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JP4759103B2 - 電界電子放出装置の製造方法 - Google Patents

電界電子放出装置の製造方法 Download PDF

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JP4759103B2
JP4759103B2 JP2001006888A JP2001006888A JP4759103B2 JP 4759103 B2 JP4759103 B2 JP 4759103B2 JP 2001006888 A JP2001006888 A JP 2001006888A JP 2001006888 A JP2001006888 A JP 2001006888A JP 4759103 B2 JP4759103 B2 JP 4759103B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電界放出型表示装置(Field Emission Display:FED)、陰極線管(Cathode Ray Tube:CRT)、平面型ランプ、電子銃等の電子線源に用いられる電界電子放出装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、電界放出によって電子源(エミッタ)から陽極に向かって真空中に電子を放出させる電界電子放出装置は、その電子で蛍光体を励起する表示装置や発光装置、或いは電界顕微鏡の電子銃等に好適に用いられている。ここで、「電界放出(電界電子放出)」とは、強電場の作用により、量子力学的なトンネル現象を利用して電子を固体表面から真空準位へ引き出すことである。真空準位と金属または半導体表面とのエネルギー差は仕事関数(work function)φで表されるが、例えば通常の金属材料では仕事関数φが数(eV)と大きいため、室温において金属中の電子が真空中に飛び出すことはない。しかしながら、外部から強電場を作用させることによりポテンシャル障壁を薄くすると、トンネル効果によって電子が確率論的に真空中に飛び出す。これが電界放出であり、仕事関数φが小さいほど弱い電場で電子を放出させることが可能となる。
【0003】
上記のような電界電子放出装置において、エミッタを多数本のカーボン・ナノチューブ(以下、単にナノチューブという)で構成することが提案されている。例えば、特開平10−149760号公報に記載された電界放出型冷陰極装置や特開平10−012124号公報に記載された電子放出素子等がそれである。ナノチューブとは、円筒状を成す炭素原子(C)の結合体であって、径の異なる複数個のグラファイト・シート(グラフェン・シートすなわち主として炭素の六員環から成るグラファイト層)が入れ子になり、全体の直径が1〜50(nm)程度、長さが100(μm)程度以下の寸法を有する微細な構造体をいう。このようなナノチューブは、微小径にされたその先端から効率よく電子放出が起き且つエミッション特性に優れると共に、炭素原子だけで構成されることから真空中で耐酸化性が高く化学的安定性に優れ且つ耐イオン衝撃性も高い特徴を有している。そのため、先端部を尖鋭にしたSpindt型と称されるモリブデン・コーン等で構成した数密度が数万(個/cm2)程度以下にしかならないエミッタに比較して、極めて高い数密度で配設されて高い電子放出効率を有し且つ気密空間内の残留ガスによる酸化や損傷延いては経時変化(劣化)等が生じ難いエミッタを簡単な製造工程で得ることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のナノチューブの製造方法として、例えば特開平10−265208号公報に記載されているように、真空下で炭化珪素(SiC)焼結体から成る基板を加熱処理して焼結体中の珪素原子を除去する方法がある。このような製造方法によれば、従来から行われていた不活性ガス雰囲気下で蒸発させたカーボンを凝縮(再結合)させるようなアーク放電法やレーザ・アブレーション法等に比較して、他の炭素同素体の生成を伴うことなく、ナノチューブの向き、高さや配設密度を揃えることができる。そのため、微小な電子発生源としてだけではなく、広い面積に亘って一様な輝度が要求されるFED等の表示装置や照明装置等にも好適に用い得るナノチューブが得られる。上記公報に記載された製造方法では、炭素が比較的高温まで安定な真空下で加熱された基板の表面から珪素(Si)が選択的に除去されることにより、その珪素除去層内に残留する炭素原子で珪素の移動方向すなわち基板内部から表面に向かう一方向に沿って配向するナノチューブが元の炭素原子密度に基づく高い数密度で生成されるものと考えられる。このようなナノチューブ生成作用は、炭化珪素焼結体に限られず他の共有結合性炭化物基板を熱処理する場合にも同様に得ることができる。ここで「共有結合性炭化物」とは、炭素と非金属元素(炭素との間でイオン性炭化物を作るものよりは陽性が弱く、侵入型炭化物を作るものよりは原子半径が小さい珪素等の元素)との化合物であって、共有性炭化物ともいう。
【0005】
しかしながら、上述した基板の熱処理でナノチューブを生成したエミッタでは、モリブデン・コーンやアーク放電法等で製造したナノチューブ等から成る従来のエミッタに比較してエミッション開始電圧が高くなる問題があった。基板表面に備えられたナノチューブの高さ寸法が一様であれば、電界の局部的な集中が生じない。そのため、基板表面の一部からの部分的な電子放出が抑制され延いては一様な輝度を得ることができるが、ナノチューブは基板表面において相互に密接して極めて高密度に備えられていることから、それらが同時に電子を放出するような高電圧の印加が必要となる。すなわち、一様な高さ寸法の小径のナノチューブが極めて高密度に並ぶことにより、エミッション開始時においては、実質的に膜状の導体でエミッタを構成したことになっていたのである。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、高密度に配向させられたナノチューブにより構成されたエミッタのエミッション開始電圧を低くし得る電界電子放出装置の製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
