JP2004357574A - オジギソウへの遺伝子導入方法及び形質転換植物の作出方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】オジギソウに対して最適化した遺伝子導入方法及び形質転換植物の作出方法を提供すること。
【解決手段】目的遺伝子を含有するアグロバクテリム属に属する微生物の感染液にオジギソウの幼植物体の組織片を減圧処理下で浸漬し、浸漬後の組織片を共存培養培地で共存培養することを特徴とする、オジギソウへの遺伝子導入方法。
【選択図】 図4
【解決手段】目的遺伝子を含有するアグロバクテリム属に属する微生物の感染液にオジギソウの幼植物体の組織片を減圧処理下で浸漬し、浸漬後の組織片を共存培養培地で共存培養することを特徴とする、オジギソウへの遺伝子導入方法。
【選択図】 図4
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、オジギソウへの遺伝子導入方法及びオジギソウの形質転換植物体の作出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
オジギソウ(Mimosa pudica)は、マメ科の多年草又は一年草で、細かな小葉から成る羽状の葉が15対ほどついている。オジギソウの葉に手を触れると直ちに垂れ下がり、小葉は重なり合ってしおれたようになる。これは接触性傾性運動と呼ばれる現象で、接触刺激が電気信号になって葉枕に到達し、この電気信号が刺激伝達物質(L−リンゴ酸カリウム、trans−アコニット酸マグネシウム、ジメチルアンモニウム塩)に変換されることによって引き起こされると考えられている。また、伝達された刺激によって葉枕の細胞に含まれているアクチンのチロシン残基が可逆的な脱リン酸化を受けた結果、草の屈性がコントロールされていることもまた解明されている。オジギソウはこのような機械的な刺激ばかりでなく、温度・光・電気・化学的な刺激にも敏感で、昔から植物生理学の研究に用いられ、また観賞用にも栽培される。
【0003】
近年、植物バイオテクノロジーが進展する中で、組織培養、葯培養、細胞培養などの技術を利用して多様な特性を有する品種が育成されてきた。更に組換えDNA技術の発達により通常交配不可能な他の生物種の遺伝子を導入することにより、従来期待し得なかった特性を有する品種が育成されている。このような遺伝子組換え植物はアメリカ、カナダを中心に爆発的に普及が進んでおり、組換えDNAを利用した品種の作出には優良な遺伝子の単離と対象植物に適合した遺伝子導入技術が必要とされている。植物への外来遺伝子導入方法としては、アグロバクテリウムによる方法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、PEG法等が知られている。また、植物細胞中に外来遺伝子を導入するためのベクターや、形質転換細胞を選択/識別する各種のレポーター/マーカー遺伝子、導入した外来遺伝子を発現させる制御遺伝子(プロモーター等)等も既に確立されている。しかしながら、上記のような方法や手段を用いても、オジギソウを含むマメ科植物は一般に形質転換が困難とされており、わずかな種類の植物でしか成功例が知られていない。例えば、重要な作物であるダイズでは不定胚を経由する個体再生系とパーティクルガンによる遺伝子導入を組み合わせた系が確立されているが、難易度が非常に高く、熟練した一部の研究者にのみ実施が可能とされている(非特許文献1)。また、アグロパクテリウム介在型植物形質転換法において、実生を減圧湿潤法を用いて形質転換する方法(いわゆるin planta transformation、vaccum infiltrationと呼ばれる方法)が提案されているが(特許文献1)、シロイヌナズナ(非特許文献2)など一部の植物において確立されているにすぎない。一方、マメ科植物のモデルといわれて近年分子生物学的知見が飛躍的に集積しつつあるミヤコグサ(Lotus japonica)はアグロバクテリウムを用いた方法で比較的容易に形質転換体を得ることが報告されている(非特許文献3)。ところが、オジギソウに対してはこれまで遺伝子導入例の報告はなく、その遺伝子導入技術及び再分化技術は確立されていない。
【0004】
【非特許文献1】
植物代謝工学ハンドブック、p.222、エヌ・ディー・エス、2002
【特許文献1】
特表2000−533090号
【非特許文献2】
モデル植物の実験プロトコール、p.109−113、秀潤社、2001
【非特許文献3】
HYPERLINK ”http://miya.bio.sci.osaka−u.ac.jp/manuals/index.html” http://miya.bio.sci.osaka−u.ac.jp/manuals/index.html
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、特殊な機能を有する植物として遺伝子操作の対象として期待されるオジギソウに対して最適化した遺伝子導入方法及び形質転換植物の作出方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、アグロバクテリウム感染液への浸漬条件、共存培養条件、カルス誘導条件等のパラメーターが密接に関連し、これらを最適化することによって、オジギソウへの遺伝子導入効率、形質転換植物の作出効率が顕著に向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) アグロバクテリム属に属する微生物の感染液にオジギソウの幼植物体の組織片を減圧処理下で浸漬し、浸漬後の組織片を共存培養培地で共存培養することを特徴とする、オジギソウへの遺伝子導入方法。
(2) 減圧処理を0.1〜10kPaで1〜60分間行うことを特徴とする、上記(1)の方法。
(3) 減圧処理に代えて、感染液に浸漬する前に組織片にカーボランダムを噴霧して摩擦する処理を行うことを特徴とする、上記(1)の方法。
(4) 以下の工程を含むオジギソウの形質転換植物の作出方法。
(a) 目的遺伝子を含有するアグロバクテリウム属に属する微生物を含む感染液にオジギソウの幼植物体の組織片を減圧処理下で浸漬する工程
(b)浸漬後の組織片を共存培養用培地にて共存培養する工程
(c)共存培養後の組織片をカルス誘導用培地にて培養し、カルス誘導する工程
(d)誘導されたカルスを再分化する工程
(5) 工程(a)において、減圧処理を0.1〜10kPaで1〜60分間行うことを特徴とする、上記(4)の方法。
(6) 工程(a)において、減圧処理に代えて、感染液に浸漬する前に組織片にカーボランダムを噴霧して摩擦する処理を行うことを特徴とする、上記(4)の方法。
(7) 工程(c)において、カルス誘導用培地に植物ホルモンを添加することを特徴とする、上記(4)〜(6)のいずれかの方法。
(8) 植物ホルモンが、ベンジルアミノプリン(BAP)、ナフタレン酢酸(NAA)、チジアズロン(TDZ)、 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、カイネチン(Kinetin)、及びゼアチン(Zeatin)から成る群から選択される1種、又は2種以上の組み合わせである、上記(7)の方法。
(9) 植物ホルモンが、チジアズロン(TDZ)と2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、ベンジルアミノプリン(BAP)とナフタレン酢酸(NAA)、チジアズロン(TDZ)とナフタレン酢酸(NAA)、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)とカイネチン(Kinetin)、及びゼアチン(Zeatin)とナフタレン酢酸(NAA)から成る群から選ばれる組み合わせである、上記(8)の方法。
(10) 植物ホルモンとして、ベンジルアミノプリン(BAP)0.5μg/mlとナフタレン酢酸(NAA)0.5μg/mlを培地に添加することを特徴とする、上記(7)の方法。
(11) 植物ホルモンとして、チジアズロン(TDZ) 1μg/mlと2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)1μg/mlを培地に添加することを特徴とする、上記(7)の方法。
(12) 工程(c)において、カルス誘導用培地の窒素濃度を0.1mM〜100mMにすることを特徴とする、上記(4)〜(11)のいずれかの方法。
(13) 工程(c)において、培養を明条件で行うことを特徴とする、上記(4)〜(12)のいずれかの方法。
(14) 工程(c)において、カルス誘導用培地に除菌用抗生物質及び形質転換細胞選抜用抗生物質を添加することを特徴とする、上記(4)〜(13)のいずれかの方法。
(15) 除菌用抗生物質が、セフォタキシム、モキサラクタム、及びメロペネムから成る群から選択される1種又は2種以上の組み合わせである、上記(14)の方法。
(16) 除菌用抗生物質が、モキサラクタム又はメロペネムである、上記(14)の方法。
(17) モキサラクタム又はメロペネムの濃度が、1〜300μg/mlである、上記(16)の方法。
(18) 形質転換細胞選抜用抗生物質が5〜20μg/mlのジェネティシンである、上記(14)の方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明の実施の形態】
【0008】
(1)オジギソウへの遺伝子導入方法
本発明のオジギソウへの遺伝子導入方法は、目的遺伝子を含有するアグロバクテリム属に属する微生物の感染液にオジギソウの幼植物体の組織片を減圧処理下で浸漬し、浸漬後の組織片を共存培養培地で共存培養することを特徴とする。
【0009】
本発明において、オジギソウの幼植物体とは、滅菌処理したオジギソウ種子を寒天培地に播種し、暗黒下で本葉が展開するまで約5日間から2週間培養して育成したものをいう。オジギソウ種子は特に制限はなく、一般の市販品(福花園種苗、サカタのタネ等)を用いることができる。
【0010】
組織片は、遺伝子導入後、個体レベルにまで分化できる能力を有するものであればどのようなものでもよく、例えば胚軸、子葉、小葉、花茎などを用いることができる。
【0011】
次に、上記組織片をアグロバクテリウム属に属する微生物を含む感染液に減圧処理下で浸漬する。組織片のアグロバクテリウム感染液への浸漬を減圧処理下で行うと、遺伝子導入率を飛躍的に向上させることができる。減圧処理は、真空ポンプを用いて0.1〜10kPa、好ましくは0.5〜1kPaの圧力下で組織片を感染液に1〜60分間、好ましくは5〜30分間浸漬することにより行う。
【0012】
また、上記減圧処理に代えて、感染液への浸漬前に組織片にカーボランダムを噴霧して摩擦する処理してもよい。カーボランダムは組織片の表面に微細な傷をつけるための炭化珪素の粉末で、その種類は特に問わないが、例えばカーボランダム(600mesh)(ナカライテスク社製)などを用いることができる。また、摩擦はコンラージ棒等で軽く組織表面を擦ることによって行う。
【0013】
また、感染液の組織への浸透を促進するために、感染液に界面活性剤を添加することが好ましく、界面活性剤の種類としては、例えばSilwet−L77、Tween 80、Tween 20、Triton X−100、SDS等が挙げられる。
【0014】
アグロバクテリウム属の微生物としては、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)が好ましく、具体的にはLBA4404株、CIB542/A136株、EHA101株等を用いることができるが、これらに限定はされない。
【0015】
アグロバクテリウム属の微生物に目的とする遺伝子を導入するベクターとしては、pBI121(Accession No. AF485783)等の一般的なベクターを用いる。またベクターは、目的とする遺伝子の他に、例えばレポーター遺伝子、選抜マーカー遺伝子、プロモーター遺伝子等の他の遺伝子を含有していてもよい。レポーター遺伝子としては、例えばオワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein: GFP)遺伝子、GUS遺伝子等が挙げられ、選抜マーカー遺伝子としては、例えばカナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。また、プロモーター遺伝子としては、例えばCaMV35S(日本国特許No.84500825)等が挙げられる。
【0016】
上記のGFP遺伝子として、例えば改変型GFPであるsGFP(S65T)を用いることができる。この改変型GFPは、野生型のGFPの特性を改変するために塩基置換を加えて完全人工合成されたもので、蛍光ピークを単一にしたこと、発色団形成を速めたこと、蛍光強度を6倍にしたこと、植物のコドン使用頻度に合わせてDNA配列を改変したこと、主要制限酵素部位を削除したこと、などの改良が施され、総合的な蛍光強度で120倍の改善を達成している(Current Biology, 6(3), pp.325−330, 1996)。
