第1の発明の使用者識別装置は、使用者がタップするリズムに応じて圧電センサの出力が変化し、その変化出力信号によって使用者を識別する構成としている。
これによって、使用者が好みのリズムでタップする(叩くなどの行為により振動を伝える)力に応じて変化する圧電センサの出力信号によって使用者を識別するので、他の者が適当にタップしても使用者と同じリズムになる可能性が低く、間違って使用者として識別される危険性を低くすることができる。このとき使用者がタップする方法は体の特定の部位を使うことに限定する必要はなく、同じリズムが起こせさえすればよい。圧電センサは、与えられた力の加速度に応じた振幅と幅のアナログ出力を発生するので、使用者が直接触れなくてもタップする力が伝わりさえすれば良く、センサの数が多くなくてもたとえば1つだけでも良く、形状が大きくなくても小さくても良く、処理回路を複雑にする必要がなく極めて簡単な構成で良い。よって簡単かつ小型な構成で、また簡単な操作で使用者を識別することができる。
第2の発明は、特に第1の発明の使用者識別装置において、圧電センサは、可撓性を有する圧電体を用いて構成している。
これによって、圧電センサが可撓性を有するので容易に変形が可能であり、設置場所に応じた形状にすることができる。よって設置場所の制約が少なく、たとえば狭いところにも設置可能である。また可撓性の無いものと比較して強度があるので、補強のための構成が不要である。よって、より簡単かつ小型な構成にすることができる。またタップによって容易に変形するため、変形の加速度による出力が大きくなり、高感度である。よって使用者が軽いタッチで操作することができ、操作しやすい。
第3の発明は、特に第1または第2の発明の使用者識別装置において、圧電センサは、中心電極と外側電極の間に圧電体を配置して同軸ケーブル状に構成している。
これによって、圧電体は外側電極に覆われるので表出することがなく、周囲の環境にさらされて劣化するのを防ぐことができる。また外側電極がシールド効果を発揮するため外部ノイズを受けにくい。よって劣化防止のための構成やノイズ除去のための余分な構成が不要である。また同軸ケーブル状なので断面を見たときに周囲360度いずれの方向からでも力を受けて変形することが可能であり、設置の自由度がより高く、感度もより高いものになる。よって、より簡単かつ小型な構成で、操作もしやすくなる。
第4の発明は、特に第1ないし第3のいずれか1項の発明の使用者識別装置において、圧電センサの出力信号を登録できる登録手段と、前記登録手段に登録された出力信号と現在の圧電センサの出力信号とを比較して、一致度合いにより使用者を識別する識別手段とを有する構成としている。
これによって、使用者が好みのリズムでタップする(叩くなどの行為により振動を伝える)力に応じて変化する圧電センサの出力信号を登録手段に登録することができるので、登録後は、使用者は登録時と同じリズムでタップするだけで使用者として識別され、登録内容を知らない者が適当に圧電センサをタップしても使用者と同じリズムになる可能性が低く、間違って使用者と識別される危険性を低くすることができる。
第5の発明は、特に第4の発明の使用者識別装置において、登録手段は、所定値以上の圧電センサの変化出力信号を登録する構成としている。
これによって、タップの強弱によって圧電センサの出力は増減し、強いタップによる所定値以上の出力を登録して、弱いタップによる所定値に満たない出力を登録しないので、強いタップと弱いタップとを明確に区別して記憶することができる。よって容易にタップの強弱のリズムによる使用者の識別ができる。
第6の発明は、特に第4の発明の使用者識別装置において、登録時に登録内容を数値化して表示する表示手段を有し、圧電センサとは異なる入力手段を用いて表示された数値を入力することで使用者を識別することもできる構成としている。
これによって、使用者が登録時に表示された数値を記憶しておけば、タップだけでなく数値入力によっても使用者を識別することができる。タップ入力が再現できない状況になった場合でも、使用者を識別することができる。
第7の発明は、特に第1ないし第3のいずれか1項の発明の使用者識別装置において、機器の外郭の少なくとも一部に沿って圧電センサを装着する構成としている。
これによって、外郭をタップすることで使用者を識別することができる。使用時は開けて未使用時は閉めるような機器(ラップトップパソコン、携帯電話など使用時はキー操作のために開けるが、小さく収納するために未使用時には折り畳むような機器など)に使用する場合に、閉めたままでも使用者を識別できる。
第8の発明は、特に第1ないし第3のいずれか1項の発明の使用者識別装置において、機器の内部に圧電センサを実装し、使用者が機器に与える振動に応じて圧電センサの出力が変化する構成としている。
これによって、使用者が機器そのものをタップすることにより、内部の圧電センサを振動させることができるので、タップのリズムに応じた振動による出力を発生させることができる。また圧電センサが機器の内部にあれば、外観からは使用者識別装置があるのかどうかもわからないので、より他の者に使われる危険性が少ない。即ち識別の精度を高めることができる。
第9の発明の使用者識別機能付き機器装置は、特に第1ないし8のいずれかの発明の使用者識別装置を用いて、使用者を識別できた場合にのみ機器の機能を使用可能または機器の環境を使用者に合わせて設定する構成としている。
これによって、簡単かつ小型な構成で、また簡単な操作で機器の機能を使用可能または機器の環境を使用者に合わせて設定することができる。よって使用者識別機能付き機器装置自体の構成を簡単かつ小型にすることができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
また、実施の形態で使用するタップとは、叩く、振る、握る、押す、撫でる、踏む、蹴るなどの行為により振動を伝えることである。
また、実施の形態で使用するリズムとは、強弱のファクターや、時間のファクター(時間間隔、維持時間、トータル時間)の少なくとも一つをさしている。特にタップするリズムなので、主としてタップの強弱とタップの時間変化としてとらえることができる。
また、実施の形態で使用する圧電センサの変化出力信号とは、タップするリズムに応じて、圧電センサから発生する出力の大きさか時間の少なくとも一つが変化しているということを示している。
(実施の形態1)
本実施の形態には、代表的な使用者識別機能付き機器装置としてパソコンを用いた例について説明する。
図1はパソコンの概観斜視図、図2は圧電センサの概観斜視図、図3は図2のA−A断面図、図4は圧電センサの構成図、図5はパソコンの制御ブロック図である。
代表的な情報処理装置であるラップトップ型のパソコン1は、大きくはモニタ2と、キーボード3やタッチパッド4などを有する本体5とからなる。パソコンのユーザーの識別のため、圧電センサ6はゴムなどの弾性体7内に収納され、本体5の周囲を囲むように装着されている。圧電センサ6は弾性体7よりも長さが長い構成であるが、弾性体7の両端の少し手前から本体5内に挿入されるので使用者からは弾性体7しか見えない構造である。
圧電センサ6は図2に示すように所定長のケーブル状で、一端に接続された断線検出用抵抗体8と、他端に接続されたセンサ回路9とを構成し、センサ回路9の出力はリード線10を介して制御回路11に導かれるものである。またリード線10は、制御回路11からセンサ回路9への電源供給のためにも用いられている。