斯かる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、気密空間内において互いに対向して配置されたエミッタおよび陽極間に電圧を印加することにより、そのエミッタから電子を放出させる形式の電界電子放出装置の製造方法であって、(a)共有結合性炭化物から成る基板を0.1乃至10(Pa)の範囲内の真空下において1650乃至1800(℃)の範囲内の温度で1時間以上加熱することによりその基板の表層の共有結合性炭化物が酸化されて複数本のナノチューブが形成されると共にそのナノチューブの先端部が酸化される低真空熱処理工程と、(b)前記基板を10−4乃至0.1(Pa)の範囲内であって前記低真空熱処理工程よりも酸素分圧が低い真空下において1550乃至1800(℃)の範囲内の温度で1時間以上加熱することによりその基板の共有結合性炭化物のみが酸化される高真空熱処理工程とを、含むことにある。
【0008】
【発明の効果】
このようにすれば、真空下すなわち大気中よりも酸素分圧の低い雰囲気中において加熱された基板は、その表面から次第に共有結合性炭化物を構成する非金属元素が選択的に除去されるため、その表層部に炭素だけで構成される非金属元素除去層が形成されると共にその非金属元素除去層内に基板表面から前記陽極に向かって伸びる複数本のナノチューブが高密度に生成される。このとき、低真空熱処理工程および高真空熱処理工程の何れにおいても1時間以上の長時間に亘って加熱されることにより、表層部の非金属元素除去層は次第に厚くなる。この非金属元素除去層の表層に生成されたナノチューブは、低真空熱処理工程においては、基板が0.1〜10(Pa)程度の比較的低い真空度すなわち比較的酸素分圧の高い雰囲気下において1650〜1800(℃)で加熱されるため、非金属元素除去層の生成速度よりは遅い速度でその先端から酸化させられ基板表面においてその先端が疎に分布する。一方、高真空熱処理工程においては、基板が10-4〜0.1(Pa)程度の比較的高い真空度であって上記低真空熱処理工程よりも酸素分圧の低い雰囲気下において1550〜1800(℃)の温度で加熱されるため、非金属元素除去層の上層部はナノチューブ構造に保たれるが、下層部は表面に沿った方向にグラファイトや無定形炭素等が連なると共にそのナノチューブに原子レベルで連続する導電性の炭素層となる。
【0009】
上記により、高真空における熱処理だけを施した従来に比較して、基板表面においてナノチューブの先端が疎らになることから、実質的に膜状の導体でエミッタが構成されていた従来に比較してエミッション開始電圧が低下させられる。また、基板の内周部に位置するナノチューブは、それに原子レベルで連続する炭素層を介して基板周縁部との間の導通が確保されるため、ナノチューブが疎らになることによりナノチューブ相互の接触に基づく周縁部と内周部との間の導電性が低くなっていても、基板の全面で一様な電子放出効率が得られる。
【0010】
因みに、共有結合性炭化物からナノチューブが生成される反応は、例えば炭化珪素の場合には、
2SiC+O2 → 2SiO↑+2C
であると考えられている。すなわち、炭化珪素中のSiが雰囲気中に微量含まれる酸素(O2)に酸化されることによりガス化してその表面から消失させられ、残留するCによってナノチューブが形成される。この酸化反応は、他の共有結合性炭化物でも略同様であるものと考えられる。
【0011】
そのため、0.1(Pa)程度未満の高真空下では、非金属元素除去層が厚くなるほど、すなわちナノチューブが長くなるほどその下層部と表面との間のガス流通(O2の侵入或いはSiOの脱出)が困難になることから、その下層部では上記反応により生成されたCがそのガスの流れに沿って成長させられるナノチューブにはならず、構造の乱れた炭素層になるものと考えられる。このとき、炭素層が形成されるためには上記のようにナノチューブが十分に成長する必要があることから、加熱時間は1時間以上の長時間としなければならない。また、温度が高くなるほどナノチューブの成長速度すなわちSiCの分解速度は高くなるため、高真空下の加熱であっても、1550(℃)未満の低温ではガスの流通速度がその分解速度に対して十分に高く保たれることになって炭素層は生成されずナノチューブだけが成長する。反対に1800(℃)以上の高温ではガスの流通速度が上記分解速度に対して低くなり過ぎるため、非金属元素除去層の上層部までナノチューブが乱れて略全体が炭素層になる。なお、圧力が10-4(Pa)程度未満になると、酸素分圧が低過ぎることから共有結合性炭化物の非金属元素が酸素と化合することによるその除去が殆ど進行しないため、ナノチューブも殆ど成長せず且つ炭素層も生成されない。
【0012】
一方、0.1(Pa)程度以上の低真空下では酸素分圧が高いことから、前記反応により生成されたCが、
C+O2 →CO2
との酸化反応で基板表面すなわちナノチューブの先端部からガス化して消失する。このとき、圧力が10(Pa)程度未満に設定されていることから、その消失速度が全てのナノチューブで均一とはならないため、その速度の相違に基づき表面においてナノチューブ先端が疎らに分布することになるものと考えられる。エミッション特性に差が生ずる程度にナノチューブが疎らになるためには、1時間以上の長時間に亘って加熱する必要がある。また、圧力が0.1(Pa)未満、或いは温度が1650(℃)程度未満では、ナノチューブ先端の酸化速度が著しく低くなるためその先端部が疎らにはならない。また、10(Pa)以上、或いは1800(℃)以上では、基板表面に存在する全てのナノチューブの消失速度が著しく高くなるため、その先端部を疎らにすることができない。なお、過度の酸化反応を抑制するためには、酸素分圧を5(Pa)以下とすることが望ましい。この酸素分圧は、水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素等が雰囲気中に含まれる場合には、これらに含まれる酸素をO2に換算した場合の分圧である。
【0013】
【発明の他の態様】
ここで、好適には、前記低真空熱処理工程は、前記高真空熱処理工程に先立って実施されるものである。このようにすれば、理由は定かではないが、逆の順序で処理した場合に比較して、適度に疎ら且つ表面抵抗の十分に低いエミッタを得ることができる。
【0014】
また、好適には、前記の基板は炭化珪素から成るものである。このようにすれば、基板表面に適度な密度を以て一様に配向させられたナノチューブを生成できる。これは、珪素と炭素との酸化傾向が微妙に異なり、珪素のみが酸化される条件があるためと推定される。なお、炭化珪素は一般にα型(α-SiC)およびβ型(β-SiC)に分類されるが、何れから成る基板にもナノチューブが好適に生成される。上記のα型およびβ型は、多数存在する炭化珪素の多形を二分類したものであり、立方晶の3Cをβ型といい、それ以外の非等軸晶(六方晶の2H、4H、6Hおよび菱面体の15R等)をα型という。ここで、2H等はRamsdellの表記法に従ったものである。
