以下、本発明を、好ましい実施形態を用いて詳細に説明する。
一態様において、本発明は、以下の(a)~(d)のいずれかの遺伝子が不活性化された宿主細胞:
(a)配列番号34に示す塩基配列を含む遺伝子、
(b)配列番号34に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列を含む遺伝子、
(c)配列番号34に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む遺伝子、
(d)配列番号33に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子、に関する。
本発明において、2つの核酸がストリンジェントな条件下でハイブリダイズするとは、例えば以下の意味である。例えば、核酸Xを固定化したフィルターを用いて、0.7~1.0MのNaCl存在下、65℃で配列同一性が85%以上の核酸Yとハイブリダイゼーションを行った後、2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウムよりなる)を用い、65℃の条件下でフィルターを洗浄することにより、核酸Yがフィルター上に結合した核酸として取得できる場合に、核酸Yを「核酸Xとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸」と言うことができる。或いは核酸Xと核酸Yとが「ストリンジェントな条件下で相互にハイブリダイズする」ということができる。SSC溶液の濃度を下げるほど、高い配列同一性を有する核酸がハイブリダイズすることが期待できることから、核酸Yは好ましくは65℃で1倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは65℃で0.5倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは65℃で0.2倍濃度のSSC溶液で洗浄、更に好ましくは65℃で0.1倍濃度のSSC溶液で前記フィルターを洗浄することによりフィルター上に結合した核酸として取得できる核酸である。また、温度を上げるほど高い配列同一性を有する核酸がハイブリダイズすることが期待できることから、核酸Yは好ましくは70℃で2倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは75℃で2倍濃度のSSC溶液で洗浄、より好ましくは80℃で2倍濃度のSSC溶液で洗浄、更に好ましくは85℃で2倍濃度のSSC溶液で前記フィルターを洗浄することによりフィルター上に結合した核酸として取得できる核酸である。基準となる核酸Xは、コロニー又はプラーク由来の核酸Xであってよい。
本発明において塩基配列やアミノ酸配列の配列同一性は、当業者に周知の方法、配列解析ソフトウェア等を使用して求めることができる。例えば、BLASTアルゴリズムのblastnプログラムやblastpプログラム、FASTAアルゴリズムのfastaプログラムが挙げられる。本発明において、ある評価対象塩基配列の、塩基配列Xとの「配列同一性」とは、塩基配列Xと評価対象塩基配列とを整列(アラインメント)させ、必要に応じてギャップを導入して、両者の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、ギャップ部分も含んだ塩基配列において同一部位に同一の塩基が出現する頻度を%で表示した値である。本発明において、ある評価対象アミノ酸配列の、アミノ酸配列Xとの「配列同一性」とは、アミノ酸配列Xと評価対象アミノ酸配列とを整列(アラインメント)させ、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、ギャップ部分も含んだアミノ酸配列において同一部位に同一のアミノ酸が出現する頻度を%で表示した値である。
前記遺伝子の塩基配列と配列番号34に示す塩基配列との配列同一性は、85%以上であり、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらにより好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上、又は99%以上が最も好ましい。
本発明において「核酸」とは、「ポリヌクレオチド」と呼ぶこともでき、DNA又はRNAを指し、典型的にはDNAを指す。
本明細書において「遺伝子」とは、宿主細胞が有する核酸のうちDNAのみならずそのmRNA及びcDNAも包含するが、典型的にはDNAであることができ、特にゲノムDNAであることができる。「遺伝子」は、機能領域の別を問うものではなく、例えば、エキソンのみ含むのであってもよいし、エキソン及びイントロンを含むものであってもよい。
前記(a)における「配列番号34に示す塩基配列」、前記(b)における「配列番号34に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列」、前記(c)における「配列番号34に示す塩基配列と85%以上の配列同一性を有する塩基配列」が、それぞれ、複数のエキソンが接続されて形成された塩基配列(例えばcDNA塩基配列)である場合には、前記(a)の遺伝子、前記(b)の遺伝子、前記(c)の遺伝子は、それぞれ、前記塩基配列に1以上のイントロンの塩基配列が更に挿入及び/又は付加された塩基配列を含むDNA又はRNAであってもよい。
本明細書においてDNA及びRNAは2本鎖であっても1本鎖であってもよい。所定の塩基配列を有する遺伝子、DNA、RNA、ポリヌクレオチド又は核酸といった場合、特に言及しない限り、前記所定の塩基配列と相補的な塩基配列を有する遺伝子、DNA、RNA、ポリヌクレオチド又は核酸も包含される。さらに、遺伝子、ポリヌクレオチド又は核酸がRNAである場合、配列表に示される塩基記号「T」は「U」と読み替えられるものとする。
本発明において「アミノ酸配列をコードする塩基配列」とは、アミノ酸配列からなるポリペプチドに対してコドン表に基づいて設計された塩基配列を指し、該塩基配列は、転写及び翻訳によってポリペプチドの生成をもたらす。
本発明において、「ポリペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合したものを指し、タンパク質の他、ペプチドやオリゴペプチドと呼ばれる鎖長の短いものが含まれる。
本発明において「不活性化」とは、遺伝子の機能が失われている状態、または機能が減少している状態を指し、当該遺伝子の転写産物であるmRNAや翻訳産物であるポリペプチドの発現量が低下している状態やmRNAやタンパク質として正常に機能しない状態も包含する。なお、mRNAの発現量はリアルタイムPCR法、RNA-Seq法、ノーザンハイブリダイゼーション又はDNAアレイを利用したハイブリダイゼーション法等を用いて定量することができ、ポリペプチドの発現量は、ポリペプチドを認識する抗体やポリペプチドと結合性を有する染色化合物等を用いて定量することができる。また、上記に挙げた定量方法以外にも、当業者で用いられている従来法であってもよい。
遺伝子を不活性化させる手段としては、薬剤や紫外線を用いたDNA変異処理、PCRを用いた部分特異的変異導入、RNAi、プロテアーゼ、相同組み換え等を利用することができる。遺伝子を不活性化させる場合は、当該遺伝子のORF内の塩基配列の改変(欠失、置換、付加、挿入)、及び/又はプロモーター領域、エンハンサー領域、ターミネーター領域などの転写開始または停止を制御する領域内の塩基配列の改変(欠失、置換、付加、挿入)により行う。なお、前記欠失、置換、付加、挿入を行う部位や、欠失、置換、付加、挿入される塩基配列は、当該遺伝子の正常な機能が欠損し得る限り、特に限定されない。不活性化させる遺伝子は、宿主細胞の染色体上の遺伝子であってもよく、宿主細胞の染色体外の遺伝子であってもよい。このうち、染色体上の遺伝子を不活性化させることが好ましい。
本発明における「塩基配列の改変」とは、相同組換えを利用した遺伝子の挿入や部位特異的変異導入の手法を使用して実施することができる。例えば、遺伝子上流プロモーターのより活性の低いプロモーターへの置換や、宿主細胞に適していないコドンへの改変等、また、欠失させたい遺伝子の上流配列、選択マーカー遺伝子配列及び欠失させたい遺伝子の下流配列を連結させたベクターの導入などが挙げられる。ここで、「欠失させたい遺伝子の上流配列」とは、例えば、宿主細胞の染色体ゲノムDNAにおいて、欠失させたい遺伝子よりも上流側に位置する塩基配列を指し、「欠失させたい遺伝子の下流配列」とは、例えば、宿主細胞の染色体ゲノムDNAにおいて、欠失させたい遺伝子よりも下流側に位置する塩基配列を指す。
本発明における不活性化による発現量低下の度合は、目的タンパク質の生産性が向上すれば特に限定されないが、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上低下していることが好ましい。なお、発現量が低下していなくとも、上述のとおり、遺伝子産物の正常な機能が欠損し得る限り、不活性化することができることは、当業者であれば周知であるから、発現量の低下の度合は、あくまで不活性化の判断基準の1つにすぎない。
本明細書において、「宿主細胞」とは、ベクターが導入され形質転換される細胞をいい、「宿主」又は「形質転換体」と呼ばれる。本明細書では形質転換前及び後の宿主細胞を単に「細胞」と呼ぶ場合がある。宿主として用いる細胞はベクターを導入することの出来る細胞であれば特に限定されない。
