JP5011675B2 - 物質の生産プロセスのシミュレーション方法 - Google Patents
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Description
Ishii, N. et al. J. Biotechnol. 113:281-294, 2004
謝シミュレーションを行うための手法が望まれている。実験データを反映するような正確な代謝シミュレーションが可能となれば、遺伝子の増幅や欠損化の実験をコンピューター内で短時間に行うこと(in silico実験)が可能になる。これにより、細胞の物質生産能の向上を実施するための開発期間の大幅な短縮が期待される。
[1] 細胞内代謝物及び遺伝子発現に関する微分方程式を準備し、微分方程式におけるシミュレーションに必要なパラメーターに値を入力し、値が入力された微分方程式を解くことを含む、細胞を用いた物質の生産プロセスを細胞内代謝物及び遺伝子発現に関する微分方程式によりシミュレーションする方法であって、下記(a)〜(d)を特徴とする前記方法。
(a)前記微分方程式は、細胞の比増殖速度を含む微分方程式を含み、比増殖速度は、時間の関数として表される。
(b)微分方程式のパラメーターの全てまたは一部が比増殖速度の関数または時間の関数として表わされる。
(c)微分方程式に、細胞内代謝物が細胞構成成分へと形成される形成速度が含まれ、該形成速度が比増殖速度の関数または時間の関数として表わされる。
(d)微分方程式に、細胞外から取り込まれる代謝物質の流入速度、及び/または、細胞内から細胞外へ排出される代謝物質の流出速度が含まれ、該流入速度及び/または流出速度が比増殖速度の関数または時間の関数として表わされる。
d[Metabolite]/dt=Vinput−Voutput−μ[Metabolite] (式1)
d[mRNA]/dt=ktranscription[P]−(kdRNA+μ)[mRNA] (式2)
d[Protein]/dt=ktranslation[mRNA]−(kdProtein+μ)[Protein] (式3)
式1中、[Metabolite]は細胞内代謝物質の濃度、Vinputは代謝物質を生成する反応速度の和、Voutputは代謝物質を消費する反応速度の和、μは比増殖速度を表わす。
式2中、[mRNA]はmRNAの濃度、ktranscriptionは、転写の速度定数、[P]はプロモーター濃度、kdRNAはmRNAの分解の速度定数、μは比増殖速度を表わす。
式3中、[Protein]はタンパク質の濃度、ktranslationは、翻訳の速度定数、kdProteinはタンパク質の分解の速度定数、μは比増殖速度を表わす。
[4] 前記形成速度を表わす比増殖速度の関数または時間の関数が、生産プロセスにおける前記形成速度の測定データを数式化することにより得られるものである[1]〜[3]のいずれか1項に記載の方法。
[5] 前記流入速度及び/または流出速度を表わす比増殖速度の関数または時間の関数が、生産プロセスにおける前記流入速度及び/または流出速度の測定データを数式化することにより得られるものである[1]〜[4]のいずれか1項に記載の方法。
[6] 細胞内に取込まれる代謝物質が、基質および/または、培地中の有機物である[
1]〜[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7] 細胞外に排出される代謝物質が、目的とする生成物および/または、副生成物である[1]〜[6]のいずれか1項に記載の方法。
[8] 細胞外に排出される代謝物質がアミノ酸、有機酸及び/又は二酸化炭素である[7]に記載の方法。
[9] 細胞外に排出される代謝物質がアミノ酸又は有機酸である[8]に記載の方法。[10] シミュレーションに必要なパラメーターが、転写の速度定数、及び/または、翻訳の速度定数である[1]〜[9]のいずれか1項に記載の方法。
[11] 細胞がアミノ酸生産能及び/又は有機酸生産能を保持する微生物である[1]〜[10]のいずれか1項に記載の方法。
[12] 微生物がEscherichia coliである[11]に記載の方法。
[13] 細胞構成成分の組成自体が、細胞の比増殖速度、または、同等の生育に関する指標を用いた数式で表される[1]〜[12]のいずれか1項に記載の方法。
(1)下記(a)〜(d)を満たす、細胞内代謝物及び遺伝子発現に関する微分方程式を記憶する手段。
(a)前記微分方程式は、細胞の比増殖速度を含む微分方程式を含み、比増殖速度は、時間の関数として表される。
(b)微分方程式のパラメーターの全てまたは一部が比増殖速度の関数または時間の関数として表わされる。
(c)微分方程式に、細胞内代謝物が細胞構成成分へと形成される形成速度が含まれ、該形成速度が比増殖速度の関数または時間の関数として表わされる。
