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JP2025146401A - ゼオライト、ゼオライト膜複合体、ゼオライトの製造方法及びゼオライト膜複合体を用いる液体もしくは気体を分離する方法 - Google Patents

ゼオライト、ゼオライト膜複合体、ゼオライトの製造方法及びゼオライト膜複合体を用いる液体もしくは気体を分離する方法

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JP2025146401A
JP2025146401A JP2024047151A JP2024047151A JP2025146401A JP 2025146401 A JP2025146401 A JP 2025146401A JP 2024047151 A JP2024047151 A JP 2024047151A JP 2024047151 A JP2024047151 A JP 2024047151A JP 2025146401 A JP2025146401 A JP 2025146401A
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亮 小泉
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Mitsubishi Chemical Corp
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Mitsubishi Chemical Corp
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Abstract

【課題】透過性の高いゼオライト膜が得られるゼオライト及び該ゼオライトの製造方法、さらには該ゼオライトからなる膜が形成されたゼオライト膜複合体を提供すること。
【解決手段】表面から50nmの深さにフッ素原子を0.02at%以上0.3at%以下含有するゼオライトである。
【選択図】なし

Description

本発明は、ゼオライト、ゼオライト膜複合体、ゼオライトの製造方法及びゼオライト膜複合体を用いる液体もしくは気体を分離する方法に関する。
ゼオライトの製造において、狙った構造のゼオライトを再現性良く合成するのは、主要な構成元素がアルミニウムとケイ素のみとわずか2つしかないにもかかわらず255種類を超えるおびただしい数の構造があることから容易ではない。
すなわち、一般的な無機物であれば、構成元素を目的とする組成どおり用意し、合成すれば概ね狙った物質を合成できるが、狙った構造のゼオライトと等しい比率でアルミナ源及びシリカ源を仕込んだとしても所望の構造のゼオライトを得ることは困難であった。
これを解決するために、ゼオライト合成の初期の段階、いわゆる核生成段階において、その構造を決める手法が研究された。具体的には、構造規定材(SDA;Structure-directing Agent)や種結晶が有効であり、核生成段階においてこれらの構造を元に結晶成長が始まり、所望の構造のゼオライトを合成することを可能とした。
上記の手法によって所望の構造のゼオライトを再現良く製造できるようになった為、ゼオライトはその特徴を生かし、吸着材や合成触媒として工業化された。さらに構造に由来する細孔を生かし、ゼオライトを膜状に合成することで、分離膜としても扱われるようになった。
ゼオライト膜は、結晶構造に由来する細孔を有している無機膜である。この細孔は、結晶構造に由来するため数オングストロームと非常に小さいながらも細孔径が揃っていることが特徴である。これによりゼオライト膜はガス等の比較的小さな物質の分離を行うことができる。
分離膜としては高分子膜が一般的である。これに対し、ゼオライト膜は高分子膜と比較して耐熱性・耐酸性・耐薬品性が高く過酷な条件において用いることができるという利点がある。したがって、アンモニア合成やMeOH合成等の高温・高圧の反応場においてゼオライト膜による分離を行うことで、見かけ上の転化率を改善するといった試みも行われている。
これらの用途が広がるにつれて、ゼオライト膜の特性改善、特に重要な透過性の改善が求められるようになった。
例えば、特許文献1及び2には、アルミナ源、シリカ源、およびフッ素化合物を含み、構造規定剤を含まない水熱合成用原料混合物を熟成させた後、種結晶を有する支持体を前記水熱合成用原料混合物に挿入し水熱合成するZSM-5型ゼオライト膜の製造方法であって、前記水熱合成用原料混合物の仕込み組成が、Si/Alモル比が5以上30以下であり、F/Siモル比が0.5以上2.0以下であるZSM-5型ゼオライト膜の製造方法が開示されている。
特許文献1及び2に開示される発明によれば、ZSM-5型ゼオライトが有する高い耐酸性を保持しながら、親水性および水選択透過性を有し、高品質なZSM-5型ゼオライト膜を、構造規定剤を使用することなく、焼成処理を行わずに製造することができる。
特開2006-247599号公報 特開2010-131600号公報
本発明の目的は、ゼオライトの特性とりわけゼオライト膜の透過性を改善することである。ゼオライト膜の透過は、ゼオライトの構造内の細孔をガスが通過することで発現している。これを改善することはすなわちゼオライトの構造を精密制御することであり、この制御によってガスを通りやすくすることである。
そこで、本発明は、透過性の高いゼオライト膜を構成するゼオライト及び該ゼオライトの製造方法、さらには該ゼオライトからなる膜が形成されたゼオライト膜複合体を提供することを課題とする。
上記課題を達成する為に、ゼオライトの研究においてあまり着目されていなかった合成の中期から後期の結晶成長に注目した。ゼオライト膜の研究は、これまでその構造の決定因子や膜状に形成する手法について主に行われてきた。構造決定因子については上述した通りであり、ゼオライトの研究は合成の初期段階とりわけ核生成に着目して行われてきた。
しかしながら、SDAや種結晶を用いることで合成の初期の構造を決定づけたとしても、合成の中期から後期における結晶成長の過程で構造が乱れ本来あるべきではない水酸基等が導入されたり、ダングリングボンドや欠陥が生じたりする可能性が十分にある。さらにゼオライトの構造は前述のとおり255種類以上もあることより別の構造に変化してしまうことや構造が乱れアモルファス(非晶質)に至ってしまうこともある。
従来の技術としては、上述のように、水熱合成用原料混合物にF原子等のハロゲン化合物を添加することによって親水性の高いZSM-5型ゼオライト膜を合成する手法が報告されている。これによるとハロゲン元素がシリカ元素とほぼ等量程度と多量に必要としている。水熱合成用原料混合物全体に効果を及ぼすために必要とされる量であると考えられる。
一方で本発明においては、F原子等のハロゲン化合物は、結晶成長の末端に作用すればよく、極少量で十分な効果が得られることを見出した。さらに本発明における適当量よりF原子等のハロゲン化合物が過剰であると、シリカ元素とほぼ等量までに至らずより少ない量であっても、結晶性に悪影響を及ぼすことが確認されている。このことより、本発明のゼオライトは従来技術とは全く異なる原理によって得られていると考えられる。
すなわち、本発明は以下の構成による。
[1]表面から50nmの深さにフッ素原子を0.02at%以上0.3at%以下含有するゼオライト。
[2]ケイ素原子とアルミニウム原子の比(Si/Al)が、表面から200nmの深さにおいてSA1と表され、表面から2000nmの深さにおいてSA2と表される場合に、下記式(a)で示される変化率が1.0%以上80.0%以下である、ゼオライト。
((SA1-SA2)/SA1)×100・・・(a)
[3]フーリエ変換赤外分光法による測定において、Si-O-AlOHとbridging Si(OH)Alの規格化面積強度の合計が24.2未満であるゼオライト。
[4]無機多孔質支持体上に上記[1]~[3]のいずれかに記載のゼオライトからなる膜が形成された、ゼオライト膜複合体。
[5]アルミナ源、シリカ源を含む水熱合成用原料混合物にフッ素化合物を添加するゼオライトの製造方法であって、水熱合成用原料混合物のフッ素原子とケイ素原子のモル比(F/Si)を0.001以上0.06未満とすることを特徴とする、ゼオライトの製造方法。
[6]前記フッ素化合物がフッ化ナトリウムである、上記[5]に記載のゼオライトの製造方法。
[7]上記[5]又は[6]に記載の製造方法により得られるゼオライトからなる膜が形成された、ゼオライト膜複合体。
[8]上記[4]又は[7]に記載のゼオライト膜複合体を用いる、液体もしくは気体を分離する方法。
[9]上記[4]又は[7]に記載のゼオライト膜複合体を用いる、窒素とアンモニアを分離する方法。
[10]上記[4]又は[7]に記載のゼオライト膜複合体を用いる、水素とメタノールを分離する方法。
本発明によれば、透過性の高いゼオライト膜が得られるゼオライト及び該ゼオライトの製造方法、さらには該ゼオライトからなる膜が形成されたゼオライト膜複合体を提供することができる。
メタノールの分離評価を行うためのモジュールを示す概念図である。 メタノールのパーミエンスを示す図である。 比較例1のデプスプロファイルを示す図である。 実施例2のデプスプロファイルを示す図である。 FT-IR測定結果を示す図である。
以下に本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
[ゼオライト]
本発明のゼオライトは、表面から50nmの深さのフッ素原子濃度を0.02at%以上0.3at%以下含有することが特徴である。フッ素原子濃度は、ゼオライトを構成する主要な元素であるアルミニウムやケイ素と比較してごく少量であって、上記範囲であるとゼオライト膜とした場合の透過性に好適な結晶成長を制御できる効果がある。より具体的には、上記上限値以下であると、フッ素が目的とする成分との親和性を阻害することがなく、好適な結晶成長を誘引し、ゼオライト膜とした場合の透過性を担保することができる。以上の観点より、表面から50nmの深さのフッ素原子濃度は、0.1at%以上0.3at%以下であることが好ましい。ここでat%とは、原子%を意味し、表面から50nmの深さの全原子数に対するフッ素原子数の比率(%)を意味する。
また、本発明のゼオライトは、ケイ素原子とアルミニウム原子の比(いわゆるシリカアルミナ比2であり、これと合わせるために、Si/Alと表す)が、表面から200nmの深さにおいてSA1と表され、表面から2000nmの深さにおいてSA2と表される場合に、下記式(a)で示される変化率が1.0%以上80.0%以下であることを特徴とする。
((SA1-SA2)/SA1)×100・・・(a)
当該変化率が1.0%以上であると、後述するゼオライト膜複合体としたときに分離対象である気体等がゼオライト膜に比較的入りやすい構造となり、ゼオライト膜複合体全体として特定の成分が入りやすく出やすい構造になる。この構造が透過性の向上に結びついていると考えられる。また、変化率が1.0%以上であると、ゼオライト表面から深さ方向に気体等の吸着点が増加するため、ゼオライト膜に入った気体等が表面側に戻ることが少なく、表面から深さ方向に気体が透過しやすいと考えられる。
