本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法の一態様は、基板を準備する工程と、前記基板の上方にゲート電極を形成する工程と、前記基板の上方にゲート絶縁膜を形成する工程と、前記基板の上方に非晶質膜を形成する工程と、前記非晶質膜を結晶化して、一つの結晶内に異なる結晶方位により形成された複数の副結晶を内包し、前記複数の副結晶の間に前記複数の結晶面によって形成された副粒界を有する第1結晶と、平均粒径が前記第1結晶の平均結晶粒径よりも小さい第2結晶を有する結晶性膜を形成する工程と、前記結晶性膜の膜厚を薄くする工程と、前記基板の上方にソース電極及びドレイン電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
本態様によれば、結晶性膜が、一つの結晶内に異なる結晶方位により形成された複数の副結晶を内包して複数の副結晶の間に前記複数の結晶面によって形成された副粒界を有する第1結晶を有する。これにより、移動度が比較的高い薄膜半導体装置を実現することができる。また、結晶性膜は薄膜化されているので、キャリア伝導経路中の膜厚方向領域の結晶粒界数を減少させることができる。これにより、電気特性のバラツキが小さい薄膜半導体装置を実現することができる。さらに、結晶性膜を薄膜化することにより、結晶性膜の上面に占める第1結晶の割合が、結晶性膜の下面に占める第1結晶の割合よりも多くなり、薄膜半導体装置において上部層とのコンタクト抵抗を比較的低くすることができる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法の一態様において、前記非晶質膜は、非晶質シリコン膜である、としてもよい。
これにより、多結晶シリコン膜を有する薄膜半導体装置を実現することができる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法の一態様において、前記非晶質シリコン膜は、最大強度を1として規格化したフォトルミネッセンススペクトルにおいてフォトンエネルギーが1.1eVのときの強度が0.65以上である、としてもよい。
これにより、結晶性シリコンの前駆体膜である非晶質シリコン膜中に局所的にSi原子とSi原子との結合密度の高い領域(擬似結晶核)を存在させることができるため、結晶化アニール処理における結晶化の活性化エネルギーを低減でき、低温化(従来の同一結晶化温度の粒径と比較して大粒径化)することができる。従って、本態様によって形成された結晶性シリコン膜の粒径は、従来と同じ結晶化アニール処理をした結晶性シリコン膜の粒径よりも大きくすることができる。それ故に、本態様によって形成された結晶性シリコン膜をチャネル層とするTFTを作製することで、オン時の電流を向上させることができる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法の一態様において、前記結晶性膜を形成する工程において、前記非晶質膜を熱アニールにより結晶化する、としてもよい。
これにより、焼結組織の結晶粒径を、熱アニール時間で容易に制御することができる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法の一態様において、前記熱アニールは、熱アニール温度を700℃〜800℃の範囲とし、熱アニール時間を1分〜30分の範囲として行うことが好ましい。
これにより、基板としてガラス基板を利用することができる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法の一態様において、前記結晶性膜の膜厚を薄くする工程において、前記結晶性膜をエッチング処理することにより薄くする、としてもよい。
これにより、結晶性膜を容易にエッチングすることができる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法の一態様において、前記エッチング処理は、フッ酸エッチング処理である、としてもよい。
これにより、電荷ダメージを与えることなく結晶性膜をエッチングすることができる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法の一態様において、さらに、前記結晶性膜の膜厚を薄くする工程の前に、前記結晶性膜の表面を酸化する工程を含み、前記結晶性膜の膜厚を薄くする工程において、前記エッチング処理によって、酸化された前記結晶性膜を除去する、としてもよい。
これにより、基板面内における膜厚のエッチング量を均一にすることができ、電気特性のバラツキをさらに抑制することができる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法の一態様において、前記結晶性膜の表面の酸化は、オゾン酸化によって行う、としてもよい。
これにより、結晶性膜の表面を容易に均一に酸化することができる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法の一態様において、膜厚を薄くする前における前記結晶性膜の膜厚は、55nm以上であり、膜厚を薄くした後における前記結晶性膜の膜厚は、20nm〜50nmであることが好ましい。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の製造方法の一態様において、前記第1結晶は、平均結晶粒径が200nm〜2μmの結晶粒からなり、前記第2結晶は、平均結晶粒径が20nm〜50nmの結晶粒からなることが好ましい。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の一態様は、基板と、前記基板の上方に形成されたゲート電極と、前記基板の上方に形成された結晶性膜と、前記ゲート電極と前記結晶性膜との間に形成されたゲート絶縁膜と、前記基板の上方に形成されたソース電極及びドレイン電極と、を具備し、前記結晶性膜は、一つの結晶内に異なる結晶方位により形成された複数の副結晶を内包し、前記複数の副結晶の間に複数の結晶面によって形成された副粒界を有する第1結晶と、平均結晶粒径が前記第1結晶の平均結晶粒径よりも小さい第2結晶とを有し、前記結晶性膜の上面に占める前記第1結晶の割合が、前記結晶性膜の下面に占める前記第1結晶の割合よりも多いことを特徴とする。
本態様によれば、結晶性膜が、焼結によって形成された結晶粒径の大きな第1結晶を有するので、移動度の高い薄膜半導体装置を実現することができる。また、結晶性膜の上面に占める第1結晶の割合が結晶性膜の下面に占める第1結晶の割合よりも多いので、キャリア伝導経路中の膜厚方向の領域における結晶粒界数を減少させることができる。従って、電気特性のバラツキを小さくすることができる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の一態様において、前記第2結晶はシングルグレインから構成される、としてもよい。
第2結晶がシングルグレイン、すなわち単結晶構造であれば、シングルグレインの結晶配向の影響を受けて、第1結晶の結晶配向を制御しやすくなる。これにより、第2結晶自体が既に多結晶の場合は、複数の結晶配向性の影響を受けやすくなるため、第1結晶の結晶配向は制御しにくくなる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の一態様において、前記結晶性膜は、前記第1結晶と前記第2結晶とを含有する前駆体膜を薄くすることにより形成されたものである、とすることができる。
本態様によれば、結晶性膜は、焼結組織を有する前駆体膜を薄膜化したものであるので、キャリア伝導経路中の膜厚方向領域の結晶粒界数を減少させることができる。これにより、電気特性のバラツキを小さくすることができる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の一態様において、前記前駆体膜の膜厚は、55nm以上であり、前記結晶性膜の膜厚は、20nm〜50nmであることが好ましい。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の一態様において、前記第1結晶は、平均結晶粒径が200nm〜2μmの結晶粒からなり、前記第2結晶は、平均結晶粒径が20nm〜50nmの結晶粒からなることが好ましい。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の一態様において、前記結晶性膜に含まれる前記第1結晶の含有率は、前記結晶性膜の膜厚方向において、前記ゲート絶縁膜側よりも前記ソース電極及び前記ドレイン電極側の方が大きい、とすることができる。
また、本発明に係る薄膜半導体装置の一態様において、前記薄膜半導体装置はトップゲート型である、とすることができる。
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態に係る薄膜半導体装置及びその製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも好ましい一具体例を示すものである。従って、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程、工程の順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成するものとして説明される。また、各図面において、実質的に同一の構成、動作、及び効果を表す要素については、同一の符号を付す。
まず、本実施の形態に係る薄膜半導体装置100について、図1A及び図1Bを用いて説明する。図1Aは、本発明の実施の形態に係る薄膜半導体装置100の構成を模式的に示す断面図であり、図1Bは、同薄膜半導体装置100の平面図である。
本発明の一態様に係る薄膜半導体装置は、基板と、基板の上方に形成された、ゲート電極、ゲート絶縁膜、結晶性シリコン膜、ソース電極及びドレイン電極とを具備するものである。本実施の形態に係る薄膜半導体装置100は、図1A及び図1Bに示すように、チャネルエッチング型でボトムゲート型の薄膜トランジスタであって、基板1と、基板1上に順次形成された、ゲート電極2と、ゲート絶縁膜3と、結晶性シリコン膜4と、非晶質シリコン膜5と、一対のコンタクト層6と、一対のソース電極7S及びドレイン電極7Dとを備える。以下、本実施の形態に係る薄膜半導体装置100の各構成要素について詳述する。
基板1は、例えば、石英ガラス、無アルカリガラス及び高耐熱性ガラス等のガラス材料からなるガラス基板を用いることができる。なお、ガラス基板の中に含まれるナトリウムやリン等の不純物がチャネル部となる結晶性シリコン膜4に侵入することを防止するために、基板1の表面に窒化シリコン(SiNx)、酸化シリコン(SiOy)又はシリコン酸窒化膜(SiOyNx)等からなるアンダーコート層を形成してもよい。また、アンダーコート層は、レーザーアニール等の高温熱処理プロセスにおいて、基板1への熱の影響を緩和させる役割を担うこともある。アンダーコート層の膜厚としては、例えば、100〜2000nm程度とすることができる。