(d)微分方程式に、細胞外から取り込まれる代謝物質の流入速度、及び/または、細胞内から細胞外へ排出される代謝物質の流出速度が含まれ、該流入速度及び/または流出速度が比増殖速度の関数または時間の関数として表わされる。
(2)微分方程式におけるシミュレーションに必要なパラメーターの値を記憶する手段。(3)記憶された微分方程式及びパラメーターに基づいて微分方程式の解を算出する手段。
[15] [14]に記載のプログラムを記録したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
本発明における、細胞を用いた物質の生産プロセスとは、細胞を用いて、基質から生成物に至る生化学反応を連続的な酵素反応によって行い目的とする生成物を生じせしめるプロセスを指す。
et al., (2005) Nucleic Acids Res. 33, D334-D337, 2005)が知られている。これらの生化学的な酵素反応を数式化するのには、ミカエリス-メンテン型反応式を基本とした動力学的式がよく用いられる(Segel, I. H. Enzyme Kinetics: Behavior and Analysis of
Rapid Equilibrium and Steady-State Enzyme Systems, John Wiley & Sons, 1975)。個々の酵素のパラメーターは、文献から収集することが可能である。例えば、E. coliではChassagnoleらがグルコースからアセチルCoAに至る解糖経路及びペントースリン酸経路の酵素反応の動力学的パラメーターを用いた数式化を行っている(Chassagnole, C. et al. Biotechnol. Bioeng. 26, 203-216, 2002)。細胞内の酵素の量を規定するのは、遺伝子発現であり、このプロセスは、遺伝子からmRNAへの転写とmRNAからタンパク質への翻訳の過程を経て行われる。この遺伝子発現を代謝シミュレーションに含めることにより、より詳細な細胞内の挙動を記述することが可能になる。例としては、Wang らがE. coli のスクロース及びグリセロール取込系の発現制御を数式化し、解糖経路の酵素反応モデルと組み合わせてシミュレーションを実施している(Wang, J. et al. J. Biotechnol. 92:133-158, 2001)、あるいは、Schmidらが、トリプトファン生合成経路遺伝子(trp operon)の発現制御をモデル化、E. coliの中央代謝モデルを組み合わせて解析を実施している(Schmid J. W. et al. Metab. Eng. 6:364-377, 2004)ように、発現制御を数式化して代謝シミュレーションに含めることが挙げられる。このようにして、細胞内代謝物及び遺伝子発現に関する微分方程式が準備される。
d[Metabolite]/dt=Vinput−Voutput−μ[Metabolite](式1)
ここで、[Metabolite]は細胞内代謝物質の濃度、Vinputは代謝物質を生成する酵素反応速度の和、Voutputは代謝物質を消費する酵素反応速度の和、μは比増殖速度。
d[mRNA]/dt=ktranscription[RNAP][Promoter]−(kdmRNA +μ)[mRNA](式2)
ここで、[mRNA]は各mRNAの濃度、ktranscriptionは転写の速度定数、[RNAP] は転写を行なうRNAポリメラーゼ濃度、[Promoter]は対応する遺伝子のプロモーター濃度、kdRNAはmRNAの分解の速度定数、μは比増殖速度。
d[Protein]/dt=ktranslation[Ribosome][mRNA]−(kdProtein +μ)[Protein](式3)
ここで、[Protein]はタンパク質の濃度、ktranslationは翻訳の速度定数、[Ribosome]は翻訳を行なうリボゾームの濃度、kdProteinはタンパク質の分解の速度定数、μは比増殖速度。
1999)などがあげられる。
微分方程式に、細胞の比増殖速度を含む微分方程式を含ませ、比増殖速度を時間の関数として表わす。
微分方程式のパラメーターの全てまたは一部を比増殖速度の関数または時間の関数として表わす。
微分方程式に、細胞内代謝物が細胞構成成分へと形成される形成速度を含めて、該形成速度を比増殖速度の関数または時間の関数として表わす。