「配列番号34に示す塩基配列を含む遺伝子」は、コマガタエラ・パストリスの4本の染色体DNAの塩基配列(ATCC76273株:ACCESSION No. FR839628~FR839631(J. Biotechnol. 154 (4), 312-320 (2011)、及びGS115株:ACCESSION No. FN392319~FN392322(Nat. Biotechnol. 27 (6), 561-566 (2009)))の網羅的解析により見出された。具体的には、本発明者は、不活性化によってメタノール資化の低下を引き起こすポリペプチド、及びそのアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを探索した。その結果、ATCC76273株において配列番号33で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA41122)で示されるポリペプチド、及び該ポリペプチドをコードする配列番号34で示される塩基配列を含むポリヌクレオチドを見出した。後述する実施例において、本発明者らは上記の塩基配列からなる遺伝子を不活性化させるベクターを宿主に導入し、メタノール資化の低下及び目的タンパク質の生産性が向上することを確認している。
本明細書において、宿主細胞からのタンパク質の生産量の増加は、親細胞又は野生型株におけるタンパク質の生産量に対して、例えば1.01倍、1.02倍、1.03倍、1.04倍、1.05倍、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、2.5倍、3倍、3.5倍、4倍、4.5倍、又は5倍以上、また100倍、90倍、80倍、70倍、60倍、50倍、40倍、30倍、20倍、10倍、9倍、8倍、7倍、6倍、又は5倍以下であればよい。タンパク質を分泌生産する場合、細胞からの全タンパク質の分泌生産量は、細胞の培養上清等を用いて、当業者に公知の方法、例えばBladford法、Lowry法、及びBCA法等により容易に決定することができる。細胞からの特定のタンパク質の分泌生産量は、細胞の培養上清等を用いて、ELISA法等により容易に決定することができる。
本明細書において、「親細胞」、又は「野生型株」とは、上記(a)~(d)のいずれかに示す塩基配列を含む遺伝子の発現を変化させるような処理を施していない宿主細胞又は株を意味する。したがって、本明細書に記載の「親細胞」、又は「野生型株」には、上記(a)~(d)のいずれかに示す塩基配列以外を改変した宿主細胞又は株も含まれる。
配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子を不活性化する例として、後述する実施例のように配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子の上流に位置するプロモーターの97bpと100%の配列同一性を有する塩基配列(例えば、配列番号31の1~97番目の塩基配列)及び、配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子の下流に位置するターミネーターの相補配列98bpと100%の配列同一性を有する塩基配列(例えば、配列番号32の1~98番目の塩基配列)をそれぞれプライマー19及び20の内部配列として用いてPCR産物を調製し、該PCR産物をベクターとしてコマガタエラ属酵母に形質転換する方法が挙げられる。
「配列番号33に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする遺伝子」とは、配列番号33に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドに基づきコドン表を参照して設計される塩基配列からなる遺伝子のことを指し、例えば、配列番号34に示す遺伝子が挙げられる。そして、当該遺伝子を不活性化させることで、メタノール資化の低下及び目的タンパク質の生産量の向上を達成することができる。前記配列同一性は、85%以上であり、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、96%以上がさらにより好ましく、97%以上が特に好ましく、98%以上、又は99%以上が最も好ましい。
本発明の宿主細胞は、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列のいずれかを少なくとも1つ含有するベクターを形質転換することにより得られることが好ましい。
本発明では、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列のいずれかを少なくとも1つ含有するベクターで親細胞を形質転換することで、宿主細胞の染色体上における前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子を不活性化させることができる。また、ベクターは、各々の相同領域を有する塩基配列をすべて組み込んだベクターを用いても良いし、各々の相同領域を有する塩基配列を、それぞれ1つずつ組み込んだベクターを用いても良い。
本発明の1以上の実施形態では、前記「各々の相同領域を有する塩基配列をすべて組み込んだベクター」として、1つのベクター中に、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列の全てを含むベクターを用いることができる。
本発明の他の1以上の実施形態では、前記「各々の相同領域を有する塩基配列を、それぞれ1つずつ組み込んだベクター」として、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と相同領域を有する塩基配列を含む第1のベクターと、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列を含む第2のベクターと、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列を含む第3のベクターとを、組み合わせて用いることができる。この場合、宿主細胞の形質転換時に、第1~第3のベクターを、同時に導入してもよいし、逐次的に導入してもよい。
本発明のベクターは環状ベクター、直鎖状ベクター、プラスミド、人工染色体等であることができる。
本発明においてベクターとは人為的に構築された核酸分子である。本発明のベクターを構成する核酸分子は、通常DNA、好ましくは二本鎖DNAであり、環状であっても、直鎖状であってもよい。本発明のベクターは、通常は、所定の塩基配列(上述した前記(a)~(d)のいずれかの塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列、或いは、これらの塩基配列のうち複数が連結(適当な長さの他の塩基配列を介して連結する場合を含む)した塩基配列)に加えて、1つ以上の制限酵素認識部位を含むクローニングサイト、Clontech社のIn-FusionクローニングシステムやNew England Biolabs社のGibson Assemblyシステム等を利用するためのオーバーラップ領域、内在性遺伝子の塩基配列、目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列、選択マーカー遺伝子(栄養要求性相補遺伝子、薬剤耐性遺伝子など)の塩基配列等を含むことができる。直鎖状ベクターの例としては、URA3遺伝子、LEU2遺伝子、ADE1遺伝子、HIS4遺伝子、ARG4遺伝子等の栄養要求性相補遺伝子やG418耐性遺伝子、Zeocin(商標)耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、Clone NAT耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子等の薬剤耐性遺伝子の塩基配列を有するPCR産物、または環状ベクターやプラスミドを適当な制限酵素によって切断し、直鎖状としたものなどが挙げられる。プラスミドの例としては、YEpベクター、YRpベクター、YCpベクター、pPICHOLI(http://www.mobitec.com/cms/products/bio/04_vector_sys/p_picholi_shuttle_vector.html)、pHIP(Journal of General Microbioiogy (1992), 138, 2405-2416. Chromosomal targeting of replicating plasmids in the yeast Hansenula polymorpha)、pHRP(pHIPについて挙げた前記文献参照)、pHARS(Molecular and General Genetics MGG February 1986, Volume 202, Issue 2, pp 302-308, Transformation of the methylotrophic yeast Hansenula polymorpha by autonomous replication and integration vectors)、大腸菌由来プラスミドベクター(pUC18、pUC19、pBR322、pBluescript、pQE)、枯草菌由来プラスミドベクター(pHY300PLK、pMTLBS72)等を使用することができる。人工染色体の例としては、一般に、セントロメアDNA配列、テロメアDNA配列、自律複製配列(ARS)を含む人工染色体ベクターを指し、酵母であれば酵母人工染色体(YACベクター)などが挙げられ、Saccharomyces cerevisiaeやSchizosaccharomyces pombeなどにおいて開発されている。コマガタエラ・パストリスにおいては国際公開第2016/088824号に記載されているセントロメアDNA配列を用いることによって人工染色体を構築することができる。
