以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)方式のハイブリッド車両に本発明を適用した場合について説明する。
−車両用駆動装置の全体構成−
図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置10(以下、単に駆動装置10という)の構成を示すスケルトン図である。この図1に示すように、駆動装置10は、車体に取り付けられた非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、単にケース12という)を備えている。このケース12内には、入力回転部材としての駆動装置入力軸14と、この駆動装置入力軸14に直接的に或いは図示しない脈動吸収ダンパなどを介して間接的に連結された動力分割機構16と、この動力分割機構16の出力側に伝達部材18を介して直列に連結された有段式の自動変速機20と、この自動変速機20に連結された出力回転部材としての駆動装置出力軸22とが共通の軸心上に配設された状態で収容されている。
また、この駆動装置10は、走行用の駆動力源としてのエンジン8と図示しない一対の駆動輪との間に設けられて、動力を、図示しない差動歯車装置(終減速機)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪へ伝達する。なお、駆動装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1においては、軸心よりも下側を省略している。
動力分割機構16は、第1電動機MG1と、エンジン8の出力(トルク)を第1電動機MG1および伝達部材18に分割する差動機構24と、第2電動機MG2とを備えている。第1電動機MG1および第2電動機MG2は、ロータMG1R,MG2RおよびステータMG1S,MG2Sを備え、何れも電動モータおよび発電機として択一的に用いることができるものである。
前記差動機構24は、シングルピニオン型の遊星歯車装置によって構成されており、サンギヤS0、ピニオンP0、このピニオンP0を自転自在に支持するキャリアCA0、および、リングギヤR0を備えている。
サンギヤS0には、サンギヤ軸31を介して第1電動機MG1のロータMG1Rが一体回転可能に連結されている。キャリアCA0には、キャリア軸32および前記駆動装置入力軸14を介してエンジン8(エンジン8のクランク軸)が一体回転可能に連結されている。なお、これらキャリア軸32と駆動装置入力軸14とは同一のシャフトで構成されていてもよい。リングギヤR0には、リングギヤ軸33を介して前記伝達部材18が連結されている。このリングギヤ軸33には、前記第2電動機MG2のロータMG2Rが一体回転可能に連結されている。なお、これらリングギヤ軸33と伝達部材18とは同一のシャフトで構成されていてもよい。
また、前記キャリア軸32は、前記サンギヤ軸31の内周部に挿通されており、ベアリングやブッシュといった軸受け部材34を介して前記サンギヤ軸31の内周部に相対回転自在に支持されている。キャリア軸32の内部には、後述する油圧制御回路40(図3を参照)から供給される潤滑油が流れる潤滑油流路が形成されており、この潤滑油流路を流れた潤滑油が、キャリア軸32の外周部に達して、このキャリア軸32の外周部とサンギヤ軸31の内周部との間に供給されて前記軸受け部材34の潤滑が行われるようになっている。この構成は周知であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
前記サンギヤ軸31は本発明でいう第1回転軸に相当する。キャリア軸32は本発明でいう第2回転軸に相当する。リングギヤ軸33は本発明でいう第3回転軸に相当する。このため、第1回転軸(サンギヤ軸31)が電動機(第1電動機MG1)に、第2回転軸(キャリア軸32)が駆動力源(エンジン8)に、第3回転軸(リングギヤ軸33)が自動変速機20にそれぞれ連結された構成となっている。また、第1回転軸(サンギヤ軸31)の内周部に軸受け部材34を介して第2回転軸(キャリア軸32)が相対回転自在に支持された構成となっている。
前記サンギヤS0、キャリアCA0およびリングギヤR0は互いに相対回転自在で、エンジン8の出力が第1電動機MG1と伝達部材18とに分割され、第1電動機MG1が発電制御されることによって得られた電気エネルギで第2電動機MG2が回転駆動され(電気パスにより回転駆動され)或いは図示しないインバータを介して蓄電装置(バッテリ)が充電される。
第1電動機MG1の発電制御や力行制御によって、第1電動機MG1の回転速度すなわちサンギヤ軸31およびサンギヤS0の回転速度を制御することにより、差動機構24の差動状態を適宜変更することが可能である。これにより、駆動装置入力軸14の回転速度すなわちエンジン回転速度と、伝達部材18の回転速度との変速比を無段階(連続的)に変化させることができる。その結果、動力分割機構16は、電気式無段変速機として機能する。
自動変速機20は、エンジン8と駆動装置出力軸22との間の動力伝達経路の一部を構成しており、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置27、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置28を有する遊星歯車式の多段変速機である。
