以下、本発明の実施の形態について、説明を簡単にするため1T(ターン)の場合について図面を用いて説明するが、1Tに限定されるものでは無い。
図3は、本発明の誘導加熱装置の1例を示す平面模式図であり、図4は、その断面の模式図である。以下の本発明の説明で用いる誘導コイルとは、電気に対する導体で構成されるパイプや線材、板などで被加熱材を1周以上巻いた、導体により形成されるコイルの総称であり、被加熱材を囲む形状は、矩形でも円形でも特に規定するものではない。導体の材質は、銅やアルミ等の電気伝導良好な材質が好ましい。
本発明では、先ず、誘導コイルの内側を通過する金属板の表面側と裏面側の誘導コイルを構成する導体を、それぞれ該金属板へ垂直投影した際に、表面側と裏面側の該導体の垂直投影像が、金属板の長手方向に対して互いにずれるように該導体を配置する。
即ち、図3右側のように、金属板1と面する板幅方向に向かう誘導コイル2を構成する導体2a及び2bを、金属板1を挟んで金属板の長手方向でずらして配置する。
更に、本発明においては、上記垂直投影像において、表面側と裏面側の導体が、金属板の表面側と裏面側の少なくともどちらかの該導体の端部を、少なくとも片方の端部において板幅方向に対して斜めに横切るように、該導体を配置する。ここで言う、導体の端部とは、金属板の板幅方向における端部(板エッジとも言う)のことで、導体中央部を挟んで、2つの端部をもつ。
例えば、図10の例では、表面側の導体の片方の端部のみが、板幅方向に対して斜めに横切るように配置されている。図3の例では、表面側と裏面側の両方の導体が、それぞれの導体の片方の端部において、板幅方向に対して斜めを横切るように配置されている。
また、本発明に係る実施形態としては、該ずれ幅が板幅方向の中央部よりも板幅方向の両端部において小さくなるように金属板の表面側と裏面側の少なくともどちらか一方の該導体を、金属板の板幅方向端部(板エッジとも言う)に向かって板幅方向に対して斜めに横切るように配置する形態を含むものである。
言い換えると、金属板の表面側と裏面側の誘導コイルを構成する導体を、それぞれ該金属板へ垂直投影した際の垂直投影像において、表面側と裏面側の該導体が、金属板の長手方向に対して互いにずれるように該導体を配置するとともに、金属板の表面側と裏面側の少なくともどちらかの該導体の端部が板幅方向に対して斜めに横切るように、且つ、該ずれ幅が板幅方向の中央部よりも板幅方向の両端部において小さくなるように、該導体を配置する実施形態を含む。例えば、図12〜16が、この実施形態に当たる。
また、本発明に係る実施形態としては、前記表面側と裏面側の導体が前記垂直投影像において、ともに、ほぼ同形状で、且つ、金属板の長手方向に対して互いに平行にずれるように配置されている形態を含むものである。例えば、図17、図19、図21が、この実施形態に当たる。
更に、この実施形態は、前記表面側と裏面側の導体が前記垂直投影像において、共に直線状である形態を含むものである。例えば、図20が、この実施形態に当たる。
ここで、図3では、ずれ幅が板幅方向の中央部よりも板幅方向の左端部において小さくなるように、金属板の表面側の導体2aと裏面側の導体2bを、両方ともに、板エッジに対し斜めに横切る様に配置した場合を示している。
金属板の表裏面側の誘導コイルを構成する導体を、互いに金属板の長手方向に対してずらして配置する理由は2つある。その理由について、図3のB−B’断面を模式化した図6を用いて説明する。
第1の理由は、金属板に面する誘導コイル2の表面側と裏面側の導体2a、2bを長手方向にずらすことにより、表裏の誘導コイルで発生する磁束の干渉する割合が減り、マクロ的には、右ねじの法則により、図6の金属板の側面図に示す様に(誘導コイルは表面側の導体のみを図示)、金属板表裏面に面する各々の誘導コイルを構成する表裏導体で発生した磁束4が金属板1を斜めに貫通するようになり、その磁束4によって誘導電流のパス10が、磁束4と直角に板厚斜め方向に広がるためである。
従来のLF式誘導加熱では、金属板の表裏面で誘導コイルを構成する導体により発生する磁束が、金属板を挟んでほぼ対称に発生するため、磁束は、金属板長手方向即ち進行方向成分のみとなり、金属板の断面長手方向を貫通する。従って、金属板の断面に垂直に誘導電流が発生するため、電流浸透深さが深くなると金属板表裏面の電流が干渉しあい、電流が流れなくなる。
金属板の長手方向表裏面で誘導コイルを構成する導体をずらす第2の理由は、上述した誘導電流のパス10が板の表裏で打ち消し合わない様にするためでる。金属板表裏で発生した誘導電流は、独立したパスを形成することで金属板を循環する誘導電流となり、金属板が非磁性であっても誘導加熱が可能となる。
即ち、図6の表面側の導体2aを流れる一次電流の向き(紙面に対して垂直で奥へ向かう向き)と反対の向きに金属板1の内部の表面側に誘導電流が流れ、一方、裏面側の導体2bにおいても、2bを流れる一次電流の向き(図示していないが、紙面に対して垂直で手前へ向かう向き)と反対の向きに金属板1の内部の裏面側表層付近に誘導電流が流れる。この様子を図3の金属板1の中心より右側部分に着目した平面図で示すと、生じる誘導電流は、それぞれの導体2a、2bの位置に対応して図7のようになる。
尚、導体2a、2bによって生じた誘導電流(金属板の幅方向で互いに逆向き)は、金属板内部で繋がり、図7に示すような環状の誘導電流が発生する。2a、2bにより生じる誘導電流同士を結びつける金属板両端部の誘導電流(金属板長手方向)は、主に、金属板側面に面する誘導コイルの導体(導体2aと導体2bを結ぶ側面の導体)を流れる一次電流によって生じる。