本発明のベクターは、典型的には、宿主細胞のゲノムDNAにおける、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーター、及び、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターを含む領域のうち、一部分の塩基配列を第1塩基配列とし、前記領域のうち、第1塩基配列よりも下流側に位置する一部分の塩基配列を第2塩基配列としたとき、第1塩基配列と相同な第1相同領域を上流側に含み、第2塩基配列と相同な第2相同領域を下流側に含む塩基配列を含む直鎖状ベクターが例示できる。この直鎖状ベクターでは第1相同領域と第2相同領域との間に、上記で挙げたような、内在性遺伝子の塩基配列、目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列、選択マーカー遺伝子の塩基配列等の1以上の塩基配列が存在していることが好ましい。第1塩基配列は、好ましくは、宿主細胞のゲノムDNAにおける前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターの少なくとも一部分の塩基配列であり、例えば、宿主細胞がコマガタエラ・パストリスである場合には配列番号31の1~97番目の塩基配列であることができる。第2塩基配列は、好ましくは、宿主細胞のゲノムDNAにおける前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターの少なくとも一部分の塩基配列であり、例えば、宿主細胞がコマガタエラ・パストリスである場合には配列番号32の1~98番目の塩基配列であることができる。
本発明において「形質転換」とは、上記ベクターを細胞に導入することを指す。ベクターを宿主細胞へ導入する方法、すなわち形質転換法は公知の方法を適宜用いることができ、例えば宿主として酵母細胞を用いる場合、エレクトロポレーション法、酢酸リチウム法、スフェロプラスト法等が挙げられるが特にこれらに限定されるものではない。例えば、コマガタエラ・パストリスの形質転換法としては、High efficiency transformation by electroporation of Pichia pastoris pretreated with lithiumacetate and dithiothreitol(Biotechniques. 2004 Jan;36(1):152-4.)に記載されているエレクトロポレーション法が一般的である。
本発明において、ベクターをコマガタエラ属酵母に形質転換する場合、栄養要求性相補遺伝子または薬剤耐性遺伝子などの選択マーカー遺伝子を用いることが好ましい。選択マーカーは特に限定されないが、コマガタエラ属酵母であれば、URA3遺伝子、LEU2遺伝子、ADE1遺伝子、HIS4遺伝子、ARG4遺伝子などの栄養要求性相補遺伝子であれば、それぞれウラシル、ロイシン、アデニン、ヒスチジン、アルギニンの栄養要求性株において原栄養株表現型の回復により形質転換体を選択することができる。また、G418耐性遺伝子、Zeocin(商標)耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、Clone NAT耐性遺伝子、ブラストサイジンS耐性遺伝子などの薬剤耐性遺伝子であれば、それぞれG418、Zeocin(商標)、ハイグロマイシン、Clone NAT、ブラストサイジンSを含む培地上における耐性により形質転換体を選択することができる。なお、酵母宿主を作製するときに用いる栄養要求性選択マーカーは、宿主において該選択マーカーが破壊されていない場合は、用いることができない。この場合、宿主において該選択マーカーを破壊すればよく、方法は当業者には公知の方法を用いることができる。
本発明において、ベクターを染色体に組み込む場合、本実施例のように染色体の相同領域を複数含むDNAとして作製することが好ましい。染色体上へのベクターの組み込みの方法は、相同領域を利用しない非特異的な組み込みでもよいし、1箇所の相同領域を利用した組み込みでもよいし、2箇所の相同領域を利用したダブルクロスオーバー型の組み込みでもよい。
本発明において、相同領域を利用した組み込みの場合、例えば本実施例のように、選択マーカー遺伝子配列の両末端に相同領域が位置するように配置されたベクターを利用して形質転換を行うことが出来る。例えば、遺伝子欠失させたい場合、選択マーカー遺伝子の上流に欠失させたい遺伝子のプロモーターとの相補領域を含む塩基配列、下流には欠失させたい遺伝子のターミネーターとの相補領域を含む塩基配列を連結させたベクターを利用して組み込むことが出来る。
本発明において、染色体あたりのベクターのコピー数は特に限定されない。また、染色体上にベクターが組み込まれている位置は、本発明の遺伝子が不活性化されている限り、特に限定されない。なお、2コピー以上のベクターが組み込まれている形質転換体の組み込み位置については、同じ位置に複数が組み込まれている状態でもよいし、異なる位置に1コピーずつ組み込まれている状態でもよい。
本発明の「相同領域を有する塩基配列」とは、目的とする塩基配列の少なくとも一部の塩基配列を有し、50%以上の配列同一性を有する塩基配列であればよく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上、よりさらに好ましくは90%以上、より特に好ましくは95%以上、最も好ましくは100%の配列同一性を有する塩基配列である。また、該相同領域を有する塩基配列の長さは、目的とする塩基配列と相同領域を有する20bp以上の塩基配列であれば、相同組み換えすることができるため特に限定されないが、具体的には、目的とする塩基配列の長さの0.1%以上が好ましく、0.5%以上、1%以上、1.5%以上、2%以上、2.5%以上、3%以上、3.5%以上、4%以上、4.5%以上、5%以上、5.5%以上、6%以上、6.5%以上、7%以上、7.5%以上、8%以上、8.5%以上、9%以上、9.5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、100%が好ましい。
本発明の「(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーター」とは、染色体上で(a)~(d)のいずれかの遺伝子の上流に存在し、該遺伝子産物の発現量を調整する塩基配列であり、具体的には、(a)~(d)のいずれかの遺伝子の開始コドンより上流の5000bpまでの塩基配列の少なくとも一部分を指す。
本発明の「(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーター」とは、染色体上で(a)~(d)のいずれかの遺伝子の下流に存在し、該遺伝子産物の発現量を調整する塩基配列であり、具体的には、(a)~(d)のいずれかの遺伝子の終始コドンより下流の5000bpまでの塩基配列の少なくとも一部分を指す。
本発明の宿主細胞は、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列のいずれかを少なくとも1つ含有し、該塩基配列の上流または下流に目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含有するベクターで親細胞を形質転換することにより得られることが好ましい。
前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列の上流又は下流に目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列が配置されたベクターを形質転換することで、目的タンパク質の生産性が向上した宿主細胞を得ることができる。さらに、各々の相同領域を有する塩基配列を含有したベクターに、該塩基配列の上流及び/又は下流に目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を配置することで、形質転換の操作性を向上させることができる。
本発明において「目的タンパク質」とは、本発明のベクターが導入された細胞が生産するタンパク質であって、宿主の内在性タンパク質であってもよいし、異種タンパク質であってもよい。目的タンパク質の例として、微生物由来の酵素類、多細胞生物である動物や植物が産生するタンパク質等が挙げられる。例えば、フィターゼ、プロテインA、プロテインG、プロテインL、アミラーゼ、グルコシダーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、グルタミナーゼ、ペプチダーゼ、ヌクレアーゼ、オキシダーゼ、ラクターゼ、キシラナーゼ、トリプシン、ペクチナーゼ、イソメラーゼ、フィブロイン、及び蛍光タンパク質等が挙げられるが、これらに限定はされない。特に、ヒト及び/又は動物治療用タンパク質が好ましい。 ヒト及び/又は動物治療用タンパク質として、具体的には、B型肝炎ウイルス表面抗原、ヒルジン、抗体、ヒト抗体、部分抗体、ヒト部分抗体、血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、上皮成長因子、ヒト上皮成長因子、インシュリン、成長ホルモン、エリスロポエチン、インターフェロン、血液凝固第VIII因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポエチン、IL-1、IL-6、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ウロキナーゼ、レプチン、及び幹細胞成長因子(SCF)等が挙げられる。