【0015】
また、好適には、前記電界電子放出装置の製造方法は、前記低真空熱処理工程および高真空熱処理工程に先立ち、前記基板表面を鏡面に仕上げ加工する研磨工程を含むものである。基板表面が粗くなると、非金属元素が除去されて残った炭素原子が再配列する際にナノチューブ構造を採り難くなり、或いは一旦はナノチューブ構造となってもその成長が進行していくうちに乱れてナノチューブ構造を維持できなくなる。上記のようにすれば、炭素原子が再配列する際にナノチューブ構造を採り易くなると共に、ナノチューブの成長方向が揃うため成長に伴う乱れも発生し難い。そのため、高密度に配向させられたナノチューブにより構成されたエミッタを一層容易に得ることができる。なお、上記の鏡面は、好適には、Ra=0.02(mm)以下の表面粗さの平滑面である。
【0016】
また、好適には、前記基板は、その結晶面に平行な表面を備えた単結晶である。このようにすれば、ナノチューブは結晶面に垂直な方向に配向する傾向があることから、表面に生成されるナノチューブ相互の独立性が高められて実質的な電子放出位置(エミッション・サイト)が多くなるため、電子放出効率が一層高められる。一層好適には、上記表面は、炭素だけが存在する第1の層と非金属元素だけが存在する第2の層とが交互に積み重ねられる方向における積層面である。このようにすれば、ナノチューブの配向性延いては独立性を更に高めることができる。これは、最表面に位置する非金属元素が除去される際、余った炭素原子がチューブ形状を形成し易いためと考えられる。上記の積層面は、例えば、2Hのα-SiC単結晶等のような六方晶の化合物においては(0001)面であり、β-SiC単結晶等のような立方晶の化合物においては(111)面である。
【0017】
また、好適には、前記電界電子放出装置の製造方法は、前記低真空熱処理工程および高真空熱処理工程に続いて、ナノチューブのドーム状の先端部に備えられたキャップを除去してその先端を開放させる先端開放工程を含むものである。このようにすれば、ナノチューブは前記陽極側に位置する先端が開放させられることから、円筒状のグラファイト層の端面でその先端が構成されることとなるため、その先端における曲率半径は実質的にそこに位置する炭素原子の半径に略一致する。しかも、ナノチューブは円筒状を成す複数個のグラファイト層が入れ子になって構成されたものであるため、ドーム状に閉じている先端が開放されることにより内周側に備えられているグラファイト層の端面が露出させられる。そのため、そのナノチューブの先端は、それぞれ炭素原子の原子半径に略等しい曲率半径を有した複数のグラファイト層の端面で構成され、その開放された先端に位置する個々の炭素原子から電子が放出される。したがって、先端の曲率半径が極めて小さく、且つ実質的な電子放出位置が多くなることから、電子放出効率を飛躍的に高めることができる。
【0018】
上記の先端開放工程は、例えば、酸素の存在下において500〜750(℃)程度の温度で加熱する酸化熱処理工程である。このようにすれば、ナノチューブの先端が閉じるように導入されている五員環或いは七員環は、グラファイトの基本構成要素である六員環よりも結合力が小さいことから、熱を加えることにより優先的に分解されるため、キャップがそれら五員環或いは七員環の存在する位置から分離される。酸化熱処理時間は、好適には、1分乃至20分程度であり、処理温度に応じて適宜設定される。なお、500(℃)未満の低温或いは1分未満の短時間では五員環および七員環が分解されないため先端を開放できない。一方、750(℃)を越える高温或いは20分を越える長時間では六員環も分解されてナノチューブが失われることとなる。
【0019】
また、前記の先端開放工程は、ナノチューブの先端側からプラズマ・エッチングする工程であってもよい。このようにすれば、先端の開放処理時に酸素によってナノチューブが劣化し、或いは酸素の吸着によってエミッション特性が低下させられることが好適に抑制される。なお、エッチングに利用するガスはCF4、水素、アルゴン、ヘリウム、窒素、或いはそれらの混合ガスが好適に用いられる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の電界電子放出装置の製造方法が適用されたFED10の構成の要部を模式的に示す断面図である。図において、FED10は、透光性を有する略平坦な前面板12と、それに平行に配置された背面板14とが枠状のスペーサ16を介して接合されることにより、内部が10-4(Pa)程度以下、好ましくは10-5(Pa)程度以下の真空度の気密容器に構成されている。前面板12および背面板14は、それぞれ1〜2(mm)程度の厚さのソーダライム・ガラス製の平板等から成るものである。但し、背面板14は透光性を要求されないため、セラミックス或いは琺瑯等の電気絶縁性を有する他の材料で構成してもよい。また、上記のスペーサ16は、例えば前面板12および背面板14の構成材料と同様な熱膨張係数を有する材料、例えばそれらと同様なソーダライム・ガラスや表面に絶縁層を設けた426合金等から成るものであって、例えば0.3(mm)程度の一様な厚さを備えている。
【0022】
上記の前面板12の内面18には、透明なITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウム錫)等から成る複数本の陽極(アノード)20が、一方向に沿ってストライプ状に配列形成されている。この陽極20は、例えばスパッタや蒸着等の薄膜プロセスによって1(μm)程度の膜厚に設けられたものであり、シート抵抗値で10(Ω/□)程度の高い導電性を有する。これら複数本の陽極20の各々の下面には、例えば赤、緑、青にそれぞれ発光させられる蛍光体層22が、それら3色が繰り返し並ぶように設けられている。蛍光体層22は、例えば、低速電子線で励起されることにより可視光を発生させる(Zn,Cd)S:Ag,Cl(赤)、ZnGa2O4:Mn(緑)やZnS:Cl(青)等の蛍光体材料から構成されるものであり、例えば10〜20(μm)程度の色毎に定められた厚さ寸法となるように厚膜スクリーン印刷法等で形成されている。
【0023】