【0017】
目的とする遺伝子及び他の遺伝子を組み込んだ前記ベクターのアグロバクテリウム属の微生物への導入は、エレクトロポレーション法、freeze−thaw法等の当業者に公知の手法により実施することができる。
【0018】
感染液(接種用培地)としては、LB、YEP、YMB等の液体培地で前培養し、遠心分離により集菌したアグロバクテリウムを同培地又はMSやBS等の植物培養用培地等にて希釈したものを用いることができるが、これらに限定されない。
感染液における前記微生物の濃度は、組織片に十分に遺伝子導入が行われる濃度であれば特に限定されないが、例えば、感染液1mLあたり104〜108個の微生物菌体とすることができる。感染を確実なものとするためには高濃度の菌体へ長時間浸漬すればよいが、植物体へのダメージが大きいので望ましくない。
【0019】
次に、アグロバクテリウム属の微生物の感染を確実にするため、浸漬処理の終わった組織片を共存培養用培地で培養する。
共存培養用培地は、植物の組織片の培養に必要な成分、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、固化剤等を含むものであればどのようなものでもよい。炭素源としては、例えば、シュクロース、グルコース等を用いることができ、無機塩類としては、MS無機塩、B5無機塩等を用いることができ、固化剤としては、寒天、ゲルライト等を用いることができる。また、共存培養後のカルス誘導を促進するために植物ホルモン(ベンジルアミノプリン(BAP)、ナフタレン酢酸(NAA)等)が添加されてもよい。
【0020】
共存培養期間は、例えば1〜14日、好ましくは1〜5日行うとよい。培地のpHや温度は、植物の組織片に悪影響を及ぼさない範囲であれば特に制限はないが、例えばpHは5〜8とするのが好ましく、温度は20〜28℃とするのが好ましい。また光条件は例えば1000〜5000luxとするのが好ましい。
【0021】
(2)オジギソウの形質転換植物の作出方法
本発明のオジギソウの形質転換植物の作出方法は、以下の工程:
(a) 目的遺伝子を含有するアグロバクテリウム属に属する微生物を含む感染液にオジギソウの幼植物体の組織片を減圧処理下で浸漬する工程
(b)浸漬後の組織片を共存培養用培地にて共存培養する工程
(c)共存培養後の組織片をカルス誘導用培地にて培養し、カルス誘導する工程
(d)誘導されたカルスを再分化する工程
含む。
【0022】
工程(a)のアグロバクテリウム感染液への浸漬及び工程(b)の共存培養は、前述のとおり行う。以下、工程(c)及び(d)について説明する。
まず、共存培養した組織片に付着しているアグロバクテリウム属の微生物を除菌し、その後カルス誘導用培地を用いて、遺伝子導入した組織片からカルスを誘導する。除菌は、例えば、前記の共存培養用培地をセフォタキシム等の抗生物質を含んだ液体培地で洗浄することにより行う。この洗浄はアグロバクテリウム属の微生物による白濁が見られなくなるまで行う。
【0023】
次に、洗浄した組織片をカルス誘導用培地に置床し、培養してカルス誘導(無定形に増殖する脱分化したカルスを形成させる)を行う。ここで用いるカルス誘導用培地は、上記の共存培養用培地と同様の炭素源、窒素源、無機塩類、固化剤等を含む培地に、植物ホルモンを添加したものを意味する。
【0024】
植物ホルモンとしては、ベンジルアミノプリン(BAP)、ナフタレン酢酸(NAA)、チジアズロン(TDZ)、 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、カイネチン(Kinetin)、及びゼアチン(Zeatin)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いればよい。2種以上の組み合わせとして、例えばTDZと2,4−D、BAPとNAA、TDZとNAA、2,4−Dとカイネチン(Kinetin)、ゼアチン(Zeatin)とNAAが挙げられるが、BAPとNAAの組み合わせが好ましく、TDZと2,4−Dの組み合わせが特に好ましい。植物ホルモンの濃度は、例えばBAP/NAAの場合、それぞれ0.5μg/ml、TDZ/2,4−Dの場合、それぞれ1μg/mlづつ添加することが挙げられる。
【0025】
また、カルス誘導用培地には、さらに除菌用抗生物質及び形質転換細胞選抜用抗生物質を添加する。
除菌用抗生物質としては、セフォタキシム、モキサラクタム、メロペネム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いればよく、特にモキサラクタム、メロペネムは低濃度で除菌効果を発揮するので好ましい。
除菌用抗生物質の濃度は、例えばセフォタキシムの場合は100〜300μg/mlの範囲が好ましい。また、モキサラクタム、メロペネムの場合は1〜300μg/mlの範囲が好ましく、1〜10μg/mlの範囲がより好ましく、1〜3μg/mlの範囲がさらに好ましい。
【0026】
形質転換細胞選抜用抗生物質としては、前記選抜用マーカー遺伝子に応じた抗生物質であれば特に限定はないが、ジェネティシン(G418)が好ましい。
形質転換細胞選抜用抗生物質の濃度は、例えばジェネティシンの場合5〜20μg/mlの範囲が好ましい。
【0027】
マメ科植物であるオジギソウは、野生の状態では共生する根粒菌によって土中窒素が固定され供給されているが、無菌培養時には根粒菌が存在しない為、主に培地中からの窒素供給に依存する。従って、カルス誘導用培地の(NH4)2SO4溶液等を培地に添加することによって窒素濃度を0.1mM〜100mM、好ましくは10mM〜100mMに調整する。
【0028】
窒素濃度は、上記の範囲であれば特に制限はないが、添加する植物ホルモンによって適宜調整する必要がある。例えば、TDZ及び2,4−Dを各1μg/mlを添加した培地では窒素濃度は50mM〜100mMに調整することが好ましく、NAA及びBAPを各0.5μg/ml添加した培地では、0.1mM〜10mMに調整することが好ましい。
【0029】
カルス培養は、明条件で行うことが好ましく、例えば1000〜5000lux、好ましくは2000〜3000luxとする。
【0030】
カルス誘導に用いる組織片の調製、組織片のカルス誘導用培地への置床方法は、カルス誘導できる方法であれば特に限定されない。例えば、胚軸切片の場合、胚軸の長さは1mm〜10mm程度に切断すればよく、切断方法は輪切り(成長方向に対して垂直に1mm程度の長さに切断)であっても、縦切り(成長方向に分割した後5mm程度に切断)であってもよい。培地に置床する向きは、縦向き(垂直方向)より横向き(水平方向)のほうが好ましい。
【0031】
上記の培地条件、光条件、置床条件を採用し、組織片を通常の植物細胞の培養条件、例えば20〜28℃で5〜10日間培養することにより、カルス誘導が起こる。
【0032】
上記の操作により得られた遺伝子導入植物体における遺伝子の導入及び発現の確認は、当業者に公知のレポーター遺伝子を用いる方法、例えばGFPの蛍光、GUSの青色呈色にて行うことができる。また、当業者に公知の手法に従い、該遺伝子の配列を元に作成したプライマーを用いて、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法又はノーザンハイブリダイゼーション法により行ってもよい。
【0033】
上記のようにしてカルスを誘導した後、不定芽、シュート等を経由して最終的に個体レベルにまで分化させる。このような再分化は植物ホルモン濃度を適当に調整することにより常法に従って行うことができる。
【0034】
以上説明したように、オジギソウにおいては、アグロバクテリウム感染液の浸漬条件、カルス誘導培地に添加する植物ホルモンの種類とその濃度、除菌用抗生物質と形質転換細胞選抜用抗生物質の種類とその濃度、窒素濃度が遺伝子導入効率、カルス誘導に大きな影響を与える要素となる。
【0035】
【実施例】
以下、実施例及び試験例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)オジギソウの形質転換用アグロバクテリウムの調製
(1) モデル遺伝子の発現用コンストラクトの作成
オジギソウの培養細胞に導入した外来遺伝子の発現を確認するために改変型GFPであるsGFP(S65T)(静岡県立大学の丹羽康夫氏から入手)をレポーター遺伝子として使用し、植物用の発現コンストラクト(バイナリーベクター pBI121)に組換えた。改変型GFP遺伝子はpUC18のマルチクローニングサイト(MCS)に35Sプロモーターの下流に連結された形でクローニングされているので(図1)、改変型35Sプロモーター(TMV由来のΩ配列が付加されている)の直前にあるHind IIIサイトとNosターミネーターの直後にあるEcoR Iサイトを利用して切り出した。制限酵素処理はPromega社製Multicoreバッファーを用いて二種の酵素で37℃にて2時間以上インキュベートして同時に切断した。また、植物用発現ベクター pBI121(図2)の35Sプロモーターの下流に連結されたGUS遺伝子及びNosターミネーター部分を切り出すために、同様に制限酵素処理(Hind IIIとEcoR I)を行った。これらについてアガロースゲル電気泳動を行い、QIAGEN社製QIAquick gel extraction kitを用いて、35SΩ−sGFP(S65T)−Nos断片及びpBI 121のバックボーン(35S−GUS−Nosを除去した部分)を分取・精製した。pBI 121 のバックボーン断片について、脱リン酸化(BAP)処理を行い、ベクター:インサート比が10:1になるように混合し、等量のTaKaRa Ligation kit ver.2を用いて16℃で一晩ライゲーション反応を行った。反応液の1μlを50μlのコンピテントセル(E.coli strain DH5α;TOYOBO)に添加し、メーカー指定のプロトコールに従って形質転換操作を行った。カナマイシン(終濃度50μg/ml)を含むLB寒天培地に塗布し、一晩培養した。
【0037】
出現したコロニーについて、下記のプライマーを用いたコロニーPCR法によるPCR増幅を行い、インサートを含むプラスミドを有するコロニーを判別した。GFP遺伝子と薬剤耐性遺伝子(カナマイシン耐性遺伝子、neomycin phosphotransferase II; NPT II)を標的としたプライマー(下記)を用いて、宝酒造製サーマルサイクラー(MP)によりPCR反応(50℃ 30分、95℃ 5分、(94℃ 1分, 55℃ 1分, 72℃ 1分30秒)×30サイクル、72℃ 15分、4℃)を行った。
【0038】
GFP遺伝子検出用プライマー (増幅産物:720 bp)
フォワード: atggtgagcaagggcgagga(配列番号1)
リバース: ttacttgtacagctcgtccatg(配列番号2)
NPT II遺伝子検出用プライマー (増幅産物:511 bp)
フォワード: tcagaagaactcgtcaagaag(配列番号3)
リバース: atgggatcggccattgaaca(配列番号4)
【0039】
PCRによってGFP、NPTII両方の増副産物が選られたコロニーについて、再度釣菌してアンピシリン(50μg/ml)添加したLB培地で液体培養し、得られた菌体から、QIAGEN製Plasmid mini kitを用いてプラスミドを調製した。本プラスミドをpBI−sGFP(S65T)と名づけた (図3)。
【0040】
得られたプラスミドpBI−sGFP(S65T)についてABI製 DNAシークエンサー(310 Genetic Analyzer)による塩基配列の確認を行った。シークエンス反応にはBigDye Terminator Cycle Sequencing,FSキットを使用し、GFP遺伝子の内部の配列を標的とした下記のプライマーを1種ずつ用いた。詳細な実験手順はABI製のマニュアル(操作ガイド、2000年8月版Rev.4.0)に従って実施した。
【0041】
GFP遺伝子シークエンス反応用プライマー (カッコ内は標的塩基番号)
フォワード−1(101−120): gcgagggcgatgccacctac (配列番号5)
フォワード−2(601−620): tacctgagcacccagtccgc (配列番号6)
リバース−1(101−120): gtaggtggcatcgccctcgc (配列番号7)
リバース−2(601−620): gcggactgggtgctcaggta (配列番号8)
【0042】
得られた塩基配列はGenetyx−Mac/ ATSQ 3.0を用いて解析・編集した。全長配列を決定後、インターネット上のデーター・ベースに照会して(Genbank;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/irx/genbank/query_form.html)類似度の高い登録配列を探索することにより目的断片(GFP)挿入の確認を行った。配列番号9にsGFP(S65T) ORFの塩基配列を示す。
