本発明は、生物学、医学等の分野において有用な細胞培養基材の評価方法に関するものである。
今日、動物細胞培養技術が著しく進歩し、動物細胞を対象とした研究開発もさまざまな分野に広がって実施されるようになってきた。対象となる動物細胞の使われ方も、開発当初の細胞そのものを製品化したり、その産生物を製品化したりするだけでなく、今や細胞やその細胞表層蛋白質を分析することで有効な医薬品を設計したり、患者本人の細胞を生体外で再生したり、或いはその機能を高めたりしてから生体内へ戻し治療する等ということも実施されつつある。現在、動物細胞を培養する技術、並びに評価、解析、利用する技術は、研究者が注目している一分野である。
ところで、ヒト細胞を含め動物細胞の多くは付着依存性のものである。すなわち、動物細胞を生体外で培養しようとするときは、それらを一度、どこかに付着させる必要性がある。そのような背景のもと、以前より多くの研究者らによって細胞にとってより好ましい基材表面の設計、考案がなされてきたが、これらの技術は何れも細胞培養時に関係するものばかりであった。付着依存性の培養細胞は何かに付着する際、自ら接着性蛋白質を産生する。従ってその細胞を剥離させるときには、従来技術ではその接着性蛋白質を破壊しなければならず、通常酵素処理が行われる。その際、細胞が培養中に産生した各種細胞固有の細胞表層蛋白も同時に破壊されてしまうという重大な課題であったにもかかわらず、現実には解決する手段が全くなく、特に検討されていなかった。この細胞回収時の課題の解決こそが、今後動物細胞を対象とした研究開発を飛躍的に発展させる上で強く求められるものと考えられる。
このような背景のもと、特開平2−211865号公報には、水に対する上限若しくは下限臨界溶解温度が0〜80℃である高分子で基材表面を被覆した細胞培養支持体上にて、細胞を上限臨界溶解温度以下または下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上または下限臨界溶解温度以下にすることにより酵素処理なくして培養細胞を剥離させる新規な細胞培養法が記載されている。また、特開平05−192138号公報には、この温度応答性細胞培養基材を利用して皮膚細胞を上限臨界溶解温度以下或いは下限臨界溶解温度以上で培養し、その後上限臨界溶解温度以上或いは下限臨界溶解温度以下にすることにより培養皮膚細胞を低損傷で剥離させることが記載されている。さらに、特願2007−105311号公報には、この温度応答性細胞培養基材を用いて培養細胞の表層蛋白質の修復方法が記載されている。温度応答性細胞培養基材を利用することにより、従来の培養技術に対しさまざまな新規な展開をはかれるようになってきた。
温度応答性細胞培養基材を利用することにより、従来の培養技術に対しさまざまな新規な展開をはかれるようになった。そして、さらなる応用展開をはかる上で、今後は、この培養基材表面をより精密に設計する必要がある。そのためには、培養基材表面の状態を詳細に評価する方法の確立が望まれていた。
この温度応答性細胞培養基材の評価方法に注目すると、上述した特開平2−211865号公報には、温度応答性細胞培養基材上にウシ大動脈血管内皮細胞を播種し、培養温度を変化させた時の細胞の剥離回収率が記載されている。しかしながら、ここで示される評価は温度応答性細胞培養基材の利用方法に関するものであり、本発明で示されるところの基材表面の評価に関するものではなく、また、評価に使用する好適な細胞の種類、播種密度、培養期間に関する記載もなく、さらに再現性の良い評価方法も記載されていなかった。
特開2007−049918号には、温度応答性培養表面上で培養した細胞の剥離率の求め方が記載されている。ここでは、温度を変化させた後、剥離せずに表面に付着している細胞数を顕微鏡下で計数することで剥離率を求めているが、温度応答性細胞培養基材の評価方法について言えば、基本的には上述した特開平2−211865号公報と同様に温度応答性細胞培養基材の利用方法に関するものであり、本発明で示されるところの基材表面の評価に関するものではなく、また、評価に使用する好適な細胞の種類、播種密度、培養期間に関する記載もなかった。さらに再現性の良い評価方法の記載もなく、今後、温度応答性細胞培養基材の表面を精密に設計する上で好適な培養基材表面の詳細な評価方法がなかったのが現状であった。