一方、当該変化率が80%以下であると、ゼオライトの構造として所望の構造を維持することができる。
以上の観点から、当該変化率は3%以上70%以下であることが好ましく、5%以上60%以下であることがさらに好ましい。
なお、当該変化率は、実施例に記載の方法により求めたSi/Alから計算した。
さらに、本発明のゼオライトは、フーリエ変換赤外分光法(以下、「FT-IR」と記載する。)による測定において、Si-O-AlOHとbridging Si(OH)Alの規格化面積強度の合計が(以下、単に「面積強度」と記載する。)が24.2未満である。
当該Si-O-AlOHとbridging Si(OH)Alのピークはゼオライトの欠陥に起因するものであり、該面積強度は小さい方が好ましい。具体的には該面積強度が24.2未満であることが好ましく、24以下がより好ましく、20以下であることがさらに好ましく、19.6以下であることが特に好ましい。該面積強度が24.2未満であるとゼオライトの欠陥が少なく、ゼオライト膜としたときに、分離対象である気体、液体等が移動するゼオライトの細孔内の抵抗が少なく結果として透過性が向上する。
本明細書におけるゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA、以下「IZA」と記載する。)が定めるゼオライトである。その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
本発明において、ゼオライト膜を構成するゼオライトはアルミノ珪酸塩であることが好ましい。アルミノ珪酸塩は、SiとAlの酸化物を主成分とするものであり、本発明の効果を損なわない限り、それ以外の元素が含まれていてもよい。本発明のゼオライト中に含まれるカチオン種としては、ゼオライトのイオン交換サイトに配位しやすいカチオン種が望ましく、例えば、周期律表の第1族、第2族、第8族、第9族、第10族、第11族、及び、第12族の元素群から選ばれるカチオン種、NH 、ならびにこれらの二種以上のカチオン種であり、より好ましくは、周期律表の第1族、第2族の元素群から選ばれるカチオン種、NH 、ならびにこれらの二種以上のカチオン種である。
アルミノ珪酸塩のSiO/Alモル比は、特段の制限はないが、通常6以上、好ましくは7以上、より好ましくは8以上であり、一方、通常500以下、好ましくは100以下、より好ましくは80以下、さらに好ましくは50以下、とりわけ好ましくは45以下、さらに好ましくは30以下、最も好ましくは25以下である。このような特定の領域のSiO/Alモル比のゼオライトを使用することにより、後述するゼオライト膜の緻密性ならびに耐化学反応性や耐熱性等の耐久性を向上させることができる。
また、複数の成分からなる混合ガスから特定の成分を透過させる分離性能の観点からは、Al元素などに起因する酸点が特定の成分の吸着サイトになる理由から、上記のSiO/Alモル比を示すゼオライトを使用することが好ましい。さらに、特定の成分、例えば水、メタノール、アンモニアに合わせてより好ましいSiO/Alモル比を示すゼオライトを使用することにより高い透過度で高選択的に分離することができる。
なお、ゼオライトのSiO/Alモル比は、後に述べる水熱合成の反応条件により調整することができる。
本発明で使用するゼオライトの構造としては、IZAが規定するコードで表すと、例えば、ABW、ACO、AEI、AEN、AFI、AFT、AFX、ANA、ATN、ATT、ATV、AWO、AWW、BIK、CHA、DDR、DFT、EAB、EPI、ERI、ESV、FAU、GIS、GOO、ITE、JBW、KFI、LEV、LTA、MER、MON、MTF、OWE、PAU、PHI、RHO、RTE、RWR、SAS、SAT、SAV、SIV、TSC、UFI、VNI、YUG、AEL、AFO、AHT、DAC、FER、HEU、IMF、ITH、MEL、MFS、MWW、OBW、RRO、SFG、STI、SZR、TER、TON、TUN、WEI、MFI、MON、PAU、PHI、MOR等が挙げられる。
上記構造のゼオライトの中でもフレームワーク密度が18.0T/nm以下であるゼオライトが好ましく、より好ましくはCHA、FAU、MFI、LTA、RHOであり、さらに好ましくは、MFIである。フレームワーク密度が低いゼオライトを使用することで混合ガス中に特定の成分以外の透過成分が存在する場合、それらの透過成分が透過する際の抵抗を小さくすることができ、一方で目的とする特定成分の透過量を大きくしやすくなる。
ここでフレームワーク密度(単位:T/nm)とは、ゼオライトの単位体積(1nm)当たりに存在するT原子(ゼオライトの骨格を構成する原子のうち、酸素以外の原子)の個数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まるものである。なお、フレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係は、ATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition 2007 ELSEVIERに示されている。
以下、好適な構造のゼオライトについて、詳述する。
(CHA型ゼオライト)
本発明において用いられるCHA型ゼオライトとは、IZAが定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものを示す。CHA型ゼオライトは3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
本発明において用いられるCHA型ゼオライトのフレームワーク密度は、14.5(単位:T/nm)である。
(FAU型ゼオライト)
本発明において用いられるFAU型ゼオライトとは、IZAが定めるゼオライトの構造を規定するコードでFAU構造のものを示す。FAU型ゼオライトは7.4×7.4Åの径を有する酸素6員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
本発明において用いられるFAU型ゼオライトのフレームワーク密度は、12.7(単位:T/nm)である。
(MFI型ゼオライト)
本発明において用いられるMFI型ゼオライトとは、IZAが定めるゼオライトの構造を規定するコードでMFI構造のものを示す。MFI型ゼオライトは5.1×5.5Åあるいは5.3×5.6Åの径を有する酸素10員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
本発明において用いられるMFI型ゼオライトのフレームワーク密度は、17.9(単位:T/nm)である。
(LTA型ゼオライト)
本発明において用いられるLTA型ゼオライトとは、IZAが定めるゼオライトの構造を規定するコードでLTA構造のものを示す。LTA型ゼオライトは4.1×4.1Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
本発明において用いられるLTA型ゼオライトのフレームワーク密度は、12.9(単位:T/nm)である。
(RHO型ゼオライト)
本発明において用いられるRHO型ゼオライトとは、IZAが定めるゼオライトの構造を規定するコードでRHO構造のものを示す。RHO型ゼオライトは3.6×3.6Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
本発明において用いられるRHO型ゼオライトのフレームワーク密度は、14.1(単位:T/nm)である。
[ゼオライトの製造方法]
本発明のゼオライトの製造方法は、アルミナ源、シリカ源を含む水熱合成用原料混合物にフッ素化合物を添加するものであって、フッ素原子とケイ素原子のモル比(F/Si)を0.001以上0.06未満とすることを特徴とする。
具体的には、組成を調整して均一化した水熱合成用原料混合物をオートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉し、一定時間加熱することにより製造することができる。
水熱合成用原料混合物は、Si原子源、Al原子源、アルカリ源および水を含み、さらに必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)や種結晶を含むものである。
本発明のゼオライトの製造方法においては、水熱合成用原料混合物のケイ素に対するフッ素のモル比が肝要である。一般的なフッ素を添加しない場合、つまりケイ素に対するフッ素のモル比が0の場合はゼオライトの表面から内部に向かって均一なSi/Alモル比になる。これに対し、一定量のフッ素を添加することでゼオライトの表面から内部に向かってSi/Alモル比を制御することやSi-O-AlOHとbridging Si(OH)Alなどの意図しない結晶欠陥の抑制ができる。
一方、フッ素を過剰に添加するとSi/Alモル比が過剰な変化やSi-O-AlOHとbridging Si(OH)Alなどの意図しない結晶欠陥が増加し、さらには結晶成長そのものが強く抑制されてしまうなど好ましくない影響が発生する。具体的な例としては、ゼオライトの結晶成長にバラつきが生じる。
本発明においては、水熱合成用原料混合物のケイ素に対するフッ素原子のモル比(F/Si)は0.001以上0.06未満であることが好ましい。この範囲であるとゼオライトの結晶成長を好ましい範囲に制御できる。さらに好ましくは、フッ素原子とケイ素原子のモル比(F/Si)は0.002以上0.02以下の範囲である。
なお、フッ素はゼオライトの結晶成長に影響しており、その影響の程度は水熱合成用原料混合物の組成、水熱合成温度等の諸条件により変化するため、例えばCHA、FAU、MFI、LTA、RHOなどの合成条件に合わせてフッ素の添加量を調整することが好ましい。
以下、水熱合成用原料混合物について詳述する。
(ケイ素原子源)
水熱合成用原料混合物に用いるケイ素(Si)原子源としては特に限定されないが、例えば、アルミノシリケートゼオライト、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、珪酸メチル、珪酸エチル、トリメチルエトキシシラン等のシリコンアルコキシド、テトラエチルオルトシリケート、アルミノシリケートゲルなどが挙げられ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、珪酸メチル、珪酸エチル、シリコンアルコキシド、アルミノシリケートゲルが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
Si原子源は、Si原子源に対する他の原料の使用量がそれぞれ前述ないしは後述の好適範囲となるように用いられる。
(アルミニウム原子源)