ゲート電極2は、基板1の上方に所定形状で形成される。ゲート電極2は、シリコンの融点温度に耐えられる導電性材料又はその合金等の単層構造又は多層構造からなり、例えば、モリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、Ni(ニッケル)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、又は、モリブデンタングステン(MoW)等を用いることができる。ゲート電極2は、基板1上に、これらの材料からなるゲート金属膜を形成し、これを所定形状にパターニングすることで形成される。なお、ゲート電極2の膜厚としては、例えば、20〜500nm程度とすることができる。
ゲート絶縁膜3は、ゲート電極2を覆うように、基板1及びゲート電極2の上に形成される。ゲート絶縁膜3は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、シリコン酸窒化膜、酸化アルミニウム(AlOz)、酸化タンタル(TaOw)又はその積層膜等を用いて形成することができる。
本実施の形態では、チャネル部として結晶性シリコン膜4を用いているので、ゲート絶縁膜3としては二酸化シリコンを用いることが好ましい。これは、TFTにおける良好な閾値電圧特性を維持するためにはチャネル部とゲート絶縁膜3との界面状態を良好なものにすることが好ましく、これには二酸化シリコンが適しているからである。なお、ゲート絶縁膜3の膜厚としては、例えば、50〜300nmとすることができる。
結晶性シリコン膜4は、薄膜半導体装置100におけるチャネル部(チャネル層)として機能する結晶性膜であり、ゲート電極2の電圧によってキャリアの移動が制御される領域であるチャネル領域を有する。本実施の形態において、結晶性シリコン膜4は、前駆体としてのアモルファスシリコン膜を結晶化することによって形成された結晶化領域を有する。結晶性シリコン膜4の結晶組織の詳細については後述する。
非晶質シリコン膜(アモルファスシリコン膜)5は、結晶性シリコン膜4の上に形成された非結晶半導体膜であって、意図的な不純物のドーピングが行われていないi層である。従って、非晶質シリコン膜5は、不純物がドープされたコンタクト層6と比べて電気抵抗が高い。なお、非晶質シリコン膜5は、不純物ドープが行われていないが、自然に含まれる不純物は存在する。非晶質シリコン膜5の不純物濃度としては、1×1017(atm/cm3)以下である。
非晶質シリコン膜5の導入は、結晶性シリコン膜4よりもバンドギャップが大きな材料を導入することで、オフ電流の低減を図ることを目的としている。このため、非晶質シリコン膜5のバンドギャップは、1.60〜1.90eVとすることが好ましい。なお、非晶質シリコン膜5の膜厚としては、例えば、10〜100nm程度とすることができる。また、非晶質シリコン膜5は、薄膜半導体装置100を平面視したときにおいて、結晶性シリコン膜4と同一形状である。
非晶質シリコン膜5の導入は、結晶性シリコン膜4よりもバンドギャップが大きな材料を導入することで、オフ電流の低減を図ることを目的としている。非晶質シリコン膜5のバンドギャップとしては、1.60〜1.90eVの材料を用いるとよい。なお、非晶質シリコン膜5の膜厚は、例えば、10〜100nm程度とする。
一対のコンタクト層6は、不純物を高濃度に含む非晶質半導体層、又は、不純物を高濃度に含む多結晶半導体層からなり、例えば、アモルファスシリコンに不純物としてリン(P)をドーピングしたn型半導体層であって、1×1019(atm/cm3)以上の高濃度の不純物を含むn+層である。
また、一対のコンタクト層6は、非晶質シリコン膜5上において所定の間隔をあけて対向配置されている。具体的には、一対のコンタクト層6のそれぞれは、非晶質シリコン膜5の表面、非晶質シリコン膜5の側面、結晶性シリコン膜4の側面、及び、ゲート絶縁膜3の表面のそれぞれの上に連続して連なるように形成されている。すなわち、一対のコンタクト層6のそれぞれは、半導体層を覆うように形成されている。なお、コンタクト層6の膜厚としては、例えば、5〜100nmとすることができる。
一対のソース電極7S及びドレイン電極7Dは、それぞれコンタクト層6上に、所定の間隔をあけて対向配置されている。すなわち、ソース電極7Sは、コンタクト層6を介して結晶性シリコン膜4の一方の端部の上方に形成されており、また、ドレイン電極7Dは、コンタクト層6を介して結晶性シリコン膜4の他方の端部の上方に形成されている。
ソース電極7S及びドレイン電極7Dは、それぞれ導電性材料又はこれらの合金等からなる単層構造又は多層構造とすることができ、例えば、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、銀(Ag)、銅(Cu)、チタン(Ti)又はクロム(Cr)等の材料により構成される。また、ソース電極7S及びドレイン電極7Dは、MoW/Al/MoWの三層構造とすることもできる。なお、ソース電極7S及びドレイン電極7Dの膜厚としては、例えば、100〜500nm程度とすることができる。
次に、本実施の形態に係る薄膜半導体装置における結晶性シリコン膜4の結晶組織について、図2を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態に係る薄膜半導体装置における結晶性シリコン膜の結晶組織を模式的に示す平面図である。
本実施の形態における結晶性シリコン膜4を説明する前に、まず、図25を用いて、従来の結晶性シリコン膜1004の結晶組織について説明する。図25に示すように、従来の結晶性シリコン膜1004は、単一の粒径分布を有する結晶粒1004Cによって構成された結晶組織である。なお、図25に示す結晶性シリコン膜1004は、非晶質シリコン膜を熱アニール法によって結晶化することによって形成している。
これに対して、本実施の形態における結晶性シリコン膜4は、図2に示すように、相対的に平均結晶粒径の大きな第1結晶(第1結晶粒)41Cと、相対的に平均結晶粒径の小さな第2結晶(第2結晶粒)42Cとを有する結晶組織(結晶化領域)である。すなわち、第1結晶41Cにおける結晶粒の平均結晶粒径は、第2結晶42Cにおける結晶粒の平均結晶粒径よりも大きい。そして、結晶粒径が大きい第1結晶41Cは、第2結晶42Cが焼結することによって形成されている(以下、この構造のことを本明細書中では「焼結組織」と記載する)。本実施の形態において、第1結晶41Cにおける結晶粒の平均結晶粒径は200nm〜2μmであり、第2結晶42Cにおける結晶粒の平均結晶粒径は20nm〜50nmである。ここで、結晶性シリコン膜4の焼結組織における特徴である「焼結」という現象及び「焼結結晶」について説明する。焼結とは、接触状態の粒子をその融点以下の温度に保持した時、粒子系全体の表面エネルギーが減少する方向へ物質移動する現象である。焼結は、原子の拡散が十分に起こりうる温度において、体積拡散、表面拡散、及び蒸発凝集することで原子の物質移動が起こることで生じる。この焼結過程における主要因子は、原子の拡散係数、表面エネルギー、及び粒径である。焼結の起こる温度は、上記の主要因子の状況によっても異なるが、融点の半分程度の温度で焼結が起こる場合もある。つまり、焼結を利用することで、融点よりもはるかに低い温度において結晶粒径を増大させることが可能となる(シリコン融点:1410℃、アモルファスシリコン融点:約1000℃程度)。また、焼結により結晶粒経が増大した結晶粒内では、粒子間の粒界が消失し、擬似的に単結晶(シングルグレイン)のような材料特性を示すことが期待される。
以下に、本発明の実施の形態に係る薄膜基板に形成された結晶性シリコン膜の構造について、その特徴を従来の結晶組織と比較しながら、図3及び図4を用いて説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る結晶性シリコン膜の平面電子顕微鏡(SEM)像を示す図である。図4は、本発明の実施の形態に係る結晶性シリコン膜、及び、従来の結晶性シリコン膜の特徴をまとめた表である。なお、図4に示すように、レーザーアニール(LA)法によって得られた結晶性シリコン膜の結晶組織は、照射するエネルギー密度を大きくすることで、固相成長(Solid Phase Crystallization:SPCと称す)組織、Explosive組織、溶融ポリシリコン組織を形成することができる。
図3に示す結晶性シリコン膜は、熱アニール法を用いて、結晶化温度を750℃として約20分間の熱処理を施すことによって得られたものである。図3に示す結晶性シリコン膜は、所定領域を結晶化した結晶化領域を含む薄膜であって、図4にまとめたような従来から報告されている結晶組織とは結晶組織構造が異なる新規の結晶組織を有する。この新規の結晶組織を「焼結組織」と呼び、「焼結組織」とはSPCにより形成した結晶粒子どうしが、焼結現象により、粒子間の粒界が消失したと考えられる焼結粒子を有する構造である。
次に、本実施の形態に係る結晶性シリコン膜における焼結組織の特徴について、図4及び図5A〜図5Cを参照しながら説明する。図5Aは、低エネルギー密度によりLA結晶化したSPC組織の結晶性シリコン膜の平面SEM像及びその模式図である。図5Bは、中エネルギー密度によりLA結晶化したExplosive組織の結晶性シリコン膜の平面SEM像及びその模式図である。図5Cは、高エネルギー密度によりLA結晶化した溶融ポリシリコン組織の結晶性シリコン膜の平面SEM像及びその模式図である。
まず、従来の結晶性シリコン膜における結晶組織(除く:Explosive)では、単一の粒径分布を有するのに対し、本実施の形態に係る結晶性シリコン膜における焼結組織(以下、単に「本発明の結晶組織」とも記載する)では、平均結晶粒径が200nm〜2μmの結晶粒及び平均結晶粒径が20nm〜50nmの結晶粒の2つの粒径分布を有するという特徴があり、本実施の形態における結晶性シリコン膜の結晶化領域は、相対的に平均結晶粒径の大きな第1結晶と、相対的に平均結晶粒径の小さな第2結晶とを有する。すなわち、第1結晶における結晶粒の平均結晶粒径は、第2結晶における結晶粒の平均結晶粒径よりも大きい。そして、後述するように、結晶粒径が大きい第1結晶は、第2結晶が焼結することによって形成されている。
ここで、図6A及び図6Bを用いて、本実施の形態に係る結晶性シリコン膜の焼結組織及び従来の溶融ポリシリコンの組織を電子後方散乱回折法(Electron Backscattering Pattern:EBSP)により算出した粒径分布を示す。EBSPにより求めた結晶組織の粒径は、平面SEMより求めた粒径と若干絶対値自身は異なるが、上述したような粒径分布の傾向が一致することを確認している。従って、本発明の焼結組織は、LA法におけるExplosive結晶組織と同様に、生成メカニズムの異なる2種類の結晶組織の混晶構造である。
次に、Explosive組織との差異について説明する。上述したように、Explosive組織では、溶融ポリシリコン組織を含むため、粒界に突起が形成されるという特徴がある。図5Bの図中に示すように、SEM像において、比較的粒径の大きな溶融シリコン組織と思われる粒子の粒界部のコントラストの明るい部位が突起に対応している。一方、図3に示すように、本発明の焼結組織においては、比較的粒径の大きな粒子の粒界においてさえも上述のような突起を観察することができない。従って、本発明の焼結組織は、溶融ポリシリコン組織ではなく、他の生成メカニズム(焼結)により、大粒径化していると思われる。詳細なメカニズムについては、後述する。
