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JP5155845B2 - 構造推定装置、構造推定方法、構造推定プログラムおよび記録媒体 - Google Patents

構造推定装置、構造推定方法、構造推定プログラムおよび記録媒体 Download PDF

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Description

本発明は、有機溶液中の遷移金属錯体の構造を推定するための構造推定装置、構造推定方法、構造推定プログラムおよび当該構造推定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関するものである。
有機合成反応に用いられる遷移金属錯体が、その反応系中で、どのような構造を有しているかを推定する方法としては、例えば、核磁気共鳴スペクトル(以下、NMR)や電子スピン共鳴(EPR)等が用いられる。
一方、その構造が知られている(すなわち安定な)遷移金属錯体については、時間依存型密度汎関数法(以下、TD-DFT法と記載することもある)を用いて、紫外可視吸収スペクトル(以下、UVスペクトルと記載することもある)を推算できることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
V.I.Avdeev and G.M.Zhidomirov, Journal of Structural Chemistry, Vol.46, No.4, P577-590 (2005)
しかしながら、NMRは磁性を示す有機金属錯体の構造推定に用いることができない。また、EPRは孤立電子を有しない有機金属錯体の構造推定に用いることができない。それゆえ、NMR、EPRともに、実用的な構造推定方法とはいえない。
また、有機合成反応の系中に存在する不安定な遷移金属錯体を結晶化することは困難であるため、安定な遷移金属錯体と同様にUVスペクトルを用いて、その構造を決定することはできない。
また、UVスペクトルは単調であるため、有機合成反応の系中に存在する不安定な遷移金属錯体の構造推定には用いられてこなかった。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、その目的は、有機合成反応系中に存在する不安定な遷移金属錯体の構造を推定することができる構造推定装置および構造推定方法を提供することにある。
上記の課題を解決するために、本発明に係る構造推定装置は、有機溶媒を含む反応系において化学反応を触媒する遷移金属錯体の構造を推定する構造推定装置であって、上記遷移金属錯体、上記有機溶媒、および上記遷移金属錯体の触媒対象となる少なくとも1つの対象化合物をそれぞれ特定する特定情報を取得する取得手段と、上記取得手段が取得した特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒、および対象化合物を混合することによって生じる可能性のある遷移金属錯体を、遷移金属錯体候補として複数決定する候補決定手段と、上記候補決定手段が決定した遷移金属錯体候補の少なくとも一部の紫外可視吸収スペクトルを推算するスペクトル推算手段と、上記スペクトル推算手段が推算した推算紫外可視吸収スペクトルと、上記特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒および対象化合物の混合物の紫外可視吸収スペクトルを実測することによって得られた実測紫外可視吸収スペクトルとを比較し、当該実測紫外可視吸収スペクトルに似た推算紫外可視吸収スペクトルを特定する比較手段とを備えることを特徴としている。
本発明に係る構造推定方法は、有機溶媒を含む反応系において化学反応を触媒する遷移金属錯体の構造を推定する構造推定装置における構造推定方法であって、上記遷移金属錯体、上記有機溶媒、および上記遷移金属錯体の触媒対象となる少なくとも1つの対象化合物をそれぞれ特定する特定情報を取得する取得工程と、上記取得工程において取得された特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒、および対象化合物を混合することによって生じる可能性のある遷移金属錯体を、遷移金属錯体候補として複数決定する候補決定工程と、上記候補決定工程において決定された遷移金属錯体候補の少なくとも一部の紫外可視吸収スペクトルを推算するスペクトル推算工程と、上記スペクトル推算工程において推算された推算紫外可視吸収スペクトルと、上記特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒および対象化合物の混合物の紫外可視吸収スペクトルを実測することによって得られた実測紫外可視吸収スペクトルとを比較し、当該実測紫外可視吸収スペクトルに似た推算紫外可視吸収スペクトルを特定する比較工程とを含むことを特徴としている。
上記の構成によれば、取得手段は、遷移金属錯体、有機溶媒、および少なくとも1つの対象化合物をそれぞれ特定する特定情報を取得し、候補決定手段は、特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒、および対象化合物を混合することによって生じる可能性のある遷移金属錯体を、遷移金属錯体候補として複数決定する。
スペクトル推算手段は、候補決定手段が決定した遷移金属錯体候補の少なくとも一部の紫外可視吸収スペクトルを推算し、比較手段は、スペクトル推算手段が推算した推算紫外可視吸収スペクトルと、実測紫外可視吸収スペクトルとを比較し、当該実測紫外可視吸収スペクトルに近い推算紫外可視吸収スペクトルを特定する。
それゆえ、有機合成反応系中に不安定に存在するため結晶化できない遷移金属錯体であっても、その構造を容易に推定することができる。従って、効率のよい触媒の開発に資することができるため、工業的に有利である。
なお、推算紫外可視吸収スペクトルが実測紫外可視吸収スペクトルに似ているかどうかを判定する判定基準は、ユーザによって適宜設定されればよい。そして、比較手段は、推算紫外可視吸収スペクトルと実測紫外可視吸収スペクトルとが似ているかどうかを判定するための所定の判定基準を満たす推算紫外可視吸収スペクトルを特定すればよい。
上記判定基準とは、例えば、推算紫外可視吸収スペクトルのピークの数、ピークの波長、複数のピークがある場合のピーク間の距離(波長)、または複数のピークがある場合のピークの強度の比が、実測紫外可視吸収スペクトルのそれと一致するかという基準である。
また、比較手段が、実測紫外可視吸収スペクトルに最も似た推算紫外可視吸収スペクトルを1つ特定することが理想的だが、1つに特定できない場合には、比較手段は、上記判定基準を満たす複数の推算紫外可視吸収スペクトルを、比較結果として出力すればよい。
上記構造推定装置は、上記取得手段が取得した特定情報が示す遷移金属錯体が有している第1配位子、上記特定情報が示す対象化合物から生じる可能性のある第2配位子、および当該第2配位子が上記対象化合物から脱離した後の脱離後化合物を特定する配位子特定手段をさらに備え、上記候補決定手段は、上記特定情報が示す有機溶媒、対象化合物、上記配位子特定手段が特定した第1、第2配位子、および脱離後化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質が、上記特定情報が示す遷移金属錯体に含まれる遷移金属に配位または結合することによって生じる遷移金属錯体を、遷移金属錯体候補として複数決定することが好ましい。
上記の構成によれば、配位子特定手段は、遷移金属錯体および対象化合物から生じる可能性のある配位子、および対象化合物から配位子が脱離した後の脱離後化合物を特定する。候補決定手段は、特定情報が示す有機溶媒、対象化合物、配位子特定手段が特定した第1、第2配位子または脱離後化合物、もしくはそれらの組合せが、遷移金属に配位または結合することよって生じる可能性のある遷移金属錯体を、遷移金属錯体候補として複数決定する。
それゆえ、錯体候補をより網羅的に決定することができ、遷移金属錯体の構造を推定する精度を高めることができる。
上記構造推定装置は、上記比較手段が特定した推算紫外可視吸収スペクトルが複数存在する場合に、当該複数の推算紫外可視吸収スペクトルが推算された複数の遷移金属錯体候補から、化学的に不安定な遷移金属錯体候補を除去する候補選別手段をさらに備えることを特徴とすることが好ましい。
上記の構成によれば、候補選別手段によって、比較手段が特定した複数の推算紫外可視吸収スペクトルを示す複数の遷移金属錯体候補から、実在する可能性の低い、化学的に不安定な遷移金属錯体候補が除去される。
それゆえ、紫外可視吸収スペクトルの比較によって遷移金属錯体候補が1つに絞れない場合でも、遷移金属錯体候補をさらに絞り込むことができる。
上記構造推定装置は、上記候補決定手段が決定した遷移金属錯体候補から、化学的に不安定な遷移金属錯体候補を除去する候補選別手段をさらに備え、上記スペクトル推算手段は、上記候補選別手段によって絞り込まれた遷移金属錯体候補の紫外可視吸収スペクトルをそれぞれ推算することが好ましい。
上記の構成によれば、候補選別手段によって、候補決定手段が決定した遷移金属錯体候補から、実在する可能性の低い、化学的に不安定な遷移金属錯体候補が除去され、スペクトル推算手段は、候補選別手段が絞り込んだ遷移金属錯体候補の紫外可視吸収スペクトルをそれぞれ推算する。
それゆえ、紫外可視吸収スペクトルを推算する前に遷移金属錯体候補を絞り込むことができるため、紫外可視吸収スペクトルを推定する処理の量を低減することができる。
上記構造推定装置は、量子化学計算により、上記候補決定手段が決定した遷移金属錯体候補の、化学的に最も安定な構造を決定する構造最適化手段をさらに備え、上記スペクトル推算手段は、上記構造最適化手段が決定した構造の紫外可視吸収スペクトルを推算することが好ましい。
上記の構成によれば、構造最適化手段は、量子化学計算により、候補決定手段が決定した遷移金属錯体候補の最適構造を決定し、スペクトル推算手段は、構造最適化手段が決定した最適構造の紫外可視吸収スペクトルを推算する。
それゆえ、実在する可能性の最も高い、遷移金属錯体候補の構造に基づいて紫外可視吸収スペクトルを推算でき、遷移金属錯体の構造を推定する精度を高めることができる。
上記スペクトル推算手段は、時間依存型密度汎関数法によって推算紫外可視吸収スペクトルを算出することが好ましい。
