以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。また、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの構成を適宜に組み合わせて用いることは当初から想定されている。
以下では、薬剤容器に収納される薬剤が人工透析に用いる透析液を調製するための薬剤である場合を例に説明する。一般に、透析液として重炭酸透析液が知られている。重炭酸透析液は、周知の通り、2種類の薬剤、すなわち、酸性固形剤(以下、A剤という。)及び塩基性固形剤(以下、B剤という。)を混合・希釈して得られる透析液である。A剤は、電解質成分(例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム)や、pH調整剤(例えば酢酸)、糖(例えばグルコース)等を含む薬剤である。また、B剤は、重炭酸ナトリウム等を含む薬剤である。本実施形態の薬剤容器に収納される薬剤は、上記のA剤及びB剤のいずれでもよい。また、本実施形態は、透析液調製用の薬剤に限定されるものではなく、例えば点滴用の輸液などを調製するための他の医療用薬剤に適用されてもよい。さらに、本実施形態は、粉末状、顆粒状、タブレット状などの固形薬剤やスラリー状の薬剤を液状の溶媒で溶解して溶解液を調製する如何なる用途(医療用薬剤に限らず、例えば工業用薬剤、農業用薬剤または化学試験用薬剤など)に用いられてもよい。
さらに、以下の説明で用いる用語「溶解液」には、溶媒で薬剤が溶解された溶解液中に、薬剤が分散している状態も含まれてもよい。
図1は、本発明の一実施形態である薬剤溶解装置1の概略構成を示す図である。図1に示すように、薬剤溶解装置1は、粉末状または顆粒状などの薬剤Mを収納する薬剤容器10と、薬剤容器10に配管12を介して接続されるポンプ(循環ポンプ)14と、薬剤容器10に配管16を介して接続される貯液槽18と、貯液槽18とポンプ14とを接続する配管20とを備える。本実施形態では、配管12,20が本発明における第1配管に相当し、配管16が本発明における第2配管に相当する。薬剤容器10の構成については図2を参照して後述する。
配管12は、一端がポンプ14の吐出口14aに接続され、他端が薬剤容器10に接続されている。配管12は、ポンプ14の駆動によって吐出口14aから送出される溶剤(例えば水など)を薬剤容器10に供給する。
配管16は、一端が薬剤容器10に接続され、他端が貯液槽18の上部に接続されている。薬剤容器10に供給された溶剤によって内部の薬剤Mが溶解した溶解液が薬剤容器10内に充満した状態になると、オーバーフローした溶解液が配管16に流出して貯液槽18に送られる。
貯液槽18は、液状の溶剤を貯留するタンクであるとともに、薬剤Mが溶剤で溶解した溶解液が貯留されるタンクとして機能する。本実施形態では、溶剤として水が用いられる。水には、医療用精製水やRO水などが好適に用いられる。また、貯液槽18には、薬剤容器10内の薬剤Mが完全に溶解したときに所定濃度となるように計量された所定量の水が貯留されている。所定量の水は、開閉弁17を有する給水管19を介して貯液槽18に供給される。
配管20は、一端が貯液槽18の底部に接続され、他端がポンプ14の吸入口14bに接続されている。配管20には、開閉弁21が設けられている。ポンプ14が駆動されると、貯液槽18に貯留された水がポンプ14に送り出され、ポンプ14から吐出された水が配管12を介して薬剤容器10に供給される。
このように本実施形態の薬剤溶解装置1では、薬剤容器10、ポンプ14及び貯液槽18が、第1及び第2配管12,16,20によってループ状に接続されている。したがって、ポンプ14の駆動によって薬剤容器10に供給された水で薬剤Mが溶解して生成される溶解液が、薬剤容器10から貯液槽18に流れ、貯液槽18からポンプ14を介して薬剤容器10に還流する。このように溶解液が循環して薬剤容器10に供給されることで、薬剤容器10に収納された薬剤Mが完全に且つ均一濃度で溶解した溶解液を得ることができる。