次に、粒子内の結晶構造や粒子の結晶方位に関する特徴について、EBSPの結果を用いて説明する。図7A及び図7Bは、それぞれ本実施の形態に係る結晶性シリコン膜の焼結組織及び溶融ポリシリコンの組織をEBSPにより求めた結晶方位マップ図を示す。図7Bに示すように、溶融ポリシリコン組織では、Twinなどの結晶欠陥に対応する構造が観測されるものの、1つの粒子における結晶方位が単一、言い換えると、単結晶(シングルグレイン)であるのに対し、図7Aに示すように、本発明の焼結組織の粒子では、粒径の大きい粒子の内部に異なる結晶(結晶方位を有する結晶)によって囲まれた領域(図中、破線で囲まれる領域)が存在する。この結果も、本発明の焼結組織の粒子が溶融結晶化により生成したものではないことを示唆する結果である。このような焼結組織は、低温で形成可能であるにも係らず、擬似的にシングルグレインのような材料特性を示すことが期待される。また、図7Aに示すように、焼結組織以外の結晶は、SPC組織であるため、主にシングルグレイン(粒界が単一の結晶方面)によって形成されていることが分かる。このように、シングルグレインや粒界が単一の結晶表面においては焼結が進行しやすく、焼結により融合粒が形成されることによって、結晶化領域には、異なる結晶方位により形成された結晶を内包する第1結晶が存在する結晶化領域を形成することができる。
なお、焼結結晶中に存在する、異なる結晶方位を有する複数の結晶を「副結晶」とする。また、副結晶の同士の間に位置する粒界は消失すると述べたが、SEM像によりわずかに確認することが可能であり、この粒界を「副粒界」と呼ぶ。なお、副粒界は異なる方位を有する結晶によって形成されているため、副粒界は、複数の副結晶の間に複数の結晶面によって形成されている。
このように、第1結晶は、一つの結晶内に異なる結晶方位により形成された複数の副結晶を内包し、複数の副結晶の間に複数の結晶面によって形成された副粒界を有する。これに対して、第1結晶の平均結晶粒径よりも小さい第2結晶は、内部に粒界が存在しないいわゆるシングルグレインであり、SEM像において、第2結晶同士の間に位置する粒界よりも、焼結結晶の内部に形成された副粒界のコントラストは弱く表示される。
また、図8は、本発明の実施の形態に係る結晶性シリコン膜の焼結組織の逆極点図を示す。従来のエキシマLA法により結晶化した溶融ポリシリコン組織では、<111>方向に配向することで知られているが、図8に示すように、本発明の焼結組織では、ほとんど配向性がないという特徴がある。
以上、本実施の形態に係る結晶性シリコン膜は、焼結現象により、粒子間の粒界が消失した焼結粒子を有する焼結組織を有しており、低温で大きな粒径の結晶を実現することができるということが分かる。また、本実施の形態に係る結晶性シリコン膜によれば、溶融結晶において、課題となる粒界に形成される突起が形成されないため、上部層との密着性が向上することにより、本実施の形態に係る結晶性シリコン膜を用いたデバイスやプロセスの信頼性を向上させることができる。
(結晶性シリコン膜の形成方法及び成長メカニズム)
次に、図9を用いて、本実施の形態における結晶性シリコン膜4の形成方法について、焼結組織が生成されるメカニズムを含めて説明する。図9は、本発明の実施の形態における結晶性シリコン膜の形成方法を説明するための図である。
まず、図9の(a)に示すように、基板1として例えばガラス基板を準備する(基板準備工程)。なお、基板1上に後の結晶化処理を直接行う場合、基板1と前駆体膜(非晶質シリコン膜)の界面状態が結晶成長に影響するため、所定の薬液によって基板1の表面に存在する有機物などの不純物を除去しておくとよい。また、プラズマCVD等によって、基板1上に、シリコン酸化膜(SiOx)、シリコン窒化膜(SiNx)、又はシリコン酸窒化膜(SiON)等からなるアンダーコート層を形成してもよい(図示せず)。
次に、同図に示すように、基板1上に所定形状のゲート電極2を形成する(ゲート電極形成工程)。例えば、基板1の全面にゲート金属膜を成膜し、フォトリソグラフィー及びウェットエッチングを施すことによりゲート金属膜をパターニングして所定形状のゲート電極2を形成する。
次に、同図に示すように、ゲート電極2の上にゲート絶縁膜3を形成する(ゲート絶縁膜形成工程)。例えば、ゲート電極2を覆うようにして基板1の全面にゲート絶縁膜3を成膜する。
次に、同図に示すように、ゲート絶縁膜3上に、非晶質膜として非晶質シリコン膜(アモルファスシリコン膜)4aを成膜する(非晶質膜形成工程)。非晶質シリコン膜4aは、結晶化させることによって結晶性シリコン膜となる前駆体膜である。この前駆体膜は、非晶質シリコン膜4a中において局所的にSi原子とSi原子との結合量の多い領域(擬似結晶核)を含む膜とすることが好ましく、前駆体膜となる非晶質シリコン膜4a中には、熱アニール処理により結晶成長される起点Zが含まれている。この起点Zは、上述の擬似結晶核が主成分であるが、他の膜欠陥なども起点となることもある。また、前駆体膜(非晶質シリコン膜4a)中には、結晶が生成される起点(擬似結晶核)が、従来の長時間SPC成長に比べて、高密度に生成されている。
このような非晶質シリコン膜4a(前駆体膜)は、プラズマCVD等によって成膜することができ、例えば、原料ガスとしてシラン(SiH4)を用い、希釈ガスとして水素、アルゴン又はヘリウムなどの不活性ガスを用いて、成膜温度を250〜500℃、成長圧力を0.1〜10Torrとした成膜条件にて成膜することができる。非晶質シリコン膜4aの膜厚は、例えば、20〜100nm程度である。なお、原料ガスとしては、シランガス以外に、ジシランガス又はトリシランガスを用いることもできる。
ここで、非晶質シリコン膜の結晶化のメカニズムについて、図10を用いて説明する。図10は、本実施の形態における非晶質シリコン膜の結晶化メカニズムを説明するための図であり、自由エネルギーとシリコン膜における結晶グレインサイズとの関係を模式的に示す図である。図10において、縦軸は自由エネルギー、横軸は結晶グレインサイズを示している。
図10に示すように、一般的に、結晶性シリコンの固相成長(SPC)では、自由エネルギーの増加に伴って非結晶シリコン(非晶質シリコン)膜中で結晶核が形成され、この結晶核から結晶が成長するという過程が考えられている。
結晶核を生成するための自由エネルギーは、結晶核サイズが小さいほど表面エネルギーが支配的となるため増加する傾向にある。結晶核サイズが臨界結晶核のサイズ(約1〜2nm程度)を超えると、自由エネルギーは減少し結晶成長が促進される。
この場合、従来の結晶性シリコン膜を固相成長によって結晶成長するためには、結晶核生成に必要な約2eV程度のエネルギー障壁を超える必要があり、この障壁が結晶成長における律速過程となる。
これに対し、本実施の形態における非結晶シリコン膜(前駆体膜)では、平均粒径が臨界結晶核の平均粒径以下の小さな結晶核(擬似結晶核)が膜中に予め生成されているので、図10に示すように成膜直後の前駆体膜の自由エネルギーを増加させることができる。すなわち、結晶核形成に必要な活性化エネルギーの障壁を低減させることが可能となる。なお、上述のように、擬似結晶核は、シリコン膜中において局所的にSi原子とSi原子との結合量の多い領域であり、擬似結晶核の平均粒径は1nm以下である。
このように、本実施の形態では、成膜直後(結晶化アニール前)の非晶質シリコン膜(前駆体膜)には自由エネルギーが増大した擬似結晶核が存在するので、その後の結晶化アニール処理において結晶化の活性化エネルギーを低減することができる。よって、結晶化における活性化エネルギーを低下させ、結晶化温度が低温化することができる。
次に、図9の(b)〜(d)に示すように、非晶質シリコン膜4aを熱アニールすることによって、第1結晶41C及び第2結晶42Cを含む結晶組織の結晶性シリコン膜4Cを形成する(結晶化アニール工程)。以下、結晶性シリコン膜4Cの結晶化のメカニズム、すなわち焼結結晶が生成されるメカニズムについて説明する。
非晶質シリコン膜4aを熱アニールすると、図9の(b)に示すように、前記起点Zを結晶核として結晶が成長する。これにより、同図に示すように、まず粒径の小さい第2結晶42Cが生成される。そして、図9の(c)に示すように、第2結晶42Cが生成されるプロセス中に、第2結晶42Cのシリコン粒子同士が焼結することで融合粒となり、比較的粒径の大きな第1結晶41Cが焼結組織として生成される。すなわち、小さな粒径の粒子が高密度で形成されるため、粒子系としての表面エネルギーが大きな状態となり、この表面エネルギーを減少させるために粒子間が焼結することで、結晶の表面積が減少し、大粒径の結晶が形成されると考えられる。
また、熱アニール中において、非晶質シリコン膜4a中に新たに結晶核が生成され、この結晶核からも結晶が成長して、第2結晶42Cが生成される。このようにして、図9の(d)に示すように、第1結晶41C及び第2結晶42Cを含む結晶組織を有する結晶性シリコン膜4Cを形成することができる。
このように、本実施の形態では、成膜直後の非晶質シリコン膜4a(前駆体膜)には自由エネルギーが増大した擬似結晶核が存在するので、その後の結晶化アニール処理において結晶化の活性化エネルギーを低減することができる。このため、高密度な粒径の小さな結晶が形成され、その粒子間が焼結することで大きな粒径の粒径を形成させることができる。
ここで、焼結組織において、所望の粒径を得るためには、アニール温度、アニール時間、及び前駆体膜となる非晶質シリコン膜4aの膜厚を調整すればよい。アニール温度の上昇、アニール時間の増加、及び非晶質シリコン膜4aの膜厚増加により、結晶粒径の増大が期待できる。これは、アニール温度を上昇させると、結晶成長の起点となる結晶核が高密度に生成されて結晶成長が阻害されることで第2結晶42Cの結晶粒経が小さくなり、これにより、第2結晶42Cのシリコン粒子同士の接触面積が増大して、より大きな結晶粒径を有した第1結晶41Cを成長させることができるためである。また、アニール時間を増加させると結晶粒径が増大するのは、第1結晶41Cを成長させる焼結時間が増加し、より大きな結晶粒径を有した第1結晶41Cを成長させることができるためである。さらに、非晶質シリコン膜4aの膜厚増加により結晶粒径が増大するのは、図9の(b)における結晶成長時に、シリコン膜中の第2結晶42Cのシリコン粒子の個数が増大することにより第2結晶42Cのシリコン粒子同士の接触面積が増大し、これにより、大きな結晶粒径を有した第1結晶41Cを成長させることができるためである。
このような焼結組織を有する結晶性シリコン膜4Cを形成するには、起点Zを結晶核としてシリコン結晶粒を結晶成長させることができる条件として、例えば、500℃〜1000℃の温度によって非晶質シリコン膜4aに対して熱アニールを施すことにより実現することができる。熱アニール法としては、例えば急速熱アニール法(RTA:Rapid Thermal Anealing)、レーザーアニール法(LA)、又は、フラッシュランプアニール等を用いることができる。また、急速熱アニール法を用いて行う場合、約1分から2時間の熱アニールを行うことで第2結晶42Cを生成及び融合させて、焼結組織の第1結晶41Cを生成することができる。なお、熱アニール温度は、700℃〜800℃の範囲とすることが好ましい。これは、基板1としてガラス基板を用いた場合は、ガラス基板の破損や歪みを抑制するために、800℃以下の温度でアニールすることが好ましいからである。この場合、熱アニール時間は、1分〜30分の範囲とすることが好ましい。
(擬似結晶核を有する前駆体膜の成膜方法)
ここで、上述の擬似結晶核を有する非晶質シリコン膜4a(前駆体膜)の成膜方法に関して、図11A、図11B及び図12を用いて説明する。