【0043】
(2) エレクトロポレーション法によるAgrobacteriumへの遺伝子導入
作製したプラスミドpBI−sGFP(S65T)を用いてアグロバクテリウムをエレクトロポレーション(電気穿孔)法によって形質転換を行った。常法により調製されたAgrobacterium tumefaciens (LBA4404株) のコンピテント・セル40μlを溶かし、DNA溶液を5μl(25μg)添加し、氷上で1〜2分間静置した。続いて、氷冷したBIO−RAD社製キュベット(0.2 cm)に入れ、島津製作所製遺伝子導入装置を用いて1.25 kV、10μFのパルス電流を印加した。直ちに冷却したSOC培地を460μl加え、28℃で1時間培養した。カナマイシン(終濃度50μg/ml)及びリファンピシン(終濃度50μg/ml)を含むLB寒天培地に塗布し、一晩培養して形質転換体を選抜した。出現した形質転換コロニーについてsingle−colony isolationを行った後に、コロニーを複数個釣菌し、PCR法により目的のプラスミドの存在を確認した。この操作で得られた目的のプラスミド(pBI−sGFP(S65T))を有する株をAgrobacterium tumefaciens LBA4404 (pBI−sGFP(S65T))と名づけた。
【0044】
(3) 形質転換用アグロバクテリウムの培養
前項に記載の植物形質転換用プラスミドを有するAgrobacterium tumefaciens (LBA4404(PBI−sGFP(S65T))株)を寒天培地で培養した。1コロニーを釣菌し、カナマイシン(終濃度50μg/ml)及びリファンピシン(終濃度50μg/ml)を含む3mlのLB液体培地で28℃で約2日間(50時間程度)培養した。遠心分離により集菌し、感染液(BAP及びNAA各0.5μg/ml、2.5mM MES(pH 5.2) を添加した1/10強度のGamborg’s B5 medium)に再懸濁した後に600nmの吸光度を測定し、600nmの吸光度を0.5程度に調整した。本溶液を植物体への感染実験に使用した。
【0045】
(4)ミヤコグサを用いた遺伝子導入
マメ科植物のモデルとされているミヤコグサ(Lotus japonica)を用いて遺伝子導入実験を行い、オジギソウの実験系確立の参考とした。実験に使用したミヤコグサ(Lotus japonica Gifu’ B−129及び’Miyakojima’ MG−20)の種子(東京大学大学院総合文化研究科(現:新潟大学)の川口正代司氏より分譲)を既存の方法(ミヤコグサ実験マニュアル HYPERLINK ”http://miya.bio.sci.osaka−u.ac.jp/manuals/index.html” http://miya.bio.sci.osaka−u.ac.jp/manuals/index.html)に従い、前述したGFPを発現する植物用バイナリーベクターを有するアグロバクテリウムを用いて形質転換操作を行った。この結果、上記の既存の方法に従って実験を行えば、比較的容易にGFPを発現する細胞が得られることが確認できた。
【0046】
(実施例2)オジギソウの形質転換
(1)オジギソウ種子から幼植物体の調製
市販のオジギソウ(Mimosa pudica)の種子(サカタのタネ)を人工気象器(コイトトロン;小糸製作所)中で25℃、日照16時間、湿度60%で栽培した植物体から得た種子を試料とした。
【0047】
オジギソウ種子は表面殺菌の効率及び種子の吸水率を向上させるために、乳鉢中で紙やすりを用いて表面を摩砕した。次亜塩素酸ナトリウム溶液(8.5−13.5%;ナカライテスク製)を5倍希釈し、tween 20を1μl/ml添加した溶液を調製し、オジギソウ種子を加えて10分程度減圧することにより滅菌処理を行った。滅菌処理したオジギソウ種子を0.7%素寒天培地に播種し、暗黒下で子葉が展開するまで(約5日間〜1週間程度)育成した。小葉(本葉)を実験に用いる場合にはさらに1週間から10日程度培養した幼植物体より採取した。
なお、オジギソウ種子から得た外植体の培養は、25℃、日照時間16時間に制御した恒温室で行った。
【0048】
(2)オジギソウの形質転換
無菌播種して生育させたオジギソウ植物体から得た3種(子葉、胚軸、小葉)の組織を用いてオジギソウの形質転換を試みた。
実施例1に記載の方法により調製した形質転換用アグロバクテリウムを懸濁した感染液(BAA及びNAA各0.5μg/ml、2.5mM MES(PH5.2)を添加した1/10強度のGamborg’s B5 medium)に、上記各組織を約0.8kPa(6mmHg)の減圧下で10分間浸漬し、その後、滅菌したろ紙を数mmの厚みになるように重ねたものに共存培養用培地(前記感染液と同組成)で5日間共存培養を行った。共存培養終了後、除菌用抗生物質(セフォタキシム300μg/ml)溶液で濯ぎ洗い(無菌水と交互に3回繰り返す)を行った後に、除菌用抗生物質(セフォタキシム300μg/ml)及び形質転換細胞選抜用抗生物質(ジェネティシン10μg/ml)を添加したカルス誘導用培地(Gamborg’s B5 medium basal salt mixture (SIGMA)3.3g/L、ショ糖 50g/L、Phytagel(SIGMA) 3g/L、5mM(NH4)2SO4、Gamborg’s B5 Vitamine stock 1000X(SIGMA) 1mg/L)に移植して14日間培養した。オリンパス製正立蛍光顕微鏡;BX−60を用いて緑色蛍光タンパク質(GFP)の蛍光を観察(B励起の広帯域用フィルターキューブを使用)した。この結果、誘導されたカルス組織の中にGFP蛍光を有する細胞塊が世界で初めて見出された。また、蛍光を有する細胞が塊で存在することから、遺伝子導入された細胞から増殖が起こっていると考えられる。実験に用いた子葉、胚軸、小葉の3種全ての組織において形質転換細胞が得られた。得られた蛍光像(カラーCCDカメラを用いて撮像)を図4に示した(A−1:胚軸、B−1,B−2:子葉、C−1,C−2:小葉)。
【0049】
(試験例1) アグロバクテリウム感染条件の検討
(1)アグロバクテリウム培養液への浸漬処理条件の検討
植物体への感染液の浸透を促進するために、感染液(BAP及びNAA各0.5μg/ml、2.5mM MES(pH 5.2) を添加した1/10強度のGamborg’s B5 medium)に懸濁したアグロバクテリウム菌液に界面活性剤Silwet−L77:0.05%、又はtween 80 0.05%を添加した。このアグロバクテリウム菌液3mlを滅菌したろ紙を敷いたシャーレに流し込み、植物体を置床し約5分間浸した。胚軸を用いる場合は本溶液に浸した状態で5mm程度の長さになるように切除した。アグロバクテリウム菌液への植物体の浸漬処理について、▲1▼処理1:カーボランダム噴霧/摩擦処理+減圧処理(10分;約0.8kPa(6mmHg)程度)、▲2▼処理2:カーボランダム噴霧/摩擦処理、▲3▼処理3:減圧処理(10分;約0.8kPa(6mmHg)程度)、▲4▼無処理の4条件で胚軸を用いた遺伝子導入効率の検討を行った。カーボランダム噴霧/摩擦処理は、カーボランダムを噴霧した後にコンラージ棒で軽く擦ることによって表面に細かい傷をつけることによって行い、減圧処理は感染液(菌液)に浸漬中にATTO製真空ポンプ(AE−3725A型)を用いて10分間約0.8kPa(6mmHg)程度にすることによって行った。
【0050】
処理後、除菌用抗生物質(セフォタキシム300μg/ml)溶液で濯ぎ洗い(無菌水と交互に3回繰り返す)を行った後に、除菌用抗生物質(メロペネム200μg/ml)、形質転換細胞選抜用抗生物質(ジェネティシン10μg/ml)、及びTDZと2,4−Dを各1μg/ml添加した培地に移植し9日間培養した。この後に、除菌用抗生物質を含まない培地に移植しさらに10日間程度培養した。蛍光顕微鏡観察によって得られた結果を表1にまとめた。
【0051】
【表1】
(A):蛍光が観察された試料数/供試検体数( )=比率
(B):蛍光が観察された箇所の総数 ( )=蛍光箇所数/蛍光が観察された試料数
【0052】
この結果、減圧処理のみ(処理3)行うことによって形質転換細胞出現率が飛躍的に向上すること(無処理の約20倍以上)が判明した。また、カーボランダム噴霧及び摩擦処理を行った場合(処理2)にも形質転換細胞出現率が向上(約10倍程度)した。しかしながら、これらの処理を同時に行った場合(処理1)には、形質転換細胞は全く得られなかった。この理由は植物体に与えるダメージ(ストレス)が大きすぎたためであろうと推定される。減圧処理を行うことによって得られた形質転換細胞塊のGFP蛍光像(カラーCCDカメラを用いて撮像)を図5に示した。供試試料あたりの蛍光を有する細胞(形質転換細胞)が得られる確率、試料当たりの蛍光スポット数(形質転換された細胞塊の頻度)、細胞塊の大きさ(増殖の良さを表す)の全てにおいて、最高の結果が得られた。これらの結果から、減圧処理はオジギソウ組織の形質転換効率を高める非常に有効な方法であると結論した。
【0053】
(2)共存培養期間(感染期間)の検討
シャーレに滅菌したろ紙を数mmの厚みになるように重ねたものに共存培養用培地(BAP及びNAA各0.5μg/ml、2.5mM MES(pH 5.2) を添加した1/10強度のGamborg’s B5 medium)を十分量加えた。この培地に、浸漬後(子葉、胚軸、小葉)の植物体をろ紙上で過剰な菌液を拭った後に置床し、1日又は5日間培養し、感染率に与える影響を比較した。
【0054】
培養後の植物体は除菌用抗生物質(セフォタキシム300μg/ml)溶液で濯ぎ洗い(無菌水と交互に3回繰り返す)を行った後に、除菌用抗生物質(セフォタキシム300μg/ml)及び形質転換細胞選抜用抗生物質(ジェネティシン10μg/ml)を添加した培地に移植した。同培地で約2週間培養した試料を、除菌用抗生物質を含まない培地でさらに10日間程度培養した。蛍光顕微鏡観察によって得られた結果を表2に示した。5日間培養する方が比較的安定して良い結果が得られる傾向が認められた。
【0055】
【表2】
(A):蛍光が観察された試料数/供試検体数( )=比率
(B):蛍光が観察された箇所の総数 ( )=蛍光箇所数/蛍光が観察された試料数
【0056】
(試験例2) オジギソウのカルス誘導のための培養系の検討(1)
(1)オジギソウ種子から幼植物体の調製
市販のオジギソウ(Mimosa pudica)の種子(サカタのタネ)を人工気象器(コイトトロン;小糸製作所)中で25℃、日照16時間、湿度60%で栽培した植物体から得た種子を試料とした。
【0057】
オジギソウ種子は表面殺菌の効率及び種子の吸水率を向上させるために、乳鉢中で紙やすりを用いて表面を摩砕した。次亜塩素酸ナトリウム溶液(8.5−13.5%;ナカライテスク製)を5倍希釈し、tween 20を1μl/ml添加した溶液を調製し、オジギソウ種子を加えて10分程度減圧することにより滅菌処理を行った。滅菌処理したオジギソウ種子を0.7%素寒天培地に播種し、暗黒下で子葉が展開するまで(約5日間〜1週間程度)育成した。小葉(本葉)を実験に用いる場合にはさらに1週間から10日程度培養した幼植物体より採取した。
なお、オジギソウ種子から得た外植体の培養は、25℃、日照時間16時間に制御した恒温室で行った。
【0058】
(2) カルス誘導条件の検討
カルス(脱分化細胞塊)誘導を指標として、カルス誘導培養条件の最適化を行った。
マメ科植物のモデル植物とされているミヤコグサ(ミヤコグサ実験マニュアル、同上)の培養条件を参考に以下の手順でカルス誘導用培地を調製し使用した。
【0059】
(カルス誘導用培地の調製)
Gamborg’s B5 medium basal salt mixture (SIGMA)3.3 g、ショ糖50 g、及びPhytagel (SIGMA)3.0 gを約990mlの純水に添加し、NaOHにてpH 5.5に調整しオートクレーブにかけた。その後、冷めないうちに所定量の4M (NH4)2SO4溶液を添加し、70℃以下に冷却後、Gamborg’s B5 vitamine stock 1000x (SIGMA)1.0 mlに植物ホルモン溶液(1mg/ml stock溶液)を適量添加し、1Lにメスアップした溶液(フィルター滅菌済み)を添加した。この基本培地を以後、B5培地と記載する場合がある。また、基本培地としたB5培地に対して植物組織培養に汎用されるMurashige&Skoog培地(大日本製薬製を使用)を1/2濃度(1/2MS)で使用した際の比較をカルス化の程度を指標として行った。
【0060】
▲1▼ ミヤコグサ用植物ホルモンによるカルス誘導効果
無菌播種後、1週間暗条件培養した植物体の胚軸を約5mm程度に切除したものを試料とした。ミヤコグサからのカルス誘導(ミヤコグサ実験マニュアル、同上)で用いられたNAAとBAPを3濃度(0、0.05、0.5μg/ml)で添加した合計9通りの培地(B5培地)をそれぞれ調製しカルス誘導を試みた。25日間培養した結果を図6に示した。