配管20には、濃度計22が設けられている。濃度計22には、例えば電導度計などが好適に用いられる。濃度計22は、配管20内を流れる溶解液の濃度を測定し、その測定結果を後述する制御装置24に送信する。なお、本実施形態では濃度計22を貯液槽18とポンプ14とを接続する配管20に設けた例について説明したが、これに限定されるものではなく、他の配管12,16のいずれかに濃度計を設けてもよい。
薬剤溶解装置1は、制御装置24を更に備える。制御装置24は、ポンプ14の駆動及び停止を制御する機能を有する。また、制御装置24は、開閉弁17,21等を開閉動作させる制御を行ってもよい。さらに、制御装置24は、濃度計22から送信される測定結果に基づいて、薬剤容器10内の薬剤Mが水によって完全に且つ均一濃度で溶解されたこと、すなわち、薬剤Mの溶解液の調製が完了したことを判定することができる。さらに、制御装置24は、薬剤Mの溶解液の調製が完了した後に、ポンプ14を逆転駆動することができる。
貯液槽18に接続された配管20から分岐管26が分れている。分岐管26には、開閉弁28が設けられている。この開閉弁28の開閉動作は、オペレータの手動で行われてもよいし、制御装置24によって自動で行われてもよい。薬剤Mの溶解液の調製が完了した後、ポンプ14を停止した状態で開閉弁28を開くと、貯液槽18に貯留された薬剤Mの溶解液を分岐管26から取り出すことができる。取り出された薬剤Mの溶解液は、例えば、図示しない多人数用透析液供給装置または個人用透析装置に供給される。
次に、図2を参照して本実施形態の薬剤容器10について詳細に説明する。図2は、薬剤容器10を示す(a)斜視図、及び、(b)A−A断面図である。図2に示すように、薬剤容器10は、例えば、ドラム缶のような形状を呈する容器本体30を備える。容器本体30は、円筒形状の側壁32と、側壁32の下部に連結された底部34とを含む。容器本体30の上部に形成される開口は、容器本体30内に薬剤Mが収納された後、蓋部36によって閉じられる。蓋部36は、その外周縁部が容器本体30の開口の周縁部に対して例えば金属製バンド等によって留め付けられる。これにより、蓋部36は、薬剤Mが収納された容器本体30を液密状態に封止する。このようにして薬剤容器10に薬剤Mが収納されると、内部の薬剤Mが変質することなく保管や搬送が容易に行える。
ここで、薬剤容器10の容量は、好ましくは2L〜2000Lの範囲、より好ましくは2L〜1000Lの範囲、特に好ましくは2.5L〜400Lの範囲である。
容器本体30及び蓋部36は、薬剤Mの溶解液を薬剤容器10に循環供給する際の内部圧力(例えば30kPa以下)に耐え得るような強度を有する材料(例えば、ポリエチレンなどの合成樹脂、金属など)によって形成され、これに耐え得るような手段(例えばボルトによる締め付け、またはバネによる締め付けを用いた固定部材など)によって液密状態に封止されていることが好ましい。
薬剤容器10は、供給管38及び排出管40を更に備える。供給管38及び排出管40は、例えば樹脂製または金属製のパイプによってそれぞれ形成され、蓋部36を液密状に貫通した状態で設けられている。本実施形態では、供給管38は、蓋部36の中心を貫通し、容器本体30の中心軸に沿って下方に延伸しているのが好ましい。このような構成にすることで、薬剤容器10の収納容量を最大限にしつつ、本発明の効果を発揮させることが可能になる。また、このような構成にすることで、薬剤容器10の重心は容器本体30の中心軸上となり、薬剤容器10を転倒しにくくすることが可能になる。なお、排出管40を設ける位置は、特に限定されないが、本実施形態では供給管38に隣接する位置に設けられている。