図11Aは、本発明の実施の形態に係る非晶質シリコン膜(前駆体膜)と比較例に係る非晶質シリコン膜(前駆体膜)とのフォトルミネッセンス(PL)スペクトルを示す図である。図11Aに示すフォトルミネッセンススペクトルは、最大PL強度を1として規格化(正規化)したものであり、図11Aにおいて、縦軸はPL強度、横軸はフォトンエネルギーを示している。図11Bは、図11Aにおける4つ条件の前駆体膜を成膜するときの成膜条件を示す図であり、条件1、条件2及び条件3は、本実施の形態に係る成膜条件を示しており、Refの条件は、比較例に係る成膜条件を示している。また、図12は、非結晶シリコンの発光メカニズムを説明するための模式図である。
まず、前駆体膜の発光過程及びそれに伴うPLスペクトルの変化について、図12を用いて説明する。
光励起により生成したエキシトン(励起子)は、高い温度領域では、シリコンのダングリングボンド(未結合手)などで形成された局在準位を介して非輻射再結合により消滅していくため、低温化することで光放出を伴う輻射再結合が支配的となる(図12の(a)過程)。このため、本実施の形態では、測定温度を10KにしてPL強度の測定を行った。
ここで、図11Aに示すように、各条件の非晶質シリコン膜のPLスペクトルは、複数のピーク(モード)が存在するブロードな発光スペクトルとして観察され、少なくとも1.2〜1.4eVと1.1eV付近とにそれぞれ大きなピークをもつ。このうち、最大PL強度は、1.2〜1.4eVの間に現れ、図11Aでは、1.2eV付近のピークが最大PL強度となっている。
この発光バンドは、PLスペクトルのバンドテイルを含めたバンド端局在準位間の光学遷移に起因したものと考えられている(図12の(b)過程)。このPLスペクトルの形状やピークの位置は、バンド端局在準位密度分布、つまり、非晶質シリコン膜の構造を反映したものになる。
図11Aに示すように、条件1、条件2及び条件3の本実施の形態に係る各PLスペクトルは、Ref条件の比較例に係るPLスペクトルに比べて、スペクトル全体が低エネルギー側にシフト、つまり1.1eV付近に現れるピークのPL強度が大きくなっていることが分かる。
これは、条件1〜条件3の非晶質シリコン膜中には、Ref条件の非晶質シリコン膜に比べて、局所的にSi原子とSi原子との結合量の多い領域(擬似結晶核)が形成されていると考察される。すなわち、フォトンエネルギーが1.1eV付近に現れるピークのPL強度はSi原子とSi原子との結合量を示しており、1.1eV付近のPL強度が大きい程、非晶質シリコン膜中におけるSi原子とSi原子との結合量が多いと考えられる。
従って、図11Aに示すPLスペクトルにおいて、フォトンエネルギーが1.1eV付近のときのPL強度が0.65以上である非晶質シリコン膜を成膜することにより、言い換えると、最大PL強度に対するフォトンエネルギーが1.1eVにおけるピーク強度の比が0.65以上である非晶質シリコン膜を成膜することにより、擬似結晶核が存在する非晶質シリコン膜4aを得ることができる。
これにより、結晶性シリコン膜の前駆体膜である非晶質シリコン膜中に局所的にSi原子とSi原子との結合密度の高い領域(擬似結晶核)を存在させることができるため、結晶化アニール処理における結晶化の活性化エネルギーを低減でき、低温化(従来の同一結晶化温度の粒径と比較して大粒径化)することができる。従って、本実施の形態によって形成された結晶性シリコン膜の粒径は、従来と同じ結晶化アニール処理をした結晶性シリコン膜の粒径よりも大きくすることができる。それ故に、本実施の形態における結晶性シリコン膜をチャネル層とするTFTを作製することで、オン時の電流を向上させることができる。ここで、前記「Si原子とSi原子との結合密度が高い領域」とは、多結晶シリコン、あるいは微結晶シリコンのようにSiの結晶粒サイズが、例えば5nm、あるいは数10nm以上の領域ではないが、Si原子とSi原子とがダイヤモンド結合構造で結合している結合密度が高く、Si原子とSi原子とが非晶質構造となっている結合密度が前記のダイヤモンド結合構造で結合している結合密度より少ない領域、のことを意味する。
次に、図9の(e)に示すように、結晶性シリコン膜4Cの膜厚を薄くして結晶性シリコン膜4Cを薄膜化する(薄膜化工程)。これにより、結晶性シリコン膜4を形成することができる。すなわち、薄膜化される前の結晶性シリコン膜4Cは、結晶性シリコン膜4の前駆体膜である。この結晶性シリコン膜4Cの薄膜化は、エッチング処理によって結晶性シリコン膜4Cの上層部を除去することによって行うことができる。エッチング方法としては、ウェットエッチング又はドライエッチングを用いることができ、ウェットエッチングとしては、例えば希フッ酸(DHF)溶液を用いたエッチング処理を用いることができる。希フッ酸溶液を用いることにより、電荷ダメージを与えることなく結晶性シリコン膜4Cをエッチングすることができる。
なお、薄膜化工程においては、薄膜化の断面構造を模式的に示す図9の(e)に示すように、基板面内の膜厚方向における結晶性シリコン膜4Cのエッチング量を均一にすることが好ましい。
これは、以下の理由による。例えば図13の(a)及び(b)に示すように、結晶性シリコン膜4Cをエッチングしたときにおいて、第2結晶42Cが第1結晶41Cよりも優先的にエッチングされてしまうと、第1結晶41Cよりも第2結晶42Cにおける結晶領域の膜厚が減少することになる。これにより、薄膜化後の結晶性シリコン膜4の抵抗が増大し、TFT駆動時において、キャリア伝導が阻害される。つまり、この場合、結晶性シリコン膜4Cの薄膜化によるTFTの移動度の増大が期待できない。また、図13の場合、第1結晶41Cと第2結晶42Cとのエッチング量の相違によって、基板面内の膜厚も不均一になり、電気特性のバラツキも増大してしまうことも考えられる。従って、結晶性シリコン膜4Cの膜厚方向におけるエッチング量は基板面内において均一にすることが好ましい。
図9の(e)において、結晶性シリコン膜4Cのエッチングとしては、希フッ酸(DHF)溶液を用いて行うことができるが、基板面内で均一な膜厚でエッチングするには、希フッ酸溶液に浸漬する前に、結晶性シリコン膜4Cの表面を酸化する(結晶性膜の表面酸化工程)ことが好ましい。結晶性シリコン膜4Cの表面を酸化する方法としては、例えば、オゾン酸化処理を用いることができる。このように、結晶性シリコン膜4Cの表面を酸化することによって、結晶性シリコン膜4Cの表面に均一な膜厚の酸化シリコンを生成することができる。従って、この酸化シリコンのみをフッ酸溶液等でエッチングすることによって、結晶性シリコン膜4Cを均一な膜厚で容易にエッチングすることができる。なお、ドライエッチング法により薄膜化する場合においても、結晶性シリコン膜4Cは、基板面内で均一な膜厚でエッチングすることが好ましい。また、結晶性シリコン膜4Cを薄膜化する方法としては、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)を用いることもできる。CMPを用いることによって、結晶性シリコン膜4Cを均一な膜厚で容易に除去することができる。
また、本実施の形態において、膜厚を薄くする前における結晶性シリコン膜(すなわち結晶性シリコン膜4C)の膜厚は、55nm以上であり、膜厚を薄くした後における結晶性シリコン膜(すなわち結晶性シリコン膜4)の膜厚は、20〜50nmであることが好ましい。
次に、本実施の形態に係る薄膜半導体装置100の効果について説明する。
まず、本実施の形態に係る薄膜半導体装置100は比較的高い移動度を得ることができる。薄膜半導体装置100において、チャネル部となる結晶性シリコン膜4は、図2に示すように、平均結晶粒径の大きな第1結晶41Cと平均結晶粒径の小さい第2結晶42Cを含む焼結組織で形成されている。TFTの移動度は、駆動中のキャリア伝導経路中における、チャネル部の結晶性シリコン膜4中の結晶欠陥数に負の相関がある。この理由は、結晶欠陥数が大きいと、伝導中キャリアがより多く散乱され、キャリア伝導が阻害されるためである。上記結晶欠陥とは、具体的には、結晶粒界と結晶粒内欠陥である。結晶性膜が多結晶で形成されている場合、キャリア伝導経路中の結晶欠陥における、キャリアの散乱度合いは、結晶粒内欠陥よりも結晶粒界の方が大きい。これは、キャリア伝導経路中に占める結晶欠陥の体積は、結晶粒内欠陥よりも結晶粒界の方が大きいためである。そのため、移動度に対する影響は、結晶粒界が優位である。一方、結晶粒径が大きいと、駆動中のキャリア伝導経路中における結晶粒界数が減少する。そのため、結晶性シリコン膜の結晶粒径が大きいと、上記結晶性膜をチャネルとしたTFTの移動度は大きくなる。
以上により、本実施の形態に係る薄膜半導体装置100によれば、チャネル部となる結晶性シリコン膜4が結晶粒径の大きな第1結晶41Cを含む焼結組織を有するので、TFTの移動度を大きくすることができる。
また、本実施の形態に係る薄膜半導体装置100は電気特性のバラツキを抑制することができる。
まず、電気特性として、移動度のバラツキについて説明する。移動度のバラツキは、駆動中のキャリア伝導経路中における、チャネル部の結晶性膜中における結晶欠陥のバラツキに正の相関がある。前述したように、結晶欠陥が及ぼす移動度への影響は、結晶粒界が優位であるので、移動度のバラツキは、駆動中のキャリア伝導経路中における、結晶粒界のバラツキに正の相関がある。そして、結晶粒界のバラツキは、駆動中のキャリア伝導経路中における、結晶粒界数に比例する。これにより、移動度のバラツキは、駆動中のキャリア伝導経路中における結晶粒界数で決定される。
次に、オフ電流のバラツキについて、結晶性シリコン膜4の結晶性の観点から説明する。TFT駆動時の電圧でのオフ電流は、チャネル部となる結晶性シリコン膜4内の結晶欠陥から生じる発生電流である。そして、オフ電流に及ぼす影響が大きい結晶欠陥は、結晶粒界である。これは、キャリア伝導経路中に占める結晶欠陥の体積は、結晶粒内欠陥よりも結晶粒界の方が大きいからである。そのため、オフ電流のバラツキは、キャリア伝導経路中における結晶粒界数で決定される。
このように、薄膜半導体装置100の電気特性のバラツキは、キャリア伝導経路中における結晶粒界数で決定されることになる。
本実施の形態に係る薄膜半導体装置100によれば、チャネル部となる結晶性シリコン膜4が、焼結組織で形成された結晶性シリコン膜4Cを薄膜化することによって形成されている。
ここで薄膜化後に残存した結晶性シリコン膜4に含まれる第1結晶41Cの割合が、薄膜化前の結晶性シリコン膜4に含まれる第1結晶41Cの割合よりも高くなるように、結晶性シリコン膜4Cの薄膜化を行うことで、結晶性シリコン膜4に侵入したキャリアがチャネル領域(結晶性シリコン膜の下面)に到達するまでの経路長に占める第1結晶41Cの割合を高めることが出来る。つまり、薄膜化後の結晶性シリコン膜4の上面に占める第1結晶41Cの割合が、薄膜化後の結晶性シリコン膜4の下面に占める第1結晶41Cの割合よりも多くすることができる。その結果、キャリア伝導経路中の膜厚方向の領域における結晶粒界数を減少させることができる。従って、電気特性のバラツキを小さくすることができる。
なお、結晶性シリコン膜4は、上面と下面付近の領域よりも、中央付近の領域において第1領域がより多く形成される。そのため、結晶性シリコン膜4の当初の厚みに対して、厚みを半分より多く残して薄膜化することで、キャリア伝導経路中に占める第1結晶の割合を高くすることができ、電気特性のバラツキを低減することができる。なお、厚みを半分以上の越す場合でなくても、第1結晶41Cの成長の仕方に応じて適宜薄膜化する厚みを決定することで、上記の効果を得ることが出来る。
