が支配的であり、ダウンチャープとアップチャープに対応した周波数の差が明瞭に現れている。信号光パワーの減少とともに、ショット雑音と光検出器雑音に起因する雑音が増大し、信号光パワーが100pWの場合は、周波数変調に起因する成分を識別できない。
図20は、信号光パワーを10μWから100pWまで変化させた場合の、和周波数の時間波形を表す図である。和周波数においては、周波数変調が相殺され、多周波レーザ1の周波数雑音と、ショット雑音と、光検出器雑音とが現れる。信号光パワーが10nW以上では、雑音の大きさは概ね一定であり、多周波レーザ1の周波数雑音が支配的である。信号光パワーが1nW以下の領域では、信号光パワーの減少とともに、ショット雑音及び光検出器雑音に起因する雑音が増大する。
図21は、信号光パワーと差周波数から算出した距離の関係を表す図である。設定した距離100.43mに対して、信号光パワーが400pW以上では、距離測定誤差は1cm以下である。信号光パワーが400pW以下になると、信号光パワーの減少とともに誤差が増大し、信号光パワーが100pWでは、誤差が6.4mに達している。
図22には、信号光パワーを変化させたときの、和周波数から算出した速度と差周波数から算出した速度それぞれの変化を示している。差周波数から速度を算出した場合は、信号光パワーが1μWの場合においても、0.7km/hの誤差が生じている。差周波数のドップラーシフトに対する感度低下が誤差の要因と考えられる。信号光パワーが1μWから400pWの範囲では、誤差はほぼ一定であるが、400pW以下で急激に誤差が増大し、非現実的な値になっている。一方、和周波数から速度を算出した場合は、信号光パワーの減少に対する誤差の増大は緩やかであり、信号光パワーが100pWにおいても10%以下に留まっている。このことから、和周波数を用いることで、対象物7の高精度な速度測定が可能になるといえる。
以上のように、本実施の形態における光学的測定装置100は、キャリアの周波数に対し互いに対称の位置にある、周波数変調した高周波サブキャリア16と周波数変調した低周波サブキャリア17とを多周波レーザ1により発生し、多周波レーザの出力光を光分岐素子2aによってプローブ光3と参照光4とに二分する。次いで、光学的測定装置100は、光学系5により、プローブ光3を対象物7に照射し、対象物7からの散乱光を信号光8として出力し、参照光4と信号光8とから、ビート信号生成部9により、高周波サブキャリア16に由来する第1の複素ビート信号31と、低周波サブキャリア17に由来する第2の複素ビート信号32とを生成する。そして、演算装置14が、第1の複素ビート信号31の周波数(第1周波数)と第2の複素ビート信号32の周波数(第2周波数)との和である和周波数の平均値を用いて対象物7の速度を算出する。このように、光学的測定装置100は、和周波数の平均値を用いて対象物7の速度を算出することから、周波数雑音に起因する成分を除去することができるため、レーザのコヒーレンス長に起因する、対象物7との間の距離の制限を克服することができ、対象物7の速度を高精度に測定することができる。
本実施の形態における演算装置14は、第1の複素ビート信号31を復調して第1周波数を求め、第2の複素ビート信号32を復調して第2周波数を求め、第1周波数と第2周波数とを加算して和周波数を求めるよう構成されている。これらの復調は、いわゆる位相復調であり、例えば上記式(5)の処理がこれに相当する。かかる処理により、演算処理の簡素化及び迅速化を実現することができる。
多周波レーザ1としては、上記機能を実現可能な種々の構成を採用することができる。例えば、多周波レーザ1は、図2のように、単一周波数レーザ18と光変調器19と変調信号発生器20とサブキャリア生成信号発生器21とを有し、変調信号発生器20とサブキャリア生成信号発生器21とにより、光変調器19の出力光に、高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17とを生成するよう構成してもよい。また、多周波レーザ1は、図3のように、半導体レーザ22と変調信号発生器20とサブキャリア生成信号発生器21とを有し、変調信号発生器20とサブキャリア生成信号発生器21とにより、半導体レーザ22の出力光に、高周波サブキャリア16と低周波サブキャリア17とを生成するよう構成してもよい。
ここで、上述した実施の形態は、光学的測定装置、光学的測定方法、及び光学的測定プログラムにおける一例に過ぎず、本発明の技術的範囲は、これらの態様に限定されるものではない。例えば、光学的測定装置100は、図5及び図6に示す第1の複素ビート信号31と、図5及び図7に示す第2の複素ビート信号32とが、そのまま演算装置14に出力されるよう構成してもよい。この場合、図5の構成例では直交検波器33a及び直交検波器33bが実行する処理、つまり2つの複素ビート信号を同相成分と直交成分とに分離して出力する一連の処理を、演算装置14が行うよう構成するとよい。すなわち、演算装置14は、第1の複素ビート信号31から同相成分10と直交成分11とを抽出すると共に、第2の複素ビート信号32から同相成分12と直交成分13とを抽出する機能を有していてもよい。