このように発生した環状の誘導電流により、金属板はジュール加熱される。環状の誘導電流を金属板1の断面の図6で見ると、導体2aの一次電流により生じる誘導電流のパス10(金属板内部の右上)と図示していない導体2bの一次電流により生じる誘導電流のパス(図5の金属板内部の左下に生じる)同士を、右上と左下を結ぶように、金属板両端部の誘導電流が流れるものである(図7のA−A断面模式図、参照)。
ただし、金属板に面する誘導コイル2の表面側と裏面側の導体を長手方向にずらす量が小さい場合には、従来のLF式誘導加熱に近づき、板厚が薄い非磁性の金属板の場合には、発生する誘導電流密度が低下してくる。
誘導電流が有効に発生するずらし量(ずれ量とも言う)について、電磁場解析により種々の検討を行った結果、金属板と誘導コイルを構成する導体が近い場合には、表側の導体と裏側の導体のずれ量が比較的小さくても、非磁性域でも有効な誘導電流が金属板に発生するが、金属板と導体が離れる場合には、表側の導体と裏側の導体のずれ量を大きくしなければ、有効な誘導電流が金属板に発生させることができないことが判明した。
本発明の誘導加熱を非磁性域で有効に機能させるには、生産現場で実現できる金属板と誘導コイルを構成する導体の間隔を考慮し、以下の範囲で表裏面の導体を互いにずらすことが好ましい。
即ち、金属板の表面側と裏面側の誘導コイルを構成する導体を、それぞれ金属板の通板ラインへ垂直投影した際に、図8(a)、(b)に示すように、表面側と裏面側の導体における垂直投影像の重なりが、面積で80%を越えて金属板の進行方向で互いに重ならないような位置に配置するのが望ましい。
即ち、重なりを0〜80%とすることで、斜めの磁束4を有効に発現できる。図6では、説明を簡単にするため、磁束が大きな角度を持って被加熱材を貫通する様に示したが、実際には、表裏誘導コイルによって発生する誘導電流は、表裏誘導コイルとのリアクタンスが小さくなるように、誘導コイルに近づいて発生しようとするため、実際には、金属板1を貫通する磁束は、長手方向成分が大きく、斜めの磁束を発生させるための垂直成分は小さくなる。
板厚以上の電流浸透深さでも、金属板1に誘導電流を生じさせ、効率的に加熱を行うためには、好ましくは、重なりを0〜60%とする。この重なりでより効果的で、非磁性域でもより有効に加熱を行うことができる。更に好ましくは、0%(重ならない)である。
更に、本発明では、金属板の表面側と裏面側の少なくともどちらか一方の導体を、ずれ幅が板幅方向の中央部よりも板幅方向の両端部において小さくなるように、金属板の板幅方向端部(板エッジとも言う)に向かって、板幅方向(板エッジ方向とも言う)に対して斜めに横切る様に配置する。
その理由は、図3の金属板の右側の様に、導体2aと導体2bを金属板の長手方向に直角にして平行にずらして配置すると、発生する誘導電流10は、図7の様に、金属板内を流れるが、この時、金属板の端部側を流れる誘導電流は、金属板1の中央部を流れる時にはd1の幅であったものが、d2へと狭められてしまう。
板端部側の誘導電流の流れる幅が狭まるのは、誘導電流と金属板端部側を流れる誘導コイル一次電流との間のインダクタンスを下げる様に、誘導電流が金属板端部側に寄るため等の理由による。誘導電流の流れる幅が狭まると、端部側の電流密度が板中央部を流れる電流密度より高くなり高温になりやすくなる。
また、加熱時間も、金属板中央部を流れる電流がd1の幅に相当する時間加熱されるのに対し、金属板端部は、導体をずらしたことにより、d3の幅に相当する時間加熱されることになり、より金属板端部側の温度が高温になり易くなる。なお、本発明者は、特願2004−120713号において、図3の右側部に相当する装置を提案している。
そのため、本発明では、金属板1に発生する誘導電流の電流密度と加熱時間を制御するため、金属板の端部側に向かう導体を金属板端部に向かい斜めに横断する様に配置をする。こうすることにより、金属板1に発生する誘導電流は、金属材料と誘導コイル間のインダクタンスが小さくなる様に誘導コイルを構成する導体に流れる電流と逆向きに発生し金属板端部へ向かう。
表面誘導コイルと裏面誘導コイルが交差又は近接する板端部付近で、表面誘導コイルにより金属材料に発生した誘導電流は、裏面の誘導コイルで発生した誘導電流と合流して金属端部より内側の領域を通った方が、金属材料の外側にある一次コイルを流れる一次電流により金属材料端部に集中して誘導電流を発生させるよりもインダクタンスを小さくすることができるため、金属板中央部を流れる電流の幅のまま金属板端部側へ一次電流を流すと、誘導コイルを構成する導体の幅に近いまま誘導電流が金属板端部側へ流れて、図5の左側の様な電流路になり、図5の右側のように、金属板端部の電流密度が高く加熱時間が長い状態が避けられ、電流密度が金属板端部で高くならないように、かつ、加熱時間も制御し、金属板端部の過過熱を防ぐことが可能となる。
金属板の温度分布を均一にするためには、例えば、図3のように誘導コイルが金属板端部を斜めに横切るのが片側だけの場合でも、図9のように、交互に板端部を横切る誘導コイルのセットを配置すればよい。
金属板端部へ斜めに誘導コイルの導体を配置する方法としては、例えば、図10の様に、金属板表裏どちらかの導体を斜めに金属板端部を横切らせてもよいし、図11のように金属板端部を横切る導体が弧を描くような曲線形状でも構わない。また、図10の変形として、表裏どちらかの導体を斜めに金属板端部を横切らせる際、金属板の片側端部からもう一方の片側端部まで、同じ角度のまま斜めに直線形状で横切らせても構わない(図示せず)。この場合、金属板の温度は、表側と裏側の導体のずれ幅が狭い方からずれ幅の広い方に向かって上昇するように、金属板の幅方向に温度分布をつけることができる。