一方、背面板14の内面24には、例えばストライプ状の複数本の陰極26が上記の陽極20と直交する他方向に沿って配列形成されている。陰極26は、例えば、Ni、Cr、Au、Ag、Mo、W、Pt、Ti、Al、Cu、Pd等の金属、合金、或いは金属酸化物とガラスとから構成される厚膜印刷導体である。これら複数本の陰極26の各々の上には、後述するように電子の発生源となるエミッタ28が、例えば導電性接着剤等によって陰極26と導通させられた状態で固着されている。エミッタ28と陽極20との距離は、例えば数十(μm)〜数十(mm)程度、例えば20(mm)程度である。なお、図においてはエミッタ28が図の左右方向において陰極26と略同じ長さ寸法に描かれているが、エミッタ28は、実際には例えば陰極26上においてFED10の画素(独立して制御される発光単位)毎に分割して設けられており、個々のエミッタ28の大きさは、例えば2×6(mm)程度である。そして、エミッタ28の上方には、陰極26と直交する方向、すなわち陽極20と同様な一方向に沿って配列されたストライプ状の複数本のゲート電極30が、絶縁膜32によってエミッタ28と電気的に絶縁させられた状態で備えられている。ゲート電極30は、例えばクロム(Cr)等から構成されて、陰極26との交点の各々に直径1〜2(μm)程度の複数個の電子通過孔34を備え、エミッタ28との距離は数(mm)程度以下、例えば0.5(mm)程度である。また、絶縁膜32は、二酸化珪素(SiO2)等の絶縁材料で構成されている。これらゲート電極30および絶縁膜32は、何れも真空蒸着法、印刷法、或いはスパッタ法等によって形成されている。
【0024】
そのため、陰極26およびゲート電極30にそれぞれ信号電圧および走査電圧が印加されると、それらの間の大きな電圧勾配に基づいて生じる電界放出(Field Emission)によってその陰極26上に固着されているエミッタ28から電子が放出される。この電子は、前面板12上に設けられている陽極20に所定の正電圧が印加されることにより、ゲート電極30に設けられている電子通過孔34を通ってその陽極20に向かって飛ぶ。これにより、その陽極20上に設けられている蛍光体層22に電子が衝突させられ、蛍光体層22が電子線励起により発光させられる。したがって、ゲート電極30の走査のタイミングに同期して所望の陽極20に正電圧を印加することにより、所望の位置にある蛍光体層22が発光させられるため、その光が前面板12を通して外部に射出されることにより、所望の画像が表示される。なお、駆動方法の詳細については、本発明の理解に必要ではないので説明を省略する。
【0025】
図2(a)、(b)は、上記のエミッタ28の断面構成を詳しく示す図である。図2(a)において、エミッタ28は、例えば炭化珪素から成る炭化物部36と、その炭化物部36の表面全体を覆う珪素除去層38とを備えている。この珪素除去層38は、製造方法を後述するように炭化珪素を構成する珪素が除去されることにより炭素だけから構成された厚さ寸法hが数(μm)程度、例えば1.0(μm)程度の厚みの層である。図2(a)において一点鎖線bで囲んだ範囲を図2(b)に拡大して模式的に示すように、珪素除去層38は、エミッタ28の略平坦な表面48側においては、炭化物部36の表面40上に形成された珪素除去層38の下層部を構成する炭素層42と、その炭素層42の表面44上から伸びて珪素除去層38の上層部を構成する多数本のナノチューブ46とから成る。また、エミッタ28の他の面、すなわち図2(a)における側面および底面にはナノチューブ46は殆ど存在せず、実質的に炭素層42だけで珪素除去層38が構成されている。
【0026】
上記の炭素層42は、厚さ寸法hgが数百(nm)〜数(μm)程度、例えば300(nm)程度で、主として炭素原子の平坦な網目構造から成るグラファイトや無定形炭素等から成るものである。炭素層42内では、炭素原子の結合構造が図における左右方向に連なることにより、その表面44延いては炭化物部36の外周面に沿った方向において高い導電性を有している。このため、陰極26上にエミッタ28の下面を導電性接着剤等で固着するだけで、その表層部に形成された炭素層42によってその陰極26とナノチューブ46との間に導電性の高い通電経路が形成される。なお、図2(b)においては、炭化物部36の表面40および炭素層42の表面44が平坦に描かれているが、実際には、これら表面40、44は略平坦な例えば高低差が1(μm)程度以下の凹凸面である。この炭素層42は、後述する製造方法や図9等から明らかなように炭化物部36の表面40から原子レベルで連続しており、何ら接合処理等を施すことなく、その炭化物部36上に一体的に設けられている。
【0027】
また、上記のナノチューブ46は、例えばd=5〜10(nm)程度の直径を備えたものであって、その先端が陽極20に向かうように表面44に対して略垂直を成す方向に配向する。このナノチューブ46も炭素層42の表面44から原子レベルで連続しており、実質的に炭化物部36上に一体的に設けられている。前述した駆動過程におけるエミッタ28からの電子の放出は、これらのナノチューブ46の先端から為されるものであり、したがって、本実施例においては、エミッタ28の表面48に備えられた多数本のナノチューブ46の各々が実質的にエミッタとして機能する。
【0028】
但し、ナノチューブ46は、長さ寸法hnの異なる2種類で構成され、一方が数十〜数百(nm)程度、例えば700(nm)程度、他方がこれよりも数〜数十(nm)程度だけ短い例えば数十〜数百(nm)程度、例えば640(nm)程度の長さ寸法を備えている。なお、ナノチューブ46の先端の高低差は、長さの異なる2種類の各々において数(nm)〜数十(nm)程度範囲内に留まり、略一様な高さといい得る程度である。そのため、表面48においては、ナノチューブ46が、例えば1011〜1012(本/cm2)程度[例えば、2500〜10000(本/μm2)程度、例えば4000(本/μm2)程度]の数密度を以て略一様な分布で疎らに存在し、その表面48における相互間隔(すなわち長い方のナノチューブ46の相互間隔)Gは例えば数(nm)〜数十(nm)程度になっている。なお、上記の配置密度は、例えば全てのナノチューブ46が密接して設けられている場合の1/2程度である。図3に、表面48におけるナノチューブ46の分布状態を模式的に示す。表面48にはhn=700(nm)程度の高さ寸法のものだけが分布しており、複数本のナノチューブ46の各々は、その先端部が他のナノチューブ46に接触しないで独立して存在し、或いは相互に先端部の接触(若しくは略接触)する数本(例えば2〜5本程度)のその先端部が他のナノチューブ46から離隔して存在する。
【0029】
