最初に、相互作用する量子スピン系に対する基本的な概念について簡単に説明する。量子スピン系を含む量子多体問題を物理的に理解するには、相互作用するスピン系に対する物理数学的手法を用いる必要がある。Feynmanによる量子多体理論によると、量子力学的な状態や確率振幅、そして期待値などの物理量を求めるためには、物理的に実現可能なあらゆる状態の作用を計算し、物理状態として取りうるあらゆる経路に関する積分(経路積分)を実行すればよい。そのためには、数学的な詳細は割愛するが、図1A~Fに示すようなFeynman図(Feynman diagram)と呼ばれるトポロジカルな図形を描き、それに対応する積分計算を実行すればよい。
図1Aは、量子ビット1と量子ビット2の時空間での伝搬を表すグリーン関数1を記載している。先進ビットである量子ビット1に量子ビット2が後続することを示しており、時間・空間的な発展に伴う相互作用は陽に表されていない。図1Bは、量子ビット1へのパウリ演算子Xによる演算2と量子ビット2へのパウリ演算子Xによる演算3の結果、量子ビット1と量子ビット2の間に相互作用4が働いている様子を示している。同様に、図1Cは、量子ビット1へのパウリ演算子Yによる演算5と量子ビット2へのパウリ演算子Yによる演算6の結果、量子ビット1と量子ビット2の間に相互作用4が働いている様子を、図1Dは、量子ビット1へのパウリ演算子Zによる演算7と量子ビット2へのパウリ演算子Zによる演算8の結果、量子ビット1と量子ビット2の間に相互作用4が働いている様子を表している。
Feynman図は、このような図形を描くことが計算することと等価であることを意味する。例えば、相互作用を含むグリーン関数(時間発展を記述する関数)を計算するには、図1Eに記載される交換相互作用と図1Fに記載される直接相互作用を考慮すればよい。なお、図1Eに記載される交換相互作用は、量子ビット1へのパウリ演算子Xによる演算2の結果に対してパウリ演算子Yによる演算3が施され、量子ビット2として出力されることを表している。
本発明の一側面は、Feynman図で記述可能な物理系を量子ビット用に構築する機械を提供することである。この機械をFeynman Machineと命名する。例として、2量子ビットの場合のXYZ量子ハイゼンベルグ模型(その内容については後述する)に対するFeynman図を図2に示す。まず、左端の状態101は、全く相互作用をしない状態に相当し、状態を変えることがない。この場合、演算子は恒等演算子1として働く。ここで、量子ビットがリング状に結合されていることがポイントである。これにより、時間的に進んでいる先進ビット(例えば、量子ビット1)と時間的に遅れている遅延ビット(例えば、量子ビット2)の区別をなくすことができる。なぜなら、リング状に量子ビットが結合していれば、どちらが先に進んでいるかは意味をなさないからである。
次に、量子ビット1と量子ビット2の両方のビットに対し、(数1)で表されるパウリ演算子Xを施す。
状態102は、量子ビット1から量子ビット2への交換相互作用と量子ビット2から量子ビット1への交換相互作用の組み合わせとして記載されている。これは、ハイゼンベルグ模型が二体相互作用でできているからである。このため、量子ビット1と量子ビット2に連続して、演算子を施す。また、この演算は波束の収縮を起こさないよう、量子ビットの状態を観測せずに施す必要がある。そのためには、非特許文献1に開示するポアンカレ回転子、あるいは半波長板や半波長回転子と位相変調器との組み合わせを用いればよい。このように量子ビット間が相互作用した状態102を相互作用のない恒等演算されたもともとの状態101と重ね合わせ状態にする。
加えて、(数2)で表されるパウリ演算子Yを量子ビット1と量子ビット2とに施した状態103を同様に重ね合わせる。
さらに、(数3)で表されるパウリ演算子Zを量子ビット1と量子ビット2とに施した状態104を同様に重ね合わせる。
Feynman Machineは、このような重ね合わせ状態を光の偏光状態で実現し、リング・レーザ共振器に挿入することで、レーザ発振させるレーザ発振器である。レーザ発振の際には、最も伝搬ロスの少ない偏光状態が実現する。これはFeynmanの経路積分に基づく最小作用の原理で説明される。すなわち、Feynman Machineでは、Feynman図の処方箋(図2)に従って、ありとあらゆる偏光状態が実現する可能性が実現するように、偏光状態を表すための量子力学的波動関数の位相を調整する。その際、後述するように、スピンはX軸方向にも、Y軸方向にも、さらにはZ軸方向にも反強磁性的に配列した場合に最もエネルギーが下がるように調整される。最もエネルギーの低い状態は、スピン・シングレットと呼ばれる巨視的量子エンタングルメントが実現した状態である。
本実施例のFeynman Machineが解くべきハミルトニアンは、(数4)で表されるXYZ量子ハイゼンベルグ模型である。簡単のため、2量子ビットの場合を例に説明するが、多量子ビットへの拡張やより複雑な相互作用に拡張することは容易である。
ここで、JX, JY, JZは、それぞれスピンのX軸、Y軸、Z軸方向のスピン相互作用の大きさを表す。ここでは簡単のため、JX=JY=JZ=J>0の場合について説明する。これは量子ビット間のスピンが反強磁性的な配置になっている場合にエネルギーが低くなることに相当する。なお、J<0の場合が強磁性状態に相当する。強磁性状態では、相互作用する隣接スピンが作る実効的な磁場の方向にスピンが強磁性的に配向する古典的状態が最低エネルギー状態となり、スピンフラストレーションが全く発生しないために、量子状態として興味深い状態にはならない。実際の複雑な多体相互作用を考慮する場合には強磁性結合も考慮することになるが、ここでは説明の簡略化と本質的な議論に集中するために、反強磁性結合に絞って説明する。このスピン相互作用は図1A~Fで示されるFeynman図を用いて計算することができる。
Feynmanの経路積分法の考え方に基づいて、(数4)のハイゼンベルグ模型がどのような時間発展になるのか考察する。量子力学の基本的原理に基づくと、時間発展はハミルトニアンを用いて、(数5)で記載される。
ここで、tは時間、iはi2=-1を満たす虚数単位、エイチ・バーはプランク定数hを2πで割ったディラック定数である。演算子は、(数1)から(数3)で示されるパウリ演算子であるが、量子ビットを示す「1」または「2」の添え字が付されている。添え字1は量子ビット1にのみ演算が施され、添え字2は量子ビット2にのみ演算が施されることを意味する。(数5)はFeynmanにならって、微小時間t発展後の状態を考察するため、指数関数の因子を1次まで展開した結果である。これは、鈴木-Trotter公式として広く知られている展開式である。