【0061】
この結果、ホルモン濃度が高い場合にカルスが形成され、両ホルモンをそれぞれ0.5μg/ml添加した場合に最も良好なカルス誘導が可能であった。NAA 0.5μg/ml BAP 0μg/mlとNAA 0μg/ml BAP 0.5μg/ml添加時を比較すると前者ではカルスが形成されたが、後者ではほとんど増殖が見られなかった。
上記で最も良好な結果が得られたNAA 0.5μg/ml BAP 0.5μg/mlを添加したB5培地で1週間胚軸を培養した後に、上記の9条件の培地に移植した。この場合は供試した全条件でカルスの形成がみられた。この場合もNAA 0.5μg/ml、BAP 0.5μg/mlで培養したものは最高の増殖を示した。
【0062】
▲2▼ 基本培地の影響
上記試験において前述したB5培地と1/2濃度のMurashige&Skoog(1/2MS)培地の比較をカルス化の程度を指標として行った。25日間培養した結果を図7に示した。図6のB5培地を用いた結果と比較しても、全ての条件において基本培地による明確な差異は全く見られなかった。
【0063】
▲3▼ 光条件の影響
上記の胚軸からのカルス誘導実験において光の影響を検討した。暗条件化で培養した場合は無色のカルスが形成されるが1ヶ月の培養で褐変化が起こり、カルス増殖の程度も明条件と比較してはるかに悪かった。明条件の場合は部分的に緑化したカルスが形成されるが、1ヶ月の培養では全ての条件において褐変化はほとんど見られなかった。
【0064】
▲4▼ カルス化におけるホルモン濃度の影響
BAPとNAAに加えて、チジアズロン(TDZ)、 2,4−D、カイネチン、ゼアチンを含む培地を用いてカルス誘導への影響を検討した。TDZ/2,4−D、TDZ/NAA、カイネチン/2,4−D、ゼアチン/NAA、BAP/NAAの5通りの組み合わせについてホルモン濃度を3段階(0、1、10μg/ml)で添加した合計9通りの培地(B5培地)をそれぞれ調製し、明条件で胚軸を約2ヶ月間培養して比較実験を行った。この結果、全てのホルモンの組み合わせにおいてカルス化が観察されたが、特にサイトカイニンとしてTDZを添加したものの生育が良好であった。特にTDZ/2,4−Dの組み合わせが最も良く、各1μg/mlを添加した場合が最適であった(図8)。ゼアチン/NAAを各1μg/ml添加した場合にも良好な結果が見られた。
【0065】
▲5▼ 植物試料
無菌播種により得た植物体について前述した胚軸以外の組織(子葉、小葉)についてもカルス誘導を試みた。胚軸の場合とほぼ同条件でのカルス誘導が可能であった。特に子葉から誘導したカルス組織の増殖は良好であった。
【0066】
▲6▼ 胚軸試料
カルス誘導に用いる胚軸試料について検討を行った。暗条件下で無菌種子を1週間培養して発芽させた植物体から1mm、5mm、10mmの3条件で胚軸を切り取り、NAA及びBAPを各0.5μg/ml、あるいはTDZ及び2,4−Dを各1μg/mlを添加したB5培地で供試した。この際に培地に置床する向きについても検討した。この結果、BAP/NAA添加の場合には1mmの胚軸を縦向きに置床した際に明確に生育が劣ったことを除けば、特に差は見られなった。TDZ/2,4−Dの場合には全条件でほぼ同様な生育がみられた。また胚軸を切除する際に輪切りに切った場合(成長方向に対して垂直に1mm程度の長さに切断)と、縦切り(5mm程度の胚軸を成長方向に分割した後、切断面を下にして置床)の場合の比較も行った。短い胚軸(輪切り)の試料では窒素濃度を100mMにした場合にのみ良好なカルス増殖が見られ、この際には内側の組織が外側に出てくるように組織が増殖するという特徴がみられた。
【0067】
▲7▼ 窒素濃度の影響
B5培地中の窒素濃度(アンモニア体(NH4)2SO4溶液として添加)を0、1mM、10mM、100mMの4段階に変えた場合の生育に与える影響を胚軸、小葉、子葉を材料組織とした際のカルス化を指標として検討した。
約25日間培養した結果(小葉のみの結果を図9に示した)、NAAとBAPを各 0.5μg/ml添加した培地においては、10mMまでは窒素の添加量に比例して良好な増殖が見られた。しかし100mMでは生育促進効果はみられず、むしろ阻害的であった。
【0068】
一方、TDZ及び2,4−Dを各1μg/mlを添加した培地を用いた際には、窒素の添加量に比例して良好な生育がみられ、100mMの場合に最高のカルス増殖が観察された。図10には10mM、100mM添加した培地で約2ヶ月培養した後にさらに同じ培地で約2週間培養した際の増殖の様子を示した。使用した小葉、子葉、胚軸(縦切り及び輪切り)の3種の材料の全てから良好なカルスの誘導及び増殖がみられた。これらはNAA及びBAPを各0.5μg/ml添加培地に10mM窒素を加えた場合に比較して、かなり良好な増殖であった。興味深いことに、窒素濃度0又は1mMの場合でも組織の褐変化はみられなかった。これらの結果(約25日間培養時に評価)を表3、表4にまとめた。評価は供試検体について4段階で実施し、同条件の検体数あたりの割合(%)を示した。
【0069】
【表3】
評価基準:◎良好なカルス増殖が見られる。〇カルスが誘導されるが増殖は悪い。△カルスの誘導が見られない。×組織が壊死
【0070】
【表4】
評価基準:◎良好なカルス増殖が見られる。〇カルスが誘導されるが増殖は悪い。△カルスの誘導が見られない。×組織が壊死
【0071】
(試験例3) オジギソウのカルス誘導のための培養系の検討(2)
カルス誘導用培地に添加する除菌用抗生物質、形質転換用抗生物質について検討を行った。カルス誘導用培地は、植物ホルモンとしてTDZ(チジアズロン)及び2,4−Dを各1μg/mlを添加し、試験例2に記載の処方と同様にして調製したものを用いた。
【0072】
(1) 除菌用抗生物質
共存培養終了した植物体をセフォタキシム溶液(300μg/ml)で十分に濯ぎ洗いし、さらに速やかに無菌水で濯ぐ。この操作を3回程度繰り返して植物体表面に存在するアグロバクテリウムを除去した。その後、各種除菌用抗生物質を含むカルス誘導用培地に洗浄後の植物体を移植し培養した。
【0073】
▲1▼ セフォタキシムの効果
除菌用抗生物質として0〜1000μg/mlの5段階の濃度のセフォタキシムを添加し、これらの培地にオジギソウの胚軸を置床し、約3週間明条件下で培養してカルスを誘導しその生育を比較した。この結果、セフォタキシム濃度300μg/ml以上でカルスの増殖を阻害することが判明した(図11)。
【0074】
▲2▼ モキサラクタム及びメロペネムの効果
植物体への影響を最小限にしつつ強力な除菌作用を発揮する濃度を探索した。除菌用抗生物質として汎用されるセフォタキシムに加えて、同じベーター・ラクタマーゼ阻害剤系抗生物質でありながら低濃度で作用するといわれている(三位正洋(千葉大)、第三回ミヤコグサ分子遺伝学ワークショップ2001口頭発表)メロペネム(メロフェン:住友製薬)及びモキサラクタム(moxalactam sodium salt:SIGMA 69962)の至適濃度を検討した。カルス誘導用培地(TDZ及び2,4−Dを各1μg/ml添加)に1〜300μg/mlの3段階の濃度でこれらの除菌用抗生物質を添加した。アグロバクテリウムを感染させ、5日後に除菌を行った子葉組織を上記の培地に置床し、約3週間培養した。結果を図12に示す。供試した全ての抗生物質において300μg/ml添加した際にはアグロバクテリウムの生育を完全に抑えることが可能であった。セフォタキシムを用いた場合には植物体に明確な悪影響(部分的な壊死)が観察されたが、メロペネム及びモキサラクタムでは全く薬剤の影響が観察されなかった。1μg/ml添加時は全ての薬剤でアグロバクテリウムの増殖がみられるが(植物体の周囲に白濁した菌層が形成される)、メロペネム及びモキサラクタムでは3μg/ml添加時にこれをかなり抑制することが可能であった。これらの結果から、オジギソウ組織の培養においてメロペネム及びモキサラクタムは植物へのダメージが少なく、かつ低濃度添加で使用可能な有用な除菌剤であると考えられた。
【0075】
(2)形質転換細胞選抜用抗生物質
遺伝子導入に用いたプラスミドにはT−DNA領域(植物体の染色体上に挿入される)にnptII(neomycin phosphotransferase II)遺伝子をコードしているので、形質転換細胞はカナマイシン等の抗生物質に対する耐性を獲得する。このような形質転換細胞を選択的に増殖させるためにジェネティシン(geneticin base SIGMA G−1279)を添加した。
【0076】
▲1▼ ジェネティシン濃度の検討
0〜20μg/mlのジェネティシンを含むカルス誘導用培地(TDZ及び2,4−Dを各1μg/ml添加)に胚軸(非形質転換体)を置床し、約3週間培養した。この結果(図13)、3μg/ml以上添加することにより植物体の生育に負の影響が現われ、20μg/mlで完全に生育が抑制されることが判明した。
【0077】
▲2▼ セフォタキシム存在下のジェネティシン最適濃度
セフォタキシムを300μg/ml添加した際のジェネティシンの植物体へ与える毒性を検討した。これらの抗生物質を添加したカルス誘導用培地(TDZ及び2,4−Dを各1μg/ml添加)に胚軸(非形質転換体)を置床し、約1ヶ月週間培養した。結果を図14に示す。ジェネティシン単独で用いた場合と異なり、10μg/mlで完全に生育が抑制されることが判明した。従って、ジェネティシンをセフォタキシムと同時に用いる場合には、ジェネティシン濃度を5〜10μg/ml程度に下げる必要がある。
【0078】
【発明の効果】
本発明によれば、オジギソウに対して条件を最適化した遺伝子導入方法及び形質転換植物作出方法が提供される。
【0079】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】CaMV35SΩ−sGFP(S65T)−nos3’の模式図を示す。
【図2】バイナリーベクターpBI121の模式図を示す。
【図3】pBI−sGFP(S65T)の模式図を示す。
【図4】オジギソウ培養細胞におけるGFP遺伝子の発現を示す写真である。
【図5】感染液浸漬時に減圧処理をして得られた形質転換細胞のGFP蛍光の写真を示す。
【図6】B5培地におけるNAA/BAPによるカルス誘導の結果を示す写真である。
【図7】1/2MS培地におけるNAA/BAPによるカルス誘導の結果を示す写真である。
【図8】胚軸をTD/2,4−Dを各1μg/ml含むB5培地で2ヶ月培養した際に得られるカルス組織を示す写真である。
【図9】NAA/BAP(各0.5μg/ml)によるカルス誘導時における窒素濃度の影響を示す写真である。
【図10】TD/2,4−D(各0.5μg/ml)によるカルス誘導時における窒素濃度の影響を示す写真である。
【図11】セフォタキシム濃度のカルス誘導に対する影響を示す写真である。
【図12】各種除菌用抗生物質(セフォタキシム、モキサラクタム、メロペネム)のカルス誘導に対する効果を示す写真である。
【図13】ジェネティシン濃度のカルス誘導に対する影響を示す写真である。
【図14】セフォキタキシム存在下におけるジェネティシン濃度のカルス誘導に対する影響を示す写真である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、オジギソウへの遺伝子導入方法及びオジギソウの形質転換植物体の作出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
オジギソウ(Mimosa pudica)は、マメ科の多年草又は一年草で、細かな小葉から成る羽状の葉が15対ほどついている。オジギソウの葉に手を触れると直ちに垂れ下がり、小葉は重なり合ってしおれたようになる。これは接触性傾性運動と呼ばれる現象で、接触刺激が電気信号になって葉枕に到達し、この電気信号が刺激伝達物質(L−リンゴ酸カリウム、trans−アコニット酸マグネシウム、ジメチルアンモニウム塩)に変換されることによって引き起こされると考えられている。また、伝達された刺激によって葉枕の細胞に含まれているアクチンのチロシン残基が可逆的な脱リン酸化を受けた結果、草の屈性がコントロールされていることもまた解明されている。オジギソウはこのような機械的な刺激ばかりでなく、温度・光・電気・化学的な刺激にも敏感で、昔から植物生理学の研究に用いられ、また観賞用にも栽培される。
【0003】