紫外可視吸収スペクトルを推算する方法として、時間依存型密度汎関数法の他にCIS法やZINDO(Zerner’s Intermediate Neglect of Differential Overlap)法が知られているが、遷移金属錯体を計算する場合には、時間依存型密度汎関数法が最も精度良く推算することができる。それゆえ、上記の構成により、遷移金属錯体の構造をより精度良く推算することができる。
上記候補決定手段は、Ni、Cu、Fe、Cr、Co、V、Mn、Mo、RuまたはAgを含む遷移金属錯体候補のうちの少なくとも1つを決定するための情報を取得することが好ましい。
上記の構成により、NMR法では構造推定が困難な、不安定な遷移金属錯体である、Ni、Cu、Fe、Cr、Co、V、Mn、Mo、RuまたはAgを含む遷移金属錯体の候補を特定することができ、これらの遷移金属錯体の構造を推定することができる。
上記構造最適化手段は、上記遷移金属錯体候補が取り得る複数の電子状態のそれぞれについて、化学的に最も安定な構造を決定することが好ましい。
上記の構成により、遷移金属錯体候補の構造を決定する場合にその電子状態が考慮される。これにより、遷移金属錯体の構造をより精度高く推定することができる。
上記構造最適化手段は、上記電子状態のそれぞれについて、当該遷移金属錯体候補のエネルギーの値を算出し、上記構造推定装置は、上記構造最適化手段が算出したエネルギーの値を上記遷移金属錯体候補ごとに比較し、上記エネルギーの値が最も小さい電子状態の遷移金属錯体候補を上記スペクトル推算手段による紫外可視吸収スペクトルの推算対象として選択する電子状態選択手段をさらに備えることが好ましい。
上記の構成によれば、構造最適化手段は、移金属錯体候補が取り得る電子状態のそれぞれについて、当該遷移金属錯体候補のエネルギーの値を算出する。そして、電子状態選択手段は、構造最適化手段が算出したエネルギーの値を遷移金属錯体候補ごとに比較し、そのエネルギーの値が最も小さい電子状態の遷移金属錯体候補をスペクトル推算手段の推算対象として選択する。
それゆえ、遷移金属錯体候補の電子状態を指標として化学的に安定な遷移金属錯体候補を特定することができ、遷移金属錯体候補を精度高く絞り込むことができる。
また、上記構造推定装置を動作させる構造推定プログラムであって、コンピュータを上記各手段として機能させるための構造推定プログラムおよびの構造推定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も本発明の技術的範囲に含まれる。
本発明に係る構造推定装置は、以上のように、遷移金属錯体、有機溶媒、および上記遷移金属錯体の触媒対象となる少なくとも1つの対象化合物をそれぞれ特定する特定情報を取得する取得手段と、上記取得手段が取得した特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒、および対象化合物を混合することによって生じる可能性のある遷移金属錯体を、遷移金属錯体候補として複数決定する候補決定手段と、上記候補決定手段が決定した遷移金属錯体候補の少なくとも一部の紫外可視吸収スペクトルを推算するスペクトル推算手段と、上記スペクトル推算手段が推算した推算紫外可視吸収スペクトルと、上記特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒および対象化合物の混合物の紫外可視吸収スペクトルを実測することによって得られた実測紫外可視吸収スペクトルとを比較し、当該実測紫外可視吸収スペクトルに似た推算紫外可視吸収スペクトルを特定する比較手段とを備える構成である。
本発明に係る構造推定方法は、以上のように、遷移金属錯体、有機溶媒、および遷移金属錯体の触媒対象となる少なくとも1つの対象化合物をそれぞれ特定する特定情報を取得する取得工程と、上記取得工程において取得された特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒、および対象化合物を混合することによって生じる可能性のある遷移金属錯体を、遷移金属錯体候補として複数決定する候補決定工程と、上記候補決定工程において決定された遷移金属錯体候補の少なくとも一部の紫外可視吸収スペクトルを推算するスペクトル推算工程と、上記スペクトル推算工程において推算された推算紫外可視吸収スペクトルと、上記特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒および対象化合物の混合物の紫外可視吸収スペクトルを実測することによって得られた実測紫外可視吸収スペクトルとを比較し、当該実測紫外可視吸収スペクトルに似た推算紫外可視吸収スペクトルを特定する比較工程とを含む構成である。
それゆえ、有機合成反応系中に不安定に存在するため結晶化できない遷移金属錯体であっても、その構造を容易に推定することができるという効果を奏する。
上述のとおり、UVスペクトルは単調なスペクトルではあるものの、遷移金属錯体に特徴的なMetal−to−Ligand電荷移動由来の吸収が観測されるため、本発明者は、UVスペクトルを用いて簡便に遷移金属錯体の構造が推定できるのではないかと考えた。
そこで、まず、反応系中で構成される可能性がある全ての中間体について量子化学計算を行い、それぞれの構造を最適化し、得られた各最適構造のUVスペクトルをTD-DFT法にて推算し、必要により補正を行った。この最適構造のUVスペクトルを、別途測定した実測UVスペクトルとマッチングさせれば、反応系中の遷移金属錯体の構造が推定される。
そして、上記の量子化学計算、TD-DFT法によるUVスペクトルの推算およびこれと実測UVスペクトルとのマッチングを自動的に行わせることにより、容易に反応系中の遷移金属錯体の構造が推定できることを見出し、本発明に至った。
本発明の構造推定装置の実施形態について具体的に説明する前に、金属錯体触媒を用いた反応系において反応中間体が蓄積する原理および金属錯体を検出する原理について説明する。
(反応中間体蓄積の原理)
反応溶液中で、遷移金属錯体触媒によって反応が進行する場合、幾つかの反応遷移状態を経て生成物が得られる。通常、その際に反応物や生成物とは構造が異なる反応中間体が複数存在する(図2参照)。
活性化エネルギーと反応速度定数との間には、下記(1)式に示すアレニウスの速度式の関係が知られている。
Figure 0005155845
上記(1)式において、kは反応速度定数、Aは頻度因子(正の定数)、ΔEは活性化エネルギー、Rは気体定数(8.314 J/K mol)、Tは反応温度を表している。この式は活性化エネルギーが高くなると反応速度定数kは小さくなり、反応速度は遅くなること意味している。
複数の遷移状態のなかで最も活性化エネルギーの高い、すなわち(1)式のΔEが最大(図2のΔE)の遷移状態(図2のTS2)の反応速度は最も遅く、その段階(律速段階)の前の中間体(図2のGS2)が唯一高い濃度で系中に存在すると推測される。
時間の経過とともに反応が進行すると反応物が生成物へと変換され、同時に中間体も反応系中から消失する。活性化エネルギーが適度に高く、中間体の反応系中で存在する時間(寿命)が測定限界より長くなれば捕捉が可能になる。
一方、律速段階の活性化エネルギーが低いと反応が速く進行し、瞬時に生成物へと変換されて、その中間体を分光学的な手法で捕捉することが困難になる場合が予想される。
しかし、(1)式より、反応温度Tを下げることで反応速度を遅延させることができるため、通常の反応温度で中間体を捕捉することが困難な場合でも、測定条件を調整すれば捕捉が可能になると考えられる。
また、反応系中に複数の同じ活性化エネルギーを持つ律速段階が存在する場合には、UVスペクトルなどで測定すると、時間とともにに吸収がシフトしていくことが予想される。この場合、上述のように反応温度Tで測定条件を調整することで、個々の中間体由来のスペクトルを個別に捕捉することが可能になると考えられる。
ただし、律速段階前の中間体(図2のGS2)とその前段階の中間体(図2のGS1)と間の活性化エネルギー(図2のΔE)が低い場合、2つの中間体(図2のGS1、GS2)が平衡に近い状態となって共存する可能性が想定される。
この場合でも、2つの中間体(図2のGS1、GS2)のエネルギーが3kcal/mol程度の差があれば、ボルツマン分布に則り、片方に大きく存在比率が偏る。例えば、エネルギー差が3kcal/mol標準状態での存在比率は99.6/0.4となる。律速段階前の中間体が他の中間体と平衡状態にあり、その中間体同士のエネルギー差がほとんどない場合は、反応溶液中に複数の中間体錯体が同程度の濃度で存在しうるが、後述のとおり、本発明では推算スペクトルの和を用いて、複数の中間体錯体の構造を推定することもできる。
生成物と遷移金属錯体とは、UVスペクトルの吸収領域が大きく異なるため、触媒単体や反応物、生成物各々と異なるスペクトルが反応系中で観測された場合、そのスペクトルは律速段階前の反応中間体単独のスペクトルと考えるのが合理的である。
(金属錯体検出の原理)
反応系中に比較的安定に存在する金属錯体は、その吸収がMLCT(Metal to ligand Charge Transfer)と言われる特徴的な吸収に由来している。系中に錯体から壊れた有機化合物が多く存在していても、有機金属錯体由来の吸収波長とは大きく異なるため重なることはなく、有機化合物とは区別できる。これは実測データおよびTD-DFT計算結果から示されている。
金属錯体は、結合している有機化合物や配位子の種類、数、溶媒の種類や数によって、それぞれ特有の吸収波形となることがTD-DFT計算を検討することで分かった。吸収波形はNMRやIRに比べて単調であるが、錯体の構造によって異なるため、同定が可能になる。
TD-DFT計算および実測スペクトルを用いた錯体構造の推算に、更に理論計算による反応熱を用いて金属錯体構造の候補を効率的に絞り込むことができる。
溶液中で存在すると想定しうる金属錯体構造を全て組み立てて、理論計算による構造最適化を実施する。
〔実施の形態1〕
(構造推定装置1の構成)
次に、本発明の実施の一形態について図1〜図4に基づいて説明する。図1は、構造推定装置1の構成を示す概略図である。
図1に示すように、構造推定装置1は、制御部20、入力部11、出力部12および記憶部13を備えている。
入力部11は、遷移金属錯体、当該遷移金属錯体を含む反応系の有機溶媒、および上記遷移金属錯体の触媒対象となる反応物(対象化合物)をそれぞれ特定する特定情報をユーザが入力するための入力装置であり、例えば、キーボード、マウスまたはタッチパネルである。
出力部12は、構造推定装置1が推定した遷移金属錯体の構造等の情報を出力するための出力装置であり、例えば、液晶ディスプレイなどの表示装置またはプリンタである。
