別段で定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的ためだけのものであり、限定することを意図するものではない。本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によりそれらの全体が本明細書に援用される。
定義
以下の用語は、本明細書の説明および付随する特許請求の範囲で使用される。
単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈がそうでないことが明確に示していない限り、複数形を含むことを意図している。
さらに、本明細書で使用する「約」という用語は、ポリヌクレオチドもしくはポリペプチド配列の長さの量、用量、時間、温度などの測定可能な値を指す場合、特定された値の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、またはさらに±0.1%の変動を包含することを意味する。
また、本明細書で使用する場合、「および/または」は、列挙された関連項目の1つ以上の任意およびすべての可能な組み合わせ、および選択肢(alternative)(「または」)として解釈される場合には組み合わせの欠如を指し、かつこれらを包含する。
本明細書で使用する場合、「から本質的になる」との移行句は、特許請求の範囲に記載された特定された材料またはステップおよび特許請求の範囲に記載された発明の「基本的かつ新規な特徴に実質的に(materially)影響を及ぼさないもの」を包含すると解釈されることを意味する。In re Herz,537 F.2d 549,551-52,190 USPQ461,463(CCPA1976)(原著に強調表示あり)を参照のこと;MPEP§2111.03も参照のこと。したがって、本明細書の請求で使用される場合の「から本質的になる」という用語は、「含む」と同意義であると解釈されることは意図されていない。
文脈がそうでないことを示していない限り、本明細書に記載のキャプシドタンパク質、ベクター、組成物、および方法の様々な特徴は任意の組み合わせで使用され得ることが明確に意図される。
さらに、本開示はまた、いくつかの実施形態では、本明細書に記載の任意の特徴または特徴の組み合わせを除外または省略できることも企図する。
さらに説明するために、例えば、特定のアミノ酸がA、G、I、L、および/またはVから選択され得ることを本明細書が示している場合、この文言はまた、これらのアミノ酸の任意のサブセット、例えば、A、G、I、またはL;A、G、I、またはV;AまたはG;Lのみなどを、そのような各々の下位組み合わせが本明細書に明示的に記載されているかのように、選択し得ることも示している。さらに、そのような文言はまた、特定されたアミノ酸のうちの1つ以上が除外され得ることも示している。例えば、特定の実施形態では、そのような可能な除外事項が本明細書に明示的に記載されているかのように、アミノ酸は、A、GまたはIではない;Aではない;GまたはVではないなどである。
本明細書で使用する場合、「低減する(reduce)」、「低減する(reduces)」、「低減」という用語および同様の用語は、対照または参照に対して少なくとも約25%、約35%、約50%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、またはそれより大きい減少を意味する。
本明細書で使用する場合、「増加する(increase)」、「増加する(increases)」、「増加」「増強する(enhances)」、「増強する(enhances)」、「増強」という用語および同様の用語は、対照または参照に対して少なくとも約5%、約10%、約20%、約25%、約50%、約75%、約100%、約150%、約200%、約300%、約400%、約500%、またはそれより大きい増加または増強を示す。
本明細書で使用する「パルボウイルス」という用語は、自律複製するパルボウイルスおよびデペンドウイルスを含む、パルボウイルス科を包含する。自律性パルボウイルスには、パルボウイルス属、エリスロウイルス属、デンソウイルス属、イテラウイルス属、およびコントラウイルス(Contravirus)属のメンバーが含まれる。例示的な自律性パルボウイルスには、マウス微小ウイルス、ウシパルボウイルス、イヌパルボウイルス、ニワトリパルボウイルス、ネコ汎白血球減少症ウイルス、ネコパルボウイルス、ガチョウパルボウイルス、H1パルボウイルス、バリケン(muscovy duck)マスコビーダックパルボウイルス、B19ウイルス、および現在既知であるかまたは後に発見される任意の他の自律性パルボウイルスが含まれるが、これらに限定されない。他の自律性パルボウイルスは、当業者に既知である。例えば、BERNARD N.FIELDSら,VIROLOGY,第2巻,第69章(第4版,Lippincott-Raven Publishers)を参照のこと。
本明細書で使用する場合、「アデノ随伴ウイルス」(AAV)という用語には、AAV1型、AAV2型、AAV3型(3A型および3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAVrh10型、AAV11型、AAV12型、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、および現在既知であるか後に発見される任意の他のAAVが含まれるが、これらに限定されない。例えば、BERNARD N.FIELDSら,VIROLOGY,第2巻,第69章(第4版,Lippincott-Raven Publishersを参照のこと。多くのAAV血清型およびクレードが同定されている(例えば、Gaoら(2004)J.Virology78:6381-6388;Morisら(2004)Virology 33-:375~383頁、および表1を参照のこと)。
様々な血清型のAAVおよび自律性パルボウイルスの遺伝子配列、ならびにネイティブの反復配列(TR)、Repタンパク質、およびキャプシドサブユニットの配列が当該技術分野で既知である。そのような配列は、文献またはGenBank(登録商標)データベースなどの公的データベースに見出され得る。例えば、GenBank受託番号NC_044927、NC_002077、NC_001401、NC_001729、NC_001863、NC_001829、NC_001862、NC_000883、NC_001701、NC_001510、NC_006152、NC_006261、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、NC_001358、NC_001540、AF513851、AF513852、AY530579を参照のこと;それらの開示は、パルボウイルスおよびAAVの核酸およびアミノ酸配列を教示するために参照により本明細書に援用される。例えば、Srivistavaら(1983)J.Virology 45:555頁;Chioriniら(1998)J.Virology71:6823頁;Chioriniら(1999)J.Virology 73:1309頁;Bantel-Schaalら(1999)J.Virology 73:939頁;Xiaoら(1999)J.Virology 73:3994頁;Muramatsuら(1996)Virology 221:208頁;Shadeら(1986)J.Virol.58:921頁;Gaoら(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854頁;Morisら(2004)Virology 33-:375~383頁、WO00/28061、WO99/61601、WO98/11244、および米国特許第6,156,303号も参照のこと;それらの開示は、パルボウイルスおよびAAVの核酸およびアミノ酸配列を教示するために参照により本明細書に援用される。表1も参照のこと。
自律性パルボウイルスおよびAAVのキャプシド構造は、BERNARDN.FIELDSら,VIROLOGY,第2巻,第69および70章(第4版,Lippincott-Raven Publishers)においてより詳細に記載されている。AAV2の結晶構造の記載(Xieら(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.99:10405~10頁)、AAV4(Padronら(2005)J.Virol.79:5047~58頁)、AAV5(Waltersら(2004)J.Virol.78:3361~71頁)、およびCPV(Xieら(1996)J.Mol.Biol.6:497~520頁;Tsaoら(1991)Science 251:1456~64頁;Drouinら(2013)FutureVirol.8(12):1183~1199頁)も参照のこと。
本明細書で使用する「トロピズム」という用語は、特定の細胞または組織へのウイルスの優先的な侵入、および任性選択で、それに続く、その細胞中でのウイルスゲノムが保有する配列の発現(例えば、転写および任意選択で、翻訳)、例えば組換えウイルスについて、目的の異種核酸の発現を指す。当業者は、いくつかの実施形態では、ウイルスゲノム由来の異種核酸配列の転写は、例えば、誘導性プロモーターの非存在下、またはその他では、調節される核酸配列に対するトランス作用因子の非存在下では開始されない場合があることを理解するであろう。組換えAAV(rAAV)ゲノムの場合では、ウイルスゲノム由来の遺伝子発現は、安定して組み込まれたプロウイルスおよび/または非組み込み(non-integrated)エピソーム、ならびにウイルスが細胞内で取り得る任意の他の形態からであり得る。
本明細書で使用する「全身性トロピズム」および「全身性形質導入」(および等価な用語)とは、本開示のウイルスキャプシドまたはウイルスベクターが、体全体にわたる組織(例えば、脳、肺、骨格筋、心臓、肝臓、腎臓、および/または膵臓)に対してトロピズムを示すことおよび/またはそれらを形質導入することをそれぞれ示す。実施形態では、中枢神経系(例えば、脳、神経細胞など)の全身性形質導入が観察される。他の実施形態では、心筋組織の全身性形質導入が達成される。
別段で明記しない限り、「効率的な形質導入」もしくは「効率的なトロピズム」または同様の用語は、好適な対照を参照することによって決定され得る(例えば、それぞれ、対照の形質導入またはトロピズムの、少なくとも約50%、約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約125%、約150%、約175%、約200%、約250%、約300%、約350%、約400%、約500%、またはそれより大きい)。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、神経細胞および心筋細胞を効率的に形質導入するか、またはそれらに対して効率的なトロピズムを有する。好適な対照は、所望のトロピズムプロファイルを含む様々な要因に依存するであろう。
同様に、ウイルスが標的組織を「効率的に形質導入しない」もしくはそれに対して「効率的なトロピズムを有さない」、または同様の用語のものであるかどうかは、好適な対照を参照することによって決定され得る。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、肝臓、腎臓、生殖腺、および/または生殖細胞について、効率的に形質導入しない(すなわち、効率的なトロピズムを有さない)。特定の実施形態では、組織(例えば、肝臓)の望ましくない形質導入は、所望の標的組織(例えば、中枢神経系細胞、心筋細胞)の形質導入レベルと比較して20%以下、10%以下、5%以下、1%以下、0.1%以下である。
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」という用語は、別段で明記しない限り、ペプチドおよびタンパク質の両方を包含する。
「ポリヌクレオチド」はヌクレオチド塩基の配列であり、RNA、DNA、または
DNA-RAハイブリッド配列(天然に存在するヌクレオチドおよび天然に存在しないヌクレオチドの両方を含む)であり得るが、代表的な実施形態では、一本鎖または二本鎖のいずれかのDNA配列である。
本明細書で使用する「単離された」ポリヌクレオチド(例えば、「単離されたDNA」または「単離されたRNA」)とは、天然に存在する生物またはウイルスの他の成分、例えば、ポリヌクレオチドに関連して一般的に見出される細胞もしくはウイルスの構造成分または他のポリペプチドもしくは核酸のうちの少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されたポリヌクレオチドを意味する。代表的な実施形態では、「単離された」核酸分子は、出発物質と比較して少なくとも約10倍、約100倍、約1000倍、約10,000倍、またはそれより多く濃縮されている。
同様に、「単離された」ポリペプチドとは、天然に存在する生物またはウイルスの他の成分、例えば、ポリペプチドに関連して一般的に見出される細胞もしくはウイルスの構造成分または他のポリペプチドもしくは核酸のうちの少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されたポリペプチドを意味する。代表的な実施形態では、「単離された」ポリペプチドは、出発物質と比較して少なくとも約10倍、約100倍、約1000倍、約10,000倍、またはそれより多く濃縮されている。
本明細書で使用する場合、ウイルスベクターを「単離する」または「精製する」(または文法的同等物)とは、ウイルスベクターが出発物質中の他の成分の少なくともいくつかから少なくとも部分的に分離されることを意味する。代表的な実施形態では、「単離された」または「精製された」ウイルスベクターは、出発物質と比較して少なくとも約10倍、約100倍、約1000倍、約10,000倍、またはそれより多く濃縮される。
本明細書で使用する「神経細胞」には、皮質、運動皮質、海馬、視床下部、線条体、大脳基底核、扁桃体、小脳、後根神経節、および/または脊髄などの脳下部構造に位置する、感覚ニューロン、偽単極性ニューロン、運動ニューロン、多極性ニューロン、介在ニューロン、および/または双極性ニューロンが含まれる。
「治療用タンパク質」は、細胞または対象におけるタンパク質の非存在または欠乏に起因する症状を緩和する、軽減する、予防する、遅延させる、および/または安定化させることができるタンパク質であり、および/またはその他では対象に利益を与えるタンパク質である。
本明細書で使用する「治療用RNA分子」または「機能性RNA分子」は、当該技術分野で知られているように、アンチセンス核酸、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に記載される)、スプライソソーム媒介性トラススプライシングをもたらすRNA(Puttarajuら(1999)Nature Biotech.17:246頁、米国特許第6,013,487号、米国特許第6,083,702号を参照のこと)、遺伝子サイレンシングを媒介するsiRNA、shRNA、またはmiRNAを含む干渉RNA(RNAi)(Sharpら,(2000)Science 287:2431頁を参照のこと)、および「ガイド」RNA(Gormanら(1998)Proc.Nat.Acad.Sci.USA95:4929頁、Yuanらの米国特許第5,869,248号)などであり得る。
「処置する(treat)」、「処置する(treating)」、または「の処置(treatment of)」という用語(およびそれらの文法的に変化したもの)は、対象の状態の重症度が軽減され、少なくとも部分的に改善もしくは安定化すること、および/または少なくとも1つの臨床症状においていくらかの緩和、低下、減少、もしくは安定化が達成されること、および/または疾患もしくは障害の進行の遅延があることを意味する。
「予防する(prevent)」、「予防する(preventing)」、および「予防」という用語(ならびにそれらの文法的に変化したもの)は、対象における疾患、障害および/または臨床症状の発症の予防および/または遅延、ならびに/あるいは本開示の方法の非存在下で生じ得るものと比較した、疾患、障害および/または臨床症状の発症の重症度の低下を指す。予防は、完全であってもよく、例えば、疾患、障害および/または臨床症状が全くないことであってもよい。予防はまた、対象における疾患、障害、および/または臨床症状の発生ならびに/あるいは発症の重症度が本開示の非存在下で生じ得るものよりも低いものであるように、部分的であってもよい。
本明細書で使用する「処置有効」量は、対象にいくらかの改善または利益を提供するのに十分な量である。別の言い方をすると、「処置有効」量は、対象における少なくとも1つの臨床症状においていくらかの緩和、低下、低減、および/または安定化を提供する量である。当業者は、いくらかの利益が対象に提供される限り、治療効果が完全または根治的である必要はないことを理解するであろう。
本明細書で使用する「予防有効」量は、対象における疾患、障害および/または臨床症状の発症を予防および/もしくは遅延させるのに十分な量、ならびに/あるいは本開示の方法がない場合に生じ得るものと比較した、対象における疾患、障害および/または臨床症状の発症の重症度を軽減および/または遅延させるのに十分な量である。当業者は、いくらかの利益が対象に提供される限り、予防のレベルが完全である必要はないことを理解するであろう。
「異種ヌクレオチド配列」および「異種核酸分子」という用語は、本明細書で互換的に使用され、ウイルスに天然に存在しない核酸分子および/またはヌクレオチド配列を指す。一般に、異種核酸分子またはヌクレオチド配列は、目的のタンパク質または非翻訳RNAをコードするオープンリーディングフレームを含む(例えば、細胞または対象への送達のため)。
本明細書で使用する場合、「ウイルスベクター」、「ベクター」、または「遺伝子送達ベクター」という用語は、核酸送達ビヒクルとして機能し、ビリオン内にパッケージングされたベクターゲノム(例えば、ウイルスDNA[vDNA])を含む、ウイルス(例えば、AAV)粒子を指す。あるいは、いくつかの文脈では、「ベクター」という用語は、ベクターゲノム/vDNA単独を指すために使用され得る。
「rAAVベクターゲノム」または「rAAVゲノム」は、1つ以上の異種核酸配列を含む組換えAAVゲノム(すなわちvDNA)である。rAAVベクターは一般に、ウイルスを生成するためにシスの末端反復(TR)のみを必要とする。他のすべてのウイルス配列は必ずしも必要ではなく、トランスで供給されてもよい(Muzyczka(1992)Curr.Topics Microbiol.Immunol.158:97)。典型的には、rAAVベクターゲノムは、ベクターによって効率的にパッケージングされ得る導入遺伝子のサイズを最大化するように、1つ以上のTR配列のみを保持するだけである。構造および非構造タンパク質コード配列は、トランスで(例えば、プラスミドなどのベクターから、および/または配列をパッケージング細胞(packaging cell)に安定的に組み込むことにより)提供され得る。実施形態では、rAAVベクターゲノムは、少なくとも1つの末端反復(TR)配列(例えば、AAV TR配列)、任意選択で、2つのTR(例えば、2つのAAV TR)を含み、これらは典型的には、ベクターゲノムの5’および3’末端にあり、異種核酸配列に隣接しているが、それらと連続している必要はない。TRは、互いに同じでもあってもまたは異なっていてもよい。
「末端反復」または「TR」という用語には、ヘアピン構造を形成し、逆方向末端反復として機能する(すなわち、複製、ウイルスパッケージング、組み込み、および/またはプロウイルスレスキューなどの所望の機能を媒介する)任意のウイルスの末端反復または合成配列が含まれる。TRは、AAV TRまたは非AAV TRであり得る。例えば、他のパルボウイルス(例えば、イヌパルボウイルス(CPV)、マウスパルボウイルス(MVM)、ヒトパルボウイルスB-19)のものなどの非AAV TR配列または他の好適なウイルス配列(例えば、SV40複製起点として作用するSV40ヘアピン)は、TRとして使用され得、これは、切断、置換、欠失、挿入、および/または付加によってさらに修飾され得る。さらに、TRは、Samulskiらの米国特許第5,478,745号に記載される「二重D配列(double-D sequence)」などのように、部分的または完全に合成され得る。
「AAV末端反復」または「AAV TR」は、血清型1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12を含むがこれらに限定されない任意のAAVまたは現在既知であるかもしくは後に発見される任意の他のAAV(例えば、表1を参照のこと)由来であり得る。末端反復が所望の機能、例えば、複製、ウイルスパッケージング、組み込み、および/またはプロウイルスレスキューなどを媒介する限り、AAV末端反復はネイティブ末端反復配列を有する必要はない(例えば、ネイティブAAV TR配列が、挿入、欠失、置換、切断、および/またはミスセンス変異によって改変されてもよい)。
本開示のウイルスベクターはさらに、国際特許公開WO00/28004およびChaoら(2000)Molecular Therapy2:619に記載されるような、「標的化」ウイルスベクター(例えば、指向性トロピズム(directed tropism)を有する)および/または「ハイブリッド」パルボウイルス(すなわち、ウイルスTRおよびウイルスキャプシドが異なるパルボウイルスに由来するもの)であり得る。
本開示のウイルスベクターはさらに、国際特許公開WO01/92551(その開示はその全体が参照により本明細書に援用される)に記載されるような、二重鎖パルボウイルス粒子であり得る。したがって、いくつかの実施形態では、二本鎖(二重鎖)ゲノムは、本開示のウイルスキャプシドにパッケージングされ得る。
さらに、ウイルスキャプシドまたはゲノムエレメントは、挿入、削除、および/または置換を含む、他の修飾を含み得る。
本明細書で使用する場合、「アミノ酸」という用語は、任意の天然に存在するアミノ酸、その修飾形態、および合成アミノ酸を包含する。
天然に存在する左旋性(L-)アミノ酸を表3に示す。
さらに、天然に存在しないアミノ酸は、Wangら(Annu Rev Biophys Biomol Struct.35:225~49頁(2006))によって記載されるような、「非天然」アミノ酸であり得る。これらの非天然アミノ酸は、目的の分子をAAVキャプシドタンパク質に化学的に結合させるために有利に使用され得る。
修飾されたAAVキャプシドタンパク質ならびにそれを含むウイルスキャプシドおよびウイルスベクター