金属板端部を横切る導体が両端部の場合には、図12のように配置すると、図9の配置に比べ、誘導コイルの数を減らせるとともに、誘導コイルの設置スペースも節約することができる。
このように金属板両端部を誘導コイルが横切る方法としては、図13のように、金属板中央部の板長手方向直角に配置する導体がなく、山形の導体を金属板表裏に配置する方法や、図14のように、金属板の表面側あるいは裏面側のみに配置する方法や、図15のように、表裏面誘導コイルのコイル片側ずつを斜めに配置してもよい。
また、本説明では、斜めに配置する導体が全て直線を組み合わせた形状としているが、円弧等曲線で形成しても構わない。また、その導体の断面も、矩形に限らず、円形や楕円形でも構わない。
また、表裏の導体は、金属板に対し表裏対称である必要もなく、また、左右等の対称性も必要ない。所望の温度分布になるように誘導コイルを構成する導体を配置すればよい。例えば、図16の場合には、金属板中央部の電流路(導体の幅)を狭くし電流密度を上げ温度を高くする場合の例であるが、加熱温度分布を自由に調整することが可能である。尚、金属板中央部の電流路の位置は、図16の位置に限らず、より金属板通過方向の上流側又は下流側(図の上側又は下側)のどちらかにずれていても構わない。
また、図17に示すように、板両端部へ向かう表裏の導体の少なくとも1端を互いに平行に斜めに配置しても構わない。即ち、金属板の表面側と裏面側の誘導コイルを構成する導体を、それぞれ該金属板へ垂直投影した際の垂直投影像において、表面側と裏面側の該導体が、金属板の長手方向に対して互いにずれるように該導体を配置するとともに、金属板の表面側及び裏面側の該導体の端部が、金属板の板幅方向に対して斜めに横切るように、該導体を配置するものである。
この場合には、前述の実施形態と同様に、重なりを0〜80%とすることで、板端部側で発生する電流が干渉しないで、誘導電流のパスが形成できる。好ましくは、0〜60%である。更に好ましくは、0%(重ならない)である。
図17の左側のように、誘導コイルを金属板端部に向かい斜め平行に配置することにより、金属板に発生する誘導電流は、誘導コイルを構成する導体に流れる一次電流と逆向きに発生しようとすることから、導体2a,2bを所望の幅で金属板端部側へ持って行き、一次電流を流すようにすると、ほぼ導体2a,2bの幅のまま、誘導電流が金属板端部側へ流れるようになるが、表裏の誘導コイルで発生した誘導電流は途中でショートパスし、図18に示すような分布の電流となる。
金属板1の中央部からエッジに向かう電流は、板エッジに集中せず少し広がり、近くを流れる逆向きの電流路(金属板の表側の誘導コイルにより発生した誘導電流に対する、金属板の裏側の誘導コイルにより発生した誘導電流の電流路のこと)に向かうため、板エッジへの電流集中が起き難くなる。
この金属板エッジを流れる電流の幅(電流密度)は、金属板1の表裏に配置した導体2a及び2bのずらし量により変化し、ずらし量が大きいと電流路の幅は狭くなって電流密度が高くなり、逆に、ずらし量を小さくすると電流路の幅が広がり電流密度が低くなる。
図17は、片側の金属端側のみの誘導コイルが斜め平行に横切る例を示しているが、この場合も、前述の図9で示したと同様に、最低2セットを用い、図19のように、互い違いに配置することにより、均一な温度分布で非磁性域の加熱を行うことが可能になる。また、図20は、金属板両端を誘導コイルが斜め平行に横切る例で、平行にずれた誘導コイルが、そのまま斜めに金属板を横切る場合を示し、図21は、斜めに横切った誘導コイルが、金属板中央付近で折り返して、長手方向で同じ側斜めに誘導コイルが金属板端部を横切る例を示す。
上述したそれぞれの実施形態に記載の手段は、全て、金属板内部に金属板長手方向における環状の誘導電流を発生させてジュール加熱し、且つ、金属板端部の誘導電流密度を低下させることができる機能を、誘導コイルを用いた金属板の誘導加熱装置に付与するという点で、技術上の意義が共通しており、対応する特別な技術的特徴を持つものである。これにより、金属板が薄い場合でも、金属板が非磁性であっても加熱でき、又、磁性材がキュリー点を超えた温度となっても加熱可能となる。
次に、本発明により、金属板の温度分布を制御する方法について説明する。
本発明による誘導加熱では、前述のように、金属板中央部と端部を流れる誘導電流密度、ならびに、加熱時間を制御することで金属板の温度分布を制御できる。
図22は、表裏誘導コイルを構成する導体の長手方向のずれ量を大きくし、金属板端部側を流れる誘導電流の電流密度を高め(ずれ量を小さくしたときと比べて)、且つ、加熱時間を長くした場合の例であり、この場合には、金属板端部側の温度を相対的に高温にすることができる。
逆に、図23は、表裏誘導コイルを構成する導体の長手方向のずれ量を小さくし、金属板の端部から金属板中央より内側で誘導電流を流し、金属板端部側を流れる誘導電流による加熱時間を短くすることにより、金属板中央部より金属板端部側の温度を低くする例を示す。環状電流が金属板端部より極端に中央寄りに流れるようにすると、金属板端部の温度を極端に下げた加熱となる。又は、図24のように、表裏導体の交差位置が金属板1のエッジより十分内側に寄り、X字のような交差をする場合にも、中央部の温度が高くエッジ部が低くなるような温度分布を得ることができる。
上記は、主として金属板内の誘導電流密度を、ほぼ同じにして、且つ、加熱時間も同じになるように調整して温度分布を制御する方法を示したが、図25は、誘導電流密度を制御して温度分布を制御する場合の例を示す。
図25では、板端部へ向かう導体の幅を板中央部の導体の幅より広げる例を示す。電流路の幅が広がることで電流密度を下げ、加熱時間が長くなるが、発熱量は電流密度の2乗に比例し加熱時間に比例することから、電流密度が低下することによる発熱低下効果が大きく効き、結果として板中央部の温度が高く板端部側が低くなるような加熱温度分布にすることもできる。