細胞構成成分は、細胞を主として構成するタンパク質、RNA、DNA、脂質、リポ多糖などの高分子化合物を指す。基質がタンパク質、核酸、脂質等の細胞構成成分に酵素変換することで、細胞は必要な構成成分を得ることができる。これら細胞構成成分に至る生化学反応を列挙することによって、化学量論マトリックスを生成することができる(Savinell, J. M. and Palsson, B. O. J. Theor. Biol. 154:421-454, 1992; Vallino, J. J. and Stephanopoulos, G. Biotechnol. Bioeng. 41:633-646, 1993)。E. coliのグルコースから全てのアミノ酸への代謝反応の化学両論マトリクスの生成の詳細は公開特許WO2005001736に詳しく記載されている。細胞構成成分の組成を与えることにより、化学量論マトリックスを用いて、細胞内代謝物から細胞構成成分の形成速度Vbiomassを計算することができる(Pramanik, J. and Keasling J. D. Biotechnol. Bioeng. 56:398-421, 1997)。
組成も増殖速度に依存的であり、これを測定することで、比増殖速度を用いて数式化することが可能である(Bremer and Dennis, In Escherichia coli and Salmonella: Cellular and Molecular Biology/Second Edition (Neidhardt, F. C. Ed.) pp. 1553-1569. American Society for Microbiology Press, Washington, D.C., 1996)。かくして得られた細胞構成成分形成速度Vbiomassによって、細胞構成成分の前駆体である代謝物に対して細胞内代謝物への影響を考慮することができる。具体的には、細胞構成成分の前駆体である代謝物の微分方程式(式1)においてVbiomassをVoutputに含めて計算することによって、細胞構成成分の前駆体である代謝物の物質収支をより増殖速度あるいは時間に依存した式で記述することが可能となる。
微分方程式に、細胞外から取り込まれる代謝物質の流入速度、及び/または、細胞内から細胞外へ排出される代謝物質の流出速度を含めて、該流入速度及び/または流出速度を比増殖速度の関数または時間の関数として表わす。
である。細胞外に排出される物質は、より好ましくは、アミノ酸、有機酸及び/又は二酸化炭素であり、さらに好ましくは、アミノ酸又は有機酸である。
(1)下記(a)〜(d)を満たす、細胞内代謝物及び遺伝子発現に関する微分方程式を記憶する手段。
(a)前記微分方程式は、細胞の比増殖速度を含む微分方程式を含み、比増殖速度は、時間の関数として表される。
(b)微分方程式のパラメーターの全てまたは一部が比増殖速度の関数または時間の関数として表わされる。
(c)微分方程式に、細胞内代謝物が細胞構成成分へと形成される形成速度が含まれ、該形成速度が比増殖速度の関数または時間の関数として表わされる。
(d)微分方程式に、細胞外から取り込まれる代謝物質の流入速度、及び/または、細胞内から細胞外へ排出される代謝物質の流出速度が含まれ、該流入速度及び/または流出速度が比増殖速度の関数または時間の関数として表わされる。
(2)微分方程式における、シミュレーションに必要なパラメーターの値を記憶する手段。
(3)記憶された微分方程式及びパラメーターの値に基づいて微分方程式の解を算出する手段。
<1> システムパラメーター
図7に示したE. coliの中央代謝のマップに示されている酵素及び転写因子の遺伝子からのタンパク質への発現と、酵素反応による物質変換のシミュレーションを実施した。シミュレーションに用いたシステムパラメーターと、量を定数として扱った代謝物を表1に示した。生育の指標として濁度OD(optical density)の実験値を用いるために、以下の基礎データを取得した。OD当たりの乾燥菌体重量DCWperOD(dry cell weight per OD)は、MG1655株の培養液300 mlを遠心分離し、乾燥菌体重量の測定を行なった結果を用いた。OD当たりの細胞密度celldens(cell density)は、MG1655株の培養液を2段階の希釈で各5回測定し、これを5回独立に繰り返した平均の結果(計50プレート計測)を用いた。一細胞当たりの体積cellvol(cell volume)と重量cellweight(cell weight)は、DCW 1 gあたりのcellvolを0.0025 l/g(Rohwer et al. J. Biol. Chem. 275, 34909-34921, 2000)とすることで算出した。翻訳速度定数は、μ=0.01 (min)-1における文献値11.03 (min)-1(Lee and Baily, Biotech. Bioeng. 26, 66-72, 1984)とリボゾーム濃度から算出した。タンパク質分解の速度定数も文献値を採用した(Miller, C. G. In Escherichia coli and Salmonella: Cellular and Molecular Biology/Second Edition (Neidhardt, F. C.
