一般的な態様である「含む」または「含まれる」は、より特定した態様である「からなる」を包含する。さらに単数形および複数形は、限定的には使用されない。本明細書で使用する場合に、単数形のみを指すように明示的に述べられない限り、単数形の各冠詞(a, an)および不定冠詞(the)は単数形および複数形の両方を指す。
本発明で使用される「相同体」または「相同の」という用語は、元の配列またはその相補配列に対し配列が少なくとも80%同一であるポリペプチド分子または核酸分子を意味する。ポリペプチド分子または核酸分子は、参照配列またはその相補配列に対し配列が少なくとも90%同一であるのが好ましい。ポリペプチド分子または核酸分子は、参照配列またはその相補配列に対し配列が少なくとも95%同一であるのがより好ましい。ポリペプチド分子または核酸分子は、参照配列またはその相補配列に対し配列が少なくとも98%同一であるのが最も好ましい。相同のタンパク質はさらに、元の配列と同一あるいは類似のタンパク質活性を示す。
本明細書で使用する「配列に対応している」または「配列に対応する」という用語は、配列番号1または配列番号2またそれらの天然変異体の規定のヌクレオチド中の配列を有する規定の配列のモンゴルキヌゲネズミのCHO-K1を含む。当業者なら、CHO細胞株のゲノム配列は変形され、それにより、例えば対立遺伝子が変異した配列番号1および2に示されるように、NCBI参照配列:NW_003613854.1を含むNCBIのデータベースから得られる配列とは同一ではない可能性があることが分かっている。しかしながら配列の並びを使用して、当業者なら、配列番号1または2で規定される配列、すなわち相同領域に対応する特定のCHO細胞株の配列を識別する方法は分かっている。この対応する配列は、配列番号1で規定される配列または配列番号2で規定される配列と少なくとも80%の同一性を有し、好ましくは配列番号1で規定される配列または配列番号2で規定される配列と少なくとも90%の同一性を有し、あるいは配列番号1または配列番号2と同一である。この対応する配列は、異種ポリヌクレオチドなどの組換え挿入物を含んでもよいが、この挿入物が対応する配列を決定するとは見做すべきではない。
「タンパク質」という用語は、「アミノ酸残基配列」または「ポリペプチド」と互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸の高分子を指す。これらの用語はまた、限定はされないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、糖化、またはタンパク質加工を含む反応によって翻訳後修飾されるタンパク質を含む。分子のその生体機能活性を維持しつつ、例えば、他のタンパク質への融合、アミノ酸配列の置換、欠失、または挿入などの修飾および改変をポリペプチドの構造中で実施できる。例えば、特定のアミノ酸の配列置換は、ポリペプチドまたはその基盤となる核酸コード配列内で実施でき、同一の特性を有するタンパク質を取得できる。「ポリペプチド」という用語は、その長さとして、典型的には10個を超えるアミノ酸を持つ配列を指し、「ペプチド」という用語は、10個までのアミノ酸を持つ配列を意味する。ただしこれらの用語は互換的に使用されてもよい。本発明による目的のタンパク質は、治療用タンパク質であることが好ましい。
「目的のタンパク質」という用語は、工業的なタンパク質生産工程において特定の関連性がある任意のタンパク質を広い意味で指している。目的のタンパク質には、限定はされないが、異種の治療用タンパク質、マーカータンパク質、またはタンパク質分泌、翻訳後のタンパク質修飾、翻訳、転写、細胞周期調節、または栄養代謝などの機能を有する宿主細胞のタンパク質が含まれる。
「治療用タンパク質」という用語は、ヒトおよび/または動物の医療に使用できるタンパク質を指す。これらタンパク質として、限定はされないが、抗体、成長因子、血液凝固因子、ワクチン、インターフェロン、ホルモン、融合タンパク質が挙げられる。
「ゲノムDNA」または「ゲノム」という用語は、互換的に使用され、宿主生物の遺伝可能な遺伝情報を指す。ゲノムDNAは、核のDNA(染色体DNAとも呼ぶ)だけでなく、他の細胞小器官(例えばミトコンドリア)のDNAも含む。
本明細書で使用する「遺伝子」という用語は、機能的産物として発現されて、または遺伝子発現を調節して生物の形質に影響を及ぼす遺伝性のゲノム配列のDNAまたはRNA部位を指す。遺伝子およびポリヌクレオチドには、ゲノム配列中のイントロンおよびエクソン、または開始コドン(メチオニンコドン)および翻訳終止コドンを含むオープンリーディングフレーム(ORF)などのcDNA中のコード配列のみを含む。遺伝子およびポリヌクレオチドには、転写開始、翻訳、転写終止などのそれらの発現を調節する領域も含まれる。したがって、プロモーターなどの調節要素も含まれる。
本明細書で使用する「核酸」、「ヌクレオチド」、および「ポリヌクレオチド」という用語は、互換的に使用され、5’末端から3’末端で読み取られるデオキシリボヌクレオチド塩基またはリボヌクレオチド塩基の一本鎖または二本鎖の高分子を指し、かつ二本鎖DNA(dsDNA)、一本鎖DNA(ssDNA)、一本鎖RNA(ssRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、ゲノムDNA、cDNA、cRNA、組換えDNA、または組換えRNA、および修飾骨格を含むそれらの派生物を含む。好ましくは、特にCHOゲノム中に安定的に組込まれるポリヌクレオチドは、DNAまたはcDNAである。本発明によるポリヌクレオチドは、種々の方法(例えば、化学合成、遺伝子クローニングなど)により調製することができ、種々な形態(例えば、直鎖または分岐鎖、一本鎖または二本鎖、あるいはそのハイブリッド、プライマー、プローブなど)とすることができる。「ヌクレオチド配列」または「核酸配列」という用語は、個々の一本鎖または二本鎖のいずれかとしての核酸のセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を指す。
本明細書で使用する「異種ポリヌクレオチド」という用語は、受容者すなわちCHO細胞とは異なる生物または異なる種に由来するポリヌクレオチドを指す。本発明の文脈において、当業者なら、そのポリヌクレオチドはDNAまたはcDNAを指すことが分かっている。異種ポリヌクレオチドは、導入遺伝子と呼ばれることもある。従って、そのポリヌクレオチドは、異種タンパク質をコードする遺伝子またはオープンリーディングフレーム(ORF)であってもよい。CHO細胞の文脈において、「異種ポリヌクレオチド」とは、異なる細胞株、好ましくはモンゴルキヌゲネズミに由来しない細胞株に由来するポリヌクレオチドを指す。核酸の部分に対して使用される際の「異種の」という用語はまた、核酸が本来互いに同一の関係にない2つ以上の配列を含んでもよいことを示している。従って、異種とは、通常はそれが存在しない位置でCHOゲノム内に挿入されている遺伝子または導入遺伝子、あるいはその一部分などのCHO由来のポリヌクレオチド配列を指すことがあり、あるいは通常はそれが存在しない生物の細胞内に導入された遺伝子を指すこともある。
「異種ポリヌクレオチド」、「異種遺伝子」、あるいは「異種配列」は、直接に、または好ましくは「発現ベクター」を使用して、好ましくは哺乳動物発現ベクターを使用して、標的細胞内に導入できる。これらベクターを構築するのに使用される方法は、当業者に周知であり、様々な刊行物に記載されている。特に、プロモーター、エンハンサー、終止シグナルおよびポリアデニル化シグナル、選択マーカー、複製の起点、および継合シグナルなどの機能的構成要素の説明を含む適切なベクターを構築する技術は、(Sambrook J, et al., 1989. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. Cold Spring Harbor: Cold Spring Harbor Laboratory Press)およびそれを引用した文献中に、かなり詳細に吟味されている。ベクターとしては、限定はされないが、プラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/ミニ染色体(ACEなど)、またはバキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、およびバクテリオファージなどのウイルスベクターが挙げられる。真核生物発現ベクターとして、典型的には、細菌の選択のための複製起点および抗生物質耐性遺伝子などの細菌におけるベクターの増殖を促進する原核生物配列もまた挙げられる。ポリヌクレオチドを作動可能に連結できるクローニング部位を含む種々の真核生物発現ベクターは、当技術分野で周知であり、Stratagene社(La Jolla, CA)、Invitrogen社(Carlsbad, CA)、Promega社(Madison, WI)、あるいはBD Biosciences Clonetech社(Palo Alto, CA)などの企業から市販されているものもある。通常、発現ベクターはまた、前記発現マーカーを保持する宿主細胞の選択を可能にする選択マーカーをコードする発現カセットを含む。
本明細書で使用する「産生すること」または「高度に産生すること」、「産生」、「産生および/または分泌」、「産生細胞」または「高収率で産生すること」という用語は、異種ポリヌクレオチドによってコードされるRNAおよび/またはタンパク質の産生に関連する。「産生および/または分泌の増大」または「高収率での産生」は、異種RNAおよび/またはタンパク質の発現に関連し、細胞培養の特定部での産生性の増大、力価の増大、全体的な産生性の増大、またはそれらの組合わせを意味し、好ましくは、力価または全体的な産生性が増大することを意味する。本明細書で使用する力価の増大は、同一体積での濃度の増大、すなわち総収量の増大に関連する。産生された異種RNA、異種タンパク質、または治療用タンパク質は、例えば、低分子調節RNAあるいは抗体、好ましくはマイクロRNA、低分子ヘアピン型RNA、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、またはそれらの断片、または融合タンパク質であってもよい。
本明細書で使用する「増強」、「増強された」、「増強する」、「増大する」または「増大された」という用語は、一般に対照細胞と比較して、少なくとも約10%の増大、例えば少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約40%、または少なくとも約50%、または少なくとも約75%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%、または少なくとも約100%、または少なくとも約200%、または少なくとも約300%の増大を意味し、または対照細胞と比較して10~300%の間での任意の整数値を意味する。本明細書で使用する「対照細胞」または「対照哺乳動物細胞」は、同一の異種ポリヌクレオチドがランダムに導入された同一のCHO細胞である。この細胞は、クローンの選択をせずに、細胞クローン内でまたは好ましくは細胞プール内で決定されてもよい。
本明細書で使用する「発現カセット」という用語は、RNA(異種RNA)またはタンパク質(異種タンパク質)をコードする1つ以上の遺伝子、およびそれらの発現を制御する配列を含むベクターの一部分を指す。従って、そのベクターは、プロモーター配列、オープンリーディングフレーム、および典型的にはポリアデニル化部位を含む3’非翻訳領域を含む。このベクターは、組換え分泌治療用タンパク質をコードする1つ以上の遺伝子を含む発現ベクターであることが好ましい。このベクターは、ベクター中の一部分であってもよく、典型的にはプラスミドまたはウイルスベクターを含む発現ベクターであってもよい。またこのベクターは、相同性の組換えなどのランダムな組込みまたは標的を絞った組込みにより、染色体中に組込んでもよい。発現カセットは、クローニング技術を用いて調製されるので、自然発生の遺伝子構造を指すものではない。
「プロモーター」または「プロモーター配列」は、細胞内のRNAポリメラーゼを結合し、かつ下流(3’方向)のコード配列の転写を開始できるDNA調節領域である。このプロモーター配列は、転写開始部位によってその3’末端で結合され、最大1.5kbまでを含む上流(5’方向)にまで伸長する。プロモーターの長さは、通常、約100~1000塩基対である。プロモーター配列は、転写開始部位、およびRNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメイン(共通配列)を含む。真核生物プロモーターは、常にではないが多くの場合に、「TATA」ボックスおよび「CAT」ボックスを含む。プロモーター配列は、多くの場合に、それぞれの遺伝子の発現の調節に関与するタンパク質によって認識される付加的な共通配列を含む。プロモーターによる遺伝子発現の調節は、調節タンパク質の結合を増強または阻害することで実施できる。調節タンパク質の結合の増強または阻害は、限定はされないが、塩基修飾(すなわちメチル化)およびタンパク質修飾(すなわちリン酸化)を含む多くの種々の手段によって実施できる。
「上流」および「下流」という用語は、DNAまたはRNA中での相対的な位置を指している。DNAまたはRNAのそれぞれの鎖は、デオキシリボース単位またはリボース単位の末端の炭素位置に関連する5’末端および3’末端を保持する。慣例により、「上流」とはポリヌクレオチドの5’末端への方向を意味し、「下流」とはポリヌクレオチドの3’末端への方向を意味する。二本鎖DNA、例えばゲノムDNAの場合には、「上流」という用語は、コード鎖の5’末端への方向を意味し、「下流」はコード鎖の3’末端への方向を意味する。
「コード鎖」、「センス鎖」または「非鋳型鎖」という用語は、その塩基配列が遺伝子から転写されるRNAの塩基配列に対応する二本鎖DNAの鎖を指す。
「低分子調節RNA」という用語は、通常はそれぞれのmRNAへの結合によって標的遺伝子の発現に影響を及ぼす低分子非コードRNAポリヌクレオチドを指す。これら低分子調節RNAとしては、限定はされないが、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、および低分子ヘアピン型RNA(shRNA)が挙げられる。