第1遊星歯車装置26は、サンギヤS1、ピニオンP1,P2、これらピニオンP1,P2を自転自在に支持するキャリアCA1およびリングギヤR1を備えている。第2遊星歯車装置27は、サンギヤS2、ピニオンP3、このピニオンP3を自転自在に支持するキャリアCA2およびリングギヤR2を備えている。第3遊星歯車装置28は、サンギヤS3、ピニオンP4、このピニオンP4を自転自在に支持するキャリアCA3およびリングギヤR3を備えている。
第1遊星歯車装置26のサンギヤS1は伝達部材18に連結されている。第1遊星歯車装置26のキャリアCA1は第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結可能となっている。第1遊星歯車装置26のリングギヤR1および第2遊星歯車装置27のリングギヤR2は、互いに連結されており、第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結可能となっている。第2遊星歯車装置27のサンギヤS2および第3遊星歯車装置28のサンギヤS3は、互いに連結されており、第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結可能となっている。第2遊星歯車装置27のキャリアCA2および第3遊星歯車装置28のリングギヤR3は、互いに連結されており、第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結可能となっていると共に、第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結可能となっている。第3遊星歯車装置28のキャリアCA3は駆動装置出力軸22に連結されている。
この自動変速機20では各クラッチC1,C2および各ブレーキB1,B2,B3が選択的に係合されることにより、駆動装置出力軸22の回転速度に対する伝達部材18の回転速度の比である変速比が互いに異なる複数の変速段が成立可能となっている。
図2は、自動変速機20における各クラッチC1,C2および各ブレーキB1,B2,B3の変速段毎の係合状態を示す係合表である。この係合表に示されるように、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、前進段のうち変速比が最も大きい前進1速段が成立する。第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により前進2速段が成立する。第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により前進3速段が成立する。第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により前進4速段が成立する。第2クラッチC2および第1ブレーキB1の係合により前進5速段が成立する。第2クラッチC2および第2ブレーキB2の係合により、前進段のうち変速比が最も小さい前進6速段が成立する。また、第1ブレーキB1および第3ブレーキB3の係合により後進段が成立する。また、ニュートラル時には、各クラッチC1,C2および各ブレーキB1,B2,B3が共に解放される。
前記各クラッチC1,C2および各ブレーキB1,B2,B3は、油圧によって摩擦係合される多板式の油圧摩擦係合要素である。図3は、各クラッチC1,C2および各ブレーキB1,B2,B3等に関する油圧制御回路40を示す図である。この図3に示すように、油圧制御回路40は、各クラッチC1,C2および各ブレーキB1,B2,B3を係合解放制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を備えている。また、この油圧制御回路40は、エンジン8によって作動される機械式オイルポンプ41、および、エンジン8の非作動時に電動モータによって作動される電動式オイルポンプ42を油圧源として備えている。これらオイルポンプ41,42の吐出側は、それぞれチェックバルブ43,44を介してプライマリレギュレータバルブ45に接続されている。オイルポンプ41,42によって汲み上げられたオイルの油圧は、このプライマリレギュレータバルブ45により調圧され、これによりライン圧が生成される。このプライマリレギュレータバルブ45は、リニアソレノイドバルブSLTにより調圧されたスロットル圧をパイロット圧として作動する。ライン圧は、自動変速機20を作動させるための油圧(各クラッチC1,C2および各ブレーキB1,B2,B3を係合させるための油圧)の元圧として用いられる。
自動変速機20を変速するための各クラッチC1,C2および各ブレーキB1,B2,B3の各油圧アクチュエータ4a〜4eには、それぞれ油圧制御装置としての前記リニアソレノイドバルブSL1〜SL5が接続されている。各リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、後述する電子制御装置50によって独立に励磁または非励磁され、各油圧アクチュエータ4a〜4eの油圧が独立して調圧制御される。これにより、各クラッチC1,C2および各ブレーキB1,B2,B3が個別に係合または解放され、前記前進1速段〜前進6速段または後進段の成立が可能となっている。
また、油圧制御回路40は、前記潤滑油流路(キャリア軸32の内部に形成された潤滑油流路)等に供給する潤滑油の油量を調整するためのアクチュエータ4fを備えており、このアクチュエータ4fからの潤滑油の供給量が、リニアソレノイドバルブSLluの励磁および非励磁によって調整可能となっている。