Ed.), pp. 680-691. American Society for Microbiology Press, Washington, D.C., 1996)。
表2に本実施例で用いた代謝物の略称と初期値を示した。文献から採用したものについては、文献名を示した。シミュレーション上では増殖の過程で、細胞全体の体積が増加していくとして、総細胞体積(cellvoltot)を変数として扱った。総細胞体積(cellvoltot)の初期値は、ODの初期測定値(initOD)から以下の式で計算した。
cellvoltot=cellvol×celldens×reacvol×initOD
and Steady-State Enzyme Systems John Wiley & Sons, New York, 1975)。酵素、転写因子及びmRNAの名称と量の初期値を表3に示した。表4には酵素反応の形式とパラメーターの値、基質、生成物、エフェクターを示した。表4には、酵素反応式を示した。
転写因子とそのエフェクターとの結合、あるいは、CYAの活性化は、平衡の成立を仮定し、代数方程式の解を用いた。CRPはカタボライト抑制に関与する転写因子であり、CRPとエフェクターであるcAMPの平衡により生じる[CRP-cAMP]totは表6のCRP1に示した二次方程式の解として表現した。[CRP]totと[cAMP]totは、それぞれ、菌体内のCRPとcAMPの総濃度を表す。CRPに関しては、ゲノム上に約200箇所の結合サイトが知られており、CRP-cAMPとこれら結合サイトも平衡に達しているとみなす必要がある。この乖離定数をKdCRP=4×10-8 (M)と仮定すると、ゲノム上のプロモーターと結合しているCRP-cAMPの濃度は、表6
のCRP2に示した二次方程式の解とみなすことができる。Mlcは、グルコース非存在時には標的遺伝子を抑制するが、グルコース存在下では、非リン酸化状態のIICBGlcと結合することが知られている。IICBGlcと結合し不活化した[Mlc- IICBGlc]は表6のMlcに示した二次方程式の解として表現した。Craは多くの糖代謝関連遺伝子のActivator/Repressorとして知られている転写因子である。Cra濃度は一定と仮定した。エフェクターであるF1Pと結合した[Cra- F1P]を表6のCraに示した二次方程式の解として表現した。PDHをコードするaceEF遺伝子のリプレッサーであるPdhRのエフェクターはPYRであり(Quail and Guest, Mol. Microbiol. 15, 519-529, 1995)、PYRと結合し不活化した[PdhR- PYR]は表6のPdhRに示した二次方程式の解として表現した。IclRはグリオキシル酸経路の発現を制御する転写因子であり、そのエフェクターはPEPであることが、Cortayらにより示唆されている(Cortay et al., EMBO J. 10, 675-679, 1991)。PEPと結合し不活化した[IclR- PEP]は表6のPclRに示した二次方程式の解として表現した。CYAには、リン酸化型IIAGlc(IIAGlc-P)による活性化が知られている。詳細なメカニズムは不明であるが、CYAとIIAGlc-Pの結合により活性化型CYA(CYAA)となると仮定してモデル化を実施した。野生株とIIAGlc をコードするcrr欠損株とのCYA活性の違いから(Reddy and Kamireddi, J. Bacteriol. 180, 732-736.1998)、CYAAの乖離定数をKdCYAA=1.34×10-4 (M)と予測した。これによりCYAとIIAGlc-Pの平衡により生じる活性化型CYAA濃度[CYAA]は表6のCYAに示した二次方程式の解として表現した。
E. coliの遺伝子発現に関しては、EcoCycデータベース(Keseler et al. Nucleic Acids Res. 33, D334-D337, 2005)を参照し、転写因子(TF)CRP、Cra、Mlc、PdhR、IclRの関与する遺伝子についてモデルリングを行なった。転写因子自身については、CRP、Mlc、PdhR、IclRに関して発現のモデリングを行なった。それぞれの遺伝子の転写と翻訳の式とパラメーターのリストを表7に、遺伝子発現に用いた式を表8に示した。[mRNAgene]は転写されるmRNA濃度、 [Pgene]は遺伝子のプロモーター濃度、 [RNAPσD] は σD の結合したRNA polymerase濃度を示す。パラメーターkgene base、kgene TF、kgene dRNAはそれぞれ、基底レベルの転写速度定数、TF結合時の転写速度定数、mRNAの分解定数である。[Protein]は翻訳されるタンパク質濃度、[Ribosome] はリボゾーム濃度を示す。パラメーターktrans、及びkdegはそれぞれ、翻訳の速度定数、及びタンパク質分解の速度定数である。制御が知られていない遺伝子あるいは、考慮しない遺伝子に関してはNoTF式、転写因子が