供給管38及び排出管40の各上端には、配管ジョイント39,41がそれぞれ連結されている。配管ジョイント39によって、ポンプ14から薬剤容器10へ延びる配管12が供給管38にワンタッチで液密状に接続される。また、配管ジョイント41によって、薬剤容器10から貯液槽18に延びる配管16がワンタッチで液密状に接続される。このような構成にすることで、薬剤容器10と薬剤溶解装置1とを簡便な手法で接続することが可能となる。なお、供給管38及び排出管40の少なくとも一方が、容器本体30の側壁32を液密状に貫通して設けられてもよい。
供給管38は、容器本体30内に延伸し、溶媒である水の噴出口となる下端開口42が容器本体30の底部34に近接して対向している。より詳しくは、供給管38の下端開口42は、円形平板状をなす底中央部34aに対向して配置されている。底中央部34aは、底部34において最下部をなす部分である。底中央部34aと下端開口42との間の距離(近接距離)、すなわち、底中央部34aに対する下端開口42の高さ位置は、ポンプ14による水の吐出性能、薬剤Mの水への溶けやすさ等を考慮して設定されるが、下端開口42から吐出される、溶媒である水の流速が拡散によって大きく損なわれないように、側壁32への傾斜面34bの連結位置よりも下方に下端開口42が位置するように設定されるのが好ましい。
容器本体30の底部34は、供給管38の下端開口42の側に下り傾斜した傾斜面34bを含む。傾斜面34bは、底中央部34aの周囲に位置している。本実施形態では、傾斜面34bは略すり鉢状に形成されている。換言すれば、傾斜面34bは、上下逆向きにした円錐台または四角錐台の外周面のようなテーパー面をなす。薬剤容器10の容器本体30内に薬剤Mが投入されたとき、薬剤Mは底中央部34a及び傾斜面34bを含む底部34上に堆積した状態で収納される。
薬剤容器10が水平面上に置かれた場合に傾斜面34bが水平面に対してなす傾斜角度θは、容器本体30内に収容される薬剤Mの崩壊角以上に設定するのが好ましく、安息角以上に設定することがさらに好ましい。本発明における安息角及び崩壊角とは、粉体を一定の高さから、一点に向けて静かに落下させたとき、互いに積み重なって山を形成する。この山の斜面と水平面がなす角度を安息角と言い、これに一定の衝撃を与えて崩れた山の斜面と水平面がなす角度を崩壊角という。
具体的には、傾斜面34bの傾斜角度θは、好ましくは、10度〜60度の範囲、より好ましくは、15度〜55度、特に好ましくは、20度〜50度の範囲で設定するのが好適である。このように設定することで、後述するように供給管38の下端開口42から水を噴出させたときに、薬剤Mが崩れながら下端開口42の近傍位置に順次に供給されることが可能になる。
例えば、傾斜面34bの傾斜角度θが60度を超える場合、傾斜面34bの傾斜角度θが60度以下の場合と比べて、ドラム缶のような形状を呈する容器本体であるときは、容器内のデッドスペースが大きくなり、内容量が少なくなる。また、容器本体の形状に関わらず、重心位置が高くなり、不安定となる。
さらに、例えば、傾斜面34bの傾斜角度θが60度を超える場合で、ドラム缶のような形状を呈する容器本体であり、傾斜面34bの傾斜角度θが60度以下の場合と、内容量及び胴径を同じとする場合では、傾斜面34bの傾斜角度θが60度以下の場合と比べて、薬剤Mの粉面の高さが高くなり、底中央部34a付近の薬剤Mに加わる力が特に大きくなる。また、傾斜面34bの傾斜角度θが大きいため、傾斜面34bに沿って底中央部34aに加わる力が大きくなり、底中央部34a付近の薬剤Mに加わる力が更に大きくなる。この結果、固形薬剤の粒子と粒子とが更に強く接触するため、底中央部34a付近の薬剤Mは特に固結しやすくなる。下端開口42は底中央部34aに近接して対向しているため、下端開口42を固結した薬剤Mが塞ぎ、水の噴出が阻害される。