図4は、駆動装置10の制御系の構成を示すブロック図である。この図4に示すように、電子制御装置50は、駆動装置10の制御装置としての機能を有するものであって、HV(ハイブリッド)ECU51、MG(モータジェネレータ)ECU52、エンジンECU53、および、SBW(シフトバイワイヤ)ECU54に分けて構成されている。各ECU51〜54は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、各電動機MG1,MG2の出力制御、エンジン8の出力制御、および、自動変速機20の変速制御などを実行する。
HVECU51には、車両に設けられた各センサにより検出された各種入力信号が供給される。これら入力信号としては、例えば、車速センサ55により検出された車速を表す信号、アクセル開度センサ56により検出されたアクセル開度を表す信号、MG1回転速度センサ57により検出された第1電動機MG1の回転速度を表す信号、MG2回転速度センサ58により検出された第2電動機MG2の回転速度を表す信号、出力軸回転速度センサ59により検出された駆動装置出力軸22の回転速度を表す信号、エンジン回転速度センサ5Aにより検出されたエンジン8の回転速度を表す信号、バッテリの蓄電量(SOC)の情報(バッテリの電流値、電圧値、バッテリ温度等に基づいて推定される蓄電量の情報)などである。
そして、MGECU52は、HVECU51から第1電動機MG1のトルク指令信号および第2電動機MG2のトルク指令信号を受けて、第1電動機MG1および第2電動機MG2それぞれに供給する電流値を算出し、これら電流値(MG1電流値、MG2電流値)の指令信号を前記インバータに出力する。また、エンジンECU53は、HVECU51からエンジントルク指令信号を受けて、スロットルバルブの開度、インジェクタからの燃料噴射量、点火プラグの点火時期等を算出し、スロットルバルブ開度の指令信号をスロットルモータに、燃料噴射量の指令信号をインジェクタに、点火プラグの点火時期の指令信号をイグナイタにそれぞれ出力する。SBWECU54は、HVECU51からシフトレンジ指令信号を受けて、自動変速機20の各アクチュエータ(例えばマニュアルバルブをスライド移動させる電動モータ等)に駆動信号を出力する。このシフトレンジ指令信号は、図示しないシフトレバーの運転者による操作位置に応じて出力される。これにより、自動変速機20はパーキングレンジ、リバースレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジ等が切り替えられる。また、HVECU51は、車両走行状態等から自動変速機20の目標変速段を求め、前記油圧制御回路40の各リニアソレノイドバルブSL1〜SL5,SLluに駆動信号PbC1〜Pbluを出力する。
より具体的には、前記電子制御装置50は、エンジン8の効率が低い低車速領域では、第2電動機MG2からの出力(トルク)のみを用いた走行(以下、電動機走行とも称する)が行われる。そして、車速が上昇した通常運転状態では、エンジン8を始動させてエンジン8および第2電動機MG2の両方からの出力を用いた走行(以下、ハイブリッド走行とも称する)が行われる。
このハイブリッド走行時にあっては、前記電子制御装置50は、例えばエンジン8を燃費効率の良い運転域で運転させる一方で、エンジン8と第2電動機MG2との駆動力の配分や第1電動機MG1の発電による反力を制御して動力分割機構16の変速比を変化させる変速制御を実行する。例えば、アクセルペダル操作量や車速から運転者の要求出力(要求駆動力)を算出し、その要求出力とバッテリの充電要求値とから必要なトータル目標出力を算出し、このトータル目標出力が得られるように、自動変速機20の変速段等に応じて、その自動変速機20の必要入力トルクを求め、更に、第2電動機MG2のアシストトルク等を考慮して、その必要入力トルクが得られる目標エンジン出力を算出する。そして、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度およびエンジントルクとなるように、エンジン8を制御すると共に第1電動機MG1の発電量をフィードバック制御する。エンジン8の出力制御は、前述したように前記スロットルバルブ、インジェクタ、点火プラグ等の制御によって行われる。また、第1電動機MG1および第2電動機MG2の力行制御および回生制御は、インバータを介してバッテリの充放電制御を行いつつ実施される。
ここでのエンジン8の運転動作点について、図5のエンジン回転速度設定マップ(目標エンジン回転速度を設定するためのマップ)を用いて説明する。エンジン回転速度の制御では、エンジン8に要求されている要求パワー(前記目標エンジン出力)が得られるパワーライン(等パワーライン;図中に二点鎖線で示す)上で、エンジン8の最適燃費動作ラインが交差する点が、目標エンジン回転速度として設定される。この最適燃費動作ラインは、通常走行用(ハイブリッド走行用)運転動作点の設定制約として予め定められたエンジン8を効率良く動作させるための動作ラインである。このため、前記要求パワーを満たし且つエンジン8を効率良く運転させるためのエンジン8の運転動作点としては、この最適燃費動作ラインと、エンジン回転速度とエンジントルクとの相関曲線である要求パワーラインとの交点(図中における点A)に設定されることになる。