近年、植物バイオテクノロジーが進展する中で、組織培養、葯培養、細胞培養などの技術を利用して多様な特性を有する品種が育成されてきた。更に組換えDNA技術の発達により通常交配不可能な他の生物種の遺伝子を導入することにより、従来期待し得なかった特性を有する品種が育成されている。このような遺伝子組換え植物はアメリカ、カナダを中心に爆発的に普及が進んでおり、組換えDNAを利用した品種の作出には優良な遺伝子の単離と対象植物に適合した遺伝子導入技術が必要とされている。植物への外来遺伝子導入方法としては、アグロバクテリウムによる方法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、PEG法等が知られている。また、植物細胞中に外来遺伝子を導入するためのベクターや、形質転換細胞を選択/識別する各種のレポーター/マーカー遺伝子、導入した外来遺伝子を発現させる制御遺伝子(プロモーター等)等も既に確立されている。しかしながら、上記のような方法や手段を用いても、オジギソウを含むマメ科植物は一般に形質転換が困難とされており、わずかな種類の植物でしか成功例が知られていない。例えば、重要な作物であるダイズでは不定胚を経由する個体再生系とパーティクルガンによる遺伝子導入を組み合わせた系が確立されているが、難易度が非常に高く、熟練した一部の研究者にのみ実施が可能とされている(非特許文献1)。また、アグロパクテリウム介在型植物形質転換法において、実生を減圧湿潤法を用いて形質転換する方法(いわゆるin planta transformation、vaccum infiltrationと呼ばれる方法)が提案されているが(特許文献1)、シロイヌナズナ(非特許文献2)など一部の植物において確立されているにすぎない。一方、マメ科植物のモデルといわれて近年分子生物学的知見が飛躍的に集積しつつあるミヤコグサ(Lotus japonica)はアグロバクテリウムを用いた方法で比較的容易に形質転換体を得ることが報告されている(非特許文献3)。ところが、オジギソウに対してはこれまで遺伝子導入例の報告はなく、その遺伝子導入技術及び再分化技術は確立されていない。
【0004】
【非特許文献1】
植物代謝工学ハンドブック、p.222、エヌ・ディー・エス、2002
【特許文献1】
特表2000−533090号
【非特許文献2】
モデル植物の実験プロトコール、p.109−113、秀潤社、2001
【非特許文献3】
HYPERLINK ”http://miya.bio.sci.osaka−u.ac.jp/manuals/index.html” http://miya.bio.sci.osaka−u.ac.jp/manuals/index.html
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、特殊な機能を有する植物として遺伝子操作の対象として期待されるオジギソウに対して最適化した遺伝子導入方法及び形質転換植物の作出方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、アグロバクテリウム感染液への浸漬条件、共存培養条件、カルス誘導条件等のパラメーターが密接に関連し、これらを最適化することによって、オジギソウへの遺伝子導入効率、形質転換植物の作出効率が顕著に向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) アグロバクテリム属に属する微生物の感染液にオジギソウの幼植物体の組織片を減圧処理下で浸漬し、浸漬後の組織片を共存培養培地で共存培養することを特徴とする、オジギソウへの遺伝子導入方法。
(2) 減圧処理を0.1〜10kPaで1〜60分間行うことを特徴とする、上記(1)の方法。
(3) 減圧処理に代えて、感染液に浸漬する前に組織片にカーボランダムを噴霧して摩擦する処理を行うことを特徴とする、上記(1)の方法。
(4) 以下の工程を含むオジギソウの形質転換植物の作出方法。
(a) 目的遺伝子を含有するアグロバクテリウム属に属する微生物を含む感染液にオジギソウの幼植物体の組織片を減圧処理下で浸漬する工程
(b)浸漬後の組織片を共存培養用培地にて共存培養する工程
(c)共存培養後の組織片をカルス誘導用培地にて培養し、カルス誘導する工程
(d)誘導されたカルスを再分化する工程
(5) 工程(a)において、減圧処理を0.1〜10kPaで1〜60分間行うことを特徴とする、上記(4)の方法。
(6) 工程(a)において、減圧処理に代えて、感染液に浸漬する前に組織片にカーボランダムを噴霧して摩擦する処理を行うことを特徴とする、上記(4)の方法。
(7) 工程(c)において、カルス誘導用培地に植物ホルモンを添加することを特徴とする、上記(4)〜(6)のいずれかの方法。
(8) 植物ホルモンが、ベンジルアミノプリン(BAP)、ナフタレン酢酸(NAA)、チジアズロン(TDZ)、 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、カイネチン(Kinetin)、及びゼアチン(Zeatin)から成る群から選択される1種、又は2種以上の組み合わせである、上記(7)の方法。
(9) 植物ホルモンが、チジアズロン(TDZ)と2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、ベンジルアミノプリン(BAP)とナフタレン酢酸(NAA)、チジアズロン(TDZ)とナフタレン酢酸(NAA)、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)とカイネチン(Kinetin)、及びゼアチン(Zeatin)とナフタレン酢酸(NAA)から成る群から選ばれる組み合わせである、上記(8)の方法。
(10) 植物ホルモンとして、ベンジルアミノプリン(BAP)0.5μg/mlとナフタレン酢酸(NAA)0.5μg/mlを培地に添加することを特徴とする、上記(7)の方法。
(11) 植物ホルモンとして、チジアズロン(TDZ) 1μg/mlと2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)1μg/mlを培地に添加することを特徴とする、上記(7)の方法。
(12) 工程(c)において、カルス誘導用培地の窒素濃度を0.1mM〜100mMにすることを特徴とする、上記(4)〜(11)のいずれかの方法。
(13) 工程(c)において、培養を明条件で行うことを特徴とする、上記(4)〜(12)のいずれかの方法。
(14) 工程(c)において、カルス誘導用培地に除菌用抗生物質及び形質転換細胞選抜用抗生物質を添加することを特徴とする、上記(4)〜(13)のいずれかの方法。
(15) 除菌用抗生物質が、セフォタキシム、モキサラクタム、及びメロペネムから成る群から選択される1種又は2種以上の組み合わせである、上記(14)の方法。
(16) 除菌用抗生物質が、モキサラクタム又はメロペネムである、上記(14)の方法。
(17) モキサラクタム又はメロペネムの濃度が、1〜300μg/mlである、上記(16)の方法。
(18) 形質転換細胞選抜用抗生物質が5〜20μg/mlのジェネティシンである、上記(14)の方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明の実施の形態】
【0008】
(1)オジギソウへの遺伝子導入方法
本発明のオジギソウへの遺伝子導入方法は、目的遺伝子を含有するアグロバクテリム属に属する微生物の感染液にオジギソウの幼植物体の組織片を減圧処理下で浸漬し、浸漬後の組織片を共存培養培地で共存培養することを特徴とする。
【0009】
本発明において、オジギソウの幼植物体とは、滅菌処理したオジギソウ種子を寒天培地に播種し、暗黒下で本葉が展開するまで約5日間から2週間培養して育成したものをいう。オジギソウ種子は特に制限はなく、一般の市販品(福花園種苗、サカタのタネ等)を用いることができる。
【0010】
組織片は、遺伝子導入後、個体レベルにまで分化できる能力を有するものであればどのようなものでもよく、例えば胚軸、子葉、小葉、花茎などを用いることができる。
【0011】
次に、上記組織片をアグロバクテリウム属に属する微生物を含む感染液に減圧処理下で浸漬する。組織片のアグロバクテリウム感染液への浸漬を減圧処理下で行うと、遺伝子導入率を飛躍的に向上させることができる。減圧処理は、真空ポンプを用いて0.1〜10kPa、好ましくは0.5〜1kPaの圧力下で組織片を感染液に1〜60分間、好ましくは5〜30分間浸漬することにより行う。
【0012】
また、上記減圧処理に代えて、感染液への浸漬前に組織片にカーボランダムを噴霧して摩擦する処理してもよい。カーボランダムは組織片の表面に微細な傷をつけるための炭化珪素の粉末で、その種類は特に問わないが、例えばカーボランダム(600mesh)(ナカライテスク社製)などを用いることができる。また、摩擦はコンラージ棒等で軽く組織表面を擦ることによって行う。
【0013】
また、感染液の組織への浸透を促進するために、感染液に界面活性剤を添加することが好ましく、界面活性剤の種類としては、例えばSilwet−L77、Tween 80、Tween 20、Triton X−100、SDS等が挙げられる。
【0014】
アグロバクテリウム属の微生物としては、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)が好ましく、具体的にはLBA4404株、CIB542/A136株、EHA101株等を用いることができるが、これらに限定はされない。
【0015】
アグロバクテリウム属の微生物に目的とする遺伝子を導入するベクターとしては、pBI121(Accession No. AF485783)等の一般的なベクターを用いる。またベクターは、目的とする遺伝子の他に、例えばレポーター遺伝子、選抜マーカー遺伝子、プロモーター遺伝子等の他の遺伝子を含有していてもよい。レポーター遺伝子としては、例えばオワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein: GFP)遺伝子、GUS遺伝子等が挙げられ、選抜マーカー遺伝子としては、例えばカナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。また、プロモーター遺伝子としては、例えばCaMV35S(日本国特許No.84500825)等が挙げられる。
【0016】
上記のGFP遺伝子として、例えば改変型GFPであるsGFP(S65T)を用いることができる。この改変型GFPは、野生型のGFPの特性を改変するために塩基置換を加えて完全人工合成されたもので、蛍光ピークを単一にしたこと、発色団形成を速めたこと、蛍光強度を6倍にしたこと、植物のコドン使用頻度に合わせてDNA配列を改変したこと、主要制限酵素部位を削除したこと、などの改良が施され、総合的な蛍光強度で120倍の改善を達成している(Current Biology, 6(3), pp.325−330, 1996)。
【0017】
目的とする遺伝子及び他の遺伝子を組み込んだ前記ベクターのアグロバクテリウム属の微生物への導入は、エレクトロポレーション法、freeze−thaw法等の当業者に公知の手法により実施することができる。
【0018】
感染液(接種用培地)としては、LB、YEP、YMB等の液体培地で前培養し、遠心分離により集菌したアグロバクテリウムを同培地又はMSやBS等の植物培養用培地等にて希釈したものを用いることができるが、これらに限定されない。
感染液における前記微生物の濃度は、組織片に十分に遺伝子導入が行われる濃度であれば特に限定されないが、例えば、感染液1mLあたり104〜108個の微生物菌体とすることができる。感染を確実なものとするためには高濃度の菌体へ長時間浸漬すればよいが、植物体へのダメージが大きいので望ましくない。
【0019】
次に、アグロバクテリウム属の微生物の感染を確実にするため、浸漬処理の終わった組織片を共存培養用培地で培養する。
共存培養用培地は、植物の組織片の培養に必要な成分、例えば、炭素源、窒素源、無機塩類、固化剤等を含むものであればどのようなものでもよい。炭素源としては、例えば、シュクロース、グルコース等を用いることができ、無機塩類としては、MS無機塩、B5無機塩等を用いることができ、固化剤としては、寒天、ゲルライト等を用いることができる。また、共存培養後のカルス誘導を促進するために植物ホルモン(ベンジルアミノプリン(BAP)、ナフタレン酢酸(NAA)等)が添加されてもよい。
【0020】
共存培養期間は、例えば1〜14日、好ましくは1〜5日行うとよい。培地のpHや温度は、植物の組織片に悪影響を及ぼさない範囲であれば特に制限はないが、例えばpHは5〜8とするのが好ましく、温度は20〜28℃とするのが好ましい。また光条件は例えば1000〜5000luxとするのが好ましい。
【0021】
(2)オジギソウの形質転換植物の作出方法
本発明のオジギソウの形質転換植物の作出方法は、以下の工程:
(a) 目的遺伝子を含有するアグロバクテリウム属に属する微生物を含む感染液にオジギソウの幼植物体の組織片を減圧処理下で浸漬する工程
(b)浸漬後の組織片を共存培養用培地にて共存培養する工程
(c)共存培養後の組織片をカルス誘導用培地にて培養し、カルス誘導する工程
(d)誘導されたカルスを再分化する工程
含む。
【0022】
工程(a)のアグロバクテリウム感染液への浸漬及び工程(b)の共存培養は、前述のとおり行う。以下、工程(c)及び(d)について説明する。