圧電センサ6は、図4に示す構造を有し、軸方向中心に芯線(中心電極)12と、この中心電極12の周囲に圧電セラミックスを用いて形成した圧電体(複合圧電体層)13を被覆し、さらに圧電体13の周囲に外側電極14を配設し、最外周をPVC(塩化ビニル樹脂)等の被覆層15で被覆して形成したものである。この圧電体13は、優れた可撓性を有し、変形時の変形加速度に応じた出力信号を発生する。圧電セラミックスとしては、例えば、チタン酸鉛、又はチタン酸ジルコン酸鉛の焼結粉体やニオブ酸ナトリウム等の非鉛系圧電セラミック焼結粉体を用いる。
上記ケーブル状の圧電センサ6は、使用温度が120℃まで可能な出願人独自開発の耐熱性を有する樹脂系材料を圧電体13に用いており、従来の代表的な高分子ピエゾ素子材料(一軸延伸ポリ弗化ビニリデン)やピエゾ素子材料(クロロプレンと圧電セラッミック粉末のピエゾ素子材料)の最高使用温度である90℃より高い温度域(120℃以下)で使用できる。そして、圧電体13がフレキシブル性を有する樹脂と圧電性セラミックから構成され、また、コイル状金属中心電極及びフィルム状外側電極から成るフレキシブル電極を用いて構成しており、通常のビニールコード並みのフレキシブル性を有している。
圧電体13は、樹脂系材料と、10μm以下の圧電性セラミック粉末の複合体とから構成され、振動検出特性はセラミックにより、またフレキシブル性は樹脂によりそれぞれ実現している。圧電体13は樹脂系材料として塩素系ポリエチレンを用い、高耐熱性(120℃)と容易に形成できる柔軟性を実現すると共に架橋する必要のない簡素な製造工程を可能とするものである。
このようにして得られたケーブル状の圧電センサ6は、圧電体13を成形したままでは、圧電性能を有しないので、圧電体13に数kV/mmの直流高電圧を印加することにより、圧電体13に圧電性能を付与する処理(分極処理)を行うことが必要である。圧電体13にクラックなどの微少な欠陥が内在する場合、その欠陥部で放電して両電極間が短絡し易くなるので、充分な分極電圧が印加できなくなるが、本発明では一定長さの圧電体13に密着できる補助電極を用いた独自の分極工程を確立することにより、欠陥を検出・回避して分極を安定化でき、これにより数10m以上の長尺化も可能になる。
また、圧電センサ6においては、中心電極12にコイル状金属中心電極を、外側電極14にフィルム状電極(アルミニウム−ポリエチレンテレフタレート−アルミニウムの三層ラミネートフィルム)を用い、これにより圧電体13と電極の密着性を確保すると共に、外部リード線の接続が容易にでき、フレキシブルなケーブル状実装構成が可能になる。
中心電極12は、銅−銀合金コイル、外側電極14はアルミニウム−ポリエチレンテレフタレート−アルミニウムから成る三層ラミネートフィルム、圧電体13はポリエチレン系樹脂+圧電性セラミック粉末、外皮は熱可塑性プラスチック、これにより、比誘電率は55、電荷発生量は10−13C(クーロン)/gf、最高使用温度は120℃となる。
以上の圧電体13は、一例として以下の工程により製造される。最初に塩素化ポリエチレンシートと40〜70体積%の圧電セラミックス(ここでは、チタン酸ジルコン酸鉛)粉未がロール法によりシート状に均一に混合される。このシートを細かくペレット状に切断した後、これらのペレットは中心電極12と共に、連続的に押し出されて圧電体13を形成する。そして、補助電極を圧電体13の外周に接触させて前記補助電極と中心電極12との間に高電圧を印加させて分極処理を行う。それから、外側電極14が圧電体13の周囲に巻き付けられる。外側電極14を取り巻いて被覆層15も連続的に押し出される。
上記塩素化ポリエチレンに圧電セラミックス粉体を添加するとき、前もって、圧電セラミックス粉体をチタン・カップリング剤の溶液に浸漬・乾燥することが好ましい。この処理により、圧電セラミックス粉体表面が、チタン・カップリング剤に含まれる親水基と疎水基で覆われる。親水基は、圧電セラッミクス粉体同士の凝集を防止し、また、疎水基は塩素化ポリエチレンと圧電セラミックス粉体との濡れ性を増加する。この結果、圧電セラミックス粉体は、塩素化ポリエチレン中に均一に、最大70体積%までに多量に添加することができる。上記チタン・カップリング剤溶液中の浸漬に代えて、塩素化ポリエチレンと圧電セラミックス粉体のロール時にチタン・カップリング剤を添加することにより、上記と同じ効果の得られることが見出された。この処理は、特別にチタン・カップリング剤溶液中の浸漬処理を必要としない点で優れている。このように、塩素化ポリエチレンは、圧電セラミックス粉体を混合する際のバインダー樹脂としての役割も担っている。
本実施形態の場合、中心電極12には、銅系金属による単線導線を使用している。また、外側電極14には、高分子層の上にアルミ金属膜の接着された帯状電極を用い、これを圧電体13の周囲に巻き付けた構成としている。そして、高分子層としては、ポリエチレン・テレフタレート(PET)を用い、この上にアルミ薄膜を接着した電極は、商業的にも量産されて、安価であるので、外側電極14として好ましい。この電極をセンサ回路9に接続する際には、例えば、加締めや、ハトメにより接続することができる。また、外側電極14のアルミ薄膜の周りに金属単線コイルや金属編線をセンサ回路9の接続用に半田付けする構成としてもよく、半田付けが可能となるので、作業の効率化が図れる。なお、圧電体13を外部環境の電気的雑音からシールドするために、外側電極14は部分的に重なるようにして圧電体13の周囲に巻き付けることが好ましい。
被覆層15としては、前述の塩化ビニル樹脂よりも断熱性及び防水性に優れたゴム材料を使用することもできる。このゴム材料とは、接触する物品の押圧力で圧電体13が変形し易いように、圧電体13よりも柔軟性及び可撓性の高いものが良い。車載部品として耐熱性、耐寒性を考慮して選定し、具体的には、−30℃〜85℃で可撓性の低下が少ないものを選定することが好ましい。このようなゴム材料として、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、シリコンゴム(Si)、熱可塑性エラストマー等を用いればよい。以上のような構成により、圧電体13の最小曲率は、半径5mmまで可能になり、また、塩化ビニルと比較して、更に優れた断熱性及び防水性を確保することができる。
上記のように、圧電体13の複合圧電体が塩素化ポリエチレンの有する可撓性と圧電セラミックスの有する高温耐久性とを併せ持つので、圧電体としてポリフッ化ビニリデンを用いた従来の圧電センサのような高温での感度低下がなく、高温耐久性がよい上、EPDMのようなゴムのように成形時に加硫工程が不要なので生産効率がよいという利点が得られる。
圧電体13の圧電性能については、印加電圧に対する誘起歪を表す圧電歪定数(d定数)では圧電セラミックス(ここでは、チタン酸ジルコン酸鉛)と比較すると約1桁ほど低下するが、逆に印可応力に対する誘起電圧を表す電圧出力定数(g定数:センサ定数ともいわれる)では1桁以上大きくなる。つまり同じ力を加えた場合の発生出力レベル(感度)が圧電セラミックス単体よりも1桁以上高いのである。
図5には、使用者が図1の弾性体7をタップすることによって生じる圧電体センサ6の出力信号から使用者を識別する使用者識別装置16のブロック図を示した。
ここでタップとは、一般的には打つとか、叩くという意味であるが、本発明においては使用者が圧電センサ6を変形させるために何らかの力を加えるという意味に定義する。特に本実施の形態では、パソコンの使用者が図1の弾性体7を打つ、叩く、押す、撫でる、などの動作を行うことによって、弾性体7とともに内部の圧電センサ6を変形させ、変形の加速度に応じて圧電センサ6が発生する出力を利用するものである。
使用者識別装置16は、使用者が弾性体7をタップすることで圧電センサ6が出力を発生すると、その出力をセンサ回路9で加工し、リード線10によって制御回路11に導かれ、制御回路11にて使用者の識別を行うものである。