本明細書で使用する「リボ核酸」、「RNA」、または「RNAオリゴヌクレオチド」という用語は、核酸塩基、リボース糖、およびリン酸基から構成されるヌクレオチド配列からなる分子を指す。RNAは通常一本鎖分子であり、種々の機能を発揮できる。「リボ核酸」という用語は、具体的には、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、およびマイクロRNA(miRNA)を含み、それぞれのRNAは、生体細胞内で特定の役割を果たす。「リボ核酸」という用語は、マイクロRNA(miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、およびPiwi相互作用RNA(piRNA)などの低分子非コードRNAを含む。「非コード」という用語は、RNA分子がアミノ酸配列中に翻訳されていないことを意味する。
「RNA干渉」(RNAi)という用語は、タンパク質合成の一般的な阻害を伴わない遺伝子発現(タンパク質合成)の配列特異的阻害または遺伝子特異的阻害を指す。RNAiは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)によるメッセンジャーRNA(mRNA)の分解を伴って、転写されたmRNAの翻訳を抑制する場合がある。RNAiに起因する遺伝子発現の阻害は、一過性であってもよく、あるいはより安定的でさらに永久的であってもよい。RNAiは、miRNA、siRNA、またはshRNAによって媒介されてもよい。本発明によるRNAiは、遺伝子特異的である(1つの遺伝子のみが標的となる)のが好ましい。遺伝子特異的RNAiは、siRNAまたはshRNAによって媒介されてもよい。
「マイクロRNA」または「miRNA」という用語は、本明細書では互換的に使用される。マイクロRNAは低分子であり、その長さは約22ヌクレオチド(通常の長さは19~25ヌクレオチド)の非コード一本鎖RNAである。miRNAは、典型的には複数の遺伝子を標的とする。マイクロRNAは、真核細胞のゲノム中にコードされ、典型的には、まず70nt長までのヘアピンループ構造へ、続いて22nt長までのRNA二本鎖へのいくつかの工程により加工される長い一次転写物として、RNAポリメラーゼIII によって転写される。次に、活性な熟成鎖をRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)内に導入して、標的タンパク質の翻訳またはそれぞれのmRNAの分解を阻害する。miRNAは不適正な塩基対を標的化でき、mRNAの翻訳抑制は、不完全な相補性(すなわち、低分子干渉RNAのRNA二本鎖のアンチセンス鎖と標的mRNAとの間の不完全な塩基対形成)によって媒介され、siRNAおよびshRNAは、完全な配列相補性(すなわち、低分子干渉RNAのRNA二本鎖のアンチセンス鎖と標的mRNAとの間の完全な塩基対形成)によってそれら標的に対し特異的となる。miRNAは、典型的には、3’非翻訳領域(3’UTR)内で結合して遺伝子特異的にはならないが、複数のmRNAを標的とする。本明細書で使用する「マイクロRNA」という用語は、ヒトmiRNAなどの内因性ゲノム哺乳動物miRNAに関連する。接頭語の「hsa」は、例えば、ヒト由来のマイクロRNAを示す。それらmiRNAは、哺乳動物宿主細胞中のmiRNAの一過性の発現または安定的な発現のためのゲノムマイクロRNA配列を含む発現ベクターを使用して、哺乳動物宿主細胞内に導入されてもよい。ゲノムマイクロRNAを発現ベクター内にクローニングする手段は、当技術分野で公知である。それら手段には、約300bpの隣接領域を有するゲノムmiRNA配列を、プロモーターに作動可能に連結されたpBIP-1などの哺乳動物発現ベクター内にクローニングすることを含む。あるいは、遺伝子操作された予備miRNA配列(すなわち短分子のヘアピン)をコードするポリヌクレオチドとして、1つ以上のマイクロRNAを哺乳動物発現ベクターにクローニングしてもよい。例えば、熟成miRNA配列を、マウスmiRNAであるmir-155に由来する最適化されたヘアピンループ配列ならびに3’および5’隣接領域をコードする所定の配列内にクローニングしてもよい(Lagos-Quintana et al., 2002. Curr. Biol. 30;12(9):735-9)。miRNA配列、上述のループ、およびヘアピンステム中に内部ループを生成するように2ヌクレオチドの欠失を有するそれぞれの熟成miRNAのアンチセンス配列をコードするDNAオリゴヌクレオチドを設計する。さらに両端にクローニング用の突出部を付加して、3’隣接領域および5’隣接領域にDNAオリゴヌクレオチドを融合する。本明細書で使用するmiRNAは、さらに非正規のmiRNAを含む。これらのRNAは、リボソームRNA(rRNA)またはトランスファーRNA(tRNA)を含む「ハウスキーピング」非コードRNA(ncRNA)に由来し、miRNAと類似して機能する。これらのRNAはまた、哺乳動物のミトコンドリアncRNAに由来してもよく、かつミトコンドリアゲノムコード低分子RNA(マイトsRNA)と名付けられる。
本明細書で使用する「低分子干渉」または「低分子干渉RNA」または「siRNA」という用語は、所望の遺伝子を標的とし、かつ相同性を共有する遺伝子の発現を阻害することが可能なヌクレオチドのRNA二本鎖を指す。このRNAは、高分子の二本鎖RNA(dsRNA)またはshRNAから形成される。RNA二本鎖は通常、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、または27の塩基対を形成しかつ2つのヌクレオチドの3’突出部を有する19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、または29ヌクレオチドの2本の相補的な一本鎖RNAを含み、好ましくは、RNA二本鎖は、17~25の塩基対を形成しかつ2つのヌクレオチドの3’突出部を有する19~27ヌクレオチドの2本の相補的な一本鎖RNAを含む。siRNAは遺伝子に「標的化」され、siRNAの二本鎖部分のヌクレオチド配列は、標的化した遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列に相補的である。siRNAまたはその前駆体は常に、例えば直接的にまたは前記siRNAをコードする配列を有するベクターの導入により細胞内に外因的に導入され、内因性のmiRNA経路は、siRNAの正規の加工および標的mRNAの切断または分解のために活用される。二本鎖RNAは、単一の構築物からの細胞内で発現できる。
本明細書で使用する「shRNA」(低分子ヘアピン型RNA)という用語は、siRNAの一部分がヘアピン構造(shRNA)の一部分であるRNA二本鎖を指す。shRNAは細胞内で処理されて機能的なsiRNAにできる。二本鎖部分に加えて、ヘアピン構造は、二本鎖を形成する2つの配列の間に位置するループ部分を含んでもよい。このループの長さは種々に変更できる。いくつかの態様において、ループの長さは4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、または14ヌクレオチドである。ヘアピン構造はまた、3’または5’突出部分も含んでもよい。いくつかの態様において、突出部は、長さが0、1、2、3、4、または5ヌクレオチドの3’または5’突出部である。本発明の一態様において、ベクターに含まれるヌクレオチド配列は、センス領域、ループ領域、およびアンチセンス領域を含む低分子ヘアピン型RNAの発現のための鋳型として機能する。発現した後に、センス領域およびアンチセンス領域は二本鎖を形成する。shRNAは、例えば、前記shRNAをコードする配列を持つベクターの導入によって常に外因的に導入され、内因性のmiRNA経路は、siRNAの正確な加工および標的mRNAの切断または分解のために活用される。shRNAをコードする配列を有するベクターの使用は、標的遺伝子の阻害が典型的には長期的かつ安定的であるので、化学的に合成されたsiRNAの使用よりも有効である。
典型的に、siRNAおよびshRNAは、完璧な配列相補性(すなわち、低分子干渉RNAのRNA二本鎖のアンチセンス鎖と標的mRNAとの間の完全な塩基対形成)によってmRNAの抑制を促すので、それらsiRNAおよびshRNAは、標的特異的になる。RNA二本鎖のアンチセンス鎖は、RNA二本鎖の活性鎖とも呼ばれる。本明細書で使用する完全な塩基対の完璧な配列相補性とは、低分子干渉RNA中のRNA二本鎖のアンチセンス鎖が、少なくとも15連続ヌクレオチド、少なくとも16連続ヌクレオチド、少なくとも17連続ヌクレオチド、少なくとも18連続ヌクレオチド、および好ましくは少なくとも19連続ヌクレオチドにおいて標的mRNAと少なくとも89%の配列同一性を有し、あるいは、好ましくは、少なくとも15連続ヌクレオチド、少なくとも16連続ヌクレオチド、少なくとも17連続ヌクレオチド、少なくとも少なくとも18連続ヌクレオチド、および好ましくは少なくとも19連続ヌクレオチドにおいて標的mRNAと少なくとも93%の配列同一性を有することを意味する。より好ましくは、低分子干渉RNA中のRNA二本鎖のアンチセンス鎖は、少なくとも15連続ヌクレオチド、少なくとも16連続ヌクレオチド、少なくとも17連続ヌクレオチド、少なくとも18連続ヌクレオチド、および好ましくは少なくとも19連続ヌクレオチドにおいて標的mRNAと少なくとも100%の配列同一性を有する。
「ベクター」は、異種ポリヌクレオチドを細胞中に導入するように使用できる核酸である。ベクターの1つの型は「プラスミド」であり、このプラスミドは、付加した核酸断片を連結できる線形状または環状の二本鎖DNA分子を指す。別の型のベクターは、ウイルスベクター(例えば、複製欠失レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)であり、付加したDNAまたはRNA断片をウイルスゲノム中に導入できる。好ましくは、このベクターは、宿主細胞中への導入および所定圧力の下での培養時に宿主細胞のゲノム内に組込まれる非エピソーム哺乳動物ベクターであり、それにより宿主ゲノムとともに複製される。このベクターは、細胞内での所定のポリヌクレオチドの発現を導くように使用できる。
「コードする」という用語は、広い意味で、高分子重合体中の情報を使用して、第1の分子とは異なる第2の分子の生成を実施する任意の工程を指す。この第2分子は、第1分子の化学的性質とは異なる化学構造を有してもよい。例えばいくつかの態様において、「コードする」という用語は、半保存的DNA複製の工程を指していて、この工程では、二本鎖DNA分子中の1本の鎖を鋳型として使用して、DNA依存のDNAポリメラーゼによって新規に合成した相補的な姉妹鎖にコードする。他の態様において、DNA分子はRNA分子を(例えば、DNA依存のRNAポリメラーゼ酵素を使用する転写工程によって)コードできる。また翻訳工程のように、RNA分子はポリペプチドをコードできる。翻訳工程の説明に使用する際に、「コードする」という用語はまた、アミノ酸をコードする三重コドンにまで広げられる。いくつかの態様において、RNA分子は、例えばRNA依存のDNAポリメラーゼを組込む逆転写工程によってDNA分子をコードできる。別の態様において、DNA分子はポリペプチドをコードでき、その場合には、使用される「コードする」という用語は転写および翻訳の両工程を含むことが分かる。
本明細書で使用する「遺伝子クラスター」という用語は、関連または類似のタンパク質の群をコードし、かつ通常同一の染色体上で共に群となる密接に関連する遺伝子の組またはファミリーを包含するゲノムDNAの断片を指す。遺伝子クラスターはゲノムDNAの断片を含み、このクラスターではタンパク質の群のすべてのコード配列が配置され、かつコード配列の前の領域(リーダー)および後の領域(トレーラー)、ならびに個々のコード配列断片(エクソン)の間の介在配列(イントロン)、さらに最も広い意味での遺伝因子を含み、この遺伝因子としては、限定はされないが、転写調節因子、プロモーター因子、エンハンサー因子、およびリプレッサー因子が挙げられる。一般に遺伝子クラスターは、遺伝子クラスターの最初(5’)のタンパク質コード遺伝子から遺伝子クラスターの最後(3’)のタンパク質コード遺伝子までを範囲とするゲノム断片の全体を含む。
「S100A遺伝子クラスター」は、カルシウム結合タンパク質S100A1、S100A3、S100A4、S100A5、S100A6、S100A13、S100A14、およびS100A16の群をコードするチャイニーズハムスターゲノムDNAの断片を指す。この断片は、S100A1タンパク質をコードする最も上流の遺伝子、およびS100A6タンパク質をコードする最も下流の遺伝子を含む。「S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスター」という用語は、S100A遺伝子クラスターに含まれ、かつS100A3タンパク質をコードする遺伝子からS100A6タンパク質(配列番号4)をコードする遺伝子まで到達するゲノムDNAの断片を指す。「S100A1」とは、モンゴルキヌゲネズミからのタンパク質S100A1、およびそれをコードする遺伝子(S100A1遺伝子、NCBI遺伝子ID:100769478)を指す。「S100A3」とは、モンゴルキヌゲネズミからのタンパク質S100A3、およびそれをコードする遺伝子(S100A3遺伝子、NCBI遺伝子ID:100770814)を指す。「S100A4」とは、モンゴルキヌゲネズミからのタンパク質S100A4、およびそれをコードする遺伝子(S100A4遺伝子、NCBI遺伝子ID:100770532)を指す。「S100A5」とは、モンゴルキヌゲネズミからのタンパク質S100A5、およびそれをコードする遺伝子(S100A5遺伝子、NCBI遺伝子ID:100771097)を指す。「S100A6」とは、モンゴルキヌゲネズミからのタンパク質S100A6、およびそれをコードする遺伝子(S100A6遺伝子、NCBI遺伝子ID:100771384)を指す。「S100A13」とは、モンゴルキヌゲネズミからのタンパク質S100A13、およびそれをコードする遺伝子(S100A13遺伝子、NCBI遺伝子ID:100769763)を指す。「S100A14」とは、モンゴルキヌゲネズミからのタンパク質S100A14、およびそれをコードする遺伝子(S100A14遺伝子、NCBI遺伝子ID:100770053)を指す。「S100A16」とは、モンゴルキヌゲネズミからのタンパク質S100A16、およびそれをコードする遺伝子(S100A16遺伝子、NCBI遺伝子ID:100753026)を指す。