アルミニウム(Al)原子源は、特に限定されないが、アルミノシリケートゼオライト、アモルファスの水酸化アルミニウム、ギブサイト構造を持つ水酸化アルミニウム、バイヤーライト構造を持つ水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミニウムアルコキシド、アルミノシリケートゲルなどが挙げられ、アモルファスの水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミニウムアルコキシド、アルミノシリケートゲルが好ましく、アモルファスの水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミノシリケートゲルが特に好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
アルミノシリケートゼオライトは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。アルミノシリケートゼオライトをAl原子源として用いる場合には、全Al原子源の50質量%以上、特に70~100質量%、とりわけ90~100質量%を上述のアルミノシリケートゼオライトとすることが好ましい。また、アルミノシリケートゼオライトをSi原子源として用いる場合には、全Si原子源の50質量%以上、特に70~100質量%、とりわけ90~100質量%を上述のアルミノシリケートゼオライトとすることが好ましい。
(Al原子/Si原子比)
種結晶以外の原料混合物に含まれるケイ素(Si原子)に対するアルミニウム原子源(前述のアルミノシリケートゼオライトおよび、そのほかのアルミニウム原子源を含む。)の使用量(Al原子/Si原子比)の好ましい範囲は、モル比として、通常0.001以上、好ましくは0.002以上、より好ましくは0.003以上であり、さらに好ましくは0.004以上であり、通常1.0以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.1以下である。この使用量の範囲に制御することによりゼオライト中の窒素原子やアルカリ金属元素の含有量を本発明の好ましい範囲に制御しやすくなる。Al原子/Si原子比率を大きくするためには、アルミニウム原子源に対するケイ素原子源の使用量を少なくすればよく、一方、当該比率を小さくするためには、アルミニウム原子源に対するケイ素原子源の使用量を増やせばよい。
なお、水熱合成用原料混合物には、Si原子源、Al原子源以外に他の原子源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの原子源を含んでいてもよい。
(アルカリ源)
アルカリ源として用いるアルカリの種類は特に限定されずアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物を用いることができる。
これら金属水酸化物の金属種は通常ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リチウム(Li)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)であり、好ましくはNa、K、Csであり、より好ましくはNa、Csである。また、金属酸化物の金属種は2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとCsを併用するのが好ましい。
金属水酸化物としては、具体的には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物等を用いることができる。
また、水熱合成用原料混合物に用いるアルカリ源として、次に述べる有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオンを用いることができる。
なお、本発明に係るゼオライトの結晶化において、有機テンプレートは、必ずしも必要とされるものではないが、各構造に応じた種類の有機テンプレート(構造規定剤)を用いることにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、結晶性が向上することから、有機テンプレートを用いることが好ましい。
(有機テンプレート)
有機テンプレートとしては、所望のゼオライトを形成しうるものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
反応に適する有機テンプレートの種類は合成するゼオライト構造によって異なり、有機テンプレートは所望のゼオライト構造が得られるものを使用すればよい。具体的には、例えば、MFI構造であればテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド等が好適に用いられる。
有機テンプレートがカチオンの場合には、ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられ、水酸化物イオンの場合には上記のようにアルカリ源として機能する。
水熱合成用原料混合物中のSi原子源と有機テンプレートの比は、SiOに対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiO比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上、とりわけ好ましくは0.05以上、特に好ましくは0.1以上であり、通常1以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、とりわけ好ましくは0.25以下、特に好ましくは0.2以下である。水熱合成用原料混合物の有機テンプレート/SiO比がこの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得ることに加えて、耐酸性に優れ、Alが脱離しにくいゼオライトが得られる。また、この条件において、特に緻密で耐酸性に優れたMFI型のアルミノ珪酸塩のゼオライトを形成させることができる。
アルカリ金属原子源は、その適当量を使用することにより、アルミニウムに後述の有機構造規定剤が好適な状態に配位しやすくなるため、結晶構造を作りやすくできる。アルカリ金属原子源(R)と、種結晶以外の水熱合成用原料混合物に含まれるケイ素(Si)とのモル比R/Siは、通常0.01以上、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.04以上、特に好ましくは0.05以上であり、通常1.0以下、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.1以下である。
アルカリ金属原子源のケイ素に対するモル比(R/Si)が上記上限値よりも小さいと、生成したゼオライトが溶解しやすくゼオライトが得られないということがなく、十分な収率でゼオライトを得ることができる。R/Siが上記下限値よりも大きいと、原料のAl原子源やSi原子源が十分に溶解するため、均一な水熱合成用原料混合物となり、ゼオライトの収率を確保することができる。
(水の量)
本発明における水熱合成用原料混合物中の水の量は、通常の水熱合成に比較して多いことが好ましい。水の量が多いことで、Si/Al(モル比)を均一にすることができ0.2以下としやすくなる。具体的には、種結晶以外の原料混合物に含まれるケイ素(Si原子)に対するモル比で45以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましく、70以上であることがさらに好ましい。
水の量の上限値については、種結晶以外の原料混合物に含まれるケイ素(Si原子)に対するモル比で300以下であることが好ましく、200以下であることがより好ましく、150以下であることがさらに好ましい。上記上限よりも小さいと、反応混合物が希薄すぎることがないため、十分な収率でゼオライトを得ることができる。
(フッ素源)
本発明のゼオライトの製造に用いられるフッ素源は、水可溶性であることが好ましく、特に限定されるものではないが、好ましくは、フッ化水素、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム、ケイフッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、クリオライト、フッ化アルミニウムなど、より好ましくは、フッ化ナトリウム、フッ化アルミニウム等のフッ素化合物が挙げられ、特に好ましくはフッ化ナトリウムである。
水熱合成用原料混合物にフッ素化合物を共存させることにより、その詳細な機構は不明であるが、フッ素化合物がゼオライトの結晶成長に影響する。フッ素原子はゼオライト全体に拡散していてもよいが、フッ素原子がゼオライトの表面から数100nmに偏在して観察されることより、結晶成長の成長端に存在し触媒的に結晶成長に関与したと考えられる。また、使用量が少ない場合に、ゼオライトの表面部分にしか存在しないことから、比較的少量で効果があることも伺われる。フッ素原子による結晶成長への影響は、ゼオライトの表面側から内部側に向かってのSi/Alモル比やゼオライトの結晶子サイズなどの結晶性、Si―OやAl―O構造など多岐にわたっている。したがって、ゼオライトの結晶成長に影響し、目的とする構造・合成条件・用途に合わせて添加量を調整することにより好ましい効果が得られる。なお、本特許においてはフッ素原子に着目しているがこれに限られず、ケイ素やアルミニウムとフッ素と同様の結合状態を作りえる同族のハロゲン原子、具体的にはフッ素の他に塩素、臭素、ヨウ素、アンスタチン、テネシンも同様に結晶成長効果があると考えられる。しかしながら、腐食性や生産性の観点よりフッ素原子を用いることが好ましい。
(種結晶)
本発明において、「ゼオライト」製造原料(原料化合物)の一成分として種結晶を用いてもよい。種結晶は、MFI型アルミノ珪酸塩のゼオライトを形成する場合はMFI型ゼオライトを用いることが好ましい。
種結晶は必要に応じて粉砕して用いてもよい。粒径は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは0.5μm以上、とりわけ好ましくは0.7μm以上であり、最も好ましくは1μm以上であり、通常5μm以下、好ましくは、3μm以下、より好ましくは2μm以下、最も好ましくは1.5μm以下、特に好ましくは1.2μm以下である。
(水熱合成)
水熱合成によりゼオライトを形成させる際の反応温度は特に限定されず、目的のゼオライト構造を得るために適した温度であればよいが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは130℃以上、とりわけ好ましくは140℃以上、特に好ましくは150℃以上、最も好ましくは160℃以上であり、通常210℃以下、好ましくは200℃以下、さらに好ましくは190℃以下、特に好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、目的とするゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
水熱合成によりゼオライトを形成させる際の加熱(反応)時間は特に限定されず、目的のゼオライト構造を得るために適した時間であればよいが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下、とりわけ好ましくは1日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難くなることがある。反応時間が長すぎると、目的とするゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