ここで「抗体」とは、L鎖とH鎖の各2本のポリペプチド鎖がジスルフィド結合して構成されるヘテロテトラマータンパク質のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。
ここで「部分抗体」とは、Fab型抗体、(Fab)2型抗体、scFv型抗体、diabody型抗体や、これらの誘導体等のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。Fab型抗体とは、抗体のL鎖とFd鎖がS-S結合で結合したヘテロマータンパク質、又は抗体のL鎖とFd鎖がS-S結合を含まず会合したヘテロマータンパク質のことを指し、特定の抗原に結合する能力を有していれば、特に限定されない。
上記目的タンパク質を構成するアミノ酸は天然のものでもよいし、非天然のものでもよいし、修飾を受けていてもよい。また、タンパク質のアミノ酸配列は、人為的な改変が施されていてもよいし、de-novoで設計されたものでもよい。
本発明の宿主細胞は、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列のいずれかを少なくとも1つ含有するベクターと、目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含有するベクターとで親細胞を形質転換することにより得られることが好ましい。
前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子と相同領域を有する塩基配列、前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のプロモーターと相同領域を有する塩基配列、及び/又は前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子のターミネーターと相同領域を有する塩基配列のいずれかを少なくとも1つ含有するベクターと、目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含有するベクターとで細胞を形質転換することで、目的タンパク質の生産性が向上した宿主細胞を得ることができる。さらに、不活性化するベクターと、目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列を含有するベクターとを別にすることで、該目的タンパク質をコードする塩基配列を含有するベクターを前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子の位置以外に1コピー以上導入して発現量を増大させること、目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列が1コピー以上存在するプラスミドや人工染色体を導入して発現量を増大させること、また、育種改良において前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子の不活性化に用いた栄養要求性相補遺伝子または薬剤耐性遺伝子の破壊時に目的タンパク質のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列も同時に破壊させてしまうことを防ぐため、効率よく目的タンパク質の生産性を向上させることができる。
本発明の宿主細胞は親細胞と比してメタノール資化が低下していることを特徴とする。
本発明において「メタノール資化」とは、宿主細胞がメタノールを炭素源として消化することを意味し、例えばメタノール資化が低下しているかどうかは、メタノールを炭素源とした培地で培養し細胞数を測定し、あるいは、例えば、培養液中の残存メタノール量や溶存酸素量を測定し、親細胞又は野生型株のような非改変株と比較することによって確認することができる。
一態様において、本発明は、以下の(e)~(h)のいずれかの塩基配列を含むベクターで更に形質転換することにより得られる宿主細胞:
(e)配列番号30に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(f)前記(e)に示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、及び/又は付加したアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(g)前記(e)に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は
(h)前記(e)に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列に対して相補的な塩基配列からなる核酸にストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸の塩基配列、に関する。
「配列番号30に示すアミノ酸配列」は、本発明者によって見出されたメタノール誘導性プロモーターを活性化させる転写因子であるポリペプチドPpMPP1のアミノ酸配列である(ACCESSION No. CCA39317、国際公開第2012/102171号)。「配列番号30に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列」は、例えば配列番号5に示される塩基配列であるが、配列番号30に示すアミノ酸配列をコードしていれば特に限定されない。後述する実施例において、本発明者らは前記(a)~(d)のいずれかの遺伝子が不活性化された宿主細胞に、前記(e)~(h)の塩基配列を含むベクターで更に形質転換し、配列番号30で示されるアミノ酸配列で示されるポリペプチドPpMPP1を高発現させることにより、目的タンパク質の生産性が更に向上することを確認している。
本発明において、アミノ酸の置換、欠失、挿入及び/又は付加に関する「1もしくは複数個」とは、例えば、(f)に記載のアミノ酸配列では、配列番号30で示されるアミノ酸配列において、1~280個、1~250個、1~200個、1~190個、1~160個、1~130個、1~100個、1~75個、1~50個、1~25個、1~20個、1~15個、1~10個、1~7個、1~5個、1~4個、1~3個、又は1もしくは2個をいう。(f)に記載のアミノ酸配列の例として、配列番号30で示されるアミノ酸配列の連続する、1~5、1~10、1~25、1~50、1~75、1~100、1~125、1~150、1~175、1~200、1~225、1~250、1~275、又は1~300アミノ酸からなる部分アミノ酸配列が挙げられる。
(g)における「85%以上の配列同一性」は、より好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、より好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性である。
本発明において、「発現」とは、ポリペプチドの生成をもたらす塩基配列の転写及び翻訳を指す。また、その発現は外部刺激や生育条件等に依存せずにほぼ一定の状態でもよいし、依存してもよい。発現を駆動するプロモーターは、ポリペプチドをコードする塩基配列の発現を駆動するプロモーターであれば特に限定されない。
本発明において、「高発現」とは、宿主細胞内のポリペプチドの量、もしくは、宿主細胞内のmRNAの量が、通常の量に比較して増加していることを意味し、例えば、ポリペプチドを認識する抗体を利用して測定し、あるいは、例えば、RT-PCR法やノーザンハイブリダイゼーション、DNAアレイを使用するハイブリダイゼーション等によって測定し、親細胞又は野生型株のような非改変株と比較することによって確認することができる。
宿主細胞の生物種は特に限定されないが、酵母、細菌、真菌、昆虫細胞、動物細胞、及び植物細胞等が挙げられ、酵母が好ましく、メタノール資化性酵母、分裂酵母、出芽酵母がより好ましく、メタノール資化性酵母がさらに好ましい。一般に、メタノール資化性酵母は、唯一の炭素源としてメタノールを利用して培養可能な酵母と定義されるが、本来メタノール資化性酵母であったが、人為的な改変あるいは変異によりメタノール資化性能を喪失した酵母も、本発明におけるメタノール資化性酵母に包含される。
メタノール資化性酵母としては、ピキア(Pichia)属、オガタエア(Ogataea)属、キャンディダ(Candida)属、トルロプシス(Torulopsis)属、コマガタエラ(Komagataella)属等に属する酵母が挙げられる。ピキア(Pichia)属ではピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、オガタエア(Ogataea)属ではオガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)、オガタエア・ミヌータ(Ogataea minuta)、キャンディダ(Candida)属ではキャンディダ・ボイディニ(Candida boidinii)、コマガタエラ(Komagataella)属ではコマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)等が好ましい例として挙げられる。
上記のメタノール資化性酵母のなかでも、コマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母が特に好ましい。
コマガタエラ(Komagataella)属酵母としては、コマガタエラ・パストリス(Komagataella pastoris)、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)が好ましい。コマガタエラ・パストリス及びコマガタエラ・ファフィはどちらもピキア・パストリス(Pichia pastoris)の別名を有する。