本開示は、アミノ酸配列中に変異(すなわち、置換、挿入、または欠失であり得る修飾)を含むAAVキャプシドタンパク質、ならびに修飾されたAAVキャプシドタンパク質を含むウイルスキャプシドおよびウイルスベクターを提供する。変異AAVキャプシドタンパク質およびこれをコードする核酸は、天然では見出されず(すなわち、非天然である)、天然で見出される野生型配列の配列も有していないし、それらの配列の機能も有してない。それどころか、本発明者らは、本明細書に記載のアミノ酸位置における修飾が、(i)全身注射後における血液脳関門通過後の神経細胞の選択的形質導入、(ii)全身注射後における心臓組織および神経組織の同時形質導入、および(iii)肝臓、脾臓、腎臓、および他の末梢器官からの脱標的化(detargeting)を含むがこれらに限定されない1つ以上の所望の特性を、修飾されたAAVキャプシドタンパク質を含むウイルスベクターに付与することができることを発見した。
特定の実施形態では、本開示の修飾されたAAVキャプシドタンパク質は、ネイティブAAV1キャプシドタンパク質のアミノ酸配列、またはAAV2、AAV3、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、およびAAVrh.10を含むがこれらに限定されない別のAAV血清型由来のキャプシドタンパク質の対応するアミノ酸残基において1つ以上の変異(すなわち修飾)を含む。ネイティブAAV1キャプシドタンパク質におけるこれらの位置に「対応する」他のAAV血清型または修飾AAVキャプシドにおけるアミノ酸位置は、当業者には明らかであり、配列アラインメント技術(例えば、WO2006/066066の図7を参照のこと)および/または結晶構造分析(Padronら(2005)J.Virol.79:5047~58頁)を使用して容易に決定され得る。
当業者は、いくつかのAAVキャプシドタンパク質について、対応するアミノ酸位置がウイルスにおいて部分的または完全に存在するかあるいは完全に存在しないかによって、対応する修飾が挿入および/または置換であることを理解するであろう。同様に、AAV1以外のAAVを修飾する場合、特定のアミノ酸位置は、AAV1における位置(VP1番号付けを使用)とは異なり得る。本明細書の他の箇所で論じているように、対応するアミノ酸位置は、周知技術を使用して当業者に容易に明らかになるであろう。
本明細書で使用する場合、アミノ酸配列における「変異」または「修飾」には、置換、挿入、および/または欠失が含まれ、これらの各々は、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、またはそれより多いアミノ酸に関与し得る。特定の実施形態では、修飾は置換である。他の実施形態では、修飾は(例えば、アミノ酸配列中の2つのアミノ酸残基間での単一のアミノ酸残基の)挿入である。
したがって、一実施形態では、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドタンパク質であって、該AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基S262、A263、S264、T265、A267、およびS268における修飾、ならびに残基266と267との間の単一のアミノ酸残基の挿入(VP1番号付け)を含み、それらから本質的になり、またはそれらからなり、各残基の番号付けは、AAV1のアミノ酸配列(配列番号1)またはAAV2(配列番号2)、AAV3(配列番号3)、AAV6(配列番号4)、AAV7(配列番号5)、AAV8(配列番号6)、AAV9(配列番号7)、もしくはAAVrhl10(配列番号8)における等価なアミノ酸残基に基づく、AAVキャプシドタンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基H272における修飾を含み得る。特定の実施形態では、修飾は、S262N、A263G、S264T、T265S、A267S、S268T、H272T、およびそれらの組み合わせである。特定の実施形態では、残基266と267との間の単一のアミノ酸残基の挿入はGである(-267Gと命名する)。
いくつかの実施形態では、上記のAAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基Q148、E152、S157、T162、H272、T326、D328、V330、T331、V341、およびS345における修飾、および残基152と153との間の単一のアミノ酸残基の挿入(VP1番号付け)をさらに含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり得、各残基の番号付けは、配列番号1のアミノ酸配列または配列番号2、3、4、5、6、7、もしくは8における等価なアミノ酸残基に基づく。特定の実施形態では、修飾は、Q148P、E152R、S157T、T162K、H272T、T326Q、D328E、V330T、T331K、V341I、およびS345Tである。特定の実施形態では、残基152と153との間の単一のアミノ酸残基の挿入はSである(-153Sと命名する)。
いくつかの実施形態では、上記のAAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基L188、S205、N223、A224、およびH272における修飾(VP1番号付け)をさらに含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり得、各残基の番号付けは、配列番号1のアミノ酸配列または配列番号2、3、4、5、6、7、もしくは8における等価なアミノ酸残基に基づく。特定の実施形態では、修飾は、L188I、S205A、N223S、A224S、およびH272Tである。
いくつかの実施形態では、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドタンパク質であって、該AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基S262、A263、S264、T265、およびA267における修飾(VP1番号付け)、ならびに残基S268とN269との間の単一のアミノ酸残基の挿入を含むか、それらから本質的になるか、またはそれからなり、各残基の番号付けは、AAV1のアミノ酸配列(配列番号1)またはAAV2(配列番号2)、AAV3(配列番号3)、AAV6(配列番号4)、AAV7(配列番号5)、AAV8(配列番号6)、AAV9(配列番号)、もしくはAAVrh10(配列番号8)における等価なアミノ酸残基に基づく、AAVキャプシドタンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、修飾は、S262N、A263G、S264T、T265S、およびA267Sのうちの少なくとも1つである。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドは、アミノ酸残基H272における修飾をさらに含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり得る。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基Q148、E152、S157、T162、H272、T326、D328、V330、T331、V341およびS345における修飾、ならびに残基E152とP153との間の単一のアミノ酸残基の挿入をさらに含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり得る。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基L188、S205、N223、A224、およびH272における修飾をさらに含む。いくつかの実施形態では、修飾は、L188I、S205A、N223S、A224S、およびH272Tのうちの少なくとも1つである。いくつかの実施形態では、残基S268とN269との間のアミノ酸残基の挿入は、単一のT残基の挿入である。いくつかの実施形態では、残基E152とP153との間のアミノ酸残基の挿入は、単一のS残基の挿入である。
いくつかの実施形態では、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドタンパク質であって、該AAVキャプシドタンパク質は、ネイティブAAV1キャプシドタンパク質(配列番号1)のアミノ酸位置262~265(VP1番号付け)に対応するアミノ酸においてアミノ酸配列X1-X2-X3-X4(配列番号35)をもたらす修飾を含むか、それからなるか、またはそれから本質的になり、ここで、X1がS以外の任意のアミノ酸であり、X2がA以外の任意のアミノ酸であり、X3がS以外の任意のアミノ酸であり、X4がT以外の任意のアミノ酸である、AAVキャプシドタンパク質を提供する。45。いくつかの実施形態では、アミノ酸X1がNであり、アミノ酸X2がGであり、アミノ酸X3がTであり、アミノ酸X4がSである。いくつかの実施形態では、アミノ酸X1がNであり、アミノ酸X2がGであり、アミノ酸X3がTであり、アミノ酸X4がSである。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基H272における修飾をさらに含む。いくつかの実施形態では、修飾はH272Tである。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基S268とN269との間にアミノ酸残基の挿入をさらに含む。いくつかの実施形態では、アミノ酸残基の挿入は、単一のT残基の挿入である。
いくつかの実施形態では、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドタンパク質であって、該AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基S262、A263、S264、T265、A267、およびH272における修飾、ならびに残基S268とN269との間の単一のアミノ酸残基の挿入(VP1番号付け)を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり、各残基の番号付けは、AAV1のアミノ酸配列(配列番号2)またはAAV1(配列番号1)、AAV3(配列番号3)、AAV6(配列番号4)、AAV7(配列番号5)、AAV8(配列番号6)、AAV9(配列番号7)、もしくはAAVrhl10(配列番号8)における等価なアミノ酸残基に基づく、AAVキャプシドタンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、修飾は、S262N、A263G、S264T、T265S、A267G、およびH272Tのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施形態では、残基S268とN269との間の天然の単一アミノ酸残基の挿入は、単一のT残基の挿入である。
いくつかの実施形態では、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドタンパク質であって、該AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基S262、Q263、S264、A266、S267、およびH271における修飾、ならびに残基S261とS262との間の少なくとも1個のアミノ酸残基の挿入(VP1番号付け)を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり、各残基の番号付けは、AAV2のアミノ酸配列(配列番号2)またはAAV1(配列番号1)、AAV3(配列番号3)、AAV6(配列番号4)、AAV7(配列番号5)、AAV8(配列番号6)、AAV9(配列番号7)、もしくはAAVrh10(配列番号8)における等価なアミノ酸残基に基づく、AAVキャプシドタンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、修飾は、S262T、Q263S、S264G、A266S、S267T、およびH271Tのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施形態では、残基SS61とS262との間の挿入は、単一のアミノ酸残基の挿入である。いくつかの実施形態では、残基S251とS252との間の挿入は、2つ以上のアミノ酸残基の挿入である。いくつかの実施形態では、残基S251とS252との間の挿入は、NおよびG残基の挿入である。
いくつかの実施形態では、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドタンパク質であって、該AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基S262、Q263、S264、A266、A267、H271における修飾、ならびに残基S261とS262との間の単一のアミノ酸残基の挿入を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり、各残基の番号付けは、AAV3のアミノ酸配列(配列番号3)またはAAV1(配列番号1)、AAV2(配列番号2)、AAV6(配列番号4)、AAV7(配列番号5)、AAV8(配列番号6)、AAV9(配列番号7)、もしくはAAVrh10(配列番号8)における等価なアミノ酸残基に基づく、AAVキャプシドタンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、修飾は、S262T、Q263S、S264G、A266S、A267T、H271Tのうちの少なくとも1つを含む。いくつかの実施形態では、残基SS61とS262との間の挿入は、単一のアミノ酸残基または2つ以上のアミノ酸残基の挿入である。いくつかの実施形態では、残基S251とS252との間の挿入は、NおよびG残基の挿入である。
いくつかの実施形態では、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドタンパク質であって、該AAVキャプシドタンパク質は、アミノ酸残基S263、S269、A237における修飾(VP1番号付け)を含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり、各残基の番号付けは、AAV9のアミノ酸配列(配列番号9)またはAAV1(配列番号1)、AAV2(配列番号2)、AAV3(配列番号3)、AAV6(配列番号4)、AAV7(配列番号5)、AAV8(配列番号6)、もしくはAAVrh10(配列番号8)における等価なアミノ酸残基に基づく、AAVキャプシドタンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、修飾は、S263G、S269T、およびA273Tのうちの少なくとも1つを含む。
いくつかの実施形態では、本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドタンパク質であって、配列番号9~配列番号34のうちのいずれか1つの配列を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる、AAVキャプシドタンパク質を提供する。
それぞれAAV血清型1、2、3、6、7、8、および9における本開示のキャプシドタンパク質を生成するための修飾の非限定的な例を表2に示し、ここでは、それぞれのAAV血清型における等価なアミノ酸残基が同定されている。
さらなる実施形態では、本開示のキャプシドタンパク質は、配列番号9のアミノ酸配列(AAV1RX)、配列番号10のアミノ酸配列(AAV2RX)、配列番号11のアミノ酸配列(AAV3RX)、配列番号12のアミノ酸配列(AAV6RX)、配列番号13のアミノ酸配列(AAV7RX)、配列番号14のアミノ酸配列(AAV8RX)、配列番号15のアミノ酸配列(AAV9RX)、配列番号16のアミノ酸配列(AAV1R6)、配列番号17のアミノ酸配列(AAV2R6)、配列番号18のアミノ酸配列(AAV3R6)、配列番号19のアミノ酸配列(AAV6R6)、配列番号20のアミノ酸配列(AAV7R6)、配列番号21のアミノ酸配列(AAV8R6)、配列番号22のアミノ酸配列(AAV9R6)、配列番号23のアミノ酸配列(AAV1R7)、配列番号24のアミノ酸配列(AAV2R7)、配列番号25のアミノ酸配列(AAV3R7)、配列番号26のアミノ酸配列(AAV6R7)、配列番号27のアミノ酸配列(AAV7R7)、配列番号28のアミノ酸配列(AAV8R7)、および配列番号29のアミノ酸配列(AAV9R7)を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなり得る。一実施形態では、本開示のキャプシドタンパク質は、配列番号9のアミノ酸配列(AAV1RX)を有する。一実施形態では、本開示のキャプシドタンパク質は、配列番号16のアミノ酸配列(AAV1R6)を有する。一実施形態では、本開示のキャプシドタンパク質は、配列番号23のアミノ酸配列(AAV1R7)を有する。
いくつかの実施形態では、本開示は、配列番号9のアミノ酸配列(AAV1RX)、配列番号10のアミノ酸配列(AAV2RX)、配列番号11のアミノ酸配列(AAV3RX)、配列番号12のアミノ酸配列(AAV6RX)、配列番号13のアミノ酸配列(AAV7RX)、配列番号14のアミノ酸配列(AAV8RX)、および配列番号15のアミノ酸配列(AAV9RX)と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%(それらの間のすべての範囲および部分範囲を含む)の配列同一性を有する、AAVキャプシドタンパク質を提供する。
いくつかの実施形態では、本開示は、配列番号16のアミノ酸配列(AAV1R6)、配列番号17のアミノ酸配列(AAV2R6)、配列番号18のアミノ酸配列(AAV3R6)、配列番号19のアミノ酸配列(AAV6R6)、配列番号20のアミノ酸配列(AAV7R6)、配列番号21のアミノ酸配列(AAV8R6)、配列番号22のアミノ酸配列(AAV9R6)と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%(それらの間のすべての範囲および部分範囲を含む)の配列同一性を有する、AAVキャプシドタンパク質を提供する。
いくつかの実施形態では、本開示は、配列番号23のアミノ酸配列(AAV1R7)、配列番号24のアミノ酸配列(AAV2R7)、配列番号25のアミノ酸配列(AAV3R7)、配列番号26のアミノ酸配列(AAV6R7)、配列番号27のアミノ酸配列(AAV7R7)、配列番号28のアミノ酸配列(AAV8R7)、および配列番号29のアミノ酸配列(AAV9R7)と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%(それらの間のすべての範囲および部分範囲を含む)の配列同一性を有する、AAVキャプシドタンパク質を提供する。
本開示はまた、アデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドタンパク質であって、該AAVキャプシドタンパク質はまた、X1-X2-X3-X4のアミノ酸配列(配列番号35)をもたらす、すべての位置におけるまたはすべてよりも少ない位置の任意の組み合わせにおける1つ以上の置換を含む、AAVキャプシドタンパク質も提供する。いくつかの実施形態では、アミノ酸配列X1-X2-X3-X4の修飾は、ネイティブAAV1キャプシドタンパク質(配列番号1)のアミノ酸位置262~265(VP1番号付け)に対応するアミノ酸におけるものである。いくつかの実施形態では、X1はS以外の任意のアミノ酸であり得る。いくつかの実施形態では、X2はA以外の任意のアミノ酸であり得る。いくつかの実施形態では、X3はS以外の任意のアミノ酸であり得る。いくつかの実施形態では、X4はT以外の任意のアミノ酸であり得る。一実施形態では、アミノ酸X1はNである。一実施形態では、アミノ酸X2はGである。一実施形態では、アミノ酸X3はTである。一実施形態では、アミノ酸X4はSである。別の実施形態では、X1はNであり、X2はGであり、X3はTであり、X4はSである。いくつかの実施形態では、X1~X4のうちの1つは置換されておらず、置換されていない位置におけるアミノ酸残基は野生型アミノ酸残基である。
本明細書に記載のそれぞれの位置の天然アミノ酸について置換され得るアミノ酸残基の例を表3に示す。
本開示のAAVキャプシドタンパク質における記載される置換および挿入は、保存的(conservative)アミノ酸残基による置換および/または挿入を含み得ると理解されるべきである。そのような保存的置換は当該技術分野で周知であり、以下を含み、例えば、任意の組み合わせで、非極性アミノ酸Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Met、Phe、Trp、およびProは、互いに置換し得;極性アミノ酸Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、およびGinは、互いに置換し得;負の電荷を有するアミノ酸AspおよびGluは、互いに置換し得;正の電荷を有するアミノ酸Lys、Arg、およびHisは、互いに置換し得る。
本開示はまた、本開示のキャプシドタンパク質を含むAAVキャプシド、および本開示のAAVキャプシドを含むウイルスベクターも提供する。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、本開示のAAVキャプシドおよび少なくとも1つの末端反復配列を含む核酸分子を含むウイルスベクターを含むか、それから本質的になるか、またはそれからなり得、該核酸は、AAVキャプシドによってキャプシド封入されている。いくつかの実施形態では、末端反復はAAV末端反復である。いくつかの実施形態では、末端反復は非AAV末端反復である。
薬学的に許容される担体中に本開示のキャプシドタンパク質および/またはウイルスベクターを含む組成物もまた、本明細書で提供される。
核酸分子を細胞に導入する方法であって、例えば、ウイルスベクターが細胞に取り込まれるかまたは細胞によって内在化されて、ウイルスベクターにより導入された核酸分子が細胞中で発現する条件下で、細胞を本開示のウイルスベクターおよび/または組成物と接触させることを含む方法、を含むいくつかの方法も同様に本開示で提供される。
核酸分子を対象に送達する方法であって、本開示のウイルスベクターおよび/または組成物を対象に投与することを含む方法もまた、本明細書で提供される。特定の実施形態では、ウイルスベクターおよび/または組成物は、対象の中枢神経系に投与される。特定の実施形態では、ウイルスベクターおよび/または組成物は、血液脳関門を通過して送達される。
いくつかの実施形態では、本開示のウイルスベクターは、目的の核酸分子を含み得る。いくつかの実施形態では、目的の核酸分子は、治療用タンパク質または治療用RNA分子をコードし得る。
本開示はまた、目的の核酸分子を神経細胞に選択的に送達する方法であって、神経細胞を本開示のウイルスベクターと接触させることを含み、ウイルスベクターが目的の核酸分子を含む、方法を提供する。さらなる実施形態では、方法は、例えば方法が対象(例えば、ヒト対象)において実施される場合に、目的の核酸分子を心筋細胞に選択的に送達することをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、組成物は神経細胞に選択的に送達される。いくつかの実施形態では、組成物は心筋細胞に選択的に送達される。