一つ関与する遺伝子に関してはTF1を用いた。転写因子が2つ関与する遺伝子(crp、mlc、ptsG、ptsHI、aceBAK)については、それぞれの式を示した。オペロン内で翻訳されるタンパク質濃度が異なる場合、転写産物の減衰、あるいは翻訳効率が異なることが理由であると考えられることから、TProtein(タンパク質の翻訳効率係数)を定義し、TL1式を用いた。E. coli のsdhCDAB- sucABCD オペロンにはSDHをコードするsdhCDAB と、KGDH複合体のE1及びE2サブユニットをコードするsucAB、SCSをコードするsucCDからなるsucABCDが含まれている(Cunningham and Guest, Microbiology 144, 2113-2123, 1998)。sucABCDオペロンはPsdhとともにPsucからも転写が起こること、さらにKGDH複合体及びSCSそれぞれに、翻訳効率に関する係数TKGDH及びTSCSを考慮してTL (KGDH) 及びTL (SCS)を用いて記述した。aceBAKオペロンの産物ICL、MSA、ICDKPの比は1:0.3:0.003であると報告されていることから(Chung et al. J. Bacteriol. 175, 4572-4575, 1993)、MSAとICDKPの翻訳に対しては、それぞれ翻訳定数TMSA及びTICDKPを定義しTL1を用いた。
American Society for Microbiology Press, Washington, D.C., 1996)により述べられているμ依存的な細胞内遺伝子数データに基づき、μ=0.01(min)-1における値を推定し、定数として用いた。CRPのゲノム上の結合サイト数は、CRPの結合サイト数約200がゲノム上均一に分布していると仮定して、μ=0.01(min)-1における値を算出した。転写の速度定数は、文献値のタンパク質濃度あるいは酵素比活性を定常値として与えるように算出した値を用いた。転写因子による制御で複数の転写速度定数が必要な場合は、転写因子の欠損株での転写活性やタンパク質濃度のデータを用いて算出した。mRNAの分解速度は、個別の遺伝子の実験値が文献上ある場合はそれを採用し、それ以外はSelingerら(Genome Res. 13, 216-223, 2003)のDNAマイクロアレイ実験による測定データを用いた。
比増殖速度μはよく用いられる生育を示す指標であり、生育をより正確なμで表現するために、野生株のS型ジャー培養の経時のODデータからカーブフィットプログラムTableCurve 2D(Systat Software)にて以下のODの近似式を得、また、それを微分した式から以下のμの時間関数を得た。近似式によるODとμのプロット結果は図2に示した。
μ=dOD/dt/OD
hardt and Umbarger, Escherichia coli and Salmonella: Cellular and Molcular Biology (Neidhardt, F. C. Ed.) pp. 13-16. American Society for Microbiology, Washington, D.C., 1996; Pramanik and Keasling, Biotechnol. Bioeng. 56, 398-421, 1997)と合成に必要なエネルギー(Stephanopoulos et al. Metabolic Engineering: Principles and Methodologies. Academic Press, San Diego, 1998)から化学量論式を定義した。さらに、細胞の組成(Chassagnole et al. Biotechnol. Bioeng. 79, 53-73, 2002)から細胞1 gの合成に必要な構成成分の化学量論式を導き出した。この細胞形成に関する式を本シミュレーションで用いている代謝中間体を用いた化学量論式に変換して、以下の細胞1 gを生成するのに必要な各中間代謝物の量論式を導き出した。
-0.487 Fum + 2.393 OAA + 1.957 3PG + 0.252 SO4 + -2.329 NADH + 2.329 NAD + 0.5402 SucCoA + -0.4727 Suc + 0.6887 PEP + 0.3312 E4P + 0.4133 DHAP + 0.1023 O2 + -0.0432 GAP + 0.5312 R5P + 0.1025 F6P