また、図4に先端部を拡大した分子構造モデルを示すように、上記のナノチューブ46は、その周壁が炭素原子50の六員環が網状に連結されて成る複数本(例えば2〜10本程度)の順次径の異なる円筒状グラファイト層52a、52b、〜52k(以下、特に区別しないときは単にグラファイト層52という)が入れ子になって、2〜10層程度の多層構造から成る円筒状のグラファイト層52で構成されたものである。前記の図3においては、この入れ子構造のためにナノチューブ46を表す円が多重に描かれている。個々のナノチューブ46の先端には多重構造を成すグラファイト層52の端面が露出している。すなわち、ナノチューブ46は陽極20に向かう先端が開放した形状を備えており、そのグラファイト層52の端面を構成する複数の炭素原子50の各々から電子が放出されることとなる。したがって、エミッタ28の先端の実質的な曲率半径は、炭素原子50の半径に一致する。
【0030】
なお、ナノチューブ46の各々において、最外周に位置するグラファイト層52aの直径すなわちナノチューブ46の直径odは前述したように5〜10(nm)程度であり、最内周に位置するグラファイト層52kの直径idは例えば3(nm)程度である。そのため、本実施例においては、直径od=10(nm)程度以下の極めて微細な領域内に極めて多数のエミッション・サイト(電子の放出位置)が存在する。また、各グラファイト層52の相互間隔gは、平坦なグラファイトの層間隔に略等しい3.4(Å)程度であり、個々のナノチューブ46においてグラファイト層52は相互に略独立している。
【0031】
上記のように構成された複数本のナノチューブ46は、前述したようにそれぞれ独立し或いは相互に僅かに接触する程度の位置関係にあるため、その接触に基づくナノチューブ46相互間の電気抵抗は比較的大きい。しかしながら、ナノチューブ46はそれ自身が導電性の高いグラファイト層52で構成されると共に、表面48に沿った方向において高い導電性を有した炭素層42上に原子レベルで連続しているため、何れのナノチューブ46に対しても、その炭素層42を介した極めて抵抗率の低い通電経路が形成される。また、炭化物部36を構成する炭化珪素の導電性は極めて低いが、その表面全体が導電性の高い炭素層42で覆われているため、エミッタ28にはその表層部の珪素除去層38を通る導電性の高い通電経路が形成される。
【0032】
したがって、その炭素層42の表面44に備えられたナノチューブ46は、炭素層42および導電性接着剤を介して陰極26に導通させられることから、前述したように陰極26およびゲート電極30間に電圧を印加すると、ナノチューブ46に通電させられてその先端から電子が放出されることとなる。このとき、陰極26からエミッタ表面48の内周側に至る通電経路は、極めて導電性の高い炭素層42だけで専ら構成されることから、ナノチューブ46に流れる電流値は、その表面48の外周部および内周部の何れに位置するものも同様な大きさとなる。すなわち、エミッタ28は、珪素が除去されることにより一面48から陽極20に向かう一方向に沿って伸びるように生成された複数本のナノチューブ46と、炭化珪素のままの炭化物部36とナノチューブ46との界面に生成された炭素層42とを有していることから、周縁部からナノチューブ46に至る通電経路がその一面48に沿った方向において導電性を有する炭素層42によって形成されるため、その通電経路の抵抗率が十分に低くなる。そのため、内周部においてもナノチューブに流れる電流値が十分に大きくなることから、その内周部において電子放出効率が低下することが抑制され、エミッタの電子放出効率が全面で一様となる。上記により、個々のエミッタ28からはその表面48全面で一様に電子が放出され、延いては複数本の陰極26の上にそれぞれ設けられているエミッタ28の略全面から略一様に電子が放出され、略一様な電界が形成されることとなる。このように、一方向に配向し且つそれぞれが炭素層42を介して陰極26に接続された複数本のナノチューブ46からエミッタが構成されることから、高電流密度で特性の一様なエミッタ28を備えたFED10が得られる。
【0033】
しかも、エミッタ28には、前述したように長さが十分に異なる2種類のナノチューブ46が備えられており、長い方のナノチューブ46が比較的大きな相互間隔Gで設けられていることから、エミッタ28に電圧が印加されると、相対的に先端が陽極20に近い一方(長い方)のナノチューブ46の先端に電界が集中する。すなわち、本実施例においては、電圧を印加した際に複数本のナノチューブ46が膜状の一つの電極として作用することはなく、各々が独立した電極として機能し、それぞれの先端に電界が集中する。この結果、電界が集中させられたナノチューブ46だけから電子が放出されることから、実際にエミッタとして機能するのはその長い一方の群だけである。そのため、ナノチューブ46が緻密に備えられて実質的に膜状のエミッタとなっていたことにより電界集中の生じ得なかった従来に比較して、エミッション開始電圧が例えば1/4程度に飛躍的に低下する。
【0034】
上述した構造を備えたエミッタ28の電気的性能を、表面48が5×5(mm)程度の大きさに形成された他は同様な構造を有したエミッタを用い、ナノチューブ46とゲート電極30との距離を0.5(mm)程度、ゲート電極30と陽極20との距離を30(mm)程度とした三極管構造の電界電子放出装置を作製して評価した。この装置において、ゲート電圧2(kV)、アノード(陽極)電圧5(kV)とすると、放出電流すなわち陽極20と陰極26との間に流れる電流値は200(μA)以上と十分に大きく、また、蛍光体層22の発光を観察することにより、エミッタの周縁部および中央部から略一様に電子が放出されることが確かめられた。上記のような比較的低い電圧でこのような高い電子放出能力が得られるのは、各々の内周側に位置するグラファイト層52の端面が露出させられてエミッション・サイトが極めて多く且つ先端の曲率半径が極めて小さくなっているナノチューブ46が、その先端部が疎らに分布するように設けられていることによるものである。
【0035】
なお、図5に、エミッタ28の寸法が1×3〜4(mm)程度である場合のグリッド電圧と陰極−陽極間の電流値との関係を測定した結果を示す。図において、「実施例」は前述した構造を備えたエミッタ28を用いた本実施例を、「比較例1」は炭素層42を備えているがナノチューブ46の高さ寸法は略一様な比較例を、「比較例2」は2種類の高さ寸法のナノチューブ46が備えられているが炭素層42を備えていない比較例をそれぞれ表す。本実施例によれば、比較例1,2の何れに比べても極めて低い電圧でエミッションが開始し、低電圧で大きな電流が流れることが判る。なお、比較例2では、比較例1よりも低電圧でエミッションが開始するが、一定の値以上に電圧を高くしても電流値が大きくならない飽和電圧が存在する。これに対して、本実施例ではそのような不都合は3.0(kV)程度までの範囲では見られず、印加電圧を高くするほど電流値を大きくし、延いてはFEDの輝度を高めることができた。