さらなる実施形態では、本開示は、対象における神経障害または欠陥を処置する方法であって、本開示のウイルスベクターを対象に投与することを含み、ウイルスベクターが、神経障害または欠陥の処置に有効な治療用タンパク質または治療用RNAをコードする核酸分子を含む、方法を提供する。
さらに、対象の神経障害または欠陥および心血管障害または欠陥を処置する方法であって、本開示のウイルスベクターを対象に投与することを含み、ウイルスベクターが、神経障害または欠陥および心血管障害または欠陥の処置に有効な治療用タンパク質または治療用RNAをコードする核酸分子を含む、方法を本明細書で提供する。
本明細書に記載の方法において、本開示のウイルスベクターおよび/または組成物は、全身経路(例えば、静脈内、動脈内、腹腔内など)を介して本開示の対象に投与/送達され得る。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターおよび/または組成物は、脳室内、槽内、実質内、頭蓋内、および/または髄腔内経路を介して対象に投与され得る。
いくつかの実施形態では、対象へのウイルスベクターおよび/または組成物の全身投与は、標的外(off-target)組織(例えば、中枢神経系以外)でのより低い形質導入をもたらす。本開示のいくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、脾臓、肝臓、および/または腎臓から脱標的化される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、脾細胞、肝細胞、および/または腎臓細胞から脱標的化される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、AAVrh.10による形質導入と比較して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%低下したレベルで、肝臓、脾臓、および/または腎臓を形質導入し、ウイルス形質導入は、任意選択で、ルシフェラーゼまたはGFP発現により決定される。好ましくは、ウイルスベクターは、AAVrh.10による形質導入と比較して少なくとも50%~100%または80~90%低下したレベルで、肝臓、脾臓、および/または腎臓を形質導入し、ウイルス形質導入は、任意選択で、ルシフェラーゼまたはGFP発現により決定される。
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、AAV1による形質導入と比較して少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%増加したレベルで、脳を形質導入し、ウイルス形質導入は、任意選択で、ルシフェラーゼまたはGFP発現により決定される。好ましくは、ウイルスベクターは、AAV1による形質導入と比較して少なくとも2倍、2.5倍、3倍、4倍、4.5倍、5倍、5.5倍、6倍、6.5倍、7倍、7.5倍、8倍、8.5倍、9倍、9.5倍、または10倍増加したレベルで、脳を形質導入し、ウイルス形質導入は、任意選択で、ルシフェラーゼまたはGFP発現により決定される。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターはニューロンを選択的に形質導入する。
本開示は、本開示の修飾されたキャプシドタンパク質が、現在既知であるかまたは後に発見される任意のAAVのキャプシドタンパク質を修飾することによって生成され得ることを企図している。さらに、修飾されるAAVキャプシドタンパク質は、天然に存在するAAVキャプシドタンパク質(例えば、AAV2、AAV3aもしくは3b、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh.10、または表1に示されるAAV血清型のいずれか)であり得るが、これに限定されない。当業者は、AAVキャプシドタンパク質に対する様々な操作が当該技術分野で既知であり、本開示が天然に存在するAAVキャプシドタンパク質の修飾に限定されないことを理解するであろう。例えば、修飾されるキャプシドタンパク質は、天然に存在するAAVと比較して、既に修飾を有していてもよい(例えば、天然に存在するAAVキャプシドタンパク質、例えば、AAV2、AAV3a、AAV3b、AAV4、AV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、および/もしくはAAV12、または現在既知であるかもしくは後に発見される他のAAVに由来する)。そのようなAAVキャプシドタンパク質も本開示の範囲内である。
したがって、特定の実施形態では、修飾されるAAVキャプシドタンパク質は、天然に存在するAAVに由来し得るが、キャプシドタンパク質に挿入および/もしくは置換され、ならびに/または1つ以上のアミノ酸の欠失によって改変された1つ以上の外来配列(例えば、ネイティブウイルスに対して外因性である)をさらに含み得る。
したがって、特定のAAVキャプシドタンパク質(例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、もしくはAAV12キャプシドタンパク質、または表1に示されるAAV血清型のいずれかに由来するキャプシドタンパク質など)を本明細書で参照するときに、ネイティブキャプシドタンパク質および本開示の修飾以外の改変を有するキャプシドタンパク質を包含することが意図される。このような修飾には、置換、挿入、欠失が含まれる。特定の実施形態では、キャプシドタンパク質は、ネイティブAAVキャプシドタンパク質配列と比較して1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、もしくは20個、20個未満、30個未満、40個未満、50個未満、60個未満、または70未満の挿入されたアミノ酸(本開示の挿入以外)を含み得る。本開示の実施形態では、キャプシドタンパク質は、ネイティブAAVキャプシドタンパク質配列と比較して1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、もしくは20個、20個未満、30個未満、40個未満、50個未満、60個未満、または70未満のアミノ酸の置換(本発明によるアミノ酸の置換以外)を含み得る。実施形態では、キャプシドタンパク質は、ネイティブAAVキャプシドタンパク質配列と比較して1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、もしくは20個、20個未満、30個未満、40個未満、50個未満、60個未満、または70未満のアミノ酸の欠失(本開示のアミノ酸の欠失以外)を含み得る。
特定の実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、ネイティブAAVキャプシドタンパク質配列を有するか、またはネイティブAAVキャプシドタンパク質配列と少なくとも約90%、95%、97%、98%、もしくは99%類似または同一であるアミノ酸配列を有する。例えば、特定の実施形態では、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12などのキャプシドタンパク質は、ネイティブAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12キャプシドタンパク質配列、およびネイティブAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12キャプシドタンパク質配列と少なくとも約80%、85%、90%、95%、97%、98%、もしくは99%類似、または同一であるアミノ酸配列を包含する。
2つ以上のアミノ酸配列間の配列類似性または同一性を決定する方法は、当該技術分野で既知である。配列類似性または同一性は、SmithおよびWaterman,Adv.Appl.Math.2,482(1981)の局所配列同一性アルゴリズム、NeedlemanおよびWunsch J.Mol.Biol.48,443(1970)の配列同一性アラインメントアルゴリズム、PearsonおよびLipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA85,2444(1988)の類似性検索方法(the search for similarity method)、これらのアルゴリズムのコンピューター化実行(Wisconsin Geneticsソフトウェアパッケージ中のGAP、BESTFIT、FASTA,およびTFASTA、Genetics Computer Group、575サイエンス・ドライブ(Science Drive)、ウィスコンシン州マディソン)、Devereuxら Nucl.Acid Res.12,387-395(1984)によって記載されるBest Fit配列プログラム、または検査(inspection)以下を含むがこれに限定されない、標準的技術を使用して決定され得る。
別の好適なアルゴリズムは、Altschulら J.Mol.Biol.215,403~410頁(1990)、およびKarlinら Proc.Natl.Acad.Sci.USA90,5873~5787頁(1993)に記載されているBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTアルゴリズムは、WU-BLAST-2プログラムであり、これはAltschulら Methods in Enzymology,266,460~480頁(1996);http://blast.wustl/edu/blast/README.htmlから取得することができた。WU-BLAST-2は、任意選択でデフォルト値に設定される、いくつかの検索パラメーターを使用する。
さらに、追加の有用なアルゴリズムは、Altschulら,(1997)Nucleic Acids Res.25,3389~3402頁によって報告されるようなギャップド(gapped)BLASTである。
修飾されたウイルスキャプシドは、例えば米国特許第5,863,541号に記載されるような、「キャプシドビヒクル」として使用され得る。修飾されたウイルスキャプシドによってパッケージングされ、細胞に移入され得る分子には、異種DNA、RNA、ポリペプチド、有機小分子、金属、またはそれらの組み合わせが含まれる。
異種分子は、AAV感染において天然で見出されない分子、例えば、野生型AAVゲノムによってコードされていないものと定義される。さらに、治療的に有用な分子は、分子の宿主標的細胞への移入のためにキメラウイルスキャプシドの外側と結合させ得る。そのような結合分子には、DNA、RNA、有機小分子、金属、炭水化物、脂質および/またはポリペプチドが含まれ得る。本開示の一実施形態では、治療的に有用な分子は、キャプシドタンパク質に共有結合される(すなわち、コンジュゲートまたは化学的に結合される)。分子を共有結合する方法は当業者に既知である。
本開示の修飾されたウイルスキャプシドは、例えばPCT出願シリアル番号PCT/2016/054143に記載されるような、任意の哺乳動物血清中の中和抗体を回避するための抗原性のさらなる修飾のための鋳型としての使用も見出される。
本開示の修飾されたウイルスキャプシドはまた、新規なキャプシド構造に対する抗体を産生させることにおける使用も見出す。さらなる代替として、外因性アミノ酸配列は、細胞への抗原提示のために、例えば、対象に投与して外因性アミノ酸配列に対する免疫応答を生じさせるために、修飾されたウイルスキャプシド中に挿入され得る。
他の実施形態では、ウイルスキャプシドは、目的のポリペプチド、ペプチド、および/または機能性RNAコードする核酸分子を送達するウイルスベクターの投与前および/または投与と同時に(例えば、互いの数分または数時間以内に)、特定の細胞部位を遮断するために投与され得る。例えば、本発明のキャプシドは、特定の細胞上にある細胞受容体を遮断するために送達され得、遮断された細胞の形質導入を減少させ、他の標的の形質導入を増強し得る送達ベクターが、その後にまたは同時に投与され得る。
代表的な実施形態によれば、修飾されたウイルスキャプシドは、本開示による修飾されたウイルスベクターの前および/またはそれと同時に対象に投与され得る。さらに、本開示は、本発明の修飾されたウイルスキャプシドを含む組成物および医薬製剤を提供し、任意選択により、組成物は本開示の修飾されたウイルスベクターも含む。
本開示はまた、本開示の修飾されたウイルスキャプシドおよびキャプシドタンパク質をコードする核酸分子(任意選択で、単離された核酸分子)を提供する。さらに、核酸分子を含むベクター、ならびに本開示の核酸分子および/またはベクターを含む細胞(インビボまたは培養物中)を含むベクターを提供する。好適なベクターには、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、AAV、ヘルペスウイルス、アルファウイルス、ワクシニア、ポックスウイルス、バキュロウイルスなど)、プラスミド、ファージ、YAC、BACなどが含まれるが限定されない。そのような核酸分子、ベクター、および細胞は、例えば、本明細書に記載の修飾されたウイルスキャプシドまたはウイルスベクターの生成のための試薬(例えば、ヘルパーパッケージング構築物またはパッケージング細胞)として使用され得る。
本開示によるウイルスキャプシドは、当該技術分野で既知の任意の方法を使用して、例えば、バキュロウイルスからの発現によって生成され得る(Brownら(1994)Virology 198:477~488頁)。
本開示によるAAVキャプシドタンパク質に対する修飾は、「選択的」修飾である。このアプローチは、サブユニット全体または大きなドメインのAAV血清型間のスワップを使用する従前の研究とは対照的である(例えば、国際特許公開WO00/28004;Hauckら(2003)J.Virology 77:2768~2774頁;Shenら(2007)Mol Ther.15(11):1955~62頁;およびMaysら(2013)J Virol.87(17):9473~85頁を参照のこと)。本開示のAAVキャプシドタンパク質は、本発明者らの知る限り、血液脳関門を通過することを可能にする特定のアミノ酸変化の最初の例である。
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、血液脳関門を通過することを可能にする特定のアミノ酸変化を含む。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、または22個のアミノ酸の置換を含み、置換されるアミノ酸はAAVrh.10に由来し、アミノ酸置換により血液脳関門を通過することが可能となる。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、AAV1キャプシドタンパク質に由来し、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、または22個のアミノ酸の置換を含み、置換されるアミノ酸はAAVrh.10に由来し、アミノ酸置換により血液脳関門を通過することが可能となる。いくつかの実施形態では、血液脳関門の通過を可能にする特定のアミノ酸は、262N、263G、264T、265S、267G、268S、269T、および273T(VP1番号付け)であり、各残基の番号付けは、配列番号9または配列番号30のアミノ酸配列に基づく。
いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、肝臓、腎臓、および/または脾臓からの脱標的化を可能にする特定のアミノ酸変化を含む。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、または22個のアミノ酸の置換を含み、置換されるアミノ酸はAAVrh.10に由来し、アミノ酸置換により肝臓、腎臓、および/または脾臓からの脱標的化が可能となる。いくつかの実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、AAV1キャプシドタンパク質に由来し、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、または22個のアミノ酸を含み、置換されるアミノ酸はAAVrh.10に由来し、アミノ酸置換により肝臓、腎臓、および/または脾臓からの脱標的化が可能となる。
いくつかの実施形態では、置換されるアミノ酸は、キャプシドのVR-I領域に位置する。いくつかの実施形態では、置換されるアミノ酸は、キャプシドの表面に位置する。いくつかの実施形態では、置換されたアミノ酸は、キャプシドの3回対称回転軸での突起の基部に位置する。いくつかの実施形態では、置換されたアミノ酸は、キャプシドの2回対称回転軸での陥凹部に位置する。いくつかの実施形態では、置換アミノ酸は、DEループ内のキャプシドタンパク質のVR-II領域内に位置する。いくつかの実施形態では、置換されたアミノ酸は、キャプシドのβ鎖E内に位置する。
特定の実施形態では、「選択的」修飾は、約20個、18個、15個、12個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、または2個未満の連続したアミノ酸の挿入および/または置換および/または欠失をもたらす。
本開示の修飾されたキャプシドタンパク質およびキャプシドは、現在既知であるかまたは後に同定される任意の他の修飾をさらに含み得る。
例えば、本開示のAAVキャプシドタンパク質およびウイルスキャプシドは、これらが例えば国際特許公開WO00/28004に記載されるような、別のウイルス、任意選択で、別のパルボウイルスまたは他のAAV血清型由来のキャプシドサブユニットのすべてまたは一部を含み得るという点でキメラであり得る。
ウイルスキャプシドは、該ウイルスキャプシドが所望の標的組織上に存在する細胞表面分子と相互作用するように指向させる標的化配列(例えば、ウイルスキャプシドに置換および/または挿入される)を含み得る(例えば、国際特許公開WO00/28004およびHauckら(2003)J.Virology 77:2768~2774頁;Shiら Human Gene Therapy 17:353~361頁(2006)[AAVキャプシドサブユニットの位置520および/または584でのインテグリン受容体結合モチーフRGDの挿入について記載している];米国特許第7,314,912号[AAV2キャプシドサブユニットのアミノ酸位置447、534、573、および587の後に続くRGDモチーフを含むP1ペプチドの挿入について記載している]、および国際特許公開第WO2015038958号[CNS形質導入の増加を示すペプチド配列を含むAAVベクターの選択的回収について記載している]を参照のこと)。挿入を許容するAAVキャプシドサブユニット内の他の位置(例えば、Grifmanら Molecular Therapy 3:964~975頁(2001)によって記載される位置449および588)は、当該技術分野で既知である。
例えば、本開示のウイルスキャプシドのいくつかは、殆どの目的の標的組織(例えば、肝臓、骨格筋、心臓、横隔膜筋、腎臓、脳、胃、腸、皮膚、内皮細胞、および/または肺)に対して比較的非効率なトロピズムを有する。標的化配列は、これらの低形質導入(low-transduction)ベクターに有利に組み込まれ、それにより、ウイルスキャプシドに所望のトロピズム、および任意選択で特定の組織に対する選択的なトロピズムを付与し得る。標的化配列を含むAAVキャプシドタンパク質、キャプシド、およびベクターは、例えば国際特許公開WO00/28004に記載されている。別の可能性として、Wangら(Annu Rev Biophys Biomol Struct.35:225~49頁(2006))によって記載されている1つ以上の天然に存在しないアミノ酸は、低形質導入ベクターを所望の標的組織へと再指向させる手段として、直交部位でAAVキャプシドサブユニットに組み込まれ得る。これらの非天然アミノ酸は、目的の分子を、グリカン(マンノース-樹状細胞の標的化);特定の癌細胞種に標的化送達するためのRGD、ボンベシン、または神経ペプチド:成長因子受容体、インテグリンなどの特定の細胞表面受容体を標的とするファージディスプレイから選択されるRNAアプタマーまたはペプチドを含むがこれらに限定されないAAVキャプシドタンパク質に、化学的に結合するために有利に使用され得る。アミノ酸を化学的に修飾する方法は、当該技術分野で既知である(例えばGreg T.Hermanson,Bioconjugate Techniques,第1版1,Academic Press,1996)を参照のこと)。
代表的な実施形態では、標的化配列は、特定の細胞型への感染を指向させるウイルスキャプシド配列(例えば、自律性パルボウイルスキャプシド配列、AAVキャプシド配列、または他の任意のウイルスキャプシド配列)であり得る。
別の非限定的な例として、ヘパリン結合ドメイン(例えば、呼吸器多核体ウイルスヘパリン結合ドメイン)が、得られる変異体にヘパリン結合を付与するために、ヘパラン硫酸(HS)受容体には典型的には結合しないキャプシドサブユニット(例えば、AAV4、AAV5)に挿入または置換され得る。
別の非限定的な例として、ガラクトース、シアル酸、マンノース、ラクトース、スルホ-N-ラクトサミン、ガラクトサミン、グルコース、グルコサミン、フルクトース、フコース、ガングリオシド、キトトリオース、コンドロイチン硫酸、ケラチン硫酸、デルマタン硫酸などのグリカンへの結合を可能にし得るアミノ酸フットプリントが、上記の列挙した糖の1つ以上に典型的には結合しないキャプシドサブユニットに接合され得る[例えば、二重グリカン結合AAVベクターのための方法および組成物(Methods and compositions for dual glycan binding AAV vectors)との表題の米国特許公開第US20160017005号]。
B19は、グロボシドをその受容体として使用して初代赤血球前駆細胞に感染する(Brownら(1993)Science 262:114頁)。B19の構造は8Åの解像度まで決定されている(Agbandje-McKennaら(1994)Virology 203:106頁)。グロボシドに結合するB19キャプシドの領域は、アミノ酸399~406間(Chapmanら(1993)Virology 194:419)、βバレル構造EおよびF間のループアウト(looped out)領域(Chipmanら(1996)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 93:7502頁)にマッピングされている。したがって、B19キャプシドのグロボシド受容体結合ドメインは、ウイルスキャプシドまたはそれを含むウイルスベクターを赤血球細胞に標的化するために、AAVキャプシドタンパク質中に置換され得る。