遺伝子発現における転写と翻訳は、それぞれ、RNAポリメラーゼとリボゾームによって触媒される。生育の過程を考えるとき、これら酵素の分子数は変化することが知られている。Bremer and Dennis (Escherichia coli and Salmonella: Cellular and Molecular Biology/Second Edition (Neidhardt, F. C. Ed.) pp. 1553-1569. American Society for Microbiology Press, Washington, D.C., 1996)により述べられているμ依存的な細胞内分子数データより、近似式を用いて、数式化を行なった。RNAポリメラーゼは、σ因子と結合し、ホロエンザイムとなって機能するが、増殖期の遺伝子の発現を担うσDは増殖の過程でほぼ一定であることから、σD結合型のRNAポリメラーゼ濃度[RNAPσD]は、RNAポリメラーゼ総濃度の1/3として以下の式を用いた。
[RNAPσD]=6.67×10-7+3.0×10-4μ+2.64×10-2μ2
[Ribosome]=1.90×10-5+1.38μ2+10.2μ2.5+36.6μ3
細胞外へ排出される物質のうち、野生株の培養で検出量の多かった酢酸(AcOH)とギ酸(Formate)の排出を組み込んだ。酢酸及びギ酸の経時の菌体外濃度の測定データから、経時プロファイルを時間関数に近似して、その関数を微分して速度に変換し、ACCoAとPYRの微分方程式に組み込んだ。近似関数による酢酸の量と、近似関数を微分した速度のプロットを図4に示した。
Formex=4.41×10-4−1.17×10-9t2+1.97×10-13t4+3.93×10-19t6
だ。初発培地中のグルタミン酸及びアラニンの取込みを以下の時間関数で近似して、その関数を微分して速度に変換し、AKGとPYRの微分方程式に組み込んだ。
Alain=8.36×10-4−6.69×10-6t
野生株MG1655をLB培地30 mlにて一晩培養した培養液から細胞を集菌し、MS培地で13Cグルコースを用いたバッチ培養条件にてS型ジャーにて培養を行なった。MS培地の組成は1 L当たり、グルコース 40 g、MgSO4・7H2O 1 g、(NH4)2SO4 16 g、KH2PO4 1 g、Bacto-yeast extract 2 g、MnSO4・4H2O 0.01 g、FeSO4・7H2O 0.01 g、GD113 (消泡剤) 0.5 mlであり、培養条件は培養体積 0.3 L、温度37oC 、pH: 7.0、通気攪拌条件下で行なった。増殖期(315分)及び定常期(495分)に代謝フラックス解析を行なった。代謝フラックス解析の方法については国際公開WO2005001736に詳細な記載がある。この培養結果をシミュレーションの検証に用いた。菌体外グルコース濃度の測定結果と菌体外CO2濃度の測定結果は、それぞれ図8のB及び図8のPにプロットされている(破線)。また、増殖期(315分)及び定常期(495分)における代謝フラックス解析の結果を表9に示した。代謝フラックスを酵素反応速度に変換した値を酵素活性にプロットした(図9のF、I、L、O、及びR)。
シミュレーションは数学計算プログラムMATLAB(MathWorks)を用いて微分方程式を記述し、ODEソルバとしてode15sを用いて実施した。シミュレーションに用いた物質収支の微分方程式を以下に示した。それぞれの物質の収支を、表4に示した酵素反応速度、増殖による希釈効果、細胞構成成分への合成速度(y_biomass(metabolite))、菌体外物質の取込み速度、及び菌体外物質への排出速度の和として記述した。
d[Glucose]/dt = - rx1e
d[G6P]/dt = rx1e - rx2 - rx12 - (μ * [G6P])
d[F6P]/dt = rx2 + rx29 + rx16 + rx17b - rx3 - (μ * [F6P]) - y_biomass(F6P) * mu
/ cellvol * cellweight
d[FDP]/dt = rx3 - rx4 - rx29 - (μ * [FDP]) - y_biomass(FDP) * μ / cellvol * cellweight
d[DHAP]/dt = rx4 - rx5 - (μ * [DHAP]) - y_biomass(DHAP) * μ / cellvol * cellwe
ight
d[GA3P]/dt = rx4 + rx5 + rx17b - rx6 - rx16 - rx17 - (μ * [GA3P]) - y_biomass(GA3P) * μ / cellvol * cellweight
d[13DPG]/dt = rx6 - rx7 - (μ * [13DPG])
d[3PG]/dt = rx7 - rx8 - rx9 - (μ * [3PG]) - y_biomass(3PG) * μ / cellvol * cellweight
d[2PG]/dt = rx8 + rx9 - rx10 - (μ * [2PG])
PEP
d[PEP]/dt = rx10 + rx30 + rx34 - rx11 - rx1a - rx31 - (μ * [PEP]) - y_biomass(11) * μ / cellvol * cellweight