図6は、第2電動機MG2の出力のみで車両の走行駆動力を得る電動機走行と、エンジン8の出力および第2電動機MG2の出力によって車両の走行駆動力を得るハイブリッド走行との切り替え動作に用いるモード切替マップである。この図6に示すように、車速と出力トルクとに基づいて車両走行状態が電動機走行とハイブリッド走行との間で切り替えられる。図6において、太線Bで示す境界よりも低出力トルク側および低車速側が電動機走行領域である。また、太線Bで示す境界よりも高出力トルク側または高車速側がハイブリッド走行領域である。また、図中の細実線は自動変速機20の変速段がアップシフトされるアップシフト変速線を示している。また、図中の破線は自動変速機20の変速段がダウンシフトされるダウンシフト変速線を示している。
−サンギヤ軸の回転速度上昇制御−
本実施形態の如く動力分割機構16と自動変速機20とが直列に連結されて成る動力伝達系を備えたハイブリッド車両にあっては、動力分割機構16の各回転要素(サンギヤS0、キャリアCA0、リングギヤR0、および、これらに連結されているサンギヤ軸31、キャリア軸32、リングギヤ軸33)の回転速度を変化させることなく、自動変速機20の変速比を変化させるのみで、動力伝達系全体としての変速比を変化させることが可能である。
また、この種の車両にあっては、エンジン8が運転状態にある車両走行中に、運転者によるアクセルペダルの操作量の変化(運転者による要求駆動力(要求出力)の変化)が小さい状況では、動力分割機構16の各回転要素の回転速度が殆ど変化しない状況が継続する可能性がある。この場合、エンジン8の運転に伴って機械式オイルポンプ41が作動していたとしても、第1電動機MG1の回転速度が零または零近傍である場合(サンギヤ軸31の回転速度が零または零近傍である場合)には、サンギヤ軸31とキャリア軸32との間に相対回転差が生じているにも拘わらずキャリア軸32の外周部とサンギヤ軸31の内周部との間への潤滑油の供給が十分に行われない状況を招くことがある。つまり、前記軸受け部材34への潤滑油の供給が十分に行われない状況を招くことがある。このような状況が継続すると、前記軸受け部材34の耐久性が低下してしまう虞がある。
本実施形態は、この点に鑑み、サンギヤ軸31とキャリア軸32との間への潤滑油の供給量不足を解消することができるようにしている。
具体的には、エンジン8の運転に伴ってキャリア軸32が回転している状態で、サンギヤ軸31の回転速度が零または零近傍である状態が所定の閾値時間だけ継続した場合には、サンギヤ軸31の回転速度を上昇させる回転速度上昇制御を実行するようにしている。
この動作は前記電子制御装置50によって実行される。このため、電子制御装置50において、前記回転速度上昇制御を実行する機能部分が本発明でいう回転速度上昇制御部として構成されている。
以下、この回転速度上昇制御の複数の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
先ず、第1実施形態について説明する。本実施形態は、エンジン8の出力(パワー)を変更することなく(等パワーを維持して)、第1電動機MG1の回転速度を上昇させることによってサンギヤ軸31の回転速度を上昇させるようにしたものである。
本実施形態における回転速度上昇制御の手順について図7のフローチャートに沿って説明する。このフローチャートは、車両のスタートスイッチがON操作された後、所定時間毎に繰り返して実行される。
先ず、ステップST1において、エンジン8の運転に伴ってキャリア軸32が回転している状態において、第1電動機MG1の回転速度が所定回転速度α以下である状態が所定の閾値時間だけ継続したか否かを判定する。この第1電動機MG1の回転速度は、前記MG1回転速度センサ57からの出力信号に基づいて算出される。また、前記所定回転速度αとしては、零または予め規定された所定値(零近傍の値)に設定されている。この所定回転速度αを規定値(0よりも大きな値)として設定する場合には、サンギヤ軸31とキャリア軸32との間に供給される潤滑油量の必要下限値(軸受け部材34の耐久性を低下させない潤滑油供給量の範囲の内の下限値)よりも僅かに低い値として実験やシミュレーションによって設定される。また、この規定値としては、10rpm等の固定値として設定してもよい。また、この規定値の適用は、第1電動機MG1の正回転側および負回転側の両方に適用される。つまり、第1電動機MG1が正回転している場合にその回転速度が規定値以下であるか否かの判定、第1電動機MG1が負回転している場合にその回転速度(回転速度の絶対値)が規定値以下であるか否かの判定の両方が行われることになる。
また、前記閾値時間は、前記ROM(例えばHVECU51のROM)に予め記憶された閾値時間設定マップを参照することによって決定される。図8は、この閾値時間設定マップの一例を示している。この閾値時間設定マップは、エンジン回転速度(キャリア軸32の回転速度)および潤滑油量(キャリア軸32の外周部とサンギヤ軸31の内周部との間に供給されている潤滑油量の推定値)をパラメータとして前記閾値時間を求めるものである。エンジン回転速度は、前記エンジン回転速度センサ5Aからの出力信号に基づいて算出される。潤滑油量の推定値は、オイルポンプ41,42の回転速度、リニアソレノイドバルブSLluの状態、潤滑油温度等をパラメータとした図示しない潤滑油量推定マップに従って求められる。この潤滑油量推定マップは、実験やシミュレーションによって予め作成されて前記ROMに記憶されている。
前記閾値時間設定マップによれば、エンジン回転速度が高いほど前記閾値時間は短い時間として決定される。これは、エンジン回転速度が高い場合、軸受け部材34に作用する負荷が大きくなっていることから、回転速度上昇制御を早期に実行するべく、この閾値時間を短い時間として決定するものである。
