経理領域に特化したAIソリューションを開発・提供するファーストアカウンティングは9月10日、AIが税務や社内規程に基づいた経理判断をする新製品「Steward(スチュワード)・税務確認」の提供を開始した。人力からAIを活用した確認への移行により、持続可能な経理業務体制の構築を支援する。
経理業務のAI化を実現へ
企業の経理部門において、AI-OCRを用いた請求書や領収書の「データ入力・照合」の自動化はもはや珍しくない。しかし、税務・会計ルールの確認と判断は、いまだに人間の経験と知識に依存している。
ファーストアカウンティング 代表取締役社長の森啓太郎氏
ファーストアカウンティング 代表取締役社長の森啓太郎氏は、「日本の社会課題として深刻な経理人材不足がある。例えば公益財団法人全国商業高等学校協会主催の簿記実務検定試験(全商簿記検定)の受験者数はピーク時の86万2000人から2024年には16万9000人へと約80%減少し、日本商工会議所簿記検定試験(日商簿記)2級の実受験者数をみても2010年と比較して約28%減少している。さらに2024年には大学入学共通テストから『簿記・会計』が廃止されたので、今後ますます経理人材の確保が難しくなる状況」と現状の厳しさを語る。
一橋大学財務リーダーシップ・プログラムの調査によれば、企業の86%が経理部門の人材採用に「一定の課題」または「大きな課題」を抱えているというデータが示されている。経理実務や管理者候補の供給ルートが構造的に縮小する一方で、制度改正や高度化する税務行政への対応など、経理部門に求められる業務水準は高い。
森氏によれば、現在のAIは日商簿記検定2級・3級の試験問題において正答率100%、1級でも99%の正答率を出し、さらには公認会計士試験の一次試験(監査論、企業法、財務会計論、管理会計論)をクリアするレベルの知識を備えているという。
新製品「Steward・税務確認」の仕組み
こうしたAIの高度な知識を実際の業務プロセスに組み込んだのが、新製品「Steward・税務確認」だ。従来のAI-OCRのように証憑の文字を読み取るだけでなく、経理担当者に寄り添い、会計・税務の専門知識と企業ごとの社内規程・業務ルールを掛け合わせて、AIが自律的に経理処理の一次チェックを遂行するエージェントとして機能することが特徴だ。
会計伝票の税務チェックをAIで支援
具体的には、消費税、接待交際費、寄付金、固定資産・期間損益などの複雑な論点について、人間によるサンプリング確認ではなくAIによる「全件一次チェック」を実施する。そして、AIはチェックするだけでなく、確認結果のステータス分類や整理をし、追加確認が必要な案件を抽出する。現場部門への用途確認などが必要な場合には、AIが問い合わせメールのドラフト作成までも支援する仕組みとなっているため、人間の手間を大幅に減らせる。
大規模言語モデル(LLM)を業務活用する際、回答がブレる「判断ゆれ」や、ハルシネーション(誤情報の生成)が課題となることが多いが、Stewardは、簿記や会計知識を含む「共通モジュール(全体の80%)」に、個社ごとの独自ルール要件(全体の20%)を組み合わせて構築するモジュール型の開発手法を採用。これにより、AIの判断品質を安定させつつ、通常のシステム開発に比べて低コストかつ短納期での実装を実現する。
サントリーグループはいかにしてAIを現場に組み込んだか
このSteward・税務確認をいちはやく導入しているのが、サントリーグループの経理や総務、人事領域を担うサントリービジネスシステムだ。同社ではこれまでもファーストアカウンティングのAI-OCRを活用してデータ入力の効率化を進めてきたが、今回の取り組みでは領域をさらに広げ、月次決算後の「会計伝票の税務論点確認」という判断業務にAIを適用した。
今回の取り組みの概要
サントリーグループ国内9社から月間約1万5000件発生する会計伝票を対象に、5月から段階的に運用を開始している。
導入の最大のポイントは、一般的な税法だけでなく、サントリーグループ独自の「消費税ルール」「接待交際費ルール」「寄付金ルール」「固定資産・期間損益ルール」などをAIに読み込ませている点。これにより、自社の社内規程に完全にのっとった形での全件モニタリングと一次確認が可能となった。
森氏は、「企業は正確な会計・税務処理を実現するために、多くの人材と時間を費やしている。経理人材の不足が進む中、こうした品質を人の経験と努力だけで支えることは、年々難しくなってきた。Steward・税務確認は、消費税や接待交際費などの税務論点について、AIが最初に全件を一定の基準で確認することで、確認品質の安定と、持続可能な業務体制の構築を支援する。サントリービジネスシステムとの今回の取り組みは、その新しい経理業務のあり方を示す第一歩」とこの取り組みの意義について話した。
ファーストアカウンティングは今後、「起票業務」「入金消込」「債権管理」「決算の集計」「固定資産管理・棚卸し」「税務申告書の作成支援」など、あらゆる経理業務へAIエージェントの適用範囲を順次拡大していく予定だ。