水熱合成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水熱合成用原料混合物を、上記の温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
(水洗、加熱処理、乾燥)
水熱合成により得られたゼオライトは、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで加熱処理とは、熱をかけてゼオライトを乾燥させ、また、有機テンプレートを使用した場合に該有機テンプレートを焼成して除去することを意味する。
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合は、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。有機テンプレートの焼成除去を目的とする場合は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは450℃以上、更に好ましくは500℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは800℃以下、さらに好ましくは700℃以下、特に好ましくは600℃以下である。
有機テンプレートの焼成除去を目的とする場合には、加熱処理の温度が低すぎると有機テンプレートの残留割合が多くなる傾向がある。加熱処理温度が高すぎるとゼオライトの結晶構造が壊れてしまうことがある。
加熱処理の時間は、ゼオライトが十分に乾燥され、また有機テンプレートが焼成除去される時間であれば特に限定されず、乾燥を目的とする場合は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、有機テンプレートの焼成除去を目的とする場合は、昇温速度や降温速度によっても変動するが、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上である。加熱時間の上限は特に限定されず、通常200時間以下、好ましくは150時間以下、より好ましくは100時間以下である。
有機テンプレートの焼成を目的とする場合の加熱処理は空気雰囲気で行えばよいが、窒素などの不活性ガスや酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライトを、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは上記の加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
有機テンプレートの焼成除去を目的とする加熱処理の際の昇温速度は、遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、さらに好ましくは0.5℃/分以下、特に好ましくは0.3℃/分以下である。昇温速度の下限は、通常、作業性を考慮して0.1℃/分以上である。
また、有機テンプレートの焼成除去を目的とする加熱処理においては、加熱処理後の降温速度も昇温速度と同様、遅くすることが望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、さらに好ましくは0.5℃/分以下、特に好ましくは0.3℃/分以下である。降温速度の下限は、通常、作業性を考慮して0.1℃/分以上である。
[ゼオライト膜複合体]
本発明においては、前記のゼオライトを液体やガスの分離する用途に用いるためにゼオライト膜複合体とするが、形態及び用途はこれに限定されない。ゼオライトは液体やガスを表面だけではなく内部にも吸着及び透過する特性を有し、これを活用した用途の一つが液体やガスの分離である。
したがって、本発明の結晶成長を制御する技術によって得られる高品質なゼオライトをゼオライト膜複合体以外の形態とし他の用途に用いても構わない。一例としては、ゼオライトを粉末や扱いやすい形状及びサイズのペレット等の形態とし、特定のガス種の吸着材として用いることや合成触媒として用いることが挙げられる。ゼオライト膜複合体とすることで分離膜として高い透過性をなし得たが、吸着材としては吸着速度の向上や合成触媒としては反応速度の向上などの好ましい改善をなし得ることができる。
本発明のゼオライト膜複合体とは、多孔質支持体にゼオライトを有する。ゼオライトの形状は薄膜に限定はされず、球形や立方形、直方体などやこれらの組み合わさった形状、さらにははっきりとした形状を持たない不定形であっても構わない。ゼオライト膜複合体はゼオライトが後述する支持体に付着し一体となっており、好ましくは結晶化して固着しているものであり、ゼオライトの一部が支持体の内部にまで固着している状態のものを含む。ゼオライト膜複合体としては、例えば、多孔質支持体の表面などにゼオライトを水熱合成により膜状に結晶化させたものが好ましい。
本発明のゼオライト膜複合体におけるゼオライト膜としては、前述のゼオライトから形成されることが好ましい。
また、ゼオライト膜の多孔質支持体における位置は特に限定されず、管状の支持体の外表面にゼオライト膜を形成してもよいし、内表面に形成してもよく、さらに適用する系によっては両面に形成してもよい。また、支持体の表面に積層させて形成してもよいし、支持体の表面層の細孔内を埋めるように結晶化させてもよい。この場合、結晶化した膜層の内部に亀裂や連続した微細孔が無いことが重要であり、いわゆる緻密な膜を形成させることが、分離性の向上の面で好ましい。
<多孔質支持体>
本発明において用いられる多孔質支持体は、表面にゼオライトを膜状に結晶化できる化学的安定性を有することが好ましい。好適な多孔質支持体としては、ポリスルフォン、酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、フッ化ビニリデン、ポリエーテルスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミドなどの多孔質高分子;シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体;鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属やメッシュ状の成形体;ガラス、カーボン成型体などの無機多孔質が挙げられる。なかでも、高温領域で用いる場合の多孔質支持体としては、該支持体の高温時の機械強度、耐変形性、熱安定性、耐反応性が優れる理由から、セラミックス焼結体や金属焼結体、ガラス、カーボン成型体などの無機多孔質支持体が好ましい。
無機多孔質支持体は、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したものが好ましい。
好ましいセラミックス焼結体としては、上述の通り、α-アルミナ、γ-アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体が挙げられるが、これらは単独の焼結体であってもよく、複数のものを混合して焼結したものであってもよい。これらセラミックス焼結体は、その表面の一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することがあるため、これにより、多孔質支持体とゼオライト膜との密着性が高くなるため、ゼオライト膜複合体の耐久性を向上させることができる。
特に、アルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体は、無機多孔質支持体の部分的なゼオライト化が容易であるため、無機多孔質支持体とゼオライトの結合が強固になり、緻密で分離性能の高いゼオライト膜が形成されやすくなるのでより好ましい。
本発明において用いられる多孔質支持体は、その表面(以下「多孔質支持体表面」ともいう。)において、多孔質支持体上に形成されるゼオライトを結晶化させる作用を有することが好ましい。
本発明において用いられる多孔質支持体の細孔径は制限されるものではなく、気孔率は通常20%以上、より好ましくは30%以上、通常60%以下、好ましくは50%以下である。多孔質支持体表面付近以外の部分の気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、上記下限以上であることにより透過物が拡散しやすくなる傾向があり、上記上限値以下では多孔質支持体の強度が低下するのを防ぎやすくなる傾向がある。また透過流量を制御する方法として、気孔率の異なる多孔質体を層状に組み合わせた多孔質支持体を用いてもよい。
<ゼオライト>
本発明のゼオライト膜複合体におけるゼオライトは、上記したゼオライトである。
本発明における膜分離においては特定の成分のゼオライトへの吸着を利用し、ゼオライト細孔内でのホッピング機構に基づく分離を特徴とする。したがって、特に限定はされないが、特定の成分の分子径に近い細孔径を有するゼオライトは分離選択性が向上しやすいため、好ましい場合がある。以上の観点からすると、例えば特定の成分を水、アンモニア、メタノールとする場合において、ゼオライトの構造は酸素8員環細孔を有するものが好ましい。
一方、酸素8員環よりも大きなサイズの細孔では透過度が高くなる点で好ましいが、窒素との分離性能が低くなる場合がある。しかしながら、酸素8員環よりも大きなサイズの細孔を有するゼオライトを使用する際にも、前記のSiO/Alモル比を低下させたゼオライトを使用すると、Alサイトに吸着した特定の成分によりゼオライト膜の細孔径が制御されるために、アンモニアを高い透過度で高選択的に分離することができる。
したがって、膜分離に用いるゼオライトの有効細孔径は、特定の成分が吸着したゼオライト膜の細孔径に大きく影響を与えるため、重要な設計因子の一つとなる。ゼオライトの有効細孔径は、ゼオライトに導入する金属種やイオン交換、酸処理、シリル化処理などによっても制御することが可能である。また、その他の手法で有効細孔径を制御することによって、分離性能を向上させることも可能である。
例えば、ゼオライト骨格に導入する金属種の原子径によって、ゼオライトの細孔径はわずかに影響を受ける。ケイ素よりも原子径が小さな金属、具体的には、例えばホウ素(B)等を導入した場合には細孔径は小さくなり、ケイ素よりも大きな原子径の金属、具体的には、例えばスズ(Sn)等を導入した場合には細孔径は大きくなる。また、酸処理によって、ゼオライト骨格に導入されている金属を脱離させることによって、細孔径が影響される場合がある。
また、イオン交換により、ゼオライト中のイオンをイオン半径の大きな1価のイオンで交換した場合には、有効細孔径は小さくなり、一方イオン半径の小さな1価のイオンでイオン交換した場合には有効細孔径は、ゼオライト構造がもつ細孔径に近い値となる。
さらに、シリル化処理によっても、ゼオライトの有効細孔径を小さくすることが可能である。例えば、ゼオライト膜の外表面の末端シラノールをシリル化し、さらに、シリル化層を積層することによって、ゼオライトの外表面に面した細孔の有効細孔径は小さくなる。