加えて、例えば、ドラム缶のような形状を呈する容器本体であり、傾斜面34bの傾斜角度θが60度以下の場合、下端開口42より水が噴出されるとき、水は下端開口42を中心として、傾斜面34bに沿って同心円状に広く拡散することで、薬剤Mを短時間で溶解することが出来る。しかし、傾斜面34bの傾斜角度θが60度を超える場合、下端開口42より水が噴出されるとき、水は底中央部34aで傾斜面34bに沿って跳ね返り、傾斜面34bの傾斜角度θが60度以下の場合と比べて、水が拡散する範囲が狭くなる。この結果、傾斜面34bの傾斜角度θが60度を超える場合は、傾斜面34bの傾斜角度θが60度以下の場合と比べて、薬剤Mの溶解時間が長くなる。
なお、本実施形態では、図3(a)に示すように、底部34の傾斜面34bが円錐台状(または四角錐台状)のような略すり鉢状に形成された例について説明するが、これに限定されない。例えば、底中央部34a及び傾斜面34bを含む底部34は、図3(b)に示すように、上下逆向きにした円錐または四角錐の外周面のような略V字状に形成されてもよく、この場合、図3(c)に示すように底中央部34aが丸みを帯びた形状に形成されてもよい。あるいは、底部34は、図3(d)に示すように、試験管の底部のように半球状に湾曲した形状であってもよい。さらに、図3(e)〜(h)に示すように、図3(a)〜(d)に示す底中央部34a及び傾斜面34bを含む底部34が、薬剤容器10の底部外形を構成してもよい。
排出管40は、容器本体30内に延伸するが、供給管38よりも短く形成されている。排出管40の下端開口44は、薬剤Mの溶解を開始したときに粉末状の薬剤Mが管内に詰まらないように、容器本体30内に収容された薬剤Mの上表面よりも上方に配置するのが好ましい。具体的には、本実施形態では、排出管40の下端開口44は蓋部36の近傍に配置されている。なお、排出管40は容器本体30内に延出していなくてもよく、液密状態が確保されていれば下端開口44が蓋部36と同じ高さ位置または面一に配置されてもよい。
続いて、上記の構成からなる薬剤容器10を用いた薬剤Mの溶解作業について説明する。
所定量の薬剤が収納された薬剤容器10を準備する。この薬剤容器10は、図4に示すように、台車46に載せて運搬することができ、ポンプ14や貯液槽18が設置されている場所に搬送される。そして、配管12及び配管16を薬剤容器10の供給管38及び排出管40にそれぞれ接続する。このとき、開閉弁28は閉じられている。これにより、薬剤Mの溶解液調製の準備が整う。
この状態で、オペレータの操作によって制御装置24からポンプ14に駆動信号が送られると、ポンプ14が駆動される。また、このとき開閉弁21が開状態とされる。これにより、貯液槽18に貯留された水が配管20、ポンプ14及び配管12を通って、薬剤容器10の供給管38に送り込まれる。
薬剤容器10の供給管38に送り込まれた水は、下端開口42から底中央部34aに向かって噴出する。このとき、水は、図2(b)中の矢印で示すように、底中央部34aに衝突して流れ方向が径方向外側に広がり、それから傾斜面34bに沿って上昇するように流れる撹拌流を形成する。これにより、下端開口42の対向位置及びその近傍に位置する薬剤Mは上記の撹拌流に巻き込まれる。
供給管38の下端開口42からは水が連続的に噴出し、上記のような薬剤Mの溶解が行われる。下端開口42の対向位置及びその近傍に位置する薬剤Mが水により撹拌・溶解されると、その上方に位置する薬剤Mが重力作用によって傾斜面34bに沿って崩れ落ちるようにして下端開口42の側に薬剤Mが順次に供給される。これにより、下端開口42から噴出する水によって形成される撹拌流に薬剤Mが途切れることなく順次に巻き込まれて、薬剤Mの撹拌及び溶解が促進される。その結果、水の流れが当たらないかまたは当たり方が弱いために薬剤Mの溶解に時間が掛かるという不具合を解消できる。したがって、薬剤Mの調製作業(溶解作業)を円滑に短時間で行うことができ、作業効率を向上させることができる。