一方、米国特許5185450号公報では、培養中の細胞の生死(viability)を判定するための物質としてのテトラゾリウム塩を提案し、当該物質を用いることで培養細胞中の生細胞を測れるようにした。この方法を利用することで大量の検体を簡便に、かつ再現性良く培養細胞中に生細胞数を計測できるようになるが、ここでの発明は培養細胞中の生細胞数の計測方法に関するものであり、本発明で示されるところの基材表面の評価に関するものではなかった。また、評価に使用する好適な細胞の種類、播種密度、培養期間に関する記載もなかった。
本発明は、上述したような温度応答性細胞培養基材の表面評価方法に関する問題点を解決することを意図してなされたものである。すなわち、本発明は、従来技術と全く異なった発想からの新規な温度応答性細胞培養基材の表面評価方法を提供するものである。
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて研究開発を行ってきた。その結果、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化する温度応答性ポリマーを被覆した細胞培養用基材表面の評価方法として、株化細胞を当該基材表面上に播種後、48時間以内に蛋白質加水分解酵素を使わずに、温度処理だけで細胞を当該基材表面から剥離する方法が好適であることを見出した。そして、この方法は温度応答性細胞培養基材の生産管理を行う上でも有用であることが判明した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化する温度応答性ポリマーを被覆した細胞培養用基材表面の評価方法として、株化細胞を当該基材表面上に播種後、48時間以内に蛋白質加水分解酵素を使わずに、温度処理だけで細胞を当該基材表面から剥離する方法を提供する。
また、本発明は、温度応答性細胞培養基材の生産管理方法についても提供する。
本発明に記載される方法であれば、これまで計測することが困難であった温度応答性細胞培養基材の表面特性を詳細に評価できるようになる。また、この方法を利用することで温度応答性細胞培養基材の生産管理ができるようになる。
本発明は、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化する温度応答性ポリマーを被覆した基材表面の評価方法に関するものである。本発明において、対象となる温度応答性細胞培養基材とは、0〜80℃の温度範囲で水和力が変化するポリマーを表面に被覆されたものである。本発明に用いる温度応答性高分子はホモポリマー、コポリマーのいずれであってもよい。このようなポリマーとしては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されているものが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体が挙げられ、コポリマーの場合は、これらの中で任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフトまたは共重合、あるいはポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。各種ポリマーの基材表面への被覆方法は、特に制限されないが、例えば、特開平2−211865号公報に記載されている方法に従ってよい。すなわち、かかる被覆は、基材と上記モノマーまたはポリマーを、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応のいずれかにより、または塗布、混練等の物理的吸着等により行うことができる。
本発明における温度応答性ポリマーの固定化量は、細胞を培養させられ、かつ温度処理することだけで基材表面から剥離できるに十分な量が固定化されていれば良く特に限定されるものではないが、0.8〜10.0μg/cm2、好ましくは1.3〜6.0μg/cm2、さらに好ましくは1.5〜3.0μg/cm2が良く、最も好ましくは2.0〜2.5μg/cm2が良い。ポリマー量が10.0μg/cm2より多いと細胞の付着性が悪くなり、逆に0.8μg/cm2より少ないと温度を変えても剥離せず、本発明の技術を十分に達成できず好ましくない。ポリマーの固定化量の測定は常法に従えば良く、例えばFT−IR−ATRを用いて直接測る方法、あらかじめラベル化したポリマーを同様な方法で固定化しラベル化ポリマー量より推測する方法などが挙げられるがいずれの方法を用いても良い。
本発明における培養基材の形状は特に制約されるものではないが、例えばディッシュ、マルチプレート、フラスコ、セルインサートマイクロビーズのような形態のもの、或いは平膜状のものなどが挙げられる。被覆を施される基材としては、通常細胞培養に用いられるガラス、改質ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等の化合物を初めとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外の高分子化合物、セラミックス類など全て用いることができる。