本発明においては以下に詳細に示すようにゼオライトを膜状に形成しガス分離の用途に用いているが、形状や用途はこれに限定されない。例えば粉状に合成し合成触媒として用いる例や、さらに活性金属種を担持させ合成触媒として用いている例が知られており、これらに用いても構わない。本発明はゼオライトの構造を精密に制御する技術に基づき、これを用途に合わせて調整することによって他の用途においても特性を高めることができる。
本発明で用いられるゼオライト膜複合体の分離機能は、特に限定されないが、ゼオライトの表面物性の制御により、気体分子のゼオライト膜への親和性や吸着性を制御することにより発現する。すなわち、ゼオライトの極性を制御することにより特定の成分のゼオライトへの吸着性を制御して、透過させやすくすることができる。例えば、窒素原子を存在させてゼオライトの極性を制御することによりアンモニアのゼオライトへの親和性を制御して、透過させやすくすることもできる。
また、ゼオライト骨格のSi原子をAl原子で置換することにより極性を大きくすることが可能であり、これにより、極性の大きい気体分子を積極的にゼオライト細孔に吸着、透過させることができる。また、Ga、Fe、B、Ti、Zr、Sn、ZnなどのAl原子源以外の他の原子源を水熱合成用原料混合物に添加して、得られるゼオライトの極性を制御することも可能である。
このほか、イオン交換によって、ゼオライトの細孔径だけでなく、分子の吸着性能を制御して、透過速度をコントロールすることもできる。
<ゼオライト膜>
本発明におけるゼオライト膜とは、ゼオライトにより構成される膜状物のことであり、好ましくは、多孔質支持体の表面にゼオライトを結晶化させて形成されたものである。膜を構成する成分として、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機物、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じて含んでもよい。
本発明で用いられるゼオライト膜に含まれる好ましいゼオライトは上述の通りであるが、ゼオライト膜に含まれるゼオライトは1種でもよいし、複数種含まれていてもよい。また、ANA、GIS、MERのような混相で生成しやすいゼオライトや、結晶以外にもアモルファス成分などが含有されていてもよい。
ゼオライト膜複合体を構成するゼオライト及び多孔質支持体には特段の制限はなく、上述のゼオライト及び多孔質支持体を任意で組み合わせて使用することが好ましいが、これらのなかでも、特に好ましいゼオライトと多孔質支持体の組み合わせは、具体的には、MFI型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、RHO型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、DDR型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、AFI型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、CHA型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、AEI型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体が挙げられ、好ましくは、CHA型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、MFI型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、RHO型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、より好ましくは、MFI型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体、RHO型ゼオライト-多孔質アルミナ支持体である。
(ゼオライト膜の厚さ)
本発明において用いられるゼオライト膜の厚さは、特に制限されるものではないが、通常、0.1μm以上であり、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは0.7μm以上、さらに好ましくは1.0μm以上、特に好ましくは1.5μm以上である。また通常100μm以下であり、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下の範囲である。ゼオライト膜の厚さが上記下限値以上であれば、欠陥が生じにくく、分離性能が良好になる傾向がある。また、ゼオライト膜の厚さが上記上限値以下であれば、透過性能が向上する傾向があり、さらには、高温領域において、昇温によりゼオライト膜に亀裂が発生しにくくなるために高温時の透過選択性の低下を抑制できる傾向がある。
<ゼオライト膜複合体の製造方法>
本発明において、ゼオライト膜複合体の製造方法は、上記したゼオライト膜を多孔質支持体に形成可能な方法であれば特に制限されず、公知の方法により製造することができる。例えば、(1)支持体上にゼオライトを膜状に結晶化させる方法、(2)支持体にゼオライトを無機バインダーあるいは有機バインダーなどで固着させる方法、(3)ゼオライトを分散させたポリマーを支持体に固着させる方法、(4)ゼオライトのスラリーを支持体に含浸させることによりゼオライトを支持体に固着させる方法、などの何れの方法も用いることができる。
これらの中で、多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させる方法が特に好ましい。結晶化の方法に特に制限はないが、多孔質支持体を、ゼオライト製造に用いる水熱合成用の反応混合物(水熱合成用原料混合物)中に入れて、直接水熱合成することで多孔質支持体表面などにゼオライトを結晶化させる方法が好ましい。
この場合、ゼオライト膜複合体は、例えば、組成を調整して均一化した水熱合成用原料混合物を、内部に多孔質支持体を入れたオートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉し、一定時間加熱することにより製造することができる。
水熱合成用原料混合物は、Si原子源、Al原子源、アルカリ源および水を含み、さらに必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)や種結晶を含むものである。
ゼオライト膜複合体の製造方法について、特に好適な例であるMFI型ゼオライト膜複合体の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明のゼオライト膜及び該製造方法はこれに限定されるものではない。
本発明のゼオライト膜複合体の製造方法においては、水熱合成用原料混合物のケイ素に対するフッ素のモル比が肝要である。一般的なフッ素を添加しない場合、つまりケイ素に対するフッ素のモル比が0の場合はゼオライト膜の表面から裏側に向かって均一なSi/Alモル比になる。これに対し、一定量のフッ素を添加することでゼオライト膜の表面から裏側に向かってSi/Alモル比を制御することができる。しかしながら、フッ素を過剰に添加するとSi/Alモル比が過剰に変化し、さらには結晶成長に好ましくない影響が発生する。具体的には、ゼオライト結晶の成長にバラつきが生じ一部の膜厚が薄いもしくは欠けている膜となり、さらに極端な例としては膜としての体をなさなくなる。
以上の観点から、MFI型ゼオライト膜においては、ケイ素に対するフッ素のモル比が0.001以上0.06未満の範囲であると、ゼオライト膜内のSi/Alモル比を好ましい範囲に制御できる。なお、フッ素はゼオライトの結晶成長に影響しており、その影響の程度は水熱合成用原料混合物の組成、水熱合成温度等の諸条件により変化するため、例えばCHA、FAU、MFI、LTA、RHOなどの他のゼオライト構造の場合や、MFI型であってもその合成条件に合わせてフッ素の添加量を調整することが好ましい。
ゼオライト膜複合体におけるゼオライト膜を構成するゼオライトの原料としては、前述のケイ素原子源、アルミニウム原子源、アルカリ源、有機テンプレート、水を用いることができ、Al原子/Si原子比、水の量についても前記と同様である。
なお、種結晶の粒子径は支持体の細孔径に近いことが望ましく、必要に応じて粉砕して用いてもよい。粒径は、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、特に好ましくは0.5μm以上、とりわけ好ましくは0.7μm以上であり、最も好ましくは1μm以上であり、通常5μm以下、好ましくは、3μm以下、より好ましくは2μm以下、最も好ましくは1.5μm以下、特に好ましくは1.2μm以下である。
支持体の細孔径によっては種結晶の粒子径が小さいほうが望ましい場合があり、必要に応じて粉砕して用いてもよい。種結晶の粒径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、通常5μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下である。
多孔質支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に多孔質支持体を浸けて表面に種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性良くゼオライト膜を製造するにはディップ法が望ましく、種結晶を多孔質支持体に密着させる点ではスラリー上の種結晶を塗りこむ方法が望ましい。また、種結晶を多孔質支持体に密着させる目的および/または過剰な種結晶を取り除く目的で、ディップ法に続きラテックス手袋を着用した指などで種結晶が付着した支持体をこすって押し込むことも好適に行われる。
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水、アルカリ性水溶液が好ましい。アルカリ性水溶液の種類は特に限定されないが、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液が好ましい。またこれらのアルカリ種は混合されていてもよい。アルカリ性水溶液のアルカリ濃度は特に限定されず、通常0.0001mol%以上、好ましくは0.0002mol%以上、より好ましくは0.001mol%以上、さらに好ましくは0.002mol%以上である。また、通常1mol%以下、好ましくは0.8mol%以下、より好ましくは0.5mol%以下、さらに好ましくは0.2mol%以下である。
分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全重量に対して、通常0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上、特に好ましくは2質量%以上、最も好ましくは3質量%以上である。また、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。