薬剤容器10内が薬剤M及び水で満たされると、ポンプ14による水の供給圧によって薬剤容器10から薬剤Mの溶解液がオーバーフローして、排出管40から貯液槽18へと排出される。貯液槽18に戻された薬剤Mの溶解液は、ポンプ14の作用によって貯液槽18内に残っている水と共に薬剤容器10へと循環供給される。このように循環供給されるうちに、薬剤Mの溶解が促進され、薬剤Mの溶解液の濃度が均一になる。
制御装置24は、濃度計22によって測定される溶解液の濃度が所定値以上になったとき、あるいは、濃度計22によって測定される溶解液の濃度が予め設定された所定値の範囲で予め設定された時間だけ安定したとき、薬剤Mが完全に且つ均一濃度で溶解されたと判定し、ポンプ14の駆動を停止することができる。
このとき、薬剤容器10内は、薬剤Mの溶解液で満たされている。この状態で、制御装置24は、ポンプ14を逆転駆動する。これにより、薬剤容器10内の溶解液は供給管38によって吸い出されて、ポンプ14及び配管20を介して貯液槽18に戻される。これにより、薬剤Mの溶解液の調製が完了する。
上述したように、本実施形態によれば、薬剤容器10の底部34に溶媒の噴出口を近接して対向配置し、その周囲の底部34を噴出口側へ下り傾斜した傾斜面34bに形成するという単純な構造の薬剤容器10内で薬剤を短時間で完全に溶解させて、薬剤溶解液の調製を完了することができる。
また、上記のようにして薬剤容器10内の溶解液がポンプ14の逆転駆動によって貯液槽18に戻されると、薬剤容器10がほぼ空になる。したがって、その後に薬剤容器10を回収して洗浄し、同じ薬剤または別の薬剤を収納して再利用することができる。
図5は、2種類の薬剤を収容した薬剤容器を備える薬剤溶解装置1Aの概略構成を示す図である。薬剤溶解装置1Aでは、2種類の薬剤、例えば、透析液用のA剤濃厚液及びB剤濃厚液を同時に調製することが可能である。
薬剤容器11は、A剤用の薬剤容器10Aの上にB剤用の薬剤容器10Bが一体的に組み合わされて構成される。薬剤容器10A,10Bの各構成は、上述した薬剤容器10と同様であるため、同一または類似の符号を付して説明を省略する。
A剤用の薬剤容器10Aには、ポンプ14Aによって貯液槽18Aから水が供給され、B剤用の薬剤容器10Bには、ポンプ14Bによって貯液槽18Bから水が供給される。薬剤容器10AからオーバーフローしたA剤の溶解液は、濃度計22Aが設けられた配管16Aを介して貯液槽18Aに戻される。また、薬剤容器10BからオーバーフローしたB剤の溶解液は、濃度計22Bが設けられた配管16Bを介して貯液槽18Bに戻される。このようにして、各薬剤容器10A,10Bに溶解液がそれぞれ循環供給されることによって、A剤及びB剤の各溶解液を短時間でそれぞれ調製することができる。なお、調製完了したA剤及びB剤の各溶解液は、所定の割合で希釈及び混合されて、透析液に調製される。
次に、図6〜図14を参照して、本実施形態の薬剤容器10の効果を確認するために行った比較実験について説明する。図6は、比較実験に用いた薬剤溶解装置50の構成を示す図である。以下の説明では、上述した薬剤溶解装置1と同じ構成には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