本発明の細胞培養支持体において、基材に被覆されている温度応答性ポリマーは温度を変えることで水和、脱水和を起こすものであり、その温度域は0℃〜80℃、好ましくは10℃〜50℃、さらに好ましくは20℃〜45℃であることが判明した。80℃を越えると細胞が死滅する可能性があるので好ましくない。また、0℃より低いと一般に細胞増殖速度が極度に低下するか、または細胞が死滅してしまうため、やはり好ましくない。
本発明とは、以上に示した温度応答性細胞培養基材に対して、特定の細胞を利用し、特定の条件下で培養することでその表面状態の詳細を計測しようとするものである。本発明とは、温度応答性細胞培養基材表面状態をその基材上に付着した細胞の付着の状態から判定する方法に関するものである。本発明では、温度応答性細胞培養基材表面上で細胞を培養することで、基材と細胞との相互作用だけの情報が得られるようにすべきであって、従って、培養細胞の状態は細胞が個々に分離されていた方が好ましく、例えば2個以上の細胞が結合した状態やコロニーを形成している状態等は好ましくない。培養細胞が個々に分離されていれば、培養細胞が温度応答性細胞培養基材から温度変化することで剥離した際は、基材と細胞との相互作用に反映された結果と考えられる。一方で、培養細胞が複数個で結合した状態であると、基材から温度変化することで剥離しても単純に基材と細胞との相互作用だけによる結果とは言い切れない。細胞と細胞が結合した状態で培養された細胞の場合、培養細胞が培養温度の変化で剥離しても、一部の細胞のみが剥離し、その細胞に結合した細胞が引きずられて剥離する場合も考えられ好ましくない。本発明では、温度応答性細胞培養基材上で培養される細胞は、個々の状態になっているものが80%以上であることが望ましく、好ましくは85%が良く、さらに好ましくは90%以上が良い。個々の状態になっている細胞が80%を満たないと、上述した理由により得られた結果は必ずしも基材と細胞との間の相互作用を反映したものと言い難く、本発明の技術として必ずしも好適なものではない。
本発明において使用される細胞としては、例えば、動物、昆虫、植物等の細胞、細菌類が挙げられるが特に限定されるものではない。この中で、動物細胞は市販されているものが多く好都合である。動物細胞の由来として、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、ヌードマウス、マウス、モルモット、ブタ、ヒツジ、チャイニーズハムスター、ウシ、マーモセット、アフリカミドリザル等が挙げられるが特に限定されるものではない。また、特にその動物細胞の株化細胞であればそのもの自身の培養が安定に行え、本発明に使用する細胞として好ましい。このような細胞株としては、NIH/3T3細胞株(マウス胎仔線維芽細胞)、3T3−Swiss albino細胞株(マウス胎仔線維芽細胞)、A549細胞株(ヒト肺腺がん細胞)、HeLa細胞株(ヒト子宮頸部類上皮腫細胞)、Vero細胞株(アフリカミドリザル正常腎細胞)、293(ヒト胎児腎細胞)、3T3−L1(マウス繊維芽細胞)、HepG2(ヒト肝臓ガン由来細胞)、MCF−7(ヒト乳癌由来細胞)、V79(チャイニーズハムスター由来線維芽細胞)、COS−7(アフリカミトリザル腎臓由来細胞)、CHO−K1(チャイニーズハムスター卵巣由来細胞)、WI−38(ヒト肺線維芽細胞)、MDCK(イヌ腎由来細胞)、MRC−5(正常肺線維芽細胞)等が挙げられるが特に限定されるものではない。この中で、線維芽細胞の細胞株が培養を行いやすく本発明に使用する細胞として好適である。
本発明においては、培養細胞は個々の状態で温度応答性細胞培養基材表面上に付着していることが必要である。本発明では、このような状態になれば培養開始時の細胞播種数について特に限定されないが、一般的には、基材表面積あたり100〜10000個/cm2が良く、好ましくは500〜8000個/cm2が良く、さらに好ましくは1000〜6000個/cm2が良い。100個/cm2を満たないとき、細胞培養する際に必要な細胞数を満たされず細胞の状態が極度に悪化することで好ましくない。また、10000個/cm2以上となると細胞同士の接着頻度が高くなり、培養細胞が個々の状態になる確率が減少することで好ましくない。