同様に、誘導コイルの導体の断面積を増減することによっても、電流密度の増減が可能であるが、高周波電流の場合導体断面積を大きく増やしても、電流は導体の表面近傍を電流の浸透深さに見合った範囲でしか流れないため、低周波を除き誘導コイルの幅を増減するほどには金属導体に発生させる誘導電流の増減を制御する効果は大きくない。
このように、板中央部と板端部側の誘導コイルを構成する導体の幅を調整し、電流密度と加熱時間を制御することで加熱温度分布を制御することができる。
実際の操業では、金属板の幅が様々であり、蛇行なども起こる。又は、前工程の加熱温度分布が均一でなかったりするため、これらに対応し、自在に温度分布を制御する方法について説明する。
図26は、本発明による具体的な装置の1例として、誘導コイルを金属板長手方向に自在に動かし、電流路、加熱時間を制御する方法を示す平面図で、図27は、その正面図である。
図26では、金属板表裏面に対向する導体2a、2bを板長手方向にベース12上に配置したガイドまたはレール11などの上に置き、図示はしていないが、エアシリンダや油圧シリンダ、電動シリンダなどの移動機構により、所望の板温分布になるように、表裏の導体2a、2bを板長手方向に自在に移動させる。移動は、表裏コイルのどちらか一方でもよいし、両方でもよい。
ベース12やガイド11などは、誘導コイルの強磁場のそばにあるため、できるだけ金属は避け、セラミックスや樹脂などの絶縁性の物質で構成する必要がある。やむを得ず金属を使用する場合には、非磁性のステンレスや真鍮、アルミ等を使い、できるだけ誘導コイルから離すとともに、水冷などを行い誘導による加熱の影響をできるだけ避けるようにする。
表裏面の導体2a、2bは、水冷ケーブルなどの容易に導体の移動に追従できる導電部材13とにより、水冷した接続導体9に接続すればよい。図26は、板幅中央部が広い誘導コイル形状の例を示すが、図20又は図21のような誘導コイル形状でも効果がある。
図28〜33は、更に細かく精密に、金属板の温度分布を制御するため方法を示す。図29は、金属板の幅が狭い場合の本発明による誘導加熱装置の平面図を示し、図28は、図29のA−A断面を、図30は、図29のB−B断面を示す。
金属板1の表側に金属板端部に対し斜めとなるように、複数の誘導コイル導体a−a’,b−b’,c−c’,d−d’,e−e’,f−f’,g−g’,h−h’,i−i’とj−j’,k−k’,l−l’,m−m’,n−n’,o−o’,p−p’,q−q’,r−r’を、隣り合う誘導コイルを構成する導体間が絶縁されるように隙間をあけて配置し(図示は省略)、接続導体9a〜9gに選択して接続する。
接続する方法は、図示はしていないが、電磁接触器や、エアシリンダ、電動シリンダなどの接触手段により、導体a−a’,b−b’,c−c’,d−d’,e−e’,f−f’,g−g’,h−h’,i−i’を9bと9aに、j−j’,k−k’,l−l’,m−m’,n−n’,o−o’,p−p’,q−q’,r−r’を9bと9cに密着させて接続する。
図29の例では、誘導電源8と接続された導体7から流れたコイル電流は、接続導体9a→ 導体g−g’,h−h’→ 接続導体9b → 導体k’−k,l’−l → 接続導体9c →接続導体9d→ 接続導体9eに流れ、金属板裏面側の誘導コイル導体K−K’,L−L’→ 接続導体9f → 導体G’−G,H’−H → 接続導体9gを経て導体7を通り、電源8へと至る閉回路を形成し、金属板1を誘導加熱することができる。接続導体、導体の材質は銅等の良電気伝導体が好ましい。
次に、金属板の幅が広くなった場合について説明する。図32は、金属板の幅が広い場合の本発明による誘導加熱装置の平面図を示し、図31は、図32のA−A断面を、図33は、図32のB−B断面を示す。
導体は、図29のケースとは異なり、表面の導体g−g’,h−h’がa−a’,b−b’に、k’−k,l’−lがq’−q,r’−rに選択が変り、裏面の導体K−K’,L−L’がQ−Q’,R−R’に、G’−G,H’−HがA’−A,B’−Bに選択が変ることで、板幅が変わっても板温分布は、ほぼ同一にすることができる。
また、本発明の誘導加熱装置を用いると、蛇行した場合にも、新たに誘導コイル導体を選択し直すことで、所望の温度分布を得ることができる。例えば、金属板の蛇行を誘導加熱装置の前方に設置した蛇行センサーにより、金属板の蛇行量、蛇行速度を把握し、本誘導加熱装置を通過する金属板端部の位置を計算し、最適な誘導コイル導体を選択して通電するようにすればよい。
上記説明の図では、表裏導体のセットの金属板1の端部を横切る角度が表裏対称に近い状態を示しているが、表裏で導体を対称にする必要はなく、表裏非対称であっても構わない。電流路の形状、加熱時間を考慮した誘導コイルセットにすれば、更に、様々な温度制御も可能となる。
即ち、選択する導体の数の増減や、表裏導体の金属板端部への角度の変更などで板温分布を制御することもできる。更に、板幅中央部に位置する導体を板短部へ向かう導体と同様に長手方向に複数に分けて配置し、必要に応じて選択することにより、板幅中央部の温度分布も制御することが可能である。
また、本発明の更に発展した加熱方式として、図20又は図21の平面模式図に示す方法も極めて有効である。図21の誘導加熱装置は、金属板1と面する板幅方向に向かう誘導コイル2を構成する導体2a及び2bを、金属板1を挟んで金属板の長手方向でずらして配置するとともに、金属板の板エッジに向かって板幅方向に対して同じ向きで斜めに横切るように配置する。