まず、共存培養した組織片に付着しているアグロバクテリウム属の微生物を除菌し、その後カルス誘導用培地を用いて、遺伝子導入した組織片からカルスを誘導する。除菌は、例えば、前記の共存培養用培地をセフォタキシム等の抗生物質を含んだ液体培地で洗浄することにより行う。この洗浄はアグロバクテリウム属の微生物による白濁が見られなくなるまで行う。
【0023】
次に、洗浄した組織片をカルス誘導用培地に置床し、培養してカルス誘導(無定形に増殖する脱分化したカルスを形成させる)を行う。ここで用いるカルス誘導用培地は、上記の共存培養用培地と同様の炭素源、窒素源、無機塩類、固化剤等を含む培地に、植物ホルモンを添加したものを意味する。
【0024】
植物ホルモンとしては、ベンジルアミノプリン(BAP)、ナフタレン酢酸(NAA)、チジアズロン(TDZ)、 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、カイネチン(Kinetin)、及びゼアチン(Zeatin)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いればよい。2種以上の組み合わせとして、例えばTDZと2,4−D、BAPとNAA、TDZとNAA、2,4−Dとカイネチン(Kinetin)、ゼアチン(Zeatin)とNAAが挙げられるが、BAPとNAAの組み合わせが好ましく、TDZと2,4−Dの組み合わせが特に好ましい。植物ホルモンの濃度は、例えばBAP/NAAの場合、それぞれ0.5μg/ml、TDZ/2,4−Dの場合、それぞれ1μg/mlづつ添加することが挙げられる。
【0025】
また、カルス誘導用培地には、さらに除菌用抗生物質及び形質転換細胞選抜用抗生物質を添加する。
除菌用抗生物質としては、セフォタキシム、モキサラクタム、メロペネム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いればよく、特にモキサラクタム、メロペネムは低濃度で除菌効果を発揮するので好ましい。
除菌用抗生物質の濃度は、例えばセフォタキシムの場合は100〜300μg/mlの範囲が好ましい。また、モキサラクタム、メロペネムの場合は1〜300μg/mlの範囲が好ましく、1〜10μg/mlの範囲がより好ましく、1〜3μg/mlの範囲がさらに好ましい。
【0026】
形質転換細胞選抜用抗生物質としては、前記選抜用マーカー遺伝子に応じた抗生物質であれば特に限定はないが、ジェネティシン(G418)が好ましい。
形質転換細胞選抜用抗生物質の濃度は、例えばジェネティシンの場合5〜20μg/mlの範囲が好ましい。
【0027】
マメ科植物であるオジギソウは、野生の状態では共生する根粒菌によって土中窒素が固定され供給されているが、無菌培養時には根粒菌が存在しない為、主に培地中からの窒素供給に依存する。従って、カルス誘導用培地の(NH4)2SO4溶液等を培地に添加することによって窒素濃度を0.1mM〜100mM、好ましくは10mM〜100mMに調整する。
【0028】
窒素濃度は、上記の範囲であれば特に制限はないが、添加する植物ホルモンによって適宜調整する必要がある。例えば、TDZ及び2,4−Dを各1μg/mlを添加した培地では窒素濃度は50mM〜100mMに調整することが好ましく、NAA及びBAPを各0.5μg/ml添加した培地では、0.1mM〜10mMに調整することが好ましい。
【0029】
カルス培養は、明条件で行うことが好ましく、例えば1000〜5000lux、好ましくは2000〜3000luxとする。
【0030】
カルス誘導に用いる組織片の調製、組織片のカルス誘導用培地への置床方法は、カルス誘導できる方法であれば特に限定されない。例えば、胚軸切片の場合、胚軸の長さは1mm〜10mm程度に切断すればよく、切断方法は輪切り(成長方向に対して垂直に1mm程度の長さに切断)であっても、縦切り(成長方向に分割した後5mm程度に切断)であってもよい。培地に置床する向きは、縦向き(垂直方向)より横向き(水平方向)のほうが好ましい。
【0031】
上記の培地条件、光条件、置床条件を採用し、組織片を通常の植物細胞の培養条件、例えば20〜28℃で5〜10日間培養することにより、カルス誘導が起こる。
【0032】
上記の操作により得られた遺伝子導入植物体における遺伝子の導入及び発現の確認は、当業者に公知のレポーター遺伝子を用いる方法、例えばGFPの蛍光、GUSの青色呈色にて行うことができる。また、当業者に公知の手法に従い、該遺伝子の配列を元に作成したプライマーを用いて、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法又はノーザンハイブリダイゼーション法により行ってもよい。
【0033】
上記のようにしてカルスを誘導した後、不定芽、シュート等を経由して最終的に個体レベルにまで分化させる。このような再分化は植物ホルモン濃度を適当に調整することにより常法に従って行うことができる。
【0034】
以上説明したように、オジギソウにおいては、アグロバクテリウム感染液の浸漬条件、カルス誘導培地に添加する植物ホルモンの種類とその濃度、除菌用抗生物質と形質転換細胞選抜用抗生物質の種類とその濃度、窒素濃度が遺伝子導入効率、カルス誘導に大きな影響を与える要素となる。
【0035】
【実施例】
以下、実施例及び試験例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)オジギソウの形質転換用アグロバクテリウムの調製
(1) モデル遺伝子の発現用コンストラクトの作成
オジギソウの培養細胞に導入した外来遺伝子の発現を確認するために改変型GFPであるsGFP(S65T)(静岡県立大学の丹羽康夫氏から入手)をレポーター遺伝子として使用し、植物用の発現コンストラクト(バイナリーベクター pBI121)に組換えた。改変型GFP遺伝子はpUC18のマルチクローニングサイト(MCS)に35Sプロモーターの下流に連結された形でクローニングされているので(図1)、改変型35Sプロモーター(TMV由来のΩ配列が付加されている)の直前にあるHind IIIサイトとNosターミネーターの直後にあるEcoR Iサイトを利用して切り出した。制限酵素処理はPromega社製Multicoreバッファーを用いて二種の酵素で37℃にて2時間以上インキュベートして同時に切断した。また、植物用発現ベクター pBI121(図2)の35Sプロモーターの下流に連結されたGUS遺伝子及びNosターミネーター部分を切り出すために、同様に制限酵素処理(Hind IIIとEcoR I)を行った。これらについてアガロースゲル電気泳動を行い、QIAGEN社製QIAquick gel extraction kitを用いて、35SΩ−sGFP(S65T)−Nos断片及びpBI 121のバックボーン(35S−GUS−Nosを除去した部分)を分取・精製した。pBI 121 のバックボーン断片について、脱リン酸化(BAP)処理を行い、ベクター:インサート比が10:1になるように混合し、等量のTaKaRa Ligation kit ver.2を用いて16℃で一晩ライゲーション反応を行った。反応液の1μlを50μlのコンピテントセル(E.coli strain DH5α;TOYOBO)に添加し、メーカー指定のプロトコールに従って形質転換操作を行った。カナマイシン(終濃度50μg/ml)を含むLB寒天培地に塗布し、一晩培養した。
【0037】
出現したコロニーについて、下記のプライマーを用いたコロニーPCR法によるPCR増幅を行い、インサートを含むプラスミドを有するコロニーを判別した。GFP遺伝子と薬剤耐性遺伝子(カナマイシン耐性遺伝子、neomycin phosphotransferase II; NPT II)を標的としたプライマー(下記)を用いて、宝酒造製サーマルサイクラー(MP)によりPCR反応(50℃ 30分、95℃ 5分、(94℃ 1分, 55℃ 1分, 72℃ 1分30秒)×30サイクル、72℃ 15分、4℃)を行った。
【0038】
GFP遺伝子検出用プライマー (増幅産物:720 bp)
フォワード: atggtgagcaagggcgagga(配列番号1)
リバース: ttacttgtacagctcgtccatg(配列番号2)
NPT II遺伝子検出用プライマー (増幅産物:511 bp)
フォワード: tcagaagaactcgtcaagaag(配列番号3)
リバース: atgggatcggccattgaaca(配列番号4)
【0039】
PCRによってGFP、NPTII両方の増副産物が選られたコロニーについて、再度釣菌してアンピシリン(50μg/ml)添加したLB培地で液体培養し、得られた菌体から、QIAGEN製Plasmid mini kitを用いてプラスミドを調製した。本プラスミドをpBI−sGFP(S65T)と名づけた (図3)。
【0040】
得られたプラスミドpBI−sGFP(S65T)についてABI製 DNAシークエンサー(310 Genetic Analyzer)による塩基配列の確認を行った。シークエンス反応にはBigDye Terminator Cycle Sequencing,FSキットを使用し、GFP遺伝子の内部の配列を標的とした下記のプライマーを1種ずつ用いた。詳細な実験手順はABI製のマニュアル(操作ガイド、2000年8月版Rev.4.0)に従って実施した。
【0041】
GFP遺伝子シークエンス反応用プライマー (カッコ内は標的塩基番号)
フォワード−1(101−120): gcgagggcgatgccacctac (配列番号5)
フォワード−2(601−620): tacctgagcacccagtccgc (配列番号6)
リバース−1(101−120): gtaggtggcatcgccctcgc (配列番号7)
リバース−2(601−620): gcggactgggtgctcaggta (配列番号8)
【0042】
得られた塩基配列はGenetyx−Mac/ ATSQ 3.0を用いて解析・編集した。全長配列を決定後、インターネット上のデーター・ベースに照会して(Genbank;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/irx/genbank/query_form.html)類似度の高い登録配列を探索することにより目的断片(GFP)挿入の確認を行った。配列番号9にsGFP(S65T) ORFの塩基配列を示す。
【0043】
(2) エレクトロポレーション法によるAgrobacteriumへの遺伝子導入
作製したプラスミドpBI−sGFP(S65T)を用いてアグロバクテリウムをエレクトロポレーション(電気穿孔)法によって形質転換を行った。常法により調製されたAgrobacterium tumefaciens (LBA4404株) のコンピテント・セル40μlを溶かし、DNA溶液を5μl(25μg)添加し、氷上で1〜2分間静置した。続いて、氷冷したBIO−RAD社製キュベット(0.2 cm)に入れ、島津製作所製遺伝子導入装置を用いて1.25 kV、10μFのパルス電流を印加した。直ちに冷却したSOC培地を460μl加え、28℃で1時間培養した。カナマイシン(終濃度50μg/ml)及びリファンピシン(終濃度50μg/ml)を含むLB寒天培地に塗布し、一晩培養して形質転換体を選抜した。出現した形質転換コロニーについてsingle−colony isolationを行った後に、コロニーを複数個釣菌し、PCR法により目的のプラスミドの存在を確認した。この操作で得られた目的のプラスミド(pBI−sGFP(S65T))を有する株をAgrobacterium tumefaciens LBA4404 (pBI−sGFP(S65T))と名づけた。
【0044】
(3) 形質転換用アグロバクテリウムの培養
前項に記載の植物形質転換用プラスミドを有するAgrobacterium tumefaciens (LBA4404(PBI−sGFP(S65T))株)を寒天培地で培養した。1コロニーを釣菌し、カナマイシン(終濃度50μg/ml)及びリファンピシン(終濃度50μg/ml)を含む3mlのLB液体培地で28℃で約2日間(50時間程度)培養した。遠心分離により集菌し、感染液(BAP及びNAA各0.5μg/ml、2.5mM MES(pH 5.2) を添加した1/10強度のGamborg’s B5 medium)に再懸濁した後に600nmの吸光度を測定し、600nmの吸光度を0.5程度に調整した。本溶液を植物体への感染実験に使用した。
【0045】
(4)ミヤコグサを用いた遺伝子導入