また、薄膜化した結晶性シリコン膜4をTFTのチャネルとすることで、結晶粒径の大きな第1結晶41Cを含む焼結組織が生成されているため、TFTの移動度を高くすることができる。
以上、本実施の形態に係る薄膜半導体装置100によれば、高移動度、且つ電気特性のバラツキが小さいTFTを実現することができる。
また、結晶性シリコン膜4において、結晶性シリコン膜4に含まれる第1結晶41Cの含有率は、結晶性シリコン膜4の膜厚方向において、ゲート絶縁膜3側よりもソース電極7S及びドレイン電極7D側の方が大きいことが好ましい。これにより、さらに、TFTの移動度を大きくすることができるとともに電気特性のバラツキを抑制することができる。
また、薄膜化した結晶性シリコン膜4を薄膜半導体装置に使用することで、薄膜半導体装置において半導体層と上部層とのコンタクト抵抗を抑制でき、移動度などの電気的特性を向上させることができる。
前述のように、結晶性シリコン膜4は、上面と下面付近の領域よりも、中央付近の領域において第1結晶41Cがより多く形成される。そのため、薄膜化後の結晶性シリコン膜4の上面に露出する第1結晶41Cの面積が、薄膜化前の結晶性シリコン膜4の上面に露出する第1結晶41Cの面積よりも大きくなる。この事象は、薄膜化後の結晶性シリコン膜4の上面に露出する第1結晶41Cの面積が、薄膜化後の結晶性シリコン膜4の下面に露出する第1結晶41の面積よりも大きくなることと同義である。
そのため、結晶性シリコン膜4を薄膜化することで、結晶性シリコン膜4と上層間のコンタクト抵抗を抑制することができ、薄膜半導体装置の電気的抵抗を向上させることが出来る。
(ボトムゲート型TFTの構成)
以下、本実施の形態に係る4種類のボトムゲート型TFTの構成について、図14A〜図14Dを用いて説明する。
図14Aは、本発明の実施の形態に係る第1のボトムゲート型TFT200の構成を模式的に示した断面図である。図14Aに示すボトムゲート型TFT200の構成は、図1Aに示す薄膜半導体装置100と同様に、ソース領域とドレイン領域とを形成する際に、半導体層(ここでは、非晶質シリコン膜5)をエッチングして形成されるチャネルエッチング型のTFTである。
図14Aに示すように、第1のボトムゲート型TFT200は、基板1と、基板1上に形成されたアンダーコート層8と、アンダーコート層8上に形成されたゲート電極2と、ゲート電極2上に形成されたゲート絶縁膜3と、ゲート絶縁膜3上に形成された結晶性シリコン膜4と、結晶性シリコン膜4上に形成された非晶質シリコン膜5と、非晶質シリコン膜5上に形成された一対のコンタクト層6と、一対のコンタクト層6上に形成されたソース電極7S及びドレイン電極7Dとを備える。このように、図14Aに示すボトムゲート型TFTは、図1Aに示す薄膜半導体装置100に対してアンダーコート層8が形成されたものである。なお、結晶性シリコン膜4は、上述の本実施の形態に係る結晶性シリコン膜4の形成方法によって形成される。
また、図14Bは、本発明の実施の形態に係る第2のボトムゲート型TFT300の構成、図14Cは、本発明の実施の形態に係る第3のボトムゲート型TFT400の構成、図14Dは、本発明の実施の形態に係る第4のボトムゲート型TFT500の構成を模式的に示した断面図である。図14B〜図14Dに示す各TFTの構成は、ソース領域とドレイン領域とを形成する際に半導体領域がエッチングされるのを保護するために、チャネル保護層9が形成されたチャネルエッチングストップ(CES)型のTFTである。
図14B〜図14Dの各TFTの構造の差異としては、次の点である。図14Bでは、結晶性シリコン膜4とチャネル保護層9との間に非晶質シリコン膜5が形成されているが、図14Cでは、この非晶質シリコン膜5が形成されていない点である。また、図14Dでは、非晶質シリコン膜5がチャネル保護層9上(チャネル保護層9とコンタクト層6との間)に形成されている点である。以下、一例として、図14Bの構成について、詳細に説明する。
図14Bに示すように、第2のボトムゲート型TFT300は、基板1と、基板1上に形成されたアンダーコート層8と、アンダーコート層8上に形成されたゲート電極2と、ゲート電極2上に形成されたゲート絶縁膜3と、ゲート絶縁膜3上に形成された結晶性シリコン膜4と、結晶性シリコン膜4上に形成された非晶質シリコン膜5と、非晶質シリコン膜5上に形成されたチャネル保護層9と、チャネル保護層9の両端を覆うとともに非晶質シリコン膜5の両端部上に形成された一対のコンタクト層6と、コンタクト層6の上に形成された一対のソース電極7S及びドレイン電極7Dとを備える。なお、第2のボトムゲート型TFT300においても、結晶性シリコン膜4は、上述の本実施の形態に係る結晶性シリコン膜4の形成方法によって形成される。
以下、図14Bに示す本実施の形態に係る第2のボトムゲート型TFT300の各構成要素について詳述するが、図1Aに示す薄膜半導体装置100と異なる点を中心に説明する。
第2のボトムゲート型TFT300において、アンダーコート層8は、例えば、シリコン窒化膜(SiNx)又はシリコン酸化膜(SiOx)、又はシリコン酸窒化膜(SiON)等を用いることができる。
また、チャネル保護層9は、一対のコンタクト層6をパターン形成するときのエッチング処理時において、非晶質シリコン膜5がエッチングされてしまうことを防止するためのチャネルエッチングストッパ(CES)層として機能する。このため、コンタクト層6を形成するときのエッチングによってチャネル保護層9の上層部がエッチングされる。
なお、チャネル保護層9は、シリコン、酸素及びカーボンを含む有機材料を主として含有する有機材料からなる有機材料層、又は、酸化シリコンや窒化シリコン等の無機材料を主成分とする無機材料層によって構成することができる。なお、チャネル保護層9は、絶縁性を有し、一対のコンタクト層6同士は電気的に接続されていない。
以上、図14A〜図14Dに示すボトムゲート型TFTにおいても、図1Aに示す薄膜半導体装置100と同様に、チャネル部となる結晶性シリコン膜4が結晶粒径の大きな第1結晶41Cを含む焼結組織で構成されており、結晶性シリコン膜4の粒径は、焼結組織中に含まれる第1結晶41Cによって、従来と同じ結晶化アニール処理によって形成された結晶性シリコン膜の粒径よりも大きくなっている。これにより、移動度が高いTFTを実現することができる。しかも、結晶性シリコン膜4は、上記焼結組織を有する結晶性シリコン膜を薄膜化して形成されるので、キャリア伝導経路中の膜厚方向領域の結晶粒界数を減少させることができる。これにより、電気特性のバラツキを小さくすることができる。従って、高移動度で、且つ電気特性のバラツキが小さいという特徴を兼ね備えたボトムゲート型TFTを実現することが可能となる。
(ボトムゲート型TFTの製造方法)
次に、本実施の形態に係る第2のボトムゲート型TFT300の製造方法について、図15を用いて説明する。図15は、本発明の実施の形態に係る第2のボトムゲート型TFT300の製造方法における各工程の構成を模式的に示した断面図である。
まず、図15の(a)に示すように、基板1としてガラス基板を準備する。次に、ゲート電極2を形成する前に、プラズマCVDなどによって基板1上にシリコン窒化膜又はシリコン酸化膜などからなるアンダーコート層8を形成する。なお、ガラス基板からの不純物を抑制する機能をゲート絶縁膜に兼ねさせることで、アンダーコート層8を形成しなくてもよい。
次に、図15の(b)に示すように、アンダーコート層8上に所定形状のゲート電極2を形成する。例えば、アンダーコート層8上にMoWからなるゲート金属膜をスパッタによって成膜し、フォトリソグラフィー法及びウェットエッチング法を用いてゲート金属膜をパターニングすることにより、所定形状のゲート電極2を形成することができる。
次に、図15の(c)に示すように、ゲート電極2が形成された基板1を覆うようにゲート絶縁膜3を形成する。例えば、ゲート電極2を覆うようにして酸化シリコンからなるゲート絶縁膜3をプラズマCVD等によって成膜する。
次に、同図に示すように、ゲート絶縁膜3上に、結晶性シリコン膜4の前駆体膜として、アモルファスシリコン膜(非晶質シリコン膜)を成膜する。非晶質シリコン膜は、プラズマCVD等によって成膜することができる。また、非晶質シリコン膜は、ゲート絶縁膜3と同一装置内で、より好ましくは、同一反応室内で、連続成膜する。これによって、ゲート絶縁膜3と非晶質シリコン膜との界面への不純物のコンタミネーションを低減できる。
次に、図9の(b)〜(d)を用いて説明したように、500℃〜1000℃の温度によって非晶質シリコン膜をアニールすることによって非晶質シリコン膜を結晶化し、結晶性シリコン膜を形成する。本実施の形態では、急速熱アニール法により、約1分から数時間のアニールを行うことで非晶質シリコン膜の結晶化を行った。
なお、基板1としてガラス基板を用いる場合は、ガラスの破損や歪みを抑制するために、800℃以下の温度でアニールすることが好ましい。また、アニール温度及びアニール時間を調整することにより、結晶性シリコン膜の粒径を制御することができる。また、急速に温度を上昇させる(>100℃/秒)アニール方法(例えば、レーザーアニール、フラッシュランプアニールなど)を用いることもできるが、この場合、非晶質シリコン膜中の水素の突沸による膜破壊を防ぐために、非晶質シリコン膜から水素が抜ける温度である400℃以上の温度で脱水素アニール処理を行った後に、結晶化アニール処理を行うことが好ましい。
次に、図9の(e)に示すように、結晶性シリコン膜をエッチングすることによって薄膜化する。本実施の形態では、薄膜化前の基板を希フッ酸溶液に浸漬することによって、結晶性シリコン膜の膜厚を薄くした。また、本実施の形態では、薄膜化前の結晶性シリコン膜が基板面内で均一な膜厚でエッチングされるように、オゾン酸化によって結晶性シリコン膜の表面に均一な膜厚の酸化シリコンを生成した後に、この酸化シリコンをフッ酸溶液でエッチングした。なお、本実施の形態では、薄膜化前の結晶性シリコン膜の膜厚を55nmとし、薄膜化後における結晶性シリコン膜の膜厚を33nmとした。
以上のようにして、図15の(c)に示すように、ゲート絶縁膜3の上に、薄膜化された結晶性シリコン膜である結晶性シリコン膜4を形成することができる。
次に、図15の(d)に示すように、結晶性シリコン膜4上に、非晶質シリコン膜5を成膜する。非晶質シリコン膜5は、プラズマCVD等によって成膜することができる。
ここで、非晶質シリコン膜5を堆積する前に、結晶性シリコン膜4に対して水素プラズマ処理を行うことが好ましい。この水素プラズマ処理によって、結晶性シリコン膜4の水素化処理、結晶性シリコン膜4上に形成された自然酸化膜の除去、及び、非晶質シリコン膜5の密着性向上の効果が得られる。水素プラズマ処理は、水素ガスを含むガスを原料として高周波(RF)電力により水素プラズマを発生させて、当該水素プラズマを結晶性シリコン膜4に照射することにより行われる。
なお、この水素プラズマ処理は、プラズマ雰囲気中に水素イオン(H+)と水素ラジカル(H*)を含む水素プラズマを発生させるものであり、発生させた水素イオンと水素ラジカルとが結晶性シリコン膜4内に入り込んでいくことにより、結晶性シリコン膜4を構成するシリコン原子のダングリングボンドが水素終端される。
次に、図15の(e)に示すように、非晶質シリコン膜5上に所定形状のチャネル保護層9を形成する。例えば、非晶質シリコン膜5上に酸化シリコン膜からなる絶縁膜をCVDによって成膜し、フォトリソグラフィー法及びウェットエッチング法を用いて当該絶縁膜をパターニングすることにより、所定形状のチャネル保護層9を形成することができる。なお、チャネル保護層9として、塗布型の有機材料や感光性塗布型の有機材料を用いることにより、プロセスを簡素化することができる。