ここで、図21では、金属板1の表面側の導体2aと裏面側の導体2bを金属板の長手方向において平行させ、板エッジに対し斜めに横切る様に配置した場合を示している。
このように、誘導コイルを構成する導体を配置すると、前述のように、金属板に発生する誘導電流は、誘導コイルを構成する導体に流れる一次電流と逆向きに発生しようとすることから、導体2a、2bを所望の幅で金属板端部側へ持って行き一次電流を流すようにすると、ほぼ導体2a、2bの幅のまま、誘導電流が金属板端部側へ流れる様になるが、途中でショートパスし金属板1の中央部からエッジに向かう電流は板エッジに集中せず少し広がって、近くを流れる逆向きの電流路(金属板の表側の誘導コイルにより発生した誘導電流に対する、金属板の裏側の誘導コイルにより発生した誘導電流の電流路のこと)に向かうため、板エッジへの電流集中が起き難くなる。
この金属板エッジを流れる電流の幅(電流密度)は、金属板1の表裏に配置した導体2a及び2bのずらし量により変化し、ずらし量が大きいと、電流路の幅は狭くなって電流密度が高くなり、逆に、ずらし量を小さくすると電流路の幅が広がり電流密度が低くなる。
このように、本発明では金属板1の板エッジに向かって導体2a及び2bを板幅方向に対して、同じ向きで斜めに横切るように配置し、この金属板1の表裏に配置した導体2a及び2bのずらし量を調整することにより、金属板1の板エッジ付近を流れる電流の幅(電流密度)を制御するとともに、金属板エッジを流れる電流による加熱時間も制御でき、加熱温度分布が制御可能となる。
また、図21のように、金属板1の表裏に配置する導体2a及び2bを平行にずらして配置すると、はじめ金属板1の幅がI−I’であったものが、サイズ替えによりII−II’になっても、導体2a及び2bが板エッジを横切る関係は変化しないため、温度分布は板幅が変わっても変わらないままにすることができる。又は、金属板1が蛇行などして板エッジの位置が最初に通っていた場所からずれても、同様に、温度分布は変化することがない。したがって、図21のように、導体2a及び2bを平行配置させることにより、誘導コイルを移動させたりしなくても板幅変更や蛇行などへ容易に対応できるようになる。
また、金属板1の表裏に配置する導体2a及び2bは、図21の様な両者を同一形状のまま平行にずらす形態である必要は特になく、両者の形状を変えて図34又は図35のように、導体2a及び2bのずれ幅を金属板1のエッジに向かい狭くしたりあるいは広くしたりしてもよい。
これは、例えば、本加熱装置の前工程でガス輻射による炉により予備加熱した後に金属板1を本加熱装置で誘導加熱する場合等では、ロット変更等で板幅が変わることにより金属板1の温度分布が前工程の炉の特性により、定常的にエッジ近傍の温度が高くなったり又は低くなったりすることがあるため、あらかじめ、前工程の炉による板幅に応じた加熱特性を把握しておき、導体2a及び2bの金属板の中央部からエッジ部に渡ってずらす量を一定の関係できめておくことにより、板幅が変化しても所定の温度分布にすることができる。
例えば、金属板エッジ部の温度が、板幅が広くなるにつれ板中央部よりも高くなる関係にある場合、又は、後工程でエッジ温度が高くなることが予測され、あらかじめ誘導加熱でエッジ部の温度を下げる必要がある場合には、誘導加熱後の温度分布を均一にするため、図34のように、導体2a及び2bのずらす量を、金属板の中央部側で広く、エッジ部側に近づくにつれて狭くして金属板のエッジ部側の加熱時間を金属板中央部側よりも短くすることにより、エッジ部側の発熱量を抑え、板中央部より板エッジ部の温度が低くなるように誘導加熱することができる。
逆に、室温から加熱する場合などのように、周りが断熱されず金属板1の方が周囲の壁などより高くなる場合には、板エッジ部の温度が低下し易いことから、エッジ部の温度が高くなるように、例えば、図35に示すように、導体2a及び2bのずらす量を、金属板の中央部側で狭く、エッジ部側に近づくにつれて広くして、金属板のエッジ部側の加熱時間を板中央側より長くすることにより、金属板のエッジ側の温度が高くなるように誘導加熱することもできる。
このように、誘導加熱装置自体を動かさずに板幅、目的に応じて加熱温度分布を自動的に変化させて加熱することが可能になる。
また、誘導コイルの導体2a及び2bのずらす量及び導体の幅等については、電磁場解析等により、おおよそ設計が可能であるが、前工程の加熱特性が微妙に金属板のサイズや操業条件により変化することにより、設計条件から外れたり、又は、意図的に加熱温度分布を変化させたい場合には、導体2a及び2bを固定していると対応が難しくなることもある。
そのような場合には、前述の図26に示したような導体コイルの移動機構を設け、自在にずらし量を制御し温度分布を制御することも可能である。
このような導体の移動機構を設けると、前工程での加熱特性を把握していなくても、本発明の誘導加熱装置に入る前に金属板1の温度分布を計測し、その計測結果に合わせ誘導コイルの導体2a及び2bのずらし量を制御することで、加熱温度分布制御をすることが可能になる。
更に、本発明では、誘導コイルの導体2a及び2bのずらす量を変化させるだけでなく、図36に示すように、誘導コイルの導体2a及び2bの幅自体を変化させることにより、発熱分布を制御することができる。即ち、金属体1の発熱温度は、誘導電流の2乗に比例し、加熱時間の1乗に比例することから、導体の金属板に垂直投影する面積を変化させると、金属体1に誘導される電流の密度が大きく変化するとともに、導体のずらし量で加熱時間を制御することができることから、より効果的に加熱温度分布の制御が可能になる。