制御部20は、構造推定装置1を制御するものであり、取得部(取得手段)2、配位子特定部(配位子特定手段)3、候補決定部(候補決定手段)4、3次元構造決定部5、構造最適化部6、スペクトル推算部(スペクトル推算手段)7、吸収曲線作成部8、比較部(比較手段)9および候補選別部(候補選別手段)10を備えている。
(取得部2)
取得部2は、入力部11を介して、上記特定情報を取得し、取得した特定情報を配位子特定部3および候補決定部4へ出力する。
(配位子特定部3)
配位子特定部3は、取得部2が取得した特定情報が示す遷移金属錯体が予め有している配位子(第1配位子)、上記特定情報が示す反応物から生じる可能性のある配位子(第2配位子)、および第2配位子が反応物から脱離した後の化合物である脱離後反応物(脱離後化合物)を特定する。
第1および第2配位子および脱離後反応物を特定する方法としては、反応物から生じる配位子、遷移金属錯体から生じる配位子、および反応物から配位子が脱離することによって生じる脱離後反応物を特定するために必要な情報を構造データファイル13aとして記憶部13に格納しておき、配位子特定部3は、この構造データファイル13aを参照することにより第1、第2配位子および脱離後反応物を特定すればよい。
反応物に関しては、反応物で切れやすい構造部位(例えば脱離基)を切断し、その脱離基(すなわち、第2配位子)および脱離基を切断した反応物(脱離後反応物)を列挙する。脱離基としては、例えばハロゲン原子やトシル基、メシル基、トリフラート基、シリル基、シリルオキシ基、水素原子などが挙げられる。反応物を脱離させた場合、脱離後の電荷は何れもアニオンとする。
なお、第1および第2配位子は、それぞれ複数種類存在することも有り得る。配位子とは、遷移金属に配位できるヘテロ原子を有しており、反応系中では構造の変化、劣化が起こらない化合物全てを指す。
(候補決定部4)
候補決定部4は、取得部2が取得した特定情報が示す有機溶媒の分子、反応物、配位子特定部3が特定した第1、第2配位子および脱離後反応物からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質が、特定情報が示す遷移金属錯体が含む遷移金属に配位または結合することよって生じる遷移金属錯体を、遷移金属錯体候補(以下、錯体候補と略称する)として複数決定する。
例えば、候補決定部4は、上述の第1および第2配位子、反応物、脱離後反応物、および/または溶媒分子を遷移金属上に1から6配位まで配位させた、可能性のある全ての結合関係を定義する。
候補決定部4は、上記結合関係(換言すれば、各錯体候補の構造)を示す結合表14を作成し、記憶部13に格納する。結合表14に示される錯体候補には、それぞれ識別番号(ID)が与えられている。候補決定部4における処理の詳細については後述する。
(3次元構造決定部5)
3次元構造決定部5は、候補決定部4が決定した錯体候補の構造を、量子化学計算するための3次元座標(初期3次元座標)として表現する。3次元構造決定部5における初期3次元座標の生成方法は、公知のものでよく、3次元構造決定部5として市販のソフトであるCORINA(www.molecular-networks.com)またはCONCORD(www.tripos.com)を用いることもできる。幾つかのコンフォメーションをとり得る可能性がある場合には、全ての構造を発生させる。
(構造最適化部6)
構造最適化部6は、量子化学計算により、3次元構造決定部5が決定した構造(すなわち、候補決定部4が決定した錯体候補の構造)の最適構造(化学的に最も安定な構造)をそれぞれ決定する。
初期座標が与えられた錯体の構造最適化には、DFT(Density Functional Theory)法やab-initio法が知られている。DFT法については、例えばB3LYP、B3PW91、MPW1PW91の手法を用いる。ab-initio法では、Hartree-Hock法やMP法などを用いる。基底関数としては、例えば3-21Gや6-31G(d)、6-31+G(d,f)を用いることができる。これらの基底関数では取り扱えない原子や金属についてはLANL2DZ等を用いればよい。
構造最適化の場合には、真空での最適化方法または溶媒効果を考慮した計算手法を用いる。溶媒効果の計算方法としては、PCM(Polarizable Continuum Model)法、IEFPCM(Integral Equation Formalism PCM)法、SCFPCM(Self-Consistent Isodensity Polarized Continuum Model)法、COMSO(Conductor-like Screening Model)法等を用いる。
(スペクトル推算部7)
スペクトル推算部7は、候補決定部4が決定した錯体候補の少なくとも一部について、TD-DFT計算により、そのUVスペクトルの吸収波長ごとの強度を推算する。TD-DFT計算を実施する場合には、上述の溶媒効果を考慮した計算を実施することが好ましい。
TD-DFT計算を実施する際の手法は、例えばB3LYP、B3PW91、MPW1PW91の手法を用いる。基底関数としては、例えば3-21Gや6-31G(d)、6-31+G(d,f)等を用いることができる。これらの基底関数では取り扱えない原子や金属についてはLANL2DZ等を用いればよい。
ただし、構造最適化に用いた手法および基底関数と同じ手法をTD-DFT計算に用いる必要はない。溶媒効果については、PCM法、IEFPCM法、SCFPCM法、COMSO法等を用いる。特に計算手法としては、6-31G(d)またはMPW1PW91が、溶媒効果についてはIEFPCM法が望ましい。
(吸収曲線作成部8)
吸収曲線作成部8は、スペクトル推算部7によって得られた不連続なUVスペクトル波長の強度を示す離散値(励起スペクトル推算値)を、ガウス関数やローレンツ関数、あるいは2つの関数の組合せを用いて平滑化し、遷移金属錯体の実測の紫外可視吸収スペクトルと類似するように、連続的なスペクトル波形に変換する。
この平滑化の際の半値幅は、文献Journal of Physical Chemistry A, vol.106, 7399〜7406(2002)に記載されている0.4eVを参考にして、0.2〜0.5eV付近の値を用いて実測スペクトルの波形に近くなるように数値を変化させればよい。
吸収曲線作成部8は、作成したUVスペクトルの連続波形を示す情報(推算UVスペクトルデータ13b)を記憶部13に格納する。
(比較部9)
比較部9は、吸収曲線作成部8が作成したUVスペクトル(推算UVスペクトル)と、特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒および反応物の混合物を実測することによって得られた実測UVスペクトルとを比較し、当該実測UVスペクトルに最も似た推算UVスペクトルを特定する。実測UVスペクトルを示すデータ(実測UVスペクトルデータ13c)は、予め記憶部13に格納されている。
より具体的には、比較部9は、推算UVスペクトルの形状と、実測UVスペクトルの形状とを、吸収極大(UVスペクトルの波形のピーク)が形成される波長、最大強度の吸収極大が形成される波長(λmax)、吸収極大の数、および吸収極大の強度比などに関して比較することにより、実測UVスペクトルの形状と最も類似している形状を有する推算UVスペクトルが推算された錯体候補を選び出す。
比較部9が推算UVスペクトルと実測UVスペクトルとを比較するために用いる基準は、少なくとも1つあればよいが、1つの基準のみに基づく比較では、錯体候補を1つに絞り込むことが困難な場合が多いため、複数の基準を組み合わせて比較することが好ましい。
また、TD-DFT計算から得られた推算UVスペクトルは、金属種によって、スペクトル全体が短波長側に移動している場合があるため、その影響も考慮に入れて最も類似したUVスペクトルを選び出すことが好ましい。短波長側に移動する割合は計算方法によって異なり、例えばNi錯体では、実測UVスペクトルに比べて約30から50nm程度、短波長側にシフトした推算値が得られる。
(候補選別部10)
候補選別部10は、比較部9が絞り込んだ錯体候補が複数存在する場合に、これらの錯体候補から、実在する可能性の低い錯体候補を除去する。換言すれば、候補選別部10は、比較部9が特定した複数の錯体候補をさらに絞り込む。候補選別部10における処理の詳細については後述する。候補選別部10は、絞り込んだ錯体候補を示す情報を出力部12へ出力する。
なお、錯体候補が1つに絞り込めなかった場合には、候補選別部10は、絞り込んだ複数の錯体候補を示す情報を出力部12へ出力すればよい。
(候補決定部4における錯体候補の決定方法)
TD-DFT計算を実施する錯体候補は、(1)反応系に加える反応物そのもの、(2)上記反応物から生じる配位子(第2配位子)、(3)上記反応物から配位子を脱離させることによって生じる化合物(脱離後反応物)および(4)反応系の溶媒分子、(5)遷移金属錯体が予め有している配位子(第1配位子)のうちの一部または全部からなる組合せで遷移金属に結合または配位させた錯体の全てとする。
候補決定部4は、中心に遷移金属を置き、その遷移金属に配位し得る全ての配位子、溶媒分子、反応物、脱離後反応物について、全ての組合せで錯体を形成させる。
そして、候補決定部4は、各錯体候補の構造を示す結合表14を作成する。この結合表14は、後述する表3に示すように、遷移金属に配位する配位子および遷移金属に結合する化合物(反応物および脱離後反応物)の種類および数を示すものである。
(比較部9における錯体候補の絞込み方法)
比較部9は、表1に示すM1〜4、M6の手法のうちの少なくとも一部の手法を用いて錯体候補の絞込みを行う。
Figure 0005155845
表1に、実測UVスペクトルと理論計算からの推算UVスペクトルとを比較して、錯体候補を絞り込む手法の例を示している。表1に示す絞込み方法M1、M2、M3、M4、M6は、スペクトル波形の比較であり、比較部9によって用いられる手法であるが、M5は、各錯体候補の安定性に基づいて錯体候補を絞り込む手法であり、候補選別部10によって用いられる手法である。
なお、M1〜4、M6の手法において、実測UVスペクトルとの比較を可能にするために、推算UVスペクトルの吸収極大を30から50nm長波長側にシフトした幅のある値で比較することが好ましい。
また、比較対象の波長領域は、実測UVスペクトルの測定状況によるが、200nmより短波長領域では、有機化合物の吸収が多く見られるため、実用的ではない。比較対象の波長領域は、通常の遷移金属錯体のMetal-to-Ligand励起由来の吸収が認められる、300nmから800nmの間が好ましい。