次に、チャネル保護層9を覆うようにして非晶質シリコン膜5上に、コンタクト層6となるコンタクト層用膜を形成する。例えば、プラズマCVDによって、リン等の5価元素の不純物をドープしたアモルファスシリコンからなるコンタクト層用膜を成膜する。ここで、コンタクト層用膜を成膜する前に、非晶質シリコン膜5に対して、例えば、CF4やO2によるドライエッチング又はDHF(希フッ酸)によるウェットエッチングによって、非晶質シリコン膜5の表面上に形成された自然酸化膜を除去する。さらに、コンタクト層用膜を成膜する前に、水素プラズマ処理を施すことで、非晶質シリコン膜5との密着性向上及び非晶質シリコン膜5の表面の自然酸化膜を除去することができる。
次に、コンタクト層用膜上に、ソース電極7S及びドレイン電極7Dとなるソースドレイン金属膜を形成する。例えば、スパッタによって、MoW/Al/MoWの三層構造のソースドレイン金属膜を成膜する。その後、所定形状のソース電極7S及びドレイン電極7Dをパターン形成するために、ソースドレイン金属膜上にレジスト材料を塗布し、露光及び現像を行って、所定形状にパターニングされたレジストを形成する。
次に、このレジストをマスクとしてウェットエッチングを施してソースドレイン金属膜をパターニングすることにより、図15の(f)に示すように、所定形状のソース電極7S及びドレイン電極7Dを形成する。なお、このとき、コンタクト層用膜がエッチングストッパとして機能する。その後、レジストを除去する。これにより、結晶性シリコン膜4のチャネル領域の上方にソース電極7S及びドレイン電極7Dを形成することができる。
次に、ソース電極7S及びドレイン電極7Dをマスクとしてエッチングを施すことにより、コンタクト層用膜、非晶質シリコン膜5及び結晶性シリコン膜4をパターニングする。これにより、所定形状の一対のコンタクト層6と、島状に積層された非晶質シリコン膜5及び結晶性シリコン膜4とを形成することができる。
このようにして、本実施の形態に係る第2のボトムゲート型TFT300を製造することができる。
以上のようにして製造された第2のボトムゲート型TFT300によれば、チャネル部となる結晶性シリコン膜4が結晶粒径の大きな第1結晶41Cを含む焼結組織で構成されており、結晶性シリコン膜4の粒径は、焼結組織中に含まれる第1結晶41Cによって、従来と同じ結晶化アニール処理によって形成された結晶性シリコン膜の粒径よりも大きくなっている。これにより、移動度が高いTFTを得ることができる。しかも、結晶性シリコン膜4は、上記焼結組織を有する結晶性シリコン膜を薄膜化して形成されるので、キャリア伝導経路中の膜厚方向領域の結晶粒界数を減少させることができる。これにより、電気特性のバラツキを小さくすることができる。従って、高移動度で、且つ電気特性のバラツキが小さいという特徴を兼ね備えたボトムゲート型TFTを得ることができる。
なお、図14Aに示す本実施の形態に係る第1のボトムゲート型TFT200は、チャネル保護層9を形成しない。このため、コンタクト層6を形成する際に、時間で制御したエッチングにより、非晶質シリコン膜5が完全にエッチングされないように制御することで形成可能となる。
また、図14Cに示す本実施の形態に係る第3のボトムゲート型TFT400、及び、図14Dに示す係る本実施の形態に第4のボトムゲート型TFT500は、上記の製造方法の順序を入れ替える等によって製造することができる。
(トップゲート型TFTの構成)
トップゲート型TFTとしては、主に4種類の構造が用いられる。以下、本実施の形態に係る4種類のトップゲート型TFTの構成について、図16A〜図16Dを用いて説明する。
図16Aは、本発明の実施の形態に係る第1のトップゲート型TFT600の構成を模式的に示した断面図である。図16Aに示すように、第1のトップゲート型TFT600は、基板1と、基板1上に形成された結晶性シリコン膜4と、結晶性シリコン膜4の一方の端部領域の上方に形成されたソース電極7Sと、結晶性シリコン膜4の他方の端部領域の上方に形成されたドレイン電極7Dと、結晶性シリコン膜4の一方の端部領域とソース電極7Sとの間及び結晶性シリコン膜4の他方の端部領域とドレイン電極7Dとの間に形成された一対のコンタクト層6と、ソース電極7S上、ドレイン電極7D上、及びソース電極7Sとドレイン電極7Dと間における結晶性シリコン膜4上に形成されたゲート絶縁膜3と、ゲート絶縁膜3上に形成されたゲート電極2とを備える。なお、結晶性シリコン膜4は、上述の本実施の形態に係る結晶性シリコン膜4の形成方法によって形成される。
また、図16Bは、本発明の実施の形態に係る第2のトップゲート型TFT700の構成を模式的に示した断面図である。図16Bに示すように、第2のトップゲート型TFT700は、図16Aに示す第1のトップゲート型TFT600と同様に、基板1と、基板1の上方に形成された、結晶性シリコン膜4、一対のコンタクト層6、一対のソース電極7S及びドレイン電極7D、ゲート絶縁膜3、並びに、ゲート電極2とを備える。
第2のトップゲート型TFT700は、さらに、結晶性シリコン膜4上に、チャネル保護層9が形成されている。チャネル保護層9の両端部は、ソース電極7S(又はドレイン電極7D)と結晶性シリコン膜4とに挟まれるようにして形成されており、ソース電極7S(又はドレイン電極7D)とチャネル保護層9とは基板垂直方向において一部重なり合っている。また、ソース電極7S(又はドレイン電極7D)とチャネル保護層9とが重なる重なり幅はオフセット幅Dと呼ばれる。オフセット幅Dに対応する結晶性シリコン膜4の領域は、ゲート電圧が印加されないオフセット領域である。オフセット領域は、ゲート電圧が印加されないためにチャネル領域が形成されない高抵抗領域となる。
図16Cは、本発明の実施の形態に係る第3のトップゲート型TFT800の構成を模式的に示した断面図である。図16Cに示すように、第3のトップゲート型TFT800は、基板1と、基板1の上方に形成された結晶性シリコン膜4と、結晶性シリコン膜4上に形成された周囲がゲート絶縁膜3で覆われたゲート電極2とを備える。また、結晶性シリコン膜4の両端上にはゲート絶縁膜3を介して一対のコンタクト層6が形成されており、一対のコンタクト層6上には、ソース電極7S及びドレイン電極7Dが形成されている。なお、図16Cにおいて、ゲート電極2の両側部に形成されるゲート絶縁膜3の幅はオフセット幅Dである。このオフセット幅Dに対応する結晶性シリコン膜4の領域はオフセット領域である。
図16Dは、本発明の実施の形態に係る第4のトップゲート型TFT900の構成を模式的に示した断面図である。図16Dに示すように、第4のトップゲート型TFT900は、基板1と、基板1の上方に形成された、結晶性シリコン膜4、ゲート絶縁膜3及びゲート電極2と、ゲート絶縁膜3及びゲート電極2上に形成された絶縁層10とを備える。また、ゲート絶縁膜3及び絶縁層10には、結晶性シリコン膜4につながるコンタクトホールが形成されている。ソース電極7S及びドレイン電極7Dは、コンタクトホールに形成されたコンタクト層6を介して絶縁層10の上にまで形成されている。なお、図16Dにおいて、ソース電極7Sとドレイン電極7Dとの間において上方にゲート電極2が形成されていない結晶性シリコン膜4はオフセット領域であり、コンタクト層6とゲート電極2との間の幅がオフセット幅Dとなる。
以上、図16A〜図16Dに示す4種類のトップゲート型TFTのうち、第2のトップゲート型TFT700、第3のトップゲート型TFT800及び第4のトップゲート型TFT900の3つのタイプのトップゲート型TFTは、いずれもオフセット領域である高抵抗領域を有するものである。従って、これらの3つのタイプのトップゲート型TFTでは、キャリア移動度が低くなるとともに、製造工程におけるマスク数も多くなり高コストになるというデメリットがある。
表示装置用のアクティブマトリクス基板に用いられるTFTとしては、少ないマスク数で製造することができるとともに、高いキャリア移動度を有することが好ましい。このため、これを実現するには、オフセット領域が形成されない第1のトップゲート型TFT600が最も有効である。
以下、図16Aに示す本実施の形態に係る第1のトップゲート型TFT600の各構成要素について詳述するが、図1Aに示す薄膜半導体装置100と異なる点を中心に説明する。
基板1は、図1Aに示す薄膜半導体装置100と同様に、例えば、石英ガラス、無アルカリガラス、高耐熱性ガラス等のガラス材料からなるガラス基板である。
結晶性シリコン膜4は、基板1上に島状に形成される。なお、基板1と結晶性シリコン膜4との間には、上述のようなアンダーコート層8が形成されていてもよい。本実施の形態における結晶性シリコン膜4は、図1Aに示す薄膜半導体装置100と同様に、前駆体膜である非晶質シリコン膜を結晶化して焼結組織を形成し、その後、薄膜化を行って形成した結晶性膜である。
結晶性シリコン膜4の両端部の上面及び側面は、コンタクト層6を介してソース電極7S及びドレイン電極7Dと電気的に接続されている。なお、コンタクト層6は、図1Aに示す薄膜半導体装置100と同様に、不純物がドーピングされたn+層である。
ソース電極7S及びドレイン電極7Dは、コンタクト層6とオーミック接合されており、それぞれ、各コンタクト層6の上面に形成されている。また、ソース電極7S及びドレイン電極7Dは、コンタクト層6と側面が一致するようにして形成されている。なお、ソース電極7S及びドレイン電極7Dの材料としては、図1Aに示す薄膜半導体装置100と同様の材料を用いることができる。
ゲート絶縁膜3は、図1Aに示す薄膜半導体装置100と同様に、シリコン酸化膜(SiOx)等の絶縁材料で構成されており、コンタクト層6に覆われていない結晶性シリコン膜4上と、ソース電極7S上及びドレイン電極7D上とに形成されている。
ゲート電極2は、ゲート絶縁膜3上に形成されており、少なくとも、コンタクト層6に覆われていない結晶性シリコン膜4の上方に形成されている。すなわち、ゲート電極2は、ゲート絶縁膜3を挟むようにして結晶性シリコン膜4上に形成されている。ゲート電極2の材料は、図1Aに示す薄膜半導体装置100と同様の材料を用いることができる。
以上、図16A〜図16Dに示すトップゲート型TFTにおいても、図1Aに示す薄膜半導体装置100と同様に、チャネル部となる結晶性シリコン膜4が結晶粒径の大きな第1結晶41Cを含む焼結組織で構成されており、結晶性シリコン膜4の粒径は、焼結組織中に含まれる第1結晶41Cによって、従来と同じ結晶化アニール処理によって形成された結晶性シリコン膜の粒径よりも大きくなっている。これにより、移動度が高いTFTを実現することができる。しかも、結晶性シリコン膜4は、上記焼結組織を有する結晶性シリコン膜を薄膜化して形成されるので、キャリア伝導経路中の膜厚方向領域の結晶粒界数を減少させることができる。これにより、電気特性のバラツキを小さくすることができる。従って、高移動度で、且つ電気特性バラツキが小さいという特徴を兼ね備えたトップゲート型TFTを実現することが可能となる。
(トップゲート型TFTの製造方法)
次に、本実施の形態に係る第1のトップゲート型TFT600の製造方法について、図17を用いて説明する。図17は、本発明の実施の形態に係る第1のトップゲート型TFT600の製造方法における各工程の構成を模式的に示した断面図である。