本発明における細胞の培養時間は、温度応答性細胞培養基材上で細胞が個々の状態で付着していれば特に限定されないが、一般的には、48時間以内が良く、好ましくは24時間以内が良く、さらに好ましくは12時間以内が良く、最も好ましくは6時間以内が良い。また、本発明を例えば温度応答性細胞培養基材の生産管理方法として利用するようなさらに短時間で評価しなくてはならない場合、培養時間が4時間以内となっても良い。48時間以上であると、培養細胞が基材表面に付着し分裂し、2個以上の細胞が結合した状態になる確率が高くなり好ましくない。本発明で上述した株化動物細胞を用いれば、細胞は温度応答性細胞培養基材表面に速やかに付着する。付着後、細胞は基材表面上で扁平化し始めるが、本発明では、細胞が扁平化し始める前の段階で実施しても良く、その場合、培養時間が4時間以内となる。
本発明は、温度応答性細胞培養基材の表面状態を評価するものであり、基材上で培養された細胞は培養温度を変えるだけで剥離させることが良く、通常の培養操作で使われるトリプシン等の蛋白質加水分解酵素を使用することは好ましくない。培養細胞を剥離させる際のその他の条件は特に制約されるものではなく、温度変化時に静置されていても良く、適度に振とうさせてもが良いが、評価の際に操作を統一した方が好ましい。
本発明では、温度応答性細胞培養基材上で培養した細胞を温度変化させて剥離した細胞数を計測することで評価するものである。その際、剥離細胞数を計測する方法は特に限定されるものではないが、例えば、CellTiter−96 Aqueous One Solution Assay(Promega社製、G3580)のようにNADHによるMTSの還元により細胞数を測定する試薬、Alamar Blue(BioSource社製、DAL1025)のようにNADHによるテトラゾリウム塩の還元量により細胞数を計測する方法、MTT(同仁化学研究所社製、345−01821)のようにNADHによるMTTの還元量により細胞数を測定する試薬、CellTiter−Glo Assay(Promega社製、G7570)のように残存ATP量から細胞数を測定する試薬、CellTiter−Blue Assay(Promega社製、G8080)のようにNADHによるレサズリンの還元により細胞数を測定する試薬、CytoTox−One Assayのように漏出LDH量から細胞数を測定する試薬、Cell Counting Kit(同仁化学研究所社製、349−06461)のようにNADHによるWST−1の還元量により細胞数を測定する試薬、Cell Counting Kit−8(同仁化学研究所社製、341−07761)のようにNADHによるWST−8の還元量により細胞数を測定する試薬、Cell Counting Kit−F(同仁化学研究所社製、343−07743)のようにCalcein−AMの加水分解量により細胞数を測定する試薬等の試薬を利用する方法、または、剥離した細胞を血球計算盤を用いて計測する方法、BrDU,CFSE,PKH−26を細胞に取り込ませ、その蛍光量からフローサイトメーターを用いて細胞数を測定する方法、3H−thymidineを取り込ませRIにより検出し細胞数を計測する方法等が挙げられる。特に、簡便に再現良く評価する点から言えば、本発明では試薬を用いる方法が好適である。
細胞の剥離率の計算方法は特に限定されるものではなく、基材表面に付着した総細胞数に対する剥離した細胞数の比率に100を乗じて%で表示しても良く、逆に基材表面に付着した総細胞数に対して剥離しなかった細胞数を減じ、得られた剥離細胞数の総細胞数に対する比率に100を乗じて%で表示しても良い。こうして得られた剥離率は両現性の良いものであり、あらかじめその剥離率に対する、実際にその温度応答性細胞培養基材を利用して実施応用しようとする各組織の細胞の剥離挙動の相関性を調べておけば、その実施応用したい細胞に合わせて好適な温度応答性細胞培養基材を選択することができる。その際の剥離率は、基材を評価する細胞、実施応用したい細胞によって異なるが、例えば、評価用細胞として、NIH/3T3細胞を用い、播種密度を6000個/cm2とし、常法の培地を用い24時間培養する方法を採用したとき、角膜上皮組織移植用の培養口腔粘膜細胞シートや培養角膜上皮細胞シートを作製する上で好適なディッシュタイプの温度応答性細胞培養基材は本発明で示すところの剥離率は、50%以上のものが良く、好ましくは60%以上が良く、さらに好ましくは70%以上のものが良い。剥離率が50%を満たない場合、培養した培養口腔粘膜細胞シートや培養角膜上皮細胞シートを基材表面から損傷なく剥離させることが困難で、培養細胞の一部が基材に付着した状態となり、剥離したシートが欠損し好ましくない。