分散させる種結晶の量が少なすぎると、多孔質支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に多孔質支持体上に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。一方で、例えば、ディップ法によって多孔質支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
多孔質支持体にディップ法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させたのち、乾燥した後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。乾燥温度は通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。乾燥時間は十分に乾燥していれば制限はないが通常10分以上、好ましくは30分以上である。一方、上限は特に指定しないが、経済的な観点から通常5時間以下である。
多孔質支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、多孔質支持体の膜形成面1mあたりの質量で、通常0.1g以上、好ましくは0.3g以上、より好ましくは0.5g以上、さらに好ましくは0.8g以上、最も好ましくは1.0g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下、最も好ましくは5g以下である。
種結晶の付着量が上記下限値以上であると、結晶が形成されやすく、膜の成長が十分になり、また膜の成長が均一になる傾向がある。また、種結晶の量が上記上限値以下であると、表面の凹凸が種結晶によって増長されることがなく、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しやすくなって支持体上の膜成長が阻害されたりすることがない。したがって、上記範囲であると、緻密なゼオライト膜が生成する傾向となる。
上述のように、多孔質支持体の種結晶を付着させた後に水熱合成、水洗、加熱処理、乾燥を行う。これらの条件については、前述のゼオライトの製造で記載したものと同様である。
なお、有機テンプレートの焼成除去を目的とする加熱処理の際の昇温速度は、多孔質支持体とゼオライトの熱膨張率の差に起因してゼオライト膜に亀裂を生じさせることを防止するために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、さらに好ましくは0.5℃/分以下、特に好ましくは0.3℃/分以下である。昇温速度の下限は、通常、作業性を考慮して0.1℃/分以上である。
また、有機テンプレートの焼成除去を目的とする加熱処理においては、加熱処理後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要があり、降温速度も昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、さらに好ましくは0.5℃/分以下、特に好ましくは0.3℃/分以下である。降温速度の下限は、通常、作業性を考慮して0.1℃/分以上である。
<<イオン交換>>
合成されたゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換してもよい。
イオン交換は、有機テンプレートを用いてゼオライト膜を合成した場合は、通常、有機テンプレートを除去した後に行う。イオン交換するイオンとしては、本発明においては、ゼオライト膜表面の窒素含有量を増やすために、NH やメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ジメチルエチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アニリン、メチルアニリン、ベンジルアミン、メチルベンジルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアミン、ピリジン、ピペリジン等の炭素数1~20の有機アミンがプロトン化されたカチオン種のいずれかが好ましく、その他、プロトン、Na、K、Li、Rb、Csなどのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などのアルカリ土類金属イオン、ならびにFe、Cu、Zn、Ga、Laなどの遷移金属のイオンなどを共存させてもよい。
これらの中では、プロトン、NH 、Na、Li、Cs、Feイオン、Gaイオン、Laイオンが好ましい。これらのイオンは、ゼオライト中に複数種混在していてもよい。
このようにイオン交換するカチオン種ならびにそれらの量を制御する事で、ゼオライトの特定の成分との親和性ならびにゼオライト細孔内の有効細孔径を制御することが可能となり、透過選択性を上げ、かつ透過速度も向上させることができる。
なお、本発明のゼオライト中にNaイオンを含有させる場合、その含有量は、ゼオライト中のAl原子に対して、モル比で、通常、0.01以上、好ましくは、0.02以上、より好ましくは、0.03以上であり、更に好ましくは0.04以上であり、特に好ましくは0.05以上である。一方、上限値については、特に限定されないが、通常0.10以下、好ましくは0.070以下、より好ましくは0.065以下、更に好ましくは、0.060以下、特に好ましくは、0.055以下である。このような特定の領域のNa/Al原子比のゼオライトを使用することにより、混合ガスから特定の成分を高い透過度で分離することができる。
イオン交換は、焼成後(有機テンプレートを使用した場合など)のゼオライト膜を、イオン交換する上記カチオンの硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、有機酸塩、水酸化物ならびにClやBrのハロゲン塩、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗、あるいは40℃から100℃のお湯で湯洗する方法などにより行えばよい。イオン交換処理に用いる溶媒は、上記イオン交換する塩が溶解すれば水であっても有機溶媒であってもよく、処理する塩の濃度は通常10mol/L以下、下限は、0.1mol/L以上、好ましくは、0.5mol/L以上、より好ましくは、1mol/L以上である。これらの処理条件は、用いる塩、溶媒種に応じて適宜設定すればよい。
なお、塩酸などの酸を用いる場合は、酸がゼオライトの結晶構造を破壊するため、通常は処理する酸の濃度を5mol/L以下とし、温度や時間を適宜設定すればよい。また、イオン交換処理は繰り返し処理を行うことによりイオン交換率が高くなるため、イオン交換処理の回数は特に限定されることはなく、目的とする効果が得られるまで処理を繰り返してよい。さらに、イオン交換されたゼオライト膜は、イオン交換処理後にイオン交換処理原料由来の残存物がゼオライト細孔内に存在するとガスの透過性を妨げるため、必要に応じて200~500℃で焼成することにより、イオン交換処理後の残存物を除去してもよい。
<<硝酸塩処理>>
本発明において、合成されたゼオライト膜は、必要に応じて硝酸塩処理を施してもよい。硝酸塩処理は、有機テンプレートを含む状態でも、焼成により有機テンプレートを除去した後に実施しても構わない。硝酸塩処理は、ゼオライト膜複合体を、例えば硝酸塩を含む溶液に浸漬して行う。これにより、膜表面に存在する微細な欠陥を硝酸塩がふさぐ効果が得られるために好ましい場合がある。
更に、硝酸塩がゼオライト細孔に存在する場合はゼオライト膜のアンモニアとの親和性を向上させる効果があり、アンモニアの透過性を向上させる手法として好適に採用される。硝酸塩処理に用いる溶媒は、塩が溶解すれば水であっても有機溶媒であってもよく、用いる硝酸塩に制限はないが、例えば、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸アルミニウム、硝酸ガリウム、硝酸インジウム、硝酸鉄、硝酸コバルト、硝酸ニッケル、硝酸銅、硝酸亜鉛などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの中では、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸アルミニウム、硝酸ガリウム、硝酸インジウム、その中でも硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸アルミニウムがより好ましく、特に硝酸アルミニウムがゼオライト膜表面に存在する微細な欠陥をふさぐ効果が顕著でアンモニアの分離性能が高まる理由から好ましい。
硝酸塩の濃度は通常10mol/L以下であり、下限は、0.1mol/L以上、好ましくは、0.5mol/L以上、より好ましくは、1mol/L以上である。処理温度は通常、室温から150℃以下であり、処理は10分から48時間程度行えばよく、これらの処理条件は、用いる硝酸塩、溶媒種に応じて適宜設定すればよい。硝酸塩処理後のゼオライト膜は、水洗を行ってもよく、水洗を繰り返すことによってゼオライト膜の窒素原子含有量を好ましい範囲に調整することができる。
<<アルミニウム塩処理>>
本発明のゼオライト膜複合体は、必要に応じてアルミニウム塩処理を施してもよい。アルミニウム塩処理は、有機テンプレートを含む状態でも、焼成により有機テンプレートを除去した後に実施しても構わない。アルミニウム塩処理は、ゼオライト膜複合体を、例えばアルミ塩を含む溶液に浸漬して行う。これにより、膜表面に存在する微細な欠陥をアルミニウム塩がふさぐ効果が得られることがある。更に、アルミニウム塩がゼオライト細孔に存在する場合はアンモニアガスを引き寄せる効果があり、アンモニアガスの透過性を向上させる手法として好適に採用される。
アルミニウム塩処理に用いる溶媒は、塩が溶解すれば水であっても有機溶媒であってもよく、用いるアルミ塩に制限はないが、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、リン酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
アルミニウム塩の濃度は通常10mol/L以下であり、下限は、0.1mol/L以上、好ましくは、0.5mol/L以上、より好ましくは、1mol/L以上である。処理温度は通常、室温から150℃以下であり、処理は10分から48時間程度行えばよく、これらの処理条件は、用いるアルミニウム塩、溶媒種に応じて適宜設定すればよい。
アルミニウム塩処理後のゼオライト膜は、水洗を行ってもよく、水洗を繰り返すことによってゼオライト膜のAl原子含有量を調整することができる。本発明のSi原子/Al原子比率を大きくするためには、処理するアルミニウム塩の濃度や処理量を減らしたり、アルミニウム塩処理後の水洗の回数を増やすことが好ましく、一方、当該比率を小さくするためには、処理するアルミニウム塩の濃度や処理量を増やしたり、アルミニウム塩処理後の水洗の回数を減らすことが好ましい。
(シリル化処理)