この式から微小時間後の時間発展を考えるうえでまず大切なのは、恒等因子である1である。微小時間後の時間発展では、もとの状態とあまり大きく状態は変わらないということを量子力学は示唆している。したがって、もとの状態を保持したうえで、別の状態と重ね合わせることが重要である。次に示唆的なのは虚数因子である。(数5)の左辺は指数関数の引数に虚数iがついていることから、時間発展のユニタリー演算子は振幅を変えず、その大きさは1である。これは、時間発展が可逆であることを意味している。つまり、ロスやゲインが発生しなければ、量子力学的な時間発展は時間反転対称性を有している。そのような時間発展を考察している中で、恒等演算子が1であるとすると、実数値をこれ以上あげることはできない。実際に(数5)の右辺に虚数がついているのはこのためである。このような虚数のつく演算を実際にレーザ光に対して実施することは可能である。このことは、(数6)から理解できる。
すなわち、(数5)は、恒等演算子を施してもともとの状態を保持している量子ビットに対して、分波して取り出した量子ビットにパウリ演算子で決まる演算を施したのちに、位相を(数6)で決まる-90°回転させて合波することですれば演算できる。したがって、(数5)の演算は物理的に実現できる。すなわち、Jは量子ビットを分岐する分岐比で決まり、方向性結合器での分波比によって調整すればよい。tは量子ビットの光パルス列を制御する時間で決まる。
このような時間発展を繰り返し実行することによって、入力光の量子状態は時間発展していく。Feynmanの経路積分法の考え方にしたがうと、入力光の量子状態が(数5)で決まる演算を施した後の出力光の量子状態と一致するときに、系は固有状態、すなわち安定な状態になる。ただし、実際の実験系では、このような時間発展の期間中に、様々なロスが発生して振幅が減少してしまう。振幅が減少すると、入力したレーザ光はいずれ減衰して強度が小さくなってしまう。そこで、リング共振器の中に増幅(ゲイン)媒体を入れる。具体的には、Erドープ光ファイバ(Er-Doped Fibre Amplifier:EDFA)、または半導体光増幅器(Semiconductor Optical Amplifier:SOA)を挿入する。すると、各量子ビットが最もロスの小さい最適スピン配置になるように自然選択される。
時間発展の繰り返しにより、系のエネルギーは固有状態となるが、必ずしも最低値が選ばれる訳ではない。しかしながら、通常、量子状態としては、最低エネルギー状態に興味がある。そこで、虚時間τ=itを導入する。この技法そのものは理論物理学や統計物理学ではWick回転として知られているが、物理系への適用は例がない。Wick回転を(数5)に適用することにより、(数7)が得られる。
(数7)は、(数5)の位相操作を振幅操作に置き換えたものに相当する。つまり、Wick回転することにより、最もエネルギーの低い状態が最大振幅を与えるようになる。このようなWick回転は、合波の際に、(数6)にしたがって位相を-90°回転させるのではなく、位相を180°回転させればよい。このことは、(数7)の位相因子の符号と(数8)から理解できる。
これは、波長をλとして、半波長λ/2分の位相を調整することを意味する。このような精密位相制御は現在の光技術では容易に達成できる。ここで注意が必要なのは、量子状態は、(数9)などのような2量子ビットの直積として表されており、-1の位相因子はこの多体状態全体としての位相である。
-1=i2であるから、位相をそれぞれ90°回転させて合波させればよい。または、2つの量子ビットに等価に位相を回転させるのではなく、量子ビット1に対しては-1の位相因子を与えるように位相を180°回転させ、量子ビット2に対しては、位相を回転させずに合波してもよい。ここでは、本質的に重要である反強磁性結合の場合について説明しているが、強磁性結合を実現するためには、+1=i(-i)であることから、量子ビット1に対しては、位相を90°回転させ、量子ビット2に対しては位相を-90°回転させて合波させればよい。このことは、局所的な位相だけでなくリング共振器全体を貫くグローバル位相が重要であることを示しており、多体状態の波動関数全体としてコヒーレントに整合できるかどうかがリング・レーザ発振させる上で、重要になる。
以上、Feynman Machineによって、反強磁性ハイゼンベルグ模型が物理的に実現できることについて説明した。このことの物理的意味を説明する。2量子ビットの反強磁性ハイゼンベルグ模型は、(数10)で表される。
ここで、2量子ビットの状態を|↑,↑>、|↑,↓>、|↓,↑>、|↓,↓>の4状態とした。このハミルトニアンを対角化すると(数11)になる。
ここで、最もエネルギーの低い-3J状態を与える波動関数は、(数12)で表されるスピン・シングレットである。
各量子ビットの状態は偏光で記述され、(数12)で表される状態は異なる量子ビットの偏光がもつれあって(エンタングルされて)いることに注意されたい。コヒーレントなレーザ光は、巨視的な数の光子が同じ偏光状態に定まっている。光パルスで構成される量子ビットの偏光間にもつれが実現するということは、巨視的なエンタングルメントが実現するということを意味する。すなわち、レーザ技術の活用により、室温で容易に制御可能なエンタングルメント状態を実現することが可能になるため、量子コンピュータの実現が容易になり、また、量子シミュレーションや量子暗号通信などに幅広く応用することが可能になる。
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。これらの実施例は例示に過ぎず、使用する材料や導電型、形状など様々な改変が可能である。また、各実施例の中で記載したデバイス構造を組合せたり、置換したりすることも可能である。なお、図面においては理解を容易にするため、重要部分を拡大して図示したため、実際の縮尺とは異なる。
なお、以下の例では、レーザ光の偏光状態を、ストークス・パラメータS1をZ軸、ストークス・パラメータS2をX軸、ストークス・パラメータS3をY軸とする基底をもつ状態ベクトルとして表す例を用いている。この場合、横偏光と縦偏光が基底状態となる。基底の取り方はこれに限定されるものではなく、例えば、ストークス・パラメータS3をZ軸、ストークス・パラメータS1をX軸、ストークス・パラメータS2をY軸とする基底をとる場合には、円偏光が基底状態になる。
実施例1のFeynman Machineは、リング共振器から方向性結合器を使って部分的に取り出したパルス光の偏光状態を制御し、再びリング共振器に戻すことで、偏光状態を表す波動関数の位相と振幅を少しずつ変化させ、Feynman図に示される相互作用を実現する。