d[PYR]/dt = rx11 + rx1a + rx32 + rx33 - rx18 - rx30 - (μ * [PYR]) - y_biomass(PYR) * mu / cellvol * cellweight + Alauptake - Formin
d[6PGC]/dt = rx12 - rx13 - (μ * [6PGC])
d[RL5P]/dt = rx13 - rx14 - rx15 - (μ * [RL5P])
d[R5P]/dt = rx14 + rx17 - (μ * [R5P]) - y_biomass(R5P) * μ / cellvol * cellweight
d[X5P]/dt = rx15 + rx17 - rx17b - (μ * [X5P])
d[E4P]/dt = rx16 - rx17b - (μ * [E4P]) - y_biomass(E4P) * μ / cellvol * cellweight
d[S7P]/dt = - rx16 - rx17 - (μ * [S7P])
d[ACCoA]/dt = rx18 - rx19 - rx36 - (μ * [ACCoA]) - AcOHin - y_biomass(19) * mu / cellvol * cellweight + Formin
d[OAA]/dt = rx28 + rx31 - rx19 - rx34 - (μ * [OAA]) - y_biomass(OAA) * μ / cellvol * cellweight
d[CIT]/dt = rx19 - rx20 - rx21 - (μ * [CIT]) - y_biomass(CIT) * μ / cellvol * cellweight
d[ICIT]/dt = rx20 + rx21 - rx22 - rx35 - (μ * [ICIT]) - y_biomass(ICIT) * μ / cellvol * cellweight
d[AKG]/dt = rx22 - rx23 - (μ * [AKG]) - y_biomass(AKG) * μ / cellvol * cellweight + Gluuptake
d[SUCCoA]/dt = rx23 - rx24 - (μ * [SUCCoA]) - y_biomass(SUCCoA) * μ / cellvol * cellweight
d[SUCC]/dt = rx24 + rx35 - rx25 - rx26 - (μ * [SUCC」) - y_biomass(SUCC) * μ /
cellvol * cellweight
d[FUM]/dt = rx25 + rx26 - rx27 - (μ * [FUM]) - y_biomass(FUM) * μ / cellvol * cellweight
d[MAL]/dt = rx27 + rx36 - rx28 - rx32 - rx33 - (μ * [MAL]) - y_biomass(27) * μ
/ cellvol * cellweight
d[GLX]/dt = rx35 - rx36 - (μ * [GLX])
d[cAMP]/dt = rx39 + rx39a - rx40 - rx41 - (μ * [cAMP])
d[cAMPex]/dt = rx41
d[F1P]/dt = - rx42 - (μ * [F1P])
d[CO2]/dt = rx13 + rx18 + rx22 + rx23 + rx32 + rx33 + rx34 - rx31 - (μ * [CO2])
- y_biomass(32) * μ / cellvol * cellweight
のF)以外の代謝物が、グルコース存在下の培養経時で、生理的に妥当と考えられる範囲内の数値での変化を示した。図9には、主要な遺伝子のmRNA濃度、タンパク質濃度、酵素活性を示した。mRNA濃度の初期値は全て0と設定しているため、増殖速度の増加にしたがって増加していき、μが最大となった後に減衰していくという一般的なパターンを示した(図9のAなど)。タンパク質濃度は初期値から減衰した後、増殖速度の増加とともに増加し、mRNAのピークから少し遅れて最大値をとり、その後減衰するパターンを示した(図9のBなど)。酵素活性については、酸化的ペントースリン酸経路酵素G6PD活性(図9のL)は代謝フラックス解析の結果と乖離が大きかったが、解糖系のPFK活性(図9のF)、TCAサイクル酵素CS活性(図9のO)、補充経路PEPC活性(図9のR)は、フラックス解析データを基にした酵素反応速度の値と近いプロファイルが得ることが出来た。
Claims (12)
- 細胞内代謝物及び遺伝子発現に関する微分方程式を準備し、微分方程式におけるシミュレーションに必要なパラメーターに値を入力し、値が入力された微分方程式を解くことを含む、細胞を用いた物質の生産プロセスを細胞内代謝物及び遺伝子発現に関する微分方程式によりシミュレーションする方法であって、下記(a)〜(d)を特徴とする前記方法。