本発明のゼオライト膜複合体は、必要に応じてシリル化処理を施してもよい。シリル化処理は、ゼオライト膜複合体を、例えばSi化合物を含む溶液に浸漬して行う。これにより、ゼオライト膜表面がSi化合物により修飾されて、特定の物理化学的性質を有するものとすることができる。例えば、ゼオライト膜表面にSi-OHを多く含む層を確実に形成することで膜表面の極性が向上し、極性分子の分離性能を向上させることができる。
また、ゼオライト膜表面をSi化合物により修飾することで膜表面に存在する微細な欠陥をふさぐ効果が得られることがある。更に、シリル化処理によりゼオライトの細孔径の制御が可能であり、該処理を行うことでアンモニアの透過選択性を向上させる手法も好適に採用される。
シリル化処理に用いる溶媒は、水であっても有機溶媒であってもよい。また溶液は酸性、塩基性であってもよく、この場合には酸、塩基によってシリル化反応が触媒される。用いるシリル化剤に制限はないが、アルコキシシランが好ましい。処理温度は通常、室温から150℃以下であり、処理は10分から30時間程度行えばよく、これらの処理条件は、用いるシリル化剤、溶媒種に応じて適宜設定すればよい。
<<ゼオライト膜表面に含まれる窒素原子の含有量>>
本発明においては、本発明のゼオライト膜表面に含まれる窒素原子の含有量は、上記のように、ゼオライト膜に含まれるゼオライト中の窒素原子を含むカチオン種を選定してゼオライトのAl原子/Si原子比を調整する方法、イオン交換法によるイオン交換量を調整して窒素原子の含有量を調整する方法、必要に応じてゼオライト膜を製造する際に窒素原子を含有する有機テンプレート(構造規定剤)を使用してその添加量や有機テンプレートを焼成除去する際の加熱温度や加熱する時間を調整する方法、ゼオライト膜を硝酸塩で処理する方法、硝酸処理をしたゼオライト膜を水洗する際の水洗回数を調整する方法、ならびにこれらの方法を適宜組み合わせることにより制御することができる。
<<ゼオライト膜複合体の表面に含まれるAl原子の含有量>>
本発明のゼオライト膜複合体の表面に含まれるAl原子の含有量は、上記のように、ゼオライト膜に含まれるゼオライト中のAl原子/Si原子比を調整する方法、ゼオライト膜をアルミニウム塩で処理する方法、アルミニウム塩処理をしたゼオライト膜を水洗する際の水洗回数を調整する方法、ならびにこれらの方法を適宜組み合わせることにより制御することができる。
<<ゼオライト膜複合体の表面に含まれるアルカリ金属元素の含有量>>
本発明のゼオライト膜複合体の表面に含まれるアルカリ金属元素の含有量は、上記のように、ゼオライト膜に含まれるゼオライト中のAl原子/Si原子比を調整する方法、イオン交換法によるイオン交換量を調整してアルカリ金属元素の含有量を調整する方法、ゼオライト膜を水洗する際の水洗回数を調整する方法、ならびにこれらの方法を適宜組み合わせることにより制御することができる。
このようにして製造されるゼオライト膜複合体は、優れた特性をもつものであり、本発明における混合ガスの膜分離手段として好適に用いることができる。
<ゼオライト膜複合体の用途>
本発明のゼオライト膜複合体は、少なくとも特定の成分を含有する混合、ガスから、特定の成分を選択的に透過させて分離することができる。例えば、特定の成分としてメタノールを含有し、他の成分として水素からなる混合ガスからメタノールを選択的に透過させ分離することや、特定の成分としてアンモニアを含有し、他の成分として窒素からなる混合ガスからアンモニアを選択的に透過させ分離することができる。ここでは2種の混合ガスを挙げたが、3種もしくはそれ以上の成分を含む混合ガスからも特定の成分を選択的に透過させ分離することができる。
したがって、このような混合ガスが用いられる製造方法と組み合わせて使用するとさらに効果的である。特にメタノールやアンモニアは触媒反応であることから平衡に達するもしくは平衡に近づくと反応速度が下がりより多くのメタノールやアンモニアを得ることが困難になる。この反応場にゼオライト膜複合体を設置することで生成したメタノールやアンモニアを選択的に反応場から取り出すことで、メタノールやアンモニアを効率的に製造できる。本発明によって得られるより透過性の良いゼオライト膜複合体を用いることで、さらに効率的に目的物が得られる。
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は、前記上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
(1)フッ素原子の濃度
各実施例及び比較例のゼオライト膜複合体において、ゼオライトの表面から50nmの深さのフッ素原子濃度をX線光電子分光法(X-ray Photoelectric Spectroscopy、以下「XPS」と記載する。)により測定した。ゼオライト表面のF濃度を測定し、次いで、Arイオン銃を用いて、ゼオライトの深さ方向にエッチングし、50nmの深さでのF濃度を測定した。
用いたXPSの装置は(株)島津製作所製「KRATOS ULTRA2」であり、以下の測定条件で測定した。
X線源:単色化Al-Kα(1486.6eV)
出力:15kV-375W
帯電中和:Filament current=0.43V、Filament bias=1V、Charge balance=4V
イオン銃:Arイオン、加速電圧5kV(SiOにおいて10.8nm/min)
(2)ケイ素原子とアルミニウム原子の比(Si/Al
各実施例及び比較例のゼオライト膜複合体において、ゼオライト膜の表面から200nmの深さのSi/Al(SA1)及び2000nmの深さのSi/Al(SA2)をXPSによって測定した。
以下の式(a)によって変化率を計算した。
((SA1-SA2)/SA1)×100・・・(a)
測定条件は(1)フッ素原子の濃度と同様である。
(3)FT-IR測定
FT-IRにより、Si-O-AlOHとbridging Si(OH)Alの規格化面積強度を求め、これらの合計で評価した。
用いた装置は、VERTEX 70V(ブルカー・オプティクス製)を用い、測定条件は以下のとおりとした。
手法:真空加熱拡散反射法
測定分解能:4cm-1
測定波長範囲:7500~600cm-1
測定検出器:MCT(水銀-カドミウム-テルル)
測定積算:32回
リファレンス:ダイヤモンド粉末
温度プログラム:室温で15分脱気、300℃まで10℃/分で昇温、30分保持、50℃まで10℃/分で冷却。
脱気前、室温脱気(1分、15分)、加熱脱気(50℃~300℃まで50℃間隔)、300℃脱気30分保持、冷却脱気(250℃~50℃まで50℃間隔)のシングルスペクトルを抽出し、ダイヤモンド粉末のシングルスペクトル(室温15分脱気後)を用いて吸光度スペクトルを導出した。得られた吸光度スペクトルを4000cm-1で直線ベースライン差し引き後にKM(クベルカ-ムンク)変換した。KM変換スペクトル4000~3050cm-1をvoigt関数6本でフィッティングし、3670cm-1付近(Si-O-AlOH)、3590cm-1付近(bridging Si(OH)Al)の面積強度を算出した。これを1860cm-1付近(骨格振動の倍音)のピーク面積で規格化した。面積強度は、スペクトルの形状にviogt関数で作ったピークが沿うようにフィットさせたときの面積を求めることで得る。通常は分光器の解析ソフトを用いてviogt関数でのピークフィッティングを行うことでピークの面積値が得られるのでそれを用いればよい。
比較例1
[ゼオライト膜複合体の製造]
(水熱合成用原料混合物)
50質量%水酸化ナトリウム水溶液(Wako社製)12.6g、脱塩水118.4gを混合したものにアルミン酸ナトリウム(キシダ化学社製、Al-62.2質量%含有)0.11gを加え撹拌した。溶解したことを確認し、これにコロイダルシリカ(日産化学社製、スノーテックス40)30.0gを加え、50℃で4時間撹拌し、水熱合成用原料混合物とした。この水熱合成用原料混合物の組成(モル比)はSiO/Al/NaOH/HO=1/0.035/0.27/40であった。
(多孔質支持体)
多孔質支持体としては、ノリタケカンパニーリミテド社製のアルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を8cmに切り出し、脱塩水で流通洗浄し、その後乾燥させたものを用いた。
(種結晶分散液)
MFI型ゼオライトを乳鉢ですりつぶしたものを用意し、この種結晶濃度が0.4質量%となるように種結晶を分散させて、種結晶分散液を調製した。
(ゼオライト膜複合体の製造)
多孔質支持体を上述の種結晶分散液中に30秒間浸した後、70℃1時間乾燥させ、多孔質支持体に種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は0.04gであった。
種結晶を付着させた多孔質支持体を、上述の水熱合成用原料混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬して、オートクレーブを密閉し、恒温槽内で180℃まで2時間で昇温後、12時間静置状態で、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を反応混合物から取り出した。洗浄後に90℃脱塩水に1時間浸漬を3回繰り返し行い、多孔質支持体―ゼオライト膜複合体を脱塩水から取り出し120℃4時間乾燥させて、ゼオライト膜複合体を得た。
上記方法にて評価した結果を表1に記す。
実施例1、2及び比較例2、3
[ゼオライト膜複合体の製造]
水熱合成用原料混合物に富士フィルム和光純薬製フッ化ナトリウムを所定量加えた以外は、比較例1と同様の手順で多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を得た。フッ化ナトリウム量(NaF/SiOモル比)は、実施例1では0.002、実施例2では0.02、比較例2では0.2、比較例3では1とした。
比較例1と同様にして評価した結果を表1に記す。
[ゼオライト膜複合体のメタノール透過性評価]
メタノールの分離評価は図1に模式的に示したモジュールを用いて行った。図1はメタノール分離膜が管状体であり、ゼオライト膜が管体表面にある場合のモジュールを示している。メタノール透過性評価に用いた供給ガス原料はメタノールと水素の混合ガスとし、メタノールは富士フィルム和光純薬株式会社製(99.8%)を用いた。
図1に示すように、円筒形のゼオライト膜複合体1はステンレス製(SUS304)の耐圧容器2に格納された状態にあり、耐圧容器は温度制御ができるようになっている(図示せず)。ゼオライト膜複合体1の一端は、接続部3で配管4に接続され、配管4の他端はステンレス製の耐圧容器2と接続されたのち、耐圧容器2の外側にて、スイープガスSを供給する配管(図示せず)に接続されている。また、ゼオライト膜複合体1の他の一端は、接続部3’で配管4’に接続されて配管4’の他端はステンレス製の耐圧容器2と接続されたのち、耐圧容器2の外側にて排出ガス配管(図示せず)と接続されている。
ゼオライト膜複合体1内部の圧力は、スイープガスを供給する配管に設置された圧力計により測定できるようになっている(図示せず)。
耐圧容器2には、供給ガスGとして、混合ガスを導入する配管5及び、ゼオライト膜複合体1を透過しないガス(以下、「非透過ガスH」と表記する。)を排出させる配管6を備え、配管6にはゼオライト膜複合体1の表面と耐圧容器の間の混合ガスの圧力を調整する背圧弁7が接続されており、背圧弁7は排出ガス配管と接続されている。なお、各接続部は気密性よく接続されている。