また、潤滑油量が少ないほど前記閾値時間は短い時間として決定される。これは、潤滑油量が少ないということは、サンギヤ軸31とキャリア軸32との間の潤滑油量が不足している可能性があるため、回転速度上昇制御を早期に実行するべく、この閾値時間を短い時間として決定するものである。
第1電動機MG1の回転速度が所定回転速度αを超えている場合、または、第1電動機MG1の回転速度が所定回転速度α以下であってもその状態の継続時間(以下、零回転継続時間という)が未だ前記閾値時間に達していない場合には、ステップST1でNO判定される。この場合、サンギヤ軸31とキャリア軸32との間には十分な量の潤滑油が供給されている(軸受け部材34の耐久性が低下してしまう可能性はない)、または、サンギヤ軸31とキャリア軸32との間への潤滑油の供給量は不足しているものの、未だ軸受け部材34の耐久性が低下するまでの継続時間には至っていないため、回転速度上昇制御を実行する必要はないとして、そのままリターンされる。
第1電動機MG1の回転速度が所定回転速度α以下である状態が閾値時間だけ継続し(前記零回転継続時間が閾値時間に達し)、ステップST1でYES判定された場合には、ステップST2に移り、回転速度上昇制御を実行するに当たり、第1電動機MG1の目標回転速度を決定する。この第1電動機MG1の目標回転速度は、前記ROMに予め記憶された第1電動機回転速度変更量マップを参照することによって決定される。図9は、この第1電動機回転速度変更量マップの一例を示している。この第1電動機回転速度変更量マップは、エンジン回転速度(キャリア軸32の回転速度)および前記潤滑油量をパラメータとして第1電動機回転速度変更量を求めるものである。
具体的には、エンジン回転速度が高いほど前記第1電動機回転速度変更量が大きな値として抽出される。これは、エンジン回転速度が高い場合、キャリア軸32とサンギヤ軸31との相対回転速度差が大きく、軸受け部材34に作用する負荷が大きくなっていることから、この第1電動機回転速度変更量を大きな値として抽出するものである。
また、潤滑油量が少ないほど前記第1電動機回転速度変更量が大きな値として抽出される。これは、潤滑油量が少ないということは、サンギヤ軸31とキャリア軸32との間の潤滑油量が不足している可能性があるため、この第1電動機回転速度変更量を大きな値として抽出するものである。
このようにして抽出された第1電動機回転速度変更量が、現在の第1電動機MG1の回転速度に加算されて、第1電動機MG1の目標回転速度が決定されることになる。この場合、現在の第1電動機MG1の回転速度は略零であるので、第1電動機回転速度変更量マップから抽出された値、または、この値よりも僅かに大きな値が、第1電動機MG1の目標回転速度として決定されることになる。
このようにして第1電動機MG1の目標回転速度が決定された後、ステップST3に移り、回転速度上昇制御を実行するに当たって、この回転速度上昇制御の実行期間(第1電動機MG1の目標回転速度を上昇させる期間;回転速度上昇期間)を決定する。この回転速度上昇制御の実行期間(回転速度上昇期間)は、前記ROMに予め記憶された第1電動機回転速度変更時間マップを参照することによって決定される。図10は、この第1電動機回転速度変更時間マップの一例を示している。この第1電動機回転速度変更時間マップは、エンジン回転速度(キャリア軸32の回転速度)および前記潤滑油量をパラメータとして回転速度上昇制御の実行期間を求めるものである。
具体的には、エンジン回転速度が高いほど前記回転速度上昇制御の実行期間が長い期間として抽出される。これは、エンジン回転速度が高い場合、キャリア軸32とサンギヤ軸31との相対回転速度差が大きく、軸受け部材34に作用する負荷が大きくなっていることから、この回転速度上昇制御の実行期間を長い期間として抽出するものである。
また、潤滑油量が少ないほど前記回転速度上昇制御の実行期間が長い期間として抽出される。これは、潤滑油量が少ないということは、サンギヤ軸31とキャリア軸32との間の潤滑油量が不足している可能性があるため、この回転速度上昇制御の実行期間を長い期間として抽出するものである。
このようにして回転速度上昇制御の実行期間(回転速度上昇期間)が決定された後、ステップST4に移り、第1電動機MG1の回転速度上昇制御が実行される。つまり、前記ステップST2で決定された第1電動機MG1の目標回転速度が得られるように、第1電動機MG1の回転速度を制御し、この状態が、前記ステップST3で決定された回転速度上昇制御の実行期間だけ実行されるようにする。このステップST4の動作が、本発明でいう回転速度上昇制御部による動作であって、「駆動力源の運転に伴って第2回転軸が回転している状態で、第1回転軸の回転速度が零または零近傍である状態が所定の閾値時間だけ継続した場合、第1回転軸の回転速度を上昇させる回転速度上昇制御を実行する動作」に相当する。
この第1電動機MG1の回転速度上昇制御が実行されることで、この第1電動機MG1に一体回転可能に連結されたサンギヤ軸31の回転速度が上昇することになる。このサンギヤ軸31の回転速度の上昇によって、キャリア軸32の外周部とサンギヤ軸31の内周部との間には、前記潤滑油流路を経て潤滑油が十分に供給される状況となる。これにより、軸受け部材34への潤滑油の供給が十分に行われる状況となる。
本実施形態では、前述したように、エンジン8の出力(パワー)を変更することなく、第1電動機MG1の回転速度を上昇させることによってサンギヤ軸31の回転速度を上昇させるようにしている。このため、エンジン8の運転動作点としては、図5の運転動作点Aから例えば運転動作点A1に移動することになる。