まず、本実施例で多用するポアンカレ回転子(偏光制御器)9について説明する。図4Aに模式的に示すように、ポアンカレ回転子9は、シングルモード光ファイバ10に接続されており、シングルモード光ファイバ10中を伝搬する光量子ビット11の偏光状態を変化させる。偏光状態はポアンカレ球の中心から球面に向けたベクトルで表すことができ、ポアンカレ回転子9は、このベクトル状態を任意の回転軸の周りに任意の角度で回転させることができる。
ポアンカレ回転子9の具体的構成例のひとつを図4Bに示す。シングルモード光ファイバ10を介して入射された光量子ビット11は、まず、偏波分離器(Polarization Beam Splitter:PBS)12によって横偏光状態|H>と縦偏光状態|V>に分離される。ここでは、空間光学系を用いたビームスプリッタを用いているが、シリコンフォトニクスを用いた二次元グレーティングカプラーによって偏光成分を分離してもさしつかえない。偏波分離器(または偏波合波器)12によって分離された偏光成分は、偏波保持光ファイバ(Polarization-maintaining AND Absorption-reducing:PANDA)14にそれぞれ入力される。その際、偏波保持光ファイバ14のスロー軸にナローキーを配向させるために、横偏光状態|H>に対しては、ファスト軸(fast軸)を水平方向にアラインさせた半波長板13を介して偏波保持光ファイバ14へ結合させている。なお、シリコンフォトニクスを用いて、TE(Transverse-Electric)モードのみのシングルモード細線導波路を用いる場合には、TM(Transverse-Magnetic)モードは存在せず、両モードともにTEモードとしてシリコン細線導波路を伝搬するため、半波長板13は不要である。横偏光状態|H>用の偏波保持光ファイバ14の光路長と縦偏光状態|V>用の偏波保持光ファイバ14の光路長とは、同一になるように調整されている。偏光成分はともに光回転子15に入射される。光回転子15は、マッハツェンダー干渉計、位相調整器、マルチモード干渉計(Multi-Mode-Interference:MMI)、及び導波路などから構成され、横偏光状態|H>と縦偏光状態|V>の間の振幅比を調整することができる。これは、レーザ光の偏光状態をポアンカレ球のS3軸まわりに回転させることに相当する。光回転子15における位相変調器は、変調量が電気的に制御されるようにし、任意の回転角を電気的に自由に制御できるようになっている。
光回転子15を通過した偏光成分は偏波保持光ファイバ14を介して、光変調器アレイ16に入射され、横偏光状態|H>と縦偏光状態|V>の位相がそれぞれ調整される。光変調器アレイ16は電気的に接続されており、任意の角度で電気的に偏光状態の位相を回転させることができる。横偏光状態|H>と縦偏光状態|V>とに与えられる位相差によって、レーザ光の偏光状態は、ポアンカレ球のS1軸、または、S2軸まわりに回転させられる。
横偏光状態|H>用の偏波保持光ファイバ14は、半波長板13を介して偏波合波器12に結合され、スロー軸に配向された偏光を、偏光状態を回転させることによって、もとの横偏光状態|H>に戻して偏波合波器12に入射させる。縦偏光状態|V>に関しては、そのまま偏波合波器12に入射される。横偏光状態|H>用の偏波保持光ファイバ14の光路長と縦偏光状態|V>用の偏波保持光ファイバ14の光路長とは、同一になるように調整されている。このようにして再び合波された光量子ビット11は、シングルモード光ファイバ10から出力される。
ポアンカレ回転子9において所望のレーザ光を光学素子に透過させることが、偏光状態を変化させる量子力学的な演算に相当する。レーザ光が光学素子を透過することによって、偏光状態を表す位相や振幅が変化し、この変化は、ポアンカレ球上で偏光状態を表す状態ベクトルが回転することに相当する。このように、ポアンカレ回転子9は、入射光の偏光状態を観測せずとも、ポアンカレ球上で所望の軸の周りに所望の角度回転させることができる理想的なデバイスである。
図5に実施例1のFeynman Machineの模式図を示す。いくつかの重要な構成要素があり、順を追って説明する。まず、中心に存在するのがリング共振器となるシングルモード光ファイバ・リング17である。量子ビット列は繰り返し、シングルモード光ファイバ・リング17中を回転することによって、最適なスピン配置へと収束する。リング形状であるため、先進ビットと遅延ビットの区別がつかなくなり、因果律に違反することなく、量子相関を達成することは上述の通りである。
相互作用を印加するために、シングルモード光ファイバ・リング17には、X軸相互作用印加用光ファイバ18、Y軸相互作用印加用光ファイバ19、及び、Z軸相互作用印加用光ファイバ20が接続されている。これらの相互作用印加用光ファイバ18,19,20と光ファイバ・リング17との接続には、方向性結合器24が使われている。これは、2本の光ファイバを近接して配置することによって、一方のファイバから他方のファイバへレーザ光が飛び移ることを可能にする素子である。方向性結合器24は所望の分岐比で結合するように調整されている。例えば、10%の光が相互作用印加用光ファイバ18,19,20へ結合するように設計されている。
相互作用印加用光ファイバ18,19,20のそれぞれに、レーザ光の偏光状態をX軸(S2軸)周りに回転させるX軸相互作用印加用ポアンカレ回転子21、レーザ光の偏光状態をY軸(S3軸)周りに回転させるY軸相互作用印加用ポアンカレ回転子22、レーザ光の偏光状態をZ軸(S1軸)周りに回転させるZ軸相互作用印加用ポアンカレ回転子23が接続されており、量子ビット1と量子ビット2との間に所望の相互作用を印加する。相互作用印加用光ファイバ18,19,20は光路長が同じになるように調整されているが、波長以下の精度で光路長を一致させる必要があるため、各リング内に位相変調器26を設けている。また、光ファイバの偏光軸を調整するため、各リング内に偏光調整器25を設けている。偏光調整器25としては、ポアンカレ回転子9を用いてももちろん構わないが、偏光調整器25は高速で制御する必要はないため、光ファイバに歪を印加するより安価なタイプの偏波調整器を用いても差し支えない。
シングルモード光ファイバ・リング17には、エルビウム・ドープ光増幅器(EDFA)27が接続されており、入力光の振幅が減衰しないようにされている。リング共振器がレーザ発振するとき、自然選択的にもっとも伝搬ロスの小さいスピン配向が選択されている。
図5の例では、リング共振器伝搬方向28は、紙面上方からみて左回りになる。一方、X軸用光ファイバ伝搬方向29、Y軸用光ファイバ伝搬方向30、及び、Z軸用光ファイバ伝搬方向31は、右回りになる。ここで、相互作用を印加する光ファイバ18,19,20は、いずれもシングルモード光ファイバ・リング17の円周と同じの長さをもつ円周状とされているため、相互作用用に取り出された量子ビットの光は同じ量子ビット、すなわち、量子ビット1は量子ビット1に、量子ビット2は量子ビット2に位相を整えたうえで戻される。これは、(数7)に示される、スピン演算されていない恒等演算子1が実施された状態と2量子ビットの間にスピン演算が実施された状態とが所望の位相によって結合していることに対応している。