図1に示したモジュールを用いたメタノールの分離評価は、メタノールを予め予熱器で気化させ、水素ガスと同伴させて、一定の流量、組成で耐圧容器とゼオライト膜複合体1の表面との間に供給し、背圧弁7により供給側ガスの圧力を一定とさせる。ゼオライト膜複合体1を透過しなかったガスは非透過ガスHとして、配管6を通って排出される。
スイープガスSをゼオライト膜複合体1の内側に流し、配管4から排出されるスイープガス及びゼオライト膜複合体1を透過したガス(以下、「透過ガスT」と表記する。)は配管4’を通ってモジュールから排出される。
非透過ガスH、透過ガスTの其々についてNを内部標準物質として熱伝導度検出器(TCD)を備えたオンラインガスクロマトグラフィーで各ガス成分の定量分析を行った。この際、温度、気体の流量が安定した後、分析結果が安定してからの数値を採用する。
なお、上記モジュール内の各成分の分圧は、モジュールの反応器の上流から下流にかけて変化するが、入り口側と出口側の分圧の平均値を用いる。出口側の各成分の分圧を求める際には、前記ガスクロマトグラフィーで求めた各成分の比率を用いた。各成分の差圧は、非透過ガスHと透過ガスTの各成分の分圧差から求めた。
測定結果に基づき、ゼオライト膜複合体1を透過した各ガス成分のパーミエンス[mol/(m・s・Pa)]を算出した。パーミエンスは、各ガス成分につき、供給側のガス分圧と、透過側のガス分圧との差を圧力差として、供給される混合ガスが接触する膜面積当たり、時間当たりの透過量を圧力差で割ることで算出される。具体的には下記式(A)により算出することができる。
パーミエンス=Q/(P(供給)-P(透過)) (A)
〔式(A)中、Qは算出しようとするガス成分の透過速度[mol/(m・s)]を示し、P(供給)およびP(透過)は、それぞれ供給ガスG中の算出しようとするガスの分圧[Pa]、および透過ガスT中の算出しようとするガスの分圧[Pa]を示す。〕
実施例1、2及び比較例1~3の評価については、具体的に以下の条件で測定した。
モジュールに接続したゼオライト膜複合体1が混合ガスGに接触する長さを55mmとした。
また、モジュールの上流の供給口から、供給ガスGとしてメタノール:水素=86:150(体積比)の混合ガスを236ml/min(0℃、1atm換算)供給した。
モジュールの下流に設置した背圧弁によりモジュールと膜の間の圧力を制御し、混合ガスの圧力を0.25MPaGとした。
ゼオライト膜複合体内部には、スイープガスとしてNを65ml/min(0℃、1atm換算)流し、ゼオライト膜複合体を透過させたガスを同伴させてモジュールから排出させた。
実施例1、2及び比較例1~3の水熱合成用原料に加えたフッ化ナトリウム量(NaF/SiOモル比)、モジュール温度を250℃にした際のメタノールのパーミエンスを図2に示す。この結果より、0より多くより好ましくは0.001以上のフッ素量(F/Siモル比)を添加することが、また0.2より少ないより好ましくは0.06よりも少ないフッ素量(F/Siモル比)を添加することにより高いメタノール透過性のゼオライト膜複合体が得られることがわかる。さらに好ましくは、0.002以上0.02以下のフッ素量(F/Siモル比)を添加することにより高いメタノール透過性のゼオライト膜複合体が得られる。なお、他の主要なアルミナ源、シリカ源、アルカリ源の原料と比較し極めて少量でありながら、驚くべき効果が得られている。直接的にこれらの元素と作用しているのではなく、局所的にもしくは触媒的に繰り返し何らかの影響を及ぼしているものと考えられる。
比較例1と実施例2のデプスプロファイルを図3と図4にそれぞれ示す。
まず比較例1は、フッ素は最表面でしか検出されておらず最表面より深い部分においては検出されていない。フッ化ナトリウムは添加しなかったが、水熱合成を行う際に用いた部材、具体的にはオートクレーブの内筒(テフロン製)からわずかに溶出したフッ素が検出されているものとみられる。一方で実施例2は、最表面のみならず凡そ100nmまでの部分においてフッ素が検出され、100nmよりも深い部分においては検出されなかった。ここで400nmにおいて検出されているが、これは前後の検出値などを鑑み測定上のノイズの影響であると考えられる。意図的にフッ素を添加したことが最表面だけでなく100nmまでの部分にフッ素が検出されたことに表れていると解釈される。したがって、例えば最表面から50nmの部分において少なくとも検出されるよりも多く、より好ましくは0.02at%以上さらに好ましくは0.1at%以上であり0.44at%よりも少なく、より好ましくは0.40at%以下さらに好ましくは0.30at%以下のフッ素が含まれることで効果が得られることがわかる。
次に、Si/Alモル比は比較例1では表面から深部に向かってほぼ一様である。具体的に、200nmのSi/Alモル比に対する2000nmのSi/Alモル比はわずか0.9%しか変化していない。一方で比較例2は表面から深部に向かってSi/Alモル比が大きく変化していることがわかる。具体的に200nmのSi/Alモル比に対する2000nmのSi/Alモル比は80.5%も変化している。したがって、例えば最表面から200nmのSi/Alモル比に対して2000nmのSi/Alモル比の変化率が少なくとも0.9%より大きく、より好ましくは1.0%以上でありさらに好ましくは5.0%以上であり、80.5%よりも少なく、より好ましくは80.0%以下でありさらに好ましくは60.0%以下で効果が得られることがわかる。これは一つの可能性ではあるが、ゼオライトの表面側つまりガスの入口側には吸着点が少ないもしくは親和性が低く、一方で深い部分つまりガスの出口側に近くになるにしたがって吸着点が多いもしくは親和性が高いことでガスがゼオライトを通りやすい構造になっていることが示唆される。変化率が小さいとガスがゼオライトに入っても逆に戻ることもでき詰まってしまうが、変化率が大きいと坂道を転げ落ちるように出口側にガスが進み、結果として透過性が高いと想像される。しかしながら、フッ素量(F/Siモル比)を添加しすぎるとSi/Alモル比が変化しすぎ、極端な例としてMFI型から別の型にゼオライト構造になってしまうなど予期せぬ構造になってしまうものと考えられる。実施例2においては、2000nmにおいてSi/Alモル比が約2.0となっており、膜厚を考えると2000nmよりも深い部分においてはMFI型を形成していない可能性すら懸念される。したがって、この変化率を適切に調整することが、好ましいゼオライトのキーポイントである。また、比較例1と実施例2の表面から200nmのSi/Alモル比が、比較例1はバラつきが大きく、実施例2はバラつきが小さい特徴がある。表面近傍の組成、さらには構造に乱れが多いことが読み取れる。ガスの透過する細孔入口構造の乱れが多く、ガスが透過するにあたっての大きな抵抗となっていることが疑われる。つまり、比較例1はガスがゼオライトに入りにくい構造になっており、一方で実施例2はガスがゼオライトに比較的入りやすい構造になっていることが示唆されている。これらの構造によって、ゼオライト膜複合体全体として特定の成分が入りやすく出やすい構造になっていることが透過性の向上に結びついているものと考えられる。
比較例1と実施例1、2比較例2及び3のFT-IR測定結果を図5に示す。比較例1よりも実施例1及び実施例2はSi-O-AlOHとbridging Si(OH)Alの規格化面積強度が低くなっている。Si-O-AlOHやbridging Si(OH)Alは理想的なMFI型ゼオライト構造においては存在しない結合であり、これらが少ないことが好ましい。これらの意図しない結合が、特定成分の透過において抵抗となると考えられる。したがって、Si-O-AlOHとbridging Si(OH)Alの規格化面積強度の合計が24.2未満であることが好ましく、19.6以下であることがより好ましい。
比較例1、実施例1、2、及び比較例2、3における、ゼオライト膜複合体の製造時のフッ化ナトリウム量、表面から50nmの深さのフッ素原子濃度、表面から200nmの深さにおけるケイ素原子とアルミニウム原子の比(SA1)と表面から2000nmの深さにおけるケイ素原子とアルミニウム原子の比(SA2)の前記式(a)で表される変化率、FT-IR測定における、Si-O-AlOHとbridging Si(OH)Alの規格化面積強度の合計、MeOHのパーミエンスについて、表1にまとめる。なお、比較例1の50nm深さのF濃度は検出下限未満の為、N.D.と表記した。また比較例3の50nm深さのF濃度及びSAの変化率については、使用量が比較例2の5倍になっており、F濃度が高いことは明らかなので、測定していない。
本発明のゼオライト膜複合体を用いることで、メタノールやアンモニアを製造するに際し、従来より効率的にメタノールやアンモニアを合成し得る。したがって、本発明のゼオライト、ゼオライト膜複合体、ゼオライトの製造方法及びゼオライト膜複合体を用いる液体もしくは気体を分離する方法は、工業的価値の高い技術である。
1 ゼオライト膜複合体
2 耐圧容器
3、3’ 膜複合体と配管の接続部
4、4’ 配管
5 混合ガスを導入する配管
6 配管
7 背圧弁
S スイープガス
G 供給ガス
T 透過ガス
H 非透過ガス

Claims (9)

  1. 表面から50nmの深さにフッ素原子を0.02at%以上0.3at%以下含有するゼオライト。
  2. ケイ素原子とアルミニウム原子の比(Si/Al)が、表面から200nmの深さにおいてSA1と表され、表面から2000nmの深さにおいてSA2と表される場合に、下記式(a)で示される変化率が1.0%以上80.0%以下である、ゼオライト。
    ((SA1-SA2)/SA1)×100・・・(a)
  3. フーリエ変換赤外分光法による測定において、Si-O-AlOHとbridging Si(OH)Alの規格化面積強度の合計が24.2未満である、ゼオライト。
  4. 無機多孔質支持体上に請求項1~3のいずれか1項に記載のゼオライトからなる膜が形成された、ゼオライト膜複合体。
  5. アルミナ源、シリカ源を含む水熱合成用原料混合物にフッ素化合物を添加するゼオライトの製造方法であって、水熱合成用原料混合物のフッ素原子とケイ素原子のモル比(F/Si)を0.001以上0.06未満とすることを特徴とする、ゼオライトの製造方法。
  6. 前記フッ素化合物がフッ化ナトリウムである、請求項5に記載のゼオライトの製造方法。
  7. 請求項4に記載のゼオライト膜複合体を用いる、液体もしくは気体を分離する方法。
  8. 請求項4に記載のゼオライト膜複合体を用いる、窒素とアンモニアを分離する方法。
  9. 請求項4に記載のゼオライト膜複合体を用いる、水素とメタノールを分離する方法。

JP2024047151A 2024-03-22 ゼオライト、ゼオライト膜複合体、ゼオライトの製造方法及びゼオライト膜複合体を用いる液体もしくは気体を分離する方法 Pending JP2025146401A (ja)

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