代表的な実施形態では、外因性標的化配列は、ウイルスキャプシドまたは修飾されたAAVキャプシドタンパク質を含むウイルスベクターのトロピズムを変更するペプチドをコードする任意のアミノ酸配列であり得る。特定の実施形態では、標的化ペプチドまたはタンパク質は、天然に存在するか、あるいは完全にまたは部分的に合成されたものであり得る。例示的な標的化配列には、細胞表面受容体および糖タンパク質に結合するリガンドおよび他のペプチド、例えば、RGDペプチド配列、ブラジキニン、ホルモン、ペプチド成長因子(例えば、上皮成長因子、神経成長因子、線維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子IおよびIIなど)、サイトカイン、メラノサイト刺激ホルモン(例えば、α、β、またはγ)、神経ペプチド、およびエンドルフィンなど、ならびに細胞をそれらの同族受容体へと標的化する能力を保持するそれらの断片が含まれる。他の例示的なペプチドおよびタンパク質には、サブスタンスP、ケラチノサイト成長因子、神経ペプチドY、ガストリン放出ペプチド、インターロイキン2、ニワトリ卵白リゾチーム、エリスロポエチン、ゴナドリベリン、コルチコスタチン、β-エンドルフィン、Leu-エンケファリン、リモルフィン、α-ネオエンケファリン、アンジオテンシン、ニューマジン(pneumadin)、血管作動性腸管ペプチド、ニューロテンシン、モチリン、および上記のようなそれらの断片などが含まれる。さらなる代替として、毒素(例えば、破傷風毒素またはヘビ毒素、例えばα-ブンガロトキシンなど)由来の結合ドメインは、標的化配列としてキャプシドタンパク質中に置換され得る。さらなる代表的な実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、Cleves(Current Biology 7:R318(1997)によって記載されるような、「非古典的」インポート/エクスポートシグナルペプチド(例えば、線維芽細胞成長因子-1および-2、インターロイキン1、HIV-1 Tatタンパク質、ヘルペスウイルスVP22など)をAAVキャプシドタンパク質中に置換することによって修飾され得る。特定の細胞による取り込みを指向させるペプチドモチーフ、例えば、肝細胞による取り込みを引き起こすFVFLPペプチドモチーフも包含される。
任意の目的の細胞種を認識するペプチドは、ファージディスプレイ技術、および当該技術分野で既知である他の技術を使用して同定され得る。
標的化配列は、受容体(例えば、タンパク質、炭水化物、糖タンパク質、またはプロテオグリカン)を含む細胞表面結合部位を標的化する任意のペプチドをコードし得る。細胞表面結合部位の例には、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、および他のグリコサミノグリカン、シアル酸部分、ポリシアル酸部分、糖タンパク質、およびガングリオシド、MHC I糖タンパク質、マンノース、N-アセチル-ガラクトサミン、N-アセチル-グルコサミン、フコース、ガラクトースなどを含む膜糖タンパク質上に見出される炭水化物成分が含まれるが、これらに限定されない。
さらなる代替として、標的化配列は、細胞への侵入を標的とする別の分子への化学的結合に使用され得る(例えば、R基を介して化学的に結合し得るアルギニンおよび/またはリジン残基を含み得る)ペプチドであってもよい。
上記の修飾は、互いに組み合わせて、および/または現在既知であるかまたは後に発見される他の任意の修飾と組み合わせて、本開示のキャプシドタンパク質またはキャプシドに導入され得る。
本開示はまた、本開示の修飾されたキャプシドタンパク質およびキャプシドを含むウイルスベクターも包含する。特定の実施形態では、ウイルスベクターは、パルボウイルスベクター(例えば、パルボウイルスキャプシドおよび/またはベクターゲノムを含む)、例えば、AAVベクター(例えば、AAVキャプシドおよび/またはベクターゲノムを含む)である。代表的な実施形態では、ウイルスベクターは、本開示の修飾されたキャプシドサブユニットを含む修飾されたAAVキャプシドおよびベクターゲノムを含む。
例えば、代表的な実施形態では、ウイルスベクターは、(a)本開示の修飾されたキャプシドタンパク質を含む修飾されたウイルスキャプシド(例えば、修飾されたAAVキャプシド)、および(b)修飾されたウイルスキャプシドによってキャプシド封入されている末端反復配列(例えば、AAV TR)を含む核酸を含む。核酸は、2つの末端反復(例えば、2つのAAV TR)を任意選択で含み得る。
代表的な実施形態では、ウイルスベクターは、目的のタンパク質または機能性RNAをコードする異種核酸分子を含む組換えウイルスベクターである。組換えウイルスベクターについては、以下で詳しく説明する。
本開示の修飾されたキャプシドタンパク質、ウイルスキャプシド、およびウイルスベクターは、それらのネイティブの状態において示されたアミノ酸を特定の位置に有する(すなわち、変異体ではない)、キャプシドタンパク質、キャプシド、およびウイルスベクターを除外することを当業者は理解するであろう。
ウイルスベクターの生成方法
本開示は、本発明のウイルスベクターを生成する方法をさらに提供する。代表的な一実施形態では、本開示は、(a)少なくとも1つのTR配列(例えば、AAV TR配列)を含む核酸鋳型、および(b)核酸鋳型の複製およびAAVキャプシドへのキャプシド封入に十分なAAV配列(例えば、本開示のAAVキャプシドをコードするAAV rep配列およびAAV cap配列)を細胞に提供することを含む、ウイルスベクターを生成する方法を提供する。任意選択で、核酸鋳型は、少なくとも1つの異種核酸配列をさらに含む。特定の実施形態では、核酸鋳型は、2つのAAV ITR配列を含み、これらは異種核酸配列(存在する場合)に対して5’側および3’側に位置するが、異種核酸配列と直接隣接している必要はない。
核酸鋳型ならびにAAVrepおよびcap配列は、AAVキャプシド内にパッケージングされた核酸鋳型を含むウイルスベクターが細胞中で生成されるような条件下で提供される。この方法は、細胞からウイルスベクターを回収するステップをさらに含み得る。ウイルスベクターは、培地からおよび/または細胞を溶解することにより回収され得る。
細胞は、AAVウイルス複製を許容する細胞であり得る。当該技術分野で既知である任意の好適な細胞が使用され得る。特定の実施形態では、細胞は哺乳動物細胞である。別の選択肢として、細胞は、複製欠損ヘルパーウイルスから欠失された機能を提供するトランス相補性(trans-complementing)パッケージング細胞株、例えば293細胞または他のE1aトランス相補性細胞であり得る。
AAV複製およびキャプシド配列は、当該技術分野で既知の任意の方法によって提供され得る。現在のプロトコルは、典型的には、単一のプラスミド上のAAVrep/cap遺伝子を発現する。AAV複製配列およびパッケージング配列が一緒に提供される必要はないが、そのようにすることが好都合であり得る。AAVrepおよび/またはキャップ配列は、任意のウイルスまたは非ウイルスベクターによって提供され得る。例えば、rep/cap配列は、ハイブリッドアデノウイルスまたはヘルペスウイルスベクターによって提供され得る(例えば、欠失型アデノウイルスベクターのE1aまたはE3領域に挿入される)。EBVベクターはまた、AAVcapおよびrep遺伝子を発現させるためも使用され得る。この方法の利点の1つは、EBVベクターはエピソームであるが、連続的な細胞分裂により高いコピー数を維持することである(すなわち、「EBVベースの核エピソーム(EBV based nuclear episome)」と呼ばれる染色体外エレメントとして細胞に安定して組み込まれる。Margolski(1992)Curr.Top.Microbiol.Immun.158:67頁を参照のこと)。
さらなる代替として、rep/cap配列は、細胞に安定して組み込まれ得る。
典型的には、AAVrep/cap配列は、これらの配列のレスキューおよび/またはパッケージングを防止するために、TRに隣接していない。
核酸鋳型は、当該技術分野で既知の任意の方法を使用して、細胞に提供され得る。例えば、鋳型は、非ウイルス性(例えば、プラスミド)またはウイルスベクターによって供給され得る。特定の実施形態では、核酸鋳型は、ヘルペスウイルスまたはアデノウイルスベクターによって供給される(例えば、欠失型アデノウイルスのE1aまたはE3領域に挿入される)。別の例として、Palomboら(1998)J.Virology 72:5025頁は、AAV TRに隣接するレポーター遺伝子を保有するバキュロウイルスベクターについて記載している。rep/cap遺伝子に関して上記で記載したように、EBVベクターは、鋳型を送達するために使用され得る。
別の代表的な実施形態では、核酸鋳型は、複製rAAVウイルスによって提供される。さらに他の実施形態では、核酸鋳型を含むAAVプロウイルスは、細胞の染色体に安定して組み込まれる。
ウイルス力価を高めるために、増殖性AAV感染を促進するヘルパーウイルス機能(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)が細胞に提供され得る。AAV複製に必要なヘルパーウイルス配列は、当該技術分野で既知である。典型的には、これらの配列は、ヘルパーアデノウイルスまたはヘルペスウイルスベクターによって提供される。あるいは、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス配列は、別の非ウイルスまたはウイルスベクターによって、例えば、Ferrariら,(1997)Nature Med.3:1295頁ならびに米国特許第6,040,183号および同6,093,570号によって記載されるような効率的なAAV生成を促進するヘルパー遺伝子のすべてを保有する非感染性アデノウイルスミニプラスミドとして提供され得る。
さらに、ヘルパーウイルス機能は、染色体に埋め込まれているかまたは安定した染色体外エレメントとして維持されるヘルパー配列を有するパッケージング細胞によって提供され得る。一般に、ヘルパーウイルス配列は、AAVビリオンにパッケージングされ得ず、例えば、TRに隣接していない。
当業者は、単一のヘルパー構築物上のAAV複製およびキャプシド配列およびヘルパーウイルス配列(例えば、アデノウイルス配列)を提供することが有利であり得ることを理解するであろう。このヘルパー構築物は、非ウイルスまたはウイルス構築物であり得る。1つの非限定的な例として、ヘルパー構築物は、AAVrep/cap遺伝子を含むハイブリッドアデノウイルスまたはハイブリッドヘルペスウイルスであり得る。
特定の一実施形態では、AAVrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給される。このベクターはさらに、核酸鋳型をさらに含み得る。AAVrep/cap配列および/またはrAAV鋳型は、アデノウイルスの欠失領域(例えば、ElaまたはE3領域)に挿入され得る。
さらなる実施形態では、AAVrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給される。この実施形態によれば、rAAV鋳型は、プラスミド鋳型として提供され得る。
別の例示的な実施形態では、AAVrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって提供され、rAAV鋳型はプロウイルスとして細胞中に組み込まれる。あるいは、rAAV鋳型は、染色体外エレメントとして(例えば、EBVベースの核エピソームとして)細胞内で維持されるEBVベクターによって提供される。
さらなる例示的な実施形態では、AAVrep/cap配列およびアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーによって提供される。rAAV鋳型は、別個の複製ウイルスベクターとして提供され得る。例えば、rAAV鋳型は、rAAV粒子または第2の組換えアデノウイルス粒子により提供され得る。
前述の方法によれば、ハイブリッドアデノウイルスベクターは、典型的には、アデノウイルスの複製およびパッケージングに十分なアデノウイルス5’および3’シス配列(すなわち、アデノウイルス末端反復配列およびPAC配列)を含む。AAVrep/cap配列および存在する場合にはrAAV鋳型は、アデノウイルス骨格に埋め込まれ、5’および3’シス配列に隣接し、そのため、これらの配列はアデノウイルスキャプシドにパッケージングされ得る。上記のように、アデノウイルスヘルパー配列およびAAVrep/cap配列は一般にはTRに隣接しておらず、そのため、これらの配列はAAVビリオンにパッケージングされない。
Zhangら((2001)Gene Ther.18:704~12頁)は、アデノウイルスとAAVrepおよびcap遺伝子との両方を含むキメラヘルパーについて記載している。
ヘルペスウイルスは、AAVパッケージング方法におけるヘルパーウイルスとしても使用され得る。AAVRepタンパク質をコードするハイブリッドヘルペスウイルスは、拡大縮小可能なAAVベクター生成スキームを有利に促進し得る。AAV-2repおよびcap遺伝子を発現するハイブリッド単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)ベクターが記載されている(Conwayら(1999)Gene Therapy 6:986頁およびWO00/17377)。
さらなる代替として、本開示のウイルスベクターは、Urabeら(2002)Human Gene Therapy 13:1935~43頁によって記載されるように、rep/cap配列およびrAAV鋳型を送達するためのバキュロウイルスベクターを使用して、昆虫細胞で生成され得る。
混入するヘルパーウイルスを含まないAAVベクターストックは、当該技術分野で既知の任意の方法によって取得し得る。例えば、AAVおよびヘルパーウイルスは、サイズに基づいて簡単に区別し得る。AAVはまた、アフィニティクロマトグラフィー[例えば、ヘパリン基質に対するもの(Zolotukhinら(1999)Gene Therapy 6:973頁)、もしくは親和性樹脂を使用するもの(Wangら,(2015),Mol Ther Methods Clin Dev 2:15040)、または例えば他の方法(reviewed in Quら(2015)Curr Pharm Biotechnol.16(8):684~95頁)で総説されている)]に基づいてヘルパーウイルスから分離し得る。欠失型複製欠損ヘルパーウイルスは、任意の混入するヘルパーウイルスが複製可能でないように使用され得る。さらなる代替として、AAVウイルスのパッケージングを媒介するためにはアデノウイルス初期遺伝子発現のみが必要とされるので、後期遺伝子発現を欠くアデノウイルスヘルパーを使用してもよい。後期遺伝子発現を欠損したアデノウイルス変異体は、当該技術分野で既知である(例えば、ts100Kおよびtsl49アデノウイルス変異体)。
組換えウイルスベクター
本開示のウイルスベクターは、インビトロ、エクスビボ、およびインビボでの細胞への核酸の送達に有用である。特に、ウイルスベクターは、哺乳動物を含む動物細胞に核酸を送達または移入するために有利に使用され得る。
目的の任意の異種核酸配列は、本開示のウイルスベクターで送達され得る。目的の核酸には、治療用(例えば、医学的または獣医学的な使用のため)もしくは免疫原性(例えば、ワクチンのため)タンパク質および/または機能性もしくは治療用RNA分子を含むポリペプチドをコードする核酸が含まれる。
治療用ポリペプチドには、嚢胞性線維症膜貫通調節タンパク質(CFTR)、ジストロフィン(ミニおよびミクロジストロフィンを含む、例えば、Vincentら(1993)Nature Genetics 5:130頁;米国特許公開第2003/017131号;国際公開WO/2008/088895、Wangら Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:13714~13719頁(2000);およびGregorevicら Mol.Ther.16:657~64頁(2008)を参照のこと)、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、IGF-1、IκBドミナント変異体などの抗炎症性ポリペプチド、サルコスパン、ユートロフィン(Tinsleyら(1996)Nature 384:349頁)、ミニユートロフィン、凝固因子(例えば、第VIII因子、第IX因子、第X因子など)、エリスロポエチン、アンギオスタチン、エンドスタチン、カタラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、レプチン、LDL受容体、リポタンパク質リパーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ、β-グロビン、α-グロビン、スペクトリン、α1-アンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソームヘキソサミニダーゼA、分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ、RP65タンパク質、サイトカイン(例えば、α-インターフェロン、β-インターフェロン、インターフェロン-γ、インターロイキン-2、インターロイキン-4、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子、リンホトキシンなど)、ペプチド成長因子、神経栄養因子およびホルモン(例えば、ソマトトロピン、インスリン、インスリン様増殖)因子1および2、血小板由来成長因子、上皮成長因子、線維芽細胞成長因子、神経成長因子、神経栄養因子-3および-4、脳由来神経栄養因子、骨形成タンパク質[RANKLおよびVEGFを含む]、グリア由来成長因子、トランスフォーミング成長因子-aおよび-βなど)、リソソーム酸α-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼA、受容体(例えば、腫瘍壊死成長因子α可溶性受容体)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ(adenylyl cyclase)6型、カルシウムハンドリングを調節する分子(例えば、SERCA2A、PP1の阻害剤1およびその断片[例えば、WO2006/029319およびWO2007/100465])、切断型の構成的に活性なbARKctなどのGタンパク質共役型受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子、IRAPなどの抗炎症因子、抗ミオスタチンタンパク質、アスパルトアシラーゼ、モノクローナル抗体(単鎖モノクローナル抗体を含む、例示的なMabはハーセプチン(登録商標)Mabである)、神経ペプチドおよびその断片(例えば、ガラニン、神経ペプチドY(米国特許第7,071,172号を参照のこと)、バソヒビンおよび他のVEGF阻害剤(例えば、バソヒビン2[WOJP2006/073052を参照のこと])などの血管新生阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。他の例示的な異種核酸配列は、自殺遺伝子産物(例えば、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素、および腫瘍壊死因子)、癌治療で使用される薬物に対して耐性を付与するタンパク質、腫瘍抑制遺伝子産物(例えば、p53、Rb、Wt-1)、TRAIL、FASリガンド、およびそれらを必要とする対象において治療効果を有する他のポリペプチドをコードする。AAVベクターはまた、モノクローナル抗体および抗体断片、例えば、ミオスタチンに対する抗体または抗体断片を送達するために使用することもできる(例えば、Fangら Nature Biotechnology 23:584~590頁(2005)を参照のこと)。
ポリペプチドをコードする異種核酸配列には、レポーターポリペプチド(例えば、酵素)をコードするものが含まれる。レポーターポリペプチドは当該技術分野で既知であり、該レポーターポリペプチドには、緑色蛍光タンパク質(GFP)、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、およびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子が含まれるが、これらに限定されない。
任意選択で、異種核酸分子は、分泌ポリペプチド(例えば、ネイティブ状態で分泌ポリペプチドであるポリペプチド、または例えば当該技術分野で既知の分泌シグナル配列との作動可能な結合によって分泌されるように操作されたポリペプチド)をコードし得る。
あるいは、本開示の特定の実施形態では、異種核酸は、アンチセンス核酸、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に記載されている)、スプライソソーム媒介性のトランススプライシングをもたらすRNA(例えば、Puttarajuら(1999)Nature Biotech.17:246頁;米国特許第6,013,487号;米国特許第6,083,702号を参照のこと)、遺伝子サイレンシングを媒介するsiRNA、shRNA、またはmiRNAを含む干渉RNA(RNAi)(例えば、Sharpら(2000)Science 287:2431頁を参照のこと)、および「ガイド」RNAなどの他の非翻訳RNA(Gormanら(1998)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:4929頁;Yuan et alによる米国特許第5,869,248号)などをコードし得る。例示的な非翻訳RNAには、多剤耐性(MDR)遺伝子産物に対するRNAi(例えば、腫瘍を処置および/または予防するため、および/または化学療法による損傷を防止するための心臓への投与用)、ミオスタチンに対するRNAi(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのため)、VEGFに対するRNAi(例えば、腫瘍を処置および/または予防するため)、ホスホランバンに対するRNAi(例えば、心血管疾患を処置するため、例えば、Andinoら J.Gene Med.10:132~142頁(2008)およびLiら Acta Pharmacol Sin.26:51~55頁(2005)を参照のこと)、ホスホランバンS16Eなどのホスホランバン阻害分子またはドミナントネガティブ分子(例えば、心血管疾患を処置するため、例えば、Hoshijimaら Nat.Med.8:864~871頁(2002)を参照のこと)、アデノシンキナーゼに対するRNAi(例えば、癲癇のため)、ならびに病原性生物およびウイルスに対するRNAi(例えば、B型および/またはC型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、CMV、単純ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルスなど)が含まれる。