このように位相を精密に制御するためには、光ファイバ・リング17上を伝搬するレーザ光の波長が精度よく定まっていることが重要である。エルビウム・ドープ光増幅器(EDFA)27からは自然放出光も発生するため、レーザ光の入力なしでもリング・レーザは発振しうる。この場合、リング共振器の発振波長は最も伝搬ロスが小さくなり最大ゲインが得られる波長が選択され、正しい演算が行われない。リング共振器の発振波長が設計波長からずれることを回避するため、発振周波数が精密にロックされた入射レーザ光制御部32からのレーザ光をシングルモード光ファイバ・リング17に入射することが望ましい。さらに、シングルモード光ファイバ・リング17にはレーザ発振したレーザの偏光状態を調べるため、レーザ光検出部33が接続されている。
量子ハイゼンベルグ模型において、任意の量子ビット間において所望の相互作用を印加するために、制御用コンピュータ35で制御され、任意の波形を発生させる波形発生器34を、電気ケーブル36を介してポアンカレ回転子9に接続する。波形発生器34からの信号は、ポアンカレ回転子9による振幅や位相の調整に用いられる。これにより、多量子ビット間の相互作用を制御用コンピュータ35で制御できる。
次に、入射レーザ光制御部32の詳細を図6に示す。制御用コンピュータ35は、ドライバー回路37に接続され、光変調器38を駆動する。レーザ光源39としては、周波数が精密にロックされるものを用いる。例えば、アセチレン分子遷移に対して周波数をロックしたDFB(Distributed FeedBack)レーザによって、波長が1532.8323nmで安定化された光源を用いる。光変調器38によって、量子ビット列となるレーザパルス光が生成される。レーザ光が量子ビット列として機能するには、その波形が極めて重要である。なぜなら、量子ビットの偏光状態を表す波動関数が自由にその位相を変えることができるようになるには、振幅が小さい部分があることが必要であるからである。これは例えば、超伝導のジョセフソン接合と同様で、オーダー・パラメータと呼ばれる振幅が小さくなる部分をあえて形成することによって、位相の変化が可能になる。レーザ光を用いる場合には、量子ビットと量子ビットの間にレーザ光の振幅が小さい部分を意図的に形成する。量子ビットと量子ビット間の波動関数すなわち振幅に若干の重なりがあることも重要である。この重なりによって、2つの量子ビットの位相が相関を持ち、所望のスピン配置を選択することにつながる。
次に、レーザ光検出部33の詳細を図7に示す。偏光状態を検出するシステムはポラリメータ(Polarimeter)と呼ばれ、図7に示すレーザ光検出部33はポラリメータの一例である。出力レーザ光は、4波に等価に分岐され、X軸偏光板40、Y軸偏光板41、D軸(Diagonal, 斜め45°)偏光板42を介して、それぞれの成分に分離する。円偏光成分を検出するために、A軸(斜め-45°)にファスト(fast)軸をアラインした1/4波長板(Quarter Wave Plate:QWP)43をD軸偏光板42の前にも配置した。各成分の強度は、フォトダイオード44で検出され、そこで発生した電流信号をトランス・インピーダンス・アンプ(TIA)45で電圧に変換して、制御用コンピュータ35で解析する。このようにして検出されるX偏光強度、D偏光強度、Y偏光強度、及び、QWP-D偏光強度は、それぞれ(数13)~(図16)で表される。
ここで、S0はストークス・パラメータの強度を表し、完全コヒーレント光のS0は(数17)となり、ポアンカレ球の半径を表す。ストークス・パラメータS1, S2, S3は、偏光という光のスピンの各軸成分の期待値を表す。
(数13)~(数16)の観測値から、ストークス・パラメータは、(数18)~(数21)として求められる。これにより、スピン期待値であるストークス・パラメータを検出できる。
Feynman Machineでは非局所量子相関が実現できるため、単なる局所的なスピン期待値だけでなく、量子相関そのものを表すグリーン関数を直接観測によって求めることが可能である。そのためのレーザ光検出部33の構成例を図8に示す。図7との違いは、例えば量子ビットiに対して所定のスピン回転演算を施す検出器用ポアンカレ回転子46と、量子ビットiに施されたスピン回転演算に伴う相互作用を量子ビットjに生じさせるための遅延線47が設けられている点である。検出器用ポアンカレ回転子46は、制御用コンピュータ35に接続され、量子ビットに所望のスピン操作を施し、必要な偏光成分を取り出せるようにフィルターが内蔵されている。図8に示すレーザ光検出部33では、量子ビットiに対して演算を行い、この量子ビットiに対する演算に応じて量子ビットjの観測結果がどのように変化するかを観測する。これを用いると、(数22)で表されるグリーン関数を直接観測できる。
ここで、αとβはそれぞれ、X, Y, Zのいずれかであり、スピンの配向方向を表している。
本実施例のFeynman Machineにおいて、2量子ビットのパルス光に対して、スピンのZ軸として、S1方向にのみ反強磁性結合を印加した場合には、イージング模型として動作する。このことは、図7のレーザ光検出部33により、例えば量子ビット1は横偏光(S1=1)、量子ビット2は縦偏光(S1=-1)と確定する一方、D偏光(Diagonal)、A偏光(Anti-diagonal)、L偏光(左円偏光)、R偏光(右円偏光)は観測されず、S2=S3=0でとなることから確認できる。
本実施例のFeynman Machineにおいて、X軸、Y軸、Z軸のいずれの方向にも反強磁性結合を印加することによって量子ハイゼンベルグ模型が実現される。この場合には、図7のレーザ光検出部33により計測される局所的スピン期待値はいずれの方向に関してもゼロになる。つまり、スピンはシングレット状態にあり、どちらの軸にも特別に配向していない量子的な重ね合わせ状態であることを意味している。この場合において、図8に示したグリーン関数を検出するレーザ光検出部33によって巨視的エンタングルメント状態を調べると、量子ビット1の偏光状態が横偏光の場合、量子ビット2の偏光状態が縦偏光であることが確認される。また、量子ビット1の偏光状態が縦偏光の場合、量子ビット2の偏光状態は横偏光であることが確認される。同様に、量子ビット1の偏光状態がD偏光の場合、量子ビット2の偏光状態がA偏光であり、量子ビット1の偏光状態がA偏光の場合、量子ビット2の偏光状態がD偏光であることが確認できる。同様に、量子ビット1の偏光状態が左円偏光の場合、量子ビット2の偏光状態が右円偏光であり、量子ビット1の偏光状態が右円偏光の場合、量子ビット2の偏光状態が左円偏光であることも確認できる。このように、エンタングルメント状態では、X軸、Y軸、Z軸のいずれの方向にも反強磁性結合となっているため、量子ビット1に対してどのような演算を施すかによって、量子ビット2の状態が確定する。