マメ科植物のモデルとされているミヤコグサ(Lotus japonica)を用いて遺伝子導入実験を行い、オジギソウの実験系確立の参考とした。実験に使用したミヤコグサ(Lotus japonica Gifu’ B−129及び’Miyakojima’ MG−20)の種子(東京大学大学院総合文化研究科(現:新潟大学)の川口正代司氏より分譲)を既存の方法(ミヤコグサ実験マニュアル HYPERLINK ”http://miya.bio.sci.osaka−u.ac.jp/manuals/index.html” http://miya.bio.sci.osaka−u.ac.jp/manuals/index.html)に従い、前述したGFPを発現する植物用バイナリーベクターを有するアグロバクテリウムを用いて形質転換操作を行った。この結果、上記の既存の方法に従って実験を行えば、比較的容易にGFPを発現する細胞が得られることが確認できた。
【0046】
(実施例2)オジギソウの形質転換
(1)オジギソウ種子から幼植物体の調製
市販のオジギソウ(Mimosa pudica)の種子(サカタのタネ)を人工気象器(コイトトロン;小糸製作所)中で25℃、日照16時間、湿度60%で栽培した植物体から得た種子を試料とした。
【0047】
オジギソウ種子は表面殺菌の効率及び種子の吸水率を向上させるために、乳鉢中で紙やすりを用いて表面を摩砕した。次亜塩素酸ナトリウム溶液(8.5−13.5%;ナカライテスク製)を5倍希釈し、tween 20を1μl/ml添加した溶液を調製し、オジギソウ種子を加えて10分程度減圧することにより滅菌処理を行った。滅菌処理したオジギソウ種子を0.7%素寒天培地に播種し、暗黒下で子葉が展開するまで(約5日間〜1週間程度)育成した。小葉(本葉)を実験に用いる場合にはさらに1週間から10日程度培養した幼植物体より採取した。
なお、オジギソウ種子から得た外植体の培養は、25℃、日照時間16時間に制御した恒温室で行った。
【0048】
(2)オジギソウの形質転換
無菌播種して生育させたオジギソウ植物体から得た3種(子葉、胚軸、小葉)の組織を用いてオジギソウの形質転換を試みた。
実施例1に記載の方法により調製した形質転換用アグロバクテリウムを懸濁した感染液(BAA及びNAA各0.5μg/ml、2.5mM MES(PH5.2)を添加した1/10強度のGamborg’s B5 medium)に、上記各組織を約0.8kPa(6mmHg)の減圧下で10分間浸漬し、その後、滅菌したろ紙を数mmの厚みになるように重ねたものに共存培養用培地(前記感染液と同組成)で5日間共存培養を行った。共存培養終了後、除菌用抗生物質(セフォタキシム300μg/ml)溶液で濯ぎ洗い(無菌水と交互に3回繰り返す)を行った後に、除菌用抗生物質(セフォタキシム300μg/ml)及び形質転換細胞選抜用抗生物質(ジェネティシン10μg/ml)を添加したカルス誘導用培地(Gamborg’s B5 medium basal salt mixture (SIGMA)3.3g/L、ショ糖 50g/L、Phytagel(SIGMA) 3g/L、5mM(NH4)2SO4、Gamborg’s B5 Vitamine stock 1000X(SIGMA) 1mg/L)に移植して14日間培養した。オリンパス製正立蛍光顕微鏡;BX−60を用いて緑色蛍光タンパク質(GFP)の蛍光を観察(B励起の広帯域用フィルターキューブを使用)した。この結果、誘導されたカルス組織の中にGFP蛍光を有する細胞塊が世界で初めて見出された。また、蛍光を有する細胞が塊で存在することから、遺伝子導入された細胞から増殖が起こっていると考えられる。実験に用いた子葉、胚軸、小葉の3種全ての組織において形質転換細胞が得られた。得られた蛍光像(カラーCCDカメラを用いて撮像)を図4に示した(A−1:胚軸、B−1,B−2:子葉、C−1,C−2:小葉)。
【0049】
(試験例1) アグロバクテリウム感染条件の検討
(1)アグロバクテリウム培養液への浸漬処理条件の検討
植物体への感染液の浸透を促進するために、感染液(BAP及びNAA各0.5μg/ml、2.5mM MES(pH 5.2) を添加した1/10強度のGamborg’s B5 medium)に懸濁したアグロバクテリウム菌液に界面活性剤Silwet−L77:0.05%、又はtween 80 0.05%を添加した。このアグロバクテリウム菌液3mlを滅菌したろ紙を敷いたシャーレに流し込み、植物体を置床し約5分間浸した。胚軸を用いる場合は本溶液に浸した状態で5mm程度の長さになるように切除した。アグロバクテリウム菌液への植物体の浸漬処理について、▲1▼処理1:カーボランダム噴霧/摩擦処理+減圧処理(10分;約0.8kPa(6mmHg)程度)、▲2▼処理2:カーボランダム噴霧/摩擦処理、▲3▼処理3:減圧処理(10分;約0.8kPa(6mmHg)程度)、▲4▼無処理の4条件で胚軸を用いた遺伝子導入効率の検討を行った。カーボランダム噴霧/摩擦処理は、カーボランダムを噴霧した後にコンラージ棒で軽く擦ることによって表面に細かい傷をつけることによって行い、減圧処理は感染液(菌液)に浸漬中にATTO製真空ポンプ(AE−3725A型)を用いて10分間約0.8kPa(6mmHg)程度にすることによって行った。
【0050】
処理後、除菌用抗生物質(セフォタキシム300μg/ml)溶液で濯ぎ洗い(無菌水と交互に3回繰り返す)を行った後に、除菌用抗生物質(メロペネム200μg/ml)、形質転換細胞選抜用抗生物質(ジェネティシン10μg/ml)、及びTDZと2,4−Dを各1μg/ml添加した培地に移植し9日間培養した。この後に、除菌用抗生物質を含まない培地に移植しさらに10日間程度培養した。蛍光顕微鏡観察によって得られた結果を表1にまとめた。
【0051】
【表1】
(A):蛍光が観察された試料数/供試検体数( )=比率
(B):蛍光が観察された箇所の総数 ( )=蛍光箇所数/蛍光が観察された試料数
【0052】
この結果、減圧処理のみ(処理3)行うことによって形質転換細胞出現率が飛躍的に向上すること(無処理の約20倍以上)が判明した。また、カーボランダム噴霧及び摩擦処理を行った場合(処理2)にも形質転換細胞出現率が向上(約10倍程度)した。しかしながら、これらの処理を同時に行った場合(処理1)には、形質転換細胞は全く得られなかった。この理由は植物体に与えるダメージ(ストレス)が大きすぎたためであろうと推定される。減圧処理を行うことによって得られた形質転換細胞塊のGFP蛍光像(カラーCCDカメラを用いて撮像)を図5に示した。供試試料あたりの蛍光を有する細胞(形質転換細胞)が得られる確率、試料当たりの蛍光スポット数(形質転換された細胞塊の頻度)、細胞塊の大きさ(増殖の良さを表す)の全てにおいて、最高の結果が得られた。これらの結果から、減圧処理はオジギソウ組織の形質転換効率を高める非常に有効な方法であると結論した。
【0053】
(2)共存培養期間(感染期間)の検討
シャーレに滅菌したろ紙を数mmの厚みになるように重ねたものに共存培養用培地(BAP及びNAA各0.5μg/ml、2.5mM MES(pH 5.2) を添加した1/10強度のGamborg’s B5 medium)を十分量加えた。この培地に、浸漬後(子葉、胚軸、小葉)の植物体をろ紙上で過剰な菌液を拭った後に置床し、1日又は5日間培養し、感染率に与える影響を比較した。
【0054】
培養後の植物体は除菌用抗生物質(セフォタキシム300μg/ml)溶液で濯ぎ洗い(無菌水と交互に3回繰り返す)を行った後に、除菌用抗生物質(セフォタキシム300μg/ml)及び形質転換細胞選抜用抗生物質(ジェネティシン10μg/ml)を添加した培地に移植した。同培地で約2週間培養した試料を、除菌用抗生物質を含まない培地でさらに10日間程度培養した。蛍光顕微鏡観察によって得られた結果を表2に示した。5日間培養する方が比較的安定して良い結果が得られる傾向が認められた。
【0055】
【表2】
(A):蛍光が観察された試料数/供試検体数( )=比率
(B):蛍光が観察された箇所の総数 ( )=蛍光箇所数/蛍光が観察された試料数
【0056】
(試験例2) オジギソウのカルス誘導のための培養系の検討(1)
(1)オジギソウ種子から幼植物体の調製
市販のオジギソウ(Mimosa pudica)の種子(サカタのタネ)を人工気象器(コイトトロン;小糸製作所)中で25℃、日照16時間、湿度60%で栽培した植物体から得た種子を試料とした。
【0057】
オジギソウ種子は表面殺菌の効率及び種子の吸水率を向上させるために、乳鉢中で紙やすりを用いて表面を摩砕した。次亜塩素酸ナトリウム溶液(8.5−13.5%;ナカライテスク製)を5倍希釈し、tween 20を1μl/ml添加した溶液を調製し、オジギソウ種子を加えて10分程度減圧することにより滅菌処理を行った。滅菌処理したオジギソウ種子を0.7%素寒天培地に播種し、暗黒下で子葉が展開するまで(約5日間〜1週間程度)育成した。小葉(本葉)を実験に用いる場合にはさらに1週間から10日程度培養した幼植物体より採取した。
なお、オジギソウ種子から得た外植体の培養は、25℃、日照時間16時間に制御した恒温室で行った。
【0058】
(2) カルス誘導条件の検討
カルス(脱分化細胞塊)誘導を指標として、カルス誘導培養条件の最適化を行った。
マメ科植物のモデル植物とされているミヤコグサ(ミヤコグサ実験マニュアル、同上)の培養条件を参考に以下の手順でカルス誘導用培地を調製し使用した。
【0059】
(カルス誘導用培地の調製)
Gamborg’s B5 medium basal salt mixture (SIGMA)3.3 g、ショ糖50 g、及びPhytagel (SIGMA)3.0 gを約990mlの純水に添加し、NaOHにてpH 5.5に調整しオートクレーブにかけた。その後、冷めないうちに所定量の4M (NH4)2SO4溶液を添加し、70℃以下に冷却後、Gamborg’s B5 vitamine stock 1000x (SIGMA)1.0 mlに植物ホルモン溶液(1mg/ml stock溶液)を適量添加し、1Lにメスアップした溶液(フィルター滅菌済み)を添加した。この基本培地を以後、B5培地と記載する場合がある。また、基本培地としたB5培地に対して植物組織培養に汎用されるMurashige&Skoog培地(大日本製薬製を使用)を1/2濃度(1/2MS)で使用した際の比較をカルス化の程度を指標として行った。
【0060】
▲1▼ ミヤコグサ用植物ホルモンによるカルス誘導効果
無菌播種後、1週間暗条件培養した植物体の胚軸を約5mm程度に切除したものを試料とした。ミヤコグサからのカルス誘導(ミヤコグサ実験マニュアル、同上)で用いられたNAAとBAPを3濃度(0、0.05、0.5μg/ml)で添加した合計9通りの培地(B5培地)をそれぞれ調製しカルス誘導を試みた。25日間培養した結果を図6に示した。
【0061】
この結果、ホルモン濃度が高い場合にカルスが形成され、両ホルモンをそれぞれ0.5μg/ml添加した場合に最も良好なカルス誘導が可能であった。NAA 0.5μg/ml BAP 0μg/mlとNAA 0μg/ml BAP 0.5μg/ml添加時を比較すると前者ではカルスが形成されたが、後者ではほとんど増殖が見られなかった。
上記で最も良好な結果が得られたNAA 0.5μg/ml BAP 0.5μg/mlを添加したB5培地で1週間胚軸を培養した後に、上記の9条件の培地に移植した。この場合は供試した全条件でカルスの形成がみられた。この場合もNAA 0.5μg/ml、BAP 0.5μg/mlで培養したものは最高の増殖を示した。
【0062】
▲2▼ 基本培地の影響
上記試験において前述したB5培地と1/2濃度のMurashige&Skoog(1/2MS)培地の比較をカルス化の程度を指標として行った。25日間培養した結果を図7に示した。図6のB5培地を用いた結果と比較しても、全ての条件において基本培地による明確な差異は全く見られなかった。
【0063】
▲3▼ 光条件の影響
上記の胚軸からのカルス誘導実験において光の影響を検討した。暗条件化で培養した場合は無色のカルスが形成されるが1ヶ月の培養で褐変化が起こり、カルス増殖の程度も明条件と比較してはるかに悪かった。明条件の場合は部分的に緑化したカルスが形成されるが、1ヶ月の培養では全ての条件において褐変化はほとんど見られなかった。
【0064】
▲4▼ カルス化におけるホルモン濃度の影響
BAPとNAAに加えて、チジアズロン(TDZ)、 2,4−D、カイネチン、ゼアチンを含む培地を用いてカルス誘導への影響を検討した。TDZ/2,4−D、TDZ/NAA、カイネチン/2,4−D、ゼアチン/NAA、BAP/NAAの5通りの組み合わせについてホルモン濃度を3段階(0、1、10μg/ml)で添加した合計9通りの培地(B5培地)をそれぞれ調製し、明条件で胚軸を約2ヶ月間培養して比較実験を行った。この結果、全てのホルモンの組み合わせにおいてカルス化が観察されたが、特にサイトカイニンとしてTDZを添加したものの生育が良好であった。特にTDZ/2,4−Dの組み合わせが最も良く、各1μg/mlを添加した場合が最適であった(図8)。ゼアチン/NAAを各1μg/ml添加した場合にも良好な結果が見られた。
【0065】
▲5▼ 植物試料
無菌播種により得た植物体について前述した胚軸以外の組織(子葉、小葉)についてもカルス誘導を試みた。胚軸の場合とほぼ同条件でのカルス誘導が可能であった。特に子葉から誘導したカルス組織の増殖は良好であった。