さらに、選択的スプライシングを指向させる核酸配列が送達され得る。説明のために、ジストロフィンエクソン51の5’および/または3’スプライス部位に相補的なアンチセンス配列(または他の阻害配列)が、このエクソンのスキッピングを誘導するためにU1またはU7小核(sn)RNAプロモーターとともに送達され得る。例えば、アンチセンス/阻害配列の5’側に位置するU1またはU7snRNAプロモーターを含むDNA配列が、本開示の修飾キャプシドにパッケージングされて、送達され得る。
ウイルスベクターはまた、宿主染色体上の遺伝子座と相同性を有し、これとの組換えを行う異種核酸分子を含み得る。このアプローチは、例えば、宿主細胞における遺伝的欠陥を修正ために利用され得る。
本開示はまた、例えばワクチン接種のための免疫原性ポリペプチドを発現するウイルスベクターも提供する。核酸分子は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、インフルエンザウイルス、HIVまたはSIV gagタンパク質、腫瘍抗原、癌抗原、細菌抗原、ウイルス抗原などに由来する免疫原を含むがこれに限定されない、当該技術分野で既知の任意の目的の免疫原をコードし得る。
免疫原性ポリペプチドは、微生物、細菌、原生動物、寄生虫、真菌、および/またはウイルスによる感染症および疾患を含むがこれらに限定されない感染症および/または疾患に対する免疫応答を誘発するおよび/またはそれらから対象を保護するのに好適な任意のポリペプチドであり得る。例えば、免疫原性ポリペプチドは、オルトミクソウイルス免疫原(例えば、インフルエンザウイルス免疫原、例えば、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)表面タンパク質もしくはインフルエンザウイルス核タンパク質、またはウマインフルエンザウイルス免疫原)またはレンチウイルス免疫原(例えば、ウマ伝染性貧血ウイルス免疫原、サル免疫不全ウイルス(SIV)免疫原、またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)免疫原、例えば、HIVまたはSIVエンベロープGP160タンパク質、HIVまたはSIVマトリックス/キャプシドタンパク質、およびHIVまたはSIV gag、pol、およびenv遺伝子産物)であり得る。免疫原性ポリペプチドはまた、アレナウイルス免疫原(例えば、ラッサ熱ウイルス免疫原、例えば、ラッサ熱ウイルス核ヌクレオキャプシドタンパク質およびラッサ熱エンベロープ糖タンパク質)、ポックスウイルス免疫原(例えば、ワクシニアウイルス免疫原、例えば、ワクシニアL1またはL8遺伝子産物)、フラビウイルス免疫原(例えば、黄熱病ウイルス免疫原または日本脳炎ウイルス免疫原)、フィロウイルス免疫原(例えば、エボラウイルス免疫原またはマールブルグウイルス免疫原、例えば、NPおよびGP遺伝子産物)、ブニヤウイルス免疫原(RVFV、CCHF、および/またはSFSウイルス免疫原)、またはコロナウイルス免疫原(例えば、感染性ヒトコロナウイルス免疫原、例えば、ヒトコロナウイルスエンベロープ糖タンパク質、もしくはブタ伝染性胃腸炎ウイルス免疫原、またはトリ感染性気管支炎ウイルス免疫原)であり得る。免疫原性ポリペプチドはさらに、ポリオ免疫原、ヘルペス免疫原(例えば、CMV、EBV、HSV免疫原)、流行性耳下腺炎免疫原、麻疹免疫原、風疹免疫原、ジフテリア毒素もしくは他のジフテリア免疫原、百日咳抗原、肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎など)免疫原、および/または免疫原として当該技術分野で現在既知であるかもしくは後に同定される他の任意のワクチン免疫原であり得る。
あるいは、免疫原性ポリペプチドは、任意の腫瘍または癌細胞抗原であり得る。任意選択で、腫瘍または癌抗原は癌細胞の表面に発現する。例示的な癌および腫瘍細胞抗原は、S.A.Rosenberg(Immunity 10:281頁(1991)に記載されている。他の例示的な癌および腫瘍抗原には、BRCA1遺伝子産物、BRCA2遺伝子産物、gp100、チロシナーゼ、GAGE-1/2、BAGE、RAGE、LAGE、NY-ESO-1、CDK-4、β-カテニン、MUM-1、カスパーゼ-8、KIAA0205、HPVE、SART-1、PRAME、pl5、メラノーマ腫瘍抗原(Kawakamiら(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3515頁;Kawakamiら,(1994)J.Exp.Med.,180:347頁;Kawakamiら(1994)Cancer Res.54:3124頁)、MART-1、gp100 MAGE-1、MAGE-2、MAGE-3、CEA、TRP-1、TRP-2、P-15、チロシナーゼ(Brichardら(1993)J.Exp.Med.178:489頁);HER-2/neu遺伝子産物(米国特許第4,968,603号)、CA 125、LK26、FB5(エンドシアリン)、TAG72、AFP、CA19-9、NSE、DU-PAN-2、CA50、SPan-1、CA72-4、HCG、STN(シアリルTn抗原)、c-erbB-2タンパク質、PSA、L-CanAg、エストロゲン受容体、乳脂肪グロブリン、p53腫瘍抑制タンパク質(Levine(1993)Ann.Rev.Biochem.62:623頁);ムチン抗原(国際特許公開第WO90/05142号);テロメラーゼ;核マトリックスタンパク質;前立腺酸性ホスファターゼ;パピローマウイルス抗原;および/または現在既知であるかもしくは後に発見される以下の癌に関連した抗原:メラノーマ、腺癌種、胸腺腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺癌、肝臓癌、結腸癌、白血病、子宮癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、脳癌、および現在既知であるかもしくは後に特定される任意の他の癌または悪性状態(例えば、Rosenberg(1996)Ann.Rev.Med.47:481~91頁を参照のこと)が含まれるが、これらに限定されない。
さらなる代替として、異種核酸は、インビトロ、エクスビボ、またはインビボでの細胞内で望ましく生成される任意のポリペプチドをコードし得る。例えば、ウイルスベクターが培養細胞に導入され、発現された遺伝子産物がそこから単離されてもよい。
さらなる実施形態では、異種核酸は、(a)ジンクフィンガーヌクレアーゼ、もしくはメガヌクレアーゼ、もしくはエンドヌクレアーゼ、またはTALENもしくはCRISPR/Casシステムベースのヌクレアーゼ(DNA標的化RNA分子(gRNA)と相互作用するRNA結合部分を含む)に基づく部位特異的修飾ポリペプチド、またはそのようなポリペプチドをコードするmRNA、(b)標的DNA中の配列に相補的なヌクレオチド配列、および部位特異的修飾ポリペプチドと相互作用する第2セグメントを含む、1つ以上のガイドRNA分子(gRNA)、および/または(c)哺乳動物ゲノムの標的部位への相同組換えのために設計された一本鎖または二本鎖DNA配列を含む1つ以上のDNAドナー鋳型分子をコードし得る。例えば、ウイルスベクターは、幹細胞および/またはTリンパ球にエクスビボで導入され、培養細胞、組織、および/または生物全体にインビボで導入されて、発現された遺伝子産物により、宿主中での標的遺伝子の編集、破壊、転写活性化および/または抑制が可能となる。
当業者は、目的の異種核酸分子を適切な制御配列と作動可能に結合し得ることを理解するであろう。例えば、異種核酸分子を、転写/翻訳制御シグナル、複製起点、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム進入部位(IRES)、プロモーター、および/またはエンハンサーなどの発現制御エレメントと作動可能に結合し得る。
さらに、目的の異種核酸分子の発現の調節は、例えば、特定の部位においてスプライシング活性を選択的に遮断するオリゴヌクレオチド、分子、および/または他の化合物の存在または非存在によって、異なるイントロンの選択的スプライシングを調節することにより(例えば、WO2006/119137に記載されている)、転写後レベルで達成され得る。
所望のレベルおよび組織特異的発現に応じて、様々なプロモーター/エンハンサーエレメントが使用され得ることを当業者は理解するであろう。プロモーター/エンハンサーは、所望の発現パターンに応じて、構成的または誘導性であり得る。プロモーター/エンハンサーはネイティブまたは外来であり得、天然または合成配列であり得る。外来とは、転写開始領域が、該転写開始領域が導入される野生型宿主において見出されなことを意図している。
特定の実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、処置される標的細胞または対象にネイティブであり得る。代表的な実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、異種核酸配列にネイティブであり得る。プロモーター/エンハンサーエレメントは、一般に、目的の標的細胞で機能するように選択される。さらに、特定の実施形態では、プロモーター/エンハンサーエレメントは、哺乳動物プロモーター/エンハンサーエレメントであり得る。プロモーター/エンハンサーエレメントは、構成的でもまたは誘導性でもよい。
誘導性発現制御エレメントは、典型的には、異種核酸配列の発現についての調節を提供することが望ましい用途において有利である。遺伝子送達のための誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、組織特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメントであり得、該エレメントには、筋肉特異的または好ましい(心臓、骨格、および/または平滑筋特異的または好ましいことを含む)、神経組織特異的または好ましい(脳特異的または好ましいことを含む)、眼特異的または好ましい(網膜特異的および角膜特異的を含む)、肝臓特異的または好ましい、骨髄特異的または好ましい、膵臓特異的または好ましい、脾臓特異的または好ましい、および肺特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメントが含まれる。他の誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントには、ホルモン誘導性および金属誘導性エレメントが含まれる。例示的な誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントには、Tet on/offエレメント、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター、およびメタロチオネインプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。
異種核酸配列が転写され、次いで標的細胞で翻訳される実施形態では、挿入されたタンパク質コード配列の効率的な翻訳のために、特異的な開始シグナルが一般に含まれる。ATG開始コドンおよび隣接配列を含み得るこれらの外因性翻訳制御配列は、天然および合成の両方の様々な起源のものであり得る。
本開示によるウイルスベクターは、分裂細胞および非分裂細胞を含む広範な細胞に異種核酸を送達するための手段を提供する。ウイルスベクターは、例えば、インビトロでポリペプチドを生成するためまたはエクスビボでの遺伝子治療のために、インビトロで目的の核酸を細胞に送達するために使用され得る。ウイルスベクターは、例えば、免疫原性もしくは治療用ポリペプチドまたは機能性RNAを発現するために、核酸を、これを必要とする対象に送達する方法においてさらに有用である。このような方法で、ポリペプチドまたは機能性RNAは対象においてインビボで生成され得る。対象ではポリペプチドが欠乏しているので、対象はポリペプチドを必要とし得る。さらに、対象におけるポリペプチドまたは機能性RNAの生成がいくらかの有益な効果を付与し得るので、この方法が実施され得る。
ウイルスベクターはまた、(例えば、ポリペプチドを生成するため、または例えばスクリーニング方法などに関連して対象に対するRNAの機能的効果を観察するために、対象をバイオリアクターとして使用して)培養細胞または対象において目的のポリペプチドまたは機能性RNAを生成するためにも使用され得る。
一般に、本開示のウイルスベクターは、治療用ポリペプチドまたは機能性RNAを送達することが有益である任意の疾患を処置および/または予防するためのポリペプチドまたは機能性RNAをコードする異種核酸を送達するために使用され得る。例示的な疾患状態には、嚢胞性線維症(嚢胞性線維症膜貫通調節タンパク質)および肺の他の疾患、血友病A(VIII因子)、血友病B(IX因子)、サラセミア(β-グロビン)、貧血(エリスロポエチン)およびその他の血液障害、アルツハイマー病(GDF;ネプリライシン)、多発性硬化症(β-インターフェロン)、パーキンソン病(グリア細胞株由来神経栄養因子[GDNF])、ハンチントン病(反復を除去するためのRNAi)、筋萎縮性側索硬化症、癲癇(ガラニン、神経栄養因子)、および他の神経障害、癌(エンドスタチン、アンギオスタチン、TRAIL、FASリガンド、インターフェロンを含むサイトカイン;VEGFまたは多剤耐性遺伝子産物に対するRNAiを含むRNAi、mir-26a[例えば、肝細胞癌のため])、真正糖尿病(インスリン)、デュシェンヌ型(ジストロフィン、ミニジストロフィン、インスリン様成長因子I、サルコグリカン[例えば、α、β、γ]、ミオスタチンに対するRNAi、ミオスタチンプロペプチド、フォリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、抗炎症性ポリペプチド、例えば、IκBドミナント変異体、サルコスパン、ユートロフィン、ミニユートロフィン、エクソンスキッピングを誘導するためのジストロフィン遺伝子中のスプライスジャンクションに対するアンチセンスまたはRNAi[例えば、WO/2003/095647を参照のこと]、エクソンスキッピングを誘導するためのU7 snRNAに対するアンチセンス[例えば、WO/2006/021724を参照のこと]、およびミオスタチンまたはミオスタチンプロペプチドに対する抗体または抗体断片)およびベッカー型を含む筋ジストロフィー、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、ハーラー病(α-L-イズロニダーゼ)、アデノシンデアミナーゼ欠損症(アデノシンデアミナーゼ)、糖原病(ファブリー病など)[α-ガラクトシダーゼ]およびポンペ病[リソソーム酸α-グルコシダーゼ])および他の代謝障害、先天性肺気腫(α1-アンチトリプシン)、レッシュ・ナイハン症候群(ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)、ニーマン・ピック病(スフィンゴミエリナーゼ)、テイ・サックス病(リソソームヘキソサミニダーゼA)、メープルシロップ尿症(分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ)、網膜変性疾患(ならびに眼および網膜の他の疾患;例えば、黄斑変性症についてPDGF、および/あるいは例えばI型糖尿病における網膜障害を処置/予防するためのバソヒビンもしくはVEGFの他の阻害剤または他の血管新生阻害剤)、固形臓器の疾患、例えば脳(パーキンソン病[GDNF]、星状細胞腫[エンドスタチン、アンジオスタチン、および/またはVEGFに対するRNAi]、膠芽腫[エンドスタチン、アンジオスタチン、および/またはVEGFに対するRNAi]が含まれる)、肝臓、腎臓、鬱血性心不全または末梢動脈疾患(PAD)を含む心臓(例えば、プロテインホスファターゼ阻害剤I(I-1)およびその断片(例えば、I1C)、serca2a、ホスホランバン遺伝子を調節するジンクフィンガータンパク質、Barkct、β2アドレナリン受容体、β2アドレナリン受容体キナーゼ(BARK)、ホスホイノシチド-3キナーゼ(PI3キナーゼ)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、切断型の構成的に活性なbARKctなどのGタンパク質共役型受容体キナーゼ2型ノックダウンをもたらす分子;カルサルシン(calsarcin)、ホスホランバンに対するRNAi;ホスホランバンS16Eなどのホスホランバン阻害分子またはドミナントネガティブ分子などを送達することによる)、関節炎(インスリン様成長因子)、関節障害(インスリン様成長因子1および/または2)、内膜過形成(例えば、enos、inosを送達することによる)、心臓移植物の生存の改善(スーパーオキシドジスムターゼ)、AIDS(可溶性CD4)、筋消耗(インスリン様成長因子I)、腎臓欠損症(kidney deficiency)(エリスロポエチン)、貧血(エリスロポエチン)、関節炎(IRAPおよびTNFα可溶性受容体などの抗炎症性因子)、肝炎(α-インターフェロン)、LDL受容体欠乏症(LDL受容体)、高アンモニア血症(オルニチントランスカルバミラーゼ)、クラッベ病(ガラクトセレブロシダーゼ)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、バッテン病、フリードライヒ運動失調症、SCA1、SCA2およびSCA3を含む脊髄性大脳性運動失調症、フェニルケトン尿症(フェニルアラニンヒドロキシラーゼ)、自己免疫疾患などが含まれるが、これらに限定されない。本発明はさらに、移植の成功率を増加させるためおよび/または臓器移植もしくは補助療法の負の副作用を低下させるために、臓器移植後に使用され得る(例えば、免疫抑制剤または阻害核酸を投与してサイトカイン生成を遮断することにより)。別の例として、骨形態形成タンパク質(BNP2、7など、RANKLおよび/またはVEGFを含む)は、例えば、癌患者における破壊または外科的除去後に、骨同種移植片とともに投与され得る。
本開示はまた、人工多能性幹細胞(iPS)を生成するために使用され得る。例えば、本開示のウイルスベクターは、成体線維芽細胞、皮膚細胞、肝細胞、腎細胞、脂肪細胞、心臓細胞、神経細胞、上皮細胞、内皮細胞などの非多能性細胞に幹細胞関連核酸を送達するために使用され得る。幹細胞に関連する因子をコードする核酸は、当該技術分野で既知である。幹細胞および多能性に関連するそのような因子の非限定的な例には、Oct-3/4、SOXファミリー(例えば、SOX1、SOX2、SOX3、および/またはSOX15)、Klfファミリー(例えば、Klfl、Klf2、Klf4、および/またはKlf5)、Mycファミリー(例えば、C-myc、L-myc、および/またはN-myc)、NANOGおよび/またはLIN28が含まれる。
本開示はまた、癲癇、脳卒中、外傷性脳損傷、認知障害、行動障害、精神障害、ハンチントン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、および軸索/ニューロンの再生もしくは修復から利益を受けるかまたはそれらを必要とし得る任意の他の神経変性状態を処置および/または予防するために実施することもできる。
特定の実施形態では、本開示は、例えば、幹細胞の分化、ならびにFoxJ1、Fox2、NeuroD2、NG2、またはOlig2などのリプログラミング因子、および/またはmiR-137、MiR124などのマイクロRNA、ならびにニューロンの発達および分化に関与する他の因子またはmiRNAの標的化調節または過剰発現により、矯正治療として、軸索再生およびニューロン修復を促進し、回路を回復させ、および/または失われたニューロンを補充するために実施され得る。
遺伝子移入は、疾患状態に対する治療を理解および提供するためのかなり有望な用途を有する。欠陥遺伝子が既知であってクローン化されている多くの遺伝性疾患がある。一般に、上記の疾患状態は、2つのクラス:一般には劣勢様式で遺伝する、通常は酵素の欠乏状態、および調節または構造タンパク質に関与し得、典型的には優性様式で遺伝する不均衡状態に分類される。欠乏状態の疾患では、遺伝子移入は、補充療法のために正常な遺伝子を罹患組織にもたらすので、およびアンチセンス変異を使用して疾患のための動物モデルを作成するために使用され得る。バランスを欠いた疾患状態では、遺伝子移入は、モデル系において疾患状態を作り出すために使用され得、次いで、この疾患状態を解消する目的で使用され得る。したがって、本開示によるウイルスベクターは、遺伝病の処置および/または予防を可能にする。
本開示によるウイルスベクターはまた、機能性RNAをインビトロまたはインビボで細胞に提供するために使用され得る。例えば、細胞中での機能性RNAを発現は、細胞による特定の標的タンパク質の発現によって減少させることができる。従って、機能性RNAはまた、それを必要とする対象において特定のタンパク質の発現を減少させるためにも投与され得る。機能性RNAは、例えば、細胞または組織培養系を最適化するためにまたはスクリーニング方法において、遺伝子発現および/または細胞生理機能を調節するためにインビトロで細胞に投与され得る。
さらに、本開示によるウイルスベクターは、目的の核酸が細胞培養系またはトランスジェニック動物モデルにおいて一過的にまたは安定して発現される診断およびスクリーニング方法での使用を見出す。
本開示のウイルスベクターはまた、当業者には明らかであるように、遺伝子標的化、除去、転写、翻訳などを評価するプロトコルでの使用を含むがこれらに限定されない様々な非治療用目的に使用され得る。ウイルスベクターは、安全性(拡散、毒性、免疫原性など)を評価する目的にも使用できる。このようなデータは、例えば、臨床効果の評価の前に、規制承認プロセスの一部として、米国食品医薬品局によって検討されている。
さらなる態様として、本開示のウイルスベクターは、対象において免疫応答を生じさせるために使用され得る。この実施形態によれば、免疫原性ポリペプチドをコードする異種核酸配列を含むウイルスベクターが対象に投与され得、免疫原性ポリペプチドに対する能動免疫応答が対象によって引き起こされる。免疫原性ポリペプチドは上記で記載した通りである。いくつかの実施形態では、防御免疫応答が誘発される。
あるいは、ウイルスベクターがエクスビボで細胞に投与され、改変された細胞が対象に投与され得る。異種核酸を含むウイルスベクターが細胞に導入され、その細胞が対象に投与されて、該対象において免疫原をコードする異種核酸が発現されて、該対象における免疫原に対する免疫応答が誘導され得る。特定の実施形態では、細胞は、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)である。