実施例1では、アインシュタインが懸念した因果律を守るため、リング共振器を用いて先進ビットと遅延ビットの区別をなくし、縦モードによるレーザ光の発振を用いてコヒーレントな位相を有する量子状態を選択的に実現している。これをニックネームとして輪廻転生方式と呼ぶものとする。輪廻転生方式では、位相をパウリ演算子で適切に回転させることによって、最適なスピン状態を得られるという利点がある。一方で、量子ビット間の位相が精密に制御される必要があるため、光ファイバにかかる外界からの温度変化や歪に対する感受性が高いという課題がある。
実施例2は、実施例1における環境に対する感受性の高さを克服するための構成である。先に伝搬している先進量子ビットと遅れて伝搬する遅延量子ビットとの間に相関を持たせるため、実施例2では、同じ時空に2つの量子ビットを持ってくる。これをFeynman図で表すと図3A,Bになる。図3Aは交換相互作用を表す図1Eとトポロジカルに同一であり、図3Bは直接相互作用を表す図1Fとトポロジカルに同一である。すなわち、図3Aと図1E、または図3Bと図1Fとは同じ相互作用を表す。両者の違いは相互作用4の距離であり、図3A,Bは作図の都合上相互作用4の距離を有限に記載しているが、実際には、同一の時空間に持ってくるために、相互作用4を記載する波線の伝搬距離はゼロになっている。しかしながら、光ファイバ中を伝搬する光子にとっては、光ファイバは1次元空間である。この1次元空間を伝搬しているだけでは、遅延ビットは先進ビットに追いつくことは決してできない。これはアインシュタインの相対性理論によって厳密に証明されている。しかしながら、光ファイバは現実の3次元空間に置かれており、光ファイバを緩やかに曲げても伝搬ロスはほとんど発生しない。そのため、リングのように光ファイバを一周曲げることによって、先進ビットを遅延ビットと同一の時空間にもってくることができる。これをニックネームとして時空ワープ方式と呼ぶことにする。本実施例では、2つの量子ビットとなるレーザパルス光から方向性結合器によりその一部を取り出し、その偏光状態を表す位相同士を干渉させることによって、レーザ光を観測することなく、その偏光状態を相互作用させる。
実施例2では、先進量子ビットと遅延量子ビットを遅延線によって干渉させる偏光干渉計を実現することで、時空ワープ方式に基づく量子ビット間の相互作用を実現するFeynman Machineの構成例を説明する。
図9に実施例2のFeynman Machineの模式図を示す。シングルモード光ファイバ・リング17が、エルビウム・ドープ光増幅器27に接続されており、リング共振器を伝搬している量子ビット列が、伝搬ロスを最小にする最適スピン配置にてレーザ発振するという基本原理は実施例1と同じである。重要な違いは相互作用の印加方法にある。先進量子ビットと遅延ビットを同一の時空間で相互作用させるために、シングルモード光ファイバ・リング17を局所的に曲げることで実効的な遅延線を形成している。具体的には、X軸用偏光干渉計48にX軸入力用遅延線51及びX軸出力用遅延線52を、Y軸用偏光干渉計49にY軸入力用遅延線53及びY軸出力用遅延線54を、Z軸用偏光干渉計50にZ軸入力用遅延線55及びZ軸出力用遅延線56を接続する。遅延線51~56の長さは、シングルモード光ファイバ・リング17における先進量子ビットに対する遅延量子ビットの遅延量に応じて定めるものとし、例えば、先進量子ビットと遅延量子ビットとが連続している場合には、量子ビット1ビット分の長さとする。先進量子ビットを遅延させ、遅延ビットと同じタイミングで偏光干渉計に入力することにより、先進量子ビットと遅延量子ビットとを相互作用させることが可能になる。また、偏向干渉計は相互作用させた先進量子ビットと遅延量子ビットを同じタイミングで出力するため、遅延量子ビット(遅延量子ビットの相互作用させた成分)を遅延させることにより、先進量子ビットの相互作用していない成分に先進量子ビットの相互作用させた成分を合波させ、遅延量子ビットの相互作用していない成分に遅延量子ビットの相互作用させた成分を合波させる。
相互作用の詳細を説明する前に、どのようにして偏光干渉計を構成するかについて、ポアンカレ球を用いて説明する。ここでは、Z軸用偏光干渉計50を例に説明するが、他の軸の場合も同様である。量子ビット1、量子ビット2からなる量子ビット対を図12Aに示す。量子ビット1の偏光状態が横偏光(S1=1)であったと仮定すると、相互作用が反強磁性結合の場合、量子ビット2の偏光状態は縦偏光(S1=-1)である場合にエネルギーが低くなる。これは、他の偏光状態と比べて伝搬ロスが少ないということもできる。したがって、偏光干渉計は量子ビット2の偏光状態が縦偏光である場合にゲインが生じるようにしておけばよい。
繰り返しになるが、偏光状態はフォトディテクタ―などを用いて観測してはならない。波束の収縮により量子状態が完全に確定されてしまうためである。そのような観測をせずに量子ビット2の状態が縦偏光の場合に、最大のゲインが得られるように工夫する必要がある。そこで、ポアンカレ回転子を用いて量子ビットをあらかじめ観測することなく、量子ビット2のみS2軸まわりに180°回転させる。このように量子ビット2のみを回転させ、最大ゲインとなるように両量子ビットを干渉させる。最大ゲインとなったときに、回転させた量子ビット2と量子ビット1とが同じ方向に配向しているので、その後、量子ビット2のスピン状態を再び戻して(S2軸まわりに-180°回転させて)、量子ビット2の相互作用していない成分に戻すことで、最大ゲインを達成させることができる(直接相互作用)。量子ビット2の相互作用していない成分に戻すのではなく、回転させずに量子ビット1に戻しても差し支えない(交換相互作用)。
この操作では、量子ビット1が縦偏光(S1=-1)であり、量子ビット2が横偏光(S1=1)であったとしても、同様に最大ゲインが得られる。この場合にも、量子ビット2はS2軸まわりに180°回転することにより縦偏光になるため、最大のゲインが得られる。
この操作の問題は、量子ビット1の偏光状態が左円偏光状態(S3=1)である場合、量子ビット2の偏光状態が右円偏光状態(S3=-1)であると、S2軸まわりに-180°回転させることにより、最大ゲインが発生する。Z軸用偏光干渉計50は、直線偏光である横偏光(S1=1)と縦偏光(S1=-1)に対して、最大ゲインを与えるための相互作用であるため、円偏光状態に対してゲインが生じることは望ましくない。