このようにして回転速度上昇制御が開始された後、ステップST5に移り、回転速度上昇制御が開始されてから、前記ステップST3で決定された実行期間(回転速度上昇期間)が経過したか否かが判定される。
未だ、この実行期間が経過しておらず、ステップST5でNO判定された場合には、この回転速度上昇制御が継続される。
一方、回転速度上昇制御が開始されてから前記実行期間が経過し、ステップST5でYES判定された場合には、ステップST6に移り、第1電動機MG1の回転速度上昇制御の終了処理を実行する。この終了処理は、第1電動機MG1の回転速度を、この回転速度上昇制御が開始される前の回転速度に戻す処理である。つまり、この回転速度上昇制御が開始される前の第1電動機MG1の回転速度は零または零近傍であったため、この回転速度まで第1電動機MG1の回転速度を低下させることになる。
以上の動作が繰り返されることで、ステップST1でYES判定される度に回転速度上昇制御が開始され、キャリア軸32の外周部とサンギヤ軸31の内周部との間に潤滑油が十分に供給される状況を得ることができる。
図11は、本実施形態における前記回転速度上昇制御が行われる際のエンジン回転速度、第1電動機回転速度、エンジントルク、第2電動機トルク、バッテリ充電量、第2ブレーキ係合油圧、第1ブレーキ係合油圧、潤滑油量の推移の一例を示すタイミングチャート図である。この図11では、第2ブレーキB2が解放され、第1ブレーキB1が係合されていることから、自動変速機20は前進3速段(または前進5速段)となっている。
この図11では、タイミングT1で第1電動機MG1の回転速度が零となり、この時点から前記零回転継続時間の計測が開始される。そして、タイミングT2で、この計測されている零回転継続時間が前記閾値時間に達し(前記ステップST1でYES判定されるタイミング)、第1電動機MG1の回転速度上昇制御が開始される(前記ステップST4)。つまり、前記目標回転速度が得られるように、第1電動機MG1の回転速度が制御される。そして、タイミングT3で、第1電動機MG1の回転速度が前記目標回転速度に達している。この第1電動機MG1の回転速度の制御に伴い、エンジン回転速度が上昇し、エンジントルクが低下している(エンジン8の制御パラメータ(スロットルバルブ開度、燃料噴射量、点火タイミング等)を維持することで等パワーが維持されている)。
そして、タイミングT4で、回転速度上昇制御が開始されてから所定期間(前記回転速度上昇期間)が経過し(前記ステップST5でYES判定されるタイミング)、第1電動機MG1の回転速度上昇制御の終了処理が開始され、タイミングT5で、第1電動機MG1の回転速度が、回転速度上昇制御が開始される前の回転速度に戻されている。これに伴い、エンジン回転速度が低下し、エンジントルクが上昇して、等パワーを維持しながら、エンジン8の運転動作点は最適燃費動作ライン上(図5の運転動作点A)に戻される。
以上説明したように、本実施形態では、エンジン8の運転に伴ってキャリア軸32が回転している状態で、サンギヤ軸31(第1電動機MG1と一体的に回転するサンギヤ軸31)の回転速度が零または零近傍である状態が所定の閾値時間だけ継続した場合には、サンギヤ軸31の回転速度(第1電動機MG1の回転速度)を上昇させる回転速度上昇制御を実行するようにしている。具体的には、エンジン8の出力(パワー)を変更することなく、第1電動機MG1の回転速度を上昇させることによってサンギヤ軸31の回転速度を上昇させるようにしている。このため、このサンギヤ軸31の上昇によって、サンギヤ軸31の内周部とキャリア軸32の外周部との間には潤滑油が十分に供給される状況となり、軸受け部材34への潤滑油の供給が十分に行われることになる。これにより、局所的に潤滑油が存在しなくなる(油膜切れとなる)領域が生じることが回避され、軸受け部材34の耐久性の低下を抑制することができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態における回転速度上昇制御では、エンジン8の出力(パワー)を上昇させることによってサンギヤ軸31の回転速度を上昇させるようにしている。
本実施形態における回転速度上昇制御の手順について図12のフローチャートに沿って説明する。このフローチャートも、車両のスタートスイッチがON操作された後、所定時間毎に繰り返して実行される。
図12のフローチャートにおけるステップST1〜ステップST3、ステップST5、ステップST6の動作は、前記第1実施形態で説明した図7のフローチャートにおけるステップST1〜ステップST3、ステップST5、ステップST6の動作と同様であるので、ここでの説明は省略する。
ステップST14において第1電動機MG1の回転速度上昇制御が実行される場合、エンジン8の出力を上昇させる制御が行われる。例えば、スロットルバルブ開度の増加補正、インジェクタからの燃料噴射量の増量補正、点火プラグの点火タイミングの進角補正等によってエンジン8の出力を上昇させる。この場合、前記ステップST2で決定された第1電動機MG1の目標回転速度を得るべく、エンジン8の運転動作点が、図5における最適燃費動作ライン上を移動するように前記制御パラメータ(スロットルバルブ開度、燃料噴射量、点火タイミングの少なくとも一つ)の補正が行われる。例えば、エンジン8の運転動作点を、図5の運転動作点Aから運転動作点A2に移動させる。このステップST14の動作が、本発明でいう回転速度上昇制御部による動作であって、「駆動力源の運転に伴って第2回転軸が回転している状態で、第1回転軸の回転速度が零または零近傍である状態が所定の閾値時間だけ継続した場合、第1回転軸の回転速度を上昇させる回転速度上昇制御を実行する動作」に相当する。