センサ回路9は、圧電センサ6の断線を検出する際に使用する分圧用抵抗体17、圧電センサ6からの出力信号から所定の周波数成分のみを通過させる濾波部18、濾波部18からの出力信号に基づき圧電センサ6の変形(弾性体7へのタップ)を判定する判定部19、断線検出用抵抗体8と分圧用抵抗体17により形成される電圧値から圧電センサ6の中心電極12と外側電極14の断線または短絡といった異常を判定する異常判定部20を備えている。また、中心電極12と外側電極14を制御回路11に接続し、圧電センサ6からの出力信号を制御回路11に入力する信号入力部21と、判定部19からの判定信号を出力する信号出力部22とは、隣接してセンサ回路9内に配設してある。信号出力部22には、センサ回路9への電源ライン23とグランドライン24も接続されている。さらに、センサ回路9は、信号入力部21と信号出力部22との間に設けられ高周波信号をバイパスするコンデンサ等のバイパス部25を有している。
濾波部18は、圧電センサ6の出力信号からハードディスクやCD−ROMの回転による振動等に起因する不要な信号を除去し、タップによって圧電センサ6が変形する際に現れる特有な周波数成分のみを抽出するような濾波特性を有する。また濾波特性の決定には、それ以外にもパソコンの使用環境に応じた振動特性によって最適化すればよい。たとえばモバイル型パソコンの場合は乗り物に乗って使用されることがあるので乗り物の走行振動を除去することが想定される。
センサ回路9は、外来の電気的ノイズを除去するためシールド部材で全体を覆って電気的にシールドしても良い。また、外側電極14はセンサ回路9のシールド部材と導通し、圧電センサ6も電気的にシールドしても良い。なお、上記回路の入出力部に貫通コンデンサやEMIフィルタ等を付加して強電界対策を行っても良い。
図5の電源部26は、電源ライン23とグランドライン24との間に接続され、センサ回路9に電源を供給しているが、これはもちろんパソコン内の電源を利用することが可能である。
また図5の制御回路11内の登録手段27はセンサ回路9の出力を登録できるものであり、パソコンの場合はメモリやハードディスクなどに記憶させることが可能である。識別手段28は登録手段27に登録された内容と現在のセンサ回路9出力を比較して一致度合いにより使用者を識別するものである。使用者を識別できれば、制御回路11は、従来のパソコンでパスワードが一致した時と同じように、特定の機能を使用可能とするように制御する。たとえばファイルを見たり書き換えたりネットワークにつなぐことを可能とするといった機能である。
図6は正常時のセンサ回路9の出力であり、使用者が弾性体7を一回タップした時の出力の時間変化を示す特性図である。正常時は、センサ出力にはVaの直流バイアスがかかり、Vaを基準に変化している。ちなみに異常時は、たとえば中心電極12と外側電極14の断線時と短絡時とで、出力をLOかHIにクリップすることが考えられる。
さて図6において、時刻t0(圧電センサ6に荷重が加わっていないとき)は、センサ出力は基準バイアス電圧Vaを示している。正常状態である。
時刻t1で、使用者が指を使って弾性体7を図3の上から下に向けてタップしたとする。タップにより弾性体7を介して圧電センサ6には下向きに押される力が加わり、可撓性のある圧電センサ6は下向きに変形し始めて、変形の加速度に応じた出力を発生する。ただし圧電センサ6は弾性体7を介してパソコンの本体5に取り付けられており、本体5自体は剛体なのでタップの力程度では変形しないため、本体5に押し留められるようにして弾性体7と圧電センサ6の変形も徐々に弱まり変形の加速度が減少していく。そしていずれは変形が止まる。その後使用者が指を戻すと、今度は弾性体7と圧電センサ6の自らの弾性により上向きの変形を開始、ついには元の状態に戻ることになる。よってセンサには、下向きの加速度のあとすぐに上向きの加速度が生じることになり、図6のようにVaを基準としたプラス側の出力とマイナス側の出力が発生し、最終的にはVaに戻ることになる。このときのVb−Vaの値は圧電センサ6の変形の加速度に応じて決まるので、強くタップすると大きくなり、弱いタップでは小さくなる。
ちなみに図7はタップの力FとVb−Vaの関係を示す特性図である。
さて、制御回路11では、圧電センサ6の出力の大きさとリズムに基づいて使用者の識別を行っているが、使用者を識別するためにあらかじめ圧電センサ6の出力の大きさとリズムを登録する構成としている。
図8は登録の手順を示すフローチャートである。使用者がパソコンの登録画面を開くと、登録画面が表示され、ユーザー名の入力を待ち受ける状態となる(図8のST11)。使用者がユーザー名をキーボードなどを使って入力する(図8のST12)。するとタップ入力の待ち受け画面となる(図8のST13)。そこで使用者は任意の力加減とリズムで弾性体7をタップして識別用タップ入力を行う(図8のST14)。確認のためもう一度識別用タップ入力を行う(図8のST15)。一回目と二回目のタップ入力が一致したかどうかを判定する(図8のST16)。一致しなければ再度タップ入力の待ち受け画面(図8のST13)に戻ってやり直すことができる。一致した場合は、登録Okの表示を出す(図8のST17)。そしてこのタップ内容を、図5の登録手段27でユーザー名と関連付けて記憶することで登録が完了する(図8のST18)。ここで登録手段27に登録される内容は、使用者が弾性体7をタップすることで圧電センサ6が発生するアナログ出力をセンサ回路9で加工し、制御回路11内に取り込んだデータをもとにすれば良く、制御回路11内でマイコンを利用するなどの方法でデジタル値として記憶しても良いし、メモリやハードディスクに記憶させても良い。使用者のタップと、圧電センサの出力と、登録されるデータとが一対一に対応すれば良いから、いろいろな方法で実現できると考えられる。
図9は識別の手順を示すフローチャートである。タップ入力の待ち受け状態(図9のST21)において、使用者がかつて登録した時の力加減とリズムで弾性体7をタップして識別用タップ入力を行う(図9のST22)。すると制御回路11の識別手段28は、登録手段27に登録されたデータと、センサ回路9からの入力信号とを照合して一致しているかどうかを判定する(図9のST23)。一致しなければ再度タップ入力の待ち受け状態(図9のST21)に戻り、特定の機能を使わせないままとする。一致した場合は、ユーザー名の表示を出す(図9のST24)。そして制御回路11により特定の機能を使用可能に制御する。たとえばログインを可能としたり、ハードディスクの個人情報へのアクセスを可能としたりという具合である。
図10の特性図は、上から順にセンサ回路9出力、マイコンのクロック、識別手段28の中の一次データであり、タップによる識別方法の具体例を示している。この場合センサ回路9の出力Vに対して、識別手段28はV1、V2という二つの閾値を設定し、V<V1、V1<V<V2、V2<Vという三段階(小、中、大)のレベルに分けて認識する。また時間(横軸)については、センサ出力9が初めて閾値を越えたことを検出して、次のクロックから一定周期ΔT内に1つのデータを認識することを計4回繰り返すものとし、おのおのΔTの期間内の最大出力レベルのみを記憶するものとする。またクロックのオン時間(図10の二段目のグラフのHI)のタイミングでのみデータを取り込むもので、よって、下段の一次データは、図示したタイミングで一周期目は中として認識、二周期目は一つ目のクロックで中だったものが二つ目のクロックで大に書き換えられ大として認識、三周期目はずっと小のままなので小として認識、四周期目は中として認識する。結局最終的に識別手段28によって認識される4つのデータは、中、大、小、中というあたかも4桁の暗証番号のように認識できるものである。ただしこれは識別手段28の中の話であって、使用者からすると、やさしくタップした、強くタップした、タップしなかった、やさしくタップしたというパターンで脳に記憶されていると考えられる。使用者の記憶と識別手段28が認識する内容は異なるものの、一対一に対応しており、使用者を特定することが可能なのである。使用者はあらかじめ、やさしくタップする、強くタップする、タップしない、やさしくタップするという4つのデータを登録手段27によって登録しておき、以後ログインの際に同様の力加減とリズムでタップすれば、識別手段28が登録手段27の登録内容と比較して一致したと判断してログイン可能とするものである。一方、一致しなかった場合は、登録した人物とは異なる人物のタップと判断し、ログインできないままに維持することで不正アクセスなどを防ぐ効果がある。