そこで、シングルモード光ファイバ・リング17から分岐されたレーザ光を最初に2分波して、量子ビット対を2つ用意しておく。量子ビット対の一方には、上述の操作(第1の操作、S2軸まわりに180°回転)を行う。量子ビット対の他方に対して行う第2の操作を図12Bに示す。図12Bに示すように、量子ビット2についてのみ、S3軸まわりに180°回転させる。これにより、量子ビット1が横偏光(S1=1)であり、量子ビット2が縦偏光(S1=-1)であると、回転後にスピンが同一の配向となり最大ゲインが与えられる。一方で円偏光状態(S3=±1)ではS3軸まわりの回転に対して不変であるためにゲインが発生しない。第2の操作では、D偏光とA偏光の間の反強磁性結合についてもゲインが発生するが、この場合は第1の操作ではゲインが発生しない。Z軸用偏光干渉計50は、この2つの操作を組み合わせることにより、縦偏光と横偏光のペアである場合のみ、最大ゲインが発生するよう構成する。
Z軸用偏光干渉計50を図10Aに示す。図10Aは簡略化された模式図で、入力量子ビット1をレーザパルス光57、入力量子ビット2をレーザパルス光58とし、出力量子ビット1をレーザパルス光59、出力量子ビット2をレーザパルス光60として、Z軸用偏光干渉計50に入力された量子ビットの偏光状態が出力状態において変更を受ける様子が示されている。図9ではシングルモード光ファイバ・リング17との接続は省略して示しているが、方向性結合器によりシングルモード光ファイバ・リング17からレーザ光が分波される。量子ビット1が先進ビットであるとすると、上述したように、レーザパルス光57を入力するシングルモード光ファイバ10にはZ軸入力用遅延線55が接続されており、レーザパルス光60を出力するシングルモード光ファイバ10にはZ軸出力用遅延線56が接続されている。
Z軸用偏光干渉計50の光回路の構成例を図10Bに示す。まず、入力量子ビット1であるレーザパルス光57、入力量子ビット2であるレーザパルス光58は2分岐され、2つの量子ビット対に分けられる。入力量子ビット2に対するS2軸まわりの180°回転(第1の操作)は、X軸周り半波長板62によって実現され、S3軸まわりの180°回転(第2の操作)は、Y軸周り半波長回転子63で実現される。X軸周り半波長板62やY軸周り半波長回転子63は、ポアンカレ回転子9に所定の電圧を印加することによって実現される。量子ビットは、それぞれ偏波分離器12によって横偏光成分と縦偏光成分に分離され、位相判定部に入力される。偏光干渉計は基本構成の等しい4つの位相判定部I~IVを有し、位相判定部Iには、量子ビット1の横偏光成分と第1の操作を施した量子ビット2の横偏光成分が入力され、位相判定部IIには、量子ビット1の縦偏光成分と第1の操作を施した量子ビット2の縦偏光成分が入力され、位相判定部IIIには、量子ビット1の横偏光成分と第2の操作を施した量子ビット2の横偏光成分が入力され、位相判定部IVには、量子ビット1の縦偏光成分と第2の操作を施した量子ビット2の縦偏光成分が入力される。
量子ビットは偏波保持光ファイバ14によって、それぞれの位相判定部に伝搬される。このとき、横偏光成分については、図4Bに示したポアンカレ回転子9の場合と同様、半波長板13によってスロー軸を偏波保持光ファイバ14のナローキーに合わせた上で伝搬させている。これらの接続において、偏波保持光ファイバ14の長さは同一になるように調整されており、図面では省略したが、必要に応じて位相変調器を用いてもよい。
各位相判定部では、入力される2つの量子ビットの偏光成分を偏波合波器12に入力し、シングルモード光ファイバ10に合波させる。合波したレーザパルス光をZ軸周り1/4波長回転子61により、位相をZ軸周りに90°回転させたうえで、偏波分離器12に入力する。合波したレーザパルス光をZ軸周りに90°回転させることにより、円偏光成分またはD偏光・A偏光成分を0とすることにより、量子ビット1と量子ビット2の波動関数の位相が同一かどうかを判定する。Z軸周り1/4波長回転子61もポアンカレ回転子9に所定の電圧を印加することで実現できる。
量子ビット1の横偏光成分についての位相判定部Iの出力と位相判定部IIIの出力とを合波した縦偏光成分と、量子ビット1の縦偏光成分についての位相判定部IIの出力と位相判定部IVの出力とを合波した横偏光成分とを偏波合波器12で合波して、出力量子ビット2へレーザパルス光60として出力する。このとき、量子ビット1の横偏光成分についての出力の縦偏光成分と量子ビット1の横偏光成分についての出力の横偏光成分とを合波することにより、S2軸またはS3軸を中心に-180°回転させた状態を得ている。この構成例では、量子ビット1には出力しない(レーザパルス光59は出力されない)ため、出力に必要ない成分についてはその強度をフォトダイオード44でモニタするようにしている。レーザ光がシングルモード光ファイバ・リング17を周回するにつれて、量子ビット2への出力ゲインが大きくなり、フォトダイオード44で観測される伝搬ロス成分が小さくなることが確認できる。なお、図10Bの構成例に限られず、たとえば、量子ビット1に出力するようにすることも容易である。
図10Bに示すZ軸方向への反強磁性相互作用演算を実施するZ軸用偏光干渉計50と同様に、X軸方向への反強磁性相互作用演算を実施するX軸用偏光干渉計48、Y軸方向への反強磁性相互作用演算を実施するY軸用偏光干渉計49も構成できる。これらを最もシンプルに実現する構成を図11A,Bに示す。図11Aは、X軸用偏光干渉計48の構成例である。Y軸周り1/4波長逆回転子64により、量子ビット1,2をS3軸周りに-90°回転させる。この操作はD偏光を横偏光に、A偏光を縦偏光に変換することに他ならない。以上の操作を行った量子ビット1,2に対して、Z軸用偏光干渉計50により反強磁性相互作用を実施する。得られた量子ビット2の偏光状態をY軸周り1/4波長回転子65を用いて、偏光状態の軸を元に戻す。これにより、X軸用偏光干渉計48を実現する。
図11Bは、Y軸用偏光干渉計49の構成例である。X軸周り1/4波長回転子66により、量子ビット1,2をS2軸まわりに90°回転させる。この操作により右円偏光を横偏光に、左円偏光を縦偏光に変換し、Z軸用偏光干渉計50により反強磁性相互作用を実施する。得られた量子ビット2の偏光状態をX軸周り1/4波長逆回転子67を用いて、偏光状態の軸を元に戻す。
なお、強磁性相互作用を実現したい場合には、Z軸用偏光干渉計50のX軸周り半波長板62やY軸周り半波長回転子63を、ポアンカレ回転子9を用いて実現しておき、強磁性相互作用を印加するときには、偏光状態を回転させずに強磁性として比較し、出力量子ビット2への出力60の直前にポアンカレ回転子9を設置して、半波長板として偏光状態を反転させておけばよい。