「対立遺伝子」という用語は、遺伝子、遺伝子標的領域、または一般に単一の部位すなわち染色体位置でのDNA配列とは異なる形態のうちのいずれかの形態を指す。これには、コード配列、非コード配列、および調節配列が含まれる。ゲノム内の種々の対立遺伝子は、ヌクレオチド配列は必ずしも同一ではない。
「抗体」という用語は、免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされる1つ以上のポリペプチドからなるタンパク質を指す。分かっている免疫グロブリン遺伝子として、κ、λ、α、γ、δ、ε、およびμの各定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が挙げられる。「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は互換的に使用され、限定はされないが、免疫グロブリンについて上述した構造的特徴を有する糖タンパク質を示すのに使用される。
「抗体」という用語は、本明細書ではその最も広い意味で使用され、(全長モノクローナル抗体を含む)モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、単一ドメイン抗体、および抗体断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab)2、または抗体の他の抗原結合部分配列など)を含む。この「抗体」という用語は、抗体複合体および融合抗体も含む。全長「抗体」または「免疫グロブリン」は一般に、2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖からなる約150kDaのヘテロ四量体の糖タンパク質である。それぞれの軽鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に結合され、このジスルフィド結合の数は、種々の免疫グロブリンのアイソタイプの重鎖間で異なっている。それぞれの重鎖および軽鎖はさらに、一定の間隔で鎖内にジスルフィド架橋を持つ。それぞれの重鎖は、アミノ末端可変ドメイン(VH)に続いて3つのカルボキシ末端定常ドメイン(CH)を持つ。それぞれの軽鎖は、可変N末端ドメイン(VL)および単一のC末端定常ドメイン(CL)を持つ。「抗体」という用語はさらに、同一の特異性(可変ドメイン)および同一の定常ドメインを有する複数の個々の抗体を含む抗体の型を指している。
「融合タンパク質」は、完璧な配列または2つ以上の本来は分離した天然のまたは修飾した異種タンパク質の任意の配列部分、あるいは完璧な配列または2つ以上の本来は分離した天然のまたは修飾した異種タンパク質の任意の配列部分の組成を含むタンパク質として定義される。この融合タンパク質は、2つ以上の本来は別個で天然のまたは異種のタンパク質またはその部分を元々コードしている2つ以上の遺伝子またはその部分を融合する遺伝子工学的手法によって構築できる。これにより、本来の各タンパク質に由来する機能性を備えた融合タンパク質が得られる。この融合タンパク質には、限定はされないが、Fc融合タンパク質が含まれる。
「サイトカイン」という用語は、細胞が放出し、例えば分泌細胞の周りの細胞の挙動に影響を与える細胞間での媒介物質として作用する低分子タンパク質を指す。このサイトカインは、T細胞、B細胞、NK細胞、マクロファージなどの免疫細胞またはその他の細胞から分泌される場合がある。サイトカインは、自己分泌シグナル伝達、傍分泌シグナル伝達、および内分泌シグナル伝達などの細胞間シグナル伝達現象に関与する可能性がある。それらは、限定はされないが、免疫、炎症、および造血を含む一連の生体過程を媒介する可能性がある。サイトカインは、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン、または腫瘍壊死因子であってもよい。
本明細書で使用する「成長因子」は、細胞成長を刺激することが可能なタンパク質またはポリペプチドを指す。それら成長因子として、限定はされないが、インスリン、上皮成長因子(EGF)、エフリン(Eph)、エリスロポエチン、グリア細胞刺激因子(GSF);マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、および顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を含むコロニー刺激因子(CSF);幹細胞増殖因子(SCGF)(スチール因子とも呼ぶ);間質細胞由来因子(SDF)、その有効な断片、およびその組合せ;および血管内皮成長因子(VEGF)が挙げられる。他の成長因子として、肝細胞成長因子(HGF)、アンジオポエチン-1、アンジオポエチン-2、b-FGF、およびFLT-3リガンド、およびそれらの有効な断片を挙げることができる。
本明細書で使用する「発現」という用語は、宿主細胞内の異種核酸配列の転写および/または翻訳を指す。宿主細胞中での目的の遺伝子産物の発現水準は、細胞内に存在する対応するRNAの量、または選択配列によりコードされるポリペプチドの量のいずれかに基づいて決定できる。例えば、選択配列から転写されたRNAは、細胞RNAへのノーザンブロットハイブリダイゼーション法、リボ核酸分解酵素RNA保護法、およびその場ハイブリダイゼーション法によって、またはqPCRなどのPCR法によって定量できる。選択配列によってコードされたタンパク質は、例えばELISA法、ウエスタンブロット法、放射免疫測定法、免疫沈降法、タンパク質の生体活性測定法、タンパク質の免疫染色それに続くFACS分析法、または均質な時間分解蛍光(HTRF)測定法などの種々の方法により定量できる。miRNAまたはshRNAなどの非コードRNAの発現水準は、qPCRなどのPCR法で定量してもよい。
「遺伝子産物」という用語は、遺伝子またはDNAポリヌクレオチドによってコードされるRNAポリヌクレオチドおよびポリペプチドの両方を指す。
本明細書で使用する「マーカー遺伝子」は、細胞内での発現により、選択可能または識別可能な表現型(例えば、抗生物質耐性、蛍光タンパク質またはレポーター遺伝子の発現、修飾された代謝など)を細胞に付与するポリヌクレオチドを意味する。
本明細書で使用する「レポーター遺伝子」は、宿主細胞による発現を検出および定量できるタンパク質をコードするポリヌクレオチドである。従って、レポーターの発現水準の測定により、典型的には、宿主細胞ゲノム内のレポーターをコードする遺伝子(レポーター遺伝子)の発現を促すプロモーター要素の活性水準が示される。例えば、レポーター遺伝子は、アルカリ脱リン酸化酵素(AP)、クロラムフェニコールアセチル転移酵素(CAT)、ウミシイタケ発光酵素、またはホタル発光酵素の各タンパク質など、例えば活性度を定量できる酵素であるタンパク質をコードできる。レポーターとしてはまた、蛍光タンパク質を含み、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)または増強したGFPを含むいずれかの組換え変異体(EGFP)、青色蛍光タンパク質(BFPおよびその他の派生物)、シアン蛍光タンパク質(CFPおよびその他の派生物)、黄色蛍光タンパク質(YFPおよびその他の派生物)、および赤色蛍光タンパク質(RFPおよびその他の派生物)が挙げられる。
「選択可能マーカー遺伝子」または「選択マーカー遺伝子」は、選択マーカーをコードし、かつ典型的には対応する「選択剤」を培養培地に添加してこの遺伝子を含む細胞の特定の選択を可能にする遺伝子である。一例として、抗生物質耐性遺伝子を陽性選択マーカーとして使用してもよい。この遺伝子により形質転換された細胞のみが、対応する抗生物質の存在下で成長でき、それにより選択される。他方では、形質転換されていない細胞は、これらの選択条件下では成長または生存できない。陽性、陰性、および両機能を持つ選択マーカーがあり、陽性選択マーカーは、選択剤に対する耐性を付与して、または宿主細胞中の代謝欠損または異化欠損を補って、形質転換細胞の選択かつそれによる濃縮を可能にする。逆に、選択マーカーの遺伝子を受容した細胞は、陰性選択マーカーによって選択的に排除できる。この例としては、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子が挙げられ、アシクロビルまたはガンシクロビルの同時添加による細胞内でのその遺伝子の発現により、その排除が可能になる。本発明で有用な選択マーカー遺伝子には、増幅可能な選択可能マーカーも含まれる。文献には、両機能性(陽性/陰性)マーカーを含む多数の選択マーカー遺伝子が記載されている(例えば、WO92/08796およびWO94/28143を参照)。本発明で有用な選択マーカーの例としては、限定はされないが、アミノグリコシドリン酸転移酵素(APH)、ヒグロマイシンリン酸転移酵素(HYG)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、チミジンキナーゼ(TK)、グルタミン合成酵素、アスパラギン合成酵素の各遺伝子、およびネオマイシン(G418/ジェネチシン)、ピューロマイシン、ヒスチジノールD、ブレオマイシン、フレオマイシン、ブラストサイジン、およびゼオシンに対し耐性を付与する各遺伝子が挙げられる。また、選択マーカーがその選択性能を保持しているなら、他のタンパク質またはペプチドにより遺伝子改変された変異体および異性体、断片、機能的等価物、派生物、相同体、および融合体も含まれる。これら派生物には、選択可能と見做される領域またはドメインに相当なアミノ酸配列の相同性がある。
この選択では、例えば細胞表面マーカー、細菌β-ガラクトシダーゼ、または蛍光タンパク質を使用して蛍光活性化細胞選別(FACS)法を実施し、組換え細胞を選択してもよい。なお蛍光タンパク質は、例えば、オワンクラゲおよびウミシイタケまたはその他の種からの緑色蛍光タンパク質(GFP)およびそれらの変異体、ならびに非生物発光種(例えば、ディスコソマ種、アネモニア種、クラブラリア種、およびゾアンサス種)からの赤色蛍光タンパク質、蛍光タンパク質、およびそれらの変異体である。
「選択剤」または「選択可能剤」という用語は、選択剤の効果を低減する特定の選択マーカー遺伝子産物が細胞内に存在しない場合に、細胞の成長または生存を妨げる物質を指す。例えば、導入された細胞内のアミノグリコシドリン酸転移酵素(APH)のような抗生物質耐性遺伝子の存在を選択するために、抗生物質であるジェネテシン(G418)が使用される。
「増幅可能な選択マーカー遺伝子」は通常、特定の培養条件下で真核細胞の成長に必要な酵素をコードする。例えば、この増幅可能な選択マーカー遺伝子には、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)またはグルタミン合成酵素(GS)をコードしてもよい。この場合には、選択剤であるメトトレキサート(MTX)またはメチオニンスルホキシミン(MSX)の存在下で、それら導入された宿主細胞がそれぞれ培養されるなら、マーカー遺伝子は増幅される。増幅可能な選択マーカー遺伝子に結合された配列(すなわち物理的にそれに近接する配列)は、増幅可能な選択マーカー遺伝子と共に増幅される。前記共に増幅される配列は、同じ発現ベクターまたは別個のベクターに導入されてもよい。
以下の表1に、本発明に従って使用できる増幅可能な選択マーカー遺伝子およびそれに関連する選択剤の非限定的な例を示す。適切な増幅可能な選択マーカー遺伝子は、カウフマンによる概説にも記載されている(Kaufman RJ, 1990. Methods Enzymol. 185:537-566)。
本発明によれば、好ましい増幅可能選択マーカー遺伝子は、GSまたはDHFRの機能を有するポリペプチドをコードする遺伝子である。
「部位特異的組換え酵素」という用語は、特定のヌクレオチド配列(認識部位)を認識し、これらの部位でDNA骨格を切断し、再配列を行い、かつ切断したヌクレオチド配列を再結合するタンパク質を指す。前記組換え酵素は、例えば、一対の認識部位間のDNAを切除し、および切除したDNA断片に代えて目的のポリヌクレオチドをその後に組込むことを可能にし、それにより遺伝情報の正確な部位特異的交換を提供する。いくつかの部位特異的組換え酵素が当技術分野では公知である。例えば、Cre組換え酵素は、loxP組換え部位、またはヘテロ特異的であるlox511組換え部位のいずれかを認識し。これはloxPとlox511は互いに再組換えしないことを意味する。このCre/lox系は、例えば、Odell et al., Plant Physiol. 1994, 106(2), 447-58に説明されている。Flp組換え酵素は、例えばLyznik et al., Nucleic Acids Res. 1996, 24(19), 3784-9に説明されるように、frt組換え部位を認識する。φC31インテグラーゼは、例えばGroth et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2000, 97(11), 5995-6000に説明されるように、attB(ドナー)およびattP(アクセプター)などの付着(att)部位を認識する。Dre組換え酵素は、例えば、米国特許第7,422,889号に説明されるように、rox部位を認識する。バクテリオファージλ(λインテグラーゼ)からのInt組換え酵素およびその組換え部位は、Landy, Annu. Rev. Biochem. 1989, 58, 913-49に説明されている。
本発明によれば、「配列特異的DNA編集酵素」または「部位特異的核酸分解酵素」は、所定のヌクレオチド配列(認識部位)でのDNAの切断を可能にするタンパク質である。前記切断は、2つの相補的DNA鎖の一方または両方で起こり、それにより、例えば、標的を絞った突然変異誘発、特定のゲノムDNA配列の標的を絞った欠失を可能にするか、あるいは切断された標的DNAの異種ポリヌクレオチドによる部位特異的な組換えをもたらす。前記編集酵素の配列特異性は、編集酵素内の1つ以上の配列特異的DNA結合タンパク質ドメイン、あるいはDNA配列に誘導するガイドポリヌクレオチド(例えばガイドRNA)を結合する酵素に起因する可能性があり、このDNA配列はこのガイドポリヌクレオチドに対し少なくとも部分的に相補性を有する。従って、前記編集酵素の認識部位は、DNA結合タンパク質ドメインを操作して、あるいは代替のガイドポリヌクレオチドを使用して改変されてもよい。複数の配列特異的DNA編集酵素は、当技術分野で公知であり、その非限定的な例として、ジンクフィンガー核酸分解酵素(ZFN)、メガ核酸分解酵素、転写活性化因子様エフェクター核酸分解酵素(TALEN)、およびCRISPR関連核酸分解酵素が挙げられる。