具体的に宿主として使用できる菌株として、コマガタエラ・パストリスATCC76273(Y-11430、CBS7435)、コマガタエラ・パストリスX-33等の株が挙げられる。これらの菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションやサーモフィッシャーサイエンティフィック社等から入手することができる。
オガタエア(Ogataea)属酵母としては、オガタエア・アングスタ(Ogataea angusta)、オガタエア・ポリモルファ(Ogataea polymorpha)、オガタエア・パラポリモルファ(Ogataea parapolymorpha)が好ましい。これら3つは近縁種であり、いずれも、別名ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、又は別名ピキア・アングスタ(Pichia angusta)でも表される。
具体的に使用できる菌株として、オガタエア・アングスタNCYC495(ATCC14754)、オガタエア・ポリモルファ8V(ATCC34438)、オガタエア・パラポリモルファDL-1(ATCC26012)等の菌株が挙げられる。これらの菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション等から入手することができる。
また、本発明においては、これらコマガタエラ属酵母やオガタエア属酵母の菌株からの誘導株も使用でき、例えばヒスチジン要求性であればコマガタエラ・パストリスGS115株(サーモフィッシャーサイエンティフィック社より入手可能)、ロイシン要求性株であれば、NCYC495由来のBY4329、8V由来のBY5242、DL-1由来のBY5243(これらはNational BioResource Projectから分譲可能)等が挙げられる。本発明においては、これらの菌株からの誘導株等も使用できる。
一態様において、本発明は、上記に記載の細胞を培養する工程、培養液から目的タンパク質を回収する工程を含む、目的タンパク質の製造方法に関する。
ここで、「培養液」とは、培養上清のほか、培養細胞、培養菌体、又は細胞もしくは菌体の破砕物を意味する。よって、本発明の形質転換酵母を用いて目的タンパク質を製造する方法としては、上記に記載の細胞を培養し、その菌体中に蓄積させる方法、又は培養上清中に分泌して蓄積させる方法が挙げられ、好ましくは培養上清中に分泌して蓄積させる方法が挙げられる。
細胞の培養条件は特に限定されず、細胞に応じて適宜選択すればよい。該培養においては、細胞が資化しうる栄養源を含む培地であれば何でも使用できる。該栄養源としては、グルコース、シュークロース、マルトース等の糖類、乳酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸等の有機酸類、メタノール、エタノール、グリセロール等のアルコール類、パラフィン等の炭化水素類、大豆油、菜種油等の油類、又はこれらの混合物等の炭素源、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、コーンスチープリカー等の窒素源、更に、その他の無機塩、ビタミン類等の栄養源を適宜混合・配合した通常の培地を用いることができる。また、培養はバッチ培養や連続培養のいずれでも可能である。
本発明の好ましい態様として、酵母にコマガタエラ属酵母又はオガタエア属酵母を用いた場合、上記炭素源は、グルコース、グリセロール、メタノールの1種でもよく、又は2種以上であってもよい。また、これらの炭素源は培養初期から存在していてもよいし、培養途中に添加してもよい。
本発明のベクターを細胞に導入することによって得られた形質転換体を培養することで宿主中又は培養液中に目的タンパク質を蓄積させ、回収することができる。目的タンパク質の回収方法については、公知の精製法を適当に組み合わせて用いることができる。例えば、まず、当該形質転換酵母を適当な培地で培養し、培養液の遠心分離、あるいは、濾過処理により培養上清から菌体を除く。得られた培養上清を、塩析(硫酸アンモニウム沈殿、リン酸ナトリウム沈殿等)、溶媒沈殿(アセトン又はエタノール等による蛋白質分画沈殿法)、透析、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、限外濾過等の手法を単独で、又は組み合わせて用いることにより、該培養上清から目的タンパク質を回収する。
細胞の培養は通常一般の条件により行なうことができ、例えば、酵母の場合、pH2.5~10.0、温度範囲10℃~48℃の範囲で、好気的に10時間~10日間培養することにより行うことができる。
回収された目的タンパク質は、そのまま使用することもできるが、その後PEG化等の薬理学的な変化をもたらす修飾、酵素やアイソトープ等の機能を付加する修飾を加えて使用することもできる。また、各種の製剤化処理を使用してもよい。
分泌性でない目的タンパク質を菌体外に分泌生産させる場合には、該目的タンパク質遺伝子の5'末端にシグナル配列をコードする塩基配列を導入すればよい。シグナル配列をコードする塩基配列は、酵母が分泌発現できるシグナル配列をコードする塩基配列であれば特に限定されないが、サッカロマイセス・セレビシエのMating Factor α(MFα)やオガタエア・アングスタの酸性ホスファターゼ(PHO1)、コマガタエラ・パストリスの酸性ホスファターゼ(PHO1)、サッカロマイセス・セレビシエのインベルターゼ(SUC2)、サッカロマイセス・セレビシエのPLB1、牛血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)、及び免疫グロブリンのシグナル配列をコードする塩基配列等が挙げられる。
本明細書において、生産性を向上させる「目的タンパク質」は、宿主の内在性タンパク質であってもよいし、異種タンパク質であってもよい。本明細書において、「内在性タンパク質」とは、遺伝子改変を行っていない宿主細胞が培養の間に産生するタンパク質をいう。これに対し、本明細書において「異種タンパク質」とは、遺伝子改変を行っていない宿主細胞が通常発現しないか、あるいは発現してもその発現量が十分でないタンパク質をいう。
目的タンパク質を発現させるプロモーターは、選択した炭素源にて発現が起こりうるプロモーターを適切に使用すればよく、特に限定されない。
炭素源がメタノールの場合、ポリペプチドを発現させるプロモーターは、AOX1プロモーター、AOX2プロモーター、CATプロモーター、DHASプロモーター、FDHプロモーター、FMDプロモーター、GAPプロモーター、MOXプロモーター等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
炭素源がグルコースやグリセロールの場合、ポリペプチドを発現させるプロモーターは、GAPプロモーター、TEFプロモーター、LEU2プロモーター、URA3プロモーター、ADEプロモーター、ADH1プロモーター、PGK1プロモーター等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。
ここで、「プロモーター」とは、上記の所定の塩基配列の上流に位置する塩基配列領域をいい、RNAポリメラーゼのほか、転写の促進や抑制に関わる様々な転写調節因子が該領域に結合又は作用することによって鋳型である上記の所定の塩基配列を読み取って相補的なRNAを合成(転写)する。
以下、製造例、比較例、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
<製造例1:ベクターの調製に用いた各種遺伝子の調製>
以下の実施例において用いた組換えDNA技術に関する詳細な操作方法等は、次の成書に記載されている:Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocolsin Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)。
また、以下の実施例において、酵母の形質転換に用いるプラスミドは、構築したベクターを大腸菌E.coli DH5αコンピテントセル(タカラバイオ社製)に導入し、得られた形質転換体を培養して増幅することによって調製した。プラスミド保持株からのプラスミドの調製は、FastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて行った。
ベクターの構築において利用したAOX1プロモーター(配列番号1)、AOX1ターミネーター(配列番号2)、HIS4配列(配列番号3)、GAPプロモーター(配列番号4)、ポリペプチドPpMPP1をコードする塩基配列(配列番号5)、CCA38473ターミネーター(配列番号6)はコマガタエラ・パストリスATCC76273株の染色体DNA(塩基配列はEMBL (The European Molecular Biology Laboratory) ACCESSION No. FR839628~FR839631に記載)混合物をテンプレートにしてPCRで調製した。AOX1プロモーターはプライマー1(配列番号7)及びプライマー2(配列番号8)、AOX1ターミネーターはプライマー3(配列番号9)及びプライマー4(配列番号10)、HIS4配列はプライマー5(配列番号11)及びプライマー6(配列番号12)、GAPプロモーターはプライマー7(配列番号13)及びプライマー8(配列番号14)、ポリペプチドPpMPP1をコードする塩基配列はプライマー9(配列番号15)及びプライマー10(配列番号16)、CCA38473ターミネーターはプライマー11(配列番号17)及びプライマー12(配列番号18)、を用いてPCRで調製した。
ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号19)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、プロモーターで制御されたG418耐性遺伝子(配列番号20)は合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。ベクターの構築において利用した、Mating Factorαプレプロシグナル配列が付与された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体遺伝子(配列番号21)は公開配列情報(J Mol Biol. 1998 Jul 3;280(1):117-27.)に基づいて合成DNAをテンプレートにしてPCRで調製した。
PCRにはPrime STAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)等を用い、反応条件は添付のマニュアルに記載の方法で行った。染色体DNAの調製は、コマガタエラ・パストリスATCC76273株からカネカ 簡易DNA抽出キット version 2(カネカ社製)等を用いて、これに記載の条件で実施した。
<製造例2:抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現ベクターの構築>
HindIII-BamHI-BglII-XbaI-EcoRIのマルチクローニングサイトをもつ遺伝子断片(配列番号22)を全合成し、これをpUC19(タカラバイオ社製、Code No. 3219)のHindIII-EcoRIサイト間に挿入して、pUC-1を構築した。
また、AOX1プロモーター(配列番号1)の両側にBamHI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー1(配列番号7)及び2(配列番号8)を用いたPCRにより調製し、BamHI処理後にpUC-1のBamHIサイトに挿入して、pUC-Paoxを構築した。
次に、AOX1ターミネーター(配列番号2)の両側にXbaI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー3(配列番号9)及び4(配列番号10)を用いたPCRにより調製し、XbaI処理後にpUC-PaoxのXbaIサイトに挿入して、pUC-PaoxTaoxを構築した。
次に、HIS4配列(配列番号3)の両側にEcoRI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー5(配列番号11)及び6(配列番号12)を用いたPCRにより調製し、EcoRI処理後にpUC-PaoxTaoxのEcoRIサイトに挿入して、pUC-PaoxTaoxHIS4を構築した。
次に、Mating Factorαプレプロシグナル配列が付与された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体遺伝子(配列番号21)の両側にBglII認識配列を付加した核酸断片を、プライマー13(配列番号23)及び14(配列番号24)を用いたPCRにより調製し、BglII処理後にpUC-PaoxTaoxHIS4のBglIIサイトに挿入して、pUC-PaoxscFvTaoxHIS4を構築した。このpUC-PaoxscFvTaoxHIS4は、抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体がAOX1プロモーター制御下で発現するように設計されている。
<製造例3:ポリペプチドPpMPP1発現ベクターの構築>
HindIII-BamHI-SpeI-XbaI-EcoRIのマルチクローニングサイトをもつ遺伝子断片(配列番号25)を全合成し、これをpUC19(タカラバイオ社製、Code No. 3219)のHindIII-EcoRIサイト間に挿入して、pUC-2を構築した。
また、GAPプロモーター(配列番号4)の両側にBamHI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー7(配列番号13)及び8(配列番号14)を用いたPCRにより調製し、BamHI処理後にpUC-2のBamHIサイトに挿入して、pUC-Pgapを構築した。
次に、プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号19)の両側にEcoRI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー15(配列番号26)及び16(配列番号27)を用いたPCRにより調製し、EcoRI処理後にpUC-PgapのEcoRIサイトに挿入して、pUC-PgapZeoを構築した。
次に、CCA38473ターミネーター(配列番号6)の両側にXbaI認識配列を付加した核酸断片を、プライマー11(配列番号17)及び12(配列番号18)を用いたPCRにより調製し、XbaI処理後にpUC-PgapZeoのXbaIサイトに挿入して、pUC-PgapT38473Zeoを構築した。
次に、ポリペプチドPpMPP1をコードする塩基配列(配列番号5)を、プライマー9(配列番号15)及びプライマー10(配列番号16)を用いたPCRにより調製した。この各核酸断片はポリペプチドPpMPP1をコードする塩基配列の上流にオーバーラップ領域としてGAPプロモーター配列、下流にオーバーラップ領域としてCCA38473ターミネーター配列が付加されている。
pUC-PgapT38473ZeoをSpeI処理後にGAPプロモーターのReプライマー(プライマー17(配列番号28))及びCCA38473ターミネーターのFwプライマー(プライマー18(配列番号29))を用いたPCRにより核酸断片を調製し、上記PCRにより調製されたポリペプチドPpMPP1をコードする塩基配列の核酸断片と混合し、New England Biolabs社のGibson Assembly システムを用いて繋ぎ合わせて、pUC-PgapPpMPP1T38473Zeoを構築した。このベクターは、配列番号30に示すアミノ酸配列で示されるポリペプチドPpMPP1がGAPプロモーター制御下で発現するように設計されている。
<製造例4:配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子の不活性化用ベクターの構築>
プロモーターで制御されたG418耐性遺伝子(配列番号20)の両側に形質転換のための相同領域を付加した遺伝子断片を、プライマー19(配列番号31)及びプライマー20(配列番号32)を用いたPCRにより調製した。
本ベクターは、コマガタエラ・パストリスATCC76273株の染色体における、配列番号33で示されるアミノ酸配列(ACCESSION No. CCA41122)をコードする、配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子の上流に位置する前記遺伝子のプロモーターの97塩基の塩基配列と100%の配列同一性を有する塩基配列、及び、前記遺伝子の下流に位置する前記遺伝子のターミネーターの98塩基の塩基配列と100%の配列同一性を有する塩基配列が、相同領域として、プロモーターで制御されたG418耐性遺伝子の両側に付加されたベクターであり、宿主細胞に形質転換することで配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化されるように設計されている。
<製造例5:AOX1遺伝子、FLD1遺伝子、DAS1遺伝子、DAS2遺伝子の不活性化用ベクターの構築>
プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号19)の両側に形質転換のための相同領域を付加した遺伝子断片を、プライマー21(配列番号35)及びプライマー22(配列番号36)を用いたPCRにより調製した。
本ベクターはコマガタエラ・パストリスATCC76273株のAOX1(ACCESSION No. CCA40305)をコードする遺伝子(配列番号37)の読み枠内を相同領域として、プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子の両側に付加されたベクターであり、宿主細胞に形質転換することでAOX1をコードする遺伝子が不活性化されるように設計されている。
プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号19)の両側に形質転換のための相同領域を付加した遺伝子断片を、プライマー23(配列番号38)及びプライマー24(配列番号39)を用いたPCRにより調製した。
本ベクターはコマガタエラ・パストリスATCC76273株のFLD1(ACCESSION No. CCA39112)をコードする遺伝子(配列番号40)の上流94塩基配列及び下流94塩基配列を相同領域として、プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子の両側に付加されたベクターであり、宿主細胞に形質転換することでFLD1をコードする遺伝子が不活性化されるように設計されている。
プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子(配列番号19)の両側に形質転換のための相同領域を付加した遺伝子断片を、プライマー25(配列番号41)及びプライマー26(配列番号42)を用いたPCRにより調製した。