比較部9は、表1に示すM1〜4、M6の手法のうちの1手法だけでは錯体候補を1つに特定できない場合、複数の手法を併用すればよい。すなわち、比較部9は、推算UVスペクトルと実測UVスペクトルとの比較を、(M1)UVスペクトルの波形がピークとなる波長(ピーク位置の波長)、(M2)吸収波長の1次微分曲線の極大数(すなわち、UVスペクトルの波形のピークの数)、(M3)複数の吸収極大がある場合の、吸収極大間の波長の差分、(M4)複数の吸収極大がある場合の、各吸収極大における吸収強度の相対比、(M6)UVスペクトルの波形全体の形状の比較、のうちの少なくとも1つについて行う。
複数の絞込み方法を用いる場合、その順番は任意である。その中でも、M1の次にM2、そしてM3、M4の順序が好ましい。通常、M1、M2の順で絞込みを行うが、他の手法や順序の指定も可能である。
絞込みによって、最終的に1つ錯体候補を決めたいが、複数の候補が残る場合がある。その場合、手法M3、 M4、 M6では定量的な数値評価するため、その数値を用いて順位を付けることも可能である。
(手法M6の詳細)
表1の絞込み方法M6では、実測UVスペクトルの特徴的な吸収極大のピークと、TD-DFT計算から求めた推算UVスペクトルの吸収極大のピークとを合わせるように全体の吸収強度を補正する。この際の特徴的な吸収極大としては、例えば最も短波長側の吸収を選択することができる。また、比較する範囲の波長を例えば300nmから800nmに限定する。
そして、ある単位波長毎の吸収強度の差分の2乗の総和で実測スペクトルと推算スペクトルとの差異を数値化する。単位波長としては例えば2nmにする。差異の数値が小さいほど、実測スペクトルに近いと評価する。
絞込み手法M6では、これだけで1つの錯体を絞り込むことが可能であるが、計算量が多くなるため、他の手法との組合せも可能である。
(候補選別部10における錯体候補絞込み方法)
候補選別部10は、比較部9が特定した推算UVスペクトルが複数存在する場合、すなわち、比較部9によって錯体候補が1つに絞り込めなかった場合に、比較部9が特定した複数の錯体候補について、これらの錯体候補の安定性を比較することで錯体候補をさらに絞り込む。候補選別部10における錯体候補絞込み方法について以下に説明する。
表1の絞込み手法M5である錯体安定性の比較は、中性配位子が錯体に結合することによって、どの程度安定化するかをエネルギーで数値化して比較するものである。中性配位子とは、電荷を持たない配位子や溶媒を指す。
錯体の安定化のエネルギーの算出に際して、比較できる錯体グループは、共通錯体部分構造を有していることを前提とする。共通部分構造としては、例えば、金属にアニオン配位子Rが結合した構造で、アニオン配位子Rの数を固定し、中性配位子Lの有無および配位数は任意とする分類(分類A)、あるいは、さらに中性配位子の種類を固定して中性配位子数のみ任意の共通部分構造とした分類(分類B)を想定する。
アニオン配位子とは、脱離基を有する反応物の脱離基部位を切断した2つの構造で、アニオンを付与した配位子および、金属塩のカウンターアニオンを指し、中性配位子は通常の配位子および溶媒を指す。
表2に分類Aおよび分類Bの例を示す。
Figure 0005155845
表2のR1、R2は、それぞれ異なる種類のアニオン配位子を意味し、L1、L2はそれぞれ異なる中性配位子を意味している。表2の分類Aに関しては、アニオン配位子R1が2つ配位しているグループ(IDが1から7の錯体)と、R1、R2が1ずつ配位している錯体グループ(IDが8から12の錯体)とに分類されている。
また、表2の分類Bでは、分類Aの各グループが中性配位子の構成(数および種類)によって、さらに細分化される。
共通部分構造を持つ比較可能な錯体グループ中で安定性を比較する場合、錯体グループ内に含まれる全ての中性配位子について、1錯体での最大の配位子数を中性配位子種毎にカウントする。配位子の上限は6以下の範囲で指定できるが、取り得る錯体構造を網羅的に発生させる目的において、6配位を上限にすることが望ましい。
グループ内の各錯体について、各中性配位子数と最大配位子数との差を取り、その差分の中性配位子のエネルギーを元の錯体のエネルギーに加算する。全ての錯体について同様のエネルギーを算出し、錯体をエネルギーの低い順に並べ替え、最も低いエネルギー(最安定エネルギー)の錯体を決定する。他のグループ内の錯体については、最安定エネルギーからの差分を算出し、その値が大きいほど不安定化していると見なすことで、この錯体グループ内の安定性を比較する。
共通部分構造を持つ比較可能な錯体グループ内で、検討対象に許容しうる錯体を絞り込む場合、この最安定エネルギーからの差異が30kcal/mol以下などに設定することができる。
(構造推定装置1における処理の流れ)
次に、構造推定装置1における処理の流れの一例について、図3を参照しつつ説明する。図3は、構造推定装置1における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
まず、取得部2は、入力部11を介して、ユーザから、遷移金属錯体、有機溶媒、および対象化合物をそれぞれ特定する特定情報を取得し、取得した特定情報を配位子特定部3および候補決定部4へ出力する(S1)(取得工程)。
特定情報を受け取ると、配位子特定部3は、記憶部13に格納された構造データファイル13aを参照することにより、特定情報が示す遷移金属錯体が予め有している第1配位子、特定情報が示す対象化合物から生じる第2配位子、および第2配位子が対象化合物から脱離した後の脱離後反応物を特定する(S2)。
配位子特定部3は、特定した第1、第2配位子および脱離後反応物を示す情報を候補決定部4へ出力する。
候補決定部4は、特定情報が示す有機溶媒の分子、反応物、配位子特定部3が特定した第1または第2配位子または脱離後反応物、もしくはそれらの組み合わせが、特定情報が示す遷移金属錯体が含む遷移金属に配位または結合することよって生じる遷移金属錯体を、錯体候補として複数決定する(S3)(候補決定工程)。
候補決定部4は、各錯体候補にIDを付与するとともに、各錯体候補の構造を示す結合表14を作成し、記憶部13に格納する。
次に、3次元構造決定部5は、結合表14が示す錯体候補の構造から、理論計算用の初期3次元座標を生成し、生成した初期3次元座標を、錯体候補のIDと対応付けて構造最適化部6へ出力する(S4)。
構造最適化部6は、理論計算プログラムを用いて、3次元構造決定部5が生成した初期3次元座標が示す錯体候補の構造を最適化する(S5)。理論計算プログラムとしては、例えばGaussian(www.gaussian.com)またはDMOL3(www.accelrys.com)などが挙げられる。最適化の手法としては、DFT計算のB3LYPまたはB3PW91、MPW1PW91などが挙げられる。基底関数としては、6-31G(d)や6-31+G(d,f)のレベルで計算することで、精度の良い最適化構造が得られる。また構造最適化には通常、真空中での計算を行う方が短時間で収束するが、溶媒効果を考慮した計算手法を用いることもできる。
構造最適化部6は、最適化した各錯体候補の構造を示す情報(最適構造情報)を、錯体候補のIDと対応付けてスペクトル推算部7へ出力する。
スペクトル推算部7は、最適構造情報を受け取ると、当該最適構造情報が示す各錯体候補のUVスペクトルの推算を、TD-DFT計算によって行う(S6)(スペクトル推算工程)。計算するプログラムとしてはGaussianなどがある。
UVスペクトルの推算手法としてTD-DFT計算の他にCIS法やZINDO(Zerner’s Intermediate Neglect of Differential Overlap)法が知られているが、遷移金属錯体を計算する場合には、TD-DFT計算が最も精度良く推算することができる。TD-DFT計算では、最適化した構造を用いて1点計算を行う。
さらに、UVスペクトルの推算において、溶媒効果を考慮することが好ましい。溶媒効果を考慮するための方法としては、PCM法やCPCM(polarizable conductor calculation model)法、IEFPCM法、Dipole法、IPCM(Isodensity Polarized Continuum Model)法、SCI−PCM(Self-Consistent Isodensity Polarized Continuum Model)法があるが、PCM法、CPCM法、IEFPCM法、IPCM法およびSCI−PCM法が望ましい。
スペクトル推算部7は、推算した、各錯体候補の推算UVスペクトルの離散値を、錯体候補のIDと対応付けて吸収曲線作成部8へ出力する。
吸収曲線作成部8は、スペクトル推算部7から出力されたUVスペクトル波長ごとの吸収強度を示す離散値を、ガウス関数やローレンツ関数、あるいは2つの関数の組合せを用いて平滑化し、遷移金属錯体の実測UVスペクトルと類似するように、連続的なスペクトル波形に変換する(S7)。
その際に吸収曲線作成部8は、吸収強度をピークの面積に当てる。半値幅については、0.2から0.5eVの値で、適宜調節すればよい。推算UVスペクトルの吸収極大は、錯体の種類によって、数nmから数十nm程度補正することが好ましい。
例えば、Ni錯体をB3LYP/6-31G(d)レベルで、溶媒効果を考慮した計算手法(IEFPCM法)を併用してのTD-DFT計算を実施した場合、30から50nm程度長波長側に補正することが好ましい。また、MPW1PW91/6-31G(d)を用いて同様の溶媒効果を併用したTD-DFT計算の場合、50から70nm程度長波長側に補正することが好ましい。
吸収曲線作成部8は、生成した推算UVスペクトルの連続波形を示す情報(推算UVスペクトルデータ13b)を、錯体候補のIDと対応付けて記憶部13に格納する。
そして、比較部9は、記憶部13に格納された推算UVスペクトルデータ13bが示す推算UVスペクトルと、実測UVスペクトルデータ13cが示す実測UVスペクトルとを比較し、実測UVスペクトルに近似する推算UVスペクトルを特定する(S8)(比較工程)。
具体的には、比較部9は、吸収極大の波長、吸収極大の数、および/または吸収極大の相対的な強度を実測UVスペクトルと比較して、最も近い推算UVスペクトルの錯体を、反応溶液中で実測したUVスペクトルに該当する錯体と推定する。
比較部9における比較処理によって錯体候補が1つに絞られた場合(S9にてYES)、比較部9は、1つに絞られた錯体候補の情報(例えば、IDおよび構造式)を出力部12へ出力する。