本特許で使用される「安定的な組込み」または「安定的に組込まれる」という用語は、宿主細胞のゲノムDNAから離れたまま一時的に導入されるポリヌクレオチドとは異なり、宿主細胞ゲノム内に導入される異種ポリヌクレオチドを指す。相同的な組換えまたはその他の組換え法によって、安定的な組込みを引き起こすことができる。安定的な組込みは、異種ポリヌクレオチドを宿主細胞に一時的に導入する工程を含んでもよい。
S100A遺伝子クラスター内への1つ以上の異種ポリヌクレオチドの安定的な組込み
本発明は、CHO細胞ゲノムのS100A遺伝子クラスター内に安定的に組込まれた少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含むCHO細胞に関し、(a)少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの上流で、配列番号1の配列に対応するゲノム標的領域(上流のゲノム標的領域と呼ぶ)内に組込まれ、および/または(b)少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの下流で、配列番号2のヌクレオチド1~15,120の配列に対応するゲノム標的領域(下流のゲノム標的領域と呼ぶ)内に組込まれる。
S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターは、S100カルシウム結合タンパク質A3(S100A3)、S100カルシウム結合タンパク質A4(S100A4)、S100カルシウム結合タンパク質A5(S100A5)、およびS100カルシウム結合タンパク質A6(S100A6)をこの述べた順にコードする、すなわちS100A3から開始してS100A6の終了までの領域をコードするチャイニーズハムスター遺伝子を含むゲノム領域を指す。なおこのS100A6は、モンゴルキヌゲネズミには配置されていないゲノム骨格であるCriGri_1.0骨格682、すなわちCHO-K1細胞株の全ゲノムショットガン配列の1,782,882~1,810,338;NCBI参照配列:NW_003613854.1、および配列番号4の配列またはその相同体に対応する。S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの上流のゲノム標的領域は、配列番号1の配列に対応するゲノム領域を指す。S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの下流のゲノム標的領域は、配列番号2のヌクレオチド1~15,120の配列に対応するゲノム領域を指す。
一態様において、少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、配列番号1のヌクレオチド30~19,000、配列番号1のヌクレオチド2,940~19,000、配列番号1のヌクレオチド4,740~19,000、配列番号1のヌクレオチド6,480~19,000、配列番号1のヌクレオチド8,280~19,000、配列番号1のヌクレオチド10、020~19、000、または配列番号1のヌクレオチド11、820~19、000に対応する上流のゲノム標的領域内に、好ましくは、配列番号1のヌクレオチド11,820~18,720、配列番号1のヌクレオチド13,560~18,720、配列番号1のヌクレオチド15,360~18,720、または配列番号1のヌクレオチド17,100~18,720に対応する上流のゲノム標的領域内に、およびより好ましくは、配列番号1のヌクレオチド11,820~18,380、配列番号1のヌクレオチド13,560~18,380、または配列番号1のヌクレオチド17,100~18,380に対応する上流のゲノム標的領域内に安定的に組込まれる。
別の態様において、少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、配列番号2のヌクレオチド1~13,160、配列番号2のヌクレオチド1~12,000、または配列番号2のヌクレオチド1~10,260に対応する下流のゲノム標的領域内に、好ましくは配列番号2のヌクレオチド660~10,260、配列番号2のヌクレオチド1,320~10,260、または配列番号2のヌクレオチド1,480~10,260に対応する下流のゲノム標的領域内に、およびより好ましくは、配列番号2のヌクレオチド3,180~10,260、配列番号2のヌクレオチド4,920~9,000、または配列番号2のヌクレオチド6,720~8,460に対応する下流のゲノム標的領域内に安定的に組込まれる。
別の態様において、少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、上記に開示されるように、上流のゲノム標的領域および下流のゲノム標的領域内に安定的に組込まれる。少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドが上流のゲノム標的領域内に組込まれ、かつ少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドが下流のゲノム標的領域内に安定的に組込まれる場合に、ゲノム標的領域は同一であっても、異なっていてもよい。
当業者なら、1つの異種ポリヌクレオチドの単一コピー、複数のコピー、または2つ以上の異なる異種ポリヌクレオチドを、上流のゲノム標的領域内に、下流のゲノム標的領域内に、または上流のゲノム標的領域および下流のゲノム標的領域内に安定的に組込んでよいことは分かっている。
少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、ゲノム標的領域の一方または両方の対立遺伝子内に安定的に組込まれてもよい。
別の態様において、本発明は、(a)CHO細胞を提供する工程、および(b)前記CHO細胞内に異種ポリヌクレオチドを導入する工程を含むCHO細胞を産生する方法に関し、異種ポリヌクレオチドは、CHO細胞ゲノムのS100A遺伝子クラスター内に安定的に組込まれ、(i)前記異種ポリヌクレオチドは、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの上流で、配列番号1の配列に対応するゲノム標的領域中に安定的に組込まれ、および/または(ii)前記異種ポリヌクレオチドは、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの下流で、配列番号2のヌクレオチド1~15,120の配列に対応するゲノム標的領域内に組込まれる。
一態様において、少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、配列番号1のヌクレオチド30~19,000、配列番号1のヌクレオチド2,940~19,000、配列番号1のヌクレオチド4,740~19,000、配列番号1のヌクレオチド6,480~19,000、配列番号1のヌクレオチド8,280~19,000、配列番号1のヌクレオチド10,020~19、000、または配列番号1のヌクレオチド11,820~19、000に対応する上流のゲノム標的領域内に、好ましくは、配列番号1のヌクレオチド11,820~18,720、配列番号1のヌクレオチド13,560~18,720、配列番号1のヌクレオチド15,360~18,720、または配列番号1のヌクレオチド17,100~18,720に対応する上流のゲノム標的領域内に、およびより好ましくは、配列番号1のヌクレオチド11,820~18,380、配列番号1のヌクレオチド15,360~18,380、または配列番号1のヌクレオチド17,100~18,380に対応する上流のゲノム標的領域内に安定的に組込まれる。
別の態様において、少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、配列番号2のヌクレオチド1~13,160、配列番号2のヌクレオチド1~12,000、または配列番号2のヌクレオチド1~10,260に対応する下流のゲノム標的領域内に、好ましくは配列番号2のヌクレオチド660~10,260、配列番号2のヌクレオチド1,320~10,260、または配列番号2のヌクレオチド1,480~10,260に対応する下流のゲノム標的領域内に、およびより好ましくは、配列番号2のヌクレオチド3,180~10,260、配列番号2のヌクレオチド4,920~9,000、または配列番号2のヌクレオチド6,720~8,460に対応する下流のゲノム標的領域内に安定的に組込まれる。
別の態様において、本発明のCHO細胞または本発明の方法によって産生されたCHO細胞のゲノム内に安定的に組込まれた異種ポリヌクレオチドは、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの上流で、配列番号1の配列またはその配列に対し少なくとも80%の相同性を有するゲノム標的領域内に組込まれ、および/または(ii)前記異種ポリヌクレオチドは、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの下流で、配列番号2のヌクレオチド1~15,120の配列またはその配列に対し少なくとも80%の相同性を有するゲノム標的領域内に組込まれる。
一態様において、少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、配列番号1のヌクレオチド30~19,000、配列番号1のヌクレオチド2,940~19,000、配列番号1のヌクレオチド4,740~19,000、配列番号1のヌクレオチド6,480~19,000、配列番号1のヌクレオチド8,280~19,000、配列番号1のヌクレオチド10,020~19,000、または配列番号1のヌクレオチド11,820~19,000の配列、あるいはそれら配列に対し少なくとも80%の相同性を有する上流のゲノム標的領域内に、好ましくは、配列番号1のヌクレオチド11,820~18,720、配列番号1のヌクレオチド13,560~18,720、配列番号1のヌクレオチド15,360~18,720、または配列番号1のヌクレオチド17,100~18,720の配列、あるいはそれら配列に対し少なくとも80%の相同性を有する上流のゲノム標的領域内に、およびより好ましくは、配列番号1のヌクレオチド11,820~18,380、配列番号1のヌクレオチド15,360~18,380、または配列番号1のヌクレオチド17,100~18,380の配列、あるいはそれら配列に対し少なくとも80%の相同性を有する上流のゲノム標的領域内に安定的に組込まれる。
別の態様において、少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、配列番号2のヌクレオチド1~13,160、配列番号2のヌクレオチド1~12,000、または配列番号2のヌクレオチド1~10,260の配列、あるいはそれら配列に対し少なくとも80%の相同性を有する下流のゲノム標的領域内に、好ましくは配列番号2のヌクレオチド660~10,260、配列番号2のヌクレオチド1,320~10,260、または配列番号2のヌクレオチド1,480~10,260の配列、あるいはそれら配列に対し少なくとも80%の相同性を有する下流のゲノム標的領域内に、およびより好ましくは、配列番号2のヌクレオチド3,180~10,260、配列番号2のヌクレオチド4,920~9,000、または配列番号2のヌクレオチド6,720~8,460の配列、あるいはそれら配列に対し少なくとも80%の相同性を有する下流のゲノム標的領域内に安定的に組込まれる。
別の態様において、本発明のCHO細胞または本発明の方法によって産生されたCHO細胞のゲノム内に安定的に組込まれた異種ポリヌクレオチドは、上記に開示したように、上流のゲノム標的領域内におよび下流のゲノム標的領域内に安定的に組込まれる。少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドが上流のゲノム標的領域内に組込まれ、かつ少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドが下流のゲノム標的領域内に組込まれる場合に、ゲノム標的領域は同一であっても、異なっていてもよい。
当業者なら、1つの異種ポリヌクレオチドの単一コピー、複数のコピー、または2つ以上の異なる異種ポリヌクレオチドを、上流のゲノム標的領域内に、下流のゲノム標的領域内に、または上流のゲノム標的領域および下流のゲノム標的領域内に安定的に組込んでよいことは分かっている。
少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、ゲノム標的領域の一方または両方の対立遺伝子内に安定的に組込まれてもよい。
安定的な組込み方法は、当技術分野で周知である。簡潔に言えば、安定的な組込みは、一般的に、少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドまたは少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含むベクターをCHO宿主細胞内に一時的に導入することで達成され、これによりCHO細胞ゲノム内への前記異種ポリヌクレオチドの安定的な組込みが容易になる。典型的には、異種ポリヌクレオチドは、相同性アーム、すなわち組込み部位に対して上流および下流にある領域に相同な配列に隣接している。異種ポリヌクレオチドを本発明のCHO細胞内に導入するベクターは、例えばプラスミド、レトロウイルス、コスミド、EBV由来エピソームなどのかなり多くの適切なベクター系から選択してもよい。各種のシャトルベクター、例えば大腸菌およびシュードモナス属などの複数の宿主微生物中で自律的に複製できるベクターを使用してもよい。CHO宿主細胞内への異種ポリヌクレオチドの導入前に、CHO細胞ゲノムへの組込みを促進するように、環状ベクターは線形にしてもよい。ベクターをCHO細胞中に導入する方法は、当技術分野で周知であり、ウイルス送達などの生物学的方法、カチオン性ポリマー、リン酸カルシウム、カチオン性脂質、またはカチオン性アミノ酸を使用する化学的方法、電気穿孔法や微量注入法などの物理的方法、または原形質融合などの混合手法による導入を含む。