「能動免疫応答」または「能動免疫」は、「免疫原と遭遇した後の宿主組織および細胞の関与によって特徴付けられる。これは、抗体の合成もしくは細胞媒介性反応の発生またはその両方をもたらす、リンパ細網組織における免疫担当細胞の分化および増殖を伴う。」Herbert B.Herscowitz,Immunophysiology: Cell Function and Cellular Interactions in Antibody Formation,in IMMUNOLOGY: BASIC PROCESSES 117(Joseph A.Bellanti編,1985)。別の言い方をすると、能動免疫応答は、感染またはワクチン接種による免疫原への曝露後に宿主によって引き起こされる。能動免疫は、受動免疫とは対比され得、該受動免疫は、「予め形成された物質(抗体、トランスファーファクター、胸腺移植片、インターロイキン-2)の、能動免疫された宿主から非免疫宿主への移入」によって獲得される(同文献)。
本明細書で使用する「防御」免疫応答または「防御」免疫は、免疫応答が疾患の発生を予防するまたは低減させるという点で対象にいくらかの利益を与えることを示す。あるいは、防御免疫応答または防御免疫は、疾患、特に、癌または腫瘍の処置および/または予防に(例えば、癌または腫瘍形成を予防することにより、癌または腫瘍の退縮を引き起こすことにより、および/または転移を予防することにより、および/または転移性結節の増殖を予防することにより)有用であり得る。防御効果は、処置の利益がその任意の欠点を上回る限り、完全でもまたは部分的であってもよい。
特定の実施形態では、異種核酸を含むウイルスベクターまたは細胞は、以下に記載するように、免疫原的に(immunogenically)有効な量で投与され得る。
本開示のウイルスベクターは、1つ以上の癌細胞抗原(もしくは免疫学的に類似した分子)または癌細胞に対して免疫応答を生じる任意の他の免疫原を発現するウイルスベクターの投与による癌免疫治療のために投与され得る。説明のため、例えば癌を有する患者を処置するためおよび/または対象における癌の発生を予防するために、癌細胞抗原をコードする異種核酸を含むウイルスベクターを投与することにより、対象における癌細胞抗原に対して免疫応答を生じさせ得る。ウイルスベクターは、本明細書に記載されるように、インビボで、またはエクスビボ方法を使用することにより対象に投与され得る。あるいは、癌抗原は、ウイルスキャプシドの一部として発現されるか、またはその他では、ウイルスキャプシドと結合させ得る(例えば、上記の通り)。
別の代替として、当該技術分野で既知の任意の他の治療用核酸(例えば、RNAi)またはポリペプチド(例えば、サイトカイン)は、癌を処置および/または予防するために投与され得る。
本明細書で使用する場合、「癌」という用語は、腫瘍形成癌を包含する。同様に、「癌組織」という用語は、腫瘍を包含する。「癌細胞抗原」は、腫瘍抗原を包含する。
「癌」という用語は、当該技術分野で理解されている意味を有し、例えば、身体の離れた部位に拡散する(すなわち、転移する)能力を有する制御されない組織の増殖である。例示的な癌には、メラノーマ、腺癌種、胸腺腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺癌、肝臓癌、結腸癌、白血病、子宮癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、脳癌、および現在既知であるかまたは後に同定される他の癌または悪性状態が含まれるが、これらに限定されない。代表的な実施形態では、本開示は、腫瘍を形成する癌を処置および/または予防する方法を提供する。
「腫瘍」という用語はまた、例えば多細胞生物内の未分化細胞の異常な塊として、当該技術分野で理解されている。腫瘍は、悪性または良性であり得る。代表的な実施形態では、本明細書に開示される方法は、悪性腫瘍を予防および処置するために使用される。
「癌を処置する」、「癌の処置」および等価な用語は、癌の重症度が軽減もしくは少なくとも部分的に排除され、および/または疾患の進行が遅延および/もしくは制御され、ならびに/または疾患が安定していることを意図している。特定の実施形態では、これらの用語は、癌の転移が予防もしくは低減もしくは少なくとも部分的に排除され、および/または転移性結節の増殖が予防もしくは低減もしくは少なくとも部分的に排除されることを示す。
「癌の予防」または「癌を予防する」という用語および等価な用語は、方法が、癌の発症率および/または癌発症の重症度を少なくとも部分的に排除または低減しおよび/または遅延させることを意図している。別の言い方をすると、対象における癌の発症は、尤度または確率において低下し、および/または遅延され得る。
特定の実施形態では、細胞は、癌を有する対象から取り出され、本開示による癌細胞抗原を発現するウイルスベクターと接触され得る。次いで、修飾された細胞が対象に投与され、それにより癌細胞抗原に対する免疫応答が誘発される。この方法は、インビボで十分な免疫応答を引き起こすことができない(すなわち、十分な量の増強性抗体を生成することができない)免疫不全の対象で有利に使用され得る。
免疫応答が、免疫調節性サイトカイン(例えば、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、ω-インターフェロン、τ-インターフェロン、インターロイキン-1α、インターロイキン-1β、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン-5、インターロイキン-6、インターロイキン-7、インターロイキン-8、インターロイキン-9、インターロイキン-10、インターロイキン-11、インターロイキン-12、インターロイキン-13、インターロイキン-14、インターロイキン-18、B細胞増殖因子、CD40リガンド、腫瘍壊死因子-α、腫瘍壊死因子-β、単球走化性タンパク質-1、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子、およびリンホトキシン)によって増強され得ることは、当該技術分野で既知である。したがって、免疫調節性サイトカイン(好ましくは、CTL誘導性サイトカイン)は、ウイルスベクターとともに対象に投与され得る。
サイトカインは、当該技術分野で既知の任意の方法によって投与され得る。外因性サイトカインは対象に投与されてもよいし、あるいは好適なベクターを使用して、サイトカインをコードする核酸が対象に送達され、サイトカインがインビボで生成されてもよい。
対象、医薬製剤、および投与方法
本開示によるウイルスベクターおよびキャプシドは、獣医学的および医学的用途の両方での使用を見出す。好適な対象には、トリおよび哺乳類の両方が含まれる。本明細書で使用する「トリ」という用語には、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、オウム、インコなどが含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用する「哺乳動物」という用語には、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギなどが含まれるが、これらに限定されない。ヒト対象には、新生児、幼児、若年、成人、および老人の対象が含まれる。
代表的な実施形態では、対象は、本開示の方法を「必要としている」。
特定の実施形態では、本開示は、薬学的に許容される担体中に本開示のウイルスベクターおよび/またはキャプシドを含み、任意選択で、他の薬剤、医薬品、安定化剤、緩衝剤、担体、補助剤、希釈剤などを含む、医薬組成物を提供する。注射では、担体は典型的には液体である。他の投与方法では、担体は固体または液体のいずれかであり得る。吸入投与では、担体は呼吸用であり、任意選択で固体または液体の微粒子形態であり得る。
「薬学的に許容される」とは、毒性ではない、またはその他では、望ましくないことはない材料、すなわち、その材料が望ましくない生物学的効果を生じることなく対象に投与され得ることを意味する。
本開示の一態様は、インビトロで核酸を細胞に移入する方法である。ウイルスベクターは、特定の標的細胞に好適な標準的な形質導入法に従って適切な感染多重度で細胞に導入され得る。投与されるウイルスベクターの力価は、標的細胞の種類および数ならびに特定のウイルスベクターに応じて変動し得、過度の実験をすることなく当業者によって決定され得る。代表的な実施形態では、少なくとも約103の感染単位、任意選択で少なくとも約105の感染単位が細胞に導入される。
ウイルスベクターが導入される細胞は、神経細胞(末梢および中枢神経系の細胞、特にニューロンおよび希突起膠細胞などの脳細胞を含む)、肺細胞、眼の細胞(網膜細胞、網膜色素上皮、および角膜細胞を含む)、上皮細胞(例えば、腸および呼吸器上皮細胞)、筋肉細胞(例えば、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、および/または横隔膜筋細胞)、樹状細胞、膵臓細胞(膵島細胞を含む)、肝細胞、心筋細胞、骨細胞(例えば、骨髄幹細胞)、造血幹細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞などを含むがこれらに限定されない、任意の種の細胞であり得る。代表的な実施形態では、細胞は任意の前駆細胞であり得る。さらなる可能性として、細胞は、幹細胞(例えば、神経幹細胞、肝幹細胞)であり得る。さらなる代替として、細胞は、癌または腫瘍細胞であり得る。さらに、細胞は、上で示したような起源の任意の種に由来し得る。
ウイルスベクターは、修飾された細胞を対象に投与する目的で、インビトロで細胞に導入され得る。特定の実施形態では、細胞が対象から取り出され、ウイルスベクターがその細胞に導入され、次いで、その細胞が対象に投与されて戻される。エクスビボでの操作のために対象から細胞を取り出し、その後に対象に戻す方法は、当該技術分野で既知である(例えば、米国特許第5,399,346号を参照のこと)。あるいは、組換えウイルスベクターがドナー対象由来の細胞、培養細胞、または任意の他の好適な供給源由来の細胞に導入され得、その細胞がそれを必要とする対象(すなわち「レシピエント」対象)に投与される。
エクスビボ核酸送達のための好適な細胞は上記の通りである。対象に投与される細胞の用量は、対象の年齢、状態、および種、細胞の種類、細胞によって発現される核酸、投与様式などによって変動する。典型的には、用量あたり、少なくとも約102~約108個の細胞または少なくとも約103~約106個の細胞が薬学的に許容される担体中で投与される。特定の実施形態では、ウイルスベクターで形質導入された細胞は、薬学的担体と組み合わせて処置有効量または予防有効量で対象に投与される。
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターが細胞に導入され、その細胞が対象に投与されて、送達されたポリペプチド(例えば、導入遺伝子として発現され、またはキャプシド中の)に対する免疫原性応答を誘発し得る。典型的には、薬学的に許容される担体と組み合わせて、免疫原性的に有効な量のポリペプチドを発現する細胞量が投与される。「免疫原性的に有効な量」とは、医薬製剤が投与される対象においてポリペプチドに対して能動的な免疫応答を引き起こすのに十分な、発現されたポリペプチドの量である。特定の実施形態では、投与量は、防御免疫応答(上記で定義している通り)を生ずるのに十分である。免疫原性ポリペプチドを投与する利益がその任意の欠点を上回る限り、付与される防御の程度は完全または永続的である必要はない。
本開示のさらなる態様は、ウイルスベクターおよび/またはウイルスキャプシドを対象に投与する方法である。本開示によるウイルスベクターおよび/またはキャプシドの、それを必要とするヒト対象または動物への投与は、当該技術分野で既知の任意の手段によるものであり得る。任意選択で、ウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、薬学的に許容される担体中において処置有効量または予防有効量で送達される。
本開示のウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、免疫原性応答を誘発するために(例えば、ワクチンとして)さらに投与され得る。典型的には、本開示の免疫原性組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、免疫原性的に有効な量のウイルスベクターおよび/またはキャプシドを含む。任意選択で、投与量は、防御免疫応答(上記で定義している通り)を生じるのに十分である。免疫原性ポリペプチドを投与する利益がその任意の欠点を上回る限り、付与される防御の程度は完全または永続的である必要はない。対象および免疫原は上記の通りである。
対象に投与されるウイルスベクターおよび/またはキャプシドの投与量は、投与様式、処置および/または予防される疾患または状態、個々の対象の状態、特定のウイルスベクターまたはキャプシド、および送達される核酸などに依存し、日常的な方法で決定され得る。治療効果を達成するための例示的な用量は、少なくとも約105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015形質導入単位、任意選択で約108~1013形質導入単位の力価である。
特定の実施形態では、2回以上の投与(例えば、2回、3回、4回またはそれ以上の投与)が、例えば毎日、毎週、毎年などの様々な間隔の期間にわたって所望のレベルの遺伝子発現を達成するために使用され得る。
例示的な投与様式には、経口、直腸、経粘膜、鼻腔内、吸入(例えば、エアロゾルによる)、口腔内(例えば、舌下)、膣内、髄腔内、眼内、経皮、子宮内(または卵内)、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、筋肉内、皮内、胸腔内、脳内、および関節内)、局所(例えば、気道表面を含む皮膚および粘膜表面の両方、および経皮投与)、リンパ内など、および組織または臓器への(例えば、肝臓、骨格筋、心筋、横隔膜筋、または脳への)直接注射が含まれる。いくつかの実施形態では、筋肉内には、骨格筋、横隔膜、および/または心筋への投与が含まれる。投与はまた、腫瘍に対するもの(例えば、腫瘍またはリンパ節の中または近く)であり得る。任意の所与の場合において最も好適な経路は、処置および/または予防される状態の性質および重症度、ならびに使用される特定のベクターの性質に依存する。
標的組織への送達はまた、ウイルスベクターおよび/またはキャプシドを含むデポーを送達することにより達成され得る。代表的な実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはキャプシドを含むデポーを骨格筋、心筋、および/または横隔膜筋の組織に移植するか、または組織をウイルスベクターおよび/またはキャプシドを含むフィルムまたは他のマトリックスと接触させ得る。このような移植可能なマトリックスまたは基材は、米国特許第7,201,898号に記載されている。
特定の実施形態では、本開示によるウイルスベクターおよび/またはウイルスキャプシドは、骨格筋、横隔膜筋、および/または心筋に(例えば、筋ジストロフィー、心疾患を処置および/または予防するために)投与される。いくつかの実施形態では、本開示によるウイルスベクターおよび/またはウイルスキャプシドは、PADまたは鬱血性心不全を処置するために投与される。
本開示の方法はまた、全身送達のためのアンチセンスRNA、RNAi、または他の機能的RNA(例えば、リボザイム)を生産するために実施され得る。
注射剤は、液体溶液または懸濁液、注射前の液体中の溶液もしくは懸濁液に好適な固体形態、または乳剤のいずれかとして、従来の形態で調製され得る。あるいは、本開示のウイルスベクターおよび/またはウイルスキャプシドを全身的ではなく局所的に、例えば、デポーまたは徐放製剤で投与され得る。さらに、ウイルスベクターおよび/またはウイルスキャプシドは、外科的に移植可能なマトリックスに付着させて送達され得る(例えば、米国特許公開第US2004/0013645A1号に記載されている)。
ウイルスベクターおよびウイルスキャプシドは、中枢神経系(CNS)の組織(例えば、脳、眼)に投与され得、本開示の非存在下で観察されるものよりもウイルスベクターまたはキャプシドのより広範な分布を有利にもたらし得る。
特定の実施形態では、本開示の送達ベクターは、遺伝性障害、神経変性障害、精神障害、および腫瘍を含むCNSの疾患を処置するために投与され得る。
CNSの例示的な疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、カナバン病、リー病、レフサム病、トゥレット症候群、原発性側索硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、進行性筋萎縮症、ピック病、筋ジストロフィー、多発性硬化症、重症筋無力症、ビンスワンガー病、脊髄および/または頭部損傷による外傷(例えば、外傷性脳損傷)、テイ・サックス病、レッシュ・ナイハン病、癲癇、脳卒中、脳梗塞、気分障害を含む精神障害(例えば、鬱病、双極性感情障害、持続性感情障害、二次性気分障害)、統合失調症、薬物依存(例えば、アルコール依存症および他の物質依存)、神経症(例えば、不安、強迫性障害、身体表現性障害、解離性障害、悲嘆、産後鬱病)、精神病(例えば、幻覚および妄想)、認知症、偏執症、注意欠陥障害、精神性的障害(psychosexual disorder)、軸索/ニューロンの再生および/または修復の利益を受けるかまたはそれらを必要とし得る任意の神経変性状態、認知障害、行動障害、睡眠障害、疼痛性障害、摂食障害または体重障害(例えば、肥満、悪液質、神経性食欲不振、および過食症)、ならびにCNSの癌および腫瘍(例えば、下垂体腫瘍)が含まれるが、これらに限定されない。
CNSの障害には、網膜、後部管、および視神経を含む眼の障害(例えば、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症および他の網膜変性疾患、ブドウ膜炎、加齢黄斑変性、緑内障)が含まれる。
すべてではないにしても、ほとんどの眼の疾患および障害は、3つのタイプの症候:(1)血管新生、(2)炎症、および(3)変性のうちの1つ以上に関連している。本開示の送達ベクターは、を使用して、抗血管新生因子、抗炎症因子、細胞変性を遅らせるか、細胞の温存(sparing)を促進するか、または細胞の増殖を促進する因子、および前述のものの組み合わせを送達するために使用され得る。
例えば、糖尿病性網膜症は、血管新生によって特徴付けられる。糖尿病性網膜症は、1つ以上の抗血管新生因子を眼内(例えば、硝子体中)または眼窩周囲(例えば、テノン嚢下領域)に送達することによって処置され得る。1つ以上の神経栄養因子がまた、眼内(例えば、硝子体内)または眼窩周囲のいずれかに共送達されてもよい。
ブドウ膜炎は炎症を伴う。1つ以上の抗炎症因子が、本開示の送達ベクターの眼内(例えば、硝子体または前眼房)投与によって投与され得る。
色素性網膜炎は、比較すると、網膜変性によって特徴付けられる。代表的な実施形態では、網膜色素変性症は、1つ以上の神経栄養因子をコードする送達ベクターの眼内(例えば、硝子体投与)によって処置され得る。
加齢黄斑変性は、血管新生および網膜変性の両方を伴う。この障害は、1つ以上の神経栄養因子をコードする本発明の送達ベクターを眼内(例えば、硝子体)に投与することにより、および/または1つ以上の抗血管新生因子をコードする本発明の送達ベクターを眼内または眼窩周囲(例えば、テノン嚢下領域)に投与することにより、処置され得る。
緑内障は、眼圧の増加および網膜神経節細胞の喪失によって特徴付けられる。緑内障の処置には、本発明の送達ベクターを使用して、興奮毒性損傷から細胞を保護する1つ以上の神経保護剤を投与することが含まれる。そのような薬剤には、眼内に、任意選択で硝子体内に送達される、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)アンタゴニスト、サイトカイン、および神経栄養因子が含まれる。
他の実施形態では、本開示は、発作を処置するため、例えば、発作の発症、発生、または重症度を低減するために使用され得る。発作に対する治療的処置の有効性は、行動(例えば、震え、目または口のチック(tick))および/または電気記録手段(ほとんどの発作はサインとなる電気記録の異常を有する)によって評価され得る。したがって、本開示はまた、経時的な複数回の発作を特徴とする癲癇を処置するために使用され得る。
代表的な一実施形態では、ソマトスタチン(またはその活性断片)は、下垂体腫瘍を処置するために本開示の送達ベクターを使用して脳に投与される。この実施形態によれば、ソマトスタチン(またはその活性断片)をコードする送達ベクターが、下垂体への微量注入によって投与される。同様に、そのような処置は、先端巨大症(下垂体からの異常な成長ホルモン分泌)を処置するために使用され得る。ソマトスタチンの核酸配列(例えば、GenBank受託番号J00306)およびアミノ酸配列(例えば、GenBank受託番号P01166;プロセシングされた活性ペプチドであるソマトスタチン-28およびソマトスタチン-14を含む)配列は、当該技術分野で既知である。
特定の実施形態では、ベクターは、米国特許第7,071,172号に記載されるような分泌シグナルを含み得る。
本開示の代表的な実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはウイルスキャプシドは、CNSに(例えば、脳または眼に)投与される。ウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、脊髄、脳幹(延髄、脳橋)、中脳(視床下部、視床、視床上部、下垂体、黒質、松果体)、小脳、終脳(線条体、後頭葉、側頭葉、頭頂葉、前頭葉、皮質、大脳基底核、海馬、および扁桃体(portaamygdala)を含む大脳)、大脳辺縁系、新皮質、線条体、大脳、および下丘に導入され得る。ウイルスベクターおよび/またはキャプシドはまた、網膜、角膜、および/または視神経などの目の異なる領域に投与され得る。
ウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、送達ベクターのより分散した投与のために脳脊髄液に(例えば、腰椎穿刺により)送達され得る。ウイルスベクターおよび/またはキャプシドはさらに、血液脳関門が攪乱された状況(例えば、脳腫瘍または脳梗塞)でCNSに血管内投与され得る。
ウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、側脳室内(intracerebroventricular)、槽内、実質内、頭蓋内、髄腔内、眼内、脳内、脳室内、静脈内(例えば、マンニトールなどの糖の存在下で)、鼻腔内、耳内、眼内(例えば、硝子体内、網膜下、前眼房)および眼窩周囲(例えば、テノン嚢下領域)送達、ならびに運動ニューロンへの逆行性送達を伴う筋肉内送達を含むがこれらに限定されない当該技術分野で既知の任意の経路により、CNSの所望の領域に投与され得る。