まず、図17の(a)に示すように、基板1としてガラス基板を準備する。なお、結晶性シリコン膜4の前駆体膜である非晶質シリコン膜を形成する前に、プラズマCVDなどによって、基板1上に、シリコン窒化膜又はシリコン酸化膜などからなるアンダーコート層を形成してもよい。なお、ガラス基板からの不純物を抑制する役割もゲート絶縁膜に兼ねさせることで、アンダーコート層を形成しなくてもよい。
次に、基板1上に、結晶性シリコン膜4の前駆体膜として、非晶質シリコン膜を形成する。非晶質シリコン膜は、プラズマCVD等によって成膜することができる。
次に、図9の(b)〜(d)を用いて説明した方法と同様にして、500℃〜1000℃の温度によって非晶質シリコン膜をアニールすることによって非晶質シリコン膜を結晶化し、結晶性シリコン膜を形成する。本実施の形態では、急速熱アニール法により、約1分から数時間のアニールを行うことで非晶質シリコン膜の結晶化を行った。
なお、基板1としてガラス基板を用いる場合は、ガラスの破損や歪みを抑制するために、800℃以下の温度でアニールすることが好ましい。また、アニール温度及びアニール時間を調整することにより、結晶性シリコン膜の粒径を制御することができる。また、急速に温度を上昇させる(>100℃/秒)アニール方法(例えば、レーザーアニール、フラッシュランプアニールなど)を用いることもできるが、この場合、非晶質シリコン膜中の水素の突沸による膜破壊を防ぐために、非晶質シリコン膜から水素が抜ける温度である400℃以上の温度で脱水素アニール処理を行った後に、結晶化アニール処理を行うことが好ましい。
次に、図9の(e)を用いて説明した方法と同様にして、結晶性シリコン膜をエッチングすることによって薄膜化する。本実施の形態では、薄膜化前の基板を希フッ酸溶液に浸漬することによって、結晶性シリコン膜の膜厚を薄くした。また、本実施の形態では、薄膜化前の結晶性シリコン膜が基板面内で均一な膜厚でエッチングされるように、オゾン酸化によって結晶性シリコン膜の表面に均一な膜厚の酸化シリコンを生成した後に、この酸化シリコンをフッ酸溶液でエッチングした。なお、本実施の形態では、薄膜化前の結晶性シリコン膜の膜厚を55nmとし、薄膜化後における結晶性シリコン膜の膜厚を33nmとした。
その後、図17の(a)に示すように、結晶性シリコン膜4を島状にパターニングする。これにより、基板1上に、チャネル部となる所定形状の結晶性シリコン膜4を形成することができる。
次に、図17の(b)に示すように、CVDによって、基板1の上面及び結晶性シリコン膜4の上面に、コンタクト層6となる不純物ドープの非晶質シリコン膜を形成する。不純物としては、例えば、リン等の5価元素を用いることができる。
次に、不純物ドープの非晶質シリコン膜の上に、ソース電極7S及びドレイン電極7Dとなるソースドレイン金属膜7を形成する。ソースドレイン金属膜7は、スパッタ、蒸着又はCVDによって成膜することができる。ソースドレイン金属膜7の材料としては、上述のとおり、Mo、Cu、Al等を用いることができる。
次に、図17の(c)に示すように、ソースドレイン金属膜7の上面に、所定のレジスト材料を塗布してレジストを形成する。その後、レジストの上方に、マスクを配置する。マスクは、ソースドレイン金属膜7をパターニングしてソース電極7S及びドレイン電極7Dを形成するためのものであり、ソース電極7S及びドレイン電極7Dとなるソースドレイン金属膜7と対向するように構成されている。すなわち、マスクは、基板1上における結晶性シリコン膜4が形成された領域である所定領域と、基板1上における結晶性シリコン膜4が形成されていない領域(前記所定領域以外の領域)との境界領域を跨ぐようにして、レジストの上方に配置される。
その後、マスクを介してレジストを露光し、露光したレジストを除去する。これにより、マスクに対向していた領域以外のレジストが除去されて、マスクに対向する部分の領域のレジストが残る。これにより、ソースドレイン金属膜7のうちソース電極7S及びドレイン電極7Dとなる領域上にのみレジストを残すことができる。このとき、ソース電極7S及びドレイン電極7Dとなる領域以外のソースドレイン金属膜7は露出する。
次に、残したレジストをマスクとして、ウェットエッチングによるエッチング処理を施すことによって、露出したソースドレイン金属膜7を除去する。これにより、所定形状のソース電極7S及びドレイン電極7Dを形成することができる。なお、エッチャントとしては、例えば、ソースドレイン金属膜7がアルミニウム(Al)と銅(Cu)の合金の場合は、燐酸、硝酸、及び酢酸の混合液等を用いることができる。
次に、ドライエッチングによるエッチング処理によって、ソースドレイン金属膜7が除去されて露出したコンタクト層6を除去することにより、対向する一対のコンタクト層6を形成することができる。
このとき、コンタクト層6へのドライエッチングは、結晶性シリコン膜4が形成されていない基板1上において当該基板1が露出するまでとする。この場合、基板1の所定領域(結晶性シリコン膜4が形成された領域)上に形成されたコンタクト層6の膜厚と、基板1上の所定領域以外の領域(基板1の結晶性シリコン膜4が形成されていない領域)上に形成されたコンタクト層6の膜厚とは同じ厚さであるので、基板1の露出と同時に結晶性シリコン膜4も露出する。
次に、レジストを除去した後に、図17の(d)に示すように、CVDによって、二酸化シリコン等からなるゲート絶縁膜3を形成する。
その後、同図に示すように、スパッタリングによって、ゲート絶縁膜3上にゲート電極2となる金属膜を形成し、パターニング及びエッチングすることによって、所定形状のゲート電極2を形成する。
このようにして、本実施の形態に係る第1のトップゲート型TFT600を製造することができる。
以上のようにして製造された第1のトップゲート型TFT600によれば、チャネル部となる結晶性シリコン膜4が結晶粒径の大きな第1結晶41Cを含む焼結組織で構成されており、結晶性シリコン膜4の粒径は、焼結組織中に含まれる第1結晶41Cによって、従来と同じ結晶化アニール処理によって形成された結晶性シリコン膜の粒径よりも大きくなっている。これにより、移動度が高いTFTを得ることができる。しかも、結晶性シリコン膜4は、上記焼結組織を有する結晶性シリコン膜を薄膜化して形成されるので、キャリア伝導経路中の膜厚方向領域の結晶粒界数を減少させることができる。これにより、電気特性のバラツキを小さくすることができる。従って、高移動度で、且つ電気特性バラツキが小さいという特徴を兼ね備えたトップゲート型TFTを得ることができる。
なお、図16B〜図16Dに示す本実施の形態に係る第2〜第4のトップゲート型TFT700、800及び900は、上記の製造方法を元に工程順序を入れ替えたり、既存プロセスを組み合わせたりすることで、容易に製造することができる。
(有機EL表示装置)
以下、本実施の形態に係る薄膜半導体装置100を表示装置に適用した例について、図18及び図19を用いて説明する。なお、本実施の形態では、有機EL表示装置への適用例について説明する。
図18は、本発明の実施の形態に係る有機EL表示装置の一部切り欠き斜視図である。上述のように構成された薄膜半導体装置100は、有機EL表示装置のアクティブマトリクス基板におけるスイッチングトランジスタ又は駆動トランジスタとして用いることができ、本実施の形態では、駆動トランジスタとして用いた。
図18に示すように、有機EL表示装置20は、アクティブマトリクス基板(TFTアレイ基板)21と、アクティブマトリクス基板21上においてマトリクス状に配置された複数の画素22と、複数の画素22のそれぞれに対応して形成された有機EL素子23と、画素22の行方向に沿って形成された複数の走査線(ゲート線)27と、画素22の列方向に沿って形成された複数の映像信号線(ソース線)28と、映像信号線28と並行して形成された電源線29(不図示)とを備える。有機EL素子23は、アクティブマトリクス基板21上に順次積層された、陽極24、有機EL層25及び陰極26を有する。なお、陽極24は、実際には画素22に対応して複数形成される。また、有機EL層25も画素22に対応して複数形成されるとともに、それぞれ、電子輸送層、発光層、正孔輸送層等の各層が積層されて構成されている。
次に、上記有機EL表示装置20における画素22の回路構成について、図19を用いて説明する。図19は、本発明の実施の形態に係る薄膜半導体装置を用いた画素の回路構成を示す図である。
図19に示すように、各画素22は、直交する走査線27と映像信号線28とによって区画されており、駆動トランジスタ31と、スイッチングトランジスタ32と、コンデンサ(キャパシタンス)33と、有機EL素子23とを備える。駆動トランジスタ31は、有機EL素子23を駆動するトランジスタであり、また、スイッチングトランジスタ32は、画素22を選択するためのトランジスタである。
駆動トランジスタ31において、ゲート電極31Gがスイッチングトランジスタ32のドレイン電極32Dに接続され、ソース電極31Sが中継電極(不図示)を介して有機EL素子23のアノードに接続され、ドレイン電極31Dが電源線29に接続される。
また、スイッチングトランジスタ32において、ゲート電極32Gは走査線27に接続され、ソース電極32Sは映像信号線28に接続され、ドレイン電極32Dはコンデンサ33及び駆動トランジスタ31のゲート電極31Gに接続されている。
この構成において、走査線27にゲート信号が入力されて、スイッチングトランジスタ32がオン状態になると、映像信号線28を介して供給された映像信号電圧がコンデンサ33に書き込まれる。コンデンサ33に書き込まれた映像信号電圧(保持電圧)は、1フレーム期間を通じて保持され、この保持された映像信号電圧により、駆動トランジスタ31のコンダクタンスがアナログ的に変化し、発光階調に対応した駆動電流が有機EL素子23のアノードからカソードへと流れて有機EL素子23が発光する。
なお、本実施の形態では、有機EL素子を用いた有機EL表示装置について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、液晶表示装置等、アクティブマトリクス基板が用いられる他の表示素子を備えた表示装置にも適用することもできる。また、以上説明した本実施の形態に係る表示装置については、フラットパネルディスプレイとして利用することができ、テレビジョンセット、パーソナルコンピュータ、携帯電話などのあらゆる表示部を有する電子機器に適用することができる。
(実施例)
次に、実施例に係る薄膜半導体装置について説明する。本実施例では、3種の構成のTFTを製造し、電気特性を測定した。3種の構成のTFTとは、従来に係る薄膜半導体装置1000(以下、「従来例のTFT」と記載する)、比較例に係る薄膜半導体装置100A(以下、「比較例のTFT」と記載する)、及び、本発明の実施例に係る薄膜半導体装置(以下、「本実施例のTFT」と記載する)である。
図20A、図20B及び図20Cは、それぞれ、従来例のTFT、比較例のTFT及び本実施例のTFTの構成を模式的に示した断面図である。図20A〜図20Cに示すように、従来例のTFT、比較例のTFT及び本実施例のTFTは、いずれもボトムゲート型の薄膜トランジスタであって、基板1上に順次連続的に積層された、ゲート電極2と、ゲート絶縁膜3と、結晶性シリコン膜4と、非晶質シリコン膜5と、一対のコンタクト層6と、一対のソース電極7S及びドレイン電極7Dと、絶縁層(パッシベーション膜)10とを備える。