組換え細胞の識別または選択を可能にするように、少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、好ましくは同一のベクターに存在する選択マーカー遺伝子またはレポーター遺伝子とともに組込まれてもよい。さらにベクターは、多くの場合に、相同性アームの外側にマーカーを含み、ランダムな組込みを識別できる。
一態様において、本発明のCHO細胞のゲノム内に、または本発明の方法によって産生されるCHO細胞のゲノム内に安定的に組込まれた異種ポリヌクレオチドは、発現カセットの一部分である。発現カセットは、プロモーターに作動可能に連結されたRNAおよび/またはタンパク質などの遺伝子産物、および遺伝子産物の発現を制御する任意のさらなる手段をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含む。この手段としては、限定はされないが、エンハンサー、終結シグナル、ポリアデニル化シグナル、および通常ポリアデニル化部位を含む3’非翻訳領域が挙げられる。このプロモーターは、弱いプロモーターであってもよく、または目的の遺伝子産物を高水準に発現する強いプロモーターであってもよい。前記プロモーターとして、限定はされないが、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、SV40(サル空胞ウイルス40)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、アデノウイルスプロモーター(例えば、アデノウイルス主要遅延プロモーター(AdMLP))、CHEF-1(CHO由来伸長因子-1)プロモーター、ポリオーマ、ならびに天然免疫グロブリンおよびアクチンプロモーターまたは少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドの天然プロモーターなどの強力な哺乳動物プロモーターが挙げられ、好ましくは、CMVプロモーターまたはSV40プロモーターであり、最も好ましくはCMVプロモーターである。ポリアデニル化シグナルの例として、BGHポリA、SV40遅延ポリAまたはSV40早期ポリAであり、あるいは免疫グロブリン遺伝子の3’ 非翻訳領域(UTR)などを使用できる。当業者なら、例えばARE(アデニル酸-ウリジル酸に富む要素)などの不安定要素を排除することで、高水準の発現をもたらすように3’UTRを操作し得ることがさらに分かる。
いくつかの態様において、遺伝子産物は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、グルタミン合成酵素(GS)などの増幅可能な遺伝子選択マーカーにより制御してもよい。この増幅可能な選択マーカー遺伝子は、分泌治療用タンパク質の発現カセットと同一の発現ベクター上に配置してもよい。あるいは、増幅可能な選択マーカー遺伝子および分泌治療用タンパク質の発現カセットを、異なる発現ベクターに配置してもよいが、宿主細胞のゲノム内に近接して組込んでもよい。例えば、同時に導入される2つ以上のベクターは、多くの場合に、宿主細胞のゲノム内に近接して組込まれる。次いで、分泌治療用タンパク質の発現カセットを含む遺伝子領域の増幅は、増幅剤(例えば、DHFRの場合にはMTX、またはGSの場合にはMSX)を培養培地内に添加して媒介される。
宿主細胞または産生細胞中の遺伝子産物の十分に高い安定性は、例えば、異種ポリヌクレオチドの複数コピーを発現ベクター内にクローニングして達成できる。上述のように異種ポリヌクレオチドの複数コピーの発現ベクター内へのクローニングおよび分泌治療用タンパク質の発現カセットの増幅を、さらに組合わせてもよい。
目的の遺伝子産物をコードする少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、全長遺伝子または切断遺伝子、融合遺伝子、またはタグ付き遺伝子を含んでもよく、cDNA、ゲノムDNA、またはDNA断片、好ましくはcDNAであってもよい。この遺伝子産物は、天然配列、すなわち天然に存在する形態を含んでもよく、または必要に応じて変異または他の方法で修飾されてもよい。これらの修飾としては、選択した宿主細胞内でコドンの使用を適正にするコドン最適化、ヒト化、融合、またはタグ付けが挙げられる。当業者なら、2つ以上の異種ポリヌクレオチドが、本発明のCHO細胞のゲノム内に、または本発明の方法により産生されるCHO細胞のゲノム内に安定的に組込まれる場合には、これらの異種ポリヌクレオチドは、2つ以上の発現カセットまたは例えばIRES(内部リボソーム進入部位)配列により区分された同一発現カセットの一部分によってコードされてもよいことが分かる。
別の態様において、異種ポリヌクレオチドは、少なくとも1つの目的のタンパク質および/または少なくとも1つの目的のRNAをコードする。目的のRNAには、限定はされないが、メッセンジャーRNA(mRNA)、およびマイクロRNA(miRNA)または低分子ヘアピン型RNA(shRNA)などの低分子調節RNAが含まれる。この目的のRNAは、好ましくはmRNA、miRNA、またはshRNA、より好ましくはmRNA、またはshRNAからなる群より選択される。低分子調節RNAは、1つ以上の宿主細胞タンパク質をコードするmRNA内の標的領域に結合して、前記1つ以上の宿主細胞タンパク質の発現を妨げることができる。
当業者なら、異種ポリヌクレオチドがコードする低分子調節RNAを使用して、栄養代謝、栄養摂取、転写、翻訳、タンパク質の折畳み、折畳みのないタンパク質応答、プログラム細胞死、細胞間または細胞内シグナル伝達、細胞周期制御、細胞増殖、またはタンパク質分泌などの宿主細胞内中の該当過程に干渉できることが分かる。従って、本発明を有効に使用し、CHO宿主細胞を操作して細胞培養またはタンパク質産生でのそれら細胞の特性を改善することができる。
目的のRNAおよび/または目的のタンパク質は、構造に応じて発現してもよく、または条件に応じて発現してもよい。例えば、目的のRNAまたは目的のタンパク質の発現は、成長段階中は休止状態にでき、タンパク質産生中には稼働状態にできる。
本発明のCHO細胞のゲノム内に、または本発明の方法により産生または使用されるCHO細胞のゲノム内に安定的に組込まれる少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドがコードする目的のタンパク質は、抗体、融合タンパク質、サイトカインまたは成長因子、リンホカイン、接着分子、受容体およびその派生物または断片、ならびにアゴニストまたはアンタゴニストとして機能しおよび/または治療用途または診断用途に使用できる任意の他のポリペプチドからなる群より選択される治療用タンパク質であってもよい。好ましくは、この治療用タンパク質は分泌治療用タンパク質である。異種ポリヌクレオチドがコードする治療用タンパク質は、組換えタンパク質であってもよく、好ましくは分泌組換えタンパク質であってもよい。治療用タンパク質は、好ましくは、抗体、融合タンパク質、サイトカインまたは成長因子、より好ましくは抗体または融合タンパク質、最も好ましくは抗体からなる群より選択される。抗体などの多量体タンパク質は、1つ以上の発現カセットの一部として1つ以上の異種ポリヌクレオチドがコードしていてもよい。
当業者なら、本発明のCHO細胞のゲノム内に、または本発明の方法により産生されるCHO細胞のゲノム内に安定的に組込まれる少なくとも1つのポリヌクレオチドが、少なくとも1つの目的のRNAおよび少なくとも1つの目的のタンパク質の両方をコードし、CHO細胞中の該当過程の前記修飾を目的の異種タンパク質の発現と有効に組み合わせて、高水準および/または高安定性のタンパク質の産生、高水準および/または高安定性のタンパク質分泌、および/または翻訳後タンパク質修飾の特定の量および品質を達成することを容易にできることは分かっている。
別の態様において、本発明のCHO細胞のゲノム内に、または本発明の方法により産生されるCHO細胞のゲノム内に安定的に組込まれる少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、マーカー遺伝子である。このマーカー遺伝子は、組換え細胞と非組換え細胞との間の区別、および/または目的の遺伝子産物の発現水準の定量を可能にする任意の遺伝子であってもよい。マーカー遺伝子は、レポーター遺伝子または選択マーカー遺伝子であってもよい。選択マーカーは、例えばグルタミン合成酵素(GS)欠損などの利用されるCHO宿主細胞の代謝異常を修正できる。レポーター遺伝子は、アルカリ脱リン酸化酵素(AP)、クロラムフェニコールアセチル転移酵素(CAT)、ウミシイタケ発光酵素、またはホタル発光酵素の各タンパク質であってもよい。レポーター遺伝子はまた、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)または増強したGFPを含むGFPのいずれかの組換え変異体(EGFP)、青色蛍光タンパク質(BFPおよびその他の派生物)、シアン蛍光タンパク質(CFPおよびその他の派生物)、黄色蛍光タンパク質(YFPおよびその他の派生物)、および赤色蛍光タンパク質(RFPおよびその他の派生物)などの蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含む。好ましい態様において、レポーター遺伝子は、GFPまたはEGFPなどの蛍光タンパク質であってもよい。選択マーカーはさらに、アミノグリコシドリン酸転移酵素(APH)、ハイグロマイシンリン酸転移酵素(HYG)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、チミジンキナーゼ(TK)、グルタミン合成酵素、アスパラギン合成酵素、およびネオマイシン(G418/ジェネチシン)、ピューロマイシン、ヒスチジノールD、ブレオマイシン、フレオマイシン、ブラストサイジン、およびゼオシンに耐性を付与する遺伝子などの抗生物質耐性遺伝子、または代謝マーカー遺伝子であってもよい。好ましい態様において、選択マーカー遺伝子は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、またはグルタミン合成酵素(GS)である。
いくつかの態様において、本発明のCHO細胞のゲノム内に、または本発明の方法により産生または使用されるCHO細胞のゲノム内に安定的に組込まれる少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、発現カセットの一部分である。好ましくは、発現カセットは、部位特異的組換え酵素または部位特異的核酸分解酵素などの配列特異的DNA編集酵素の認識部位(認識配列)に隣接している。より好ましくは、発現カセットは、部位特異的組換え酵素の認識部位に隣接している。この部位特異的組換え酵素は、当技術分野で周知であり、限定はされないが、λインテグラーゼ、φC31インテグラーゼ、Cre、Dre、およびFlp、またはそれらの任意の派生物が含まれる。従って、発現カセットは、λインテグラーゼ、φC31インテグラーゼ、Cre、Dre、Flp、またはそれらの派生物の認識部位に隣接していてもよい。部位特異的核酸分解酵素として、限定はされないが、ジンクフィンガー核酸分解酵素(ZFN)、メガ核酸分解酵素、転写活性化因子様エフェクター核酸分解酵素(TALEN)、およびCRISPR関連核酸分解酵素が挙げられる。CHO細胞ゲノム内の標的配列に特異的に結合するように部位特異的核酸分解酵素を操作できることは、当技術分野で周知である。これにより、前記認識部位に囲まれた発現カセット内のDNA断片の標的を絞った交換が容易になる。異種ポリヌクレオチドの宿主細胞ゲノム内への標的を絞った組込みへの部位特異的組換え酵素または部位特異的核酸分解酵素の使用は、日常的に実施されていて、それぞれの方法は当技術分野で周知である。いくつかの態様において、部位特異的組換え酵素または部位特異的核酸分解酵素の認識部位を含む発現カセットは、所定のゲノム標的領域の再標的化を可能にして、目的のRNAまたは目的のタンパク質などの複数の遺伝子産物のための複数のCHO産生細胞を生成できる。
特定の態様において、本発明のCHO細胞のゲノム内に、または本発明の方法により産生されるCHO細胞のゲノム内に安定的に組込まれる少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドはマーカー遺伝子であり、このマーカー遺伝子は、発現カセットの一部分としてCHO細胞ゲノム内に組込まれ、かつこの発現カセットは、上述のように、部位特異的組換え酵素または配列特異的DNA編集酵素(例えば部位特異的核酸分解酵素)、好ましくは部位特異的組換え酵素の認識部位に隣接している。これにより、マーカー遺伝子を含む発現カセットが、目的のRNAまたは治療用タンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む発現カセットに対して容易に交換されることを可能とする。目的のタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む発現カセットに対して容易に交換され得るマーカー遺伝子をコードするそのような置換DNAを、本明細書では「着地パッド」とも呼ぶ。
一態様において、本発明によるCHO細胞を産生する方法は、(a)CHO細胞を提供する工程、および(aa)第1の異種ポリヌクレオチドを前記CHO細胞内に導入する工程を含み、第1の異種ポリヌクレオチドは、マーカー遺伝子であり、かつ部位特異的組換え酵素または配列特異的DNA編集酵素(例えば部位特異的核酸分解酵素)の認識部位に隣接する発現カセットの一部分として、CHO細胞ゲノムのS100A遺伝子クラスター内に安定的に組込まれ、(i)前記異種ポリヌクレオチドは、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの上流で、配列番号1の配列に対応するゲノム標的領域内に安定的に組込まれ、および/または(ii)前記異種ポリヌクレオチドは、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの下流で、配列番号2のヌクレオチド1~15,120の配列に対応するゲノム標的領域内に組込まれ、前記方法はさらに、(b)工程(aa)の第1の異種ポリヌクレオチドを含む発現カセットに代えて、第2の異種ポリヌクレオチドを含む発現カセットを前記CHO細胞内に導入する工程を含む。好ましくは、第2の異種ポリヌクレオチドは、RNAまたは治療用タンパク質、好ましくは治療用タンパク質、より好ましくは目的の分泌タンパク質をコードする。