同様に、評価用細胞として、NIH/3T3細胞を用い、播種密度を6000個/cm2とし、常法の培地を用い24時間培養する方法を採用したとき、角膜上皮組織移植用の培養口腔粘膜細胞シートや培養角膜上皮細胞シートを作製する上で好適なインサートタイプの温度応答性細胞培養基材は本発明で示すところの剥離率は、20%以上のものが良く、好ましくは30%以上が良く、さらに好ましくは40%以上のものが良い。剥離率が20%を満たない場合、培養した培養口腔粘膜細胞シートや培養角膜上皮細胞シートを基材表面から損傷なく剥離させることが困難で、培養細胞の一部が基材に付着した状態となり、剥離したシートが欠損し好ましくない。さらに、評価用細胞として、NIH/3T3細胞を用い、播種密度を6000個/cm2とし、常法の培地を用い24時間培養する方法を採用したとき、表皮組織移植用の培養表皮細胞シートを作製する上で好適なディッシュタイプの温度応答性細胞培養基材は本発明で示すところの剥離率は、50%以上のものが良く、好ましくは60%以上が良く、さらに好ましくは70%以上のものが良い。剥離率が50%を満たない場合、培養した培養表皮細胞シートを基材表面から損傷なく剥離させることが困難で、培養細胞の一部が基材に付着した状態となり、剥離したシートが欠損し好ましくない。同様に、評価用細胞として、NIH/3T3細胞を用い、播種密度を6000個/cm2とし、常法の培地を用い24時間培養する方法を採用したとき、表皮組織移植用の培養表皮細胞シートを作製する上で好適なインサートタイプの温度応答性細胞培養基材は本発明で示すところの剥離率は、20%以上のものが良く、好ましくは30%以上が良く、さらに好ましくは40%以上のものが良い。剥離率が20%を満たない場合、培養した培養表皮細胞シートを基材表面から損傷なく剥離させることが困難で、培養細胞の一部が基材に付着した状態となり、剥離したシートが欠損し好ましくない。さらに、心筋再生に好適な心筋細胞シート、骨格筋筋芽細胞シート、脂肪組織由来間葉系幹細胞シート及び骨髄由来間葉系幹細胞シート、歯根膜再生に有用な歯根膜細胞シート及び間葉系幹細胞シート、軟骨再生に有用な軟骨細胞シート及び滑膜細胞シートにおいても、評価用細胞として、NIH/3T3細胞を用い、播種密度を6000個/cm2とし、常法の培地を用い24時間培養する方法を採用したとき、上述した細胞シートを作製する上で好適なディッシュタイプの温度応答性細胞培養基材は本発明で示すところの剥離率は、50%以上のものが良く、好ましくは60%以上が良く、さらに好ましくは70%以上のものが良い。剥離率が50%を満たない場合、培養した上述の細胞シートを基材表面から損傷なく剥離させることが困難で、培養細胞の一部が基材に付着した状態となり、剥離したシートが欠損し好ましくない。一方、樹状細胞を培養し、細胞表層蛋白質を保持させたまま剥離させる目的の際には、評価用細胞として、NIH/3T3細胞を用い、播種密度を6000個/cm2とし、常法の培地を用い24時間培養する方法を採用したとき、目的の樹状細胞を作製する上で好適なディッシュタイプの温度応答性細胞培養基材は本発明で示すところの剥離率は、20%以上のものが良く、好ましくは30%以上が良く、さらに好ましくは40%以上のものが良い。剥離率が20%を満たない場合、樹状細胞を基材表面から損傷なく剥離させることが困難となり好ましくない。
以上のことを温度応答性ポリマーとしてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)を例にとり説明する。ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は31℃に下限臨界溶解温度を有するポリマーとして知られ、遊離状態であれば、水中で31℃以上の温度で脱水和を起こしポリマー鎖が凝集し、白濁する。逆に31℃以下の温度ではポリマー鎖は水和し、水に溶解した状態となる。本発明で対象となる基材は、このポリマーがシャーレなどの器材表面に被覆、固定されたものである。その場合、31℃以上の温度であれば、基材表面のポリマーも同じように脱水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が疎水性を示すようになる。逆に、31℃以下の温度では、基材表面のポリマーは水和するが、ポリマー鎖が基材表面に被覆、固定されているため、基材表面が親水性を示すようになる。このときの疎水的な表面は細胞が付着、増殖できる適度な表面であり、また、親水的な表面は細胞が付着できないほどの表面となり、培養中の細胞も冷却するだけで剥離させられることになる。本発明では、このような機能を有する表面が基材表面に十分に構築されているのかどうかを評価するものであり、例えば、線維芽細胞であるNIH/3T3細胞を所定量播種し、24時間以内に培養を中止し、培養温度を31℃以下にすることで培養細胞を剥離させる。その後、剥離細胞をCellTiter 96 AQueous One Solution(Promega社製、G3580)を用いて生細胞数を計測すれば、温度応答性細胞培養基材表面の特性を評価できることとなる。