薬剤溶解装置50は、第1比較例の薬剤容器10Cと、ポンプ14と、貯液槽18とを備える。ポンプ14と薬剤容器10Cは、配管12によって接続されている。貯液槽18とポンプ14とは、配管20によって接続されている。薬剤容器10Cと貯液槽18とは、配管16によって接続されている。配管16には、流量計54が設けられている。流量計54は、薬剤容器10Cから配管16を介して貯液槽18に流れる溶解液の流量を計測する。この実験では、貯液槽18に25℃の水道水を250L貯留して溶媒として用いた。
図7は、第1比較例の薬剤容器10Cを示す(a)斜視図及び(b)断面図である。薬剤容器10Cは、供給管38cの下端開口42が容器本体30内の上部に位置している点と、底部34cが傾斜面を含まない平坦面に形成されている点で、本実施形態の薬剤容器10と相違するが、その他の構成は同じである。薬剤容器10Cは、内径が560mmで、容器内部の高さ870mmのものを用いた。
薬剤容器10C内には、薬剤Mとして塩化ナトリウムの粉粒体を収納した。薬剤Mの重量は、67.5kgとした。この重量は、透析液用のA剤では50人分程度の透析液調製量に相当する。この重量の薬剤Mを薬剤容器10C内に収納したとき、薬剤Mの底部34cからの高さは270mmであった。
上記のように構成を有する薬剤容器10Cを備えた薬剤溶解装置50で薬剤Mの溶解実験を行った結果を、図8の表に示す。この表では、最上段から順に、時間t(hr)、水(または溶解液)の流量Q(L/min)、薬剤M(塩化ナトリウム)の底部34cからの高さ(mm)、及び、溶解状態を目視監察した結果を示す。なお、このことは、図10、図12、図14に示す各表においても同様である。
この実験では、ポンプ14を駆動して水を貯液槽18から薬剤容器10Cに供給し、薬剤容器10から排出管40を介してオーバーフローした溶解液が配管16を介して流れ出たときを時間「0」とした。溶解状態の目視確認は、蓋部36を取り外して容器本体30内を上方から目視して薬剤Mの溶解状態を30分ごとに確認した。
図8に示すように、溶解液がオーバーフローし始めたとき、及び、それから30分経過後では、容器内の水または溶解液は白濁した状態であった。それから、1時間経過後と、更に30分及び1時間経過後では、容器内の溶解液は澄明で、底部に溶け残りが有ることを確認した。そのとき溶け残っていた薬剤Mの高さを計測したところ、120mmであった。つまり、オーバーフロー開始から30分経過後以降では、薬剤Mの溶け残りが120mmと変化がなく、容器本体30内の上方位置にある下端開口42から水または溶解液を噴出する方式では底部34c上に多量に堆積した薬剤Mを溶解できないことが確認できた。
図9は、第2比較例の薬剤容器10Dを示す(a)斜視図及び(b)断面図である。この薬剤容器10Dは、供給管38dが蓋部36の外周近傍部分を貫通して容器本体30内に延伸している。そして、供給管38dの下端開口42dは、水または溶解液を平坦な底部34cに対して45度の角度で、かつ、底部34cの外周に沿うように噴出させる向きで配置されている。このように下端開口42dを配置したことで、容器本体30内には矢印で示すような旋回流が形成されるようにした。
薬剤容器10Dの他の構成、実験条件、及び、実験結果の確認手法は、第1比較例の薬剤容器10Cと同様とした。等量(67.5kg)の薬剤M(塩化ナトリウム)を薬剤容器10Dに収納したとき、底部34cからの薬剤Mの高さは、270mmであった。
図10に、第2比較例の薬剤容器10Dの実験結果を示す。図10に示すように、薬剤容器10Dによっても、第1比較例の場合と同様に、オーバーフロー開始から2時間が経過しても容器本体30内の底部34cに薬剤Mの溶け残りがあることが確認された。この第2比較例では、下端開口42dに近い位置では水または溶解液の噴射によって薬剤Mの溶け残りが少なくなっていたが、下端開口42dから離れた位置では高さ120mmの薬剤Mの溶け残りがあった。したがって、第2比較例の薬剤容器10Dにおいても、多量の薬剤Mが収納された場合に、溶媒で完全に溶解させることが困難であることが確認できた。