【0066】
▲6▼ 胚軸試料
カルス誘導に用いる胚軸試料について検討を行った。暗条件下で無菌種子を1週間培養して発芽させた植物体から1mm、5mm、10mmの3条件で胚軸を切り取り、NAA及びBAPを各0.5μg/ml、あるいはTDZ及び2,4−Dを各1μg/mlを添加したB5培地で供試した。この際に培地に置床する向きについても検討した。この結果、BAP/NAA添加の場合には1mmの胚軸を縦向きに置床した際に明確に生育が劣ったことを除けば、特に差は見られなった。TDZ/2,4−Dの場合には全条件でほぼ同様な生育がみられた。また胚軸を切除する際に輪切りに切った場合(成長方向に対して垂直に1mm程度の長さに切断)と、縦切り(5mm程度の胚軸を成長方向に分割した後、切断面を下にして置床)の場合の比較も行った。短い胚軸(輪切り)の試料では窒素濃度を100mMにした場合にのみ良好なカルス増殖が見られ、この際には内側の組織が外側に出てくるように組織が増殖するという特徴がみられた。
【0067】
▲7▼ 窒素濃度の影響
B5培地中の窒素濃度(アンモニア体(NH4)2SO4溶液として添加)を0、1mM、10mM、100mMの4段階に変えた場合の生育に与える影響を胚軸、小葉、子葉を材料組織とした際のカルス化を指標として検討した。
約25日間培養した結果(小葉のみの結果を図9に示した)、NAAとBAPを各 0.5μg/ml添加した培地においては、10mMまでは窒素の添加量に比例して良好な増殖が見られた。しかし100mMでは生育促進効果はみられず、むしろ阻害的であった。
【0068】
一方、TDZ及び2,4−Dを各1μg/mlを添加した培地を用いた際には、窒素の添加量に比例して良好な生育がみられ、100mMの場合に最高のカルス増殖が観察された。図10には10mM、100mM添加した培地で約2ヶ月培養した後にさらに同じ培地で約2週間培養した際の増殖の様子を示した。使用した小葉、子葉、胚軸(縦切り及び輪切り)の3種の材料の全てから良好なカルスの誘導及び増殖がみられた。これらはNAA及びBAPを各0.5μg/ml添加培地に10mM窒素を加えた場合に比較して、かなり良好な増殖であった。興味深いことに、窒素濃度0又は1mMの場合でも組織の褐変化はみられなかった。これらの結果(約25日間培養時に評価)を表3、表4にまとめた。評価は供試検体について4段階で実施し、同条件の検体数あたりの割合(%)を示した。
【0069】
【表3】
評価基準:◎良好なカルス増殖が見られる。〇カルスが誘導されるが増殖は悪い。△カルスの誘導が見られない。×組織が壊死
【0070】
【表4】
評価基準:◎良好なカルス増殖が見られる。〇カルスが誘導されるが増殖は悪い。△カルスの誘導が見られない。×組織が壊死
【0071】
(試験例3) オジギソウのカルス誘導のための培養系の検討(2)
カルス誘導用培地に添加する除菌用抗生物質、形質転換用抗生物質について検討を行った。カルス誘導用培地は、植物ホルモンとしてTDZ(チジアズロン)及び2,4−Dを各1μg/mlを添加し、試験例2に記載の処方と同様にして調製したものを用いた。
【0072】
(1) 除菌用抗生物質
共存培養終了した植物体をセフォタキシム溶液(300μg/ml)で十分に濯ぎ洗いし、さらに速やかに無菌水で濯ぐ。この操作を3回程度繰り返して植物体表面に存在するアグロバクテリウムを除去した。その後、各種除菌用抗生物質を含むカルス誘導用培地に洗浄後の植物体を移植し培養した。
【0073】
▲1▼ セフォタキシムの効果
除菌用抗生物質として0〜1000μg/mlの5段階の濃度のセフォタキシムを添加し、これらの培地にオジギソウの胚軸を置床し、約3週間明条件下で培養してカルスを誘導しその生育を比較した。この結果、セフォタキシム濃度300μg/ml以上でカルスの増殖を阻害することが判明した(図11)。
【0074】
▲2▼ モキサラクタム及びメロペネムの効果
植物体への影響を最小限にしつつ強力な除菌作用を発揮する濃度を探索した。除菌用抗生物質として汎用されるセフォタキシムに加えて、同じベーター・ラクタマーゼ阻害剤系抗生物質でありながら低濃度で作用するといわれている(三位正洋(千葉大)、第三回ミヤコグサ分子遺伝学ワークショップ2001口頭発表)メロペネム(メロフェン:住友製薬)及びモキサラクタム(moxalactam sodium salt:SIGMA 69962)の至適濃度を検討した。カルス誘導用培地(TDZ及び2,4−Dを各1μg/ml添加)に1〜300μg/mlの3段階の濃度でこれらの除菌用抗生物質を添加した。アグロバクテリウムを感染させ、5日後に除菌を行った子葉組織を上記の培地に置床し、約3週間培養した。結果を図12に示す。供試した全ての抗生物質において300μg/ml添加した際にはアグロバクテリウムの生育を完全に抑えることが可能であった。セフォタキシムを用いた場合には植物体に明確な悪影響(部分的な壊死)が観察されたが、メロペネム及びモキサラクタムでは全く薬剤の影響が観察されなかった。1μg/ml添加時は全ての薬剤でアグロバクテリウムの増殖がみられるが(植物体の周囲に白濁した菌層が形成される)、メロペネム及びモキサラクタムでは3μg/ml添加時にこれをかなり抑制することが可能であった。これらの結果から、オジギソウ組織の培養においてメロペネム及びモキサラクタムは植物へのダメージが少なく、かつ低濃度添加で使用可能な有用な除菌剤であると考えられた。
【0075】
(2)形質転換細胞選抜用抗生物質
遺伝子導入に用いたプラスミドにはT−DNA領域(植物体の染色体上に挿入される)にnptII(neomycin phosphotransferase II)遺伝子をコードしているので、形質転換細胞はカナマイシン等の抗生物質に対する耐性を獲得する。このような形質転換細胞を選択的に増殖させるためにジェネティシン(geneticin base SIGMA G−1279)を添加した。
【0076】
▲1▼ ジェネティシン濃度の検討
0〜20μg/mlのジェネティシンを含むカルス誘導用培地(TDZ及び2,4−Dを各1μg/ml添加)に胚軸(非形質転換体)を置床し、約3週間培養した。この結果(図13)、3μg/ml以上添加することにより植物体の生育に負の影響が現われ、20μg/mlで完全に生育が抑制されることが判明した。
【0077】
▲2▼ セフォタキシム存在下のジェネティシン最適濃度
セフォタキシムを300μg/ml添加した際のジェネティシンの植物体へ与える毒性を検討した。これらの抗生物質を添加したカルス誘導用培地(TDZ及び2,4−Dを各1μg/ml添加)に胚軸(非形質転換体)を置床し、約1ヶ月週間培養した。結果を図14に示す。ジェネティシン単独で用いた場合と異なり、10μg/mlで完全に生育が抑制されることが判明した。従って、ジェネティシンをセフォタキシムと同時に用いる場合には、ジェネティシン濃度を5〜10μg/ml程度に下げる必要がある。
【0078】
【発明の効果】
本発明によれば、オジギソウに対して条件を最適化した遺伝子導入方法及び形質転換植物作出方法が提供される。
【0079】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】CaMV35SΩ−sGFP(S65T)−nos3’の模式図を示す。
【図2】バイナリーベクターpBI121の模式図を示す。
【図3】pBI−sGFP(S65T)の模式図を示す。
【図4】オジギソウ培養細胞におけるGFP遺伝子の発現を示す写真である。
【図5】感染液浸漬時に減圧処理をして得られた形質転換細胞のGFP蛍光の写真を示す。
【図6】B5培地におけるNAA/BAPによるカルス誘導の結果を示す写真である。
【図7】1/2MS培地におけるNAA/BAPによるカルス誘導の結果を示す写真である。
【図8】胚軸をTD/2,4−Dを各1μg/ml含むB5培地で2ヶ月培養した際に得られるカルス組織を示す写真である。
【図9】NAA/BAP(各0.5μg/ml)によるカルス誘導時における窒素濃度の影響を示す写真である。
【図10】TD/2,4−D(各0.5μg/ml)によるカルス誘導時における窒素濃度の影響を示す写真である。
【図11】セフォタキシム濃度のカルス誘導に対する影響を示す写真である。
【図12】各種除菌用抗生物質(セフォタキシム、モキサラクタム、メロペネム)のカルス誘導に対する効果を示す写真である。
【図13】ジェネティシン濃度のカルス誘導に対する影響を示す写真である。
【図14】セフォキタキシム存在下におけるジェネティシン濃度のカルス誘導に対する影響を示す写真である。
Claims (18)
- 目的遺伝子を含有するアグロバクテリム属に属する微生物の感染液にオジギソウの幼植物体の組織片を減圧処理下で浸漬し、浸漬後の組織片を共存培養培地で共存培養することを特徴とする、オジギソウへの遺伝子導入方法。
- 減圧処理を0.1〜10kPaで1〜60分間行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
- 減圧処理に代えて、感染液に浸漬する前に組織片にカーボランダムを噴霧して摩擦する処理を行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
- 以下の工程を含むオジギソウの形質転換植物の作出方法。
(a) 目的遺伝子を含有するアグロバクテリウム属に属する微生物を含む感染液にオジギソウの幼植物体の組織片を減圧処理下で浸漬する工程
(b)浸漬後の組織片を共存培養用培地にて共存培養する工程
(c)共存培養後の組織片をカルス誘導用培地にて培養し、カルス誘導する工程
(d)誘導されたカルスを再分化する工程 - 工程(a)において、減圧処理を0.1〜10kPaで1〜60分間行うことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
- 工程(a)において、減圧処理に代えて、感染液に浸漬する前に組織片にカーボランダムを噴霧して摩擦する処理を行うことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
- 工程(c)において、カルス誘導用培地に植物ホルモンを添加することを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
- 植物ホルモンが、ベンジルアミノプリン(BAP)、ナフタレン酢酸(NAA)、チジアズロン(TDZ)、 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、カイネチン(Kinetin)、及びゼアチン(Zeatin)から成る群から選択される1種、又は2種以上の組み合わせである、請求項7に記載の方法。
- 植物ホルモンが、チジアズロン(TDZ)と2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)、ベンジルアミノプリン(BAP)とナフタレン酢酸(NAA)、チジアズロン(TDZ)とナフタレン酢酸(NAA)、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)とカイネチン(Kinetin)、及びゼアチン(Zeatin)とナフタレン酢酸(NAA)から成る群から選ばれる組み合わせである、請求項8に記載の方法。
- 植物ホルモンとして、ベンジルアミノプリン(BAP)0.5μg/mlとナフタレン酢酸(NAA)0.5μg/mlを培地に添加することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
- 植物ホルモンとして、チジアズロン(TDZ) 1μg/mlと2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)1μg/mlを培地に添加することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
- 工程(c)において、カルス誘導用培地の窒素濃度を0.1mM〜100mMにすることを特徴とする、請求項4〜11のいずれか1項に記載の方法。
- 工程(c)において、培養を明条件で行うことを特徴とする、請求項4〜12のいずれか1項に記載の方法。
- 工程(c)において、カルス誘導用培地に除菌用抗生物質及び形質転換細胞選抜用抗生物質を添加することを特徴とする、請求項4〜13のいずれか1項に記載の方法。
- 除菌用抗生物質が、セフォタキシム、モキサラクタム、及びメロペネムから成る群から選択される1種又は2種以上の組み合わせである、請求項14に記載の方法。
- 除菌用抗生物質が、モキサラクタム又はメロペネムである、請求項14に記載の方法。
- モキサラクタム又はメロペネムの濃度が、1〜300μg/mlである、請求項16に記載の方法。
- 形質転換細胞選抜用抗生物質が5〜20μg/mlのジェネティシンである、請求項14に記載の方法。
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