前記第1の異種ポリヌクレオチドは、レポーター遺伝子および選択マーカー遺伝子からなる群より選択されるマーカー遺伝子をコードすることが好ましい。特定の態様において、このレポーター遺伝子は、GFPなどの蛍光タンパク質であってもよい。この選択マーカーは、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)またはグルタミン合成酵素(GS)であってもよい。レポーター遺伝子と選択マーカー遺伝子をさらに組合せてもよい。
前記第1の異種ポリヌクレオチドは、好ましくは部位特異的核酸分解酵素を使用して、より好ましくはジンクフィンガー核酸分解酵素(ZFN)、メガ核酸分解酵素、転写活性化因子様エフェクター核酸分解酵素の(TALEN)、およびCRISPR関連核酸分解酵素からなる群より選択される部位特異的核酸分解酵素を使用して、さらに好ましくはジンクフィンガー核酸分解酵素(ZFN)、転写活性化因子様エフェクター核酸分解酵素(TALEN)、またはCRISPR関連核酸分解酵素を使用して、標的を絞った組込みによって組込まれる。
前記第1の異種ポリヌクレオチドはさらに、部位特異的組換え酵素の認識部位に隣接する発現カセットの一部分であってもよく、好ましくは、λインテグラーゼ、φC31インテグラーゼ、Cre、Dre、およびFlpからなる群より選択される部位特異的組換え酵素の認識部位を含む。
さらに、第2の異種ポリヌクレオチドを含む発現カセットを、前記第1の異種ポリヌクレオチドを含む発現カセットに代えて、CHO細胞内に導入してもよい。好ましくは、前記第2の異種ポリヌクレオチドは、少なくとも1つのRNAおよび/または少なくとも1つのタンパク質をコードし、より好ましくは、mRNA、miRNA、またはshRNA、および/または治療用タンパク質をコードする。第2の異種ポリヌクレオチドを含む前記発現カセットは、好ましくは部位特異的核酸分解酵素または部位特異的組換え酵素を使用して、より好ましくは部位特異的組換え酵素を使用して、最も好ましくはλインテグラーゼ、φC31インテグラーゼ、Cre、Dre、およびFlpからなる群より選択される部位特異的組換え酵素を使用して、標的を絞った組込みによりCHO細胞ゲノム内に安定的に導入される。
好ましい態様において、CHO細胞を産生する方法は、マーカー遺伝子および部位特異的組換え酵素の認識部位を含む第1の異種ポリヌクレオチドを備える発現カセットを導入することを含み、前記第1のポリヌクレオチドは、部位特異的核酸分解酵素を使用して標的を絞った組込みによってCHO細胞ゲノム内に安定的に組込まれる。さらに、第1の異種ポリヌクレオチドを含む前記発現カセットは、部位特異的組換え酵素を使用した標的を絞った組込みによって目的のRNAおよび/または目的のタンパク質をコードする第2の異種ポリヌクレオチドを含む発現カセットで代替される。好ましい態様において、第1の異種ポリヌクレオチドを含む発現カセットおよび第2の異種ポリヌクレオチドを含む発現カセットは、部位特異的組換え酵素の同一の認識部位に隣接している。
当業者なら、この方法では、容易に利用可能なDNA組換え法によって、目的の遺伝子産物の安定的かつ高水準に発現するゲノム部位内に任意の異種ポリヌクレオチドを導入するために、再標的化が可能なゲノム標的部位を含むCHO細胞を提供できることが分かる。この方法により、細胞株の発育過程でのCHO産生細胞クローンの生成と識別に関連する時間とコストを大幅に削減できる。
CHO細胞
本発明のCHO細胞または本発明の方法により産生されるCHO細胞は、培養物中で増殖でき、かつ目的のRNAまたは目的のタンパク質を発現できる任意のチャイニーズハムスター卵巣細胞であってもよい。大規模な工業生産で一般的に使用されるCHO細胞は、生産工程でのそれら特性を改善し、あるいは組換え細胞の選択を容易にするように操作される場合がよくある。その操作として、限定はされないが、プログラム細胞死への耐性増大、自食作用の低減、細胞増殖の増大、細胞周期調節タンパク質の発現修飾、シャペロンの操作、小胞体ストレス応答(UPR)の操作、分泌経路の操作、および代謝の操作が挙げられる。
好ましくは、効率的な細胞株発育過程を可能にするCHO細胞は、グルタミン合成酵素(GS)欠損および/またはジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)欠損などによって代謝的に操作されて、それぞれメチオニンスルホキシミン(MSX)またはメトトレキサートによる選択を容易にする。
好ましくは、本発明のCHO細胞または本発明の方法により産生されるCHO細胞は、CHO-DG44細胞、CHO-K1細胞、CHO-DXB11細胞、CHO-S細胞、CHOグルタミン合成酵素(GS)欠損細胞、またはこれら細胞の派生物である。
CHO細胞は、無血清条件下で、かつ動物由来のいずれのタンパク質/ペプチドも含まない任意の培地中で、樹立、適応、かつ完全に培養されるのが最も好ましい。ハムF12培地(Sigma社,、Deisenhofen, Germany)、RPMI-1640培地(Sigma社)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma社)、最少基礎培地(MEM、Sigma社)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM、Sigma社)、CD-CHO培地(Invitrogen社、Carlsbad, CA)、無血清CHO培地(Sigma社)、および無タンパク質CHO培地(Sigma社)などの市販の培地は、適切な栄養溶液の例である。これら培地のいずれかに、必要に応じて種々の化合物を補充してもよく、その非限定的な例としては、組換えホルモンおよび/または他の組換え成長因子(インスリン、トランスフェリン、表皮成長因子、インスリン様成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなど)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオシド(アデノシン、チミジンなど)、グルタミン、グルコースまたはその他の等価のエネルギー源、抗生物質、および微量元素が挙げられる。その他の任意の必要な補充物はさらに、当業者に公知と思われる適切な濃度で含まれてもよい。選択可能な遺伝子を発現する遺伝工学的に改変された細胞の成長および選択のために、適切な選択剤が培養培地に添加される。
タンパク質生産
一態様において、本発明のCHO細胞または本発明の方法により産生されるCHO細胞は、目的のタンパク質の産生に使用される。この目的のタンパク質は、宿主細胞中の抗体分子の発現を可能にするのに十分な期間で本発明のCHO細胞を培養して産生される。発現後に、目的のタンパク質を回収して精製してもよい。好ましくは、目的のタンパク質は、分泌タンパク質として培養培地から回収され、当該分野で周知の技術を使用して精製される。
例として、本発明の組換え分泌治療用タンパク質を得るのに有用な最先端の精製方法は、最初の工程として、培養培地または溶解物からの細胞破片および/または粒子状細胞破片を除去することを含む。次に分泌治療用タンパク質は、例えば免疫親和性カラムまたはイオン交換カラム、エタノール沈殿、逆相HPLC、セファデックスクロマトグラフィー、シリカまたはカチオン交換樹脂によるクロマトグラフィーでの分画によって、汚染した可溶性タンパク質、ポリペプチド、および核酸から精製される。抗体またはFc融合タンパク質は、タンパク質Aスピンカラム(GE Healthcare社)などを用いて、例えば標準的なタンパク質Aクロマトグラフィーによって精製してもよい。タンパク質の純度は、SDS-PAGE法によって確認でき、タンパク質の濃度は、280nmでの吸光度を測定し、タンパク質の特定の減衰係数を利用して決定できる。最後に、精製した組換え分泌治療用タンパク質を、凍結乾燥などで乾燥してもよい。
一態様において、本発明のCHO細胞を使用して、高収率で目的のタンパク質を産生する。高収率でのこの産生は、高い細胞密度または高い細胞生存率に起因し、また特定細胞の高い産生性に起因する可能性が高い。しかしながら、当業者なら、特定細胞の産生性が実質的に影響を受けずにあるいは改善もされていない場合には、高い細胞密度または細胞生存率を保有することのみが目的のタンパク質の高い総収率をもたらすこと、同様に、細胞密度または細胞生存率が実質的に影響を受けずにあるいは改善もされていない場合には、特定細胞の高い産生性を保有することのみが分泌組換え治療用タンパク質の高い総収率をもたらすことを分かっている。ここで高収率での産生とは、例えばMg/mLのような濃度(力価)として典型的に測定される細胞培養物の高水準の総産生性を指している。参照のCHO細胞、すなわちゲノム内にランダムに組込まれた同一の異性ポリヌクレオチドを含む、好ましくはクローン選択をしないCHO細胞プール中のCHO細胞に比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも100%、または少なくとも200%まで増強される場合には、本発明による目的のタンパク質の産生性は高いことになる。
組込み部位は、遺伝子発現データを評価して識別される。カルシウム結合タンパク質をコードする遺伝子S100A6は、すべての実験条件にわたって高度に発現されることが見出されたので、異種タンパク質の高い発現をもたらすゲノム部位のマーカーとして使用できる。S100A6は、S100遺伝子のクラスターの一部分であるので、クラスターの全体が評価できる。
細胞の選択および保持
専用の培地を使用して、活性なDHFRカセットによって補完する前にCHO-DG44細胞を定期的に継代した。そのカセットの導入後に選択培地を含むMTXを使用して、DHFR発現カセットを組込んだ細胞を濃縮した。CHOZN GS細胞株には、850mg/LのL-Gln(6mM)を補充した市販の培地CD Fusion(Sigma Aldrich社)を使用した。細胞株は、TPP振とう管中で、1週間あたり2-2-3の継代計画で0.3×106細胞/mL(CHO-DG44)に、または2-2の継代計画で0.6×106細胞/mL(CHOZN GS-/-)にそれぞれ継代した。培養物を自動化Vicell装置で計数した。
すべてのプールにおいて、CHO-DG44細胞株(DHFR-/-)からヒポキサンチンチミジン(HT)補充物を除去するか、またはCHOZN GS細胞株(GS-/-)からL-Glnを除去して、代謝選択を実施した。DHFRドナーまたはGSドナーを受容しない親細胞に対して、遺伝子導入の工程後にこの選択を実施した。選択工程を経たプールは、永続的に選択培地内に保持された。この選択を行う際に、T75静止フラスコに総量10~12mLとして細胞を0.4×106細胞/mLで播種した。選択培地を、フラスコ全体を遠心沈殿させて、かつ同一体積の新鮮な培地中に細胞を再懸濁して、通常は7日後に交換した。選択細胞が「回復」して成長を再開すると、これら細胞は必要に応じてTPP管中に展開された。流加回分での性能評価の前に、細胞を選択培地中に永続的に保持した。
標的を絞った組込みのためのZFN技術
SAFC社からの市販のCompoZr亜鉛フィンガー核酸分解酵素(ZFN)を使用して、測定法の指示に従って標的を絞った組込みを実施した。それぞれのZFNは、提供されたそれぞれの標的配列情報、例えば配列番号11(ZFN13)に基づきSAFC社によって特別注文品として製造された。
ZFNヌクレオチド配列は、各ZFNアームで固有であり、かつFokIドメインに結合された。ZNFアームをコードするDNAは、pVAXプラスミド骨格内にクローニングされた。このプラスミドはまた、翻訳中の分離のために2Aペプチドが結合したZFN配列の上流にGFPまたはRFPレポーターカセットを含んでいた。ZFNアームは、mRNAとして導入された。ZFNをコードされたDNAのRNA内への生体外転写のために、mMessage mMachine T7 Ultra kit(Ambion)を製造業者の指示に従って使用した。従って、導入に使用される2つのmRNAのうち、一方は配列(例えばZNF13)およびGFPに特異的なZNFアームをコードし、他方は相補配列とRFPを標的とするZNFアームをコードした。流動細胞計測法によって遺伝子導入されたプールの迅速かつ容易な濃縮を可能にするために、GFPまたはRFPをZFNアームの導入と共に発現させた。両方のZFNアームを受容した細胞は、GFP陽性およびRFP陽性であった。ZFN活性が富化したプールを形成するために、これらの二重陽性細胞を回収した。
遺伝子導入手法
遺伝子導入には、電気穿孔用にBio-Rad社のGene Pulserを使用した。2mmキュベット内の1×106細胞を、約20μgのDNAおよび/またはmRNA総量を使用して導入した(設定:115V、950μF、無限大の抵抗)。ZFNは、常にmRNAとして導入され、目的のタンパク質を含むドナープラスミドはDNAとして導入された。細胞を導入し、同一の培地内で培養する。導入後に、細胞を2~3週間培養して、一過性のプラスミドを洗い流した。
Cel I測定-ZFN活性
細胞内のZFNの切断効率を測定するために、CEL-IまたはSURVEYOR核酸分解酵素測定を実施した。簡潔に言うと、鋳型として導入されたプールから精製されたゲノムDNAを使用して、標的領域をPCRで増幅した。活性なZFNの存在下で、ゲノムDNAは、野生型産物とNHEJ産物の混合物に変換される(標的部位での挿入または欠失)。PCR産物を高温下で変性させ、温度を徐々に下げてハイブリダイズさせた。いくつかの野生型産物およびNHEJ産物は、切断部位周辺に不適正な塩基対を持つ二本鎖DNAを形成するようにハイブリダイズし、それらはCEL-IまたはSURVEYORと呼ぶ酵素によって切断され、電気泳動によって分離できかつ視覚化できる切断産物をもたらす。
接合PCR(jPCR)
jPCRを使用して、ゲノム内への配列組込みを識別した。プライマーは、隣接するゲノムDNA配列の境界でドナー分子の5’末端または3’末端を増幅するように設計された。1つのプライマーはZFN切断部位近くのゲノム配列に特異的であり、別のプライマーはドナー配列に特異的である。ドナーDNAが特定の部位で正確な方向に組込まれる場合に、PCR産物が得られる。jPCRは、特にTI事象とRI事象の組合せを持つプールで、非特異的な帯域を形成できる。さらに、TIドナーは、ゲノム部位に対していずれの方向にも組込むことができる。特に明記しない限り、jPCRは、順方向に整然と組込まれたドナーを選別するプライマーを使用して実行された。得られたTIのjPCR帯域は、配列決定によって定期的に確認された。親細胞株であるgDNAおよび/またはドナーDNAを陰性対照として使用した。