図11は、第3比較例の薬剤容器10Eを示す(a)斜視図及び(b)断面図である。第3比較例の薬剤容器10Eでは、供給管38eに第2比較例の場合と同様のものを用いた。また、薬剤容器10Eでは、平坦な底部34c上に円錐台56を配置した。これにより、下端開口42eから噴出した水または溶解液が円錐台56の周囲で旋回流を形成し易くなるように構成した。薬剤容器10Eの他の構成、実験条件、及び、実験結果の確認手法は、第1及び第2比較例の場合と同様とした。等量(67.5kg)の薬剤M(塩化ナトリウム)を薬剤容器10Eに収納したとき、底部34cからの薬剤Mの高さは、320mmであった。
図12に、第3比較例の薬剤容器10Eの実験結果を示す。図12に示すように、薬剤容器10Eによる実験結果も、上記の第2比較例の場合と同様であった。すなわち、薬剤容器10Eからオーバーフローが発生してから2時間が経過しても、底部34cに薬剤Mの溶け残りが有ることが確認された。したがって、第3比較例の薬剤容器10Eにおいても、多量の薬剤Mが収納された場合に、溶媒で完全に溶解させることが困難であることが確認できた。
図13は、比較実験に用いた本実施形態の薬剤容器10を示す(a)斜視図及び(b)断面図である。薬剤容器10のサイズは、上記第1比較例の薬剤容器10Cと同様である。また、薬剤容器10では、底部34が平坦な円板状の底中央部34aと、下端開口42の周囲を取り囲むように設けられた傾斜面34bとを有することは上述した通りである。さらに、供給管38の下端開口42は底部34の底中央部34aに対向して配置され、この実験では底中央部34aに対する下端開口42の高さ位置を70mmに設定した。薬剤容器10の他の構成、実験条件、及び、実験結果の確認手法は、上記の第1ないし第3比較例の場合と同様とした。薬剤容器10に等量(67.5kg)の薬剤M(塩化ナトリウム)を収納したとき、底部34からの薬剤Mの高さは、上記比較例3と同様に320mmであった。
図14に、本実施形態の薬剤容器10の実験結果を示す。図14に示すように、薬剤容器10を用いた溶解実験では、オーバーフロー開始時(すなわち時間「0」)には容器本体30内は水または溶解液が白濁状態にあったが、それから30分経過したときには容器本体30内の溶解液は澄明で薬剤Mの溶け残りが無かった。すなわち、オーバーフロー開始から30分以内で、全ての薬剤Mが溶媒で完全に溶解されたことが確認された。これにより、本実施形態の薬剤容器10によれば、多量の薬剤Mを短時間で完全溶解可能であることが確認できた。
図15は、本実施形態の薬剤容器と比較例の薬剤容器とを用いて薬剤溶解液の濃度変化を測定した結果を示す(a)グラフ及び(b)表である。
この実験では、比較例として、図7に示した第1比較例の薬剤容器10Cと同様の構成で、内容量が60Lの容器を用い、薬剤Mとして塩化ナトリウムの粉粒体を収納した。薬剤Mの重量は、13.5kgとし、水で溶解する実験を行った。これに対し、本実施形態の薬剤容器10は、図13に示したものと同様の構成で内容量60Lの容器を用い、等量(13.5kg)の薬剤M(塩化ナトリウム)を収納し、水で溶解する実験を行った。これらの各実験では、図6と同様の薬剤溶解装置を用い、ポンプ14の駆動を開始してから配管16を介して貯液槽18に流入する溶解液を30秒ごとにサンプリングして電導度を測定した。電導度の測定には、マルチ水質測定機(CD−4307SD;マザーツール)を用いた。ここで、塩化ナトリウムの重量13.5kgは、10人分程度の透析液を調製するのに用いられるA剤の重量に相当する。