従来例と比較例と本実施例との各TFTにおいて、ゲート電極2は、いずれもスパッタ法により膜厚50nmのMoWを成膜した。また、ゲート絶縁膜3は、いずれもプラズマCVD法により膜厚120nmの酸化シリコンを成膜した。また、非晶質シリコン膜5は、いずれもプラズマCVD法により成膜し、その厚みを75nmとした。なお、非晶質シリコン膜5の成膜条件は、成膜温度を320℃とし、成長圧力を2Torrとし、原料ガスはシラン(SiH4)で、その流量は10sccmとし、希釈ガスは水素とし、その流量は60sccmとした。また、コンタクト層6は、いずれもプラズマCVD法によりn+シリコン膜を成膜し、その厚みを10nmとした。また、ソース電極7S及びドレイン電極7Dは、いずれもスパッタ法により500nmの膜厚でAlを堆積した。なお、絶縁層10は、プラズマCVD法により窒化シリコン(SiN)膜を成膜し、その厚みを200nmとした。
また、従来例のTFTと比較例のTFTと本実施例のTFTとは、チャネル部となるシリコン半導体膜の構成が異なる。図20Aに示す従来例のTFTは、従来技術によるTFTであって、チャネル部は、単一粒径の結晶粒からなる膜厚が30nmの結晶性シリコン膜1004であり、焼結組織は形成されていない。また、図20Bに示す比較例のTFTは、比較例としてのTFTであって、チャネル部は、図9の(d)に示す本実施の形態における結晶性シリコン膜4Cであり、その厚みは55nmである。すなわち、比較例におけるチャネル部となる結晶性シリコン膜4Cには焼結組織が形成されているが、当該結晶性シリコン膜4Cはエッチング処理が施されておらず薄膜化されていない。また、図20Cに示す本実施例のTFTは、図1Aに示す本実施の形態におけるTFTであって、チャネル部は、焼結組織が形成された結晶性シリコン膜4であり、その厚みは30nmである。さらに、本実施例のTFTにおける結晶性シリコン膜4は、結晶性シリコン膜4Cを希フッ酸によって均一に薄膜化することで形成した。
また、図21Aは、従来例のTFT及び比較例のTFTの製造工程を示すフローチャートであり、図21Bは、本実施例のTFTの製造工程を示すフローチャートである。従来例のTFTと比較例のTFTと本実施例のTFTとにおける製造工程では、非晶質シリコン膜積層工程(1)(S4)と、薄膜化工程(S6)とが異なる。
従来例のTFTは、30nmの厚みの非晶質シリコン膜を成膜し(S4)、その後、結晶化熱アニールを実施して結晶性シリコン膜を形成した(S5)。なお、従来例では、エッチング処理は施さずに、結晶性シリコン膜の薄膜化は行っていない。この結晶性シリコン膜の前駆体膜である非晶質シリコン膜は、プラズマCVDを用いて成膜し、その成膜条件は、成膜温度を400℃とし、成長圧力を2Torrとし、原料ガスはシラン(SiH4)で、その流量を30sccmとし、希釈ガスは無しとした。
また、比較例のTFTは、55nmの厚みの非晶質シリコン膜を成膜し(S4)、その後、結晶化熱アニールを実施して結晶性シリコン膜を形成した(S5)。結晶性シリコン膜の前駆体膜である非晶質シリコン膜は、従来例における成膜条件と同様にして成膜した。また、結晶化熱アニールは、焼結組織が形成される条件によって行った。具体的には、窒素雰囲気に保持した熱処理炉内で、800℃、20分の熱アニールを実施した。なお、比較例のTFTでは、エッチング処理は施さずに、結晶性シリコン膜の薄膜化は行っていない。
また、本実施例のTFTは、55nmの厚みの非晶質シリコン膜を成膜し(S4)、その後、結晶化熱アニールを実施して結晶性シリコン膜を形成した(S5)。結晶性シリコン膜の前駆体膜である非晶質シリコン膜は、比較例のTFTにおける成膜条件と同様にして成膜した。また、結晶化熱アニールは、焼結組織が形成される条件によって行った。具体的には、窒素雰囲気に保持した熱処理炉内で、800℃、20分の熱アニールを実施した。そして、本実施例では、エッチング処理を施して、結晶性シリコン膜の薄膜化を行った(S6)。エッチング処理は、結晶性シリコン膜の表面をオゾン酸化した後に、希フッ酸溶液に結晶化アニール後の基板全体を浸漬する連続工程を施すことによって、結晶性シリコン膜の厚みが所望の30nmとなるまでエッチングした。
図22Aは、従来例のTFTにおける結晶性シリコン膜1004の平面SEM像であり、図22Bは、比較例のTFTにおける結晶性シリコン膜4C及び本実施例のTFTにおける結晶性シリコン膜4の平面SEM像である。
図22Aに示すように、従来例のTFTでは、平均結晶粒径が30nm程度の均一な結晶粒径を有する結晶組織が形成されていることが分かる。また、図22Bに示すように、比較例及び本実施例のTFTでは、結晶粒が融合して形成された焼結組織を含む結晶組織が形成されていることが分かる。
次に、従来例、比較例及び本実施例の各TFTの電気特性の結果を、図23A、図23B、図24A及び図24Bを用いて説明する。図23Aは、従来例、比較例及び本実施例の各TFTの伝達特性を示す図(ドレイン電圧=5.1V)である。図23Bは、従来例、比較例及び本実施例の各TFTにおけるドレイン電流−ドレイン電圧の電気特性を示す図(ゲート電圧=5V、10V)である。図24Aは、従来例、比較例及び本実施例の各TFTにおける電界効果移動度(以下、「移動度」と記載する)を示す図である。図24Bは、従来例、比較例及び本実施例の各TFTにおける電気特性のバラツキを示す図である。なお、電気特性のバラツキは、オン特性のバラツキである移動度バラツキ(β)とオフ特性のバラツキであるIoff(オフ電流)のバラツキとを示した。
まず、図23Aの伝達特性の結果について説明する。図23Aに示すように、オン電流については、比較例及び本実施例のTFTの方が従来例のTFTよりも、相対的に大きな値を示していることが分かる。これは、比較例及び本実施例のTFTでは、結晶性シリコン膜中に、図22Bに示すような焼結組織が形成されており、後述するように、移動度が大きくなるためである。これに対して、従来例のTFTでは、結晶性シリコン膜中に、図22Aに示すように、焼結組織は形成されずに、平均結晶粒径が30nm程度の均一な結晶粒径を有する結晶組織となっており、移動度は小さくなる。
次に、オフ電流については、同図に示すように、従来例、比較例及び本実施例の順で、相対的に大きな値を示していることが分かる。このように、比較例及び本実施例のTFTが従来例のTFTよりも相対的にオフ電流が大きくなっているのは、比較例及び本実施例の各TFTの方が従来例のTFTよりも移動度が大きくなっているためである。
なお、本実施例のTFTが比較例のTFTよりも相対的にオフ電流が大きくなっているが、前述したメカニズムの観点からは、比較例のTFTの方が本実施例のTFTよりも相対的にオフ電流が大きくなると考えられる。しかし、図23Aのように逆の傾向を示したのは、本実施例のTFTでは、製造プロセスにおける薄膜化工程において、結晶性シリコン膜4の表面にエッチングダメージが加えられ、オフ電流を増大させるような表面結晶欠陥が増加したためであると推察される。
次に、図23Bのドレイン電流−ドレイン電圧の電気特性を示す図について説明する。従来例、比較例及び本実施例のTFTにおいて顕著に差異が現れる高電圧(ゲート電圧Vg=10V)において説明すると、図23Bに示すように、当該ゲート電圧において、飽和ドレイン電流は、従来例、比較例及び本実施例の順で、大きな値を示している。このように、比較例及び本実施例のTFTの方が従来例のTFTよりも飽和ドレイン電流が大きくなっているのは、後述するように、比較例及び本実施例のTFTにおける移動度が、従来例のTFTにおける移動度よりも大きいためである。また、比較例のTFTの方が本実施例のTFTよりも飽和ドレイン電流が大きくなっているのは、比較例のTFTにおける結晶性シリコン膜4Cの厚み(55nm)が、本実施例のTFTにおける結晶性シリコン膜4の厚み(30nm)よりも大きいことから、ゲート電圧10V印加時における、比較例のTFTの結晶性シリコン膜4C中の空乏層体積が、本実施例のTFTにおける結晶性シリコン膜よりも小さくさるためである。
次に、従来例、比較例及び本実施例の各TFTにおける移動度の結果について、図24Aを用いて説明する。図24Aは、従来例、比較例及び本実施例の各TFTにおける移動度の特性を示す図である。
図24Aに示すように、従来例のTFTの移動度は3.18cm2/Vsであり、比較例のTFTの移動度は4.41cm2/Vsであり、本実施例のTFTの移動度は4.73cm2/Vsであった。
図24Aに示す結果から、従来例のTFTよりも比較例のTFTの方が大きい移動度となることが判明した。これは、比較例のTFTにおける結晶性シリコン膜4Cは、結晶粒径の大きな焼結組織である第1結晶41Cを有するからである。
さらに、エッチング処理を施した本実施例のTFTも従来例のTFTよりも大きい移動度となっており、また、比較例のTFTと同程度の移動度であることが判明した。これは、本実施例のTFTの結晶性シリコン膜4も結晶粒径の大きな焼結組織である第1結晶41Cが形成されているからである。また、本実施例のTFTの方が比較例のTFTよりも若干移動度が大きかったのは、本実施例のTFTの結晶性シリコン膜4の方が膜厚が薄く、結晶性シリコン膜4の膜厚方向のバルク抵抗が減少したためと推定される。
次に、従来例、比較例及び本実施例の各TFTにおける電気特性のバラツキについて、図24Bを用いて説明する。図24Bは、従来例、比較例及び本実施例の各TFTにおける移動度バラツキを示す図である。
図24Bに示すように、従来例のTFTの移動度バラツキ(β)は、3σ/aveで25.3であり、比較例のTFTの移動度バラツキ(β)は、3σ/aveで18.3であり、本実施例のTFTの移動度バラツキ(β)は、3σ/aveで10.9であった。
また、従来例のTFTのIoffバラツキは、3σ/aveで181.2であり、比較例のTFTのIoffバラツキは、3σ/aveで111.9であり、本実施例のTFTのIoffバラツキは、3σ/aveで9.00であった。
図24Bに示すように、本実施例のTFTにおける移動度バラツキとIoffバラツキは、従来例のTFT及び比較例のTFTのいずれよりも減少した。これは、本実施例のTFTでは、結晶性シリコン膜4が、焼結組織で形成された結晶性シリコン膜4Cを薄膜化することによって形成され、キャリア伝導経路中の膜厚方向領域の結晶粒界数が減少するためであると推定される。
以上のように、本実施例のTFTの構成とすることで、高移動度、且つ電気特性のバラツキが小さいという特徴を兼ね備えたTFTを実現できる。
なお、本実施例では、一実施例としてボトムゲート型TFTについて説明したが、本実施例の結果はトップゲート型TFTにも適用することができ、トップゲート型TFTでも、ボトムゲート型TFTの場合と同様に、高移動度で、且つ電気特性のバラツキが小さいという特徴を兼ね備えたTFTを実現できる。
以上、本発明の一態様に係る薄膜半導体装置及び薄膜半導体装置の製造方法等について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
例えば、上記の実施の形態では、半導体膜としてシリコン薄膜を用いたが、シリコン薄膜以外の半導体薄膜を用いることができる。例えば、ゲルマニウム(Ge)又はSiGeからなる半導体薄膜を結晶化させて結晶性膜を形成することもできる。
また、上記の実施の形態において、結晶性シリコン膜は、n型半導体及びp型半導体のいずれであってもよい。
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。