本ベクターはコマガタエラ・パストリスATCC76273株のDAS1(ACCESSION No. CCA39320)をコードする遺伝子(配列番号43)の上流80塩基配列及び下流78塩基配列を相同領域として、プロモーターで制御されたZeocin(商標)耐性遺伝子の両側に付加されたベクターであり、宿主細胞に形質転換することでDAS1をコードする遺伝子が不活性化されるように設計されている。
プロモーターで制御されたG418耐性遺伝子(配列番号20)の両側に形質転換のための相同領域を付加した遺伝子断片を、プライマー27(配列番号44)及びプライマー28(配列番号45)を用いたPCRにより調製した。
本ベクターはコマガタエラ・パストリスATCC76273株のDAS2(ACCESSION No. CCA39318)をコードする遺伝子(配列番号46)の上流80塩基配列及び下流77塩基配列を相同領域として、プロモーターで制御されたG418耐性遺伝子の両側に付加されたベクターであり、宿主細胞に形質転換することでDAS2をコードする遺伝子が不活性化されるように設計されている。
<比較例1:形質転換酵母の取得>
製造例2で構築した抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現ベクターpUC-PaoxscFvTaoxHIS4を用いて、以下のようにコマガタエラ・パストリスを形質転換した。
コマガタエラ・パストリスATCC76273株由来ヒスチジン要求性株を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1~1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
製造例2で構築した抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現ベクターpUC-PaoxscFvTaoxHIS4を用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、pUC-PaoxscFvTaoxHIS4を取得した。本プラスミドをAOX1プロモーター内のSacI認識配列を利用して、SacI処理により直鎖状にした。
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUC-PaoxscFvTaoxHIS4溶液1μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、1mlのYNB培地(0.67% yeast nitrogen base Without Amino Acid(Becton Dickinson社製))に懸濁後、再度集菌(3000×g、5分、20℃)した。菌体を適当量のYNB培地で再懸濁後、YNB選択寒天プレート(0.67% yeast nitrogen base Without Amino Acid(Becton Dickinson社製)、1.5%アガロース、2% glucose)に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を取得した。
<実施例1:形質転換酵母の取得>
製造例4で構築した配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子の不活性化用ベクターを用いて、以下のように抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を形質転換した。
比較例1で取得した抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1~1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
このコンピテントセル溶液60μlと製造例4で構築した配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子の不活性化用ベクター3μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清950μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDG418選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.05% G418二硫酸塩(ナカライテスク社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を取得した。
続いて、製造例3で構築したポリペプチドPpMPP1発現ベクターpUC-PgapPpMPP1T38473Zeoを用いて、以下のように配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を形質転換した。
配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1~1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
製造例3で構築したポリペプチドPpMPP1発現ベクターpUC-PgapPpMPP1T38473Zeoを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体を5mlのアンピシリン含有2YT培地(1.6% tryptone bacto(Becton Dickinson社製)、1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、0.5% 塩化ナトリウム、0.01%アンピシリンナトリウム(和光純薬工業社製))で培養し、得られた菌体からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス社製)を用いて、pUC-PgapPpMPP1T38473Zeoを取得した。本プラスミドをCCA38473ターミネーター内のNruI認識配列を利用して、NruI処理により直鎖状にした。
このコンピテントセル溶液60μlと直鎖状のpUC-PgapPpMPP1T38473Zeo溶液1μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清950μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDG418Zeocin(商標)選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.05% G418二硫酸塩(ナカライテスク社製)、0.01%Zeocin(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、ポリペプチドPpMPP1を発現し且つ配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を取得した。
<比較例2:形質転換酵母の取得>
製造例5で構築したAOX1遺伝子、FLD1遺伝子、DAS1遺伝子の不活性化用ベクターを用いて、以下のように抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を形質転換した。
比較例1で取得した抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1~1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
このコンピテントセル溶液60μlと製造例5で構築したAOX1遺伝子、FLD1遺伝子、DAS1遺伝子の不活性化用ベクター3μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清950μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDZeocin(商標)選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.01%Zeocin(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、AOX1遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母、FLD1遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母、DAS1遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を取得した。
続いて、製造例5で構築したDAS2遺伝子の不活性化用ベクターを用いて、以下のようにDAS1遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を形質転換した。
DAS1遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を3mlのYPD培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose)に接種し、30℃で一晩振盪培養して、前培養液を得た。得られた前培養液500μlを50mlのYPD培地に接種し、OD600が1~1.5になるまで振盪培養後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、250μlの1M DTT(終濃度25mM)を含む10mlの50mMリン酸カリウムバッファー, pH7.5に再懸濁した。