図15に示すように、比較例の薬剤容器10Cでは、測定される電導度が195mS/cmになるまでに300秒(5分)かかった。ここで、電導度195mS/cmとは、13.5kgの塩化ナトリウムを250Lの水で完全に溶解した溶解液を上記のマルチ水質測定機で測定したときの電導度である。また、オーバーフロー開始から450秒後に容器内を目視確認したところ、塩化ナトリウムの溶け残りが無いことを確認した。この実験では、上述した第1比較例の場合よりも少量の塩化ナトリウムを薬剤Mとして用いたため、薬剤容器10Cでも完全溶解させることができたと考えられる。
これに対し、本実施形態の薬剤容器10を用いた場合の溶解液の電導度は、オーバーフロー開始から30秒で200mS/cmであり、その後、30秒ごとに測定された溶解液の電導度もほぼ変化することがなく、180秒(3分)経過後には塩化ナトリウムが完全溶解したことを目視で確認できた。すなわち、本実施形態の薬剤容器10によれば、薬剤Mを溶媒である水で溶解する能力が非常に高く、例えば3kg以上(2人分より多いA剤の量に相当)、より好ましく10kg以上(10人分以上のA剤の量に相当)の多量の薬剤Mを短時間で完全に且つ均一濃度に溶解するのに極めて有効であることが確認できた。
次に、図16を参照して、本発明の別の実施形態である薬剤溶解装置1Bについて説明する。図16は、薬剤溶解装置1Bの概略構成を示す図である。図16に示すように、薬剤溶解装置1Bは、薬剤容器10、ポンプ14、及び、貯液槽18を備える。本実施形態では、薬剤容器10が貯液槽18の下方に配置される。
貯液槽18の底部には、開閉弁21が設けられた配管20の一端が接続される。配管20の他端は、薬剤容器10の供給管38に接続される。
薬剤容器10の排出管40には、配管15aの一端が接続される。配管15aの他端は、ポンプ14の吸入口14bに接続される。ポンプ14の吐出口14aには、配管15bの一端が接続される。配管15bの他端は、貯液槽18に接続される。なお、本実施形態の薬剤溶解装置1Bでは、配管20が本発明における第1配管に相当し、配管15a,15bが本発明における第2配管に相当する。
貯液槽18には、上側液面検出センサ23a及び下側液面検出センサ23bが設置されている。上側液面検出センサ23a及び下側液面センサ23bは、貯液槽18内に貯留された水量が、薬剤容器10に水を満たし且つポンプ14まで水を行き渡らせることができる程度であることを検出するためのものである。
薬剤溶解装置1Bの他の構成は、上述した薬剤溶解装置1と同様である。したがって、同一構成には同一符号を付して、重複することとなる説明を省略する。
続いて、薬剤溶解装置1Bの動作について説明する。まず、開閉弁17を開いて給水管19から貯液槽18内に水を供給する。水の液面が上側液面検出センサ23aで検出されると、開閉弁17を閉じて給水を停止する。
次に、開閉弁21を開状態として、配管20を介して水を貯液槽18から薬剤容器10に供給する。このとき、水は、重力作用によって薬剤容器10の供給管38に供給される。薬剤容器10内における薬剤Mの溶解動作は、上述したとおりである。貯液槽18内の水面が下側液面検出センサ23bによって検出されると、ポンプ14の駆動を開始する。
本実施形態では、排出管40が薬剤容器10内に延出して、その下端開口44が底部34の近傍に位置している。これにより、ポンプ14が駆動されると、排出管40によって吸上げられた溶解液が配管15a、ポンプ14及び配管15bを介して、貯液槽18に流れる。そして、溶解液は、貯留槽18と薬剤容器10との間で循環される。
このようにして貯液槽18と薬剤容器10との間で薬剤溶解液を循環させることで、本実施形態の薬剤溶解装置1Bによっても、多量の薬剤Mを短時間で完全に溶解させて、薬剤溶解液の調製を完了することができる。
なお、本発明は、上述した実施形態及びその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項及びその均等な範囲内において種々の変形や改良が可能であることはいうまでもない。