特定の実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、CNSの所望の領域または区画への直接注射(例えば、定位注射)により液体製剤中で投与される。他の実施形態では、ウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、所望の領域への局所適用により、またはエアロゾル製剤の鼻腔内投与により提供され得る。眼への投与は、液滴の局所適用によるものであり得る。さらなる代替として、ウイルスベクターおよび/またはキャプシドは、固体の徐放製剤として投与され得る(例えば、米国特許第7,201,898号を参照のこと)。
さらに別の実施形態では、ウイルスベクターは、運動ニューロンに関与する疾患および障害(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)など)を処置および/または予防するための逆行性輸送に使用され得る。例えば、ウイルスベクターは筋肉組織に送達されて、そこから該ウイルスベクターはニューロンに移動し得る。
以下の例は、例示目的のみのために本明細書に含まれ、限定することを意図するものではない。
実施例1.血液脳関門を通過するAAV輸送を可能にする神経栄養フットプリントの発見
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、約4.7kbの一本鎖DNAゲノムをパッケージングした小さな25nmの二十面体キャプシドからなる非病原性パルボウイルスである。多様なAAVキャプシド配列がヒトおよび霊長類の組織から単離されており、それらは配列および構造の多様性に基づいていくつかの異なるクレードに分類される。これらのクレードにわたって、異なる血清型は、種、組織、および細胞レベルで幅広いトロピズムを示す。これらの多様な表現型は、キャプシド構造によって決定される。AAVキャプシドは、60個のウイルスタンパク質(VP)サブユニットから構築されている。コアVPモノマー(VP3)は、相互連結(interdigitating)ループ領域によって接続された7つの逆平行β鎖からなるβバレル構造であるジェリーロールを有する。これらの非常に可変性のループの一部は表面に露出しており、AAVキャプシドのトポロジーを定義付けし、次いで、これにより様々なAAV血清型にわたって組織トロピズム、抗原性、受容体利用が決定される。AAVキャプシド上の表面ループ残基は、高度に形成的であり(plastic)、修飾を受けやすく、抗原性、形質導入プロファイル、および組織トロピズムに対する制御を提供する。
AAVライフサイクルの最初のステップは、細胞表面グリカン受容体への結合の認識である。これらには、AAV2、AAV3、およびAAV6ではヘパラン硫酸(HS)、AAV1、AAV5、およびAAV6ではα2,3-およびα2,6-N結合シアル酸(Sia)、AAV4ではO結合シアル酸、およびAAV9ではガラクトース(Gal)が含まれる。グリカン結合に続いて、AAVの細胞内取り込みには、様々な成長因子受容体およびインテグリンを含む二次共受容体が関与する。最近では、膜貫通タンパク質であるKIAA0319L(AAVR)が、複数のAAV血清型での普遍的な受容体として同定された。これらの因子は、組織のグリコシル化パターンとともに、異なるAAV血清型の様々な組織トロピズムに寄与する。特にCNSに関しては、異なるAAV血清型は、投与経路に応じて、様々な形質導入プロファイルおよび細胞トロピズムを示す。例えば、実質内または脳脊髄液(CSF)直接注射のいずれかを介してマウスCNSに直接投与したときに、AAVキャプシドは、血清型に応じて順行性および/または逆行性方向に、軸索輸送および経シナプス性拡散を経る。さらに、本発明者らは、CSFのグリア関連リンパ(グリンパティック)輸送がマウス脳実質内のAAV拡散およびCNSからの除去に影響を及ぼすことを最近示した。
CNS遺伝子導入を達成するためには、静脈内に投与されたAAVベクターは、まず血液脳関門(BBB)を通過して脳へ侵入しなければならない。関連する星状膠細胞のエンドフィートおよび周皮細胞とともに内皮細胞のタイトジャンクションから構成されるBBBは、高分子/粒子の拡散および傍細胞フラックスを遮断し、他の分子の輸送を調節する。脳に感染するほとんどのウイルスは、BBBを破壊するかまたは弱めることによってそれを行う。しかしながら、一部のウイルスは、宿主免疫細胞内でのヒッチハイク(hitchhiking)などの方法によって(例えば、HIV)、脳内皮細胞に感染することにより、または末梢神経に感染して軸索輸送を利用することにより(例えば、狂犬病)、CNSに侵入する戦略を考案している。AAVの場合、BBBは、いくつかの注目すべき例外を除き、ほとんどの血清型の脳への侵入を防ぐ。例えば、AAV血清型1-6および8の血管内投与によって不十分なCNS形質導入がもたらされる一方で、特に、分離株AAV9、AAVrh.8、およびAAVrh.10は異なる動物モデルにおいてBBBを効率的に通過することが示されている。
治療レベルの導入遺伝子発現をCNSで達成するために、高ベクター用量(例えば、脊髄性筋萎縮試験NCT02122952では1×1014vg/kg)がしばしば必要となる。スケールアップおよびコストに伴う負担に加えて、高用量のベクターは肝臓毒性などの望ましくない副作用を引き起こすことも示されている。CNSへの遺伝子移入の特異性/効率を改善し、ベクターの有効用量を下げるためには、AAVキャプシドがBBBに浸透することを可能にする構造的特徴のより良い理解が必要である。
BBBを通過するための構造機能相関を分析するために、血管系を横断しないAAV1およびBBBを効率的に通過することが既知であるAAVrh.10の2つの血清型のみを使用して、バリアントキャプシド遺伝子のコンビナトリアルライブラリーを作成した。新たなバリアントを進化させるのではなく、マウスでのさらなるスクリーニングのために、コンピューター分析、系統発生分析、および構造分析により個々のバリアントを選択した。
キメラAAVキャプシド団の生成
AAV1/rh.10ドメインスワップキャプシドライブラリーをDNAシャッフリングにより作成した。簡単に言うと、AAV1およびAAVrh.10のCap遺伝子を短時間のDNase消化によってランダムに断片化し、短い(400bp未満)断片の部分的な相同性によって断片のセルフプライミングを可能とするPhusion High-Fidelity DNAポリメラーゼ(NEBカタログ#M0530L)を用いたプライマーレスPCRを使用して再構築した。次いで、Cap遺伝子に隣接する特定の保存されたプライマーを使用する二次PCRステップを使用して、再構築された完全長Cap配列のライブラリーを増幅し、同時に隣接制限部位を挿入して、ウイルス生成に使用されるpTRプラスミド骨格へのその後のクローニングを容易にした。
系統分析および配列分析
ClustalWを使用して、異なるAAVキャプシド分離株のアミノ酸配列をアラインし、MEGAv7.0.21ソフトウェアパッケージを使用して、系統ツリーを作成した。近隣結合アルゴリズムを使用して系統を作成し、ポアソン補正を使用してアミノ酸距離を計算した。統計的検定は、系統分析の信頼性を検定し、ブートストラップコンセンサスツリーを作成するために1,000回の複製でのブートストラップ法を適用することによって行った。50%未満のブートストラップ複製で複製された区画に対応する枝を折り畳んだ。ブートストラップ検定において関連する分類群が一緒に群となっている複製ツリーの割合が枝の横に表示されている。すべての配列アラインメントは、InvitrogenのVector NTI Advance11.5.2ソフトウェアを使用して行った。
ウイルスの生産および力価
更新されたトリプルプラスミドトランスフェクションプロトコルを使用して、組換えAAVベクターを生成した。具体的に、トランスフェクトされたプラスミドには、(i)キャプシド特異的pXRヘルパープラスミド(すなわち、pXR1、pXRrh.10、またはこの研究で使用される様々なキメラCap遺伝子をコードする様々なプラスミド)、(ii)アデノウイルスヘルパープラスミドpXX680、および(iii)pTR-CBh-scGFPプラスミドまたはpTR-CBA-Lucプラスミドのいずれか(AAV2ゲノム由来の逆位末端反復配列(TR)に隣接する、ニワトリβアクチンハイブリッド(CBh)プロモーターによって駆動される自己相補性緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーター導入遺伝子またはニワトリβアクチンプロモーター(CBA)によって駆動されるルシフェラーゼレポーター導入遺伝子(Luc)をそれぞれコードする)が含まれる。イオジキサノール密度勾配超遠心分離を使用して、ウイルスベクターを精製した。その後、CSartorius Vivaspin2100kDa分子量カットオフ(MWCO)遠心分離カラム(F-2731-100 Bioexpress、ユタ州ケイスビル)を使用して、Bh-scGFP導入遺伝子をパッケージングしたベクターに対して緩衝液交換および濃縮を供した。Zeba Spin Desalting Columns、40K MWCO(Thermo Scientific、カタログ#87770)を使用して、CBA-Luc導入遺伝子をパッケージングしたベクターに対して緩衝液交換および脱塩を供した。精製後、Roche Lightcycler480(Roche Applied Sciences、カルフォルニア州プレザントン)を使用した定量的PCRにより、ウイルスゲノム力価を決定した。定量的PCRプライマーを、AAV2逆位末端反復配列(フォワード、5’-AACATGCTACGCAGAGAGGGAGTGG-3’(配列番号36)、リバース、5’-CATGAGACAAGGAACCCCTAGTGATGGAG-3’(配列番号37))(IDT Technologies、アイオア州エイムズ)を特異的に認識するように設計した。
動物研究
すべての動物実験は、Jackson Laboratories(メイン州バーハーバー)から購入した6~8週齢の雌C57/BL6マウスを使用して行った。NIHガイドラインに従い、かつ、UNC研究施設内動物配慮利用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)(IACUC)によって承認されるように、これらのマウスを維持管理および処置した。AAVベクターがBBBを通過してCNS細胞集団を形質導入する能力を調べるために、CBh-scGFP導入遺伝子をパッケージングしたAAVベクターを5×1011vgの用量でまたは1×PBS(模擬(mock)処置として)を、尾静脈注射により静脈内(iv)投与した。GFPレポーター導入遺伝子の発現についてアッセイするために、トリブロモエタノール(アバチン)(0.2mlの1.25%溶液)の注射、続いて30mlの1×PBS、続いて30mlのPBS中の4%パラホルムアルデヒドでの経心腔的潅流の21日後に動物を犠牲死させた。脳、心臓、および肝臓を含む組織を取り出し、24時間にわたって後固定し、Leica VT1200S振動刃ミクロトーム(Leica Biosystems、イリノイ州)を使用して、各組織について厚さ50mの切片を得た。次いで、マウス脳切片を以下に記載のように免疫染色した。インビボでのルシフェラーゼ形質導入およびウイルスゲノム生体内分布実験のために、1×PBSまたはCBA-ルシフェラーゼ導入遺伝子をパッケージングしたウイルスベクターを1×1011vgの用量でマウスに注射した。上記のように、注射の14日後にマウスを犠牲死させ、様々な組織を取り出した。これらの実験では、1×PBS中の4%パラホルムアルデヒドによる固定は行われず、代わりに組織を切断し、使用前に-80℃で凍結した。
ルシフェラーゼ発現を定量化するために、CBA-Luc導入遺伝子をパッケージングした1×1011ウイルスゲノムを注射したマウスを注射の14日後に犠牲死させ、組織を採取して-80℃で凍結した。その後、組織を解凍し、秤量し、150μlの2×passive lysis buffer(Promega、ウィスコンシン州マディソン)を添加することによって溶解した後、Tissue Lyser II352機器(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)を使用して機械的溶解を行い、続いて遠心分離して任意の残留組織破片を除去した。次いで、ルシフェラーゼ導入遺伝子の発現を測定するために、各溶解物由来の50μlの上清を50μlのルシフェリンとともにアッセイプレートに充填し、Victor2ルミノメーター(PerkinElmer、マサチューセッツ州ウォルサム)を使用してルミノメトリー分析を行った。次いで、各試料について得られた相対発光量を、グラム単位で測定された各試料の入力組織重量に対して正規化した。データをグラフ化し、ウェルチ補正を用いた対応のない両側T検定および分散分析に続いて、示されている場合はテューキーの多重比較検定を使用して、統計分析を行った。これらの統計分析は、GraphPad Prism6(登録商標)ソフトウェアで行った。
組織処理および組織学的分析
GFPレポーター導入遺伝子をパッケージングしたウイルスを使用したマウス実験では、厚さ50μmの浮遊性(free-floating)冠状脳切片を24ウェルプレート中で染色した。切片を、1×PBS中の10%ヤギ血清および1%TritonX(Sigma-Aldrich)を含むブロッキング緩衝液中で室温で1時間インキュベートした。次いで、切片を、ブロッキング緩衝液で希釈した一次モノクローナルウサギα-GFP抗体(Life-Technologies-G10、3621:750)とともに、4℃で一晩インキュベートした。翌日、1×PBSで10分間の洗浄を3回行った。その後、GFP発現の組織化学分析をVectastain ABCキット(ウサギIgGPK-4001キット、Vector biolabs、カリフォルニア州バーリンゲーム)を使用して行い、組織を顕微鏡スライド上にマウントした。免疫染色された切片は、Aperio ScanScope XT機器(Aperio Technologies、カリフォルニア州ビスタ)を使用して、UNC Translational Pathology Laboratoryによって明視野(20×対物レンズ)でデジタル画像化され、画像をLeica eSlide Manager(集中画像ストレージおよびデータ管理ソフトウェア)を使用して取得し、Aperio ImageScopeおよびWeb Viewerソフトウェアを使用して分析した。形態に基づいて決定したGFP+ニューロンまたはグリア細胞の数を50μmの冠状脳切片あたりで計数することにより、定量化を計算した。データをグラフ化し、上記のように統計分析を行った。Allen Mouse Brain Atlasから取得した冠状マウス脳の参照との比較に基づいて、特定の脳領域を同定した。心臓および肝臓でのGFP発現についてアッセイするために、上記の抗GFP一次抗体を使用してGFPについて組織を染色した。しかしながら、Alexa-488に結合した抗ウサギヤギ抗体を、1:500の希釈で二次抗体として使用した(抗ウサギAbcam-96,883)。次いで、GFPライトキューブ(light cube)(励起470nm、発光510nm)を用いたEVOS FL落射蛍光イメージングシステム(AMC/Life Technologies)を使用して、これらの組織での免疫染色されたGFPを画像化した。前述のようにして統計分析を行った。
ベクターゲノムの体内分布
動物実験を上記のようにして行った。注射の21日後、マウスを犠牲死させ、組織を-80℃で凍結させた。その後、組織を解凍し、DNeasyキット(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)を使用して、組織溶解物からウイルスゲノムを抽出した。次いで、ルシフェラーゼ導入遺伝子に特異的なプライマー(フォワード、5’-AAAAGCACTCTGATTGACAAATAC-3’(配列番号38)、およびリバース、5’-CCTTCGCTTCAAAAAATGGAAC-3’(配列番号39))を用いた定量的PCRを使用して、各組織についてウイルスゲノムコピー数を決定した。次いで、プライマー(フォワード、5’-GGACCCAAGGACTACCTCAAGGG-3’(配列番号40)、およびリバース、5’-AGGGCACCTCCATCTCGGAAAC-3’(配列番号41))を使用して、これらのウイルスゲノムコピー数をマウスラミンB2ハウスキーピング遺伝子に対して正規化した。ウイルスゲノムの体内分布は、各組織について回収された細胞あたりのベクターゲノムの比率として表される。データをグラフ化し、前述のようにして統計分析を行った。
分子モデリング
以前に公表されている座標(PDB ID、3NG9)を使用して、AAV1 VP3三量体/3回対称軸の三次元構造を作成した。AAV8 VP3(PDB ID、2QA0)の結晶構造を鋳型として用い、SWISS-Modelサーバー(swissmodel.expasy.org)を使用して、AAVrh.10および様々なAAV1/rh.10キメラキャプシド構造の相同モデルを取得し、AAV1 VP3(PDB ID 3NG9)モノマーを鋳型として用い、WinCootソフトウェアでの二次構造一致(secondary structure matching)(SSM)アプリケーションを使用して、構造に基づくアライメントを作成した。VIPERd oligomer generator utility(viperdb.scripps.edu/oligomer_multi.php)を使用して、VP3三量体/3回対称軸、VP3三量体二量体/2回対称軸、VP3五量体/5回対称軸、および完全なキャプシドを作成した。PyMOL(PyMOL Molecular Graphics System、SchrOdinger LLC、www.pymol.org)を使用して、これらのモデルのサーフェスレンダリングによる描写を視覚化した。RIVEM(ウイルス電子密度マップの放射状解釈(Radial Interpretation of Viral Electron Density Maps)ソフトウェアを使用して、AAVrh.10由来の神経指向性フットプリント内の表面に露出したアミノ酸残基を強調表示したAAV1RXキャプシド表面のステレオロードマップ投影を作成した。
AAV1/rh.10ドメインスワップライブラリーの作成およびキメラキャプシドバリアントの単離
異なるキャプシドドメインの比較分析を行って、BBBを横断するための構造機能相関を確認した。DNAシャッフリングにより、AAV1/rh.10ドメインスワップライブラリーを作成した。AAV1およびAAVrh.10をDNAシャッフリングの親キャプシド配列として選択したが、その理由は、それらはBBBを通過する能力が大きく異なり、かつそれらのキャプシド(Cap)遺伝子によって共有される配列相同性(85%)のためである。次いで、36個のキメラキャプシド配列をクローン的に(clonally)単離し、配列決定した。このライブラリーから生成されたバリアントは、DNAおよびアミノ酸レベルにおいて大きな多様性を示した。配列アラインメントによってドメインスワップの領域が明らかになり、次いで、これをAAV1からAAVrh.10へと相同性が増加する順に体系化した(図4A、上から下)。このクローン団を、よりAAV1に類似するか(クレードA)またはよりAAVrh.10に類似するか(クレードE)のいずれかとしてこれらのバリアントを広範に分類する近隣結合樹を構築することによって、系統的にさらに特徴付けした(図4B)。次いで、小規模なベクター生産を使用して相対的力価を確定し、構築またはパッケージングに欠陥のあるキャプシドを研究から除外した。3回対称軸でのキー(key)表面ドメイン/残基を強調表示した、親および代表的なキメラキャプシド三量体の相同性に基づく構造モデルを作成して(図4C)、インビボでの初期スクリーニングのためのキメラキャプシドバリアントのリストをさらに絞り込む。10個のキメラキャプシドバリアントが構造分析に基づいて選択され、そのうち6個が親AAV1およびAAVrh.10ベクターと同様の力価で組換えベクター(パッケージングscGFPまたはssLuc導入遺伝子カセット)を生成した。次いで、これらのバリアントをさらにスクリーニングした。
インビボスクリーニングにより、成体マウスでの静脈内投与後にBBBを通過することができる2つのAAV1/rh.10キメラキャプシドが同定される
次いで、選択されたキャプシドバリアント団が、I.V.投与後にBBBを通過してCNSを形質導入する能力において異なるかどうかを試験した。この戦略は、一般に、最適なキャプシドの選択に適用可能であり、構造および機能の関係性の研究にはあまり適していないため、本発明者らのアプローチは指向性進化(directed evolution)を伴うものではないことに注意することが重要である。尾静脈注射により、6~8週齢のマウスに、マウスあたり5×1011ウイルスゲノム(vg)の用量で、AAV1、AAVrh.10、または自己相補性CBh-GFPレポーターカセットをパッケージングした6つの異なるキメラAAVベクターのうちの1つを注射した。
大脳皮質におけるGFP陽性ニューロンを、マウスあたり複数の冠状脳切片について手動で計数、定量化、および平均化した。AAV1ではn=2、AAV1R6およびAAV1R7ではn=3(図1)。注射の3週間後における冠状脳切片の免疫染色により、形態学的に決定したところ、大脳皮質におけるAAV1形質導入は血管系に限定されたが、AAVrh.10は神経細胞、グリア細胞、および内皮細胞を含む様々な細胞集団の強力な形質導入を示すことが明らかとなった(図2、図5)。GFP+細胞のさらなる形態学的評価により、異なる表現型のキメラバリアントが示されている。AAV1R19.1およびAAV1R20は、皮質では優先的に(predominantly)微小血管内皮細胞を形質導入するが、AAV1R8およびAAV1R19dベクターでは、神経細胞およびグリア細胞の低度から中程度(modest)の形質導入が明らかである(図5)。対照的に、AAV1R6およびAAV1R7は、グリア細胞の中程度の形質導入、およびたとえあったとして少しの皮質内血管系の形質導入とともに、皮質ニューロンの強力な形質導入を示す。高倍率での皮質体性感覚野の代表的な画像が示されている。これらのキメラについての同様の傾向が脳の他の領域にわたって一貫して観察された(図6)。これらの観察は、キメラキャプシドAAV1R6およびAAV1R7が親AAVrh.10ベクターと同様にBBBを通過する能力を有している可能性が高いことを示しているが、その作用機序は不明である。しかしながら、AAV1またはAAVrh.10のいずれの親とも異なり、どちらのキメラも血管系を効率的に形質導入しない。
静脈内送達されたAAV1R6およびAAV1R7キメラキャプシドは、BBBを通過し、脳全体にわたって優先的にニューロンを形質導入する。
次いで、脳の複数の機能的に関連する構造について、これらのバリアントの形質導入プロファイルをさらに特徴付けた。以下で論じる各脳領域のために、GFPについて免疫染色したマウス脳冠状切片から高倍率の代表的な画像を取得し、20倍の倍率の明視野で走査した。さらに、各領域のニューロンおよびグリアの形質導入についての定量的データは、細胞の形態に基づいて、それぞれGFP+神経細胞およびグリア細胞を計数することにより決定された。