実施例2のFeynman Machineでは、Z軸用偏光干渉計50によるZ軸への相互作用がS1軸にかかることにより、図13Aに示されるように線形偏光で反強磁性配向となることで伝搬ロスを最小とできる。X軸用偏光干渉計48によるX軸への相互作用がS2軸にかかることにより、図13Bに示されるように、D偏光とA偏光との間での反強磁性配向が有利になる。Y軸用偏光干渉計49によるY軸への相互作用がS3軸にかかることにより、図13Cに示されるように、左円偏光と右円偏光との間での反強磁性配向が有利になる。古典的にはこれらすべての状態のスピン配向を最適化することはできない。その結果、(数12)または、図14に示されるような巨視的にもつれあった状態が実現する。
実施例2の時空ワープ方式に基づくFeynman Machineでは、リング・レーザを伝搬するグローバル位相に敏感でなく、巨視的量子エンタングルメントを実現できるため、温度変化や外部歪などの環境の変化に対して、ロバストな動作を実現することができる。しかしながら、図10Bに開示した光回路、または、光集積回路は複雑であるため、部品点数が多く、コストが高くなる課題がある。本実施例では、より簡略的な構造を用いることで、実効的に同等のハミルトニアンを表現する構造について説明する。
実施例3の最終的な構造は、図9に示したFeynman machineである。実施例2とは、X軸用偏光干渉計48、Y軸用偏光干渉計49、Z軸用偏光干渉計50の構成が異なる。
図15AにZ軸用偏光干渉計50の構造を示す。入力量子ビット1であるレーザパルス光57と入力量子ビット2であるレーザパルス光58は、それぞれ2分岐される。これは、2通りのスピン反転操作を行うためである入力量子ビット1に対しては、X軸周り半波長板68及びY軸周り半波長板69にて回転させる。この操作によって、横偏光は縦偏光になり、縦偏光は横偏光へと変換される。Z軸用偏光干渉計50は、量子ビット2がこの変換後の状態に等しい場合に、反強磁性的なゲインが生じるように設定されていれば、Z軸方向の反強磁性配置を実現できる。このため、横偏光を縦偏光に、及び縦偏光を横偏光に変換した量子ビット1であるレーザパルス光60を出力量子ビット2として、量子ビット2のレーザパルス光(シングルモード光ファイバ・リング17上の量子ビット2)に合波することで、この目的を達成することができる。同様に、量子ビット2についても、入力量子ビット2であるレーザパルス光58をX軸周り半波長板70とY軸周り半波長板71でスピン回転させたのちに合波したレーザパルス光59を出力量子ビット1として、量子ビット1のレーザパルス光(シングルモード光ファイバ・リング17上の量子ビット1)に合波することで、反強磁性相互作用を実現することができる。
すなわち、量子ビット1と量子ビット2の偏光状態が直線偏光状態であり、その向きが互い違いである場合に、リング共振器に戻される光量子ビットがコヒーレントな状態になり、最大のゲインが得られるようになる。それ以外の偏光状態であれば、リング中を回転している光と位相がコヒーレントに接続しないため、レーザ発振のためのゲインを得ることができない。
ここで、半波長板は、パッシブな光学部品とは限らず、ポアンカレ回転子で実現することが望ましい。ポアンカレ回転子であれば、アクティブに相互作用を変化させることができる。例えば、スピン回転を実施せずに、そのまま量子ビット1と量子ビット2の一部の光を交換することによって、強磁性相互作用を実現することが可能になる。
なお、図15Aでは記載を省略したが、光ファイバの接続部には、必要に応じて、偏光調整器25や位相変調器26で、偏光状態と光路長を調整することが必要である。
図15BにX軸用偏光干渉計48の構造を示す。Z軸用偏光干渉計50と同様の構造であるので重複する説明は省略する。量子ビット1に対しては、Y軸周り半波長板72及びZ軸周り半波長板73にて回転させ、量子ビット2に対しては、Y軸周り半波長板74及びZ軸周り半波長板75にて回転させる。これらの波長板により、斜め45°偏光(D偏光)は斜め-45°偏光(A偏光)に、A偏光はD偏光に変換する。ポアンカレ球上をこのように半回転させた量子ビット1(ビット2)が、回転前の量子ビット2(ビット1)と等しい偏光状態になれば、偏光すなわちスピンが反平行の反強磁性状態が実現する。
図15CにY軸用偏光干渉計49の構造を示す。Z軸用偏光干渉計50と同様の構造であるので重複する説明は省略する。量子ビット1に対しては、Z軸周り半波長板76及びX軸周り半波長板77にて回転させ、量子ビット2に対しては、Z軸周り半波長板78及びX軸周り半波長板79にて回転させる。これらの波長板により、右回り円偏光は左回り円偏光に、左回り円偏光は右回り円偏光に変換する。ポアンカレ球上をこのように半回転させた量子ビット1(ビット2)が、回転前の量子ビット2(ビット1)と等しい偏光状態になれば、偏光すなわちスピンが反平行の反強磁性状態が実現する。
以上説明した図15A~Cに示される簡略的な光回路においても、量子ビット1と量子ビット2との間にフィードバック・ループが形成されるため、それぞれの量子ビットの偏光状態を因果律に違反することなく、量子相関させることが可能になる。光を真空中で直線状に伝搬させるだけでは空間的に離れたところに存在する2つの量子ビット間に相関を持たせることは困難であるが、本実施例のように光ファイバや光導波路を用いて、量子ビット対を同一の時空上に持ってくることは可能であり、その場合は、干渉やスピン操作後の交換などの操作を通じて、エンタングルメントを実現することが可能になる。
スピン演算子として、X軸、Y軸、Z軸に等方的(JX=JY=JZ=J)な相互作用を印加する場合には、さらに構成を簡略化することができる。図15A~Cで用いられるスピン演算子の数をカウントすると、スピン演算子は軸ごとに2回用いられている。これに対して、図16は等方的に分波した後に、各軸に対して1回ずつ回転演算を行って、図15A~Cによる相互作用と同様の相互作用を印加するXYZスピン演算子81の構成例である。入力量子ビット1であるレーザパルス光57は4分岐され、1つはそのまま、残る3つはそれぞれ各軸周り半回転のスピン操作を受ける。同様に、入力量子ビット2であるレーザパルス光58は4分岐され、1つはそのまま、残る3つはそれぞれ各軸周り半回転のスピン操作を受ける。この例では、X軸周り半波長板及びY軸周り半波長板にて回転させた量子ビット1(量子ビット2)を合波して第1の合波レーザパルス光とし、Z軸周り半波長板にて回転させた量子ビット1(量子ビット2)と量子ビット2(量子ビット1)とを合波して第2の合波レーザパルス光とし、第1の合波レーザパルス光と第2の第2の合波レーザパルス光とを合波して出力量子ビット2となるレーザパルス光60(出力量子ビット1となるレーザパルス光59)を出力するよう構成されている。