この懸濁液を30℃で15分インキュベート後、集菌(3000×g、10分、20℃)し、予め氷冷した50mlのSTMバッファー(270mMスクロース、10mM Tris-HCl、1mM塩化マグネシウム、pH7.5)で洗浄した。洗浄液を集菌(3000×g、10分、4℃)し、25 mlのSTMバッファーで再度洗浄したのち、集菌(3000×g、10分、4℃)した。最終的に、250μlの氷冷STMバッファーに懸濁し、これをコンピテントセル溶液とした。
このコンピテントセル溶液60μlと製造例5で構築したDAS2遺伝子の不活性化用ベクター3μlを混合し、エレクトロポレーション用キュベット(ディスポキュベット電極、電極間隔2mm(ビーエム機器社製))に移し入れ、7.5kV/cm、25μF、200Ωに供した後、菌体を1mlのYPD培地で懸濁し、30℃で1時間静置した。1時間静置後、集菌(3000×g、5分、20℃)し、上清950μlを廃棄した。残った溶液で再懸濁後、YPDG418 Zeocin(商標)選択寒天プレート(1% yeast extract(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、2% glucose、1.5%アガロース、0.05% G418二硫酸塩(ナカライテスク社製)、0.01%Zeocin(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に塗布し、30℃、3日間の静置培養で生育する株を選択し、DAS1遺伝子及びDAS2遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を取得した。
<実施例2:形質転換酵母の培養>
実施例1で得られた配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母、ポリペプチドPpMPP1を発現し且つ配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を2mlのBMMY培地(1% yeast extract bacto(Becton Dickinson社製)、2% polypeptone(日本製薬社製)、0.34% yeast nitrogen base Without Amino Acid and Ammonium Sulfate(Becton Dickinson社製)、1% Ammonium Sulfate、0.4mg/l Biotin、100mM リン酸カリウム(pH6.0)、2% Methanol)に接種し、これを30℃、170rpm、72時間振盪培養後、遠心分離(12000rpm、5分、4℃)により培養上清を回収した。菌体濃度はOD600にて測定した。
<比較例3:形質転換酵母の培養>
比較例1で得られた抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母、比較例2で得られたAOX1遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母、FLD1遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母、DAS1遺伝子及びDAS2遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母を上記実施例2と同様の方法で培養後、遠心分離(12000rpm、5分、4℃)により培養上清を回収した。菌体濃度はOD600にて測定した。
<実施例3:ELISA法による抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体の生産量の測定>
実施例2で得られた培養上清への抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体生産量は、サンドイッチELISA(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)法により以下に示す方法で行った。
ELISA用プレート(Nuncイムノプレートマキシソープ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製))に固定化バッファー(8g/L 塩化ナトリウム、0.2g/L 塩化カリウム、1.15g/L リン酸一水素ナトリウム(無水)、0.2g/L リン酸二水素カリウム(無水)、1mM 塩化マグネシウム)にて2500倍希釈したβガラクトシダーゼ(5mg/mL ロシュ社製)を各ウェル50μlずつ添加し、終夜4℃でインキュベートした。インキュベート後、ウェル中の溶液を除去し、イムノブロック(大日本住友製薬社製)200μlでブロッキングし、室温で1時間静置した。PBSTバッファー(8g/L 塩化ナトリウム、0.2g/L 塩化カリウム、1.15g/L リン酸一水素ナトリウム(無水)、0.2g/L リン酸二水素カリウム(無水)、0.1% Tween20)で3回洗浄後、系列希釈した標準抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体と希釈した培養上清を各ウェル50μlずつ添加し、室温で1時間反応した。PBSTバッファーで3回洗浄後、PBSTバッファーにて8000倍希釈した二次抗体溶液(二次抗体:Anti-His-tag mAb-HRP-DirecT(MBL社製))を各ウェル50μlずつ添加し、室温で1時間反応させた。PBSTバッファーで3回洗浄後、50μlのTMB-1 Component Microwell Peroxidase Substrate SureBlue(KPL社製)を添加し、室温で20分静置した。50μlのTMB Stop Solution(KPL社製)を添加して反応を停止させた後、マイクロプレートリーダー(Spectra Max Paradigm;モレキュラーデバイス社製)で450nmの吸光度を測定した。培養上清中の抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体の定量は、標準抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体の検量線を用いて行った。この方法により得られた抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体生産量と各々の菌体濃度(OD600)を表1に示した。
<比較例4:ELISA法による抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体の生産量の測定>
比較例3で得られた培養上清への抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体生産量について、実施例3と同様の方法で測定した。この方法により得られた抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体生産量と各々の菌体濃度(OD600)を表1に示した。
<結果>
表1に示されるように、実施例1で得られた配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母(2)は、明らかに、比較例1で得られた抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母(1)よりメタノール資化が低下し、且つ高い抗体生産量を示した。また、実施例1で得られた配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母(2)は、メタノール資化の低下を意図して構築した比較例2で得られたAOX1遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母(3)、FLD1遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母(4)、DAS1遺伝子及びDAS2遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母(5)と比較してメタノール資化が同程度に低いのに対し、明らかに高い抗体生産量を示している。これは配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子の不活性化により、メタノールの炭素源が効率的に目的タンパク質に使われていることを示している。
また、実施例1で得られたポリペプチドPpMPP1を発現し且つ配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母(6)は、比較例1で得られた抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母(1)よりメタノール資化が低下し、且つ高い抗体生産量を示した。加えて、実施例1で得られたポリペプチドPpMPP1を発現し且つ配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母(6)は、実施例1で得られた配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子が不活性化された抗βガラクトシダーゼ一本鎖抗体発現酵母(2)と比較して、更に高い抗体生産量を示した。これは、ポリペプチドPpMPP1の発現と配列番号34に示す塩基配列からなる遺伝子不活性化が、メタノール資化低下と抗体生産量の両方においてその効果を更に高めることを示唆している。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。