ただし、これらの加熱装置でも、前述のように、金属板1の表裏に配置した導体2a及び2bのずらし量をあまり狭くすると非磁性域又は非磁性材の場合や、板厚が薄い場合には、LF加熱と同様に、金属板1の表裏を流れる誘導電流が干渉しあい電流が流れなくなるため、電流浸透深さが板厚に比べ深くなる場合には、表裏コイルのずらし量は、表裏コイルを金属板へ垂直投影した際に、表面側と裏面側の導体における垂直投影像の重なりが、面積で80%を超えて金属板の進行方向で互いに重ならないような位置に配置するのが望ましい。
即ち、図21の表裏誘導コイルの中心線に直角なA−A断面を見た場合を例に重なり割合について説明すると、重なり割合とは、図37に示すSa/Sに100を乗じた値であり(図21そのものにおいては、Sa/S×100は0%である)、これを0〜80%とするとよい。より好ましくは、0〜60%である。更に好ましくは、0%(重ならない)である。
また、本説明では、斜めに配置する導体が全て直線を組み合わせた形状としているが、円弧等の曲線、関数で決められる形状で形成しても構わない。また、その導体の断面も、矩形に限らず、円形や楕円形でも構わない。
本発明による誘導加熱装置は、上述したように、電流の浸透深さの問題から、特に、従来の誘導コイルによる誘導加熱では不可能な非磁性域、非磁性材での加熱の実現、板幅の温度分布制御が可能となる。
したがって、板厚が薄くても、また、厚くても、加熱温度域の制限がなく、幅も狭い幅から広い幅まで対応が可能であるため、従来のように、被加熱材のサイズに合わせ複数の誘導コイルセットを持つ必要もなくなる。
本発明は、上述したように従来の誘導式誘導加熱では不可能であった非磁性域の誘導加熱を可能とする優れた金属板の誘導加熱装置・誘導加熱方法であるが、金属板表裏面に面する誘導コイル2を、金属板進行方向でずらして配置しなければならないため、金属板の進行方向にスペースを広くとらなければならない。
そこで、鋼板などの磁性材を常温から加熱する場合などには、図38のように、磁性域をスペースが狭くてもよい従来のLF式誘導加熱で加熱し、その後、本発明の誘導加熱装置で非磁性域を加熱すると、全体としてスペースの少ない加熱設備が実現する。
更に効果的な方法は、図39のように、従来のLF式誘導加熱装置と本加熱装置とを直列に接続方法がよい。2つの誘導コイルを別電源で使用する場合には、両方のコイルによる干渉が問題になり、両コイルが干渉しない位置まで離さなければならない場合があり、その場合、干渉を避けるためのスペースが必要となる時がある。
そこで、本発明では、この問題を解決するため、図39に示すような従来のLF式誘導加熱装置15の後に、前述の本発明による誘導加熱装置14を直列に接続し、一体の誘導加熱装置とする。LF式誘導加熱装置と本発明の誘導加熱装置を直列に接続することにより、電源からは1つの誘導コイルとみなせるため、誘導コイル間の干渉が生じず安定して通電ができ、干渉防止のための余計なスペースが不要となる。
特に、磁性域では容易に電力が金属板に安定して投入できるため、LF式の誘導コイルには大きな電流が流れる。その電流は、直列に接続しているずらした誘導コイル側にも流れるため、両誘導コイルのマッチングを工夫しなくても大きな電流を非磁性域の誘導コイルにも流すことができ、効率的かつ安定した非磁性域の加熱ができる。
したがって、本発明の誘導加熱装置を用いれば、室温から、キュリー点を越える温度までを、1台の誘導加熱電源、誘導コイルセットで加熱することが可能となり、コンパクトで、加熱速度、温度分布を自在に制御できる加熱装置が実現できる。
また、ガス燃焼若しくは電気ヒーターによる輻射炉、又は、ガス直火炎加熱炉の、前工程、後工程の少なくともいずれかに、本発明の誘導加熱装置を設置することもできる。
例えば、一般の焼鈍炉(輻射炉の1種)の途中又は出側に誘導加熱装置を設けるケースを以下に示す。ここで、輻射炉とは、被加熱材を輻射により温度を上昇させるいわゆる予熱炉、加熱炉や、被加熱材の温度を均一化する均熱炉を指す。また、ガス直火炎加熱炉は直接火炎を被加熱材に当て加熱する炉や、還元炎を当て被加熱材の表面にあるスケールを還元しながら加熱する炉などを指す。
鋼板の連続熱処理炉(連続熱処理装置、あるいは、連続焼鈍炉とも言う)などでは、加熱の前後、又は途中、冷却帯と過時効帯との間で再加熱をするための誘導加熱装置を設ける場合があるが、LF式誘導加熱では磁性域の加熱しかできない。
それに対し、本発明の誘導加熱装置では、薄い金属板の磁性、非磁性を問わずに加熱ができることから、加熱効率が急激に低下するキュリー点近傍の温度域から、全くパワーが入らなくなるキュリー点を超えた温度域でも加熱可能であるため、従来の間接加熱方式となる輻射炉や、直接加熱となる火炎燃焼炉などのガス加熱を用いた予熱炉や加熱炉では、金属板の板厚が厚くなり通板速度を遅くしなければ所定の温度に加熱できない場合でも、通板速度を落とすことなく所定の温度に加熱することが可能であるだけでなく、通板速度を上げ生産量を上げたい場合でも、電源に余裕があれば対応が可能になるなど、操業の自由度が飛躍的に高くなる。
また、輻射加熱では被加熱材の温度が上昇するにつれ炉内からの放射伝熱量が低下し、加熱効率が低下していくのに対し、本発明の誘導加熱装置では、強制的に電力を直接被加熱材に投入できるため、効率良く加熱することができるという利点もある。
ただし、電気による加熱は、ガスによる加熱に比べ発熱量あたりのエネルギー単価が高いため、全部を電気で加熱するとエネルギーコストが高くなり不利である。そのため、加熱効率が高くエネルギー単価の安い低温側は、従来のガスによる間接加熱を使い、輻射では加熱効率の低下する高温側は確実にキュリー点以上の非磁性域まで昇温ができる本発明による誘導加熱装置を使うと熱処理コストも少なくて済む。