IgG発現細胞のFACS濃縮
流動細胞計測法または蛍光活性化細胞選別(FACS)法を使用して、FACS Aria III装置を用いて細胞の特定の亜集団を濃縮した。通常は、細胞はIgG発現細胞およびGFP陰性細胞として選別され、非発現細胞およびGFP発現細胞を除去した。細胞を遠心沈殿してPBS中に再懸濁して、FACS法用に細胞を調製した。IgG検出のために、選別の30分前に細胞を蛍光標識抗IgG抗体により増殖した。R-フィコエリトリン標識抗体を使用して、表面に結合したIgGを有する任意の細胞に結合した。
産生性/力価
CHO-DG44またはCHOZN GS細胞をそれぞれ7日間または13日間の流加回分でFACS濃縮プールを評価した。CHO-DG44由来のプールの産生性および力価の評価は、専用の基質培地および原料を使用して実施した。CHOZN GSの産生性は、Ex-Cell(登録商標) CHOZN(登録商標) Platform Feedを補充したCD Fusion内で実行した。産物の濃度は、ForteBio Octetにより分析した。
実施例1:
CHO産生細胞クローンは、通常、異種ポリヌクレオチドをCHO細胞の宿主細胞ゲノム内にランダムに組込んで、すなわちランダムな組込み(RI)によって得られる。位置の影響により、大部分が低産生細胞および小亜集団のみが高産生細胞である非常に不均質な細胞集団を生じる。さらに高産生細胞は、低産生細胞から成長する傾向がある。異種タンパク質の信頼性が高い高水準の産生の部位(すなわち「ホットスポット」)としてのチャイニーズハムスターS100A遺伝子クラスターの潜在能力を評価するために、上述のように、配列番号11(ZFN13)のDNA配列に特異的となるように操作されたジンクフィンガー核酸分解酵素対を使用して、IgG抗体をコードするポリヌクレオチドを、CHO-DG44およびCHOZN GS細胞のゲノム内に安定的に組込んだ。
ZFN活性を確認しドナープラスミドを調製した後に、電気穿孔法によりIgG抗体をコードする発現カセットおよび標的特異的ZFN13対を含む非線形プラスミドによって、これら細胞は同時に遺伝子導入された。従って、目的のIgGタンパク質をコードするドナープラスミドは、ランダムにまたは相同組換えを介して線形化されている。ZFN mRNAの潜伏期間と切断効率を改善するように、細胞に30℃で48時間の低温衝撃を加えた。電気穿孔法後の4日目または5日目に、ゲノムDNAを回収して不適正な塩基対に特異的な核酸分解酵素測定であるCel-I測定を実行して、ZFN活性を確認した。
遺伝子導入後に、選別前に細胞を10~12日間培養して、一時的に導入した任意のドナープラスミドの完全な洗浄を可能とした。CHO細胞を遠心分離によって回収し、代謝選択用の培地内で、L-グルタミンを欠く培地中のCHOZN GS細胞、およびヒポキサンチンおよびチミジン補充物(HT補充物)を含まない培地中のCHO-DG44細胞に対して再播種した。5~10日以内に培養物の回収を開始した。対照として、模擬培養物をプラスミドなしで導入して同時に培養した。対照培養物は、いずれの実験でも成長しなかった。
代謝選択工程の後に、FACS Aria III装置(BD Biosciences社製)で蛍光活性化細胞選別(FACS)法を使用して、GFPおよびIgG発現に基づいて細胞を選別した。IgG検出のために、選別の30分前に細胞を蛍光標識抗IgG抗体とともに培養した。表面結合IgGによって任意の細胞に結合するように、R-フィコエリトリン標識抗体を使用した。CHO細胞を、GFP発現集団(GFP+)とGFP非発現集団(GFP-)に選別した。標的を絞った組込みのための相同性アームに隣接する抗体を発現するドナープラスミドはさらに、相同性アームの外側に位置するGFPをコードする発現カセットを含んでいた。従って、GFP発現はランダムな組込み事象に関連し、GFPの陰性集団は、標的を絞った組込みが発生した細胞に対し濃縮された。GFP+細胞対GFP-細胞の分布と割合は、標的を絞った組込みの効率、また標的を絞った組込み部位での任意の陽性の表現型または有害な表現型にでの良好な指標であった。代謝選択のために、GFP陰性細胞プールおよびGFP陽性細胞プールをそれぞれ、基本原料およびグルコース手法を用いて30mLのTPP管中で培養した。この培養物では、生存細胞密度(VCD)、生存率、および培地グルコース水準が監視された。希釈された上清中のIgG力価は、事前に確立した標準曲線によってForteBio Octet装置(Pall Biosciences社製)を使用して、抗体相互作用を直接的に測定して決定された。
組込み用IgG抗体をコードする同一のポリヌクレオチドを使用して、標的を絞った組込み(TI)またはランダムな組込みにより得られたCHOプールの力価は、CHO-DG44細胞に対しバッチ培養で3~7日後に(図1A)、かつCHOZN GS細胞に対し8~10日後に(図1B)測定した。標的を絞った組込みよって得られたCHO-DG44プールでの力価は、ランダムな組込みによって得られたCHOプールでの力価よりも少なくとも7倍高く(図1A)、S100A3/A4/A5/A6遺伝子クラスターの上流領域は、異種ポリヌクレオチドの組込みにおいてホットスポットであることを示している。CHOZN GS細胞においても類似の結果が得られ、ランダムに組込んだ細胞と比較して、標的を絞った組込みにおいて少なくとも8倍高いIgG力価を示している。
実施例2:
ランダムな組込みは、異種タンパク質の発現で非常に不均質な細胞プールを生じる。チャイニーズハムスターS100A遺伝子クラスター内での標的を絞った組込みがより均質な発現水準をもたらして、例として産生性をより高い確度で予測できるかを評価するために、実施例1のTI細胞プールおよびRI細胞プールから各々のクローンを選定した。
実施例1からのCHOZN GS細胞の標的を絞った組込みプールおよびランダムな組込みプールを使用して、単一細胞クローン(SCC)を得た。単一クローニングの工程を、馴化培地を使用して濃縮したTIプールおよびRIプールの希釈を制限して実施した。この馴化培地は、TPP管内で0.3×106細胞/mLの細胞を48時間培養して調製した。細胞を沈降させ、馴化培地を滅菌濾過した。播種を、以下の手順を使用して、クローニング培地(SAFC社の融合プラットフォーム)と馴化培地の80:20混合培地内で実施した。手順1として、1細胞/ウェル未満までの連続希釈液を96ウェルプレートに沈着させた(1ウェルあたり200μL)。手順2として、細胞を通常の条件で培養し、6~7日間増殖させた。手順3として、これらプレートを増殖した単一のコロニーとして選別した。ウェルに20μLの新鮮な選択培地を供給した。手順4として、細胞を約14日間培養して96ウェルプレート内で集密形態とした。その細胞を24ウェルプレートに展開するか、必要に応じて回収した。手順5として、クローン評価用のgDNAを、必要に応じて96個のウェルの段階で取得した。96個のウェルから一定量の細胞を取り出し、この細胞をその後のPCRおよび配列決定のためにQuick Extractを使用して回収した。残りの細胞の成長を継続し、手順4で説明したように、場合によってはさらに展開した。手順6として、所望のクローン集団をTPP管に展開し、性能評価に使用した。
ランダムな組込みまたは標的を絞った組込みからのCHOZN GS単一細胞のクローンに対して、60継代の前および後に流加様式での8日間の培養に続いてタンパク質の産生性を評価した。産生工程は、Ex-Cell(登録商標) CHOZN(登録商標) Platform Feedによって補充したCD Fusion内で実施した。ForteBio Octetによって産物の濃度を分析し、60継代の前および後での同一のクローンからのデータを集積した(各n=2、合計n=4)。
この分析によると、ランダムな組込みの集団からの単一クローンに比較して(図2B)、標的を絞った組込みの集団からの単一クローンは、非常に均質な力価を示し(図2A)、S100A遺伝子クラスター内での標的を絞った組込みは、予測可能なタンパク質の産生性をもたらすことを示している。60継代の前および後の同一のクローンから集積されたデータでのより小さい誤差範囲バーにも反映されているように、標的を絞った組込みのクローンは遥かに安定的であった。
実施例3:
S100A遺伝子クラスター内のホットスポット部位を検証するために、TIのために付加するジンクフィンガー核酸分解酵素を表3に示すように設計して生成し、実施例1で説明したような産生プールを形成した。図3Aは、個々のZFNの位置、およびNCBI参照配列:NW_003613854.1を持つS100A遺伝子クラスター内のホットスポット部位を示す。ZNF7~14の組込み部位が示され、それらは「非破壊的で産生的」、「非破壊的で低/非産生的」、「破壊的で低/非産生的」の各部位に分類される。
実施例1に記載したCHO-ZN GS細胞を使用してデータを取得した。S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターに関連する特定領域が、異種遺伝子産物の産生に有効であるかどうかを評価するように、8個の異なるゲノム部位を試験した。S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスター内への組込みが予測通りに産生性の低下に繋がるかどうかを、さらに試験した(図3B)。
(配列番号3のヌクレオチド配列を含む)S100A1/A13/A14/A16の副クラスター内に組込む標的を外したZFN(7)は、いかなる遺伝子にも害を及ぼさないにもかかわらず、ホットスポットの外側にあることにより発現水準が低いと予測された。(配列番号4のヌクレオチド配列を含む)S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスター内に組込む破壊的なZFN(10、11)は、内部の遺伝子を損傷する可能性があるので、全体にわたって達成可能な力価を低減させるか、生存率を低減させるかのいずれかが予測された。配列番号1のヌクレオチド配列を持つ上流領域内に組込む上流ZFN(8および9)、および配列番号2のヌクレオチド配列を持つ下流領域内に組込む下流ZFN(12、13、14)は、最大の力価を生むと予測されたが、タンパク質の発現をもたらすには、主クラスターからの最適な距離が存在し得ると予測された。
個々の細胞集団を得るように、CHO細胞にドナープラスミドを導入し、表3に開示したZFNを使用して実施例1の説明のように選別した。産生された抗体は、実施例1と同一であった。CHOプールの力価を、上述のように8日間の培養後の上清内で測定した。
それぞれの部位での標的を絞った組込みから生じる実測の力価を図3Aに示す。標的を外したTIおよび破壊的なTI(ZFN:7、10、11)は、タンパク質を発現しなかった。上流および下流の両方のTIプールは、抗体への力価を示したが、組込みにはS100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターからの最適な距離が存在することを示すような差異が観察された。ZFN対8は良好なタンパク質の産生性を示すものの、上流の組込み領域内でのZFN対9の部位では最高のプール力価を示し、ほぼ0.5g/Lにまで達していた。下流でのZFN対13および対12は両方とも良好なタンパク質の産生性を示すものの、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターに対してより遠方にある対13はより高い力価を示した。さらにZFN対14は、十分な産生性をもたらすには遠方過ぎるように思われた。結論として、これら力価の結果は、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスター内の遺伝子を破壊する標的を絞った組込み、あるいはS100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスター周りのごく近傍よりも外側を標的とした標的を絞った組込みは、得られる細胞集団のIgG産生の低下をもたらし、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの上流領域および下流領域内への組込みは、得られる細胞集団のIgG産生の増大をもたらすことを示している。これにより、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターは、S100A3/A4/A5/A6のタンパク質コード遺伝子の上流または下流近傍のゲノム標的領域内の組込み部位に関して、高水準で信頼性の高いタンパク質を産生する適切なゲノム標的領域であることを実証している。
実施例4:
標的配列のより良い適用性およびより容易な組込みのためには、代替としてマーカー遺伝子などの「着地パッド」を含む細胞を所望の位置に提供してもよく、この細胞では、例えばFlp-FRT組換え、またはCre-lox組換えなどの部位特異的な組換え技術を使用して、標的配列を簡易に置換できる。
専用のCHO-K1 GS細胞株を、ZFN部位13(配列番号11)のFRTで媒介した再標的化に使用した(着地パッド手法)。実施例1に記載の方法に類似したZFN技術を使用して、それぞれのFRTに隣接する構築物(図4Aを参照)を挿入した。CHO-K1 GSの要求を満たすように軽微な調整をこの手法に対して実施した。FRT着地パッド構築物には、ネオマイシン耐性遺伝子、IRES配列、およびシトシン脱アミノ酵素遺伝子を含むカセットに隣接するFRT部位が含まれていた(図4Aを参照)。着地パッドはさらに、上流および下流の相同性アーム(それぞれ配列番号13および配列番号14)に挟まれ、線形化された構築物は、部位13(配列番号11)に特異的なZFN対と共に導入された。上述のように高精度の組込みが確認され、着地パッドは、以下に説明するベクターを含む目的の遺伝子によって組換え酵素媒介カセット交換(RMCE)を介して再標的化(置換)された。定期的な細胞培養では、850mg/LのL-Gln(6mM)を補充した専用の培地を使用した。着地パッド細胞の維持には、100μg/mLのG418を付加的に使用した。