本実施の形態によれば、使用者が好みのリズムで弾性体7をタップする力に応じて変化する圧電センサ6の出力信号によって使用者を識別するので、他の者が適当にタップしても使用者と同じリズムになる可能性が低く、間違って使用者として識別される危険性を低くすることができる。このとき使用者がタップする方法は体の特定の部位を使うことに限定する必要はなく、同じリズムが起こせさえすればよい。圧電センサ6は、与えられた力の加速度に応じた振幅と幅のアナログ出力を発生するので、使用者が直接触れなくてもタップする力が伝わりさえすれば良く、センサの数が多くなくてもたとえば1つだけでも良く、形状が大きくなくても小さくても良く、処理回路を複雑にする必要がなく極めて簡単な構成で良い。よって簡単かつ小型な構成で、また簡単な操作で使用者を識別することができる。
また、圧電センサ6は、可撓性を有する圧電体13を用いて構成している。これによって、圧電センサ6が可撓性を有するので容易に変形が可能であり、設置場所に応じた形状にすることができる。たとえば本実施例ではパソコンの本体5の周囲に沿うように配置しているので、本体5の角の部分で折り曲げたような形状にしているが特に問題は無い。このことから設置場所の制約が少なく、たとえば狭いところにも設置可能である。また可撓性の無いものと比較して強度があるので、補強のための構成が不要である。圧電セラミックのように金属板に貼り付ける必要は無い。よって、より簡単かつ小型な構成にすることができる。また本実施の形態のようにエッジの部分に設けると何かとぶつけたりする可能性があるが特に問題は無い。またタップによって容易に変形するため、変形の加速度による出力が大きくなり、高感度である。よって使用者が軽いタッチで操作することができ、操作しやすい。
また圧電センサ6は、芯線(中心電極)12と外側電極14の間に圧電体13を配置して同軸ケーブル状に構成している。これによって、圧電体13は外側電極14に覆われるので表出することがなく、周囲の環境にさらされて劣化するのを防ぐことができる。また外側電極14がシールド効果を発揮するため外部ノイズを受けにくい。よって劣化防止のための構成やノイズ除去のための余分な構成が不要である。また同軸ケーブル状なので断面を見たときに周囲360度いずれの方向からでも力を受けて変形することが可能であり、設置の自由度がより高く、感度もより高いものになる。よって、より簡単かつ小型な構成で、操作もしやすくなる。また本実施の形態のように長さを長くすることもできる。全体としての形状は小さいのに広範囲にわたって設置することが可能であり、タップできる場所が広くタップしやすい。たとえば右利きの人が右側をタップしたり、左利きの人が左側をタップしたり個人の好みでタップする場所を選べる自由度もあり、使い勝手が良い。
また、使用者が好みのリズムでタップする(叩くなどの行為により振動を伝える)力に応じて変化する圧電センサ6の出力信号を登録手段27に登録することができるので、登録後は、使用者は登録時と同じリズムでタップするだけで使用者として識別され、登録内容を知らない者が適当に圧電センサ6をタップしても使用者と同じリズムになる可能性が低く、間違って使用者と識別される危険性を低くすることができる。
また使用者識別機能付き機器装置としてパソコン1に採用し、使用者を識別できた場合にのみ特定の機能(個人情報などのデータの入出力、インターネットへのアクセスなど)を使用可能としている。これによって、簡単かつ小型な構成で、また簡単な操作でパソコン1の使用者を識別して特定の機能を使用可能にでき、他の者の不正使用を防止することができる。よってパソコン1自体の構成を簡単かつ小型にすることができる。
本実施の形態のパソコン1は、使用者を識別できた場合にのみ特定の機能(個人情報などのデータの入出力、インターネットへのアクセスなど)を使用可能としている。これによって、圧電センサをパソコン1に装着するというだけの極めて簡単かつ小型な構成で、また使用者が弾性体7をタップするリズムといった非常に簡単な操作でパソコン1の使用者を識別して特定の機能を使用可能にでき、他の者の不正使用を防止することができる。よってパソコン1自体の構成を簡単かつ小型にすることができる。
また、従来のIDカードやICカードのようなカードとか、機械的な鍵などを持ち歩く必要も無い。
また操作に関しても、従来のパスワードの場合はパスワードを入力するために所定の位置にカーソルを合わせる作業が必要であったが、特に必要が無い。
さらに、従来の指紋や網膜のような生体情報の場合は登録時と同じ部位に限定される場合があるが、登録時と異なる部位を使ってタップすることができる。
なお、識別の精度を上げるために、タップとパスワード入力を組み合わせても良い。複数の識別手段を組み合わせることによって、より一層他人が不正にアクセスしにくくすることができる。
また、圧電センサをキーと一体にするとか、マウスにつけるとか、いろいろな取り付け構成が考えられる。
なお、ラップトップ型パソコンの場合、本体に対してモニターが開閉可能なので、圧電センサをモニター側と本体側とに亘る構成とすれば、タップする代わりにモニターを動かすリズムで識別することもできる。
(実施の形態2)
本実施の形態には、代表的な使用者識別機能付き機器装置として携帯電話を用いた例について説明する。
図11は携帯電話の概観構成図、図12は携帯電話の内部に構成された使用者識別装置の構成図である。
携帯電話29は折畳み式でありたたんだままでも表示が見えるような液晶画面30が構成されている。最近では通話だけでなく映像を撮影できるなど高機能化が進むとともに、携帯に便利なように小型軽量化が進められている。よって部品の実装密度が極めて高い製品であり、大きな部品を採用することはできない。
一方、携帯電話を無くした場合に備えて、第三者が電話をかけたりインターネットにアクセスしたりできないように、本実施の形態では、携帯電話29の内部に圧電センサ6を用いた使用者識別装置31を有している。図12によれば、使用者識別装置31は液晶30を逃げるようにL字型に配置され、枠体などの剛体32に固定されている。このときセンサ回路9や制御回路11はケース33内に収められ、ケース33と弾性体7の根元34のみを剛体32に固定している。