本発明により温度応答性細胞培養基材の表面を詳細に評価することができるようになり、しかもその操作は簡便で再現性の高いものである。従って、本発明で示す評価方法は、例えば温度応答性細胞培養基材の生産の際のスケールアップ時の表面機能を管理する規格化技術としても有用である。
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
参考例1
3T3−Swiss albino細胞株(マウス胎仔線維芽細胞、使用培地:ウシ胎児血清(FCS)を10%含むダルベッコー改変イーグル培地(DMEM))を継代培養し、細胞懸濁液を調整し、5.7×103個/cm2となるように、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が被覆されていない市販の細胞培養基材上へ播種した。これを37℃、5%二酸化炭素中で24時間培養した。培養後、細胞培養用ディッシュ内で培養した細胞に対して、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄後、0.1%トリプシン溶液を加え、培養面に均一に行き渡らせ、過剰なトリプシンを吸引した。その後すぐに、37℃、5%二酸化炭素中で、3分間、インキュベートし、接着している全ての細胞を剥離した。そのものに培地を加え再懸濁させた。この懸濁液の上清を100μLずつ回収し、測定用96穴マイクロプレートに加えた。
この測定用96穴マイクロプレートを37℃、5%二酸化炭素中で1時間プレインキュベートした。その後、CellTiter 96 AQueous One Solution(Promega、G3580)を20μL/wellの割合で加え、37℃、5%二酸化炭素中で2時間呈色反応を行った。2時間後、マイクロプレートリーダーで、490nmの吸光度と参照波長750nmを測定し、各wellの吸光度を測定した。検量線用として細胞濃度既知の溶液も作製し、100μLずつ測定用96穴マイクロプレートに加えた。得られた吸光度から、検量線を用いて浮遊細胞濃度を算出し、剥離度を下記の式に従って算出した。
剥離度(%)=(剥離細胞数)/(培養基材上の細胞数(平均値))×100
その結果、培養細胞の剥離度は100±4.0%であった。得られた結果を図1に示す。
3T3−Swiss albino細胞株(マウス胎仔線維芽細胞、使用培地:ウシ胎児血清(FCS)を10%含むダルベッコー改変イーグル培地(DMEM))を継代培養し、細胞懸濁液を調整し、5.7×103個/cm2となるように、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が被覆された温度応答性細胞培養基材上へ播種した。これを37℃、5%二酸化炭素中で24時間培養した。培養後、培養液の温度を20℃とし、30分静置させた。冷却後、剥離細胞に培地を加え再懸濁させた。この懸濁液の上清を100μLずつ回収し、測定用96穴マイクロプレートに加えた。
この測定用96穴マイクロプレートを37℃、5%二酸化炭素中で1時間プレインキュベートした。その後、CellTiter 96 AQueous One Solution(Promega、G3580)を20μL/wellの割合で加え、37℃、5%二酸化炭素中で2時間呈色反応を行った。2時間後、マイクロプレートリーダーで、490nmの吸光度と参照波長750nmを測定し、各wellの吸光度を測定した。その後、検量線を用いて、得られた吸光度から浮遊細胞濃度を算出し、剥離度を下記の式に従って算出した。
剥離度(%)=(剥離細胞数)/(参考例1での培養基材上の細胞数(平均値))×100
その結果、剥離度は、95±1.0%であった。得られた結果を図1に示す。
比較例1