出力部12は、錯体候補の情報をディスプレイに表示することにより、推定結果をユーザに報知する(S11)。
一方、比較部9における比較処理によって錯体候補が1つに絞られなかった場合(S9にてNO)、比較部9は、自身が絞り込んだ複数の錯体候補のIDを候補選別部10へ出力する。
そして、候補選別部10は、比較部9から出力されたIDを有する複数の錯体候補の中から、実在する可能性の低い錯体候補を除去することにより、さらに錯体候補を絞り込む(S10)。具体的には、候補選別部10は、構造データファイル13aおよび結合表14を参照し、錯体形成の反応熱などのエネルギーについて錯体候補間で比較し、より安定な錯体候補を選択する。
候補選別部10は、絞り込んだ錯体候補の情報(例えば、IDおよび構造式)を出力部12へ出力する。
出力部12は、錯体候補の情報をディスプレイに表示することにより、推定結果をユーザに報知する(S11)。
なお、3次元構造決定部5が生成した初期3次元座標、構造最適化部6が生成した最適構造情報、およびスペクトル推算部7が生成した推算UVスペクトルの離散値は、それぞれ一旦記憶部13に格納されてもよい。
(候補決定部4における処理の詳細)
次に、候補決定部4における処理(図3のステップS3)の詳細について、図4を参照しつつ説明する。図4は、候補決定部4における処理の流れの一例を示すフローチャートである。
まず、候補決定部4は、反応系中に存在し得る錯体候補の全ての構造を結合表として表現するために必要な情報を、記憶部13に格納された構造データファイル13aを読み出すことにより取得する(S31)。上記結合表は、通常、構造データファイル中に保存されており、容易に情報を取り出せるようにする。構造データファイルとは、化合物を構成している原子の情報、例えば原子種、原子番号、電荷、不斉情報、同位体情報などに、その原子間の結合情報、例えば結合次数などの情報を保存したファイルを指す。例えば、Elsevier MDL社(http://www.mdl.com)が提唱しているSDFileフォーマットなどが挙げられる。
このとき、候補決定部4は、Ni、Cu、Fe、Cr、Co、V、Mn、Mo、RuまたはAgを含む遷移金属錯体候補のうちの少なくとも1つを決定するための情報を構造データファイル13aを読み出すことにより取得することができる。
また、候補決定部4は、特定情報が示す金属錯体の中心金属に配位子が配位できる最大数を指定し、指定しない場合は6に設定するとともに、中心金属が取りうる、または考慮すべき価数を指定する。当該価数は、例えばニッケルの場合には0価と2価となり、銅の場合は1価と2価となる。また、候補決定部4は、特定情報が示す金属錯体の電荷を指定する。金属錯体の電荷は金属に配位子を配位させた時の電荷であり、指定しなければ中性とする。
次に、候補決定部4は、配位子特定部3が特定した第1配位子、第2配位子、および脱離後反応物、および特定情報が示す遷移金属錯体が含む遷移金属を、金属M、アニオン配位子R、中性配位子Lに分類する(S32)。アニオン配位子Rは、脱離基を有する反応物の脱離基部位を切断した2つの構造について、アニオンを付与した配位子および、金属塩のカウンターアニオンを指す。脱離基としてはハロゲン、トシレート、メシレート、アセトキシ等が挙げられる。中性配位子は反応を促進するために添加する配位子や溶媒、金属原料として元々配位している配位子を指す。
次に、候補決定部4は、ステップS32で分類したアニオン配位子Rおよび中性配位子Lの中から初期値として1つの配位子(例えば、アニオン配位子R1)を選択する(S33)。
次に、候補決定部4は、ステップS33または後述するステップS38において選択されてきた配位子または配位子セットを金属Mに配位させた結合表を発生させる(S34)。
そして、候補決定部4は、その結合表を基に、ステップS35において、金属の価数およびアニオン配位子の配位数から錯体の電荷を算出し、これら金属の価数および錯体の電荷が、ステップS31で指定した条件を満たすかどうかを判定する。条件を満たしている場合(S35にてYES)は、ステップS36へ、条件を満たしていない場合(S35にてNO)は、ステップS37へ進む。
ステップS36では、候補決定部4は、錯体の結合表14を構造データファイル13aに追加し、保存する。この構造データファイル13aには図4に示すフローで得られた錯体構造の全結合表が保存されている。なお、図1には、便宜上1つの結合表14のみを示している。
候補決定部4は、ステップS37において、これまで発生させていない配位子数であって、その配位子数がステップS31で指定した数以下となるアニオン配位子Rおよび中性配位子Lの組合せが存在するかどうかを判定する。
当該組合せが存在しなければ(S37にてNO)、候補決定部4は、処理を終了させる。組合せが存在する場合には(S37にてYES)、候補決定部4は、ステップ38において、これまでにない新規の組合せを発生させる(S38)。この場合、アニオン配位子Rおよび中性配位子Lのうちから選ばれる少なくとも1組の配位子の組合せがあれば良く、配位子数の上限はステップS31で設定した条件を満たさなければならない。
そして、候補決定部4は、ステップS38で発生させた配位子の組合せに基づいて、錯体構造の結合表を生成する(S34)。
(変更例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、各実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
例えば、比較部9が複数の異なる基準に基づいて、推算UVスペクトルと実測UVスペクトルとを比較する場合、各基準に基づく絞込みと、候補選別部10による絞込みとを組み合わせてもよい。
構造推定装置1は、候補決定部4が決定した遷移金属錯体候補から、実在する可能性の低い遷移金属錯体候補を除去する候補選別部(候補選別手段)をさらに備え、スペクトル推算部7は、候補選別部によって絞り込まれた錯体候補のUVスペクトルをそれぞれ推算してもよい。
換言すれば、候補選別部10による錯体候補の絞込みを、候補決定部4によって決定された錯体候補に対して行ってもよい。
錯体構造計算時に、錯体候補を安定性で絞り込む場合、最安定な錯体のみを選択するのではなく、ある程度不安定な錯体についても、候補として取り扱うことが好ましい。例えば、最安定な錯体に比べて30kcal/molより不安定な錯体は候補錯体から除く。
あるいは、金属に隣接する配位子や溶媒、反応物が金属とほとんど結合していない距離に離れている錯体については、候補から除外してもよい。結合がほとんどない距離としては例えば4Å以上と定義することもできる。
さらに、配位子、溶媒および/または反応物と金属とが結合して錯体を形成する反応熱を、構造最適化から得られるエネルギーから算出し、吸熱反応であり反応熱が大きい錯体は、候補錯体から外すこともできる。この場合の吸熱の反応熱は、例えば30kcal/mol以上と設定することも可能である。
また、比較部9は、複数の推算UVスペクトルの和が、実測UV可視スペクトルと一致する場合には、溶液中には2種類の錯体が混在していると推定してもよい。
推算UVスペクトルの中に実測UVスペクトル全体を再現している適当な錯体は存在しないが、一部のUVスペクトルは再現できている場合、複数の錯体が共存している可能性がある。その場合、複数の推算スペクトルを足し合わせて、実測UVスペクトルにできる場合には、複数の錯体が反応系中に平衡状態で存在していると推定してもよい。
また、ユーザが、遷移金属錯体、有機溶媒、反応物、第1および第2配位子、および脱離後反応物をそれぞれ特定する特定情報を、入力部11を介して入力する構成としてもよい。この場合、取得部2は、当該特定情報を取得し、候補決定部4は、当該特定情報を用いて結合表14を生成するため、配位子特定部3は不要となる。ただし、ユーザの負担を考慮すると、配位子特定部3を設ける方が好ましい。
本発明の一実施例について図5〜図10に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
ジシクロオクタジエニルニッケル(遷移金属錯体)にビピリジン(配位子)および臭化ベンゼン(反応物)をテトラヒドロフラン溶媒中で添加したときの、溶液中での錯体構造について、UVスペクトルを測定した。この実測UVスペクトルを図5に示した。吸収極大(λmax)は476nmであった。
一方、上記遷移金属錯体(ジシクロオクタジエニルニッケル)、配位子(ビピリジン)、反応物(臭化ベンゼン)および溶媒(テトラヒドロフラン)を特定する特定情報を構造推定装置1へ入力し、遷移金属錯体構造の推定を行った。
まず、配位子特定部3における処理により、Niに配位させる中性配位子としてはシクロオクタジエン(COD)、テトラヒドロフラン(THF)、ビピリジン(Bpy)、アニオン配位子としてブロモアニオン(Br)、フェニルアニオン(Ph)が特定された。
候補決定部4における処理により、これらの配位子から得られる全ての組み合せを発生させると71種類の錯体が得られた。表3に全71錯体のリストを示す。ただし、今回はNiの価数は、通常比較的安定に存在しうる、0価と2価とに限定した。
Figure 0005155845
3次元構造決定部5における処理により、得られた71種類の錯体構造について、それぞれ3次元初期座標が生成され、構造最適化部6における処理により、Gaussianで最適化構造が計算された。この際に計算手法および基底関数として、B3LYP/6-31G(d)を使用した。
そして、スペクトル推算部7における処理により、上記最適化構造を用いて、溶媒効果を考慮する計算手法(IEFPCM法)を併用して、B3LYP/6-31G(d)でTD-DFT計算が行われた。
そして、吸収曲線作成部8における処理により、TD-DFT計算から得られた各錯体候補の吸収波長ごとの吸収強度が、ガウス関数を用いて平滑化された。この場合の半値幅として0.4eVを用いた。推算されたUVスペクトルの推算値を表3に示す。
そして、比較部9における処理により、実測UVスペクトルと最も近い推算UVスペクトルを示す錯体候補を71錯体候補から探した。
図5に示す実測UVスペクトルは、300から800nmの範囲では476nmに1つの吸収極大(λmax)がある。TD-DFT計算では30から50nm程度短波長側に推定されることを考慮して、420から450nmに吸収極大を持つと推算された錯体として、No.8、10、16、29、33の5つの錯体候補が該当した。各錯体候補の推算スペクトルを図6〜図10に示す。