この場合、圧電センサ6と弾性体7が携帯電話29の内部に収納されており、外からは見えない構造であり直接タップすることはできない。よって使用者は携帯電話29自体をタップすることになる。右利きの場合、携帯電話29を左手で持ち、右手の指で携帯電話29自体を下向きに叩くと、その反動でいったん左手が下方向に動き、すぐ上方向に戻る。よって結果的に左手に保持された携帯電話29全体が下向きに動いたあとに上向きに動くことになる。携帯電話29が動くということは、枠体などの剛体32も動き、剛体32に固定されているケース33と弾性体7の根元34も同様に動く。それに対して弾性体7の根元34を除く他の部位は、どこにも固定されていないので慣性により動きにくい。つまり、根元34と根元34を除く部位との間で、動く部位と動かない部位が出てくるのである。これは弾性体7が変形することに他ならない。結局、携帯電話29自体をタップすることにより、弾性体7に変形を生じさせることができ、弾性体7内部に収納された圧電センサ6にも変形が生じるのである。以上の現象は、圧電センサ6と弾性体7に可撓性があることによって生じるものであり、圧電センサ6と弾性体7のいずれかが剛体であればこのようなことは起こらないものである。ちなみに、弾性体7を持たない構成とすることもできる。
また左手の動きの振幅は右手でタップする力の大きさと相関があり、強く叩けば大きく動き、弱く叩けば小さく動くことがわかる。そして左手の動きの振幅と圧電センサ6の変形にも相関があり、左手の動きの振幅が大きいほど圧電センサ6の変形が大きくなる。よって携帯電話29自体をタップする力加減とリズムに応じて、左手の動きの振幅とリズムが変わり、圧電センサ6の変形の大きさとリズムも変わる。圧電センサ6は変形の加速度に応じて出力を発生するので、携帯電話29自体をタップする力加減とリズムに対応した出力を発生することができる。
図13はタップによるセンサ回路出力の特性図であり、使用者をどのように識別するかの具体例を示すものである。
この場合、4桁の数字で識別するもので、連続して閾値V3を超えるタップ回数で数字を決め、タップしない時間が所定の時間tfを超えると次の数字に移るというものである。よって図13のように3回のタップのあとにtf以上の休みで「3」、2回のタップのあとにtf以上の休みで「2」、2回のタップのあとにtf以上の休みで「2」、1回のタップのあとにtf以上の休みで「1」、ということになり、3221という暗証番号として活用することができる。使用者からすると、タップ、タップ、タップ、休み、タップ、タップ、休み、タップ、タップ、休み、タップ、休みというリズムさえ覚えていれば良いことになる。
なお、この場合は閾値が一つだけでリズムのみで識別しているが、もちろん閾値を複数にして力の大きさとの組み合わせにしても良く、そうすれば、より一層の識別精度が上がるものである。
また本実施の形態では、タップの強弱によって圧電センサ6の出力は増減し、強いタップによる所定値V3以上の出力のみを登録するので、V3以上の出力を与える強いタップと、それよりも弱いタップ(振動によるノイズなど)やタップ無しとを明確に区別して記憶することができる。よって容易にタップの強弱のリズムによる使用者の識別ができる。
また、携帯電話29の内部に圧電センサ6を実装し、使用者が携帯電話29を直接タップする振動に応じて圧電センサ6の出力が変化する構成としている。
これによって、使用者が携帯電話29そのものをタップすることにより、内部の圧電センサ6を振動させることができるので、タップのリズムに応じた振動による出力を発生させることができる。また圧電センサ6が携帯電話29の内部にあり、外観からは使用者識別装置31があるのかどうかもわからないし、どのような仕組みで識別しているものかがわからないので、より他の者に使われる危険性が少なく、不正なアクセスをされにくい効果がある。即ち識別の精度を高めることができる。
本実施の形態の携帯電話29は、使用者を識別できた場合にのみ特定の機能(通話、インターネットへのアクセス、個人情報の読み出しなど)を使用可能としている。これによって、圧電センサを携帯電話29に内蔵するというだけの極めて簡単かつ小型な構成で、また使用者が携帯電話29をタップするリズムといった非常に簡単な操作で携帯電話29の使用者を識別して特定の機能を使用可能にでき、他の者の不正使用を防止することができる。よって携帯電話29自体の構成を簡単かつ小型にすることができる。
また本実施の形態にも同軸ケーブル状の圧電センサが有効である。携帯電話は通信のためにMHzからGHzオーダーの高周波を用いており、ノイズの要因となりやすいが、圧電センサを同軸ケ―ブル状に構成することで圧電体が外側電極に覆われるので表出することがなく、外側電極がシールド効果を発揮するためノイズを受けにくい効果がある。
なお、携帯電話を叩くのではなく揺する方法でも良い。携帯電話は手のひらにフィットするものなのでスナップを利かせて振ることも容易である。振り方の強さとリズムによっても、本実施の形態と同様に圧電センサを変形させることができるので、このような方法でも良い。
また、携帯電話に故意に振動を与えなくても、たとえば、携帯電話を身に付けたまま歩く方法も考えられる。人間の歩き方には癖があり、歩き方に応じた振動が携帯電話に伝わるので、歩き方の振動の大きさとリズムによっても識別できる可能性がある。
なお、本実施の形態は、携帯電話だけでなくいわゆるPDA(携帯情報端末)やPHSにも応用できることは言うまでもない。
(実施の形態3)
本実施の形態には、代表的な使用者識別機能付き機器装置として自動車のドアハンドル装置の例について説明する。
図14ドアハンドル装置を表す外観斜視図、図15は図14のB−B断面を(a)、(a)のC−C断面を(b)に表した内部構成図、図16は図15に示した圧電センサの概略構成図、図17はドアハンドル装置のブロック図、図18は使用者がハンドルを握った時の構成図、図19は暗証の識別の動作手順を表すフローチャート、図20は暗証を認識する精度を向上させるためのノイズ除去のフローチャート、図21はハンドルに印加される掌握力と、この掌握力から得られる検出信号と、この検出信号から得られるパルスの相関を表す説明図、図22は信号抽出帯域とノイズ帯域とを含んだ検出周波数の説明図である。
この第1の実施形態によるドアハンドル装置35は、図14に示すように、開閉操作のためのハンドル36を有するドア37に設けられ、このドア37の開扉操作をロックする図示しないドアロック手段を、ハンドル36の操作によってロック解除可能とする。ドアハンドル装置35は、その主要な構成として、ハンドル36に配設され可撓性を有する圧電素子にて形成した圧電センサ38と、ハンドル36への接触により生じる圧電センサ38からの検出信号を受けてドアロック手段によるロックを解除する制御部である後述の制御回路39(図17参照)とを備える。
ドアハンドル装置35は、車両のドア(ドアアウタパネル)37に組み付けられる。ハンドル36は、支持軸40を介して一端側41をドア37に揺動自在に支持して、この揺動によって他端側42を引き出し方向に移動するハンドル本体43を有している。つまり、片側がヒンジとなるプルライズ式のハンドル36を構成している。圧電センサ38は、ハンドル本体43のドア37に対向する面44に配設され、ハンドル本体43の把持操作による振動を検出可能としている。なお、図15(a)には、ハンドル本体43の後側に装備されたキーシリンダケース45を示す。
本実施形態において、圧電センサ38は、図15(b)に示すように緩衝材46を介装したチューブ状の被覆材47に覆われている。つまり、被覆材47がハンドル本体43のドア37に対向する面44に貼着されている。圧電センサ38は、ハンドル本体43の他端側42から導出されたケーブル部48がドア37内に引き込まれて制御回路39に接続される。圧電センサ38がドア37に対向するハンドル本体43の面44に配設されていることで、ドア37とハンドル本体43との間に、手が挿入されてハンドル本体43が把持されると、圧電センサ38近傍に直接触れられることになり、把持操作の検出感度が高まる。
圧電センサ38は、図16に示すように、所定長のケーブル状であり、一端に接続された断線検出用抵抗体49と、他端に接続された制御回路39と、制御回路39に接続されたケーブル50と、このケーブル50の先端に接続されたコネクタ51とから構成されている。制御回路39に接続されたケーブル50は、電源供給用と検出信号の出力用で、その先端に装備されたコネクタ51を介して、電源や、通信用端末に接続される。