従来の連続熱処理装置では炉の熱慣性が大きく、金属板のサイズ変更がある場合には、ライン速度変更、炉温変更を行い安定するまで時間がかかり、その間の被加熱材は温度が安定していないため品質的にも問題が生じ、通常繋ぎ材と呼ばれる降格低級の材料を目的とする材料の間に入れることを余儀なくされているが、本発明の装置を用いれば、熱慣性はほとんど生じないため、サイズ変更にも迅速対応でき、生産スケジュールの弾力性を高め、繋ぎ材を使う必要もなくなる。
本発明の誘導加熱装置の設置場所としては、図40の(a)のように、加熱炉16aと加熱炉16bとの間に設置してもよいし、最も効果的なのは、図40の(b)のように、加熱炉16の後に設置するのがよい。設置形態は、図では横パスで説明したが縦パスでも斜めでも特にこだわるものではない。また、本加熱装置は、炉の中に断熱と雰囲気シールの機構を備えたチャンバーとともに炉と一体化して納めてもよいし、炉と炉の間に独立して部屋を設けて設置してもよい。
上記説明は、走行する金属板を想定して話を進めてきたが、厚板材のような移動速度の遅い静止状態に近い加熱にも適用が可能である。厚板材の場合には、通常長さを一定にした切板を用いるが、このような場合には、誘導コイル内を往復させることにより、加熱することが可能である。
以上説明したように、本加熱方式は、磁性域の加熱はもちろん、従来の誘導コイルの誘導加熱方式では不可能であった非磁性域の加熱を、単純な構成のコイルで可能とする。使用する加熱電源周波数も、扱いやすく安価な比較的低い周波数を使うことができるとともに、高周波数加熱で問題となるコイル電圧の高電圧化なども避けることが容易であり、ハード上の制約が大幅に緩和される。
本発明による誘導加熱装置及び誘導加熱方法は、サイズ、品種を選ばず1台の装置で広範囲に対応が可能で、且つ、加熱温度分布も、これまでの誘導加熱装置で問題となっていた板端部の過加熱を防止し、板幅全体にわたる自在な制御が可能な従来にはない特徴を持つ優れた金属板の加熱装置及び加熱方法である。
(実施例1)
本発明の効果を確認するため、0.2mm厚×600mm幅の非磁性鋼であるSUS304を用い通板しながら加熱する実験を行った。
使用した電源は、25KHz、100KWの高周波電源で、コイルに合わせコンデンサの容量を増減し、整合をとるようにした。使用した誘導コイルは、幅100mm、板厚5mmの銅板に、外形10mm、内径8mmの水冷銅パイプを鋼板と反対側(外側)にロウ付けした水冷銅板製で、1Tの誘導コイルとして実験を行った。本実施例において導体は、銅板と銅パイプの両方を指す(本ケースでは銅パイプにも電流が流れるため)。被加熱材と誘導コイルとのギャップは、50mmとした。
また、実験では鋼板の表裏面に鋼板進行方向に直角に200mmずらし、両端エッジに水冷銅版製のコイルを向かわせ、表裏コイルを構成する導体の重なる位置を変え、板中央の温度と板エッジとの温度差(エッジ温度−中央部温度)で評価を行った。温度は、誘導コイル出口で2次元の赤外線温度計で測定した。
導体の角度調節は、図41A〜図41Dに点線で示す板進行方向に平行にずらして配置したベーク板と斜め方向に配置する水冷銅板に所定の角度になるように穴をあけ、ボルトで電気絶縁性の合成樹脂板(以下、ベーク板と呼ぶ)との間に入れた連結用銅板に接合することで実現した。
実施例としての実験は、図41Aに示す表裏コイルが板エッジと5°での角度をなす本発明による実施例A、図41Bに示す板エッジと10°で交わる実施例B、図41Cに示す板エッジと15°で交わる実施例C、及び、図41にない(表側の導体の真下に裏側の導体を配置)LF式誘導加熱による比較例Eを比較した。通板速度は、2m/minである。
結果を表1に示す。評価は、鋼板中央部の温度が500℃まで加熱ができた場合◎、できない場合を×とし、温度偏差は、鋼板エッジ部温度と中央部温度の差とした。
今回の実験では、従来のLF式誘導加熱装置による実験Eではまったく加熱ができなかったのに対し、本発明による実施例A〜Dは、全て加熱が可能であった。鋼板端部を流れる電流を表裏導体の位置の調整をすることにより、実施例Aのように、エッジ側を高くすることもできるし、実施例Cのように、ほぼ均一にすることもでき、また、実施例Dのように、エッジ側を低くすることもできることが確認できた。
(実施例2)
本発明による、分割した誘導コイル選択による温度制御の効果を確認する実験を行った。使用した試験材は、板厚0.6mm、板幅600mmの冷延鋼板でライン速度を2m/minにして加熱を行った。電源は、周波数50KHz、200kwのものを用い、被加熱材と誘導コイルとのギャップは、50mmとした。実験は、図42の平面模式図に示すような配置をしており(一次電源は図示せず)、鋼板表面に、幅50mm、板厚10mmの水冷したコイル導体A〜Jを配置(図43)し、鋼板裏面にも、幅50mm、板厚10mmの水冷したコイル導体K〜Tを配置(図44)した。
鋼板表面側のコイル導体A〜Jは、鋼板進行方向に横渡した幅50mm、板厚10mmの水冷したコイル導体U、V、W、X、Y、Z、A’、B’、C’と接続し、鋼板裏面側のコイル導体K〜Tは、鋼板進行方向に横渡した幅50mm、板厚10mmの水冷したコイル導体D’〜L’と接続した。
接続は、図45の例に示すように、誘導コイルを構成する導体として使用する場合には、横渡のコイル導体と端部方向導体とが導通するように、銅板18をコイル導体間に入れてボルトで締め付けて接続し、誘導コイルを構成する導体として使用しない場合には、横渡のコイル導体と端部方向導体とが導通しないように、ベーク板19をコイル導体間に入れ絶縁ボルトで締め付けた。