大脳皮質。AAVrh.10は、皮質全体にわたって神経細胞、グリア細胞、および血管内皮細胞の強力な形質導入を示し、血管内送達されたAAV1の場合では、神経発現が存在せず、グリアでの低レベルの発現とともに、血管系の形質導入が観察された(図7および図8)。静脈内投されたAAV1R6およびAAV1R7(AAV1R6/7)ベクターは、分析された切片にわたって一貫して傾向的なレベルでの変動があるものの、皮質の扁桃体、梨状、嗅内、側頭連合、聴覚、体性感覚、運動、後頭頂、および脳梁膨大後部(retrosplenial)領域の全体にわたって、皮質ニューロンでの強力なGFP発現およびグリアでの低下した発現を媒介することも観察された。運動皮質(図7A)および皮質の体性感覚領域(図7B)について、形質導入された皮質領域の代表的な画像が示されている。さらに、AAV1R6/7は、皮質全体にわたって優先的に神経細胞トロピズムを示すようであり、中程度のグリア形質導入および顕著に低下した血管系形質導入を示す。このプロファイルは、血管系指向性(vasculotropic)AAV1およびAAVrh.10とは全く対照的であり、該AAVrh.10は、神経細胞、グリア細胞、および血管内皮細胞を高効率で形質導入する(図7Aおよび7B)。AAV1R6/7は、皮質全体にわたって強力な神経発現および中程度のグリア発現を媒介するが、それでもその発現レベルはAAVrh.10によって達成されるレベルよりも低い。これらの傾向は、GFP+細胞の形態学的分析の定量化によって裏付けられており(図8Aおよび8B)、これは、AAVrh.10、AAV1R6、およびAAV1R7ではAAV1に対して皮質形質導入の統計的な有意差があることを示している。注意すべき1つの最後の差異は、皮質を通過するAAVrh.10の形質導入が、皮質層1~3周辺、特に脳梁後部、運動、体性感覚、および視覚皮質領域内の組織の周辺に集中する傾向があることである。これは示差的な免疫染色に起因し得るが、本発明者らの分析では、染色されたAAVrh.10切片にわたって高い一貫性でこの現象が観察された。この傾向は、皮質層にわたってより均一に分散した発現を媒介すると思われるAAV1R6/7には当てはまらない。
海馬。静脈内送達後、キメラAAV1R6/7ベクターは、脳半球の両側に及ぶ海馬全体にわたってニューロンで強力なGFP発現を媒介するようである。GFP+海馬ニューロンがCA1、CA2、およびCA3錐体層内に観察される(図7C、CA2および一部のCA1が示されている)。AAV1R6/7はまた、歯状回内の神経形質導入にも有効であるようであり、形態に基づいて顆粒細胞であるように見える多数のGFP+ニューロンが示されている(図7D)。海馬でのAAV1R6/7によって示される神経形質導入プロファイルは、AAVrh.10で見られるものと似ている。しかしながら、AAVrh.10とは対照的に、AAV1R6/7は、いずれの領域においてもグリア細胞または内皮細胞のいずれについて認識できるレベルで形質導入しないようであり、AAV1とAAV1R6/7との間でGFP+グリア細胞について有意差は観察されなかった(図8Cおよび8D)。海馬で観察されるAAV1の形質導入は、ここでも血管系に限定される。さらに、これらの定性的傾向は、海馬(図8C)および歯状回(図8D)における神経細胞およびグリア細胞の形質導入の定量的データによって裏付けられている。
視床。GFP+ニューロンは、視床では、AAV1R6/7についてはAAVrh.10に匹敵するレベルで検出された(図7E)。さらに、AAV1R6/7は、視床では、AAVrh.10と比較して最低の内皮形質導入および大幅に低下したグリア形質導入レベルを示す。これらの傾向は、視床の神経形質導入が、AAVrh.10、AAV1R6およびAAV1R7では、AAV1に対して有意に異なることが見出された定量的データ(図8E)によってさらに裏付けられている。反対に、視床のグリア形質導入について、AAV1R6/7では、AAV1に対して有意な差は見出されなった。
視床下部。いくらかの変動はあるが、親ベクターおよびキメラベクターでは、全身投与された場合に、視床下部内では細胞種に関係なく一貫して低いレベルのGFP発現が観察された(図7F)。AAVrh.10では、視床下部での神経形質導入レベルについて変動が観察され、マウス毎でGFP+ニューロンが多数であったり少数であったりすることが明らかになった。この形質導入プロファイルは、定量的データにおけるAAVrh.10形質導入について示された偏差によって示されている(図8F)。AAV1は、血管系に限定された中程度の視床下部形質導入を示す。AAV1R6/7ベクターは、視床下部では少数のGFP+神経細胞およびグリア細胞、ならびに少数のGFP+内皮細胞を示す(図7Fおよび図8F)。
線条体。AAV1R6/7は、線条体(特に、尾状核被殻)ではニューロンをAAVrh.10と同じくらい効率的に形質導入し(図7G)、このことは、それぞれについてのAAV1に対する有意差を示す定量的データによってさらに裏付けられている。しかしながら、これらのベクターは、いくらかの変動は観察されるが、線条体では約2倍少ないグリア細胞および少数の内皮細胞を形質導入する(図8G)。
扁桃体。AAV1R6/7についての扁桃体形質導入プロファイルは、AAV1と比較して有意な差がある強力なGFPの神経発現を示す。線条体および視床などの他の脳領域と同様に、GFP+グリア細胞はほんのわずかしか検出されず、これはAAV1に対して有意な差はなく(図7Hおよび図8H)、ほとんど検出不可能なGFP+内皮細胞が観察された。
総合すると、AAV1R6およびAAV1R7の静脈内送達後のマウスに由来する免疫染色脳領域の形態学的評価は、親のAAVrh.10に匹敵する強力かつ選択的な神経形質導入を示している。さらに、これらのキメラは、低下したグリア形質導入を示し、脳微小血管系の内皮細胞を形質導入する能力は低減していると思われる。さらに、これらの結果は、概して低い形質導入レベルが観察される視床下部を除き、様々な脳領域にわたって一貫していると思われる。
AAV1R6およびAAV1R7は、親の心臓形質導入プロファイルを保持しながら肝臓から脱標的化される
心臓および肝臓切片を免疫染色することにより、親血清型と比較したこれらのバリアントの相対的な心臓および肝臓形質導入を分析した。6~8週齢の雌BL6マウスに、緑色蛍光タンパク質(GFP)コード配列に結合したハイブリッドニワトリβアクチンプロモーター(CBh)(CBh-scGFP)をパッケージングしたベクター(AAV1、AAV1R6、またはAAV1R7のいずれか)を5×1011vgの用量で、または陰性対照としてのPBSを、尾静脈内注射により全身投与した。注射の21日後にマウスを犠牲死させ、組織を採取し、固定し、切片化した。顕微鏡を使用して、GFPレポーター形質導入を視覚化した。ImageJソフトウェアを使用して、マウスあたり複数の画像について相対的蛍光を平均化することにより、GFP発現を定量化した。模擬ではn=1、AAV1ではn=2、AAV1R6およびAAV1R7ではn=3。
図10に示すように、両方のキメラベクターは、親血清型であるAAV1およびAAVrh.10と比較して匹敵するレベルの心臓でのGFP発現を示し、AAVrh.10、AAV1R6、またはAAV1R7ではAAV1に対して有意差は見られなかった。しかしながら、心臓組織でのAAVrh.10発現レベルは、マウス毎に実質的な変動を示した(図10Aおよび10B)。肝臓では、AAV1は中程度の形質導入レベルを示したが、AAVrh.10は非常に良好に機能し、対数倍の高い形質導入を示した。対照的に、AAV1R6およびAAV1R7は、肝臓では、AAVrh.10と比較して有意に低い、模擬処置マウス(図10B)に匹敵するバックグラウンドレベルの無視できるほどのGFP発現しか媒介しなかった。したがって、AAV1R6およびAAV1R7は、親の血清型と比較して肝臓脱標的化されると結論付けられる。
個別に、CBAルシフェラーゼ導入遺伝子を作成するためにルシフェラーゼコード配列に結合させたニワトリβアクチン(CBA)プロモーターをパッケージングしたAAVベクターを、1×1011vgの用量で、C57/B16マウスに尾静脈注射により投与した。注射の14日後にマウスを犠牲死させ、組織を採取し、細かく切り、溶解し、ルシフェラーゼアッセイを行って脳、心臓、肝臓、および脊髄組織での相対的形質導入レベルを検出した。データをグラム組織あたりの相対発光量として正規化した。脳では、AAV1R6、AAV1R7、およびAAV1RXは、AAVrh.10ほど高くはないものの、高い形質導入レベルを示す(図3)。キメラキャプシドは、心臓では、親AAV1およびAAVrh.10キャプシドに匹敵する形質導入レベルをさらに示す。脊髄では、キメラの形質導入レベルは両親の中間であるように見える。驚くべきことに、このデータは、AAV1R6、AAV1R7、およびAAV1RXはすべて、肝臓脱標的化されることをさらに示している。N=3。
AAV1R6キメラキャプシドの構造分析により、BBBの通過を可能にし得るAVVrh.10由来の3つの潜在的なドメインが同定される
配列分析により、AAV1R6は、AAVrh.10に由来する18個の固有のアミノ酸残基を有するAAV1と97~98%同一であることが明らかになった。AAV1R7もAAV1とほぼ同一であるが、AAV1R6に存在する18個を含む合計22個のAAVrh.10由来の残基を有する。AAV1R7に固有の4個の追加の残基のうち、2個はVP1固有(VPlu)N末端領域(189I、206A)内に位置し、他の2つは埋没したVP3N末端領域(224Sおよび225S)に位置する。これらの残基はキャプシド表面に露出しておらず、インビボデータにより、AAV1R6およびAAV1R7によって示される形質導入プロファイルが同等であることが示唆されているので(図7および8)、AAV1R7を残りの分析から除外し、AAV1R6のみに注目した。
AAV1R6は、AAVrh.10親株に由来する非連続残基の3つのストレッチを有する。残基の第1群(群i)は、VPlu領域内に3個のアミノ酸(148P、152R、および153S)を含む(図9A)。具体的には、1個の残基が、VP1の第1の核局在化シグナル(NLS)を含む基本領域1(BR1)に隣接して位置している。さらに、群iは、VP2N末端領域内に位置するNLSの近くにも2個の残基(158Tおよび163K)を含む(図9A)。前述したように、これらの残基は表面に露出しておらず、代わりに細胞内輸送経路において後々までキャプシド内に内在化したままである。
AAV1R6上のAAVrh.10由来の残基の第2群(群ii)は、可変領域I(VR-1)内に位置するBCループを含む8個のアミノ酸からなる(図9Aおよび9B)。これらの残基は、3回対称軸での突起の基部でキャプシドの表面に露出しており(図9Dおよび図9F)、2回対称軸での凹陥部にも位置している(図9Cおよび図9F)。AAVrh.10のこの群のアミノ酸残基が、全身投与後にCNSに浸透することができないキメラAAV1R8/19/20キャプシドではAAV1残基で置換されていることに留意することも重要である。
AAV1R6に存在するAAVrh.10由来の残基の第3群(群iii)には、合計6個のアミノ酸が含まれる。これらの残基のうちの4個(328Q、330E、332T、および333K)は、5回対称軸での細孔の形成に寄与する、DEループ内のVR-IIに位置する(図9A、9B、9E、9F)。この群内の最後の2個の残りの残基(343Iおよび347T)は、キャプシドの内部に位置するβ鎖E内に位置する(図9Aおよび9B)。これらの残基は、AAV1およびAAVrh.10間で異なるが、異なるAAV血清型にわたって比較的保存されていることに留意すべきである。
BBBを通過するためのAAVrh.10由来の最小フットプリントを有するキメラキャプシドであるAAV1RXの合理的な設計
合理的なアプローチを用いて、BBBを通過してCNSトロピズムを付与することを可能とする1R6フットプリント中の最小数のAAVrh.10由来アミノ酸残基を絞り込んだ。キャプシド表面に露出していない任意のアミノ酸を最初に除外し、これによりキャプシド配列のVP1/2N末端領域内に位置する残基のストレッチ(148P、152R、153S、158T、および163K)を除外した。同じ原理を用いて、保存されたβ鎖E内の残基(343Iおよび347T)、およびβ鎖DおよびEを接続している細孔形成ループであるVR-II内の残基(328Q、330E、332T、および333K)も除外した。このアプローチにより、AAV1R6上のβ鎖BおよびCを架橋するループであるVR-I内に見出される8個のアミノ酸(263N、264G、265T、266S、268G(AAV1配列に対する挿入)、269S、270T、および274T)を含むフットプリントをさらなる評価のために選択した(図11Aおよび11B)。これらの表面に露出した残基は、2回対称軸での凹陥部の近く(図11Cおよび11F)および3回突起の基部(図11Dおよび11F)に位置している。3回対称軸での表面に露出した残基のステレオロードマップ投影は、キャプシド表面における周囲のアミノ酸に関してこれらの8個の残基のトポロジカルな配向を強調表示している(図11G)。前述のように、全身投与後に脳実質を横断することができないAAV1R8/19/20バリアントにはこれらのアミノ酸が存在しないことも考慮に入れた。
次いで、AAVrh.10由来の8個のアミノ酸残基をAAV1血清型に接合することによりキメラキャプシドを設計し、AAV1RXと命名した。6~8週齢の雌C57/B16マウスに、AAV1RX-CBh-scGFPベクターをマウスあたり5×1011vgの用量で尾静脈注射により投与した。脳内のGFPレポーター発現を注射の21日後に免疫染色により評価した。図11Hに見られるように、AAV1RXは、キメラキャプシドAAV1R6およびAAV1R7について先に見られたように、運動皮質内のニューロンおよび皮質全体にわたる皮質ニューロンを形質導入するが、グリアの限定的な形質導入および低下した血管系形質導入を示す。この傾向は続き、歯状回での豊富なGFP+顆粒細胞とともに、多数のGFP+錐体ニューロンが海馬で観察される。注目すべきことに、これらの領域にはGFP+グリアおよび内皮細胞はほとんど存在しない。視床では、AAV1RXは、他の脳領域よりも高いレベルではあるがグリア細胞および内皮細胞の中程度の形質導入とともに、AAV1R6およびAAV1R7に匹敵するレベルの強力な神経形質導入を示す。視床下部では、GFP+ニューロンは少しであり、GFP+グリア細胞および血管内皮細胞はほんのわずかしか観察されない。最後に、AAV1RXによって示される優先的な神経形質導入プロファイルは、線条体(特に、尾状核被殻)および扁桃体でも見られる(図11H)。これらの脳領域の定量分析、ならびにAAV1、AAVrh.10、およびキメラAAV1R6およびAAV1R7ベクターで見られるものとの比較により、AAVrh.10由来の8個のアミノ酸残基のこの最小フットプリントがBBBを通過するのに重要であることが示唆される(図13)。
AAV1R6、AAV1R7、およびAAV1RXは、末梢組織において低い形質導入レベルおよび生体内分布を媒介する
異なるキメラキャプシドと親血清型との比較分析を行うために、6~8週齢の雌C57/B16マウスに、ニワトリβアクチンプロモーターによって駆動される一本鎖ルシフェラーゼレポーター導入遺伝子(ssCBA-Luc)をパッケージングしたAAV1、AAVrh.10、AAV1R6、AAV1R7、またはAAV1RXベクターのいずれかを、動物あたり1×1011vgの用量で尾静脈を介して注射した。注射の2週間後にマウスを犠牲死させ、組織を採取した。組織溶解物についてルシフェラーゼ活性アッセイおよびベクター生体内分布を決定するためのqPCR分析を行った(図12)。3つのキメラベクターはすべて、より高いルシフェラーゼ導入遺伝子発現を媒介し、それぞれにおいて、AAV1と比較してウイルスゲノムコピーの対応した増加が脳内で観察される(図12Aおよび12B)。しかしながら、それらの導入遺伝子発現レベルおよびウイルスゲノムコピー数は、AAVrh.10と比較して脳内で約2~3倍低く、AAV1RX生体分布を除いてすべて統計的に有意であることが見出された(図12Aおよび12B)。同様の形質導入レベルおよびウイルスゲノムコピー数が、心臓でのAAV1R6、AAV1R7、およびAAV1RXについても観察され、AAV1RXについて観察される心臓形質導入レベルにおいていくらかの変動があるものの、AAV1で見られるものに匹敵した(図12Cおよび12D)。AAVrh.10は、心臓では、他のベクターと比較して約2~4倍高い心臓ルシフェラーゼ発現およびそれに対応して約2倍高いウイルスゲノムコピーを媒介する(図12Cおよび12D)。他の群で示されているように、AAVrh.10は、肝臓では、数倍高いルシフェラーゼ導入遺伝子発現レベルおよび一貫して高いウイルスゲノムコピーを示した。対照的に、AAV1、AAV1R6、AAV1R7、およびAAV1RXについては、低レベルからバックグラウンドレベルのルシフェラーゼ発現および有意に低下したウイルスゲノムコピーが肝臓で検出された(図12Eおよび12F)。ルシフェラーゼ発現およびウイルスゲノムコピー数の対応する傾向がAAVrh.10について腎臓で検出されたことに言及することは注目に値する(図12Gおよび12H)。3つのキメラベクターは同様のウイルスゲノムコピー数レベルを示したが、腎臓でのルシフェラーゼ発現は存在しなかった。総合すると、これらのデータは、キメラAAV1R6、AAV1R7、およびAAV1RXベクターが肝臓から脱標的化され、腎臓によって血液循環から除去され得ることを示唆していると思われる。
静脈内投与後、BBBを通過してCNSを効率的に形質導入することができるキメラキャプシドのサブセットを同定した。BBBを通過する能力は、細胞培養中での感染性およびノイラミニダーゼに対する感受性と逆相関することが見出された。構造モデリングおよびロードマップ分析は、脳の血管系を通過する輸送および広範な神経形質導入を可能にするAAVrh.10の残基のいくつかのキーとなる集団を同定するのにさらに役立つ。その後、合理的な変異導入(mutagenesis)アプローチにより、このフットプリントのサイズをさらに絞り込むことができ、次いでこれをインビボで機能的に検証した。結論として、AAVrh.10由来の最小フットプリントが同定され、これが他のAAV株に移植されると、BBBを通過する輸送が可能になり、AAVrh.10と比較してより標的化されたCNS形質導入プロファイルが可能になる。さらに、得られたキャプシドは、脳の血管、肝臓、および他の末梢組織から脱標的化される。この新しい神経指向性フットプリントの機能マッピングは、安全性プロファイルが改善された効率的なCNS遺伝子導入のための合成AAVキャプシドを設計するためのロードマップを提供する。
本研究においてキメラキャプシドライブラリーを作成するために使用される親血清型であるAAV1およびAAVrh.10は、両方とも、2つの異なるクレードに属する非ヒト霊長類分離株であり、AAV1はクレードAに属する一方、AAVrh.10はクレードEに属する。それらの間の進化的距離にもかかわらず、それらはCap遺伝子間で約85%の配列相同性を有する。AAV1はN結合シアル酸(Sia)を認識することが既知であり、AAV1キャプシドのSia認識フットプリントを構成するキー残基が最近報告された。本研究では、AAVrh.10に由来するキメラAAV1RXキャプシド上のキー残基として262N、263G、264T、265S、267G、268S、269T、および273Tが同定され、これらはBBBを通過するために不可欠である。AAV1のSia接触残基はどれもキメラ1RXフットプリント内に位置していないが、残基S268、D271、およびN272の骨格カルボニル酸素原子がおそらくキャプシド-グリカン相互作用の安定化およびSia結合親和性の増加に関与している。さらに、この位置の残基(D271およびN272)は、AAV9のガラクトース結合フットプリント内に位置する。したがって、本研究は、VR-I内の残基が重要であるという見解を支持している。
天然AAV分離株のVP3配列のアラインメントにより、CNS表現型をAAV1RXに付与する8個のアミノ酸残基が、クレードE内の他の神経指向性キャプシドであるAAVrh.8およびAAVrh.39で保存されていることが明らかとされている(図14)。同様に、同じくクレードE内にあるAAV8およびAAVrh.43は、はるかに効率的ではないがBBBを通過する能力を示している。両方とも、このフットプリントの8個の残基のうちの7個を有している。したがって、これらのキャプシドに完全なフットプリントを導入すると、BBBを通過する能力が増強される可能性が高い。
表現型の上では、AAV1およびAAVrh.10は、BBBを通過して脳でのニューロンおよびグリアを形質導入する能力において著しく異なる。静脈内送達したときに、AAV1は、血管内皮細胞での優先的な取り込みおよび形質導入を示す。対照的に、AAVrh.10は、血管内皮細胞に取り込まれ、これを形質導入するだけでなく、血管系を横断し、CNSまたは骨格筋などの下層組織を形質導入すると思われる。本研究では、これらの特性をAAV1キャプシドに部分的に付与するAAVrh.10キャプシド上の残基の最小セットを同定している。AAV1RXキメラでのこの最小フットプリントは、BBBの横断およびニューロンの形質導入に不可欠であると思われるが、肝臓などの末梢組織での形質導入は著しく低下する一方で、心臓での発現はAAV1のものと同様のままである。これらの違いは、AAVrh.10キャプシド上の他の構造ドメインが全身の形質導入プロファイルの付与において役割を果たし得ることを示唆している。脳実質に関して、CNS進入後では、AAV1RXの進入後形質導入プロファイルは、神経形質導入が優先され、AAVrh.10と比較してグリア形質導入が低下することに留意することが重要である。これは、キャプシドの大部分が、側脳室内注入後に優先的に神経形質導入を媒介することが既知であるAAV1に由来するという事実に起因し得る可能性が高い。1RXがBBBを通過する未知の作用機序によって、優先的なニューロン取り込みが媒介されるか、またはAAVrh.10キャプシド上のさらなるモチーフ/アミノ酸残基によって、グリア形質導入での進入後ステップが媒介され得る可能性もある。
臨床的観点から、BBBを横断し、脳内でニューロンを優先的に形質導入することができ、同時に肝臓から脱標的化されるキャプシドは、全身投与経路からのCNS標的遺伝子導入用途のための改善された安全性プロファイルを示し得る。末梢器官、特に肝臓でのベクターの取り込みの減少は、特定のAAV血清型を全身注射した後の患者血清中のトランスアミナーゼの一時的な上昇によって明らかとなるような、肝毒性の潜在的な脅威を低減し得る。
AAV1R6/7/Xベクターは、広範囲のCNS遺伝子導入、特に、フリードライヒ運動失調症または脊髄性筋萎縮症などの神経学的障害を処置するための遺伝子治療戦略の開発に広く使用され得る。
参考文献
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