図17に示すように、圧電センサ38の出力信号からドア37の開閉操作の有無を検出する制御回路39には、ドア37のドアロック手段の施錠/解錠を行う開閉駆動手段52と、この開閉駆動手段52の動作を制御する開閉制御手段53が装備されて、いわゆるキーレスエントリシステムを構成する。
制御回路39は、圧電センサ38の断線を検出する際に使用する分圧用抵抗体54、圧電センサ38の出力信号から所定の周波数成分のみを通過させる濾波部55、濾波部55からの出力信号に基づき圧電センサ38への物体の接触を判定する判定部56、断線検出用抵抗体49と分圧用抵抗体54により形成される電圧値から圧電センサ38の中心電極57と外側電極58の断線異常を判定する異常判定部59を備えている。また、中心電極57と外側電極58を制御回路39に接続し、圧電センサ38からの出力信号を制御回路39に入力する信号入力部60と、判定部56からの判定信号を出力する信号出力部61とは、隣接して制御回路39内に配設してある。信号出力部61には、制御回路39への電源ラインとグランドラインも接続されている。さらに、制御回路39は、信号入力部60と信号出力部61との間に設けられ高周波信号をバイパスするコンデンサ等のバイパス部62を有している。
また、開閉制御手段53には、制御回路39の判定結果を車室内のフロントパネル等の所定位置に設置されたライト或いはスピーカ等で報知する報知手段63、ドアを開閉するための開閉スイッチ64が接続されている。そして、制御回路39を通じて電力を供給する自動車のバッテリー等からなる電源65が設けられている。
ここで開閉制御手段53は、登録手段66、識別手段67を有しており、圧電センサ38に加えられた力加減とリズムに応じた制御回路39の出力をもとにあらかじめ登録された使用者か否かを識別し、使用者であると判断した場合は開閉スイッチ64によりドアロックを解除可能とし、使用者でないと判断した場合は報知手段63によって報知して警告するなどの制御を行うことができる。
濾波部55は、圧電センサ38の出力信号から自動車の車体の振動等に起因する不要な信号を除去し、異物の接触による押圧により圧電センサ38が変形する際に圧電センサ38の出力信号に現れる特有な周波数成分のみを抽出するような濾波特性を有する。濾波特性の決定には、自動車の車体の振動特性や走行時の車体振動を解析して最適化すればよい。
制御回路39は、外来の電気的ノイズを除去するためシールド部材で全体を覆って電気的にシールドしてある。また、外側電極58は制御回路39のシールド部材と導通し、圧電センサ38も電気的にシールドされている。なお、上記回路の入出力部に貫通コンデンサやEMIフィルタ等を付加して強電界対策を行っても良い。
次に図18は、使用者がハンドル36を握っている状態の図を示しており、ハンドル36のハンドル本体43と圧電センサ38を掌握し、その掌握圧力を所定の間隔で所定の回数変化させたり、或いはハンドル本体43と圧電センサ38を軸線回りに回動させたりすることにより圧電素子センサ38に変形を与える構成である。
次に、図19を用いて暗証によって使用者を識別する動作の流れを説明する。使用者がハンドル36に触れると(st41)、制御回路39によって接触が検出され、暗証入力モードが開始される(st42)。なお、この際、暗証入力モードが開始された旨を報知手段63(たとえばスピーカー)から発せられるブザー音で報知してもよい。
ブザー音を確認した使用者によって、所定のリズムの掌握動作で暗証信号が入力されると(st43)、識別手段67によって暗証信号を判定する(st44)。
そして判定した暗証信号が、あらかじめ登録手段66のメモリに登録された信号と一致すると(st45)、開閉制御手段53によって開閉駆動手段52へロック解除信号を送出する(st46)。一方、暗証信号が不一致であり、かつ不一致の暗証信号が所定回数以上判定されると(st47)、警報が発報される(st48)。
また図20には、図19と平行して実行される、暗証を識別する精度を上げるためにノイズを除去する流れについて説明を加える。
所定のリズムでハンドル36が掌握されると、圧力変化信号を検出し(st61)、信号処理を行う(st62)。即ち、圧電センサ38から図21(a)に示す印加圧力を検出すると、図21(b)に示す圧力変化信号が検出され、この圧力変化信号は制御回路39によって周波数解析される(st63)。
この際、制御回路39は、外乱周波数成分の除去処理を実行する(st64)。掌握によって得られる周波数は図22に示す信号抽出用帯域(例えば0.5〜5Hz程度)として予め設定しておき、それ以外の周波数はノイズ帯域として除去する。従って、制御回路39から出力される圧力変化検出信号は、圧電センサ38によって得た周波数から、外乱ノイズ帯域の周波数を除去した信号となっている。
次いで、この圧力変化検出信号から圧力ピークが検出される。本実施の形態では、圧力ピークが、二つの閾値|+Pb|+|−Pb|と、閾値|+Pc|+|−Pc|とに分けられる(st65)。
暗証信号は、所定の掌握リズムによる振動波形のピーク強度とピーク間隔とに基づいて設定される。操作者が所定の間隔で所定の回数、ハンドルを掌握すると、この振動波形が識別手段67によって解読される。つまり、操作者のみが知る固有の掌握リズムが暗証信号となる。識別手段67は振動波形の振幅が一定の基準量よりも大ならば、ハンドル掌握の操作があったものと判定して、図21(c)に示すように、時刻t1〜t7で判定出力として、Lo→Md又はLo→Hiの二種のパルス信号を出力する。これにより、暗証信号の認識が完了する(st66)というものである。
この実施の形態に係るドアハンドル装置35によれば、使用者が所定の間隔で所定の回数、ハンドルを掌握すると、この波形が識別手段67によって解読され、この掌握の動作が所定の動作であれば、開閉制御手段53から開閉駆動手段52に指示を出しドアロックが解除されることとなる。即ち、操作者のみが知る固有の掌握リズムが暗証信号となる。
また、本構成では、掌握の動作により暗証信号を入力するため、操作者以外の第三者が、暗証信号入力動作を目視にて確認することが極めて困難であり、第三者が操作者の入力動作を傍受して、暗証信号を不正入力することが不可能となる。
本実施の形態のドアハンドル装置を用いたキーレスエントリーシステムは、使用者を識別できた場合にのみ特定の機能(ドア開閉)を可能としている。これによって、圧電センサをドアハンドルと一体化するというだけの極めて簡単かつ小型な構成で、また使用者の掌握の強さとリズムといった非常に簡単な操作でドアハンドル装置の使用者を識別して特定の機能を使用可能にでき、他の者の不正使用を防止することができる。よってドアハンドル装置自体の構成を簡単かつ小型にすることができる。
なお、本実施の形態は自動車に限定されるものではなく、鍵を使用するものであれば使用可能である。たとえば、鍵としてエンジンキーを使う乗り物や、自転車、家や部屋のドアでも良いし、窓でも良い。金庫の扉でも良いし、机の引出し、ロッカー、キャビネットでも良い。あるいは鍵自体の代用もでき、南京錠やダイアルを合わせるタイプの錠の代わりに用いても良い。他人に見られたくない日記帳の鍵の代わりに用いることも可能である。
(実施の形態4)
本実施の形態には、代表的な使用者識別機能付き機器装置としてフォークリフトの例について説明する。
図23はフォークリフトの構成図、図24は使用者識別装置の構成図、図25は識別の様子をしめす特性図である。