コイル導体の選択の仕方による、温度分布の変化を、誘導コイル出側に設置した赤外線温度計により測定した。表2に、使用コイルの組み合わせと、750℃以上の非磁性域加熱の可否、温度偏差についての結果を示す。温度偏差は、温度偏差が出やすい板エッジから50mmの範囲の温度とコイル中央部との温度差の最大を示し、+がエッジ側の温度が高く、−は中央部の温度が高いことを示す。
実施例Fは、使用する表裏面のコイル導体が端部方向、中央部ともに2本を使用し、板幅の内側で表裏コイルが交差する場合の例を、実施例Gは、同じく使用する表裏面のコイル導体が端部方向、中央部ともに2本を使用し、板端部をまたいで表裏コイルが交差する場合の例を、実施例Hは、同じく使用する表裏面のコイル導体が端部方向、中央部ともに2本を使用し、板端部の外側で表裏コイルが交差する場合の例を示す。
温度偏差は、使用コイル導体の数が同じであることから、鋼板に発生する誘導電流密度がほぼコイル導体直下では同じように流れていると考えられるが、板端部の内側で表裏導体コイルが交差する実験Fの温度偏差が小さく、板端部の外側で表裏導体コイルが交差する実施例Gの温度偏差が大きくなる。
これは、コイル導体の数(幅)を同じにしてコイル導体を流れる電流密度を同じにしても、移動する鋼板では、移動方向の加熱時間が異なるため加熱時間が長くなるに従い、実施例F,G,Hの順で鋼板端部の温度が高くなったと考えられる。次に、端部方向へのコイル導体の数を2本から3本に増やし、中央部のコイル導体の数が2本の場合が実施例I、3本に増やした場合が実施例Jである。
その結果は、鋼板端部側の温度分布は両者とも、ほとんど変化ないが、中央部のコイル導体2本の実施例Iに比べ、3本の実施例Jの場合には、鋼板中央部の温度が低く、結果として温度偏差が少し拡大した。更に、中央部のコイル導体を3本にし、端部側へのコイル導体を1本にし鋼板端部の外で交差するようにした実施例Kは、端部側へのコイル電流密度が高くなり、温度偏差は、より鋼板端部が高くなる温度分布となった。
表裏面のコイル導体を端部方向、中央部ともに1本を使用し、鋼板端部の内側で表裏コイルを交差させた実施例Lは、鋼板エッジの温度が鋼板中央部温度より低くなった。
このように、使用するコイル導体の数(導体の幅)と位置を選択することにより、様々な温度分布が実現できることを確認した。また、実施例F〜Lすべて750℃以上の非磁性域の加熱が可能であった。
(実施例3)
端部側へのコイル導体を図21に示すような、同方向へ向けたときの実施例を、表3に示す。用いた誘導コイル、電源は、実施例1で使用したものと同一で、0.4mm厚のSUS304鋼板800mmと600mmを2m/minで加熱した。被加熱材と誘導コイルとのギャップは、50mmとした。
実験は、中央部の表裏コイルのずらし量を100mm一定で、板幅800mmの鋼板使用時に鋼板端部を横切る時の表裏コイルの幅をエッジ部ずらし量とし、このエッジ部ずらし量が70mmの場合を実施例M(図34参照)、100mmの場合(図21参照、平行配置)を実施例N、150mmの場合を実施例O(図35参照)とした。
温度偏差は、板エッジから50mmの範囲の温度とコイル中央部との温度差の最大を示し、+がエッジ側の温度が高く、−は中央部の温度が高いことを示す。実施例Mの場合、中央部のずらし量に比べ鋼板端部のずらし量が狭い場合には、鋼板中央部より鋼板端部側の方の温度が低くでき、板幅が800mmの場合に比べ板幅が600mmの時には、エッジずらし量が少し広がり端部側の加熱時間が長くなるため、少し鋼板端部側の温度が上昇する。端部側へ向かう表裏コイルが平行となる実施例Nは、板幅800mmの場合にも、600mmの場合にも、変化がないことが確認できた。
一方、端部側へ向かう誘導コイルが鋼板端部側で開く実施例Oの場合、板幅が狭い方が鋼板端部のずらし量が狭くなるため、板幅が広い場合よりも、鋼板端部側の温度が高くなる。
(実施例4)
上記実施例3で使用した電源、鋼板を用い、図36に示すようなコイル形状で実験を行った。被加熱材と誘導コイルとのギャップは、50mmとした。コイル導体は、板端部に向けて中央部から端部に向かってテーパーを付けた導体で、表面側の導体の形状と裏面側の導体の形状を同形状にし、中央部、端部ともに表面側の導体と裏面側の導体を平行にして、板幅800mmの位置での導体の幅を変えた3種類のコイル導体を用意した。
エッジ部導体幅を60mmと狭くし、電流密度を上げるとともに、加熱時間が長くなる実施例Pの場合(エッジ部の導体幅が狭くなり、表面導体と裏面導体の距離が離れるため、端部側を流れる電流による加熱時間が長くなる。)、鋼板端部の温度が上昇するのに対し、導体幅が変化しない実施例Qの場合には鋼板端部の昇温量が低下する。
更に、コイル導体の幅が広くなり電流密度が低下するとともに加熱時間も短い(上記と逆に導体間距離が短くなるため加熱時間は短くなる。)実施例Rの場合には、鋼板中央部の温度が鋼板端部よりも高い温度分布となる。
(実施例5)
本発明の実施例として、LF式誘導加熱コイルと本発明による誘導加熱装置を直列接続した時の効果を確認する実験を行った。実験は、磁性材である0.23mm厚800mm幅の普通鋼冷延板を用い、常温からの加熱を行った。
実施例Sは、実施例Cで用いた誘導コイルに比較例EのLF式誘導加熱コイルを直列に接続した場合の発明による実験例を、比較例Tは、比較例として幅200mmの1TのLF式誘導加熱コイルのみを用いた場合実験例で、これらの結果を、表5に示す。
従来のLF式誘導加熱装置で加熱した比較例Tの場合には、730℃までしか加熱ができず、非磁性域までは加熱ができなかった。一方、本発明による加熱方式を用いた実施例Sは、非磁性域である1200℃まで加熱ができ、加熱効率もLF式で加熱するよりも高いことを確認した。加熱効率は、電源の投入電力に対する鋼板の温度上昇に正味使われた電力割合である。