【0036】
ところで、上記のエミッタ28は、例えば、図6に示される工程に従って製造される。以下、図6および工程の要部段階を示す図7(a)〜(c)を参照してその製造方法を説明する。
【0037】
まず、例えば(0001)面が表面54に現れたα型、或いは(111)面が表面54に現れたβ型の炭化珪素単結晶から成る基板56を用意し、真空炉58内にその表面54が上向きとなるように配置する。図7(a)はこの状態を示している。低真空熱処理工程70では、この真空炉58内において基板56を1650〜1800(℃)程度の範囲内の温度、例えば1700(℃)程度の温度で、1時間以上の長時間、例えば6時間程度だけ加熱する低真空熱処理を施す。この加熱処理中においては、真空炉58内が、0.1〜10(Pa)の範囲内の圧力、例えば6(Pa)程度の減圧下すなわち真空下に保たれ、炉内雰囲気が大気よりも酸素(O2)の希薄な酸素分圧の低い状態とされる。これにより、炭化珪素を構成する珪素(すなわち共有結合性炭化物を構成する非金属元素)が基板56の表面54を含む外周面全体から酸化され且つガス化して次第に除去され、その平坦な表面54近傍に炭素原子50だけから成る前記の珪素除去層38が形成される。図7(b)はこの状態を示している。
【0038】
このとき、この工程では真空度がそれほど高くないことから、真空炉58内には炭化珪素の酸化に用いられない酸素が余剰に存在するため、生成されたナノチューブ46はこの余剰酸素によって先端から順次に酸化される。但し、前記の温度および圧力ではナノチューブ46の酸化速度は炭化珪素の酸化速度よりも遅いため、生成されたものが完全に消失させられることはなく、また、ナノチューブ46の減耗量が一様にはならない。そのため、当初は密接した状態で略一様な高さ寸法に生成される複数本のナノチューブ46は、その先端部の減耗量の大きなものと小さなものとが略一様な分布を以て混在させられることになる。すなわち、前述したように表面48において疎らに分布するナノチューブ46が生成される。図8(a)にこの段階における基板表面48近傍の前記の図2(b)に対応する要部断面を示す。生成されたナノチューブ46は主に炭素の六員環で構成されているが、その端部には五員環或いは七員環が導入されて曲率半径10(nm)程度の小さなドーム状に閉じている。また、ナノチューブ46は、α型においては[0001]方向に、β型においては[111]方向に高配向している。なお、この段階では、炭素層42は生成されておらず、炭化物部36上にナノチューブ46が直接立設させられている。
【0039】
次いで、高真空熱処理工程72では、真空炉58内に入れたまま、基板56を1550〜1800(℃)程度の範囲内の温度、例えば1700(℃)程度の温度で、1時間以上の長時間、例えば10時間程度だけ加熱する高真空熱処理を施す。この加熱処理中においては、真空炉58内が、10-4〜0.1(Pa)の範囲内の圧力、例えば10-2(Pa)程度の減圧下すなわち真空下に保たれ、低真空熱処理工程70における場合よりも更に炉内雰囲気が酸素(O2)の希薄な酸素分圧の低い状態とされる。これにより、低真空熱処理工程70の場合と同様に、珪素が酸化され且つガス化して基板56から更に除去されることにより、珪素除去層38が深くなる。
【0040】
このとき、この工程では真空度が比較的高いことから、真空炉58内には余剰の酸素が存在しないため、生成されたナノチューブ46がその先端から酸化して減耗させられる現象は殆ど生じない。そのため、珪素除去層38が深くなってナノチューブ46が長くなるに従い、ナノチューブ46の先端部(当初の基板表面54)と炭化物部36の表面40との間のガス流通が阻害されることから、そのガス流通を必要とするナノチューブ46の成長が困難になる。この結果、炭化珪素除去層38の一定以上の深さ位置では、表面40に沿った方向に炭素が連なる前記の炭素層42が生成され、炭化物部36の表面40に炭素層42を介してナノチューブ46が形成されることになる。図8(b)にこの段階における基板表面近傍の前記の図2(b)に対応する要部断面を示す。
【0041】
図9は、上記の真空熱処理によるナノチューブ46の形成過程を説明するモデル図である。α型炭化珪素の(0001)面およびβ型炭化珪素の(111)面は、炭素50だけの層と珪素60だけの層が交互に積層された結晶面であるが、このような面から珪素60が除去される際には、炭素50がチューブ形状を形成し易い。すなわち、炭化珪素の珪素原子60が炉内の酸素66によって選択的に酸化され一酸化珪素64になって抜け出ると、残された炭素50が高温下で再配列させられることにより、基板56には表面54(仮想線で示す)側から順に炭素50だけの分子構造が形成されていく。このように形成される分子は、前述のように炭素原子50が網状につながった六員環構造を成すグラファイトであるが、上記の結晶面から珪素原子60が除去されると、その六員環構造は一酸化珪素64の移動方向に沿ってエピタキシャル的に成長し、基板表面54の結晶面に応じてその成長方向が決定されるものと考えられる。そのため、熱処理の進行に伴って珪素除去層38が深くなると、上記のような結晶方位では円筒状のグラファイト・シートが基板56の厚み方向すなわち珪素除去層38の進行方向に伸びるように形成され、炭化珪素の結晶構造をある程度受け継いで図に示されるように炭化物部36と原子レベルで連続させられた形で、緻密に並び且つ基板表面54すなわちエミッタ表面48に略垂直な方向に配向したナノチューブ46が得られるものと推定される。
【0042】
但し、炉内に酸素66が余剰に存在すると、網状につながった炭素50の一部が酸化され一酸化炭素或いは二酸化炭素68となって抜け出る。この炭素50の抜け出たところでは炭素50が再び再配列して網状構造を形成するため、ナノチューブ46はその構造を維持しつつ減耗させられる。そのため、ナノチューブ46の成長速度は、珪素原子60が除去される速度と炭素原子50が除去される速度との差で決まる。したがって、低真空熱処理工程70においては、炉内酸素分圧が高いことから炭素原子50の除去速度が高いためナノチューブ46が減耗するが、高真空熱処理工程72においては、酸素分圧が低いことから炭素原子50の除去速度が著しく低くなるためナノチューブ46の成長速度が高くなり、延いては炭素層42が形成されるものと考えられる。
【0043】