錯体No.8およびNo.10は、何れもジフェニルニッケル錯体であり、溶媒のTHFの配位数が異なるだけである。候補選別部10における処理により、2つの錯体の安定化エネルギーを比較すると、No.10の方が8.5kcal/mol安定であり、No.8は錯体候補から外された。
さらに、比較部9における処理によって、溶媒の配位による安定化エネルギーから絞り込んだ候補錯体No.10、16、29および30について、推算UVスペクトルの1次微分曲線と、実測UVスペクトルの1次微分曲線との極大数(ピーク数)を比較した。1次微分曲線の極大値の数を表4に示す。
Figure 0005155845
表4に示すように、UVスペクトルの1次微分曲線の極大数から、錯体No.16と実測値とはともに3つと一致することから、溶液中の錯体はNo.16の構造を取っていることが推定できた。
本実施例では、錯体の安定化エネルギーを、TD-DFT計算後の推算UVスペクトル比較時の候補絞込みに用いたが、構造計算時での絞込みも可能である。表5に、分類Aのアニオン配位子のみ固定した錯体グループ内での安定性の比較による絞込みの結果を示す。
Figure 0005155845
また、表6には分類Bのアニオン配位子を固定し、中性配位子の種類を固定した錯体グループ内での安定性による絞込みの結果を示す。表5および表6記載のNo.は表3記載の錯体No.に該当する。
Figure 0005155845
安定性比較の対象とした錯体は、理論計算による構造最適化が行えなかった18錯体(No. 6, 9, 14, 20, 24, 28, 34, 42, 48, 53, 54, 56, 62, 63, 64, 66, 68, 71)を除いた、53錯体で行った。表5および6のNo.の次の列には、表3の金属に配位している配位子の種類および数から、安定性を比較する錯体グループに分類(分類Aあるいは分類B)した錯体グループ内の最安定な錯体のNo.を記載している。分類の際には、表3記載の配位子について、PhおよびBrをアニオン配位子とし、Bpy、CODおよびTHFを中性配位子として取り扱った。
表5および6の3つ目の列には、各グループ内の最安定錯体からのエネルギー差を記載し、4つ目の列には、エネルギー差が30kcal/mol以内の錯体に○を、それ以上の錯体には×を記載している。エネルギー差が30kcal/mol以上の×の錯体は絞込みによって除外の対象にすることができる。この安定性による絞込みによって、TD-DFT計算を実施する錯体候補数が削減でき、推定に要する時間を短縮することが期待できる。
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図11〜図12に基づいて説明すれば、以下のとおりである。なお、実施の形態1と同様の部材に関しては、同じ符号を付し、その説明を省略する。
遷移金属錯体の特徴の1つとして、配位子場によって遷移金属のd軌道が分裂し、縮退がとけることで、様々な電子状態をとることが挙げられる。例えば2価のニッケルの電子配置は3d軌道に8つの電子を有している。正8面体型の6配位の場合、その軌道は、エネルギーの低い軌道からt2g群の3つ軌道(dxy, dxz, dyz)とeg群の2つの軌道(dz2, dx2-dy2)とに分裂し、8つの電子はt2g群に6つ入り、残りの2つの原子がeg群の2つの軌道に別々に平行のスピンで入ることで(フント則)、3重項状態(高スピン状態)の電子配置をとる。
一方、同じ2価のニッケルでも配位子が平面4配位に入ると、d軌道は異なった分裂となり、エネルギーの低い方から、dxy, dyzが同じレベルで、次に、dx2、dxy、そして最も高い軌道としてdx2-dy2となる。この場合、8つの電子はエネルギーの低い軌道からdxy, dyz, dz2, dxyの軌道に電子が対となって入り、スピンが存在しない1重項状態(低スピン状態)をとる。この低スピン状態の錯体のみでNMRの測定が可能になる。
高スピンおよび低スピン状態は錯体の配位子によって決まってくるが、NMRやESRで錯体の配位子を特定することが困難であり、さらにどの配位子の場合にどのような形態の配位状態をとるかも予想が困難な場合が多い。
本発明で注目しているUVスペクトルは、HOMOおよびHOMOから幾つかのエネルギーの低い軌道からLUMOおよびLUMOから幾つかエネルギーの高い軌道への電子の励起に伴う光の吸収スペクトルである。錯体のスピン状態が変わると、そのスピンを占有しているHOMOおよびLUMOの軌道レベルも変化してくる。
そのため、UVで吸収され励起されるエネルギー値が変化し、結果として観測されるUVスペクトルの吸収極大や波形が異なってくる。このスピン状態の変化によるUVスペクトルの変化はTD-DFT計算で忠実に再現されるため、UVスペクトルから錯体の構造に加えて、電子のスピン状態まで特定することが可能になる。つまり、磁化測定(SQUID)や高周波のESRを用いなくても、軌道の孤立電子の有無までも推測可能となってくる。
本実施の形態に係る構造推定装置30は、このような技術思想に基づくものであり、候補決定部4が決定した錯体候補の最適構造を決定する場合に、異なる電子状態を有する最適構造を各錯体候補について決定し、その安定性を考慮することにより遷移金属錯体の構造推定の精度を高めるものである。
図11は、構造推定装置30の構成を示す概略図である。同図に示すように、構造推定装置30は、構造推定装置1とは異なり、構造最適化部32、スピン多重度選択部(電子状態選択手段)33を含む制御部31を備えている。
上述した構造推定装置1の構造最適化部6は、量子化学計算により、3次元構造決定部5が決定した構造の最適構造をそれぞれ決定するが、このとき各構造の電子状態については考慮していなかった。例えば、構造最適化部6は、各錯体候補の電子状態(スピン多重度)が1重項であると仮定して計算を行うものであった。
これに対して構造最適化部32は、各錯体候補の電子状態を考慮して最適構造を決定するものである。具体的には、構造最適化部32は、3次元構造決定部5が算出した初期3次元座標が示す遷移金属錯体候補の構造の最適構造を、当該遷移金属錯体候補が取り得る複数の電子状態のそれぞれについて、量子化学計算により決定する。換言すれば、構造最適化部32は、複数の電子状態をとる可能性がある遷移金属を錯体候補が有している場合、全ての可能性のある電子状態についての当該錯体候補の最適構造を決定する。
そして、構造最適化部32は、全ての可能性のある電子状態について、錯体候補ごとにそのエネルギーを計算する。ここで述べる電子状態とはスピン多重度を指している。スピン多重度は、金属の価数および配位子によって値を変えることがあり、その数は決まっており、孤立電子の占有する軌道数で決まる。例えば1の軌道で孤立電子が占有している場合、金属を含む化合物は2重項、2つの軌道の場合は3重項とよぶ。
例えば、Ni(II)の場合には、配位子によって1重項と3重項との2種類のスピン多重度をとる可能性があり、1重項を低スピン状態、3重項を高スピン状態と呼ぶ場合がある。この1重項の錯体はNMR観測が可能でESR観測が不可能であるのに対して、3重項の錯体は磁化測定(SQUID)や高周波のESRで観測可能であり、NMR観測は不可能となる。
なお、各錯体金属の取り得る電子状態の種類(1〜3重項のいずれを取り得るのか)を示す錯体金属情報は、予め記憶部13に格納されており、構造最適化部32は、当該錯体金属情報を取得することにより、推定すべき錯体候補の電子状態の種類を決定すればよい。
スピン多重度選択部33は、構造最適化部32が算出したエネルギーの値を錯体候補ごとに比較し、上記エネルギーの値が最も小さい電子状態の錯体候補をスペクトル推算部7によるUVスペクトルの推算対象として選択する。より具体的には、スピン多重度選択部33は、構造最適化部32が算出した、電子状態のエネルギー(例えば、1重項および3重項のエネルギー)のうち、最もエネルギーの小さい安定なスピン多重度を選択し、当該スピン多重度を有する電子状態の錯体候補を選択する。また、最安定のエネルギーに近い、例えば、最安定なエネルギーから10kcal/mol以内のスピン多重度の異なる錯体候補については、全ての錯体候補をUVスペクトル推算の対象としてもよい。
このように、スピン多重度選択部33は、構造最適化部32が推定した、注目する錯体候補における電子状態のうち、最もエネルギーの小さい電子状態を選択し、選択した電子状態を有する錯体候補を特定する。スピン多重度選択部33は、選択した錯体候補を特定する情報をスペクトル推算部7へ出力する。
スペクトル推算部7は、スピン多重度選択部33が選択した錯体候補について、TD-DFT計算により、そのUVスペクトルの吸収波長ごとの強度を推算する。スペクトル推算部7の処理は、構造推定装置1における処理と同様である。
(構造推定装置30における処理の流れ)
図12は、構造推定装置30における処理の流れの一例を示すフローチャートである。同図に示すステップS41からS44までの処理は、図3に示したステップS1からS4までの処理の流れと同じであるため、その説明を省略する。
ステップS45において、構造最適化部32は、3次元構造決定部5が算出した初期3次元座標が示す構造の最適構造を量子化学計算により、それぞれ決定する。このとき、構造最適化部32は、注目する錯体候補が取り得る可能性のあるスピン多重度をそれぞれ採用して当該錯体候補の最適構造を上記スピン多重度ごとに決定する。
具体的には、構造最適化部32は、記憶部13に格納された錯体金属情報(錯体金属の取り得る電子状態の種類を示す情報)を参照することにより、最適構造を決定しようとする錯体候補が含む錯体金属(遷移金属)が取り得る電子状態の種類(例えば、1重項および3重項)を判定し、判定した各電子状態における最適構造を各錯体候補について決定する。
なお、構造最適化部32は、注目する錯体候補について複数の電子状態が取り得る場合、互いに異なる電子状態を有する錯体候補のそれぞれにサブIDを付与する。これにより、複数の電子状態を取り得る錯体候補は、当該錯体候補を構成する構成要素(遷移金属、有機溶媒、配位子および反応物)の組み合わせに対して付与されるIDとともに、電子状態(スピン多重度)の違いに応じて付与されるサブIDを有することになる。サブIDが異なれば、互いに別の錯体候補であると認識される。
さらに、構造最適化部32は、各電子状態における当該錯体候補のエネルギーを算出する(S46)。換言すれば、構造最適化部32は、各錯体候補について、全ての可能性のあるスピン多重度に関してエネルギー計算を行う。例えば、注目する錯体候補が含む錯体金属が1重項および3重項を取り得る場合に、構造最適化部32は、1重項の場合の錯体候補のエネルギーと3重項の場合の錯体候補のエネルギーとを算出する。