この第1電動機MG1の回転速度上昇制御が実行されることで、前述した第1実施形態の場合と同様に、第1電動機MG1に一体回転可能に連結されたサンギヤ軸31の回転速度が上昇することになる。このサンギヤ軸31の回転速度の上昇によって、キャリア軸32の外周部とサンギヤ軸31の内周部との間には、前記潤滑油流路を経て潤滑油が十分に供給される状況となり、軸受け部材34への潤滑油の供給が十分に行われる状況となる。
また、本実施形態では、エンジン8の出力を上昇させる制御が行われることで、第1電動機MG1の発電制御によって得られた電気エネルギに余剰分が生じることになる。このため、ステップST15では、この電気エネルギの一部を、インバータを介してバッテリに蓄電させる充電動作が実行される。
その他の動作は、前記第1実施形態の場合と同様である。
図13は、本実施形態における前記回転速度上昇制御が行われる際のエンジン回転速度、第1電動機回転速度、エンジントルク、第2電動機トルク、バッテリ充電量、第2クラッチ係合油圧、第1ブレーキ係合油圧、潤滑油量の推移の一例を示すタイミングチャート図である。この図13では、第2クラッチC2が解放され、第1ブレーキB1が係合されていることから、自動変速機20は前進3速段となっている。
この図13では、タイミングT6で第1電動機MG1の回転速度が零となり、この時点から前記零回転継続時間の計測が開始される。そして、タイミングT7で、この計測されている零回転継続時間が前記閾値時間に達し(前記ステップST1でYES判定されるタイミング)、第1電動機MG1の回転速度上昇制御が開始される(前記ステップST14)。つまり、第1電動機MG1の回転速度として前記目標回転速度が得られるように、エンジン8の出力を上昇させる制御が行われる。そして、タイミングT8で、第1電動機MG1の回転速度が前記目標回転速度に達している。この制御に伴い、エンジン回転速度およびエンジントルクが共に上昇している(エンジン8の出力が上昇している)。また、前記余剰分の電気エネルギがバッテリに供給されることで、バッテリ充電量が増加している。
そして、タイミングT9で、回転速度上昇制御が開始されてから所定期間(前記回転速度上昇期間)が経過し(前記ステップST5でYES判定されるタイミング)、第1電動機MG1の回転速度上昇制御の終了処理が開始され、タイミングT10で、第1電動機MG1の回転速度、エンジン回転速度、エンジントルク、バッテリ充電量が、回転速度上昇制御が開始される前の状態に戻されている。
本実施形態においても、エンジン8の運転に伴ってキャリア軸32が回転している状態で、サンギヤ軸31(第1電動機MG1と一体的に回転するサンギヤ軸31)の回転速度が零または零近傍である状態が所定の閾値時間だけ継続した場合には、サンギヤ軸31の回転速度(第1電動機MG1の回転速度)を上昇させる回転速度上昇制御を実行するようにしている。具体的には、エンジン8の出力(パワー)を上昇させることによってサンギヤ軸31の回転速度を上昇させるようにしている。このため、このサンギヤ軸31の上昇によって、サンギヤ軸31の内周部とキャリア軸32の外周部との間には潤滑油が十分に供給される状況となり、軸受け部材34への潤滑油の供給が十分に行われることになる。これにより、軸受け部材34の耐久性の低下を抑制することができる。
また、本実施形態では、エンジン8の運転動作点が最適燃費動作ライン上を移動するようにエンジン8の出力を上昇させているため、エンジン8の燃費効率を良好に維持しながら軸受け部材34への潤滑油の供給を十分に行うことができる。
なお、本実施形態の場合、バッテリの充電可能量に応じて、エンジン8の運転動作点の移動量を変化させるようにしてもよい。具体的には、バッテリの充電可能量が少ない場合には、エンジン8の運転動作点の移動量を少なくするものである。また、このようにエンジン8の運転動作点の移動量を少なくする場合には、サンギヤ軸31の回転速度の上昇量も少なくなる可能性があるので、前記第1実施形態の制御(エンジン8の運転動作点を等パワーライン上で移動させること)を併せて実行するようにしてもよい。この場合、エンジン8の運転動作点は、図5の運転動作点Aから運転動作点A3に移動することになる。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。本実施形態における回転速度上昇制御では、動力分割機構16の変速動作(変速比を大きくする変速動作)を行うことによってサンギヤ軸31の回転速度を上昇させるようにしている。
本実施形態における回転速度上昇制御の手順について図14のフローチャートに沿って説明する。このフローチャートも、車両のスタートスイッチがON操作された後、所定時間毎に繰り返して実行される。
図14のフローチャートにおけるステップST1〜ステップST3、ステップST5、ステップST6の動作は、前記第1実施形態で説明した図7のフローチャートにおけるステップST1〜ステップST3、ステップST5、ステップST6の動作と同様であるので、ここでの説明は省略する。
ステップST24において第1電動機MG1の回転速度上昇制御が実行される場合、エンジン8の回転速度を変化させることなく、目標回転速度が得られるように、第1電動機MG1の回転速度を制御し、動力分割機構16の変速動作を行う。この状態が、前記ステップST3で決定された回転速度上昇制御の実行期間だけ実行されるようにする。このステップST24の動作が、本発明でいう回転速度上昇制御部による動作であって、「駆動力源の運転に伴って第2回転軸が回転している状態で、第1回転軸の回転速度が零または零近傍である状態が所定の閾値時間だけ継続した場合、第1回転軸の回転速度を上昇させる回転速度上昇制御を実行する動作」に相当する。