ここで、図16に示される光路長をちょうど量子ビット1つ分に調整するとよい。このように調整しておくことにより、Feynman Machineの構成を単純化できる。図17に、図16のXYZスピン演算子81を適用する、2量子ビットで構成されるFeynman Machineの構成例を示す。図では模式的に記載しているが、シングルモード光ファイバ10とシングルモード光ファイバ・リング17とは方向性結合器により接続されている。シングルモード光ファイバ・リング17の光路長は、量子ビット2つ分の長さとされ、シングルモード光ファイバ・リング17からXYZスピン演算子81に量子ビット1とするレーザパルス光57を取り出す位置(第1の位置)とシングルモード光ファイバ・リング17からXYZスピン演算子81に量子ビット2とするレーザパルス光58を取り出す位置(第2の位置)とは量子ビット1つ分の光路長をあけて配置する。また、XYZスピン演算子81からシングルモード光ファイバ・リング17に量子ビット1とするレーザパルス光59を合波する位置は、第2の位置のリング共振器伝搬方向28側の近傍に、XYZスピン演算子81からシングルモード光ファイバ・リング17に量子ビット2とするレーザパルス光60を合波する位置は第1の位置のリング共振器伝搬方向28に向かって近傍に設ける。これにより、シングルモード光ファイバ・リング17から量子ビット1を取り出した後に量子ビット2に合波することができ、量子ビット2を取り出した後に量子ビット1に合波することができる。このように、XYZスピン演算子81の光路長を1量子ビット分にすることで、構成を簡略化することができる。
なお、近接量子ビット間の相互作用ではなく、離れた量子ビット間の相互作用を印加したい場合には、光路長を以下のように設定する。まず、先進量子ビット(または遅延量子ビット)となるレーザパルス光につき、分岐位置から合波位置までのシングルモード光ファイバ・リング17上の光路長とXYZスピン演算子81を経由する経路の光路長とを等しく設定する。これに加えて、シングルモード光ファイバ・リング17上において、先進量子ビットとなるレーザパルス光の分岐位置と遅延量子ビットとなるレーザパルス光の分岐位置との間及び先進量子ビットとなるレーザパルス光の合波位置と遅延量子ビットとなるレーザパルス光の合波位置との間には、シングルモード光ファイバ・リング17における先進量子ビットとなるレーザパルス光に対する遅延量子ビットとなるレーザパルス光の遅延量に応じた光路長を有するように設定する。これにより、量子ビット間の相互作用として、近接相互作用に加えて、次近接やその他長距離の相互作用を同時に加えるなどの拡張が可能も可能である。すなわち、任意の量子ビット間に所望のスピン間相互作用を印加することが可能になる。
実施例3では、コンパクトに部品点数を削減した上で、巨視的量子エンタングルメント状態を実現するFeynman Machineについて説明した。この方法では、時空ワープ方式と名付けたフィードバック経路を、ゲイン媒体が含まれているリング共振器中に挿入することによって、因果律に違反することなく、量子ビット間に量子相関を実現することができる。しかしながら、この方式で、長距離に離れた量子ビット間に相互作用を加えようとすると、その距離に応じた経路を予め用意しておかなければならないという課題がある。本実施例では、輪廻転生方式を用いて、任意の量子ビット間に量子相関を発生させ、全結合状態を実現するFeynman Machineについて説明する。
実施例4のFeynman Machineの構成例を図18に示す。シングルモード光ファイバ・リング17はスピン演算用経路83とリング回転経路84とに部分的に分岐しており、スピン演算用経路83中には、任意のスピン回転軸周りに回転可能なポアンカレ回転子82が設置されている。スピン演算用経路83の光路長とリング回転経路84の光路長とは等しくなるように調整されてある。この例では、スピン演算用経路83を半円の円周としており、その半径をRとすると光路長はπRとなる。リング回転経路84は、半径が半分(R/2)の半円の一周分の光路長とすることで、光路長は同じくπRとなっている。実際には、光ファイバやシリコン細線導波路などを用いて光路を形成するため、その光路は円状である必要は必ずしもなく、光路長が調整されていれば、どのような形状でも差し支えない。ここで、光路長を波長以下の精度で物理的に調整するのは困難であるため、位相変調器26にて、グローバル位相(量子ビットがシングルモード光ファイバ・リング17を1周まわったときの位相)を調整している。また、ファイバを結合するときの向きをそろえるために、偏光調整器25を実装しているところも他の実施例と同様である。
このような構造において、i番目の量子ビットiとj番目の量子ビットjとを相互作用させるには、これらの量子ビットがスピン演算用経路83を通過したときに、ポアンカレ回転子82を動作させ、その他の量子ビットに対しては、恒等演算(1)を実施すればよい。たとえば、Z軸方向に半回転させると、量子ビット列に実施される演算は(数23)で表される。
となる。ここで、hiとhjはそれぞれ量子ビットiと量子ビットjに印加される実効磁場の大きさであり、分岐比によって調整される。ここで、Jij= hihjとおくと、Jij>0であれば反強磁性的な相互作用を表し、Jij<0であれば強磁性的な相互作用を表す。このように符合を変えるのは、位相変調器26にて位相を調整するだけで実現できる。
この構成においては、相互作用させる量子ビットには全く制限がついていないことが重要である。すなわち、任意の量子ビット間で相互作用を印加することが可能となる。
(数23)には、相互作用していない項が存在している。このため、このような局所的な磁場を印加したくない場合には、引き続き、(数24)として表される相互作用を印加する。
その結果、全体の平均として(数25)で表される相互作用が残ることになり、局所的な磁場を消去できる。
本実施例では、任意の量子ビット間で相互作用を容易に印加できるため、多数の量子ビットを複雑に相互作用させることができる。
以上のように、量子状態は、実現可能な全ての経路の確率振幅の足し合せであるとするFeynmanの経路積分の考え方に基づき、そのような経路を、自由に巨視的な光子のスピン(レーザ光の偏光状態)を回転可能な偏光制御器を用いてレーザ光の経路として実現し、レーザ光の経路に含まれるリング・レーザをレーザ発振させることによって、量子多体問題であるXYZ量子ハイゼンベルグ模型を物理的に実現し、その解をレーザ光の偏光状態として求めることができることを複数の実施例を用いて説明した。
なお、本発明では、複数の光子からなる量子ビットを対象としているが、量子ビットが単一の光子であっても差し支えない。単一光子に対しても、本発明に基づくスピン操作を実施することによって、所望の量子状態を実現することができる。