構造最適化部32は、上記最適構造を示す情報(最適構造情報)および当該最適構造における錯体候補のエネルギーを示すエネルギー情報を、当該錯体候補のIDおよびサブIDと対応付けてスピン多重度選択部33へ出力する。
ステップS47において、スピン多重度選択部33は、構造最適化部32から受信したエネルギー情報が示すエネルギーを比較し、注目する錯体候補に関する複数のエネルギーのうち、最もエネルギーの小さい安定なスピン多重度を選択する。換言すれば、スピン多重度選択部33は、同じIDを有するが異なるサブIDを有する複数の錯体候補についてそれらのエネルギーを比較し、最もエネルギーの小さい錯体候補を選択する。
なお、同じIDを有する錯体候補の中で、異なるサブIDを有する錯体候補間のエネルギーの差が10kcal/mol以下の場合には、スピン多重度選択部33は、それらの両方をスペクトル推算部7によるUV推算対象として選択してもよい。
そして、スピン多重度選択部33は、異なるIDを有する全ての錯体候補について上述の選択を行い、選択した錯体候補の最適構造情報と当該錯体候補のIDおよびサブIDとを対応付けてスペクトル推算部7へ出力する。
スペクトル推算部7は、最適構造情報を受け取ると、当該最適構造情報が示す各錯体候補のUVスペクトルの推算を、TD-DFT計算によって行う(S48)。これ以降の処理は、図3に示したステップS6からS11までの処理の流れと同じであるため、その説明を省略する。
なお、スピン多重度選択部33における錯体候補の絞込みを比較部9によるUVスペクトルの比較の後に行ってもよく、スピン多重度選択部33の処理のタイミングは特に限定されない。
(変更例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、各実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
また、上述した構造推定装置1・30の各ブロック、特に制御部20・31は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
すなわち、構造推定装置1・30は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記録媒体)などを備えている。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである構造推定装置1・30の制御プログラム(構造推定プログラム)のプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記構造推定装置1・30に供給し、そのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
また、構造推定装置1・30を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータデータ信号の形態でも実現され得る。
本発明の別の実施例について図13〜図14に基づいて説明すれば、以下のとおりである。ここでは、ジブロモニッケル(NiBr)とビピリジン(Bpy)とをテトラヒドロフラン(THF)に溶解した場合について説明する。図13は、ジブロモニッケルとビピリジンとをテトラヒドロフランに溶解した溶液の実測UVスペクトルを示す図である。
図13に示すように、ジブロモニッケルとビピリジンとをテトラヒドロフランに溶解した溶液のUVスペクトルは、吸収極大(λmax)が702nmであり、350nmおよび430nmに吸収が見られた。
ジブロモニッケル(遷移金属)、ビピリジン(配位子)およびテトラヒドロフラン(溶媒)の組み合わせでは反応物が生成されず、溶液中では配位子および溶媒が遷移金属に配位子することが知られている。
そこで、遷移金属錯体(ジブロモニッケル)、配位子(ビピリジン)および溶媒(テトラヒドロフラン)を特定する特定情報を構造推定装置30へ入力し、遷移金属錯体構造の推定を行った。
まず、配位子特定部3における処理により、ジブロモニッケルに配位させる中性配位子としてはテトラヒドロフラン(THF)およびビピリジン(Bpy)が特定された。
そして候補決定部4における処理により、上記中性配位子とジブロモニッケルとから得られる全ての組み合せを発生させると9種類の錯体候補が得られた。表7に全9種類の錯体候補のリストを示す。なお、アニオン配位子のブロモアニオンは反応しないため、Niに結合した錯体のみを考慮すればよい。
Figure 0005155845
3次元構造決定部5における処理により、得られた9種類の錯体候補について、それぞれ3次元初期座標が生成され、構造最適化部32における処理により、Gaussianで最適化構造が計算された。この際に計算手法および基底関数として、B3LYP/6-31G(d)を使用した。
このとき構造最適化部32は、9種類の錯体候補のそれぞれについて、1重項および3重項の場合の最適構造を決定した。Niは2価であるため、スピン多重度は1重項と3重項とが考慮される。この情報は、予め記憶部13に格納されており、構造最適化部32によって参照される。
さらに、構造最適化部32によって、各錯体候補について、1重項の場合のエネルギーと、3重項の場合のエネルギーとが算出された。
そして、スピン多重度選択部33によって、構造最適化部32が算出したエネルギーが、錯体候補ごとに比較され、注目する錯体候補に関する複数のエネルギーのうち、最もエネルギーの小さい安定なスピン多重度が選択された。
表7に示す9種類(No.1〜9)の全てについて、1重項の場合のエネルギーよりも、3重項の場合のエネルギーの方が小さく、さらに何れも1重項とのエネルギー差は10kcal/mol以上であるため、各錯体候補について3重項を有するものが選択された。
スピン多重度選択部33が選択した錯体候補の最適構造情報は、スペクトル推算部7へ出力され、スペクトル推算部7における処理により、上記最適化構造を用いて、溶媒効果を考慮する計算手法(IEFPCM法)を併用して、B3LYP/6-31G(d)でTD-DFT計算が行われた。
そして、吸収曲線作成部8における処理により、TD-DFT計算から得られた各錯体候補の吸収波長ごとの吸収強度が、ガウス関数を用いて平滑化された。推算されたUVスペクトルの推算値(λmax)を表7に示す。なお、表7では参考として、不安定なスピン多重度(1重項)の電子状態についてもTD-DFT計算によりUVスペクトル(λmax)を推算した結果を示している。
そして、比較部9における処理により、実測UVスペクトルと最も近い推算UVスペクトルを示す錯体候補を9種類の錯体候補から探した。その結果、吸収極大の数および波長に関して、実測UVスペクトルと最も近い錯体候補はNo.2の錯体であった。No.2の錯体候補の推測UVスペクトルは図14に示す通りである。
以上の推算結果から、ジブロモニッケルおよびビピリジンの、テトラヒドロフラン中での錯体構造はNo.2の構造であり、スピン多重度は3重項であることが推測された。この錯体はNMRでは同定できないことを示唆している。
本発明のさらに別の実施例について説明すれば、以下のとおりである。ここでは、実施例1と同様の物質を同様の有機溶媒に溶解した場合の構造推定装置30における処理結果を示す。なお、実施例1と同じ処理についてはその説明を省略し、3次元構造決定部5における処理から説明を始める。
3次元構造決定部5における処理により、得られた71種類の錯体構造(表8に示す)について、それぞれ3次元初期座標が生成された。
Figure 0005155845
そして構造最適化部32における処理により、Gaussianで最適化構造が計算された。このとき構造最適化部32は、71種類の錯体候補のそれぞれについて、1重項および3重項の場合の最適構造を決定した。Niの0価および2価の場合、スピン多重度は1重項および3重項を取り得るため、各錯体について、2種類のスピン多重度で構造最適化した。さらに、構造最適化部32によって、各錯体候補について、1重項の場合のエネルギーと、3重項の場合のエネルギーとが算出された。
そして、スピン多重度選択部33によって、構造最適化部32が算出したエネルギーが、錯体候補ごとに比較され、注目する錯体候補に関する複数のエネルギーのうち、エネルギーの小さい方のスピン多重度の錯体候補が選択された。
表8に示すように、71種類(No.1〜71)のうち、その構造が収束しにくかったために判定できなかったものを除いて、1重項と3重項とのいずれの方が、エネルギーが小さいのかが判定された。
スピン多重度選択部33が選択した錯体候補の最適構造情報は、スペクトル推算部7へ出力され、スペクトル推算部7における処理により、上記最適化構造を用いて、溶媒効果を考慮する計算手法(IEFPCM法)を併用して、B3LYP/6-31G(d)でTD-DFT計算が行われた。
そして、吸収曲線作成部8における処理により、TD-DFT計算から得られた各錯体候補の吸収波長ごとの吸収強度が、ガウス関数を用いて平滑化された。この場合の半値幅として0.4eVを用いた。推算されたUVスペクトルの推算値(λmax)を表8に示す。
そして、比較部9における処理により、実測UVスペクトルと最も近い推算UVスペクトルを示す錯体候補を71錯体候補から探した。
図5に示す実測UVスペクトルは、300から800nmの範囲では476nmに1つの吸収極大(λmax)がある。TD-DFT計算では30から50nm程度短波長側に推定されることを考慮して、420から450nmに吸収極大を持つと推算された錯体として、No.8、9、10、16および31の5つの錯体候補が該当した。各錯体候補の推算スペクトルを図6〜図8、図15および図16に示す。図15は、錯体No.31の推測UVスペクトルを示す図である。図16は、錯体No.9の推測UVスペクトルを示す図である。
錯体No.8、No.9およびNo.10は、何れもジフェニルニッケル錯体であり、溶媒のTHFの配位数が異なるだけである。候補選別部10における処理により、3つの錯体の安定化エネルギーを比較すると、No.10の方が4.5kcal/mol安定であり、No.8およびNo.9は錯体候補から外された。
さらに、比較部9における処理によって、溶媒の配位による安定化エネルギーから絞り込んだ候補錯体No.10、16および31について、推算UVスペクトルの1次微分曲線と、実測UVスペクトルの1次微分曲線との極大数(ピーク数)を比較した。1次微分曲線の極大値の数を表9に示す。
Figure 0005155845
表9に示すように、UVスペクトルの1次微分曲線の極大数から、錯体No.16と実測値とはともに3つと一致することから、溶液中の錯体はNo.16の構造を取っていることが推定できた。