このように珪素除去層38延いてはナノチューブ46が形成される過程において、本実施例では、まず、低真空熱処理工程70においては、1700(℃)程度と十分に高い加熱温度および6(Pa)程度と圧力延いては酸素分圧が比較的高い条件下において加熱時間が6時間程度と長時間に設定されているため、比較的高い速度で炭素原子50が除去されつつナノチューブ46が成長させられ、珪素除去層38の深さは例えば600(nm)程度になる。その後の高真空熱処理工程72においては、1700(℃)程度と十分に高い加熱温度および10-2(Pa)程度と圧力延いては酸素分圧が比較的低い条件下において加熱時間が10時間程度と極めて長時間に設定されているため、珪素除去層38の深さは例えば1.0(μm)程度にもなる。珪素除去層38が深くなるほど、表面54と内部すなわち炭化物部36の表面40との間のガス流通が妨げられる。したがって、珪素除去層38の一定以上の深さ位置、上記の条件下では700(nm)以上の深さ位置においてはガス流通を必須とするナノチューブ46は殆ど生成されず、表面54に沿った方向に連なるグラファイト或いは無定形炭素等により構成された前記の炭素層42がそのナノチューブ46および炭化物部36の何れとも原子レベルで連続した状態で生成されることとなるものと考えられる。
【0044】
すなわち、酸素分圧の低い雰囲気中において加熱されることにより、基板表面54から次第に珪素が選択的に除去されるため、その表層部に炭素だけで構成される珪素除去層38が形成されると共にその珪素除去層38内に基板表面54から陽極20に向かって伸びる複数本のナノチューブ46が高密度に生成される。このとき、低真空熱処理工程70および高真空熱処理工程72の何れにおいても1時間以上の長時間に亘って加熱されることにより、表層部の珪素除去層38は次第に厚くなる。この珪素除去層38の表層に生成されたナノチューブ46は、低真空熱処理工程70においては、基板が6(Pa)程度の比較的酸素分圧の高い雰囲気下において1700(℃)程度で加熱されるため、珪素除去層38の生成速度よりは遅い速度でその先端から酸化させられ基板表面54においてその先端が疎に分布する。一方、高真空熱処理工程72においては、基板が10-2(Pa)程度の比較的酸素分圧の低い雰囲気下において1700(℃)の温度で加熱されるため、珪素除去層38の上層部はナノチューブ構造に保たれるが、下層部は表面に沿った方向にグラファイトや無定形炭素等が連なると共にそのナノチューブに原子レベルで連続する導電性の炭素層42となる。上記により、高真空における熱処理だけを施した従来に比較して、ナノチューブ46が疎らになることから、実質的に膜状の導体でエミッタが構成されていた従来に比較してエミッション開始電圧が低下させられる。また、基板56の内周部に位置するナノチューブ46は、それに原子レベルで連続する炭素層42を介して基板周縁部との間の導通が確保されるため、全面で一様な電子放出効率が得られる。
【0045】
なお、低真空熱処理工程70および高真空熱処理工程72における加熱時間は、何れも1時間以上であればよく、特に上限は無い。加熱時間が長くなればナノチューブ46の減耗量が増大するが、同時に珪素除去層38も深くなり、炭素層42上にナノチューブ46が備えられた構造は維持される。したがって、特性の向上の認められる加熱時間には上限があるが、それよりも加熱時間が長くなっても製造効率が低下するほかは特に不都合はない。また、図9においてはナノチューブ46の先端に中央部を除いて円筒状グラファイト層52の端面が描かれているが、実際には、その中央部および前記の図8に示すように、その先端部は五員環或いは七員環が導入されることでドーム状に閉じている。
【0046】
図6に戻って、酸化熱処理工程74においては、上記のようにして基板表面54上にナノチューブ46を形成した後、その基板56を加熱炉62中で熱処理する。熱処理条件は、例えば、大気雰囲気(酸化雰囲気)中で、温度600(℃)、処理時間10分程度である。図7(c)は、酸化熱処理の実施状態を表している。酸化熱処理が施された基板56は、ナノチューブ46の先端部のうち六員環に比較して結合力が小さい五員環等で構成される部分が破壊され、その部分から先が分離される。これにより、前記の図2(b)や図4等に示されるようにナノチューブ46の先端が開放されるため、高く且つ一様な電子放出効率を有するエミッタ28が得られるのである。
【0047】
ここで、前記のエミッタ28の製造工程における低真空熱処理工程70および高真空熱処理工程72の条件を種々変更した実験結果について説明する。エミッタ28の出発材料には全て(0001)面が表面54に現れたα−炭化珪素から成る4〜5(mm)×1(mm)×厚さ0.3(mm)程度の大きさの基板56を用い、前記の真空炉58内に配置して加熱温度を1500〜1800(℃)の範囲で、圧力を6(Pa)、および加熱時間を0.5〜10.0時間の範囲でそれぞれ適宜設定して加熱処理を施した。真空熱処理により表面48にナノチューブ46が生成された試料について、ナノチューブ46の先端部の分布状態と、その生成面の表面抵抗(シート抵抗値)とを評価した。先端部の分布状態の評価は、ナノチューブ46の生成面を相互に貼り合わせてその重なり具合を観察することで行った。重なりが見られることは、先端部が疎らに分布していることを意味する。結果を下記の表1に示す。なお、表面抵抗は、試料の長手方向の両端部に電極を軽く押し当てて電極間の抵抗値を測定して求めた。なお、1800(℃)を越える温度で加熱した試料では、珪素除去層38が全てグラファイトおよび無定形炭素から成る炭素層42で構成されている部分があり、ナノチューブ46の重なりも確認できなかったため、表面抵抗を測定していない。
【0048】
Figure 0004759103
【0049】
なお、上記の表1には示していないが、従来行われていた10-2(Pa)程度の真空下では炉内の残留酸素が極めて少ないことから生成したナノチューブ46が殆ど酸化させられないため、ナノチューブ46先端部が疎らにならない。これに対して、6(Pa)程度の低真空度では、1600(℃)を越える条件下、すなわち1700(℃)或いは1800(℃)において、ナノチューブ46が疎らになる結果が得られた。
【0050】
次いで、上記の低真空熱処理によってナノチューブ46先端の重なりの認められた試料のうち、1700(℃)で6時間加熱したものを、10-2(Pa)の高真空下において加熱温度を1500〜1800(℃)の範囲で、加熱時間0.5〜10.0時間の範囲で種々変更して熱処理し、表面抵抗を表1の場合と同様にして評価した結果を説明する。
なお、下記の表2において、1500(℃)で10時間加熱した場合は、6時間加熱したものと変化が見られなかったため、1800(℃)で10時間加熱した場合は、珪素除去層38の全体が炭素層42で構成されてナノチューブ46が認められなかったため、何れも表面抵抗を測定しなかった。