フォークリフト68は、安全のために訓練を受けて特定の技能に達したものにしか使用できない乗り物である。そこで他の者が容易には運転できないように、使用者を識別して運転の可否を決定することが考えられる。図23ではフォークリフトの運転席の足元に使用者識別装置としてのマット69を構成している。図24はマット69を上から見た図で、クッション材70の中央に剛体71を配置することで、左足用クッション材72、右足用クッション材73に分かれており、運転手が座席に座った状態で踏むことができる構成である。左足用クッション材72、右足用クッション材73の下面にはそれぞれケーブル状の圧電センサ74、75を接着したり縫い付けたりすることで配設し、圧電センサ74、75の両端が一つの検知回路76に集まるような配置としている。検知回路を一つとすることで回路基板が一つで済むし、センサの両端を集めることで端部処理が一度にできるなどの効果がある。検知回路76は内部に図示しない登録手段と識別手段を有し、左足で左足用クッション材72を踏まれた時の圧電センサ74の変形に応じた出力と、右足で右足用クッション材73を踏まれた時の圧電センサ75の変形に応じた出力とを、別々に検出できるものにしている。
図25には圧電センサ74、75の出力と、識別の様子を示している。上段が右足のタップによる圧電センサ75の出力で、下段が左足のタップによる圧電センサ74の出力である。出力の閾値はV4、V5であり、出力Vのレベルにより、V<V4、V4<V<V5、V5<Vの三段階に分けて認識される。また横軸の時間を、t1、t2、t3、t4に分け、その間の出力によって4回の識別信号として認識されるものである。このとき圧電センサ74、75とも同じ時間で区分されており、左右の組み合わせも同時に認識されるものである。詳しくは、
時間t1では、右足の強いタップ1回、左足はタップ無しであり、
時間t2では、右左とも弱いタップ3回、
時間t3では、右左ともタップ無し、
時間t4では、右はタップ無し、左は強いタップ1回
というように識別される。
本実施の形態では、タップの大きさが三段階あることと、回数が選べることに加えて、さらにセンサを二つ使用して左右の組み合わせがあるということで、かなり精度の高い識別が可能である。
以上により、本実施の形態のフォークリフト68は、使用者を識別できた場合にのみ特定の機能(運転操作)を使用可能としている。これによって、圧電センサをマット69に装着するというだけの極めて簡単かつ小型な構成で、また使用者がマット69を踏むリズムといった非常に簡単な操作でフォークリフト68の使用者を識別して特定の機能を使用可能にでき、他の者の不正使用を防止することができる。よってフォークリフト68のエンジンキーが不要となり、フォークリフト68の特に運転席の構成を簡単かつ小型にすることができる。
また、圧電センサ74、75に可撓性を有する圧電体を用いることで、強度があるので、足で踏んでも壊れにくいものである。
また、ケーブル状の圧電センサ74、75をクッション材に配設したので、タップを検知できる面積が広範囲にわたり、使用者が踏む時にある程度適当な場所を踏めば良いということで踏みやすい。つまり操作が容易である。
またマットという極めて簡単かつ平らで邪魔にならない構成で、また足で踏むだけという簡単な操作でフォークリフトの使用者を識別して運転の可否を決定することができる。よって、フォークリフト自体を大掛かりにしたりというようなことが無い。
またマットに実装したので、使用者が必ず踏む場所であり、特に苦労しなくても難なくタップ操作ができる。
なお、マット以外にも座席のシートや座布団に設けることもできる。この場合、もともとクッションがあるものなので、圧電センサを一体化するだけで、容易に変形しやすく検知感度の高い構成を実現することができる。この場合は、使用者が座席に座ったまま臀部を揺するなどの方法でタップすることが可能である。
また、フォークリフト以外のあらゆる運転装置に使用可能である。たとえば、ブルドーザー、パワーショベル、クレーンなどの重機、車、バス、電車、船、飛行機などの乗り物、遊園地の乗り物、発電所の炉の運転装置、戦略防衛システムの起動装置、火器・銃器などの武器の発射装置にも使用可能であり、不正な使用を防いで安全性を高めるためには有効である。
(実施の形態5)
本実施の形態には、代表的な使用者識別機能付き機器装置として環境調整装置を部屋のドアに構成した例について説明する。
図26はドアの概観図、図27は使用者識別機能付き機器装置としての環境調整装置からエアコンとテレビを好みの環境に調整する様子を示した構成図、図28は使用者識別装置の特性図である。
ドア77には、ドアノブ78、ロック装置79、使用者識別装置80、通信装置81を有しており、使用者識別装置80、通信装置81を合わせて環境調整装置82を構成している。使用者識別装置80は図示しない圧電センサを有し、人83が入室する際に使用者識別装置80を撫でることにより、撫で方に応じた圧電センサの出力パターンを発生し、人83か誰であるかを識別し、ロック装置79を解除し、エアコン84、テレビ85と通信を開始する。通信は、環境調整装置82の通信装置81と、エアコンの通信装置86、テレビの通信装置87とによりデータの送受信を行うものであり、基本的には環境調整装置82からエアコン84の温度設定、テレビ85の音声ボリューム設定などに設定変更の指示を出すものである。たとえば、使用者識別装置80により、人83が暑がりで耳の遠いE氏であると識別した場合、エアコン84の温度設定を低めの温度に変更し、テレビ85の音声ボリュームを大きめに変更することができる。一方、使用者識別装置80により、人83が寒がりで耳の良いF氏であると識別した場合、エアコン84の温度設定を高めの温度に変更し、テレビ85の音声ボリュームを小さめに変更することができる。以上により、E氏が入室するときもF氏が入室するときも、それぞれ自動的に好みの環境に調整してくれるので、非常に快適である。
ただし、図示しないが、あらかじめ使用者が使用者識別装置80に撫で方のパターンを登録するときに、好みの温度や音声ボリュームを関連付けて登録しておく必要がある。あるいは、使用者識別装置80では撫で方のパターンによる使用者の特定のみを行い、好みの環境の方は別の機器にあらかじめデータベースとして記憶させておくことが考えられる。この場合は使用者識別装置80で使用者を特定したあと、別の機器に記憶されている使用者の好みの環境のデータベースにアクセスして読み込むことになる。本実施の形態のように通信手段を有する場合は、このように他の情報を得ることは特に難しいことではなく容易に実現することができる。
図28は使用者が使用者識別装置80を撫でたときに得られる出力の例である。使用者は、たとえば図26、27の使用者識別装置80を上から下に向けてなぞっていくものとする。破線は圧電センサ出力で、実線は圧電センサ出力を平滑化したものである。本実施の形態では、図示しないが平滑回路を有しており、実線の波形をもとに使用者を識別する。このとき閾値をV6として、期間tのあいだに出力Vが閾値V6に対してどのように変化するかでもって使用者を識別する。図28の場合、初期tL1:まだ触れていない(LO)、tH1:ずっとなぞっている(HI)、tL2:指を離している(LO)、tH2:ちょつとだけ触れた(HI)、tL3:指を離した(LO)、ということになる。この場合、図示しないが登録手段は、時間と出力を関連付けて記憶しており、つまりtL1:LO、tH1:HI、tL2:LO、tH2:HI、tL3:LOと記憶するのに対し、使用者は、まだ触れていない、ずっとなぞっている、指を離している、ちょつとだけ触れた、指を離した、という行動パターンを記憶しておけばよい。