実施例2および3に示したように構造推定装置30では、錯体候補の電子状態を考慮することにより、構造推定装置1よりも、より精度高く錯体構造を推定でき、構造推定装置1では正確に推定できない錯体構造でも正確に推定できる可能性が高い。
(本発明の別の表現)
なお、本発明は、以下のようにも表現できる。
すなわち、本発明の、有機溶媒中の遷移金属錯体の構造推定方法は、溶媒、遷移金属、配位子および反応物の組み合わせを入力する第1工程と、上記第1工程で入力された組み合わせについて、量子化学計算により、有機溶媒中の遷移金属錯体の最適構造を生成する第2工程と、上記第2工程で生成された最適構造に基づいて、時間依存型密度汎関数法により、各最適構造の紫外可視吸収スペクトルを推算する第3工程と、上記第3工程で推算された紫外線可視吸収スペクトルと、反応で実測された紫外線可視吸収スペクトルとを比較する第4工程とを含んでいることを特徴としている。
また、上記構造推定方法において、遷移金属が、Ni、Cu、Fe、Cr、Co、V、Mn、Mo、RuおよびAgから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
また、上記構造推定方法において、遷移金属錯体が、NiまたはCuであることが好ましい。
本発明の、有機溶液中の遷移金属錯体の構造推定プログラムは、溶媒、遷移金属、配位子および反応物の組み合わせについて量子化学計算により有機溶媒中の遷移金属錯体の最適構造を生成する手段と、生成された最適構造に基づいて時間依存型密度汎関数法により各最適構造の紫外可視吸収スペクトルを推算する手段と、推算された紫外線可視吸収スペクトルと反応で実測された紫外線可視吸収スペクトルとを比較する手段とを備えていることを特徴としている。
また、上記構造推定プログラムにおいて、遷移金属が、Ni、Cu、Fe、Cr、Co、V、Mn、Mo、RuおよびAgから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
また、上記構造推定プログラムにおいて、遷移金属錯体が、NiまたはCuであることが好ましい。
本発明の構造推定装置を用いれば、有機合成反応系中に存在する不安定な遷移金属錯体の構造を推定することができるため、有機合成反応によって有機化合物を生産する産業において、効率の良い触媒の開発を促すことができる。
本発明の実施の形態に係る構造推定装置の構成を示す概略図である。 触媒反応のエネルギーダイヤグラムを示す図である。 上記構造推定装置における処理の流れの一例を示すフローチャートである。 候補決定部における処理の流れの一例を示すフローチャートである。 実測UVスペクトルの一例を示す図である。 候補決定部によって決定された錯体候補のひとつである錯体No.8の推測UVスペクトルを示す図である。 候補決定部によって決定された錯体候補のひとつである錯体No.10の推測UVスペクトルを示す図である。 候補決定部によって決定された錯体候補のひとつである錯体No.16の推測UVスペクトルを示す図である。 候補決定部によって決定された錯体候補のひとつである錯体No.29の推測UVスペクトルを示す図である。 候補決定部によって決定された錯体候補のひとつである錯体No.33の推測UVスペクトルを示す図である。 本発明の別の実施の形態に係る構造推定装置の構成を示す概略図である。 上記構造推定装置における処理の流れの一例を示すフローチャートである。 ジブロモニッケルとビピリジンとをテトラヒドロフランに溶解した溶液の実測UVスペクトルを示す図である。 錯体候補のひとつである錯体No.2の推測UVスペクトルを示す図である。 錯体候補のひとつである錯体No.31の推測UVスペクトルを示す図である。 錯体候補のひとつである錯体No.9の推測UVスペクトルを示す図である。
符号の説明
1 構造推定装置
2 取得部(取得手段)
3 配位子特定部(配位子特定手段)
4 候補決定部(候補決定手段)
7 スペクトル推算部(スペクトル推算手段)
9 比較部(比較手段)
10 候補選別部(候補選別手段)
11 入力部
12 出力部
13 記憶部
13a 構造データファイル
13b 推算UVスペクトルデータ
13c 実測UVスペクトルデータ
30 構造推定装置
32 構造最適化部(構造最適化手段)
33 スピン多重度選択部(電子状態選択手段)

Claims (12)

  1. 有機溶媒を含む反応系において化学反応を触媒する遷移金属錯体の構造を推定する構造推定装置であって、
    上記遷移金属錯体、上記有機溶媒、および上記遷移金属錯体の触媒対象となる少なくとも1つの対象化合物をそれぞれ特定する特定情報を取得する取得手段と、
    上記取得手段が取得した特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒、および対象化合物を混合することによって生じる可能性のある遷移金属錯体を、遷移金属錯体候補として複数決定する候補決定手段と、
    上記候補決定手段が決定した遷移金属錯体候補の少なくとも一部の紫外可視吸収スペクトルを推算するスペクトル推算手段と、
    上記スペクトル推算手段が推算した推算紫外可視吸収スペクトルと、上記特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒および対象化合物の混合物の紫外可視吸収スペクトルを実測することによって得られた実測紫外可視吸収スペクトルとを比較し、当該実測紫外可視吸収スペクトルに似た推算紫外可視吸収スペクトルを特定する比較手段とを備えることを特徴とする構造推定装置。
  2. 上記取得手段が取得した特定情報が示す遷移金属錯体が有している第1配位子、上記特定情報が示す対象化合物から生じる可能性のある第2配位子、および当該第2配位子が上記対象化合物から脱離した後の脱離後化合物を特定する配位子特定手段をさらに備え、
    上記候補決定手段は、上記特定情報が示す有機溶媒、対象化合物、上記配位子特定手段が特定した第1、第2配位子、および脱離後化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種類の物質が、上記特定情報が示す遷移金属錯体に含まれる遷移金属に配位または結合することによって生じる遷移金属錯体を、遷移金属錯体候補として複数決定することを特徴とする請求項1に記載の構造推定装置。
  3. 上記比較手段が特定した推算紫外可視吸収スペクトルが複数存在する場合に、当該複数の推算紫外可視吸収スペクトルが推算された複数の遷移金属錯体候補から、化学的に不安定な遷移金属錯体候補を除去する候補選別手段をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の構造推定装置。
  4. 上記候補決定手段が決定した遷移金属錯体候補から、化学的に不安定な遷移金属錯体候補を除去する候補選別手段をさらに備え、
    上記スペクトル推算手段は、上記候補選別手段によって絞り込まれた遷移金属錯体候補の紫外可視吸収スペクトルをそれぞれ推算することを特徴とする請求項1または2に記載の構造推定装置。
  5. 量子化学計算により、上記候補決定手段が決定した遷移金属錯体候補の、化学的に最も安定な構造を決定する構造最適化手段をさらに備え、
    上記スペクトル推算手段は、上記構造最適化手段が決定した構造の紫外可視吸収スペクトルを推算することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の構造推定装置。
  6. 上記スペクトル推算手段は、時間依存型密度汎関数法によって推算紫外可視吸収スペクトルを算出することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の構造推定装置。
  7. 上記候補決定手段は、Ni、Cu、Fe、Cr、Co、V、Mn、Mo、RuまたはAgを含む遷移金属錯体候補のうちの少なくとも1つを決定するための情報を取得することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の構造推定装置。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の構造推定装置を動作させる構造推定プログラムであって、コンピュータを上記各手段として機能させるための構造推定プログラム。
  9. 請求項8に記載の構造推定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
  10. 有機溶媒を含む反応系において化学反応を触媒する遷移金属錯体の構造を推定する構造推定装置における構造推定方法であって、
    上記遷移金属錯体、上記有機溶媒、および上記遷移金属錯体の触媒対象となる少なくとも1つの対象化合物をそれぞれ特定する特定情報を取得する取得工程と、
    上記取得工程において取得された特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒、および対象化合物を混合することによって生じる可能性のある遷移金属錯体を、遷移金属錯体候補として複数決定する候補決定工程と、
    上記候補決定工程において決定された遷移金属錯体候補の少なくとも一部の紫外可視吸収スペクトルを推算するスペクトル推算工程と、
    上記スペクトル推算工程において推算された推算紫外可視吸収スペクトルと、上記特定情報が示す遷移金属錯体、有機溶媒および対象化合物の混合物の紫外可視吸収スペクトルを実測することによって得られた実測紫外可視吸収スペクトルとを比較し、当該実測紫外可視吸収スペクトルに似た推算紫外可視吸収スペクトルを特定する比較工程とを含むことを特徴とする構造推定方法。
  11. 上記構造最適化手段は、上記遷移金属錯体候補が取り得る複数の電子状態のそれぞれについて、化学的に最も安定な構造を決定することを特徴とする請求項5に記載の構造推定装置。
  12. 上記構造最適化手段は、上記電子状態のそれぞれについて、当該遷移金属錯体候補のエネルギーの値を算出し、
    上記構造最適化手段が算出したエネルギーの値を上記遷移金属錯体候補ごとに比較し、上記エネルギーの値が最も小さい電子状態の遷移金属錯体候補を上記スペクトル推算手段による紫外可視吸収スペクトルの推算対象として選択する電子状態選択手段をさらに備えることを特徴とする請求項11に記載の構造推定装置。
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