3T3−Swiss albino細胞株(マウス胎仔線維芽細胞、使用培地:ウシ胎児血清(FCS)を10%含むダルベッコー改変イーグル培地(DMEM))を継代培養し、細胞懸濁液を調整し、5.7×103個/cm2となるように、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が被覆されていない市販の細胞培養ディッシュ上へ播種した。これを37℃、5%二酸化炭素中で24時間培養した。培養後、培養液の温度を20℃とし、30分静置させた。その他の操作は実施例1と同様な方法に従った。その結果、剥離度は、3.5±0.6%であった。得られた結果を図1に示す。
実施例1、参考例1、比較例1を比較することで、温度応答性細胞培養基材の場合、3T3−Swiss albino細胞(マウス胎仔線維芽細胞)を用い、播種濃度を5.7×103個/cm2とし、24時間培養する方法を採用した場合、剥離度が90%となり、温度応答性ポリマーであるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が被覆されていない市販の培養基材では剥離度が3%程度であることが分かる。本発明の方法が、温度応答性細胞培養基材の評価方法として利用できることが分かる。
NIH/3T3細胞株(マウス胎仔線維芽細胞、使用培地:ウシ胎児血清(FCS)を10%含むダルベッコー改変イーグル培地(DMEM))を継代培養し、細胞懸濁液を調整し、6.3×103個/cm2となるようにポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が被覆された温度応答性細胞培養基材へ播種し、37℃、5%二酸化炭素中で24時間培養した。24時間培養後、位相差顕微鏡で接着状態を図2に示す。その後、20℃、30分間インキュベートし、培養細胞を剥離させた。得られた結果を図3に示す。図3より、培養細胞は20℃で30分間インキュベートすることで、シングルセルで丸くなっていることが分かる。この時の細胞数を、血球計算盤を用いて計数した結果、総細胞数は6.6×103個/cm2であった。本実施例のように、6.6×103個/cm2程度での細胞密度で回収する場合、低温処理後の細胞が個々の状態となるため、好ましいことが分かる。
比較例2
NIH/3T3細胞株(マウス胎仔線維芽細胞、使用培地:ウシ胎児血清(FCS)を10%含むダルベッコー改変イーグル培地(DMEM))を継代培養し、細胞懸濁液を調整し、3.8×104個/cm2となるようにポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が被覆された温度応答性細胞培養基材へ播種し、37℃、5%二酸化炭素中で72時間培養した。72時間培養後、位相差顕微鏡で接着状態を撮影した。得られた結果を図4に示す。20℃、30分間インキュベートした結果、図5に示すように、本比較例では培養細胞はシート状となって剥離したことが分かる。このシートの細胞数をトリプシン処理を行って血球計算盤を用いて計数したところ4.0×105個/cm2であった。本比較例のように、低温処理時に、細胞間が結合した状態で剥離する場合、浮遊細胞数を容易に定量できないため、本発明として好ましくない方法であることが分かった。
比較例3
NIH/3T3細胞株(マウス胎仔線維芽細胞、使用培地:ウシ胎児血清(FCS)を10%含むダルベッコー改変イーグル培地(DMEM))を継代培養し、細胞懸濁液を調整し、50個/cm2となるようにポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が被覆された温度応答性細胞培養基材へ播種し、37℃、5%二酸化炭素中で24時間培養した。24時間培養後、20℃、30分間インキュベートし、細胞を剥離させ、この時の細胞数を、CellTiter 96 AQueous One Solutionを用いて計数した。その結果、0.9×102個/cm2で検出限界値以下であった。本比較例のように、回収時の細胞密度がより低い場合(例えば、100個/cm2以下である場合)、回収した溶液中の細胞数が低くなり、CellTiter 96 AQueous One solutionの検出感度以下となるため、好ましくない実施例である。
本発明に記載される方法であれば、これまで計測することが困難であった温度応答性細胞培養基材の表面特性を詳細に評価できるようになる。また、この方法を利用することで温度応答性細胞培養基材の生産管理ができるようになる。
実施例1、参考例1、比較例1で得られた剥離度を比較した結果を示す図である。
実施例2で24時間培養後の培養細胞を示す図である。
実施例2で20℃、30分間インキュベートした後の培養細胞を示す図である。
比較例2で72時間培養後の培養細胞を示す図である。
実施例2で20℃、30分間インキュベートした後の培養細胞を示す図である。