以上、本実施の形態の環境調整装置は、使用者識別装置を用いて、使用者を識別できた場合にのみ、使用者に合わせた環境に調整する構成としている。これによって、簡単かつ小型な構成で、また簡単な操作で環境調整装置の使用者を識別して環境を調整することができる。環境調整装置自体の構成も簡単で小型である。
以上、本実施の形態の環境調整装置82は、使用者を識別できた場合にのみ機器の環境(エアコンの温度、テレビのボリューム)を使用者に合わせて設定可能としている。これによって、使用者識別装置80をドア77に装着するというだけの極めて簡単かつ小型な構成で、また使用者が使用者識別装置80を撫でるリズムといった非常に簡単な操作で使用者を識別して機器の環境を設定でき、設定変更の手間を省くことができる。
なお、使用者識別装置をドアノブと一体に構成して、ノブの回し方によって識別しても良い。また入り口に足ふきマットを置き、足ふきマットと一体にすることも考えられる。
調整する環境については、室内の環境の場合は、暖房、空調、換気、空清、音声、映像香りなどの調整が可能であるし、乗車時の運転席の環境設定に用いれば、ミラー角度、シートの角度、ハンドル高さなどの調整にも使用できる。広い意味ではパソコンのデスクトップ環境の調整も可能である。
(実施の形態6)
本実施の形態には、代表的な使用者識別機能付き機器装置としてパソコンの例について説明する。
図29はパソコン88の概観図、図30はモニタ画面に表示される表示の説明図、図31は特性図である。図29ではラップトップ型のパソコン88のモニタ89が閉じられており、モニタ89を起こさない限り図示しないキーボードやタッチパッドなどの入力装置からの入力はできない。しかし弾性体90の内部に一体化された圧電センサ91は、モニタ89の外郭を一周するように装着しており、モニタ89を起こさなくても(図29の状態のままでも)タップすることができる。そして弾性体90内にはセンサ回路92も一体化され、センサ回路92は圧電センサ91の両端と接続されている。よって図示しない断線検出用抵抗体もセンサ回路92を形成する同一基板上に固定されている。圧電センサが一周して閉ループを形成することで回路基板が少なくて済むとか、実装時の端部処理が一度にできるとかの効果がある。
図30は、使用者がタップによって圧電センサ91の出力を登録した場合にモニタ89に表示される内容を示すものであり、2935という識別番号が記述されている。使用者が登録する場合、まずモニタ89を起こし、当初は入力手段としてキーボードやタッチパッド、あるいはマウスなどを用いて操作を行い、登録画面を呼び出して登録の手順に従うことになる。そしていよいよタップ入力を行なう際には、この時点ではモニタ29が起きているので、親指を画面側(モニタ89の内側)にあてがい人差し指で外郭上の弾性体90を叩く方法が考えられる。この場合、弾性体90および弾性体90内部に一体化された圧電センサ91は外郭を一周するように装着されているので、使用者から見えなくても外郭を叩くつもりで指を動かせば確実に弾性体を叩くことができ、叩く位置がどこであるかを目で見て探すような煩わしさが無い。また使用者の好みによっては、若干モニタを閉じる方向に倒してタップする方法もある。また圧電センサを外郭側と内側の両方に亘る構成とすれば、モニタがどのようになっていてもタップすることができる。
さて登録が完了すると、モニタ画面には、図30のような表示が現れる。この数値は、使用者がタップしたリズムに応じて圧電センサ91が発した出力信号をもとに登録された登録内容と、一対一に対応するものであり、タップのリズムを再現できない場合に役立つものである。つまり登録時に表示されたこの数値(2935)を記憶しておいて、次回以降にパソコンを使用したい場合(ログオンしたい場合)、タップをしなくても所定の手順の中で数値(2935)をキー入力しても識別されるようにしている。つまり使用者からすれば、タップでも数値入力でもどちらでも良いということである。こうすれば、たとえば使用者がタップするリズムを忘れたとか、リズム感が悪くて同じようにタップできないとか、圧電センサ91やセンサ回路の故障などの場合にも、キー入力でログオンすることができる。このため図示しない制御回路では、タップ入力と数値入力の両方を待ち受ける必要がある。
また、登録時以降にログオンする場合、外郭に弾性体を装着しているので、閉じられたモニタ89を起こさないまま上から弾性体90をタップすることが可能であり、キー入力などの他の入力手段よりも容易にかつ早く識別できる。
また、識別番号の数値は、登録内容と一対一に対応してさえいればよく、特に数字の大きさがタップの強さに対応していればわかりやすいが、これにこだわる必要は無い。数字の大きさがタップの間合いの長さに対応しても良い。またリズムとは無関係に、登録した日時などでも良いし、パソコン内でランダムに決めた数値でも良い。もちろん数値でなく文字、記号でも良い。また、パソコン内でのみ数値と登録内容が一対一の対応をすればよく、使用者から見て意味の無いものでも良い。
図31は圧電センサの出力波形を示し、識別に用いられる情報を説明するための特性図である。縦軸が出力、横軸が時間を示している。図31には、二つの出力波形を記載しており、第一の波形はタップの力が強い場合、第二の波形はタップの力が弱い場合である。センサ出力は、電圧V7を基準に上下に変化するもので、タップによりまずプラス側に大きく振れ、直後にマイナス側にやや小さめに振れるものである。プラス側とマイナス側の大きさが違う要因は、弾性体の弾性にもよるが、タップする力が加わると幾分かが弾性体自身に吸収されて発熱などに変わり、戻る力は加わった力よりも減衰するので加速度が小さくなるためと考えられる。またタップの力が強い方が、振幅の大きさが大きいのに加えて幅も広めである。幅に関しては、圧電センサおよびセンサ回路による時定数のため、振幅が大きいほうが放電に時間がかかるのではないかと考えられる。
本実施の形態では所定の閾値を二つ用いている。プラス側の閾値V8とマイナス側の閾値V9を用意して、センサ出力Vが所定の閾値V8を上回るV>V8の時間(ta1,ta2)と、直後にセンサ出力Vが所定の閾値V9を下回るV<V9の時間(tb1,tb2)の両方によりセンサ出力の変化を記憶するものである。
ここでもし、V>V8しか起きない(あるいはV>V8からV<V9になるまでの時間が長すぎるとか短すぎるとか、V<V9しか起きない、という場合は、それはタップではなくてノイズであると判断させている。これによって、タップとノイズを区別することができ、検出精度が向上する効果がある。
本実施の形態において、登録時に登録内容を数値化して表示する表示手段を有し、圧電センサ91とは異なる入力手段を用いて表示された数値を入力することで使用者を識別することもできる構成としている。これによって、使用者が登録時に表示された数値を記憶しておけば、タップだけでなく数値入力によっても使用者を識別することができる。たとえばタップ入力が再現できない状況(タップするリズムを忘れたとか、リズム感が悪くて同じようにタップできないとか、圧電センサ91やセンサ回路の故障などの場合)でも、使用者を識別することができる。
また、パソコン88の外郭に沿って圧電センサ91を装着する構成としている。これによって、外郭をタップすることで使用者を識別することができる。使用時は開けて未使用時は閉めるような機器(ラップトップパソコン、携帯電話など使用時はキー操作のために開けるが、小さく収納するために未使用時には折り畳むような機器など)に使用する場合に、閉めたままでも使用者を識別できる。
以上、6つの実施の形態について説明したが、実施の形態を互いに組み合わせても良い。
また、タップのリズムによる識別と、他の識別装置(キー入力、鍵、生体情報など)と組み合わせても良い。組み合わせることで識別精度を格段に向上させることができる。