(a)前記微分方程式は、細胞の比増殖速度を含む微分方程式を含み、比増殖速度は、生産プロセスにおける比増殖速度の測定データを数式化することにより得られる時間の関数として表される。
(b)微分方程式のパラメーターの全てまたは一部が前記比増殖速度の関数として表わされる。
(c)微分方程式に、細胞内代謝物が細胞構成成分へと形成される形成速度が含まれ、該形成速度が前記比増殖速度の関数または生産プロセスにおける前記形成速度の測定データを数式化することにより得られる時間の関数として表わされる。
(d)微分方程式に、細胞外から取り込まれる代謝物質の流入速度、及び/または、細胞内から細胞外へ排出される代謝物質の流出速度が含まれ、該流入速度及び/または流出速度が前記比増殖速度の関数または生産プロセスにおける前記流入速度及び/または流出速度の測定データを数式化することにより得られる時間の関数として表わされる。 - 細胞の比増殖速度を含む微分方程式が下記の式(1)〜(3)に示す微分方程式を含む請求項1記載の方法。
d[Metabolite]/dt=Vinput−Voutput−μ[Metabolite] (式1)
d[mRNA]/dt=ktranscription[P]−(kdRNA+μ)[mRNA] (式2)
d[Protein]/dt=ktranslation[mRNA]−(kdProtein+μ)[Protein] (式3)
式1中、[Metabolite]は細胞内代謝物質の濃度、Vinputは代謝物質を生成する反応速度の和、Voutputは代謝物質を消費する反応速度の和、μは比増殖速度を表わす。
式2中、[mRNA]はmRNAの濃度、ktranscriptionは、転写の速度定数、[P]はプロモーター濃度、kdRNAはmRNAの分解の速度定数、μは比増殖速度を表わす。
式3中、[Protein]はタンパク質の濃度、ktranslationは、翻訳の速度定数、kdProteinはタンパク質の分解の速度定数、μは比増殖速度を表わす。 - 細胞内に取込まれる代謝物質が、基質および/または、培地中の有機物である請求項1又は2に記載の方法。
- 細胞外に排出される代謝物質が、目的とする生成物および/または、
副生成物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。 - 細胞外に排出される代謝物質がアミノ酸、有機酸及び/又は二酸化炭素である請求項4に記載の方法。
- 細胞外に排出される代謝物質がアミノ酸又は有機酸である請求項5に記載の方法。
- シミュレーションに必要なパラメーターが、転写の速度定数、及び/または、翻訳の速度定数である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
- 細胞がアミノ酸生産能及び/又は有機酸生産能を保持する微生物である請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
- 微生物がEscherichia coliである請求項8に記載の方法。
- 細胞構成成分の組成自体が、細胞の比増殖速度、または、同等の生育に関する指標を用いた数式で表される請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
- 細胞を用いた物質の生産プロセスを細胞内代謝物及び遺伝子発現に関する微分方程式によるシミュレーションのためのプログラムであって、下記(1)〜(3)の手段としてコンピューターを機能させる前記プログラム。
(1)下記(a)〜(d)を満たす、細胞内代謝物及び遺伝子発現に関する微分方程式を記憶する手段。
(a)前記微分方程式は、細胞の比増殖速度を含む微分方程式を含み、比増殖速度は、生産プロセスにおける比増殖速度の測定データを数式化することにより得られる時間の関数として表される。
(b)微分方程式のパラメーターの全てまたは一部が前記比増殖速度の関数として表わされる。
(c)微分方程式に、細胞内代謝物が細胞構成成分へと形成される形成速度が含まれ、該形成速度が前記比増殖速度の関数または生産プロセスにおける前記形成速度の測定データを数式化することにより得られる時間の関数として表わされる。
(d)微分方程式に、細胞外から取り込まれる代謝物質の流入速度、及び/または、細胞内から細胞外へ排出される代謝物質の流出速度が含まれ、該流入速度及び/または流出速度が前記比増殖速度の関数または生産プロセスにおける前記流入速度及び/または流出速度の測定データを数式化することにより得られる時間の関数として表わされる。
(2)微分方程式におけるシミュレーションに必要なパラメーターの値を記憶する手段。(3)記憶された微分方程式及びパラメーターに基づいて微分方程式の解を算出する手段。 - 請求項11に記載のプログラムを記録したことを特徴とするコンピューター読み取り可能な記録媒体。
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