予め組込まれた着地パッドと交換するドナー配列には、IgG抗体をコードする発現カセットおよびハイグロマイシンをコードする発現カセットが含まれた。着地パッド構築物内により安定的に導入された細胞は、導入の24時間前に0.5×106細胞/mLで播種された。導入した日には、細胞培養の密度を新鮮な培地内で6×105細胞/mLに調整した。8μgの総DNA(標的ベクターおよびFLP-組換え酵素発現プラスミド)をL-Glnで補充したCHO-S-SFMII培地(Thermo Fisher社製)中に希釈した。導入剤として、PEIpro(Polyplus社製)を製造会社のマニュアルに従って使用した。導入後に、その培養物を30℃で5%CO2中に24時間保持した。24時間後に、温度を36.5℃に切り替えて、さらに48時間培養した。ハイグロマイシンによる導入と選択の後に、RMCE処理のみを継続した。プールを接合PCR(jPCR)により評価して、上述のようにIgGドナーが着地パッド中に組込まれる現象を確認した。
CHO-K1 GSのFRT再標的化プールは、専用の培地を使用して13日間培養(流加培養)した。産物の濃度は、前述のようにForteBio Octet(BLI(Bio-Layer Interferometry)法)を使用して分析した。図4Bに示すように、IgG濃度は、時間につれて非常に高い水準で上昇していた。
実施例5:
実施例4で生成されたIgG発現FRT標的化細胞は、単一クローンの濃度でも高い均質性を示していた(図5)。CHO-K1 GSのFRT再標的化プールを、実施例4に記載したように生成した。単一細胞のクローニング工程は、CHO-K1 GS細胞株に軽微な調整を加えて、実施例2による限界希釈によって実施した。
CHO-K1 GSのFRT再標的化プール(実施例4)からの単一細胞クローンを、専用の培地を使用して流加様式で11日間培養した。CHO-K1 GS細胞を、110rpm、36.5°C、および5%CO2中の振とうフラスコ内で増殖した。細胞株を0.3×106細胞/mLでTPP震とう管中で継代した。培養物を、自動化Vi-Cell装置(Beckman Coulter社製)またはCedex Hi-Res装置(Roche Innovatis社製)で計数した。
対照として、別のプールを同時に培養した。産物の濃度は、ForteBio Octet(BLI(Bio-Layer Interferometry)法)を使用して分析した。
本発明は以下の項目を含む。
1.チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞ゲノムのS100A遺伝子クラスター内に安定的に組込まれた少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドを含むCHO細胞であって、
a)少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの上流で、配列番号1の配列に対応するゲノム標的領域内に組込まれ、および/または
b)少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの下流で、配列番号2のヌクレオチド1~15,120の配列に対応するゲノム標的領域内に組込まれる、CHO細胞。
2.a)前記上流のゲノム標的領域は、配列番号1のヌクレオチド30~19,000、配列番号1のヌクレオチド2,940~19,000、配列番号1のヌクレオチド4,740~19,000、配列番号1のヌクレオチド6,480~19,000、配列番号1のヌクレオチド8,280~19,000、配列番号1のヌクレオチド10,020~19,000、または配列番号1のヌクレオチド11,820~19,000に対応し、および/または
b)前記下流のゲノム標的領域は、配列番号2のヌクレオチド1~13,160、配列番号2のヌクレオチド1~12,000、または配列番号2のヌクレオチド1~10,260に対応する、項目1に記載のCHO細胞。
3.a)前記上流のゲノム標的領域は、配列番号1のヌクレオチド11,820~18,720、配列番号1のヌクレオチド13,560~18,720、配列番号1のヌクレオチド15,360~18,720、または配列番号1のヌクレオチド17,100~18,720に対応し、および/または
b)前記下流のゲノム標的領域は、配列番号2のヌクレオチド660~10,260、配列番号2のヌクレオチド1,320~10,260、または配列番号2のヌクレオチド1,480~10,260に対応する、項目1または2に記載のCHO細胞。
4.a)前記上流のゲノム標的領域は、配列番号1のヌクレオチド11,820~18,380、配列番号1のヌクレオチド13,560~18,380、配列番号1のヌクレオチド15,360~18,380、または配列番号1のヌクレオチド17,100~18,380に対応し、および/または
b)前記下流のゲノム標的領域は、配列番号2のヌクレオチド3,180~10,260、配列番号2のヌクレオチド4,920~9,000、または配列番号2のヌクレオチド6,720~8,460に対応する、項目1~3のいずれか1項に記載のCHO細胞。
5.前記少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、発現カセットの一部分として前記CHO細胞ゲノム内に安定的に組込まれる、先行する項目のいずれか1項に記載のCHO細胞。
6.前記少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、RNAおよび/またはタンパク質をコードする、先行する項目のいずれか1項に記載のCHO細胞。
7.前記RNAは、mRNA、miRNA、またはshRNAである、項目6に記載のCHO細胞。
8.前記少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、治療用タンパク質、好ましくは抗体、融合タンパク質、サイトカイン、および成長因子からなる群より選択される治療用タンパク質をコードする、項目6に記載のCHO細胞。
9.前記少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、レポーター遺伝子および選択マーカー遺伝子からなる群より選択されるマーカー遺伝子である、項目6に記載のCHO細胞。
10.前記マーカー遺伝子は、発現カセットの一部分として前記CHO細胞ゲノム内に安定的に組込まれ、前記発現カセットは、部位特異的組換え酵素または配列特異的DNA編集酵素の認識部位に隣接している、請求項9に記載のCHO細胞。
11.前記CHO細胞は、CHO-DG44細胞、CHO-K1細胞、CHO-DXB11細胞、CHO-S細胞、CHOグルタミン合成酵素(GS)欠損細胞、またはこれら細胞のいずれかの派生物である、先行する項目のいずれか1項に記載のCHO細胞。
12.前記ゲノム標的領域は、請求項1~11に記載の前記配列のうちのいずれか1つの配列、またはその配列に少なくとも80%の配列同一性を有する配列からなる、先行する項目のいずれか1項に記載のCHO細胞。
13.前記少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、前記CHO細胞ゲノムのS100A遺伝子クラスターの一方または両方の対立遺伝子内に安定的に組込まれる、先行する項目のいずれか1項に記載のCHO細胞。
14.CHO細胞を産生する方法であって、
a)CHO細胞を提供する工程、および
b)異種ポリヌクレオチドを前記CHO細胞内に導入する工程を含み、前記異種ポリヌクレオチドは、CHO細胞ゲノムのS100A遺伝子クラスター内に安定的に組込まれ、
i)前記異種ポリヌクレオチドは、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの上流で、配列番号1の配列に対応するゲノム標的領域内に組込まれ、および/または
ii)前記異種ポリヌクレオチドは、S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの下流で、配列番号2のヌクレオチド1~15,120の配列に対応するゲノム標的領域内に組込まれる、方法。
15.a)前記上流のゲノム標的領域は、配列番号1のヌクレオチド30~19,000、配列番号1のヌクレオチド2,940~19,000、配列番号1のヌクレオチド4,740~19,000、配列番号1のヌクレオチド6,480~19,000、配列番号1のヌクレオチド8,280~19,000、配列番号1のヌクレオチド10,020~19,000、または配列番号1のヌクレオチド11,820~19,000に対応し、および/または
b)前記下流のゲノム標的領域は、配列番号2のヌクレオチド1~13、160、配列番号2のヌクレオチド1~12,000、または配列番号2のヌクレオチド1~10,260に対応する、項目14に記載の方法。
16.a)前記上流のゲノム標的領域は、配列番号1のヌクレオチド11,820~18,720、配列番号1のヌクレオチド13,560~18,720、配列番号1のヌクレオチド15,360~18,720、または配列番号1のヌクレオチド17,100~18,720に対応し、および/または
b)前記下流のゲノム標的領域は、配列番号2のヌクレオチド660~10,260、配列番号2のヌクレオチド1,320~10,260、または配列番号2のヌクレオチド1,480~10,260に対応する、項目14または15に記載の方法。
17.a)前記上流のゲノム標的領域は、配列番号1のヌクレオチド11,820~18,380、配列番号1のヌクレオチド13,560~18,380、配列番号1のヌクレオチド15,360~18,380、または配列番号1のヌクレオチド17,100~18,380に対応し、および/または
b)前記下流のゲノム標的領域は、配列番号2のヌクレオチド3,180~10,260、配列番号2のヌクレオチド4,920~9,000、または配列番号2のヌクレオチド6,720~8,460に対応する、項目14~16のいずれか1項に記載の方法。
18.前記少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、発現カセットの一部分として前記CHO細胞ゲノム内に安定的に組込まれる、項目14~17のいずれか1項に記載の方法。
19.前記発現カセットは、部位特異的組換え酵素または配列特異的DNA編集酵素の認識部位に隣接している、項目18に記載の方法。
20.前記少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、RNAおよび/またはタンパク質をコードする、項目14~19のいずれか1項に記載の方法。
21.前記RNAは、mRNA、miRNA、またはshRNAである、項目20に記載の方法。
22.前記少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドは、治療用タンパク質、好ましくは抗体、融合タンパク質、サイトカイン、および成長因子からなる群より選択される治療用タンパク質をコードする、項目20に記載の方法。
23.前記少なくとも1つの異種ポリヌクレオチは、レポーター遺伝子および選択マーカー遺伝子からなる群より選択されるマーカー遺伝子である、項目20に記載の方法。
24.前記マーカー遺伝子は、発現カセットの一部分として前記CHO細胞ゲノム内に安定的に組込まれ、前記発現カセットは、部位特異的組換え酵素または配列特異的DNA編集酵素の認識部位に隣接している、項目23に記載の方法。
25.前記異種ポリヌクレオチドは、
a)配列特異的DNA編集酵素、または
b)部位特異的組換え酵素を用いて、前記CHO細胞ゲノム内に導入される、項目14~24のいずれか1項に記載の方法。
26.a)前記配列特異的DNA編集酵素は、部位特異的核酸分解酵素であり、好ましくは、ジンクフィンガー核酸分解酵素(ZFN)、メガ核酸分解酵素、転写活性化因子様エフェクター核酸分解酵素(TALEN)、およびCRISPR関連核酸分解酵素からなる群より選択され、および/または
b)前記部位特異的組換え酵素は、λインテグラーゼ、φC31インテグラーゼ、Cre、Dre、およびFlpからなる群より選択される、項目25に記載の方法。
27.a)CHO細胞を提供する工程、および
aa)第1の異種ポリヌクレオチドを前記CHO細胞内に導入する工程を含み、前記第1の異種ポリヌクレオチドは、マーカー遺伝子であり、かつ部位特異的組換え酵素または配列特異的DNA編集酵素の認識部位に隣接する発現カセットの一部分として、前記CHO細胞ゲノムの前記S100A遺伝子クラスター内に安定的に組込まれ、
i)前記異種ポリヌクレオチドは、前記S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの上流で、前記配列番号1の配列に対応するゲノム標的領域内に組込まれ、および/または
ii)前記異種ポリヌクレオチドは、前記S100A3/A4/A5/A6の主遺伝子クラスターの下流で、前記配列番号2のヌクレオチド1~15,120の配列に対応するゲノム標的領域に組み込まれ、および
b)工程aa)の前記第1の異種ポリヌクレオチドを含む前記発現カセットに代えて、前記CHO細胞内に第2の異種ポリヌクレオチドを含む発現カセットを導入する工程を含む、項目14に記載の方法。
28.前記CHO細胞は、CHO-DG44細胞、CHO-K1細胞、CHO-DXB11細胞、CHO-S細胞、CHOグルタミン合成酵素(GS)欠損細胞、またはこれら細胞のいずれかの派生物である、項目14~27のいずれか1項に記載の方法。
29.CHO細胞中に目的のタンパク質を産生する方法であって、
a)請求項1~13のいずれか1項に記載の前記CHO細胞を提供すること、
b)工程a)の前記CHO細胞を、前記目的のタンパク質の産生を可能にする条件で細胞培養培地中で培養すること、
c)前記目的のタンパク質を回収すること、および
d)任意に前記目的のタンパク質を精製することを含む、方法。
30.目的のタンパク質を高収率で生産するための項目1~13のいずれか1項の前記CHO細胞の使用。
配列表
配列番号1_上流の組込み部位
配列番号2_下流の組込み部位
配列番号3_上流の副クラスター
配列番号4_主クラスターコード領域
配列番号5_ZFN7の認識部位
配列番号6_ZFN8の認識部位
配列番号7_ZFN9の認識部位
配列番号8_ZFN10の認識部位
配列番号9_ZFN11の認識部位
配列番号10_ZFN12の認識部位
配列番号11_ZFN13の認識部位
配列番号12_ZFN14の認識部位
配列番号13_上流の相同性アーム着地パッド
配列番号14_下流の相同性アーム着地パッド