この第1電動機MG1の回転速度上昇制御(動力分割機構16の変速動作)が実行されることで、前述した第1実施形態の場合と同様に、第1電動機MG1に一体回転可能に連結されたサンギヤ軸31の回転速度が上昇することになる。このサンギヤ軸31の回転速度の上昇によって、キャリア軸32の外周部とサンギヤ軸31の内周部との間には、前記潤滑油流路を経て潤滑油が十分に供給される状況となり、軸受け部材34への潤滑油の供給が十分に行われる状況となる。
その他の動作は、前記第1実施形態の場合と同様である。
図15は、本実施形態における前記回転速度上昇制御が行われる際のエンジン回転速度、第1電動機回転速度、エンジントルク、第2電動機トルク、バッテリ充電量、第2ブレーキ係合油圧、第1ブレーキ係合油圧、潤滑油量の推移の一例を示すタイミングチャート図である。この図15では、動力分割機構16の変速比が大きくなるように変速動作が行われ、それに伴って自動変速機20がアップシフトされる場合を示している。具体的には、第2ブレーキB2が係合状態から解放され、第1ブレーキB1が解放状態から係合されることで、自動変速機20が前進2速段から前進3速段にアップシフトされる場合を示している。
この図15では、タイミングT11で第1電動機MG1の回転速度が零となり、この時点から前記零回転継続時間の計測が開始される。そして、タイミングT12で、この計測されている零回転継続時間が前記閾値時間に達し(前記ステップST1でYES判定されるタイミング)、タイミングT13で、第1電動機MG1の回転速度上昇制御が開始される(前記ステップST24)。つまり、第1電動機MG1の回転速度として前記目標回転速度が得られるように、動力分割機構16の変速動作が行われる。つまり、エンジン8の回転速度を変化させることなく、第1電動機MG1の回転速度上昇に伴って動力分割機構16の変速比が大きくなるように制御されている。これに伴い、第2ブレーキB2が係合状態から解放され、第1ブレーキB1が解放状態から係合されて自動変速機20が前進2速段から前進3速段にアップシフトされる。そして、タイミングT14で、変速動作が完了し、第1電動機MG1の回転速度が前記目標回転速度に達している。これにより、現在の車速の維持とエンジン回転速度の変動を防止しながら、サンギヤ軸31の内周部とキャリア軸32の外周部との間への潤滑油の供給が可能になる。
そして、タイミングT15で、回転速度上昇制御が開始されてから所定期間(前記回転速度上昇期間)が経過し(前記ステップST5でYES判定されるタイミング)、第1電動機MG1の回転速度上昇制御の終了処理が開始され、タイミングT16で、第1電動機MG1の回転速度が、回転速度上昇制御が開始される前の回転速度に戻されている。これに伴い、第2ブレーキB2が解放状態から係合され、第1ブレーキB1が係合状態から解放されて自動変速機20が前進3速段から前進2速段にダウンシフトされる。
本実施形態においても、エンジン8の運転に伴ってキャリア軸32が回転している状態で、サンギヤ軸31(第1電動機MG1と一体的に回転するサンギヤ軸31)の回転速度が零または零近傍である状態が所定の閾値時間だけ継続した場合には、サンギヤ軸31の回転速度(第1電動機MG1の回転速度)を上昇させる回転速度上昇制御を実行するようにしている。具体的には、動力分割機構16の変速動作が行われることによってサンギヤ軸31の回転速度を上昇させるようにしている。このため、このサンギヤ軸31の上昇によって、サンギヤ軸31の内周部とキャリア軸32の外周部との間には潤滑油が十分に供給される状況となり、軸受け部材34への潤滑油の供給が十分に行われることになる。これにより、軸受け部材34の耐久性の低下を抑制することができる。
また、本実施形態では、回転速度上昇制御によってエンジン8の回転速度が変動するといったことがないため、車両の乗員に違和感を与えることもない。
−他の実施形態−
なお、前記各実施形態は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。従って、本発明の技術的範囲は、前記した各実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
例えば、前記各実施形態では、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両に対して本発明を適用した場合について説明したが、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両や4輪駆動車に対しても本発明は適用可能である。
また、各実施形態は、必要に応じて優先順位を設けるようにしてもよい。例えば、第1実施形態における回転速度上昇制御に対して第2実施形態における回転速度上昇制御を優先的に行うようにしてもよい。
また、各実施形態は、車両の走行中に、サンギヤ軸31の回転速度が零または零近傍である状態が所定の閾値時間だけ継続した場合に、回転速度上昇制御を実行するようにしていた。本発明は、自動変速機20がニュートラル状態となっており、バッテリを充電するなどの目的で、エンジン8が運転しており、それに伴ってキャリア軸32が回転している状態で、サンギヤ軸31の回転速度が零または零近傍である状態が所定の閾値時間だけ継続した場合に回転速度上昇制御を実行するようにしてもよい。