【0051】
Figure 0004759103
【0052】
上記の表2に示されるように、低真空で熱処理したものを高真空で再度熱処理することにより、その高真空における加熱温度を1600(℃)以上、加熱時間を2時間以上とすれば、表面抵抗の十分に低いエミッタ28を得ることができる。また、加熱時間が長くなるほど表面抵抗が低下する傾向があり、0.5時間程度の加熱では不十分であるが、1時間程度以上加熱すれば、電子源として使用するために好ましい300(Ω/□)程度以下の高い導電性が得られる。なお、上記のように高真空熱処理によって抵抗値を低下させた試料表面を観察したが、低真空熱処理後の疎らなナノチューブ46の分布状態が維持されていることが確かめられた。
【0053】
因みに、ナノチューブ46を電子の放出源とするエミッタ28を備えたFED10においては、輝度むらを生じさせることなく一画素の大きさを十分に大きくすると共に低電圧で駆動可能とすることが望まれる。例えば、一画素が2(mm)×6(mm)程度の大きさである場合には、輝度むらが生じないように内周部における電子放出効率を周縁部におけるそれと同様にするため、例えば300(Ω/□)程度以下の導電性が要求される。但し、必要な導電性はエミッタ28の大きさに応じて相違し、0.8(mm)×4(mm)程度の大きさでは可及的に高い導電性を有することが好ましいもののエミッタ28の表面抵抗は殆ど問題にならず、これらの中間の大きさのエミッタ28においては、300(Ω/□)程度以上の適宜の導電性がその大きさに応じて要求される。すなわち、上述した電子源として好ましい「300(Ω/□)程度以下」との値は、上記のような大きさのエミッタ28を前提とした値である。
【0054】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は、更に別の態様でも実施できる。
【0055】
例えば、実施例においては、本発明がFED10に適用された場合について説明したが、本発明は、エミッション・サイトの密度や電子放出効率の一様性を高めると共にエミッション開始電圧を低下させることが望まれるものであれば、平面型ランプ、陰極線管や電子銃等の種々の電界電子放出装置に同様に適用し得る。これらの用途において、必要な導電性延いては熱処理条件は、用いられるエミッタの大きさに応じて適宜選択される。
【0056】
また、実施例においては、炭化珪素から成る基板56を真空中で熱処理することにより、ナノチューブ46が高い配向性を以て緻密に配設されたエミッタ28を製造する場合について説明したが、真空中の加熱によって非金属元素が除去される共有結合性炭化物であれば、炭化ホウ素等の他の材料が用いられてもよい。
【0057】
また、実施例においては、エミッタ28を構成する炭素層42の厚さ寸法が数百(nm)〜数(μm)程度、ナノチューブ46の長さ寸法が数十〜数百(nm)程度である場合について説明したが、これらの厚さ寸法および長さ寸法は、用途や工程管理上の都合等に応じて適宜変更できる。
【0058】
また、実施例においては、ナノチューブ46を生成した後に更に酸素の存在下で酸化熱処理を施すことによりその先端を開放させていたが、先端の開放処理は必ずしも行われなくともよい。但し、前述のように先端を開放させることによってエミッタ28の実質的な曲率半径が飛躍的に小さくなると共に、エミッション・サイトも飛躍的に増大して、エミッタ28の効率が一層高められるため、先端を開放する方が望ましい。なお、熱処理条件は、実施例に示したものに限られず、温度は500〜750(℃)程度の範囲で適宜設定され、処理時間も例えば1分乃至20分程度の範囲で処理温度に応じて適宜変更される。
【0059】
また、実施例においては、エミッタ28が陰極26に導電性接着剤で固着されるように説明したが、陰極26が前述のような厚膜印刷導体で構成される場合には、その焼結過程で同時にエミッタ28を固着するようにしてもよい。
【0060】
また、実施例においては、低真空熱処理工程70が高真空熱処理工程72よりも先に実施されていたが、ナノチューブ46を疎らにし得る低真空における処理および導電性を低下させる高真空における処理がそれぞれ実施されるのであれば、これらの順序は反対であっても差し支えない。
【0061】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例のFEDの構成を説明する断面図である。
【図2】 (a)は、図1のFEDに備えられるエミッタの断面構造を説明する図であり、(b)は、(a)に一点鎖線bで示される部分を拡大した図である。
【図3】図2のエミッタの表面側からナノチューブを観察した状態を示す図である。
【図4】図2のエミッタに備えられるナノチューブの先端部の構成を説明する分子モデル図である。
【図5】図2のエミッタの特性を従来のエミッタと比較して説明する図である。
【図6】図2のエミッタの製造方法の要部を説明する工程図である。
【図7】 (a)〜(c)は、図2のエミッタの製造工程の要部段階を説明する図である。
【図8】 (a)は、図6の低真空熱処理工程後、(b)は図6の高真空熱処理工程後の各々における図2(b)に対応する基板の要部断面を説明する図である。
【図9】図4の製造工程におけるナノチューブの生成作用を説明する分子モデル図である。
【符号の説明】
10:FED(電界電子放出装置)
28:エミッタ
70:低真空熱処理工程
72:高真空熱処理工程

Claims (2)

  1. 気密空間内において互いに対向して配置されたエミッタおよび陽極間に電圧を印加することにより、そのエミッタから電子を放出させる形式の電界電子放出装置の製造方法であって、
    共有結合性炭化物から成る基板を0.1乃至10(Pa)の範囲内の真空下において1650乃至1800(℃)の範囲内の温度で1時間以上加熱することにより該基板の表層の共有結合性炭化物が酸化されて複数本のナノチューブが生成されると共に該ナノチューブの先端部が酸化される低真空熱処理工程と、
    前記基板を10−4乃至0.1(Pa)の範囲内であって前記低真空熱処理工程よりも酸素分圧が低い真空下において1550乃至1800(℃)の範囲内の温度で1時間以上加熱することにより該基板の共有結合性炭化物のみが酸化される高真空熱処理工程と
    を、含むことを特徴とする電界電子放出装置の製造方法。
  2. 前記低真空熱処理工程は、前記高真空熱処理工程に先立って実施されるものである請求項1の電界電子放出装置の製造方法。
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